特許第5881418号(P5881418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881418酵素含有食品の製造方法および酵素含有食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881418
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】酵素含有食品の製造方法および酵素含有食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20160225BHJP
   A23L 3/36 20060101ALI20160225BHJP
   A23L 3/44 20060101ALI20160225BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20160225BHJP
   A23L 19/00 20160101ALN20160225BHJP
【FI】
   A23L1/00 J
   A23L3/36 A
   A23L3/44
   A23L1/305
   !A23L1/212 A
【請求項の数】16
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2011-507306(P2011-507306)
(86)(22)【出願日】2010年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2010056069
(87)【国際公開番号】WO2010114120
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2009-89828(P2009-89828)
(32)【優先日】2009年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303047366
【氏名又は名称】株式会社エフコム
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】桑 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 国治
(72)【発明者】
【氏名】江間 崇夫
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕之
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−174850(JP,A)
【文献】 特開2007−252323(JP,A)
【文献】 特開2010−130984(JP,A)
【文献】 特開2010−051209(JP,A)
【文献】 特開2006−223122(JP,A)
【文献】 特開2003−339328(JP,A)
【文献】 特開2009−089668(JP,A)
【文献】 特開2004−089181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/00
A23L 1/22
A23L 1/30
A23L 3/36
A23L 3/44
A23B 7/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料食材を減圧処理し、減圧状態を保ちながら、酵素を含有する液体成分と接触させ、次いで常圧以上となる圧力まで昇圧することにより食材内部に酵素を導入する酵素導入工程を有し、該酵素導入工程より後に、加圧下で行う酵素反応工程に次いで冷凍工程を有し、解凍と同時にまたは解凍後に酵素反応工程を有することを特徴とする酵素含有食品の製造方法。
【請求項2】
原料食材を減圧処理し、減圧状態を保ちながら、酵素を含有する液体成分と接触させ、次いで常圧以上となる圧力まで昇圧することにより食材内部に酵素を導入する酵素導入工程を有し、該酵素導入工程と酵素反応工程を同時に行った後に冷凍工程を有し、解凍と同時にまたは解凍後に酵素反応工程を有する酵素含有食品の製造方法。
【請求項3】
解凍後の酵素反応工程より後に、冷凍工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項4】
酵素反応工程より後に、酵素失活工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項5】
酵素失活工程の後に、冷凍工程を有することを特徴とする請求項4に記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項6】
酵素失活工程の後に、凍結乾燥工程を有することを特徴とする請求項4に記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項7】
原料食材が、冷凍の工程を経ていない食材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項8】
原料食材が、加熱および冷凍の工程をいずれも経ていない食材であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項9】
減圧処理時の食材周囲圧力が100〜90000Paであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項10】
酵素導入工程において、原料食材の重量に対して、酵素を乾燥重量で0.0005〜2重量%導入することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項11】
酵素を含有する液体成分が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、リパーゼよりなる群から選ばれる1種以上の酵素を含有することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項12】
酵素を含有する液体成分が、調味料を含有することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項13】
酵素反応工程を、酵素を導入した食材を−5〜80℃に保持することにより行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項14】
酵素反応工程を、不酸化雰囲気下で行うことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項15】
酵素失活工程を、加熱あるいはマイクロ波照射により行うことを特徴とする請求項4〜14のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【請求項16】
酵素失活工程が、加熱調理をともなう工程であることを特徴とする請求項4〜1のいずれかに記載の酵素含有食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を含有する食品およびその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、形状を保持しつつ酵素により軟化された食品を提供し得る、酵素含有食品およびその製造方法に関する。また、本発明は、酵素により原料食材の成分を変化、例えば糖転化、タンパク分解などして、甘みが高められた食品、あるいは含水率が高められた食品など、有用な成分を生成あるいは増加させた食品を提供し得る、酵素含有食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年高齢者の割合が増加するに従って、また病人用や乳幼児用の食品として、咀嚼や嚥下の容易な食品が求められており種々開発されている。特に、咀嚼や嚥下が困難な病人や高齢者向けには、とろみをつけた食品、粥状やゼリー状の食品が提供されている。しかしながらこれらの食品商品では、食品素材の種類にかかわらずカップゼリー形状や粥状などに形態が限定され、見た目の美感に欠ける場合が多く、食欲を増進するものではなかった。このため、通常の食品同様の見栄えを有しつつも咀嚼や嚥下の容易な食品が求められている。
【0003】
このような状況において、食品をペースト状とし、これを型抜きするなどして美観を向上することが試みられている。しかしながら、型抜き食品では依然として通常の食品との形状の乖離が大きく、利用者の食べる意欲を引き出すものとは言い難かった。このため、さらに通常の食品に近い見た目を有し、しかも咀嚼や嚥下の容易な柔らかさを有する食品が求められるが、加熱調理時間を延長するなどの食品の軟化処理では、熱履歴に伴う栄養成分の破壊や流出が懸念されるうえ、形状の維持が困難であるという問題があった。
【0004】
一方、長時間の加熱調理による軟化が望ましい食品については、調理時間の短縮、調理エネルギーの削減が求められており、長時間の加熱を伴わずに製造された、食品本来の形状を維持した軟化食品の出現が求められていた。
【0005】
切断、叩打、ペースト化などの形状を損なう機械的処理や、長時間の加熱調理以外で、食品の軟化を行う方法としては、酵素処理が挙げられる。酵素を用いた食品の軟化に係る技術として、特許文献1には、ペクチンエステラーゼやペクチナーゼなどの酵素を含む溶液と食品素材とを接触させて加圧処理し、食品素材内部に酵素を浸透させて、食品素材内部で酵素反応を起こさせることが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、大きめの食材では内部までの酵素の含浸が不十分となって、食品を十分に軟化するのが困難になる場合があり、結果的に実施例に示されるような1cm程度のダイス状、フライドポテト作成のためのスティック状など、小さな形状の食品の処理に限定されるという問題があった。
【0006】
特許文献2には、増粘剤および/または粘性物質を生産する微生物を、分解酵素とともに食材中に均一に含むことにより、食品内部にまでトロミを付与し、誤嚥の恐れを低減した食品が記載されている。さらに特許文献3には、凍結または凍結後解凍した食品素材と分解酵素とを、包装材中にいれて真空包装することで、分解酵素を食品内部に含有させて食品素材を軟化させ、その後に加熱調理する調理食品の製造方法が記載されており、柔軟であっても型崩れのしにくい食品を製造することが記載されている。これらの技術では、凍結後あるいは凍結解凍後の食材を用いることにより、凍結により食品素材中に生じた組織の緩みを生じさせて、食材中心部への酵素等の導入を促進させている。このような方法で製造された調理済み食品を保存あるいは流通させるには、冷凍することが望ましいが、調理の前後に凍結を伴うこととなり、製造工程が煩雑となって製造コストがかさむうえ、凍結・解凍を繰り返すことによる栄養価の減少や色調の悪化などが懸念される。
【0007】
また、従来から、例えば、さつまいもなどのデンプンを含有する原料食材などにおいて、原料食材の有する本来の甘みが高い材料が、惣菜などの各種加工食品、菓子等の嗜好食品など中心として広く求められてきている。ひとつの方法として、原料の品種改良により甘み成分を高める方法があるが、この方法では、その原料が安価ではなかったり、入手が容易ではなかったりする場合があった。また、別の方法として、調理方法の工夫により甘みを高める方法があるが、この方法では、一般にその調理が長時間必要であったり、また煩雑な場合があった。また、甘みを高める方法としては、ショ糖などの市販の糖類を添加する方法も考えられるが、こうした甘みの高め方では、食材が有する自然な甘みが感じられるように甘みを高めることは困難であった。
【0008】
また、大豆等の豆類をやわらかい状態となるように調理するためには、水に浸漬する等の前処理が長時間かかったり、その調理にも長時間かかったり、問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−89181号公報
【特許文献2】特開2007−252323号公報
【特許文献3】特開2008−11794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、長時間の加熱調理や、凍結・解凍の反復を伴うことなく、通常の食品と同等の形状を有し、かつ十分に軟化したか、または十分な軟化を達成し得る食品を製造し得る、酵素含有食品の製造方法、および該製造方法によって得られる酵素含有食品を提供することを課題としている。また、本発明は、酵素の作用により、甘みが十分高められたか、または十分甘みが高められ得る食品、あるいは、含水率が十分高められたか、またはその後の加工処理により含水率が高められ得る食品など、有用な成分が生成または増加した食品を提供し得る、酵素含有食品の製造方法、および該製造方法によって得られる酵素含有食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の酵素含有食品の製造方法は、原料食材を減圧処理し、減圧状態を保ちながら、酵素を含有する液体成分と接触させ、次いで昇圧することにより食材内部に酵素を導入する酵素導入工程を有することを特徴としている。
【0012】
このような本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素導入工程より後に、酵素反応工程を有することが好ましく、酵素導入工程と酵素反応工程を同時に行うことも好ましい。
【0013】
本発明の酵素含有食品の製造方法は、酵素導入工程より後に、冷凍工程を有することも好ましい。本発明の酵素含有食品の製造方法は、酵素導入工程に次いで冷凍工程を有し、解凍と同時にまたは解凍後に酵素反応工程を有することが好ましい。
【0014】
酵素反応工程を有する本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素反応工程より後に、冷凍工程を有することも好ましい。
【0015】
本発明の酵素含有食品の製造方法は、酵素導入工程より後に、凍結乾燥工程を有することも好ましく、
酵素導入工程に次いで凍結乾燥工程を有し、戻しと同時にまたは戻し後に酵素反応工程を有することも好ましく、
酵素導入工程に次いで酵素反応工程を有し、その後に凍結乾燥工程を有することも好ましい。
【0016】
酵素反応工程を有する本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素反応工程より後に、酵素失活工程を有することも好ましい。このような酵素含有食品の製造方法では、酵素失活工程の後に、冷凍工程を有することが好ましく、また、酵素失活工程の後に、凍結乾燥工程を有することも好ましい。
【0017】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、原料食材が、冷凍の工程を経ていない食材であることが好ましく、原料食材が、加熱および冷凍の工程をいずれも経ていない食材であることがより好ましい。
【0018】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、減圧処理時の食材周囲圧力が100〜90000Paであることが好ましい。
【0019】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素導入工程において、原料食材の重量に対して、酵素を乾燥重量で0.0005〜2重量%導入することが好ましい。
【0020】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素を含有する液体成分が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、リパーゼよりなる群から選ばれる1種以上の酵素を含有することが好ましい。
【0021】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素を含有する液体成分が、調味料を含有することが好ましい。
【0022】
酵素反応工程を有する本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素反応工程を、酵素を導入した食材を−5〜80℃に保持することにより行うことが好ましく、酵素反応工程を、不酸化雰囲気下で行うことも好ましい。
【0023】
酵素失活工程を有する本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素失活工程を、加熱あるいはマイクロ波照射により行うことが好ましく、また、酵素失活工程が、加熱調理をともなう工程であることも好ましい。
【0024】
本発明の酵素含有食品は、上記本発明の酵素含有食品の製造方法により得られることを特徴としている。
【0025】
このような本発明の酵素含有食品は、老人食、病人食または離乳食であることが好ましい。また、本発明の酵素含有食品は、硬さが5×105N/m2以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の1つの態様によれば、長時間の加熱調理を伴うことなく、見た目が通常の食品と同等であって、十分に軟化したか、または十分な軟化を達成し得る食品を製造し得る、酵素含有食品の製造方法、および該製造方法によって得られる酵素含有食品を提供することができる。本発明の他の態様によれば、長時間の加熱調理を伴うことなく、見た目が通常の食品と同等であって、十分に糖化したか、または十分な糖化を達成し得る食品を製造し得る、酵素含有食品の製造方法、および該製造方法によって得られる酵素含有食品を提供することができる。また、本発明のさらに他の態様によれば、長時間の加熱調理を伴うことなく、見た目が通常の食品と同等であって、十分に含水率が高められたか、またはその後の加工処理により十分な含水率が高め得る食品を製造し得る、酵素含有食品の製造方法、および該製造方法によって得られる酵素含有食品を提供することができる。本発明によれば、酵素の導入工程を短時間で行えるとともに酵素の導入程度を容易に制御でき、所望の軟化程度を容易に達成でき、量産性にも優れる酵素含有食品の製造方法を提供することができる。
【0027】
また、本発明によれば、長時間の加熱処理に伴う栄養成分の減少が抑制され、十分に軟化したか、または十分な軟化を達成し得る酵素含有食品であって、軟化された食品の見た目が通常の食品と同等であって、病人食、老人食、離乳食などに好適な酵素含有食品およびその製造方法を提供することができる。本発明によれば、十分な軟化が達成されたかまたは達成でき、かつ、水戻り特性に優れた凍結乾燥食品である酵素含有食品およびその製造方法を提供することもできる。さらに本発明によれば、十分な軟化を達成し、かつ通常食に近い色調や形状の酵素含有食品を提供することができるため、本発明に係る酵素含有食品を、病人食や老人食として用いる場合には、病人や老人の食事の摂取意欲を向上させ、QOL(Quality of life)を向上させることができる。
【0028】
また、本発明によれば、見た目が通常の食品と同等であって、酵素により原料食品に含まれる成分を糖転化するなどして、十分に甘みが高められたか、または十分に甘みが高められ得る食品を得ることができるので、この食品をさらに加工することにより、原料食材が潜在的に有する、食材本来の自然な甘みが十分高められた、惣菜などの各種加工食品、菓子などの嗜好食品などが製造できる。
【0029】
また、本発明によれば、見た目が通常の食品と同等であって、酵素により原料食品に含まれる成分を分解、例えばタンパク分解するなどして、十分に含水率が高められたか、またはその後の加工処理により十分に含水率が高められ得る食品を得ることができるので、得られた酵素含有食品をさらに加工することにより、含水率が高められた、惣菜などの各種加工食品などが製造できる。
【0030】
このように、本発明によれば、酵素の作用により、原料食材の成分を変化して、有用な成分を生成あるいは増加させることにより、上述のような軟化された食品、甘みが高められた食品、含水率が高められた食品など所望の効果を有する有用な食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施例1〜4(大根への酵素液含浸)における、重量変化率と加圧時間との依存性を示すグラフである。
図2図2は、実施例1〜4(大根への酵素液含浸)における、含浸後の食材中における酵素(乾燥重量)の割合と加圧時間との依存性を示すグラフである。
図3図3は、実施例15および16(リンゴへの酵素液含浸)における、重量変化率と加圧時間との依存性を示すグラフである。
図4図4は、実施例27および28(セロリへの酵素液含浸)における、重量変化率と加圧時間との依存性を示すグラフである。
図5図5は、実施例39および40(マッシュルームへの酵素液含浸)における、重量変化率と加圧時間との依存性を示すグラフである。
図6図6は、実施例51〜58(さつまいもへの酵素液含浸)、および比較例19〜27における、糖度(ブリックス)の処理条件依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0033】
本発明の酵素含有食品の製造方法は、原料食材に酵素を導入する酵素導入工程を少なくとも有する。
【0034】
原料食材としては、特に限定されることなく、生鮮食材、冷凍食材、乾燥食材、凍結乾燥食材、調理済み食品などの食材が挙げられ、これらはそのまま食用とできるものであってもよく、また調理後に食用とできるものであってもよい。
【0035】
本発明では、原料食材として、凍結の工程を経ていない食材であっても好適に用いることができ、加熱および凍結の工程をいずれも経ていない非加熱・非凍結の食材もまた好ましく用いることができる。非加熱・非凍結の食材としては、野菜、肉、魚、果実などの生鮮食品、漬物などの非加熱加工食品等をそのまま、あるいは適宜切断して得られるものを用いることができ、具体的な食材としては、たとえば、大根、じゃがいも、ニンジンなどの根菜類、リンゴ、バナナ、みかん、苺などの果実類、セロリ、レタス、キャベツなどの葉野菜、マッシュルーム、しいたけなどのきのこ類、大豆、小豆、インゲンなどの豆類、豚肉、牛肉、鶏肉などの畜肉類、生鮮魚介類、するめ、乾燥ホタテなどの加工珍味類、フリーズドライ加工された食材などが挙げられる。また、例えば、甘みを高めることなどを目的として用いる、他の具体的な食材としては、さつまいも、じゃがいも、くり、かぼちゃ、とうもろこし、れんこん、米などのでんぷんを有する野菜類なども挙げられる。
【0036】
また、本発明では、原料食材として、凍結後、あるいは凍結解凍後の食材を用いることもできる。たとえば、冷凍形態で移送される野菜、果実、肉、魚などを、凍結したままの状態で、あるいは解凍した状態で、原料として用いることができる。
【0037】
さらに本発明では、加熱後の食材を原料として用いることもできる。ここでいう加熱とは、少なくとも1回、70℃以上などの高温にさらされた状態をいうが、加熱時間は限定されることなく、たとえば0.5秒〜数時間、好ましくは0.5秒〜30分程度とすることができる。本発明で用いる加熱後の原料食材は、表面のみなど食材の一部が加熱されたものであってもよく、全体が加熱されたものであってもよい。本発明では、酵素反応により食材の軟化を行うことができるため、本発明に用いる原料食材は、加熱後のものであっても、軟化上昇を目的とした、長時間の加熱がなされている必要はない。また、本発明では、酵素反応により、糖転化、タンパク分解等の原料成分の分解など原料成分の変化が起り、特定の成分が生成あるいは増加するので、糖度の上昇、含水率の上昇等加熱に伴う所望の変化を目的とした長時間の加熱がなされている必要はない。
【0038】
本発明で用いる原料食材の大きさおよび形状は、酵素導入工程を適用できるものであれば特に限定されるものではなく、目的とする製品の形状を呈していてもよく、また、本発明の製造方法により軟化処理食品を得た後、含水率を高めた食品もしくはその後の加工により含水率を高め得る食品を得た後、または甘みを高めた食品を得た後に、適宜切断するなどして、所望の製品形状および大きさとしてもよい。
【0039】
酵素導入工程は、原料食材を減圧処理し、減圧状態を保ちながら、酵素を含有する液体成分と接触させ、次いで昇圧することによる食材内部に酵素を導入する工程である。この酵素導入工程には、このような操作を達成できる設備をいずれも用いることができるが、減圧処理、液体成分との接触および昇圧を一つの装置で行うことが好ましく、たとえば真空加圧含浸装置を好適に用いることができる。
【0040】
減圧処理は、原料食材を減圧し、原料食材内部の空隙に存在する液体あるいは気体の少なくとも一部が排出される条件の処理であることが望ましく、特に限定されるものではないが、たとえば、減圧処理時の食材周囲圧力が100〜90000Pa、好ましくは1000〜75000Pa、より好ましくは2000〜65000Paとなる程度まで減圧する条件を採用することが望ましい。酸素導入工程においては、減圧処理に次いで、減圧状態を保ちながら、原料食材と酵素を含有する液体成分とを接触させる。酵素を含有する液体成分との接触は、たとえば、減圧処理された原料食材の周囲に液体成分を導入することにより行うことができる。原料食材と酵素を含有する液体成分との接触では、減圧処理された原料食材の全体が液体成分と接触していてもよく、所望の一部分だけが液体成分と接触していてもよいが、原料食材の全体が液体成分と接触していることが好ましい。
【0041】
次いで昇圧を行う。昇圧は、空気、窒素などの不活性ガス、炭酸ガスなどの気体を装置内に導入することにより好適に行うことができる。また、昇圧に用いる気体としては、細菌や夾雑物などを含まないよう、滅菌、フィルター通過などを行ったガスも好ましく用いられ、また食品の酸化等を防止するため、酸素含有量の低いガスも好ましく用いられる。昇圧の程度は特に限定されるものではなく、原料食材内部に酵素を含有する液体成分が所望量導入される条件であればよく、食材周囲圧力がたとえば、0.1〜1MPa、好ましくは0.1〜0.7MPa程度とすることができる。食材あるいは液体成分の種類などにより液体成分を導入しにくい場合や、より多くの液体成分の導入が望まれる場合などには、常圧以上となる圧力まで昇圧することも好ましく、食材周囲圧力が0.1MPa(常圧)〜1MPa、好ましくは0.11MPa〜0.7MPa、より好ましくは0.15〜0.5MPaとなるよう昇圧することができる。
【0042】
液体成分に含有させる酵素としては、原料食材の軟化を促す酵素、原料食材の含水率の向上、もしくは原料食材の加工工程中の含水率の向上を促す酵素、または原料食材の甘みを高め得る酵素など原料食材に含まれる成分を所望の効果をもたらし得る有用な成分に変化して原料食材を改質する酵素いずれも用いることができ、特に限定されるものではなく、食材の種類及び所望の軟化程度に応じて適宜選択して用いることができるが、たとえば、酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)、転移酵素(トランスフェラーゼ)、加水分解酵素(ヒドロラーゼ)、付加脱離酵素(リアーゼ)、異性化酵素(イソメラーゼ)、合成酵素(リカーゼ)などが挙げられる。本発明では、これらの酵素のうち、主に加水分解酵素であるセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、エステラーゼ、グルカナーゼ、グルコシターゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アガラーゼ、ホスファターゼ、リパーゼ、デキストラーゼ、キチナーゼ、グルタミナーゼ、フィターゼなどを好ましく用いることができ、これらのうちでは、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、エステラーゼ、β−グルカナーゼ、β−グルコシターゼ、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、およびグルコアミラーゼなどのアミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、ペプチダーゼ、アガラーゼ、ホスファターゼ、リパーゼ、デキストラーゼがより好ましく、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、パパイン、リパーゼがさらに好ましく用いられる。なお、デンプン含有食材の甘みを高める観点からは、上述の好ましい酵素の中でも、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、およびグルコアミラーゼなどのアミラーゼ等の糖転化酵素が好ましく用いられる。これらの酵素は単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。本発明では、原料食材の種類及び酵素による所望の改質程度を鑑みて、酵素を選択して用いることができる。本発明では、原料食材の改質としては、軟化を目的とすることが好適であるが、原料食材に追熟、糖化などを促し、風味を向上させる目的とすることも好適である。また、本発明では、原料食材の改質としては、甘みを高めることも好適であり、そうした観点からは、糖化を促すことは好適であり、これに加えて、軟化を目的とすること、原料食材に追熟を促すこと、風味を向上させる目的とすることも好適である。さらに本発明では、原料食材の改質としては、含水率を高めることまたはその後の加工工程、たとえば、加熱加工工程、水、調味液等への含浸工程などで含水率を高め得ることも好適であり、そうした観点からは、たとえばタンパクなど、原料食材に含まれる成分を分解することは好適であり、これに加えて、軟化を目的とすること、原料食材に追熟、糖化を促すこと、風味を向上させる目的とすることも好適である。本発明によれば、たとえば、従来の調理法で軟化が困難であった食材をも容易に軟化することができ、食材の特定組織のみの軟化を行うこともできる。たとえば、野菜の繊維部分の軟化、キノコ類の軟化、肉、魚の筋部や骨部の軟化などを、食材の外見を保持した状態で行うこともできる。
【0043】
また、本発明の他の態様によれば、たとえば、甘み成分が高められた高価な原料食材を用いなくとも、あるいは、煩雑で長時間かかる調理方法を経なくとも、原料食材が本来有する自然な甘みを高めた加工食品を製造できる。
【0044】
さらに、本発明の他の態様によれば、たとえば、長時間の前処理、長時間の調理時間を経ることなく、含水率を高めた加工食品、たとえば、加熱調理、水、調味液等に含浸などすることにより含水率を高めた加工食品を製造できる。
【0045】
液体成分の基材は、食用に適したものであればよく、特に限定されるものではないが、たとえば、水、油、アルコールなどを主体とした基材が挙げられ、このうち水または水溶液であることが好ましい。
【0046】
液体成分には、酵素以外の成分が含まれていてもよく、たとえば、塩、しょうゆ、砂糖(ショ糖)、還元水飴、香辛料、化学調味料、みりん、酢、酒類、だし、果汁などの調味料成分、寒天、ゼラチン、ペクチン、デンプンなどの保形成分、香料、着色料、発色剤、保存料などの食品添加成分などを含有することができる。酵素を含有する液体成分が、酵素以外の成分を適量含有している場合には、調味や食品保存性の付与などの添加成分が食材にもたらす直接の効果に加え、浸透圧により原料食材中の水分との置換が容易になり、酵素を含有する液体成分を食材内部まで容易に含浸できる効果を有する場合があり好ましい。
【0047】
液体成分中の酵素およびその他の成分の濃度は、目的に応じたその後の酵素反応時間や温度などによっても異なるが、食材内部に液体成分を導入した際に所望量となる濃度であればよく、特に限定されないが、たとえば、酵素濃度を0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜3重量%程度とすることができる。
【0048】
食材内部への酵素導入量は、食材の種類や特性、酵素の種類、食材の所望軟化程度などにより適宜設定することができるが、通常、原料食材の重量に対して、酵素を乾燥重量で0.0005〜2重量%、好ましくは0.001〜1重量%程度導入するのが望ましい。
【0049】
具体的には、たとえば、生リンゴ等の生果物・生野菜の場合はセルラーゼA「アマノ」3とヘミセルラーゼ「アマノ」90の配合酵素が食材の0.002〜0.3重量%、好ましくは0.01〜0.2重量%となる範囲で、また所望の軟化度合いや食感をより精密に制御する目的として0.0005〜0.2重量%となる範囲で、生マッシュルーム等のキノコ類の場合はセルラーゼA「アマノ」3とヘミセルラーゼ「アマノ」90の配合酵素が食材の0.005〜2重量%、好ましくは0.01〜1重量%となる範囲で、また所望の軟化度合いや食感をより精密に制御する目的として0.001〜1重量%となる範囲で、導入することが望ましい。たとえば、さつまいも等の生果物・生野菜の場合は、クライスターゼT10Sの配合酵素が食材の0.0005〜2重量%、好ましくは0.005〜1重量%となる範囲で導入することが望ましい。たとえば、大豆等の生果物・生野菜の場合は、プロテアーゼA「アマノ」Gの配合酵素が食材の0.0005〜2重量%、好ましくは0.005〜1重量%となる範囲で導入することが望ましい。また、酵素を含有する液体成分の導入量は、食材の種類や特性、食材の所望軟化程度などにもよるが、上述の生リンゴ等の生果物・生野菜の場合5〜50重量%、生マッシュルーム等のキノコ類の場合5〜90重量%である量が望ましい。
【0050】
酵素導入工程を経た食材は、そのまま本発明の酵素含有食品としてもよく、その他の処理工程の一つ以上の工程を経て本発明の酵素含有食品としてもよい。すなわち本発明の酵素含有食品の製造方法は、酵素導入工程のみから構成されてもよく、その他の処理工程を有していてもよい。その他の処理工程としては、特に限定されるものではないが、酵素反応工程、冷凍工程、乾燥工程、凍結乾燥工程、酵素失活工程、調理・調味工程(切断、ブランチング、煮込み、蒸す、焼く、レトルト処理、炒め、茹で、焙り、揚げるなど)、の各種加熱調理及び加熱調理による酵素失活、冷凍解凍、乾燥後の湯戻し、乾燥後の水戻しなどが挙げられる。このうち酵素失活工程は、通常、所望の酵素反応を完了してから行うが、それ以外の工程は任意の段階で任意の回数行うことができ、酵素導入工程に先立って前処理として行ってもよく、酵素導入工程と酵素反応工程との間に行ってもよく、酵素反応工程完了後に行ってもよい。なお上記加熱調理の際に、後述する酵素反応工程が伴う場合もある。また、酵素反応により、タンパク分解等原料食材に含まれる成分を分解した場合には、その後行われる処理工程、たとえば加熱調理などの調理・調味工程、水、調味液等への含浸工程などの際に、大きく含水率の向上が見られる場合がある。
【0051】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素導入工程で原料食材中に導入した酵素を食材中で反応させる酵素反応工程を有することが好ましい。また、本発明の酵素含有食品の製造方法で得られた酵素含有食品は、酵素反応工程を有さない場合には、製品である酵素含有食品を食する前に、食品の少なくとも一部に酵素反応が生じることが好ましい。本発明の酵素含有食品の製造方法における酵素反応工程、あるいは、本発明に係る酵素含有食品内での酵素反応は、前述の酵素導入工程において導入した酵素が食材に対して作用するものであるが、食材の軟化を伴うこと、食材の含水率上昇またはその後の食材の加工により含水率の上昇が伴うこと、食材の甘みが高まることが伴うことなど、原料食材に含まれる成分が変化して、有用な成分が生成または増加することが好ましい。
【0052】
酵素反応工程は、工程の少なくとも一部が、酵素導入工程と同時に行われてもよく、酵素導入工程に続いて行われてもよく、酵素導入工程後に冷凍、冷却、乾燥などの酵素反応を一時的に休止する工程を経た後で行われてもよい。すなわち本発明において酵素反応工程は、酵素導入工程と同時に行う酵素反応(酵素導入工程において進行する酵素反応)のみであってもよく、酵素導入工程と酵素導入工程完了後との両方で行ってもよく、酵素導入工程を低温下などの酵素不活性となる条件下で行い、酵素反応を酵素導入工程完了後のみに行ってもよい。また、酵素反応工程は一段階で行っても多段階で行ってもよく、たとえば、酵素導入工程に続いてある程度の酵素反応を行った後、冷凍などで酵素反応を休止させ、解凍後などに再度酵素反応を行う多段階の反応を行う態様などを採用することができる。酵素反応は、酵素導入工程後に酵素液に浸漬したまま行ってもよく、酵素液から引揚げて行っても良い。
【0053】
酵素反応工程は、酵素反応が生じる温度範囲であればどのような条件で行ってもよいが、通常−5〜80℃、好ましくは5〜65℃程度の温度条件下で行うことができ、好ましくはこのような温度条件下に保持することにより行うことができる。また、例えば食材の甘みを高める場合などには、酵素反応工程の温度範囲としては、通常5〜120℃、好ましくは30〜100℃で行うこともできる。酵素反応工程は、酸化雰囲気下で行ってもよいが、不酸化雰囲気下で行うと、酸化による食材の劣化を好適に抑制することができるため好ましい。不酸化雰囲気とは、気体のない条件や、二酸化炭素や窒素などの酸化反応に不活性な気体雰囲気などが挙げられる。酵素含浸工程や酵素反応工程を不酸化雰囲気で行う場合には、食材の酸化による劣化を防止できるため好ましい。また、上記酵素反応工程は、上記加熱調理工程と同時に行うことも好ましい。
【0054】
酵素反応工程の時間は、所望の軟化程度、甘みの上昇程度、または含水率上昇程度を達成する範囲であればよく、食材および酵素の種類、酵素導入量などにもよるものであって特に限定されるものではないが、酵素反応の総時間が1分〜24時間、好ましくは1分〜6時間、より好ましくは1分〜3時間程度であることが望ましい。
【0055】
酵素反応工程は、酵素反応が生じる圧力範囲内であれば、常圧で行ってもよく、減圧下または加圧下で行ってもよい。
【0056】
本発明の酸素含有食品の製造方法は、酵素失活工程を有していることも好ましい。すなわち本発明に係る酵素含有食品は、酵素が活性を有する状態で含有されていてもよく、失活された状態で含有されていてもよい。酵素失活工程は、酵素反応工程より後に行うことが好ましい。
【0057】
酵素失活工程は、食材内部に導入された酵素を失活させる工程であり、食品としての安全性を損ねず、導入した酵素が失活する条件であればどのような方法で行ってもよいが、たとえば、加熱あるいはマイクロ波照射、酸処理、アルカリ処理、アルコール浸漬などが挙げられ、このうち加熱あるいはマイクロ波照射により好適に行うことができる。加熱あるいはマイクロ波照射による酵素失活工程は、食材の加熱調理を兼ねて行うことができる。加熱調理としては、茹でる、煮る、揚げる、蒸す、焼くなどの公知の加熱調理法をいずれも採用することができる。本発明では酵素が食材内部まで十分に含浸されるため、酵素反応工程においては軟化、タンパク分解、糖化などを伴う酵素反応が食材内部においても十分に達成される。このため加熱調理により酵素失活工程を行う場合であっても、軟化、糖化を目的とした長時間の加熱処理などを行うことなく所望の軟化度合、糖化度合または含水率度合を達成することができ、加熱調理時間を、酵素失活を達成する程度の短時間とすることができる。
【0058】
酵素失活工程は、食材内部に導入された酵素の少なくとも一部が失活する条件で行うことができるが、導入された酵素の実質的に全部が失活する条件で行うことが特に好ましい。本発明の酵素含有食品の製造方法が、酵素失活工程を有する場合には、得られる酵素含有食品が経時的にさらに酵素反応で軟化することを防止し、所望の軟化程度を安定して保持できるため好ましい。また、食材の甘さ、含水率など望ましい特性を所望の程度に安定して保持したい場合も上述の酵素失活工程が好ましい。
【0059】
本発明に係る酵素含有食品の製造方法は、冷凍工程あるいは凍結乾燥工程を有しているのも好ましい。冷凍工程あるいは凍結乾燥工程は、どのタイミングで行ってもよいが、前述した酵素導入工程より後で行うのが好ましい。冷凍工程後の凍結した状態、あるいは凍結乾燥された状態の食材は、性状の安定性や、輸送あるいは品質管理の容易性を有するため好ましい。本発明の酵素含有食品の製造方法において、冷凍工程あるいは凍結乾燥工程は、酵素反応工程に先立って行ってもよく、酵素反応工程の後に行ってもよく、また、酵素反応工程および酵素失活工程の後に行ってもよい。冷凍工程あるいは凍結乾燥工程を、酵素導入工程後、酵素反応工程に先立って行う場合、酵素反応工程は、解凍あるいは戻しと共に行ってもよく、解凍あるいは戻しの後に行ってもよい。
【0060】
本発明の酵素含有食品の製造方法では、酵素の導入工程を短時間で行えるとともに酵素の導入程度を容易に制御でき、軟化、糖化、およびタンパク分解等の原料成分の分解などの酵素作用の効果を所望程度に容易に制御でき、量産性にも優れる。
【0061】
本発明に係る酵素含有食品は、上述した本発明の酵素含有食品の製造方法により得られる。
【0062】
本発明の酵素含有食品は、内部に酵素が導入されているが、酵素は活性を有する状態で内部に導入されたままの状態であってもよく、失活されていてもよい。
【0063】
酵素が失活せずに食品内部に存在する場合には、冷凍状態、乾燥状態、凍結乾燥状態などの、酵素反応が休止した状態で保管されるのが好ましい。これらの場合には、解凍後や水分あるいは調味液での戻しの後に、さらに酵素反応を行って、軟化などの酵素作用を所望の程度施して食することもできる。本発明の酵素含有食品は、製品としては、食材内部に導入された酵素が失活された状態であるか、または酵素反応が休止した状態であることが好ましい。
【0064】
本発明の酵素含有食品は、その軟化などの酵素作用の程度を特に限定するものではないが、老人食、病人食あるいは離乳食の用途に用いる場合には、各段階で所望される軟化程度とすることが好ましい。具体的にはたとえば、各段階に応じての、日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード区分、ベビーフード協議会による規格などを満たす軟化程度とすることができる。本発明の酵素含有食品は、特に限定されるものではないが、たとえばその硬さを、5×105N/m2以下、好ましくは5×102〜5×105N/m2、より好ましくは1×103〜5×104N/m2程度とすることができる。本発明に係る酵素含有食品は、摂取時における硬さがこのような範囲であることが好ましく、この場合には、咀嚼、嚥下が容易で老人食、病人食、離乳食などの用途にも好適であるとともに、食品本来の形状を保持することもできるため、見た目を向上させて食欲を増進するなど、QOLに寄与できるため好ましい。なお、本発明において、食品の硬さとは破断強度を意味する。
【0065】
また、本発明の酵素含有食品は、その甘みの上昇、例えば糖度の上昇などの酵素作用の程度を特に限定するものではなく、例えば、惣菜などの各種加工食品、菓子などの嗜好食品などの用途に応じた所望の糖度(ブリックス)程度とすることが望ましい。本発明の酵素含有食品は、甘み成分が高められた高価な原料食材を用いなくとも、あるいは煩雑で長時間かかる調理方法を経なくとも、原料食材が本来有する自然な甘みを高めた食品を提供でき、惣菜などの各種加工食品、また菓子などの嗜好食品用途などに好適である。
【0066】
また、本発明の酵素含有食品は、その含水率の上昇、またはその食品を原料とした加工食品の含水率の上昇などの酵素作用の程度を特に限定するものではなく、例えば、惣菜などの各種加工食品などの用途に応じた、所望の含水率上昇とすることができる。本発明に係る酵素含有食品は、長時間かかる調理方法を経なくとも、含水率が高められた、特に加工過程で含水率が高められた結果感じられる、柔らかさ、しっとり感などが高められる、あるいは高められ得るので、惣菜などの各種加工食品用途に好適である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
以下の実施例および比較例において、破断強度および保形性は、次のようにして測定あるいは評価した。
【0069】
<破断強度測定>
破断強度(単位:×104N/m2)の測定は、山電製卓上型物性測定器TPUを用い、以下の形状とした測定試料について、平成6年2月23日付けの厚生労働省(旧厚生省)の「高齢者用食品の表示許可の取扱いについて」と題された「各都道府県・各政令市・各特別衛生主管部(局)長あて厚生省生活衛生局食品保健課新開発食品保健対策室長通知」に記載の「高齢者用食品の試験方法」に準拠して下記条件にて測定した。なお、プランジャーとしては、特に記載のない限りは厚労省基準通り直径20mmのものを、破断強度が高くこの条件の測定が困難なサンプル(マッシュルームの測定の一部)については直径3mmのものをそれぞれ用いて測定を行った。測定値は各3回測定した平均値を採用した。
1)試料サイズ
・大根:厚さ15mm
・りんご:厚さ15mm
・セロリ:
A) 断面から縦方向に測定
B) 表面から測定
・マッシュルーム:縦方向に2分割し、表面から中心部の軸部分を外して測定
2)測定ポイント:なるべく中心部
3)プランジャーサイズ:直径20mmまたは3mm
4)破断スピード:10mm/sec
5)クリアランス:凝集率70%
<保形性>
保形性は、目視により次の基準で評価した。
【0070】
5:生と同等 離水殆ど無し
4:少し角が取れて、変形が生じ始めている程度。ほぼ生と同等。離水殆ど無し
3:角が取れるなどして変形が生じ、素材が柔らかく自重でへたってみえるものの、全体としての形状は維持している。一般的な煮物やブランチした状態と同等。離水が若干生じ始めている状態。
【0071】
2:明らかな変形が生じ、自重に耐えられず元の体積の半分以上へたっている。明らかに離水が発生している状態。
【0072】
1:原型を留めていないほど自重で潰れたりしている。著しい離水が生じている状態。
【0073】
[実施例1]
生の大根(直径約7cm)を、3cm厚さに輪切りし、皮をむいたものを原料食材として用い、これを15×15cmのステンレス製バスケットに並べ、バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定して、これを16×16cmのステンレス製容器(内タンク)内にいれた。このステンレス製容器を真空加圧含浸装置((株)エフコム製)内に設置し、真空排気を行い、装置内を6000Paまで減圧し、そのまま3分間排気を継続した後、原料食材が完全に浸漬されるまで、45℃に加温した酵素液a(約2リットル)をタンク内に導入した。ここで、酵素液aとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.25重量%と、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.25重量%とを含有する酵素液(酵素製剤濃度0.5重量%)を、酵素および水を攪拌混合することにより調製して用いた。
【0074】
なお、酵素液の調製に用いたアマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」は、酵素製剤中の酵素含有率が28.0%、力価30,000(u/g)の酵素製剤であり、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」は酵素製剤中の酵素含有率が60.0%、力価90,000(u/g)の酵素製剤であって、本実施例における酵素濃度は酵素製剤濃度である。
【0075】
酵素液aの導入後、真空加圧含浸装置内をエアパージして大気圧(0.1MPa)まで昇圧した。このとき装置内の酵素液温度は約40℃であった。続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.3MPaで30分間保持した(加圧時間:30分間)。このとき装置内の酵素液温度は約39℃に保たれていた。次いでエアパージして含浸処理を完了し、装置より酵素液が含浸された食材を取り出した。
【0076】
酵素液aを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して16.2%増加し、含浸前重量の116.2重量%となった。
【0077】
このようにして酵素液が含浸された食材について、含浸直後、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後に、破断強度および保形性を評価した。結果を表1に示す。なお、含浸直後の食材では、含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。
【0078】
また、実施例1において、加圧時間を1分、3分とした以外は上記と同様にして酵素液を含浸した場合の重量変化率を図1のグラフに、酵素の含有率(含浸後の食材中における酵素(乾燥重量)の割合)を図2のグラフに、それぞれ加圧時間30分の場合とともに示す。
【0079】
[実施例2〜4]
実施例1において、酵素液aに代えて、酵素液b(実施例2)、酵素液c(実施例3)または酵素液d(実施例4)を用いたことの他は、実施例1と同様にして原料食材であるカット済み大根に各酵素液を含浸した。
【0080】
ここで、酵素液bとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.5重量%と、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.5重量%とを含有する酵素液(酵素製剤濃度1.0重量%)を、
酵素液cとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.25重量%、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.25重量%、および濃縮調味料(テンヨのだしつゆ「ビミサン」、(株)テンヨ武田製)20重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.5重量%)を、
酵素液dとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.5重量%、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.5重量%、および濃縮調味料(テンヨのだしつゆ「ビミサン」、(株)テンヨ武田製)20重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度1.0重量%)をそれぞれ用いた。これらの酵素液の調製は、酵素、水および必要に応じて調味成分を攪拌混合することにより行った。
【0081】
このようにして酵素液が含浸された各食材について、含浸直後、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後に、破断強度および保形性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
また、実施例2〜4において、加圧時間を1分、3分とした以外は上記と同様にして酵素液を含浸した場合の重量変化率を図1のグラフに、酵素の含有率(含浸後の食材中における酵素(乾燥重量)の割合)を図2のグラフに、それぞれ加圧時間30分の場合とともに示す。
【0083】
これらの結果より、酵素液aを用いた実施例1と、酵素液bを用いた実施例2では、加圧時間を長くすると、含浸による重量変化率が高くなる傾向が確認された。一方、酵素液cを用いた実施例3と、酵素液dを用いた実施例4とでは、含浸による重量変化率は酵素液a、bを用いた実施例1、2の場合よりも明らかに低く、また加圧時間30分間では重量変化率がマイナスに転じた。これは、酵素液c、dには濃縮調味料(テンヨのだしつゆ「ビミサン」、(株)テンヨ武田製)が含まれ、その浸透圧が、実験を行った45℃にてc、d共に約2,000Pa程度あるものと推量され、よって含浸処理により満遍なく食品に染み渡った調味成分を含む酵素液の浸透圧の作用で食材中の水分が食材外部へ置換流出し、酵素液が導入された量以上に流出した水分量が多かったことが原因と考えられる。
【0084】
【表1】
【0085】
[比較例1]
実施例1で用いたのと同様の原料食材(カット済み大根)について、95℃の湯中で13分間ブランチング処理し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。ここで、ブランチング処理とは〔1〕15×15cmのステンレス製バスケットに並べる 〔2〕バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定する 〔3〕16×16cmのステンレス製容器に2Lの水を入れて95℃にしたところに投入する処理であり、以下の実施例および比較例においても同様である。結果を表2に示す。
【0086】
[比較例2]
実施例1で用いたのと同様の原料食材(カット済み大根)について、95℃の湯中で13分間ブランチング処理し、次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、これを水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表2に示す。
【0087】
[比較例3]
実施例1で用いたのと同様の原料食材(カット済み大根)について、95℃の調味液(テンヨのだしつゆ「ビミサン」((株)テンヨ武田製)20重量%水溶液)中で13分間ブランチング処理し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表2に示す。
【0088】
[比較例4]
実施例1で用いたのと同様の原料食材(カット済み大根)について、95℃の調味液(テンヨのだしつゆ「ビミサン」((株)テンヨ武田製)20重量%水溶液)中で13分間ブランチング処理し、次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、これを水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表2に示す。
【0089】
[比較例5]
実施例1で用いたのと同様の原料食材(カット済み大根)について、95℃の湯中で13分間ブランチング処理し、次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、これを水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍し、さらに45℃に加温して60分間保持し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
大根を原料とした実施例1〜4の結果より、これらの実施例すべてにおいて、酵素反応時間を延ばすほど破断強度が低下し、食材が軟化されたことが確認された。また、酵素濃度が高い方が、破断強度が低く、より軟化された食材が得られることが確認された。
【0092】
酵素濃度および含浸操作が同じ場合には、調味成分(塩分、糖分等)を含む酵素液を用いたほうが、含浸後の重量が減少し、破断強度が低く、より軟化された食材が得られることが確認された。これは浸透圧により含浸が行われると同時に食材自体の水分が外に出て、内部の酵素濃度が高めになったためではないかと考えられる。
【0093】
実施例1〜4で得られた軟化大根は、実施例1で含浸直後のもの(酵素濃度が低く、調味成分を含まない酵素液を用いて得られ、酵素反応時間が短かったもの)以外のいずれもが、酵素含浸処理を行わずにブランチを行ったもの(比較例1)および、ブランチング処理後冷凍解凍したもの(比較例2)よりも破断強度が低く、高度に軟化されていた。保形性は酵素濃度が高いほど、また調味液未添加よりも添加したほうが、また酵素反応時間が長くなるほど損なわれることが判ったが、酵素濃度が高く調味成分を含む酵素液dを用いた実施例4中の酵素反応時間が180分以上と長いもの以外は、外観として損傷のない「評価3」以上だった。
【0094】
以上より、本発明(実施例1〜4)では、内側から均一に酵素反応させることにより、ブランチングのみを行った大根(比較例1)と同等の保形性を維持した状態で、所望の軟化度合を達成でき、含浸する酵素液と、含浸時およびその後の酵素反応の制御によって、軟化度合を適宜調節できることがわかった。
【0095】
[実施例5]
実施例1と同様にして、カット済み大根に前記酵素液aを含浸し、酵素反応をそれぞれ0分(含浸直後。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。)、90分、180分、360分行った。次いでそれぞれ95℃以上の水に13分間浸漬することにより加熱調理して酵素失活を行い、取り出して常温まで放冷して処理食材を得た。得られた処理食材について実施例1と同様にして破断強度および保形性を評価した。結果を表3に示す。
【0096】
[実施例6〜8]
酵素液aに代えて、前記酵素液b(実施例6)、前記酵素液c(実施例7)または前記酵素液d(実施例8)を用いたことの他は、実施例5と同様にして酵素含浸、酵素反応、酵素失活、および放冷を行って処理食材を製造し、それぞれについて破断強度および保形性を評価した。結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
実施例5〜8の結果より、酵素液含浸、酵素反応、および加熱調理による酵素失活によって、ブランチングのみを行った大根と同等の保形性を保持した状態で、食材の内側から均一に酵素反応させることで食材を軟化並びにその度合いを調節できることがわかると同時に、加熱調理による酵素失活工程によっても著しく保形性を損なうことがなく、安定した性状の軟化食品を提供できることがわかった。
【0099】
[実施例9]
実施例5と同様にして、カット済み大根に前記酵素液aを含浸し、酵素反応をそれぞれ0分(含浸直後。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。)、90分、180分、360分行った後、それぞれ加熱調理による酵素失活を行った。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、これを水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍し、それぞれ実施例1と同様にして破断強度および保形性を評価した。結果を表4に示す。
【0100】
[実施例10〜12]
酵素液aに代えて、前記酵素液b(実施例10)、前記酵素液c(実施例11)または前記酵素液d(実施例12)を用いたことの他は、実施例9と同様にして酵素含浸、酵素反応、酵素失活、および凍結・解凍を行い、それぞれについて破断強度および保形性を評価した。結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
実施例9〜12の結果より、酵素液含浸、酵素反応、加熱調理による酵素失活、および冷凍・解凍によって、食材内部で均一に酵素反応軟化した食材を冷凍解凍工程で更に軟化させつつ、形状保持並びにその度合いを調節できることがわかった。
【0103】
[実施例13、14]
実施例1と同様にして、カット済み大根に前記酵素液a(実施例13)または前記酵素液b(実施例14)を含浸し、含浸完了直後にこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、ナイロンポリ袋ごと試料を水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍した。解凍完了後、ナイロンポリ袋ごと試料を45℃湯浸加温して保持する酵素反応を、それぞれ0分(解凍直後)、30分、60分、90分および120分行い、実施例1と同様にして破断強度および保形性を評価した。結果を表5に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
酵素液含浸、冷凍・解凍、およびその後の酵素反応を行った実施例13および14の結果より、冷凍状態で酵素活性を一旦休止した食材について、解凍後に酵素反応を行うことで食材を軟化させつつ、形状保持並びにその度合いを調節できることがわかった。酵素反応の前に冷凍解凍を行うことで食材組織が破壊される。よってその後の酵素反応による組織分解の効率が高まったものと思われる。
【0106】
[実施例15、16]
生のリンゴ(品種:サンフジ)を、皮むきし、縦1/4に切断し、20mm厚さの銀杏切りにしたカット済みリンゴを原料食材として用い、酵素液aに代えて酵素液e(実施例15)またや酵素液f(実施例16)を用いたことの他は実施例1と同様にして加圧時間30分で酵素液を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。
【0107】
ここで、酵素液eとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.1重量%、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.1重量%、およびショ糖10重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.2重量%)を、
酵素液fとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」0.2重量%、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」0.2重量%、およびショ糖10重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.4重量%)をそれぞれ用いた。
【0108】
実施例15において酵素液eを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して40.1重量%増加し、また、実施例16において酵素液fを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して35.8重量%増加していた。
【0109】
このようにして酵素液が含浸された各食材について、含浸直後、および、含浸終了後に45℃にて20分、40分および60分保持して酵素反応させた後に、破断強度および保形性を評価した。結果を表6に示す。
【0110】
また、実施例15および16において、加圧時間を1分、3分とした以外は上記と同様にして酵素液を含浸した場合の重量変化率を図3のグラフに、加圧時間30分の場合とともに示す。
【0111】
【表6】
【0112】
[比較例6](比較用リンゴ食品の製造)
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)95℃の10重量%ショ糖水溶液中で5分間ブランチング処理し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表7に示す。
【0113】
[比較例7](比較用リンゴ食品の製造)
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)95℃の10重量%ショ糖水溶液中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表7に示す。
【0114】
[比較例8]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、95℃の10重量%ショ糖水溶液中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表7に示す。
【0115】
[比較例9]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、95℃の10重量%ショ糖水溶液中で5分間ブランチング処理し、次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)リンゴを得た。ここで、FD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合)は16.7%であった。
【0116】
得られたFDリンゴを水戻しし、破断強度および保形性を評価した。結果を表7に示す。
【0117】
ここで水戻しは、ボールに300ccの水道水(18℃)をそそぎ、そこに水戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、3分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0118】
水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、467%であった。
【0119】
[比較例10]
比較例9と同様にして得たFDリンゴを湯戻しし、破断強度および保形性を評価した。結果を表7に示す。
【0120】
ここで湯戻しは、ボールに300ccの熱湯をそそぎ、そこに湯戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、3分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0121】
湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、387%であった。
【0122】
【表7】
【0123】
実施例15および16の結果より、酵素液含浸後の酵素反応時間を延ばすにつれて、軟化が進み破断強度が小さくなることがわかり、酵素濃度の高い実施例16では、保形性の評価が2以下と形状が保持されないほどに軟化が進んだことがわかった。これより、酵素濃度および酵素反応時間を制御することによって、軟化程度および形状維持程度を制御でき、所望の軟化程度および形状を達成できることがわかった。
【0124】
また、実施例15および16と、比較例6〜10の結果より、酵素液を含浸し、酵素反応を行う本発明では、食材の内側から均一に酵素反応させることにより、ブランチングしたリンゴまたはブランチング後に冷凍解凍したリンゴと同等の形状を保持した状態で、食材を所望の程度軟化することができることがわかった。
【0125】
[実施例17]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、実施例15と同様に前記酵素液eを含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて20分、40分および60分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の10%ショ糖液に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷して処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表8に示す。
【0126】
[実施例18]
実施例17において、酵素液eを用いる代わりに、前記酵素液fを用いたことの他は、実施例17と同様にして処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表8に示す。
【0127】
【表8】
【0128】
実施例17および18より、酵素液を含浸し、酵素反応した後、加熱調理による酵素失活を行うことによって、食材の内側から均一に酵素反応させることにより、ブランチングのみを行ったリンゴと同等の保形性を保持した状態で、食材を所望の程度軟化することができることがわかった。酵素反応後の段階で保形性を保っているものは、加熱調理による酵素失活工程によって著しく保形性を損なうことはなかった。
【0129】
[実施例19]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、実施例15と同様に前記酵素液eを含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて20分、40分および60分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の10%ショ糖液に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表9に示す。
【0130】
[実施例20]
実施例19において、酵素液eを用いる代わりに、前記酵素液fを用いたことの他は、実施例19と同様にして処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表9に示す。
【0131】
【表9】
【0132】
実施例19および20より、酵素液を含浸し、食材の内側から均一に酵素反応した後、加熱調理による酵素失活を行い、さらに冷凍・解凍することによって、ブランチングのみを行ったリンゴと同等の保形性を保持した状態で、食材を所望の程度軟化することができることがわかった。酵素反応後の段階で保形性を保っているものは加熱調理による酵素失活工程および冷凍・解凍工程によっては、著しく保形性を損なうことはなかった。
【0133】
[実施例21]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、実施例15と同様に前記酵素液eを含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いでナイロンポリ袋ごと試料を水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍した。解凍完了後、ナイロンポリ袋ごと試料を45℃湯浸加温して保持する酵素反応を、それぞれ0分(解凍直後)、20分、40分および60分間行い処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表10に示す。
【0134】
[実施例22]
実施例21において、酵素液eを用いる代わりに、前記酵素液fを用いたことの他は、実施例21と同様にして処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表10に示す。
【0135】
【表10】
【0136】
実施例21および22より、酵素液を含浸し、冷凍・解凍した後に酵素反応を行うことによって、食材の内側から均一に酵素反応させることにより、ブランチングおよび冷凍・解凍を行ったリンゴと同等の保形性を保持した状態で、食材を所望の程度軟化することができることがわかった。これらの結果は、酵素反応後に冷凍・解凍したものよりも破断強度が低いものであって、より軟化が進んでいることが分かった。酵素反応の前に冷凍解凍を行うことで食材組織が破壊される、よってその後の酵素反応による組織分解の効率が高まったものと思われる。
【0137】
[実施例23]
実施例15で用いたのと同様の原料食材(カット済みリンゴ)について、実施例15と同様に前記酵素液eを含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて20分、40分および60分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の10%ショ糖液に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)リンゴを得た。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表11に示す。
【0138】
得られたFDリンゴを水戻しし、破断強度および保形性を評価した。結果を表11に示す。また、水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を表11にあわせて示す。
【0139】
ここで水戻しは、ボールに300ccの水道水(18℃)をそそぎ、そこに水戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、3分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0140】
[実施例24]
実施例23において、酵素液eを用いる代わりに、前記酵素液fを用いたことの他は、実施例23と同様にしてFDリンゴを製造した。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表11に示す。得られたFDリンゴを実施例23と同様に水戻しし、破断強度および保形性を評価した。また、水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を求めた。結果を表11に示す。
【0141】
[実施例25]
実施例23と同様にして酵素液eを用いて得たFDリンゴを湯戻しし、破断強度および保形性を評価した。結果を表11に示す。また、湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を表11にあわせて示す。
【0142】
ここで湯戻しは、ボールに300ccの熱湯をそそぎ、そこに湯戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、3分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0143】
[実施例26]
実施例24と同様に酵素液fを用いて得たFDリンゴを、実施例25と同様に湯戻しし、破断強度、保形性および戻し重量変化率を評価した。結果を表11に示す。
【0144】
【表11】
【0145】
実施例23〜26より、酵素液を含浸し、酵素反応、酵素失活した後に凍結乾燥して得た処理食材は、酵素含浸を行わずにブランチング後に凍結乾燥したもの(比較例9、10)と比較して、形状を保持した状態で同等もしくはそれ以下の破断強度まで軟化できることがわかった。また、酵素含浸のない比較例9と比較して、同条件での凍結乾燥によるFD歩留りが低かった。このことは、酵素液を含浸し、食材の内側から均一に酵素反応したことで食材中の繊維などが加水分解された分、より高度に乾燥されたFD食材が得られたことが分かった。さらに実施例23〜26で得られたFD食材は、水戻りあるいは湯戻りがスムーズで戻り速度が速く、中心部まで素早く均一な戻りが見られ、戻り特性に優れていた。尚、戻り重量変化率については酵素濃度の低い酵素液を用いた実施例23、25ではそれぞれ比較例9、10よりも同等若しくはそれ以上の傾向が確認され、酵素濃度の高い酵素液を用いた実施例24、25ではそれぞれ比較例9、10よりも同等若しくはそれ以下の傾向が確認された。酵素反応を伴う加水分解が促進され、かつ保形性が維持された実施例23、25では加水分解の分戻り重量変化が高くなり、高濃度のため酵素による加水分解が進みすぎた24、26では保形性が損なわれたため、その分戻り重量変化が低かったと思われる。戻り後の破断強度および保形性の結果より、酵素含浸後に凍結乾燥した実施例のFDリンゴでは、ブランチング後に凍結乾燥したものと同等の保形性を維持した状態で、軟化程度を制御できることがわかった。
【0146】
[実施例27]
生のセロリを長さ3cmに切断したものを原料食材として用い、これを15×15cmのステンレス製バスケットに並べ、バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定して、これを16×16cmのステンレス製容器(内タンク)内にいれた。このステンレス製容器を真空加圧含浸装置((株)エフコム製)内に設置し、真空排気を行い、装置内を6000Pa以下まで減圧し、そのまま3分間排気を継続した後、原料食材が完全に浸漬されるまで、45℃に加温した前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)約2リットルをタンク内に導入した。
【0147】
酵素液bの導入後、真空加圧含浸装置内をエアパージして大気圧まで昇圧し、続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.3MPaで30分間保持した(加圧時間:30分)。このとき装置内の酵素液温度は約39℃に保たれていた。次いでエアパージして含浸処理を完了し、装置より酵素液が含浸された食材を取り出した。
【0148】
酵素液bを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して6.7%増加し、含浸前重量の106.7重量%となった。
【0149】
このようにして酵素液が含浸された食材について、含浸直後、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後に、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表12に示す。なお、含浸直後の食材では、含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。
【0150】
[実施例28]
実施例27において、酵素液bに代えて、酵素製剤濃度が2.0%の酵素液gを用いたことの他は、実施例27と同様にしてセロリに酵素液を含浸した。ここで、酵素液gとしては、アマノエンザイム製のセルラーゼA「アマノ3」1.0重量%と、アマノエンザイム製のヘミセルラーゼ「アマノ90」1.0重量%とを含有する酵素液を、酵素および水を攪拌混合することにより調製して用いた。
【0151】
酵素液gを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して5.4%増加し、含浸前重量の105.4重量%となった。
【0152】
このようにして酵素液が含浸された食材について、実施例27と同様に評価した。結果を表12に示す。
【0153】
また、実施例27および28において、加圧時間を1分、3分とした以外は上記と同様にして酵素液を含浸した場合の重量変化率を図4のグラフに、加圧時間30分の場合とともに示す。
【0154】
【表12】
【0155】
[比較例11]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)を、95℃の湯中で5分間ブランチング処理し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表13に示す。
【0156】
[比較例12]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)を、95℃の湯中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材について、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表13に示す。
【0157】
[比較例13]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)を、95℃の湯中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)セロリを得た。FD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))は7.3%であった。
【0158】
得られたFDセロリを水戻しし、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表13に示す。
【0159】
ここで水戻しは、ボールに300ccの水道水(18℃)をそそぎ、そこに水戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、10分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0160】
水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、895%であった。
【0161】
[比較例14]
比較例13と同様にして得たFDセロリを湯戻しし、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表13に示す。
【0162】
ここで湯戻しは、ボールに300ccの熱湯をそそぎ、そこに湯戻しするFD試料を入れ(押し沈めたりはしない)、3分間静置した後、ネット状の篩にあけることにより行った。
【0163】
湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、990%であった。
【0164】
【表13】
【0165】
実施例27,28および比較例11〜14より、実施例ではいずれも保形性が良好で、酵素反応時間を延ばすほど破断強度が低下して軟化が進行し、酵素濃度の高い方がより軟化の程度が高いことが確認された。以上より、実施例27,28では、酵素液の含浸およびその後の酵素反応によって、内側まで均一に酵素反応が生じ、ブランチングまたはブランチング後に冷凍解凍して軟化したセロリ(比較例11,12)と同等の形状を保持した状態で、適宜軟化の度合いを調節してセロリ食材を軟化できることが分かった。
【0166】
[実施例29]
実施例27と同様にして、カット済みセロリに前記酵素液bを含浸し、酵素反応をそれぞれ0分(含浸直後。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。)、90分、180分、360分行った。次いでそれぞれ95℃以上の水に6分間浸漬することにより加熱調理して酵素失活を行い、取り出して常温まで放冷して処理食材を得た。得られた処理食材について実施例27と同様にして、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表14に示す。
【0167】
[実施例30]
実施例29において、酵素液bに代えて、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例29と同様にして酵素含浸、酵素反応、酵素失活、および放冷を行って処理食材を製造し、外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表14に示す。
【0168】
【表14】
【0169】
実施例29および30の結果より、酵素液の含浸およびその後の酵素反応によって、内側まで均一に酵素反応が生じ、ブランチングまたはブランチング後に冷凍解凍して軟化したセロリ(比較例11,12)と同等の形状を保持した状態で、適宜軟化の度合いを調節してセロリ食材を軟化できることが分かった。また、加熱調理による酵素失活工程によっても著しく保形性を損なうことがなく、安定した性状の軟化食品を提供できることが分かった。
【0170】
[実施例31]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)について、実施例27と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の水に6分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表15に示す。
【0171】
[実施例32]
実施例31において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例31と同様にして処理食材を得た。得られた処理食材の外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表15に示す。
【0172】
【表15】
【0173】
実施例31および32より、酵素液を含浸し、食材の内側から均一に酵素反応した後、加熱調理による酵素失活を行い、さらに冷凍・解凍することによって、ブランチングのみを行ったセロリと同等の保形性を保持した状態で、食材を所望の程度軟化することができることがわかった。加熱調理による酵素失活工程および冷凍・解凍工程によっては、著しく保形性を損なうことはなかった。
【0174】
[実施例33]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)について、実施例27と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。含浸完了直後にこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いでナイロンポリ袋ごと試料を水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍した。解凍完了後、ナイロンポリ袋ごと試料を45℃湯浸加温して保持する酵素反応を、それぞれ0分(解凍直後)、30分、60分、90分および120分行い、処理食材を得た。得られた処理食材の外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表16に示す。
【0175】
[実施例34]
実施例33において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例33と同様にして処理食材を得た。得られた処理食材の外皮および断面の破断強度と、保形性とを評価した。結果を表16に示す。
【0176】
【表16】
【0177】
[実施例35]
実施例27で用いたのと同様の原料食材(カット済みセロリ)について、実施例27と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の水に6分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。
【0178】
これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)セロリを得た。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表17に示す。
【0179】
得られたFDセロリを比較例13と同様に水戻しし、外皮および断面の破断強度、保形性、および水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を評価した。結果を表17に示す。
【0180】
[実施例36]
実施例35において、酵素液bに代えて、酵素製剤濃度が2.0%の前記酵素液gを用いたことの他は、実施例35と同様にしてFDセロリを得た。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表17に示す。得られたFDセロリを比較例13と同様に水戻しし、外皮および断面の破断強度、保形性、および水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を評価した。結果を表17に示す。
【0181】
[実施例37]
実施例35と同様にして酵素液bを用いて得たFDセロリを、比較例14と同様に湯戻しし、外皮および断面の破断強度、保形性、および湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を評価した。結果を表17に示す。
【0182】
[実施例38]
実施例36と同様にして前記酵素液gを用いて得たFDセロリを、比較例14と同様に湯戻しし、外皮および断面の破断強度、保形性、および湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を評価した。結果を表17に示す。
【0183】
【表17】
【0184】
酵素を導入し、酵素反応後にフリーズドライを行った実施例35〜38では、水戻しまたは湯戻し後にいずれも十分な軟化が確認され、比較例13,14の結果と比較して戻し重量変化率が高く、水または湯による戻り特性が良好であることがわかった。重量変化率が比較例13、14と比較して明らかに高かった実施例35〜37では、酵素液を含浸し、食材の内側から均一に酵素反応したことで食材中の繊維などが加水分解され、かつその時良好な保形性を維持していた分重量変化率が高くなったと思われ、高濃度の酵素液及び高温の湯を戻しに用いた実施例38では保形性が低下した分重量変化率が低くなる傾向が確認されたものと思われる。
【0185】
[実施例39]
生のマッシュルーム(ホールのまま)を原料食材として用い、これを15×15cmのステンレス製バスケットに並べ、バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定して、これを16×16cmのステンレス製容器(内タンク)内にいれた。このステンレス製容器を真空加圧含浸装置((株)エフコム製)内に設置し、真空排気を行い、装置内を6000Pa以下まで減圧し、そのままさらに3分間排気を継続した後、原料食材が完全に浸漬されるまで、45℃に加温した前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)約2リットルをタンク内に導入した。
【0186】
酵素液bの導入後、真空加圧含浸装置内をエアパージして大気圧(0.1MPa)まで昇圧した。このとき装置内の酵素液温度は約40℃であった。続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.3MPaで30分間保持した(加圧時間:30分)。このとき装置内の酵素液温度は約39℃に保たれていた。次いでエアパージして含浸処理を完了し、装置より酵素液が含浸された食材を取り出した。
【0187】
酵素液bを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して83.6%増加し、含浸前重量の183.6重量%となった。
【0188】
このようにして酵素液が含浸された食材について、含浸直後、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後に、破断強度および保形性を評価した。ここで、破断強度の測定は、直径3mmのプランジャーを用いて行った。結果を表18に示す。なお、含浸直後の食材では、含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。
【0189】
[実施例40]
実施例39において、酵素液bに代えて、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例39と同様にしてマッシュルームに酵素液を含浸した。酵素液gを含浸した後の重量は、含浸前重量と比較して89.6%増加し、含浸前重量の189.6重量%となった。
【0190】
このようにして酵素液が含浸された食材について、実施例39と同様に評価した。結果を表18に示す。
【0191】
また、実施例39および40において、加圧時間を1分、3分とした以外は上記と同様にして酵素液を含浸した場合の重量変化率を図5のグラフに、加圧時間30分の場合とともに示す。
【0192】
【表18】
【0193】
[比較例15]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームを原料食材とし、これを95℃の湯中で5分間ブランチング処理し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。破断強度試験には、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いた。結果を表19に示す。
【0194】
[比較例16]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームを原料食材とし、95℃の湯中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて30分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材について、破断強度および保形性を評価した。破断強度試験には、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いた。結果を表19に示す。
【0195】
[比較例17]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームを原料食材とし、95℃の湯中で5分間ブランチング処理した。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)マッシュルームを得た。FD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))は10.7%であった。
【0196】
得られたFDマッシュルームを比較例9と同様にして水戻しし、破断強度および保形性を評価した。破断強度試験には、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いた。結果を表19に示す。
【0197】
水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、629%であった。
【0198】
[比較例18]
比較例17と同様にして得られたFDマッシュルームを、比較例10と同様に湯戻しし、破断強度および保形性を評価した。破断強度試験には、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いた。結果を表19に示す。
【0199】
湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)は、611%であった。
【0200】
【表19】
【0201】
[実施例41]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームについて、実施例39と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の水に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷して処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。ここで、破断強度の測定は、直径3mmのプランジャーを用いて行った。結果を表20に示す。
【0202】
[実施例42]
実施例41において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例41と同様にして処理食材を製造し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表20に示す。
【0203】
【表20】
【0204】
[実施例43]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームについて、実施例39と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の水に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いで水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍し、処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。ここで、破断強度の測定は、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いて行った。結果を表21に示す。
【0205】
[実施例44]
実施例43において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例43と同様にして処理食材を製造し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表21に示す。
【0206】
【表21】
【0207】
[実施例45]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームについて、実施例39と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。これをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させ、次いでナイロンポリ袋ごと試料を水道水(18℃)流水下にて60分間で解凍した。解凍完了後、ナイロンポリ袋ごと試料を45℃湯浸加温して保持する酵素反応を、それぞれ0分(解凍直後)、30分、60分、90分および120分行い処理食材を得た。得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。ここで、破断強度の測定は、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いて行った。結果を表22に示す。
【0208】
[実施例46]
実施例45において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例45と同様にして処理食材を製造し、得られた処理食材の破断強度および保形性を評価した。結果を表22に示す。
【0209】
【表22】
【0210】
[実施例47]
実施例39で用いたのと同様のマッシュルームについて、実施例39と同様に前記酵素液b(酵素製剤濃度1.0%)を含浸した。含浸工程において加圧状態を30分間保持する間には、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。酵素液含浸直後の食材、および、含浸終了後に45℃にて90分、180分および360分保持して酵素反応させた後の食材を、95℃以上の水に5分間浸漬して加熱調理することにより酵素失活を行い、取り出して放冷した。次いでこれをナイロンポリ袋に入れて軽く空気を抜き、シール後に−25℃のフリーザー内に入れ、24時間以上保持して内部まで完全に凍結させた。これを真空凍結乾燥用トレーに並べ、真空凍結乾燥装置(東洋技研製 TFD50LF4)中に導入し、棚温度45℃×48時間、真空度:40Pa以下の条件で、真空凍結乾燥し、フリーズドライ(FD)マッシュルームを得た。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表23に示す。
【0211】
得られたFDマッシュルームを比較例9と同様にして水戻しし、破断強度および保形性を評価した。破断強度試験には、直径3mmおよび20mmのプランジャーを用いた。また、水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を求めた。結果を表23に示す。
【0212】
[実施例48]
実施例47において、酵素液bを用いる代わりに、前記酵素液g(酵素製剤濃度2.0%)を用いたことの他は、実施例47と同様にして処理食材であるFDマッシュルームを得た。それぞれのFD歩留(凍結乾燥前重量に対する凍結乾燥後重量の割合(%))を表23に示す。得られたFDマッシュルームを実施例47と同様に水戻しし、破断強度、保形性、および水戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を評価した。結果を表22に示す。
【0213】
[実施例49]
実施例47と同様にして酵素液bを用いて得たFDマッシュルームを、比較例14と同様に湯戻しし、実施例47と同様に破断強度および保形性を評価した。結果を表23に示す。また、湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を表22にあわせて示す。
【0214】
[実施例50]
実施例48と同様にして前記酵素液gを用いて得たFDマッシュルームを、比較例14と同様に湯戻しし、実施例47と同様に破断強度および保形性を評価した。結果を表23に示す。また、湯戻しの前後における重量変化率(FD食材に対する、戻し後の食材の重量割合)を表23にあわせて示す。
【0215】
【表23】
【0216】
[実施例51]
計量した生のさつまいも(品種:高系14号)を、20mm厚さにダイスカットしたものを原料食材として用い、これを15×15cmのステンレス製バスケットに並べ、バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定して、これを16×16cmのステンレス製容器(内タンク)内にいれた。このステンレス製容器を真空加圧含浸装置((株)エフコム製)内に設置し、真空排気を行い、装置内を5000Paまで減圧した後、直ちに原料食材が完全に浸漬されるまで、10℃に調温した酵素液h(約1.5リットル)をタンク内に導入した。ここで、酵素液hとしては、アマノエンザイム製の「クライスターゼT10S」0.1重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.1重量%)を、酵素および水を攪拌混合することにより調製して用いた。なお、酵素液の調製に用いたアマノエンザイム製のクライスターゼT10Sは、酵素製剤中の酵素(α−アミラーゼ)含有率が77.5%、力価13,100(LJ/g)の酵素製剤である。
【0217】
酵素液hの導入後、真空加圧含浸装置内をエアパージして大気圧(0.1MPa)まで昇圧した。続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.3MPaで10分間保持した(加圧時間:10分間)。このとき装置内の酵素液温度は約10℃に保たれていた。次いでエアパージして含浸処理を完了し、装置より酵素液が含浸された食材を取り出し、その食材の表面に付着した水分を良くきった。
【0218】
酵素液hを含浸した後の食材の重量は、含浸前重量と比較して23.7%増加し、含浸前重量の123.7重量%となった。
【0219】
このようにして得られた食材を、150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持して加熱調理し、その後食材を白絞油から引き上げ、十分その油を切った。加熱調理後の食材の重量は、すべての処理を行う前の食材の初期重量と比較して11.6%減少し、初期重量の88.4重量%となった。なお、酵素反応は、含浸工程で加圧状態に保持されている間だけでなく、この加熱調理の間にも、食材中で生じているものと考えられる。
【0220】
この加熱調理後の食材を室温(約20℃)になるまで降温させて、以下記載の方法により糖度(ブリックス)の測定を行った。結果を表24および図6に示す。
【0221】
<糖度(ブリックス)測定>
1)測定試料液の調製
測定する処理食材を包丁でみじん切りして乳鉢に投入し、乳棒でペースト状になるまですり潰した。ついで、このすり潰した食材を計量(Ag)した後、その食材に計量した水を(Bg)添加し、ペースト状になるまで十分に混合し、懸濁液を作製した。この懸濁液をキッチンペーパーにとり、これを搾汁して測定試料液を作製した。
【0222】
2)測定方法
測定試料液の糖度(ブリックス)を、以下の手持屈折計により測定した。
手持屈折計:アタゴ社製:MASTER−M
上記屈折計で測定された実測値S0(%)から、以下の換算方法により、加熱調理後の食材のブリックスS1(%)を求めた。
【0223】
1=S0×(A+B)/A
また、すべての処理を行う前の食材の初期重量に対する、加熱調理後の食材の重量百分率Wf(%)と加熱調理後の食材のブリックスS1(%)から、以下の換算方法により、原料食材換算のブリックスS2(%)を求めた。
【0224】
2=S1×Wf/100
[実施例52〜54]
実施例51において、その加熱調理の条件を、100℃に調温された白絞油に投入して5分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例52)、100℃に調温された白絞油に投入して10分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例53)、100℃に調温された白絞油に投入して15分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例54)に変更することの他は、実施例51と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表24および図6に示す。
【0225】
[実施例55]
実施例51において、酵素液hに代えて、酵素液iを用いたことの他は、実施例51と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表24および図6に示す。
【0226】
ここで、酵素液iとしては、アマノエンザイム製の「クライスターゼT10S」0.3重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.3重量%)を用いた。この酵素液の調製は、酵素および水を攪拌混合することにより行った。
【0227】
[実施例56〜58]
実施例55において、その加熱調理の条件を、100℃に調温された白絞油に投入して5分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例56)、100℃に調温された白絞油に投入して10分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例57)、100℃に調温された白絞油に投入して15分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(実施例58)に変更することの他は、実施例51と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表24および図6に示す。
【0228】
【表24】
【0229】
[比較例19]
生のさつまいも(品種:高系14号)をおろし器ですり下ろしたものをキッチンペーパーにとり、これを搾汁して測定試料液を作製し、実施例51と同様の方法により、糖度(ブリックス)の測定を行った。結果を表25および図6に示す。
【0230】
[比較例20]
実施例51において、酵素液hによる含浸処理を行わなかったことの他は、実施例51と同様にして、食材への加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表25および図6に示す。
【0231】
[比較例21〜23]
比較例20において、その加熱調理の条件を、100℃に調温された白絞油に投入して5分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例21)、100℃に調温された白絞油に投入して10分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例22)、100℃に調温された白絞油に投入して15分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例23)に変更することの他は、比較例20と同様にして、食材への加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表25および図6に示す。
【0232】
[比較例24]
実施例51において、酵素液hに代えて、水を用いたことの他は、実施例51と同様にして、食材への水の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表25および図6に示す。
【0233】
[比較例25〜27]
比較例24において、その加熱調理の条件を、100℃に調温された白絞油に投入して5分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例25)、100℃に調温された白絞油に投入して10分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例26)、100℃に調温された白絞油に投入して15分間保持した後、さらに150℃に調温された白絞油に投入し5分間保持(比較例27)に変更することの他は、比較例24と同様にして、食材への水の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表25および図6に示す。
【0234】
【表25】
【0235】
さつまいもを原料とした実施例51〜58の結果より、これらすべての実施例において、同等の加熱調理条件で、単に加熱調理する場合、水を含浸させてから加熱調理する場合と比較して、糖度(ブリックス)が上昇することが確認された。また、酵素濃度が高い方が、糖度(ブリックス)の高い食材が得られることが確認された。さらに、これら実施例で得られる糖度(ブリックス)の高い食材は、糖漬け、糖煮などのような糖の甘さではなく、さつまいもが本来持っている甘さを強く感じ取ることができる。
【0236】
[実施例59]
実施例51において、酵素液hに代えて、酵素液jを用いたことの他は、実施例51と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表26に示す。
【0237】
ここで、酵素液jとしては、アマノエンザイム製の「クライスターゼT10S」1.0重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度1.0重量%)を用いた。この酵素液の調製は、酵素および水を攪拌混合することにより行った。
【0238】
[実施例60]
実施例59において、酵素液jに代えて、酵素液j2を用いたことの他は、実施例59と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表26に示す。
【0239】
ここで、酵素液j2としては、ショ糖(三井製糖社製 上白糖J)を水に溶解して得た65重量%濃度のショ糖液に、アマノエンザイム製の「クライスターゼT10S」1.0重量%を含有するように添加した酵素液(酵素製剤濃度1.0重量%)を用いた。この酵素液の調製は、酵素およびショ糖液を攪拌混合することにより行った。
【0240】
[比較例28]
実施例59において、酵素液jに代えて、65重量%濃度のショ糖液を用いたことの他は、実施例59と同様にして、食材へのショ糖液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表26に示す。
【0241】
【表26】
【0242】
さつまいもを原料とした実施例59の結果より、65重量%ショ糖液を含浸した食材と比較しても高い糖度(ブリックス)の食材が得られることが確認された。この食材は、さつまいも本来の自然な甘みを強く感じることができる食材で、ショ糖のみにより糖度を高めた食材とは異なる甘みを有する。また、実施例60の結果より、さつまいも本来の自然な甘みと、ショ糖の有する甘みがあいまって、より一層甘みの強い食材が得られることが確認された。
【0243】
[実施例61]
実施例59において、酵素液jに代えて、酵素液j3を用いたことの他は、実施例59と同様にして、食材への酵素液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表27に示す。
【0244】
ここで、酵素液j3としては、いちご果汁液に、アマノエンザイム製の「クライスターゼT10S」1.0重量%を含有するように添加した酵素液(酵素製剤濃度1.0重量%)を用いた。この酵素液の調製は、酵素およびいちご果汁液を攪拌混合することにより行った。なお、いちご果汁液は、35°BXいちご透明果汁(日本果実加工社製)70重量%と還元水飴(物産フードサイエンス社製 エスイー600)30重量%とを混合して得られる混合液100重量%に対して、1重量%のいちご香料(内外香料社製 ストロベリーオイル)を添加し、十分に攪拌混合して得られる。
【0245】
[比較例29]
実施例61において、酵素液j3に代えて、実施例61で得られたいちご果実液を用いたことの他は、実施例59と同様にして、食材へのいちご果汁液の含浸、加熱調理を行い、食材の糖度(ブリックス)を測定した。結果を表27に示す。
【0246】
【表27】
【0247】
[実施例62]
計量した大豆(ホクレン農業協同組合連合会製)を原料食材として用い、これを15×15cmのステンレス製バスケットに並べ、バスケット上部にポリエチレンネットをかぶせ、ネットをステンレス製針金で固定して、これを16×16cmのステンレス製容器(内タンク)内にいれた。このステンレス製容器を真空加圧含浸装置((株)エフコム製)内に設置し、真空排気を行い、装置内を5000Paまで減圧した後、直ちに原料食材が完全に浸漬されるまで、15℃に調温した酵素液k(約1.5リットル)をタンク内に導入した。ここで、酵素液kとしては、アマノエンザイム製のプロテアーゼA「アマノ」G 0.5重量%を含有する酵素液(酵素製剤濃度0.5重量%)を、酵素および水を攪拌混合することにより調製して用いた。なお、酵素液の調製に用いたアマノエンザイム製のプロテアーゼA「アマノ」Gは、酵素製剤中の酵素(プロテアーゼ)含有率が30.0%、力価10,000(u/g)の酵素製剤である。
【0248】
酵素液kの導入後、真空加圧含浸装置内をエアパージして大気圧(0.1MPa)まで昇圧した。続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.3MPaで30分間保持した(加圧時間:30分間)。このとき装置内の酵素液温度は約10℃に保たれていた。次いでエアパージして含浸処理を完了し、装置より酵素液が含浸された食材を取り出し、ステンレスバスケットに入った状態で軽くエアーブローして、食材表面に残存する水分を飛ばし、計量した。
【0249】
酵素液kを含浸した後の食材の重量は、含浸前重量と比較して39.2%増加し、含浸前重量の139.2重量%となった。なお、含浸直後の食材では、含浸工程において加圧状態を30分間保持する間に、食材中での酵素反応が生じているものと考えられる。
【0250】
このようにして得られた食材を圧力鍋に入れ、食材が完全に水に浸るまで水を入れた後蓋を閉め、圧力鍋の調圧弁から蒸気が勢い良く噴出すまで強火で加熱をし、さらに弱火にして5分間保持して加熱調理した。その後、火を止めて圧力鍋から食材を取り出し、ステンレスバスケットに移し、軽くエアーブローして、食材表面に残存する水分を飛ばし、計量した。
【0251】
加熱調理した後の食材の重量は、すべての処理を行う前の食材の初期重量と比較して92.4%上昇し、初期重量の192.4%となった。
【0252】
[比較例30]
実施例62において、酵素液kによる含浸処理を行わなかったことの他は、実施例62と同様にして、食材への加熱調理、重量変化を測定した。結果を表28に示す。
【0253】
[比較例31]
実施例62において、酵素液kによる含浸処理を行わず、大気圧下で15℃近辺に調温した水に食材を30分間浸漬させた後に圧力鍋による加熱処理を行ったことの他は、実施例62と同様にして、食材への加熱調理、重量変化を測定した。結果を表28に示す。
【0254】
[比較例32]
実施例62において、酵素液kに代えて、水による含浸処理を行ったことの他は、実施例62と同様にして、食材への加熱調理、重量変化を測定した。結果を表28に示す。
【0255】
【表28】
【0256】
実施例62の結果より、酵素反応により、食材の含水量が上昇するとともに、さらにその後の加熱調理によって、大きく含水率が高められた加工食材が得られていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明に係る酵素含有食品の製造方法は、軟化などの酵素作用を施した各種食品の製造に好適に適用でき、本発明に係る酵素含有食品は、老人食、病人食、離乳食などの他、柔らかさのある新食感の食品、調理時間を短縮する一次加工品としての食品素材、軟化調理食品などと、各種食材の加工食品の分野で広く利用することができる。また、本発明に係る酵素含有食品が凍結乾燥品である場合には、柔らかく、かつ戻り特性に優れた加工食品として広く利用することができる。また、本発明に係る酵素含有食品の製造方法は、糖化などの酵素作用を施した各種食品の製造に好適に適用でき、原料食材から引き出された自然な甘みを有する一次加工品としての食品素材、各種食材の加工食品の分野で広く利用することができる。さらには、タンパク分解等原料に含まれる成分の分解などの酵素作用を施した各種食品の製造に好適に適用でき、より含水率が高まった、例えば、柔らかさが感じられる一次加工品としての食品素材、各種食材の加工食品の分野で広く利用することができる。
【0258】
このように、本発明に係る酵素含有食品の製造方法では、酵素により、原料に含まれる成分を変化させ、所望の効果をもたらす、有用な成分を生成、増加させることができるので、一次加工品としての食品素材、各種食材の加工食品の分野で広く利用できる。
図1
図2
図3
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図5
図6