【文献】
TANG Y.T. et al., Viewing Sequence(s): 58,182 of 412 for Document # 20040219521, Publication Site for Issued and Published Sequences (PSIPS)[online], Nov 2004; United States Patent and Trademark Office, Alexandria VA, USA, [retrieved on 06 Jun 2012] Retrieved from the Internet:<URL:http://seqdata.uspto.gov/?pageRequest=viewSequence&DocID=20040219521&seqID=58%2C182>, SEQ ID No.58,182
【文献】
J.Biol.Chem., 2007/Jun, Vol.282, No.22, p.16232−16243
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、NFAT活性を調節する作用物質を同定するための方法を提供する。一つの態様において、作用物質は、細胞内カルシウムレベルを調節することによってNFAT活性を調節する。一つの好ましい態様において、作用物質は、CRACチャネルの少なくとも1つの成分、例えば、ORAIタンパク質、例えば、ORAI1(NM_032790; SEQ ID NO:1)、ORAI2(BC069270; SEQ ID NO:2)、および/またはORAI3(NM_152288; SEQ ID NO:3)によりコードされるタンパク質を調節する。一つの態様において、作用物質は、NFATのリン酸化を、例えば、DYRKタンパク質、例えば、DYRK1A(NM_001396; SEQ ID NO:4)、DYRK1B(NM_004714; SEQ ID NO:5)、DYRK2(NM_003583; SEQ ID NO:6)、DYRK3(NM_003582; SEQ ID NO:7)、DYRK4(NM_003845; SEQ ID NO:8)、および/またはDYRK6(NM_005734; SEQ ID NO:9)によりコードされるタンパク質の調節を介して、調節する。
【0008】
本発明は、少なくとも1つの試験作用物質を、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質(NFAT regulator protein)またはその断片もしくは誘導体を含む組換え細胞に接触させる段階;NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体についての活性、相互作用、発現、または結合に対する試験作用物質の効果を評価する段階;およびNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体についての活性、相互作用、発現、または結合に対する効果を有する試験作用物質を同定し、それによって、同定された試験作用物質がNFAT制御タンパク質を調節する作用物質として特徴付けられる段階を含む、NFAT制御タンパク質を調節する作用物質を同定する方法を提供する。
【0009】
一つの態様において、NFAT制御タンパク質は、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、ORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、およびDYRK6(SEQ ID NO:9)からなる群より選択される少なくとも1つのNFAT制御因子(NFAT regulator)によりコードされる。一つの態様において、NFAT制御タンパク質は、表Iに列挙された遺伝子の少なくとも1つによりコードされる。
【0010】
一つの態様において、試験作用物質の効果を評価する段階は、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、ORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、またはDYRK6(SEQ ID NO:9)によりコードされるNFAT制御タンパク質に特異的に結合する抗体を用いる事を含む。
【0011】
一つの態様において、方法はさらに、細胞の原形質膜を横断する電流に対する試験作用物質の効果を評価する段階を含む。一つの態様において、電流は、細胞を横断する一価陽イオンまたは二価陽イオンの流束(flux)によるものである。一つの態様において、方法はさらに、細胞内における細胞内カルシウムに対する試験作用物質の効果を評価する段階を含む。一つの態様において、方法はさらに、細胞内における細胞内カルシウムに対する効果を有する試験作用物質を同定し、それによって、同定された試験作用物質が、細胞内カルシウムを調節する作用物質およびNFAT制御タンパク質を調節する作用物質として特徴付けられる段階を含む。
【0012】
一つの態様において、細胞は、少なくとも1つの異種性NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む。一つの態様において、細胞は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含む。一つの態様において、細胞は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現するか、または過小発現する。
【0013】
本発明はさらに、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む組換え細胞と少なくとも1つの試験作用物質を接触させる段階;細胞内における陽イオンもしくは二価陽イオンの細胞内量もしくは濃度に対する、または細胞へのイオン流入に対する試験作用物質の効果を評価する段階;および細胞内における陽イオンもしくは二価陽イオンの細胞内量もしくは濃度に対する、または細胞へのイオン流入に対する効果を有する試験作用物質を同定し、それによって、同定された試験作用物質が、細胞内カルシウムを調節する作用物質として特徴付けられる段階を含む、細胞内カルシウムを調節する作用物質を同定する方法を提供する。一つの態様において、細胞内陽イオンはカルシウムである。一つの態様において、試験作用物質の効果を評価する段階は、細胞質におけるカルシウムレベルをモニタリングする事、細胞内カルシウム貯蔵におけるカルシウムレベルをモニタリングする事、またはカルシウム流入媒介性事象をモニタリングする事を含む。一つの態様において、方法はさらに、NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体についての活性、相互作用、発現、または結合に対する作用物質の効果を評価する段階を含む。一つの態様において、NFAT制御タンパク質は、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、またはORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、またはDYRK6(SEQ ID NO:9)からなる群より選択される少なくとも1つのNFAT制御因子によりコードされる。一つの態様において、細胞内カルシウムを調節する作用物質はさらに、NFAT制御タンパク質を調節する作用物質として特徴付けられる。一つの態様において、組換え細胞は、少なくとも1つの異種性NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む。一つの態様において、組換え細胞は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含む。一つの態様において、組換え細胞は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現する。一つの態様において、組換え細胞は、ホメオスタシス異常(dyshomeostasis)を示す。一つの態様において、組換え細胞は、カルシウムホメオスタシス異常を示す。
【0014】
本発明はさらに、レポータータンパク質をコードする配列に機能的に連結した、少なくとも1つのNFAT制御ドメインまたはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含む少なくとも1つのベクターを含む組換え細胞に、少なくとも1つの試験作用物質を投与する段階;ベクターによりコードされる少なくとも1つの発現産物の細胞内局在をモニタリングし、それによって、発現産物の細胞内局在に対する効果を有する試験作用物質が、NFAT制御因子の機能を調節する作用物質として特徴付けられる段階を含む、NFAT制御因子の機能を調節する作用物質についてスクリーニングするための方法を提供する。一つの態様において、NFAT制御因子の機能を調節する作用物質は、発現産物の細胞質局在または核局在と関連している。一つの態様において、細胞は休止状態下にある。一つの態様において、細胞は、カルシウム調節剤で刺激される。一つの態様において、細胞は、タプシガルジンまたはイオノマイシンで刺激される。一つの態様において、細胞は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含むベクターをさらに投与される。一つの態様において、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含むベクターは、レポータータンパク質をコードする配列に機能的に連結した、少なくとも1つのNFAT制御ドメインまたはその断片もしくは誘導体をコードする異種性核酸を含むベクターと同じベクターである。
【0015】
本発明はさらに、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、ORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、DYRK6(SEQ ID NO:9)、または表Iに列挙された遺伝子のいずれかに対応する被験体由来の遺伝子における少なくとも25個の連続したヌクレオチドを配列決定する段階;および被験体の遺伝子の配列をその遺伝子の野生型配列と比較し、その遺伝子の野生型配列との差異が、被験体の遺伝子が免疫不全の原因であることを示す段階を含む、被験体において未解明の免疫不全を診断するための方法を提供する。一つの態様において、比較は、被験体由来の生物学的試料を得る段階、生物学的試料中のDNAを配列決定する段階、および生物学的試料から得られたDNA配列を野生型配列と電子的に整列させる段階を含む。一つの態様において、差異は、ORAI1(SEQ ID NO:1)のコード配列の271位におけるCからTへのヌクレオチド突然変異を含む。一つの態様において、未解明の免疫不全は、NFAT活性の制御における欠陥と関連している。一つの態様において、差異は、スプライス部位における突然変異を含む。一つの態様において、差異は、非同義(nonsynonymous)変異を含む。
【0016】
本発明はさらに、NFAT制御タンパク質に関連した疾患または障害を示す生物体に対する試験作用物質の効果を評価する段階;およびその疾患または障害に関連した生物体の表現型に対する効果を試験作用物質が有する場合には、その試験作用物質を、NFAT制御タンパク質に関連した疾患または障害を処置または予防するための作用物質であると同定する段階を含む、NFAT制御タンパク質に関連した疾患または障害を処置または予防するための作用物質を同定するための方法を提供し、その試験作用物質は、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体の活性、相互作用、発現、または結合を調節する。一つの態様において、生物体は、カルシウムホメオスタシス異常を示す1つまたは複数の細胞を含む。一つの態様において、生物体は、カルシウムホメオスタシス異常を示す。一つの態様において、試験作用物質が効果を生じる表現型は、疾患または障害と関連している。この方法は、細胞内カルシウムの調節の変化に関連した疾患または状態について、特に有用である。一つの態様において、疾患または障害は、主として、カルシウムシグナル伝達の乱れに起因する。一つの態様において、NFAT制御タンパク質に関連した疾患または障害は、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、同種または異種移植拒絶、移植片対宿主病、再生不良性貧血、乾癬、紅斑性狼瘡、炎症性疾患、MS、I型糖尿病、喘息、肺線維症、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、心膜切開後症候群、川崎病、橋本甲状腺炎、グレーブス病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症、慢性糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、ヴェグナー肉芽腫症、多発性硬化症、嚢胞性線維症、慢性再発性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、クローン病、潰瘍性結腸炎、結腸炎/炎症性腸症候群、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、湿疹、および自己免疫性甲状腺炎である。移植片拒絶、後天性免疫不全症、分類不能型免疫不全症、心筋肥大、重症複合型免疫不全症、拡張型心筋症、過剰または病理的骨吸収、過剰脂肪細胞分化、肥満、または潜伏ウイルスの再活性化である。
【0017】
本発明はさらに、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、またはORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、もしくはDYRK6(SEQ ID NO:9)、またはその相同体によりコードされるNFAT制御タンパク質に特異的に結合する抗体を提供する。
【0018】
本発明のNFAT制御タンパク質は、当技術分野において公知の様々な手段、例えば、自動ペプチド合成によって、または、NFAT制御因子またはその断片もしくは誘導体を含む/コードする核酸配列を含む組換えベクターを含む宿主細胞を、NFAT制御因子の発現に適した条件下で培養することによって、作製されうる。
【0019】
本発明はさらに、少なくとも1つの異種性NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む、および/またはNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする少なくとも1つの異種性核酸を含む、単離された細胞;ならびに細胞の原形質膜を横断する電流をモニタリング、検出、または測定するために用いられるモニタリング剤を含むシステムを提供する。一つの態様において、モニタリング剤は装置である。一つの態様において、電流は、細胞を横断する陽イオンまたは二価イオンの流束によるものである。一つの態様において、モニタリング剤は、細胞内における細胞内カルシウムに対する試験作用物質の効果をモニタリングするために用いられる。一つの態様において、モニタリング剤は、カルシウム流入媒介性事象をモニタリング、検出、または測定するために用いられる。
【0020】
本発明はさらに、少なくとも1つの哺乳動物NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現する組換え細胞;およびカルシウム流入媒介性事象をモニタリング、検出、または測定するために用いられるモニタリング剤を含むシステムを提供する。一つの態様において、NFAT制御因子は、ORAI1(SEQ ID NO:1)、ORAI2(SEQ ID NO:2)、またはORAI3(SEQ ID NO:3)、DYRK1A(SEQ ID NO:4)、DYRK1B(SEQ ID NO:5)、DYRK2(SEQ ID NO:6)、DYRK3(SEQ ID NO:7)、DYRK4(SEQ ID NO:8)、またはDYRK6(SEQ ID NO:9)によりコードされる。
【0021】
本発明はさらに、少なくとも1つの異種性NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む、および/またはNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする少なくとも1つの異種性核酸を含む、組換え細胞を提供する。一つの態様において、組換え細胞は、少なくとも1つの哺乳動物NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現する。
【0022】
本発明はさらに、少なくとも1つの哺乳動物NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現する組換え細胞を提供する。
【0023】
本発明は、カルシウムシグナル伝達に関連した疾患または障害を処置または予防するための作用物質を同定する方法を提供する。方法は、疾患または障害を示す生物体に対する試験作用物質の効果を評価する段階、および少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片の活性、相互作用、発現、または結合を試験作用物質が調節する場合には、その試験作用物質を、疾患または障害を処置または予防するための作用物質であると同定する段階を含む。一つの態様において、疾患または障害は、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、同種または異種移植拒絶、移植片対宿主病、再生不良性貧血、乾癬、紅斑性狼瘡、炎症性疾患、MS、I型糖尿病、喘息、肺線維症、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、心膜切開後症候群、川崎病、橋本甲状腺炎、グレーブス病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症、慢性糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、ヴェグナー肉芽腫症、多発性硬化症、嚢胞性線維症、慢性再発性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、クローン病、潰瘍性結腸炎、結腸炎/炎症性腸症候群、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、湿疹、および自己免疫性甲状腺炎である。移植片拒絶、後天性免疫不全症、分類不能型免疫不全症、心筋肥大、重症複合型免疫不全症、拡張型心筋症、過剰または病理的骨吸収、過剰脂肪細胞分化、肥満、または潜伏ウイルスの再活性化である。
【0024】
発明の詳細な説明
発明の局面は、NFAT活性を、例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入(SOCE)を介して、またはNFATリン酸化の調節を介して制御する遺伝子の特徴付けに関する。特に、Ca
2+放出活性化Ca
2+(CRAC)チャネルの必須成分の発見に関する。従って、本発明の局面は、NFAT活性の、特にT細胞におけるNFAT活性の調節に関して、新規な制御因子に関する。本発明の局面はまた、NFAT活性を調節する新規な作用物質についてスクリーニングするための方法に関する。本発明の局面はさらに、本発明のNFAT制御因子の活性を調節する作用物質についてスクリーニングするための方法に関する。本発明はさらに、本発明のNFAT制御因子を、細胞内カルシウムを調節することによって調節する作用物質についてスクリーニングするための方法を提供する。
【0025】
NFAT遺伝子およびタンパク質
NFAT(nuclear factor of activated T cells)タンパク質とは、メンバーNFAT1、NFAT2、NFAT3、およびNFAT4をいくつかのアイソフォームと共に含む転写因子のファミリーのメンバーを意味する。活性化がカルシニューリン依存性である任意の他のNFATタンパク質もまた含まれることを意図される。NFATタンパク質は、例えば哺乳動物、例えばヒトまたはマウスのタンパク質でありうる。NFAT1、NFAT2、およびNFAT4は、免疫細胞、例えば、Tリンパ球に発現しており、免疫応答を誘発するにおいて役割を果たしている。NFATタンパク質は、免疫応答中において、サイトカイン遺伝子、例えば、IL-2、IL-3、IL-4、TNF-α、およびIFN-γの転写制御に関与している。
【0026】
NFATの保存的制御ドメインは、約300アミノ酸長であるNFATのN末端領域である。マウスNFAT1の保存的制御ドメインはアミノ酸残基100位からアミノ酸残基397位まで及ぶ領域であり、ヒトNFAT1の保存的制御ドメインはアミノ酸残基100位からアミノ酸残基395位まで及ぶ領域であり、ヒトNFAT2の保存的制御ドメインはアミノ酸残基106位からアミノ酸残基413位まで及ぶ領域であり、ヒトNFAT2bの保存的制御ドメインはアミノ酸残基93位からアミノ酸残基400位まで及ぶ領域であり、ヒトNFAT3の保存的制御ドメインはアミノ酸残基102位からアミノ酸残基404位まで及ぶ領域であり、およびヒトNFAT4の保存的制御ドメインはアミノ酸残基97位からアミノ酸残基418位まで及ぶ領域である。保存的制御ドメインは、NFATファミリー、NFAT1、NFAT2、NFAT3、およびNFAT4のメンバー間で中程度に保存されている。保存的制御ドメインは、カルシニューリンへ直接結合する。保存的制御ドメインは、DNA結合ドメイン(マウスNFAT1におけるアミノ酸残基398位〜680位、ヒトNFAT1におけるアミノ酸残基396位〜678位、ヒトNFAT2におけるアミノ酸残基414位〜696位、ヒトNFAT2bにおけるアミノ酸残基401位〜683位、ヒトNFAT3におけるアミノ酸残基405位〜686位、およびヒトNFAT4におけるアミノ酸残基419位〜700位)のすぐN末端側に位置している。
【0027】
貯蔵量作動性カルシウム流入
SOCEは、電気的非興奮性細胞において細胞内細胞質の遊離Ca
2+濃度([Ca
2+]i)を増加させる主要な機構の一つである。Ca
2+上昇は、事実上あらゆる細胞における重大なシグナル伝達機構である。細胞内Ca
2+の厳格な制御および二次メッセンジャーとしてのその有用性は、[Ca
2+]iレベルが典型的には70〜100nMであるが、細胞外Ca
2+レベル([Ca
2+]ex)が10
4倍高い、〜1から2mMであるという事実により強調される。細胞シグナル伝達のためのCa
2+の即時の源は、細胞内か細胞外のいずれかでありうる(
図1)。細胞内Ca
2+は、イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)または他のシグナルによりER貯蔵から放出され、一方、細胞外Ca
2+は、原形質膜における電圧依存性、リガンド依存性、貯蔵量作動性、または二次メッセンジャー依存性Ca
2+チャネルを通って流入する。リンパ球などの電気的非興奮性細胞において、Ca
2+流入についての主要な機構は、細胞内Ca
2+貯蔵の充満状態により制御される過程である、貯蔵量作動性Ca
2+流入である。細胞内Ca
2+貯蔵の枯渇は、カルシウム放出活性化Ca
2+(CRAC)チャネルと呼ばれている、特定の電気生理学的特性をもつ膜Ca
2+チャネルの活性化を誘発する(Parekh and Puntney, Jr. 2005, Physiol Rev 85:757)。
【0028】
Ca
2+放出活性化Ca
2+(CRAC)チャネル
CRACチャネルの電気生理学的特性は、集中的に研究されているが、チャネル自体の分子性質およびその活性化の機構はまだわかっていない。[Ca
2+]i、イノシトールリン酸IP3またはIP4、cGMPまたはcAMPにおける増加を直接必要とせず、細胞内Ca
2+貯蔵の枯渇がチャネル活性化にとって必要かつ十分であるというCRACチャネルの一つの定義が有効である(Parekh and Penner, 1997, Physiol Rev. 77:901)。生物物理学的に、CRAC電流は、いくつかある基準の中で特に、ER Ca
2+貯蔵枯渇の結果としてのその活性化、一価陽イオン(Cs
+、Na
+)と比較してのCa
2+へのその高い選択性、非常に低い単一チャネルコンダクタンス、顕著な内向き整流を有する特徴的なI-V関係、ならびに例えば、La
3+および2-APB(100μM)それぞれによる薬理学的遮断に対するその感受性により、定義される(Parekh and Putney, Jr. 2005, Physiol Rev 85:757; Lewis, 2001, Annu Rev Immunol 19:497)。
【0029】
SOCEおよびCRACについての候補遺伝子
CRACチャネルの分子性質はまだ完全にはわかっていない。最も広く研究されたCRACチャネルについての候補遺伝子は、ショウジョウバエ(Drosophila)光受容体TRP(Transient Receptor Potential(一過性受容体ポテンシャル))遺伝子の>25個の哺乳動物相同体であった。しかし、たいていのTRPタンパク質は、非特異的陽イオンチャネルを形成し、二価陽イオンに対していくらか優先を示すものでさえ、異種性に発現した場合、CRACチャネルの重要な生物物理学的に顕著な特徴のすべてを示すとは限らない(Clapham, 2003. Nature 426:517)。最近まで、TRPV6は、その生物物理学的特徴の一部がCRACのそれと重複するため、最も有望なCRACチャネル候補遺伝子であった。CRACのようにTRPV6はCa
2+を選択的に運ぶが、それは、CRACチャネルをよく表している特徴である貯蔵枯渇により活性化されない。RNAiを用いてTRPV6発現を抑制するノックダウン研究、およびTRPV6-/-マウス由来のT細胞を用いる本発明者らの研究は、TRPV6の非存在下においてSOCEまたはICRACにおける欠陥を示さなかった(Kahr, et al. 2004. J Physiol 557:121; Kepplinger, et al. CaT1もTRPC3タンパク質も、Tリンパ球のCRACに寄与しない。原稿準備中)。従って、TRPV6も任意の他の遺伝子も、SOCEまたはCRACチャネル活性に関与するとは確認されていない。
【0030】
SOCEおよびCRACチャネル活性化の機構
CRACチャネルが活性化される機構もまた不明である。細胞内Ca
2+貯蔵の枯渇は、CRAC活性化に必要であるが、どのようにしてERにおける低下したCa
2+濃度についての情報がCRAC細孔へ伝達されるかは、知られていない。3つの主要なモデルが提案されているが、合意には至っていない(Parekh and Putney, Jr. 2005, Physiol Rev 85:757)。(i)「立体構造的結合モデル」は、ERの表面における分子の立体構造的変化を前提とし、その後、分子はCRACチャネルに結合する;(ii)「分泌結合モデル」は、(恒常的に活性な)CRACチャネルが、貯蔵が枯渇すると原形質膜に融合する細胞質内小胞に存在することを示唆する;(iii)「カルシウム流入因子(CIF)モデル」は、刺激された細胞の細胞質へCIFが放出された場合に、CRACチャネルを通ってCa
2+流入を活性化する可溶性小分子を予想する。
【0031】
間質相互作用分子1(STIM1)
最近の証拠は、STIM1が貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル機能において重要な役割を果たすことを示唆している。Roosら(2005, J Cell Biol 169:435)、Liouら(2005, Curr Biol 15:1235)、および本発明者らのグループ(後述の実施例2参照)による3つの独立したRNAiスクリーニングは、RNAiによるSTIM発現の抑制が、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)S2細胞および哺乳動物細胞におけるCa
2+流入を障害することを見出している(
図5)。STIM1は、最初は、プレB細胞の増殖を促進する間質タンパク質として、および推定の腫瘍抑制因子として特徴付けられたI型膜貫通タンパク質である(Oritani, et al. 1996. J Cell Biol 134:771; Sabbioni, et al. 1997. Cancer Res 57:4493)。STIM1についてのヒト遺伝子は、ウィルムス腫瘍を含むいくつかの小児悪性腫瘍に関連した遺伝子を含むと考えられている染色体11p15.5上に位置する(Parker et al. 1996, Genomics 37:253)。STIM1は、そのER/細胞外領域におけるCa
2+結合EFハンドモチーフおよび不稔性α-モチーフ(sterile α-motif)(SAM)ドメイン、1回膜貫通ドメイン、ならびに2つの推定細胞質コイルドコイル領域を含む(Manji et al. 2000, Biochim Biophys Acta 1481:147)。ドメイン構造およびゲノム組成は、STIM2と呼ばれる関連遺伝子に保存されており、STIM2は、主にそのC末端においてSTIM1と異なる(Williams et al. 2002, Biochim Biophys Acta 1596:131)。STIM1は、STIM2とホモ二量体化またはヘテロ二量体化することが可能である(Williams et al. 2002、前記)。ERに発現している場合、グリコシル化およびリン酸化研究により判断すると、そのC末端領域は細胞質に位置するが、N末端はERの内腔に存在する(Maji et al. 2000、前記; Williams et al. 2002、前記)。わずかなSTIM1が、原形質膜に位置する。STIM1発現のRNAi媒介性抑制はSOCEおよびCRACチャネルに干渉するが、STIM1がCa
2+チャネル自体である可能性は低い。むしろ、STIM1は、ERにおいてそのEFハンドを介してCa
2+レベルを感知する可能性がある(Putney, Jr. 2005. J Cell Biol 169:381; Marchant, 2005, Curr Biol 15:R493)。貯蔵量作動性Ca
2+流入の立体構造的結合モデルと一致して、STIM1は、ERと原形質膜の間の空間に物理的に橋を架け、それに従って、原形質膜において枯渇Ca
2+貯蔵の感知を貯蔵量作動性Ca
2+チャネルへ直接連絡する、重要なアダプタータンパク質として働きうる(Putney, Jr. 2005. 前記; Putney, Jr. 1986, Cell Calcium 7:1)。
【0032】
NFAT制御因子
本明細書に用いられる場合、「NFAT制御因子(NFAT regulator)」という用語は、NFAT活性を制御するタンパク質(NFAT制御タンパク質(NFAT regulator protein))およびコード遺伝子(NFAT制御遺伝子(NFAT regulator gene))を指すように用いられる。本発明の方法は、本明細書に記載されたNFAT制御因子の相同体、類似体、アイソフォーム(例えば、選択的スプライスバリアント)、誘導体、および機能性断片の使用を含むことを意図される。好ましくは、NFAT制御タンパク質の相同体は、本明細書に明確に同定されたものと少なくとも70%、より好ましくは80%、およびより好ましくは90%のアミノ酸同一性を有する。
【0033】
NFAT制御タンパク質
一つの好ましい態様において、本発明のNFAT制御タンパク質は、ORAI遺伝子によりコードされる。本発明の基礎となる発見以前には、ORAI遺伝子の機能は知られていなかった。ORAI1核酸配列はGenBankアクセッション番号NM_032790に対応し、ORAI2核酸配列はGenBankアクセッション番号BC069270に対応し、かつORAI3核酸配列はGenBankアクセッション番号NM_152288に対応する。本明細書に用いられる場合、ORAIは、ORAI遺伝子、例えば、ORAI1、ORAI2、ORAI3のいずれか1つを指す。
【0034】
一つの態様において、本発明のNFAT制御タンパク質は、DYRK遺伝子によりコードされる。本発明の基礎となる発見以前には、DYRK遺伝子は、NFATの活性または機能を制御することは知られていなかった。DYRK1Aは、GenBankアクセッション番号NM_001396、NM_101395、NM_130436、NM_130437、およびNM_130438を含む数個の核酸アイソフォームによりコードされる。DYRK1Bは、GenBankアクセッション番号NM_004714、NM_006483、およびNM_006484を含む複数の核酸アイソフォームによりコードされる。DYRK2は、NM_003583およびNM_006482を含むGenBankアクセッション番号によりコードされる。DYRK3は、NM_001004023およびNM_003582を含むGenBankアクセッション番号によりコードされる。DYRK4は、GenBankアクセッション番号NM_003845によりコードされる。HIPK3としても知られるDYRK6は、GenBankアクセッション番号NM_005734によりコードされる。
【0035】
一つの態様において、本発明のNFAT制御タンパク質は、表Iに列挙された遺伝子によりコードされる。
【0036】
NFAT制御タンパク質へ言及する場合の「断片」または「誘導体」という用語は、少なくとも1つのアッセイにおいて、天然のNFAT制御タンパク質と本質的に同じ生物学的機能または活性を保持するタンパク質またはポリペプチドを意味する。例えば、本発明のNFAT制御因子断片または誘導体は、例えば、実施例1に記載されたカルシウム流入アッセイにより測定される場合、天然タンパク質の活性の少なくとも約50%、天然タンパク質の活性の好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも約95%を維持する。
【0037】
断片または誘導体は、その用語が本明細書に用いられる場合、特定のNFAT制御因子ドメイン活性に関して天然のNFAT制御因子の競合物質を含みうる。しかしながら、断片または誘導体は、本明細書に説明されているように、他の領域においてNFAT制御因子との全体的な類似性を示す。
【0038】
本明細書に用いられる場合、断片という用語は、NFAT制御タンパク質、または核酸配列の断片を示し、(コードされた)タンパク質は、完全長NFAT制御タンパク質の少なくとも1つの生物活性を保持する。断片および機能的断片という用語は本明細書で交換可能に用いられる。配列の断片は、対応する完全長配列より少ないヌクレオチドまたはアミノ酸を含み、存在する配列は、完全長配列に存在するのと同じ連続的順序である。したがって、断片は、断片により表される完全長配列の部分へのいかなるもの(例えば、核酸またはアミノ酸)の内部挿入または欠失も含まない。これは、誘導体と対照的であり、誘導体は、完全長配列に対応する核酸もしくはアミノ酸内に内部挿入もしくは欠失を含みうるか、または完全長コード配列と類似性をもちうる。
【0039】
誘導体は、完全長配列と同じもしくは異なる数の核酸またはアミノ酸を含みうる。NFAT制御タンパク質に関して本明細書に用いられる場合の誘導体という用語は、1つもしくは複数の改変されたアミノ酸、例えば化学的に改変されたアミノ酸、またはアミノ酸配列への改変(置換、欠失、または挿入)を含む、NFAT制御タンパク質またはその断片を含む。そのような改変は、NFAT制御タンパク質の少なくとも1つの生物活性を実質的に保存すべきである。そのような生物活性は、当技術分野において公知のいくつかのアッセイ、例えば、後述の実施例1に記載されたカルシウム流入アッセイにより容易に測定される。非限定的な例として、誘導体は、当技術分野において周知であるように、NFAT制御タンパク質、その類似体、もしくはその機能性断片の1つもしくは複数のアミノ酸残基の側基を標準的に改変することにより、またはNFAT制御タンパク質、その類似体、もしくは断片を、もう一つの分子、例えば、抗体、酵素、受容体などに結合させることにより、調製されうる。従って、本明細書に用いられる場合の「誘導体」は、当技術分野において公知の手段により、残基上の側鎖として存在する官能基またはN末端基もしくはC末端基から調製されうる誘導体を網羅し、それらは本発明に含まれる。誘導体は、炭水化物残基またはリン酸残基などの化学的部分を有しうる。そのような誘導体化過程は、NFAT制御タンパク質の少なくとも1つの生物活性を保存すべきである。誘導体は、実験における利便性のために、特定のアッセイにおける利便性のために、検出を高めるために、または他の実験目的のために、作製されうる。誘導体は、ドミナントネガティブ、ドミナントポジティブ、および融合タンパク質を含む。
【0040】
抗体
一つの態様において、本発明は、本発明のNFAT制御タンパク質に対する抗体を提供する。本発明のペプチドの1つまたは複数の特定のドメインに結合する抗体を調製することができ、抗体をNFAT制御遺伝子またはタンパク質活性を調節するために用いることができる。
【0041】
さらに、NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体に対する抗体、好ましくはモノクローナルまたは単一特異性の抗体を哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)に投与することにより、免疫系関連遺伝子のNFAT誘導性転写を低減または排除することができ、それ故、投与は免疫系の機能亢進または不適当な活性を処置するのに役立つ。NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体、例えば、Oraiタンパク質に対する活性化抗体の投与は、NFATを活性化し、それにより、免疫応答関連遺伝子の転写を誘導することで、免疫系の機能低下を処置するのに役立ちうる。NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体、例えば、DYRKタンパク質に対する抗体の投与は、NFATを活性化し、それにより、免疫応答関連遺伝子の転写を誘導することで、免疫系の機能低下を処置するのに役立ちうる。
【0042】
本発明はまた、NFAT制御因子核酸分子の全部または一部によりコードされるタンパク質またはペプチドを結合する抗体、および変異体核酸分子の全部または一部によりコードされるタンパク質またはペプチドを結合する抗体に関する。例えば、記載されたポリペプチドもしくはタンパク質またはその断片もしくは誘導体に結合するポリクローナルおよびモノクローナル抗体は本発明の範囲内である。
【0043】
本発明の抗体は、公知の方法を用いて産生されうる。マウス、ヤギ、ニワトリ、またはウサギなどの動物を、タンパク質またはペプチドの免疫原性形態(抗体応答を誘発する能力があるタンパク質またはペプチドの抗原性断片)で免疫することができる。タンパク質またはペプチドへ免疫原性を与えるための技術は、担体との結合、または当技術分野において周知の他の技術を含む。タンパク質またはペプチドは、アジュバントの存在下で投与されうる。免疫化の過程は、血漿または血清における抗体力価の検出によりモニタリングされうる。標準ELISAまたは他のイムノアッセイが、抗体のレベルを評価するために抗原としての免疫原と共に用いられうる。免疫化後、抗ペプチド抗血清を得ることができ、必要に応じて、ポリクローナル抗体を血清から単離することができる。モノクローナル抗体もまた、当技術分野において周知である標準技術により産生されうる(Kohler and Milstein, Nature 256:4595-497 (1975); Kozbar et al., Immunology Today 4:72 (1983);およびCole et al., Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc., pp.77-96 (1985))。そのような抗体は、無傷または破損した遺伝子についての診断法として、および無傷または破損した遺伝子のいずれかを同定するための探索ツールとしても、有用である。
【0044】
モノクロ抗体分泌性ハイブリドーマを調製することの代替として、NFAT制御タンパク質に対するモノクローナル抗体は、組換えコンビナトリアル免疫ライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)をスクリーニングし、それによりNFAT制御タンパク質に結合する免疫グロブリンライブラリーメンバーを単離することにより同定かつ単離されうる。ファージディスプレイライブラリーを作製およびスクリーニングするためのキットは、例えば、Dyax Corp. (Cambridge, Mass.)およびMaxim Biotech(South San Francisco, Calif.)から市販されている。加えて、抗体ディスプレイライブラリーの作製およびスクリーニングに用いるのに特に適している方法および試薬の例が文献に見出されうる。
【0045】
ポリクローナル血清および抗体は、ウサギなどの適切な被験体をNFAT制御タンパク質(好ましくは、哺乳動物の;より好ましくはヒトの)またはその抗原性断片で免疫することにより産生されうる。免疫化被験体における抗体力価は、固定化マーカータンパク質を用いたELISAなどの標準技術により時間とともにモニタリングされうる。必要に応じて、NFAT制御タンパク質に対して方向づけられた抗体分子は、被験体または培地から単離され、プロテインAクロマトグラフィーなどの周知の技術によりさらに精製され、IgG画分を得ることができる。
【0046】
NFAT制御タンパク質に対する抗体の断片は、当技術分野において周知の方法に従って抗体の切断により生成されうる。例えば、免疫学的に活性のあるF(ab')およびF(ab')
2断片は、ペプシンなどの酵素で抗体を処理することにより作製されうる。さらに、ヒト部分および非ヒト部分の両方を含む、NFAT制御タンパク質に対するキメラの、ヒト化した一本鎖抗体は、標準組換えDNA技術を用いて作製されうる。内因性免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現する能力はないがヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて、NFAT制御タンパク質に対するヒト化抗体をまた産生することができる。
【0047】
NFAT関連疾患
本発明の方法はまた、NFAT制御不全/機能不全および/またはカルシウムシグナル伝達に関連した状態および疾患を処置するために、またはその状態および疾患の処置に有用な作用物質を同定するために利用されうる。そのような疾患には、非限定的に、免疫系の機能亢進または不適当な活性を含む免疫系疾患、例えば、急性免疫疾患、慢性免疫疾患、および自己免疫疾患が挙げられる。そのような疾患の例には、リウマチ様関節炎、炎症性腸疾患、同種または異種移植拒絶(器官、骨髄、幹細胞、他の細胞および組織)、移植片対宿主病、再生不良性貧血、乾癬、紅斑性狼瘡、炎症性疾患、MS、I型糖尿病、喘息、肺線維症、強皮症、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、心膜切開後症候群、川崎病、橋本甲状腺炎、グレーブス病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少症、慢性糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、ヴェグナー肉芽腫症、多発性硬化症、嚢胞性線維症、慢性再発性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、クローン病、潰瘍性結腸炎、結腸炎/炎症性腸症候群、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、湿疹、および自己免疫性甲状腺炎が含まれる。移植片拒絶は、組織または器官移植に起因しうる。移植片対宿主病は、骨髄または幹細胞移植に起因しうる。免疫系の機能亢進を含む免疫系疾患には、例えば、HIV疾患などの後天性免疫不全症、および分類不能型免疫不全症(CVID)を含む免疫不全疾患が挙げられる。
【0048】
本発明の方法はまた、免疫介在性ではないが、それでもなお、NFATのCa
2+カルシニューリン媒介性活性化、例えば、カルシニューリンとNFATの間のタンパク質-タンパク質相互作用に関係する状態および疾患を処置する、またはその状態および疾患の処置に有用な作用物質を同定するために利用されうる。例には、心筋肥大、拡張型心筋症、過剰または病理的骨吸収、過剰脂肪細胞分化、肥満、および潜伏ヒトヘルペスウイルス-8または他のウイルスの再活性化が挙げられる。さらに、本発明の方法は、NFAT制御タンパク質の機能変化に起因する細胞性Ca
2+シグナル伝達の機能不全に関係する状態を処置するか、またはその状態の処置に有用な作用物質を同定するために利用されてもよい。ここで、Ca
2+シグナル伝達の機能不全は、少なくとも一部、Ca
2+-カルシニューリン-NFAT経路に加えて他のCa
2+依存性経路に対するその効果によって、疾患または障害を引き起こし、またはCa
2+シグナル伝達の機能不全は、主としてそのような他の経路によって作用し、NFAT機能の変化は付属的である。
【0049】
重症複合型免疫不全症
一つのNFAT関連疾患/障害は、重症複合型免疫不全症(SCID)である。SCIDは、Tリンパ球およびBリンパ球の両方が損なわれたもしくは障害された発生ならびに/または機能により引き起こされる一群の先天性免疫障害である。100,000人の個体群あたり1人の推定有病率をもつまれな疾患であるSCIDは、20個より多い異なる遺伝子における突然変異により引き起こされうる。X連鎖SCIDをもたらす、インターロイキン2(IL-2)、IL-4、IL-7、IL-9、およびIL-15受容体のコモンγ鎖(cγ)における突然変異が、全症例の50%を占める。全SCID症例の約10%は、T細胞およびB細胞の発生または機能、特にシグナル伝達(CD3εおよびγ、ZAP-70、p56lck、CD45、JAK3、IL-7Rα鎖)、にとって重要な遺伝子における様々なまれな突然変異による。これらの突然変異が低発生率であり小さなファミリーサイズであるため、古典的な位置クローニングは、通常、これらのSCID疾患の大部分に対して不可能であり、突然変異は、しばしば、T細胞の機能分析、続いて候補遺伝子の配列決定により、公知のシグナル伝達遺伝子に見出された。科学的には、SCID疾患は、T細胞およびB細胞の機能解明において極めて価値があり、免疫系における遺伝子機能不全の帰結を浮き彫りにしている。
【0050】
一つの態様において、本発明は、本発明のNFAT制御因子を含む被験体由来の遺伝子に対応するヌクレオチド配列と、その遺伝子の野生型配列との比較を含み、ここで、遺伝子のヌクレオチド配列の野生型配列からの変化は、遺伝子における変化が免疫不全の原因であることを示す、被験体において未解明の免疫不全を診断するための方法に関する。一つの態様において、遺伝子における変化は、スプライス部位における突然変異である。一つの態様において、遺伝子における変化は、非同義突然変異である。一つの態様において、未解明の免疫不全は、NFAT活性の制御の欠陥と関連している。
【0051】
一つの態様において、比較は、被験体由来の生物学的試料を得る段階、生物学的試料中のDNAを配列決定する段階、および生物学的試料から得られたDNA配列を野生型配列と電子的に整列させる段階によって達成される。
【0052】
一つの態様において、比較は、DNA試料を得る段階、DNAがハイブリダイゼーションに利用できるようにDNA試料を処理する段階、DNA試料における相補的ヌクレオチド配列とのプローブとのハイブリダイゼーションに適切な条件下で、本発明のNFAT制御因子のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列とDNAとを組み合わせて、それにより組み合わせを生成する段階;および組み合わせにおけるハイブリダイゼーションを検出し、ここで、組み合わせにおけるハイブリダイゼーションの非存在が、遺伝子におけるヌクレオチド配列の変化を示す段階によって達成される。
【0053】
NFAT制御因子の機能を調節する作用物質についてスクリーニングするための方法
一つの態様において、本発明は、NFAT制御因子発現または機能を変化させる作用物質についてスクリーニングするための方法に関する。一つの態様において、本発明は、NFAT制御タンパク質の機能を変化させる作用物質についてスクリーニングするための方法に関する。CRACチャネル活性化の調節に関して、NFAT制御因子の機能が変化しうる。NFATリン酸化の調節に関して、NFAT制御因子の機能が変化しうる。NFAT細胞内局在性の調節に関して、NFAT制御因子の機能が変化しうる。遊離細胞内カルシウムレベルの調節に関して、NFAT制御因子の機能が変化しうる。カルシニューリン活性の調節に関して、NFAT制御因子の機能が変化しうる。一つの態様において、変化させる、または調節するとは、活性の上方制御または増強を指す。一つの態様において、変化させる、または調節するとは、下方制御または阻害を指す。
【0054】
本明細書に用いられる場合、「NFAT制御遺伝子」という用語は、SOCEによる、NFATの直接的なリン酸化による、または実施例2に記載されているような他の手段によることを含む、NFAT活性を制御する本発明の方法により同定された遺伝子を指すように用いられる。本発明のNFAT制御遺伝子は以下を含む:ORAI1、ORAI2、ORAI3、ならびに、DYRK1A、DYRK1B、DYRK2、DYRK3、DYRK4、およびDYRK6を含むDYRK遺伝子、ならびに実施例3の表Iに開示された遺伝子。一つの好ましい態様において、本発明のNFAT制御遺伝子は、ORAI、例えば、ORAI1、ORAI2、およびORAI3である。NFAT制御遺伝子および/またはそれらのコードタンパク質産物は、直接的かまたは間接的かのいずれかで、NFATの活性を調節する。
【0055】
本明細書に用いられる場合、「調節する」という用語は、遺伝子産物を含む作用物質が、第二の遺伝子産物を含む別の作用物質に対して有する効果を指す。一つの態様において、別の作用物質を調節する作用物質は、第二の作用物質の活性を上方制御する、または増加させる。一つの態様において、別の作用物質を調節する作用物質は、第二の作用物質の活性を下方制御する、または減少させる。
【0056】
本明細書に記載されるRNAiスクリーニングによって検出されるNFAT制御因子の一つの例は、カルシニューリンである。NFATシグナル伝達におけるカルシニューリンの役割は、以前に知られていた。具体的には、カルシニューリンはNFATを脱リン酸化して、活性化し、それゆえに、正の制御因子である。
【0057】
カルシニューリンは、制御因子の発現の変化とNFATシグナル伝達の変化の間の関係を明らかにする役割を果たす。カルシニューリンの過剰発現は、標準アッセイにおいてNFATの活性化の増加をもたらす;逆に、後述の実施例1に詳述されたRNAiスクリーニングにおけるような、カルシニューリンの発現の減少は、NFAT活性化の減少をもたらす。カリシニュリンはまた、作用物質による制御因子の活性の変化が、NFATシグナル伝達の変化に反映されることを明らかにしている。従って、シクロスポリンAおよびFK506は、それらの細胞質結合タンパク質(それぞれ、シクロフィリンAおよびFKBP12))と複合体を形成する場合、カルシニューリンインヒビターであり、これらの化合物のカルシニューリンへの阻害作用は、例えば、タプシガルジンで刺激された細胞において、またはT細胞受容体を通して生理的に刺激されたT細胞において、シクロスポリンAおよびFK506のNFAT局在に対する効果を調べることにより、検出されうる。
【0058】
NFAT制御因子に影響を及ぼす作用物質についてのアッセイは、NFATを直接含む必要はない。従って、カルシニューリンの活性を変化させるいくつかの作用物質、例えば、PVIVITペプチドおよびその誘導体、CsA-シクロフィリンA複合体、およびFK506-FKBP12複合体が、それらのカルシニューリンへの結合を調べることによりアッセイされうる;およびカルシニューリン自己阻害性ペプチドが、NFAT以外の基質の脱リン酸化に対するその効果を調べることによりアッセイされうる。
【0059】
NFATの正の制御因子は、Ca
2+-カルシニューリン-NFATシグナル伝達経路の他の段階で作用することが知られている。例えば、Orai1およびSTIM1は、細胞質[Ca
2+]の上昇に寄与し、それによりカルシニューリンの活性化、およびその後、NFATの活性化を誘発する。ここで再び、Orai1またはSTIM1の発現を減少させる作用物質(例えば、Orai1およびSTIM1の両方について本明細書で示されているように;およびRoos et al (2005) J Cell Biol 169, 435-445; Liou et al (2005) Current Biology 15, 1235-1241にdStimおよびSTIM1について示されているように、RNAi試薬)が、NFAT活性化(例えば、NFAT脱リン酸化または細胞内局在)に対する、または問題のNFAT制御因子の機能を診断する他のパラメーター(例えば、細胞質Ca
2+レベル)に対するいずれかのそれらの効果により認識されうる。
【0060】
1つまたは複数のNFAT制御タンパク質に影響を及ぼすことによりCa
2+-カルシニューリン-NFATシグナル伝達経路の機能を阻害する作用物質、例えば、CRACチャネルを通してCa
2+流入を阻害する作用物質(例えば、La
3+、Gd
3+、2-APB)が、同様に、容易に検出される。現在、知られている阻害性作用物質は、しかしながら、完全に選択的というわけではなく、このことは、この経路のNFAT制御タンパク質をより選択的に標的とする作用物質を発見するための価値のあるツールを、本明細書に記載のアッセイが制定する理由である。
【0061】
本発明は、Ca
2+-カルシニューリン-NFATシグナル伝達の負の制御因子を含む。これらには、例えば、DYRKファミリーキナーゼ、カゼインキナーゼ-1アイソフォーム、およびグリコーゲンシンターゼキナーゼ(GSK-3)が挙げられる。これらの負の制御因子の発現の阻害、例えばRNAi処理による阻害、またはそれらの活性の阻害、例えば各場合において酵素活性を阻害する作用物質(例えば、カゼインキナーゼインヒビターCKI-7;GSK-3インヒビターとしてのLi
+)での処理による阻害は、NFAT活性化の局面をモニタリングするアッセイを用いて検出されうる。
【0062】
本発明は、NFAT制御タンパク質もしくはNFATに結合する、例えば、NFAT制御遺伝子発現もしくはタンパク質活性に対して、NFAT遺伝子発現もしくはタンパク質活性に対して阻害(または刺激)効果を生じる、または例えば、NFAT制御因子相互作用性タンパク質(例えば、NFAT制御因子基質)もしくはNFAT相互作用性タンパク質(例えば、NFAT基質)の発現もしくは活性に対して刺激もしくは阻害効果を生じる調節因子、すなわち、候補化合物または作用物質(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチド模倣体、ペプトイド、オリゴヌクレオチド(siRNAまたはアンチセンスRNA)、非核酸有機小分子、無機小分子、または他の薬物)を同定するためのスクリーニング方法(本明細書では「アッセイ」とも呼ばれる)に関する。そのような相互作用タンパク質には、Ca
2+およびカルシウムチャネルの他のサブユニット、1つまたは複数のOraiタンパク質と相互作用するタンパク質、例えば、追加のCRACチャネルサブユニットまたはCRACチャネル調節タンパク質を挙げることができる。このように同定された化合物は、治療プロトコールにおいて直接的かもしくは間接的かのいずれかで標的遺伝子産物(例えば、NFAT制御因子ポリペプチド、NFATポリペプチド)の活性を調節するために、標的遺伝子産物の生物学的機能を作製する(elaborate)ために、または標的遺伝子もしくは遺伝子産物の正常な相互作用を乱す化合物を同定するために、用いられうる。NFAT制御遺伝子もしくはコードされた産物の遮断剤またはインヒビターの同定は、本発明のスクリーニング方法および当技術分野における公知の他の方法を用いて行われうる。
【0063】
NFAT制御因子の発現または活性に影響を及ぼす化合物は、本明細書に記載されているように、または当技術分野における公知の他の方法を用いて、同定されうる。調節化合物は、カルシウムチャネル調節因子としてのいずれの型の活性をも有するとはこれまでに同定されていない新規な化合物、またはカルシウムチャネルを調節することは以前に知られていたが、カルシウム流入を調節するために有効であることがこれまで知られていなかった濃度において用いられる化合物でありうる。調節因子はまた、CRACチャネル構成要素以外のNFAT制御因子についての調節化合物でありうる。
【0064】
本明細書中、および本明細書を通して用いられる、「作用物質」または「化合物」という用語は、アンチセンス核酸、siRNAもしくはshRNAなどのRNAiなどの修飾および非修飾核酸、ペプチド、ペプチド模倣体、受容体、リガンド、ならびに抗体を含む任意の有機または無機分子を意味する。
【0065】
NFAT制御因子の活性または発現を阻害する化合物は、NFAT制御因子を発現する細胞に関係する障害の処置に有用である。特に関連のある障害は、本明細書でさらに記載されているように、免疫系の機能亢進もしくは不適当な活性、または免疫系の機能低下に関係するものである。
【0066】
これらの障害によって冒された細胞または組織は、例えば、NFAT調節因子の発現または活性を調節する作用物質が、罹患細胞の増殖を低下させうるかどうか、異常なSOCE機能を緩和しうるかどうか、または異常なNFAT活性を緩和しうるかどうかを試験するためのスクリーニング方法に用いられうる。本発明のスクリーニング方法に有用な他の細胞は、昆虫細胞、例えば、ショウジョウバエ細胞(例えば、シュナイダー(Schneider)2またはS2細胞)、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、神経細胞または神経系細胞、例えば、SHSY5Y神経芽腫細胞およびPC12細胞、ラット好塩基球性白血病(RBL)細胞、および免疫系細胞、例えば、ヒトまたはマウスなどの哺乳動物由来の一次T細胞、ジャーカット細胞を含むTリンパ球などのリンパ球を含む、貯蔵量作動性カルシウム流入を示す細胞である。下記のノックアウトまたはトランスジェニック動物由来の細胞は有用でありうる。T細胞および線維芽細胞を含む、免疫不全の患者、例えば、実施例1に記載された患者に由来する細胞は本発明の方法に有用でありうる。
【0067】
本明細書に用いられる場合、「組換え細胞」という用語は、細胞のクローン性増殖に組み込まれたままとなるように安定に組み込まれるか、または細胞(または細胞集団)へ一過性に導入されるかのいずれかの状態に組み込まれた外因性および/または異種性核酸を有する細胞を指すように用いられる。核酸は、例えば、NFAT制御遺伝子もしくはそのmRNA、もしくはその相補(アンチセンス)鎖、またはshRNAもしくはsiRNA、または前述の任意の断片もしくは誘導体を含みうる。核酸は、NFAT制御タンパク質、その断片または誘導体のゲノムDNAを含みうる。核酸は、対応するコードおよび非コードmRNA、または対応するmRNAの発現を制御するために用いられうるその相補(アンチコード)鎖、例えば、shRNAもしくはsiRNAの対応する短いヌクレオチドを含みうる。核酸は、結果として、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはそのmRNAもしくはアンチセンスの発現の変化(例えば、過剰発現または過小発現)を生じうる。それはまた、結果として、そうでなければレシピエント細胞には発現しない、NFAT制御タンパク質の機能性断片または誘導体の発現を生じうる。
【0068】
試験化合物
本発明の試験化合物は、以下を含む、当技術分野において公知のコンビナトリアルライブラリー方法における多数のアプローチのいずれかを用いて得られうる:生物学的ライブラリー;ペプトイドライブラリー(ペプチドの機能性を有するが、酵素分解に対して抵抗性である新規な非ペプチド骨格を有し、それにもかかわらず生理活性が残存する、分子のライブラリー;例えば、Zuckermann, et al., 1994 J. Med. Chem. 37:2678-85参照);空間的にアドレス可能なパラレル固相または液相ライブラリー;逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー方法;「1ビーズ1化合物」ライブラリー方法;およびアフィニティークロマトグラフィー選択を用いる合成ライブラリー方法。生物学的ライブラリーおよびペプトイドライブラリーアプローチは、ペプチドライブラリーに限定されるが、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマー、または小分子の化合物のライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12:145)。
【0069】
分子ライブラリーの合成のための方法の例は、当技術分野において、例えば、以下に見出されうる:DeWitt et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 90:6909; Erb et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422; Zuckermann et al., 1994, J. Med. Chem. 37:2678; Cho et al., 1993, Science 261:1303; Carrell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061;およびGallop et al., 1994, J. Med. Chem. 37:1233。
【0070】
化合物のライブラリーは、溶液中に(例えば、Houghten, 1992, Biotechniques 13:412-421)、またはビーズ(Lam (1991) Nautre 354:82-84)、チップ(Fodor, 1993, Nature 364:555-556)、細菌(Ladner, 米国特許第5,223,409号)、胞子(Ladner, 米国特許第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869)上に、またはファージ(Scott and Smith, 1990, Science 249:386-390; Devlin, 1990, Science 249:404-406; Cwirla et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. 87:6378-6382; Felici, 1991, J. Mol. Biol. 222:301-310);およびLadner, 前記)上に提示されうる。
【0071】
本明細書に記載の方法によりスクリーニングされうる化合物には、限定されるわけではないが、天然源および/または合成源由来の任意の小分子化合物ライブラリー、非核酸有機小分子、無機小分子、ペプチド、ペプトイド、ペプチド模倣体、オリゴヌクレオチド(例えば、siRNA、アンチセンスRNA、SELEXを用いて同定されるものなどのアプタマー)、ならびに合成成分を含むオリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0072】
試験化合物は、例えば、細胞を維持する培地へ化合物を希釈すること、試験化合物を試験動物の食物または液体と混合すること(下記参照)、薬学的に許容される担体中の化合物を試験動物へ局所投与すること、徐放性ビーズなどの、試験化合物に浸積した三次元基質を用いて、そのような基質を試験動物へ埋め込むこと、化合物を頭蓋内に投与すること、化合物を非経口で投与することにより、投与されうる。
【0073】
様々な他の試薬もまた、混合物に含まれうる。これらには、最適なタンパク質-タンパク質結合および/もしくはタンパク質-核酸結合を促進する、ならびに/または非特異的相互作用もしくはバックグラウンド相互作用を低下させるなどのために用いられうる、塩、緩衝液、中性タンパク質、例えば、アルブミン、界面活性剤などの試薬が挙げられる。また、プロテアーゼインヒビター、ヌクレアーゼインヒビター、抗菌剤などの、アッセイの効率を別な方法で向上させる試薬が用いられうる。
【0074】
「薬学的に許容される担体」という専門用語は、化合物と同時投与することができ、かつ活性成分が神経系の疾患を予防する、改善する、阻止する、または排除することを可能にする物質を含むことが意図される。そのような担体の例には、溶媒、分散媒、アジュバント、遅延剤などが挙げられる。薬学的活性物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は当技術分野において周知である。化合物と適合性のある任意の通常の媒体および作用物質が本発明内で用いられうる。
【0075】
化合物は、選択された投与経路に従って製剤化されうる。ゼラチン、香味剤、またはコーティング材の添加は、経口投与に用いられうる。溶液または乳濁液について、一般的に、担体は、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水性もしくはアルコール性/水性溶液、乳濁液、または懸濁液を含みうる。非経口媒体は、とりわけ、塩化ナトリウム、塩化カリウムを含みうる。加えて、静脈内媒体は、とりわけ、流体および栄養補充液、電解質補充液を含みうる。
【0076】
保存剤および他の添加剤もまた存在しうる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスが添加されうる(一般的には、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Edition, Mack, 1980参照)。
【0077】
NFAT活性を調節する作用物質についての試験アッセイ
本発明のもう一つの局面は、実施例1〜3に記載されているように、遊離細胞内Ca
2+レベル、カルシニューリン活性化、および細胞におけるNFAT局在性の制御因子についてスクリーニングするための方法に関する。一つの態様において、全NFAT制御ドメインまたはその機能性断片もしくは誘導体、および機能的に連結したレポータータンパク質(制御ドメインの細胞内局在を測定するための、例えば、GFPまたは抗原性エピトープ)を含む融合タンパク質をコードする組換えベクターが、細胞、すなわち、試験細胞へトランスフェクションされる。ベクターをトランスフェクションした試験細胞を、試験作用物質と接触させる。何時間か後、例えば、48〜72時間後、試験細胞に、NFAT-レポーター融合タンパク質の細胞内局在についてスコアを付ける。スコア付けは、実施例におけるように自動顕微鏡法、例えば、蛍光顕微鏡法、共焦点顕微鏡法を手段として、または手作業の顕微鏡法を手段として、達成されうる。二次試験アッセイは、カルシウム流入検出アッセイを含む。試験作用物質が組換えベクターの発現産物の細胞内局在性に対する効果を有する場合には、これは、その試験作用物質がNFAT制御因子の機能を調節することを示している。
【0078】
一つの態様において、細胞はまた、外因性(例えば、異種性または相同性)のNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を発現し、および/またはNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体の発現の変化を示し、これは、本明細書に記載されたツール/方法で達成される。
【0079】
一つの態様において、試験細胞は、NFATが細胞質に通常局在している休止細胞である。休止試験細胞におけるNFAT-レポーター融合タンパク質の核局在、または未処理の対照細胞で観察されるものを超える部分的核局在は、試験作用物質がNFAT活性を首尾よく活性化したことを示す。
【0080】
一つの態様において、試験細胞は刺激細胞であり、細胞内Ca
2+貯蔵が枯渇し、貯蔵量作動性Ca
2+流入が活性化され、NFATが核に局在する。Ca
2+貯蔵の枯渇は、例えば、試験細胞をタプシガルジンまたはイオノマイシンと接触させることによって、達成されうる。試験細胞は、試験細胞を試験作用物質と接触させる段階の前に、段階と同時に、または段階の後に、刺激されうる。刺激試験細胞におけるNFAT-レポーター融合タンパク質の細胞質局在、または対照細胞で観察されるものと比較した核局在の低下は、試験作用物質がNFAT活性を首尾よく阻害したことを示す。
【0081】
NFAT制御ドメインをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結する、レポータータンパク質をコードするレポーター遺伝子については、細胞におけるレポーター遺伝子の局在が融合タンパク質との関連において直接的かまたは間接的かのいずれかで評価されうるならば、一般的に用いる任意のレポーター遺伝子で十分である。例えば、レポーターは、局在が標識抗体で染色することにより検出されうる任意のタンパク質、または赤血球凝集素もしくはmycエピトープなどのタンパク質エピトープ、または緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくはその変種の1つでありうる。一つの好ましい態様において、レポータータンパク質はGFPである。融合タンパク質におけるNFATタンパク質は完全長であってもよく、または制御ドメイン、特に、カルシニューリンおよびCK1のドッキング部位、ならびに保存されたセリンリッチ領域(SRR)およびセリン-プロリン(SP)リピートモチーフを含んでもよい。
【0082】
本発明のもう一つの局面は、カルシウムシグナル伝達に関連した疾患または障害を処置または予防するための作用物質を同定するための方法に関する。一つの態様において、方法は、疾患もしくは障害を示す、または疾患もしくは障害に関連した少なくとも1つの表現型を示す生物体に対する試験作用物質の効果を評価する段階を含む。少なくとも1つのNFAT制御タンパク質、その断片もしくは誘導体の活性、相互作用、発現、または結合を試験作用物質が調節する場合には、その試験作用物質は、疾患または障害を処置または予防するための作用物質であると同定される。一つの態様において、NFAT制御タンパク質、その断片または誘導体は、生物体の細胞において内因的かまたは外因的かのいずれかで発現する。試験作用物質の投与および効果の評価の適切な方法は、当業者により決定されうる。
【0083】
カルシウムレベルを調節する作用物質についての試験アッセイ
本明細書に提供されたスクリーニング/同定方法のいずれかにおいて試験作用物質の細胞内カルシウムに対する効果をモニタリングする段階において、細胞カルシウム(サイトゾルおよび細胞内のオルガネラまたは区画を含む)および/または細胞、オルガネラ、もしくはそれらの部分(例えば、膜)の内側もしくは外側へのイオンの移動の、直接的または間接的な評価または測定が行われうる。カルシウムレベルおよびイオン移動または流束を評価するための様々な方法は、本明細書に記載されており、および/または当技術分野において公知である。使用される特定の方法および用いられる条件は、細胞内カルシウムの特定の局面をモニタリングするかどうかに依存しうる。例えば、本明細書に記載されているように、試薬および条件は、貯蔵量作動性カルシウム流入、休止サイトゾルカルシウムレベル、ならびに細胞内オルガネラのカルシウムレベルおよび細胞内オルガネラによるカルシウム取り込みまたは細胞内オルガネラからのカルシウム放出を特異的に評価するために用いることができ、公知である。細胞内カルシウムに対する試験作用物質の効果は、例えば、細胞、細胞内オルガネラもしくは貯蔵区画、膜(例えば、剥離した膜パッチまたは脂質二重層を含む)、または無細胞アッセイシステムを用いてモニタリングされうる。
【0084】
一般的に、細胞内カルシウムに対する試験作用物質の効果をモニタリングする段階は、(1)細胞内カルシウムを調節することに関与するタンパク質(および/またはタンパク質をコードする核酸もしくはその部分)(特に、本明細書に提供されたタンパク質)、および/または(2)細胞内カルシウムを調節することに関与するタンパク質(および/またはタンパク質をコードする核酸もしくはその部分)を含んでも含まなくてもよい細胞もしくはその部分(例えば、膜または細胞内構造もしくはオルガネラ)に、試験作用物質を接触させる事、または試験作用物質を曝露する事を含む。細胞は、例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入などの細胞内Ca
2+調節の1つまたは複数の局面を示すものでありうる。試験作用物質の接触前、接触中、および/または接触後、細胞内カルシウムの直接的または間接的評価が行われうる。間接的評価は、例えば、イオン輸送タンパク質(例えば、貯蔵量作動性チャネルまたはCa
2+制御性イオンチャネル)を通しての電流、またはカルシウム感受性プロモーターに機能的に連結したレポータータンパク質の転写の評価または測定でありうる。直接的評価は、例えば、細胞内(サイトゾルおよび細胞内オルガネラを含む)カルシウムの評価または測定でありうる。
【0085】
細胞内カルシウムの評価は、細胞内カルシウムに対する作用物質の効果を測定することができるような方法で行われる。典型的には、これは、試験作用物質の存在下における細胞内カルシウムの、細胞内カルシウム対照との比較を含む。例えば、一つの対照は、試験作用物質の存在下と非存在下における、または様々な量の試験作用物質の存在下における、細胞内カルシウムの比較である。従って、細胞内カルシウムに対する効果をモニタリングするための一つの方法は、細胞内カルシウムを調節するタンパク質を含む試験細胞に試験作用物質を接触させる前と後の細胞内カルシウムを比較する段階、または試験作用物質に接触した試験細胞における細胞内カルシウムと試験作用物質に接触していない試験細胞(すなわち、対照細胞)における細胞内カルシウムとを比較する段階を含む。一般的に、対照細胞は、それが試験作用物質の非存在下にある細胞であることを除いて、対照細胞と、同じではないにしても、実質的に同一である。試験作用物質の存在下と非存在下における試験細胞の細胞内カルシウムの差は、作用物質が細胞内カルシウムを調節するものであることを示す。
【0086】
細胞内カルシウムに対する効果をモニタリングするためのもう一つの方法は、試験細胞と、試験細胞と実質的に類似する対照細胞とで細胞内カルシウムを比較する段階(例えば、本明細書に提供されたタンパク質などの細胞内カルシウムシグナル伝達に関与するタンパク質(および/またはタンパク質をコードする核酸)を含む細胞と、細胞内カルシウムシグナル伝達を調節することに関与するその特定のタンパク質を含まない、またはより低いレベルを含む細胞を比較する段階)を含む。従って、例えば、細胞内カルシウム調節に関与するタンパク質を含む試験細胞が、タンパク質をコードする核酸を宿主細胞に移入することにより作製された組換え細胞である場合には、一つの可能な対照細胞は、そのタンパク質をコードする核酸をトランスフェクションされていない、ベクターのみをトランスフェクションされた宿主細胞である。そのような細胞は、試験細胞と実質的に類似しているが、タンパク質をコードする導入される核酸の非存在によってのみ本質的に試験細胞と異なる。従って、対照細胞は、細胞内カルシウムを調節することに関与する特定のタンパク質を、例えば、内因的に含みうるが、その場合、試験細胞は、その特定のタンパク質のより高いレベルを含む(または過剰発現する)。
【0087】
特定のタンパク質の内因性発現または機能性レベルを実験的に低下させる(例えば、タンパク質発現または機能の阻害により)こともまた、その特定のタンパク質を標的とすることにより細胞内カルシウムを調節する作用物質を同定するのに有用でありうる。核酸レベルで発現を標的とする、例えば、siRNAまたはshRNA処理によるなどの公知の実験方法により、NFAT制御タンパク質の発現を細胞において低下させることができ、それにより、機能性タンパク質の発現を低下させる。NFAT制御因子の発現を低下させた、または完全に阻害した細胞は、本発明に含まれる。そのようなシステムはさらに、1つもしくは複数の哺乳動物NFAT制御タンパク質、またはその部分をコードする外因性(例えば、相同性または異種性)核酸分子を発現可能な形で含みうる。
【0088】
特定のタンパク質の内因性発現/機能性レベルが細胞において低下している、上記の対照比較の型は、特定のタンパク質(および/または特定のタンパク質をコードする核酸もしくはその部分)に対する効果または特定のタンパク質の調節を介して細胞内カルシウムを特異的に調節する作用物質を同定しようと試みる場合、特に有用である。従って、例えば、作用物質の存在下、試験(非改変)細胞と、対照(低下した内因性発現/機能)細胞とで細胞内カルシウムの検出可能なまたは実質的な差がない場合には、作用物質はその特定のタンパク質(またはタンパク質をコードする核酸)を介した細胞内カルシウムに対するその効果を媒介しない可能性が高い。試験作用物質の存在下、試験細胞と対照細胞とにおける細胞内カルシウムの検出可能なまたは実質的な差は、試験作用物質が、特定のタンパク質に対する効果により、または特定のタンパク質の調節を介して、細胞内カルシウムを特異的に調節する候補作用物質でありうることを示す。候補作用物質は、試験作用物質の存在下および非存在下で試験細胞における細胞内カルシウムを比較するための、または試験作用物質の存在下および非存在下で対照細胞における細胞内カルシウムを比較するための、さらなる対照アッセイに供してもよく、これは、候補作用物質が細胞内カルシウムを調節する作用物質であるかどうかの決定を助けることになりうる。
【0089】
細胞内カルシウムに対する試験化合物の効果をモニタリングするために行われる細胞内カルシウムの評価は、様々な条件下でなされうる。条件は、細胞内カルシウムの特定の局面に対する試験化合物の効果を評価するために選択されうる。例えば、本明細書に記載されているように、試薬および条件は、貯蔵量作動性カルシウム流入、休止サイトゾルカルシウムレベル、ならびに細胞内オルガネラのカルシウムレベルおよび細胞内オルガネラによるカルシウム取り込みまたは細胞内オルガネラからのカルシウム放出を特異的に評価するために用いることができ、公知である。例えば、本明細書に記載されているように、小胞体のカルシウムレベルおよび/または小胞体からのカルシウム放出は、mag-fura 2、小胞体標的エクオリンまたはカメレオン(cameleon)を用いて直接的に評価されうる。カルシウムレベルまたは放出の間接的評価のための一つの方法は、細胞外カルシウムの非存在下においてオルガネラからのカルシウム放出をもたらす作用物質(能動的には、例えば、IP
3、または受動的には、例えば、タプシガルジン)に細胞を曝露した後、細胞内細胞質カルシウムレベルをモニタリングする(例えば、蛍光に基づいた方法を用いて)ことである。細胞内の陽イオンもしくは二価陽イオンの濃度、または細胞へのイオン流入の濃度に対する試験作用物質/化合物の効果の評価もまた、試験作用物質を、細胞内カルシウムを調節する作用物質であると同定するために用いられうる。
【0090】
休止サイトゾルカルシウムレベル、細胞内オルガネラカルシウムレベル、および陽イオン移動は、本明細書に記載された、または当技術分野において公知の方法のいずれかを用いて評価されうる(例えば、fluo-3、mag-fura 2、ER標的エクオリン、標識カルシウム(
45Ca
2+など)に基づいた測定、および電気生理学的測定の本明細書における記載参照)。評価されうるイオン流束の特定の局面には、限定されるわけではないが、イオン流束の量の減少(排出を含む)または増加、イオン電流の生物物理学的性質の変化、および、例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入などの、カルシウム流束過程のアクチベーターまたはインヒビターに対する流束の感受性の変化が挙げられる。受容体媒介性カルシウム移動および二次メッセンジャー作動性カルシウム移動を特異的に評価するのに用いる試薬および条件もまた利用できる。
【0091】
細胞内カルシウムを調節する作用物質についてスクリーニングするための、または作用物質を同定するための方法の特定の態様において、方法は、貯蔵量作動性カルシウム流入が起こるのを可能にする条件下で行われる。そのような条件は本明細書に記載されており、当技術分野において公知である。試験作用物質を、これらの適切な条件下で、細胞内カルシウムを調節するタンパク質および/もしくはタンパク質をコードする核酸(本明細書に提供されたタンパク質および核酸など)、ならびに/またはそのようなタンパク質(または核酸)を含む細胞(またはその部分)と接触させうる。例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入を評価するために選択された条件下で細胞内カルシウムを調節する作用物質についてスクリーニングするための一つの方法を行う際、試験細胞の細胞内カルシウムレベルは、蛍光カルシウム指示薬(例えば、FLUO-4)を用いて時間とともにモニタリングされる。細胞への貯蔵量作動性カルシウム流入は、例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入が起こる条件に応答した、蛍光の増加、蛍光の減少、または2つの異なる波長の光を用いた励起により誘発される蛍光強度の比における変化として用いられる特異的指示薬に依存して検出される。特定のカルシウム指示薬について蛍光シグナルを誘発するための、および遊離カルシウム濃度における変化に対するそれの関係を解釈するための方法は、当技術分野において周知である。条件は、貯蔵枯渇作用物質、例えば、タプシガルジン(ERカルシウムポンプを阻害し、漏出を通してカルシウム貯蔵を放出させる)の、Ca
2+を含まない緩衝液でインキュベートされた細胞の培地への添加、約5〜15分間のタプシガルジンとのインキュベーション、培地への試験化合物(または媒体対照)の添加、および約5〜15分間の試験作用物質と細胞とのインキュベーション、続いて、最終濃度約1.8mMの外液カルシウムの培地への添加を含む。外液カルシウムの非存在下において細胞へタプシガルジンを加えることにより、カルシウム貯蔵からのカルシウム放出による細胞内カルシウムレベルの一過性の増加、および外部媒体から細胞へのカルシウム流入(すなわち、カルシウムが培地へ加えられた場合に検出される原形質膜を通しての貯蔵量作動性カルシウム流入)による細胞内カルシウムレベルのより多い持続性増加を描くことが可能である。蛍光に基づいたアッセイは、タプシガルジンの添加前からカルシウムの培地への添加後しばらくするまでの全期間中、細胞内カルシウムレベルの本質的に連続的なモニタリングを可能にするため、貯蔵量作動性カルシウム流入に起因する「ピーク」または最大カルシウムレベルが試験作用物質の存在下および非存在下において評価されうるだけでなく、カルシウム流入過程のいくつかの他のパラメーターもまた、本明細書に記載されているように、評価されうる。例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入の動力学は、ピーク細胞内カルシウムレベルに達するのに必要とされる時間の評価、カルシウムレベルの増加に関連した上り勾配および速度定数、ならびに貯蔵量作動性カルシウム流入が停止する時、カルシウムレベルの減少に関連した減衰勾配および速度定数により評価されうる。これらのパラメーターのいずれかは、評価され、かつ試験作用物質の存在下と非存在下において、作用物質が貯蔵量作動性カルシウム流入に対して、およびそれ故、細胞内カルシウムに対して効果を有するかどうかを決定するために比較されうる。他の態様において、貯蔵量作動性カルシウム流入は、例えば、貯蔵量作動性カルシウム流入電流の特徴を示す(例えば、細胞内貯蔵のカルシウムレベルの低下に対する応答性)膜を横断する、または細胞への電流を評価すること、またはカルシウム感受性プロモーターエレメントを含むレポーター構築物の転写を評価することにより、評価されうる。特定の態様において、試験作用物質は、統計学的に有意な差を生じるものであると同定される。例えば、対照(例えば、化合物の非存在、すなわち、媒体のみ)と比較して、貯蔵量作動性カルシウム流入の任意の局面またはパラメーターにおける少なくとも30%の差。
【0092】
一般的に、試験作用物質は、試験作用物質の存在下におけるレベルまたは流束の検出可能な差などの、細胞内カルシウムレベルおよび/またはイオン移動もしくは流束に対する作用物質の検出可能な効果がある場合には、細胞内カルシウムを調節する作用物質または候補作用物質であると同定される。特定の態様において、効果または差は、実質的でありうるか、または統計学的に有意でありうる。
【0093】
NFAT制御因子活性を調節する作用物質の試験アッセイ
一つの態様において、アッセイは、NFAT制御タンパク質またはその生物活性部分を発現する細胞を試験化合物と接触させ、NFAT制御因子活性を調節する試験化合物の能力を測定する、細胞に基づいたアッセイである。NFAT制御因子活性を調節する試験化合物の能力を測定する段階は、例えば、細胞におけるカルシウム流束の変化をモニタリングすることにより、またはIL-2発現の活性化などのカルシウム流束を調節する下流効果を試験することにより、達成されうる。そのような下流効果を試験する方法は、当技術分野において公知であり、細胞増殖および細胞成長の調節を含む。例えば、細胞におけるNFAT制御因子分子の数を減少させる、またはNFAT制御因子チャネルの機能に影響を及ぼす化合物は、細胞増殖を減少させうる。または、NFATトランス活性化を必要とする遺伝子の転写がモニタリングされうる。
【0094】
米国特許出願公開第20040002117号は、NFATの公知の遺伝子標的を開示し、NFATの活性により転写されるさらなる遺伝子を同定するための方法を教示している。NFAT標的遺伝子の転写またはタンパク質発現の検出は、本発明の方法に有用でありうる。試験作用物質の存在下におけるNFAT標的遺伝子の発現の誘導の消失は、試験作用物質が、NFATの正の制御因子であるNFAT制御因子の活性を阻害するのに効果的であることを示す。逆に、試験作用物質の存在下における、他の点では刺激されていない条件での、基底レベルより上のNFAT標的遺伝子の発現は、試験作用物質が、NFATの負の制御因子を阻害するのに効果的であることを示す。
【0095】
場合によっては、そのようなアッセイに用いられる細胞は、関心対象のNFAT制御因子(例えば、チャネルタンパク質)を通常には発現しない。非限定的な例として、アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞または免疫系細胞もしくはその誘導体などの細胞が、組換えNFAT制御タンパク質、その生物活性部分もしくは誘導体を発現するように操作されうる。一般的に、組換えNFAT制御因子を発現しない対応する細胞と比較して、NFAT制御因子の発現の増加を生じる組換え発現は、NFAT制御因子の「過剰発現」と呼ばれる。または、細胞は哺乳動物起源でありうる。細胞はまた、関心対象のNFAT制御因子(例えば、カルシウムチャネル)を発現する細胞でありうるが、その細胞において、そのようなNFAT制御因子活性は、他のNFAT制御因子(例えば、カルシウムチャネル)活性と、例えば、対照との比較により、区別されうる。化合物、例えば、NFAT制御因子の基質へのNFAT制御因子の結合を調節する、またはNFAT制御因子に結合する、試験化合物の能力もまた評価されうる。これは、例えば、化合物、例えば基質を放射性同位元素または酵素標識と結合することにより、達成されることができ、それによって、化合物、例えばNFAT制御因子への基質の結合が、複合体における標識された化合物、例えば基質を検出することにより測定されうる。または、複合体におけるNFAT制御因子基質へのNFAT制御因子の結合を調節する試験化合物の能力をモニタリングするために、NFAT制御因子を放射性同位元素または酵素標識と結合させてもよい。例えば、化合物(例えば、NFAT制御因子基質)を、
125I、
35S、
14C、または
3Hで直接的かまたは間接的かのいずれかで標識することができ、放射性同位元素を、放射線放出の直接的カウンティングによりまたはシンチレーションカウンティングにより、検出する。または、化合物を、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、またはルシフェラーゼで酵素的に標識してもよく、酵素標識を、適切な基質の生成物への変換の測定により検出する。
【0096】
NFAT制御因子ポリペプチドの活性を特異的に調節する化合物についてのスクリーニングアッセイの例は以下のとおりである。関心対象のNFAT制御因子ポリペプチドを発現する細胞(例えば、ジャーカット細胞またはHEK293細胞)と試験化合物とを、化合物が転写または活性に効果を生じるのに十分な時間(例えば、少なくとも1分間、10分間、1時間、3時間、5時間、もしくは24時間、またはそれ以上の時間)インキュベートする。そのような時間は、経験的に決定されうる。試験化合物の濃度もまた、様々でありうる(例えば、1nM〜100μM、10nM〜10μM、または1nM〜10μM)。試験化合物の存在下および非存在下におけるカルシウム流入の阻害を、その後、当技術分野において公知の方法を用いてアッセイする。例えば、fura-2、Indo-1、Fluo-3、またはRho-2がカルシウム流束をアッセイするために用いられうる。他の方法が阻害アッセイとして用いられうる。例えば、試験化合物は、以下の基準の任意の1つまたは複数が満たされる場合には、流入に対して有意な影響を与える、または与えることが疑われるものとみなされる:
a. カルシウム指示薬により測定される場合、増加した[Ca
2+]iの直接的な阻害がある;
b. パッチクランプにより測定される場合、I
CRACの直接的な阻害がある;
c. カルシニューリン活性、NFAT細胞内局在、NFATリン酸化、および/もしくはサイトカイン、例えばIL-2の産生などの下流シグナル伝達機能の阻害がある;または
d. 活性化誘導性細胞増殖、分化、および/もしくはアポトーシスシグナル伝達経路における改変がある。
【0097】
特定のNFAT制御因子ポリペプチドの活性に対する試験化合物の効果の直接試験は、例えば、I
CRACを測定するためのパッチクランプを用いて達成されうる。この方法は、カルシウム流入に対する一般的効果について試験した後の二次段階として、またはNFAT制御因子mRNAまたはポリペプチドの発現に影響を及ぼすと試験化合物を同定した後の二次段階として、スクリーニングアッセイに用いられうる。または、直接試験が、多段階アッセイまたは単一段階アッセイにおける第一段階として用いられうる。
【0098】
反応体のいずれかの標識の有無に関わらず、NFAT制御因子と相互作用する化合物(例えばNFAT制御因子基質)の能力が評価されうる。例えば、マイクロフィジオメーター(microphysiometer)が、化合物またはNFAT制御因子のいずれの標識も無しで、化合物とNFAT制御因子との相互作用を検出するために用いられうる(McConnell et al., 1992, Science 257:1906-1912)。本明細書に用いられる場合、「マイクロフィジオメーター」(例えば、Cytosensor)は、光アドレス可能電位差センサー(LAPS)を用いて、細胞がその環境を酸性化する速度を測定する分析装置である。この酸性化速度における変化が、化合物とNFAT制御因子ポリペプチドの間の相互作用の指標として用いられうる。
【0099】
さらにもう一つの態様において、無細胞アッセイが提供され、NFAT制御タンパク質またはその生物活性部分を試験化合物と接触させ、NFAT制御タンパク質またはその生物活性部分に結合する試験化合物の能力を評価する。本発明のアッセイに用いられるNFAT制御タンパク質の好ましい生物活性部分は、他のシグナル伝達分子との相互作用に関与する断片もしくは誘導体、またはNFATと直接相互作用する断片もしくは誘導体を含む。
【0100】
無細胞アッセイは、標的遺伝子タンパク質および試験化合物の反応混合物を、その2つの成分が相互作用し、結合するのを可能にするのに十分な条件下かつ十分な時間調製し、それ故、取り出されうるおよび/または検出されうる複合体を形成する段階を含む。
【0101】
2つの分子間の相互作用はまた、例えば、蛍光共鳴エネルギー移動(FERT)を用いて、検出されうる(例えば、Lakowicz et al., 米国特許第5,631,169号; Stavrianopoulos et al., 米国特許第4,868,103号参照)。フルオロフォア標識は、第一の「ドナー」標識の発光スペクトルが第二の「アクセプター」分子の吸収スペクトルと重複するように選択され、標識が極めて近接している場合には、エネルギーの移動により、第二のアクセプター分子はドナーの励起で蛍光を発する。または、「ドナー」タンパク質分子は、単に、トリプトファン残基の自然蛍光エネルギーを利用するだけでもよい。「アクセプター」分子標識が「ドナー」のそれと区別されうるように、異なる光の波長を放出する標識が選択される。標識間のエネルギー移動の効率は分子を隔てる距離に関連しているため、分子間の空間的関係が評価されうる。結合が分子間に生じている状況において、アッセイにおける「アクセプター」分子の蛍光発光は、結合が生じていない場合の、または例えば、結合が過剰の非標識競合タンパク質により妨げられている場合の発光を上回って増加する。FRET結合事象は、当技術分野において周知の標準蛍光定量的検出手段により(例えば、蛍光光度計を用いて)、対照と比較して、都合よく測定されうる。
【0102】
細胞において、または無細胞アッセイにおいて、タンパク質複合体の組み立てをモニタリングするアッセイもまた用いられうる。
【0103】
もう一つの態様において、標的分子に結合するNFAT制御タンパク質の能力を測定する段階は、リアルタイム生体分子相互作用分析(BIA)を用いて達成されうる(例えば、Sjolander and Urbaniczky, 1991, Anal. Chem. 63:2338-2345およびSzabo et al., 1995, Curr. Opin. Struct. Biol. 5:699-705参照)。「表面プラズモン共鳴」または「BIA」は、反応体のいずれの標識も無しで、リアルタイムに生体特異的相互作用を検出する(例えば、BIAcore)。結合表面での質量における変化(結合事象を示す)が、結果として、表面の近くで光の屈折率の変化を生じ(表面プラズモン共鳴(SPR)の光学的現象)、それが、結果として、生体分子間のリアルタイム反応の指標として用いられうる検出可能なシグナルを生じる。
【0104】
一つの態様において、標的遺伝子産物、例えば、NFAT制御因子ポリペプチド、または試験物質を固相上へ固着させる。固相に固着した標的遺伝子産物/試験化合物複合体は、反応の終わりに検出されうる。一般的に、標的遺伝子産物を固体表面上に固着させてよく、試験化合物(固着していない)が、本明細書で考察された検出可能な標識で直接的または間接的かのいずれかで標識されうる。
【0105】
複合体形成型の非複合体形成型からの分離を容易にするために、加えてアッセイの自動化に適合させるために、NFAT制御因子、抗NFAT制御因子抗体、またはその標的分子を固定化することが望ましい場合がある。NFAT制御タンパク質への試験化合物の結合、または候補化合物の存在下および非存在下におけるNFAT制御タンパク質と標的分子との相互作用は、反応物を含むのに適した任意の容器で達成されうる。そのような容器の例には、マイクロタイタープレート、試験管、および微小遠心管が挙げられる。一つの態様において、タンパク質の一方または両方をマトリックスに結合させるのを可能にするドメインを付加する融合タンパク質が提供されうる。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/NFAT制御因子融合タンパク質、またはグルタチオン-S-トランスフェラーゼ/標的融合タンパク質を、グルタチオンSepharose(商標)ビーズ(Sigma Chemical, St, Louis, Mo)、またはグルタチオン誘導体化マイクロタイタープレート上へ吸着させることができ、それを、その後、試験化合物と、または試験化合物および非吸着標的タンパク質もしくはNFAT制御タンパク質のいずれかと結合させ、混合物を複合体形成の助けとなる条件下で(例えば、塩およびpHについて生理学的状態で)インキュベートする。インキュベーション後、ビーズまたはマイクロタイタープレートウェルを、いかなる未結合の成分をも除去するために洗浄し、ビーズの場合、マトリックスを固定化し、複合体を、例えば、上記のように、直接的かまたは間接的かのいずれかで測定する。または、複合体を、マトリックスから解離させ、NFAT制御因子の結合または活性のレベルを標準技術を用いて測定できる。
【0106】
NFAT制御タンパク質または標的分子のいずれかをマトリックス上へ固定化するための他の技術には、ビオチンおよびストレプトアビジンの結合を用いることが挙げられる。ビオチン化NFAT制御タンパク質または標的分子を、当技術分野において公知の技術(例えば、ビオチン化キット、Pierce Chemicals, Rockford, Ill.)を用いてビオチン-NHS(N-ヒドロキシ-スクシンイミド)から調製し、ストレプトアビジンコーティング化96ウェルプレート(Pierce Chemicals)のウェルに固定化することができる。
【0107】
アッセイを行うために、非固定化成分を、固着した成分を含むコーティング化表面に加える。反応が完了した後、未反応成分を、いかなる形成された複合体も固体表面上に固定化されたままであるような条件下で除去する(例えば、洗浄により)。固体表面上に固着した複合体の検出は、いくつかの方法で達成されうる。あらかじめ固定化されていない成分がプレ標識されている場合、表面上に固定された標識の検出は、複合体が形成されたことを示す。あらかじめ固定化されていない成分がプレ標識されていない場合、表面上に固着した複合体を検出するために間接的標識が用いられうる;例えば、固定化成分に特異的な標識抗体を用いる(抗体もまた、直接標識してもよく、または、例えば、標識抗Ig抗体で間接的に標識してもよい)。
【0108】
このアッセイは、NFAT制御タンパク質または標的分子と反応性であるが、その標的分子へのNFAT制御タンパク質の結合に干渉しない抗体を利用して行われる。そのような抗体は、プレートのウェルへ誘導体化され、未結合の標的またはNFAT制御タンパク質が抗体結合によりウェルに捕捉されうる。GST固定化複合体について上で記載したものに加えて、そのような複合体を検出するための方法には、NFAT制御タンパク質または標的分子と反応性の抗体を用いる複合体の免疫検出、およびNFAT制御タンパク質または標的分子に関連した酵素活性を検出することに頼る酵素結合アッセイが挙げられる。
【0109】
または、無細胞アッセイが液相で行われうる。そのようなアッセイにおいて、反応生成物を、いくつかの標準技術のいずれかにより、未反応の成分から分離する。標準技術には、限定されるわけではないが、以下が挙げられる:濾過;分画遠心法(例えば、Rivas and Minton, 1993, Trends Biochem. Sci. 18:238-7参照);クロマトグラフィー(ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー);電気泳動(例えば、Ausubel et al., eds. Current Protocols in Molecular Biology 1999, J. Wiley: New York参照);および免疫沈降(例えば、Ausubel et al., eds. Current Protocols in Molecular Biology 1999, J. Wiley: New York参照)。そのような樹脂およびクロマトグラフィー技術は当業者に公知である(例えば、Heegaard, 1998, J. Mol. Recognit. 11:141-8; Hage and Tweed, 1997, J. Chromatogr. B. Biomed. Sci. Appl. 699:499-525参照)。さらに、蛍光共鳴エネルギー移動もまた、溶液からの複合体のさらなる精製を行うことなく、結合を検出するために、本明細書に記載されているように、都合よく利用されうる。
【0110】
アッセイは、NFAT制御タンパク質またはその生物活性部分を、NFAT制御因子を結合する既知の化合物と接触させてアッセイ混合物を形成する段階、アッセイ混合物を試験化合物と接触させる段階、およびNFAT制御因子ポリペプチドと相互作用する試験化合物の能力を測定する段階を含んでよく、NFAT制御タンパク質と相互作用する試験化合物の能力を測定する段階は、試験化合物の、NFAT制御因子もしくはその生物活性部分へ優先的に結合する能力、または標的分子の活性を調節する能力を、既知の化合物と比較して測定する事を含む。
【0111】
NFAT制御因子がインビボでタンパク質などの1つもしくは複数の細胞高分子または細胞外高分子と相互作用する範囲においては、そのような相互作用のインヒビターが有用である。そのような相互作用性分子は、カルシウムチャネル複合体のCa
2+およびサブユニット、加えて、キナーゼ、ホスファターゼ、およびアダプタータンパク質などのチャネルと直接相互作用するシグナル伝達分子を含み、インヒビターを同定するために用いられうる。例えば、標的遺伝子産物と相互作用性細胞または細胞外結合パートナー産物とのプレ形成(preformed)複合体は、標的遺伝子産物かまたはそれらの結合パートナーのいずれかが標識されるが、標識により発生するシグナルは複合体形成によりクエンチされるように調製される(例えば、イムノアッセイのためにこのアプローチを利用する米国特許第4,109,496号参照)。プレ形成複合体由来の種の1つと競合して置換する試験物質が、結果として、バックグラウンドより高いシグナルの発生を生じる。このようにして、標的遺伝子産物-結合パートナー相互作用を乱す試験物質が同定されうる。または、NFAT制御因子と結合または相互作用し(「NFAT制御因子-結合タンパク質」または「NFAT制御因子-bp」)、かつNFAT制御因子活性に関与する他のタンパク質を同定するために、NFAT制御因子ポリペプチドがツーハイブリッドアッセイまたはスリーハイブリッドアッセイにおける「ベイト(bait)タンパク質」として用いられうる(例えば、米国特許第5,283,317号; Zervos et al., 1993, Cell 72:223-232; Madura et al., 1993, J. Biol. Chem. 268:12046-12054; Bartel et al., 1993, Biotechniques 14:920-924; Iwabuchi et al., 1993, Oncogene 8:1693-1696;およびBrent WO94/10300参照)。そのようなNFAT制御因子-bpは、例えば、NFAT標的遺伝子の発現または活性などのNFAT制御因子媒介性シグナル伝達経路の下流要素としての、NFAT制御タンパク質またはNFAT制御因子標的によるシグナルのアクチベーターまたはインヒビターでありうる。
【0112】
NFAT制御因子発現の調節因子もまた同定されうる。例えば、細胞または無細胞混合物を、候補化合物と接触させ、NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質の発現を、候補化合物の非存在下におけるNFAT制御因子mRNAまたはタンパク質の発現レベルと比較して評価する。発現を検出する、または発現レベルを評価するための方法は、当業者にとって周知である。NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質の発現が、候補化合物の存在下において、その非存在下においてより高い場合、候補化合物は、NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質発現の刺激物質であると同定される。または、NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質の発現が、候補化合物の存在下において、その非存在下においてより低い(すなわち、統計学的に有意に低い)場合、候補化合物は、NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質発現のインヒビターであると同定される。NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質発現のレベルは、NFAT制御因子mRNAまたはタンパク質を検出するための本明細書に記載された方法により測定されうる。
【0113】
調節作用物質は、細胞に基づいたアッセイ、または無細胞アッセイを用いて同定することができ、NFAT制御タンパク質の活性を調節する作用物質の能力は、インビボで、例えば、疾患についての動物モデルなどの動物(例えば、白血病もしくは自己免疫疾患をもつ動物、または動物(例えば、ヒト)由来の異種移植片を有する動物)、または白血病もしくは他のリンパ球性障害に起因するガン由来の細胞、または白血病もしくはリンパ球性障害細胞株由来の細胞において、確認されうる。
【0114】
本発明はさらに、上記のスクリーニングアッセイにより同定される新規な作用物質に関する。従って、本明細書に記載されているように同定された作用物質(例えば、NFAT制御因子を調節する作用物質、アンチセンスNFAT制御因子核酸分子、NFAT制御因子特異的抗体、またはNFAT制御因子の結合パートナー)を適切な動物モデル(上記のものなど)にさらに用いて、そのような作用物質での処置の効力、毒性、副作用、または作用機構を測定することは、本発明の範囲内である。さらに、上記のスクリーニングアッセイにより同定される新規な作用物質は、本明細書に記載された処置に用いられうる。
【0115】
有用な動物モデルには、白血病および自己免疫障害の動物モデルが挙げられる。そのような動物モデルの例は当技術分野において公知であり、商業的供給源、例えば、Jackson Laboratory (Bar Harbor, Me.)、から入手してもよく、または関連文献に記載されているように作製してもよい。そのような研究に有用な動物の例には、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウサギ、およびヤギが挙げられる。他の有用な動物モデルには、非限定的に、本文書の他の箇所で考察されているように、Ca
2+-NFATシグナル伝達またはCa
2+シグナル伝達の他の障害について、例えば、心筋肥大、拡張型心筋症、過剰または病理的骨吸収、過剰脂肪細胞分化、肥満、および潜伏ヒトヘルペスウイルス-8または他のウイルスの再活性化についてのものが挙げられる。
【0116】
システム
以下の1つまたは複数を調節する作用物質を同定するのに用いるシステムもまた本明細書に提供される:NFATタンパク質、NFAT制御タンパク質、および細胞内または細胞質カルシウム。そのようなシステムは、1つもしくは複数のタンパク質、例えば、本発明のNFAT制御タンパク質、またはその断片もしくは誘導体、例えば、ORAIタンパク質、またはその断片もしくは誘導体を含む細胞またはその部分を含む。一つの態様において、タンパク質は、細胞に対して外因性(異種性または相同性)である。一つの態様において、細胞は、NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする外因性(例えば、異種性または相同性)核酸を含む。一つの態様において、システムはさらに、細胞の原形質膜を横断する電流をモニタリング、検出、または測定するために用いられるモニタリング剤を含む。多くのそのようなモニタリング剤は当技術分野において公知である。「モニタリング剤」という用語はまた、そのようなモニタリングに用いられる任意の装置を含むと意図される。
【0117】
システムの特定の態様において、細胞内カルシウムを調節することに関与するタンパク質が細胞に含まれる。細胞は、そのようなタンパク質を内因的に発現する単離された細胞または細胞培養物であってもよく、または作用物質を同定するための方法に関して上で記載されているように、そのようなタンパク質を組換え技術によって発現する単離された細胞または細胞培養物、例えば、少なくとも1つのNFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現する組換え細胞であってもよい。細胞が組換え技術によってタンパク質を発現するシステムは、細胞が、単離された細胞もしくは細胞培養物であるか、または動物、特に、非ヒト動物、例えば、非ヒト哺乳動物の内部に含まれている。
【0118】
システムのタンパク質(および/またはタンパク質をコードする核酸)または細胞(またはその部分)は、受動的もしくは能動的細胞内カルシウム貯蔵の低減もしくは枯渇をもたらす作用物質(例えば、タプシガルジン、および本明細書に記載された、または当技術分野において公知の他の作用物質)を含む、ならびに/または細胞内カルシウムおよび/もしくはカルシウム移動のモニタリングもしくは測定を容易にする分子を含む培地に含まれうる。そのような分子には、蛍光(または他の方法で標識された)カルシウム指示薬、三価陽イオン、カルシウム以外の二価陽イオン、およびカルシウム緩衝剤、例えば、カルシウムキレート剤が挙げられる。
【0119】
組換え細胞
本発明の局面はさらに、本明細書で考察された方法に記載されたアッセイに用いられる組換え細胞に関する。一つの局面において、本発明はまた、本明細書に記載された任意の組換え細胞を含む。一つの態様において、組換え細胞は、少なくとも1つの外因性(異種性または相同性)NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を含む。組換え細胞はまた、さらに、NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体をコードする少なくとも1つの外因性(異種性または相同性)核酸を含む。NFAT制御タンパク質は哺乳動物起源でありうる。組換え細胞は、NFAT制御タンパク質またはその断片もしくは誘導体を過剰発現しうる。この過剰発現は、外因性(異種性または相同性)NFAT制御タンパク質(例えば、外因性核酸由来)の発現に起因しうるか、または天然/内因性NFAT制御タンパク質の過剰発現に起因しうる。
【0120】
トランスジェニック動物
本発明は、NFAT制御因子を過剰発現する、NFAT制御因子を異所的に発現する、低下したレベルのNFAT制御因子を発現する、突然変異体NFAT制御因子を発現する、またはNFAT制御因子の発現についてノックアウトされるように操作されている非ヒトトランスジェニック動物を提供する。そのような動物およびそのような動物由来の細胞株は、NFAT制御タンパク質の機能および/または活性を研究するために、ならびにNFAT制御因子活性の調節因子を同定および/または評価するために、有用である。NFAT制御因子ポリペプチドを過剰発現する動物は、例えば、NFAT制御因子ポリペプチドの活性を調節するための候補化合物の効果を試験する、および化合物の効果をインビボで評価するために有用である。
【0121】
本明細書に用いられる場合、「トランスジェニック動物」は、非ヒト動物、一般的に、哺乳動物、例えば、ラットまたはマウスなどの齧歯類であり、動物の細胞の1つまたは複数が導入遺伝子を含む。トランスジェニック動物の他の例には、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、ニワトリ、両生類などが挙げられる。導入遺伝子は、外因性DNA、または再編成、例えば、内因性染色体DNAの欠失であり、たいていの場合、トランスジェニック動物の細胞のゲノムへ組み込まれるか、または存在する。導入遺伝子は、トランスジェニック動物の1つもしくは複数の細胞型または組織においてコードされた遺伝子産物の発現を指示することができる;他の導入遺伝子、例えば、ノックアウトは、発現を低下させる。従って、トランスジェニック動物は、例えば、動物の発生前に動物の細胞(例えば動物の胚細胞)に導入された外因性DNA分子と内因性遺伝子との間の相同組換えによって、内因性NFAT制御遺伝子が変化しているものでありうる。
【0122】
イントロン配列およびポリアデニル化シグナルもまた、導入遺伝子の発現の効率を増加させるために導入遺伝子に含まれうる。組織特異的制御配列は、特定の細胞にNFAT制御タンパク質の発現を指示するように本発明の導入遺伝子に機能的に連結しうる。トランスジェニック創始動物は、そのゲノムにおけるNFAT制御因子導入遺伝子の存在、および/または動物の組織もしくは細胞におけるNFAT制御因子mRNAの発現に基づいて同定されうる。トランスジェニック創始動物は、その後、導入遺伝子を有するさらなる動物を作製するために用いられうる。さらに、NFAT制御タンパク質をコードする導入遺伝子を有するトランスジェニック動物はさらに、他の導入遺伝子を有する他のトランスジェニック動物へ交配されうる。
【0123】
NFAT制御タンパク質またはポリペプチドは、トランスジェニック動物または植物に発現させることができ、例えば、タンパク質またはポリペプチドをコードする核酸が動物のゲノムへ導入されうる。好ましい態様において、核酸は、組織特異的プロモーター、例えば、乳または卵特異的プロモーターの制御下に置かれ、動物により産生された乳または卵から回収される。適した動物は、マウス、ブタ、ウシ、ヤギ、およびヒツジである。
【0124】
一つの非限定的な例において、マウスは、当技術分野において公知の方法を用いて、LCKプロモーターなどのT細胞特異的プロモーターを用いてNFAT制御因子ポリペプチドを発現するように操作される(例えば、Zhang et al., 2002, Nat. Immunol. 3:749-755)。代替の例において、マウスは、NFAT制御因子mRNAおよびタンパク質の組織特異的ノックダウンにより、例えば、リコンビナーゼの発現が組織特異的プロモーターの制御下である、Cre-lox媒介型組換えにより、操作される。操作された動物は、細胞における導入遺伝子の存在を同定する公知の方法を用いて、およびNFAT制御因子の過剰発現もしくは過小発現について細胞試料(例えば、T細胞)を評価することにより(例えば、免疫細胞化学法を用いて)、または試料由来の細胞におけるカルシウム流束を評価することにより、同定されうる。そのようなトランスジェニック動物は、例えば、化合物を、NFAT制御因子媒介性細胞増殖を阻害するそれらの能力について試験するのに、有用である。
【0125】
本発明はまた、トランスジェニック動物由来の細胞の集団を含む。そのような動物から一次、二次、および不死化細胞株を発生させる方法は、当技術分野において公知である。
【0126】
薬学的組成物
治療的適用について、本発明のペプチドおよび核酸、NFAT制御因子に対する抗体、または本発明のスクリーニング方法により同定された作用物質、例えば、小分子、siRNA、shRNAは、哺乳動物、特にヒトなどの被験体に、単独で適切に投与されてもよく、または1つもしくは複数の許容される担体および任意で他の治療用成分と共にペプチド、核酸、抗体、もしくは作用物質を含む薬学的組成物の一部として、適切に投与されてもよい。担体は、製剤の他の成分と適合性であり、かつそのレシピエントに対して有害でないという意味で「許容され」なければならない。
【0127】
本発明の薬学的組成物には、経口、直腸、鼻腔内、例えば頬および舌下を含む局所、粘膜、または例えば皮下、筋肉内、静脈内、および皮内を含む非経口の投与に適したものが挙げられる。製剤は、単位剤形、例えば、錠剤および徐放性カプセルで、ならびにリポソームで都合よく提供されてもよく、および薬学の分野において周知の任意の方法により調製されうる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa. (17th ed. 1985)参照。
【0128】
そのような調製方法は、1つまたは複数の副成分を構成する担体などの投与される成分でありうる分子と会合させる段階を含む。一般的に、組成物は、活性成分を液体担体、リポソーム、もしくは微粉化した固体担体、または両方と均一かつ密接に会合させ、その後、必要に応じて、生成物を成形することにより調製される。
【0129】
経口投与に適した本発明の組成物は、例えば、所定量の活性成分をそれぞれ含むカプセル、カシェ剤、もしくは錠剤などの個別単位として;粉末もしくは顆粒として;水性液体もしくは非水性液体における溶液もしくは懸濁液として;または水中油液体乳濁液もしくは油中水液体乳濁液として、もしくはリポソームに詰め込まれて、およびボーラスとして、提供されうる。
【0130】
錠剤は、圧縮または成形により、任意で1つまたは複数の副成分と共に、作製されうる。圧縮錠剤は、適した機械において活性成分を粉末または顆粒などの易流動性の形に、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤、または分散剤と混合して、圧縮することにより調製されうる。成形錠剤は、適した機械において、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を成形することにより作製されうる。錠剤を、任意で、コーティングしてもよく、または切れ目を入れてもよく、その中の活性成分の持続または制御放出を提供するように製剤化してもよい。
【0131】
局所投与に適した組成物は、フレーバー基剤、通常、スクロースおよびアラビアゴムまたはトラガカントゴム中に成分を含むロゼンジ;ならびにゼラチンおよびグリセリン、またはスクロースおよびアラビアゴムなどの不活性基剤中に活性成分を含む香錠を含む。
【0132】
非経口投与に適した組成物には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および意図するレシピエントの血液に対して製剤を等浸透圧にする溶質を含みうる水性および非水性滅菌注射液;ならびに沈殿防止剤および濃化剤を含みうる水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単位用量または複数回用量の容器、例えば、密閉アンプルおよびバイアルで提供されてもよく、ならびに使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用蒸留水の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵されてもよい。即時の注射液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製されうる。
【0133】
本治療用物質の適用は、しばしば、関心対象の部位に投与されるように、局所的である。注射、カテーテルの使用、トロカール、発射体、プルロニックゲル、ステント、持続性薬物放出ポリマー、または内部アクセスを与える他の装置などの様々な技術が、本組成物を関心対象の部位に供給するために用いられうる。器官または組織が患者からの採取のためにアクセス可能である場合、そのような器官または組織を、本組成物を含む培地に浴させてもよく、本組成物を器官上に塗布してもよく、または本組成物を任意の都合の良い方法で適用してもよい。組織ターゲティング(例えば、抗体)を備えたリポフェクション、リポソームを用いる核酸の全身投与もまた用いられうる。
【0134】
所定の治療に用いられる、所定の本発明のペプチドもしくは核酸の、または本発明のスクリーニング方法により同定された抗体もしくは作用物質の、実際の好ましい量は、利用する特定の活性ペプチドまたは核酸または作用物質、製剤化された特定の組成物、適用様式、特定の投与部位、患者の体重、全体的な健康状態、性別など、処置する特定の適応症など、および付添う医師または獣医師を含む当業者により認識されている他のそのような因子によって異なることは理解されていると思われる。所定の投与プロトコールについての最適な投与速度は、通常の用量決定試験を用いて当業者により容易に決定されうる。
【0135】
本発明の様々な態様は、以下の実施例においてさらに例証される。本文書を通して他の刊行物または開示についてなされたすべての言及は、本明細書に参照により組み入れられる。
【0136】
実施例1:SCID患者におけるCa
2+放出活性化Ca
2+(CRAC)チャネル遺伝子ORAI1の同定
材料および方法:
症例報告
この研究において調べられた2人のSCID患者の詳細な症例報告が記載されている(Feske 1996, 2000)。
【0137】
細胞株および試薬
T細胞株を、2人の患者および21人の親族メンバーの末梢血リンパ球から樹立し、記載されているように
48増殖させた。新生児SCID患者2および健康な新生児(Hs27細胞株、ATCC、Manassas, VA)由来の包皮線維芽細胞を、テロメラーゼ発現プラスミド(hTERT、S. Lessnick, DFCI, Boston, MAの親切な贈与)のレトロウイルス形質導入により不死化した。マイクロファージ血球様ショウジョウバエ細胞株S2R
+を、10%ウシ胎児血清を含むシュナイダー培地(Invitrogen)で標準プロトコールに従って増殖した。タプシガルジンを、LC Biochemicals(Woburn, MA)から、カルブドトキシン(CTX)および2-アミノエトキシジフェニルボレート(2-APB)をSigma(St. Louis, MO)から購入した。
【0138】
一塩基多型(SNP)アレイに基づいた連鎖解析
SCID患者および21人の親族のゲノムDNAを、ゲノムDNA Maxi prepキット(Qiagen)を用いて、末梢血単核細胞から調製した。遺伝子型決定を、SNP Genotyping Center(Broad Institute, Cambridge, MA)およびHarvard Partners Center for Genetics and Genomics(Boston, MA)で、「GeneChip」Human Mapping 10K Arrays(Xba 142 2.0, Affymetrix, Santa Clara, CA)を用いて行い、0.38の平均SNPヘテロ接合性および258kbの平均マーカー間密度であった。このプラットフォームは、ヒトゲノムにおける10,000個より多いSNPの同時的遺伝子決定を可能にした。パラメトリック連鎖解析について、データを、「比較連鎖」
49を用いて「連鎖」型式へ変換した。親遺伝子型と矛盾するメンデルの遺伝子型エラーを検出し、不明遺伝子型に設定した。多点パラメトリック連鎖解析を、Allegro
50を用いて各SNP位置におけるLODスコアを計算するように行った。連鎖を確認するために、本発明者らは、Genehunter 2.1r6
51およびMerlin
52を用いてSNPデータを再分析し、非常に類似した結果を得た。パラメトリック解析について、0.001の疾患対立遺伝子頻度、0.99の浸透度値、および0.01の表現型模写を全系図について用いた。パラメトリック連鎖解析を、遺伝の劣性および優性モデルのそれぞれを用いて行った。「劣性」モデルについて、両方の患者、彼らの親、罹患していない兄弟、および祖父母(
図1Aにおける個体8、11、35、36、37、38、39、63、64)由来のハプロタイプを、SCID疾患についての遺伝の常染色体劣性型を仮定して解析し、両方のSCID患者は、一般的な疾患原因突然変異についてホモ接合性であった。この解析からの予想最大オッズ比のlog
10(LOD)スコアは〜1.9(すなわち、-log
10[0.25×0.25×0.25×0.75])であった。「優性」モデルについて、貯蔵量作動性Ca
2+流入の低下をもつ12人の親族メンバーが「罹患した」、すなわち、優性作用性突然変異の保因者として定義され、それらのSNPハプロタイプを、正常な貯蔵量作動性Ca
2+流入をもつ8人の健康な親族メンバーのSNPハプロタイプと比較した。この解析からの予想最大LODスコアは〜3.8(すなわち、-log
10[0.5
12])であった。
【0139】
ゲノムDNA配列決定
2人の患者、21人の親族メンバー、および3人の独立した対照のゲノムDNAを、以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてOrail1のエクソン1および2における突然変異について配列決定した。
DNAを、AmpliTaq Goldポリメラーゼを用いて増幅し、1%アガロースゲル上で分離した。PCR産物をゲル精製し、以下のプライマーを用いて直接配列決定した。
配列決定は、DF/HCC DNA Resource Core(DFCI)において行い、DNA配列は、Xplorer Lite (dnaTools, Ft. Collins, CO)を用いて分析した。
【0140】
HapMap DNAのSequenom分析
Orai1(NM_032790)のコード配列における271位におけるC>T点突然変異がSNPである可能性を排除するために、本発明者らは、International HapMapプロジェクト
30,31のために構築された多様な地理的起源の270個の個体のパネル由来のDNAを調べた。遺伝子決定は、以前に記載されているように
53、ハイスループットプライマー伸長方法を用いて、Sequenomプラットフォーム上での質量分析(MALDI-TOF)による検出と共に行った。この方法の詳細な説明は、「Sequenomプラットフォーム」下のhttp://www.hapmap.org/downloads/genotyping_protocols.htmlに見出されうる。試料の89%は遺伝子決定に成功し、すべてがCCホモ接合体として同定された。
【0141】
ショウジョウバエ細胞におけるdsRNA媒介性ノックダウン
PCR断片(最大600bpまでのサイズ)をインビトロ転写反応のための鋳型として用い、続いて、鋳型DNAを除去するためにDNアーゼI処理を行った。精製後、dsRNA(5μg)を、8チャンバーのスライドにおいて(12ウェルプレートについては10μg)、S2R+細胞へNFAT-GFP発現プラスミドと共に同時トランスフェクションした。インキュベーションの72時間後、局在性アッセイのために、細胞をCa
2+流入誘導物質、1μMイオノマイシンまたは1μMタプシガルジンで処理し、[Ca
2+]iレベルの測定のためにトリプシン処理した。
【0142】
ゲノムワイドのRNAiスクリーニング
RNAiスクリーニングを記載されているように行った(Armknecht S. et al., 2005, Methods Enzymol 392, 55-73; Btros M. et al. 2004 Science 303, 832-835)。マクロファージ血球様ショウジョウバエ細胞株S2R+に、発現プラスミドpAc5.1(Invitrogen)へサブクローニングしたNFAT1(1〜460位)-GFP融合タンパク質についてのコード配列を安定にトランスフェクションした。トランスフェクションは、Effectene(Qiagen)を用いて、比率19:1の発現プラスミド対pCoHygro(Invitrogen)(恒常的活性プロモーターの制御下でハイグロマイシン抵抗性遺伝子をコードする)で達成した。細胞を、300μg/mlハイグロマイシンで3〜4週間選択し、安定なクローンを目視検査によって選択した。NFAT1(1〜460位)-GFPを発現する10
4個のS2R
+細胞を、0.25μgのショウジョウバエmRNAに対するdsRNA(10μlの無血清培地中)を含む384ウェルプレートの各ウェル上に加え、26℃で1時間インキュベートし、RNAiを達成するために26℃で48〜72時間インキュベートした。S2R
+細胞を、5mM CaCl
2を含むシュナイダー培地において1μMタプシガルジンで、室温、10分間刺激し、固定し、DAPIで染色した。同時GFPおよびDAPI画像を、各ウェルにおいて3つの異なる位置から自動カメラにより取得し、目視検査によりスコアを付けた。個々のdsRNAがアレイされている合計21,884ウェルを含む、合計58個の384-プレートを分析した。この研究について、dStimおよびdOraiの両方についてのdsRNA単位複製配列は、19ヌクレオチドまたはそれ以上の完全な一致をもつ予想されるオフターゲットはなかったことを述べておく。
【0143】
プラスミドおよびレトロウイルス形質導入
Orai1についての完全長cDNA(BC015369)を、OpenBiosystems(Huntsville, AL)から購入し、pENTR11(「Gateway」system, Invitrogen, Carlsbad, CA)へmycエピトープをコードするN末端またはC末端の末端配列とインフレームでサブクローニングした。その後、Orai1を、バイシストロン性レトロウイルス発現ベクターpMSCV-CITE-eGFP-PGK-Puro(Masatsugu Oh-horaの親切な寄贈)へ移動させたが、それは、Orai1、GFP、およびピューロマイシン抵抗性遺伝子の同時発現を可能にする。gp293パッケージング細胞株に、orai1、gag-pol、およびenvをコードするプラスミドを同時トランスフェクションし、広宿主性複製無能レトロウイルスを産生した。ウイルス含有上清を24時間収集し、濾過し(0.45マイクロメートル、低いタンパク質結合性)、6000xgで16時間の遠心分離により濃縮した。T細胞および線維芽細胞に、それぞれ、4日間および1日間のウイルス上清の添加により、形質導入した。形質導入効率は、フローサイトメトリーを用いてGFP発現により評価し、myc-Orai1発現は、免疫ブロッティングおよび免疫細胞化学法を用いて評価した。場合によっては、形質導入したT細胞をさらに、1μg/mlピューロマイシンで3日間選択した。
【0144】
膜トポロジーのバイオインフォマティック予測
Orai1のヒドロパシープロットを、Kyte-Doolittleアルゴリズム
29を用いて作成した。膜トポロジーをさらに、隠れマルコフモデルに基づいたPhobiusアルゴリズム
26を用いて評価した。配列アラインメントは、MegAlign(DNAStar, Madison, WI)を用いて行った。
【0145】
共焦点イメージング
Orai1についての免疫細胞化学法を、記載されているように
11行った。簡単には、レトロウイルスで形質導入したT細胞および線維芽細胞を、3%パラホルムアルデヒドで固定し、非透過のままにしておく、または0.5%NP-40を含む水緩衝液で透過処理し、抗myc抗体(9E10)およびCy3標識二次抗体とインキュベートした。免疫蛍光を、63×水浸対物レンズを用いるBX50BWI Olympus顕微鏡上で、Radiance 2000レーザースキャニング共焦点システム(Bio-Rad Laboratories)を用いる共焦点イメージングにより分析した。
【0146】
単一細胞Ca2+イメージング
T細胞に、負荷培地(RPMI+10%FBS)中の1μM fura-2/AM(Molecular Probes)を1×10
6細胞/mlで22〜25℃で30分間負荷し、それらを負荷培地に再懸濁し、ポリ-L-リジンコーティング化カバースリップに15分間付着させた。線維芽細胞を、UV滅菌したカバースリップ上で直接増殖させ、それらに3μM fura-2/AMを22〜25℃で45分間負荷した。[Ca
2+]i測定について、細胞をRC-20閉鎖槽フローチャンバー(Warner Instrument Corp., Hamden, CT)に載せ、OpenLabイメージングソフトウェア(Improvision)を用いてAxiovert S200エピ蛍光顕微鏡(Zeiss)上で分析した。細胞を、Ca
2+を含まないリンガー液に灌流し、Ca
2+貯蔵を、1μMタプシガルジンで受動的に枯渇させた。貯蔵の能動的枯渇は、10μg/ml抗CD3抗体(OKT3, eBioscience, San Diego, CA)とのインキュベーションにより10分間22〜25℃で誘導した。Fura-2発光を、340nmおよび380nmで励起して、510nmで検出し、Fura-2発光比(340/380)を、バックグラウンドの引き算後、各5分間隔について計算した。各実験について、約100個の個々の細胞を、Igor Pro(Wavemetrics, Lake Oswego, OR)分析ソフトウェアを用いて340/380比について分析した。[Ca
2+]iは、比較式[Ca
2+]i=K
*(R-R
min)/(R
max-R)から推定した。K
*、R
min、およびR
maxは、以前に記載されているように
54、インサイチューで対照ヒトT細胞において測定した。Ca
2+流入比は、0.2mM細胞外Ca
2+の再添加後のCa
2+濃度における上昇(d[Ca
2+]i/dt)の最大比から計算した。
【0147】
S2R+細胞におけるCa
2+流入を、トリプシン(CellGro, Herndon, VA)で細胞をディッシュから剥離した後にフローサイトメトリーにより測定した。細胞に、Ca
2+指示薬色素Fluo4-AMおよびFura-Red(それぞれ、2μM、Molecular Probes, Eugene, OR)を室温で45分間負荷し、その後、負荷培地(シュナイダー培地+10%FCS)に再懸濁した。フローサイトメトリーのCa
2+測定の直前に、細胞を、2mM Ca
2+を含むリンガー液に再懸濁し、FACSCalibur(BD Biosciences, San Jose, CA)上で分析した。細胞内Ca
2+貯蔵を枯渇させるためのCa
2+を含まないリンガー中のタプシガルジン(3μM)の30秒後、4mM Ca
2+リンガー液を加え、細胞Ca
2+レベルを300秒間モニタリングした。Fluo-4とFura-Red発光の比は、FloJoソフトウェア(Tree Star, Inc., Ashland, OR)を用いて分析した。
【0148】
溶液および化学物質
標準細胞外リンガー液は以下を含んだ(mM単位):155 NaCl、4.5 KCl、20 CaCl
2、1 MgCl
2、10 D-グルコース、および5 Na-Hepes(pH 7.4)。二価を含まない(DVF)標準リンガー液は以下を含んだ(mM単位):155 Na、10 HEDTA、1 EDTA、および10 Hepes(pH 7.4)。カリブドトキシン(CTX)は、Kv1.3チャネルを遮断して、DVF溶液におけるI
CRAC記録の混入を防止するために全外液に含めた。標準内部溶液は以下を含んだ(mM単位):150 Cs-アスパラギン酸、8 MgCl
2、8 BAPTA、および10 Cs-Hepes(pH 7.2)。
【0149】
タプシガルジン(LC Biochemicals, Woburn, MA)は、DMSO中の1mMストックから希釈し、CTX(Sigma, St. Louis, MO)は、水中の50μMストック溶液から1:1000に希釈した。2-アミノエトキシジフェニルボレート(2-APB, Sigma)は、DMSO中のストック溶液から希釈した。薬物を、説明文に示された濃度まで希釈し、一般的な送達ポートを有するマルチバレル局所灌流ピペットを用いて細胞へ適用した。90%溶液交換についての時間は、外部[K
+]が2mMから150mMへ切り替わった時のK
+電流逆転電位が変化する速度に基づき、<1 sであると測定した。
【0150】
パッチクランプ測定
パッチクランプ実験は、ITC-16入力/出力ボード(Instrutech, Port Washington, NY)およびMacintosh G3コンピューターにインターフェイスで接続したAxopatch 2000増幅器(Axon Instruments, Foster City, CA)を用いて22〜25℃で標準ホールセル記録構成で行った。記録電極を100μlピペットから引き抜き、Sylgardでコーティングし、先端を熱加工して2〜5MΩの最終抵抗にした。刺激およびデータ獲得および分析は、Igor Proプラットフォーム(Wavemetrics, Lake Oswego, OR)で開発された施設内の慣例を用いて行った。保持電位は、他に規定がない限り、+30mVであった。電圧刺激は、通常、1.3sごとに加えられる、-100mVまでの100-msステップ、続いて-100mVから+100mVまでの100-ms傾斜からなる。電流は、4極のBesselフィルターを用いて2kHzで濾過し、5kHzでサンプリングした。データは、槽のリンガー液に対するピペット溶液の液間電位について(-10mV)、および槽接地寒天橋のリンガー液に対する槽DVF溶液について(+5mV)、補正する。ノイズ分析について、200-msスイープを-100mVの保持電位において3Hzの速度で得、5kHzにおいてデジタル化し、2kHzにおいてAxopatch 200増幅器の内部Besselフィルターを用いて低域フィルタリングした。平均および分散は、デジタル化データの100-msセグメントから計算した。
【0151】
データ解析
特に断りのない限り、全データは、2μM La
3+か、またはBAPTAによる受動的透析中のI
CRAC誘導前に収集されたトレースかのいずれかで、収集した漏洩電流について補正した。透過性比(P
Cs/P
Na)は、以下の方程式を用いて2イオン性逆転電位(biionic reversal potential)から計算した:
R、T、およびFはそれらの通常の意味をもち、E
revは逆転電位である。
【0152】
序論
Ca
2+は、ほとんどすべての細胞型における必須の二次メッセンジャーである。特に、原形質膜を横断する持続性Ca
2+流入は、リンパ球活性化および適応免疫応答にとって重大である
1。Tリンパ球およびBリンパ球の表面抗原受容体による抗原認識は、複数のチロシンキナーゼの活性化、ならびに多様なアダプターおよびシグナル伝達タンパク質を含む大きな足場複合体の構築を含む、精巧なシグナル伝達カスケードを誘発する。初期の生化学的結果は、PLCγの活性化であり、それは、IP
3を生成することにより小胞体(ER)からCa
2+を放出する;結果として生じる内腔ER Ca
2+における減少は、Ca
2+放出活性化Ca
2+(CRAC)チャネルと呼ばれている、非常に特異的な電気生理学的性質をもつ「貯蔵量作動性」Ca
2+チャネルの類を開く
1-3。CRACチャネル開口は、結果として、原形質膜を横断するCa
2+イオンの持続性流入を生じ、細胞内遊離Ca
2+([Ca
2+]i)レベルの持続性上昇を促進し、タンパク質ホスファターゼ、カルシニューリンを含む多様なCa
2+/カルモジュリン依存性酵素を活性化する;最終的結果は、増殖およびエフェクター免疫機能に必要とされるCa
2+依存性転写経路の活性化である
4,5。主要なCa
2+制御性転写因子の一つは、休止細胞の細胞質に存在する高度リン酸化タンパク質のファミリーである、NFATである
5。持続性Ca
2+流入は、結果として、カルシニューリンによるNFATの脱リン酸化を生じ、その核への移行を促進し、そこで、それは、多数の活性化関連遺伝子の発現を作動させる
4,6。
【0153】
大量の薬理学的、電気生理学的、および遺伝学的証拠が、CRACチャネルは発達中および成熟T細胞の両方におけるCa
2+流入の主要な経路であり、それに従って、リンパ球発達および機能の本質的にすべての局面をうまく調整するという概念を支持している
1,7。細菌およびウイルス感染の顕著な性向を有する幼児として示される、遺伝性重症複合型免疫不全症(SCID)をもつ患者の2つの親族の分析により、主な欠陥が、患者のリンパ球における貯蔵量作動性Ca
2+流入の欠如であることが明らかにされた
8-10。患者の1親族由来のT細胞株の詳細な分析により、そのT細胞受容体を通して活性化された細胞、またはSERCA Ca
2+ポンプのインヒビターであるタプシガルジンで処理された細胞における、貯蔵量作動性Ca
2+流入の相応じての重度の障害に続発する、NFAT脱リン酸化、核移行、およびNFAT依存性遺伝子の活性化の重度の障害が明らかにされた
10。患者のT細胞の電気生理学的分析により、CRACチャネル機能のほとんど完全な欠如が確認された
11。合わせると、これらのデータは、リンパ球活性化および免疫防御のためのCRACチャネルおよび貯蔵量作動性Ca
2+流入の決定的な重要性を浮き彫りにしている。
【0154】
CRACチャネルの薬理学的および電気生理学的性質は、かなり詳細に記載されているが
1,12,13、その分子同定は、現在まで捕らえどころがないままであった。チャネルの重要な生物物理学的に顕著な特徴は、一価陽イオンを超えるCa
2+への高選択性、低い単一チャネルコンダクタンス(<1 pS)、内向き整流性I-V関係、有意な電圧依存性開閉の欠如、細胞内Ca
2+による迅速な非活性化、μM以下のLa
3+による細胞外遮断、および2-APBによるチャネル性質の調節を含む
1,13,14。イオンチャネルのTRPファミリーに属するいくつかの候補遺伝子がCRACチャネルをコードすると提唱されており、TRPC1
15、TRPC3
16、およびTRPV6
17,18、加えて電圧依存性Ca
2+(Ca
V)チャネル
19,20を含む。しかしながら、TRPが、いくつかの細胞株において異種性発現後、貯蔵量依存性であるという証拠は矛盾しており
21,22、候補はいずれも、CRACチャネルの生物物理学的性質の全部を示すわけではない。以前のSCID患者の細胞における配列分析および補完研究は、CRACチャネル機能の欠陥における、TRPC3、TRPV5、およびTRPV6を含むいくつかのTRPファミリーメンバーについての役割を確立することができなかった
11。最近になって、I型膜タンパク質STIM1およびSTIM2が、貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル機能に必須であることが示された
23,24。STIM1は、ER Ca
2+貯蔵の充満状態をそのEFハンドドメインを介して「感じ」、それに従って、貯蔵枯渇をCRACチャネルの開口に共役させることが示唆されている。しかしながら、STIM1もSTIM2もいずれも、SCID患者において突然変異しておらず、SCID T細胞におけるSTIM1の発現は、結果として、Ca
2+流入欠陥の補完を生じなかった
11。
【0155】
ここで、本発明者らは、貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル機能にとって重大な新規なタンパク質の同定を記載する。本明細書でOrai1と名付けられたタンパク質が、以下の2つの不偏性の遺伝的アプローチを用いて同定された:SCID患者において突然変異した遺伝子を同定するための改変連鎖解析、ならびに貯蔵量作動性Ca
2+流入およびNFAT核内への輸送の制御因子を同定するためのショウジョウバエにおけるゲノムワイドなRNAiスクリーニング。これらの2つのアプローチの組み合わせは、単一の候補遺伝子を突きとめた。本発明者らは、ショウジョウバエOraiのRNAi媒介性枯渇が、ショウジョウバエStimに対するRNAiと同じくらい効果的に貯蔵量作動性Ca
2+流入を抑止することを示す。本発明者らはさらに、Orai1における点突然変異がSCID患者におけるCa
2+流入欠陥の原因であること、およびSCID T細胞および線維芽細胞の野生型Orai1での補完が貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル電流(I
CRAC)を再構成することを示す。再構成された電流の薬理学的および電気生理学的性質は、対照T細胞における内因性I
CRACのそれらと区別できない。Orai1の一次配列は、4つの膜貫通ドメインを予測し、エピトープタグ付きOrai1の免疫細胞化学法は、そのタンパク質が原形質膜に、または近くに局在していることを示している。
【0156】
結果
ヘテロ接合性疾患保因者の表現型同定
2人のSCID患者は同族の両親の下に生まれ、SCID患者の親もSCID患者の親族のいずれの他のメンバーも免疫不全の臨床症状を示さなかったため、常染色体劣性遺伝様式を示唆した(
図1A)。さらに、SCID患者の両親由来のT細胞は、2mM細胞外Ca
2+の存在下においてほとんど正常な貯蔵量作動性Ca
2+流入を示した
10。親のT細胞におけるCa
2+流入の潜在的欠陥の仮面をはぐために、本発明者らは、タプシガルジン媒介性貯蔵枯渇後、Ca
2+流入の初速度(本明細書では、細胞内遊離Ca
2+濃度の変化の初速度として定義される、d[Ca
2+]i/dt)を測定したが、2mMから0.2〜0.5mMへCaCl
2の細胞外Ca
2+濃度を低下させることによりCa
2+流入の原動力を減少させた。これらの条件下で、両方の両親由来のT細胞におけるピークCa
2+レベルおよびCa
2+流入速度は、野生型対照T細胞に観察されたものの〜50%またはそれ未満であった(
図1B)。本発明者らは、この所見が、両親がSCID患者における原因突然変異のヘテロ接合性保因者であったという事実に起因する、潜在的遺伝子量効果を反映していると仮定した。
【0157】
本発明者らは、より拡大した系図においてそのような突然変異の他の潜在的ヘテロ接合性保因者を同定するためにこのアッセイを用いた。血液試料を19人の追加の親族メンバー(
図1A)から入手し、T細胞株を作製し、Ca
2+流入表現型を、インビトロの表現型分析により評価した。13人の親族メンバーは、一貫して、8人の他の親族メンバーおよび親族でない対照由来のT細胞と比較して、ピークCa
2+流入の低下およびCa
2+流入の初速度の減少を示した(
図1C)。2nM/s未満のCa
2+流入速度の任意のカットオフを、潜在的ヘテロ接合性疾患保因者と非罹患(ホモ接合性野生型)個体を区別するために用いた(
図1C)。このカットオフでの、親族内の推定ヘテロ接合性保因者の分布は、常染色体優性遺伝様式と完全に適合するように思われる(
図1A)。
【0158】
ゲノムワイドなSNPアレイスクリーニングによる連鎖マッピング
SCIDファミリーの23個のメンバー由来のゲノムDNAを、ゲノムワイドなSNPアレイを用いる遺伝子型決定に用いた。SNPデータは、2つの独立した連鎖解析を用いて評価した。第一の解析は、臨床表現型に基づいて常染色体劣性遺伝様式を仮定し、2人の患者、彼らの両親、彼らの罹患していない兄弟、および彼らの祖父母由来のDNAを解析した(
図1Aにおいて灰色斜線部分により示された、系
図A)。対照的に、第二の解析は、系図の残りを完全に独立した解析において利用した。ここでは、インビトロでの表現型解析による疾患突然変異のヘテロ接合性保因者を同定する本発明者らの能力に基づいて、常染色体優性遺伝様式を仮定した(
図1Aにおいて緑色四角形により示された、系
図B)。重要なことには、第一解析は、個体のヘテロ接合性表現型状態を考慮せずに行い、第二(優性遺伝)は、大きな系図において、2つの関連していない半分として(親35および36の親族は独立して処理する)、これらの2つの解析の結果が完全に独立しているように行った。従って、これらの2つの実行の分析を、3つの独立した系図(1つのホモ接合性マッピング実行および2つの非関連優性系図)から出たとみなし、これらからのパレメトリックLODスコアを単に加えるだけで統計学的にロバストな複合LODスコアを得ることができる(材料および方法参照)。
【0159】
劣性形質(系
図A)のパラメトリック連鎖解析は、1.5〜1.9のLODスコアをもつ6つの染色体上に6つの領域を同定した − これらのうちの1つはその遺伝子を含むことがほぼ確実であるが、この最大LODスコアが偶然、数倍に達することは十分に予想され、従って、ホモ接合性マッピングはこの遺伝子をマッピングするだけでは十分ではない。十分には、優性解析は、〜3.8のLODスコアをもつ、ホモ接合性マッピング解析において同定された6つの領域の1つと重複する、染色体12q24上に固有の領域を同定した。これらの2つの連鎖解析の組み合わせは、連鎖を支持する〜500,000:1のオッズを表す5.7の高度に有意な累積LODスコアをもつ重複する〜9.8Mb候補領域を限定した。この領域は、SNP_A-1514003およびSNP_A-1510776(115.49Mb〜125.27Mb)の間に位置する。この結論の裏付けとして、ゲノムのいずれの他の領域もゼロを超える累積LODスコアを有しなかった。表現型解析に基づいたヘテロ接合性疾患保因者状態の間違った割当はこの大きさの偽陽性を生じるよりむしろ総合LODスコアを減少させるため、本発明者らの新規な劣性および優性解析の組み合わせは、突然変異体遺伝子への連鎖の非常に高い確率をもつゲノム領域を同定することに成功している。
【0160】
Ca
2+シグナル伝達またはCa
2+結合における潜在的役割をもつこの領域における6つの既知の遺伝子(PLA2G1B、CABP1、P2RX7、P2RX4、CAMKK2、PITPNM2)のゲノム配列決定によって、エクソンまたは直接隣接したゲノム領域においていかなる突然変異も明らかにされなかった。しかしながら、それは、患者がヘテロ接合性であるPITPNM2における数個のSNPに基づいて、〜9.8Mbから〜6.5Mbまで候補ホモ接合性領域の範囲を絞り込むことを可能にした。〜6.5Mb区間は〜74個の遺伝子を含み、そのうちの16個は、「仮定上のタンパク質」または可能性のある遺伝子座として注釈を付けられいた(ヒトゲノムアセンブリー、NCBI build 35.1)。これらのうち、2つは、TMHMMおよびPhobiusアルゴリズムを用いて膜貫通ドメインを含むことが予想された(KIAA0152およびFLJ14466)
25,26。
【0161】
ショウジョウバエにおけるゲノムワイドなRNAiスクリーニングは貯蔵量作動性Ca2+流入の新規な制御因子としてolf186F(dOrai)を同定する
位置クローニングの試みと並行して、本発明者らは、CRACチャネルの構成要素およびCRAC活性化へ導くシグナル伝達経路を同定する独立した方法として、ショウジョウバエにおいてNFAT制御因子についてのゲノムワイドなRNAiスクリーニングを行った。NFAT-GFP融合タンパク質を安定に発現するショウジョウバエS2R+細胞を、遺伝子発現のノックダウンに達するように〜21,000個のショウジョウバエ遺伝子のそれぞれに対するアレイdsRNAと共に3日間インキュベートした。その後、細胞を、Ca
2+貯蔵を枯渇させるためにタプシガルジンで10分間刺激し、それに従って、貯蔵量作動性Ca
2+流入およびNFAT-GFPの核移行を活性化させた。その後、細胞を固定し、細胞を含むウェルをロボットにより写真撮影し、NFAT-GFPの細胞内分布を目視検査で評価した。枯渇がNFAT核移行に干渉する陽性候補の中に、いくつかの予想されるCa
2+/カルシニューリン/NFATシグナル伝達経路の制御因子があり、カルシニューリンB(CanB)、カルシニューリンA(CanA-14F)、およびショウジョウバエStimを含んだ
24,27。
【0162】
一つの陽性候補、olf186Fは、その3つのヒト相同体の1つをコードする遺伝子が、12q24におけるSCID突然変異に結びつけられる6.5Mbホモ接合性ゲノム領域内に位置したため(仮定上のタンパク質FLJ14466、NM_032790、NP_116179)、注目に値した。下記で考察する理由により、olf186Fおよび12q24におけるそのヒト相同体は、それぞれ、ショウジョウバエOrai(dOrai)およびヒトOrai1と名付けられた;他の2つのヒト相同体、第7染色体上に位置するC7Orf19および第16染色体上に位置するMGC13024は、Orai2およびOrai3と名付けられた(
図3A)。ショウジョウバエS2R+細胞において、dStimまたはdOraiのいずれかのRNAi媒介性枯渇は、NFAT-GFPの核移行および脱リン酸化を遮断した(
図2B)。同様に、dSTIMまたはdOraiのいずれかのノックダウンは、S2R+細胞においてタプシガルジン誘導性Ca
2+流入を完全に阻害した(
図2B)。これらのデータは、dSTIMおよびヒトSTIM1が、ショウジョウバエおよび哺乳動物細胞において、貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル活性化にとって必須であるという以前の報告を確認し
23,24,28、dOraiをショウジョウバエ細胞における貯蔵量作動性Ca
2+流入の第二の新規な制御因子として同定する。
【0163】
Orai1はSCID患者において突然変異している
本発明者らのデータはdOraiを貯蔵量作動性Ca
2+流入の第二の新規な制御因子として関係づけたため(
図2)、およびヒトOrai1についての遺伝子がSCID患者においてホモ接合性である12q24領域に位置していたため、本発明者らは、SCID欠陥がヒトOrai1における突然変異と関連しているかどうかを求めた(
図3)。
図1Aに示された23人の個体(患者および彼らの親族)由来のゲノムDNAを配列決定することにより、本発明者らは、両方のSCID患者がOrai1のエクソン1におけるミスセンスの突然変異についてホモ接合性であることを見出した。Orai1のコード配列の271位(NM_032790の444位)の突然変異、C>T転移は、そのタンパク質(NP_116179、
図3B)の91位において、高度に保存されたアルギニン残基の代わりにトリプトファンへの置換(R91W)をもたらす。突然変異した残基は、Kyte-Doolittle方法
29を用いてOrai1の疎水性を計算することにより予想される、Orai1における4つの可能性のある膜貫通セグメントの第一の最初に位置している(
図3B、3C)。すべての13個の表現型的に予想されたヘテロ接合性疾患保因者(
図1)は遺伝子型的には突然変異についてヘテロ接合性であるが(C/T)、健康な対照および非罹患親族メンバーは野生型対立遺伝子についてホモ接合性であった(C/C)。この位置における突然変異は、注釈付きSNPではなく(dbSNP Build 124)、これが単によくある多型であるという可能性はなくなる。この仮説を確認するために、本発明者らは、HapMapパネル(ユタ、イバダン(ナイジェリア)、東京、および北京からの合計270個体)全体においてこの多型をタイピングし、このパネルにおいて推定上の原因の「T」対立遺伝子の1つのコピーも見出さなかった(材料および方法、データ未提示)
30,31。これらのデータは、C>T転移が一般的な集団においてよくある配列変異体ではないことを明白に示している;従って、その突然変異は、SCID患者の祖先において自発的に生じた可能性が高く、疾患に強く関連している。
【0164】
Orai1の発現はSCID T細胞における貯蔵量作動性Ca2+流入を回復させる
本発明者らは、Orai1が、SCID患者由来のT細胞および線維芽細胞において野生型および突然変異体Orai1のN末端およびC末端エピトープタグ付き型を発現することによりSCID T細胞(および線維芽細胞)におけるCa
2+流入欠陥を補完するかどうかを求めた。バイシストロン性IRES-GFPベクターを用いるSCID T細胞または線維芽細胞におけるMyc-Orai1
WTのレトロウイルス発現は、GFP陽性細胞においてタプシガルジン処理に応答してCa
2+流入を回復させたが、GFP陰性細胞においては回復させず、一方、突然変異体R91>W Orai1(Myc-Orai1
R>W)のレトロウイルス発現はCa
2+流入を回復させなかった。Myc-Orai1
R>Wの、SCID T細胞および線維芽細胞においてCa
2+流入を回復させる能力の欠如は、突然変異体および野生型タンパク質が等価レベルで存在し、かつ免疫ブロッティング(データ未提示)および免疫細胞化学により判定される場合、原形質膜に、または近くに類似して位置しているように思われるため、Myc-Orai1
WTと比較した、Myc-Orai1
R>Wの異常発現のせいではなかった。本発明者らは、N末端およびC末端の両方が細胞質に配向し、そのため、抗体に近づきにくいというトポロジーと一致して、抗myc抗体で非透過性細胞を染色することができなかった(
図3C)。
【0165】
顕著には、Myc-Orai1
WTで再構築されたSCID T細胞(および線維芽細胞)におけるCa
2+流入は、2〜20mM細胞外Ca
2+が存在する場合、刺激されていないT細胞(または線維芽細胞)において生じなかったが、タプシガルジンでの貯蔵枯渇後のみ観察された(
図5A〜5D)。CRACチャネルを通しての貯蔵量作動性Ca
2+流入の決定的な特徴である、Orai1発現細胞におけるCa
2+流入の回復が貯蔵枯渇に依存すること、および恒常的に開いたCa
2+チャネルの発現または活性化のせいではないことを実証しているため、これは重要な所見である。Myc-Orai1
WTもまた、TCR架橋に応答してのSCID T細胞における貯蔵量作動性Ca
2+流入を回復させた。Orai1で補完された、SCID T細胞および線維芽細胞におけるタプシガルジン誘導性およびTCR誘導性Ca
2+流入の薬理学的特性は、まさしく、CRACチャネルを通してのCa
2+流入について予想されたものであった
12,32。75μM 2-APBまたは2μM La
3+での処理は、Ca
2+流入を阻害し(
図5A、5C、5D)、一方、低用量の2-APB(3μM)での処理は、[Ca
2+]iの明瞭なさらなる増加を引き起こしたが(
図5B)、Orai1
WT発現SCID T細胞における増加は、対照T細胞におけるものよりわずかに低かった(〜15%対〜23%)。まとめて考えると、これらの結果は、Orai1が、SCID患者のT細胞および線維芽細胞におけるCa
2+流入欠陥の原因となる遺伝子であるということを明らかに示している。
【0166】
Orai1の発現はSCID T細胞におけるICRACを回復させる
前の実験で見られたCa
2+流入の回復は、患者の細胞における活性CRACチャネルの再構成を反映することができた、またはCRACとは異なる、貯蔵量作動性Ca
2+透過性イオンチャネルの発現(または活性化)から起こることができた。これらの可能性の間を区別するために、本発明者らは、ホールセルパッチクランプ構造を用いて、野生型または突然変異(R91W)Orai1で再構成されたSCID細胞における貯蔵枯渇から生じる電流を詳細に特徴付けた。SCID T細胞に、バイシストロン性IRES-GFPベクターにおけるOrai1をレトロウイルスで形質導入し、上記のように、Orai1を発現する細胞を、GFP蛍光により同定した。本明細書に示された実験において、貯蔵枯渇は、パッチピペットに8mM BAPTAを含むことによるか、またはタプシガルジンでの処理によるかのいずれかにより達成させた。
【0167】
野生型Orai1で再構成されたSCID細胞において、パッチピペットにおける8mM BAPTAの包含は、20mM Ca
2+oにおける内向き電流のゆっくりした発生、続いて、細胞全体の侵入を引き起こし、貯蔵枯渇に応答したI
CRACの発生を連想させる(
図4A)
2,3。対照的に、Orai1のR91W突然変異体を発現するSCID T細胞は、この突然変異体タンパク質の貯蔵量作動性Ca
2+流入を再構成する能力の欠如から予想されるように、BAPTA(
図4C)またはタプシガルジン(データ未提示)のいずれの貯蔵枯渇後にもいかなる内向きCa
2+電流を出現させることができなかった。Orai1再構成SCID T細胞において観察された電流は、I
CRACの多くの重要な顕著な特徴を示した
11,33,34。第一に、唯一の電流キャリアがNa
+である、Ca
2+およびMg
2+を欠く二価を含まない溶液(DVF)を、20mM Ca
2+oにおける電流の完全発生後に加えた場合、最初はCa
2+電流よりずっと大きいが数十秒間に渡って減少する、内向きNa
+電流が観察された(
図4A)。脱増強(depotentiation)として知られたこのNa
+電流の減少は、ジャーカットT細胞、RBL細胞、およびヒトT細胞株におけるCRACチャネルの特徴を示す
11,33,34。第二に、Ca
2+およびNa
+電流の両方は、内向き整流性電流-電圧(I-V)関係を示した(
図4B)。20mM Ca
2+における内向き電流の逆転電位は>+90mVであり、公知のCa
2+に対するCRACチャネルの高選択性と一致したが、二価を含まない溶液における逆転電位は49±2mV(n=4細胞)であり、チャネルはパッチピペットにおいてCs
+イオンに対して弱い透過性であるのみで(P
Cs/P
Na=0.14)、一価イオンに対するCRACチャネルの選択性と一致した
33,35。第三に、Orai1補完電流のノイズ特性は、野生型T細胞におけるCRACチャネルのそれらと一致した(
図4D)
33。Na
+電流の脱増強中、分散は、29±4 fA(n=4細胞)の平均傾きで平均電流と線形に減少し、I
CRACの以前の測定のそれと類似して単位電流の下限推定値を提供した。さらに、Orai1での補完に起因するCa
2+電流は、20mM Ca
2+oにおいて高速不活性化を示した(
図4E);不活性化の程度および時間経過は、ジャーカットT細胞におけるCRACチャネルについて以前に報告されたそれと類似した(電流は200ms内に-100mVにおいて54±5%不活性化する;τ
fast:9±2ms;τ
slow:84±12ms)
36。そして最後に、再構成された電流の薬理学的な顕著な特徴は、2μM La
3+による完全な遮断(
図4F)、高用量の2-APBによる阻害(
図4G)、および低用量の2-APBによる増強(
図4G)を含んだ;さらに、高用量の2-APBで観察された遮断は、高速不活性化の損失により達成された
32。Orai1の発現によるCRAC電流の完全補完(
図4H)とCa
2+イメージングにより観察されたCa
2+流入の部分的補完の間の不一致は、I
CRACの測定について、本発明者らは高GFP/Orai1レベルをもつT細胞を選択したが、単一細胞Ca
2+イメージングについて、本発明者らはすべてのGFP/Orai1陽性細胞の応答(明るいおよび薄暗いの両方)を平均したという事実により説明されうる。
【0168】
要約すれば、Orai1でのSCID T細胞の再構成は、貯蔵量作動性Ca
2+流入だけでなく、貯蔵依存性、イオン選択性および単位コンダクタンス、開閉の性質、および薬理学的プロフィールに関してI
CRACと同一である電流も回復させる。従って、本発明者らは、Orai1がT細胞におけるCRACチャネルに必須であると結論する。Orai1で補完された、SCID T細胞に観察されるチャネルの細孔性質および薬理学的特性は、真正のCRACチャネルのそれらと区別できない。
【0169】
考察
本明細書で、本発明者らは、貯蔵量作動性Ca
2+流入の進化的に保存された構成要素およびI
CRACの必須貢献因子であるとOrai1を同定する。本発明者らは、Orai1における点突然変異が、重症複合型免疫不全症(SCID)のまれな型をもつ2人の患者における貯蔵量作動性Ca
2+流入およびICRAC機能の遺伝的欠陥の原因であることを示す
10,11。欠陥のある遺伝子としてのOrai1の同定は、2つの独立した遺伝分析の相乗的組み合わせを通して達成され、両方の分析は不偏のゲノムワイドなスクリーニングを含んだ。
【0170】
本発明者らの第一のスクリーニングは、SCID疾患に結びつけられた染色体領域を同定するゲノムワイドなSNP分析を用いた。たった2人の罹患個体が存在するだけのため、伝統的連鎖解析から理論的に到達できるLODスコアは〜1.9であり、連鎖を確立するために必要な3.0値より有意に低い。実際、2人のSCID患者、彼らの両親、および彼らの祖父母を含む小さな系図の解析は、1.9の最大OLDスコアを以て、6つの別々の染色体上に6つの領域を同定した(系
図A)。利用できる遺伝的情報量を拡大するために、本発明者らは、突然変異体対立遺伝子のヘテロ接合性保因者を同定する方法を考案した。これは、貯蔵量作動性Ca
2+流入を測定する本発明者らのインビトロ方法の簡単な改変を通して達成され、Ca
2+流入の作動力が、細胞外Ca
2+濃度を低下させることにより減少した。このアッセイがSCID患者の21人の追加の親族メンバー(系
図B)に由来するT細胞株に適用された場合、13人のメンバーは、Ca
2+流入の初速度の有意な低下を示し、本発明者らは、突然変異体対立遺伝子についてのヘテロ接合性と一致した遺伝子量効果を反映していると解釈する。第二に、これらの13人の推定ヘテロ接合性個体のハプロタイプが残りの8人のホモ接合性の健康な親族メンバーのそれと比較される、完全に独立した連鎖解析は、実験的LODスコアを生じ、3.8のLODスコアを有する12q24上の固有の領域を同定した。この領域は、系
図Aの連鎖解析により同定された領域の1つと重複した。各解析に用いられた個体およびそれらを分類するために用いられた表現型は異なったため、対立遺伝子の共有およびそれに従っての連鎖結果はこれらの解析において完全に独立していた;このゆえに、本発明者らは、2つの解析からのLODスコアを組み合わせて、12q24における〜9.8Md領域について〜5.7の不偏累積かつ高有意性のLODスコアを得ることができた。原理上は、この連鎖マッピングアプローチの新規かつ強力な組み合わせは、ほんのわずかな罹患個体が利用可能であるだけで、通常のホモ接合性マッピングが連鎖を確立できない場合でさえも、他のまれな常染色体劣性疾患の遺伝子的原因を解明するために適用されうる。必要条件は、他の親族メンバーが利用できること、および1つの対立遺伝子の突然変異がインビトロで定量化可能な形質として検出されうることである。
【0171】
貯蔵量作動性Ca
2+流入に関与する12q24における遺伝子を迅速に同定することを期待して、本発明者らは、ショウジョウバエS2R細胞がCRACと非常に類似した特性をもつ貯蔵量作動性Ca
2+チャネルを含むという事実をうまく利用して、ショウジョウバエにおいて並列ゲノムワイドなRNAiスクリーニングを行った
37。Ca
2+流入にもっぱら焦点を合わすというよりむしろ、本発明者らは、Ca
2+制御性転写因子NFATの進化的に保存された制御因子を同定するようにスクリーニングを設計した;Ca
2+制御性NFATタンパク質はそれ自体、ショウジョウバエにおいて示されていないが、Ca
2+ホメオスタシス、貯蔵量作動性Ca
2+流入、カルシニューリン活性、およびキナーゼ-ホスファターゼバランスに対する効果を通してのその核-細胞質往復を制御する経路の強い進化的保存がある
27。スクリーニングは、RNAi媒介性枯渇が、タプシガルジンでの刺激に応答したNFAT-GFP融合タンパク質の核局在化に干渉をもたらした候補を同定するために用いられた。陽性候補の中に、olf186F(本明細書では、ショウジョウバエOraiと新たに命名された)があり、それは3つのヒト相同体、FLJ14466、C7Orf19、およびMGC13024を有する。これらは機能不明の新規なタンパク質であるため、本発明者らはそれらをそれぞれ、Orai1〜3と名付けた。ギリシャ神話において、Oraiは天国の門の番人である:Eunomia(秩序または調和)、Dike(正義)、およびEirene(平和)
38-40;日本においては、Oraiは、英語での「all right」の音に一部由来し、日本語での行ったり来たりすること、通信、通り、および交通も指す。本発明者らの二重ストラテジーの確証に達するにおいて、Orai1(仮定上のタンパク質FLJ14466)をコードする遺伝子は、染色体12q24、正確には、SCID症候群に遺伝学的に結びつけられる、本発明者らのSNP分析により同定された領域に位置する。DNA配列決定により、Orai1のエクソン1における点突然変異(C>T)としてのSCID欠陥の遺伝的根拠が速やかに明らかにされ、その点突然変異は、結果として、残基91位におけるアルギニンからトリプトファンへの置換を生じた。この突然変異は、国際HapMapプロジェクトのために構築された混合民族的背景の270個体由来のDNAを配列決定することにより確認されたように、既知の多型ではない
31。この試料の数は、ほとんど全部のハロタイプを5%またはそれ以上の頻度で見出すのに十分である。C>T突然変異が小さな民族集団に限定したSNPであり、HapMapパネルにおいては示されないという小さな偶然があるが、この可能性は、Orai1での補完がSCID患者細胞において貯蔵量作動性Ca
2+流入およびI
CRACを回復させるという事実に基づく合理的な確信をもって排除されうる。さらに、SCID患者において突然変異しているアルギニン91位は、種にまたがって高度に保存されている推定膜貫通領域に位置しており(
図3A)、Orai1の機能におけるその潜在的重要性を浮かび上がらせている。
【0172】
Orai1補完SCID T細胞におけるCa
2+流入およびCa
2+電流の特性は、対照T細胞において観察されるそれらと区別できなかった。特に、両方の過程は、貯蔵枯渇により厳密に制御され、回復した電流の電気生理学的および薬理学的性質は、I
CRACのそれらと完全に一致した。これらの性質には以下が挙げられる:一価陽イオンを超えるCa
2+に対する極めて高い選択性、内向き整流性I-V関係、二価を含まない条件下での脱増強、電流ノイズ特性、急速なCa
2+依存性不活性化、低マイクロモル濃度La
3+による遮断、ならびに2-APBによる正および負の調節。それゆえに、本発明者らは、Orai1がSCID患者のT細胞においてI
CRACを再構成したこと、ならびに従って、Orai1コード領域およびタンパク質におけるC>T転移および結果として生じるR91W突然変異がSCID欠陥の原因であることを結論づける。その特定の役割はまだ決定されていないが、入手できるデータは、Orai1が原形質膜におけるチャネルサブユニットまたは密接に関連したチャネル制御因子をコードするという可能性と一致している。第一に、Orai1のヒドロパシープロフィールは、3つ、または場合によっては4つの疎水性膜ドメインを有する膜タンパク質を予想する(
図3B)。第二に、mycタグ付きOrai1の免疫細胞化学は、休止条件下の原形質膜における局在と一致している;この分布はSTIM1のそれと異なる。STIM1は、主にERに位置し、その内腔EFハンドドメインを介してCa
2+貯蔵枯渇を感知すると考えられている(Feske 2005, Lious 2005, Ref)。顕著には、Orai1上のN末端およびC末端エピトープタグの両方は、非透過性細胞において抗体染色に近づきにくい;この所見は、4つの膜貫通ドメインの予測と一致し、N末端およびC末端の両方が細胞質に配向しているチャネルサブユニットと矛盾しないトポロジーを予測する(
図3C)。Orai1がCRACチャネル自体の一部であるかどうか、またはそれがチャネルの制御因子をコードするかどうかを決定するために、さらなる研究が必要である。
【0173】
Orai1は、mRNAレベルで広く発現しており、SCID患者由来のT細胞だけでなくB細胞および線維芽細胞も貯蔵量作動性Ca
2+流入において実質的欠陥を示すという本発明者らの以前の観察を説明する可能性がある。しかしながら、驚くべきことに、SCID患者の臨床表現型は、主に免疫不全のものであり、一人の生存患者において、外胚葉性形成異常無汗症(EDA)および軽度先天性非進行性筋疾患を伴う。EDAは、歯のエナメル質および毛包機能の欠陥、ならびに汗腺の完全な欠如により特徴付けられ、多くの以前の研究は、それをNF-κBの低活性化に結びつけている
41-45。Ca
2+動員は、T細胞および他の細胞型において特定の刺激条件下でNFκB活性化に寄与すると考えられ
46、従って、EDA症候群は、特定の細胞型において発達中かまたは急性にかのいずれかで、欠陥のあるNFκB活性化をよく反映している可能性がある。対照的に、筋疾患は、NFATが骨格筋発達および機能の特定の局面において果たす役割が大きいことを考慮すれば、欠陥のあるNFAT活性化の直接的結果である可能性がありうる(7,47に概説されている)。
【0174】
結論として、本発明者らの研究は、T細胞機能およびインビボの免疫応答におけるOrai1の重要な役割を確立している。線虫(C. elegans)からヒトまで保存された新規なタンパク質である、Orai1における単一の点突然変異は、遺伝性免疫不全症をもつ患者において貯蔵量作動性Ca
2+流入およびCRACチャネル機能を乱す。さらなる研究は、Oraiタンパク質とStimタンパク質の間の関係、および貯蔵枯渇がCRACチャネル開口と共役する機構に取り組む。
【0176】
実施例2:ゲノムワイドなショウジョウバエRNAiスクリーニングはDYRKを新規NFAT制御因子であると同定する
材料および方法
ゲノムワイドな一次スクリーニング
方法は参考文献
12,13から適合させた。10
4個のS2R
+細胞を、10μlの無血清培地中0.25μgのdsRNAを含む各ウェルへ加え、26℃で1時間インキュベートした。その後、細胞に、シュナイダー培地(Invitrogen)(30μl)においてNFAT1(1〜460)-GFP発現プラスミド
9,17(10ng)を一過性にトランスフェクションした。26℃で48〜72時間のインキュベーション後、細胞を固定し、DAPIで染色し、同時発生的GFPおよびDAPI画像を自動カメラにより各ウェルにおける3つの異なる位置から得た。個々のdsRNAがアレイされている合計21,884個のウェルを含む合計58個の384プレートを分析した。
【0177】
対照ウェル(dsRNA無し、GFPに対するdsRNA、および細胞死を引き起こす遺伝子(スレッド抗アポトーシス(thread-anti-apoptotic))に対するdsRNA)は各プレートに存在し、各プレートのノックダウン効率についての内部対照としての役割を果たす。各アッセイウェルにおけるGFP蛍光の全3枚の写真に、MetaMorph 6.1 Software(Universal Imaging Corporation)を用いて手作業でスコアを付けた。NFAT局在性の弱いエフェクターまでも同定するために、3つのフィールドのそれぞれにおける1個の細胞のみがNFAT-GFPの完全な核局在化を示した場合でさえも、ウェルに陽性のスコアを付けるように、非ストリンジェントの基準を一次スクリーニングに用いた。RNAiライブラリーは、ショウジョウバエゲノムが完全に注釈を付けられる前に構築されたため、738個の陽性のうちの39個は、既知の遺伝子に対応しておらず、除去された。別の37個の候補は、それらを同定するために用いたdsRNAが、21ヌクレオチド(nt)の完全な一致をもつ10個より多くの予想される「オフターゲット」を有したため、除去された(下記のバイオインフォマティクスおよび分類を参照)。
【0178】
確証的スクリーニング
一次スクリーニングからの699個の陽性の可能性のある候補における確証的スクリーニングは、NFAT1(1〜460)-GFPを安定にトランスフェクションしたS2R
+細胞を用い、かつ候補を、それらの枯渇が休止細胞および刺激されたS2R
+細胞の両方におけるNFAT細胞内局在を変化させるかどうかについて試験したこと以外、本質的には、一次スクリーニングについて記載されているように行った。全細胞が細胞質NFAT-GFPを含むウェルは最低スコア(0)を得、細胞の>90%が核NFAT-GFPを示すウェルには最高のスコア(3)が付けられた。すべての3つの実験から総計されたスコアは表Iに提示されている。最高の可能なスコアは9であるが、本発明者らは確証的スクリーニングにおいて控えめにスコアを付けたため、任意の候補により得られる最高の実際のスコアは6であることに留意されたい。全候補はまた、それらが、タプシガルジン(1μM、30分間)で処理された細胞におけるNFAT核局在化を阻止するかどうかについて試験した;ショウジョウバエSTIM(dSTIM)のみがこのアッセイにおいて陽性のスコアを付けた。
【0179】
安定に発現する細胞株を作製するために、NFAT1(1〜460)-GFP融合タンパク質のコード配列を、発現プラスミドpAc5.1(Invitrogen)へサブクローニングし、マクロファージ-血球様ショウジョウバエ細胞株S2R
+に、比率19:1の発現プラスミド対pCoHygro(Invitrogen)(恒常的活性プロモーターの制御下でハイグロマイシン抵抗性遺伝子をコードする)をEffectene(Qiagen)を用いて6ウェル型式においてトランスフェクションした。細胞を300μg/mlハイグロマイシンで3〜4週間選択し、安定なクローンを目視検査によって選択した。
【0180】
バイオインフォマティクスおよび分類
スコアを、DRSC(Drosophila RNAi Screening Center at Harvard Medical School)への提出のために整理統合して、書式設定し、その後、アッセイされた遺伝子の独自性(identity)(FlyBase識別子;既知の場合、ショウジョウバエ遺伝子名;いくつかの遺伝子オントロジー(Gene Ontology)(GO)識別子;およびいくつかのヒト相同体)を提供した。遺伝子オントロジー(GO)アノテーションは2つの方向で検索された。第一に、本発明者らは、各遺伝子についてのFlyBase識別子を使用するEnsembl's EnsMartツールを用いてGO記載を得た。第二に、本発明者らは、スクリーニングセンターにより提供されたGO識別子を用いて、遺伝子オントロジーコンソーシアム(Gene Ontology Consortium)から「GO用語およびID」ファイルからの記載を得た。遺伝子の機能カテゴリーは、陽性のキーワード検索、続いて手作業のキュレーション(curation)により構築した。陽性遺伝子はまた、KEGG経路データベースにおけるものなどのツールを用いて一般的な経路への関与について調べた。
【0181】
一次スクリーニングにおいて陽性であった各候補について、オフターゲットの数を、DRSCウェブサイト(http://www.flyrnai.org/RNAi_primer_design.html)上のオフターゲット配列検索ツールを用いて決定した。このバイオインフォマティクスのツールは、それが一体型プライマー設計構成要素を有しないこと以外、参考文献
37におけるそれと類似したアルゴリズムに基づいている(Flockhart et al., 投稿済み)。単位複製配列(dsRNA)配列は、リリース4.0におけるハエ転写産物の配列に完全に一致する、21bpのデフォルト値をもつ長さ16〜50bpのすべての可能性のある断片を検討することにより、予想されるオフターゲットについて検索される。理想的には、標的とされたmRNAに対応する1つの一致のみが見出されるべきであるが、いくつかの単位複製配列は、意図された標的ではない他のmRNAとの一致を有する。表Iにおける遺伝子について、21ntのデフォルトの長さを、各陽性候補についてのオフターゲットの数を計算するために用い、>10個のオフターゲットを有する候補を除去した。表II(カルシニューリン)およびIII(追加の実験に用いられる候補)における遺伝子について、19ntおよび20ntのより短い断片を同様に検討した。オフターゲットの独自性は、ショウジョウバエNCBI RefSeqデータベースに対してBLASTNを用いて決定した。表Iにおけるキイロショウジョウバエタンパク質の哺乳動物オルソログは、NCBI Homologeneデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=homologene)から検索した。ハエのキナーゼのヒト相同体は、記載されているように
38,39、BLASTP(Altschul, et al. 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410)を用いた相互blast方法により得た。系統発生解析は、TCoffee
40を用いて行い、オルソログ割当の信頼性は、Orthostrapper
41により実行されるブートストラップ方法で評価した。
【0182】
ショウジョウバエ細胞におけるdsRNA媒介性ノックダウン
PCR断片(最高600bpまでのサイズ)を、インビトロ転写反応のための鋳型として用い、続いて、鋳型DNAを除去するためにDNアーゼI処理を行った。精製後、dsRNA(5μg)を、8チャンバースライドにおいて(12ウェルプレートについては10μg)、NFAT-GFP発現プラスミドと共にS2R
+細胞へ同時トランスフェクションした。インキュベーションの72時間後、局在性アッセイのために、細胞を未処理のままにしておくか、またはCa
2+流入誘導物質、1μMイオノマイシンもしくは1μMタプシガルジンで処理し、そして、[Ca
2+]iレベルの測定のためにトリプシン処理した。
【0183】
インビトロキナーゼアッセイ
FLAGタグ付きヒトキナーゼを、抗FLAG抗体結合型プロテインGビーズ(Sigma)を用いて一過性にトランスフェクションしたHEK293細胞の細胞全体の可溶化物から免疫沈降させ、免疫沈降物を、細菌細胞に発現させたNFAT1制御ドメイン全体(GST-NFAT1[1-415])か、またはNFAT1のSRR-1(アミノ酸149〜183位)、SP-2(アミノ酸206〜237位)、およびSP-3(アミノ酸264〜295位)モチーフに対応するGST融合ペプチドのいずれかのリン酸化について分析した(野生型、およびインビボでリン酸化されるセリンにおけるSer→Ala突然変異体の両方)
10。免疫複合体を、溶解緩衝液(1.0%NP-40、50mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、5mM EDTA、5mM EGTA、1mMジチオスレイトール[DTT]、20mM β-グリセロール-リン酸、10mMピロリン酸ナトリウム、0.1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、10mM NaF、1mMフッ化フェニルメチルスルホン酸[PMSF]、10μg/mlアプロチニン、10μg/mlロイペプチン)で2回、およびキナーゼ緩衝液(20mM HEPES、pH7.4、20mM MgCl
2、1mM DTT、0.1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、20mM β-グリセロール-リン酸)で2回洗浄し、20μM ATP、2μCi[γ
32P]-ATP、および10μgの野生型または突然変異体GST-ペプチド基質の存在下、最終容量40μlのキナーゼ緩衝液において30℃で20分間インキュベートした。ペプチドは、グルタチオン-セファロース上で単離し、リン酸化はSDSゲル電気泳動およびオートラジオグラフィーにより評価した。
【0184】
GST-NFAT1融合ペプチドをリン酸化するDYRK1AおよびDYRK2の能力を、20μM ATP、2μCi[-
32P]-ATP、および10μgのGST-ペプチド基質の存在下、最終容量40μlのキナーゼ緩衝液において20ngの組換えタンパク質キナーゼ(Upstate Biotechnology)を用いて調べた。NFAT1をリン酸化するGSK3の能力を、1Uの組換えタンパク質キナーゼA(PKA)(New England Biolabs [NEB])、20ng DYRK1AまたはDYRK2を用いてグルタチオンセファロースビーズにあらかじめ結合したGST融合タンパク質を1mM非放射性ATPの存在下で30℃で16時間、まずプレリン酸化することにより調べた。非放射性プライミング後、融合タンパク質を、組換えキナーゼおよびATPを除去するために繰り返し洗浄した。その後、リン酸化融合タンパク質を、最終容量40μlのキナーゼ緩衝液において、20μM ATP、2μCi[γ
32P]-ATPの存在下、45分間、1UのGSK3(NEB)とインキュベートした。
【0185】
レポーターアッセイおよびIL-2発現アッセイ
pOZベクター
42においてHAタグ付き完全長NFAT1を安定に発現する指数関数的に増加中(10
7個)のジャーカットT細胞に、250Vおよび960μFにおけるエレクトロポレーションによりトランスフェクションした。ルシフェラーゼ実験について、細胞に、0.5μg pRLTKレポーター(内部対照としてレニラ(Renilla)ルシフェラーゼ)、5.0μg pGL3レポーター(ホタルルシフェラーゼ、実験プロモーター)、および空ベクター、野生型DYRK2、またはキナーゼ不活性型(kinase dead)DYRK2をコードする発現プラスミドをトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、未処理のままにしておいた細胞、またはPMA(20nM)、イオノマイシン(1μM)、および2mM CaCl
2で6時間刺激した細胞を、Dual-Luciferase Reporter Assay(Promega)を用いて製造会社により推奨されるとおり、レポーター遺伝子活性について測定した。細胞内サイトカイン染色について、細胞に、GFPをコードしたプラスミド、および空ベクタープラスミド、野生型DYRK2、またはキナーゼ不活性型DYRK2を同時トランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、未処理のままにしておいた細胞、またはPMA(20nM)、イオノマイシン(1μM)、および2mM CaCl
2で6時間、最後の4時間についてはブレフェルジンA(2μg/ml)の存在下で刺激した細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒドで25℃で20分間固定し、PBSで2回洗浄し、サポニン緩衝液(PBS、0.5%サポニン[Sigma]、1%BSA、および0.1%アジ化ナトリウム)において透過処理し、フィコエリトリン結合ラット抗ヒトIL-2(PharMingen)で25℃で30分間染色した。細胞をPBSにおいて2回洗浄し、FACSCaliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson)およびFlowJoソフトウェアで分析した。
【0186】
DYRK1AのsiRNA媒介性ノックダウン
NFAT1(1〜460)-GFPを安定に発現する0.5×10
6個のHeLa細胞を、6ウェルプレートに播種し、翌日、リポフェクタミン2000トランスフェクション試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて製造会社のプロトコールに従い、対照siRNAまたはヒトDYRK1A siRNAに対応するsiRNA(Dharmacon, Inc., Lafayette, CO)をトランスフェクションした。細胞を再播種し、ノックダウンの効率を増加させるためにトランスフェクション手順を24時間後に繰り返した。細胞を、免疫ブロット分析または免疫細胞化学法のためにトランスフェクションから4日後に収集した。DYRK転写産物レベルをリアルタイムRT-PCRにより測定した。DYRK1Aについての閾値サイクル(C
T)を、GAPDHハウスキーピング遺伝子発現レベルに対して標準化し(ΔCT)、0.5
ΔCT*10
4(任意の単位)としてプロットした。siRNA配列は、
に対応する。RT-PCRプライマー配列は
に対応する。
【0187】
微速度撮影ビデオイメージングによる細胞内カルシウム測定
HEK 293T細胞を、UV滅菌カバースリップ上で直接増殖させ、Ca
2+指示薬色素Fura-2 AM(3μM、Molecular Probes, Eugene, OR)を室温で45分間負荷し、洗浄し、負荷培地(RPMI+10%FCS)に再懸濁した。レシオメトリックCa
2+ビデオイメージングについて、カバースリップを閉鎖型槽RC-20フローチャンバー(Warner Instrument Corp., Hamden, CT)上に載せ、2mMカルシウムリンガー液(155mM NaCl、4.5mM KCl、10mM D-グルコース、5mM Hepes(pH 7.4)、1mM MgCl
2、2mM CaCl
2)において灌流した。Ca
2+を含まないリンガー液(2mM Ca
2+が2mM MgCl
2で置換された)への切り換え後、細胞内Ca
2+貯蔵を1μMタプシガルジンで枯渇させ、貯蔵量作動性Ca
2+流入を、2mM CaCl
2を含むリンガー液で細胞を灌流した後、測定した。単一細胞ビデオイメージングを、OpenLabイメージングソフトウェア(Improvision, Lexington, MA)を用いてS200倒立エピ蛍光顕微鏡(Zeiss, Thornwood, NY)で行った。Fura-2発光を、340nmおよび380nmでの励起後、それぞれ、510nmで検出し、340/380の比をバックグラウンド引き算後、5秒間隔ごとに計算した。較正値(R
min、R
max、S
f)は、以前に記載されているように
43、キュベット測定から導いた。各実験について、約50〜100個の細胞を分析した。[Ca
2+]iおよびDYRK2発現の同時測定について、ジャーカットT細胞に、10:1の比率でDYRK2 cDNAおよびeGFPを同時トランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後、細胞を、上記のようにCa
2+イメージングに用いた。[Ca
2+]i、GFP
-(すなわち、DYRK2
-)、およびGFP
+(すなわち、DYRK2
+)の単一細胞分析について、細胞をゲーティングし、別々にプロットした。
【0188】
フローサイトメトリーによる細胞内カルシウム測定
S2R+細胞をトリプシン(CellGro, Herndon, VA)でディッシュから脱離させ、Ca
2+指示薬色素Fluo4-AM(2μM Molecular Probes, Eugene, OR)を室温で45分間負荷し、その後、負荷培地(RPMI+10%FCS)に再懸濁した。フローサイトメトリーのCa
2+測定直前に、細胞をCa
2+を含まないリンガー液に再懸濁し、FACSCalibur(BD Biosciences, San Jose, CA)で分析した。細胞内Ca
2+貯蔵を枯渇させるための、Ca
2+を含まないリンガーにおけるタプシガルジン(3μM)の添加から180秒後、2mM Ca
2+の最終濃度に達するように4mM Ca
2+リンガー液を細胞へ加えた。その後、細胞Ca
2+レベルをFloJoソフトウェア(Tree Star, Inc., Ashland, OR)を用いて分析した。
【0189】
候補キナーゼのヒトオルソログのサブクローニング
キナーゼ候補のヒトオルソログをコードする完全長cDNAを、Flexgene Kinase Repository(Harvard Institute of Proteomics)
36またはMammalian Gene Collection(MGC, Open Biosystems)から得、N末端にFlagタグの挿入を含むpENTRY.11(Invitrogen)ベクターへサブクローニングし、その後、pDEST12.2(Invitrogen)へ再結合させた。キナーゼ不活性型DYRK2は、PCRに基づいた方法(QuikChange Site-Directed Mutagenesis, Stratagene)を用いて活性部位のATP結合ポケットにK251R点突然変異を導入することにより構築し、ポリメラーゼ忠実性を保証するために配列決定した。
【0190】
序論および結果
NFATの細胞内局在性は、多様なシグナル伝達経路からの入力を含むシグナル積分の複雑な過程により測定される
3-5。休止細胞において、NFATタンパク質は、高度にリン酸化され、細胞質に存在する;細胞内遊離Ca
2+([Ca
2+]i)レベルを上昇させる刺激に曝された細胞において、それらは、カルモジュリン依存性ホスファターゼカルシニューリンにより脱リン酸化され、核へ移行する
3,6。カルシニューリンによるNFATの脱リン酸化は、別個のNFATキナーゼ、中でも、CK1、GSK3、およびMAPキナーゼファミリーの様々なメンバーにより相殺される
3,7-10。NFATの転写活性は、N末端トランス活性化ドメインのリン酸化、共アクチベーターおよび共リプレッサーの補充、および核におけるパートナータンパク質の選択を含む追加の入力により制御される
3,9,11。
【0191】
本発明者らは、細胞内遊離Ca
2+([Ca
2+]i)レベル、カルシニューリン活性化、および細胞におけるNFAT局在性の制御因子を同定するために、ショウジョウバエS2R+細胞においてゲノムワイドなRNAiスクリーニングに基づく
12-14ストラテジーを用いた。ストラテジーは、Ca
2+制御性NFATタンパク質がショウジョウバエにおいて示されていないが、NFAT局在性を制御する、Ca
2+ホメオスタシス、Ca
2+流入、およびカルシニューリン活性の経路は進化的に保存されている
15,16。この点を確証するために、本発明者らは、GFP融合タンパク質NFAT1(1〜460)-GFP(本明細書では、NFAT-GFPと呼ばれる)を用いた
17。NFAT-GFPは、カルシニューリンおよびCK1のドッキング部位、核局在化シグナル(NLS)、ならびにNFAT1細胞内局在性およびDNA結合親和性を調節する保存されたセリンリッチ領域(SRR)およびセリン-プロリンリピート(SP)モチーフを含む、NFAT制御ドメイン全体を含む
3,9,10,17(
図6A)。NFAT-GFPは、ショウジョウバエS2R+細胞において正しく制御された:それは、休止状態下でリン酸化され、適切に細胞質へ局在し、SERCAインヒビタータプシガルジンでのCa
2+貯蔵枯渇に応答して脱リン酸化し、核へ移行した(
図6B);それは、S2R+細胞および哺乳動物HeLa細胞において類似した動力学で核へ移入した。限界量のタプシガルジンで処理されたS2R+細胞は、NFAT-GFPのリン酸化中間型を示し、制御ドメインの個々の保存されたモチーフ内のセリンの進行性脱リン酸化を反映している可能性が最も高い
9,10。最後に、S2R+細胞におけるRNAiによる主なNFAT制御因子、カルシニューリンの枯渇は、NFAT-GFPのタプシガルジン依存性脱リン酸化および核移行を阻害した(表II)。合わせると、これらの実験は、NFATリン酸化および細胞内局在性を制御する主要な経路--貯蔵量作動性Ca
2+流入、カルシニューリン活性化、およびNFATリン酸化--がショウジョウバエにおいて保存され、適切に脊椎動物NFATを制御することを確認した。
【0192】
本発明は、刺激されていないS2R+細胞でゲノムワイドなRNAiスクリーニング
12,13を行い、NFAT-GFPの異常な核局在化について視覚的にスコアを付けた(方法および実施例3参照)。21,884個のスクリーニングされたウェルのうち、662個が、非ストリンジェントな基準を用いて陽性の可能性があるとしてスコアを付けられた;確認スクリーニングにおいて、271/325(83%)の再試験された候補は、陽性として確認され、NFAT核局在化の本発明者らの最初の評価の再現性を証明した(
図6C)。陽性候補は、そのノックダウンが基底[Ca
2+]iを増加させることが予想されるNa
+/Ca
2+交換体およびSERCA Ca
2+ ATPアーゼ、ならびにCa
2+流入およびCa
2+ホメオスタシスに結びつけられている足場タンパク質Homer
18,19を含んだ(表I)。スクリーニングはまた、貯蔵量作動性Ca
2+流入の最近同定された制御因子であるStim
20-22を、休止S2R+細胞においてNFAT-GFPの核局在化を引き起こすと同定したが、おそらく、その枯渇が、結果としてNFATキナーゼのわずかな調節不全または基底[Ca
2+]iの微増を生じるためと思われる(
図9A〜9C)。最後に、スクリーニングは、基底[Ca
2+]iレベルまたはカルシニューリン活性に影響を及ぼしうる、NFAT制御ドメインを直接的にリン酸化しうる、または直接のNFATキナーゼの活性に間接的に影響を及ぼしうる、多数のタンパク質キナーゼを同定した(表I)。
【0193】
本発明者らは、NFAT制御ドメインを直接的にリン酸化するキナーゼに関心をもった。ファミリーメンバーNFAT1において、制御ドメインは、>14個のリン酸化セリンを有し、そのうちの13個はカルシニューリンにより脱リン酸化される
9(
図6A)。これらのセリンのうちの5個は、NLSの露出を調節し、かつCK1によるリン酸化の標的である、SRR-1モチーフに位置する
3,10;3個は、タンパク質キナーゼA(PKA)によるプライミングリン酸化後、GSK3によりリン酸化されうるSP-2モチーフに位置する
7,10;および4個は、関連キナーゼがこの研究が開始された時点でまだ同定されていなかった、SP-3モチーフに位置する。SP-2およびSP-3モチーフは、NFAT1の細胞内局在性を直接には制御しないが、それらの脱リン酸化は、NLS露出の可能性およびNFATのDNAに対する親和性の両方を増加させる
3,10,23。どのようにして、別個のSRR-1、SP-2、およびSP-3キナーゼがいっしょに作用して、NFATの完全リン酸化を促進するのかは知られていなかった;それにもかかわらず、本発明者らは、S2R+細胞における個々のNFATキナーゼの枯渇が、結果として、キナーゼ発現レベルに、リン酸化された特定のモチーフに、および他の関連キナーゼが重複して発現しているかどうかに依存して、様々な程度のNFAT核蓄積を生じることを予想した。それゆえに、本発明者らは、二次スクリーニングにおけるそれらのスコアに関わらず、スクリーニングで同定したすべての恒常的活性のあるキナーゼのうちの少なくとも1つの哺乳動物相同体(入手可能な場合)を試験した。いくつかの誘導性キナーゼを含んだが、その他(例えば、タンパク質キナーゼCおよびD)は別の研究の一部として研究される予定である。
【0194】
選択したショウジョウバエキナーゼのFLAGタグ付き哺乳動物相同体を、HEK293細胞に発現させ、抗FLAG免疫沈降物を、GST-NFAT1(1〜415)融合タンパク質をリン酸化するそれらの能力についてインビトロのキナーゼアッセイにおいて試験した(
図7A)。3つの新規な候補--PRKG1、DYRK2、およびIRAK4--はこのアッセイにおいて強い活性を示した(
図7A、レーン8、13、および15;CK1アイソフォーム、CK1αおよびCK1εは、レーン1および2に陽性対照として含まれた)。PRKG1はDYRK2の同等以上のレベルで発現したが(
図7A、下部パネル、レーン8および13)、DYRK2のみがカルシニューリンによるNFAT-GFPの脱リン酸化を阻止できた(
図7B、レーン3、4;7、8;11、12)。IRAK4はあまり発現しなかった(
図7A、下部パネル、レーン15);しかしながら、IRAK4-/-マウスから単離されたCD4+ Th1細胞は、対照細胞と比較して、正常なNFAT1脱リン酸化、再リン酸化、および核輸送を示した。これらの理由によって、PRKG1もIRAK4もさらに調査しなかった。
【0195】
本発明者らは、NFATの直接的制御因子としてのDYRKファミリーキナーゼの役割に焦点を合わせた。DYRK2の過剰発現は、イオノマイシン処理後、NFAT-GFPをそのリン酸化型に維持した(
図7B、レーン5〜8);同様に、野生型(WT)DYRK2の過剰発現は、タプシガルジン処理細胞においてNFAT核局在化を阻止したが、DYRK2のキナーゼ不活性型(KD)突然変異体は阻止しなかった。DYRK過剰発現は、NFATの低移動性型を生じ(
図7B、レーン7、8)、DYRK(セリン/プロリン指向性キナーゼ
24)が、NFAT1上のカルシニューリンドッキング配列であるSPRIEIT
(SEQ ID NO:33)をリン酸化し
3,6、NFAT:カルシニューリン相互作用を阻止するということに導いた。しかしながら、DYRK2は、DYRKにより標的とされうるSPおよびTP配列を除去するSPRIEITPS
(SEQ ID NO:53)>HPVIVITGP
(SEQ ID NO:54)(VIVIT)
(SEQ ID NO:30)置換を含むNFAT-GFPのイオノマイシン誘導性脱リン酸化を阻害した
17。VIVIT
(SEQ ID NO:30)置換NFAT-GFPの脱リン酸化を阻害するDYRKの能力は、野生型SPRIEIT(SEQ ID NO:33)ドッキング部位の親和性と比較してカルシニューリンに対するVIVIT
(SEQ ID NO:30)ドッキング部位のより高い親和性(〜40倍から50倍)を考慮すれば、特に強い印象を与える
17。NFATの直接的なリン酸化と一致して、タプシガルジンに応答したCa
2+動員は、S2R+細胞においてDYRKファミリー候補CG40478の枯渇による影響は受けず、ジャーカットT細胞におけるDYRK2過剰発現によってほんのわずか減少した。
【0196】
DYRKは、サイクリン依存性キナーゼ(
cyclin-dependent kinases)(CKD)、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(
mitogen-activated protein kinases)(MAPK)、グリコーゲンシンテターゼキナーゼ(glycogen synthetase kinases)(GSK)、およびCDK様(CDK-like)(
CLK)キナーゼ(CMGCキナーゼ)に遠い関連性のあるプロリンまたはアルギニン指向性タンパク質キナーゼの進化的に保存されたファミリーを構成する
24。DYRKファミリーは、それらの細胞内局在性に依存して、クラスI(核、DYRK1AおよびDYRK1B)またはクラスII(細胞質、DYRK2〜6)と名付けられている複数メンバー(
図11A)を有する
25,26。RT-PCRおよびウェスタンブロッティングは、DYRK1AおよびDYRK2は、それぞれ、ジャーカットT細胞において核および細胞質DYRKの主要な代表であった(
図11B)。NFAT-GFPを安定に発現するHeLa細胞におけるDYRK1A特異的siRNAを用いた内因性DYRK1Aの枯渇は、NFAT1脱リン酸化および核内移行の速度ならびに程度を増加させたが、10分間のタプシガルジンでの処理(脱リン酸化および核内移行を誘導するために)、続いて5〜30分間のCsA添加(カルシニューリンを不活性化し、核外移行のためのNFATキナーゼによる再リン酸化を可能にするために)に応答しての再リン酸化および核外移行を遅らせた(
図10C、左パネル)。mRNAレベルの約70%のノックダウン効率を反映する(
図10C、右パネル)、内因性DYRK1A枯渇を用いて得られた結果は、DYRKが細胞におけるNFAT活性化の生理学的に負の制御因子を表すことを示している。
【0197】
さらなる実験は、DYRKがNFAT1のSP-3モチーフを特異的に標的とすることを示した。FLAGタグ付きDYRK2はHEK293細胞に発現し、抗FLAG抗体で免疫沈降され、インビトロでNFAT制御ドメインの保存SP-3モチーフに対応するペプチドをリン酸化したが、SP-2モチーフをリン酸化しなかった。NFATキナーゼがDYRK自体ではなく、むしろDYRK関連キナーゼであるという可能性を排除するために、本発明者らは、細胞においてリン酸化されるNFAT1の3つの保存されたセリンリッチモチーフ(SRR-1、SP-2、およびSP-3モチーフ
9)に対応するペプチドのインビトロでのリン酸化について細菌に発現した組換えDYRK1AおよびDYRK2を試験した。DYRK2およびDYRK1Aの両方は、NFAT1のSP-3モチーフへ強くかつ選択的なキナーゼ活性を示したが、どちらのキナーゼも、細胞においてリン酸化されることが知られた特定のセリン残基におけるSer>Ala置換を有するSP-3ペプチドをリン酸化しなかった
9。SP-3モチーフ
における少なくとも2つのセリン残基(太字かつ下線)は、-2位または-3位にアルギニン、および+1位にプロリン(またはバリン)を有するセリン/スレオニン残基に対するDYRKキナーゼの公知の配列選択性に一致し
27-29、どちらも細胞においてリン酸化されることが知られている
9(
図6A参照)。SP-3モチーフにおける2つの他のリン酸化セリン残基(下線)が、インビボでDYRKまたは他のNFATキナーゼについての標的であるかどうかを確立するためにさらなる研究が必要とされると思われる。
【0198】
SP-2およびSP-3モチーフでのリン酸化は、リン酸化NFAT1の上方移動度シフトの一次決定因子であり、本発明者らは、それらがそれぞれ、GSK3およびDYRKによりリン酸化されることを本明細書で、および以前に示している
9。DYRKキナーゼは、タンパク質合成開始因子eIF2Bεおよび微小管関連タンパク質tauのGSK3媒介性リン酸化をプライムすることが報告されているため
29、本発明者らは、DYRKキナーゼが、NFATのGSK3媒介性リン酸化を同様にプライムすることができるかどうかを求めた。NFAT1のSP2モチーフはGSK3によりリン酸化される可能性があり
10、標的配列のGSK3認識は、PKAにより媒介されうるプライミングリン酸化を必要とする。PKAによる強いプライミングとは対照的に、DYRK2もDYRK1Aも、GSK3によるSP-2モチーフのリン酸化を効率的にプライムすることができなかった。
【0199】
DYRK2はインビトロでNFATのSP-3モチーフのみをリン酸化したため、かつそれはSP-2モチーフにおけるGSK3についてのプライミングキナーゼではなかったため、本発明者らは、それは、細胞において発現する場合、NFAT1の予想される移動度シフトの半分のみを引き起こすだろうと予想した。しかしながら、DYRK2の過剰発現は、結果として、NFAT1の完全なリン酸化を生じた(
図7B)。このパラドックスを解決するために、本発明者らは、DYRKによるNFAT制御ドメイン全体の事前リン酸化がGSK3によるさらなるリン酸化を促進するかどうかを求めた。GST-NFAT1(1〜415)融合タンパク質を、組換えキナーゼを用いてPKAまたはDYRK2により完了まで事前リン酸化し、その後、洗浄し、組換えGSK3および放射標識[γ-
32P]ATPの非存在下または存在下において短時間(45分間)、インキュベートした。以前に示されているように、GSK3は、プライミングなしにGST-NFAT1(1〜415)をリン酸化しないが、PKAまたはDYRK2のいずれかでの事前リン酸化後、リン酸化する。DYRK2での事前リン酸化は、DYRK2はSP-3モチーフをリン酸化するという事実から予想されるように、クーマシーブルー染色により判定される場合、GST-NFAT1(1〜415)の上方移動度シフトを引き起こした;さらに、DYRK2での事前リン酸化は、PKAでの事前リン酸化後に観察されるバンドと比較して、より低い移動度の放射性GSK3リン酸化バンドを生じた。これらの結果は、PKAが、SP-2モチーフ
における4番目のセリン(太字)をリン酸化することによりGSK3についてプライムし、GSK3による下線の引かれたセリンの発展的なN末端リン酸化を可能にするが、一方で、DYRK2は、別のモチーフであるSP-3モチーフをリン酸化することにより制御ドメインモチーフのGSK3媒介性リン酸化を増強することを示唆している。実際、SP-2モチーフにおけるPKAにより標的とされるセリンは、細胞においてリン酸化されているのを見出されず
10、DYRKによるNFATの生理学的制御についてのさらなる証拠を提供している。
【0200】
本発明者らは、DYRK発現がNFATの転写活性を制御するかどうかを、細胞におけるDYRK活性のインヒビターとしてのDYRK2のキナーゼ不活性型突然変異体
30,31を利用して求めた。ジャーカットT細胞に、IL-2プロモーター作動性ルシフェラーゼレポータープラスミドおよび増加量の野生型(WT)かまたはキナーゼ不活性型(KD)DYRK2のいずれかについての発現プラスミドを同時トランスフェクションした;1日後、細胞をPMAおよびイオノマイシンで6時間刺激し、レポーター活性を測定した。WT DYRK2はNFAT依存性活性を強く減少させたが、KD突然変異体は、より高い濃度でNFAT依存性ルシフェラーゼ活性を増加させることにより、インヒビターのような挙動をした(
図8A)。IL-2プロモーターのARRE2 NFAT:AP-1部位
32、およびTNFαプロモーターのκ3部位
33のタンデムコピーを含むルシフェラーゼレポーターを用いて同様の結果を得た。関連実験において、発現WT DYRK2はまた、刺激されたジャーカットT細胞による内因性IL-2の産生を用量依存的様式で減少させたが、KD DYRK2は再び、高濃度で発現する場合、これらの条件下でIL-2産生を増加させることにより、阻害効果を生じた(
図8B、8C)。さらに、本発明者らは、ジャーカット細胞株において低い内因性レベルで安定に発現したHA-NFAT1で免疫共沈降する内因性DYRK2を検出した;この点において、DYRKはSRR-1キナーゼCK1と似ている可能性があるが、CK1は休止状態下でNFATと安定な複合体を形成するが、活性化後解離する
10。DYRK-NFAT相互作用は、DYRKが生理学的NFATキナーゼであるという仮説を支持している:この型のキナーゼ-基質相互作用は、多くの他のシグナル伝達経路において極めて重要であることが知られているが、それらはしばしば、一過性であり、内因性の発現レベルで検出することは困難である
34。
【0201】
考察
本発明者らは、ショウジョウバエにおけるゲノムワイドなRNAiスクリーニングが、シグナル伝達経路の重要なメンバーが進化的に保存され、かつショウジョウバエゲノムにおいて表されているとの条件で、哺乳動物細胞におけるシグナル伝達の新規な局面を探索するための妥当かつ強力なストラテジーであることを示している。本発明者らは、純粋に脊椎動物の転写因子であるNFATの保存された制御因子を同定するための方法を用いている;本発明者らの知る限りでは、これは、このように進化的境界を交差するゲノムワイドなRNAiスクリーニングの最初の例である。ストラテジーは、脊椎動物に出現した時、Ca
2+制御性NFATタンパク質により最近用いられた進化的ニッチをショウジョウバエが発展させたため、成功した。このアプローチを用いて、本発明者らは、DYRKをNFATの新規な生理学的制御因子、および最初のSP-3モチーフ指向性キナーゼであると同定している。他の哺乳動物の過程の制御の保存された局面もまた、ショウジョウバエ細胞における発展したアッセイにより首尾よく定義されると考えられる。
【0202】
本発明者らのデータは、DYRKが保存SP-3モチーフ内のNFAT制御ドメインをリン酸化し、それにより、GSK3によるNFAT制御ドメインのさらなるリン酸化を促進する機構により、DYRKがNFATリン酸化を制御することを示唆している。類似した逐次機構は、NFATの進行性脱リン酸化を制御することができ、それにより、SRR-1モチーフの脱リン酸化が、それらのカルシニューリンへの接触性を増加させることによりSP-2およびSP-3モチーフの脱リン酸化を促進する
9。細胞質に局在しているクラスII DYRK(DYRK2、3および4)
25は、休止細胞において細胞質NFATのリン酸化状態を持続する「維持」キナーゼとして主に機能するが、核に局在しているクラスI DYRK(DYRK1Aおよび1B)
25は、核NFATを再リン酸化し、その核外移行を促進する。顕著には、DYRK1Aおよび内因性カルシニューリン制御因子RCN/DSCR1/カルシプレシン-1は、両方とも、第21染色体上のダウン症候群の重要領域(Down Syndrome Critical Region)に局在している。従って、ダウン症候群におけるNFATのこれらの負の制御因子の過剰発現は、NFAT活性化を阻害することにより、第21染色体トリソミーに関連した重症の神経学的および免疫発達的欠陥に寄与しうる
35。
【0204】
実施例3
表I
表Iにおいてカテゴリーへ分類された、二次スクリーニングにおいて陽性であった候補のリスト。1番目の列は、候補が確認スクリーニングにおいて再試験されたかどうかを示す(NT、試験せず);試験された場合には、3つの別々の実験からの積算局在性スコアが示されている(方法参照)。他の列は、遺伝子名、Flybase番号、およびHomologeneから得られるヒトオルソログ(キナーゼカテゴリーについて、方法に記載された系統発生解析が加えて用いられた)、ならびに21ntの完全な一致をもつ予想されるオフターゲットの数を列挙し、>10個のオフターゲットをもつ37個の候補は掲載していない。
【0205】
表II
発現の解析、タプシガルジン処理細胞におけるRNAi表現型、ならびにカルシニューリンサブユニットおよび関連タンパク質についての単位複製配列オフターゲット。S2R+細胞におけるサブユニットの発現レベルは、RT-PCR分析により推定され、タプシガルジン(TG)処理細胞におけるNFAT核局在化に対するそれらの枯渇の効果が評価された(+++、強い阻害;-阻害なし)。サブユニットのそれぞれを標的とするDRSC単位複製配列は、方法に記載されているように、21nt、20nt、または19ntの完全な一致をもつ予想されるオフターゲットについて分析された。オフターゲットの記載は表IIIに提供されている。赤色は、主要標的と同じファミリーに属するオフターゲットを示す。
【0206】
カルシニューリンAの3つのアイソフォームのうち、CanA 1についての単位複製配列ならびにPp2b-14DおよびCanA-14Fについてのそれぞれ1つの単位複製配列は、予想されるオフターゲットを示さない。CanA 1はあまり発現せず、その枯渇はNFAT核転位置を阻害しないが、Pp2B-14DおよびCanA-14Fは両方とも発現し、いずれかのアイソフォームの枯渇は、結果として、NFAT核転位置の強い阻害を生じる。
【0207】
なぜ、中程度に発現したアイソフォームCanA-14Fの枯渇は、より高度に発現したアイソフォームPp2B-14Dの枯渇と類似した阻害を与えるか?異なる方法は異なる感度を有し、NFATの核局在化における微妙な変化を目で識別することができるが、そのような視覚的推定は、(例えば)ウェスタンブロッティングにより脱リン酸化の程度を推定するほど定量的ではない。
【0208】
カルシニューリンBの3つのアイソフォームのうち、2つ(CanBおよびCanB2)は哺乳動物カルシニューリンBに強く関連しているが、CG32812はより遠い関連性であり、哺乳動物CHPに似ている。CanBまたはCanB2のいずれかに対するRNAiは、CanBがほとんど発現していないのに対して、CanB2は高レベルで発現しているにもかかわらず、NFAT核局在化の同等の阻害(〜70%)を与えた。これは、CanBおよびCanB2が相互のオフターゲットであり、それらのそれぞれの単位複製配列DRSC18449およびDRSC07355において20ntの重複を有するという事実による可能性が最も高い。
【0209】
表IV
追加の実験において評価された、選択された候補についての単位複製配列オフターゲット。休止細胞におけるNFAT核蓄積に対するRNAi媒介性枯渇の効果を評価する、確認スクリーニングにおける候補のスコアが示されている(表Iから採られた)。陽性DRSC単位複製配列を有する各候補について、21nt、20nt、または19ntの完全な一致をもつ予想されるオフターゲットが列挙されている。オフターゲットの記載は下に提供されている。赤色は、最初のスクリーニングにおいて陽性であった主要標的と同じファミリーに属するオフターゲットを示す。
【0210】
GSK3相同体sgg(DRSC18832)に対応する単位複製配列は、最高スコアを与えたが、また多数のオフターゲットも有する。これらのオフターゲットのいずれも、一次スクリーニングにおいて1の低スコアを与えたgskt(DRSC14056)に対応しない。
【0211】
最高スコアリングCK1ファミリーメンバーgishに対応する単位複製配列は、予想されるオフターゲットをもたず、それがNFATの真正の制御因子を表すことを示している。明らかな交差不活性化が、CK1アイソフォームdco、CK1α/CG2028およびCG2577(それぞれは、1の陽性局在性スコアをもつ)に対応する、単位複製配列DRSC16929、DRSC20231、およびDRSC19863について存在する。他のアイソフォームに関連したスコアが、アイソフォームの発現レベル、オフターゲット効果、または両方を反映するかどうかを決定するためにさらなる研究が必要である。
【0212】
幸運にも、この研究について本発明者らが焦点を合わせた2つの候補--DYRKおよびSTIM--に関して、21nt、20nt、または19ntのいずれの完全な一致についても予想されるオフターゲットはない。
【図面の簡単な説明】
【0217】
(
図1)
図1A〜1Cは、貯蔵量作動性Ca
2+流入(SOCE)における遺伝子量効果を示す。
図1Aは、SOCEおよびCRACチャネル機能に欠陥を有する患者の系図を示す。2人の男性SCID患者(被験体ID番号8および11;塗りつぶした黒色四角形)は、同族の両親(被験体ID番号35および36)の下に生まれた。機能的および遺伝的分析について、DNAおよび血液試料を、黄色および黒色に示された全個体から採取した。半分黒色四角形または丸は、表現型分析により測定されるヘテロ接合性疾患保因者を示す。二重水平バーは血族結婚、黒色四角形はSCID疾患、対角線バーは個体の死を示す。
図1Bは、疾患形質のヘテロ接合性保因者として定義するCRAC欠損性SCID患者の両親のT細胞におけるSOCEの低下を示す。T細胞を、細胞外Ca
2+の非存在下でタプシガルジン(TG)で刺激した。Ca
2+流入のピーク(上部パネル)および速度(下部パネル)を、0.5mM細胞外Ca
2+の再添加後、測定した。
図1Cは、12人/21人のSCID患者の親族メンバーをヘテロ接合性疾患形質保因者であると表現型的に同定するSOCEの低下を示す。Ca
2+流入を、0.2mM細胞外Ca
2+を用いること以外、Bに記載されているように測定した。4〜5つの実験からのCa
2+流入速度の平均が示されている。個々のID番号は、
図1Aに示されたものに対応する。星は、2nM/s(赤色点線)未満の流入速度により定義される場合のヘテロ接合性保因者を示す。Co、健康な対照;P、患者。
(
図2)
図2A〜2Bは、ゲノムワイドなRNAiスクリーニングがショウジョウバエOraiをNFAT転位置および貯蔵量作動性Ca
2+流入を制御するタンパク質であると同定することを示す。
図2Aは、dSTIMまたはdOraiのRNAiがNFATの脱リン酸化を阻害することを示す。NFAT1(1〜460)-GFPを安定にトランスフェクションしたS2R+細胞を、dSTIM、dOrai、または関連性のないDNA配列(擬似)に対する二本鎖(ds)RNAiと4日間インキュベートした。細胞を、刺激しないままにしておく(-TG)か、またはタプシガルジンで10分間刺激し(+TG)、その後、TGでの刺激後に溶解し、そして、細胞抽出物を、SDS-PAGEにより分離し、NFAT1に対する抗体でイムノブロッティングした。NFATの脱リン酸化は、SDS-PAGE上のより速い移動(より低いバンド)により証明される。
図2Bは、dSTIMまたはdOraiのいずれかのRNAiがS2R+細胞においてCa
2+流入を阻害することを示す。細胞を、刺激しないままにしておく(-TG)か、またはタプシガルジンで10分間刺激し(+TG)、その後、Fluo-4およびFura-Redを負荷し、フローサイトメトリーによりCa
2+流入について分析した。1μMタプシガルジンを示された時点で加えた。各パネルにおける上部線はGfpについてのRNAiを示し、下部線はdSTIMまたはdOraiについてのRNAiを示す。Ca
2+流入の減少は、タプシガルジンの添加後の排出率における大きく低下した変化により示される。
(
図3)
図3A〜3Cは、Orai1が膜貫通タンパク質であることを示す。
図3Aは、Orai1が真核生物において高度に保存されていることを示す。Orai1の4つの推定の膜貫通領域の1番目における配列保存(M1、下線)が示されており、SCID患者において見出されるR>W突然変異(太字)を含む。
図3Bは、Orai1の膜トポロジーを示す。ヒドロパシープロットは、Kyte-Doolittleアルゴリズムを用いて19アミノ酸のウィンドウサイズでヒトOrai1(301アミノ酸、NP_116179)の完全長アミノ酸配列から計算した。3つの膜貫通ドメイン(M2〜M4)は、スコア>1.8をもつと予想される;M1は〜1.3のスコアをもつ。
図3Cは、ヒドロパシープロットおよび免疫細胞化学データに基づいたOrai1の推定の膜トポロジーの概略図を示す。SCID患者におけるR>W突然変異の部位は暗色の囲みにより示されている。
(
図4)
図4A〜4Hは、Orai1の発現がSCID T細胞においてCRACチャネル機能を回復させることを示す。
図4Aは、8mM BAPTAを含むピペット溶液での受動的貯蔵枯渇によるOrai
WT補完SCID T細胞における内向き電流の活性化を示す。示された時点において、20mM Ca
2+o溶液を二価を含まない(DVF)溶液と交換した。二価陽イオンの非存在下における電流の増加は、CRACチャネルおよび特定の他のCa
2+選択性チャネルの特性である。
図4Bは、-100mVから+100mVまでの電圧傾斜間に測定した20mM Ca
2+o中(左)およびDVF溶液中(右)の電流-電圧(I-V)関係を示す。データは、4Aにおける矢印により示された時点で収集した。Ca
2+電流I-V関係は、逆転電位>+90mVで内向きに整流していることに留意されたい。DVF溶液において、電流は〜+50mVで逆転した。
図4Cは、突然変異体Orai1
R>Wを発現するSCID T細胞において、内向きCa
2+およびNa
+電流が8mM BAPTAによる受動的貯蔵枯渇中に発生できないことを示す。
図4Dは、脱増強するNa
+電流のノイズ特性を示す。上部グラフは、-100mVの一定保持電位における平均電流を示す。点線は、ゼロ電流レベル(20mM Ca
2++2μM La
3+において測定した)を示す。分散は、Na
+電流の100-msセグメントから計算し、下部パネルにおいて平均電流に対してプロットした。データは、下限値を単位電流に割り当て、26fAの傾きをもつ直線にフィットしている。
図4Eは、Orai
WTを発現するSCID T細胞におけるCa
2+電流の高速不活性化を示す。高速不活性化は、20mM Ca
2+oで、+30mVの保持電気から-100mVへの300-msステップ中に測定した。
図4Fは、2μM La
3+によるCa
2+電流の遮断を示す。Orai
WTを発現するSCID T細胞における内向き電流の受動的誘導後、2μM La
3+を添加した。点線は、実験の始めの細胞全体の侵入直後に収集したトレースから決定したゼロ電流レベルを示す。
図4Gは、2-APBの低用量(5μM)および高用量(40μM)の、それぞれ、適用によるI
CRACの増強および遮断を示す。
図4Hは、示された細胞カテゴリーにおけるピーク電流密度の要約を示す。ピーク電流は、-100mVへのステップ中に測定した。野生型Orai1での再構成は、このように、天然のCRACチャネルの予想される特性をもつ電流を再構成する。Orai1
WTまたはOrai1
R>Wを形質導入した細胞は、GFP蛍光に基づいて視覚的に選択した;形質導入していない細胞はGFP陰性であった。
(
図5)
図5A〜5Dは、SCID患者由来の線維芽細胞におけるOrai1の発現が貯蔵量作動性Ca
2+流入を回復させることを示す。
図5Aは、75μM 2-APBによる、Orai1
WT発現SCID線維芽細胞におけるCa
2+流入の阻害を示す。
図5Bは、3μM 2-APBによる、Orai1
WT発現SCID線維芽細胞におけるCa
2+流入の増強を示す。
図5C〜5Dは、20mM Ca
2+の再添加前(
図5C)または後(
図5D)に、加えられた2μM La
3+によるOrai1
WT発現SCID線維芽細胞におけるCa
2+流入の阻害を示す。各実験について、〜15個から20個までのGFP陽性線維芽細胞を分析した。実験は、各プロトコールについて少なくとも3回、繰り返した。
(
図6)
図6A〜6Cは、NFAT制御ドメイン、およびショウジョウバエにおけるゲノムワイドなRMAiスクリーニングの結果を示す。
図6Aは、刺激で脱リン酸化される保存されたリン酸化セリンモチーフ(丸)を示すNFAT1のN末端制御ドメインの概略図を示す。インビトロキナーゼアッセイに用いられたSRR1、SP2、およびSP3モチーフに対応するペプチドが表されている。下線で示されたセリン残基は、インビボでNFAT1においてリン酸化されていることが同定されており、これらは、突然変異体SP2およびSP3モチーフにおいてアラニンに突然変異している残基である。
図6Bは、異種性に発現したNFATがショウジョウバエS2R+細胞においてCa
2+およびカルシニューリンにより正しく制御されることを示す。ショウジョウバエS2R+細胞にNFAT1-GFP発現ベクターをトランスフェクションした。48時間後、細胞を未処理のままにしておく(Untr)、またはタプシガルジン(TG、1μM)で30分間処理し、そして、細胞由来の可溶化物を抗NFAT1での免疫ブロッティング(IB)により分析した。PおよびdePは、それぞれ、リン酸化および脱リン酸化のNFAT-GFPの移動位置を指す。
図6Cは、一次スクリーニングの結果の作表を示す。
(
図7)
図7A〜7Cは、NFATリン酸化についてのショウジョウバエS2R+細胞RNAiスクリーニングにおいて同定した候補キナーゼのスクリーニング、およびNFATの負の制御因子としてのDYRKの同定を示す。
図7Aは、候補キナーゼの過剰発現した哺乳動物相同体のNFAT制御ドメインを直接的にリン酸化する能力を示す。選択したショウジョウバエキナーゼのFLAGタグ付き哺乳動物の相同体をHEK293細胞において発現させ、免疫精製したキナーゼをGST-NFAT1(1〜415)のリン酸化についてのインビトロのキナーゼアッセイを用いて試験した。リン酸化レベルは、短時間(上部パネル)または長時間(中央パネル)曝露のいずれかでのオートラジオグラフィーにより評価した。各キナーゼの発現は、抗FLAG抗体を用いる免疫ブロッティング(IB)により検証した。試験したキナーゼは以下のとおりである;レーン1、CK1α;レーン2、CK1ε;レーン3、Bub1;レーン4、STK38;レーン5、STK38L;レーン6、CDC42BPA;レーン7、ARAF;レーン8、PRKG1;レーン9、SGK;レーン10および11、CSNKA1およびCSNKA2(CKIIアイソフォーム);レーン12、SRPK1;レーン13、DYRK2;レーン14、ALS2CR7;レーン15、IRAK4。Bub1は、後で、>10個の予想されるオフターゲットのため、本発明者らの候補リストから除外した(実施例3)。
図7Bは、DYRK2の過剰発現がNFAT1のカルシニューリン媒介性脱リン酸化を遮断することを示す。各キナーゼを、NFAT-GFPと共にHEK293細胞へ同時トランスフェクションした;18時間後、細胞を、2mM CaCl
2の存在下で1μMイオノマイシンで刺激した。可溶化液をNFAT1抗体を用いて免疫ブロットした。キナーゼの相対的発現レベルは、抗FLAG抗体を用いる免疫ブロットにより測定し、
図6A(下部パネル)に示したものと同一であった。
図7Cは、内因性DYRK1Aの枯渇がNFAT活性化を増強することを示す。Haタグ付きNFAT1-GFPを安定に発現するHeLa細胞に、対照siRNAまたはDYRK1A特異的siRNAをトランスフェクションした。4日後、細胞を、1μMタプシガルジン(TG)、または1μMタプシガルジン(TG)、続いて、示された時点について20nM CsAで刺激した;可溶化液を抗HA抗体を用いてNFAT-GFPについて免疫ブロットした(左)。DYRK1A mRNAレベル(右)を3日および4日後、リアルタイムPCRにより評価した。si対照、スクランブル対照siRNA;siDYRK1A、DYRK1A特異的siRNA。結果は3つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。
(
図8)
図8A〜8Cは、DYRK2がNFAT依存性レポーター活性および内因性IL-2発現を阻害することを示す。
図8Aは、DYRK2の過剰発現が刺激されたジャーカットT細胞においてIL-2プロモーター作動性ルシフェラーゼ活性を阻害することを示す。(IL2プロモーターは、活性化がNFATへの強い要求を示すサイトカインプロモーターの例である。)指数関数的に増殖中のジャーカットT細胞に、pRLTK(レニラのルシフェラーゼ、内部対照)、IL-2-pGL3(IL-2プロモーター作動性ホタルのルシフェラーゼ、実験的プロモーター)、および空ベクターまたは増加量の野生型(WT)もしくはキナーゼ不活性型(KD)DYRK2発現プラスミド(5、10、15、および20μg)を同時トランスフェクションした。24時間後、処理していない細胞、またはPMAおよびイオノマイシンで6時間刺激した細胞を、IL-2プロモーター作動性ルシフェラーゼ活性について分析した。ホタルのルシフェラーゼは、レニラのルシフェラーゼに対して標準化し、誘導の倍数を、未処理細胞において測定したIL-2プロモーター活性に対して計算した。結果は、3つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。
図8Bは、DYRK2の過剰発現が、刺激されたジャーカットT細胞において内因性IL-2発現を阻害することを示す。指数関数的に増殖中のジャーカットT細胞に、GFP、および空のベクターまたは増加量の野生型(WT)もしくはキナーゼ不活性型(KD)DYRK2発現プラスミド(10、20、および30μg)を同時トランスフェクションした。24時間後、処理していない細胞、またはPMAおよびイオノマイシンで6時間刺激した細胞を、細胞内サイトカイン染色およびフローサイトメトリーによりGFP+細胞におけるIL-2発現について評価した。
図8Cは、8Bに示した結果の定量化を示す。結果は、3つの独立した実験の平均および標準偏差を示す。
(
図9)
図9A〜9Cは、STIMタンパク質が、貯蔵量作動性Ca
2+流入を変化させることによりNFAT局在性に影響を及ぼすことを示す。
図9Aは、核NFATを含む細胞のパーセントを、擬似処理またはdSTIMに対するdsRNAでの処理後、3つの独立した実験において定量化したことを示す。平均および標準偏差をプロットする。50〜100個の細胞を各実験について分析した。
図9Bは、ショウジョウバエSTIM(dSTIM)のRNAi媒介性枯渇のNFATリン酸化状態に対する効果を示す。刺激していない、またはタプシガルジン(TG)刺激S2R+細胞から作製した可溶化液を、NFAT1に対する抗体での免疫ブロッティングにより調べた。細胞を、擬似処理した、またはdSTIMを標的とするdsRNAで4日間処理した。
図9Cは、dSTIMまたは確認スクリーニングからの新規な遺伝子候補に関して枯渇したS2R+細胞において、フローサイトメトリーにより分析した、細胞内Ca
2+レベルを示す。GFP dsRNAが、dsRNA処理により引き起こされる非特異的効果についての対照として用いられた。基底[Ca
2+]i測定の30秒後、1μMタプシガルジンを加え(矢印)、[Ca
2+]i測定をさらに5分間継続した。dSTIMの枯渇は、ほとんど完全に、タプシガルジン誘導性、すなわち、貯蔵量作動性のCa
2+流入を消失させる。
(
図10)
図10A〜10Bは、ショウジョウバエにおける、およびヒトにおけるDYRKファミリーの異なるメンバー間の系統発生的関係、ならびにジャーカットT細胞におけるヒトDYRKの発現パターンを示す。
図10Aは、距離に基づいた方法(近隣連結)を用いるDYRKファミリーキナーゼの系統樹を示す。左側図は、プログラムTcoffeeにより計算した、ショウジョウバエCG40478とヒトDYRK2、3;ショウジョウバエCG4551(smi35A)とヒトDYRK4;ショウジョウバエCG7826(mnb)とヒトDYRK1 A、B(上部)の間の相同性関係を示す。右側の図において、CG40478-DYRK2についてのオルソログブートストラップ値は、CG40478-DYRK3についてより高い(上部)。それゆえに、DYRK2は、CG40478のオルソログ(種分化事象により分岐した遺伝子)であるが、DYRK3はパラログ(重複事象により分岐した遺伝子)である可能性がある。オルソログブートストラップ値の計算は、Orthostrapperで行った。
図10Bは、ジャーカットT細胞においてDYRKファミリーメンバーの発現を示す。哺乳動物DYRK mRNAsinジャーカットT細胞の発現レベルはRT-PCR分析により推定した。プライマーは以下に対応する:
(
図11)
図11A〜11IはNFAT制御遺伝子についてのヌクレオチド配列を示す。
図11Aは、ヌクレオチド配列ORAI1(NM_032790;SEQ ID NO:1)を示す。
図11Bは、ORAI2のヌクレオチド配列(BC069270;SEQ ID NO:2)を示す。
図11Cは、ORAI3のヌクレオチド配列(NM_152288;SEQ ID NO:3)を示す。
図11Dは、DYRK1Aのヌクレオチド配列(NM_001396;SEQ ID NO:4)を示す。
図11Eは、DYRK1Bのヌクレオチド配列(NM_004714;SEQ ID NO:5)を示す。
図11Fは、DYRK2のヌクレオチド配列(NM_003583;SEQ ID NO:6)を示す。
図11Gは、DYRK3のヌクレオチド配列(NM_003582;SEQ ID NO:7)を示す。
図11Hは、DYRK4のヌクレオチド配列(NM_003845;SEQ ID NO:8)を示す。
図11Iは、DYRK6のヌクレオチド配列(NM_005734;SEQ ID NO:9)を示す。