(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明に係る窒化物半導体発光素子およびその製造方法を記す前に、本発明を完成させるに至った実験およびその結果を記す。
【0021】
<SLS層の効果を調べる実験>
本発明者らは、まずSLS層の効果を明らかにするため、以下の実験を行なった。
【0022】
通電による発光を行なわずにVピットの大きさなどがSLS層における繰り返し周期の数に依存するか否かを評価することを目的として、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法によって4種類の評価用サンプルを作製した。
図1は、作製した評価用サンプルの模式断面図である。なお、4種類の評価用サンプルでは、SLS層における繰り返し周期の数(ここで、SLS層における繰り返し周期の数は、SLS層を構成するIn
0.1Ga
0.9N層の層数で規定する)が0、5、10および20であった。
【0023】
詳細には、圧力を100kPaとし、温度を460℃とし、III族元素材料に対するV族元素材料のモル比(以下では「V/III比」と記す)を40677として、c面サファイア基板50の上にGaNバッファ層51を25nm成長した。その後、温度を1150℃とし、V/III比を2536として、アンドープGaN層52を2.4μm成長した。キャリアガスはH
2であった。
【0024】
成長温度を820℃に下げ、V/III比を6517として、In
xGa
1-xN層(x=0.09、厚さが2.5nm)とGaN層(厚さ2.5nm)とをN周期(N=0、5、10、20)積層した。このとき、キャリアガスとしてN
2を用いた。これにより、SLS層54が形成された。
【0025】
成長温度を780℃にして、V/III比を6517として、In
xGa
1-xN(x=0.15、厚さが3nm)からなる井戸層とGaN(厚さが12.5nm)からなるバリア層とを4周期((In
0.15Ga
0.85N井戸層の層数が4))交互に成長した。このとき、キャリアガスとしてN
2を用いた。これにより、MQWs層56が形成された。このようにして、
図1に示す評価用サンプルを得た。つまり、評価用サンプルに対しては通電による発光を行なわないため、n型窒化物半導体層、p型窒化物半導体層、n側電極およびp側電極を形成することなく評価用サンプルを作製した。
【0026】
得られた評価用サンプルに対してAFM測定し、その微分画像を得た。
図2には、SLS層における繰り返し周期の数が20である評価用サンプルのAFM画像の微分画像を示す。
図2に示すように、Vピット(縦断面の形状が理想的なV字形状から外れているものも含む)がサファイア基板50のc面とは異なるファセットに囲まれて形成されていることが確認できる。
【0027】
図3には、Vピットの模式斜視図を示す。貫通転位TDが窒化物半導体結晶の下から成長方向(+c軸方向)に延びているが、始点VS(貫通転位TD上の歪層あたり)からVピットが形成される。Vピットは理想的には6つの斜面(ファセット)で囲まれている。ファセットには面指数{1−101}の結晶面が現れるため、Vピットは結晶表面である(0001)面に対して一定の角度に傾斜している。なお、実際のVピットは、
図2に示すように不規則に形成された穴またはピットに過ぎず、
図3に示すような理想的な形状を有していない場合が多い。
【0028】
また、得られたAFM画像から、MQWs層56の上面におけるVピットの数密度を算出し、MQWs層56の上面におけるVピットの直径(ここでは「Vピット径」と記す)を求めた。なお、MQWs層56の上面におけるVピットの外形が円形とは異なる形状を有している場合には、MQWs層56の上面におけるVピットの外形を円形に近似してその直径を測定した。そして、SLS層54における繰り返し周期の数とVピットの数密度およびVピット径との関係を調べた。その結果を
図4および表1に示す。
【0030】
図4および表1から、SLS層54における繰り返し周期の数が多くなると、Vピットの数密度はそれほど大きく変わらないものの、Vピット径は大きくなっていることが確認できた。これにより、窒化物半導体発光素子に対するSLS構造の挿入がVピットの形成を開始させるトリガとなっており、またSLS層54の厚みの増加に伴ってVピット径が増大していることが明確となった。このことがLEDのIQE(Internal Quantum Efficiency、内部量子効率)およびEQE(External Quantum Efficiency、外部量子効率)の向上効果に少なからず寄与していると考えられる。
【0031】
本発明者らは、Vピットの上記観察結果から、窒化物半導体層内においては、窒化物半導体層と基板との界面近傍から延びる貫通転位または結晶成長中に発生して上方に延びる貫通転位がSLS層内でVピットを発生させ、発生したVピットが低温成長により斜めファセット構造を保持したままSLS層の厚み分大きくなると考えている。Vピットでは、基板の表面に対して平行な面であるc面とは異なる面方位の斜めファセットが保持されているので、SLS層の上のMQWs層には、斜めファセット上に成長する部分が存在する。この部分ではInGaN井戸層の組成が変わる、またはこの部分では井戸層の厚みが薄く量子準位のエネルギーが大きくなるなどの効果により実効的なバンドギャップが広がり、MQWs層内においてはVピットの下部に存在している貫通転位へのキャリアの注入が抑えられ、結果として発光効率が向上すると考えられる。そこで、SLS層を備えた窒化物半導体発光素子を作製して、その特性を調べた。
【0032】
<SLS層の層数とLED特性との関係>
図5(a)〜(b)に示す窒化物半導体発光素子を用いて、LED特性を調べた。
図5(a)には、SLS層を備えていない窒化物半導体発光素子の模式断面図を示し、
図5(b)には、SLS層(繰り返し周期の数が10)を備えた窒化物半導体発光素子の模式断面図を示す。以下では、
図5(a)〜(b)に示す窒化物半導体発光素子の作製方法を記す。
【0033】
表面が平坦なc面サファイア基板50の上に、MOVPE法によって、GaNバッファ層51、アンドープGaN層52、n型GaN層53、SLS層54、MQWs層56、p−AlGaN層57A、およびp−GaN層57Bを成長して、ウエハを得た。
【0034】
具体的には、圧力を100kPaとし、温度を460℃とし、V/III比を40677として、c面サファイア基板50の上にGaNバッファ層51を25nm成長した。その後、温度を1150℃とし、V/III比を2536として、アンドープGaN層52を2.4μm成長した。キャリアガスはH
2であった。引き続き、Siをドープしたn型GaN層を2.5μm成長した。n型ドーピング濃度は4.41×10
18cm
-3であった。
【0035】
成長温度を820℃に下げ、V/III比を6517として、SiドープIn
xGa
1-xN層(x=0.09、厚さが2.5nm)とGaN層(厚さが2.5nm)とをN周期(N=0、10)積層して、SLS層54を成長した。n型ドーピング濃度を6×10
17cm
-3とした。また、キャリアガスはN
2であった。
【0036】
成長温度を780℃にして、V/III比を6517として、In
xGa
1-xN(x=0.15)からなる井戸層(厚さが3nm)と、GaNからなるバリア層(厚さが12.5nm)とを6周期成長し、MQWs層56とした。キャリアガスはN
2であった。
【0037】
成長温度を1100℃にして、V/III比を4405として、Mgをドーピングしたp−Al
xGa
1-xN層(x=0.2、厚さが20nm)57Aと、p−GaN層(厚さが100nm)57Bとを順に成長した。キャリアガスはH
2であった。このようにして、ウエハが得られた。
【0038】
得られたウエハに対して、窒素雰囲気で1000℃、30秒間アニールを行った。その後、ウエハの上面全体にITO(Indium Tin Oxide)膜58を形成した。それから、n−GaN層53が露出するようにエッチングを行ない、エッチングされないメサ部分を形成した。
【0039】
ITO膜58の上に、Au層とCr層とが積層されて構成されたp側電極59Aを形成した。エッチングにより露出されたn−GaN層53の上に、Cr層とAu層とを順に積層してn側電極59Bを形成した。p側電極59Aおよびn側電極59Bの電極径は、それぞれ、約86μmであった。
【0040】
p側電極59Aおよびn側電極59Bのそれぞれにプローバを当て、順方向電流(電流値が20mA)を流して順方向駆動電圧V
F(V)を測定し、逆方向電流(電流値が−10μA)を流して逆方向駆動電圧V
R(V)を測定し、逆方向電圧(電圧値が−5V)を印加してリーク電流I
R(μA)を測定し、順方向電流(電流値が20mA)を流して発光強度V
Lを測定した。また、順方向電流(電流値が20mA)を流して発光スペクトルを測定し、発光ピーク波長λ
p(nm)を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0042】
プローバによる測定が終了してから、ウエハを350×350μmのサイズに分割して、特性評価用のTO−18パッケージにマウントし、p側電極59Aおよびn側電極59BのそれぞれとTO−18パッケージの端子との間をワイヤボンディングした。TO−18パッケージの端子を介してp側電極59Aとn側電極59Bとを通電させてから、積分球により、発光ピーク波長λ
p(nm)、順方向駆動電圧V
F(V)、および外部量子効率η
exeを測定した。これらの結果を表3に示す。
【0044】
表2に示すように、
図5(b)に示す窒化物半導体発光素子は、
図5(a)に示す窒化物半導体発光素子に比べて、逆方向バイアス時のリーク電流I
Rが若干増加しているものの、SLS層の挿入によるピーク波長λ
pの変動はほとんど見られず、順方向駆動電圧V
Fが低くなり、発光強度は1.6倍向上した。
【0045】
表3に示すように、
図5(b)に示す窒化物半導体発光素子は、
図5(a)に示す窒化物半導体発光素子に比べて、ピーク波長λ
pが約10nm低波長側にシフトしたが、EQEη
exeが2.2倍向上した。
【0046】
また、本発明者らは、例えば周期が5nmのSLS層における繰り返し周期の数が5以上であれば、Vピット径が86nm以上になることを確認している。
【0047】
以上説明したようにMQWs層の下にSLS層を挿入すれば、発光強度が向上し、EQEが向上するが、逆方向バイアス時のリーク電流I
Rの増加を招く。本発明者らは、鋭意検討した結果、逆方向バイアス時のリーク電流I
Rの増加を招くことなく発光強度および発光効率の向上を図ることが可能な窒化物半導体発光素子の構造を見出し、本発明を完成させるに至った。以下では、図面を参照しながら、本発明の実施形態を示す。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。
【0048】
<実施形態1>
<窒化物半導体発光素子の構成>
図6(a)は、本発明の実施形態1に係る窒化物半導体発光素子の模式断面図であり、
図6(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子の主要部の拡大断面図である。本実施形態に係る窒化物半導体発光素子では、基板10の上に、バッファ層11と、下地層12と、n型窒化物半導体層13と、トリガ層14と、Vピット拡大層15と、MQWs層16と、p型窒化物半導体層17とがこの順に設けられている。p型窒化物半導体層17の上には、透明電極18を介してp側電極19Aが設けられている。n型窒化物半導体層13の上面の一部分はエッチングにより露出しており、その露出した部分の上にはn側電極19Bが設けられている。
【0049】
<基板>
基板10は、たとえば、サファイアのような絶縁性基板であっても良いし、GaN、SiC、またはZnOなどのような導電性基板であっても良い。成長時の基板10の厚さは例えば300μm〜2000μmであり、窒化物半導体発光素子の基板10の厚さは120μmとしたが、特に限定されず、例えば50μm以上300μm以下であれば良い。基板10の上面は、平坦であっても良いし、凹凸形状を有していても良い。また、レーザリフトオフ法などにより基板を除去した構造でも良い。
【0050】
<バッファ層>
サファイア基板などの異種基板を使用する場合、バッファ層11は、たとえばAl
s0Ga
toN(0≦s0≦1、0≦t0≦1、s0+t0≠0)層であれば良く、好ましくはAlN層あるいはGaN層である。ただし、Nのごく一部(0.5〜2%)を酸素に置き換えても良い。これにより、基板10の成長面の法線方向に伸長するようにバッファ層11が形成されるので、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなるバッファ層11が得られる。
【0051】
バッファ層11の厚さは、特に限定されないが、3nm以上100nm以下であれば良く、好ましくは5nm以上50nm以下である。
【0052】
<下地層>
下地層12は、たとえばAl
s1Ga
t1In
u1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、0≦u1≦1、s1+t1+u1≠0)層であれば良く、好ましくはAl
s1Ga
t1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、s1+t1≠0)層であり、より好ましくはGaN層である。これにより、バッファ層11中に存在する結晶欠陥(たとえば転位など)がバッファ層11と下地層12との界面付近でループされ易くなり、よって、その結晶欠陥がバッファ層11から下地層12へ引き継がれることを防止できる。
【0053】
サファイア基板などの絶縁性基板を使用する場合、下地層12は、n型不純物を含んでいても良い。しかし、下地層12がn型不純物を含んでいなければ、下地層12の良好な結晶性を維持することができる。よって、下地層12はn型不純物を含んでいないことが好ましい。
【0054】
下地層12の厚みを厚くすることにより下地層12中の欠陥は減少するが、下地層12の厚みをある程度以上厚くしても下地層12における欠陥減少効果が飽和する。このことより、下地層12の厚さは、1μm以上8μm以下であることが好ましい。
【0055】
<n型窒化物半導体層>
n型窒化物半導体層13は、たとえばAl
s2Ga
t2In
u2N(0≦s2≦1、0≦t2≦1、0≦u2≦1、s2+t2+u2≒1)層にn型不純物がドーピングされた層であれば良く、好ましくはAl
s2Ga
1-s2N(0≦s2≦1、好ましくは0≦s2≦0.5、より好ましくは0≦s2≦0.1)層にn型不純物がドーピングされた層である。
【0056】
n型ドーパントは、特に限定されないが、Si、P、AsまたはSbなどであれば良く、好ましくはSiである。このことは、後述の各層においても言える。
【0057】
n型窒化物半導体層13におけるn型ドーピング濃度は、特に限定されないが、1×10
19cm
-3以下であれば良い。
【0058】
n型窒化物半導体層13の厚みが厚い方がその抵抗が減少するため、n型窒化物半導体層13の厚みは厚い方が好ましい。しかし、n型窒化物半導体層13の厚みを厚くすると、コストアップになる。この両者の兼ね合いから、n型窒化物半導体層13の厚さは、実用上1μm以上10μm以下であれば良いが、特に限定されない。
【0059】
なお、n型窒化物半導体層13は、2層以上の積層構造を有していても良い。各層は、同一の組成からなっても良いし、異なる組成からなっても良い。また、各層は、同一の膜厚を有していても良いし、異なる膜厚を有していても良い。
【0060】
<トリガ層>
トリガ層14は、Vピット31がMQWs層16内に形成される引き金となる層として機能する。ここで、Vピット31とは、結晶欠陥の一種である。上記<SLS層の効果を調べる実験>で記したように、Vピット31には、縦断面の形状が理想的なV字形状である場合だけでなく、縦断面の形状が理想的なV字形状から外れた形状である場合も含まれる。
【0061】
具体的には、トリガ層14は、n型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とは異なる格子定数を有する窒化物半導体材料からなれば良い。n型窒化物半導体層13とトリガ層14とで格子定数が互いに異なると、格子定数の相違に起因する歪みがトリガ層14に発生し、この歪みがVピット31の発生のトリガとして働くと考えられる。これを実現させるためには、構成元素の種類がn型窒化物半導体層13の上面とトリガ層14とで異なれば良い。つまり、「トリガ層14がn型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とは異なる格子定数を有する窒化物半導体材料からなる」は、構成元素の種類がn型窒化物半導体層13の上面とトリガ層14とで異なることを意味する。たとえばn型窒化物半導体層13がGaNからなる場合、トリガ層14は、In
yGa
1-yN(0.01≦y≦1)またはAl
zGa
1-zN(0.01≦z≦1)などからなれば良い。
【0062】
トリガ層14は、下記<MQWs層>で記す井戸層16Aよりも大きなバンドギャップエネルギーを有していることが好ましい。これにより、井戸層16Aが発した光がトリガ層14で吸収されることを防止できる。ここで、窒化物半導体層におけるIn組成比が低くなるとその層のバンドギャップエネルギーが大きくなることを考慮すれば、トリガ層14がIn
yGa
1-yNからなる場合には、In組成比yは井戸層16AにおけるIn組成比(下記x)よりも小さいことが好ましい。
【0063】
トリガ層14の厚みは特に限定されないが、トリガ層14自体が結晶欠陥を発生させないように歪が緩和されないコヒーレント成長が起こる程度の厚みであることが好ましく、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。しかしながら、トリガ層14によって結晶が緩和している場合も含んで良い。
【0064】
<Vピット拡大層>
Vピット拡大層15は、Vピット径を拡大させるために、好ましくはVピット径を86nm以上にするために、より好ましくはVピット径を100nm以上にするために、設けられる。ここで、Vピット径とは、上記<SLS層の効果を調べる実験>で記したように、MQWs層16の上面におけるVピット31の直径であり、MQWs層16の上面におけるVピット31の外形が真円とは異なる形状を有している場合にはMQWs層16の上面におけるVピット31の外形を円形に近似したときのその直径である。
【0065】
上記<SLS層の効果を調べる実験>で記したように、Vピット拡大層15の厚みが厚くなればなるほどVピット径が大きくなると考えられる。そのため、Vピット拡大層15は、Vピット径が86nm以上となるような厚みを有していれば良い。具体的には、Vピット拡大層15の厚みは、5nm以上5000nm以下であれば良く、25nm以上2500nm以下であることが好ましい。Vピット拡大層15の厚みが5nm未満であれば、Vピット径を86nm程度にまで大きくすることが難しい場合がある。一方、Vピット拡大層15の厚みが5000nmを超えると、Vピット径が大きくなり過ぎるため、MQWs層16のうち実際に発光に寄与する部分の体積の減少を招き、発光効率が却って低下するおそれがある。
【0066】
上記<SLS層の効果を調べる実験>で記したように、Vピット31は、結晶成長により、斜めファセット構造を保持したままVピット拡大層15の厚み分だけ大きくなる。そのため、Vピット径が大きくなればVピット31の深さが深くなると考えられる。Vピット径が86nm以上であれば、Vピット31の始点がMQWs層16よりも下側に位置し、Vピットの側壁にも実効的にバンドギャップの大きい井戸層を有するMQWs層16Cが形成され、貫通転位TDへのキャリアの注入が抑制され、発光効率の向上を図ることができる。
【0067】
また、SLS層のみよりもトリガ層14とVピット拡大層15とを組み合わせた構造を用いることで、歪を軽減でき、新たな貫通転位TDの発生を抑制することができる。よって、逆方向バイアス時のリーク電流の増加を防止できる。さらに、SLS層のみの構造と同等の大きさのVピット31を形成することができ、同等の非発光再結合の抑止効果を有している。
【0068】
Vピット拡大層15は、n型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とは実質的に同一の格子定数を有する窒化物半導体材料からなることが好ましい。ここで、「Vピット拡大層15がn型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とは実質的に同一の格子定数を有する窒化物半導体材料からなる」には、n型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とVピット拡大層15を構成する材料とで格子定数が同一である場合だけでなく、n型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とVピット拡大層15を構成する材料とでは格子定数が異なるが、その格子定数の差に起因する欠陥がVピット拡大層15に形成されない場合も含まれる。別の言い方をすると、「Vピット拡大層15がn型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とは実質的に同一の格子定数を有する窒化物半導体材料からなる」には、n型窒化物半導体層13の上面とVピット拡大層15とでドーピングの有無のみが異なる場合、およびn型窒化物半導体層13の上面を構成する材料とVピット拡大層15を構成する材料とで構成元素の種類は同じであるが構成元素の組成比が異なる場合などが含まれる。たとえばn型窒化物半導体層13がn型GaN層である場合、Vピット拡大層15はノンドープGaN層であっても良いが、n型GaN層であることが好ましい。これにより、Vピット拡大層15を設けたことに起因する結晶欠陥の新たな発生を防止でき、またトリガ層14を設けたことに起因して新たに形成された欠陥を消滅させることができると考えている。
【0069】
<MQWs層(発光層)>
MQWs層16には、部分的にVピット31が形成されている。つまり、Vピット31の側壁上にもMQWs層16Cが形成されており、部分的にVピット31が形成されているとは、MQWs層16の上面においてVピット31がAFMで点状に観察され、Vピット31で覆われつくされていないことを意味する。なお、Vピット31の数密度は1×10
8cm
-2以上1×10
10cm
-2以下であることが好ましい。従来においてもMQWs層にはVピット31が形成されるが、この場合には、MQWs層の上面におけるVピット31の数密度は1×10
8cm
-2未満程度である。
【0070】
上記<SLS層の効果を調べる実験>で記したように、Vピット31の多くは貫通転位TDにより発生する。MQWs層16がVピット31の側壁に形成されていれば、貫通転位TDがVピット31の底部に存在することとなり、よって、貫通転位TDへのキャリアの注入が抑制される。これにより、発光効率が向上する。
【0071】
つまり、Vピット31の始点VSは、MQWs層16よりも下に位置する層内に存在していることが好ましい。これにより、MQWs層16内での非発光再結合確率が抑制され、貫通転位TDに起因する発光効率の低下を抑制できる。
【0072】
MQWs層16は、
図6(b)に示すように、井戸層16Aとバリア層16Bとが交互に積層されることにより井戸層16Aがバリア層16Bに挟まれて構成されたものである。なお、MQWs層16は、井戸層16Aおよびバリア層16Bとは異なる1層以上の半導体層と、井戸層16Aと、バリア層16Bとが順に積層されていても良い。また、MQWs層16の一周期(井戸層16Aの厚さとバリア層16Bの厚さとの和)の長さは、Vピットの形成されていない領域で例えば5nm以上100nm以下である。
【0073】
各井戸層16Aの組成は、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子に求められる発光波長に合わせて調整されるが、たとえばAl
cGa
dIn
(1-c-d)N(0≦c<1、0<d≦1)であれば良く、好ましくはAlを含まないIn
xGa
(1-x)N(0.01≦x≦1)層である。ただし例えば375nm以下の紫外発光を行なう場合には、一般にはバンドギャップを広くするため適宜Alを含ませることとなる。各井戸層16Aの組成は同じであることが好ましく、それにより各井戸層16Aで電子とホールとの再結合により発光する波長を同じにすることができ、よって、窒化物半導体発光素子の発光スペクトル幅が狭くなるため好都合である。また、例えば上部側の各井戸層16Aはドーパントを極力含まない(成長時にドーパント原料を導入しない)ことが好ましく、その場合、各井戸層16Aにおける非発光再結合が起こりにくく、発光効率が良好となる。一方、下部側の各井戸層16Aは、n型ドーパントを含んでいても良く、それにより発光素子の駆動電圧が低下する傾向にある。
【0074】
各井戸層16Aの厚さは、限定されないが、それぞれ同じであることがさらに好ましい。各井戸層16Aの厚さが同じであれば、量子準位も同じになり、各井戸層における電子とホールとの再結合により各井戸層において同じ波長で発光し、よって、窒化物半導体発光素子の発光スペクトル幅が狭くなるため好都合である。一方、意図的に井戸層16Aの組成あるいは厚さを異ならせることにより、窒化物半導体発光素子の発光スペクトル幅をブロードにすることもでき、照明用など用途によってはこの方が好ましい場合がある。
【0075】
各井戸層16Aの厚さは、1nm以上7nm以下であることが好ましい。各井戸層16Aの厚さがこの範囲外であれば、発光効率が低下する傾向にある。
【0076】
各バリア層16Bの組成は、それぞれ、各井戸層16Aよりバンドギャップエネルギーが大きい方が好ましく、具体的にはAl
fGa
gIn
(1-f-g)N(0≦f<1、0<g≦1)であれば良く、より好ましくはAlを含まないIn
hGa
(1-h)N(0<h≦1)、または井戸層16Aと格子定数をほぼ一致させたAl
fGa
gIn
(1-f-g)N(0≦f<1、0<g≦1)である。
【0077】
各バリア層16Bの厚さは、1nm以上20nm以下が好ましく、3nm以上15nm以下がより好ましい。各バリア層16Bの厚さが薄いほど駆動電圧が低下するが、極端に薄くすると発光効率が低下する傾向にある。
【0078】
各バリア層16Bにおけるn型ドーピング濃度は、特に限定されない。また、複数のバリア層16Bのうち、下側に位置するバリア層16Bにはn型ドーピングを行ない、上側に位置するバリア層16Bにはそれよりも低い濃度のn型ドーピングを行なうかアンドープとすることが好ましい。各バリア層16Bには、意図的なn型ドーピングを行なうこともあり、またはp型窒化物半導体層17の成長時の熱拡散によりp型ドーパントが含まれることがある。
【0079】
井戸層16Aの数としては、特に限定されないが、例えば2以上20以下、好ましくは3以上15以下、さらに好ましくは4以上12以下とすることができる。
【0080】
<p型窒化物半導体層>
p型窒化物半導体層17は、たとえばAl
s4Ga
t4In
u4N(0≦s4≦1、0≦t4≦1、0≦u4≦1、s4+t4+u4≠0)層にp型ドーパントがドーピングされた層であれば良く、好ましくはAl
s4Ga
1-s4N(0<s4≦0.4、好ましくは0.1≦s4≦0.3)層にp型ドーパントをドーピングした層である。p型ドーパントは、特に限定されないが、たとえばマグネシウムである。
【0081】
p型窒化物半導体層17におけるキャリア濃度は、1×10
17cm
-3以上であることが好ましい。ここで、p型ドーパントの活性率は0.01程度であることから、p型窒化物半導体層17におけるp型ドーピング濃度(キャリア濃度とは異なる)は1×10
19cm
-3以上であることが好ましい。ただしMQWs層16に近いp型窒化物半導体層17におけるp型ドーピング濃度はこれより低くてもよい。
【0082】
p型窒化物半導体層17の厚さは、特に限定されないが、50nm以上300nm以下であれば良い。p型窒化物半導体層17の厚さを薄くすることにより、その成長時における加熱時間を短くすることができ、p型ドーパントのMQW発光層への拡散を抑制することができる。
【0083】
p型窒化物半導体層17は、2層以上の層が積層されて構成されていても良く、たとえばp型AlGaN層とp型GaN層と高濃度p型GaN層とが積層されて構成されていても良い。
【0084】
<透明電極、n側電極、p側電極>
p側電極19Aおよびn側電極19Bは、窒化物半導体発光素子に駆動電力を供給するための電極である。p側電極19Aおよびn側電極19Bは
図6(a)ではパッド電極部分のみで構成されているが、電流拡散を目的とする細長い突出部(枝電極)が接続されていてもよい。また、p側電極19Aの下部において電流の注入を止めるための絶縁層を設けても良い。この絶縁層を設けると、p側電極19Aの直下での発光を抑えることができるので、p側電極19Aに遮蔽される発光の量が減少する。p側電極19Aは、たとえばニッケル層、アルミニウム層、チタン層および金層がこの順序で積層されて構成されていれば良く、1μm程度の厚さを有していれば良い。n側電極19Bは、たとえば、チタン層、アルミニウム層および金層がこの順序で積層されて構成されていれば良く、ワイヤボンドを行なう場合の強度を想定すると1μm程度の厚さを有していれば良い。p側電極19Aとn側電極19Bとは同一の組成であってもよい。透明電極18は、たとえばITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電膜からなれば良く、20nm以上200nm以下の厚さを有していれば良い。
【0085】
<窒化物半導体発光素子の製造方法>
基板10の上に、バッファ層11と下地層12とn型窒化物半導体層13とを順に結晶成長させる。各層の結晶成長の条件は特に限定されない。各層の材料および厚みなどに応じて各層の結晶成長の条件を適宜決定すれば良い。
【0086】
n型窒化物半導体層13の上に、トリガ層14を結晶成長させる。トリガ層14の結晶成長の条件は特に限定されないが、トリガ層14の成長温度をn型窒化物半導体層13の成長温度以下とすれば良い。特に、トリガ層14がInを含む場合には、トリガ層14の成長温度をn型窒化物半導体層13の成長温度よりも低い温度とすることが好ましく、より好ましくはトリガ層14の成長温度をn型窒化物半導体層13の成長温度よりも200℃以上400℃以下低くすることである。これにより、トリガ層14の格子定数はn型窒化物半導体層13の格子定数よりも大きくなるので、ファセットで囲まれたVピット31の形成の引き金になる。よって、Vピット31の側壁(Vピット31のファセット)の上にMQWs層16が形成されるため、トリガ層14とVピット拡大層15とを有効に機能させることができる。
【0087】
トリガ層14の上に、Vピット拡大層15を結晶成長させる。Vピット拡大層15の結晶成長の条件は特に限定されないが、Vピット拡大層15の成長温度をトリガ層14の成長温度以上とすれば良く、好ましくはVピット拡大層15の成長温度をトリガ層14の成長温度と同等以上250℃以下高くすることである。Vピット拡大層15の成長温度を高く設定することにより、結晶性に優れたVピット拡大層15を形成できる。よって、Vピット拡大層15の上に設けられるMQWs層16の結晶性の低下を防止できるので、発光効率の低下を防止できる。さらに、厚みを同程度としてトリガ層14およびVピット拡大層15の組み合わせと従来のSLS層とを比較すると、トリガ層14とVピット拡大層15との組み合わせの方が転位等の新たな発生が少なく、LEDに応用した時にはリーク電流の低減および発光効率の増加が観測される。
【0088】
Vピット拡大層15の上に、MQWs層16およびp型窒化物半導体層17を順に結晶成長させる。各層の結晶成長の条件は特に限定されず、各層の材料および厚みなどに応じて各層の結晶成長の条件を適宜決定すれば良い。
【0089】
p型窒化物半導体層17の上に透明電極18を設けてから、n型窒化物半導体層13の上面の一部分が露出するようにp型窒化物半導体層17とMQWs層16とVピット拡大層15とトリガ層14とをエッチングする。透明電極18の上にp側電極19Aを設け、エッチングにより露出したn型窒化物半導体層13の上にn側電極19Bを設ける。これにより、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子が得られる。
【0090】
<実施形態2>
図7(a)は、本発明の実施形態2に係る窒化物半導体発光素子の模式断面図であり、
図7(b)は、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子の主要部の拡大断面図である。本実施形態に係る窒化物半導体発光素子は3層のトリガ層を備えており、それ以外の点に関しては上記実施形態1に係る窒化物半導体発光素子と略同一の構成を備えている。以下では、上記実施形態1とは異なる点を主に記す。
【0091】
図7(b)に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体発光素子は3層のトリガ層24を備えており、隣り合うトリガ層24の間には介在層25が設けられている。このようにトリガ層24を2層以上設ければ、Vピット31の発生数が上記実施形態1よりも増え、したがって、上記実施形態1よりも発光効率が向上する。
【0092】
トリガ層24は、上記実施形態1における<トリガ層>で記した材料からなれば良い。トリガ層24の厚みは、上記実施形態1における<トリガ層>で記したように20nm以下であれば良く、10nm以下であればさらに好ましい。トリガ層24の層数は、トリガ層の厚み、バンドギャップエネルギー、または格子定数などに依存するため一概に言えないが、1層以上50層以下であることが好ましく、1層以上20層以下であればさらに好ましい。トリガ層24の層数が51層を超えると、トリガ層24の厚みが大きくなりすぎ、発光効率が却って低下するおそれがある。
【0093】
介在層25は、その材料に限定されず、n型GaN層であっても良いし、アンドープGaN層であっても良い。介在層25は、その厚みに限定されず、1nm以上100nm以下がより好ましい。このように介在層25を設けることにより、トリガ層24のそれぞれの厚みを20nm以下に抑えつつ(つまり、トリガ層24自体が結晶欠陥を発生することを防止しつつ)Vピット31の発生数を増加させることができる。
【実施例】
【0094】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
<実施例1>
実施例1では、上記実施形態1に係る窒化物半導体素子を作製して評価した。
【0096】
表面が平坦なc面サファイア基板の上に、MOVPE法により、圧力を100kPaとし、温度を460℃とし、V/III比を40677として、GaNバッファ層を25nm成長した。次に、温度を1150℃とし、V/III比を2536として、アンドープGaN層を2.4μm成長した。キャリアガスはH
2であった。引き続き、Siをドープしたn型GaN層を2.5μm成長した。n型ドーピング濃度は4.41×10
18cm
-3であった。
【0097】
成長温度を820℃に下げ、V/III比を6517として、1層のSiドープIn
xGa
1-xN(x=0.09)からなるトリガ層(厚さ2.5nm)を成長した。トリガ層におけるn型ドーピング濃度は6×10
17cm
-3であり、キャリアガスはN
2であった。
【0098】
成長温度をそのままで、V/III比を28630として、SiドープGaNからなるVピット拡大層(厚さ100nm)を成長した。Vピット拡大層におけるn型ドーピング濃度は6×10
17cm
-3であり、キャリアガスはN
2であった。
【0099】
成長温度を780℃にして、V/III比を6517として、In
xGa
1-xN(x=0.15)からなる井戸層(厚さ3nm)とGaNからなるバリア層(厚さ12.5nm)とを6周期成長した。キャリアガスはN
2であった。これにより、MQWs層が形成された。
【0100】
成長温度を1100℃にして、V/III比を4405として、Mgをドーピングしたp−Al
xGa
1-xN層(x=0.2、厚さ20nm)と、p−GaN層(厚さ100nm)とを成長した。キャリアガスはH
2である。このようにしてウエハを得た。得られたウエハに対して、窒素雰囲気下で、1000℃、30秒間、アニールを行なった。
【0101】
アニールが終了してから、ウエハの上面全体にITO膜を形成した。n型GaN層が露出するように、ITO膜、p−GaN層、p−Al
xGa
1-xN層、MQWs層、Vピット拡大層、およびトリガ層をエッチングした。これにより、メサ部(エッチングされずに残った部分に相当)が形成された。ITO膜の上にCr膜およびAu膜を順に積層してp側パッド電極を形成した。また、エッチングにより露出したn型GaN層の上にCr膜およびAu膜を順に積層してn側電極(パッド電極)を形成した。電極径は約86μmであった。
【0102】
p側電極およびn側電極のそれぞれにウェハープローバー(オプト・システム社製、品番WPSR3100)を用いてプローバを当て、順方向電流(電流値が20mA)を流して順方向駆動電圧V
F(V)を測定し、逆方向電流(電流値が−10μA)を流して逆方向駆動電圧V
R(V)を測定し、逆方向電圧(電圧値が−5V)を印加してリーク電流I
R(μA)を測定し、順方向電流(電流値が20mA)を流して発光強度V
Lを測定した。また、順方向電流(電流値が20mA)発光スペクトルを測定し、発光ピーク波長λ
p(nm)を求めた。
【0103】
プローバによる測定が終了してから、ウエハを350×350μmのサイズに分割して、特性評価用TO−18パッケージにマウントして、p側電極およびn側電極のそれぞれとTO−18パッケージの端子との間をワイヤボンディングした。その後、積分球測定システム(labsphere社製、品番DAS-2100)を用いて外部量子効率を測定した。
【0104】
<実施例2>
実施例2では、トリガ層の構成が異なることを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、窒化物半導体発光素子を作製した。
【0105】
具体的には、1層のSiドープIn
xGa
1-xN(x=0.09)からなるトリガ層(厚さ2.5nm)を成長してから、成長温度を820℃とし、V/III比を2536として、SiドープGaNからなる介在層を2.5nm成長した。介在層におけるn型ドーピング濃度は6×10
17cm
-3であった。その後、上記トリガ層、上記介在層、および上記トリガ層を順に成長した。それから、上記実施例1に記載の方法にしたがって、Vピット拡大層100nm、MQWs層、p−Al
xGa
1-xN層、およびp−GaN層を成長してからITO膜を形成し、所定のエッチングを行なってからn側電極およびp側電極を形成した。そして、上記実施例1に記載の方法にしたがって、得られた窒化物半導体素子を評価した。
【0106】
<比較例1>
比較例1では、トリガ層およびVピット拡大層を設けなかったことを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、窒化物半導体発光素子を作製した。そして、上記実施例1に記載の方法にしたがって、得られた窒化物半導体素子を評価した。
【0107】
<比較例2>
比較例2では、トリガ層およびVピット拡大層の代わりにSLS層を設けることを除いては上記実施例1と同様の方法にしたがって、窒化物半導体発光素子を作製した。
【0108】
具体的には、上記<SLS層の層数とLED特性との関係>で述べたように、Siをドープしたn型GaN層を2.5μm成長してから、成長温度を820℃に下げ、V/III比を6517として、SiドープIn
xGa
1-xN層(x=0.09、厚さが2.5nm)とGaN層(厚さが2.5nm)とを10周期積層して、SLS層を成長した。n型ドーピング濃度を6×10
17cm
-3とした。また、キャリアガスはN
2であった。それから、上記実施例1に記載の方法にしたがって、MQWs層、p−Al
xGa
1-xN層、およびp−GaN層を成長してからITO膜を形成し、所定のエッチングを行なってからn側電極およびp側電極を形成した。そして、上記実施例1に記載の方法にしたがって、得られた窒化物半導体素子を評価した。
【0109】
結果を表4に示す。
【0110】
【表4】
【0111】
なお、表4における「SLS」の欄には、SLS層の有無を記している。また、表4における「TL」はトリガ層を意味し、「EL」はVピット拡大層を意味する。
【0112】
表4に示すように、実施例1〜2では、比較例1に比べて、順方向駆動電圧V
Fが低下し、発光強度が5倍以上も向上した。このことから、トリガ層およびVピット拡大層を設ければ、発光効率に優れた窒化物半導体発光素子を提供できると言える。
【0113】
また、実施例1〜2では、比較例2に比べて、逆方向バイアス時のリーク電流I
Rがほぼ半減した。その理由としては、SLS層ではVピット拡大効果もあるが歪も多いので新たな貫通転位を招くが、トリガ層とVピット拡大層とを組み合わせた構造では歪が少なくなるため貫通転位TDの発生が抑制されたということが考えられる。
【0114】
また、実施例1と実施例2とを比較すると、実施例2の方が実施例1よりも発光強度に優れている。その理由としては、実施例2の方が実施例1よりもトリガ層の層数が多いのでVピットの発生数が増加したからであると考えている。
【0115】
また、実施例1〜2および比較例1〜2では、ピーク波長λ
pはそれほど大きく変化しなかった。よって、発光効率に優れた窒化物半導体発光素子を提供するためにトリガ層およびVピット拡大層を設けることは実用的であると言える。
【0116】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。