(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端部に対向するように一対の切欠部が設けられているノズルを用いて被塗布部材上に粘性のシール材料を塗布し、無端状のガスケットを製造するガスケットの製造方法において、
前記一対の切欠部は、第1切欠部と、頂部が前記第1切欠部よりも高い第2切欠部とから構成され、
前記第1切欠部の最大幅は、塗布後の前記シール部材のビード幅よりも大きくなるように形成され、
前記第1切欠部を進行方向前側に配置した状態で前記シール材料を吐出させながら前記ノズルを移動させ、前記ノズルが一周することで前記シール材料の塗布開始部に前記シール材料が接合された後、前記シール材料の吐出を終了し、
その後、前記ノズルを後退させ、前記塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を前記第1切欠部に接触させることによって除去することを特徴とするガスケットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1及び特許文献2に記載の方法は、いずれも上述の接合部分に、はみ出しや隙間が生じることを防ぐことはできても、塗布完了後、ノズルがシール材料から離れる際に、シール材料の塗布開始部の上にシール材料が乗り上げて段差部が形成され、ガスケットの高さのバラツキが生じてしまうことが考えられる。このようにガスケットの高さにバラツキが生じると、それが原因で密封液や気体の洩れが生じたり、ガスケット締結時に、段差部分に起因する局部的な反力上昇や過剰圧縮によりガスケットの劣化が進んで破壊されるなどといった不具合が生じてしまう。特に、燃料電池スタックは、セパレータ、エンドプレート、ターミナルプレート等数多くの平板状部材が積層されることで構成されるため、それらのプレート間に介在するガスケット全体の高さが不均一であると、その影響が顕著に現れる。
そこで、ガスケットの高さのバラツキを解消する方法として、塗布したシール材料の上に、平面精度の良いフラット板を、ガスケット高さ設定用のスペーサーを挟んで載せ、ガスケットの段差部分を潰し矯正させた状態で加硫させ、その後フラット板を取り除き使用する方法が考えられる、また、シール材料を加硫後、ガスケットの段差部分を研磨機等で削り取る方法も考えられる。しかしながら、これらは、いずれも製造工程の増加によるコストアップ等の問題がある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みなされたもので、塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を効率的に除去するガスケットの製造方法と、これに用いる塗布装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るガスケットの製造方法は、先端部に対向するように一対の切欠部が設けられているノズルを用いて被塗布部材上に粘性のシール材料を塗布し、無端状のガスケットを製造するガスケットの製造方法において、前記一対の切欠部は、第1切欠部と、頂部が前記第1切欠部よりも高い第2切欠部とから構成され、
前記第1切欠部の最大幅は、塗布後の前記シール部材のビード幅よりも大きくなるように形成され、前記第1切欠部を進行方向前側に配置した状態で前記シール材料を吐出させながら前記ノズルを移動させ、前記ノズルが一周することで前記シール材料の塗布開始部に前記シール材料が接合された後、前記シール材料の吐出を終了し、その後、前記ノズルを後退させ、前記塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を前記第1切欠部
に接触させることによって除去することを特徴とする。なお、「段差部を除去する」とは、段差部を削り取る場合に限らず、ガスケットが全周に亘って均一な高さになるように、段差部をならす場合も含む。
【0007】
本発明のガスケットの製造方法によれば、第1切欠部を進行方向前側に配置した状態で前記シール材料を吐出させながら前記ノズルを移動させるから、この移動の際に進行方向後側に位置する第2切欠部よりシール材料が連続的に吐出される。連続的に吐出されるシール材料は、断面形状がその粘性により第2切欠部の形状から多少変形するが、連続した突条形状を保って被塗布部材上を一周して塗布され、塗布開始部に接合されて無端状のガスケットの原形が形成される。そして、この接合の後、シール材料の吐出を終了させて、前記ノズルを後退させるが、この際、第1切欠部はその頂部が第2切欠部の頂部より低く形成されているから、前記塗布開始部に積層されたシール材料が、ノズルの後退に伴い第1切欠部によって除去される。これによって、前記ガスケットの原形は、全周に亘って高さが均一化される。従って、このガスケットの原形を加硫或いは自然硬化させて形成されるガスケットは、繋ぎ部の形状乱れや、高さのばらつきがなく、シール性が向上し、ガスケット圧縮時に生じる段差部に起因した局部的な反力上昇や過剰圧縮による破壊等の懸念を有さないものとなる。また、シール材料の塗布工程に引続き前記段差部を除去することができ、ガスケット製造の効率化が図られる。
【0008】
本発明のガスケットの製造方法において、前記シール材料の吐出を終了させる際に、少なくとも前記第1切欠部及び前記第2切欠部に残らないように前記ノズル内のシール材料を引き込むようにしても良い。
これによれば、除去されたシール材料をノズル内に収め易くなり、除去されたシール材料が前記ガスケットの原形に再付着することを抑制することができる。
【0009】
本発明のガスケットの製造方法
は、先端部に対向するように一対の切欠部が設けられているノズルを用いて被塗布部材上に粘性のシール材料を塗布し、無端状のガスケットを製造するガスケットの製造方法において、前記一対の切欠部は、第1切欠部と、頂部が前記第1切欠部よりも高い第2切欠部とから構成され、前記第1切欠部を進行方向前側に配置した状態で前記シール材料を吐出させながら前記ノズルを移動させ、前記ノズルが一周することで前記シール材料の塗布開始部に前記シール材料が接合された後、前記シール材料の吐出を終了し、その後、前記ノズルを後退させ、前記塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を前記第1切欠部によって除去し、前記シール材料の吐出が終了してから前記第1切欠部によって前記シール材料を除去するまでに、前記第1切欠部によって除去するシール材料の分量を考慮して、前記ノズルの先端と前記被塗布部材との距離を調整するようにしても良い。
これによれば、前記ノズルの先端と前記被塗布部材との距離を調整することにより、シール材料が余分に除去されてガスケットの高さが低下するようなおそれを回避することができる。
【0010】
本発明のガスケットの製造方法において、前記シール材料の吐出が終了してから前記第1切欠部によって前記シール材料を除去するまでに、前記シール材料の粘度が高いほど、及び前記ノズルを後退させるときの速度が速いほど、前記ノズルの先端を前記被塗布部材から離間させる方向に移動させるようにしても良い。
これによれば、シール材料の粘度及びノズルの後退速度に基づいて、ノズルの先端と前記被塗布部材との距離を調整することで、シール材料を余分に除去するおそれを回避できる。
【0011】
本発明のガスケットの製造方法が、複数積層されて用いられる燃料電池スタックの一対の平板状部材間に適用されるものとし、前記被塗布部材を、前記一対の平板状部材の一方としても良い。
燃料電池スタックは、セパレータ、エンドプレート、ターミナルプレート等数多くの平板状部材が積層されることで構成されるため、それらのプレート間に介在するガスケットの全体高さが不均一であると、その影響が顕著に現れる。この発明では、ガスケットの高さを均一化できるため、複数積層されて用いられる燃料電池スタックの平板状部材間に介在するガスケットに好適に適用できる。
【0012】
第2の発明に係るガスケットの塗布装置は、先端部に対向する一対の切欠部が設けられたノズルを備え、被塗布部材上に粘性のシール材料を塗布する塗布装置において、前記一対の切欠部は、第1切欠部と、頂部が前記第1切欠部よりも高い第2切欠部とから構成され、
前記第1切欠部の最大幅は、塗布後の前記シール部材のビード幅よりも大きくなるように形成され、前記ノズルを含むとともに前記ノズルからの前記シール材料の吐出開始及び終了を切り替えるディスペンシングバルブと、前記ディスペンシングバルブの移動を制御する移動制御手段とを備え、前記移動制御手段は、前記ディスペンシングバルブを一周するよう移動させ、前記ディスペンシングバルブは、前記シール材料の塗布開始部に前記シール材料が接合された後、前記シール材料の吐出を終了し、その後、前記移動制御手段は、前記ディスペンシングバルブを後退させ、前記塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を前記第1切欠部
に接触させることによって除去するよう構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の塗布装置によれば、ディスペンシングバルブからノズルを介してシール材料を吐出しながら、ディスペンシングバルブを移動制御手段によって被塗布部材上を一周するよう移動制御することによって、被塗布部材上には無端状のガスケットの原形が形成される。このガスケットの原形は、第2切欠部の形状に基づく連続した突条形状とされる。前記移動制御手段は、ディスペンシングバルブが一周して塗布開始部に至って塗布開始部に前記シール材料が接合された後は、ディスペンシングバルブを後退させるよう移動制御するから、前記塗布開始部に前記シール材料が積層されてなる段差部を第1切欠部によって除去することができる。これによって、前記ガスケットの原形を、全周に亘って高さを均一化することができる。
【0014】
本発明の塗布装置において、前記ディスペンシングバルブは、前記ノズル内のシール材料を吸引可能なサックバック機能部を備えているものとしても良い。
これによれば、シール材料の吐出を終了した時、サックバック機能が働くことによって、シール材料は引き込まれ、第1切欠部及び第2切欠部に残らない。したがって、ノズルを後退させる際に、前記ガスケットの原形に再付着することを抑制することができる。
【0015】
本発明の塗布装置において、前記一対の切欠部は、それぞれ楔状に形成され
ており、前記第1切欠部の最大幅は、前記第2切欠部の最大幅よりも大きくなるように形成され、前記ノズルを用いてビード部を有するガスケットを形成し得るよう構成しても良い。
これによれば、一対の切欠部は、それぞれ楔状に形成されているから、塗布後の前記シール材料によるガスケットの原形は、第2切欠部の楔状の形状に基づき形成されるビード部を有する突条体とされる。そして、楔状の一対の切欠部
における第1切欠部の最大幅は、第2切欠部の最大幅よりも大きくなるように形成されるから、シール材料を、吐出の終端部において塗布開始部に至るまで吐出して接合した後、ノズルを後退させる際に第1切欠部がビード部に干渉することは防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガスケットの製造方法及び塗布装置によれば、塗布開始部にシール材料が積層されてなる段差部を、効率的に除去することができ、全周に亘って均一な高さのガスケットが簡易且つ確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明のガスケットの製造方法によってガスケットを形成した燃料電池セパレータの一例を示す概略的平面図であり、(b)は(a)におけるX−X線矢視拡大断面図である。
【
図2】本発明のガスケットの製造方法を概念的に示す模式的斜視図である。
【
図3】同製造方法に用いられるガスケット形成用のノズルのシール材料吐出部の模式的正面図である。
【
図4】同ノズルのシール材料吐出部の模式的部分破断側面図である。
【
図5】(a)は同ノズルの第2切欠部と塗布後のシール部材の形状との関係を示す部分破断模式的正面図であり、(b)は同ノズルの第1切欠部と塗布後のシール部材の形状との関係を示す部分破断模式的背面図である。
【
図6】同製造方法において、同ノズルが塗布開始部に至る直前の状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図7】同製造方法において、同ノズルが塗布開始部に至った直後の状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図8】同製造方法において、同ノズルからの吐出が停止され、シール材料がサックバックされた状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図9】同製造方法において、塗布開始部にシール材料が積層されてなる段差部が形成された状態と同ノズルの位置関係を示す模式的縦断側面図である。
【
図10】同製造方法において、同ノズルが後退し、第1切欠部が段差部に至った状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図11】同製造方法において、同ノズルの後退が進行し、段差部が第1切欠部によって除去された状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図12】同製造方法において、同ノズルが塗布されたシール材料から離れる状態を示す模式的縦断側面図である。
【
図13】(a)は本発明の塗布装置の一部であって、本塗布装置を構成するディスペンシングバルブの一例とその周辺部分を概略的に示す模式的縦断面図であり、(b)は同他の例とその周辺部分を概略的に示す模式的縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(a)(b)は、燃料電池用スタックを構成する平板状部材の一例としてのセパレータ1に本発明の製造方法によってガスケット2が形成された例を示す。
図1(a)(b)に示すセパレータ1は、不図示の高分子電解質膜(MEA)と合体されて燃料電池用セル(不図示)が構成される。セパレータ1は、平板状のカーボンプレート或いはSUS等のメタルプレート等からなり、適所に、冷媒、水素及び酸素(空気)等の媒体流通用開口部1aを複数備え、セパレータ1の板面にはこれら開口部1a…のいずれかと連通する媒体流通路帯1bが形成されている。これら開口部1a…及び媒体流通路帯1bの各周囲の所定位置にゴム製のガスケット2が無端状(ループ状)に一体に固着されている。図例のガスケット2は、断面が山形(略二等辺三角形状)のビード部2aと、その底辺部の両側に形成された平坦な裾部2b,2bとよりなる。燃料電池用セルやハードディスク用トップカバーのガスケットは、締結時に生じる反力を極力低く、且つ省スペースの関係から、高さを極力低く抑える必要がある。また、積層される複数のセパレータ1,1…間には所定の隙間が設定されるが、この隙間公差のバラつきが大きいことが多々あり、シール性が低下する要因になるにもかかわらず、なおかつガスケットの高さにばらつきがあると、各媒体のマニホールドから漏れるおそれがある。このような観点から、燃料電池用セルやハードディスク用トップカバー用のガスケットの断面形状は、締代のわりに反力が低い
図1(b)に示すような形状が一般的に採用されている。このようにガスケット2が所定の位置に固着されたセパレータ1と前記MEAとが組み合わさった前記セルが複数合体され、これにエンドプレート及びターミナルプレート等の他の部品がさらに合体され、全体を締結することによって燃料電池が構成される。このように複数の部品が締結されて構成される燃料電池において、前記開口部1a…は、締結方向に連なって、前記媒体毎のマニホールドが形成される。そして、各セル間に存在する前記ガスケット2のシール機能により、前記各媒体のマニホールドからの漏出が防止される。
【0019】
前記のようなガスケット2を、セパレータ1の所定の部位に形成する要領について、以下詳述する。
図2は、前記のようなガスケットを製造する要領を概念的に示している。
図2には、
図13(a)(b)で説明するディスペンシングバルブ6(7)の先端部に取付けられるガスケット形成用のノズル3の形状と、吐出されて形成されるシール材料4によるガスケットの原形20との関係が示されている。ノズル3は、被塗布部材としてのセパレータ1の上方に位置するとともに、その下端がセパレータ1の表面より所定距離離間した状態で、所定の、即ち設計上のシールラインLに沿って矢印a方向(以下、進行方向aと言う)に移動する。この移動に伴い、ノズル3から粘性のシール材料(液状ゴム)4を連続的に吐出してセパレータ1の表面に塗布し、前記ガスケットの原形(以下、原形ガスケットと言う)20を形成する。ノズル3は、中空円筒状であって、下端の開口部がシール材料4を吐出する吐出口30とされる。ノズル3の先端部(下端部)には、対向するように一対の切欠部31,32が設けられており、この一対の切欠部31,32は、後記するように第1切欠部31と、頂部32aが第1切欠部31よりも高い第2切欠部32とから構成されている。即ち、前記吐出口30の筒壁には、前記進行方向aに沿って前後に対向する楔形状(略二等辺三角形状)の第1及び第2切欠部31,32が形成されており、進行方向aの後側に位置する第2切欠部32は、前記原形ガスケット20を形成する。従って、第2切欠部32の形状及び寸法は、前記原形ガスケット20を加硫硬化させた後に、所定のガスケット形状及び寸法となるよう、塗布条件に合ったシール材料4の形状変化、硬化後の収縮代、チクソ度などを考慮して定められる。またノズル3の第1切欠部31を進行方向aの前側(第2切欠部32に対し180°反対側)に配置した状態で、シール材料4を吐出させながら移動させ、ノズル3が一周することでシール材料4の塗布開始部4aにシール材料4が接合された後、シール材料4の吐出を終了する。その後、ノズル3を後退させ、第1切欠部31によって塗布開始部4aにシール材料4が積層されてなる段差部4c(
図10参照)を除去する。以下、詳しく説明する。
【0020】
前記ノズル3を前記シールラインLに沿って進行方向aに移動させながら、ノズル3の先端部から粘性のシール材料4を連続的に吐出させることによって、セパレータ1の表面にはシール材料4が塗布されて、図示のような形状の原形ガスケット20が連続的に形成される。この原形ガスケット20は、吐出直後の形状から若干嵩低くなったビード部20aとその両側の裾部20b,20bとよりなる。そして、前記シールラインLの終端において、塗布開始部4aにシール材料4が接合されて原形ガスケット20は、所定のシールラインLの形状に整合した無端形状とされる。このようなシールラインLに沿ったノズル3の移動制御は、後記する塗布装置5のディスペンシングバルブ6(7)を移動制御する移動制御手段50(
図13(a)(b)参照)によってなされる。
なお、前記所定のシールラインLは、
図1(b)に示すようなガスケット2においては、意図するシール機能の主体となるビード部2aの頂部が連なる無端状のラインに重なるように設計されるものである。従って、このシールラインLに沿って前記ビード部(以下、原形ビード部と言う)20aの頂部が形成されるように、前記ノズル3の移動及びシール材料の吐出がなされる。
【0021】
前記第1切欠部31及び第2切欠部32の形状的特性について、
図3〜
図5も参照して説明する。第1切欠部31の頂部31aの高さh1は、前記原形ガスケット20の原形ビード部20aの高さに対し0〜25%高くされ、また、第1切欠部31の最大幅(底辺部幅)d1は、前記原形ビード部20aの最大幅に対し10%以上大とされている。これによって、ノズル3が一周して前記塗布開始部4aにまで戻る際に、第1切欠部31が塗布開始部4aに干渉することが防止される。また、第2切欠部32の頂部32aの高さh2は、第1切欠部31の前記高さh1より高くしている。加えて、頂部32aの高さh2は、吐出直後のシール材料4が後記するように嵩低くなること(
図2及び
図6参照)を勘案し、
図5(a)に示すように原形ビード部20aよりh3(以下、隙間h3と言う)分高くしている。第2切欠部32の幅を原形ビード部20aの幅より大とすることによって、後記するように、シール材料4を、吐出の終端部において塗布開始部4aに至るまで吐出して接合した後、ノズル3を後退させる際に第2切欠部32が、原形ビード部20aに干渉することが防止される。さらに、前述のように、ノズル3は、セパレータ1の上方に位置するとともに、その下端をセパレータ1の表面より所定距離h4分離間した状態で移動しながらシール材料4を吐出するから、原形ビード部20aの底辺部の両側に、
図5(b)に示すように、厚さがほぼ一定した平坦な裾部(以下、原形裾部と言う)20b,20bが形成される。
【0022】
次に、塗布開始部4aにシール材料4が積層されてなる段差部4cを除去する要領について、
図6〜
図12も参照して説明する。
図6は、ノズル3が、吐出口30からシール材料4を吐出しながら所定のシールラインL(
図2参照)に沿って進行方向aに移動し、シール材料4の塗布開始部4aに至る直前の状態を示している。シール材料4の連続する吐出によって、シール材料4は、前述のように原形ガスケット20の形状となるようセパレータ1の上に塗布される。第2切欠部32から吐出されるシール材料4は、被塗布部材としてのセパレータ1に接すると摩擦抵抗が生じ、ノズル3の移動速度によって引っ張られる形となり、その結果、
図2及び
図6に示すように高さ低下部4bを経て嵩低くなる。その後、ほぼ一定した高さの原形ビード部20aを含む原形ガスケット20として安定化する。
【0023】
このような高さ低下部4bの低下度合いは、ガスケット形状が、丸や四角と比べ、
図1(b)に示すような圧縮時に反力が低い山形形状のガスケット2を、第2切欠部32を有したノズル3からシール材料4を吐出して形成する場合に顕著となる。また、この低下度合いは、第2切欠部32の頂部32aの角度が狭くなるほど大きくなる。シール材料4の観点からは、そのチクソ度が低いほど、また、粘度が低いものほど、垂れにより形状が崩れ易く、前記低下度合いが大きくなる傾向となる。さらに、塗布条件の観点からは、ノズル3による塗布速度が速いほど、また、塗布温度が高いほど、前記低下度合いが大きくなる傾向となる。シール材料4の連続的な吐出による塗布が、後記するような塗布開始部4aでの接合時に段差部4cを発生させる要因となる。
【0024】
図6に示す状態から、ノズル3の移動及びシール材料4の吐出が継続され、
図7に示すように、ノズル3から吐出されてセパレータ1の表面に塗布されるシール材料4が、前記塗布開始部4aに接合されて原形ガスケット20が無端状に形成される。シール材料4が前記塗布開始部4aに接合されると、ノズル3の進行方向aへの移動を継続したまま、シール材料4の供給及び吐出を停止する。引き続き、
図8に示すように、後記するディスペンシングバルブ6(7)のサックバック機能或いは真空引きによって、ノズル3内に滞留するシール材料4をなくしつつ、自然にシール材料4の吐出が完了するまで、ノズル3の移動を継続する。そして、第2切欠部32の頂部32aからシール材料4が途切れる。このとき、原形ビード部20aの頂部に
図9に示すように、シール材料4が塗布開始部4aに乗り上げるように積層されることによって段差部4cが形成される。この段差部4cは、前記隙間h3(
図5(a)参照)が大きいほど大きくなる。
【0025】
本発明者等は、シール材料4の前記各種塗布条件を最適化することによって、このような段差部4cを発生させないように試みたが、完全に段差部4cを解消することは不可能であった。また、段差部4cが生じる手前で、ノズル3を前記隙間h3分下げる方法も試みたが、ノズル3の下端とセパレータ1との隙間に相当する前記所定距離h4(
図5(b)参照)が狭くなり、最悪の場合ノズル3の下端とセパレータ1とが接触することにもなる。このような接触により、セパレータ1を傷付ける危険性が生じることはもとより、原形ガスケット20の全体形状に崩れを生じさせることになることも知見した。
【0026】
本発明では、前記段差部4cの発生が不可避であるという知見を元に、以下の工程によって、段差部4cを除去するようにしている。即ち、塗布開始部4aにシール材料4を接合させた後、ノズル3の進行方向aへの移動を停止し、
図9に示すように、ノズル3を軸回転させることなく反進行方向bへ後退させる。この後退に伴い、
図10に示すように、前記第2切欠部32は、前記段差部4c及び原形ビード部20aに干渉することなく通過するが、第1切欠部31は、前記頂部31a及びその近傍部の切欠縁部が前記段差部4cに接触する。このように第1切欠部31の切欠縁部が段差部4cに接触した後も、ノズル3の後退を継続すると、
図11に示すように、第1切欠部31の切欠縁部によって前記段差部4cが削ぎ取られたり、原形ガスケット20の側部に逃げるようにならされたりして、段差部4cが除去される。なお、シール材料4の吐出が終了した後、ノズル3内のシール材料4は第1切欠部31及び第2切欠部32に残られないように引き込まれるため、シール材料4を削ぎ取る際に、第1切欠部31の切欠縁部にはシール材料4が付着し易くなっている。また、ノズル3を反進行方向bへ後退させる際、前記除去されるシール材料4の分量を考慮して、前記所定距離h4を調整することが望ましい。過剰にシール材料4を除去した場合、原形ガスケット20の高さが部分的に低下し、全周に亘っての高さの均一化が図れないからである。つまり、所定距離h4の調整を行わなければ、前記のように、第1切欠部31が前記段差部4cに接触した後も後退を継続する際、塗布されたシール材料4は、第1切欠部31に引っ張られ、原形ビード部20aの高さが低くなる傾向となる。そのため、所定距離h4がシール材料4の吐出終了時点のままシール材料4の段差部4cを除去すると、ガスケット20の高さが部分的に低下することが予想される場合には、予想される低下分に応じて吐出終了後にノズル3を上昇させる必要がある。
【0027】
図12は、ノズル3を後退させつつ上昇させて(矢印c方向)、ノズル3の下端を原形ガスケット20及びセパレータ1の表面から離間させる状態を示している。ノズル3の適正な上昇度合いは、シール材料4の物性(例えば、粘度等)やノズル3の後退速度等の条件によって左右されるので、これらの条件を適宜調整する必要がある。特に、シール材料4の粘度が高いほど、また、ノズル3の後退速度が速いほど、ノズル3の上昇度合いを大きくすることが望ましい。このように、ノズル3を、後退させつつ原形ガスケット20から離間させることによって、シール材料4の塗布プロセスが完了する。その後、原形ガスケット20が形成されたセパレータ1を、所定の温度に設定されたオーブン(不図示)内で所定時間加熱し、シール材料4としての液状ゴムを加硫硬化させる。なお、シール材料4を加硫硬化させることでガスケット20を成形する代わりに、自然硬化やUV硬化する材質をシール材料4に用いてガスケット20を成形してもよい。これによって、
図1(a)(b)に示すように、所定部位にガスケット2が固着された燃料電池スタックのセパレータ1が得られる。
前記所定距離h4の調整やノズル3を後退させながら上昇させる移動制御は、前記移動制御手段50によってなされる。
【0028】
このように形成されたガスケット2は、前述のように繋ぎ部の形状乱れや、高さのばらつきがなく、シール性が向上し、ガスケット圧縮時に生じる段差部に起因した局部的な反力上昇、過剰圧縮による破壊等の懸念を有さないものとなる。特に、セパレータ、エンドプレート、ターミナルプレート等多数の平板状部材が合体されてなる燃料電池スタックでは、セパレータ対間、セパレータとエンドプレートとの間等にガスケットが介在するため、それぞれのガスケットの高さが不均一であると、それらのばらつきが積算されることになる。したがって、燃料電池スタックにおいて用いられるガスケットの高さが不均一であると、燃料電池スタックには、高さのばらつきの影響が積算されたうえで及ぼされるため、局部的な反力上昇等の影響がより顕著に現れるが、本ガスケット2を備えたセパレータ1ではこのような懸念が払拭される。また、本実施形態による段差部4cの除去工程は、研磨による後加工によって前記段差部4cを除去する工程ではないので、研磨粉の付着等、清浄度が低下することによる品質の低下を来たす懸念もない。また、本実施形態による段差部4cの除去工程は、フラット板によりガスケット2の段差部分を潰して矯正する工程ではないので、ガスケット形状が変形する懸念もない。
【0029】
前記のようなガスケット2の製造方法に用いられる塗布装置5においては、微小断面のガスケットを精度良く形成するため、シール材料の吐出精度が高い塗布装置の構造が重要であり、これはシール材料を吐出制御する方式により大きく左右される。このような制御方式としては、下記の3とおりの方式が一般的である。
(1)シリンジ内に充填したシール材料に空圧をかけて吐出制御をする方式。
(2)スクリューの回転で吐出制御する方式。
(3)ディスペンシングバルブで吐出制御する方式。
【0030】
(1)の方式は、シリンジ内の水頭差に吐出精度が左右され易く、かつ、シリンジ内のシール材料を介してノズルの先端に真空を利かすため、前記サックバック機能が即座に働き難い欠点がある。
(2)の方式は、超高粘度のシール材料には有効であるが、スクリューまではシリンジ等に充填したシール材料を加圧して供給するため、その加圧のコントロールとスクリューの回転とのバランスが難しい。また、スクリューを回転させるモータを必要とするため装置が大きくかつ重量が大となるため、位置精度が低下する等の欠点がある。
(3)の方式におけるバルブのシャット方式としては、スプール弁タイプ、ポペット弁タイプ及びニードル弁タイプ等がある。ニードル弁タイプは、吐出シャット時にシール材料を僅かながらも押し出すので、サックバック機能が働き難く、前記段差部4cの解消対策や、吐出停止時の塗布量コントロールが難しいため、採用不可である。これに対し、スプール弁タイプやポペット弁タイプはシール材料を引く方向にシール材料の流路を閉じるため、シール材料を押し出すことがなく、サックバック機能も即座に働き、有効である。従って、本発明の塗布装置として、スプール弁タイプやポペット弁タイプが望ましく採用されるが、コントロール性の点ではスプール弁タイプの方が優れており、スプール弁タイプのディスペンシングバルブを備えた塗布装置がより望ましく採用される。
【0031】
以下、望ましく採用される塗布装置の二例について、
図13(a)(b)を参照して略述する。
図13(a)は、スプール弁タイプのディスペンシングバルブを備えた塗布装置を示している。
図13(a)に示す塗布装置5は、ディスペンシングバルブ6と、該ディスペンシングバルブ6に取付けられる前記ノズル3と、ディスペンシングバルブ6を移動制御するロボットアーム及びロボットアームを制御するCPU等からなる移動制御手段50とを含んで構成される。前記ノズル3は、該ディスペンシングバルブ6のシール材料アウトポート(ノズル取り付け部)6aに同心的に一体に取付けられる。移動制御手段50は、ディスペンシングバルブ6及びノズル3が、前記所定のシールラインL(
図2参照)に沿って、移動するように移動制御する。また移動制御手段50は、曲線部では、ノズル3を軸心回転させながらディスペンシングバルブ6を当該曲線部の曲率中心を中心として移動するよう移動制御する。このような移動制御は、CPUに記憶されている予め定められたプログラムに基づきなされる。そして、このプログラムでは、移動制御手段50が、前記段差部4cの除去工程では、前記のようにノズル3を後退及び上昇移動するように設定されている。また、予め定められたプログラムでは、吐出されるシール材料4の粘度や、ノズル3の後退速度に基づいて、移動制御手段50がノズル3の上昇度を制御するように設定されている。 より具体的には、シール材料4の粘度が高いほど、また、ノズル3の後退速度が速いほど、移動制御手段50がノズル3の上昇度合いを大きくするように設定されている。ディスペンシングバルブ6は、前記シール材料アウトポート6aに通じるシール材料供給管路6bを開閉するスプール6c及び弁座6dと、シール材料インポート6eと、エアインポート6fとを備えている。シール材料インポート6eには、シール材料供給元51に繋がるシール材料供給管(不図示)が接続される。また、エアインポート6fには、前記スプール6cを上下動させて弁座6dに接離させ、前記シール材料供給管路6bを開閉動作するための圧縮空気供給元(不図示)に繋がる圧縮空気供給管(不図示)が接続される。前記スプール6cは、圧縮ばね6gによって上方に付勢されており、前記圧縮空気が供給されないときには、スプール6cが弁座6dに摺接してシール材料供給管路6bを閉状態とする。前記圧縮空気が供給されると、圧縮ばね6gの付勢力に抗した圧縮空気の圧力によってスプール6cが押下げられ、スプール6cが弁座6dから離れてシール材料供給管路6bを開状態とする。これによって、シール材料供給元51からのシール材料4が、シール材料供給管路6b及びノズル3を経て吐出口30より吐出される。
【0032】
前記スプール6cが前記圧縮ばね6gの上向きの付勢力により上昇し、前記シール材料供給管路6bが閉状態に移行してシール材料4の供給を停止するとき、該スプール6cがシール材料供給管路6b及び前記ノズル3内のシール材料4を引き込むように作用する。この引き込み作用によって、ノズル3内のシール材料4が前記シール材料供給管路6b内に戻され、
図8等に示すように、少なくとも、前記第1切欠部31及び第2切欠部32にシール材料4が残らない状態とされる。従って、スプール6c、弁座6d及び圧縮ばね6gがサックバック機能部を兼ね、これによって、当該ディスペンシングバルブ6は、サックバックバルブの機能も備えたものとして位置付けられることになる。
図13(a)において、ナット6h及び雄ねじ付当止部材6iは、前記圧縮ばね6gの圧縮量を調整し、前記スプール6cの上下ストローク幅を可変とするものである。これによって、前記サックバック量の調整が可能とされる。
【0033】
図13(b)は、ポペット弁タイプのディスペンシングバルブを備えた塗布装置を示している。
図13(b)に示す塗布装置5は、ディスペンシングバルブ7と、該ディスペンシングバルブ7に取付けられる前記ノズル3と、ディスペンシングバルブ7を移動制御するロボットアーム等からなる移動制御手段50とを含んで構成される。前記ノズル3は、該ディスペンシングバルブ7のシール材料アウトポート(ノズル取り付け部)7aに同心的に一体に取付けられる。移動制御手段50は、ディスペンシングバルブ7及びノズル3を前記と同様に移動制御する。このような移動制御は、予め定められたプログラムに基づきなされる。また、この例のディスペンシングバルブ7は、前記シール材料アウトポート7aに通じるシール材料供給管路7bを開閉するポペット7c及び弁座7dと、シール材料インポート7eと、エアインポート7fとを備えている。シール材料インポート7eには、シール材料供給元51に繋がるシール材料供給管(不図示)が接続される。また、エアインポート7fには、前記ポペット7cを上下動させて弁座7dに接離させ、前記シール材料供給管路7bを開閉動作するための圧縮空気供給元(不図示)に繋がる圧縮空気供給管(不図示)が接続される。前記ポペット7cは、圧縮ばね7gによって上方に付勢されており、前記圧縮空気が供給されないときには、ポペット7cが弁座7dに当接してシール材料供給管路7bを閉状態とする。前記圧縮空気が供給されると、圧縮ばね7gの付勢力に抗した圧縮空気の圧力によってポペット7cが押下げられ、ポペット7cが弁座7dから離れてシール材料供給管路7bを開状態とする。これによって、シール材料供給元51からのシール材料4が、シール材料供給管路7b及びノズル3を経て吐出口30より吐出される。
【0034】
前記ポペット7cが前記圧縮ばね7gの上向きの付勢力により上昇し、前記シール材料供給管路7bが閉状態に移行してシール材料4の供給を停止するとき、該ポペット7cがシール材料供給管路7b及び前記ノズル3内のシール材料4を引き込むように作用する。この引き込み作用によって、ノズル3内のシール材料4が前記シール材料供給管路7b内に戻され、
図8等に示すように、少なくとも、前記第1切欠部31及び第2切欠部32にシール材料4が残らない状態とされる。従って、この場合も、ポペット7c、弁座7d及び圧縮ばね7gがサックバック機能部を兼ね、これによって、当該ディスペンシングバルブ7は、サックバックバルブの機能も備えたものとして位置付けられることになる。
図13(b)に示す例においても、説明を省略するが、前記サックバック量の調整が可能とされる。
【0035】
なお、前記の実施形態では、シール材料4の吐出を終了させる際、第1切欠部31及び第2切欠部32に残らなくなるまでシール材料4を引き込んだが、この形態に限らない。少なくとも、シール材料4の吐出終了後に、ノズル3からシール材料4が垂れない程度に引き込めばよく、例えば、シール材料4を引き込んだ際に第2切欠部32に若干残っていてもよい。また、燃料電池スタックを構成する平板状部材(セパレータ)を被塗布部材とする例について述べたが、これに限らず、燃料電池スタックのエンドプレート、ターミナルプレート、或いは、ハードディスク用トップカバー、内燃機関を構成する各種カバー等であっても良い。また、粘性のシール材料として、液状ゴムを例示したが、塗布後にガスケット機能を奏するように形成されるものであれば、他の粘性を有するシール材料であっても良い。さらに、
図13(a)(b)に示す塗布装置5においては、ディスペンシングバルブ6,7に同心的にノズル3が一体に取付けられ、ディスペンシングバルブ6(7)及びノズル3が、前記所定のシールラインLに沿って一体に移動する。そして、曲線部ではディスペンシングバルブ6(7)は軸心回転することなく、ノズル3のみ軸心回転しながら移動する。しかし、例えば、ディスペンシングバルブ6(7)に対してノズル3を固定し、曲線部ではディスペンシングバルブ6(7)及びノズル3が一体に軸心回転しつつ前記シールラインLに沿って移動するように構成してもよい。