(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881457
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】ワイヤロープ
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20160225BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20160225BHJP
B66B 7/06 20060101ALN20160225BHJP
B66C 1/12 20060101ALN20160225BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
D07B1/02
!B66B7/06 A
!B66C1/12 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-34097(P2012-34097)
(22)【出願日】2012年2月20日
(65)【公開番号】特開2013-170323(P2013-170323A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039175
【氏名又は名称】株式会社テザックワイヤロープ
(73)【特許権者】
【識別番号】306039164
【氏名又は名称】株式会社テザック
(74)【代理人】
【識別番号】100123021
【弁理士】
【氏名又は名称】渥美 元幸
(72)【発明者】
【氏名】前川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】井上 新也
(72)【発明者】
【氏名】内海 孝二
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−074190(JP,A)
【文献】
特開平04−214488(JP,A)
【文献】
特開平10−102388(JP,A)
【文献】
特開平04−050388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/06
D07B 1/02
B66B 7/06
B66C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを3本撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部に、主ストランドより細径の副ストランド3本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを4本撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部に、主ストランドより細径の副ストランド4本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープ。
【請求項3】
中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを4本撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部と内周部に、主ストランドより細径の副ストランド5本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の芯綱を備えたワイヤロープに関するものであり、エレベーター、クレーン、ロープウェイ、ゴンドラリフトなどとして好適なワイヤロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エレベーター、クレーン、ロープウェイなどに使用されているワイヤロープには、通常、内部中心部に潤滑油を含浸させた芯綱が配置されており、ロープに大きな張力がかかったり、撓んだりすると、芯綱が周囲の鋼線ストランドに押圧されて潤滑油が滲出し、滲み出た潤滑油は素線である鋼線に付着して発錆や腐食、摩耗の増大を防止すると共に、シーブなどにスムーズに巻きつけられる柔軟性と長期間にわたって使用できる耐疲労強度性の大きいことが求められている。
【0003】
その芯綱は、金属芯と繊維芯があり、金属芯を使用したワイヤロープは、強度が強く破断荷重に優れている反面、可撓性が悪いため、シーブなどを介して繰り返し曲げられるエレベーター用のロープとしては適さなかった。一方、繊維芯を使用したワイヤロープは、破断荷重では金属芯のワイヤロープに劣るが可撓性の点で優れており、シーブなどにスムーズに巻きつけられるのでエレベーター用のロープに適している。
【0004】
これらの芯綱の形状は、
図7に示すように、一般的には麻などで形成した3本のストランド23を撚り合わせた、所謂「3つ打ち」の構成である。すなわち、3本のストランド23の中心を結んだ線が正三角形になるよう撚成されたものであり、その芯綱22の外周面に8本の側ストランド28を撚り合わせたワイヤロープ21が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭60−82495号公報
【特許文献2】特開平4−214486号公報
【特許文献3】特開平10−140490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜3の芯綱は、芯綱と側ストランドとの空間部によって芯綱の一部が変形するが、芯綱の変形が大きくなるとシーブとの間で繰り返しロープが曲げられるため、芯綱が損傷し減径してロープの減径につながる。このロープの減径が進行するとロープ内で断線が発生する虞れがあるといった問題点があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決することを課題として研究開発されたもので、ロープ内部での芯綱密度を高くし、芯綱と側ストランドの接触圧を分散緩和させることにより、耐摩耗性と耐疲労強度性が向上し、ロープ径の減径を少なくし、長期にわたって安定した状態で使用できるワイヤロープを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決し、その目的を達成する手段として、本発明
の請求項1では、中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、
多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを3本を撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部に、
主ストランドより細径の副ストランド3本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープを開発し、採用した。
【0009】
また、本発明の請求項2では、中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを4本撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部に、主ストランドより細径の副ストランド4本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープを開発し、採用した。
【0010】
また、本発明の請求項3では、中心部に潤滑油が含浸された芯綱を配置し、その外周面に複数本の側ストランドを撚り合わせたワイヤロープであって、前記芯綱は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランドを4本撚り合わせた太径の主ストランドと、その主ストランド同士が接触する外周部と内周部に、主ストランドより細径の副ストランド5本を撚り合わせた合成繊維同士の複合芯綱で構成されており、主ストランドと側ストランドとの間に形成される空間部に、副ストランドが位置するように構成したことを特徴とするワイヤロープを開発し、採用した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の
請求項1によれば、
3本のストランドを撚り合わせた主ストランド同士が接触する外周部に、副ストランド
3本を配した複合芯綱であるから、芯綱自体の密度が増えて芯綱と側ストランドとの間に生じる接触圧が分散緩和され、芯綱および側ストランドとの摩耗、疲労、撚り減りがなくなる。また、主ストランドに含浸された潤滑油は副ストランドが接触していることにより滲出量を抑えることができ、長期にわたって滲出することになり、ワイヤロープの寿命を延ばすことができる。
さらに、芯綱と側ストランドとの間に形成される空間部に副ストランドが位置することになり、従来生じていた側ストランドの一部の落ち込みが小さくなり、局部的に形態が崩れることがなくなる。
【0012】
本発明の請求項2によれば、4つ打ちの複合芯綱17の場合は、4本の芯綱ストランドが上下左右から略均等に圧縮成形されるので、ロープ内部での芯綱密度が高くなることから、芯綱と側ストランド(図示せず)との摩耗が少なくなる。
【0013】
本発明の請求項3によれば、4本の芯綱ストランドと密接して間隙部が少なくなり主ストランドの形が崩れにくくなるばかりでなく、極めて高密度の芯綱になる。また、中心部にある1本の芯綱ストランドにより、潤滑油の過剰な滲出を防ぐことができ、長きに亘って潤滑油を滲出することにより、発錆、腐食、摩耗を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるワイヤロープの断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における芯綱の断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態における圧縮された芯綱の断面図である。
【
図6】本発明のさらに別な複合芯綱の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の第1実施形態を添付の
図1〜3に基づいて説明すれば、ワイヤロープ1は、例えば、8×S(19)、6×S(19)、8×W(19)、6×W(19)などの構造のものが使用される。中心部に配される芯綱2は、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランド3とし、その芯綱ストランド3を3本撚り合わせて構成した太径の主ストランド4と、芯綱ストランド3、3、3同士が接触する接触点3a,3a,3aの外周部に芯綱ストランド5、5、5を配置して、撚り合わせた細径の副ストランド6からなる複合芯綱7の外周部に、19本の鋼線を撚り合わせた鋼線側ストランド8を配し、複合芯綱7の外周面に8本配置されて撚り合わされてワイヤロープ1を形成してある。
【0016】
複合芯綱7を構成する主ストランド4は、3本の芯綱ストランド3、3、3の中心を結んだ線が正三角形になるよう撚成されており、副ストランド6は、3本の芯綱ストランド
5、5、5の中心を結んだ線が逆三角形になるよう撚成されている。副ストランド6の外径は、複合芯綱7の30%以下の太さであれば、複合芯綱7と側ストランド8の接触圧が大きくならないのでよい。
【0017】
主ストランド4および副ストランド6に用いる合成繊維の種類としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ビニロン、アラミド、ポリアリレート、ビニロンとポリエステルの混紡糸などを用いることができるが、目的または効果によって素材を選定することができる。
【0018】
繊維形状としては、マルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸、フラットヤーン、スプリットヤーン、連糸などが使用できる。また、ポリプロピレン製のモノフィラメント とポリプロピレン製のマルチフィラメントとの混撚り、あるいはポリプロピレン製のモノフィラメントとポリプロピレン製の紡績糸との混撚りであれば、マルチフィラメントまたは紡績糸は多数のフィラメント糸やスパン糸を集束して撚ってあるから、フィラメント糸やスパン糸の間に潤滑油が浸透して充分に含浸させることができると共に、保油性にも優れ芯綱全体の潤滑油の量を調節しやすくなり、長期にわたって的確な潤滑油を滲出させることができる。また、モノフィラメントは硬度性があるから形態保持に富みワイヤロープの形崩れを起こすことがない。さらに、スプリットヤーンの場合は、スリットを介して潤滑油を充分に吸収でき、長期にわたって的確な潤滑油を浸出させることができる。
【0019】
前記実施例での複合芯綱7は3つ打ちされた主ストランド4と、副ストランド6との組み合わせであったが、
図5に示すように、多数の合成繊維を束ねて撚った1本の芯綱ストランド13とし、その芯綱ストランド13を4本撚り合わせて構成した太径の主ストランド14と、芯綱ストランド13、13、13、13同士が接触する外周部に芯綱ストランド15、15、15、15を配置して、撚り合わせた細径の副ストランド16とからなる4つ打ちの複合芯綱17とすることもある。
【0020】
さらに、
図6に示すのは
図5の変形例の芯綱を示すものであり、
図5の芯綱12と相違するのは、4本の芯綱ストランド13、13、13、13が接する中心の空間部18に、1本の芯綱ストランド19を配して撚り合わせたものであり、芯綱ストランド13、13、13、13同士が接触する外周部に芯綱ストランド15、15、15、15、15を配して細径の副ストランド16とするのは同じである。
【0021】
このように構成された本発明の実施形態1におけるワイヤロープ1の使用状態を作用、効果と共に説明すれば、主ストランド4を構成する複数本の合成繊維芯綱ストランド3、3、3の中心を結んだ線が正三角形になると共に、副ストランド6を構成する3本の合成繊維芯綱ストランド5、5、5の中心を結んだ線が逆正三角形になり、複合すると上下のバランスがとれた安定した形になり、この外周面に撚り合わす側ストランドの巻きつけが容易になる。
【0022】
また、3本の合成繊維の芯綱ストランド3、3、3からなる主ストランド4と、3本の合成繊維の芯綱ストランド5、5、5からなる副ストランド6により複合芯綱5が構成されているから、芯綱2と側ストランド8との間に形成される空間部9に副ストランド6が位置することになり、従来生じていた側ストランド8の一部の落ち込みが小さくなり、局部的に形態が崩れることがなく、また、芯綱2と側ストランド8との間に生じる接触圧が分散緩和され、芯綱および側ストランドとの摩耗、疲労がなくなり、長期にわたって滲出することになり、ワイヤロープの寿命を延ばすことができる。
【0023】
さらに、芯綱ストランド13を4本撚り合わせて構成した太径の主ストランド14と、芯綱ストランド15を4本撚り合わせて構成した細径の副ストランド16からなる複合芯綱17は、主ストランド14および副ストランド16を構成する複数本の合成繊維芯綱ストランド13、13、13、13と15、15、15、15の中心を結んだ線が四角形になり上下左右が安定した形になり、この外周面に撚り合わす側ストランドの巻きつけが容易になる。また、この4つ打ち複合芯綱17の場合は、4本の芯綱ストランド13、13、13、13が略均等に圧縮成形されるので、ロープ内部での芯綱密度が高くなることから、芯綱12と側ストランド(図示せず)との摩耗が少なくなる。
【0024】
また、4本の芯綱ストランド13からなる太径の主ストランド14と、4本の芯綱ストランド15からなる細径の副ストランド14と、中心部にある1本の芯綱ストランド19からなる芯綱17の場合は、4本の芯綱ストランドと密接して間隙部が少なくなり主ストランド14の形が崩れにくくなるばかりでなく、極めて高密度の芯綱になる。また、中心部にある1本の芯綱ストランドにより、潤滑油の過剰な滲出を防ぐことができ、長きに亘って潤滑油を滲出することにより、発錆、腐食、摩耗を防ぐことができる。
【0025】
表1に示すのは実施形態1の複合芯綱を配したワイヤロープと従来の3つ打ち芯綱を配したロープの減径率を比較した。ロープ径は22.4mmを使用した。
【表1】
上記表1から明らかなように、本発明品はロープに負荷された際のロープ径の減径が抑えられ、ストランドの落ち込みが小さくなりロープ表面の凹凸が少なくなり均一になる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態については、ワイヤロープを8×S(19)の構造のもので説明したが、これに限定されるものではなく、繊維芯綱を有する全ての構成のワイヤロープに適用でき、本発明の目的を達成でき、かつ本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の設計変更が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のワイヤロープは、エレベーター、クレーン、ロープウェイ、ゴンドラリフトなどに使用されるワイヤロープとして好適に利用できるものである。
【符号の説明】
【0028】
1 ワイヤロープ
2、12 芯綱
3、13 芯綱ストランド
4、14 主ストランド
5、15 芯綱ストランド
6、16 副ストランド
7、17 複合芯綱
8 側ストランド