【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター、イノベーション創出基礎的研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Yi Xiao et al.,“Catalytic beacons for the detection of DNA and telomerase activity”,J.Am.Chem.Soc.,2004,Vol.126,No.24,pp 7430−7431
【文献】
Juewen Liu et al.,“Functional Nucleic Acid Sensors”,Chem.Rev.,2009 March 20(web),109(5),pp 1948,1987−1990
【文献】
M.M.Ali,Y.Li,Colorimetric Sensing by Using Allosteric−DNAzyme−Coupled Rolling Circle Amplification and a Peptide,Angew. Chem. Int. Ed.,2009年 5月13日,Vol.48,P.3512−3515
【文献】
LI Tao et al.,Label−Free Colorimetric Detection of Aqueous Mercury Ion (Hg2+) Using Hg2+−Modulated G−Quadruplex−Ba,Anal. Chem.,2009年 3月15日,Vol.81,No.6,P.2144−2149
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
分析において、前記分析用核酸素子における前記第1の核酸部に、前記分析対象物を結合させることにより、前記第2の核酸部の触媒機能を生起させ、前記触媒機能による反応を分析する、請求項9記載の分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<分析用核酸素子>
本発明の分析用核酸素子は、前述のように、第1の核酸部および第2の核酸部を含み、
前記第1の核酸部は、分析対象物と結合可能な結合部であり、
前記第2の核酸部は、前記第1の核酸部と前記分析対象物との結合および非結合を区別可能な標識部であることを特徴とする。本発明において、「分析」は、例えば、定量分析、半定量分析、定性分析を含む概念である(以下、同様)。
【0013】
前記第1の核酸部および前記第2の核酸部は、それぞれ、核酸分子を含み、例えば、前記核酸分子のみから構成されてもよいし、前記核酸分子を含んでもよい。本発明の分析用核酸素子において、前記第1の核酸部は、前記分析対象物の結合により構造変化する核酸分子を含み、前記第2の核酸部は、前記第1の核酸部の前記構造変化により構造変化する核酸分子を含むことが好ましい。
【0014】
前記第1の核酸部は、前述のように、前記分析用核酸素子における、前記分析対象物の前記結合部である。前記第1の核酸部は、例えば、前記核酸分子として、前記分析対象物と結合可能な核酸分子を含む。以下、前記分析対象物と結合可能な核酸分子を、例えば、「分析対象物結合核酸分子」ともいう。前記第1の核酸部は、例えば、前記分析対象物結合核酸分子のみから構成されてもよいし、前記分析対象物結合核酸分子を含んでもよい。
【0015】
前記第2の核酸部は、前述のように、前記分析用核酸素子における、前記結合および前記非結合を区別可能な標識部である。前記第2の核酸部は、例えば、以下に示す2種類の形態があげられる。
【0016】
前記第2の核酸部の第1形態は、例えば、標識物と結合可能な形態である。前記標識物は、例えば、前記第2の核酸部に結合しているか否かによって、前記第1の核酸部と前記分析対象物との結合および非結合を区別可能である。前記第2の核酸部は、例えば、前記核酸分子として、前記標識物が結合可能な核酸分子を含む。以下、前記標識物と結合可能な核酸分子を、「標識物結合核酸分子」ともいう。前記第2の核酸部は、例えば、前記標識物結合核酸分子から構成されてもよいし、前記標識物結合核酸分子を含んでもよい。前記標識物は、特に制限されないが、後述するように、例えば、酵素等があげられる。
【0017】
前記第2の核酸部の第2形態は、例えば、それ自身が、前記第1の核酸部と前記分析対象物との結合および非結合を区別可能な形態である。前記第2の核酸部は、例えば、前記核酸分子として、酵素の触媒機能を生起可能な核酸分子を含む。前記酵素の触媒機能を生起可能な核酸分子を、「触媒核酸分子」ともいう。前記第2の核酸部は、例えば、前記触媒核酸分子のみから構成されてもよいし、前記触媒核酸分子を含んでもよい。
【0018】
前記分析対象物結合核酸分子、前記標識物結合核酸分子および前記触媒核酸分子について、以下に説明するが、これらには制限されない。
【0019】
前記各核酸分子の構成単位は、特に制限されない。前記構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基であり、前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基、デオキシリボヌクレオチド残基があげられる。前記核酸分子は、例えば、リボヌクレオチド残基から構成されるRNAでもよく、デオキシリボヌクレオチド残基から構成されるDNAでもよく、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの両方を含む核酸分子でもよい。前記構成単位は、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylenebridged Nucleic Acids)等のモノマー残基もあげられる。前記核酸分子は、例えば、これらのモノマー残基を含んでもよい。
【0020】
前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾化されたヌクレオチド残基でもよい。前記修飾化ヌクレオチド残基は、例えば、前記ヌクレオチド残基における糖残基が修飾されているものがあげられる。前記糖残基は、例えば、リボース残基またはデオキシリボース残基があげられる。前記ヌクレオチド残基における修飾部位は、特に制限されないが、例えば、前記糖残基の2’位および/または4’位があげられる。前記修飾は、例えば、メチル化、フルオロ化、アミノ化、チオ化等があげられる。前記修飾化ヌクレオチド残基の具体例としては、例えば、リボース残基の2’位が修飾された、2’−フルオロウラシル(2’−フルオロ化−ウラシルヌクレオチド残基)、2’−アミノウラシル(2’−アミノ化−ウラシル−ヌクレオチド残基)、2’−O−メチルウラシル(2’−メチル化−ウラシルヌクレオチド残基)、2’−チオウラシル(2’−チオ化−ウラシルヌクレオチド残基)等があげられる。
【0021】
前記各核酸分子は、例えば、一本鎖核酸でもよいし、二本鎖核酸でもよい。前記一本鎖核酸は、例えば、一本鎖RNAおよび一本鎖DNAがあげられる。前記二本鎖核酸は、例えば、二本鎖RNA、二本鎖DNA、およびRNAとDNAとの二本鎖核酸があげられる。前記各核酸分子は、例えば、一本鎖核酸が好ましい。
【0022】
前記各核酸分子において、各塩基は、例えば、アデニン(a)、シトシン(c)、グアニン(g)、チミン(t)およびウラシル(u)の天然塩基(非人工核酸)でもよいし、人工塩基(非天然塩基)でもよい。前記人工塩基は、例えば、修飾塩基および改変塩基等があげられ、前記天然塩基(a、c、g、tまたはu)と同様の機能を有することが好ましい。前記同様の機能を有する人工塩基は、例えば、グアニン(g)に代えて、シトシン(c)に結合可能な人工塩基、シトシン(c)に代えて、グアニン(g)に結合可能な人工塩基、アデニン(a)に代えて、チミン(t)またはウラシル(u)に結合可能な人工塩基、チミン(t)に代えて、アデニン(a)に結合可能な人工塩基、ウラシル(u)に代えて、アデニン(a)に結合可能な人工塩基等があげられる。前記修飾塩基は、例えば、メチル化塩基、フルオロ化塩基、アミノ化塩基、チオ化塩基等があげられる。前記修飾塩基の具体例としては、例えば、2’−フルオロウラシル、2’−アミノウラシル、2’−O−メチルウラシル、2−チオウラシル等があげられる。本発明において、例えば、a、g、c、tおよびuで表わされる塩基は、前記天然塩基の他に、前記天然塩基のそれぞれと同様の機能を有する前記人工塩基の意味も含む。
【0023】
前記各核酸分子は、例えば、自己アニーリングによる二次構造を有してもよく、前記二次構造は、例えば、ステムループ構造があげられる。
【0024】
前記各核酸分子は、例えば、天然由来の核酸配列であってもよいし、合成した核酸配列であってもよい。合成方法は、何ら制限されず、例えば、DNA合成機、RNA合成機等により、dNTP、NTP等を材料として、末端塩基から化学合成する方法等があげられる。
【0025】
前記分析対象物結合核酸分子および前記標識物結合核酸分子は、例えば、アプタマーが好ましい。前記アプタマーは、一般的に、特定のターゲットに結合可能な核酸分子を意味する。
【0026】
前記アプタマーの製造方法は、特に制限されず、例えば、前述の公知の合成方法によって製造できる。また、前記アプタマーの製造には、例えば、公知のSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法等が採用できる。
【0027】
SELEX法によるアプタマーの調製は、特に制限されず、例えば、以下のようにして行える。まず、核酸プールおよびターゲットを準備する。前記核酸プールは、例えば、複数の核酸分子を含む核酸ライブラリーである。前記ターゲットは、特に制限されず、例えば、前記分析対象物に結合可能なアプタマーを調製する場合は、前記分析対象物であり、前記標識物に結合可能なアプタマーを調製する場合は、前記標識物である。つぎに、前記核酸プールと前記ターゲットとを結合(会合)させ、前記核酸プールと前記ターゲットとの複合体を形成する。そして、前記複合体から、前記複合体の形成に関与した前記核酸プールのみを回収することにより、前記ターゲットに結合可能な核酸分子のみを、前記ターゲットに結合可能なアプタマーとして選択できる。
【0028】
以下に、一例として、SELEX法を用いて、ターゲットに結合可能なアプタマーを調製する方法をあげる。本発明は、これらには何ら制限されない。
【0029】
前記核酸プールは、例えば、ランダム領域を含む複数の核酸分子のライブラリー(混合物)である。前記ライブラリーにおける前記核酸分子は、例えば、RNA、DNA等のポリヌクレオチドがあげられる。前記ランダム領域は、例えば、A、G、CおよびUまたはTの塩基をランダムに連結した領域であり、その長さは、例えば、20〜120塩基長である。前記核酸プールは、例えば、4
20〜4
120種類(約10
12〜10
72)種類の核酸分子を含むことが好ましく、より好ましくは、4
30〜4
60(約10
18〜10
36)種類である。
【0030】
前記核酸プールに含まれる前記ポリヌクレオチドは、例えば、前記ランダム領域を有していればよく、その他の構造は、特に制限されない。前記ポリヌクレオチドは、前記ランダム領域に加えて、例えば、前記ランダム領域の5’末端および3’末端の少なくとも一方に、プライマーがアニーリング可能なプライマー領域、ポリメラーゼが認識可能なポリメラーゼ認識領域等を有することが好ましい。前記ポリメラーゼ認識領域は、例えば、後述する核酸増幅で使用するポリメラーゼの種類に応じて適宜決定できる。前記核酸プールがRNAプールの場合、前記ポリメラーゼの認識領域は、例えば、DNA依存性RNAポリメラーゼの認識領域(以下、「RNAポリメラーゼ認識領域」ともいう)が好ましく、具体例としては、T7RNAポリメラーゼの認識領域であるT7プロモーター等があげられる。前記RNAプールの具体例としては、例えば、5’末端側から、前記RNAポリメラーゼ認識領域と前記プライマー領域(以下、「5’末端側プライマー領域」ともいう)とを、この順序で連結し、前記5’末端側プライマー領域の3’末端側に、前記ランダム領域を連結し、さらに、前記ランダム領域の3’末端側にプライマー領域(以下、「3’末端側プライマー領域」ともいう)を連結した構造があげられる。前記RNAにおける前記5’末端側プライマー領域は、例えば、前記RNAを鋳型として合成したDNAアンチセンス鎖の3’側に対して相補的な配列、つまり、前記アンチセンス鎖の3’側に結合可能なプライマーと同様の配列であることが好ましい。また、前記RNAプールは、例えば、さらに、前記ターゲットへの結合を補助する領域を有してもよい。また、前記核酸プールに含まれる前記ポリヌクレオチドは、それぞれ、異なるランダム領域を有してもよいし、一部の配列が共通するランダム領域を有してもよい。前記ポリヌクレオチドにおいて、前記各領域は、例えば、直接隣接してもよいし、介在配列を介して間接的に隣接してもよい。
【0031】
前記核酸プールの調製方法は、特に制限されず、公知の方法が採用できる。前記核酸プールがRNAプールの場合、例えば、DNAを含む初期プールを使用し、前記DNAを鋳型として調製できる。以下、核酸プールのRNAの鋳型となるDNA鎖をアンチセンス鎖、前記RNAのUをTに置換した配列を有するDNA鎖をセンス鎖ともいう。前記DNAを含む初期プールは、例えば、前記RNAプールにおける前記ランダム領域の相補鎖のUをTに置換したDNA(アンチセンス鎖)、および、前記ランダム領域のUをTに置換した配列を有するDNA(センス鎖)のいずれか一方を含むことが好ましい。この初期プールのDNAを鋳型として、DNA依存性DNAポリメラーゼを用いて核酸増幅を行った後、得られたDNA増幅産物を鋳型として、DNA依存性RNAポリメラーゼを用いて転写反応を行うことにより、RNAの核酸プールを調製できる。
【0032】
また、前記ランダム領域のUをTに置換したDNAを含む初期プールを準備し、これを鋳型として、前記RNAポリメラーゼ認識領域と前記5’末端側プライマー領域に相補的な配列とを含むプライマーをアニーリングさせ、核酸増幅を行うことにより、RNAの核酸プールを調製することもできる。
【0033】
そして、前記核酸プールと前記ターゲットとを反応させ、前記核酸分子と前記ターゲットとの複合体を形成する。前記アプタマーの調製において、前記核酸プールと反応させる前記ターゲットは、例えば、前記ターゲットそのものでもよいし、前記ターゲットの分解物でもよい。前記核酸プールと前記ターゲットとの結合形式は、特に制限されず、例えば、水素結合等の分子間力等があげられる。前記核酸プールと前記ターゲットとの結合処理は、例えば、前記両者を溶媒中で一定時間インキュベートする方法があげられる。前記溶媒は、特に制限されず、前記両者の結合等が保持されるものが好ましく、例えば、各種緩衝液があげられる。
【0034】
続いて、前記核酸プールと前記ターゲットとの複合体を回収する。前記複合体形成のために前記両者を反応させた反応液には、前記複合体の他に、例えば、前記複合体形成に関与しない核酸プール(以下、「未反応核酸プール」という)が含まれる。このため、例えば、前記反応液について、前記複合体と、前記未反応核酸プールとを、分離することが好ましい。前記分離方法は、特に制限されず、例えば、前記ターゲットと前記核酸プールとの吸着性の違い、前記複合体と前記核酸プールとの分子量の違いを利用する方法等があげられる。
【0035】
前者の吸着性の違いを利用する方法は、例えば、以下の方法が例示できる。すなわち、まず、前記ターゲットに吸着性を有する担体と、前記複合体を含む前記反応液とを接触させる。この際、前記未反応核酸プールは、前記担体に吸着せず、他方、前記ターゲットと前記核酸プールとの複合体は、前記担体に吸着する。これによって、前記未反応核酸プールと前記複合体とを分離できる。そして、前記未反応核酸プールを除去後、前記担体に吸着した前記複合体を回収すればよい。また、前記担体から前記複合体を回収する前に、例えば、前記未反応核酸プールを十分に除去するため、前記担体を洗浄することが好ましい。前記ターゲットに吸着性を有する担体は、特に制限されず、例えば、前記ターゲットの種類に応じて適宜選択できる。前記ターゲットが、例えば、抗体等のタンパク質の場合、前記吸着性を有する担体としては、例えば、ニトロセルロース膜等があげられる。
【0036】
後者の分子量の違いを利用する方法は、例えば、担体を使用する方法が例示できる。前記担体は、例えば、前記核酸プールが通過し且つ前記複合体が通過できないようなサイズのポアを有する担体があげられる。このような担体を利用して、前記複合体と前記未反応核酸プールとを分離できる。前記分離は、例えば、アガロースゲルおよびポリアクリルアミドゲル等を用いた電気的な分離であってもよい。
【0037】
この他にも、例えば、前記複合体の形成時において、担体に固定化した前記ターゲットを使用する方法もあげられる。すなわち、前記ターゲットを予め担体に固定化し、前記担体と前記核酸プールとを接触させ、前記固定化ターゲットと前記核酸プールとの複合体を形成させる。そして、前記固定化ターゲットに結合していない未反応の核酸プールを除去した後、前記担体から、前記ターゲットと前記核酸プールとの複合体を解離させて、前記複合体を回収すればよい。前記ターゲットの担体への固定化方法は、何ら制限されず、公知の方法が採用できる。具体例としては、例えば、前記ターゲットに標識を結合しておき、前記標識との結合基を有する担体に、前記標識を結合した前記標的物質を接触させる方法があげられる。前記標識は、例えば、His−tag等があげられ、前記結合基は、例えば、ニッケルイオン(Ni
2+)、コバルトイオン(Co
2+)等の金属イオンがあげられる。前記担体の具体例は、例えば、前記金属イオンをベースとするNi−アガロース、Ni−セファロース等があげられる。
【0038】
つぎに、回収した前記複合体から、前記複合体形成に関与した核酸プールを回収する。前記複合体形成に関与した核酸プールは、例えば、前記複合体について、前記ターゲットと前記核酸プールとの結合を解除することによって回収できる。
【0039】
続いて、回収した前記複合体形成に関与した前記核酸プールについて、核酸増幅を行う。前記核酸増幅の方法は、特に制限されず、例えば、前記核酸プールの種類に応じて、公知の方法により行うことができる。前記核酸プールがRNAプールの場合、例えば、まず、RNA依存性DNAポリメラーゼを用いた逆転写反応によりcDNAを調製し、前記cDNAを鋳型としてPCR等によりDNAの核酸増幅を行う。そして、得られた増幅産物を鋳型として、例えば、さらに、DNA依存性RNAポリメラーゼを用いて、RNAの転写を行う。これによって、前述の前記複合体形成に関与したRNAプールを増幅できる。
【0040】
前記RNAプールが、例えば、前述のように、前記RNAポリメラーゼ認識領域、前記5’末端側プライマー領域、前記ランダム領域および前記3’末端側プライマー領域を有する場合、これらの領域を利用する増幅方法があげられる。前記RNAを鋳型として前記cDNAを調製するための逆転写反応では、例えば、プライマーとして、前記RNAプールの3’末端側プライマー領域に相補的な配列を含むポリヌクレオチドを使用することが好ましい。また、前記cDNAを鋳型とするDNAの増幅には、例えば、プライマーとして、前記5’末端側プライマー領域を含むポリヌクレオチドと、前記3’末端側プライマー領域の相補鎖を含むポリヌクレオチドとを使用することが好ましい。前者のポリヌクレオチドは、例えば、さらに、5’末端側に前記RNAポリメラーゼ認識領域を有し、3’末端側に、前記5’末端側プライマー領域を有することが好ましい。得られたDNAの増幅産物を鋳型とするRNAの増幅には、前記DNA増幅産物を鋳型として、前記DNAに含まれる5’末端側プライマー領域および3’末端側プライマー領域を利用して、DNA依存性DNAポリメラーゼを用いて、PCR等の核酸増幅を行う。この際、プライマーとしては、例えば、前記5’末端側プライマー領域を含むポリヌクレオチドと、前記3’末端側プライマー領域の相補鎖を含むポリヌクレオチドとを使用することが好ましい。前者のポリヌクレオチドは、例えば、さらに、5’末端側に前記RNAポリメラーゼ認識領域を有し、3’末端側に、前記5’末端側プライマー領域を有することが好ましい。そして、得られた増幅産物を鋳型として、前記増幅産物に含まれるRNAポリメラーゼ認識領域を利用して、DNA依存性RNAポリメラーゼを用いて、in vitroでの転写反応を行う。これによって、前記複合体形成に関与するRNAプールの核酸増幅を行うことができる。増幅産物のうち、例えば、アンチセンス鎖のDNAは、その3’末端側に、RNAポリメラーゼ認識領域を有するため、この領域に前記DNA依存RNAポリメラーゼが結合し、前記アンチセンス鎖を鋳型として、前記RNAを合成できる。前記逆転写反応に使用するRNA依存性DNAポリメラーゼは、特に制限されないが、例えば、トリ骨髄芽球症ウィルス由来リバーストランスクリプターゼ(AMV Reverse Transcriptase)等が使用できる。
【0041】
前記核酸増幅の方法は、特に制限されず、例えば、PCR法、各種等温増幅法等が採用できる。また、その条件も、特に制限されない。
【0042】
このように、前記ターゲットとの前記複合体を形成した核酸プールを回収し、さらに、前述と同様にして、前記ターゲットを用いた複合体の形成、前記複合体の回収、前記複合体形成に関与した核酸プールの分離、前記分離した核酸プールの増幅等を繰り返し行うことで、最終的に、前記ターゲットに結合性を有する核酸アプタマーを得ることができる。
【0043】
前記触媒核酸分子は、前述のように、酵素の触媒機能を生起可能な核酸分子があげられる。前記触媒機能は、特に制限されないが、例えば、酸化還元反応の触媒機能があげられる。前記触媒核酸分子は、前記分析用核酸素子において、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、その前記触媒機能が阻害または不活性化され、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合した場合、その触媒機能の前記阻害が解除または前記触媒機能が活性化される。
【0044】
前記酸化還元反応は、例えば、基質から生成物が生成される過程において、二つの基質の間に電子の授受を生じる反応があげられる。前記酸化還元反応の種類は、特に制限されない。前記酸化還元反応の触媒機能を生起可能な核酸分子は、例えば、酸化還元反応を触媒する酵素と同様の活性を示すものがあげられる。具体的には、例えば、ペルオキシダーゼ活性、フォスファターゼ活性、リボヌクレアーゼ活性等を有する核酸分子があげられる。前記ペルオキシダーゼ活性は、例えば、西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(HRP)活性があげられる。前記酵素と同様の触媒機能を有する核酸分子の中でも、例えば、DNAは、DNAエンザイムまたはDNAzymeと呼ばれ、RNAは、RNAエンザイムまたはRNAzymeと呼ばれる。
【0045】
前記触媒核酸分子は、G−カルテット(またはG−tetradという)の構造を形成する核酸分子が好ましく、より好ましくはグアニン四重鎖(またはG−quadruplexという)の構造を形成する核酸分子である。前記G−tetradは、例えば、グアニンが四量体となった面の構造であり、G−quadruplexは、例えば、前記G−tetradが複数面重なった構造をいう。前記G−tetradおよび前記G−quadruplexは、例えば、反復してGリッチの構造モチーフを有する核酸分子において、形成される。前記G−tetradは、例えば、パラレル型およびアンチパラレル型があげられるが、パラレル型が好ましい。前記触媒核酸分子は、前記分析用核酸素子において、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、前記G−tetradの形成が阻害され、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合した場合、前記阻害が解除され、前記G−tetradを形成することが好ましい。
【0046】
前記触媒核酸分子は、ポルフィリンと結合可能な核酸分子が好ましく、具体的には、前記G−tetradを形成し且つ前記ポルフィリンと結合可能な核酸分子が好ましい。前記G−tetradを有する核酸分子は、例えば、前記ポルフィリンと結合して複合体を形成することによって、酸化還元反応等の触媒機能を生起することが知られている。前記分析用核酸素子において、前記触媒核酸分子は、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、前記ポルフィリンとの結合が阻害され、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合した場合、前記阻害が解除され、前記ポルフィリンと結合することが好ましい。具体的には、前記分析用核酸素子において、前記触媒核酸分子は、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、前記G−tetradの形成が阻害され且つこれにより前記ポルフィリンとの結合が阻害され、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記G−tetradを形成し且つ前記ポルフィリンと結合することが好ましい。
【0047】
前記ポルフィリンは、特に制限されない。前記ポルフィリンは、例えば、無置換体のポルフィリン、その誘導体があげられる。前記誘導体は、例えば、置換体のポルフィリン、および金属元素と錯体を形成した金属ポルフィリン等があげられる。前記置換体のポルフィリンは、例えば、N−メチルメソポルフィリン等があげられる。前記金属ポルフィリンは、例えば、三価鉄錯体であるヘミン等があげられる。前記ポルフィリンは、例えば、前記金属ポルフィリンが好ましく、より好ましくはヘミンである。
【0048】
前記触媒核酸分子は、前述のように、何ら制限されないが、例えば、ペルオキシダーゼ活性を有するDNAとして、下記論文(1)〜(4)等に開示されているDNAzymeが例示できる。これらの論文に開示されているDNAzymeは、例えば、ヘミン等のポルフィリンと結合して複合体を形成することにより、ヘミン単独よりも高いペルオキシダーゼ活性を生起可能である。
(1)Travascioら, Chem.Biol., 1998年, vol.5, p.505−517
(2)Chengら, Biochemistry, 2009年, vol.48, p.7817−7823
(3)Tellerら, Anal.Chem., 2009年, vol. 81, p.9144−9119
(4)Taoら, Anal.Chem., 2009年, vol.81, p.2144−2149
【0049】
前記触媒核酸分子の製造方法は、特に制限されないが、例えば、所望の酸化還元反応の種類に応じて、配列を設計し、合成できる。この際、例えば、コンピュータ等により、二次構造を予測し、配列を修正してもよい。
【0050】
本発明の分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部および前記第2の核酸部のみからなる素子でもよいし、さらに、他の構成要素を含む素子であってもよい。前記他の構成要素は、例えば、前記標識物、前記ポルフィリン等があげられる。前記標識物は、例えば、任意成分であり、前記第1の核酸部への前記分析対象の結合の有無によって、前記第2の核酸部に着脱可能である。また、前記ポルフィリンは、例えば、分析時において、前記分析用核酸素子と共存すればよい。
【0051】
前記他の構成要素は、例えば、リンカーがあげられる。前記リンカーは、例えば、ヌクレオチドを含む核酸があげられる。前記リンカーは、例えば、ヌクレオチドのみからなる核酸でもよいし、ヌクレオチドを含む核酸でもよい。前記リンカーは、例えば、一本鎖核酸でもよいし、二本鎖核酸でもよい。前記リンカーは、一本鎖核酸の場合、例えば、一本鎖DNA、一本鎖RNA等があげられ、二本鎖核酸の場合、例えば、二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA−RNAの二本鎖等があげられる。また、前記リンカーは、塩基として、前述のような天然塩基を含んでもよいし、非天然塩基を含んでもよい。また、前記リンカーは、例えば、PNA、LNA等を含んでもよい。前記リンカーの長さは、特に制限されない。
【0052】
本発明の分析用核酸素子において、前記第1の核酸部と前記第2の核酸部とは、連結していることが好ましく、例えば、前記第1の核酸部の一方の末端と前記第2の核酸部の一方の末端とで連結している。前記第1の核酸部と前記第2の核酸部は、例えば、前記第1の核酸部の5’末端と、前記第2の核酸部の3’末端とが連結してもよいし、前記第1の核酸部の3’末端と、前記第2の核酸部の5’末端とが連結してもよい。
【0053】
前記第1の核酸部と前記第2の核酸部との連結は、例えば、直接的な連結でもよいし、間接的な連結でもよい。
【0054】
前記直接的な連結の場合、例えば、前記第1の核酸部の一方の末端と前記第2の核酸部の一方の末端とがホスホジエステル結合により連結する。具体的に、直接的な連結は、例えば、前記第1の核酸部の5’末端と前記第2の核酸部の3’末端とのホスホジエステル結合による連結、または、前記第1の核酸部の3’末端と前記第2の核酸部の5’末端とのホスホジエステル結合による連結があげられる。
【0055】
前記間接的な連結の場合、例えば、前記リンカーを介して、前記第1の核酸部と前記第2の核酸部とが連結する。前記第1の核酸部と前記第2の核酸部との間に介在するリンカーを、以下、介在リンカーまたは介在配列という。前記介在リンカーは、例えば、一方の末端が、前記第1の核酸部の一方の末端に連結し、他方の末端が、前記第2の核酸部の一方の連結する形態があげられる。具体的に、前記間接的な連結は、例えば、前記介在リンカーの一方の末端が、前記第1の核酸部の5’末端に連結し、他方の末端が、前記第2の核酸部の3’末端に連結してもよいし、一方の末端が、前記第1の核酸部の3’末端に連結し、他方の末端が、前記第2の核酸部の5’末端に連結してもよいが、前者が好ましい。前記リンカーと前記第1の核酸部または前記第2の核酸部との連結は、例えば、ホスホジエステル結合による連結があげられる。
【0056】
前記分析用核酸素子は、いずれか一方の末端側に、さらに、前記リンカーを有してもよい。このリンカーを、以下、付加リンカーまたは付加配列という。前記分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部における、前記第2の核酸部が連結する末端とは反対側の末端に、前記リンカーを有してもよいし、前記第2の核酸部における、前記第1の核酸部が連結している末端とは反対側の末端に、前記リンカーを有してもよい。前記分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部の前記反対側の末端および前記第2の核酸部の前記反対側の末端に、それぞれ、前記付加リンカーを有してもよい。
【0057】
本発明の分析用核酸素子は、前記第1の核酸部と前記第2の核酸部とが連結した一本鎖核酸であることが好ましい。このように、本発明の分析用核酸素子が一本鎖核酸であれば、例えば、前記第1の核酸部への前記分析対象物の結合により二次構造の変化が起こり、この変化が、前記第2の核酸部の二次構造の変化を起こしやすい。
【0058】
本発明の分析用核酸素子において、前記第1の核酸部および前記第2の核酸部の長さは、それぞれ、特に制限されない。前記第1の核酸部における前記核酸分子の長さの下限は、特に制限されず、例えば、7塩基である。前記第1の核酸部における前記核酸分子の長さの上限は、特に制限されず、例えば、120塩基であり、好ましくは80塩基であり、より好ましくは35塩基であり、さらに好ましくは20塩基であり、短いほうが好ましい。前記第1の核酸部における前記核酸分子の長さの範囲は、例えば、7〜120塩基であり、好ましくは7〜80塩基であり、より好ましくは7〜35塩基であり、さらに好ましくは7〜20塩基である。前記第2の核酸部における前記核酸分子の長さの下限は、特に制限されず、例えば、7塩基である。前記第2の核酸部における前記核酸分子の長さの上限は、特に制限されず、例えば、120塩基であり、好ましくは80塩基であり、より好ましくは60塩基であり、さらに好ましくは40塩基であり、特に好ましくは35塩基であり、短いほうが好ましい。前記第2の核酸部における前記核酸分子の長さの範囲は、例えば、7〜120塩基であり、好ましくは7〜80塩基であり、より好ましくは7〜60塩基であり、さらに好ましくは7〜40塩基であり、特に好ましくは7〜35塩基である。前記分析用核酸素子の全体における長さは、特に制限されず、長さの範囲は、例えば、14〜240塩基であり、好ましくは14〜200塩基であり、より好ましくは14〜160塩基であり、さらに好ましくは14〜140塩基であり、特に好ましくは14〜75塩基、さらに特に好ましくは14〜55塩基である。前記分析用核酸素子において、前記第1の核酸部および第2の核酸部のそれぞれの長さは、例えば、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0059】
本発明において、分析対象物は、特に制限されず、例えば、高分子化合物、低分子化合物、有機物、無機物等があげられる。前記高分子化合物または有機物としては、例えば、微生物、ウィルス、多糖類、タンパク質、核酸、樹脂等があげられる。前記低分子化合物としては、農薬、医薬品、化学薬品、オリゴ糖、単糖、脂質、オリゴペプチド、アミノ酸、ビタミン類、生理活性物質等があげられる。前記無機物としては、ミネラル類、鉱酸、金属等があげられる。
【0060】
本発明において、分析の対象となる試料は、特に制限されず、例えば、食品(飲料を含む)、医薬品、化学薬品、土壌、動物、植物、微生物、ウィルス、水(例えば、水道水、排水、河川の水、海水、雨水、雪等)、ゴミ、廃棄物等があげられる。
【0061】
以下に、本発明の分析用核酸素子について、具体的な形態を例示する。なお、本発明は、これには制限されない。
【0062】
(実施形態1)
実施形態1の分析用核酸素子は、前記第1の核酸部として前記分析対象物結合核酸分子、および前記第2の核酸部として前記標識物結合核酸分子を含む。具体的に、前記分析用核酸素子は、
前記第1の核酸部および前記第2の核酸部を含み、
前記第2の核酸部は、
前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、標識物と結合可能であり、
前記第1の核酸部に分析対象物が結合した場合、前記標識物と結合不能である
【0063】
前記「標識物」は、本発明の分析用核酸素子の任意の構成要素であり、前記第1の核酸部への前記分析対象物の結合の有無によって、着脱可能である。
【0064】
前記分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部の二次構造が変化し、前記第2の核酸部の二次構造の変化により、前記第2の核酸部に結合している前記標識物が、前記第2の核酸部から遊離する、という態様があげられる。この場合、前記標識物は、例えば、酵素である。前記分析用核酸素子において、前記酵素は、前記第2の核酸部に前記酵素が結合している場合、その触媒機能、すなわち、前記酵素の酵素反応が阻害され、前記第2の核酸部から前記酵素が遊離した場合、その触媒機能の前記阻害、すなわち、前記酵素反応の前記阻害が解除される、という態様があげられる。
【0065】
前記第1の核酸部は、例えば、前記分析対象物が結合することにより、その構造が変化してもよい。そして、前記第1の核酸部の構造の変化により、前記第2の核酸部の構造が変化し、前記第2の核酸部に結合している前記標識部が、前記第2の核酸部から遊離してもよい。
【0066】
以下に、本実施形態の分析用核酸素子の具体例を例示するが、これらには制限されない。
【0067】
図1に、分析用核酸素子の構成を模式的に示す。
図1において、(A)は、分析用核酸素子に前記分析対象物が結合していない状態を示し、(B)は、分析用核酸素子に前記分析対象物が結合した状態を示す。
【0068】
図1に示すように、分析用核酸素子16は、第1の核酸部(結合部)12および第2の核酸部(標識部)13とから構成される。第1の核酸部12は、前記分析対象物結合核酸分子であり、第2の核酸部13は、前記標識物結合核酸分子である。第1の核酸部12および第2の核酸部13は、連結により一体化している。第1の核酸部12および第2の核酸部13は、例えば、両者の末端において、直接連結してもよいし、リンカーを介して間接的に連結してもよい。第1の核酸部12および第2の核酸部13の連結は、特に制限されず、例えば、第1の核酸部12の3’末端に、第2の核酸部13の5’末端が連結してもよいし、第1の核酸部12の5’末端に、第2の核酸部13の3’末端が連結してもよい。
【0069】
図1(A)に示すように、分析対象物11が、第1の核酸部12に結合していない場合、標識物14は、第2の核酸部13に結合している。そして、
図1(B)に示すように、第1の核酸部12に分析対象物11が結合すると、第2の核酸部13の構造変化等により、標識物14が第2の核酸部13から遊離する。標識物14が酵素の場合、例えば、第2の核酸部13との結合により、その触媒機能が阻害される。一方、標識物14である酵素が、第2の核酸部13から遊離すると、前記触媒機能の阻害が解除される。この時、基質が存在すれば、前記酵素の触媒機能により酵素反応が生起する。このため、前記酵素反応の分析により、前記分析対象物11の分析が可能となる。
【0070】
前記酵素反応の分析方法は、特に制限されず、例えば、光学的検出でもよいし電気化学的検出でもよい。前記光学的検出は、例えば、発色または発光等の光学シグナルの検出があげられ、吸光度、反射率、蛍光強度等のシグナル強度を測定することにより行える。前記光学シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記酵素反応を行うことにより生じる。前記基質は、特に制限されないが、前記酵素反応により発色または発光する基質が好ましい。前記電気化学的検出は、例えば、電気化学的シグナルの検出があげられ、電流等のシグナル強度を測定することにより行える。前記電気化学的シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記酵素反応を行うことにより、電子の授受として生じる。前記電子の授受は、例えば、電極への印加により電流として測定可能である。また、電気化学的シグナルの検出の場合、例えば、前記基質とメディエータの存在下で前記酵素反応を行ってもよく、その際、前記メディエータとの電子授受を測定してもよい。
【0071】
前記基質は、特に制限されず、例えば、分析の容易性から、酵素反応により発色する発色基質が好ましい。前記発色は、例えば、着色も含む。この場合、前記酵素は、例えば、酸化還元酵素があげられる。本発明において、前記酸化還元酵素は、広義で酸化還元反応を触媒する酵素を意味する。前記酸化還元酵素は、例えば、ペルオキシダーゼ、フォスファターゼがあげられる。前記フォスファターゼは、例えば、アルカリフォスファターゼがあげられる。前記酵素がペルオキシダーゼの場合、前記発色基質は、例えば、3,3’,5,5’−Tetramethylbenzidine(TMB)、1,2−Phenylenediamine(OPD)、2,2’−Azinobis(3−ethylbenzothiazoline−6−sulfonic Acid Ammonium Salt(ABTS)、3,3’−Diaminobenzidine (DAB)、3,3’−Diaminobenzidine Tetrahydrochloride Hydrate(DAB4HCl)、3−Amino−9−ethylcarbazole(AEC)、4−Chloro−1−naphthol(4C1N)、2,4,6−Tribromo−3−hydroxybenzoic Acid、2,4−Dichlorophenol、4−Aminoantipyrine、4−Aminoantipyrine Hydrochloride、ルミノール等があげられる。前記酵素がアルカリフォスファターゼの場合、前記発色基質は、例えば、5−Bromo−4−chloro−3−indolylphosphate/Nitrotetrazolium blue(Nitro−TB)、Nitro−Blue Tetrazolium Chloride(NBT)等があげられる。これらの発色基質は、例えば、電気化学的検出においても基質として使用できる。
【0072】
前記メディエータは、特に制限されず、例えば、前記メディエータは、特に制限されず、例えば、フェリシアン化カリウム、フェロセン、メチルフェロセン、フェロセンジカルボン酸、プロマジン、テトラチアフルバレン(TTF)、メチレンブルー、1,4−ベンゾキノン、1,4−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ベンゼン、4,4−ジヒドロピフェニル、α−ナフトキノンおよびこれらの誘導体等があげられる。
【0073】
つぎに、
図2に、第1の核酸部12および第2の核酸部13のそれぞれに、アプタマーを適用した分析用核酸素子16の例を示す。
図2において、(A)は、分析用核酸素子16に分析対象物11が結合していない状態を示し、(B)は、分析用核酸素子16に分析対象物11が結合した状態を示す。
図2において、
図1と同一部分には同一符号を付している。
【0074】
図2に示すように、分析用核酸素子16は、第1の核酸部12のアプタマーおよび第2の核酸部13のアプタマーから構成される。第1の核酸部12は、前記分析対象物結合核酸分子であり、第2の核酸部13は、前記標識物結合核酸分子である。第1の核酸部12のアプタマーと第2の核酸部13のアプタマーは、連結して一本鎖の核酸となっている。前記一本鎖核酸は、例えば、一本鎖RNAが例示できる。前記両者は、例えば、両者の末端において、直接連結してもよいし、リンカーを介して間接的に連結してもよい。第1の核酸部12および第2の核酸部13の連結は、特に制限されず、例えば、第1の核酸部12の3’末端に、第2の核酸部13の5’末端が連結してもよいし、第1の核酸部12の5’末端に、第2の核酸部13の3’末端が連結してもよい。
【0075】
図2(A)に示すように、分析対象物11が、第1の核酸部12のアプタマーに結合していない場合、標識物14は、第2の核酸部13のアプタマーに結合している。そして、
図2(B)に示すように、第1の核酸部12のアプタマーに分析対象物11が結合すると、第2の核酸部13のアプタマーの構造変化により、標識物14が第2の核酸部13のアプタマーから離れる。標識物14が酵素の場合、例えば、第2の核酸部13との結合により、その触媒機能が阻害される。一方、標識物14である酵素が、第2の核酸部13から遊離すると、前記触媒機能の阻害が解除される。この時、基質が存在すれば、前記酵素の触媒機能により酵素反応が生起する。このため、前記酵素反応の分析により、前記分析対象物11の分析が可能となる。
【0076】
図2は、一例であり、本発明は、これには制限されない。分析用核酸素子16は、例えば、第1の核酸部12に分析対象物11が結合していない場合、第2の核酸部13が、標識物14と結合可能であり、第1の核酸部12に分析対象物11が結合した場合、第2の核酸部13が、標識物14と結合不能であればよく、その他の点は、特に制限されない。
【0077】
このようなアプタマーを使用した分析用核酸素子は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、前記分析対象物をターゲットにして、前記第1の核酸部のアプタマーを取得する。また、前記標識物、例えば、酵素をターゲットとして、前記第2の核酸部のアプタマーを取得する。前記アプタマーの取得方法は、前述のSELEX法を適用できる。そして、これら2つのアプタマーを結合させる。結合方法は、特に制限されないが、例えば、2つのアプタマーの配列を、一本鎖の核酸配列にし、前記一本鎖の核酸配列に基づき、核酸を合成する方法があげられる。この場合、例えば、コンピュータ等により、2つのアプタマーの二次構造を予測し、一本鎖核酸の配列を修正したり、配列を追加または削除してもよい。
【0078】
(実施形態2)
実施形態2の分析用核酸素子は、前記第1の核酸部として前記分析対象物結合核酸分子、および前記第2の核酸部として前記触媒核酸分子を含む。具体的に、前記分析用核酸素子は、
前記第1の核酸部および前記第2の核酸部を含み、
前記第2の核酸部は、酵素の触媒機能を生起可能であり、
前記第2の核酸部は、
前記第1の核酸部に分析対象物が結合していない場合、その触媒機能が阻害され、
前記第1の核酸部に分析対象物が結合した場合、その触媒機能の前記阻害が解除される。
【0079】
前記分析用核酸素子は、前記第2の核酸部そのものが、酵素の触媒機能を生起可能であることが特徴である。
【0080】
前記分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部の二次構造が変化し、前記第2の核酸部の二次構造の変化により、前記第2の核酸部が、前記触媒機能を生起する、という態様があげられる。前記分析用核酸素子において、前記第2の核酸部は、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合している場合、その触媒機能が阻害され、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない場合、その触媒機能の前記阻害が解除される。
【0081】
前記第1の核酸部は、例えば、前記分析対象物が結合することにより、その構造が変化してもよい。そして、前記第1の核酸部の構造の変化により、前記第2の核酸部の構造が変化して、この構造変化により、前記第2の核酸部が、前記触媒機能を生起してもよい。
【0082】
前記分析用核酸素子において、前記第2の核酸部の触媒機能の制御は、例えば、以下のように行われることが好ましい。すなわち、前記分析用核酸素子において、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない状態で、前記第2の核酸部は、ケージ化により、前記触媒機能が不活性化される。そして、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部は、自己会合により、前記触媒機能が活性化されることが好ましい。
【0083】
具体例として、例えば、以下の形態があげられる。前記分析用核酸素子において、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない状態で、例えば、前記第1の核酸部の一部と前記第2の核酸部の一部とが、ステム構造を形成し、前記第2の核酸部は、前記ステム構造によりケージ化されて、前記触媒機能が不活性化され、前記第1の核酸部は、前記分析対象物の結合部位となるステムループ構造を形成する。一方、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第1の核酸部の一部と前記第2の核酸部の一部との前記ステム構造が解除され、これによって、前記第2の核酸部は、前記ケージ化が解除され、さらに自己会合することにより、前記触媒機能が活性化されることが好ましい。
【0084】
また、前記分析用核酸素子が、前記介在リンカーと前記付加リンカーとを有する場合、前記第2の核酸部の触媒機能の制御は、例えば、以下のように行われることが好ましい。前記分析用核酸素子において、前記介在リンカーは、例えば、一方の末端が、前記第1の核酸部の5’末端に連結し、他方の末端が前記第2の核酸部の3’末端に連結し、前記付加リンカーは、例えば、前記第1の核酸部の3’末端に連結する。前記分析用核酸素子において、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合していない状態で、前記介在リンカーと前記第1の核酸部の3’末端領域とが、ステム構造を形成し、前記付加リンカーと前記第2の核酸部の3’末端領域とが、ステム構造を形成する。そして、前記ステム構造により、前記第2の核酸部はケージ化されて、前記触媒機能が不活性化される。また、前記第1の核酸部は、前記分析対象物の結合部位となるステムループ構造を形成する。一方、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記介在リンカーとのステム構造および前記付加リンカーとのステム構造が解除され、これによって、前記第2の核酸部は、前記ケージ化が解除され、さらに自己会合することにより、前記触媒機能が活性化されることが好ましい。
【0085】
以下に、本実施形態の分析用核酸素子を例示するが、これらには制限されない。
【0086】
図3に、分析用核酸素子の構成を模式的に示す。
図3において、(A)は、分析用核酸素子に前記分析対象物が結合していない状態を示し、(B)は、分析用核酸素子に前記分析対象物が結合した状態を示す。
【0087】
図3に示すように、分析用核酸素子36は、第1の核酸部(結合部)32および第2の核酸部(標識部)33とから構成される。第1の核酸部32は、前記分析対象物結合核酸分子であり、第2の核酸部33は、前記触媒核酸分子である。第1の核酸部32および第2の核酸部33は、連結により一体化している。第1の核酸部32および第2の核酸部33は、例えば、両者の末端において、直接連結してもよいし、リンカーを介して間接的に連結してもよい。第1の核酸部32および第2の核酸部33の連結は、特に制限されず、例えば、第1の核酸部32の3’末端に、第2の核酸部33の5’末端が連結してもよいし、第1の核酸部32の5’末端に、第2の核酸部33の3’末端が連結しても良い。
【0088】
図3(A)に示すように、分析対象物11が、第1の核酸部32に結合していない場合、第2の核酸部33は、第1の核酸部32と会合して、前記触媒機能が阻害された状態になる。そして、
図3(B)に示すように、第1の核酸部32に分析対象物11が結合すると、第1の核酸部32と第2の核酸部33との会合が解除され、第2の核酸部33が、前記触媒機能を生起可能な状態になる。この時、基質が存在すれば、第2の核酸部33の触媒機能により触媒反応が生起する。このため、前記触媒反応の分析により、分析対象物11の分析が可能となる。
【0089】
第2の核酸部33が、前述のように、前記G−tetradの構造を形成する触媒核酸分子の場合、例えば、以下のようになる。分析対象物11が、第1の核酸部32に結合していない場合、第1の核酸部32と第2の核酸部33とのステム構造の形成により、第2の核酸部33がケージ化され、第2の核酸部33の触媒機能が不活性化される。そして、第1の核酸部32に分析対象物11が結合すると、第1の核酸部32の二次構造が変化して、第1の核酸部32と第2の核酸部33とのステム構造が解除される。これによって、第2の核酸部33が自己会合して、前記G−tetradを形成し、G−quadruplexの構造をとる。G−quadruplexの構造である第2の核酸部33には、例えば、ポルフィリンが結合して複合体を形成し、触媒機能が活性化される。
【0090】
前記触媒反応の分析は、特に制限されず、例えば、前記実施形態1と同様に行うことができる。前記触媒反応の分析方法は、特に制限されず、例えば、光学的検出でもよいし電気化学的検出でもよい。前記光学的検出は、例えば、発色または発光等の光学シグナルの検出があげられ、吸光度、反射率、蛍光強度等のシグナル強度を測定することにより行える。前記光学シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記触媒反応を行うことにより生じる。前記基質は、特に制限されないが、前記触媒反応により発色または発光する基質が好ましい。前記電気化学的検出は、例えば、電気化学的シグナルの検出があげられ、電流等のシグナル強度を測定することにより行える。前記電気化学的シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記触媒反応を行うことにより、電子の授受として生じる。前記電子の授受は、例えば、電極への印加により、電流として測定可能である。また、電気化学的シグナルの検出の場合、例えば、前記基質とメディエータの存在下で前記酵素反応を行ってもよく、その際、前記メディエータとの電子授受を測定してもよい。
【0091】
第2の核酸部33の触媒機能の種類は、特に制限されず、例えば、前記実施形態1の分析用核酸素子における前記酵素と同様の触媒機能があげられる。前記触媒機能を生起可能な核酸分子は、例えば、Heminペルオキシダーゼ活性があるDNAがあげられる(Tao et al, Anal.Chem.2009,81,2144-2149)。また、前記基質は、特に制限されず、例えば、前記実施形態1と同様の基質があげられる。
【0092】
つぎに、
図4に、第1の核酸部32に、アプタマーを適用し、第2の核酸部33に、ペルオキシダーゼ活性を生起可能なDNAを適用した分析用核酸素子の例を示す。
図4において、(A)は、ペルオキシダーゼ活性を生起可能なDNA(配列番号1)であり、(B)は、アデノシンに対するアプタマー(配列番号2)である。
図4(C)に、前記DNA(A)と前記アプタマー(B)とを結合した、一本鎖核酸の分析用核酸素子(配列番号3)を示す。
図4(C)の分析用核酸素子は、前記アプタマー(B)がアデノシンと結合していないため、前記DNA(A)は、触媒機能を生起しない二次構造をとっている。そして、前記分析用核酸素子において、アデノシンが前記アプタマー(B)に結合することにより、
図4(C)のDNAが、
図4(D)に示すように、触媒機能を生起可能な二次構造に変化する。この時、基質があれば、前記DNAの触媒機能により触媒反応が生起する。このため、前記DNAによる前記触媒反応の分析により、前記分析対象物であるアデノシンの分析が可能となる。
【0093】
この分析用核酸素子は、例えば、食品中の生菌の測定に使用できる。食品中に生菌が存在するということは、ATPが存在することになり、ATPの濃度は、生菌数に比例する。したがって、この分析用核酸素子を使用して、発色基質および食品を反応させると、生菌に由来するATPの濃度に比例した発色が得られる。この発色を分析することにより、食品中の生菌数を分析できる。これは一例であり、本発明の分析用核酸素子の用途は、これに制限されない。
【0094】
この分析用核酸素子は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、前記分析対象物をターゲットにして、前記第1の核酸部のアプタマーを取得する。前記アプタマーの取得方法は、前述のSELEX法を適用できる。一方、前記第2の核酸部の配列を、例えば、所望の触媒機能に応じてデザインし、合成する。そして、前記第1の核酸部のアプタマーと前記第2の核酸部とを結合させる。結合方法は、特に制限されないが、例えば、第1の核酸部のアプタマーの配列と第2の核酸部の配列を、一本鎖の核酸配列にし、前記一本鎖核酸配列に基づき、核酸を合成する方法があげられる。この場合、例えば、コンピュータ等により、前記第1の核酸部、前記第2の核酸部および/または前記一本鎖核酸の二次構造を予測し、前記一本鎖核酸の配列を修正したり、配列を追加または削除してもよい。
【0095】
<分析用試薬>
本発明の分析用試薬は、前記本発明の分析用核酸素子を含むことを特徴とする。
【0096】
本発明の分析用試薬において、前記分析用核酸素子は、例えば、前記実施形態1の分析用核酸素子、前記実施形態2の分析用核酸素子があげられる。
【0097】
本発明の分析用試薬は、前記実施形態1の分析用核酸素子を含む場合、さらに、前記標識物を含むことが好ましい。前記標識物は、特に制限されず、前述の通りであり、中でも酵素が好ましい。前記標識物が酵素の場合、本発明の分析用試薬は、さらに、前記酵素の基質を含むことが好ましい。前記基質は、特に制限されず、前述の通りであり、中でも、前記酵素の反応によって発色する発色基質が好ましい。前記発色基質は、前述の通りである。
【0098】
本発明の分析用試薬は、前記実施形態2の分析用核酸素子を含む場合、さらに、基質を含むことが好ましい。前記基質は、特に制限されず、前述の通りであり、前記分析用核酸素子における前記第2の核酸部である前記触媒核酸分子の触媒機能の反応によって、発色する発色基質が好ましい。前記発色基質は、前述の通りである。
【0099】
本発明の分析用試薬は、例えば、分析用キットであってもよい。この場合、例えば、本発明の分析用核酸素子と、その他の成分とを含み、それぞれ別個に収容されてもよいし、同じ容器に収容されてもよい。前記他の成分は、例えば、前記標識物、前記基質、ポルフィリン、緩衝液、各種添加剤等があげられる。前記他の成分は、例えば、前記分析用核酸素子を使用する際に、前記分析用核酸素子に添加してもよい。前記分析用キットは、例えば、さらに、使用説明書を含んでもよい。
【0100】
<分析用具>
本発明の分析用具は、前記本発明の分析用試薬を含むことを特徴とする。本発明の分析用具は、前記本発明の分析用試薬として、前記本発明の分析用核酸素子を含んでいればよく、その他の構成は、特に制限されない。本発明の分析用具は、特に示さない限り、前記分析用核酸素子および前記分析用試薬と同様である。
【0101】
本発明の分析用具において、前記分析用核酸素子は、例えば、前記実施形態1の分析用核酸素子でもよいし、前記実施形態2の分析用核酸素子でもよい。前記実施形態1の分析用核酸素子の場合、予め、前記第2の核酸部、すなわち、前記標識物結合核酸分子に前記標識物が結合した前記分析用核酸素子が好ましい。
【0102】
本発明の分析用具は、例えば、一種類のみの前記分析用核酸素子を備えてもよいし、ターゲットが異なる二種類以上の前記分析用核酸素子を備えてもよい。後者の場合、二種類以上の前記分析用核酸素子が、それぞれ、結合可能なターゲットが異なる前記第1の核酸部を有することが好ましい。このように、本発明の分析用具が、ターゲットが異なる二種類の分析用核酸素子を備えることによって、例えば、一つの分析用具において、二種類以上の分析対象物の検出が可能となる。本発明の分析用具が、二種類以上の分析用核酸素子を備える場合、前記分析用具は、複数の検出部を有し、各検出部に、異なる分析用核酸素子が配置されていることが好ましい。
【0103】
本発明の分析用具の形状は、特に制限されず、例えば、袋状、スティック状、チューブ状、チップ状等の容器あげられる。
【0104】
本発明の分析用具は、例えば、前記容器の内面に前記分析用試薬が配置されており、具体的には、前記本発明の分析用核酸素子が配置されている。本発明の分析用具は、例えば、さらに、その他の成分が配置されてもよい。前記その他の成分は、例えば、前記基質、前記ポルフィリン、緩衝剤、溶媒等があげられる。前記溶媒は、例えば、水、緩衝液、生理食塩水等があげられる。前記その他の成分は、例えば、前記分析用具の使用時に、前記容器内に添加してもよい。
【0105】
本発明の分析用具は、例えば、分析の信頼性の向上のために、さらに、ポジティブコントロールを含んでもよい。前記ポジティブコントロールは、例えば、前記容器の内面に配置されていることが好ましい。
【0106】
以下に、分析用具の具体例を例示するが、これらには制限されない。
【0107】
(実施形態3)
実施形態3の分析用具は、袋状の分析用具の例である。
図5に、本実施形態の袋状の分析用具56を示す。
図5(A)に示すように、袋状分析用具56は、その内面に、分析用核酸素子を含む試薬層57が配置されている。試薬層57は、前記実施形態1の分析用核酸素子を使用する場合、前記分析用核酸素子、前記標識物として酵素、および基質(例えば、前記発色基質)を含むことが好ましい。試薬層57は、前記実施形態2の分析用核酸素子を使用する場合、前記分析用核酸素子および基質(例えば、前記発色基質)を含むことが好ましく、さらに、ポルフィリンを含むことがより好ましい。試薬層57は、この他に、緩衝剤、親水性高分子等を含んでもよい。試薬層57は、例えば、前記分析用核酸素子、酵素、基質、その他の成分を含む試薬液を調製し、前記試薬液を、袋状容器の内面に塗布し、乾燥することによって形成できる。
【0108】
図5(B)に示すように、袋状分析用具56に、分析対象物11を入れると、
図5(C)に示すように、試薬層57の前記分析用核酸素子と反応し、前記基質が発色58する。この発色58を分析することにより、分析対象物11を分析できる。前記発色は、例えば、目視で分析してもよいし、光学検出装置を用いて分析してもよい。後者の場合、例えば、吸光度、反射率等の光学シグナルを測定してもよい。
【0109】
本発明の分析用具において、前述のように、その形状は、袋状に限定されず、例えば、スティック状であってもよい。スティック状の場合、例えば、ろ紙等の多孔質部材を使用し、前述と同様にして、前記試薬液を前記多孔質部材に浸透させ、乾燥して前記試薬層を形成してもよい。
【0110】
(実施形態4)
実施形態4の分析用具は、電気化学的検出に使用する分析用具の例であり、具体的には、前記分析用核酸素子として、酸化還元反応の触媒機能を生起可能な前記実施形態2の分析用核酸素子を備える例である。本実施形態の分析用具は、基板と、前記分析用核酸素子と、電気シグナルの検出部とを含み、
前記基板に、前記分析用核酸素子と、前記検出部とが配置され、
前記検出部は、前記第2の核酸部による酸化還元反応で発生する電気シグナルを検出する検出部であることを特徴とする。
【0111】
前記基板は、特に制限されないが、例えば、表面が絶縁性の基板が好ましい。前記基板は、例えば、絶縁材料からなる基板でもよいし、表面に絶縁材料からなる絶縁層を有する基板であってもよい。前記絶縁材料は、特に制限されず、例えば、ガラス、セラミック、絶縁性プラスチック、紙等の公知の材料があげられる。前記絶縁性プラスチックは、特に制限されず、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂等があげられる。
【0112】
前記検出部は、前記第2の核酸部の酸化還元反応により発生する電気シグナルを検出できればよい。前記検出部は、例えば、電極系を有する。前記電極系は、例えば、作用極と対極とを含んでもよいし、作用極と対極と参照極とを含んでもよい。前記電極の材料は、特に制限されず、例えば、白金、銀、金、カーボン等があげられる。前記作用極および前記対極は、例えば、白金電極、銀電極、金電極、カーボン電極等があげられ、前記参照極は、例えば、銀/塩化銀の電極があげられる。前記銀/塩化銀の電極は、例えば、銀電極に塩化銀電極を積層することにより形成できる。
【0113】
前記検出部は、例えば、前記基板の上面に、前記電極を配置することによって形成できる。前記電極の配置方法は、特に制限されず、例えば、公知の方法が採用でき、具体例は、蒸着法、スパッタリング法、スクリーン印刷法、メッキ法等の薄膜形成方法があげられる。前記電極は、例えば、前記基板に、直接配置してもよいし、間接的に配置してもよい。間接的な配置とは、例えば、他の部材を介した配置があげられる(以下、同様)。
【0114】
前記分析用核酸素子は、前述のように、前記基板に配置すればよいが、前記基板に固定化することが好ましい。前記分析用核酸素子は、例えば、前記基板の表面に、直接的に配置してもよいし、間接的に配置してもよい。具体的に、前記分析用核酸素子は、例えば、前記基板における前記検出部に配置することが好ましく、前記検出部における前記電極に配置することがより好ましく、前記電極の中でも前記作用極に配置することが好ましい。前記分析用核酸素子は、例えば、前記検出部または前記電極に、直接的に配置してもよいし、間接的に配置してもよい。以下、「前記分析用核酸素子の前記基板への配置または固定化」とは、特に示さない限り、前記基板における前記検出部、前記検出部における前記電極への配置または固定化の意味も含む。
【0115】
前記分析用核酸素子の配置方法は、特に制限されず、公知の核酸固定化方法が採用できる。前記核酸固定化方法は、例えば、予め準備した核酸を、前記基板、好ましくは前記検出部、より好ましくは前記電極に固定化する方法があげられる。この方法は、例えば、フォトリソグラフィーを利用する方法であり、具体例として、米国特許5,424,186号明細書等を参照できる。また、前記核酸固定化方法は、例えば、前記基板上、好ましくは前記検出部上、より好ましくは前記電極上で核酸を合成する方法があげられる。この方法は、例えば、いわゆるスポット法があげられ、具体例として、米国特許5,807,522号明細書、特表平10−503841号公報等を参照できる。
【0116】
前記分析用核酸素子は、例えば、前記第1の核酸部および前記第2の核酸部におけるいずれかの末端側において、前記基板に配置されてもよい。前記末端側は、例えば、前記分析用核酸素子における前記第1の核酸部の末端または前記第2の核酸部の末端があげられる。前記末端側は、前記第1の核酸部が前記付加リンカーを有する場合、例えば、前記付加リンカーにおける、前記第1の核酸部が連結している末端とは反対側の末端でもよい。また、前記末端側は、前記第2の核酸部が前記付加リンカーを有する場合、例えば、前記付加リンカーにおける、前記第2の核酸部が連結している末端とは反対側の末端でもよく、この形態が好ましい。
【0117】
前記分析用具が、例えば、複数種類の前記分析用核酸素子を有してもよい。このような分析用具は、例えば、前記基板の表面をマトリックスに分画し、各分画領域に前述のような電極系を形成して、検出部とし、各検出部に核酸素子を配置することで形成できる。
【0118】
以下に、本実施形態の分析用具の具体例を例示するが、これには制限されない。
【0119】
図6に、分析用具の構成を模式的に示す。
図6において、左図は、分析用具における分析用核酸素子が分析対象物と結合していない状態を示し、右図は、分析用具における分析用核酸素子が分析対象物と結合した状態を示す。
【0120】
図6に示すように、分析用具1は、基板10、電極20および分析用核酸素子40を備え、基板10上に、電極20が配置され、電極20上に分析用核酸素子40が固定化されている。基板10において、電極20が配置された領域が検出部となる。分析用核酸素子40は、第1の核酸部41、第2の核酸部42、介在リンカー43、第1の付加リンカー44および第2の付加リンカー45からなる一本鎖核酸である。分析用核酸素子40において、第1の核酸部41と第2の核酸部42とは、介在リンカー43で連結し、第1の核酸部41の末端には第1の付加リンカー44、第2の核酸部42の末端には第2の付加リンカー45が連結している。そして、分析用核酸素子40は、第2の核酸部42に連結した第2の付加リンカー45を介して、電極20に固定化されている。第1の核酸部41は、一本鎖であることが好ましく、分析対象物と結合していない状態で、
図6の左図に示すように、自己アニーリングによりステムループ構造をとることが好ましい。
【0121】
分析用具1について、第1の核酸部41を、分析対象物50に結合可能なアプタマーとし、第2の核酸部42を、ペルオキシダーゼ活性を生起可能なDNAとする例をあげて、使用方法について説明する。
【0122】
まず、分析用具1の前記検出部に、サンプルおよび試薬を添加する。前記試薬は、前記基質およびポルフィリンを含む。前記サンプル中に分析対象物50が存在しない場合、
図6の左図に示すように、分析用核酸素子40の第1の核酸部41に分析対象物が結合しないため、第2の核酸部42は、ペルオキシダーゼ活性を生起しない。具体的には、第2の核酸部42が第1の付加リンカー44とステム構造を形成することにより、第2の核酸部42がケージ化され、第2の核酸部42の触媒機能が不活性化される。したがって、第2の核酸部42による電子授受が生じないため、検出部の電極20により電気シグナルを検出できない。他方、前記サンプル中に分析対象物50が存在する場合、
図6の右図に示すように、分析用核酸素子40の第1の核酸部41に分析対象物が結合するため、第2の核酸部42がペルオキシダーゼ活性を生起可能な二次構造に変化する。具体的には、第1の核酸部41に分析対象物50が結合することにより、第1の核酸部41の構造が変化して、第2の核酸部42と第1の付加リンカー44とのステム構造が解除される。これによって、第2の核酸部42は、自己会合して、前記G−tetradを形成し、G−quadruplexの構造をとる。G−quadruplexの構造である第2の核酸部42に、ポルフィリンが結合して複合体を形成し、触媒機能が活性化される。そして、活性化された第2の核酸部42により、前記基質から生成物が生成される過程において、電子の授受が生じる。その結果、検出部の電極20により電気シグナルが検出できる。このように、分析用具1によれば、電気シグナルの検出によって、サンプル中の分析対象物の有無を分析可能である。
【0123】
前記試薬は、例えば、さらに前記メディエータを有してもよい。また、前記試薬は、例えば、前記分析用具へのサンプルの添加前、添加と同時、または添加後に、前記各試薬を含む試薬液を、前記分析用具に添加してもよい。
【0124】
<分析方法>
本発明の分析方法は、前記本発明の分析用核酸素子を用い、前記第1の核酸部に、前記分析対象物を結合させ、前記結合を、前記第2の核酸部により分析することを特徴とする。本発明の分析方法は、特に示さない限り、前記本発明の分析用核酸素子、前記本発明の分析用具等で述べた方法により行うことができる。
【0125】
本発明の分析方法において使用する前記分析用核酸素子は、前述の通りであり、例えば、前記実施形態1の分析用核酸素子および前記実施形態2の分析用核酸素子があげられる。
【0126】
本発明の分析方法において、前記実施形態1の分析用核酸素子を使用する場合、例えば、以下のようにして、前記結合を分析する。すなわち、例えば、分析前において、前記第2の核酸部に、前記標識物を結合させ、分析において、前記第1の核酸部に、前記分析対象物を結合させることにより、前記第2の核酸部から前記標識物を遊離させ、遊離した前記標識物を分析することが好ましい。この場合、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部の二次構造が変化し、前記二次構造の変化により、前記第2の核酸部に結合している前記標識物が、前記第2の核酸部から遊離する。
【0127】
前記標識物は、特に制限されず、前述の通りであり、中でも、酵素が好ましい。前記標識物が酵素の場合、例えば、前記第2の核酸部に前記酵素が結合している場合、前記酵素の触媒機能が阻害され、前記第2の核酸部から前記酵素が遊離した場合、前記酵素の触媒機能の阻害が解除される。そして、前記分析において、前記酵素の触媒機能による酵素反応を分析する。前記第2の核酸部に結合した前記酵素は、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部から遊離する。
【0128】
この場合、前記結合の分析方法は、特に制限されず、例えば、遊離した標識物の分析により行うことができる。前記遊離した標識物の分析は、前記標識物の種類に応じて適宜設定できる。前記標識物が前記酵素の場合、例えば、遊離した前記酵素の酵素反応の分析により行うことができる。前記酵素反応の分析方法は、特に制限されず、例えば、光学的検出でもよいし電気化学的検出でもよい。前記光学的検出は、例えば、発色または発光等の光学シグナルの検出があげられ、吸光度、反射率、蛍光強度等のシグナル強度を測定することにより行える。前記光学シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記酵素反応を行うことにより生じる。前記基質は、特に制限されないが、前記酵素反応により発色または発光する基質が好ましい。前記電気化学的検出は、例えば、電気化学的シグナルの検出があげられ、電流等のシグナル強度を測定することにより行える。前記電気化学的シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記酵素反応を行うことにより、電子の授受として生じる。前記電子の授受は、例えば、電極への印加により電流として測定可能である。
【0129】
前記基質の添加時は、特に制限されず、例えば、予め、前記分析用核酸素子と共存させてもよいし、前記分析対象物を結合させる際に、分析対象のサンプルと同時に添加してもよいし、前記分析対象のサンプルを添加した後に添加してもよい。
【0130】
本発明の分析方法において、前記実施形態2の分析用核酸素子を使用する場合、例えば、以下のようにして、前記結合を分析する。すなわち、例えば、分析において、前記第1の核酸部に、前記分析対象物を結合させることにより、前記第2の核酸部の触媒機能を生起させ、前記触媒機能による反応を分析することが好ましい。この場合、例えば、前記第1の核酸部に前記分析対象物が結合することにより、前記第2の核酸部の二次構造が変化し、前記二次構造の変化により、前記第2の核酸部の前記触媒機能が生起する。
【0131】
この場合、前記結合の分析方法は、特に制限されず、例えば、前記第2の核酸部の触媒機能による触媒反応の分析により行うことができる。前記触媒反応の分析は、前記第2の核酸部の触媒機能の種類に応じて適宜設定できる。前記触媒機能による反応の分析方法は、特に制限されず、例えば、光学的検出でもよいし電気化学的検出でもよい。前記光学的検出は、例えば、発色または発光等の光学シグナルの検出があげられ、吸光度、反射率、蛍光強度等のシグナル強度を測定することにより行える。前記光学シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記触媒反応を行うことにより生じる。前記基質は、特に制限されないが、前記触媒反応により発色または発光する基質が好ましい。前記電気化学的検出は、例えば、電気化学的シグナルの検出があげられ、電流等のシグナル強度を測定することにより行える。前記電気化学的シグナルは、例えば、基質の存在下で、前記触媒反応を行うことにより、電子の授受として生じる。前記電子の授受は、例えば、電極への印加により、電流として測定可能である。
【0132】
前記基質の添加時は、特に制限されず、例えば、予め、前記分析用核酸素子と共存させてもよいし、分析対象のサンプルと同時に添加してもよいし、前記分析対象のサンプルを添加した後に添加してもよい。
【0133】
前記実施形態2の分析用核酸素子を使用する場合、前記触媒反応は、例えば、前記ポルフィリンの存在下で行うことが好ましい。前記ポルフィリンの添加時は、特に制限されず、例えば、予め、前記分析用核酸素子と共存させてもよいし、分析対象のサンプルと同時に添加してもよいし、前記分析対象のサンプルを添加した後に添加してもよい。
【0134】
本発明の分析方法は、例えば、前述した本発明の分析用試薬、本発明の分析用具等を用いて行うこともできる。
【0135】
以上、実施形態および実施例を参照して、本発明を説明したが、本発明は、上記発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0136】
本出願は、2009年8月7日に出願された日本出願特願2009−185283を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。