特許第5881288号(P5881288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881288圧電素子組付判別方法及びヘッド・サスペンション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881288
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】圧電素子組付判別方法及びヘッド・サスペンション
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/10 20060101AFI20160225BHJP
   G11B 21/21 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   G11B21/10 N
   G11B21/21 C
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-261577(P2010-261577)
(22)【出願日】2010年11月24日
(65)【公開番号】特開2012-113782(P2012-113782A)
(43)【公開日】2012年6月14日
【審査請求日】2013年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】新井 幹男
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−250917(JP,A)
【文献】 特開2003−141832(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0036479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 21/10
G11B 21/16−21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と可動部との間に正極及び負極の表裏逆の配置状態に変えて一対併設並列接続された圧電素子への電圧の印加状態に応じて前記可動部を前記基部に対して前記圧電素子の併設方向へ微少移動させるアクチュエータにおける前記圧電素子の組立状態を判別する圧電素子組付判別方法であって、
前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で逆の併設状態を正常とすると共に前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で同一の併設状態を異状として前記正常及び異状の組立状態の一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を予めそれぞれ検出し、
前記組立状態を判別するとき前記一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を検出し、
前記組立状態を判別するときに検出された静電容量の変化の特性を前記予め検出した前記正常及び異状の組立状態の各静電容量の変化と比較することにより前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で逆の併設状態か、正極及び正極と負極及び負極との表裏同一の併設状態か、負極及び負極と正極及び正極との表裏同一の併設状態かを判別する、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項2】
基部と可動部との間に正極及び負極の表裏逆の配置状態に変えて一対併設並列接続された圧電素子への電圧の印加状態に応じて前記可動部を前記基部に対して前記圧電素子の併設方向へ微少移動させるアクチュエータにおける前記圧電素子の組立状態を判別する圧電素子組付判別方法であって、
前記一対の圧電素子へ電圧を印加する回路の無断線状態を正常とすると共に断線状態又は半断線状態を異状として前記正常及び異状の組立状態の一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を予めそれぞれ検出し、
前記組立状態を判別するとき前記一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を検出し、
前記組立状態を判別するときに検出された静電容量の変化の特性を前記予め検出した前記正常及び異状の組立状態の各静電容量の変化と比較することにより判別する、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記比較は前記検出された静電容量の変化が±同一のバイアス電圧に対して対応しているか否かである、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記比較は前記検出された静電容量の変化量が設定されたしきい値内であるか否かである、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記検出された静電容量の変化を静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として表した、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記バイアス電圧の設定範囲の最大許容値は、最大逆方向電圧であり、
この最大逆方向電圧は、前記圧電素子の伸長を完全に抑え込んだ時の外圧を発生する最大駆動電圧の20%である、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記バイアス電圧の最小許容値は、前記検出された静電容量が測定ばらつきよりも大きな変化とする、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項8】
請求項1記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記判別の前に前記一対の圧電素子へ電圧を印加する回路の断線状態を確認する、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の圧電素子組付判別方法であって、
前記基部は、ヘッド・サスペンションのベース・プレートであり、
前記可動部は、前記ベース・プレートに対しロード・ビームを介して支持された読み書き用のヘッド部である、
ことを特徴とする圧電素子組付判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばパーソナルコンピュータ等の情報処理装置に内蔵されるディスク装
置用のヘッド・サスペンションの製造などに供される圧電素子組付判別方法及びこの判別方法により判別されたヘッド・サスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の小型化、精密化が急速に進展し、微小距離で位置決め制御が可能なマイクロ・アクチュエータの需要が高まっている。例えば、光学系の焦点補正や傾角制御、インクジェット・プリンタ装置、磁気ディスク装置(HDD)のヘッド・サスペンション等の技術分野での要請がある。
【0003】
例えば、磁気ディスク装置では、単位長さあたりのトラック数 (TPI : Track Per inch)を増大して記憶容量を大きくしているため、トラックの幅が益々狭くなっている。
【0004】
このため、トラック幅方向の磁気ヘッド位置決め精度の向上が必要となり、微細領域で高精度の位置決めが可能なアクチュエータが望まれていた。
【0005】
こうした要請に応えるために、本願出願人は、キャリッジを駆動するボイスコイル・モータの他にベース・プレートとロード・ビームとの間に圧電素子を設けたデュアル・アクチュエータ方式のヘッド・サスペンションを既に提案している。(例えば、特許文献1)
図23(A)は、ヘッド・サスペンションの概略平面図、(B)は、圧電素子の等価回路、(C)は、圧電素子の変形を示す動作図である。
【0006】
図23(A)のように、ヘッド・サスペンション101は、基部のベース・プレート103とロード・ビーム105との間に一対の圧電素子107a,107bが向きを変えて併設され、アクチュエータ109が構成されている。ロード・ビーム105の先端側には、読み書き用のヘッド部111が支持され、ロード・ビーム105及びヘッド部111が可動部を構成している。
【0007】
図23(B)のように、圧電素子107a,107bへ電圧を印加すると、その印加状態に応じ、図23(C)のように一対の圧電素子107a,107bが伸長圧縮の逆方向へ変形し、図23(A)のように、ロード・ビーム105を介しヘッド部111がベース・プレート103に対して圧電素子107a,107bの併設方向であるスウェイ方向へ微少移動されるようになっている。
【0008】
ヘッド・サスペンション101は、このような構造及び動作をするため、圧電素子107a,107bが設計通りに取り付けられている必要がある。
【0009】
しかし、一対の圧電素子107a,107bは、表裏を含めて外観の区別ができず、誤組み付けのまま出荷される恐れがあった。
【0010】
これに対し、圧電素子107a,107bに目印を付けて外観を区別する方法もあるが、コンタミの発生を招く恐れがあるため、採用には無理がある。
【0011】
一方、アクチュエータ109に通電し、ヘッド部111の実際のストロークを測定することで圧電素子107a,107bの誤組み付けを判別することは可能である。
【0012】
しかし、実際のストロークは僅かに50〜100nmであり、その測定には高額の高精度測定が必要となる。
【0013】
さらに、特許文献2では、ヘッド・サスペンション101に強制変位を与え、その時に得られるシグナルから圧電素子107a,107bの不良や組付け方向を検査する方法が開示されている。
【0014】
図24(A)は、ヘッド・サスペンションをHDDに組み込んだ状態の要部概略図、図24(B)は、ヘッド・サスペンション単体での支持状態を示す概略図である。
【0015】
図24(A)、(B)を比較しても明らかなように、ヘッド・サスペンション101単体での支持状態とHDDに組み込んだ状態とでは、ロード・ビーム105の負荷が異なり、判別のためのヘッド・サスペンション101単体での加振時におけるロード・ビーム105の動きが定まらず、得られるデータも安定しないため、正確な判別が困難になるという問題がある。
【0016】
さらに、アクチュエータ109の回路断線の判断も困難であるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2010−86649号公報
【特許文献2】USP6639411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
解決しようとする問題点は、圧電素子組付け状態の正確な判別を簡易に行うことが困難な点である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、圧電素子組付け状態の正確な判別を簡易に行なうことを可能とするために、基部と可動部との間に正極及び負極の表裏逆の配置状態に変えて一対併設並列接続された圧電素子への電圧の印加状態に応じて前記可動部を前記基部に対して前記圧電素子の併設方向へ微少移動させるアクチュエータにおける前記圧電素子の組立状態を判別する圧電素子組付判別方法であって、前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で逆の併設状態を正常とすると共に前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で同一の併設状態を異状として前記正常及び異状の組立状態の一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を予めそれぞれ検出し、前記組立状態を判別するとき前記一対の圧電素子に掛けるバイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化を検出し、前記組立状態を判別するときに検出された静電容量の変化の特性を前記予め検出した前記正常及び異状の組立状態の各静電容量の変化と比較することにより前記一対の圧電素子の配置が正極及び負極の表裏で逆の併設状態か、正極及び正極と負極及び負極との表裏同一の併設状態か、負極及び負極と正極及び正極との表裏同一の併設状態かを判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の圧電素子組付判別方法は、上記構成であるから、バイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化の特性相違により圧電素子の組立状態を簡易かつ正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】圧電素子の組付けたヘッド・サスペンションに係り、(A)は、正常品の平面図、(B)は、正同極(P・NG)品の平面図、(C)は、負同極(N・NG)品の平面図である。(実施例1)
図2】(A)は、圧電素子の順方向電圧状態の等価回路、(B)は、初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。(実施例1)
図3】(A)は、一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路、(B)は、各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフ及び合成した静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。(実施例1)
図4】一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路であり、(A)は、正常品の等価回路、(B)は、P・NGの等価回路、(C)は、N・NGの等価回路である。(実施例1)
図5図4(A)~(C)の各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。(実施例1)
図6】判別原理を示しバイアス電圧0V〜20Vでの静電容量変化を単純化したグラフである。である。(実施例1)
図7】バイアス電圧2条件(20V,0V)での静電容量を示すグラフである。(実施例1)
図8】判別原理を示しバイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化を単純化したグラフである。(実施例1)
図9】バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量を示すグラフである。(実施例1)
図10】バイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化の測定結果を示すグラフである。(実施例1)
図11】静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として表したグラフである。(実施例1)
図12】圧電素子の電圧感度を示すグラフである。(実施例1)
図13】判別を示す図表である。(実施例1)
図14】静電容量をしきい値と共に示すグラフである。(実施例1)
図15】静電容量をしきい値と共に示すグラフである。(実施例1)
図16】断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図である。(実施例1)
図17】断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図である。(実施例1)
図18】断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図である。(実施例1)
図19】断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図である。(実施例1)
図20】静電容量の測定結果を示すグラフである。(実施例1)
図21】静電容量の測定結果を示すグラフである。(実施例1)
図22】(A)は、全断線の静電容量、(B)は、半断線の静電容量、(C)は、無断線の静電容量を示す等価回路である。(実施例1)
図23】(A)は、ヘッド・サスペンションの概略平面図、(B)は、圧電素子の等価回路、(C)は、圧電素子の変形を示す動作図である。(従来例)
図24】(A)は、ヘッド・サスペンションをHDDに組み込んだ状態の要部概略図、(B)は、ヘッド・サスペンション単体での支持状態を示す概略図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0022】
圧電素子組付け状態の正確な判別を簡易に行うことを可能にするという目的を、バイアス電圧の設定範囲での変化に対する静電容量の変化の特性相違により圧電素子の組立状態を判別することで実現した。
【実施例1】
【0023】
[ヘッド・サスペンション]
本発明実施例の圧電素子組付判別方法は、ヘッド・サスペンションの圧電素子の組付判別を例にして説明する。
【0024】
図1は、圧電素子の組付けたヘッド・サスペンションに係り、(A)は、正常品の平面図、(B)は、正同極(P・NG)品の平面図、(C)は、負同極(N・NG)品の平面図である。
【0025】
図1のように、ヘッド・サスペンション1は、基部のベース・プレート3とロード・ビーム5との間に一対のPZT(ジルコンチタン酸鉛)等の圧電素子7a,7bが正極、負極の向きを表裏変えて併設並列接続され、アクチュエータ9が構成されている。
【0026】
ロード・ビーム5の先端側には、読み書き用のヘッド部11が支持され、ロード・ビーム5及びヘッド部1が可動部を構成している。ヘッド部11は、フレキシャ13のタングにスライダ15が取り付けられることにより構成されている。フレキシャ13は、ロード・ビーム5にレーザー・スポット溶接などにより取り付けられている。
【0027】
図1(A)が設計通りの正常品の一例であり、図のフレキシャ13配置側の平面をベース・プレート3側から見て左側の圧電素子7aが正極(斜線)上向き、同右側の圧電素子7bが負極(白抜き)上向きに配置されている。フレキシャ13に配索された素子用の配線が各極に接続され、裏面において各極が導電性接着剤などによりベース・プレート3側に接続され、並列接続となっている。
【0028】
以下、正極が図1(A)の上面側にある圧電素子7aをP(Positive)・PZT7a、同下面側にある圧電素子7bをN(Negative)・PZT7bとする。
【0029】
したがって、アクチュエータ9のP・PZT7a,N・PZT7bへ電圧を印加すると、その印加状態に応じ、同様に一対のP・PZT7a,N・PZT7bが伸長圧縮の逆方向へ変形し、ロード・ビーム5を介しヘッド部11がベース・プレート3に対してP・PZT7a,N・PZT7bの併設方向であるスウェイ方向へ微少移動されるようになっている。 図1(B)は、左右双方のP・PZT7a,N・PZT7bが正極(斜線)上向きに配置された正同極(P・NG)品のヘッド・サスペンション1Aである。
【0030】
図1(C)は、左右双方のP・PZT7a,N・PZT7bが負極(白抜き)上向きに配置された負同極(N・NG)品のヘッド・サスペンション1Bである。
[圧電素子組付判別方法]
本実施例1の圧電素子組付判別方法では、前記ヘッド・サスペンション1,1A,1Bのアクチュエータ9,9A,9Bにおける前記P・PZT7a,N・PZT7bの組付状態を判別する。この判別により、例えば図1(A)の正常品と図1(B)のP・NG品及び図1(C)のN・NG品とを区別する。
【0031】
具体的には、前記P・PZT7a,N・PZT7bに掛けるバイアス電圧Vの設定範囲での変化に対する静電容量Cの変化を検出し、前記組立状態を前記検出された静電容量Cの変化の特性相違により判別する。
[静電容量Cの変化の特性]
図2(A)は、圧電素子の順方向電圧状態の等価回路、(B)は、初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフ、図3(A)は、一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路、(B)は、各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフ及び合成した静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。
【0032】
図2(A)の圧電素子7に順方向のバイアス電圧を掛けると、静電容量−印加電圧特性は、ヒステリシスをもって図2(B)の特性17のようになる。
【0033】
前記ヘッド・サスペンション1のP・PZT7a,N・PZT7bは、図3(A)の等価回路で示され、バイアス電圧を掛けると、ヒステリシスをもって図3(B)上図のように、P・PZT7aの静電容量−印加電圧特性19、N・PZT7bの静電容量−印加電圧特性21となる。これら静電容量−印加電圧特性19、21が合成されると図3(B)下図の左右ほぼ対象のV型の特性23となる。
[配置状態正誤判別]
図4は、一対の圧電素子の順方向逆方向電圧状態の等価回路であり、(A)は、正常品の等価回路、(B)は、P・NGの等価回路、(C)は、N・NGの等価回路、図5は、図4(A)〜(C)の各圧電素子の初期状態を零とした静電容量−印加電圧特性を模式的に示すグラフである。
【0034】
図4(A)〜(C)の等価回路で示される正常品、P・NG品、N・NG品に設定範囲でバイアス電圧Vを掛けると、特性27,29,31が得られた。
【0035】
バイアス電圧Vの設定範囲の最大許容値は、最大逆方向電圧であり、この最大逆方向電圧は、前記P・PZT7a,N・PZT7bの伸長を完全に抑え込んだ時の外圧を発生する最大駆動電圧の20%である。
【0036】
バイアス電圧Vの設定範囲での最小許容値は、検出された静電容量が測定ばらつきよりも大きな変化となるようにする。
【0037】
図6は、判別原理を示しバイアス電圧0V〜20Vでの静電容量変化を単純化したグラフ、図7は、バイアス電圧2条件(20V,0V)での静電容量を示すグラフ、図8は、判別原理を示しバイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化を単純化したグラフ、図9は、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量を示すグラフである。
【0038】
図6図7は、特性相違を静電容量の変化量が設定範囲内であるか否かで判別する原理、図8図9は、特性相違を静電容量の変化が±同一のバイアス電圧に対して対応しているか否かで判別する原理である。この場合の判別は、P・PZT7a,N・PZT7bの並列接続の正誤である。
【0039】
図6図7の場合には、設定範囲でのバイアス電圧2条件(20V,0V)での静電容量の差が、正常品でδ1=20.7、P・NG品でδ2=68.7、N・NG品でδ3=−32.6となり、正常品のδ1=20.7と比較することで、正常品かP・NG品或いはN・NG品かを判別することが可能である。
【0040】
図8図9の場合には、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量の差がさらに明確となり、特性相違を静電容量の変化が±同一のバイアス電圧に対して対応しているか否かで判別することができる。
【0041】
すなわち、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量の差が、正常品でδ1=5.3、P・NG品でδ2=99.1、N・NG品でδ3=−93.5となり、正常品でδ1=5.3がほぼ零に近く、バイアス電圧2条件(20V,−20V)での静電容量が±同一のバイアス電圧(20V,−20V)に対して対応しているのに対し、P・NG品或いはN・NG品は、全く対応しない点で判別することができる。
【0042】
図10は、バイアス電圧20V〜−20Vでの静電容量変化の測定結果を示すグラフ、図11は、静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として表したグラフである。
【0043】
図1(A)(B)(C)のヘッド・サスペンション1,1A,1Bのアクチュエータ9にバイアス電圧20V〜−20Vを掛けた静電容量の測定値が図10のように得られる。この図10の生データを、静電容量ゼロ及びバイアス電圧ゼロを基準に変化量として図11のように標準化して表す。この図11を用いることで、前記原理のように正常品とP・NG品或いはN・NG品との区別を簡易に判別することができる。
[判別しきい値]
図12は、圧電素子の電圧感度を示すグラフ、図13は、判別を示す図表、図14図15は、静電容量をしきい値と共に示すグラフである。
【0044】
前記特性相違は、前記検出された静電容量の変化量が設定されたしきい値内であるか否かでも判別できる。
【0045】
図12のように、P・PZTの+バイアス 領域での静電容量の電圧感度の大きさをa, −バイアス領域での電圧感度の大きさをbとする。同様に N・PZTについてもa', b'とする。
【0046】
バイアス電圧Vを印加した時の、正常品(OK品)のバイアス0Vを基準とする静電容量δC・OK(V)は、図13のように、
δC・OK(V) = (a−b')V
同様に両方P・PZTであるP・NG品については、
δC・P・NG(V) = 2aV
ここから、正常品とP・NG品のバイアス電圧VにおけるδCの差を求めると、
δC・P・NG(V)−δC・OK(V) = 2aV−(a-b')V=(a+b')V
この差が静電容量測定のばらつきに対し有意差を持つよう、バイアス電圧Vを定める必要がある。
【0047】
静電容量測定のばらつきの範囲をdとすると、バイアス2条件の静電容量差のばらつきの
範囲は2dと考えられるから、本測定に使用できるVの条件は、
(a+b') V >> 2d
V >> 2d/(a+b')
N・NGについては、以上と同様にして
V >>2d/(a'+b)
一般的に、ヘッド・サスペンション(DSA)に使用されるP・PZT、N・PZTは a=a'かつb=b'なので、
V >> 2d/(a+b)
即ち、バイアス電圧Vは、静電容量測定のばらつきの2倍を、単品PZTの+バイアス、-バイアスでの静電容量電圧勾配の和で割った値より十分大であることが必要である。
【0048】
今回のNGサンプル評価の結果からは、
a = 1.6 [pF/V]
b' = 0.9[pF/V]
ここで、dを10[pF]とすると、
V>> 8[V]
上記から、正常品、P・NG品、N・NG品のバイアス電圧V,−V[V]条件の、バイアス 電圧0Vの静電容量に対する変化量δCは、a>bかつa'>b'より、次の関係にある。
【0049】
δC・P・NG > δC・OK > δC・N・NG
製品の分布調査から、静電容量測定精度、バイアス条件によっては、実際にはより狭い範囲での判別が可能であるが、原理的な搭載異常品判別のしきい値としては、それぞれの値の中間値で十分である。
【0050】
正常品と判別されるδCの上限、加減をδCTH,δCTLとおくと、
(バイアス 条件 V , 0)
δC・TH = (δC・P・NG(V)+δC・OK(V))/2 = (3a−b')V/2
δC・TL =(δC・OK(V)+δC・N・NG(V))/2 = (a−3b')V/2
今回のNGサンプル評価結果に適用してみると、V=20[V]で、
δC・TH = 40pF
δC・TL =−10pF
となる。
【0051】
図14のように、このしきい値で正しく判別が行えた。
【0052】
a,bの測定サンプルが少ないため、若干しきい値のδCが−側にシフトしている。
【0053】
(バイアス 条件 V ,−V)
通常、a≒a'かつb≒b'であるから、
δC・OK(V) ≒ δC・OK(-V)
よって、
δC・TH = (δC・P・NG(V)−δC・P・NG(-V))/2 = (a+b)V
δC・TL =(δC・N・NG(V)−δC・N・NG(-V))/2 = −(a'+b')V
今回の測定結果に適用してみると、
δC・TH = 52pF
δC・TL = −47.8pF
図15のように、このしきい値で十分な余裕を持って判別が行えた。
【0054】
2バイアス条件の電圧差が大きいほど、特性の差が拡大され、判別精度が向上することも以上から示される。
[断線判別]
図16図19は、断線箇所を示すヘッド・サスペンションの要部平面図、図20図21は、静電容量の測定結果を示すグラフである。
【0055】
図16図19は、それぞれのサンプルにおいて矢印の箇所で配線をカットしたものであり、バイアス電圧をかけると図16図17は、左側のP・PZTのみ通電され、図18図19は、左側のN・PZTのみ通電される。
【0056】
図16図17の静電容量−印加電圧特性は、図20のように得られ、図18図19の静電容量−印加電圧特性は、図21のように得られた。
【0057】
したがって、図20図21のような特性を正常品の特性と比較することで、回路の断線状態を判別することができる。
【0058】
さらに述べると、圧電素子へ給電する配線の接続不良、その断線モードの判別には、2条件のδCおよび、内1条件の静電容量C(V)を用いる。
【0059】
図25(A)は、全断線の静電容量、(B)は、半断線の静電容量、(C)は、無断線の静電容量を示す等価回路である。
【0060】
通常、P・PZT,N・PZTの静電容量はほぼ等しいから、静電容量(規格値Cstdの2PZT DSA)に全断線、半断線が発生した場合の静電容量は、図22(A)〜(C)のように、0、Cstd/2、Cstdとなる。
【0061】
よって、
C(V) < Cstd /4 : 全断線 (2PZTともに接続不良)
Cstd/4 < C(V) < Cstd x 3/4 : 半断線 (1PZT接続不良)
C(V) > Cstd x 3/4 : 正常品
と判別できる。
【0062】
これに加え、半断線の場合、バイアス2条件の静電容量差δCを測定することで、どちらの圧電素子への配線が接続不良となっているかを判別できる。
【0063】
(バイアス条件 V〜 0)
P・PZT側が接続不良
δC・P・CUT = C・P・CUT(V)−C・P・CUT(0) = −b'V
N・PZT側が接続不良
δC・N・CUT = C・N・CUT(V)−C・N・CUT(0) = aV
ここから、δC・P・CUTとδC・N・CUTとの中央値との比較でP/Nどちらの側で接続不良が発生しているかを判別できる。
【0064】
δC > (a−b')V/2 N・PZT側接続不良
δC < (a-b')V/2 P・PZT側接続不良
(バイアス条件 V〜−V)
同様にして、
P・PZT側が接続不良
δC・P・CUT = C・P・CUT(V)−C・P・CUT(0) =−(a'+b')V
N・PZT側が接続不良
δC・N・CUT = C・N・CUT(V)−C・N・CUT(0) = (a+b)V
通常、a≒a'かつb≒b'であるから、δC・P・CUTとδC・N・CUTの中央値は0となり、
δC > 0 :P・PZT側接続不良
δC < 0 :N・PZT側接続不良
と判別できる。
【0065】
但し、半断線不良とPZT搭載不良(配置状態誤)が同時に発生している場合があるので、完全な不良モード同定には、PZTとテールパッドの導通検査を組み合わせる必要がある。すなわち、NGと判定された製品の配線が接続されているPZTの電極部と、対応する配線テールパッド部間の導通検査により、配線の断線を確認する。
[その他]
本発明の圧電素子組付判別方法は、ヘッド・サスペンションのアクチュエータに限らず、配置状態を変えて一対並列接続された圧電素子によるアクチュエータを備えた他のものにも適用することができる。
【0066】
バイアス2条件V1,V2は、1条件が0Vであるか、V1=−V2である必要はない。すなわち、最大駆動電圧の20%以内、且つ判別ができる電圧差があれば良く、本発明実施例のサンプルの場合、−5V、+15Vでも良い。
【符号の説明】
【0067】
1,1A,1B ヘッド・サスペンション
3 ベース・プレート(基部)
5 ロード・ビーム(可動部)
7a P・PZT(圧電素子)
7b N・PZT(圧電素子)
9 アクチュエータ
11 ヘッド部(可動部)
図1
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