(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
携帯機器に用いられるカバーガラスであって、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、前記凹部の表面はエッチングで処理されたエッチング面であり、
前記カバーガラスにおける凹部の深さを除いた残りの板厚と、主表面平坦部の圧縮応力値及び圧縮応力層深さとから算出される、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値が、150MPa以下であることを特徴とする携帯機器用カバーガラス。
前記携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部が、対向する主表面の両方の表面にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラス。
前記カバーガラスの凹部が形成された領域を囲むようにして配置した外径40mm、内径30mmのリング状のステンレス製受け治具の上に該カバーガラスを載せ、上方から凹部形成箇所を、1mm厚のゴム硬度50(JIS K6253)の弾性材料を先端に貼り付けた10mmφの円柱状の鋼鉄製フラットヘッドで200Nの荷重で2秒間押圧したときに、カバーガラスの30サンプル中破損が2サンプル以内であるように化学強化されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラス。
前記凹部の少なくとも一部分が、前記カバーガラスに照射される光量が少ない環境でも利用者が認識可能となる蓄光可能な材料を含む蓄光部を備えることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、従来の印刷法に代わって、カバーガラスに文字や図形等のパターンを直接彫り込むことで形成する方法が要望されている。カバーガラスに文字や図形等のパターンを直接彫り込むことにより、携帯機器の表示画面を表側から見たときに、これら文字、図形等のパターンに奥行きのある立体感を持たせることができ、意匠性の高い装飾を施すことが可能になる。また、携帯型ゲーム機などでは、ユーザーが操作ボタンを指先の触覚だけで認識できることも要求されるようになってきている。
【0005】
上記特許文献1には、全体または一部が実質的に透明な第1の板状体と、この第1の板状体の一方の面に形成された溝と、該溝内に着色剤を入れて着色した着色部とで構成された第1の装飾部と、上記第1の板状体の一方の面側に接合され、全体または一部が実質的に透明な第2の板状体と、この第2の板状体の上記第1の板状体と反対側の面に装飾を施した第2の装飾部とを備え、上記第1の装飾部と第2の装飾部とは、上記第1の板状体の他方の面側から見ると、たとえば少なくとも一部が重なり合って視認される装飾品について開示されている。また、この装飾品をカバーガラスとして用いた時計や、この装飾品を携帯電話、ポケットベル、電卓などの電子機器の液晶表示部のカバー部材として用いることについても記載されている。
【0006】
ところで、近年、タッチパネル方式の携帯機器が主流を占めるようになってきている。タッチパネル方式では、主に、表示画面の所定部位(例えば画面に表示されているアイコンなど)を押圧することによって携帯機器の操作を行うが、頻繁に、繰り返し押圧されるため、このタッチパネル機能対応のための表示画面の強度向上が求められており、そのためには薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つカバーガラスが求められている。
【0007】
カバーガラスは、その強度を向上させるため化学強化処理を行っているが、カバーガラスの強度を阻害する要因の一つは傷である。カバーガラスの表面や端面に傷があるとそれが成長し、比較的弱い衝撃でもカバーガラスが破壊する要因となる。たとえば、カバーガラスを化学強化処理した後、機械加工で文字や図形等のパターンを直接彫り込む方法を実施した場合、微小な傷やクラックが発生し易く、カバーガラスの強度が著しく低下する。場合によっては、機械加工時にカバーガラスの割れが発生する恐れもある。とりわけ、カバーガラスの端に文字、図形等を彫り込む場合や、カバーガラスの板厚が例えば1.5mm以下と薄い場合には、上述の問題が顕著に発生し易くなる。
【0008】
なお、上記特許文献1には、全体または一部が実質的に透明な第1の板状体の一方の面に溝を形成し、この溝内に着色剤を入れて着色してなる第1の装飾部の構成が記載されているが、特許文献1の装飾品は、上記第1の板状体と第2の板状体との接合構成を前提としており、第1の板状体に施された上記第1の装飾部と上記第2の板状体に施された第2の装飾部との重ね合わせによって装飾性を担持させている。従って、このような装飾品の構成を例えば携帯電話のカバー部材に適用したとしても、特に近年の主流であるタッチパネル式の携帯機器に用いられるカバーガラスに要求されている薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を有するという課題を解決することは到底できない。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決すべくなされたものであって、その目的は、第1に、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、しかも充分な強度を持つカバーガラスを提供すること、第2に、薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つカバーガラスを提供すること、第3に、タッチパネル式の携帯機器に好適にカバーガラスを提供すること、第4に、化学強化処理を施すガラス素材(ガラス基板)を用いる場合に好適なカバーガラスを提供することである。また、第5に、夜間の屋外などカバーガラスに照射(入射)される光量が少ない環境でも利用者がカバーガラス(の凹部など)を認識可能である携帯機器用カバーガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成を有する発明によれば上記課題を解決できることを見い出した。
すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
携帯機器に用いられるカバーガラスであって、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、前記凹部の表面はエッチングで処理されたエッチング面であることを特徴とする携帯機器用カバーガラスである。
【0011】
(構成2)
携帯機器に用いられるカバーガラスであって、該カバーガラスの主表面は、所定部位を押圧することにより携帯機器の操作を行うタッチパネルに相当する領域を有し、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、前記凹部の表面はエッチングで処理されたエッチング面であることを特徴とする携帯機器用カバーガラスである。
【0012】
(構成3)
前記カバーガラスは、化学強化されたアルミノシリケートガラスからなることを特徴とする構成1又は2に記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成4)
前記凹部の少なくとも1つが前記タッチパネルに相当する領域に存在することを特徴とする構成2又は3に記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0013】
(構成5)
前記携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部が、対向する主表面の両方の表面にそれぞれ形成されていることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成6)
カバーガラスの主表面平坦部と凹部の内表面との境界のエッジ部が丸みを付けた形状であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0014】
(構成7)
カバーガラスにおける凹部の深さを除いた残りの板厚と、主表面平坦部の圧縮応力値及び圧縮応力層深さとから算出される、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値が、150MPa以下であることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成8)
前記カバーガラスの板厚は、0.3mm〜1.5mmの範囲であることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0015】
(構成9)
化学強化されたカバーガラス主表面の圧縮応力値が、300MPa以上であることを特徴とする構成3乃至8のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成10)
前記カバーガラスにおける前記凹部の深さ方向の厚みを除いた残りの板厚が、化学強化による圧縮応力層の厚みの3倍以上であることを特徴とする構成3乃至9のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0016】
(構成11)
前記カバーガラスにおける前記凹部の深さ方向の厚みを除いた残りの板厚が、200μm以上であることを特徴とする構成1乃至10のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成12)
前記カバーガラスは外形が矩形状で、その主表面の面積は、30cm
2以上であることを特徴とする構成1乃至11のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0017】
(構成13)
化学強化されたカバーガラス主表面のヤング率が、65GPa以上であることを特徴とする構成3乃至12のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成14)
化学強化されたカバーガラス主表面のビッカース硬度が、400以上であることを特徴とする構成3乃至13のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0018】
(構成15)
前記カバーガラスの端面は、エッチングで処理されたエッチング面であることを特徴とする構成1乃至14のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成16)
前記カバーガラスの凹部が形成された領域を囲むようにして配置した外径40mm、内径30mmのリング状のステンレス製受け治具の上に該カバーガラスを載せ、上方から凹部形成箇所を、1mm厚のゴム硬度50(JIS K6253)の弾性材料を先端に貼り付けた10mmφの円柱状の鋼鉄製フラットヘッドで200Nの荷重で2秒間押圧したときにカバーガラスが破損することを防止すべく化学強化されていることを特徴とする構成1乃至15のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
(構成17)
前記カバーガラスの凹部が形成された領域を囲むようにして配置した外径40mm、内径30mmのリング状でありカバーガラスと接触する面が平滑面であるステンレス製受け治具の上に該カバーガラスを載せ、上方から凹部形成箇所を、10mmφであり1mm厚のゴム硬度50(JIS K6253)の弾性材料をカバーガラスと接触させ、当該弾性材料に対して均一に荷重がかかるように、200Nの荷重で2秒間押圧したときにカバーガラスが破損することを防止すべく化学強化されていることを特徴とする構成1乃至15のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラスである。
【0019】
(構成18)
前記凹部の少なくとも一部分が、前記カバーガラスに照射される光量が少ない環境でも利用者が認識可能となる蓄光可能な材料を含む蓄光部を備えることを特徴とする請求項1乃至17のいずれかに記載の携帯機器用カバーガラス。
(構成19)
携帯機器に用いられるカバーガラスであって、対向する主表面の少なくとも一方の表面に凹部が形成され、凹部の少なくとも一部分が、前記カバーガラスに照射される光量が少ない環境でも利用者が認識可能となる蓄光可能な材料を含む蓄光部を備えることを特徴とする携帯機器用カバーガラス。
(構成20)
前記凹部の表面はエッチングで処理されたエッチング面であることを特徴とする請求項19に記載の携帯機器用カバーガラス。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、しかも充分な強度を持つカバーガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つカバーガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、タッチパネル式の携帯機器に好適にカバーガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、化学強化処理を施すガラス素材(ガラス基板)を用いる場合に好適なカバーガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、夜間の屋外などカバーガラスに照射(入射)される光量が少ない環境でも利用者がカバーガラス(の凹部など)を認識可能である携帯機器用カバーガラスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明に関わる携帯機器の一例を示す全体斜視図である。
図1には、携帯機器の一例として、操作を主にタッチパネルにおいて行う携帯電話100の場合を示している。この携帯電話100は、筐体部101と表面側の表示画面102とを備えており、この表示画面102にはカバーガラスが組み込まれている。
より詳細には、表示画面を保護するようにカバーガラスが組み込まれており、携帯電話100の表面にカバーガラスが配置されている。
【0023】
上記カバーガラスは、外部からの衝撃によって表示画面102が破損しないように保護する必要があるため強度が要求されている。特に、タッチパネルの場合、表示画面102の所定部位(例えば画面に表示されているアイコンなど)を押圧することによって携帯電話100の操作を行うが、頻繁に、繰り返し押圧されるため、このタッチパネル機能対応のためには薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つカバーガラスが要求される。
【0024】
図2の(a)〜(d)は、それぞれ本発明に係る携帯機器用カバーガラスの外形形状の例を示す平面図である。
この
図2の(a)〜(d)はいずれもカバーガラスの外形形状が矩形状の例を示しており、(a)は単純矩形のカバーガラス1A、(b)、(c)はそれぞれ各コーナーに丸み(アール)を付けた矩形状のカバーガラス1B、1C、(d)は各コーナーに丸み(アール)を付けるとともに一部を切り欠いた矩形状のカバーガラス1Dの例を示している。カバーガラスの外形形状は、それが組み込まれる携帯機器の形状、構造等に由来するものであり、
図2に示す例はほんの一例に過ぎない。本発明のカバーガラスにおいても、
図2に示す例に限定する趣旨ではないことは勿論である。また、例えば、レシーバーホール等のガラスの表面に孔が形成されているものも本発明にかかるカバーカラスに含まれる。
【0025】
本発明の携帯機器用カバーガラスにおいては、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成されている。これら文字または図形は、例えば社名や製品名のロゴ、操作ボタンのマークなどのパターンである。
【0026】
図3は、カバーガラスの主表面に文字として認識しうる凹部を形成した例を示す平面図であり、
図4の(a)と(b)は、それぞれカバーガラスの主表面に形成される図形として認識しうる凹部の例を示す図である。
図3では、カバーガラス1の裏面側(
図3における裏面側)の主表面に、表側から見たときに例えば「ABC」の文字として認識しうる凹部が形成されている。文字に限らず、例えば
図4の(a)のような四角形や、(b)のような三角形などの図形も挙げられる。
【0027】
従来の印刷法に代わって、カバーガラスに文字や図形等のパターンを彫り込んだ凹部を形成することにより、携帯機器の表示画面を表側から見たときに、これら文字、図形等のパターンに奥行きのある立体感を持たせることができ、意匠性の高い装飾を施すことが可能になる。また、このような凹部は、視覚で確認しなくても、指先で触れたときの触覚だけで、操作ボタン(操作キー)の種類、つまり何の操作ボタンであるのかを認識することができる。例えば、携帯ゲーム機では、ユーザーはゲーム中、画面だけを見て、操作ボタンの方は殆ど見ないため、このような携帯ゲーム機の操作ボタンに適用すると好ましい。なお、本発明にかかるカバーガラスには、凹部が形成されており、かつ、表面に印刷が施されているものも含まれる。
【0028】
また、
図5は、本発明に係るカバーガラスの断面図である。
図5に示す実施形態のカバーガラスにおいては、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部2が、カバーガラス1の対向する表裏の主表面11,12の両方の表面にそれぞれ形成されている。なお、云うまでもないが、主に携帯機器の表側から触れたときに認識しうることを目的とした凹部は、カバーガラス1の対向する主表面11,12のいずれか一方の面、換言すると、携帯機器に搭載された際の表側の表面に形成される。
要するに、携帯機器の表側のカバーガラス表面に形成された凹部は視覚または触覚で認識することができ、カバーガラスの上記と反対側の表面に形成された凹部は視覚で認識することができる。
【0029】
本発明に係るカバーガラスの構成において特に特徴的な点は、上記凹部2の表面2aがエッチングで処理されたエッチング面であることである。このように上記凹部2の表面2aをエッチング面とするためには、カバーガラス1の主表面11,12にエッチング処理(エッチング法)で上記凹部2を形成することが望ましい。本発明者の検討によれば、カバーガラス1の主表面11,12にエッチング処理(エッチング法)で上記凹部2を形成し、出来た凹部2の表面2aがエッチング面である場合、エッチング処理(エッチング加工)時に微小の傷やクラック等が発生するのを抑制できるため、カバーガラスの強度を損うことなく、例えば化学強化処理によって得られるカバーガラスの高い強度を維持することが可能であることを突き止めた。特に、カバーガラスに凹部を形成して、その凹部を押圧する場合、凹部を形成していない場合と比較して、カバーガラスの歪は大きくなり、その結果、凹部の表面2aに作用する応力が増加するので、凹部の表面2aの微小な傷やクラック等の影響を受けやすくなる。そのため、本発明のようにカバーガラスの主表面に凹部を形成する場合、凹部の表面2aはエッチング処理で形成されたエッチング面であることが好ましい。
【0030】
従って、本発明は、たとえばカバーガラス1の主表面11,12がタッチパネルに相当する領域を有し、上記凹部2の少なくとも1つが上記タッチパネルに相当する領域に存在する形態において特に好適である。
本発明によれば、携帯機器の表側から見たときに文字または図形として認識しうる、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部が、対向する主表面の少なくとも一方の表面に形成され、しかも充分な強度を持つカバーガラスを提供することができる。
【0031】
ここで、凹部2について、
図9を参照して詳細に説明する。本発明においては、上記凹部2の断面形状としては、より好ましくは、たとえば
図9に示すように、カバーガラス1を断面視したとき、当該カバーガラス1の主表面平坦部と凹部2の内表面(壁面)2aとの境界のエッジ部2bが丸み(アール)を付けた形状であることが望ましい。本発明が適用される携帯機器の場合、タッチパネル領域内の各操作ボタンは、ユーザーがタッチする指先よりも小さめであることが多く、指先が凹部の内表面2aだけでなく上記エッジ部2bも押圧して負荷がかかることになる。上記のとおり、エッジ部2bが丸みを付けた形状であることにより、エッジ部2bにも繰り返し押圧による負荷がかかった場合の応力集中を低減できるので、凹部2の機械的強度が低下することを抑制できる。また、上記エッジ部2bが丸みを帯びていることで、指先で凹部2を繰り返し押圧しても指先が痛くならないという効果も有する。
また、
図9に示すように、本発明においては、カバーガラス1を断面視したとき、凹部2の底面部と壁面である内表面2aとの境界についても丸みを帯びた形状であることがより好ましい。さらに、底面部全体が丸みを帯びた形状とすることがさらに好ましい。換言すると、カバーガラス1を断面視したときに、凹部自体および凹部と上記主表面平坦部との境界に鋭利な角が形成されていないことがより好ましい。上記の構成とすることにより、携帯機器100のユーザが凹部を押圧した場合に応力集中を起こさないためにカバーガラス1が破損することをより一層防止することができる。
【0032】
また、本発明によれば、薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つカバーガラスを提供することができる。本発明においては、カバーガラスの全板厚は、例えば0.3mm〜1.5mmの薄型にすることができる。また、本発明においては、カバーガラスの外形形状が例えば矩形状で、その主表面を例えば30cm
2以上の大面積とすることが可能である。
また、本発明によれば、特に表示画面の高い強度を要求されるタッチパネル式の携帯機器に好適にカバーガラスを提供することができる。
【0033】
次に、上記凹部をエッチングで形成する方法について説明する。
図6は、カバーガラスにエッチング法で凹部を形成する工程を順に示す断面図である。
カバーガラス1の表裏の両主表面にそれぞれレジスト(感光性有機材料、特に感光性樹脂材料)層3を塗布形成し(
図6(a)参照)、所定の露光、現像を行って、対向する主表面の両方の表面にそれぞれ凹部のパターン3aを有するレジストパターン(つまり凹部を形成する領域のレジスト層が除去されている)を形成する(
図6(b)参照)。
【0034】
そして、このレジストパターンをマスクとして、ガラス素材を溶解可能なエッチング液(例えばフッ酸を含有する酸性溶液など)を用いてウェットエッチングすることにより、例えば表側から見たときに文字または図形として認識しうる凹部2をカバーガラス1の表裏両主表面のそれぞれに形成する(
図6(c)参照)。上記フッ酸を含有する酸性溶液としては、例えば、フッ酸水溶液、フッ酸と塩酸の混合溶液、フッ酸と硫酸の混合溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液などが挙げられる。なお、ウェットエッチングは等方性のエッチング(エッチングが垂直方向のみならず左右方向にも進行する)であるため、凹部2の底の角部は丸みを帯びた形状に仕上がる。このため、応力分散を図ることができるので、ウェットエッチングによって凹部を形成することがより好ましい。なお、ドライエッチングによって凹部を形成してもよい。
そして、残ったレジストパターンを剥離し、洗浄する(
図6(d)参照)。
【0035】
こうして、前述の
図5に示す実施形態のカバーガラスが完成する。なお、ここでは、カバーガラスの両主表面にそれぞれ凹部を形成する場合を説明したが、カバーガラスの何れか一方の主表面に凹部を形成する場合は、その凹部を形成する主表面側のレジスト層にのみ上記凹部のパターンを形成すればよい。
【0036】
また、前述の
図9に示すようなカバーガラス1の主表面平坦部と凹部2の内表面2aとの境界のエッジ部2bが丸みを付けた形状とするためには、例えば次のような方法が好適である。
すなわち、カバーガラス1の主表面に、この主表面側が最も重合度が小さくなるように厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとして上記のウェットエッチングを行う。このように、レジストのガラス主表面側が最も重合度が小さくなるように厚さ方向に重合度勾配を持たせることにより、レジストパターン形成時にガラス(主表面)とレジストとの間の密着力を弱くすることができる。レジストのガラス主表面側が最も重合度が小さくなるように厚さ方向に重合度勾配を持たせ、ガラスとレジストとの間の密着力を弱くするためには、例えばレジスト厚、露光量、ポストベーク条件などをコントロールする。これらの条件のコントロールは、使用するレジストの種類や露光光のエネルギーにより適宜変更して行う。このようにガラスとレジストとの間の密着力をコントロールすることにより、レジストとガラス(主表面)との間の界面にエッチング液が浸み込み易くなり、結果的に、上記エッジ部2bが丸みを付けた形状に形成される。
【0037】
本発明のカバーガラスの厚さ(板厚)は、最近の携帯機器の薄型化・軽量化のマーケットニーズに応える観点から例えば0.3mm〜1.5mm程度の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.5mm〜0.7mm程度の範囲である。
【0038】
本発明においては、カバーガラスを構成するガラスは、アモルファスのアルミノシリケートガラスとすることが好ましい。このようなアルミノシリケートガラスからなるガラス基板は、化学強化後の強度が高く良好である。このようなアルミノシリケートガラスとしては、SiO
2が58〜75重量%、Al
2O
3が0〜20重量%、Li
2Oが0〜10重量%、Na
2Oが4〜20重量%を主成分として含有するアルミノシリケートガラスを用いることができる。
【0039】
本発明のカバーガラスにおいては強度を向上させるため、カバーガラスに対して化学強化処理を行うことが好ましい。
化学強化処理の方法としては、例えば、ガラス転移点の温度を超えない温度領域、例えば摂氏300度以上500度以下の温度で、イオン交換を行う低温型イオン交換法などが好ましい。化学強化処理とは、溶融させた化学強化塩とガラス基板とを接触させることにより、化学強化塩中の相対的に大きな原子半径のアルカリ金属元素と、ガラス基板中の相対的に小さな原子半径のアルカリ金属元素とをイオン交換し、ガラス基板の表層に該イオン半径の大きなアルカリ金属元素を浸透させ、ガラス基板の表面に圧縮応力を生じさせる処理のことである。化学強化塩としては、硝酸カリウムや硝酸ナトリウムなどのアルカリ金属硝酸を好ましく用いることができる。化学強化処理されたカバーガラスは強度が向上し耐衝撃性に優れているので、衝撃、押圧が加わり高い強度が必要な携帯機器に用いられるカバーガラスには好適である。特に本発明では、カバーガラスの主表面に上記凹部が形成されていても、化学強化処理により得られる高い強度を担保することができるので、化学強化処理は有効である。
なお、本発明においては、上述の凹部形成の前に化学強化処理を行ってもよいし、凹部形成の後に化学強化処理を行ってもよい。
【0040】
カバーガラスの強度確保の観点では、凹部形成の後に化学強化処理を行うことがより好ましい。その理由は、化学強化されたガラス基板の内部には、表面圧縮応力層に対応した内部引張応力層が存在する。この内部引張応力はガラス基板に外力などが作用した場合ガラス基板を破壊する要因となる。そこで凹部形成は化学強化前に実施するのが好ましい。また凹部形成は機械加工よりもエッチング処理が好ましい。その理由は、機械加工では凹部に微小な傷やクラック等が発生し易いので、これらが成長し上記内部引張応力層に達しガラス基板を破壊する原因になる。そこで、機械加工に較べ微小な傷やクラックが発生し難いエッチング処理による凹部形成が好ましい。
【0041】
本発明のカバーガラスは、カバーガラスの主表面に例えば文字または図形として認識しうる凹部が形成されているが、充分な強度を有している。
本発明においては、例えばタッチパネル機能に対応可能な強度を担保する観点から、化学強化されたカバーガラス主表面の圧縮応力値が、300MPa以上であることが好ましく、特に400〜800MPaの範囲であることが好ましい。
【0042】
また、上記と同様の観点から、化学強化されたカバーガラス主表面の内部引張応力値が、150MPa以下であることが好ましく、特に80MPa以下であることが好ましい。
【0043】
また、上記と同様の観点から、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値は、150MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましく、80MPa以下であることがさらに好ましい。ここで残り膜厚はカバーガラスにおける凹部の深さ(深さ方向の厚み)を除いた残りの板厚、圧縮応力値と圧縮応力層深さは、カバーガラスの主表面の凹部ではない平坦部分の値である。なお、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値は、カバーガラスの主表面のうち凹部に対応する部分の内部引張応力に相当すると考えられる。
【0044】
また、上記と同様の観点から、化学強化されたカバーガラス主表面のヤング率が、65GPa以上であることが好ましく、特に65〜100GPaの範囲であることが好ましい。
また、上記と同様の観点から、化学強化されたカバーガラス主表面のビッカース硬度[HV]が、400以上であることが好ましく、特に400〜800の範囲であることが好ましい。
なお、上記のヤング率は、JIS R1602に準拠して測定することができる。また、上記のビッカース硬度は、JIS Z2244に準拠し、測定荷重は300g、加圧時間は15secの条件の下で測定することができる。
【0045】
また、本発明においては、カバーガラスにおける上記凹部の深さ(深さ方向の厚み)を除いた残りの板厚が、化学強化による圧縮応力層の厚みの3倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましい。上記圧縮応力層の厚みの3倍を下回ると、カバーガラスに要求される強度が得られない恐れがある。
なお、この凹部の深さは、Z軸(深さ方向)測定機(例えば日商精密光学(株)製の非接触Z軸測定機「ミクロン深さ高さ測定機:KY−90−HL−TV」、または(株)ニコン製の測定顕微鏡「MM−400」など)を用いて測定可能である。また、主表面平坦部の圧縮応力値、圧縮応力層の深さ(厚み)及び主表面平坦部の内部引張応力値は、応力計(例えば、(有)折原製作所製の精密歪計「BSP−3」)によるバビネ法により測定可能である。
【0046】
また、本発明においては、カバーガラスにおける上記凹部の深さ(深さ方向の厚み)を除いた残りの板厚が、200μm以上であることが好ましい。残りの板厚が200μm未満であると、カバーガラスに要求される強度が得られない恐れがある。なお、カバーガラスの両主表面にそれぞれ凹部が形成されている場合、板厚からそれぞれの主表面の最も大きい深さの和を引いた残りが、200μm以上であることが好ましい。また、一方あるいは両方の主表面に深さが異なる複数の凹部がある場合、板厚からそれぞれの主表面の最も大きい深さを引いた残りが、200μm以上であることが好ましい。
【0047】
またカバーガラスの凹部の大きさ(幅)は指でカバーガラスを触ったときに指と凹部の底が接触しない大きさ(幅)であることが好ましい。
【0048】
なお、上記凹部の深さを除いた残り板厚が同じであるが、全板厚が異なるカバーガラス同士の機械的強度(例えば後述の実施例における強度試験法による強度)を比較した場合、全板厚が大きいものほど強度が大きい傾向にある。また、全板厚と残り板厚の割合が同じであるカバーガラス同士を比較した場合、全板厚が大きいものほど強度が大きい傾向にある。
【0049】
また、本発明に係る携帯機器用カバーガラスは、通常、シート状に成形された大板ガラスを所定の大きさ(製品サイズ)に切断(小片化)して作製される。ダウンドロー法やフロート法等で製造されたシート状ガラス素材(大板ガラス)を所定の大きさに切断する際においてもエッチング法を適用することが本発明には好適である。切断面はカバーガラスの端面となるため、大板ガラスをエッチング法で切断し、出来たカバーガラスの端面がエッチング面であることによって、例えば機械加工による切断法と比べると、カバーガラス端面での微小な傷やクラック等の発生を抑制でき、これら傷やクラック等に起因するカバーガラスの強度低下を防止することができる。
【0050】
大サイズの板ガラスからカバーガラスの製品サイズへの切断をエッチング法で行う場合、例えば以下のようにして行うことができる(
図7参照)。
上記大サイズの板ガラスの表裏両面にそれぞれレジスト(感光性有機材料)層を塗布形成し、所定の露光、現像を行って、カッティングラインのパターンを有するレジストパターン(カッティングライン上にはレジストが存在していないパターン)であって、板ガラスの表裏面において上記カッティングラインのパターンが対称となるようにレジストパターンを形成する(
図7(a)参照)。
【0051】
そして、このレジストパターンをマスクとして、ガラス素材を溶解可能なエッチング液(例えばフッ酸を含有する酸性溶液など)を用いてウェットエッチングすることにより、カッティングライン上で板ガラスの表裏から貫通させて切断部を形成し、所定の大きさのカバーガラスに切断する(
図7(b)参照)。上記フッ酸を含有する酸性溶液としては、前述の凹部を形成する際のエッチングで用いられるものと同様のものが挙げられる。
残ったレジストパターンを剥離し、洗浄する(
図7(c)参照)。
こうして得られるカバーガラス1の端面はエッチング面である。
なお、上記の切断は機械加工によって行ってもよい。但し、上記のとおり、カバーガラス端面での微小な傷やクラック等の発生を抑制でき、カバーガラスの強度低下を防止できる点で、エッチング法がより好ましい。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、薄型、軽量、大画面(大面積)であっても充分な強度を持つ、とくに高い強度が要求されるタッチパネル式の携帯機器に好適にカバーガラスを提供することができる。
【0053】
次に、本発明に係る携帯機器用カバーガラスの他の実施の形態を説明する。
夜間の屋外など外光が照射されない暗い環境でも携帯機器を利用できることが便利であり、またそのことが最近要求されるようになってきている。
従来、表示装置のカバーガラスの裏面(表示装置組込み側の面)に、表示装置の表示面を囲む枠などを塗料で印刷して施す方法が知られている(例えば、特開2009−140193号公報、特開2005−123735号公報など)。この塗料に含まれる顔料として、例えば燐光性硫化亜鉛(ZnS:Cu)を添加した蓄光塗料を用いることで、暗い環境でも表示装置が光を発するため、容易にその存在を視認することができる。
【0054】
しかし、上記蓄光塗料は、膜厚が厚いほど高輝度になり、また長時間発光するという性質がある。具体的には、蓄光顔料とメジウム(樹脂成分)を重量比で1:1程度に混合して調製した蓄光塗料で、暗い環境でも視認可能な輝度を得るためには、乾燥後の膜厚は少なくとも50μm以上必要である。さらに輝度を高め、また長時間(例えば1時間以上)の発光を可能とするためには100μm以上の膜厚が必要である。この膜厚は、一般にカバーガラスの加飾(印刷)に用いられる印刷層の塗膜厚み(20μm以下程度)に比較して非常に厚いため、このような塗装部を含む携帯機器用カバーガラスの薄膜化を十分に図れないという問題を有していた。また、前記特許文献1には、透明な板状体の一方の面に溝を形成し、この溝内に着色剤を入れて着色した装飾部の構成が記載されているが、この着色剤は蓄光材料の特性はないので、上記装飾部の構成を備えた携帯機器を暗い環境では認識できないという問題がある。
【0055】
そこで、本発明に係る携帯機器用カバーガラスは、利用者に文字又は図形を認識させる凹部(つまり携帯機器の表側から見たときに文字又は図形として認識しうる凹部、或いは携帯機器の表側から触れたときに認識しうる凹部)の少なくとも一部分が、前記カバーガラスに照射(入射)される光量が少ない環境でも利用者が認識可能となる蓄光可能な材料を含む蓄光部を備えることを特徴とするものである。
【0056】
このような本発明の携帯機器用カバーガラスによれば、利用者に文字又は図形を認識させる凹部が上記蓄光部を備えることで、夜間の屋外などカバーガラスに照射(入射)される光量が少ない暗い環境でも利用者がカバーガラスの凹部を認識でき、携帯機器の操作を行うことができる。しかも、ガラスを掘り込み形成した凹部に上記蓄光部を備えているので、高輝度と長時間発光が可能な厚みをもって上記蓄光部を形成しても、カバーガラスの薄膜化を十分に実現できる。要するに、本発明の携帯機器用カバーガラスによれば、高輝度で長時間発光可能な蓄光部を備え、夜間の屋外など暗い環境でも利用者が携帯機器を認識でき良好な操作ができ、且つカバーガラスの薄膜化も図れる。
【0057】
また、本発明に係る携帯機器用カバーガラスは、対向する主表面の少なくとも一方の表面に凹部が形成され、凹部の少なくとも一部分が、前記カバーガラスに照射(入射)される光量が少ない環境でも利用者が認識可能となる蓄光可能な材料を含む蓄光部を備えることを特徴とするものである。
【0058】
この場合の凹部は、利用者に文字又は図形を認識させることを特に目的としない、たとえば利用者が携帯機器の外周を認識できるようにするためのカバーガラスの外周領域に形成される凹部である。このような携帯機器用カバーガラスにおいても、高輝度で長時間発光可能な蓄光部を備え、利用者が夜間の屋外など暗い環境でも携帯機器の外周等を認識でき良好な操作ができ、且つカバーガラスの薄膜化も図れる。
【0059】
なお、この場合の凹部は、前述のエッチング法あるいは機械加工で形成することができるが、本発明においてはエッチング法を適用することが好適である。凹部をエッチング法で形成し、形成された凹部の表面がエッチングで処理されたエッチング面であることにより、例えば機械加工と比べると、微小な傷やクラック等の発生を抑制でき、これら傷やクラック等に起因するカバーガラスの強度低下を防止することができる。
【0060】
上記蓄光顔料(蓄光可能な材料)としては、例えば、硫化亜鉛系蓄光性材料(ZnS:Cu、緑色発光)等が一般的であるが、この他にも、CaAl
2O
4、SrAl
2O
4、またはBaAl
2O
4で表される化合物を母結晶とし、これに賦活剤としてユウロピウムなど、さらに共賦活剤としてセリウム、プラセオジウム、ネオジム、サマリウム、テレビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムから選ばれる少なくとも1つ以上の元素を添加した蓄光性材料なども好ましく用いることができる。
【0061】
上記蓄光部の形成方法としては、例えばスクリーン印刷法が適用できる。この場合の塗料(インキ)は、上記蓄光顔料とクリア樹脂成分の混合物に適宜必要な添加剤を添加し、溶剤で粘度を調整したものを使用することができる。上記蓄光部の印刷後、上記塗料の樹脂成分を考慮した乾燥条件で熱乾燥することが好ましい。また、上記蓄光部による輝度をより高めるために、例えば白色の下地印刷をしてから上記蓄光部を形成してもよい。
【0062】
上記蓄光部の塗膜厚み(乾燥後の膜厚)は、高輝度が得られるように50μm以上であることが好ましく、さらに輝度を高め、長時間(例えば1時間以上)発光可能とするためには、100μm以上であることが望ましい。
【0063】
また、利用者に文字または図形を認識させる凹部の深さは、前述の通り、凹部の深さを除く残り板厚等を考慮して決定されるが、この凹部に上記蓄光部を形成する場合、カバーガラスの薄膜化の観点から、蓄光部の塗膜厚みも考慮して凹部の深さを決定してもよい。また、特に利用者に文字又は図形を認識させることを目的としない、たとえば利用者が携帯機器の外周を認識できるようにするためのカバーガラスの外周領域に形成される凹部に上記蓄光部を形成する場合においても、凹部の深さは同様である。
【0064】
また、上記蓄光部は、カバーガラスに形成した例えば複数の凹部の全てに形成しても、あるいは複数の凹部のうちの一部に形成してもよい。また、上記蓄光部は、個々の凹部の表面の全面をほぼ覆うように形成しても、あるいは個々の凹部の表面の一部分に形成してもよい。
【0065】
以上説明したように、上記の実施形態による携帯機器用カバーガラスによれば、夜間の屋外など暗い環境でも利用者がカバーガラスの凹部等を認識でき、携帯機器を良好に操作できる携帯機器用カバーガラスを提供することができる。また、文字又は図形に相当する凹部が暗所で発光するため、意匠性を向上させることができる。
【実施例】
【0066】
以下に具体的実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
以下の(1)板ガラス切断加工工程、(2)凹部形成工程、(3)化学強化工程、を経て本実施例のカバーガラスを製造した。
【0067】
(1)板ガラス切断加工工程
まず、ダウンドロー法やフロート法で製造されたアルミノシリゲートガラスからなる厚さ0.5mmの板ガラスを切断して所定の大きさ(10cm×5cm)のカバーガラスを作製した。このアルミノシリケートガラスとしては、SiO
2:58〜75重量%、Al
2O
3:5〜23重量%、Li
2O:3〜10重量%、Na
2O:4〜13重量%を含有する化学強化用ガラスを使用した。
【0068】
この板ガラスの切断はエッチングによって行った。すなわち、上記板ガラスの両面にそれぞれエッチング耐性を有するレジスト(感光性有機材料)を塗布し、所定の露光、現像を行って、カッティングラインのパターンを有するレジストパターン(カッティングライン上にはレジストが存在していないパターン)であって、板ガラスの表裏面に対称のレジストパターンを形成した。そして、このレジストパターンをマスクとして、ガラス素材を溶解可能なエッチング液(例えばフッ酸を含有する酸性溶液など)を用いてウェットエッチングすることにより、カッティングライン上で板ガラスの表裏から貫通させて、所定の大きさの小片に切断した。残ったレジストパターンを剥離し、洗浄した。
【0069】
(2)凹部形成工程
次に、上記で得られたカバーガラスの両面にそれぞれ上記と同じレジストを塗布し、所定の露光、現像を行って、対向する表裏主表面の両方の表面にそれぞれ凹部のパターンを有するレジストパターンを形成した。そして、このレジストパターンをマスクとして、ガラス素材を溶解可能なエッチング液(例えばフッ酸を含有する酸性溶液など)を用いてウェットエッチングすることにより、断面が
図5に示すような形状で、表側から見たときに(平面視)、
図8(c)に示すような十字形として認識しうる凹部をカバーガラスの表裏両主表面のそれぞれに形成した。そして、残ったレジストパターンを剥離し、洗浄した。
なお、上記表裏の凹部の深さ(深さ方向の厚み)の合計が、250μmとなるようにエッチング時間を調節した。従って、カバーガラスの表裏両主表面の凹部の深さ方向の厚みを除いた残りの板厚は、250μmである。
【0070】
(3)化学強化工程
次に、上記の凹部形成を終えたカバーガラスに化学強化を施した。化学強化は硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合した化学強化液を用意し、この化学強化溶液を380℃に加熱し、上記カバーガラスを約4時間浸漬して化学強化処理を行なった。化学強化を終えたカバーガラスを硫酸、中性洗剤、純水、純水、IPA、IPA(蒸気乾燥)の各洗浄槽に順次浸漬して、超音波洗浄し、乾燥した。
【0071】
こうして本実施例のカバーガラスを完成した。
この完成したカバーガラスの圧縮応力値、内部引張応力値、ヤング率、およびビッカース硬度をそれぞれ測定した。測定方法は前述の方法に従った。凹部の深さ測定は、日商精密光学(株)「ミクロン深さ高さ測定機:KY−90−HL−TV」を使用した。また、主表面平坦部の圧縮応力値、圧縮応力層の深さ(厚み)及び主表面平坦部の内部引張応力値の測定は、(有)折原製作所製の精密歪計「BSP−3」を使用した。また、ヤング率の測定は超音波工業(株)製の音速測定装置「UVM−2」を使用した。またビッカース硬度の測定は(株)明石製作所製の微小硬度計「MVK−E」を使用した。
【0072】
また、このカバーガラスの静圧強度についても測定した。具体的には、
図8(a)に示す外径40mm、内径30mmのリング状のステンレス製受け冶具21の上に、カバーガラスの凹部が形成された領域をリング状の受け治具21が下から囲むようにして測定対象のカバーガラス1を載置し、その上方から、カバーガラス1の凹部形成箇所を10mmφの鋼鉄製フラットヘッド22で200Nの荷重で2秒間押圧する(
図8(b)参照)。なお、上記フラットヘッド22の先端には1mm厚のシリコンゴム23(ゴムの硬度は50(JIS K6253))が貼り付けられている。
【0073】
その結果、カバーガラスの30サンプル中破損がゼロの場合を「○」、30サンプル中破損が1〜2サンプルの場合を「△」、30サンプル中破損が3サンプル以上の場合を「×」とした。
以上の得られた結果を纏めて以下の表1に示した。
【0074】
(実施例2〜12)
実施例1における板厚、凹部の深さ(合計)、残り板厚がそれぞれ以下の表1に示す値となるように変更したこと以外は実施例1と同様にしてそれぞれのカバーガラスを作製した。得られた実施例2〜12のカバーガラスについても、実施例1と同様な方法で圧縮応力値、内部引張応力値、ヤング率、ビッカース硬度、強度をそれぞれ測定し、得られた結果を纏めて表1に示した。
【0075】
(実施例13)
実施例13は、凹部形成工程におけるレジストパターン形成条件以外は、実施例1と同様にしてカバーガラスを作製した。
実施例13はカバーガラス1の主表面に、この主表面側が最も重合度が小さくなるように厚さ方向に重合度勾配を持つレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクとしてウェットエッチングを行った。その結果、凹部は
図9に示すように凹部のエッジ部が丸みを帯びた形状に形成された。レジストパターン形成時にガラス(主表面)とレジストとの間の密着力が弱くなりエッジ部が丸みを帯びたと考えられる。なお、凹部の形状は、凹部形成箇所を切断し、凹部の断面形状を顕微鏡観察によって確認した。
【0076】
次に上記実施例13と前記実施例1のカバーガラスについてのボールを落下させることにより評価する強度試験を行った。この場合の強度試験方法は、
図10に示すようにホルダー30に設置したサンプル1(カバーガラス)の上方からボール31を落下させる落下試験である(
図10(a)参照)。なお、サンプルのカバーガラスはホルダー30の貫通部に設置されており、カバーガラス縁部の幅2mmをホルダーで保持している(
図10(b)参照)。ボールの落下位置はカバーガラスの凹部形成箇所である。ここでボールは重量32g、直径20mmの球で、材質はSUS304である。またホルダーの材質はSUS304である。
【0077】
強度はボールの落下開始部分とカバーガラスの距離(以下高さ)を変えて(同図(a)参照)、破壊発生有無で評価した。各高さでカバーガラス10枚を測定した。
測定の結果、実施例13のカバーガラスは高さ800mmでは破壊なし、高さ900mmで1枚破壊した。一方、実施例1のカバーガラスは高さ700mmでは破壊なし、高さ800mmで2枚破壊した。このことから、実施例13のカバーガラスは実施例1のカバーガラスに比べて強度が大きいことが分かる。実施例1のカバーガラスは
図5のように凹部のエッジ部は丸みを帯びていないが、実施例13のカバーガラスは
図9のように凹部のエッジ部が丸みを帯びているため、ボール落下時に発生する応力集中が緩和されるため強度が良好であると考えられる。
【0078】
(比較例1〜3)
実施例1の(2)凹部形成工程において、カバーガラスの表裏両主表面の凹部をサンドブラストで機械加工して形成した。カバーガラスの板厚、凹部の深さ(合計)、カバーガラスの表裏両主表面の凹部の深さ方向の厚みを除いた残りの板厚は、実施例1と同じになるように加工した。
この点以外は実施例1と同様にしてカバーガラス(比較例1)を作製した。
また、比較例1における板厚、凹部の深さ(合計)、残り板厚がそれぞれ以下の表1に示す値となるように変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例2、3のカバーガラスを作製した。
得られた比較例1〜3のカバーガラスについても、実施例1と同様な方法で圧縮応力値、内部引張応力値、ヤング率、ビッカース硬度、強度をそれぞれ測定し、得られた結果を表1に示した。
【0079】
【表1】
【0080】
なお、上記表1中、「板厚比」は、残り板厚/圧縮応力層深さの比である。また、主表面平坦部の圧縮応力値及び圧縮応力層の深さは前述のバビネ法により測定した。凹部は主表面平坦部の圧縮応力値(測定値)及び圧縮応力層深さ(測定値)を主表面平坦部と凹部とで同一と推定した。また、主表面平坦部の内部引張応力は、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(板厚−圧縮応力層深さ)の式によって求めた計算値である。さらに、凹部は圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値である。ここで、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)は、カバーガラスの主表面のうち凹部に対応する部分の内部引張応力に相当すると考えられる。
【0081】
すなわち、上記表1の結果から、凹部をエッチング法により形成した本実施例のカバーガラスは、薄型、軽量、大面積で、なお且つ文字または図形として認識しうる凹部が形成されていても充分な強度を持ち、とくに表示画面の強度向上が求められているタッチパネル式の携帯機器のカバーガラスに好適であることが確認できた。とくに、実施例4、6とその他の実施例との比較から、圧縮応力値×圧縮応力層深さ/(残り板厚−圧縮応力層深さ)の値が150MPa以下であることが強度の観点からはより好ましいことが確認できた。
また、上記したように、上記実施例13のカバーガラスは、実施例1のカバーガラスと比べてボール落下試験法による強度の評価結果は良好であった。つまり、強度の観点からは、凹部のエッジ部は丸みを付けた形状であることがより好ましい。
【0082】
また、全体の板厚に対する残り板厚の割合(残り板厚÷全体板厚)を45%以下とする場合には、主表面平坦部の内部引張応力は、20MPa以下であることがより好ましく、17MPa以下であることがより好ましい。上記の範囲とすることで、より一層破損を防止することができる。
また、主表面平坦部の内部引張応力は、100MPa以下であることが好ましく、70MPa以下であることがより好ましく、60MPa以下であることがより好ましい。そして、圧縮応力値は、550MPa以上、600MPa以上とすることが特に好ましい。上記の範囲とすることで、より一層破損を防止することができる。
【0083】
また、圧縮応力値を550MPa以上とし、主表面平坦部の内部引張応力を100MPa以下とすることで特に破損を防止することができる。これは、(A)板厚が1500μm以下のカバーガラスの場合、(B)全体の板厚に対する残り板厚の割合(残り板厚÷全体板厚)を80%以下とする場合、(C)カバーガラスの主表面の面積を30cm
2以上、より好ましくは50cm
2以上、特に好ましくは70cm
2とする場合のいずれにおいても、特に有効である。
【0084】
一方、薄型、軽量、大面積で、なお且つ文字または図形として認識しうる凹部を機械加工により形成した比較例のカバーガラスでは、化学強化しても強度が不十分であり、とくに表示画面の強度向上が求められているタッチパネル式の携帯機器のカバーガラスに適用することは困難である。
【0085】
(実施例14)
上記実施例1で作製したカバーガラスの凹部に上記蓄光部を形成した。この蓄光部の形成は、スクリーン印刷法により行った。具体的には、蓄光顔料である燐光性硫化亜鉛(ZnS:Cu)とポリウレタン系またはアクリル系のクリア樹脂を重量比で1:1に混合し、溶媒で粘度を適度に調整した塗料を使用し、またメッシュが#150のスクリーン版を用いた。印刷後、100℃で加熱乾燥を行った。乾燥後の蓄光部の厚さは100μmであった。
こうして上記蓄光部を形成した本実施例の携帯機器用カバーガラスを組み込んだ携帯電話機を夜間の屋外で使用したところ、カバーガラスに形成した凹部を充分に視認できる高い輝度が得られ、しかも連続して1時間以上発光することが確認できた。