特許第5881459号(P5881459)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5881459-鋳造用消失模型の表面補修剤 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881459
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】鋳造用消失模型の表面補修剤
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/04 20060101AFI20160225BHJP
   B22C 7/02 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   B22C9/04 L
   B22C7/02 103
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-36505(P2012-36505)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-169584(P2013-169584A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122542
【氏名又は名称】岡崎鑛産物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120019
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 敏安
(72)【発明者】
【氏名】石崎 省吾
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−154603(JP,A)
【文献】 特開平10−109137(JP,A)
【文献】 特開2002−307133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/04
B22C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造用消失模型の表面に生じた凹部を埋めるようこの表面に塗布される鋳造用消失模型の表面補修剤であって、
ワックスを50〜75質量%、アクリル樹脂を10〜35質量%、および水を10〜30質量%含有することを特徴とする鋳造用消失模型の表面補修剤。
【請求項2】
ワックスとして、パラフィンワックスを含有することを特徴とする請求項1に記載の鋳造用消失模型の表面補修剤。
【請求項3】
パラフィンワックスの一部もしくは全部が、融点55〜150℃のパラフィンワックスであることを特徴とする請求項2に記載の鋳造用消失模型の表面補修剤。
【請求項4】
アクリル樹脂のうち、少なくとも50質量%以上がポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の鋳造用消失模型の表面補修剤。
【請求項5】
添加剤として、メチルセルロース等の増粘剤、界面活性剤等の乳化剤、消泡剤、染料、防腐剤から1種以上を追加することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の鋳造用消失模型の表面補修剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用消失模型を成形した場合に、この消失模型の表面に生じた凹部を埋めてこの表面を平滑にさせるようこの表面に塗布される鋳造用消失模型の表面補修剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消失模型を用いての鋳造方法(フルモールド法を含む)は、木型や金型を用いる従来からの鋳造法に比べて鋳造が容易かつ安価にできるなどの理由により、近時、下記特許文献1に示される如く多用されている。
【0003】
上記消失模型は、ポリスチレンやポリメタクリル酸メチル等の発泡樹脂により型成形されるもので、この消失模型を用いての鋳造は、通常、次のように行われる。
【0004】
即ち、まず、消失模型の表面に塗型剤を塗布することにより耐火コーティングを施し、その乾燥後に、この消失模型を鋳型の鋳物砂内の所定位置に埋没させる。次に、鋳造しようとする目的の鋳物の材料となる金属溶湯を上記消失模型に向けて注湯する。すると、この消失模型は上記溶湯の熱により燃焼消失して溶湯と置換される。そして、その後、冷却して鋳物砂を除去すれば、上記消失模型と同形の上記鋳物が得られることとされる。
【0005】
ここで、消失模型は、一般に、形状が大型であったり複雑であったりするため、これを一体成形することは困難な場合が多い。そこで、複数個の消失模型部材をそれぞれ成形した後、これらを互いに接着して上記消失模型を形成することが行われる。しかし、このように消失模型部材を互いに接着して消失模型を形成すると、その接着部に沿って延びる溝状の凹部が上記消失模型の表面に生じがちとなる。
【0006】
また、通常、消失模型の表面には亀甲模様の凹部があり、また、鋳造時の消失模型の取り扱い時などに、その一部が破損したり脱落したりして欠損部としての凹部が生じる場合がある。
【0007】
そして、仮に、上記したように表面に凹部が生じている消失模型を用いて鋳造したとすると、上記凹部が鋳物の表面に転写されて、この鋳物の表面に不要な凹部が形成され、よって、この鋳物が不良品になるおそれを生じる。
【0008】
そこで、鋳物の表面に消失模型の表面の凹部が転写されないようにするため、第1に、鋳造時の溶湯の熱により燃焼消失するセルロース系のテープを上記凹部を塞ぐよう消失模型の表面に貼付することが、従来より行われている。しかし、このように消失模型の表面にテープを貼付すると、鋳造時に、このテープが鋳物の表面に転写されることとなり、これは、鋳物の外観上の見栄えを低下させる原因となって好ましくない。
【0009】
また、第2に、前記従来の技術に記載されているように、消失模型の表面に生じた凹部を埋めるようこの表面に塗布される鋳造用消失模型の表面補修剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−307133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記従来の技術にいう消失模型の表面補修剤は、有機ポリマー樹脂と、同粒子を固着するためのバインダー樹脂とからなるものとされているが、このような樹脂からなる表面補修剤は乾燥収縮が大きいものである。このため、このような樹脂からなる表面補修剤を消失模型の表面の凹部を埋めようとして塗布すると、その乾燥に伴い上記凹部に充填された表面補修剤の表面に凹みが生じがちとなる。よって、このような凹みが生じないよう上記凹部を精度よく埋めようとして消失模型の表面に上記した表面補修剤を塗布する場合には、この表面補修剤の塗布作業は煩雑になると考えられる。
【0012】
また、上記した樹脂からなる表面補修剤を用いて消失模型の表面の凹部を埋めた場合には、鋳造時の溶湯の熱で表面補修剤の樹脂が燃焼する際に未分解残渣が鋳物に残留するおそれがあって、鋳物が不良品になるおそれを生じる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、消失模型の表面に生じた凹部を精度よく埋めるようこの表面に表面補修剤を塗布する場合に、この表面補修剤の塗布作業が容易にできるようにし、かつ、上記消失模型を用いて鋳造した鋳物に上記表面補修剤の燃焼後の未分解残渣が残留することを、より確実に防止できるようにすることである。
【0014】
請求項1の発明は、鋳造用消失模型1の表面に生じた凹部8を埋めるようこの表面に塗布される鋳造用消失模型の表面補修剤であって、
ワックスを50〜75質量%、アクリル樹脂を10〜35質量%、および水を10〜30質量%含有することを特徴とする鋳造用消失模型の表面補修剤である。
【0015】
請求項2の発明は、ワックスとして、パラフィンワックスを含有することを特徴とする請求項1に記載の鋳造用消失模型の表面補修剤である。
【0016】
請求項3の発明は、パラフィンワックスの一部もしくは全部が、融点55〜150℃のパラフィンワックスであることを特徴とする請求項2に記載の鋳造用消失模型の表面補修剤である。
【0017】
請求項4の発明は、アクリル樹脂のうち、少なくとも50質量%以上がポリメタクリル酸メチルであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1つに記載の鋳造用消失模型の表面補修剤である。
【0018】
請求項5の発明は、添加剤として、メチルセルロース等の増粘剤、界面活性剤等の乳化剤、消泡剤、染料、防腐剤から1種以上を追加することを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1つに記載の鋳造用消失模型の表面補修剤である。
【0019】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0020】
本発明による効果は、次の如くである。
【0021】
請求項1の発明は、鋳造用消失模型の表面に生じた凹部を埋めるようこの表面に塗布される鋳造用消失模型の表面補修剤であって、
ワックスを50〜75質量%、アクリル樹脂を10〜35質量%、および水を10〜30質量%含有している。
【0022】
このため、上記表面補修剤は、作業者の手作業による外力で容易に変形する柔軟性を有し、かつ、この外力を除去すると、それ自体でその形状を保つ自己保形性を有する。よって、鋳造時に、消失模型の表面に生じている凹部を埋めるよう消失模型の表面に表面補修剤を塗布する塗布作業をする場合には、上記した表面補修剤の柔軟性と自己保形性とによって、上記塗布作業が容易迅速に、かつ、精度よくでき、つまり、上記表面補修剤によれば、塗布作業性が向上する。
【0023】
また、消失模型の表面への表面補修剤の塗布作業後には、前記凹部を埋めるようこの凹部に充填された表面補修剤を乾燥固化させるが、この場合、上記表面補修剤にはアクリル樹脂とワックスが含有され、かつ水分が適度に少ないことから、消失模型の表面への表面補修剤の塗布作業後の乾燥固化時には、凹部に充填された表面補修剤の表面におけるアクリル樹脂が逸早く乾燥して、強度のある固体皮膜が形成される。その後に、上記凹部の深部の表面補修剤が乾燥するが、上記固体皮膜には乾燥初期から強度発現があり、上記凹部の深部の表面補修剤では、水分相当分の微細な空隙を生じながら乾燥が進む。このため、上記凹部に充填された表面補修剤には、その乾燥前後で体積変化がほとんどなく、上記表面補修剤の表面は平坦なままに保持されて、上記凹部に充填された表面補修剤の表面に凹みが形成されることは防止される。
【0024】
よって、上記凹部の存在にかかわらず、消失模型の表面は所望の平滑面とできることから、この消失模型を用いての鋳造によれば、表面に不要な凹部が存在しない平滑で美麗な鋳物が得られることとなる。
【0025】
ここで、表面補修剤に含有される前記ワックスは、これを加熱すると比較的低い温度で融解して容易に気化する物質であり、また、この気化により、より完全に燃焼消失する物質である。この点、このワックスは、セルロースや樹脂とは性質が大きく異なる。
【0026】
このため、前記鋳造時に、鋳物砂に埋没された消失模型に向けて溶湯を注湯した場合には、表面補修剤における含有物質のうち、特に、ワックスが上記した性質によって溶湯の輻射熱により直ちに融解して容易に気化し、より完全に燃焼消失する。
【0027】
また、上記表面補修剤に含有されるアクリル樹脂は、上記ワックスには劣るが、他の樹脂に比べて、より完全に燃焼消失し易い物質である。このため、前記鋳造時に溶湯を注湯した場合には、この溶湯の熱により上記アクリル樹脂も、より完全に燃焼消失する。
【0028】
よって、上記ワックスとアクリル樹脂とを含有する表面補修剤は、鋳造時の溶湯の注湯により、より完全に燃焼消失し、表面補修剤の燃焼後の未分解残渣が鋳物に残留することは、より確実に防止される。
【0029】
なお、本発明の上記数値限定の理由は、後述の「発明を実施するための形態」に記載した通りである。
【0030】
請求項2の発明は、ワックスとして、パラフィンワックスを含有したものである。
【0031】
ここで、上記パラフィンワックスは入手し易いものであり、かつ、安価であるため、表面補修剤に含有されるワックスとして、パラフィンワックスを用いたことにより、実用性が向上する。
【0032】
請求項3の発明は、パラフィンワックスの一部もしくは全部が、融点55〜150℃のパラフィンワックスとされたものである。
【0033】
このため、上記のような融点の低いパラフィンワックスを表面補修剤に含有させた場合には、このワックスは、鋳造時に消失模型に注湯された溶湯の熱により、直ちに融解して、より容易に気化し、更に完全に燃焼消失する。よって、表面補修剤の燃焼後の未分解残渣が鋳物に残留することは、更に確実に防止される。
【0034】
請求項4の発明は、アクリル樹脂のうち、少なくとも50質量%以上がポリメタクリル酸メチルとされたものである。
【0035】
このため、消失模型の表面への表面補修剤の塗布作業後の乾燥固化時には、凹部に充填された表面補修剤の表面における上記成分のアクリル樹脂がより速く乾燥して、より強度のある固体皮膜が形成され、前記表面補修剤の表面における凹みの形成が、より確実に防止される。
【0036】
請求項5の発明は、添加剤として、メチルセルロース等の増粘剤、界面活性剤等の乳化剤、消泡剤、染料、防腐剤から1種以上を追加したものである。
【0037】
ここで、表面補修剤に上記増粘剤を追加すると、消失模型の表面への表面補修剤の塗布作業がより容易になると共に、表面補修剤を長期にわたり保存するときの保存安定性が向上する。
【0038】
また、上記乳化剤はアクリルモノマーやワックスを水中に乳化・分散させるために使用するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】消失模型を用いた鋳造用鋳型の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の鋳造用消失模型の表面補修剤に関し、消失模型の表面に生じた凹部を精度よく埋めるようこの表面に表面補修剤を塗布する場合に、この表面補修剤の塗布作業が容易にできるようにし、かつ、上記消失模型を用いて鋳造した鋳物に上記表面補修剤の燃焼後の未分解残渣が残留することを、より確実に防止できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0041】
図1は、消失模型1を用いた鋳造用鋳型2の側面断面図である。
【0042】
上記鋳型2は、金枠3と、この金枠3内に充填される鋳物砂4と、この鋳物砂4に埋没される上記消失模型1とを備えている。そして、この消失模型1を用いての鋳造は、通常、次のように行われる。
【0043】
即ち、まず、消失模型1の表面に塗型剤を塗布することにより耐火コーティングを施し、その乾燥後に、この消失模型1を鋳型2の鋳物砂4内の所定位置に埋没させる。次に、鋳造しようとする目的の鋳物の材料となる金属溶湯5を上記消失模型1に向けて注湯する。すると、この消失模型1は上記溶湯5の熱により直ちにほぼ完全に燃焼消失して溶湯5と置換される。そして、その後、冷却すれば、上記消失模型1と同形の上記鋳物が得られることとされる。
【0044】
上記消失模型1はポリスチレンの発泡樹脂により型成形されたものであり、このため、上記燃焼消失はほぼ完全に行われる。ここで、上記消失模型1の表面に何らかの理由で凹部8が生じている場合には、この消失模型1を鋳物砂4内に埋没させる前に、上記凹部8を埋めるよう消失模型1の表面に表面補修剤9を塗布する塗布作業をし、この表面補修剤9を自然乾燥により固化させる。このようにして、消失模型1の表面を平滑にさせる。そして、この消失模型1を鋳造に用いれば、表面に不要な凹部が存在しない平滑で美麗な鋳物が得られることとなる。
【0045】
以下、上記表面補修剤9につき詳しく説明するが、この表面補修剤9における各物質の含有量の質量%は、単に%で表記する。
【0046】
上記表面補修剤9は、ワックス、アクリル樹脂(acrylic resin)および水を含有している。具体的には、ワックスの含有量は50〜75%、アクリル樹脂の含有量は10〜35%、水の含有量は10〜30%である。また、この表面補修剤9には、添加剤として、メチルセルロース等の増粘剤、界面活性剤等の乳化剤、消泡剤、染料、防腐剤から1種以上が追加される。
【0047】
上記表面補修剤9の製造方法として、例えば、パラフィンワックス、アクリルモノマー、および水を混合して、パラフィンワックスの乳化と、アクリルモノマーの乳化重合とを同時に行いつつ混合分散すれば、上記表面補修剤9の製造ができる。
【0048】
なお、上記表面補修剤9の他の製造方法として、アクリルモノマーを乳化重合したものと乳化したパラフィンワックスを混合分散してもよいし、パラフィンワックスの一部または全部を粉末で混合分散してもよい。
【0049】
上記したように製造された表面補修剤9は、ムース(mousse)状やクリーム状をなしており、作業者の手作業による外力で容易に変形する柔軟性を有し、かつ、この外力を除去すると、それ自体でその形状を保つ自己保形性を有している。
【0050】
このため、前記鋳造時に、消失模型1の表面に生じている凹部8を埋めるよう消失模型1の表面に表面補修剤9を塗布する塗布作業をする場合には、上記した表面補修剤9の柔軟性と自己保形性とによって、上記塗布作業が容易迅速に、かつ、精度よくでき、つまり、上記表面補修剤9によれば、塗布作業性が向上する。
【0051】
また、前記したように、消失模型1の表面への表面補修剤9の塗布作業後には、前記凹部8を埋めるようこの凹部8に充填された表面補修剤9を乾燥固化させるが、この場合、仮に、表面補修剤9がワックスと水とのみによる乳化剤である場合には、この表面補修剤9の乾燥には時間を要すると共に、大きい乾燥収縮が生じる。このため、上記凹部8に充填された表面補修剤9の表面には凹み10が生じがちとなることから、このような消失模型1を用いて鋳造すると、上記凹み10に因り鋳物が不良品となるおそれが生じる。
【0052】
しかし、上記表面補修剤9にはアクリル樹脂とワックスとが含有され、かつ、水分が適度に少ないことから、消失模型1の表面への表面補修剤9の塗布作業後の乾燥固化時には、凹部8に充填された表面補修剤9の表面におけるアクリル樹脂が逸早く乾燥して、強度のある固体皮膜が形成される。その後に、上記凹部8の深部の表面補修剤9が乾燥するが、上記固体皮膜には乾燥初期から強度発現があり、上記凹部8の深部の表面補修剤9では、水分相当分の微細な空隙を生じながら乾燥が進む。このため、上記凹部8に充填された表面補修剤9には、その乾燥前後で体積変化がほとんどなく、上記表面補修剤9の表面は平坦なままに保持されて、前記表面補修剤9の表面での凹み10の形成が防止される。
【0053】
よって、上記凹部8の存在にかかわらず、消失模型1の表面は所望の平滑面とできることから、この消失模型1を用いての鋳造によれば、表面に不要な凹部が存在しない平滑で美麗な鋳物が得られることとなる。
【0054】
ここで、表面補修剤9に含有される前記ワックスは、広義のもの(蝋)であり、これを加熱すると比較的低い温度で融解して容易に気化する物質であり、また、この気化により、より完全に燃焼消失する物質である。この点、このワックスは、セルロースや樹脂とは性質が大きく異なる。
【0055】
このため、前記鋳造時に、鋳物砂4に埋没された消失模型1に向けて溶湯5を注湯した場合には、表面補修剤9における含有物質のうち、特に、ワックスが上記した性質によって溶湯5の輻射熱により直ちに融解して容易に気化し、より完全に燃焼消失する。
【0056】
また、上記表面補修剤9に含有されるアクリル樹脂は、上記ワックスには劣るが、他の樹脂に比べて、より完全に燃焼消失し易い物質である。このため、前記鋳造時に溶湯5を注湯した場合には、この溶湯5の熱により上記アクリル樹脂も、より完全に燃焼消失する。
【0057】
よって、上記ワックスとアクリル樹脂とを含有する表面補修剤9は、鋳造時の溶湯5の注湯により、より完全に燃焼消失し、表面補修剤9の燃焼後の未分解残渣が鋳物に残留することは、より確実に防止される。
【0058】
なお、上記ワックスは、特に限定されないが、パラフィンワックスが用いられる。また、このパラフィンワックスの一部もしくは全部が、融点55〜150℃のパラフィンワックスであることが好ましい。
【0059】
そして、上記のような融点の低いパラフィンワックスを表面補修剤9に含有させた場合には、このワックスは、鋳造時に消失模型1に注湯された溶湯5の熱により、直ちに融解して、より容易に気化し、更に完全に燃焼消失する。よって、表面補修剤9の燃焼後の未分解残渣が鋳物に残留することは、更に確実に防止される。
【0060】
また、上記アクリル樹脂は、このアクリル樹脂のうち、少なくとも50%以上がポリメタクリル酸メチル(Poly methyl methacrylate)であることが好ましい。
【0061】
そして、上記のようにすると、消失模型1の表面への表面補修剤9の塗布作業後の乾燥固化時には、凹部8に充填された表面補修剤9の表面における上記成分のアクリル樹脂がより速く乾燥して、より強度のある固体皮膜が形成され、前記表面補修剤9の表面における凹み10の形成が、より確実に防止される。
【0062】
ここで、上記表面補修剤9におけるワックスの含有量が50%未満であると、このワックスの含有量が過少となって、溶湯5の熱による表面補修剤9の燃焼消失量が少なくなり、鋳物への残渣残留が多くなる。一方、ワックスの含有量が75%を越えると、このワックスの含有量が過大となって、凹部8に充填された表面補修剤9の乾燥固化時に、この表面補修剤9の乾燥収縮が大きくなり、この表面補修剤9の表面に凹み10が生じ易くなる。
【0063】
また、上記表面補修剤9におけるアクリル樹脂の含有量が10%未満であると、このアクリル樹脂の含有量が過少となって、凹部8に充填された表面補修剤9の乾燥固化時に、この表面補修剤9の表面におけるアクリル樹脂による強度のある固体皮膜の形成が不十分となり、この表面補修剤9の表面に凹み10が生じ易くなる。一方、アクリル樹脂の含有量が35%を越えると、このアクリル樹脂の含有量が過大となって、鋳造時の溶湯5の熱による表面補修剤9の燃焼後の未分解残渣量が多くなり、鋳物への残渣残留が多くなる。
【0064】
また、表面補修剤9における水の含有量が10%未満であると、この表面補修剤9の柔軟性が失われて硬くなる。このため、消失模型1の表面に生じている凹部8を埋めるようこの凹部8に表面補修剤9を精度よく充填しようとするとき、この作業はし難くなる。つまり、凹部8を埋めるよう消失模型1の表面に表面補修剤9を塗布する塗布作業が煩雑となる。
【0065】
一方、水の含有量が30%を越えると、この表面補修剤9の柔軟性が過ぎて、自己保形性が低下する。このため、上記したように凹部8に表面補修剤9を精度よく充填しようとするとき、この作業はし難くなり、つまり、表面補修剤9の塗布作業が煩雑となる。また、水の含有量が30%を越えると、凹部8に充填された表面補修剤9の乾燥固化時に、この表面補修剤9の乾燥収縮が大きくなって、この表面補修剤9の表面に凹み10が生じ易くなる。
【0066】
そこで、前記したように、表面補修剤9におけるワックスの含有量を50〜75%とし、アクリル樹脂の含有量を10〜35%とし、水の含有量を10〜30%としたのである。
【0067】
ここで、表面補修剤9に上記増粘剤を追加すると、消失模型1の表面への表面補修剤9の塗布作業がより容易になると共に、表面補修剤の保存安定性が向上する。
【0068】
また、表面補修剤9は上記乳化剤を用いてアクリルモノマーやワックスを水中に乳化・分散させている。
【実施例1】
【0069】
この実施例1では、下記[表1]で示すように、表面補修剤9における水の含有量を15%で一定とし、パラフィンワックスとアクリル樹脂の各含有量を広い範囲で変化させることにより、鋳造実験1〜6を行った。
【0070】
【表1】
【0071】
上記各実験において、熟練者の視覚による判断に基づき、上記[表1]に実験結果を示した。この実験結果における評価としての不良は×、良は○、その中間は△、より良は◎で表示した。
【0072】
そして、この実施例1の実験結果によれば、表面補修剤9におけるワックスの含有量は、前記したように50〜75%であることが好ましく、60〜70%であることが、より好ましいことがわかる。また、表面補修剤9におけるアクリル樹脂の含有量は、前記したように10〜35%であることが好ましく、15〜25%であることが、より好ましいことがわかる。
【実施例2】
【0073】
この実施例2では、下記[表2]で示すように、表面補修剤9におけるパラフィンワックスの含有量を53〜77%の好ましい範囲に抑制し、かつ、アクリル樹脂の含有量を12〜18%の好ましい範囲に抑制し、水の含有量を広い範囲で変化させることにより、鋳造実験1〜5を行った。
【0074】
【表2】
【0075】
上記各実験の実験結果の判断方法や実験結果の表示内容は前記実施例1と同様である。なお、実験結果における「保存安定性」とは、表面補修剤9を長期にわたり保存した場合でも、この表面補修剤9のエマルジョン物質が状態変化することなく、一定の状態を保持すること、を意味している。
【0076】
そして、この実施例2の実験結果によれば、表面補修剤9における水の含有量は、前記したように10〜30%であることが好ましく、15〜25%であることが、より好ましいことがわかる。
【符号の説明】
【0077】
1 消失模型
2 鋳型
3 金枠
4 鋳物砂
5 溶湯
8 凹部
9 表面補修剤
10 凹み
図1