【実施例1】
【0023】
[ヘッド・サスペンション]
本発明実施例の圧電素子組付判別方法は、ヘッド・サスペンションの圧電素子の組付判別を例にして説明する。
【0024】
図1は、圧電素子の組付けたヘッド・サスペンションに係り、(A)は、正常品の平面図、(B)は、正同極(P・NG)品の平面図、(C)は、負同極(N・NG)品の平面図である。
【0025】
図1のように、ヘッド・サスペンション1は、基部のベース・プレート3とロード・ビーム5との間に一対のPZT(ジルコンチタン酸鉛)等の圧電素子7a,7bが正極、負極の向きを表裏変えて併設並列接続され、アクチュエータ9が構成されている。
【0026】
ロード・ビーム5の先端側には、読み書き用のヘッド部11が支持され、ロード・ビーム5及びヘッド部1が可動部を構成している。ヘッド部11は、フレキシャ13のタングにスライダ15が取り付けられることにより構成されている。フレキシャ13は、ロード・ビーム5にレーザー・スポット溶接などにより取り付けられている。
【0027】
図1(A)が設計通りの正常品の一例であり、図のフレキシャ13配置側の平面をベース・プレート3側から見て左側の圧電素子7aが正極(斜線)上向き、同右側の圧電素子7bが負極(白抜き)上向きに配置されている。フレキシャ13に配索された素子用の配線が各極に接続され、裏面において各極が導電性接着剤などによりベース・プレート3側に接続され、並列接続となっている。
【0028】
以下、正極が
図1(A)の上面側にある圧電素子7aをP(Positive)・PZT7a、同下面側にある圧電素子7bをN(Negative)・PZT7bとする。
【0029】
したがって、アクチュエータ9のP・PZT7a,N・PZT7bへ電圧を印加すると、その印加状態に応じ、同様に一対のP・PZT7a,N・PZT7bが伸長圧縮の逆方向へ変形し、ロード・ビーム5を介しヘッド部11がベース・プレート3に対してP・PZT7a,N・PZT7bの併設方向であるスウェイ方向へ微少移動されるようになっている。
図1(B)は、左右双方のP・PZT7a,N・PZT7bが正極(斜線)上向きに配置された正同極(P・NG)品のヘッド・サスペンション1Aである。
【0030】
図1(C)は、左右双方のP・PZT7a,N・PZT7bが負極(白抜き)上向きに配置された負同極(N・NG)品のヘッド・サスペンション1Bである。
[圧電素子組付判別方法]
本実施例1の圧電素子組付判別方法では、前記ヘッド・サスペンション1,1A,1Bのアクチュエータ9,9A,9Bにおける前記P・PZT7a,N・PZT7bの組付状態を判別する。この判別により、例えば
図1(A)の正常品と
図1(B)のP・NG品及び
図1(C)のN・NG品とを区別する。
【0031】
具体的には、前記P・PZT7a,N・PZT7bに掛けるバイアス電圧Vの設定範囲での変化に対する静電容量Cの変化を検出し、前記組立状態を前記検出された静電容量Cの変化の特性相違により判別する。
[静電容量Cの変化の特性]
図2(A)は、圧電素子の順方向電圧状態の等価回路、(B)は、初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフ、
図3(A)は、一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路、(B)は、各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフ及び合成した静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。
【0032】
図2(A)の圧電素子7に順方向のバイアス電圧を掛けると、静電容量−印加電圧特性は、ヒステリシスをもって
図2(B)の特性17のようになる。
【0033】
前記ヘッド・サスペンション1のP・PZT7a,N・PZT7bは、
図3(A)の等価回路で示され、バイアス電圧を掛けると、ヒステリシスをもって
図3(B)上図のように、P・PZT7aの静電容量−印加電圧特性19、N・PZT7bの静電容量−印加電圧特性21となる。これら静電容量−印加電圧特性19、21が合成されると
図3(B)下図の左右ほぼ対象のV型の特性23となる。
[配置状態正誤判別]
図4は、一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路であり、(A)は、正常品の等価回路、(B)は、P・NGの等価回路、(C)は、N・NGの等価回路、
図5は、
図4(A)〜(C)の各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。
【0034】
図4(A)〜(C)の等価回路で示される正常品、P・NG品、N・NG品に設定範囲でバイアス電圧Vを掛けると、特性27,29,31が得られた。
【0035】
バイアス電圧Vの設定範囲の最大許容値は、最大逆方向電圧であり、この最大逆方向電圧は、前記P・PZT7a,N・PZT7bの伸長を完全に抑え込んだ時の外圧を発生する最大駆動電圧の20%である。
【0036】
バイアス電圧Vの設定範囲での最小許容値は、検出された静電容量が測定ばらつきよりも大きな変化となるようにする。
【0037】
図6は、判別原理を示しバイアス電圧0V〜20Vでの静電容量変化を単純化したグラフ、
図7は、バイアス電圧2条件(20V,0V)での静電容量を示すグラフ、
図8は、判別原理を示しバイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化を単純化したグラフ、
図9は、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量を示すグラフである。
【0038】
図6、
図7は、特性相違を静電容量の変化量が設定範囲内であるか否かで判別する原理、
図8、
図9は、特性相違を静電容量の変化が±同一のバイアス電圧に対して対応しているか否かで判別する原理である。この場合の判別は、P・PZT7a,N・PZT7bの並列接続の正誤である。
【0039】
図6、
図7の場合には、設定範囲でのバイアス電圧2条件(20V,0V)での静電容量の差が、正常品でδ1=20.7、P・NG品でδ2=68.7、N・NG品でδ3=−32.6となり、正常品のδ1=20.7と比較することで、正常品かP・NG品或いはN・NG品かを判別することが可能である。
【0040】
図8、
図9の場合には、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量の差がさらに明確となり、特性相違を静電容量の変化が±同一のバイアス電圧に対して対応しているか否かで判別することができる。
【0041】
すなわち、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量の差が、正常品でδ1=5.3、P・NG品でδ2=99.1、N・NG品でδ3=−93.5となり、正常品でδ1=5.3がほぼ零に近く、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量が±同一のバイアス電圧(20V,−20V)に対して対応しているのに対し、P・NG品或いはN・NG品は、全く対応しない点で判別することができる。
【0042】
図10は、バイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化の測定結果を示すグラフ、
図11は、静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として表したグラフである。
【0043】
図1(A)(B)(C)のヘッド・サスペンション1,1A,1Bのアクチュエータ9にバイアス電圧20V〜−20Vを掛けた静電容量の測定値が
図10のように得られる。この
図10の生データを、静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として
図11のように標準化して表す。この
図11を用いることで、前記原理のように正常品とP・NG品或いはN・NG品との区別を簡易に判別することができる。
[判別しきい値]
図12は、圧電素子の電圧感度を示すグラフ、
図13は、判別を示す図表、
図14、
図15は、静電容量をしきい値と共に示すグラフである。
【0044】
前記特性相違は、前記検出された静電容量の変化量が設定されたしきい値内であるか否かでも判別できる。
【0045】
図12のように、P・PZTの+バイアス 領域での静電容量の電圧感度の大きさをa, −バイアス領域での電圧感度の大きさをbとする。同様に N・PZTについてもa', b'とする。
【0046】
バイアス電圧Vを印加した時の、正常品(OK品)のバイアス0Vを基準とする静電容量δC・OK(V)は、
図13のように、
δC・OK(V) = (a−b')V
同様に両方P・PZTであるP・NG品については、
δC・P・NG(V) = 2aV
ここから、正常品とP・NG品のバイアス電圧VにおけるδCの差を求めると、
δC・P・NG(V)−δC・OK(V) = 2aV−(a-b')V=(a+b')V
この差が静電容量測定のばらつきに対し有意差を持つよう、バイアス電圧Vを定める必要がある。
【0047】
静電容量測定のばらつきの範囲をdとすると、バイアス2条件の静電容量差のばらつきの
範囲は2dと考えられるから、本測定に使用できるVの条件は、
(a+b') V >> 2d
V >> 2d/(a+b')
N・NGについては、以上と同様にして
V >>2d/(a'+b)
一般的に、ヘッド・サスペンション(DSA)に使用されるP・PZT、N・PZTは a=a'かつb=b'なので、
V >> 2d/(a+b)
即ち、バイアス電圧Vは、静電容量測定のばらつきの2倍を、単品PZTの+バイアス、-バイアスでの静電容量電圧勾配の和で割った値より十分大であることが必要である。
【0048】
今回のNGサンプル評価の結果からは、
a = 1.6 [pF/V]
b' = 0.9[pF/V]
ここで、dを10[pF]とすると、
V>> 8[V]
上記から、正常品、P・NG品、N・NG品のバイアス電圧V,−V[V]条件の、バイアス 電圧0Vの静電容量に対する変化量δCは、a>bかつa'>b'より、次の関係にある。
【0049】
δC・P・NG > δC・OK > δC・N・NG
製品の分布調査から、静電容量測定精度、バイアス条件によっては、実際にはより狭い範囲での判別が可能であるが、原理的な搭載異常品判別のしきい値としては、それぞれの値の中間値で十分である。
【0050】
正常品と判別されるδCの上限、加減をδCTH,δCTLとおくと、
(バイアス 条件 V , 0)
δC・TH = (δC・P・NG(V)+δC・OK(V))/2 = (3a−b')V/2
δC・TL =(δC・OK(V)+δC・N・NG(V))/2 = (a−3b')V/2
今回のNGサンプル評価結果に適用してみると、V=20[V]で、
δC・TH = 40pF
δC・TL =−10pF
となる。
【0051】
図14のように、このしきい値で正しく判別が行えた。
【0052】
a,bの測定サンプルが少ないため、若干しきい値のδCが−側にシフトしている。
【0053】
(バイアス 条件 V ,−V)
通常、a≒a'かつb≒b'であるから、
δC・OK(V) ≒ δC・OK(-V)
よって、
δC・TH = (δC・P・NG(V)−δC・P・NG(-V))/2 = (a+b)V
δC・TL =(δC・N・NG(V)−δC・N・NG(-V))/2 = −(a'+b')V
今回の測定結果に適用してみると、
δC・TH = 52pF
δC・TL = −47.8pF
図15のように、このしきい値で十分な余裕を持って判別が行えた。
【0054】
2バイアス条件の電圧差が大きいほど、特性の差が拡大され、判別精度が向上することも以上から示される。
[断線判別]
図16〜
図19は、断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図、
図20、
図21は、静電容量の測定結果を示すグラフである。
【0055】
図16〜
図19は、それぞれのサンプルにおいて矢印の箇所で配線をカットしたものであり、バイアス電圧をかけると
図16、
図17は、左側のP・PZTのみ通電され、
図18、
図19は、左側のN・PZTのみ通電される。
【0056】
図16、
図17の静電容量−印加電圧特性は、
図20のように得られ、
図18、
図19の静電容量−印加電圧特性は、
図21のように得られた。
【0057】
したがって、
図20、
図21のような特性を正常品の特性と比較することで、回路の断線状態を判別することができる。
【0058】
さらに述べると、圧電素子へ給電する配線の接続不良、その断線モードの判別には、2条件のδCおよび、内1条件の静電容量C(V)を用いる。
【0059】
図25(A)は、全断線の静電容量、(B)は、半断線の静電容量、(C)は、無断線の静電容量を示す等価回路である。
【0060】
通常、P・PZT,N・PZTの静電容量はほぼ等しいから、静電容量(規格値Cstdの2PZT DSA)に全断線、半断線が発生した場合の静電容量は、
図22(A)〜(C)のように、0、Cstd/2、Cstdとなる。
【0061】
よって、
C(V) < Cstd /4 : 全断線 (2PZTともに接続不良)
Cstd/4 < C(V) < Cstd x 3/4 : 半断線 (1PZT接続不良)
C(V) > Cstd x 3/4 : 正常品
と判別できる。
【0062】
これに加え、半断線の場合、バイアス2条件の静電容量差δCを測定することで、どちらの圧電素子への配線が接続不良となっているかを判別できる。
【0063】
(バイアス条件 V〜 0)
P・PZT側が接続不良
δC・P・CUT = C・P・CUT(V)−C・P・CUT(0) = −b'V
N・PZT側が接続不良
δC・N・CUT = C・N・CUT(V)−C・N・CUT(0) = aV
ここから、δC・P・CUTとδC・N・CUTとの中央値との比較でP/Nどちらの側で接続不良が発生しているかを判別できる。
【0064】
δC > (a−b')V/2 N・PZT側接続不良
δC < (a-b')V/2 P・PZT側接続不良
(バイアス条件 V〜−V)
同様にして、
P・PZT側が接続不良
δC・P・CUT = C・P・CUT(V)−C・P・CUT(0) =−(a'+b')V
N・PZT側が接続不良
δC・N・CUT = C・N・CUT(V)−C・N・CUT(0) = (a+b)V
通常、a≒a'かつb≒b'であるから、δC・P・CUTとδC・N・CUTの中央値は0となり、
δC > 0 :P・PZT側接続不良
δC < 0 :N・PZT側接続不良
と判別できる。
【0065】
但し、半断線不良とPZT搭載不良(配置状態誤)が同時に発生している場合があるので、完全な不良モード同定には、PZTとテールパッドの導通検査を組み合わせる必要がある。すなわち、NGと判定された製品の配線が接続されているPZTの電極部と、対応する配線テールパッド部間の導通検査により、配線の断線を確認する。
[その他]
本発明の圧電素子組付判別方法は、ヘッド・サスペンションのアクチュエータに限らず、配置状態を変えて一対並列接続された圧電素子によるアクチュエータを備えた他のものにも適用することができる。
【0066】
バイアス2条件V1,V2は、1条件が0Vであるか、V1=−V2である必要はない。すなわち、最大駆動電圧の20%以内、且つ判別ができる電圧差があれば良く、本発明実施例のサンプルの場合、−5V、+15Vでも良い。