特許第5881164号(P5881164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5881164-表皮被覆発泡成形体の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881164
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】表皮被覆発泡成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 69/02 20060101AFI20160225BHJP
   B29C 49/20 20060101ALI20160225BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20160225BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20160225BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20160225BHJP
   B29K 105/04 20060101ALN20160225BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
   B29C69/02
   B29C49/20
   B29C49/04
   B29C67/22
   B29K25:00
   B29K105:04
   B29L9:00
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-97336(P2012-97336)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-223974(P2013-223974A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】100109601
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 邦則
(72)【発明者】
【氏名】五味渕 正浩
(72)【発明者】
【氏名】常盤 知生
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−046920(JP,A)
【文献】 特開平10−000748(JP,A)
【文献】 特開2000−033643(JP,A)
【文献】 特開2002−145968(JP,A)
【文献】 特開2004−075865(JP,A)
【文献】 特表2005−522549(JP,A)
【文献】 特開平06−166095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 69/00−69/02
B29C 49/00−49/80
B29C 44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン系樹脂からなる軟化状態のパリソンをブロー成形して中空成形体を形成し、次いで該中空成形体の内部にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、該発泡粒子を加熱して発泡粒子を相互に融着させると共に中空成形体の内面とも融着させて、中空成形体からなる表皮で発泡粒子成形体が被覆された表皮被覆発泡成形体を製造する方法において、
該パリソンが、下記(1)〜(3)の条件を満足するポリスチレン系樹脂組成物により構成されていることを特徴とする表皮被覆発泡成形体の製造方法。
(1)JIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づく23℃におけるシャルピー衝撃強さが5kJ/m以上である。
(2)JIS K7210(1999)記載の試験条件Hに基づくメルトマスフローレイトが1.5〜3.0g/10minである。
(3)直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)に対する重量平均絶対分子量Mw(abs)の比Mw(abs)/Mw(r)で定まる分岐指数が1.4以上である。
【請求項2】
分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂(A)30〜70重量部と、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(B)30〜70重量部(ただし、AとBとの合計は100重量部)とを溶融混練し、該溶融混練物を押出して前記パリソンを形成することを特徴とする請求項1に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【請求項3】
分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂(A)10〜30重量部と、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(B)5〜30重量部と、ポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とを重量比(A:B)30:70〜70:30の割合で溶融混練してなる再生ポリスチレン系樹脂(C)40〜80重量部(ただし、AとBとCとの合計が100重量部)とを溶融混練し、該溶融混練物を押出して前記パリソンを形成することを特徴とする請求項1に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【請求項4】
ポリスチレン系樹脂(A)が、複数の重合性二重結合を有する多分岐状マクロモノマーとスチレン系モノマーとの共重合体を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【請求項5】
前記表皮被覆発泡成形体の最大長さが1m以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記表皮被覆発泡成形体の表皮の平均厚みが1〜3mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体がポリスチレン系樹脂製の表皮で被覆された表皮被覆発泡成形体の製造方法に関し、詳しくは、ポリスチレン系樹脂中空成形体からなる表皮をブロー成形により形成し、該表皮内にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、該発泡粒子を加熱し発泡させて、ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体を成形すると共に、該表皮と該発泡粒子成形体とを融着一体化させる、表皮被覆発泡成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイから押出された樹脂パリソンを金型で挟み込んでブロー成形することにより中空状の表皮を形成して、その内部に発泡樹脂粒子を充填し、さらに中空ブロー成形体内にスチームなどの加熱媒体を供給して、発泡樹脂粒子を発泡、融着させることにより製造される、表皮で発泡粒子成形体が被覆された表皮被覆発泡成形体が知られている。
【0003】
このような表皮被覆発泡成形体は、ブロー成形体の意匠性と、発泡粒子成形体の断熱性とを併せ持つ上に、本来中空であるブロー成形体の中空部が発泡粒子成形体で充填されているため、軽量でありながらも、曲げ剛性や曲げ強度等の機械的物性にも優れたものとなる。さらに、表皮被覆発泡成形体を製造する際に、発泡粒子同士だけではなく、表皮と発泡粒子成形体とを十分に接着させることにより、表皮被覆発泡成形体全体の機械的物性をより向上させることができる。
【0004】
表皮と発泡粒子成形体とを十分に接着させるための方法として、例えば、下記特許文献1に、ブロ−成形により形成された中空成形体が冷却固化する前に、該中空成形体内に熱可塑性予備発泡樹脂粒子を充填し、該粒子を加熱・融着させて発泡成形体を成形する、表皮付き発泡体の製造方法が開示されている。この方法によれば、表皮を形成する中空成形体の保有する熱量を利用することにより、発泡粒子成形体と表皮とを十分に融着させることが可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−339979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般のブロー成形においては、軟化状態のパリソンに小径のブローピンを打ち込み、ブローピンを通して高圧のブローエアをパリソン内に吹き込むことで、パリソンを金型の内面に押し当てて賦形して中空成形体を形成する。さらに、ブローエアを排気すれば金型にかかる面圧は下がるため、中空成形体の冷却完了後直ちに成形体内の圧力を抜いて離型することができる。
【0007】
これに対し、表皮被覆発泡成形体を製造する際には、パリソンをブロー成形して中空成形体を形成した後に、発泡粒子を充填するための穴を中空成形体に開ける必要や、スチーム等の加熱媒体を供給するためのスチームピンを中空成形体に打ち込む必要がある。また、金型内の中空成形体内で発泡粒子を発泡(膨張)、融着させるため、表皮の冷却が完了しても発泡粒子の冷却が進むまでは面圧が低下しにくいが、生産性を考慮して、面圧がある程度残っている状態で離型する必要がある。
【0008】
そのため、表皮被覆成形体の表皮の基材樹脂としてポリスチレン系樹脂を用いる場合には、スチームピンの打ち込み時や離型時の中空成形体の割れを防止するために、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン樹脂を表皮の基材樹脂として用いることが広く行なわれている。
【0009】
一方、特許文献1に記載の方法においては、表皮の冷却固化を防いで、表皮と内部の発泡粒子成形体との融着性を向上させるために高温でパリソンを押出する必要があるため、パリソンがよりドローダウンしやすくなる傾向にある。耐衝撃性ポリスチレンは耐衝撃性には優れるものの、耐ドローダウン性には劣るという特性があるため、耐衝撃性ポリスチレンを基材樹脂とし、長尺の表皮被覆発泡成形体を得ようとすると、パリソンのドローダウンがより大きくなり、パリソン上部が薄肉化しやすくなり、さらにそのブロー成形性も悪くなる。その結果、中空成形体に局所的な薄肉化が発生してしまい、厚みの薄い部分では、その熱容量が小さくなるために冷えやすく、発泡粒子成形体と表皮との接着強度が低下してしまう。
【0010】
また、複雑な形状の中空成形体を得ようとする場合、ブロー成形時にパリソンの内圧を高めて金型の形状どおりにパリソンを沿わせて賦形する必要があるが、表皮と内部の発泡粒子成形体との融着性を向上させるためにパリソンを高温で押出して形成すると、パリソンの張力が低くなるために、中空成形体が局所的に薄肉化しやすく、やはり薄肉部で発泡粒子成形体と表皮との接着強度が低下する傾向にあった。
【0011】
そのため、例えば、シャワーパネルのような長尺で複雑な形状部を有する表皮被覆発泡成形体を製造しようとすると、ドローダウンや中空成形体の薄肉化を考慮して中空成形体の全体厚みを必要以上に厚く設定しなければならなかった。そのため、得られる表皮被覆発泡成形体は、コスト高で重量過大なものになってしまった。また、中空成形体自体をブロー成形しにくいために、歩留まりが悪く生産性が悪かった。
【0012】
前記パリソンのドローダウンを抑制し、ブロー成形性を向上させるために、一般のブロー成形において、耐衝撃性ポリスチレンに、高分子量タイプのポリスチレン樹脂を配合する方法が知られている。しかしながら、表皮と発泡粒子成形体との融着性に優れた表皮被覆発泡成形体を製造する場合、前記の通り、パリソンを高温で押出して形成する必要があるので、高分子量タイプのポリスチレン系樹脂を配合するだけでは、ドローダウンの抑制はまだ不十分である。さらに、高分子量タイプのポリスチレン系樹脂を配合すると、溶融した基材樹脂の流動性が悪くなり、パリソンの押出速度が遅くなるため、パリソンの押出に時間がかかってしまう。その結果、パリソン下部が冷却固化し、その部分においても表皮と発泡粒子成形体との間の接着力が低下してしまうといった問題が生じた。
【0013】
一方、耐衝撃性ポリスチレンに、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーにより分岐構造を導入したポリスチレン樹脂を配合する方法も知られている。しかし、この方法は比較的短尺で形状が単純な表皮被覆成形体を製造する際には有効な方法ではあるが、この方法により、長尺な表皮被覆成形体や、複雑な形状の表皮被覆成形体を製造しようとした場合、パリソンのドローダウンを抑制するためには、或いはブロー成形時の薄肉化を抑制するためには、分岐ポリスチレン樹脂を多量に配合しなければならない。その結果、所望の耐衝撃性が得られなくなってしまった。更に、成形体の形状によっては、金型からの離型時に割れが生じやすくなるという問題も生じた。
【0014】
本発明は、前記の問題を解決して、長尺や複雑な形状であっても、表皮と発泡粒子成形体とが十分に接着した表皮被覆発泡成形体を生産性良く製造可能な方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以下に示す表皮被覆発泡成形体の製造方法が提供される。
[1] ポリスチレン系樹脂からなる軟化状態のパリソンをブロー成形して中空成形体を形成し、次いで該中空成形体の内部にポリスチレン系樹脂発泡粒子を充填し、該発泡粒子を加熱して発泡粒子を相互に融着させると共に中空成形体の内面とも融着させて、中空成形体からなる表皮で発泡粒子成形体が被覆された表皮被覆発泡成形体を製造する方法において、
該パリソンが、下記(1)〜(3)の条件を満足するポリスチレン系樹脂組成物により構成されていることを特徴とする表皮被覆発泡成形体の製造方法。、
(1)JIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づく23℃におけるシャルピー衝撃強さが5kJ/m以上である。
(2)JIS K7210(1999)記載の試験条件Hに基づくメルトマスフローレイトが1.5〜3.0g/10minである。
(3)直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)に対する重量平均絶対分子量Mw(abs)の比Mw(abs)/Mw(r)で定まる分岐指数が1.4以上である。
[2] 分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂(A)30〜70重量部と、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂B30〜70重量部(ただし、AとBとの合計は100重量部)とを溶融混練し、該溶融混練物を押出して前記パリソンを形成することを特徴とする前記1に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
[3] 分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂(A)10〜30重量部と、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(B)5〜30重量部と、ポリスチレン系樹脂(A)と耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(B)とを重量比(A:B)30:70〜70:30の割合で溶融混練してなる再生ポリスチレン系樹脂(C)40〜80重量部(ただし、AとBとCとの合計が100重量部)とを溶融混練し、該溶融混練物を押出して前記パリソンを形成することを特徴とする前記1に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
[4] ポリスチレン系樹脂(A)が、複数の重合性二重結合を有する多分岐状マクロモノマーとスチレン系モノマーとの共重合体を含むことを特徴とする前記2又は3に記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
[5] 前記表皮被覆発泡成形体の最大長さが1m以上であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
[6] 前記表皮被覆発泡成形体の表皮の平均厚みが1〜3mmであることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の表皮被覆発泡成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明方法においては、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物のメルトフローレート及び分岐指数が特定範囲内であることにより、パリソンの押出特性及びパリソンをブロー成形する際の賦形性を維持しながらも、パリソンのドローダウンが抑制され、更にブロー成形時のパリソンの偏肉や、破裂を防止することができるので、全体的に厚みが均一な中空成形体を成形することが可能となる。これにより、表皮に薄肉化部分がないので、表皮被覆発泡成形体全体の表皮−発泡粒子成形体間の接着性を向上させることができる。また、ドローダウンが起きにくいので、ゴム成分含有量を増やすことができるので、耐衝撃性に優れる表皮を形成可能となる。これにより、必要な剛性を維持しつつ表皮を薄肉化することができるので、得られる表皮被覆発泡成形体の軽量化が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例で得られた表皮被覆発泡成形体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の表皮被覆発泡成形体の製造方法について詳細に説明する
本発明の表皮被覆発泡成形体(以下、単に発泡成形体ともいう。)の製造方法においては、従来公知の工程により表皮被覆発泡成形体が製造される。該方法においては、例えば、押出機と、該押出機に接続された、アキュームレーターを備えたダイと、パリソンをブロー成形可能な金型とを備える装置が用いられ、該金型は、ポリスチレン系樹脂発泡粒子(以下、単に発泡粒子ともいう。)を中空ブロー成形体内に導入する充填ガンと、発泡粒子を発泡・融着させるためのスチームを導入する複数のスチームピン(スチームピンには、加熱スチームなどを導入、排出する孔が設けられている。)とを有する。
【0019】
本発明方法においては、例えば、次のように表皮被覆発泡成形体が製造される。
まず、ダイからポリスチレン系樹脂からなる軟化状態のパリソンを押出し、該パリソンを分割した金型間に垂下させる。
次に、パリソンをプリブローエアにより拡幅しつつ金型を閉じ、ブローピンを金型内に位置するパリソン内に打ち込み、ブローピンを通して加圧気体(ブローエア)をパリソン内に導入してパリソンの外表面を金型の内面に押圧し、さらに必要に応じて金型側から吸引するなどしてパリソンの外表面と金型の内面との空間を減圧することにより、パリソンをブロー成形して中空成形体を形成する。
次に、中空成形体内に複数のスチームピン、及び充填ガンを打ち込み、スチームピンより中空成形体内の空気を排出させながら、発泡粒子を充填ガンを通して充填する。続いて、中空成形体内に挿入された複数のスチームピンの一方を供給側とし他方を排出側として、排出側を開放するか排出側から吸引を行いながら、該中空成形体の内部に供給側からスチームを供給して、発泡粒子をスチームで加熱することにより、発泡粒子を相互に融着させると共に、発泡粒子を中空成形体の内面とも融着させながら、発泡粒子成形体の成形を行なう。
冷却後、スチームピンを成形体内から抜き去り、金型を型開きし、成形体を離型して、表皮被覆発泡成形体を得る。
【0020】
前記ブロ−成形による中空成形体の形成、更に中空成形体の内部における発泡粒子成形体の形成については、従来公知の技術を利用することができる。
【0021】
本発明における前記パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物は、(1)シャルピー衝撃強さ、(2)メルトマスフローレイト(以下、単にMFRともいう。)、更に、(3)直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)に対する重量平均絶対分子量Mw(abs)の比Mw(abs)/Mw(r)で定まる分岐指数(以下、単に分岐指数ともいう。)が下記特定範囲内のものである。
【0022】
(1)JIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づく23℃におけるシャルピー衝撃強さが5kJ/m以上である。
(2)JIS K7210(1999)記載の試験条件Hに基づくメルトマスフローレイトが1.5〜3.0g/10minである。
(3)直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)に対する重量平均絶対分子量Mw(abs)の比Mw(abs)/Mw(r)で定まる分岐指数が1.4以上である。
次に、本発明におけるパリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物について詳しく説明する。
【0023】
本発明におけるパリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物は、上記(1)〜(3)の条件を満足することを要し、(1)〜(3)の条件を満足しさえすれば、(i)ブタジエンなどのゴム成分の存在下で重合してなる耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(以下、単に耐衝撃性ポリスチレン系樹脂とも言う。)、(ii)耐衝撃性ポリスチレン系樹脂とスチレン系エラストマーとの混合物、(iii)ゴム成分を含有しないポリスチレン系樹脂(以下、単にポリスチレン系樹脂と言う。)と耐衝撃性ポリスチレン系樹脂及び/又はスチレン系エラストマーとの混合物であってもよい。また、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、及びスチレン系エラストマーは、それぞれ2種以上用いても良い。
【0024】
本発明において、前記ポリスチレン系樹脂としては、スチレン系モノマーの重合体や、スチレン系モノマーと、これに共重合可能なビニルモノマーとからなる共重合体が挙げられる。
【0025】
スチレン系モノマーとしては、スチレンとその誘導体が例示でき、スチレンの誘導体としては、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、ジビニルベンゼン、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。上記スチレン系モノマーは、単独でも、2種類以上混合して重合したものでも良く、2種類以上を混合したものを用いて良い。
【0026】
また、スチレン系モノマーに共重合可能なビニルモノマーとしては、アクリル酸;メタクリル酸;無水マレイン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基を含有するビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基を含有するビニル化合物;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のマレイミド化合物などが挙げられる。
【0027】
ポリスチレン系樹脂の具体例としては、ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体などが挙げられる。
【0028】
ポリスチレン系樹脂が、スチレンと、スチレン誘導体及び/又はスチレン系モノマーに共重合可能なビニルモノマー成分との共重合体である場合には、スチレン成分の含有量が該共重合体中に50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0029】
前記(i)〜(iii)における耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、ブタンジエンゴムなどのゴムの存在下でスチレン系モノマーを重合してなるポリスチレン系樹脂である。該耐衝撃性ポリスチレン系樹脂は、ポリスチレン系樹脂と同様に、スチレン系モノマーのほかに、共重合成分として上記ビニルモノマーを含むことができる。耐衝撃性ポリスチレン系樹脂の具体例としては、ブタジエンゴム存在下でスチレンを重合させてなる耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体などが例示できる。
【0030】
前記スチレン系エラストマーとしては、スチレンと、ブタジエンやイソプレンなどのゴム成分とのブロック共重合体、具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体や、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、それらの水素添加物などが例示できる。なお、スチレン系エラストマーを用いる場合には、エラストマー中のブタジエン成分単位やイソプレン成分単位などをゴム成分とみなす。
【0031】
本発明において、前記パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物においては、(1)JIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づく23℃におけるシャルピー衝撃強さが5kJ/m以上であることを要する。該シャルピー衝撃強さが低すぎると、金型から成形体を離型する際に表皮部分が割れたり、充填ガン、スチームピンなどを打ち込んだ際に挿入孔周辺が割れたりする虞れがある。かかる観点から、該該シャルピー衝撃強さは、6kJ/m以上が好ましく、より好ましくは7kJ/m以上である。なお、上記観点から、該シャルピー衝撃強さの上限は特に限定されるものではないが、その上限は概ね20kJ/m程度である。
【0032】
また、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強さを前記範囲に調整する方法としては、(a)シャルピー衝撃強さが前記範囲である耐衝撃性ポリスチレン系樹脂を単独で使用する、又は必要に応じてスチレン系エラストマーを添加して調整する方法、(b)ポリスチレン系樹脂と前記(1)の範囲よりもシャルピー衝撃強さが高い耐衝撃性ポリスチレン及び/又はスチレン系エラストマーとを混合することにより調整する方法が挙げられる。
【0033】
本発明において、(2)前記パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレイト(MFR)は1.5〜3.0g/10minである。該MFRが小さすぎると、パリソンを押出する際の圧力が高くなり、パリソンの押出に時間がかかりすぎ、パリソン下部が冷却固化しやすくなる。また、パリソンの肉厚コントロールも困難になる。一方、該MFRが大きすぎるとパリソンがドローダウンしやすくなる。かかる観点から、該MFRは1.6〜2.8g/10minが好ましい。
【0034】
本明細書におけるMFRは、JIS K 7210(1999)の表1の条件H(試験温度200℃、荷重5kg)に基づき測定される値である。
【0035】
本発明において、前記パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物は、上記ゴム成分含有量及びMFRを満足すると共に、(3)直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)に対する重量平均絶対分子量Mw(abs)の比Mw(abs)/Mw(r)で定まる、分岐指数が1.4以上である。該分岐指数が大きければ大きいほど、ポリスチレン系樹脂組成物中に存在する分岐の数が多いことを意味する。分岐の数が多いポリスチレン系樹脂は溶融張力(MT)が大きい特性があり、さらに、溶融時に引き伸ばされても局所的に引き伸ばされにくい特性があり、さらにそれらの温度依存性も小さくなる傾向にある。したがって、該樹脂から形成されたパリソンは、中空成形体の内面と発泡粒子とを十分に融着させるために高温で押出された場合であっても、ドローダウンが発生しにくいと共に、ブロー成形時に成形内圧を高めても全体が均一に引き伸ばされやすくなる。
【0036】
前記分岐指数が1.4より低いと、ブロー成形時にパリソンが均一に伸ばされなくなり、中空成形体に薄肉部が生じやすくなるばかりか、薄くなった箇所から破裂する虞がある。一方、耐ドローダウン性及びブロー成形性の観点からは、分岐指数の上限は特に限定されるものではないが、分岐指数が高すぎると、ブロー成形時にパリソンを拡幅しにくくなる。かかる観点から、分岐指数の範囲は1.4〜2.5が好ましく、より好ましい範囲は1.5〜2.1である。
【0037】
本明細書において、重量平均絶対分子量Mw(abs)とは、ポリマーの真の重量平均分子量であり、示差屈折計と、光散乱検出器と、必要に応じて粘度計とを組み合わせた検出器を用いる従来公知の方法により測定することができる。光散乱検出器には、低角度光散乱検出器(LALLS)、多角度光散乱検出器(MALLS)、直角光散乱検出器(RALLS)がある。本発明においては、GPC−RALLS−粘度計分析法を採用し、重量平均絶対分子量を求めている。
【0038】
一方、直鎖ポリスチレンを基準とする重量平均分子量Mw(r)とは、既知の分子量を有する直鎖ポリスチレンを標準ポリマーとして用いて求められる相対的な重量平均分子量であり、従来の紫外分光光度計(UV)などの検出器を用いた、ゲルパーミューションクロマトグラフ法(以下「GPC」という。)で求めることができる。重量平均分子量Mw(r)は溶融加工時の流動性等の指標となるが、そのポリマー本来の分子量を正確には表しておらず、ポリマー中に分岐構造が存在する場合には、重量平均絶対分子量Mw(abs)に比べて相対的に小さな値となる。したがって、Mw(abs)/Mw(r)で定まる分岐指数は、ポリマーの分岐度が高いほど大きな値をとる。なお、ゴム成分を含有するポリスチレン系樹脂は、同じ重量平均絶対分子量Mw(abs)を有するゴム成分を含有しないポリスチレン系樹脂に比べて、重量平均分子量Mw(r)が低くなるため、その分岐指数の値が大きくなる傾向にある。
【0039】
本発明においては、前記したように、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物として、(iii)ポリスチレン系樹脂と耐衝撃性ポリスチレン系樹脂及び/又はスチレン系エラストマーとの混合物を用いることができ、この場合、ポリスチレン系樹脂として、前記分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂(以下、単にポリスチレン系樹脂(A)とも言う。)を用いること好ましい。一般的な耐衝撃性ポリスチレン系樹脂やスチレン系エラストマーはその分岐指数が低いが、分岐指数1.4以上のポリスチレン系樹脂との混合物とすることにより、容易に上記(1)〜(3)の条件を満足させることができる。
【0040】
前記分岐指数が1.4以上のポリスチレン系樹脂は、スチレン系モノマーと複数の重合性二重結合を有する多分岐状マクロモノマーとを共重合させることにより得ることができる。前記多分岐状マクロモノマーは、複数の分岐を有し、且つその先端部に複数の重合性二重結合を有するマクロモノマーであり、その直鎖スチレン換算重量平均分子量は、好ましくは1000〜15000、より好ましくは3000〜8000である。その分岐構造としては、1分子中に電子吸引基と該電子吸引基に結合する結合手以外の3つの結合手すべてが炭素原子に結合している4級炭素原子によって枝分かれしているもの、及びエーテル結合、エステル結合又はアミド結合を有する構造単位の繰り返しによって分岐構造を形成するものが好ましい。かかる多分岐状マクロモノマー、及び其れによって形成される多分岐構造については、特開2003−292707号公報に詳細に記載されている。
【0041】
前記ポリスチレン系樹脂(A)の分岐指数は1.4以上であることが好ましく、より好ましくは1.6以上であり、より好ましくは1.8以上である。一方、ポリスチレン系樹脂(A)の直鎖ポリスチレン換算重量平均分子量Mw(r)は、3.0×10〜5.0×10が好ましく、より好ましくは3.5×10〜4.5×10である。ポリスチレン系樹脂Aの分岐度が高く、かつ該重量平均分子量Mw(r)が上記範囲内であると、押出時の流動性に優れるにもかかわらず、耐ドローダウン性及びブロー成形性に優れるので、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物中の耐衝撃性ポリスチレン、スチレン系エラストマーの配合比率を高めることができ、より耐衝撃性に優れる表皮被覆発泡成形体を得ることができるため好ましい。
【0042】
前記(1)〜(3)の条件を満足させるためには、ポリスチレン系樹脂(A)のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.5〜2.5g/10minが好ましく、より好ましくは0.6〜2.0g/10min、さらに好ましくは0.7〜1.5g/10minである。
【0043】
前記(1)〜(3)の条件を満足させるためには、ポリスチレン系樹脂(B)のJIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づく23℃におけるシャルピー衝撃強さは、10kJ/m以上であることが好ましい。該シャルピー衝撃強さの値が高いと、ポリスチレン系樹脂(B)の配合量を減らすことができる、すなわちポリスチレン系樹脂(A)の配合量を増やすことができるため、より耐ドローダウン性及びブロー成形性に優れるパリソンを形成することができる。かかる観点から、該シャルピー衝撃強さは、11kJ/m以上がより好ましく、さらに好ましくは12kJ/m以上である。
【0044】
前記(1)〜(3)の条件を満足させるためには、ポリスチレン系樹脂(B)のメルトマスフローレイトは、1.0〜5.0g/minが好ましく、より好ましくは1.2〜4.0g/10minであり、さらに好ましは1.5〜3.5g/10minである。
【0045】
所望される前記パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物を得るためには、ポリスチレン系樹脂(A)30〜70重量部と、ポリスチレン系樹脂(B)30〜70重量部とを配合することが好ましく(ただし、AとBとの合計は100重量部)、ポリスチレン系樹脂(A)40〜70重量部と、ポリスチレン系樹脂(B)30〜60重量部とを配合することがより好ましい(ただし、AとBとの合計は100重量部)。
【0046】
本発明においては、ポリスチレン系樹脂(A)と、ポリスチレン系樹脂(B)とに加え、予め前記ポリスチレン系樹脂(A)と前記ポリスチレン系樹脂(B)とを重量比(A:B)30:70〜70:30の割合で溶融混練することにより得られる再生ポリスチレン系樹脂(C)を押出機に供給し、溶融混練したポリスチレン系樹脂組成物を押出すことにより、前記パリソンを形成することができる。ポリスチレン系樹脂(C)は、例えば、表皮被覆成形体の表皮を形成する際に生じるバリの部分や、表皮部分を溶融混練して再生することにより、得ることもできる。
【0047】
ポリスチレン系樹脂(C)を用いる場合、前記パリソン組成物を得るための配合としては、ポリスチレン系樹脂(A)は10〜30重量部が好ましく、前記ポリスチレン系樹脂(B)は5〜30重量部が好ましく、前記ポリスチレン系樹脂(C)は40〜80重量部が好ましい(ただし、AとBとCとの合計は100重量部)。分岐度が非常に大きなポリスチレン系樹脂(A)と耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(B)とは混ざり難い傾向にあるが、予めポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とを溶融混練した再生ポリスチレン系樹脂(C)を併用することで、ポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)との混合状態が向上するため、パリソンのブロー成形時の伸びがさらに良好になり、より厚みの均一性に優れた中空成形体を得ることができる。さらに、耐ドローダウン性やブロー成形性を維持しつつ、溶融樹脂の流動性を高めることができるため、パリソンの押出完了までの時間を短縮することができ、発泡粒子成形体と表皮との接着性をより向上させることができる。また、表皮の表面状態が良化する。これらの観点から、ポリスチレン系樹脂(A)の配合量は15〜25重量部がより好ましく、ポリスチレン系樹脂(B)の配合量は10〜25重量部がより好ましく、ポリスチレン系樹脂(C)の配合量は50〜70重量部がより好ましい(ただし、AとBとCとの合計は100重量部)。
【0048】
従来の技術により、長さ1m以上の長尺の表皮被覆発泡成形体を製造しようとすると、パリソンのドローダウン分を考慮し、さらにパリソンのブロー成形性を考慮して、表皮の厚みを必要以上に厚く設定する必要があった。本発明によれば、長さ1m以上の長尺の表皮被覆発泡成形体であっても、表皮の厚みを必要以上に厚く設定する必要がなく、その結果、表皮の平均厚みが1〜3mmと薄く、かつ表皮の押出方向の厚みの均一性に優れ、さらに表皮と発泡粒子成形体とが十分に接着した表皮被覆発泡成形体を得ることができる。
【0049】
本発明における表皮の平均厚みは、表皮被覆発泡成形体から発泡粒子成形体を取り除いた表皮部分の重量を表皮の表面積で割り算して求めた表皮の単位面積当たりの重量を、表皮を構成するポリスチレン系樹脂組成物の密度でさらに割り算することによって求めることができる。
【0050】
本発明方法によれば、最大長さが1m以上の表皮被覆発泡成形体であっても、表皮と発泡粒子成形体とが十分に接着した表皮被覆発泡成形体を得ることができる。最大長1m以上の発泡成形体は、シャワーパネルなどの住宅資材用途に好適に使用できるものであり、かかる観点から、最大長さは1.5m以上がより好ましく、2m以上が更に好ましい。なお、最大長さの上限は概ね5m程度である。
【0051】
次に、本発明で用いられるポリスチレン系樹脂発泡粒子について説明する。
本発明で用いられる発泡粒子の基材樹脂は、スチレン系モノマーの重合体、又はスチレン系モノマーの2種類以上の共重合体や、耐衝撃性ポリスチレン系樹脂(HIPS)、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレンとスチレン系モノマー以外のモノマーとの共重合体である。さらに、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリフェニレンエーテルなどを含有するものを用いることもできる。発泡性に優れ、型内成形性に優れ、汎用性があるなどの点から、発泡粒子の基材樹脂中のスチレン系モノマー成分単位の割合は60〜100重量%であることがさらに好ましく、70〜100重量%であることが特に好ましい。
【0052】
該発泡粒子の粒子径の範囲は、1.0〜3.5mmが好ましく、1.5〜3.2mmがさらに好ましい。発泡粒子の粒子径が上記範囲であることにより、得られる成形体が優れた機械的物性を有すると共に、型内成形時に中空成形体の細部や薄肉部への発泡粒子の充填性にも優れたものとなる。
【0053】
該発泡粒子の製造に使用される発泡剤は、従来のポリスチレン系樹脂発泡粒子の製造に使用される、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタンなどの炭化水素、塩化メチル、塩化エチルなどの塩素化炭化水素、空気、二酸化炭素、窒素などの無機ガス等が使用できる。それらの発泡剤の中でも、発泡粒子同士の融着性性に優れることからノルマルブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタンなどの炭化水素の使用が好ましい。
【0054】
前記発泡粒子を前記表皮内で二次発泡・融着させることにより得られる発泡粒子成形体の見かけ密度は、15〜40kg/mが好ましく、15〜30kg/mがより好ましい。発泡粒子成形体の見かけ密度が上記範囲内であると、得られる発泡成形体が実用的な強度と軽量性とを兼ね備えたものとなる。
【0055】
表皮と発泡粒子成形体との接着力が不十分であると成形体の機械的強度、特に曲げ剛性及び曲げ強さが低くなる。また、該接着力が不十分であると表皮と発泡粒子成形体との界面で界面剥離が生じる。一方、両者が十分に融着されていると、両者間の接着強度が発泡粒子の材料強度又は発泡粒子成形体の発泡粒子間の接着強度を上回るため、表皮と発泡粒子成形体とを剥離させる表皮剥離試験を行なうと、発泡粒子成形体において発泡粒子間の剥離又は発泡粒子の材料破壊が生じる。十分な接着力という観点から、該表皮剥離試験において、発泡粒子成形体が材料破壊する割合が高いことが望ましい。剥離面に存在する発泡粒子の全数に対する材料破壊した発泡粒子の数の比を融着率としたとき、該融着率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。なお、本発明においては、発泡粒子間の剥離又は発泡粒子の材料破壊の両者を併せて発泡粒子成形体の「材料破壊」という。
【0056】
なお、発泡粒子の型内成形時における発泡剤含有量は、前記接着力が向上することから、少ない方が好ましい。発泡剤残量を少なくする方法には、発泡性樹脂粒子を加熱発泡させ発泡粒子とした後、発泡剤を発泡粒子から逸散させて所定量に減量するまで通気性の容器内に保管することにより発泡剤含有量を調整する方法や、発泡剤含有量の少ない発泡性樹脂粒子を製造し、通常よりも高温のスチームで所定の見かけ密度(発泡倍率)まで予備発泡させることにより、発泡剤含有量を少なく調整した発泡粒子を得る方法などが挙げられる。
【実施例1】
【0057】
以下、本発明の表皮被覆発泡成形体の製造方法について、実施例、比較例により詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例、比較例で用いたポリスチレン系樹脂(A)の略称、製造会社名、グレード、物性については表1に、ポリスチレン系樹脂(B)の略称、製造会社名、グレード、物性については表2に、ポリスチレン系樹脂(C)の略称、配合、物性については表3に示す。
【0059】
【表1】

表中、樹脂A1、樹脂A2は、複数の重合性二重結合を有する多分岐状マクロモノマーとスチレン系モノマーとの共重合体である。樹脂A3は、従来の多官能性モノマーによる分岐ポリスチレンである。
【0060】
【表2】

表中、樹脂B1は、樹脂B2は、ゴム成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン系樹脂である。
【0061】
【表3】
樹脂C1〜C3は全て、種類の欄に記載の樹脂を230℃に温度設定した押出機により溶融混練してリペレット化し、このリペレット化したものをさらに230℃に温度設定した押出機により溶融混練してリペレット化したものである。
【0062】
実施例1〜4、比較例1〜6
表4に示す種類、配合のポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)とをドライブレンドし、内径135mmの押出機に供給し、約210℃にて溶融混練し、表皮用溶融樹脂とした。
次いで、該溶融樹脂を210℃に調整したアキュームレーターに充填し、該溶融樹脂を該アキュームレーターの下流側の直径900mmのダイから押出して円筒状のパリソンを形成した。
次に、得られた軟化状態にあるパリソンの下部をピンチして元圧0.5MPa(G)の加圧エアによりプリブローしながら、ダイ直下に位置するシャワーパネル成形用分割金型(シャワーパネルの外形寸法:全長200cm、全幅80cm、奥行き38cm、代表肉厚9cm;80℃に温度を調整)間に配置した。続いて両金型に取り付けられた一対の内寸216.5cm×98.5cmの金属製の矩形状の枠にてパリソンを挟み込んでパリソン内の内圧を高めた後、1.0秒後に金型の型締めを完了し、パリソンにブローピンを打ち込み、該ブローピンから元圧0.5MPa(G)のブローエアを吹き込んでブロー成形することで、中空成形体を形成した。なお、比較例2、3及び5では、良好な中空成形体を形成することができなかったため、表4の「ブロー成形可否」の欄に「×」と示し、以下の発泡粒子の成形は実施しなかった。
【0063】
前記中空成形体内に、成形体の裏面(意匠面とは反対面)となる側から2本の外径36mmの充填ガン、及び等間隔に配置した54本の外径10mmのスチームピンを挿入し、スチームピンから排気しながら、充填ガンを通してかさ密度20kg/m(かさ発泡倍率50倍)、平均粒径2.5mmのポリスチレン発泡粒子を充填した。次いで、半数のスチームピンを供給側、残りのスチームピンを排気側として、元圧0.08MPa(G)のスチームを20秒間供給し、さらに供給側と排気側を入替えて、さらに元圧0.08MPa(G)のスチームを20秒間供給することによって、発泡粒子を加熱して、発泡粒子間の空隙を埋めると共に相互の発泡粒子を融着させ、さらに中空成形体内面と発泡粒子とを融着させて表皮被覆発泡成形体を得た。なお、発泡粒子成形体部分の見掛け密度は約20kg/mであった。図1に、得られた表皮被覆発泡成形体の斜視図を示す。
【0064】
実施例5〜8、比較例7
ポリスチレン系樹脂(A)とポリスチレン系樹脂(B)に加えてポリスチレン系樹脂(C)を配合した以外、実施例1と同様に発泡粒子成形体を得た。
【0065】
実施例、比較例における基材樹脂の配合、MFR,シャルピー衝撃強さ、分岐指数、パリソンの耐ドローダウン性、ブロー成形可能範囲等の成形性の評価を表4に示す。また、実施例、比較例で得られた成形体の物性を表4に示す。なお、比較例2、3及び5においては、表皮被覆発泡成形体が得られなかったため、成形体の物性評価は実施しなかった。
【0066】
【表4】
【0067】
表4における製造条件、成形性の各項目の評価は次のように行なった。
なお、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強さ、MFR、Mw(abs)及びMw(r)については、表皮被覆発泡成形体の表皮を構成するポリスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強さ、MFR、Mw(abs)及びMw(r)と同一とみなし、表皮から無作為に3点の測定用サンプルを切り出して、それぞれのシャルピー衝撃強さ、MFR、Mw(abs)及びMw(r)を測定し、それらの測定値の算術平均値を、パリソンを構成するポリスチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強さ、MFR、Mw(abs)及びMw(r)として採用した。
【0068】
[シャルピー衝撃強さ]
まず、射出成形にて80mm×10mm×4mmの試験片を作製し、さらに半径0.25mmのノッチを形成し、23℃、相対湿度50%の雰囲気下で24時間状態調節した。状態調節後、23℃の雰囲気下で、JIS K7111(1996)記載の方法の分類ISO 179/1eAに基づきシャルピー衝撃強さを測定した。
【0069】
[MFR]
JIS K 7210(1999)に基づき、測定条件H(200℃、荷重5kg)にて測定した。
【0070】
[重量平均絶対分子量(Mw(abs))及びポリスチレン換算重量平均分子量(Mw(r))並びに分岐指数]
直鎖ポリスチレン換算重量平均分子量(Mw(r))の測定には、検出器として、紫外分光光度計を使用し、重量平均絶対分子量(Mw(abs))の測定には、検出器として、示差屈折率検出器−RALLS−差圧粘度検出器のトリプル検出器を使用した。
装置:GPC仕様高速液体クロマトグラフ(ジーエルサイエンス社製)
カラム:Shodex GPC KF−806、KF−805、KF−803(昭和電工(株)製)を直列に接続
検出器:UV(紫外分光光度計) UV702((株)ジーエルサイエンス製)、RI(示差屈折率検出器) Shodex RI−101(昭和電工(株)製)、Visc(差圧粘度検出器)およびRALLS(90°光散乱検出器) TDA Moel270(Viscotek社製)
移動相:テトラヒドロフラン(流量 1.0ml/min)
試料濃度:約1.5mg/cm
試料注入量:200μL
カラム槽温度:40℃
RI温調:40℃
UV測定波長:254nm
RALLS光源波長:670nm
【0071】
中空成形体を製造する前に、パリソンを押出して中空成形体のみを形成し、その耐ドローダウン性とブロー成形可能範囲を評価した。
[耐ドローダウン性]
各実施例及び比較例における表皮被覆成形体製造時のパリソン押出条件と同条件にて、ダイリップの間隙を2mmとし、吐出速度3000kg/hrで10秒間かけてパリソンを押出し、パリソンの下端がダイから100cm下方まで到達してからパリソンの下端がダイから250cm下方まで到達するまでの時間を測定し、耐ドローダウン性を評価した。250cmまで到達する時間が長いほど耐ドローダウン性に優れることを意味する。
【0072】
[ブロー成形可能範囲]
枠によりパリソンを挟み込んでから金型が完全に締まるまでの時間(型締め遅延時間)を0秒(枠でパリソンを挟みこむのと型締め完了とが同時、すなわち枠を使用せず。)から、枠の始動を0.1秒ずつ早めて、それぞれパリソンをブロー成形することにより、皺が発生せずかつ金型形状どおりにブロー成形可能な型締め遅延のタイミングを求めた。さらに、パリソンが破裂するまで枠の始動を0.1秒ずつ早めていき、ブロー成形範囲(秒)を求めた。型締め遅延時間を長くする(枠の始動タイミングを早める)と、ブロー成形時のパリソンの内圧をより高めることができ、複雑な形状であっても金型どおりの形状に賦形しやすくなるが、パリソンが破裂しやすくなる。一方、型締め遅延時間を短くする(枠の始動タイミングを遅くする)と、パリソンの内圧は低くなるためパリソンが破裂し難くなるが、金型の形状どおりに賦形することが難しくなったり、ブロー成形体に皺ができやすくなったりする。したがって、型締め遅延時間を長くとれるほど、パリソンのブロー成形が容易であることを意味する。ブロー成形時にパリソンが破裂せず、かつブロー成形体に皺ができず金型の形状どおりに賦形可能であった場合を「ブロー成形可能」と評価し、このブロー成形可能範囲が1.5秒以上となった場合には○を、1.4秒以下の場合には実際のブロー成形可能範囲(秒)を表中に示し、ブロー成形可能な範囲がなかった場合を「―」で示した。
【0073】
[離型性]
表皮被覆発泡成形体の離型時に、表皮被覆発泡成形体の表皮に割れが発生せずに離型できた場合を○、表皮に割れが発生した場合を×として評価した。
【0074】
[表皮の全体平均厚みT]
表皮被覆発泡成形体から発泡粒子成形体を取り除いて表皮のみの重量を測定し、表皮の重量を表皮の表面積で割り算し、さらに表皮を構成するポリスチレン系樹脂組成物の密度で割り算することによって、表皮の全体平均厚みT[mm]を求めた。
【0075】
[成形体側部における表皮の平均厚みTl]
図1に図示する表皮被覆発泡成形体1の両側部2a、2bにおいて、その中央部を長手方向に沿って等間隔に片側32点、両側で計64点の表皮の厚みを測定し、算術平均することにより成形体側部における表皮の平均厚みTl[mm]を求めた。さらに、該平均厚みTlを上記全体平均厚みTで割り算することにより、表皮の厚みの均一性を評価した。この成形体側部は引き込み比が大きい部位であり、ブロー成形時にパリソンが過度に伸ばされやすくなる部位である。ブロー成形時にパリソンが過度に伸ばされずにより均等に伸ばされやすくなるほど、表皮の平均厚みに対する成形体側部の厚みの比が高くなる傾向にある。
【0076】
[成形体側部における表皮の最小厚みTx]
上記64点の測定点のうち最も表皮厚みの薄い箇所をX点とし、該X点における表皮厚みを成形体側部における表皮厚みの最小厚みTx[mm]とした。さらに、該最小厚みTxを上記平均厚みTlで割り算することにより、成形体側部における表皮の厚みの均一性を評価した。パリソンの耐ドローダウン性が高いほど、表皮の押出方向の厚みの均一性が高くなる傾向にある。
【0077】
[表皮−発泡粒子成形体間の融着率]
最も表皮−発泡粒子成形体間の融着率が低くなりやすい表皮被覆発泡成形体のX点付近から50mm×50mm×成形体厚みの測定用試験片を切り出した。その試験片を表皮−発泡粒子成形体間で剥離させ、発泡粒子成形体側の剥離面に存在する発泡粒子の全個数、及び材料破壊した発泡粒子の個数をそれぞれ計測し、発泡粒子の全個数に対する材料破壊した発泡粒子の個数の割合を求め、X点における表皮−発泡粒子成形体間の融着率[%]とした。
【0078】
[発泡粒子成形体の融着率]
表皮被覆発泡成形体の中央部及び四隅の計5箇所から、表皮を含まないようにして150mm×150mm×表皮を除いた成形体厚みの測定用試験片を切り出した。該試験片を割り、その断面を観察し、材料破壊した発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の数をそれぞれ計測し、材料破壊した発泡粒子と界面で剥離した発泡粒子の合計数に対する、材料破壊した発泡粒子の数の割合を求め、それらの算術平均値を発泡粒子成形体の融着率[%]とした。
【0079】
[表面性]
表皮被覆発泡成形体の表面を目視にて観察し、表面荒れがない場合を◎、若干表面荒れがあるが製品として問題ないレベルである場合を○として評価した。

【符号の説明】
【0080】
1 表皮被覆発泡成形体
2a、2b 表皮被覆発泡成形体の側部


図1