【実施例】
【0031】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0032】
<透明エラストマーの原料及び製造>
図1〜
図4に示す配合の原料から、実施例1〜
12、14〜17および比較例1
、3、4の透明エラストマーを製造した。以下に、各原料の詳細を示す。なお、比較例2は、アクリル系の透明エラストマーである。
【0033】
図1〜
図4に示す各「プレポリマー」は、
図5に示す配合(重量比)の原料を以下の方法に従って反応させることで得られる。
【0034】
まず、1リットル容量のセパラブルフラスコにポリオールを図に示す量入れて、窒素を流しながらポリイソシアネートを攪拌しながら図に示す量添加する。内容物が均一になったことを確認後、触媒(0.3g)を添加する。そして、1時間かけて80〜90℃になるように、ゆっくりと昇温する。目的の温度に昇温してから2時間後にイソシアネート基含有率をJIS Z1603−1:2007に基づく方法(ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法)に準拠して測定する。その測定値によって、所定量のイソシアネートが消費されていることを確認する。イソシアネートの消費量が所定量に満たない場合には、反応時間を延長する。
【0035】
所定量のイソシアネートが消費されていることを確認後、アリルエーテル、若しくはビニルエーテルを図に示す量、ゆっくりと滴下し、2時間反応を行わせる。2時間経過後に、再度、上記方法に従ってイソシアネート基含有率を測定し、完全にイソシアネートが消費されているか否かを確認する。そして、イソシアネートの消費が確認されたことを条件として、図に示す各「プレポリマー」が得られる。
【0036】
・ポリオールa;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:サンニックスPP−1000、三洋化成(株)製、重量平均分子量:1000、水酸基数:2
・ポリオールb;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:サンニックスPP−3000、三洋化成(株)製、重量平均分子量:3000、水酸基数:2
・ポリオールc;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:プレミノールS4011、旭硝子(株)製、重量平均分子量:10000、水酸基数:2
・ポリオールd;エチレンオキサイド(EO)付加ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:プレミノール5005、旭硝子(株)製、重量平均分子量:4000、水酸基数:2
・ポリイソシアネートa;水添MDI、商品名:デスモジュールW、バイエル(株)製
・ポリイソシアネートb;TDI、商品名:ルプラネートT−80、BASF(株)製
・アリルエーテル;ヒドロキシエチルアリルエーテル、日本乳化剤(株)製・ビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテル、日本カーバイド(株)製
【0037】
上述のようにして得られた各「プレポリマー」と後述する複数のチオールを
図1〜4に示す配合比(モル比)となるように計量し、80℃に加温した後に混合撹拌し粘着剤材料を配合した。ナイフコーターを用いてシリコーン離型PETフィルム(t50μm)上に前記粘着剤材料の厚みが100μmになる様に塗工し、次いでUVランプ(高圧水銀ランプ)にて1200mJ/cm
2(365nm積算光量)UV照射し、粘着性組成物を得た。
【0038】
・モノチオール;官能基数1、重量分子量218.4、2−エチルヘキシル−3−メルカプトプロピオネート、EHMP、SC有機化学(株)製
・チオールA;官能基数2、重量分子量238.6、ブタンジオールビスチオグリコレート、1,4−BDTG、淀化学(株)製
・チオールB;官能基数3、重量分子量398.5、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、TMMP、SC有機化学(株)製
・チオールC;官能基数6、重量分子量783.0、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、DPMP、SC有機化学(株)製
・光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、D
AROCUR1173、BASF社製
【0039】
ちなみに、各ウレタンプレポリマーと反応が行われるチオール基の平均官能基数を、
図1〜
図4の「平均官能基数」の欄に示し、全チオール基の全当量数の、各ウレタンプレポリマーのアリルエーテル基、若しくはビニルエーテル基の全当量数に対する比率を、
図1〜
図4の「エン/チオール比」の欄に示しておく。
【0040】
<透明エラストマーの物性評価>
上述のように製造された実施例1〜
12、14〜17、比較例1
、3、4の透明エラストマー、および、比較例2としてのアクリル系の透明エラストマーに対して、以下の方法によって物性評価を行った。
【0041】
まず、エラストマーの透明度を評価するべく、JIS K7105−1981に基づく方法に準拠して透過率(%),HAZE(%),色相(YI値)を測定した。それぞれの測定結果は、
図1の「透過率」,「HAZE」,「色相(YI値)」の欄にその値を示しておく。また、エラストマーの抗張力および強靭さを評価するべく、JIS K6251:2010に基づく方法に準拠して引張強度(MPa),伸び(%),硬度(A)を測定した。それぞれの測定結果は、
図1〜
図4の「引張強度」,「伸び」,「硬度」の欄にその値を示しておく。
【0042】
そして、エラストマーの粘着力を評価するべく、JIS A5759:2008に基づく方法(180°引きはがし試験方法)に準拠して粘着力(N/25mm)を測定した。その測定結果は、
図1〜
図4の「粘着力」の欄にその値を示しておく。
【0043】
また、エラストマーをパネル等に密着させた場合に、その密着させたエラストマーをパネル等から剥がす際の剥がし易さも考慮する必要がある。これは、リワークと呼ばれ、スマートフォン,パソコン等の画像表示装置製造時に、一旦、パネル等に密着されたエラストマーを、パネル等への装着ミスにより剥がす場合があるためである。エラストマーのパネル等からの剥がし易さを評価するべく、まず、シート状のエラストマーをガラスに密着させる。そして、その密着されたエラストマーを剥がし、エラストマーが密着していたガラス面にエラストマーが糊状に残留しているか否かを、目視にて確認した。具体的には、上記JIS A5759:2008に基づく方法(180°引きはがし試験方法)に準拠して粘着力を測定した後に、エラストマーが引きはがされたガラス面を目視にて確認した。ガラス面全体にエラストマーが糊状に残留していた場合には、「×」と評価し、ガラス面にエラストマーが残留して無い場合には、「○」と評価した。この評価を、
図1〜
図4の「糊残り」の欄に示しておく。
【0044】
さらに、ITO(Indium Tin Oxide),IZO(Indium Zinc Oxide)等の透明導電膜
が多く用いられるディスプレイに、エラストマーを密着させることを考慮して、ITOフィルムに対する腐食性の試験も行った。具体的には、まず、エラストマーが密着される前のITOフィルムの電気抵抗値を測定しておく。そして、ITOフィルムにエラストマーを密着させ、60℃,90%RHの条件下に240時間放置する。その後に、ITOフィルムからエラストマーを剥がし、エラストマーが剥がされたITOフィルムの電気抵抗値を測定する。その240時間放置後のITOフィルムの電気抵抗値の、放置前のITOフィルムの電気抵抗値に対する比率が、高くなっている場合には、電流が流れ難くなっていることを示しており、ITOフィルムの腐食が進んでいると考えられる。つまり、試験後のITOフィルムの電気抵抗値の、試験前のITOフィルムの電気抵抗値に対する比率が、高いほど、ITOフィルムに対する腐食性が高いことを示している。なお、
図1〜
図4の「ITO腐食性」の欄に、その比率を示しておく。
【0045】
さらに、エラストマーの対候性を評価すべく、湿熱試験も行った。具体的には、60℃,90%RHの条件下に240時間放置し、その後に、エラストマーを目視にて評価した。この評価を、
図1〜
図4の「湿熱試験」の欄に示しておく。
【0046】
以上の評価結果から、ウレタンプレポリマーを合成する際のポリイソシアネートとして、芳香族イソシアネートを用いることで、透明エラストマーの透明度が低下することが解る。具体的には、比較例1の透明エラストマーの原料であるプレポリマーFを合成する際のポリイソシアネートbは、トリレンジイソシアネート(TDI)であり、芳香族イソシアネートである。一方、実施例1〜
12、14〜17の透明エラストマーの原料であるプレポリマーA〜Eを合成する際のポリイソシアネートaは、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)であり、脂環族イソシアネートである。比較例1の透明エラストマーの「色相(YI値)」は、実施例1〜
12、14〜17の透明エラストマーの「色相(YI値)」より高く、比較例1の透明エラストマーの「透過性」は、実施例1〜
12、14〜17の透明エラストマーの「透過性」より低い。このことから、比較例1の透明エラストマーが黄色っぽく、透明度が低いことが解る。特に、比較例1の透明エラストマーの「色相(YI値)」は、実施例1〜
12、14〜17の透明エラストマーの「色相(YI値)」の約4倍の値となっており、イソシアネートとして芳香族イソシアネートを採用することで、透明エラストマーが黄色っぽくなることが解る。このため、ポリイソシアネートとして、芳香族イソシアネートを用いないことが好ましく、脂環族イソシアネートを採用することが好ましい。特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)を採用することが好ましい。
【0047】
また、ウレタンプレポリマーを合成する際のポリオールとして、EO付加プロピレングリコール(PPG)、つまり、多価アルコールにエチレンオキサイドを付加重合させることにより得られるEO付加ポリオールを用いることで、透明エラストマーの透明度が低下する。具体的には、実施例11の透明エラストマーの原料であるプレポリマーDを合成する際のポリオールdは、EO付加PPGであり、実施例11以外の透明エラストマーの原料であるプレポリマーA〜Cを合成する際のポリオールa〜cは、多価アルコールにプロピレンオキサイドを付加重合させたPPGである。実施例11の透明エラストマーの「色相(YI値)」,「HAZE」は、実施例11以外の透明エラストマーの「色相(YI値)」,「HAZE」より高く、実施例11の透明エラストマーの「透過性」は、実施例11以外の透明エラストマーの「透過性」より低い。このことから、実施例11の透明エラストマーでは、透明度が低くなっていることが解る。特に、実施例11の透明エラストマーの「HAZE」は、実施例11以外の透明エラストマーの「HAZE」の約3〜6倍の値となっている。このため、ポリオールとして、EO付加PPGを用いないことが好ましい。
【0048】
また、全チオール基の全当量数の、各ウレタンプレポリマーのアリルエーテル基、若しくはビニルエーテル基の全当量数に対する比率(エン/チオール比)が高い場合、若しくは、低い場合には、「硬度」、「引張強度」、「伸び」の評価が悪くなっている。具体的には、エン/チオール比が1.2の
比較例3の透明エラストマーおよび、エン/チオール比が1.6の
比較例4の透明エラストマーでは、エン/チオール比が1.25〜1.4の実施例14〜17の透明エラストマーと比較して、「硬度」、「引張強度」、「伸び」の評価が悪い。このため、エン/チオール比は、1.25〜1.5であることが好ましい。さらに言えば、1.25〜1.45であることが好ましく、特に、1.25〜1.35程度であることが好ましい。
【0049】
また、アリルエーテル基とビニルエーテル基との少なくとも一方を複数有するウレタンプレポリマーに、ポリチオールだけでなく、モノチオールをもエンチオール反応によって重合させることで、粘着力の高いエラストマーを得ることが可能であることが解る。具体的には、例えば、モノチオールが配合されていない実施例7のエラストマーでは、粘着力が12(N/25mm)であるが、モノチオールが配合されている実施例4〜6,8,12のエラストマーでは、粘着力が15(N/25mm)以上となっており、粘着力の向上にモノチオールが有効であることが解る。
【0050】
また、各ウレタンプレポリマーと反応が行われるチオール基の平均官能基数が少ない場合には、リワーク性が低いことも解る。具体的には、実施例8の透明エラストマーでは、チオール基の平均官能基数が1.72であり、評価試験の「糊残り」の評価は「×」となっている。つまり、チオール基の平均官能基数が低い場合には、ガラス等に密着させた透明エラストマーを剥がすと、ガラス等に糊残りが生じ、リワーク性が低下するのである。このため、チオール基の平均官能基数は、1.9以上、さらに言えば2以上であることが好ましい。
【0051】
最後に、比較例2のエラストマー、つまり、アクリル系のエラストマーと、実施例のエラストマーとを比較すると、全ての物性評価において、実施例のエラストマーが、アクリル系のエラストマーより優れていることが解る。特に、透明度,ITOフィルムに対する腐食性に優れており、実施例のエラストマーが、アクリル系のエラストマーより、ITOフィルムが多く用いられる画像表示用のディスプレイと、保護パネル,タッチパネル等のパネルとの間に介挿される組成物やライトガイドフィルム、フレキシブル光ファイバー、光学用機器の光透過する接合部材やシール部材等として、適していることが分かる。
【0052】
以下、本発明の諸態様について列記する。
【0053】
(1)アリルエーテル基とビニルエーテル基との少なくとも一方を複数有するウレタンプレポリマーと、チオール基を有するモノチオールまたはポリチオールとを光重合反応させることにより得られる透明エラストマーであって、
前記ウレタンプレポリマーを合成するために用いられるポリイソシアネートが、芳香族イソシアネートを含まず、
色相(YI値)(JIS K7105−1981)が、0.
5以下であることを特徴とする透明エラストマー。
【0054】
(2)前記ポリイソシアネートが、脂肪族イソシアネートと脂環族イソシアネートとの少なくとも一方のみを含むことを特徴とする(1)項に記載の透明エラストマー。
【0055】
(3)前記ポリイソシアネートが、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートのみを含むことを特徴とする(1)項または(2)項に記載の透明エラストマー。
【0056】
(4)前記ウレタンプレポリマーを合成するために用いられるポリオールが、1種類のポリオールのみを含むことを特徴とする(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0057】
(5)前記ウレタンプレポリマーを合成するために用いられるポリオールが、多価アルコールにエチレンオキサイドを付加重合させることにより得られるEO付加ポリオールを含まないことを特徴とする(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0058】
(6)HAZE(JIS K7105−1981)が0.5%未満であることを特徴とする(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0059】
(7)透過率(JIS K7105−1981)が92%より高いことを特徴とする(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0060】
(8)当該透明エラストマーが、
チオール基を1個有するモノチオールを含み、そのモノチオールと、前記ウレタンプレポリマーと、チオール基を複数有するポリチオールとを光重合反応させることにより得られることを特徴とする(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0061】
(9)チオール基を1個有するモノチオールと、チオール基を複数有するポリチオールとのチオール基の平均官能基数が、1.9以上であることを特徴とする(8)項に記載の透明エラストマー。
【0062】
(10)前記モノチオールが有するチオール基と前記ポリチオールが有するチオール基との全当量数の、前記ウレタンプレポリマーが有するアリルエーテル基、若しくはビニルエーテル基の全当量数に対する比率が1〜1.5であることを特徴とする(8)項または(9)項に記載の透明エラストマー。
【0063】
(11)粘着力(JIS A5759:2008)が、15N/25mm以上であることを特徴とする(8)項ないし(10)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。
【0064】
(12)前記ウレタンプレポリマーの重量平均分子量が、1000〜15000であることを特徴とする(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の透明エラストマー。