【文献】
Scott G.Gaynor,et.al,”Controlled Radical Polymerization by Degenerative Transfer:Effect of the Structure of the Transfer Agent”,Macromorecules,1995,vol.28,[24],pp.8051−8056
リビングラジカル重合を行う工程を包含する重合方法であって、該リビングラジカル重合工程が、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物および請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒の存在下で行われ、
ここで、該触媒が、成長ラジカルから該炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を可逆的に生成させる、方法。
請求項6に記載の方法であって、前記有機ハロゲン化物中のハロゲンが結合している中心元素の炭素原子に、2つのメチル基が結合しているか、または1つのメチル基および1つの水素が結合している、方法。
【発明を実施するための形態】
【0067】
(一般的用語)
以下に本明細書において特に使用される用語を説明する。
【0068】
本明細書において「アルキル」とは、鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。鎖状の場合は、一般にC
kH
2k+1−で表される(ここで、kは正の整数である)。鎖状のアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0069】
本明細書において「低級アルキル」とは、炭素数の比較的少ないアルキル基を意味する。好ましくは、C
1〜10アルキルであり、より好ましくは、C
1〜5アルキルであり、さらに好ましくは、C
1〜3アルキルである。具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピルなどである。
【0070】
本明細書において「アルケニル」とは、二重結合を有する鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルケン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。二重結合を1つ有する鎖状アルケンの場合は、一般にC
kH
2k−1−で表される(ここで、kは正の整数である)。二重結合の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよい。二重結合の数に上限は特にないが、10以下であってもよく、あるいは5以下であってもよい。二重結合と単結合とが交互に繰り返される構造が好ましい。鎖状のアルケニルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルケニルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状構造が結合した構造であってもよい。また、二重結合は、環状構造部分に存在してもよく、鎖状構造部分に存在してもよい。アルケニルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0071】
アルケニルは、比較的炭素数の少ないもの、すなわち低級アルケニルであってもよい。この場合、炭素数は、好ましくは、C
2〜10であり、より好ましくは、C
2〜5であり、さらに好ましくは、C
2〜3である。アルケニルの具体例としては、例えば、ビニルなどがある。
【0072】
好ましい実施形態において、アルケニルはその炭素鎖中の末端の炭素に二重結合を有する。好ましくは、この二重結合を有する末端炭素が上記触媒化合物または触媒前駆体化合物中の中心元素の炭素と結合する。すなわち、二重結合の炭素が中心元素の炭素に結合する構造:
「C−C=C」
を触媒化合物または触媒前駆体化合物が有するようにアルケニルを選択することが好ましい。本発明においては、このようなアルケニル基を中心元素に導入することにより、触媒の活性を高めることができる。
【0073】
好ましい実施形態において、アルケニルは式:−CR
7=CR
8R
9で示される。R
7、R
8、R
9は水素でもよく、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えば、アルケニル、アルキルカルボキシル、ハロアルキル、アルキルカルボニル、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アリール、ヘテロアリールまたはアルキル置換アリール)であっても良い。R
7、R
8、R
9がすべて水素の場合、この基はビニル基である。
【0074】
本明細書において「アルキニル」とは、三重結合を有する鎖状または環状の脂肪族炭化水素(アルキン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいう。三重結合を1つ有する鎖状アルキンの場合は、一般にC
kH
2k−3−で表される(ここで、kは正の整数である)。三重結合の数は1つであってもよく、2つ以上であってもよい。三重結合の数に上限は特にないが、10以下であってもよく、あるいは5以下であってもよい。三重結合と単結合とが交互に繰り返される構造が好ましい。鎖状のアルキニルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキニルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状構造が結合した構造であってもよい。また、三重結合は、環状構造部分に存在してもよく、鎖状構造部分に存在してもよい。アルキニルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0075】
アルキニルは、比較的炭素数の少ないもの、すなわち低級アルキニルであってもよい。この場合、炭素数は、好ましくは、C
2〜10であり、より好ましくは、C
2〜5であり、さらに好ましくは、C
2〜3である。
【0076】
好ましい実施形態において、アルキニルはその炭素鎖中の末端の炭素に三重結合を有する。好ましくは、この三重結合を有する末端炭素が上記触媒化合物または触媒前駆体化合物中の中心元素の炭素と結合する。すなわち、三重結合の炭素が中心元素の炭素に結合する構造:
「C−C≡C」
を触媒化合物または触媒前駆体化合物が有するようにアルキニルを選択することが好ましい。本発明においては、このようなアルキニル基を中心元素に導入することにより、触媒の活性を高めることができる。
【0077】
好ましい実施形態において、アルキニルは式:−C≡CR
10で示される。R
10は水素でもよく、アルキル基でもよく、その他の置換基(例えば、アルケニル、アルキルカルボキシル、ハロアルキル、アルキルカルボニル、アミノ基、シアノ基、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アルキル置換アリールまたはアルコキシ置換ヘテロアリール)であっても良い。
【0078】
本明細書において「アルコキシ」とは、上記アルキル基に酸素原子が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRO−で表される基をいう。鎖状のアルコキシは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルコキシは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルコキシの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0079】
本明細書において「低級アルコキシ」とは、炭素数の比較的少ないアルコキシ基を意味する。好ましくは、C
1〜10アルコキシであり、より好ましくは、C
1〜5アルコキシであり、さらに好ましくは、C
1〜3アルコキシである。具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プトキシ、イソプロポキシなどである。
【0080】
本明細書において「アルキルカルボキシル」とは、上記アルキル基にカルボキシル基が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRCOO−で表される基をいう。鎖状のアルキルカルボキシルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルカルボキシルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルカルボキシルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0081】
本明細書において「低級アルキルカルボキシル」とは、炭素数の比較的少ないアルキルカルボキシル基を意味する。好ましくは、C
1〜10であり、より好ましくは、C
1〜5であり、さらに好ましくは、C
1〜3である。
【0082】
本明細書において「アルキルカルボニル」とは、上記アルキル基にカルボニル基が結合した基をいう。すなわち、上記アルキル基をR−と表した場合にRCO−で表される基をいう。鎖状のアルキルカルボニルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のアルキルカルボニルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。アルキルカルボニルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
【0083】
本明細書において「低級アルキルカルボニル」とは、炭素数の比較的少ないアルキルカルボニル基を意味する。好ましくは、C
1〜10であり、より好ましくは、C
1〜5であり、さらに好ましくは、C
1〜3である。
【0084】
本明細書において「ハロアルキル」とは、上記アルキル基の水素がハロゲンで置換された基をいう。鎖状のハロアルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。環状のハロアルキルは、環状構造のみから構成されてもよく、環状構造にさらに鎖状アルキルが結合した構造であってもよい。ハロアルキルの炭素数は、任意の自然数であり得る。好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。ハロアルキルにおいては、そのすべての水素がハロゲンに置換されていてもよく、一部の水素のみが置換されていてもよい。
【0085】
本明細書において「低級ハロアルキル」とは、炭素数の比較的少ないハロアルキル基を意味する。好ましくは、C
1〜10であり、より好ましくは、C
1〜5であり、さらに好ましくは、C
1〜3である。好ましい低級ハロアルキル基の具体例としては、トリフルオロメチル基などが挙げられる。
【0086】
本明細書において「置換アルキル」とは、アルキル基の水素が置換基に置換された基を意味する。このような置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0087】
本明細書において「ハロゲン化置換アルキル」とは、アルキル基の水素がハロゲンに置換され、かつアルキル基の別の水素が別の置換基に置換された基を意味する。当該別の置換基としては、例えば、アリール、ヘテロアリールまたはシアノなどが挙げられる。
【0088】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいう。アリールを構成する芳香族炭化水素の環の数は、1つであってもよく、2つ以上であっても良い。好ましくは、1〜3である。分子内芳香族炭化水素の環が複数存在する場合、それらの複数の環は縮合していてもよく、縮合していなくてもよい。具体的には、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、ビフェニルなどである。
【0089】
本明細書において「ヘテロアリール」とは、アリールの芳香環の環骨格を構成する元素に、炭素以外のヘテロ元素を含む基をいう。ヘテロ原子の例としては、具体的には、酸素、窒素、イオウなど挙げられる。芳香環中のヘテロ原子の数は特に限定されず、例えば、1つのみのヘテロ原子を含んでもよく、2つまたは3つあるいは4つ以上のヘテロ原子が含まれてもよい。
【0090】
本明細書において「置換アリール」とは、アリールに置換基が結合して生ずる基をいう。本明細書において「置換ヘテロアリール」とは、ヘテロアリールに置換基が結合して生ずる基をいう。
【0091】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表7B族に属するフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。好ましくは、臭素またはヨウ素であり、より好ましくはヨウ素である。
【0092】
本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において連鎖移動反応および停止反応が実質的に起こらず、単量体が反応しつくした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応をいう。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。
【0093】
リビングラジカル重合の特徴としては、モノマーと重合開始剤の濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができること、また、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いこと、ブロック共重合体へ応用できること、などが挙げられる。なお、リビングラジカル重合は「LRP」と略される場合もある。
【0094】
本明細書において「中心元素」とは、触媒となる化合物を構成する原子のうち、ハロゲン原子と結合して主に触媒作用を担う原子を意味する。従来技術において使用される「中心金属」との用語と同じ意味であるが、本発明において用いられる炭素は一般には金属に分類されないから、誤解を避けるために、従来技術における用語「中心金属」の代わりに、「中心元素」との用語を用いる。
【0095】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0096】
(触媒)
本発明においては、リビングラジカル重合法のための触媒として、中心元素が炭素である化合物を用いる。
【0097】
中心元素が結合する原子は隣接する原子(例えば、炭素)との間に二重結合または三重結合を有することが好ましい。すなわち、中心元素の炭素が結合する原子は、アルケニル基(例えば、ビニル基)、アルキニル基、またはアリール基(例えば、フェニル基)もしくはヘテロアリール基のいずれかの基の不飽和結合を有する炭素であることが好ましい。また、アルケニル基またはアルキニル基の場合には、その末端に二重結合または三重結合が存在することが好ましく、その末端炭素に中心元素の炭素が結合することが特に好ましい。なお、このような構造が好ましいことは、後述する触媒前駆体化合物でも同様である。なお、ここで、二重結合は、2つの炭素原子間の二重結合(炭素−炭素二重結合)であってもよく、他の二重結合であっても良い。例えば、炭素原子と酸素原子との間の二重結合であってもよい。二重結合を構成する2つの原子のうち、少なくとも1つの原子が炭素であることが好ましく、2つとも炭素であることがより好ましい。また、二重結合を構成する2つの原子のうち少なくとも1つの原子が炭素であって、その炭素原子が中心元素に結合していることが好ましい。また、三重結合は、2つの炭素原子間の三重結合(炭素−炭素三重結合)であってもよく、他の三重結合であっても良い。例えば、炭素原子と窒素原子との間の三重結合であってもよい。三重結合を構成する2つの原子のうち、少なくとも1つの原子が炭素であることが好ましく、2つとも炭素であることがより好ましい。また、三重結合を構成する2つの原子のうち少なくとも1つの原子が炭素であって、その炭素原子が中心元素に結合していることが好ましい。
【0098】
上述したような二重結合または三重結合の炭素に中心元素の炭素が結合した触媒または触媒前駆体化合物の酸素が酸素ラジカルになった場合には、共鳴安定化により、炭素ラジカルが安定になり、リビングラジカル重合触媒としての性能が良好になると考えられる。
【0099】
本発明において、触媒は、ドーマント種の一種である使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と組み合わせて使用することができる。触媒は、リビングラジカル重合の際に、この有機ハロゲン化物からハロゲンを引き抜いて、ラジカルを生成させる。従って、本発明において、触媒は、ドーマント種として使用される化合物の、生長反応を抑制している基をはずして活性種に変換し生長反応をコントロールする。なお、ドーマント種は有機ハロゲンに限定されない。
【0100】
なお、特許文献2は、その請求項1において、ヒドリドレニウム錯体およびハロゲン化炭化水素の組み合わせがラジカルリビング重合用触媒であると記載しているが、特許文献2に記載されたハロゲン化炭化水素はリビングラジカル重合の触媒ではなく、ドーマント種に該当するものであるから、特許文献2に記載されたハロゲン化炭化水素は触媒とは区別される。
【0101】
触媒化合物は、少なくとも1つの中心元素を有する。1つの好ましい実施形態では、1つの中心元素を有するが、2つ以上の中心元素を有しても良い。例えば、上記式(Ia)の化合物の複数分子が互いに連結された構造の化合物とすることができる。また例えば、上記式(Ib)の化合物において、環構造中に存在する複数の炭素原子にハロゲンを結合させてそれぞれの炭素を中心元素とすることができる。
【0102】
中心元素として炭素を用いた触媒化合物の多くは導電性を有さない。そのため、例えば、ポリマー中に導電性物質が残存することが望ましくない用途(例えば、レジストや有機ELなどの電子材料)に用いられるポリマーの場合には、導電性を有さない炭素化合物を触媒として用いることが好ましい。
【0103】
また、炭素は、一般に、人体への毒性および環境への影響においても有利である。このため、導電性物質の残存が許容される用途であっても、炭素を有する触媒を用いることは、従来技術における遷移金属錯体触媒などに比べて著しく有利である。
【0104】
さらに、本発明の触媒は、少ない使用量で触媒作用を行うことができるという特徴があるから、上述したように、人体への毒性および環境への影響が少ない材料を、少ない量で使用することが可能になり、従来の触媒に比べて、非常に有利である。
【0105】
(触媒中のハロゲン原子)
上記触媒の化合物中には、少なくとも1つのハロゲン原子が中心元素に結合している。上記触媒の化合物が2つ以上の中心元素を有する場合、それぞれの中心元素に対して少なくとも1つのハロゲン原子が結合している。このハロゲン原子は、好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素である。より好ましくは、ヨウ素である。ハロゲン原子は1分子中に2原子以上存在してもよい。例えば、2原子、3原子、または4原子存在してもよく、それ以上存在してもよい。好ましくは、2〜4個である。ハロゲン原子が1分子中に2原子以上存在する場合、その複数のハロゲン原子は同一であってもよく、異なる種類であってもよい。
【0106】
(触媒中のハロゲン以外の基)
触媒化合物は、必要に応じて、ハロゲン以外の基を有していてもよい。例えば、中心元素に、任意の有機基または無機基を結合させることが可能である。
【0107】
このような基は、有機基であってもよく、無機基であってもよい。有機基としては、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール、アルケニル基(例えば、ビニル基)、アルキニル基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基など)、エステル基(脂肪族カルボン酸エステルなど)、アルキルカルボニル基(メチルカルボニル基など)、ハロアルキル基(トリフルオロメチル基など)などが挙げられる。1つの好ましい実施形態では、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、置換ヘテロアリール、アルケニル基(例えば、ビニル基)、またはアルキニル基である。
【0108】
また、無機基としては、水酸基、アミノ基、シアノ基などが挙げられる。
【0109】
有機基として、アリール、ヘテロアリール、置換アリール、または置換ヘテロアリールを有する触媒化合物は、ラジカルの活性がより高くなる傾向にあり、好ましい。
【0110】
置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおいてアリールまたはヘテロアリールに結合する置換基としては、例えば、アルキルまたはアルキルオキシ、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。アルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C
1〜C
5アルキルであり、さらに好ましくは、C
1〜C
3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。アルキルオキシにおけるアルキルとしては、低級アルキルが好ましく、より好ましくは、C
1〜C
5アルキルであり、さらに好ましくは、C
1〜C
3アルキルであり、特に好ましくは、メチルである。すなわち、1つの実施形態において、中心元素に結合する有機基は、フェニル、低級アルキルフェニルまたは低級アルキルオキシフェニルである。
【0111】
上記有機基および無機基の数は特に限定されないが、好ましくは、3以下であり、より好ましくは、1である。
【0112】
なお、置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおける当該置換基の数は、特に限定されないが、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1〜2であり、さらに好ましくは、1である。
【0113】
置換アリールまたは置換ヘテロアリールにおける当該置換基の位置は、任意に選択される。アリールがフェニルである場合(すなわち、置換アリールが置換フェニルである場合)、置換基の位置は中心元素に対してオルト、メタ、パラのいずれの位置であってもよい。好ましくは、パラの位置である。
【0114】
(炭素を中心元素とする触媒化合物)
炭素を中心元素とする触媒化合物としては、上記定義に該当する任意の公知の化合物が使用可能である。中心元素の炭素に水素やメチル基が結合していない化合物が好ましい。炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、例えば、後述する実施例に用いられているような化合物が挙げられる。
【0115】
該中心元素には、さらに、電子吸引性置換基または中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が1つから3つ、好ましくは2つ〜3つ結合している。すなわち、好ましくは、電子吸引性置換基が2つ〜3つ結合していているか、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ〜3つ結合しているか、または、電子吸引性置換基と中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基とが合わせて2つ〜3つ結合している。電子吸引性置換基が2つ〜3つ結合していているか、または中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ〜3つ結合していることがより好ましい。
【0116】
なお、本願明細書中では、上記電子吸引性置換基、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基および電子供与性置換基を総称して「ラジカル安定化用置換基」ともいう。
【0117】
該中心元素に結合したラジカル安定化用置換基により、該中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルが安定化される。炭素ラジカルの安定化により、触媒の活性が非常に高くなり、少量の触媒でリビングラジカル重合を制御することが可能となる。
【0118】
なお、中心元素の炭素には、上記ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つまたは2つ結合していてもよい。ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基としては、例えば、水素が挙げられる。ハロゲンおよびラジカル安定化用置換基以外の置換基は、1つ以下であることが好ましく、存在しないことがより好ましい。
【0119】
1つの実施形態において、該中心元素に電子供与性置換基が結合していない化合物を用いることができる。
【0120】
別の実施形態において、中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルを安定化させることのできる電子供与性置換基を本発明に用いることも可能である。例えば、中心元素に、中心元素からハロゲン原子が脱離して生成する炭素ラジカルを安定化させることのできる電子供与性置換基を1つ〜3つ、好ましくは2つ〜3つ結合させた化合物を触媒化合物として用いてもよい。
【0121】
上記電子吸引性置換基、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基または電子供与性置換基を有する化合物のそれぞれに関し、中心元素に結合するラジカル安定化用置換基が2つ存在する場合、2つのラジカル安定化用置換基は、互いに連結されていてもよい。すなわち、それら2つのラジカル安定化用置換基と中心元素とで環を形成する構造であってもよい。また、上記ラジカル安定化用置換基が3つ存在する場合、3つのラジカル安定化用置換基のうちの2つが互いに連結されていてもよく、3つのラジカル安定化用置換基が互いに連結されていてもよい。すなわち、2つのラジカル安定化用置換基と中心元素とで環を形成する構造であってもよく、3つのラジカル安定化用置換基が環を形成する構造であってもよい。
【0122】
なお、2つのラジカル安定化用置換基が互いに連結された構造は、全体として1つの2価の大きいラジカル安定化用置換基と考えることも可能であるが、便宜上、本明細書中では、2つのラジカル安定化用置換基が存在してそれらが連結されていると記載する。すなわち、本発明のメカニズムを考える上では、全体として1つの2価の大きいラジカル安定化用置換基を考えることは重要ではなく、むしろ、中心元素の炭素原子に2つの原子が結合しており、炭素原子の電子状態がその2つの原子から影響を受けているということが重要である。
【0123】
例えば、後述する実施例で使用されているフルオレンは、ビフェニルの2箇所がメチレン基に結合した構造を有しているが、本明細書中では、メチレン基に2つのフェニル基が結合し、そのフェニル基が互いに連結された構造として記載する。そして、フルオレンにおいては、2つのフェニル基から中心元素の電子状態が影響を受けている。
【0124】
また、3つのラジカル安定化用置換基が互いに連結された構造は、全体として1つの3価の大きいラジカル安定化用置換基と考えることも可能であるが、便宜上、本明細書中では、3つのラジカル安定化用置換基が存在してそれらが連結されていると記載する。
【0125】
(電子吸引性置換基)
電子吸引性置換基とは、中心元素の炭素に結合して、中心元素の炭素から電子を吸引する置換基である。好ましい電子吸引性置換基はハロゲンであり、具体的にはフッ素、塩素、臭素またはヨウ素である。ハロゲン以外の電子吸引性置換基であっても、ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素)と同程度に中心元素の炭素から電子を吸引する置換基は好ましく使用できる。このような置換基としては、例えば、カルボニルの酸素(=O)、シアノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0126】
(電子供与性置換基)
電子供与性置換基とは、中心元素の炭素に結合して、中心元素の炭素に電子を供与する置換基である。このような置換基としては、例えば、アルコキシ基等が挙げられる。
【0127】
(共鳴構造を形成する置換基)
中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基とは、二重結合または三重結合を有する置換基であり、その二重結合または三重結合を構成する原子が中心元素に結合する構造を有する。すなわち、中心元素と、二重結合または三重結合を構成する原子との3つの原子が、
「C−M
1=M
2」(式IIIa)または
「C−M
3≡M
4」(式IIIb)
という構造になるように結合している。すなわち、中心元素が二重結合または三重結合に隣接した構造である。
【0128】
上記式IIIaおよびIIIbにおいて、M
1は、二重結合を構成し、かつ中心元素に結合する原子である。M
2は、二重結合を構成する原子である。M
3は、三重結合を構成し、かつ中心元素に結合する原子である。M
4は、三重結合を構成する原子である。このような構造をとることにより、中心元素が炭素ラジカルとなった際に、炭素ラジカルと、二重結合または三重結合の電子との共鳴効果により、その炭素ラジカルが安定化されて、触媒として高い活性を示すことになる。
【0129】
M
1の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素などである。好ましくは炭素である。M
1が4価の原子の場合には、M
1はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M
1が5価の原子の場合には、M
1はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
【0130】
M
2の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素、酸素などである。好ましくは炭素である。M
2が3価の原子の場合には、M
2はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M
2が4価の原子の場合には、M
2はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M
2が5価の原子の場合には、M
2はさらに3価の基を1つ、2価の基を1つおよび1価の基を1つ、または1価の基を3つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
【0131】
M
3の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リンなどである。好ましくは炭素である。M
3が5価の原子の場合には、M
3はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
【0132】
M
4の具体例としては、例えば、炭素、ケイ素、リン、窒素などである。好ましくは炭素である。M
4が4価の原子の場合には、M
4はさらに1価の基を1つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。M
4が5価の原子の場合には、M
4はさらに2価の基を1つまたは1価の基を2つ有する。そのような基としては、水素、アルキルなどが可能である。
【0133】
1つの好ましい実施態様では、M
1およびM
2が共に炭素である。中心元素が、2つの炭素原子間の二重結合を有する置換基を有する場合、すなわち,M
1およびM
2が炭素である場合、当該炭素原子間の二重結合は、芳香族性の二重結合であってもよく、エチレン性二重結合であってもよい。例えば、中心元素にアルケニル基もしくはアルキニル基が結合した構造、または中心元素にアリール、ヘテロアリール、置換アリール、もしくは置換ヘテロアリールが結合した構造が好ましい。ただし、触媒はラジカル反応の際に重合しないことが好ましいので、中心元素にアリール、ヘテロアリール、置換アリールまたはヘテロアリールが結合した構造が非常に好ましい。また、エチレン性二重結合の場合には、そのラジカル重合反応性が低いものが好ましい。
【0134】
好ましくは、中心元素は、上述した二重結合または三重結合を有する置換基を2つまたは3つ有する。すなわち、2つまたは3つの二重結合または三重結合に中心元素が挟まれた構造を有することが好ましい。
【0135】
例えば、2つの二重結合に中心元素が挟まれた構造の場合には、以下の構造になる。
「M
6=M
5−C−M
7=M
8」(式IIIc)
ここでM
5およびM
7は上記M
1と同様の原子であり、M
6およびM
8は上記M
2と同様の原子である。このような構造を有する化合物においては、リビングラジカル重合の際に中心元素の炭素原子が安定な炭素ラジカルとなり、触媒として高い活性を示す。
【0136】
中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が2つ存在する場合、その2つの置換基と中心元素とが全体として1つの共鳴構造を構成することが好ましい。例えば、2つの置換基と中心元素とが全体として芳香族環構造を構成することが好ましい。より具体的な例としては、例えば、ヨードベンゼンは、2位、3位および4位の炭化水素からなる置換基と、5位、6位の炭化水素からなる置換基が1位の炭素原子に結合しており、そして4位の炭素と5位の炭素の間で、2つの置換基が連結された構造を有していると考えることが可能である。そしてその2つの置換基と中心元素との全体として構成されるベンゼン環が、1つの共鳴構造を構成しており、その共鳴構造により、中心元素におけるラジカルが安定化される。
【0137】
1つの好ましい実施形態において、触媒化合物は、以下の一般式Ieで示される。
【0139】
ここで、M
11は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M
12は、M
11に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。M
11とM
12との間の結合は二重結合または三重結合である。R
10およびR
11は,M
11の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R
12およびR
13は,M
12の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
【0140】
M
21は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M
22は、M
21に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。M
21とM
22との間の結合は二重結合または三重結合である。R
20およびR
21は,M
21の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R
22およびR
23は、M
22の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。また、R
13は、R
23と連結されていてもよい。
【0141】
1つの好ましい実施形態において、触媒化合物は、以下の一般式Ifで示される。
【0143】
ここで、M
41は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M
42は、M
41に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。R
40およびR
41は,M
41の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R
42およびR
43は,M
42の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
【0144】
M
51は、中心元素に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リンまたは窒素であり、より好ましくは炭素である。M
52は、M
51に結合する原子であり、好ましくは、炭素、ケイ素、リン、窒素または酸素であり、より好ましくは炭素または酸素である。R
50およびR
51は,M
51の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。R
52およびR
53は,M
52の原子価に応じて存在する任意の置換基であり、例えば、水素、アルキル、アルコキシなどである。
【0145】
また、R
43は、R
53と連結されていてもよい。さらに、R
53が存在しない場合、R
43は、M
52に直接連結されていてもよい。この場合の構造式を以下に示す。
【0147】
この場合、R
43を構成する原子のうち、M
42と結合する原子がM
52とも結合すれば、安定な6員環を形成することができるので好ましい。1つの好ましい実施態様では、R
43はCHまたはNであり、M
42とR
43との間の結合は単結合であり、R
53が存在せず、R
43が直接M
52に結合しており、R
43とM
52との間の結合は二重結合である。この場合、6員環において極めて安定な共鳴構造が形成されることになる。
【0148】
さらに、R
43およびR
53がともに存在しない場合、M
42が、M
52に直接結合していてもよい。この場合、中心元素の炭素原子と、M
41、M
42、M
51およびM
52が5員環を形成する。
【0149】
なお、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基は、電子吸引性の置換基であってもよく、電子供与性の置換基であってもよい。
【0150】
(炭素を中心元素とする触媒化合物の具体例)
また、炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例としては、ハロゲン化炭素(例えば、CI
4)、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化アリール(例えば、R
13CX、R
12CX
2、またはR
1CX
3、例えば、ヨウ化ジフェニルメタン(Ph
2CI
2))もしくはハロゲン化ヘテロアリールなどが挙げられる。後述するPE−IおよびCP−Iなどは、ドーマント種としてのみ作用するものであり、触媒としては作用しない。PE−IおよびCP−Iのように、ハロゲンが結合する炭素に水素が1つ以上かつメチル基が1つ以上結合したもの、あるいはハロゲンが結合する炭素にメチル基が2つ以上結合したものは、触媒としては作用しない。
【0151】
従来、有機ハロゲン化物は、後述するドーマント種として使用されることが知られていた。ドーマント種は、リビングラジカル重合触媒と組み合わせて用いられ、ドーマント種から、触媒の作用により、ハロゲンが離脱して、ラジカル(重合の成長種)が発生し、重合が進行する。本発明においても、PE−IやCP−Iなどのハロゲン化アルキルをドーマント種として、触媒の種類によらず、常に用いる。本発明において、触媒として、炭素を中心元素とする化合物を用いる場合は、PE−IやCP−Iなどのドーマント種となるハロゲン化アルキルとともに、ドーマント種とは構造も反応性も異なるハロゲン化アルキルを触媒として、あわせて用いる。触媒となるハロゲン化アルキルは、ハロゲンとの親和性が強く(ハロゲンをドーマント種から引き抜く力が強く)、モノマーとは反応しない(重合の成長種にならない)必要があり、一般に、PE−IやCP−Iに比べて、電子的にやや不安定で(高活性で)、モノマーとの反応を避けるべくやや嵩高いハロゲン化アルキルが好ましい。すなわち、触媒は、炭素−ハロゲン結合が弱く、ハロゲンを放出して炭素ラジカルになりやすく、その炭素ラジカルはドーマント種からハロゲンを引き抜く力が強いものが好ましい。
【0152】
これらのハロゲン化アルキルなどの有機ハロゲン化物が触媒として作用できるとは従来考えられていなかった。そのため、ハロゲン化アルキルを触媒として用いた従来技術はない。
【0153】
しかしながら、本発明者らの研究により、有機ハロゲン化物がすべてドーマント種としてのみ作用できるという従来の技術常識に誤りがあることがわかった。すなわち、p軌道またはs軌道とp軌道の混成軌道(例えば、sp
3混成軌道)の電子に基づくラジカルが触媒として有効となり得ることがわかったので、上記有機ハロゲン化アルキルなどの有機ハロゲン化物におけるp軌道またはs軌道とp軌道の混成軌道の電子に基づくラジカルも触媒として作用できることがわかった。
【0154】
このような、触媒として作用できる有機ハロゲン化物は、ラジカル反応の実験を行うことにより、容易に確認することができる。具体的には、有機ハロゲン化物と、代表的なドーマント種(例えば、PE−I)とを組み合わせてリビングラジカル重合反応の実験を行い、狭い分子量分布が得られれば、その有機ハロゲン化物が触媒として作用したことが確認される。
【0155】
触媒化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。
【0156】
炭素を中心元素とする触媒化合物の好ましい具体例を以下に記載する。
(1)芳香族環に直接ハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0158】
(2)共役脂肪族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素にヨウ素が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0160】
(3)芳香族二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0162】
また、3つの芳香族環の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物も使用可能である。例えば、ハロゲン化トリフェニルメタンなどが使用可能である。
【0163】
(4)エステル結合などの二重結合に隣接する炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素にハロゲン(好ましくはヨウ素)が結合した化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0165】
(5)C−I(炭素−ヨウ素)構造またはC−Br(炭素−シュウ素)構造を有する化合物であって、その炭素がさらに3つのハロゲン原子と結合している化合物が使用可能である。すなわち、少なくとも1つのヨウ素またはシュウ素を有する四ハロゲン化メチルが使用可能である。好ましくは、ヨウ素を有する化合物である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0166】
CI
4 CF
3I CF
2I
2
ただし、四ハロゲン化メチルが、IまたはBrのいずれも有さない場合(例えば、CCl
4)は、触媒としての活性が非常に低いため好ましくない。
【0167】
(炭素を中心元素とする触媒前駆体化合物)
炭素を中心元素とする触媒の前駆体となる化合物は、上記触媒化合物中の炭素原子に結合したハロゲンを水素に置換した化合物であり、ハロゲンを水素に置換すること以外は、上述した触媒化合物についての説明が、基本的には、そのまま触媒前駆体化合物にもあてはまる。
【0168】
従って、例えば、中心元素の炭素に、1つまたは2つの水素原子と、2つまたは3つのラジカル安定化用置換基が結合している化合物が好ましく使用できる。ここで、ラジカル安定化用置換基としては、中心元素と一緒になって共鳴構造を形成する置換基が好ましい。中心元素の炭素には、水素原子および安定化ラジカル安定化用置換基以外の置換基が1つ結合していてもよいが、水素原子および安定化ラジカル安定化用置換基以外の置換基が中心元素の炭素に結合していないことが好ましい。
【0169】
ただし、上記触媒化合物に関しては、芳香族環に直接ハロゲンが結合した化合物が使用可能であることを説明したが、その化合物のハロゲンを水素に置換した化合物(すなわち、芳香族環状炭化水素、例えば、ベンゼン)は、触媒としての活性が非常に低いため好ましくない。
【0170】
また、上記触媒化合物に関しては、メタンの4ハロゲン化物が使用可能であることを説明したが、その化合物のハロゲンをすべて水素に置換した化合物(例えば、メタン)は、気体であるために触媒として使用しにくく、活性も低いため好ましくない。
【0171】
上記触媒化合物中の炭素原子に結合したハロゲンを水素に置換した化合物としては、例えば、炭素、ケイ素、窒素またはリンにC−H基が結合した構造を有する化合物が挙げられる。
【0172】
触媒前駆体化合物は、好ましくは、メチレンに2つの芳香族環が結合した構造を有する化合物などである。
【0173】
前駆体化合物の中心元素の炭素が結合した原子(以下、便宜上、「1位原子」という)は、好ましくは、炭素、窒素またはリンであり、より好ましくは炭素である。1位原子には、当該水酸基以外には、炭素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。1位原子に隣接する原子(以下、便宜上、「2位原子」という)は好ましくは、炭素である。2位原子には、炭素、酸素および水素から選択される原子のみが結合していることが好ましい。また、1位原子と2位原子との間に二重結合が存在することが好ましい。好ましい実施形態では、2つの2位原子が存在し、そのうちの1つの2位原子と1位原子との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。例えば、1位原子が炭素であり、2位原子として2つの炭素原子が存在し、そのうちの1つの炭素と1位原子の炭素との間に二重結合が存在する化合物を触媒前駆体化合物として使用することができる。また、2つ以上の2位原子が存在することが好ましく、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位炭素と1位炭素との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。例えば、1位原子が炭素であり、2つの炭素が2位原子として存在し、1つの2位原子と1位原子との間の二重結合と、もう1つの2位原子と1位原子との間の単結合とが、共役系の一部となっていることが好ましい。
【0174】
従って、前駆体化合物としては、芳香族環に炭化水素基が結合した構造を有する炭化水素化合物が好ましく、例えば、アリール、ヘテロアリール、置換アリールまたは置換ヘテロアリールに炭化水素基が結合した化合物が好ましい。例えば、メチレン基に2つの芳香族置換基が結合した化合物が好ましい。ここで、アリールとしては、フェニルまたはビフェニルが好ましい。ここで、置換アリールまたは置換ヘテロアリール中の置換基は、アルキル基、アルコキシル基、シアノ基などが好ましい。低級アルキル基および低級アルコキシル基がより好ましい。
【0175】
触媒前駆体化合物は、好ましくは、ラジカル反応性二重結合を有さないものである。芳香族二重結合(例えば、ベンゼン環の二重結合)のように、ラジカルとの反応性が低い二重結合を触媒前駆体化合物が有しても良い。脂肪族二重結合であっても、ラジカルとの反応性が低い二重結合は、触媒前駆体として使用することに支障がない。
【0176】
他方、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物(すなわち、1位炭素が二重結合または三重結合を有さず、2位炭素またはそれ以上に離れた炭素が二重結合または三重結合を有する化合物)は、触媒前駆体化合物としての性能が比較的高くない傾向にある。従って、炭化水素基から離れた位置にのみ二重結合または三重結合を有する化合物以外の化合物を触媒前駆体化合物として選択することが好ましい。
【0177】
また、本発明の1つの実施形態においては、前駆体化合物として、ケイ素、窒素またはリンに結合した炭化水素基(すなわち、Si−CH、N−CH、P−CH)を有する化合物を用いることもできる。
【0178】
本発明に用いる前駆体化合物として好ましい化合物の構造を例示する。
(1)脂肪族二重結合に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの脂肪族二重結合の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの脂肪族二重結合の間に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物(1,4−シクロヘキサジエン)が使用可能である。
【0180】
なお、1,4−シクロヘキサジエンに類似した構造を有する化合物として、1,3−シクロヘキサジエンがあるが、1,3−シクロヘキサジエンにおいては、二重結合と二重結合との間に1つのメチレン基が挟まれる構造ではないために、メチレン基の炭素ラジカルの安定化効果が低く、触媒としては適切ではない。
(2)芳香族環に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つ以上の芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの芳香族環の間に挟まれたメチレンを有する化合物。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0182】
1つの実施形態では、3つの芳香族環の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、トリフェニルメタンが使用可能である。
【0184】
(3)エステル結合などの二重結合に隣接する炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。特に、2つの二重結合の間に挟まれた炭素に水素が結合した化合物が使用可能である。例えば、2つの二重結合の間に挟まれたメチレンを有する化合物が使用可能である。例えば、以下の構造を有する化合物が使用可能である。
【0186】
(触媒の製造方法)
本発明の触媒として使用される化合物は、その多くは公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されているものをそのまま用いることが可能であり、あるいは、公知の方法により合成することが可能である。また、天然物中に存在する化合物は、その天然物から抽出するなどの方法により入手することもできる。
【0187】
触媒として、炭素に有機基R
1(例えば、アルキル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、置換アリールまたは置換ヘテロアリール)が結合したものを用いる場合、このような化合物としては市販されているものを用いることができる。またはこのような化合物は公知の方法により合成することができる。例えば、R
13CHにN−ヨードコハク酸イミドを反応させる方法や、R
13COHにヨウ素あるいはP
2I
4を反応させる方法により、R
13CIが合成されるなど、炭素にハロゲンおよび有機基R
1が結合した化合物を合成することができる。あるいは、Tetrahedron Letters 36,609−612(1995)やTetrahedron Letters 20,1801−1804(1979)に記載された方法により、炭素にハロゲンおよび有機基R
1が結合した化合物を合成することができる。
【0188】
(触媒の使用量)
本発明の触媒は、極めて活性が高く、少量でリビングラジカル重合を触媒することが可能である。以下に、触媒の使用量について説明するが、触媒前駆体を使用する場合の量も触媒の量と同様である。
【0189】
本発明の方法において、触媒または触媒前駆体として使用される化合物は、理論上溶媒として使用され得る液体の化合物である場合もある。しかし、触媒または触媒前駆体として使用するにあたっては、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、触媒または触媒前駆体の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、触媒または触媒前駆体は、上述した通り、リビングラジカル重合を触媒するのに充分な量で使用されればよく、それ以上に添加する必要はない。
【0190】
具体的には、例えば、好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を10ミリモル(mM)以下とすることが可能である。さらに好ましい実施形態では、反応溶液1リットルに対して、触媒使用量を5ミリモル以下とすることが可能であり、2ミリモル以下とすることも可能である。さらには、1ミリモル以下とすることも可能であり、0.5ミリモル以下とすることも可能である。重量基準では、触媒使用量を反応溶液のうちの1重量%以下とすることが可能である。好ましい実施形態では、0.75重量%以下とすることが可能であり、また0.70重量%以下とすることも可能であり、さらに好ましい実施形態では、0.5重量%以下とすることが可能であり、0.2重量%以下とすることも可能であり、さらには0.1重量%以下とすることも可能であり、0.05重量%以下とすることも可能である。例えば、リン触媒の場合、0.75重量%以下とすることが可能であり、また0.70重量%以下とすることも可能であり、さらに好ましい実施形態では、0.5重量%以下とすることが可能であり、0.2重量%以下とすることも可能であり、さらには0.1重量%以下とすることも可能であり、0.05重量%以下とすることも可能である。すなわち、溶媒として効果を奏するよりも「格段に」少ない量とすることが可能である。
【0191】
また、触媒の使用量は、好ましくは、反応溶液1リットルに対して、0.02ミリモル以上であり、より好ましくは、0.1ミリモル以上であり、さらに好ましくは、0.5ミリモル以上である。重量基準では、触媒使用量を反応溶液のうちの0.001重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは、0.005重量%以上であり、さらに好ましくは、0.02重量%以上である。触媒の使用量が少なすぎる場合には、分子量分布は広くなり易い。
【0192】
1つの実施形態において、本発明のリビングラジカル重合方法においては、炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物以外のリビングラジカル重合触媒または触媒前駆体化合物(以下、「他種触媒または他種触媒前駆体化合物」)を併用しなくても、充分にリビングラジカル重合を行うことが可能である。しかし、必要に応じて、他種触媒または他種触媒前駆体化合物を併用することも可能である。その場合、炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物の利点をできるだけ生かすためには、炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物の使用量を多く、かつ、他種触媒または他種触媒前駆体化合物の使用量を少なくすることが好ましい。そのような場合、他種触媒または他種触媒前駆体化合物の使用量は、炭素原子を中心元素とする触媒または触媒前駆体化合物100重量部に対して、100重量部以下とすることが可能であり、50重量部以下とすることも可能であり、20重量部以下、10重量部以下、5重量部以下、2重量部以下、1重量部以下、0.5重量部以下、0.2重量部以下または0.1重量部以下とすることも可能である。すなわち、炭素原子を中心元素とする触媒以外の触媒を実質的に含まない反応溶液においてリビングラジカル反応を行うことが可能である。
【0193】
(保護基)
本発明の方法には、リビングラジカル重合の反応途中の成長鎖を保護する保護基を用いる。このような保護基としては、従来からリビングラジカル重合に用いる保護基として公知の各種保護基を用いることが可能である。ここで、保護基としてハロゲンを用いることが好ましい。従来技術に関して上述したとおり、特殊な保護基を用いる場合には、その保護基が非常に高価であることなどの欠点がある。
【0194】
(有機ハロゲン化物(ドーマント種))
本発明の方法においては、好ましくは、炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を反応材料に添加し、この有機ハロゲン化物から成長鎖に与えられるハロゲンを保護基として用いる。このような有機ハロゲン化物は比較的安価であるので、リビングラジカル重合に用いられる保護基のために用いられる公知の他の化合物に比べて有利である。また、必要に応じて、炭素以外の元素にハロゲンが結合したドーマント種を用いることも可能である。
【0195】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、分子中に少なくとも1個の炭素−ハロゲン結合を有してドーマント種として作用するものであればよく特に限定されるものではない。しかし、一般的には有機ハロゲン化物の1分子中にハロゲン原子が1個または2個含まれているものが好ましい。
【0196】
ここで、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルが不安定であることが好ましい。従って、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、ハロゲンが脱離して炭素ラジカルが生成した際に、炭素ラジカルを安定化させる置換基が2つ以上当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものは適さない。ただし、炭素ラジカルを安定化させる置換基が1つ当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものは、適度なラジカル安定性を示すことが多く、ドーマント種として使用可能である。
【0197】
すなわち、本発明のリビングラジカル重合法においては、炭素ラジカルが安定となる触媒化合物と、炭素ラジカルがあまり安定にはならないが適度な安定性となるドーマント種とを組み合わせることが好ましく、その組み合わせにより、高い効率で、リビングラジカル重合反応を行うことができる。例えば、炭素ラジカルを安定化させる置換基が2つ以上当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものを触媒として用い、炭素ラジカルを安定化させる置換基が1つ当該炭素ラジカルとなる炭素原子に結合しているものをドーマントして用いることによって、その触媒とドーマントとの組み合わせにより、リビングラジカル重合において高い反応活性が示される。
【0198】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲンが結合した炭素(以下、便宜上、「有機ハロゲン化物の1位炭素」という)が有する水素は、2つ以下であることが好ましく、1つ以下であることがより好ましく、水素を有さないことがさらに好ましい。また、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンの数は、3つ以下であることが好ましく、2つ以下であることがより好ましく、1つであることがさらに好ましい。特に、有機ハロゲン化物の1位炭素に結合しているハロゲンが塩素である場合には、その塩素の数は、3つ以下であることが非常に好ましく、2つ以下であることがいっそう好ましく、1つであることがとりわけ好ましい。
【0199】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の1位炭素には、炭素が1つ以上結合していることが好ましく、炭素が2つまたは3つ結合していることが特に好ましい。
【0200】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子は、触媒中のハロゲン原子と同一であってもよく、異なってもよい。異種のハロゲン原子であっても、有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間で、互いにハロゲン原子を交換することが可能であるからである。ただし、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物のハロゲン原子と、触媒中のハロゲン原子とが同一であれば、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物と触媒の化合物との間でのハロゲン原子の交換がより容易であるので、好ましい。
【0201】
1つの実施形態において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、以下の一般式(II)を有する。
【0202】
CR
2R
3R
4X
3 (II)
ここで、R
2は、ハロゲン、水素またはアルキルである。好ましくは、水素または低級アルキルである。より好ましくは、水素またはメチルである。
【0203】
R
3は、R
2と同一であってもよく、または異なってもよく、ハロゲン、水素またはアルキルである。好ましくは、水素または低級アルキルである。より好ましくは、水素またはメチルである。
【0204】
R
4は、ハロゲン、水素、アルキル、アリール、ヘテロアリールまたはシアノである。好ましくは、アリール、ヘテロアリールまたはシアノである。R
4が、ハロゲン、水素またはアルキルである場合、R
4はR
2またはR
3と同一であってもよく、または異なってもよい。
【0205】
X
3は、ハロゲンである。好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素である。R
2〜R
4にハロゲンが存在する場合、X
3は、そのR
2〜R
4のハロゲンと同一であってもよく、異なっていてもよい。1つの実施形態では、X
3のハロゲンは、触媒化合物に含まれるハロゲンと同じハロゲンとすることができる。しかし、触媒化合物に含まれるハロゲンと異なるハロゲンであってもよい。
【0206】
上記R
2〜R
4およびX
3は、それぞれ、互いに独立して選択されるが、R
2〜R
4のうちにハロゲン原子が0または1つ存在すること(すなわち、有機ハロゲン化物として、化合物中に1または2つのハロゲン原子が存在すること)が好ましい。
【0207】
1つの好ましい実施形態では、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、ハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルである。より好ましくは、ハロゲン化置換アルキルである。ここで、アルキルは2級アルキルであることが好ましく、より好ましくは3級アルキルである。
【0208】
ドーマント種として使用されるハロゲン化アルキルまたはハロゲン化置換アルキルにおいてアルキルの炭素数は2または3であることが好ましい。従って、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、さらに好ましくは、ハロゲン化置換エチルまたはハロゲン化置換イソプロピルである。ドーマント種として使用されるハロゲン化置換アルキルにおける置換基としては、例えば、フェニルまたはシアノなどが挙げられる。
【0209】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の好ましい具体例としては、例えば、以下の、CH(CH
3)(Ph)I、およびC(CH
3)
2(CN)Iなどである。
【0211】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の別の具体例としては、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、ブロモメチル、ジブロモメタン、ブロモホルム、ブロモエタン、ジブロモエタン、トリブロモエタン、テトラブロモエタン、ブロモトリクロロメタン、ジクロロジブロモメタン、クロロトリブロモメタン、ヨードトリクロロメタン、ジクロロジヨードメタン、ヨードトリブロモメタン、ジブロモジヨードメタン、ブロモトリヨードメタン、ヨードホルム、ジヨードメタン、ヨウ化メチル、塩化イソプロピル、塩化t-ブチル、臭化イソプロピル、臭化t−ブチル、トリヨードエタン、ヨウ化エチル、ジヨードプロパン、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化t−ブチル、ブロモジクロロエタン、クロロジブロモエタン、ブロモクロロエタン、ヨードジクロロエタン、クロロジヨードエタン、ジヨードプロパン、クロロヨードプロパン、ヨードジブロモエタン、ブロモヨードプロパン、2−ヨード−2−ポリエチレングリコシルプロパン、2−ヨード−2−アミジノプロパン、2−ヨード−2−シアノブタン、2−ヨード−2−シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−シアノ4−メチル−4−メトキシペンタン、4−ヨード−4−シアノ−ペンタン酸、メチル−2−ヨードイソブチレート、2−ヨード−2−メチルプロパンアミド、2−ヨード−2,4−ジメチルペンタン、2−ヨード−2−シアノブタノール、4−メチルペンタン、シアノ−4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−メチル−N−(1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド4−メチルペンタン、2−ヨード−2−(2−イミダソリン−2−イル)プロパン、2−ヨード−2−(2−(5−メチル−2−イミダソリン−2−イル)プロパン等が挙げられる。これらのハロゲン化物は単独で用いてもよく、または組合せて用いてもよい。
【0212】
本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、溶媒として使用されるものではないので、溶媒としての効果を奏するほど大量に用いる必要はない。したがって、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の使用量は、いわゆる「溶媒量」(すなわち溶媒としての効果を達成するのに必要な量)よりも少ない量とすることができる。本発明の方法において、ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、上述した通り、成長鎖にハロゲンを保護基として提供するために使用されるので、反応系中の成長鎖に充分な量のハロゲンを提供できれば充分である。具体的には、例えば、本発明の方法においてドーマント種として使用される有機ハロゲン化物の使用量は、重合反応系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり0.05モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.5モル以上であり、さらに好ましくは1モル以上である。また、重合系中におけるラジカル重合開始剤1モル当たり100モル以下であることが好ましく、より好ましくは30モル以下であり、さらに好ましくは5モル以下である。さらに、ビニル系単量体(モノマー)の1モル当たり0.001モル以上であることが好ましく、より好ましくは0.005モル以上である。また、ビニル系単量体の1モル当たり0.5モル以下であることが好ましく、より好ましくは0.4モル以下であり、さらに好ましくは0.3モル以下であり、特に好ましくは0.2モル以下であり、最も好ましくは0.1モル以下である。さらに、必要に応じて、ビニル系単量体の1モル当たり0.07モル以下、0.05モル以下、0.03モル以下、0.02モル以下もしくは0.01モル以下とすることも可能である。
【0213】
上記ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その多くの化合物が公知化合物であり、試薬販売会社などから市販されている試薬などをそのまま用いることが可能である。あるいは、従来公知の合成方法を用いて合成してもよい。
【0214】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物は、その原料を仕込み、有機ハロゲン化物を重合中にin situすなわち反応溶液中で生成させ、それをこの重合法の有機ハロゲン化物として使用することもできる。例えば、アゾ系ラジカル開始剤(例えば、アゾビス(イソブチロニトリル))とハロゲン単体の分子(例えば、ヨウ素(I
2))を原料として仕込み、その両者の反応により有機ハロゲン化物(例えば、ヨウ化アルキルであるCP−I(化学式は上記のとおり))を重合中にin situで生成させ、それをこの重合法のドーマント種として使用することができる。
【0215】
ドーマント種として使用される有機ハロゲン化物としては、無機または有機固体表面や、無機または有機分子表面などの表面に固定化したものを使用することもできる。例えば、シリコン基板表面、高分子膜表面、無機または有機微粒子表面、顔料表面などに固定化した有機ハロゲン化物を使用することができる。固定化には、例えば、化学結合や物理結合などが利用できる。
【0216】
(モノマー)
本発明の重合方法には、モノマーとして、ラジカル重合性モノマーを用いる。ラジカル重合性モノマーとは、有機ラジカルの存在下にラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するモノマーをいう。このような不飽和結合は二重結合であってもよく、三重結合であってもよい。すなわち、本発明の重合方法には、従来から、リビングラジカル重合を行うことが公知の任意のモノマーを用いることができる。
【0217】
より具体的には、いわゆるビニルモノマーと呼ばれるモノマーを用いることができる。ビニルモノマーとは、一般式「CH
2=CR
5R
6」で示されるモノマーの総称である。
【0218】
この一般式においてR
5がメチルであり、R
6がカルボシキシレートであるモノマーをメタクリレート系モノマーといい、本発明に好適に用いることができる。
【0219】
メタクリレート系モノマーの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、フェニルメタクリレート等が挙げられる。また、メタクリル酸も用いることができる。
【0220】
上記ビニルモノマーの一般式においてR
5が水素であり、R
6がカルボキシレートで示されるモノマーは、一般にアクリル系モノマーと言い、本発明に好適に使用可能である。
【0221】
アクリレート系モノマーの具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−クロロ2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2−ヒドロキシ3−フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、フェニルアクリレートなどが挙げられる。また、アクリル酸も使用可能である。
【0222】
上記ビニルモノマーの一般式においてR
5が水素であり、R
6がフェニルで示されるモノマーはスチレンであり、本発明に好適に使用可能である。R
6がフェニルまたはフェニル誘導体で示されるモノマーは、スチレン誘導体といい、本発明に好適に使用可能である。具体的には、o−、m−、p−メトキシスチレン、o−、m−、p−t−ブトキシスチレン、o−、m−、p−クロロメチルスチレン、o−、m−、p−クロロスチレン、o−、m−、p−ヒドロキシスチレン、o−、m−、p−スチレンスルホン酸等が挙げられる。また、R
6が芳香族である、ビニルナフタレン等が挙げられる。
【0223】
上記ビニルモノマーの一般式においてR
5が水素であり、R
6がアルキルであるモノマーはアルキレンであり、本発明に好適に使用可能である。
【0224】
本発明には、2つ以上のビニル基を有するモノマーも使用可能である。具体的には、例えば、ジエン系化合物(例えば、ブタジエン、イソプレンなど)、アリル系を2つ有する化合物(例えば、ジアリルフタレートなど)、メタクリルを2つ有するジメタクリレート(たとえばエチレングリコールジメタクリレート)、アクリルを2つ有するジアクリレート(たとえばエチレングリコールジアクリレート)などである。
【0225】
本発明には、上述した以外のビニルモノマーも使用可能である。具体的には、例えば、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、上記以外のスチレン誘導体(例えば、α−メチルスチレン)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N−ビニル化合物(例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール)、(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体(例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド)、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、マレイン酸およびその誘導体(例えば、無水マレイン酸)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、シクロヘキセン)などである。
【0226】
これらは単独で使用してもよいし、また2種類以上併用してもよい。
【0227】
なお、1,4−シクロヘキサジエンの二重結合は、安定化基と結合していないため、ラジカルとの反応性が低い(モノマーとしての反応性が低い)。一方、1,4−シクロヘキサジエンのメチレン部位(CH
2)は2つの安定化基(二重結合)と結合し、ラジカルとの反応性が高い(触媒としての反応性が高い)。したがって、1,4−シクロヘキサジエンは、二重結合とラジカルとの反応性よりも、メチレン部位とラジカルとの反応性の方が著しく高いため、本発明においては、モノマーではなく、触媒前駆体に分類される。
【0228】
ただし、1,4−シクロヘキサジエンよりも活性が非常に高い触媒を用いる場合には、1,4−シクロヘキサジエンはモノマーとして使用することが可能である。例えば、ランダム共重合の一成分として使用することが可能である。具体的には、強度や耐熱性を出すために共重合の一成分として使用されることがある。
【0229】
上述したモノマーの種類と、本発明の触媒の種類との組み合わせは特に限定されず、任意に選択されたモノマーに対して任意に選択された本発明の触媒を用いることが可能である。
【0230】
(ラジカル反応開始剤)
本発明のリビングラジカル重合方法においては、必要に応じて、必要量のラジカル反応開始剤を用いる。このようなラジカル反応開始剤としては、ラジカル反応に使用する開始剤として公知の開始剤が使用可能である。例えば、アゾ系のラジカル反応開始剤および過酸化物系のラジカル開始剤などが使用可能である。アゾ系のラジカル反応開始剤の具体例としては、例えば、アゾビス(イソブチロニトリル)が挙げられる。過酸化物系のラジカル開始剤の具体例としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−butyl peroxybenzoate(BPB)、di(4−tert−butylcyclohexyl) peroxydicarbonate(PERKADOX16)、過酸化二硫酸カリウムが挙げられる。
【0231】
ラジカル開始剤の使用量は特に限定されないが、好ましくは、反応液1リットルに対して、1ミリモル以上であり、より好ましくは、5ミリモル以上であり、さらに好ましくは、10ミリモル以上である。また、好ましくは、反応液1リットルに対して、500ミリモル以下であり、より好ましくは、100ミリモル以下であり、さらに好ましくは、50ミリモル以下である。
【0232】
(溶媒)
モノマーなどの反応混合物が反応温度において液体であれば、必ずしも溶媒を用いる必要はない。必要に応じて、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、従来、リビングラジカル重合に用いられていた溶媒をそのまま使用することが可能である。溶媒を用いる場合には、その使用量は重合反応が適切に行われる限り特に限定されないが、モノマー100重量部に対して1重量部以上用いることが好ましく、10重量部以上用いることがより好ましく、50重量部以上用いることがさらに好ましい。溶媒の使用量が少なすぎる場合には、反応溶液の粘度が高くなりすぎる場合がある。また、モノマー100重量部に対して2000重量部以下とすることが好ましく、1000重量部以下とすることがより好ましく、500重量部以下とすることがさらに好ましい。溶媒の使用量が多すぎる場合には、反応溶液のモノマー濃度が薄くなりすぎる場合がある。
【0233】
モノマーと混ざり合わない溶媒を用いることにより、乳化重合や、分散重合、懸濁重合を行うこともできる。例えば、スチレンやメタクリレートをモノマーとした場合、水を溶媒とすることで、乳化重合や、分散重合、懸濁重合を行うことができる。
【0234】
(その他の添加剤等)
上述したリビングラジカル重合のための各種材料には、必要に応じて、公知の添加剤等を必要量添加してもよい。そのような添加剤としては、例えば、重合抑制剤などが挙げられる。
【0235】
(原料組成物)
上述した各種原料を混合することにより、リビングラジカル重合の材料として適切な原料組成物が得られる。得られた組成物は、従来公知のリビングラジカル重合方法に用いることができる。
【0236】
1つの実施形態では、原料組成物は、上述した各種原料以外の原料を含まない。例えば、環境問題などの観点から、原料組成物は、遷移金属を含む原料を実質的に含まないことが好ましい。1つの好ましい実施形態では、原料組成物は、開始剤、触媒、触媒前駆体化合物、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマー、溶媒、およびドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物以外の原料を実質的に含まない。また、原料組成物は、リビングラジカル重合に無関係な材料(例えば、エピスルフィド化合物など)を実質的に含まないことが好ましい。さらに、炭素を中心元素とする触媒または触媒前駆体の利点をできるだけ生かしたい場合には、原料組成物は、炭素を中心元素とする触媒および触媒前駆体以外のリビングラジカル重合触媒または触媒前駆体を実質的に含まない組成物とすることが可能である。
【0237】
1つの実施形態では、原料組成物は、開始剤と、触媒または触媒前駆体と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含み、さらに溶媒を含んでもよい。
【0238】
(触媒を含む原料組成物)
触媒化合物を用いる実施形態では、原料組成物は、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含む。原料組成物は、これらに加えてさらに溶媒を含んでもよい。
【0239】
1つの実施形態では、原料組成物は実質的に、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒とからなる組成物である。ここで、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。原料組成物は、例えば、開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒以外にはラジカル重合反応に関与する成分を実質的に含まない組成物である。開始剤と、触媒と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒のみから組成物が構成されてもよい。なお、ここでも、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。
【0240】
(触媒前駆体化合物を含む原料組成物)
触媒前駆体化合物を用いる実施形態では、原料組成物は、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物を含む。原料組成物は、これらに加えてさらに溶媒を含んでもよい。
【0241】
1つの実施形態では、原料組成物は実質的に、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒からなる組成物である。ここで、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。例えば、過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒以外にはラジカル重合反応に関与する成分を含まない組成物である。過酸化物と、触媒前駆体化合物と、ラジカル反応性不飽和結合を有するモノマーと、ドーマント種として使用される炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物と、溶媒のみから組成物が構成されてもよい。なお、ここでも、不要な場合には、溶媒は含まれなくてもよい。
【0242】
(反応温度)
本発明の方法における反応温度は特に限定されない。好ましくは、10℃以上であり、より好ましくは、20℃以上であり、さらに好ましくは、30℃以上であり、いっそう好ましくは、40℃以上であり、特に好ましくは、50℃以上である。また、好ましくは、130℃以下であり、より好ましくは、120℃以下であり、さらに好ましくは、110℃以下であり、いっそう好ましくは、105℃以下であり、特に好ましくは、100℃以下である。
【0243】
温度が高すぎる場合には、加熱のための設備等にコストがかかるという欠点がある。温度が室温以下の場合には、冷却のための設備等にコストがかかるという欠点がある。また、室温以下で重合するように反応混合物を調製すると、その反応混合物が室温では不安定で反応してしまうために、反応混合物の保管が困難になるという欠点がある。したがって、上記の、室温より少し高く、かつ過度に高すぎない温度範囲(例えば、50℃から100℃)は、実用的な意味において非常に好適である。
【0244】
(反応時間)
本発明の方法における反応時間は特に限定されない。好ましくは、15分間以上であり、より好ましくは、30分間以上であり、さらに好ましくは、1時間以上である。また、好ましくは、3日以下であり、より好ましくは、2日以下であり、さらに好ましくは、1日以下である。
【0245】
反応時間が短すぎる場合には、充分な分子量(あるいは重合率(モノマー転化率))を得ることが難しい。反応時間が長すぎる場合には、プロセス全体としての効率が悪い。適切な反応時間とすることにより、優れた性能(適度な重合速度と副反応の軽減)が達成され得る。
【0246】
(雰囲気)
本発明の方法における重合反応は、反応容器中に空気が存在する条件下で行ってもよい。また、必要に応じて窒素やアルゴンなどの不活性ガスで空気を置換しても良い。
【0247】
(前駆体)
本発明の重合方法においては、上述した触媒を直接的に用いて(すなわち、触媒を重合容器に投入して)反応を行ってもよいが、また、触媒を直接用いることなく、触媒の前駆体を用いて反応を行ってもよい。ここで、触媒の前駆体とは、その化合物は反応容器に投入する際の状態では上記触媒の定義に該当しないが、反応容器中において化学変化して触媒として作用できる状態になる化合物をいう。ここで、上記「触媒として作用できる状態になる」とは、好ましくは、前駆体が上記触媒化合物に変換されることである。
【0248】
上記触媒化合物から重合反応の際に発生する活性化ラジカルと同様の活性化ラジカルを生成させることができる化合物は、前駆体に該当する。例えば、炭素の水素化物は前駆体に該当する。すなわち、ラジカル開始剤が分解して生成したラジカルや、それに由来するポリマーラジカルが、炭素の水素化物の水素を引き抜けば炭素化合物の活性化ラジカルを発生させることができ、リビングラジカル重合を行うことができる。
【0249】
従って、本発明の重合方法の1つの実施形態においては、上述した触媒を直接用いて反応を行うことができるが、別の実施形態においては、上述した触媒を直接用いることなく、触媒化合物の前駆体を用いることができる。この場合、重合反応を行う工程の前に前駆体を化学変化させる工程が行われる。この前駆体の化学変化工程は、重合反応を行う容器内で行ってもよく、重合反応容器と別の容器で行っても良い。重合反応を行う容器内で重合反応工程と同時に行うことが全体のプロセスが簡略になる点で有利である。
【0250】
前駆体の使用量としては、上述した触媒の使用量と同様の量が使用できる。前駆体から得られる活性化ラジカルの量が、上述した量の触媒を使用した場合の活性化ラジカルの量と同様になるようにすることが好ましい。
【0251】
本発明のリビングラジカル重合方法は、単独重合、すなわち、ホモポリマーの製造に応用することが可能であるが、共重合に本発明の方法を用いてコポリマーを製造することも可能である。共重合としては、ランダム共重合であってもよく、ブロック共重合であってもよい。
【0252】
ブロック共重合体は、2種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよく、3種類以上のブロックが結合した共重合体であってもよい。
【0253】
2種類のブロックからなるブロック共重合の場合、例えば、第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程とを包含する方法によりブロック共重合体を得ることができる。この場合、第1のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよく、第2のブロックを重合する工程に本発明の方法を用いてもよい。第1のブロックを重合する工程と、第2のブロックを重合する工程の両方に本発明の方法を用いることが好ましい。
【0254】
より具体的には例えば、第1のブロックを重合した後、得られた第1のポリマーの存在下に、第2のブロックの重合を行うことにより、ブロック共重合体を得ることができる。第1のポリマーは、単離精製した後に、第2のブロックの重合に供することもできるし、第1ポリマーを単離精製せず、第1のポリマーの重合の途中または完結時に、第1の重合に第2のモノマーを添加することにより、ブロックの重合を行うこともできる。
【0255】
3種類のブロックを有するブロック共重合体を製造する場合も、2種類以上のブロックが結合した共重合体を製造する場合と同様に、それぞれのブロックを重合する工程を行って、所望の共重合体を得ることができる。そして、すべてのブロックの重合において本発明の方法を用いることが好ましい。
【0256】
(反応メカニズム)
本発明は特に理論に束縛されないが、その推定されるメカニズムを説明する。
【0257】
リビングラジカル重合法の基本概念はドーマント種(polymer−X)の成長ラジカル(polymer・)への可逆的活性化反応にあり、保護基Xにハロゲンを、活性化の触媒として遷移金属錯体を用いた系は、有用なリビングラジカル重合法の一つである。本発明によれば、炭素化合物を用いて、高い反応性で、有機ハロゲン化物のハロゲンを引き抜くことが可能であり、ラジカルを可逆的に生成させることができる(スキーム1)。
【0258】
従来から、一般に、遷移金属はその電子が様々な遷移状態にあり得るため、各種化学反応を触媒する作用に優れることが知られている。このため、リビングラジカル重合の触媒としても、遷移金属が優れていると考えられていた。逆に、典型元素はこのような触媒には不利であると考えられていた。
【0259】
しかしながら、予期せぬことに、本発明によれば、炭素を中心元素とする触媒を用いることにより、
図3の模式図に示すように、触媒化合物と反応中間体との間でハロゲンを交換しながら、極めて効率よく重合反応が進行する。これは、中心元素とハロゲンとの結合が、反応中間体とのハロゲンの交換を行う上で適切であることによると考えられる。従って、基本的には、この中心元素とハロゲンとの結合を有する化合物であれば、中心元素およびハロゲン以外の置換基を有する化合物であっても、良好にリビングラジカル重合を触媒できると考えられる。
【0260】
以下のスキーム1に、本発明の触媒を用いた場合の反応式を示す。
(スキーム1)
【0262】
また、前駆体(R−CH(炭化水素))を用いる場合には、上述したメカニズムに基づく反応の前に、あるいはその反応と同時に、前駆体から活性化ラジカル(R−C・)を生じさせる工程が行われる。具体的には、ラジカル開始剤(例えば、過酸化物)の分解により生じたラジカル、あるいはそれから生成した成長ラジカル(いずれもR’・で表記する)が前駆体の水素原子を引き抜くことにより、活性化ラジカルを得ることができる(スキーム2(a))。
(スキーム2)
【0264】
(生成ポリマーの末端に結合するハロゲンの除去)
本発明の方法で得られる生成ポリマーは、末端にハロゲン(例えば、ヨウ素)を有する。このポリマーを製品に使用する際には、必要があれば、末端のハロゲンを除去して、使用することもできる。また、末端のハロゲンを積極的に利用し、これを別の官能基に変換して、新たな機能を引き出すこともできる。末端のハロゲンの反応性は、一般に高く、非常に様々な反応により、その除去や変換ができる。例えば、ハロゲンがヨウ素である場合のポリマー末端の処理方法の例を以下のスキームに示す。これらのスキームに示す反応などにより、ポリマー末端を利用することができる。また、ハロゲンがヨウ素以外である場合についても、同様にポリマー末端を官能基に変換することができる。
(スキーム3)
【0266】
(ポリマーの用途)
上述した本発明のリビングラジカル重合方法によれば、分子量分布の狭いポリマーが得られる。例えば、反応材料の配合や反応条件を適切に選択することにより、重合平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.5以下のポリマーを得ることが可能であり、さらに反応材料配合および反応条件を適切に選択することにより、Mw/Mnが1.4以下、1.3以下、1.2以下、さらには1.1以下のポリマーを得ることが可能となる。
【0267】
本発明のリビングラジカル重合方法により得られるポリマーは、各種用途に使用可能である。例えば、レジスト、接着剤、潤滑剤、塗料、インク、分散剤、包装材、薬剤、パーソナルケア製品(整髪料・化粧品など)エラストマー(自動車材料、工業用品、スポーツ用品、電線被服材、建築資材など)、コーティング(粉体塗装など)などの生産に使用可能である。また、新しい電子・光学・力学・結晶・分離・潤滑・医療材料の創成に利用しうる。
【0268】
本発明のリビングラジカル重合方法により得られるポリマーは、また、ポリマー中に残存する触媒量が少ないという点においても各種用途に有利に使用可能である。すなわち、従来の遷移金属系の触媒などに比べて触媒量を減らせるため、得られる樹脂の純度が高いものになり、高純度の樹脂が必要とされる用途にも好適に使用できる。触媒残渣は、用途に応じて、生成したポリマーから除去してもよいし、除去しなくともよい。このような各種用途に応じて、ポリマーは成形されたり、溶媒または分散媒に溶解または分散させたりすることがあるが、成形された後のポリマー、あるいは溶解または分散等された後のポリマーも本発明の利点を維持しているものであり、依然として本発明の重合方法で得られたポリマーの範囲に入るものである。
【0269】
本発明の重合法を用いて合成したポリマーは分子量分布が狭く、ポリマー中の残存触媒量が少なく、かつコストが安いという利点を生かして、様々な用途に利用可能である。
【0270】
例えば、ベンジルメタクリレートからなる分子量分布の狭い単独重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体は、高性能のレジストとして使用可能である。
【0271】
また例えば、メタクリレート(例えば、ジメチルアミノメタクリレートや、2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、メタクリル酸、アクリレート、アクリル酸などの重合体は、接着剤、塗料、インク、顔料分散剤などの用途に使用可能である。
【0272】
また、本発明の方法で多分岐ポリマーを合成すれば、潤滑剤として有用である。
【0273】
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)は、薬剤除放材・医療材料にも有用である。
【0274】
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、ジメチルアミノメタクリレートや、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)は、パーソナルケア製品(例えば、整髪料や化粧品)にも有用である。
【0275】
また、本発明の方法で得られたポリマー(例えば、(アクリレート、メタクリレート、スチレン、ジエンなど)は、エラストマーや、コーティングなどの用途にも有用である。
【0276】
また、本発明の方法で得られるポリマーは、従来にない新しい電子材料・光学材料・力学材料・結晶材料・分離材料・潤滑材料・医療材料などの創製と製造にも有用である。
【0277】
さらに本発明の方法は、例えば、表面グラフト重合に応用することも可能であり、高密度のポリマーブラシを製造して各種用途に用いることもできる。
【0278】
また、触媒として、導電性を有さない化合物を用いた場合、導電性不純物がポリマー中に残存しないことが必要とされる用途(例えばレジストや有機EL等)においても、好適に使用可能なポリマーが得られる。
【0279】
本発明の触媒は、その触媒の中心元素が炭素であるという特徴を有する。炭素では、p軌道(あるいはそのs軌道との混成軌道)に位置する電子(ラジカル)が反応に寄与する。d軌道の電子が反応に寄与する遷移金属とは全く異なる。本発明らの研究の結果、炭素のp軌道あるいはs軌道とp軌道との混成軌道に位置するラジカルは、リビングラジカル重合の際にハロゲン化アルキル(ドーマント種)からハロゲンを引き抜く力が極めて高いことがわかった。そして、このp軌道あるいはs軌道とp軌道との混成軌道のラジカルは、一般に、遷移金属のラジカルに比べてもドーマント種からハロゲンを引き抜く力が格段に高いことがわかった。従って、このように強力なp軌道あるいはs軌道とp軌道との混成軌道ラジカルを生成できる炭素は、強力な触媒となることができる。
【実施例】
【0280】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0281】
以下に、後述する各実施例で使用したモノマー、ドーマント種となるハロゲン化アルキル、および触媒を示す。
【0282】
(用いた化合物)
まず、実施例で用いた主な化合物の構造を以下に記載する。
【0283】
(モノマー)
【0284】
【化20】
【0285】
(触媒およびドーマント種となる有機ハロゲン化化合物)
実施例で用いられた触媒または触媒前駆体化合物およびドーマント種となる有機ハロゲン化化合物(CPI)の構造式を以下に示す。
【0286】
【化21】
【0287】
(実施例1)
[炭素のヨウ化物を触媒として用いたメチルメタクリレート(MMA)またはベンジルメタクリレート(BzMA)の重合]
ドーマント種となるハロゲン化アルキルとして、80mMの2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I;化学構造式は上述のとおり)を用いた。触媒として1mMのヨードベンゼン(PhI;化学構造式は上述のとおり)を用いた。ラジカル開始剤として10mMの2,2’−azobis(isobutylonitrile)(AIBN)を用いた。これらの材料を2gのメチルメタクリレート(MMA)に溶解して上記濃度の反応溶液とした。モノマー濃度は約8Mであった。これらの材料の溶解性は良好であり、均一な溶液が形成された。アルゴンにて残存酸素を置換し、この反応溶液を80℃に加熱することにより重合反応を行った。
【0288】
なお、濃度の「mM」は、モノマー1リットルを基準とするミリモル数を示す。例えば、80mMは、モノマー1リットルに80ミリモルが含まれていることを意味する。濃度の「M」は、モノマー1リットルを基準とするモル数を示す。例えば、8Mは、モノマー1リットルに8モルが含まれていることを意味する。なお、MMAの場合、モノマー1リットルが(バルクが)、室温で8モルである。
【0289】
表1に示すとおりに、反応材料および反応条件を変更しながら、entry 1〜8の実験を行った。以下の表において、PDIはM
w/M
nの比を示す。また、M
nは、得られたポリマーの数平均分子量である。
【0290】
M
n,theoは、
【0291】
【数1】
【0292】
で算出される理論値である。なお、[M]
0および[R−I]
0はそれぞれ、モノマーとドーマント種となるヨウ化アルキルの初期濃度(仕込み濃度)を表す。また、convは、モノマーの転化率(重合率)である。
この重合では、AIBNの解裂により生じた成長ラジカル(polymer・)が、不活性化剤PhIのヨウ素を引き抜き、活性化ラジカルであるフェニルラジカル(炭素ラジカルC・)がin situで(ポリマー−ヨウ素付加体(polymer−I)とともに)生成する(スキーム1)。活性化反応は炭素ラジカルの作用による。結果を表1(entry 1)および
図1(白丸:○)に示す。例えば、1.5hで、重合率は45%となり、M
nおよびPDIはそれぞれ5000および1.31であった。M
nは重合率にほぼ比例し、PDIは重合初期から小さく、活性化頻度は十分高いと言える。
【0293】
表1のentry1の実験で使用した量1mMは、PhIの分子量(約209)を考慮すると、MMAモノマー溶液中の約0.026重量%に相当する。この量は、後述する非特許文献1に記載された実験例において使用された触媒の量(8.9重量%)に比べて、およそ350分の1である。このように極めて少量でリビングラジカル重合反応を行えることから、触媒の活性が極めて高いことが確認された。
【0294】
ドーマント種に関しては、本実施例のうち、entry2では、単離したCP−Iを仕込み化合物として用いる代わりに、ヨウ素(I
2)を用いた。ヨウ素は、アゾ化合物(AIBN)と反応して反応液中にドーマント種となるCP−Iを形成した。PhIを触媒として用いたentry2の実施例では、同じ触媒と単離したCP−Iを用いたentry1の実施例と同様に、MnとPDIは制御され、I
2を仕込み化合物として用いる方法が炭素触媒において、有効であった。
【0295】
また、異なる炭素化合物(MesI(entry3、および
図1の△)、IA(entry4)、IBN(entry5)、CI
4(entry6、および
図1の□)、およびCF
2I
4(entry7))を触媒として用いても、MnとPDIを制御することができた。
【0296】
また、異なるモノマーであるベンジルメタクリレート(BzMA)(entry8、および
図1の●)についても、MnとPDIを制御することができた。
【0297】
いずれの触媒を用いた場合も、重合を高速で行うことができ、例えば、1.5時間〜3.5時間で、重合率は54−100%に達した。以上のように、6種の炭素のヨウ化物を触媒として用いることにより、MMAおよびBzMAの重合の制御に成功した。なお、重合に適した炭素のヨウ化物はこの6種に限らない。
【0298】
生成したポリマーのタクティシティから本重合がラジカル重合であることを確認した。
【0299】
【表1】
【0300】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)、ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I): 2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、またはI
2およびAIBNから反応溶液中で生成
ラジカル開始剤(In):2,2’−azobis(isobutylonitrile)(AIBN)
触媒(XA):ヨードベンゼン(PhI)、2,4,6−トリメチルヨードベンゼン(MesI)、4−ヨードアニソール(IA)、3−シアノヨードベンゼン(IBN)、テトラヨードメタン(CI
4)、ジフルオロジヨードメタン(CF
2I
2)
M
nおよびPDI:MMAの重合では、テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)により検量された分子量と分子量分布指数。BzMAの重合では、テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0301】
(実施例2)
[炭化水素(前駆型触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)またはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の単独重合]
表2(entry 9−20)に示すように、反応材料および反応条件を変更した以外は、実施例1と同様に、メチルメタクリレート(MMA)またはN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の重合を行った。
【0302】
実施例1と同様の系で、ただし、炭素のヨウ化物に代わり、炭化水素化合物を触媒の前駆体として使用した(上記スキーム2)。この重合では、ラジカル開始剤の解裂により生成したラジカル、あるいはそれに由来して生成した成長ラジカル(polymer・)が炭化水素の水素を引き抜き、活性化ラジカルであるR−C・が生成する(上記スキーム2(a))。この炭素ラジカルの作用により可逆的活性化が成立する(上記スキーム2(b))。
【0303】
本実施例では、触媒(化学構造式は上述したとおり)として、1,4−シクロヘキサジエン(CHD)、ジフェニルメタン(DPM)、ジメシチルメタン(DMM)、フルオレン(FR)、キサンテン(Xanthene)、チオキサンテン(Thioxanthene)、およびマロン酸ジエチル(DEM)を用いた。これらの炭化水素化合物は、ヨウ化物(PhIなど)に比べて、官能基耐性が高く、水や光に対する安定性が高く、重合溶液の調製に際して、より簡便な操作をもたらしうる。そして、極めて安価である。
【0304】
炭化水素化合物を触媒として用いたMMAの重合結果を表2(entry 9−19)および
図2に示す。M
nは重合率にほぼ比例し、PDIは重合初期から小さく、重合はよく制御された。
【0305】
ラジカル開始剤には、entry 9ではBPOを、entry 10、11および19ではAIBNを単独で用いた。entry 12−18では、AIBNおよびBPOを用いた。BPO由来の酸素中心をもつラジカルは、触媒の炭化水素から水素を引き抜く力が強く、AIBNを単独で使用した場合より、BPOを組み合わせる方が、より小さなPDIを達成することができた(例えば、entry11 対 entry12)。
【0306】
ドーマント種に関しては、本実施例のうち、entry 10−20では、CP−Iの代わりに、ヨウ素(I
2)を用いた。ヨウ素は、アゾ化合物(AIBN)と反応して反応液中にドーマント種を形成した。いずれも、MnとPDIは制御され、I
2を仕込み化合物として用いる方法は前駆体型触媒においても、有効であった。
【0307】
また、entry 20に示すように、反応材料および反応条件を変更した以外は、entry 11と同様に、DMAEMAの重合を行った。DMAEMAがアミノ基を有するので、従来の触媒(例えば、ゲルマニウム触媒)ではDMAEMAの単独重合は制御できなかったが、entry 20の実験においては、良好に制御することができた。この結果は、炭化水素化合物触媒の官能基耐性が非常に高いことを示す。すなわち、反応性の高い官能基を有するモノマーの重合であっても、炭化水素化合物を触媒として用いれば、良好にその重合を制御できることが理解される。DMAEMAの単独重合の他の実施例は、実施例9に示す。
【0308】
いずれの触媒を用いた場合も、重合を高速で行うことができ、例えば、1.83時間〜4時間で、重合率は49−100%に達した。以上のように、8種の炭化水素化合物を触媒として用いることにより、MMAおよびDMAEMAの重合の制御に成功した。なお、重合に適した炭化水素化合物はこの8種に限らない。
【0309】
【表2】
【0310】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:8M(バルク)、4M(50%アニソール溶液)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I): 2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)、またはI
2およびAIBNから反応溶液中で生成
ラジカル開始剤(In):2,2’−azobis(isobutylonitrile)(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)、ジフェニルメタン(DPM)、ジメシチルメタン(DMM)、フルオレン(FR)、キサンテン(Xanthene)、チオキサンテン(Thioxanthene)、マロン酸ジエチル(DEM)
M
nおよびPDI:MMAの重合では、テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)により検量された分子量と分子量分布指数。DMAEMAの重合では、ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0311】
表2のentry10の実験で使用した量2mMは、CHDの分子量(約80)を考慮すると、MMAモノマー溶液中の約0.02重量%に相当する。この量は、後述する非特許文献1に記載された実験例において使用された触媒の量(8.9重量%)に比べて、およそ450分の1である。このように極めて少量でリビングラジカル重合反応を行えることから、触媒の活性が極めて高いことが確認された。
【0312】
(実施例3)
[スチレン(St)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表3に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表3に示す。
【0313】
【表3】
【0314】
モノマー:スチレン
モノマー濃度:8M(バルク)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(BPB)
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)、ジフェニルメタン(DPM)、チオキサンテン(Thioxanthene)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン(PSt)により検量された分子量と分子量分布指数。
【0315】
(実施例4)
[アミノスチレン(AminoSt)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表4に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表4に示す。
【0316】
【表4】
【0317】
モノマー:アミノスチレン
モノマー濃度:8M(バルク)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):なし
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0318】
(実施例5)
[フェニルメタクリレート(POMA)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
I
2とアゾ開始剤(AIBN)を溶媒(MFDG)に溶かし、シュレンク管に入れた(MFDG/I
2/AIBN(50w%/20/50))。三方コックで蓋をして、アルゴン置換した。このシュレンク管を80℃のオイルバスで2.5時間加熱すると、溶液の色が赤色から薄いレモン色になった。その後、このシュレンク管を40℃のオイルバスにつけ、そこへモノマー(POMA)、アゾ開始剤(V70)、および触媒(CHD)を同時に加え、40℃で反応させた。結果を以下の表5に示す。表中の時間(t)は40℃での反応時間を表す。
【0319】
【表5】
【0320】
モノマー:フェニルメタクリレート(POMA)
溶液重合(溶媒(MFDG)50%)
溶媒:Dipropylene glycol monomethyl ether(MFDG)
モノマー濃度:4M
ラジカル開始剤(In):I
2、AIBN、2,2’−azobis(4−methoxy−2,4−dimethylvaleronitrile) (V70)
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0321】
(実施例6)
[ベンジルメタクリレート(BzMA)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表6に示すとおり、材料および条件を変更した。entry 2,3では重合の制御能を高めるための添加剤としてI
2を添加した。結果を以下の表6に示す。
【0322】
【表6】
【0323】
モノマー:ベンジルメタクリレート(BzMA)
モノマー濃度:8M(バルク重合)
entry 2,3はI
2を添加
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):AIBN、BPO
触媒(XA):テトラヨードメタン、1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0324】
(実施例7)
[グリシジルメタクリレート(GMA)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表7に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表7に示す。
【0325】
【表7】
【0326】
モノマー:グリシジルメタクリレート(GMA)
溶液重合(トルエン25%)
モノマー濃度:6M
I
2を添加
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):AIBN、BPO
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0327】
(実施例8)
[ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表8に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表8に示す。
【0328】
【表8】
【0329】
モノマー:ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)
モノマーの分子量は475
モノマー濃度: 8M(バルク重合)
entry 2,3はI
2を添加
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):V70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0330】
(実施例9)
[N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の炭素のヨウ化物(触媒)および前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表9に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表9に示す。
【0331】
【表9】
【0332】
モノマー:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:8M(バルク)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
entry 3はハロゲン化アルキルを用いずに、I
2を添加
ラジカル開始剤(In):AIBN
触媒(XA):ヨードベンゼン、メシチルヨーダイド(MesI)、ジフェニルメタン(DPM)、1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0333】
(実施例10)
[アクリロニトリル(AN)の前駆体型炭素触媒を用いた単独重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表10に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表10に示す。
【0334】
【表10】
【0335】
モノマー:アクリロニトリル(AN)
溶液重合(溶媒(エチレンカーボネート)50%または70%を含む)
モノマー濃度:溶媒が50%のときは4M、溶媒が70%のときは2.4M)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):BPO
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0336】
(実施例11)
[メチルメタクリレート(MMA)とヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の前駆体型炭素触媒を用いたランダム共重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表11に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表11に示す。
【0337】
【表11】
【0338】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)およびヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)
ランダム共重合
溶液重合(溶媒50%(35%のメチルエチルケトン(MEK)および15%の1−プロパノール)を含む)
モノマー濃度:4M
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(XA):V70またはAIBN
entry 2および3は、I
2を添加。
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0339】
(実施例12)
[メチルメタクリレート(MMA)とヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の前駆体型炭素触媒を用いたランダム共重合]
(entry 1〜entry 7)
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表12Aに示すとおり、材料および条件を変更した。全ての化合物を混合して、所定温度で加熱して実験を行った。結果を以下の表12Aに示す。
【0340】
【表12A】
【0341】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)とヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)(バルク重合)
モノマー濃度:8M
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):di(4−tert−butylcyclohexyl) peroxydicarbonate(PERKADOX16)またはV70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)またはDPM
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
(entry 8〜entry 16)
I
2とアゾ開始剤(AIBN)を溶媒(1,2−ジエトキシエタン、酢酸ブチル、またはMFDG)に溶かし、シュレンク管に入れた。使用した溶媒の種類と配合量を以下の表12Bの「初期混合物」の欄に示す。三方コックで蓋をして、アルゴン置換した。このシュレンク管を80℃のオイルバスで2.5時間加熱すると、溶液の色が赤色から薄いレモン色になった。その後、このシュレンク管を所定温度(40℃または50℃)のオイルバスに浸漬し、そこへモノマー、アゾ開始剤(V70)、および触媒(CHD)を同時に加え、所定温度(40℃または50℃)で反応させた。後から添加した材料を表12Bの「後添加材料」の欄に示す。さらに、使用した条件および結果を以下の表12Bに示す。表中の時間(t)は40℃での反応時間を表す。
【0342】
【表12B】
【0343】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)とヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)
溶液重合
溶媒:1,2−ジエトキシエタン、酢酸ブチル、またはMFDG
モノマー濃度:溶媒が25%のときは6M,溶媒が50%のときは4M
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):AIBN、V70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0344】
(実施例13)
[メチルメタクリレート(MMA)とN,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMAm)の前駆体型炭素触媒を用いたランダム共重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表13に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表13に示す。
【0345】
【表13】
【0346】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)、N,N−ジメチルメタクリルアミド(DMMAm)
モノマー濃度:8M(バルク重合)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):AIBN、V70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0347】
(実施例14)
[メチルメタクリレート(MMA)とメタクリル酸(MAA)とN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の前駆体型炭素触媒を用いたランダム共重合]
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下の表14に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表14に示す。
【0348】
【表14】
【0349】
モノマー:メチルメタクリレート(MMA)、メタクリル酸(MAA)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:4M
溶液重合(エタノール50%)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):CPI
ラジカル開始剤(In):V70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0350】
(実施例15)
[メチルメタクリレート(MMA)とN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の前駆体型炭素触媒を用いたブロック共重合]
第一ブロックをMMAの単独重合体、第二ブロックをDMAEMAの単独重合体とするブロック共重合体を合成した。
【0351】
(第一ブロック)
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、以下のとおり材料および条件を変更した。すなわち、第一ブロックとして、MMA(8M)のバルク重合を、2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I:160mM)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN:40mM)および1,4−シクロヘキサジエン(CHD)(3mM)を、それぞれヨウ化アルキル、ラジカル開始剤および触媒として用いて、80℃で1.5時間行った。ヘキサンを用いた再沈殿で精製の後、ポリメチルメタクリレート−ヨーダイド(PMMA−I)(Mn=2700、PDI=1.15)を得た。得られたポリマーは末端にヨウ素を有しているので、このポリマー(PMMA−I)を第一ブロックとして、そのまま、第二ブロックの合成反応に用いた。
【0352】
(第二ブロック)
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、出発材料として、ハロゲン化アルキルの代わりに上記PMMA−Iを用いた。また、以下の表15に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表15に示す。
【0353】
【表15】
【0354】
モノマー:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:8M(バルク重合)
第一ブロックポリマー:PMMA−I(Mn=2700、PDI=1.15)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):なし
ラジカル開始剤(In):AIBN
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:ジメチルホルムアミド(DMF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)(PDMAEMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0355】
(実施例16)
[第一ブロックをメチルメタクリレート(MMA)の単独重合体、第二ブロックをメチルメタクリレート(MMA)とメタクリル酸(MAA)のランダム共重合体とする、前駆体型炭素触媒を用いたブロック共重合]
第一ブロックをMMAの単独重合体、第二ブロックをMMAとMAAのランダム共重合体とするブロック共重合体を合成した。
【0356】
(第一ブロック)
実施例17の第一ブロックの合成において得られたPMMA−I(数平均分子量2700、PDI=1.15)を第一ブロックとして、そのまま、第二ブロックの合成反応に用いた。
【0357】
(第二ブロック)
実施例2と同様の系で実験を行った。ただし、出発材料として、ハロゲン化アルキルの代わりに上記PMMA−Iを用いた。また、以下の表16に示すとおり、材料および条件を変更した。結果を以下の表16に示す。
【0358】
【表16】
【0359】
モノマー:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)
モノマー濃度:8M(バルク重合)
第一ブロックポリマー:PMMA−I(Mn=2700、PDI=1.15)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル(R−I):なし
ラジカル開始剤(In):V70
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いたポリメチルメタクリレート(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0360】
(実施例17)
[炭化水素(前駆型触媒)を用いたメチルメタクリレート(MMA)(単独重合:第一ブロック)と、メタクリル酸ベンジル(BzMA)(単独重合:第二ブロック)のブロック共重合−MMAとBzMAの逐次添加]
メタクリル酸メチル(MMA)の単独重合を第一ブロックとし、MMAおよびメタクリル酸ベンジル(BzMA)のランダム共重合を第二ブロックとするブロック共重合を、炭化水素(前駆型触媒)を用いて行った。第一ブロックとして、MMA(6M)の溶液重合(トルエン25vol%)を、ヨウ素I
2(30mM)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)(75mM)、1,4−シクロヘキサジエン(CHD)(5mM)(触媒)の存在下で、80℃で2.5時間行ったところ、重合率は60%となり、M
n=5,500、PDI=1.33のポリメタクリル酸メチル−ヨウ素付加体(PMMA−I)が生成した。この溶液に(PMMA−Iを単離精製することなく)、BzMAとAIBN(BzMAの0.005当量)を添加し、80℃で重合を行った。これにより、第二ブロックとして、MMA(第一ブロック時の未重合モノマー)とBzMAのランダム共重合が生じ、分子量分布の狭いPMMA−ブロック−(PMMA−ランダム−PBzMA)が生成した(表17(entry 1))。なお、PBzMAはポリメタクリル酸ベンジルを表す。
【0361】
【表17】
【0362】
モノマー:メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ベンジル(BzMA)
モノマー濃度:第一モノマーの重合において、6M(溶液重合(75vol%モノマー))
溶媒:第一モノマーの重合において、トルエン(25vol%)
ラジカル開始剤(In):アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて得たポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算分子量と分子量分布指数。
【0363】
(実施例18)
[炭化水素(前駆型触媒)を用いたメタクリル酸ベンジル(BzMA)のシリコン基板表面からの表面グラフト重合]
6−(2−bromo−2−isobutyloxy)hexyltriethoxysilane(BHE:スキーム4)(6.2g:15 mmol)とNaI(11.23g:75mmol)を脱水アセトン(100mL)中、50℃で2日撹拌した。クロロホルムを添加し、析出したNaI(NaBrを含む)を濾過した。ろ液を真空乾燥させ、6−(2−iodo−2−isobutyloxy)hexyltriethoxysilane(IHE:スキーム0)を98%の収率で得た。
【0364】
(スキーム4:1,4−シクロヘキサジエン(CHD)を用いた表面開始グラフト重合)
【0365】
【化22】
【0366】
シリコン基板を、IHE(1wt%)とNH
3(1wt%)のテトラヒドロフラン(THF)溶液に、12時間浸漬し、シリコン基板表面にIHEを固定化した。
【0367】
モノマーとしてメタクリル酸ベンジル(BzMA)(3g(6M))、溶媒としてトルエン(1g)、ヨウ化アルキルとして2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)(0.0585g(60mM))、ラジカル開始剤として過酸化ベンゾイル(BPO)(0.048g(40mM))、および触媒として1,4−シクロヘキサジエン(CHD)(0.0012g(3mM))、重合の制御能を高めるための添加剤としてI
2(0.0013g(1mM))を含む溶液に、IHEを固定化したシリコン基板を浸漬し、80℃で3時間加熱した(表18(entry 1))。溶液中で生成したフリーの(基板に固定化されていない)ポリマーのM
nは12500、PDIは1.32となり、分子量分布の狭いポリマーが得られた。
【0368】
基板表面から成長したグラフトポリマーの膜厚は14nmであった。フリーポリマーとグラフトポリマーの分子量と分子量分布は、ほぼ等しいことが既往の事例で分かっており、これより、グラフトポリマーの表面密度は0.52chains/nm
2と算出された。この表面密度は、濃厚領域に達する非常に高いものである。以上により、分子量分布の制御された濃厚ポリマーブラシ(濃厚領域にあるグラフトポリマー層)の作成に成功した。
【0369】
【表18】
【0370】
モノマー:メタクリル酸ベンジル(BzMA)
モノマー濃度:6M(溶液重合(モノマー75vol%)
溶媒:トルエン
ハロゲン化アルキル(R−I):2−ヨード−2−シアノプロピル(CP−I)およびシリコン基板に固定化された6−(2−iodo−2−isobutyloxy)hexyltriiethoxysilane(IHE)
ラジカル開始剤(In):過酸化ベンゾイル(BPO)
触媒(XA):1,4−シクロヘキサジエン(CHD)
M
nおよびPDI:テトラヒドロフラン(THF)を溶出液とするゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて、多角光散乱(MALLS)検出器により決定した分子量と分子量分布指数。
【0371】
(比較例1)
以下の配合を用いた以外は、実施例1と同様に、重合実験を行った。
モノマー:スチレン、8.0M(1g)
ドーマント種となるハロゲン化アルキル:1−フェニルエチルブロミド、80mM(0.016g)(以下の表中では「PEB」と略す)
触媒:CuBr 5mM(0.00071g)
配位子:4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン 10mM(0.0035g) (以下の表中では「dHbipy」と略す)
配位子はCuBr(触媒)をモノマーに溶かすために必ず必要であり、dHbipyの場合、CuBrに対して2当量必要である。この実験の触媒濃度(CuBr錯体濃度)は5mMである。なお、この実験においては、過酸化物を用いなかった。銅錯体触媒の場合には過酸化物を用いないことが当業者の技術常識であったからである。その理由は、(1)銅錯体触媒の場合には、過酸化物を用いなくてもラジカル反応が開始されること、および、(2)銅錯体触媒に過酸化物を加えると、成長種の失活反応が起こってしまって却って分子量分布が広くなってしまうことである。具体的には、例えば、上記非特許文献1においても、過酸化物を含まない反応原料が用いられることが記載されている。
【0372】
これらの原料をモノマーに溶解して反応溶液とした。この反応溶液を、80℃に加熱した。結果は以下のとおりであった。
【0373】
【表19】
【0374】
PEB:1−フェニルエチルブロミド
dHbipy:CuBrをモノマー(スチレン)に溶かすための配位子。
この結果、実施例1におけるMMAの重合率と比較して、重合率がかなり低かった。また、反応後のMnは1200〜1400であって著しく低く、高分子量のポリスチレンが得られなかった。またMw/Mnの値(PDI)も、実施例1における本発明の触媒における値よりもかなり大きくなっている。従って、遷移金属触媒の活性が、本発明の触媒の活性に比べて著しく劣ることが理解される。
【0375】
この比較例1の結果と、実施例1の結果との対比からも理解されるとおり、本発明の触媒は、先行技術における遷移金属錯体触媒に比べて、著しく活性が高い。
【0376】
上記の実施例は、先行技術に開示された先行技術の触媒の性能と比べても本発明が優れることを示している。
【0377】
例えば、上述した非特許文献1に記載された実験例では、以下の反応溶液を反応させる:
スチレン 8.7 M (1 g)
1−フェニルエチルブロミド 87 mM (0.016 g)
CuBr 87 mM (0.013 g)
4,4’−ジ−(5−ノニル)−2,2’−ビピリジン 174 mM (0.076 g)
この反応溶液を110℃で7時間加熱して、ポリマーを得ている。モノマー1gに対して、錯体化合物を0.089g、すなわち、モノマーに対して8.9重量%という多量の触媒を用いている。
【0378】
本発明においては、この例と比較して、触媒使用量を格段に減らすことができ、反応温度を10〜40℃下げることができ、かつ、配位子を用いる必要もない。
【0379】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、当業者の技術常識に基づいて特許請求の範囲と等価な範囲を理解することができる。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。