(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記成分(a)が、前記式(1)〜(3)で表されるアミノ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、およびトリエタノールアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸系界面活性剤である請求項2に記載の親水性合成繊維。
前記成分(a)が、前記式(1)〜(3)で表されるアミノ酸のナトリウム塩、カリウム塩、およびトリエタノールアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸系界面活性剤である請求項2または3に記載の親水性合成繊維。
前記成分(a)が、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、およびN−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸系界面活性剤である請求項4に記載の親水性合成繊維。
親水性合成繊維の表面に付着している繊維処理剤の質量を100質量%としたとき、前記繊維処理剤に占める、前記成分(a)〜(c)の質量の総和の割合が20質量%以上であって、前記繊維処理剤の成分のうち、前記成分(a)〜(c)のみの質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)が15質量%以上75質量%以下、成分(b)が15質量%以上75質量%以下、成分(c)が10質量%以上70質量%以下の量で含まれている繊維処理剤であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水性合成繊維。
前記成分(a)が、前記式(1)〜(3)で表されるアミノ酸のナトリウム塩、カリウム塩、およびトリエタノールアミン塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸系界面活性剤である請求項12に記載の親水性繊維処理剤。
前記成分(a)が、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、およびN−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸系界面活性剤である請求項13に記載の親水性繊維処理剤。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の親水性合成繊維は、特定の繊維処理剤が繊維表面に付着している合成繊維である。前記特定の繊維処理剤は、アミノ酸系界面活性剤(成分(a))、グリセリン系化合物(成分(b))および乳酸塩(成分(c))に大別される3種類の成分を含む。まず、成分(a)について説明する。本発明において、アミノ酸系界面活性剤とは、一般的に知られている種々のアミノ酸(例えば、グリシン、サルコシン(N−メチルグリシンとも称す)、アラニン、β−アラニン(メチルアラニンとも称す)、グルタミン酸、アスパラギン酸、アルギニン、リシン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシン等)から誘導体化される、アミノ酸もしくはアミノ酸に由来する構造を1箇所、あるいは2箇所以上の複数箇所有する界面活性剤を指す。前記アミノ酸系界面活性剤の中で、アミノ酸もしくはアミノ酸に由来する構造を1箇所有するアミノ酸系界面活性剤としては、長鎖のアシル基、例えば炭素数が4以上30以下のアシル基を、種々のアミノ酸から選択した1つに導入したN−アシルアミノ酸およびその塩が挙げられる。
【0020】
アミノ酸もしくはアミノ酸に由来する構造を2箇所以上の複数箇所有する、アミノ酸系界面活性剤としては、炭素数が4以上30以下の各種脂肪酸とアミノ酸から作られる一鎖一親水基型界面活性剤をスペーサー(例えば、アミノ酸の一種であるリシン)で結合させたジェミニ型界面活性剤(例えば、ジラウロイルグルタミン酸リシンがあり、そのナトリウム塩として、商品名 ペリセア(登録商標) 旭化成ケミカルズ(株)製 がある)の他、微生物などの生体由来の界面活性剤であるバイオサーファクタントの中で、環状リポペプチド構造を有する界面活性剤であるサーファクチンとその塩(サーファクチンの塩としては、ナトリウム塩であるサーファクチンナトリウム 商品名 アミノフェクト(登録商標) (株)カネカ製 がある)や、アルスロファクチンとその塩が挙げられる。前記アミノ酸系界面活性剤の特徴として、従来の硫酸エステル型界面活性剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)、リン酸エステル型界面活性剤(例えばラウリルリン酸ナトリウム)と比較して人体に与える刺激(例えば眼粘膜への刺激が挙げられる)が低く、細胞毒性が低いことが特徴である。
【0021】
本発明の親水性合成繊維、および親水性繊維処理剤にはいずれのアミノ酸系界面活性剤も使用できるが、特に、アミノ酸(DLは問わない)もしくはアミノ酸(DLは問わない)に由来する構造を1箇所有するN−アシルアミノ酸およびその塩が好ましい。本発明の親水性合成繊維に付着している、アミノ酸もしくはアミノ酸に由来する構造を1箇所有するN−アシルアミノ酸およびその塩としては、後述する化学式で表されるものを始め、N−ヤシ油脂肪酸アシルグルタミン酸およびその塩(塩としてはトリエタノールアミン(TEA)塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。以下、他のN−アシルアミノ酸の塩についても同様)、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルアラニンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルサルコシンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルメチルアラニンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルアルギニンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルアスパラギン酸およびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルセリンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルバリンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルトレオニンおよびその塩、N−ヤシ油脂肪酸アシルリシンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸およびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルグリシンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルアラニンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルサルコシンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルメチルアラニンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルアルギニンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルアスパラギン酸およびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルセリンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルバリンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルトレオニンおよびその塩、N−牛脂脂肪酸アシルリシンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸およびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルグリシンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルアラニンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルサルコシンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルメチルアラニンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルアルギニンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルアスパラギン酸およびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルセリンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルバリンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルトレオニンおよびその塩、N−パーム油脂肪酸アシルリシンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルグルタミン酸およびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルグリシンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルアラニンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルサルコシンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルメチルアラニンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルアルギニンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルアスパラギン酸およびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルセリンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルバリンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルトレオニンおよびその塩、N−パーム核油脂肪酸アシルリシンおよびその塩、N−ラウロイルアシルグルタミン酸およびその塩、N−ラウロイルアシルグリシンおよびその塩、N−ラウロイルアシルアラニンおよびその塩、N−ラウロイルアシルサルコシンおよびその塩、N−ラウロイルアシルメチルアラニンおよびその塩、N−ラウロイルアシルアルギニンおよびその塩、N−ラウロイルアシルアスパラギン酸およびその塩、N−ラウロイルアシルセリンおよびその塩、N−ラウロイルアシルバリンおよびその塩、N−ラウロイルアシルトレオニンおよびその塩、N−ラウロイルアシルリシンおよびその塩、N−ミリストイルアシルグルタミン酸およびその塩、N−ミリストイルアシルグリシンおよびその塩、N−ミリストイルアシルアラニンおよびその塩、N−ミリストイルアシルサルコシンおよびその塩、N−ミリストイルアシルメチルアラニンおよびその塩、N−ミリストイルアシルアルギニンおよびその塩、N−ミリストイルアシルアスパラギン酸およびその塩、N−ミリストイルアシルセリンおよびその塩、N−ミリストイルアシルバリンおよびその塩、N−ミリストイルアシルトレオニンおよびその塩、N−ミリストイルアシルリシンおよびその塩、N−パルミトイルアシルグルタミン酸およびその塩、N−パルミトイルアシルグリシンおよびその塩、N−パルミトイルアシルアラニンおよびその塩、N−パルミトイルアシルサルコシンおよびその塩、N−パルミトイルアシルメチルアラニンおよびその塩、N−パルミトイルアシルアルギニンおよびその塩、N−パルミトイルアシルアスパラギン酸およびその塩、N−パルミトイルアシルセリンおよびその塩、N−パルミトイルアシルバリンおよびその塩、N−パルミトイルアシルトレオニンおよびその塩、N−パルミトイルアシルリシンおよびその塩、N−ステアロイルアシルグルタミン酸およびその塩、N−ステアロイルアシルグリシンおよびその塩、N−ステアロイルアシルアラニンおよびその塩、N−ステアロイルアシルサルコシンおよびその塩、N−ステアロイルアシルメチルアラニンおよびその塩、N−ステアロイルアシルアルギニンおよびその塩、N−ステアロイルアシルアスパラギン酸およびその塩、N−ステアロイルアシルセリンおよびその塩、N−ステアロイルアシルバリンおよびその塩、N−ステアロイルアシルトレオニンおよびその塩、N−ステアロイルアシルリシンおよびその塩、等があげられるがこの限りではなく、アミノ酸もしくはアミノ酸に由来する構造を1箇所有するN−アシルアミノ酸およびその塩である公知のアミノ酸系界面活性剤であれば限定されない。
【0022】
成分(a)は、下記の式(1)〜(3)で示されるアミノ酸系界面活性剤から選択される、少なくとも1種の界面活性剤であると好ましい。なお、下記式(1)〜(3)で示されるアミノ酸系界面活性剤は、下記化学式通りの構造で存在する場合もあるが、多くの場合はアルカリ金属との塩であるアルカリ金属塩、アルカリ土類金属との塩であるアルカリ土類金属塩、あるいはトリエタノールアミンとの塩であるトリエタノールアミン塩として存在する。
【化1】
(式中、Rは炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基であり、XはH、CH
3、CH
2OH、CH
2COOH、CH
2CONH
2、(CH
2)
2COOH、(CH
2)
2CONH
2、CH(CH
3)OH、CH
2SH、(CH
2)
2SCH
3、CH(CH
3)CH
3、CH
2CH(CH
3)CH
3、CH(CH
3)CH
2CH
3、(CH
2)
3NHC(=NH)NH
2、および(CH
2)
4NH
2の中から選ばれる1種である)
【化2】
(式中、R’は炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基である)
【化3】
(式中、R”は炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基である)
【0023】
式(1)で表されるアミノ酸系界面活性剤は、Xによってその性質が異なる。本発明の親水性合成繊維表面に付着しているアミノ酸系界面活性剤は、前記式(1)におけるXがH(水素)、CH
3、(CH
2)
2COOH、CH
2COOH、(CH
2)
3NHC(=NH)NH
2、(CH
2)
4NH
2であることが好ましく、XがH、CH
3、(CH
2)
2COOHであることが特に好ましい。式(1)で表されるアミノ酸系界面活性剤は、XがHであるときは、N−アシルグリシンと呼べるものであり、XがCH
3であるときは、N−アシルアラニン(DLは問わない)と呼べるものであり、Xが(CH
2)
2COOHであるときは、N−アシルグルタミン酸(DLは問わない)と呼べるものである。式(1)において、Rは炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基である。Rの炭素数は、好ましくは6〜22であり、より好ましくは6〜20であり、特に好ましくは8〜18である。
【0024】
Rは、それが結合しているC(=O)とともにアシル基(RC(=O))を形成しており、このアシル基は通常、脂肪酸残基である。脂肪酸残基は、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸(エルシン酸)、リグノセリン酸の残基である。この中でも、ヤシ油やパーム油に多く含まれるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、カプリル酸、カプリン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸の残基であると好ましい。
【0025】
脂肪酸残基が天然由来のものである場合、式(1)で表される界面活性剤は、Rの炭素数のみが異なる、2以上の化合物の混合物として存在することがある。例えば、式(1)の化合物が、ヤシ油を用いて製造される場合、一般的なヤシ油にはラウリン酸が44〜55%、ミリスチン酸が10〜17%、オレイン酸が1〜17%、パルミチン酸が6〜10%、カプリン酸が3〜7%、ステアリン酸が1〜7%、カプリル酸が3〜5%含まれているため、式(1)の界面活性剤は、アシル基(RC(=O))がそれぞれ、ヤシ油を構成するラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびカプリル酸といった脂肪酸の残基である、7種類の界面活性剤を含み得る。勿論、天然物由来の脂肪酸を用いる場合には、必要に応じて、界面活性剤における脂肪酸残基が特定の1種または複数種のものとなるように、製造条件等を調節してよい。
【0026】
脂肪酸残基は天然物由来のものであることが好ましく、例えば、牛脂、豚脂といった動物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基や、ヤシ油、パーム油といった植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基など動植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましく用いられる。これらの中でも、植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましい。脂肪酸残基の原料となる植物由来の油脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、米ぬか油、大豆油、およびヒマシ油といった公知の植物性油脂を使用できる。脂肪酸残基は、特に、ヤシ油またはパーム油を原料としたヤシ油脂肪酸残基またはパーム油脂肪酸残基であることが好ましい。天然物由来の脂肪酸、特に植物由来の脂肪酸は、人の皮膚に直接塗布される化粧品および人体用洗浄料として使用されてきた実績があり、それを使用していると説明することが、消費者に安心感を与えることによる。特にヤシ油およびパーム油は、洗剤および食品の原料として用いられてきた実績が長いことから、好ましく用いられる。
【0027】
前記式(1)で表される界面活性剤は、脂肪酸(残基)とアミノ酸で構成されている。式(1)のXは、アミノ酸のいわゆる側鎖の部分に該当する。そのため、式(1)のXによって、この化合物を構成する元のアミノ酸の種類が特定され、XがH(水素)であれば元のアミノ酸はグリシンであり、XがCH
3(メチル基)であれば元のアミノ酸はアラニン(DLは問わない)であり、Xが(CH
2)
2COOHであれば元のアミノ酸はグルタミン酸(DLは問わない)であると特定される。このほかにもXがCH
2OH(セリン)、(CH
2)
3NHC(=NH)NH
2(アルギニン)、CH
2COOH(アスパラギン酸)、CH
2SH(システイン)、CH(CH
3)CH
3(バリン)、(CH
2)
4NH
2(リシン)、CH(CH
3)OH(トレオニン)といった、タンパク質を構成する各種アミノ酸の側鎖がXになりうる可能性がある。
【0028】
式(1)で表されるアミノ酸系界面活性剤は、この状態(すなわち中和されていない状態)で使用されることもあるが、中和されて塩を形成して親水性繊維処理剤中に存在することが多い。前記式(1)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩やトリエタノールアミン(TEAと略すことがある)との塩であるトリエタノールアミン塩が挙げられる。前記式(1)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0029】
前記式(1)で表される界面活性剤はアミノ酸、具体的にはタンパク質を構成するアミノ酸を用いて構成される。タンパク質を構成しうるアミノ酸は20種類あるが、それぞれのアミノ酸は側鎖、即ち、前記式(1)でいうXの部分によって性質(例えば水への溶解度や等電点など)が左右される。式(1)で表される界面活性剤は脂肪酸(残基)とアミノ酸で大部分が構成されているため、元となったアミノ酸そのものが持つ性質の影響を受け、式(1)のX、即ち、元となったアミノ酸の違いにより、界面活性剤の諸性質が変化する。従って、式(1)で表される界面活性剤において、式(1)中のXの違い(即ち、元となったアミノ酸の違い)によって、繊維に付与しうる親水性には差が生じる。本発明の親水性合成繊維および繊維処理剤において、式(1)に示されるアミノ酸系界面活性剤を使用する場合、XがH、CH
3、(CH
2)
2COOH、即ち、元となったアミノ酸がグリシン、アラニン(DLは問わない)、L-グルタミン酸であることが特に好ましく、これらのアミノ酸を元にしているN−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンナトリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニンカリウム、N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン、N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム、およびN−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウムを本発明の親水性合成繊維および繊維処理剤に用いることが好ましい。式(1)で示されるアミノ酸系界面活性剤が、グリシン、アラニン(DLは問わない)、L-グルタミン酸を元のアミノ酸として含んでいることが好ましい理由は、界面活性剤が付与しうる親水性が塩の種類(ナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩など)によっても差が出るため断定はできないが、グリシンやアラニン(DLは問わない)はアミノ酸そのものの水への溶解度が大きく、親水性を有することに起因していると推定され、L-グルタミン酸は水に溶解するだけでなく、分子内に極性基であるカルボキシル基を2個有していることに起因するとも考えられる。
【0030】
式(1)で表される界面活性剤は、具体的には、味の素ファインケミカル(株)からは、アミライトGCK−12K(N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム液(30%水溶液))、アミライトGCK−11(N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム)、アミライトGCS−12K(N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム(30%水溶液))、アミライトACT−12L(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニントリエタノールアミン液(30%水溶液))、アミライトACT−12(N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン液(30%水溶液))、アミライトACS−12(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンナトリウム液(30%水溶液))、アミソフトCK−22(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウムと、水酸化カリウムの水溶液)、アミソフトCS−22(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム(25%)と、水酸化ナトリウム(5%)の水溶液)、アミソフトCS−11(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム)、アミソフトLS−11(N−ミリストイル−L−グルタミン酸ナトリウム)、アミソフトMK−11(N−ミリストイル−L−グルタミン酸カリウム)、アミソフトGS−11(N−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム アシル基はパーム油由来)、アミソフトHS−11(N−ステアロイル−L−グルタミン酸ナトリウム)などの商品名(アミライトは登録商標)で販売され、旭化成ケミカルズ(株)からは、アミノサーファクトACDS−L(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム(30%水溶液))、アミノサーファクトACDP−L(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸カリウム(22%)とN−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム(7%)の水溶液)、アミノサーファクトACMT−L、アミノサーファクトCMT−L(どちらもN−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸トリエタノールアミン液(30%水溶液))、アミノフォーマーFLDS−L(N−ラウロイル−L−アスパラギン酸ナトリウム(25%水溶液))、アミノサーファクトALMS−P1、アミノサーファクトALMS−S1(どちらもN−ラウロイル−L−グルタミン酸ナトリウム)、アミノサーファクトAMMS−P1、アミノサーファクトAMMS−S1(どちらもN−ミリストイル−L−グルタミン酸ナトリウム)、アミノサーファクトAEMS−P2、アミノサーファクトAEMS−PB(どちらもN−アシル−L−グルタミン酸ナトリウム アシル基はパーム油由来)、アミノサーファクトCCA(N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸)、アミノフォーマーFLMS−P1(N−ラウロイル−L−アスパラギン酸ナトリウム)、アミノフォーマーFLCS−S1(N−ラウロイル−L−アスパラギン酸ナトリウム(88%)、クエン酸ナトリウム(9%)、クエン酸(3%)の混合物)などの商品名(アミノサーファクト、アミノフォーマーは登録商標)で販売されている。
【0031】
式(2)で表される界面活性剤は、N−アシルサルコシン(N−アシル−N−メチルグリシンとも称す)とも呼べるものである。式(2)において、R’は炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基である。R’の炭素数は、好ましくは6〜22であり、より好ましくは6〜20であり、特に好ましくは8〜18である。
【0032】
R’は、それが結合しているC(=O)とともにアシル基(R’C(=O))を形成しており、このアシル基は通常、脂肪酸残基である。脂肪酸残基は、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸(エルシン酸)、リグノセリン酸の残基である。この中でも、ヤシ油やパーム油に多く含まれるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、カプリル酸、カプリン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸の残基であると好ましい。
【0033】
脂肪酸残基が天然由来のものである場合、式(2)で表される界面活性剤は、R’の炭素数のみが異なる、2以上の化合物の混合物として存在することがある。例えば、式(2)の化合物が、ヤシ油を用いて製造される場合、一般的なヤシ油にはラウリン酸が44〜55%、ミリスチン酸が10〜17%、オレイン酸が1〜17%、パルミチン酸が6〜10%、カプリン酸が3〜7%、ステアリン酸が1〜7%、カプリル酸が3〜5%含まれているため、式(2)の界面活性剤は、アシル基(R’C(=O))がそれぞれ、ヤシ油を構成するラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびカプリル酸といった脂肪酸の残基である、7種類の界面活性剤を含み得る。勿論、天然物由来の脂肪酸を用いる場合には、必要に応じて、界面活性剤における脂肪酸残基が特定の1種または複数種のものとなるように、製造条件等を調節してよい。
【0034】
脂肪酸残基は天然物由来のものであることが好ましく、例えば、牛脂、豚脂といった動物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基や、ヤシ油、パーム油といった植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基など動植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましく用いられる。これらの中でも、植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましい。脂肪酸残基の原料となる植物由来の油脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、米ぬか油、大豆油、およびヒマシ油といった公知の植物性油脂を使用できる。脂肪酸残基は、特に、ヤシ油またはパーム油を原料としたヤシ油脂肪酸残基またはパーム油脂肪酸残基であることが好ましい。天然物由来の脂肪酸、特に植物由来の脂肪酸は、人の皮膚に直接塗布される化粧品および人体用洗浄料として使用されてきた実績があり、それを使用していると説明することが、消費者に安心感を与えることによる。特にヤシ油およびパーム油は、洗剤および食品の原料として用いられてきた実績が長いことから、好ましく用いられる。
【0035】
式(2)で表されるアミノ酸系界面活性剤は、この状態(すなわち中和されていない状態)で使用されることもあるが、中和し塩を形成して親水性繊維処理剤中に存在することが多い。前記式(2)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩やトリエタノールアミンとの塩であるトリエタノールアミン塩が挙げられる。前記式(2)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0036】
式(2)で表される界面活性剤は、具体的には、川研ファインケミカル(株)から、ソイポンSC(N−ヤシ油脂肪酸アシルサルコシンナトリウム)、ソイポンSCTA(ヤシ油脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン)ソイポンSLTA(ラウロイルサルコシントリエタノールアミン)、ソイポンSLE(ラウロイルサルコシンナトリウム)、ソイポンM−30(ミリストイルサルコシンナトリウム)、ソイポンSCA(ヤシ油脂肪酸アシルサルコシン)の商品名(ソイポンは登録商標)で販売され、日光ケミカルズ(株)からは、NIKKOL サルコシネート CN−30(N−ヤシ油脂肪酸アシルサルコシンナトリウム)、NIKKOL サルコシネート CT−30(N−ヤシ油脂肪酸アシルサルコシントリエタノールアミン)、NIKKOL サルコシネート LN−30(ラウロイルサルコシンナトリウム)、NIKKOL サルコシネート LK−30(ラウロイルサルコシンカリウム)、NIKKOL サルコシネート LH(ラウロイルサルコシン)、NIKKOL サルコシネート MN(ミリストイルサルコシンナトリウム)、NIKKOL サルコシネート OH(オレオイルサルコシン)、NIKKOL サルコシネート PN(パルミトイルサルコシンナトリウム)などの商品名で販売されている(NIKKOLは登録商標)。
【0037】
式(3)で表される界面活性剤は、N−アシルメチルアラニン(N−アシル−β−アラニンとも称す)とも呼べるものである。式(3)において、R”は炭素数4〜24の直鎖または分岐鎖のアルキル基またはアルケニル基である。R”の炭素数は、好ましくは6〜22であり、より好ましくは6〜20であり、特に好ましくは8〜18である。
【0038】
R”は、それが結合しているC(=O)とともにアシル基(R”C(=O))を形成しており、このアシル基は通常、脂肪酸残基である。脂肪酸残基は、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リシノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸(エルシン酸)、リグノセリン酸の残基である。この中でも、ヤシ油やパーム油に多く含まれるラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、カプリル酸、カプリン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸の残基であると好ましい。
【0039】
脂肪酸残基が天然由来のものである場合、式(3)で表される界面活性剤は、R”の炭素数のみが異なる、2以上の化合物の混合物として存在することがある。例えば、式(3)の化合物が、ヤシ油を用いて製造される場合、一般的なヤシ油にはラウリン酸が44〜55%、ミリスチン酸が10〜17%、オレイン酸が1〜17%、パルミチン酸が6〜10%、カプリン酸が3〜7%、ステアリン酸が1〜7%、カプリル酸が3〜5%含まれているため、式(3)の界面活性剤は、アシル基(R”C(=O))がそれぞれ、ヤシ油を構成するラウリン酸(ドデカン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、およびカプリル酸といった脂肪酸の残基である、7種類の界面活性剤を含み得る。勿論、天然物由来の脂肪酸を用いる場合には、必要に応じて、界面活性剤における脂肪酸残基が特定の1種または複数種のものとなるように、製造条件等を調節してよい。
【0040】
脂肪酸残基は天然物由来のものであることが好ましく、例えば、牛脂、豚脂といった動物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基や、ヤシ油、パーム油といった植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基など動植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましく用いられる。これらの中でも、植物由来の油脂を原料とする脂肪酸残基が好ましい。脂肪酸残基の原料となる植物由来の油脂としては、ヤシ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、菜種油、米ぬか油、大豆油、およびヒマシ油といった公知の植物性油脂を使用できる。脂肪酸残基は、特に、ヤシ油またはパーム油を原料としたヤシ油脂肪酸残基またはパーム油脂肪酸残基であることが好ましい。天然物由来の脂肪酸、特に植物由来の脂肪酸は、人の皮膚に直接塗布される化粧品および人体用洗浄料として使用されてきた実績があり、それを使用していると説明することが、消費者に安心感を与えることによる。特にヤシ油およびパーム油は、洗剤および食品の原料として用いられてきた実績が長いことから、好ましく用いられる。
【0041】
式(3)で表されるアミノ酸系界面活性剤は、この状態(すなわち中和されていない状態)で使用されることもあるが、中和し塩を形成して親水性繊維処理剤中に存在することが多い。前記式(3)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩やトリエタノールアミンとの塩であるトリエタノールアミン塩が挙げられる。前記式(3)で表されるアミノ酸系界面活性剤の塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩が好ましい。
【0042】
式(3)で表される界面活性剤は、具体的には、川研ファインケミカル(株)から、アラノン ACE(N−ヤシ油脂肪酸アシルメチルアラニンナトリウム)、アラノン ALE(ラウロイルメチル−β−アラニンナトリウム)、アラノン ALTA(N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニントリエタノールアミン)、アラノン AME(ミリストイルメチル−β−アラニンナトリウム)、アラノン ALA(N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニン)の商品名(アラノンは登録商標)で販売され、日光ケミカルズ(株)からは、NIKKOL アラニネート LN−30(ラウロイルメチルアラニンナトリウム)の商品名で販売されている(NIKKOLは登録商標)。
【0043】
成分(b)は、(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。ここで、(ポリ)グリセリンとは、モノグリセリン(いわゆるグリセリン)もしくはポリグリセリン、または両者の混合物を意味する。成分(b)として、モノグリセリン、およびポリグリセリンのどちらも好ましく使用することができる。成分(b)にポリグリセリンを選択した場合、ポリグリセリンとして、平均重合度が2〜30のものが好ましく用いられ、平均重合度が2〜15のものがより好ましく用いられる。ポリグリセリンの具体例としては、ジグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、オクタグリセリン、およびデカグリセリン等が挙げられる。
【0044】
(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルは、(ポリ)グリセリンと脂肪酸のエステルであり、モノエステル、ジエステルおよびトリエステルが含まれる。(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルにおいて、脂肪酸成分には、炭素数10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸由来のものが包含される。脂肪酸は、飽和又は不飽和のものであってよい。その具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸およびベヘン酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。本発明においては、成分(b)として、ポリグリセリンを使用する場合、重合度2〜15のポリグリセリンに炭素数10〜22の脂肪酸がエステル結合した、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが好ましく使用され、重合度4〜12のポリグリセリンに炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)がエステル結合した、ポリグリセリンモノラウレートが特に好ましく使用される。
【0045】
(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物において、そのアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、2〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは8〜20である。前記(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物において、アルキレンオキサイドとして、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが用いられる。その具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドおよびブチレンオキサイドが挙げられる。本発明において、成分(b)として、(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物を用いる場合、ジグリセリンにアルキレンオキサイドを付加させることにより得られるジグリセリンのアルキレンオキサイド付加物が好ましく用いられ、プロピレンオキサイド付加物が特に好ましく用いられる。プロピレンオキサイド付加物の平均付加モル数は、9〜14であることが好ましい。
【0046】
成分(c)は、乳酸と金属の塩である。具体的には、乳酸塩としては、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、および乳酸アルミニウムから選択される、1または複数の塩が使用される。本発明においては、高い吸湿性および保湿性を有する、乳酸ナトリウムが好ましく使用される。
【0047】
成分(b)および(c)はいずれも、化粧品の分野で保湿剤として用いられており、界面活性剤である成分(a)と比較して、より長い時間、皮膚と接触しても皮膚に刺激を与えにくいと考えられる。よって、これらの成分を添加することにより、親水性合成繊維の皮膚への刺激性をより低くできる。また、成分(b)および(c)は、一般に、コストの面で成分(a)よりも有利であるため、これらを併用することにより、親水性繊維処理剤の製造価格を低く抑えることができえる。また、成分(c)を添加することにより、親水性繊維処理剤を長時間放置しても成分同士の分離、あるいは希釈に用いた水と、親水性繊維処理剤成分との分離が発生しにくくなり、親水性繊維処理剤の保存安定性を高める、および/または親水性繊維処理剤のpHを安定させることができる。
【0048】
成分(a)、(b)および(c)を含む親水性繊維処理剤は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)が5質量%以上95質量%以下の量で含まれるように調製されると好ましい。成分(a)の含有量が5質量%未満であると、合成繊維に良好な親水性を付与することができない。成分(a)の含有量が95質量%よりも多くなると、成分(a)〜(c)の合計量に対して、成分(b)および(c)の占める割合が少なくなり、成分(b)および(c)を用いることによる効果(例えば、皮膚への低刺激性、コストおよび保存安定性)を得られないことがある。成分(a)のより好ましい含有量は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、10質量%以上90質量%以下であり、さらにより好ましい含有量は、15質量%以上75質量%以下であり、もっとも好ましい含有量は18質量%以上70質量%以下である。
【0049】
成分(a)、(b)および(c)の混合物は、親水性繊維処理剤全体の20質量%以上を占めることが好ましい。成分(a)、(b)および(c)の混合物の割合が、親水性繊維処理剤全体の20質量%未満であると、肌への刺激性の少ない親水性合成繊維を得られないことがある。尤も、肌への低刺激性は、親水性合成繊維の用途によっては、それほど求められないことがあり、その場合には、成分(a)、(b)および(c)の混合物の割合を20質量%よりも少なくしてよい。
【0050】
成分(a)〜(c)と、これら以外の他の成分とを混合して、本発明の親水性繊維処理剤を調製する場合、他の成分は、得ようとする親水性合成繊維において達成すべき親水性およびその他の性能に応じて選択される。前記親水性繊維処理剤において、成分(a)、(b)および(c)の混合物の割合が20質量%程度である場合、親水性繊維処理剤が衛生物品用のシート等に必要とされる親水性を示さないことがある。それらの場合には、他の成分として、他の親水性の繊維処理剤を混合して、所望の親水性が得られるようにしてよい。
【0051】
しかし、本発明の親水性繊維処理剤全体に占める、前記3成分、すなわち前記成分(a)〜(c)以外の成分の割合が80質量%を超えると、肌への刺激の少ない成分が親水性繊維処理剤全体に占める割合が20質量%未満となり、肌への刺激が強くなるおそれがあり、好ましくない。親水性繊維処理剤全体に占める、前記3成分以外の成分の割合は75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらにより好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。
【0052】
成分(a)、(b)および(c)の混合物のみによって(即ち、他の親水性の繊維処理剤を混合せずに)、合成繊維に良好な親水性を付与しようとする場合には、成分(a)、(b)および(c)の混合物は、親水性繊維処理剤の50質量%以上を占めることが好ましい。それにより、肌への刺激性が特に少なく、かつ良好な親水性および加工性を示す合成繊維を得ることができる。成分(a)、(b)および(c)の混合物の割合が、親水性繊維処理剤全体の50質量%未満であると、良好な親水性を有する合成繊維を得ることができなくなる可能性があるだけでなく、添加する成分によっては肌への刺激が強くなる可能性がある。かかる親水性繊維処理剤において、成分(a)、(b)および(c)の混合物が親水性繊維処理剤全体に占める割合は好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり特に好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくは90質量%以上である。
【0053】
本発明の親水性繊維処理剤において、成分(b)は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたとき、前記親水性繊維処理剤中に2.5質量%以上92.5質量%以下含まれることが好ましく、5質量%以上85質量%以下含まれることがより好ましく、さらにより好ましい成分(b)の含有量は15質量%以上75質量%以下であり、もっとも好ましい成分(b)の含有量は18質量%以上70質量%以下である。また成分(c)は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、前記親水性繊維処理剤の2.5質量%以上92.5質量%以下含まれることが好ましく、5質量%以上85質量%以下含まれることがより好ましく、さらにより好ましい成分(c)の含有量は10質量%以上70質量%以下であり、もっとも好ましい成分(c)の含有量は12質量%以上64質量%以下である。成分(b)および(c)の割合がこの範囲内にあると、成分(b)および(c)を用いることによる効果を有効に得ることができる。
【0054】
本発明の親水性繊維処理剤は、前記において説明した成分(a)〜(c)以外の成分であって、親水性や透水性を付与する繊維処理剤に通常用いられている成分を、親水性繊維処理剤に添加してよい。例えば、具体的には、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロール等の各種トコフェロール、β−カロテン、リコペン、ルテインおよびアスタキサンチン等の各種カロテノイド、ユビキノン(ユビキノール、ユビデカレノン、CoQ10)、α−リポ酸(リポ酸、チオクト酸)、BHT(ジブチルヒドロキシルトルエン)、およびBHA(ブチルヒドロキシアニソール)といった脂溶性抗酸化物質;アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、カテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン、ガロカテキンガレートおよびガロカテキン等の各種カテキン類、アントシアニン、タンニン、クエルセチン(ルチン、クエルシトリン等の各種配糖体、酵素処理イソクエルシトリン等の酵素処理、化学処理を加えたものを含む)、ミリシトリン、ミリセチン、イソフラボン等の各種フラボノイド、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン等の各種フェノール酸、リンゴポリフェノール、カカオマスポリフェノール等のポリフェノールといった水溶性抗酸化物質;フィトンチッド、ヒバオイル、ヒノキチオール等の植物由来の精油、又は植物由来のハーブオイルといった芳香性機能剤、その他消臭剤、抗菌剤、アレルゲン不活性剤、吸発熱剤、および遠赤外線保温剤を挙げることができる。
【0055】
あるいは、成分(a)以外の他の界面活性剤を添加してよい。成分(a)以外の他の界面活性剤を添加する場合、公知の界面活性剤である、糖エステル型(「多価アルコールエステル型」とも呼ばれる)、脂肪酸エステル型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型、シリコーン系、フッ素系、および植物油型などの非イオン性界面活性剤、サルフェート型、スルホネート型、カルボン酸型、およびホスフェート型などのアニオン性界面活性剤、アンモニウム型およびベンザルコニウム型などのカチオン性界面活性剤、およびベタイン型、およびグリシン型などの両性界面活性剤などの界面活性剤から選択される1または複数の界面活性剤を添加してよいし、微生物などの生体由来の界面活性剤であるバイオサーファクタントを添加してもよい。そのような生体由来の界面活性剤(バイオサーファクタント)は、成分(a)と同様に、皮膚への刺激が少ないと考えられるからである。バイオサーファクタントとしては、マンノシルエリスリトールリピッド、ソホロリピッド、ラムノリピッド、トレハロースリピッド、およびセロビオースリピッドなどの糖脂質型(糖型とも称す)のバイオサーファクタントの他、リン脂質系、脂肪酸系および高分子化合物系のバイオサーファクタントがあり、これらを使用することができる。
【0056】
また、前記の親水性繊維処理剤に通常用いられている成分以外にも、化粧品として使用可能な各種機能剤、例えばヒアルロン酸の合成を高めたり、細胞賦活性を発揮したりすることでアンチエイジング効果(老化防止効果)を発揮する機能剤;チロシナーゼの活性を阻害・抑制することでメラニンの生成を抑え、美白効果を発揮する機能剤;肌の水分を維持することで肌への保湿・エモリエント効果を発揮する機能剤;その他の紫外線防御・紫外線ケア効果のある機能剤;抗炎症効果のある機能剤(例えば、グリチルリチン酸ジカリウム、あるいはグリチルリチン酸を多く含む甘草抽出物(甘草エキス)など);刺激緩和効果のある機能剤など、化粧品に使用可能な各種機能剤を本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記3つの成分以外の成分として、本発明の親水性繊維処理剤に添加してもよい。例えば、キチン、キトサンおよびこれらから誘導されるキチンおよびキトサンの誘導体(例えばカルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン)は化粧品に使用可能な機能剤であり、添加することで、本発明の前記3つの成分が発揮する肌への低刺激性を損なうことなく、抗菌作用および保湿作用を発揮すると考えられる。本発明の効果を阻害しない範囲内で前記化粧品に使用可能な各種機能剤を添加することで、本発明の親水性合成繊維および繊維集合物は、紙おむつおよび生理用ナプキン等の衛生物品の表面材および化粧料含浸シート等の直接肌に触れ、接触している時間が長時間になる製品の付加価値を高めることができる。
【0057】
本発明の親水性合成繊維を用いて紙おむつおよび生理用ナプキン等の衛生物品の表面材を構成する場合、親水性繊維処理剤全体のpHを5.5〜7の範囲として、菌が繁殖しにくい環境とするために、親水性繊維処理剤にpH調節剤を添加してもよい。pH調節剤としては本発明の効果が損なわれなければ、公知のpH調節剤を使用することができるが、各種ヒドロキシ酸をpH調節剤として添加すると、親水性繊維処理剤のpHを上記範囲に調節しやすいため好ましい。ヒドロキシ酸の中でも乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸といった脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸がより好ましい。この中でもクエン酸を添加すると、親水性繊維処理剤のpHが上記範囲に容易に調節できるだけでなく、親水性繊維処理剤の保存安定性が向上するという効果も得られるため、特に好ましい。
【0058】
前述したように、肌への刺激が特に低いことが求められる用途であれば、成分(a)、(b)および(c)の混合物が親水性繊維処理剤全体に占める割合は、好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらにより好ましくは85質量%であり、特に好ましくは90質量%以上である。また、添加する他の成分も肌への刺激が少ないとされる成分、特に化粧品として使用可能な成分であることが好ましい。
【0059】
しかし、添加する他の成分が、成分(a)、(b)および(c)の組み合わせにより奏される親水性、および良好な加工性、また、得られる繊維やそれを使用した不織布ならびに各種衛生物品用シートなどの最終製品に求められる肌への低刺激性を損なわないのであれば(又は最終製品に求められる、肌への低刺激性に対する要求が高くない用途であれば)、前記において例示した成分以外の成分を本発明の親水性繊維処理剤に添加して使用することが可能であり、他の成分を添加する割合も特に限定されない。
【0060】
さらに、可能であれば、成分(a)の一部を他の界面活性剤で置き換えてもよい。成分(a)として使用される界面活性剤は、一般に高コストであることから、親水性合成繊維の用途によっては、多量に使用することが難しいことがある。成分(a)と同程度の界面活性効果を示すものを併用することによって、成分(a)の使用量を減らして、親水性合成繊維の製造コストを下げることを、場合により行ってよい。その場合でも、肌への刺激性が少ない成分である成分(a)が親水性繊維処理剤に含まれることには変わりないから、肌への低刺激性がある程度確保された親水性合成繊維を得ることができる。
【0061】
前記親水性繊維処理剤は、繊維質量に対し、0.03質量%以上2質量%以下付着していることが好ましく、0.05質量%以上1.5質量%以下付着していることがより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下付着していることが特に好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下付着していることが最も好ましい。ここで、付着量とは、最終的に得られる乾燥させた状態の合成繊維の質量に対する、親水性繊維処理剤の付着量を指す。付着量が0.03質量%未満であると、繊維が、親水性および/または加工性に劣ることがあり、2質量%を超えると、親水性繊維処理剤の付着量に比例して、親水性および加工性が向上することはなく、経済的でなく、繊維表面に多量に付着した親水性繊維処理剤により、カード通過性の低下や、カード、生産ラインの汚れが問題となる恐れがある。
【0062】
さらに、本発明の親水性繊維処理剤は、成分(a)が繊維質量に対し、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下の量で、より好ましくは0.013質量%以上0.8質量%以下の量で、特に好ましくは0.015質量%以上0.5質量%以下の量で、最も好ましくは0.03質量%以上0.35質量%以下の量で合成繊維に付着していることが好ましい。本発明の親水性繊維処理剤を合成繊維に付着させ、親水性を付与しようとする場合、最終的に得られる乾燥させた状態の合成繊維の質量に対し、成分(a)の付着量が前記範囲となるように、成分(a)〜(c)を混合する、あるいは成分(a)〜(c)の混合物と他の成分と混合する、あるいはこの混合物を希釈するなどして親水性繊維処理剤を調製する、あるいは親水性繊維処理剤の濃度および合成繊維への付着量を調整することが好ましい。
【0063】
次に、前記親水性繊維処理剤が適用される合成繊維について説明する。合成繊維は、熱可塑性樹脂から成る繊維であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエチレン(高密度、低密度、直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブタジエン、エチレン系共重合体(例えば、エチレン−αオレフィン共重合体)、プロピレン系共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体)、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、またはエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体などのポリエステル樹脂、ナイロン66、ナイロン12、およびナイロン6などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、それらの混合物、ならびにそれらのエラストマー系樹脂などを挙げることができる。
【0064】
合成繊維は、いずれの形態のものであってよく、例えば、1つの樹脂または複数の樹脂の混合物から成る、単一繊維であってよく、あるいは2以上の成分から成る複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、および柑橘類の房状の樹脂成分が交互に配置されている分割型複合繊維であってよい。また、合成繊維の断面形状もいずれの形状のものであってよい。したがって、合成繊維は、通常得られる円形(真円)断面の合成繊維であってよく、あるいは繊維の断面形状が非円形の合成繊維、いわゆる異形断面の繊維であってもよい。異形断面の繊維の断面は、例えば、多角型形状、楕円型形状、扁平型形状、繊維表面に多数の枝状部を有する、いわゆる多葉型形状(具体的には3葉から32葉の多葉型形状)、星型形状、C字型形状、Y字型形状、W字型形状、十字型形状、および井型形状等である。さらに、合成繊維は前記のように、単一繊維および複合繊維であるか否かにかかわらず、および/または繊維断面形状が円形であるか異形であるにかかわらず、繊維断面に長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空繊維であってもよい。
【0065】
繊維を芯成分と鞘成分とを有する複合繊維(偏芯構造のものを含む)とする場合、鞘成分の融点≦(芯成分の融点−10℃)を満たすように、鞘成分と芯成分を構成する樹脂を選択することが好ましい。そのような組み合わせにより、鞘成分を熱接着成分として利用できる、熱接着性複合繊維を得ることができる。
【0066】
芯鞘型複合繊維の鞘成分として、ポリエチレン(ナフサを始めとする、原油由来のエチレンを原料とするものの他、天然物由来、いわゆるバイオマス由来の原料から重合されたものを含み、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等があり、チーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒など公知の触媒で重合されるポリエチレン)、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、共重合ポリエステル、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネートアジペート(ポリブチレンサクシネートアジテートとも称す)などの低融点樹脂を使用することができる。芯鞘型複合繊維の好ましい組み合わせ(芯/鞘)として、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン、ポリプロピレン/低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリ乳酸/ポリエチレン、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、およびポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートアジペートなどが挙げられる。
【0067】
本発明の親水性合成繊維を熱接着性の芯鞘型合繊維として得る場合、芯成分/鞘成分の複合比(容積比)は、繊維の紡糸性、接着性および加工性などを考慮すると、2/8〜8/2であることが好ましく、3/7〜7/3であることがより好ましい。複合比が2/8よりも小さいと、繊維自体にコシがなくなり、カード通過性に劣る。複合比が8/2を越えると、鞘成分が少なくなるため、繊維の熱接着性が低下する傾向にある。
【0068】
本発明は、特定の親水性繊維処理剤を用いることによって、合成繊維に良好な親水性を付与することを可能にする。したがって、本発明の効果は、繊維表面が疎水性の熱可塑性樹脂で構成されている繊維、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン系共重合体および/またはプロピレン系共重合体が繊維表面を構成している繊維において顕著に得ることができる。
【0069】
本発明の親水性合成繊維の繊度は、好ましくは0.3〜20dtex、より好ましくは0.3〜10dtexである。本発明の親水性合成繊維の繊度は、その繊維が使用される用途によって適宜選択され、例えば、衛生物品の表面材に本発明の親水性合成繊維を使用する場合、繊度は0.5〜8dtexであることが好ましく、0.7〜5dtexであることがより好ましく、1〜3dtexであることが特に好ましい。ワイパーやウェットティッシュに本発明の親水性合成繊維を使用する場合、繊度は0.5〜10dtexであることが好ましい。また、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シート、および化粧用・医療用貼付剤の基布に本発明の親水性合成繊維を使用する場合、繊度は0.3〜5dtexであることが好ましい。繊度が0.3dtex未満であると、繊維強度が弱くなり、繊維の製造中または不織布の製造中に問題が発生することがある。繊度が20dtexを越えると、この繊維を用いて不織布を作製したときに、不織布の柔軟性が損なわれることがある。
【0070】
本発明の親水性合成繊維が短繊維またはステープル繊維として提供される場合、その繊維長は特に限定されず、2〜100mmであってよい。短繊維またはステープル繊維の繊維長は、本発明の親水性合成繊維を含む繊維集合物の形態に応じて選択してよく、例えば、カード機で作製される繊維ウェブを用いて水流交絡不織布(スパンレース不織布とも称す)、ニードルパンチ不織布、またはサーマルボンド不織布を製造する場合には、繊維長は好ましくは20〜100mmであり、より好ましくは35〜75mmである。エアレイ法により作製した繊維ウェブを用いるエアレイ不織布を製造する場合には、繊維長は好ましくは2〜20mmである。あるいは本発明の親水性合成繊維は、連続した長繊維として提供されてよい。
【0071】
次に、本発明の親水性合成繊維の製造方法を説明する。まず、熱可塑性樹脂を公知の溶融紡糸機を用いて、得ようとする繊維形態に応じて、適切な紡糸ノズルおよび紡糸温度を用いて溶融紡糸する。次いで、紡糸フィラメント(未延伸糸)は、必要に応じて延伸される。延伸の際に用いる、延伸方法および延伸条件は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、複合繊維の場合には熱可塑性樹脂の組合せ、および得ようとする繊維性能等に応じて適宜設定される。例えば、温水、熱風、あるいは熱媒中にて、延伸温度60〜110℃、延伸倍率2.0〜8.0倍の条件で延伸される。延伸方法は特に限定されず、温水または熱水などの高温の液体中で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸処理を行うことができる。
【0072】
フィラメントを延伸した後、フィラメントに前記親水性繊維処理剤を付着させる。具体的には、得られた延伸フィラメントの表面に、親水性繊維処理剤を水または他の溶媒で希釈した溶液(以下、「処理液」とも呼ぶ)を付着させ、それから、フィラメントを乾燥させて、付着した処理液から水(または他の溶媒)を蒸発させる。この作業により、乾燥後のフィラメントには、親水性繊維処理剤が付着することとなる。繊維表面に処理液を付着させる方法は特に限定されず、例えば、公知のスプレー法、含浸法、またはロールタッチ法により付着させることができる。乾燥させたフィラメントは、必要に応じて、所定の長さに切断されて、繊維長2〜100mm程度の短繊維またはステープル繊維として、または長繊維(連続繊維)として提供される。
【0073】
延伸フィラメントには、必要に応じて、捲縮付与装置によって、捲縮数10〜20山/25mm、捲縮率8〜17%程度の範囲で捲縮を与える。捲縮を付与する場合、捲縮付与の前または捲縮付与と同時に、処理液をフィラメントに付着させることが好ましい。
【0074】
処理液における親水性繊維処理剤の濃度は、繊維表面に付着させるべき親水性繊維処理剤の量、および処理液を付着させた後、フィラメントを絞る等の工程において脱落する(絞り落とされる)処理液の量等を考慮して、決定される。一般に、親水性繊維処理剤の濃度が1〜10質量%となるように調整される。また、処理液は、次のようにして測定される水分率が3〜20%となるように、フィラメントに付着させることが好ましい。この水分率は、乾燥させる前のフィラメントについて測定されるものであり、捲縮付与装置で捲縮を付与する場合には、捲縮付与後、乾燥前に測定されるものである。
【0075】
いずれの場合も、処理液を付着させたフィラメントの水分量は、当該処理液の付着量を製造過程において積極的に増減させる操作(例えば、捲縮付与装置による捲縮付与、ロール間で処理液を絞る操作、脱水機による脱水等)がもはや行われない状態にて測定される。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が前記範囲内にあると、処理液中の親水性繊維処理剤の濃度を調整することによって、容易に本発明の効果を発揮する繊維が得られる。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が3%未満であると、親水性繊維処理剤の付着が少なく、親水性繊維処理剤がフィラメント全体に均一に付着していないことがあり、得られる繊維の耐久親水性が不十分なものになることがある。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が20%を超えると、フィラメント全体に大量の水分が含まれた状態となる。そのため、乾燥に要する時間がより長くなって、生産効率の低下を招く、あるいは、得られる繊維が乾燥工程を経ても充分に乾燥されていない、乾燥ムラのある繊維となるという不都合が生じることがある。
【0076】
繊維の水分率は次のようにして測定する。まず、乾燥前の処理液が付着しているフィラメントを2m採取し、その質量(フィラメントの乾燥前質量:以下、単に乾燥前質量とも記す)を測定する。質量を測定したフィラメントを110℃で15分乾燥させ、フィラメントに付着している水分を完全に蒸発、乾燥させる。乾燥終了後、再度質量(フィラメントの乾燥後質量:以下、単に乾燥後質量とも記す)を測定する。得られた乾燥前質量、乾燥後質量から、乾燥前のフィラメントにおける水分率(%)を以下の式で求める。
【数1】
【0077】
上記においては、繊維の製造段階において、前記特定の成分を含む親水性繊維処理剤を付着させる方法を説明した。本発明の親水性合成繊維は、前記親水性繊維処理剤を繊維製造段階で付着させて得たものに限定されず、後述する繊維集合物の製造段階で前記親水性繊維処理剤が合成繊維に付着されたものをも含む。具体的には、未処理のまたは他の繊維処理剤を付着させた合成繊維から、後述する方法で不織布などの繊維集合物を得た後、当該繊維集合物に、前記成分(a)〜(c)の含有量を調整して得た親水性処理剤をスプレーする方法、または当該親水性処理剤を含浸させる方法などよって、親水性処理剤を繊維集合物を構成する合成繊維の少なくとも一部の繊維表面に付着させる方法で、本発明の親水性合成繊維を得ることも可能である。あるいは、繊維集合物の形態をとる前の段階で(例えば、不織布を作製するための繊維ウェブ、および繊維から紡績して得た織物または編物用の紡績糸に)、当該親水性繊維処理剤を付着させてもよい。
【0078】
前記の方法で得た親水性合成繊維(繊維集合物の製造段階で前記親水性繊維処理剤を付着させる場合は、未処理の又は他の繊維処理剤を付着させた合成繊維)は、公知の繊維集合物、例えば、織編物、ネット状物、不織布などに加工されて使用される。繊維集合物は、本発明の親水性合成繊維を5質量%以上含む。本発明の親水性合成繊維の含有量が5質量%未満であると、繊維集合物において親水性が十分に得られない。本発明の親水性合成繊維は、より好ましくは繊維集合物中に20質量%以上含まれる。本発明の親水性合成繊維は、特に、不織布を作製するのに好ましく用いられる。不織布は、繊維ウェブを作製した後、繊維を接着させるおよび/または交絡させて一体化させることにより製造する。繊維ウェブの形態は特に限定されず、ステープル繊維からなるパラレルウェブ、セミランダムウェブ、およびクロスウェブ、短繊維からなる湿式抄紙ウェブ、およびエアレイウェブ、および長繊維からなるスパンボンドウェブ、およびメルトブローンウェブ、ならびにエレクトロスピニング法(静電紡糸法とも称す)で得られた繊維ウェブ等、いずれの繊維ウェブであってよい。柔軟性および風合いが重視される用途に使用する場合、不織布は、ステープル繊維からなるウェブを用いて作製されることが好ましい。
【0079】
不織布の製造において、繊維ウェブの繊維を一体化させる方法は特に限定されない。例えば、本発明の親水性合成繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、あるいは本発明の親水性合成繊維が熱接着性繊維(単一繊維または芯鞘型複合繊維)とともに不織布を構成する場合には、熱風吹き付け法または熱エンボス法等のサーマルボンド法によって、繊維を一体化させてよい。あるいは、繊維の一体化は、ニードルパンチ法および水流交絡処理法等の機械的交絡法によって行ってよい。
【0080】
本発明の親水性合成繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、本発明の親水性合成繊維を5質量%、好ましくは20質量%以上含む繊維ウェブを用いて不織布を作製し、サーマルボンドした後の不織布において、当該複合繊維の鞘成分により繊維同士が熱接着されていることが好ましい。具体的には、複合繊維の鞘成分が軟化または溶融して、繊維同士が固着されていることが好ましい。鞘成分の軟化または溶融による熱接着は、複合繊維の鞘成分の軟化点以上で、かつ芯成分の融点未満の温度の熱エンボスロールまたは熱風を用いて、熱処理することによって達成される。
【0081】
また、本発明においては、水流交絡処理法を採用して、繊維の一体化を行ってよい。水流交絡処理法は、前記サーマルボンド法と組み合わせてよい。水流交絡処理の条件は、最終的に得ようとする不織布の目付、柔軟性、および機能性に応じて設定される。不織布に開孔部を形成する場合には、そのことも考慮して、条件を設定する。水流交絡処理は、例えば、孔径0.05〜0.5mmのオリフィスが0.5〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1〜20MPaの柱状水流を、繊維ウェブの片面または両面にそれぞれ1〜8回ずつ噴射することによって実施してよい。
【0082】
本発明の親水性合成繊維を含む繊維集合物は、これ以外の他の繊維を含んでよい。他の繊維は特に限定されず、例えば、コットン、シルクおよびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維であってよい。あるいは、他の繊維は、前記特定の親水性繊維処理剤以外の繊維処理剤が繊維表面に付着した合成繊維であってよい。合成繊維を構成するのに適した樹脂、および合成繊維の形態は、先に説明したとおりであるから、ここではそれらに関する説明を省略する。これらの繊維は一種類のみ使用してよく、あるいは二種以上使用してよい。
【0083】
本発明の繊維集合物を不織布の形態で得て、これを衛生物品の表面材として使用する場合、不織布は熱接着不織布であることが好ましい。換言すれば、本発明の親水性合成繊維のみ、またはこれと他の繊維とを混合して、カード法またはエアレイ法等により、所望の目付の繊維ウェブを作製した後、必要に応じて交絡処理を施し、繊維同士を熱接着させて得た熱接着不織布が、衛生物品の表面材として好ましく用いられる。不織布は、本発明の親水性合成繊維を含む(またはこれのみから成る)繊維ウェブと、他の繊維からなる繊維ウェブとの積層構造であってよい。いずれの構造を有する場合でも、衛生物品の表面材において、本発明の親水性合成繊維は、5質量%以上、好ましくは20質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含まれており、それにより、人または動物の体液を、身体から、吸収体に速やかに移動させることができる。
【0084】
本発明の親水性合成繊維を含む繊維集合物の目付は特に限定されず、用途に応じて、適宜選択される。例えば、本発明の繊維集合物を不織布として、衛生物品の表面材に用いる場合には、目付は15〜80g/m
2とすることが好ましい。本発明の繊維集合物を不織布として、ウェットティッシュ、ワイパー、および使い捨ておしぼりといった対人、対動物および対物用の各種ワイピングシートに用いる場合には、目付は20〜100g/m
2とすることが好ましい。また、本発明の繊維集合物を不織布として、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シートや化粧用・医療用貼付剤に用いる場合には、目付は20〜200g/m
2とすることが好ましい。
【0085】
本発明の親水性合成繊維を含む繊維集合物が不織布として提供される場合、当該不織布は、皮膚接触用製品に組み込まれて提供されることが好ましい。即ち、本発明はまた、当該不織布を少なくとも一部に使用した皮膚接触用製品を提供する。ここで、「皮膚接触用製品」とは、人または人以外の動物の皮膚に接触させて使用する製品を指す。具体的には、
・体液吸収性物品(具体的には乳児用紙おむつ、大人用紙おむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、陰唇間パッド、母乳パッド、汗取りシート、また動物用の排泄物処理材、動物用紙おむつ等)
・皮膚被覆シート(具体的にはフェイスマスク、冷感・温感パップ剤などの化粧用・医療用貼付剤の基布、創傷面保護シート、不織布製の包帯、痔疾用パッド、肌に直接あてる温熱器具(例えば使い捨てカイロ)、各種動物用貼付剤の基布等)
・対人ワイパー(メイク落としシート、制汗シート、おしり拭き等)、各種動物用ワイピングシート等
・その他(例えば使い捨ての肌着、医療用ガウンなど使い捨ての衣料品、マスク、動物用創傷保護衣料等)
が皮膚接触製品として挙げられる。本発明の親水性合成繊維を含む不織布は、これらの製品の一部または全部を構成してよい。例えば、体液吸収性物品においては、表面材のみを本発明の親水性合成繊維を含む不織布で構成してよい。また、皮膚被覆シートにおいては、特に、敏感な部分を覆う部分のみを本発明の親水性合成繊維を含む不織布で構成してよく、あるいは皮膚被覆シート全体を本発明の親水性合成繊維を含む不織布で構成してよい。
【実施例】
【0086】
(繊維処理剤の調製)
成分(a)、(b)および(c)として、下記に示すものを用意した。
【0087】
[成分(a)]
a−1:N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンカリウム液(30%水溶液)(商品名 アミライト(登録商標)GCK−12K、味の素ファインケミカル(株)製)
a−2:N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−アラニンナトリウム液(30%水溶液)(商品名 アミライト(登録商標)ACS−12、味の素ファインケミカル(株)製)
a−3:N−ヤシ油脂肪酸アシル−DL−アラニントリエタノールアミン液(30%水溶液)(商品名 アミライト(登録商標)ACT−12、味の素ファインケミカル(株)製)
a−4:N−ヤシ油脂肪酸アシルグリシンナトリウム液(30%水溶液)(商品名 アミライト(登録商標)GCS−12K、味の素ファインケミカル(株)製)
a−5:N−ヤシ油脂肪酸アシル−L−グルタミン酸ナトリウム(25%水溶液)(商品名 アミソフト(登録商標)CS−22、味の素ファインケミカル(株)製)
【0088】
[成分(b)]
b−1:テトラグリセリンモノラウレート(商品名 サンソフト(登録商標)TR121A、太陽化学(株)製)
b−2:(モノ)グリセリン(1級グリセリン 片山化学工業(株)製)
b−3:デカグリセリンモノラウレート(商品名 サンソフト(登録商標)M12J、太陽化学(株)
【0089】
[成分(c)]
c−1:乳酸ナトリウム(ピューラック社製)
【0090】
[その他の成分]
グリチルリチン酸ジカリウム(丸善製薬(株)製)
クエン酸(扶桑化学工業(株)製)
前記各成分を、表1および表2に示す割合(質量%)で混合して、繊維処理剤を調製した。
【0091】
(実施例1)
紡糸前の融点が130℃、メルトインデックス(JIS−K−7210に準じて、190℃、21.18N(2.16kgf)で測定した値)が12、密度0.936g/cm
3)である高密度ポリエチレン樹脂(商品名:HE480、日本ポリエチレン(株)製)および紡糸前の融点が256℃、極限粘度値(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレート(商品名T200E、東レ(株)製)を用意した。孔径0.6mmの吐出口が600個設けられた紡糸ノズルを使用し、ポリエチレンテレフタレート樹脂/ポリエチレン樹脂の複合比(芯成分/鞘成分)を50/50とし、引取速度600m/分で溶融紡糸し、繊度5dtexの芯鞘型複合未延伸フィラメントを得た。
【0092】
次いで、この未延伸フィラメントを延伸温度80℃、延伸倍率2.7倍で、湿式延伸処理に付し、延伸されたフィラメントに対し、表1の実施例1の欄に示す組成の繊維処理剤を、繊維処理剤の濃度が3.5質量%となるように水で希釈した処理液を、クリンパーロール通過前に含浸法にて付着させた。表1に示す組成において、成分(a)の割合は、成分(a)として水溶液の形態のものを用いる場合には、水を除く塩の割合である。処理液が付着したフィラメントをクリンパーロールに導入し、クリンパーロールにて捲縮を付与すると同時に、余分な処理液を絞り落とした。その後、110℃、15分の乾燥工程を経て繊維表面の水分を蒸発、乾燥させてからカッターにて繊維長51mmに切断した。これにより、繊度が2.2dtex、捲縮数15山/25mm、捲縮率が12%の芯鞘型複合繊維を得た。
【0093】
繊維表面への繊維処理剤の付着量は、東海計器(株)製 R−II型迅速残脂抽出装置を用い、迅速抽出法により測定した。まず所定長に切断された繊維4gをカード機にかけてウェブとし、得られたウェブの質量(W
f)を測定する。質量を測定したウェブを金属製の筒(内径16mm、長さ130mm、底部はすり鉢状で最底部には直径1mmの孔があるもの)に充填した後、上部よりメタノール10mlを投入する。底部の孔より滴下する、繊維試料に付着していた繊維処理剤が溶解したメタノールを、アルミニウム皿(質量:W
tray)を加熱しながら受け、メタノールを蒸発させる。アルミニウム皿の質量(W
tray)は、乾燥機でアルミニウム皿を充分に乾燥させてから、メタノールを受ける前に測定する。メタノールが完全に蒸発した後、繊維処理剤が残留しているアルミニウム皿の質量(W
fat)を測定する。前記の測定の後、繊維質量に対する繊維表面への繊維処理剤の付着量を、次の式から算出する。実施例1の繊維表面への繊維処理剤の付着量を前記方法で求めた結果、繊維処理剤の付着量は繊維質量に対し、0.30質量%であった。この付着量に、成分(a)の含有量(質量%)を100で除した値を乗じて、繊維質量に対する成分(a)の付着量(質量%)を求めた。
【数2】
【0094】
得られた繊維から、パラレルカードを用いて目付30g/m
2の繊維ウェブを作製し、熱風吹き付け装置を用いて、熱処理温度140℃で繊維の鞘成分を溶融して、繊維ウェブの繊維同士を熱接着させて熱接着不織布を得た。
【0095】
(実施例2〜12、比較例1〜5)
繊維処理剤として、それぞれ表1および表2に示す実施例2〜12および比較例1〜5の欄に記載した割合で各成分を混合して調製したものを用いたこと以外は、実施例1を作製するときに採用した手順と同じ手順で繊維を得、さらに熱接着不織布を作製した。
【0096】
[親水性]
各実施例および各比較例の不織布の親水性を評価した。親水性の評価はランオフ(run-off)テストと称される方法で行い、具体的には次の手順で行った。まず、前記の方法で得られた熱接着不織布を、縦方向(機械方向)×横方向が18cm×7cmとなるように切断して、サンプルを用意した。このサンプルを、その縦方向と水平面とが45度の角度をなすように支持台の上に載せ、固定する。このとき、支持台の斜面の上には、日本製紙クレシア(株)製「キムタオル(登録商標)」を4枚重ねたものを最初に敷き、その上に不織布サンプルを載せて固定する。支持台は、水平面と45度の角度をなす斜面を有する、略垂直二等辺三角形の断面を有するものである。不織布表面の上端1cmの位置から、生理食塩水をマイクロチューブポンプまたはビュレットにて1g/10秒の速度で計6g滴下し、注いだ生理食塩水がすべて不織布に吸収され、生理食塩水の水滴が不織布表面から消えた位置を測定し、当該位置と生理食塩水を不織布表面に滴下した位置との間の、生理食塩水の水滴が不織布表面を流れた距離を求める。
【0097】
この距離が短いほど、不織布は親水性が高く、より具体的には、水分を瞬間的に吸収する能力が高いといえる。一方、親水性の低い不織布においては、滴下した生理食塩水が吸収されず、生理食塩水の水滴がサンプルの終端まで不織布表面を流れて残った。そのようなサンプルについて、生理食塩水の水滴が消えた位置を測定できなかったため、「<160」としている。
【0098】
[加工性]
各実施例および各比較例で得た繊維の加工性を、各実施例および比較例で熱接着不織布を製造する際のカード通過性により評価した。より具体的には、カード通過性は、繊維がカードを通過する際に発生する静電気の有無で評価した。評価基準は下記のとおりである。
○:室温25℃、湿度30%の雰囲気中でのカード通過時に静電気が発生しない。
×:室温25℃、湿度70%の雰囲気中のカード通過時でも静電気が発生し、繊維ウェブが採取できない。
【0099】
[フィンチャンバーパッチテスト]
各実施例および比較例で使用した繊維処理剤の皮膚への刺激性を、皮膚感作テスト用テープ(商品名:フィンチャンバー(登録商標)、SmartPractice, Inc.製)を用いて評価した結果、実施例1〜12、比較例1〜5の繊維処理剤において目立った皮膚の荒れ、赤みの発生がなく、各種衛生物品に使用できることを確認した。
各実施例および各比較例で得た繊維の加工性および不織布の親水性、ならびに繊維処理剤の皮膚への刺激性を表1および表2に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
表1および表2に示すように、成分(a)と成分(b)と成分(c)とを含む繊維処理剤が繊維表面に付着した繊維は、加工性に優れ、かつ優れた親水性を示した。(実施例1〜12)。特に、実施例10は、単独で使用した場合、繊維への親水性付与効果が低いアミノ酸系界面活性剤を使用している(比較例5 参照)にもかかわらず、成分(b)、成分(c)を併用したことで親水性付与効果が大幅に向上している。同様に実施例11も単独で使用した場合、繊維への親水性付与効果が低いアミノ酸系界面活性剤を使用している(比較例4 参照)にもかかわらず、成分(b)、成分(c)を併用したことで親水性付与効果だけでなく、繊維の加工性(カード通過性)も大幅に向上している。
【0103】
アミノ酸系界面活性剤に対し、成分(b)、成分(c)を併用することで繊維への親水性付与効果が高められる要因として、アミノ酸系海面活性剤は粉末状の状態で市販されているものが存在することから、種類によっては乾燥時に粉末状、フレーク状になりやすいものが存在し、そのようなアミノ酸系界面活性剤は、繊維処理剤として使用した場合、繊維表面に粉末状、あるいはフレーク状になって付着するため、繊維表面に均一に付着することや、付着状態を維持することが難しい(すなわち時間の経過によって脱落しやすい)ものが存在すると推測される。このようなアミノ酸系界面活性剤に対し、成分(b)と成分(c)を併用することで、アミノ酸系界面活性剤が繊維表面に均一に付着するようになり、繊維への親水性付与効果が高められたと推測される。また、実施例11にて、繊維の加工性が高められた要因としては、成分(b)、成分(c)はいずれも吸湿性が高いことから、繊維表面に付着した後、空気中の水蒸気を吸収するため繊維の静電気発生が抑えられ、加工性(カード通過性)が改善されると推測される。