(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881378
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】ワイヤーソーのローラ
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20160225BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20160225BHJP
H01L 21/304 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
B24B27/06 Q
B28D5/04 C
!H01L21/304 611W
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-245209(P2011-245209)
(22)【出願日】2011年11月9日
(65)【公開番号】特開2013-99824(P2013-99824A)
(43)【公開日】2013年5月23日
【審査請求日】2014年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】394010506
【氏名又は名称】金井 宏彰
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(72)【発明者】
【氏名】岸本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】依藤 秀幸
【審査官】
小川 真
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−240264(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3044020(JP,U)
【文献】
特開2000−288905(JP,A)
【文献】
特開2002−239889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 27/06
B28D 5/04
H01L 21/304
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に延在する多数の溝を備えたワイヤーソーのローラであって、
それぞれの溝が、主部とこの主部の半径方向外側に位置する案内部とを備えており、
上記主部が、実質的に「U」字状である断面形状を有しており、
上記案内部が、半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有しており、
上記主部が、底部とこの底部の半径方向外側に位置する側壁部とを有しており、
上記底部が円弧状の断面形状を有しており、上記側壁部が半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有しており、
上記案内部の開き角度が上記側壁部の開き角度よりも大きいローラ。
【請求項2】
上記案内部の深さの、上記主部の幅に対する比が1/3以上である請求項1に記載のローラ。
【請求項3】
上記案内部の開き角度が40°以上100°以下である請求項1又は2に記載のローラ。
【請求項4】
一対のローラと、これらローラ間に張り渡されたワイヤーとを備えており、
それぞれのローラが、周方向に延在する多数の溝を備えており、
それぞれの溝が、主部とこの主部の半径方向外側に位置する案内部とを備えており、
上記主部が、実質的に「U」字状である断面形状を有しており、
上記案内部が、半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有しており、
上記主部が、底部とこの底部の半径方向外側に位置する側壁部とを有しており、
上記底部が円弧状の断面形状を有しており、上記側壁部が半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有しており、
上記案内部の開き角度が上記側壁部の開き角度よりも大きいワイヤーソー。
【請求項5】
上記側壁部の開き角度が5°以上30°以下である請求項3に記載のローラ。
【請求項6】
上記案内部の開き角度が40°以上100°以下であり、上記側壁部の開き角度が5°以上30°以下である請求項4に記載のワイヤーソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーソーのローラに関する。詳細には、本発明は、ローラの溝の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハーは、シリコンインゴットから得られる。ウエハーの製作には、ワイヤーソーが用いられている。ワイヤーソーは、一対のメインローラと、ワイヤーとを備えている。それぞれのメインローラは、多数の溝を備えている。この溝は、周方向に延びている。この溝にワイヤーが通される。このワイヤーによってインゴットが切断され、ウエハーが得られる。ウエハーの厚みは、小さい。ウエハーの厚みは、ワイヤーのピッチに依存する。ワイヤーのピッチは、溝のピッチと一致する。
【0003】
切断後のウエハーの表面は、粗い。ウエハーが、うねりを有していることもある。表面の粗さの解消とうねりの除去とを目的として、ウエハーの表面が研削される。
【0004】
図5には、従来のローラ2が示されている。
図5における左右方向は、このローラの軸方向である。このローラは、溝4を有している。溝4の断面形状は、「V」字状である。
図5には、二点鎖線にて、ワイヤー6も示されている。ワイヤー6は、溝4を通されている。「V」字状の溝を有するローラが、特開2001−79748公報の
図7に開示されている。
【0005】
インゴットの切断のとき、ローラ2の軸方向への力が、ワイヤー6にかかることがある。この力がかかると、溝4の側壁8が傾斜しているので、
図6に示されるように、ワイヤー6がこの側壁8に沿って移動する。この移動により、ワイヤーのピッチPwと溝のピッチPgとの不一致が生じる。
図6に示された状態のワイヤー6でインゴットの切断がなされると、得られたウエハーは、本来の厚みを有さない。このウエハーには、大幅な表面研磨が必要である。
【0006】
ワイヤー6が大幅に移動して本来の溝4から抜け出し、隣の溝4に入り込むことがある。この移動の後は、1つの溝4に二重にワイヤー6が存在する。この状態での切断で得られたウエハーは、廃棄されざるを得ない。1つの溝4に二重にワイヤー6が存在することとなった場合、切断作業は中断される。その表面に砥粒を有するワイヤー6での切断時に、特にワイヤー6の移動が生じやすい。
【0007】
特開2008−126341公報には、断面が「U」字状である溝を備えたローラが開示されている。この溝の側壁は、傾斜していない。この溝は、ワイヤーの移動を阻止する。このローラを備えたワイヤーソーの加工精度は、高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−79748公報
【特許文献2】特開2008−126341公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ワイヤーソーによる切断作業の準備段階では、複数のローラの間にワイヤーが張り渡される。ワイヤーは、何重にも張り渡される。この張り渡しには、時間を要する。特に、断面が「U」字状である溝は、この溝の間口が小さいので、張り渡しに長時間を要する。
【0010】
本発明の目的は、加工精度に優れ、かつワイヤーの張り渡し作業が容易であるワイヤーソーのローラの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るワイヤーソーのローラは、周方向に延在する多数の溝を備える。それぞれの溝は、主部とこの主部の半径方向外側に位置する案内部とを備える。主部は、実質的に「U」字状である断面形状を有する。案内部は、半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有する。
【0012】
好ましくは、案内部の深さの、主部の幅に対する比は、1/3以上である。好ましくは、案内部の開き角度は、40°以上100°以下である。
【0013】
他の観点によれば、本発明に係るワイヤーソーは、一対のローラと、これらローラ間に張り渡されたワイヤーとを備える。それぞれのローラは、周方向に延在する多数の溝を備える。それぞれの溝は、主部とこの主部の半径方向外側に位置する案内部とを備える。主部は、実質的に「U」字状である断面形状を有する。案内部は、半径方向外側に向かって徐々に幅が広がる断面形状を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るワイヤーソーのローラでは、主部によってワイヤーの移動が抑制される。このローラが用いられたワイヤーソーの加工精度は、高い。このローラでは、ワイヤーが張り渡されるとき、案内部がこのワイヤーを案内する。この張り渡し作業は、容易になされうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤーソーがインゴットと共に示された斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のワイヤーソーのメインローラの一部が示された拡大正面図である。
【
図3】
図3は、
図2のメインローラの一部が示された拡大図である。
【
図4】
図4は、本発明の他の実施形態に係るワイヤーソーのメインローラの一部が示された断面図である。
【
図5】
図5は、従来のワイヤーソーのメインローラの一部が示された断面図である。
【
図6】
図6は、
図5のメインローラの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
図1に示されたワイヤーソー10は、一対のメインローラ12、1つのサブローラ14及び1本のワイヤー16を備えている。1本のワイヤー16が、3つのローラ12、14に張り渡されている。ワイヤー16は、ローラ12、14の軸方向に所定ピッチで少しずつずらされて、何重にも張り渡されている。ローラ12、14の回転により、ワイヤー16は進行する。このワイヤー16向けて、
図1において矢印Aで示されるように、インゴット18が移動する。インゴット18は、ワイヤー16によって切削され、切断される。切断により、多数のウエハーが得られる。
【0018】
図2には、
図1のワイヤーソー10のメインローラ12が示されている。メインローラ12の材質は、ポリウレタン、超高分子量ポリエチレン等の合成樹脂である。メインローラ12が、セラミックからなってもよい。このメインローラ12は、その外周面に多数の溝20を備えている。それぞれの溝20は、周方向に延在している。この溝20にワイヤー16が収められる。
【0019】
図3は、
図2のメインローラ12の一部が示された拡大図である。
図3には、2つの溝20が示されている。メインローラ12の周面のうち、溝20以外の部分は、ランド22である。
図3には、二点鎖線にて、ワイヤー16も示されている。
【0020】
それぞれの溝20は、主部24と案内部26とを備えている。案内部26は、主部24の半径方向外側に位置している。案内部26は、その内側端28において主部24と連続している。案内部26は、その外側端30において、ランド22と連続している。
【0021】
主部24は、実質的に「U」字状である断面形状を有している。主部24は、底部32と側壁部34とからなる。側壁部34は、底部32の半径方向外側に位置している。側壁部34は、底部32と連続している。底部32は、半円状の断面形状を有している。
図3において矢印Rで示されているのは、底部32の曲率半径である。主部24にはワイヤー16が収められるので、曲率半径Rはワイヤー16の半径と同等か、これよりも若干大きい。側壁部34は、半径方向に延在している。
【0022】
ローラの軸方向への力が、ワイヤー16にかかったときでも、主部24の断面形状が「U」字状なので、ワイヤー16の移動が生じにくい。このワイヤーソー10でインゴット18の切断がなされると、寸法精度に優れたウエハーが得られうる。このウエハーには、大幅な表面研磨は不要である。
【0023】
主部24の断面形状が「U」字状なので、ワイヤー16に軸方向への大きな力がかかった場合でも、ワイヤー16が本来の溝20から抜け出して隣の溝20に入り込むことが抑制される。このワイヤーソー10により、切断作業の中断が抑制される。
【0024】
図3において、矢印D1で示されているのは、主部24の深さである。ワイヤー16に軸方向への大きな力がかかった場合でもワイヤー16が溝20から抜け出しにくいとの観点から、深さD1はワイヤー16の直径の60%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、110%以上が特に好ましい。
【0025】
案内部26は、半径方向に対して傾斜している。案内部26の幅は、半径方向外側に向かって徐々に大きくなっている。
図3において、矢印W1で示されているのは案内部26の内側端28の幅であり、矢印W2で示されているのは案内部26の外側端30の幅である。幅W1は、側壁部34の幅でもある。この実施形態では、幅W1は底面32の曲率半径Rの2倍である。
【0026】
外側端30の幅W2は、内側端28の幅W1よりも大きい。メインローラ12にワイヤが張り渡されるとき、ワイヤー16は、この案内部26に案内されつつ、主部24に収まる。幅W2が大きいので、誤ってワイヤー16がランド22に掛けられたり、本来の溝20とは異なる溝20に掛けられたりすることが抑制される。このメインローラ12では、短時間で、かつ正確に、ワイヤー16を掛ける作業がなされうる。
【0027】
図3において矢印Pで示されているのは、溝20のピッチである。前述の通り、このメインローラ12はランド22を有するので、ピッチPは幅W2よりも大きい。ランド22の強度の観点から、ピッチPと幅W2との差(P−W2)は0.05mm以上が好ましく、0.08mm以上が特に好ましい。
【0028】
メインローラ12にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、幅W1に対する幅W2の比率は110%以上が好ましく、120%以上が特に好ましい。ランド22の強度の観点から、この比率は200%以下が好ましい。
【0029】
図3において矢印θで示されているのは、案内部26の開き角度である。メインローラ12にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、開き角度θは40°(degree)以上が好ましく、55°以上がより好ましく、60°以上が特に好ましい。ランド22の強度の観点から、開き角度θは100°以下が好ましく、90°以下が特に好ましい。
【0030】
図3において矢印D2で示されているのは、案内部26の深さである。メインローラ12にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、深さD2は幅W1の1/3以上が好ましく、1/2以上が特に好ましい。ランド22の強度の観点から、深さD2は幅W1の3/1以下が好ましい。
【0031】
主部24及び案内部26を有する溝20が、サブローラ14に設けられてもよい。
【0032】
図4は、本発明の他の実施形態に係るワイヤーソーのメインローラ38の一部が示された断面図である。このメインローラ38は、
図1に示されたワイヤーソー10に用いられうる。このメインローラ38は、その外周面に多数の溝40を備えている。
図4には、2つの溝40が示されている。それぞれの溝40は、周方向に延在している。この溝40にワイヤー16が収められる。
【0033】
それぞれの溝40は、主部42と案内部44とを備えている。案内部44は、主部42の半径方向外側に位置している。案内部44は、その内側端46において主部42と連続している。案内部44は、その外側端48において、ランド50と連続している。
【0034】
主部42は、実質的に「U」字状である断面形状を有している。主部42は、底部52と側壁部54とからなる。側壁部54は、底部52の半径方向外側に位置している。側壁部54は、底部52と連続している。底部52は、円弧状の断面形状を有している。底部52の曲率半径Rは、ワイヤー16の半径と同等か、若干大きい。
【0035】
側壁部54は、半径方向に対して傾斜している。側壁部54の幅は、半径方向外側に向かって徐々に大きくなっている。この側壁部54により、ワイヤー16が円滑に底部52にまで至る。この側壁部54を備えた溝40の加工は、容易である。
図4において矢印θ1で示されているのは、側壁部54の開き角度である。ワイヤー16が円滑に底部52にまで至るとの観点から、開き角度θ1は5°以上が好ましく、15°以上が特に好ましい。軸方向の力がワイヤー16にかかったときでも、ワイヤー16が移動しにくいとの観点から、開き角度θ1は30°以下が好ましく、25°以下が特に好ましい。
【0036】
図4において、矢印D1で示されてるのは、主部42の深さである。ワイヤー16に軸方向の大きな力がかかった場合でもワイヤー16が溝40から抜け出しにくいとの観点から、深さD1はワイヤー16の直径の60%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、110%以上が特に好ましい。
【0037】
案内部44の断面形状は、
図3に示されたメインローラ12の案内部26の断面形状と同等である。案内部44の外側端48の幅W2は、内側端46の幅W1よりも大きい。メインローラ38にワイヤが張り渡されるとき、ワイヤー16は、この案内部44に案内されつつ、主部42に収まる。幅W2が大きいので、誤ってワイヤー16がランド50に掛けられたり、本来の溝40とは異なる溝40に掛けられたりすることが抑制される。このメインローラ38では、短時間で、かつ正確に、ワイヤー16を掛ける作業がなされうる。
【0038】
このメインローラ38においても、溝40のピッチPと幅W2との差(P−W2)は0.05mm以上が好ましく、0.08mm以上が特に好ましい。
【0039】
メインローラ38にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、幅W1に対する幅W2の比率は110%以上が好ましく、120%以上が特に好ましい。ランド50の強度の観点から、この比率は200%以下が好ましい。
【0040】
図4において矢印θ2で示されているのは、案内部44の開き角度である。メインローラ38にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、開き角度θ2は40°以上が好ましく、55°以上がより好ましく、60°以上が特に好ましい。ランド50の強度の観点から、開き角度θは100°以下が好ましく、90°以下が特に好ましい。
【0041】
図4において矢印D2で示されているのは、案内部44の深さである。メインローラ38にワイヤー16が掛けられるときの作業性の観点から、深さD2は幅W1の1/3以上が好ましく、1/2以上が特に好ましい。ランド50の強度の観点から、深さD2は幅W1の3/1以下が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るワイヤーソーは、シリコンインゴットのみならず、人工水晶、超硬合金、セラミック等の切断に適している。
【符号の説明】
【0043】
10・・・ワイヤーソー
12、38・・・メインローラ
16・・・ワイヤー
20、40・・・溝
24、42・・・主部
26、44・・・案内部
32、52・・・底部
34、54・・・側壁部