(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
低公害且つ高効率を実現し得るエンジンとして、空気と燃料とを予め混合した理論空燃比よりもリーン(燃料希薄)な混合気を燃焼室に導入し、その混合気をピストンの断熱圧縮により自己着火させて燃焼させる所謂予混合圧縮着火(HCCI;Homogeneous Charge Compression Ignition)燃焼モードで運転を行うものが知られている。
かかるHCCI燃焼モードは、圧縮比を増加させて効率の向上が可能であると共に、燃料を希薄状態で燃焼させ低NOx化が可能となり、特に、高圧噴射が困難でディーゼルエンジン用燃料としては不向きな天然ガス系都市ガス等の気体燃料を用いても、容易に混合気を圧縮着火させて燃焼させることができるというメリットを有する。
【0003】
かかるHCCI燃焼モードでは、安定した運転を維持し更には効率を向上させるために、燃焼室において混合気を適切なタイミングで自己着火させることが重要である。例えば、自己着火タイミングが早すぎるとノッキング等が発生し、逆に、自己着火タイミングが遅すぎると熱効率低下や失火等が発生するという問題がある。
そこで、HCCI燃焼モードで運転を行うエンジンとして、HCCI燃焼モードにおいて圧縮着火前に点火プラグを作動させる圧縮着火アシストを実行することによって、自己着火を適切なタイミングで確実に発生させるように構成したものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
一方、燃焼室において理論空燃比の混合気を点火プラグにより火花点火して燃焼させる火花点火(SI:Spark Ignition)燃焼モードで運転を行う火花点火エンジンとして、点火プラグの放電エネルギを効果的に制御して、燃焼安定性と点火プラグの耐久性との向上を実現するようにした点火制御装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
この火花点火エンジンでは、空燃比をストイキ(理論空燃比)とリーンとで切り替えて運転可能に構成されており、リーン運転時においては燃焼安定性を重視し、ストイキ運転時には点火プラグの耐久性を重視するべく、リーン運転時における点火プラグの放電エネルギ(放電時間)をストイキ運転時と比較して大きく設定している。
【0005】
また、従来のエンジンとして、上記SI燃焼モードと上記HCCI燃焼モードとの間で燃焼モードを運転状態に基づいて切り替える燃焼モード切替制御を実行するものが知られている(例えば、特許文献3を参照。)。このエンジンでは、暖気が十分でない始動運転時においてSI燃料モードで運転を行い、暖機が十分に進行しエンジン負荷を定格負荷に設定した定格運転時においてHCCI燃焼モードで運転を行うように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
HCCI燃焼モードにおいて圧縮着火アシストを実行するエンジンにおいて、上記特許文献2に記載の点火制御装置を採用した場合、点火プラグの耐久性が低下するという問題がある。というのは、HCCI燃焼モードでは混合気の空燃比が理論空燃比よりも極めてリーン側に設定されることから、その際の圧縮着火アシストで作動する点火プラグの放電エネルギは、混合気の空燃比を理論空燃比に設定して点火プラグを作動させる通常のSI燃焼モードでの運転と比較して、非常に大きなものに調整されることになる。従って、圧縮着火アシストを継続するほど、点火プラグの耐久性が損なわれる場合がある。
また、従来、HCCI燃焼モードにおいて圧縮着火アシストを実行する場合には、通常、圧縮着火アシストにおける点火プラグの放電エネルギは、SI燃焼モードで運転を行うときと同程度に設定されており、その最適化は行われていなかった。
【0008】
本発明は、かかる点に着目してなされたものであり、その目的は、HCCI燃焼モードにおいて圧縮着火前に点火プラグを作動させる圧縮着火アシストを実行するエンジンにおいて、当該圧縮着火アシストにおける点火プラグの放電エネルギを最適化して、燃焼安定性と点火プラグの耐久性との向上を実現することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するための本発明に係るエンジンは、
混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室に火花を発生可能な点火プラグとを備えると共に、
前記燃焼室において理論空燃比よりもリーンな混合気を圧縮着火させて燃焼させるHCCI燃焼モードで運転可能に構成され、
前記HCCI燃焼モードにおいて、当該圧縮着火前に前記点火プラグを作動させる圧縮着火アシストを実行する制御手段を備えたエンジンであって、
その第1特徴構成は、
前記点火プラグの放電エネルギを調整可能な放電エネルギ調整手段と、
前記燃焼室における燃焼状態を判定する燃焼状態判定手段とを備えると共に、
前記制御手段が、前記燃焼状態判定手段の判定結果に基づき前記放電エネルギ調整手段を制御して、前記燃焼室における安定燃焼を維持可能な範囲内で前記放電エネルギを低下させる放電エネルギ低下制御を実行し
、
前記燃焼室において理論空燃比の混合気を前記点火プラグにより火花点火して燃焼させるSI燃焼モードで運転可能に構成され、
前記制御手段が、運転状態に基づいて前記HCCI燃焼モードと前記SI燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替える燃焼モード切替制御を実行し、
前記制御手段が、始動運転時及び当該始動運転後の暖機運転時において前記SI燃焼モードに設定し、前記暖機運転後の負荷投入運転時において前記SI燃焼モードから前記HCCI燃焼モードに移行し、前記負荷投入運転後の定格運転時において前記HCCI燃焼モードに設定する形態で、前記燃焼モード切替制御を実行すると共に、前記始動運転時には前記放電エネルギ低下制御を停止する点にある。
【0010】
また、この目的を達成するための本発明に係るエンジンの制御方法は、
混合気を圧縮して燃焼させる燃焼室と、
前記燃焼室に火花を発生可能な点火プラグとを備えたエンジンにおいて、
前記燃焼室において理論空燃比よりもリーンな混合気を圧縮着火させるHCCI燃焼モードにおいて、当該圧縮着火前に前記点火プラグを作動させる圧縮着火アシストを実行するエンジンの制御方法であって、
その第1特徴構成は、
前記点火プラグの放電エネルギを調整可能な放電エネルギ調整手段を設け、
前記放電エネルギ調整手段を制御して、前記燃焼室における混合気の燃焼が維持可能な範囲内で前記放電エネルギを低下させる放電エネルギ低下制御を実行
可能とし、
前記燃焼室において理論空燃比の混合気を前記点火プラグにより火花点火して燃焼させるSI燃焼モードで運転可能とし、
運転状態に基づいて前記HCCI燃焼モードと前記SI燃焼モードとの間で燃焼モードの切り替えを実行可能とし、
始動運転時及び当該始動運転後の暖機運転時において前記SI燃焼モードを実行し、前記暖機運転後の負荷投入運転時において前記SI燃焼モードから前記HCCI燃焼モードに移行し、前記負荷投入運転後の定格運転時において前記HCCI燃焼モードを実行し、前記始動運転時には前記放電エネルギ低下制御を停止する点にある。
【0011】
本願発明者は、HCCI燃焼モードにおける圧縮着火アシスト実行時における点火プラグの最適な放電エネルギについて鋭意研究した結果、当該圧縮着火アシスト実行時において、点火プラグの放電エネルギを大幅に低下させたとしても、混合気の圧縮着火を十分に
誘発でき燃焼室における混合気の燃焼が維持されることを発見し、本願発明を完成するに至った。
即ち、HCCI燃焼モードでは、燃焼室において混合気は火炎伝播を起こさないリーンな状態で存在しており、その燃焼は火炎伝播によらない圧縮着火によるものである。そのため、その圧縮着火を誘発させるために実行する圧縮着火アシストでは、点火プラグは放電ギャップにある混合気のみを点火させればよい。よって、圧縮着火アシスト実行時の点火プラグでは、その限られた混合気の点火のための火炎核を形成するに足りる最低限の放電エネルギ(最小に放出される高電圧の容量エネルギに相当する。)のみが必要となり、その火炎核から周囲の混合気への火炎伝播を発生させるために必要な放電エネルギ(容量エネルギに続いて放出される誘導エネルギに相当する。)は殆ど不要となる。
そこで、本第1特徴構成のごとく、HCCI燃焼モードにおいて圧縮着火アシストを実行するエンジンにおいて、上記放電エネルギ低下制御を実行することで、圧縮着火アシスト実行時における点火プラグの放電エネルギは、点火プラグの容量エネルギが最低限確保されて燃焼室における安定燃焼が維持される程度まで低下することになり、SI燃焼時に設定される通常の放電エネルギよりも小さくなる。従って、圧縮着火アシスト実行時において、点火プラグの容量エネルギにより混合気の圧縮着火を良好にアシストしつつ、点火プラグの放電エネルギを極めて小さくして当該点火プラグの消耗を抑制することができるので、結果、燃焼安定性を維持しつつ点火プラグの耐久性を向上することができる。
SI燃焼モードにおいても上述した放電エネルギ低下制御を実行することで、点火プラグの放電エネルギを最適化することができる。また、SI燃焼モードにおいて安定燃焼を維持するために必要な点火プラグの放電エネルギとしては、放電ギャップに火炎核を形成するための適度な容量エネルギと、当該火炎核を成長させ火炎伝播を発生させるための適度な誘導エネルギとの両方が必要となる。よって、このSI燃焼モード時の点火プラグの放電エネルギは、上述したHCCI燃焼モードにおける圧縮着火アシスト実行時よりも大きいものとなる。
即ち、SI燃焼モードからHCCI燃焼モードへの移行時において上記放電エネルギ低下制御を実行することで、点火プラグの放電エネルギが低下することになり、点火プラグの耐久性の向上が図られることになる。
また、上記燃焼モード切替制御を、上記始動運転時から上記負荷投入運転を経て上記定格運転時までの運転状態の遷移に合わせて、SI燃焼モードからHCCI燃焼モードへ燃焼モードを遷移させるように構成することができる。
即ち、始動運転時においては、燃焼室における確実な混合気の燃焼を実現し且つ暖機を促進するために、燃焼室において理論空燃比の混合気を火花点火するSI燃焼モードとされる。この始動運転時においては、暖機が十分でないため、混合気の火花点火及びそれに続く火炎伝播を確実なものとするために、上記放電エネルギ低下制御を停止して、点火プラグの放電エネルギを十分に大きなものとすることが望ましい。
また、始動運転後の負荷投入運転時においては、暖機の進行に合わせて吸気温度が上昇するために燃焼室における混合気の圧縮着火が可能な状態となるため混合気の空燃比をリーン側に調整してHCCI燃焼モードへ移行することができ、その状態を定格運転時において維持することができる。
【0012】
本発明に係るエンジンの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、
前記制御手段が、前記放電エネルギ低下制御において、前記点火プラグの放電時間を短縮する形態で前記放電エネルギを低下させる点にある。
【0013】
上記第2特徴構成によれば、上記放電エネルギ低下制御において点火プラグの放電時間を短縮する形態で放電エネルギを低下させることで、圧縮着火アシスト実行時において殆ど不要となる点火プラグの誘導エネルギを極めて小さいものにして、点火プラグの容量エネルギを混合気の圧縮着火をアシストし得る程度に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示すエンジンシステムは、レシプロ式のエンジン50と、そのエンジン50のクランク軸(駆動軸)6により連結駆動されて発電を行い商用電力系統80に連系可能に構成された電動発電機60とを備えた発電システムとして構成されている。
【0020】
先ず、エンジン50の詳細構成について説明する。
エンジン50は、混合気Mを圧縮して燃焼させる燃焼室2を備え、当該燃焼室2において理論空燃比よりもリーン(燃料希薄)な混合気Mを圧縮着火させて燃焼させるHCCI燃焼モードで運転可能に構成された予混合圧縮着火エンジンとして構成されている。
【0021】
燃焼室2は、シリンダ5の内面とピストン3の頂面とで規定されており、ピストン3は連結棒4に揺動自在に連結され、ピストン3の往復動が連結棒4によって1つのクランク軸6の回転運動として得られる。
燃焼室2に吸気弁7を介して接続された吸気路12と、燃焼室2に排気弁8を介して接続された排気路13とが設けられている。
吸気路12を流通する空気A(新気)は、ミキサ18において天然ガス系都市ガスの燃料Gが供給されて混合気Mとなり、その混合気Mが燃焼室2に吸気される。
【0022】
そして、上記HCCI燃焼モードでは、ミキサ18において理論空燃比よりもリーン(例えば空気過剰率2.0程度)な空燃比の混合気Mが形成され、そのリーンな混合気Mが燃焼室2に吸気される。そして、燃焼室2において、そのリーンな混合気Mが、ピストン3の上昇により圧縮されて発火点まで昇温することで、自己着火し燃焼する。
【0023】
エンジン50には、コンピュータからなるエンジン・コントロール・ユニット(以下、ECUと呼ぶ)30(制御手段の一例)が設けられており、ECU30は、後述する放電エネルギ低下制御や燃焼モード切替制御等の各種制御を行うように構成されている。
【0024】
吸気路12には加熱部15が設けられ、この加熱部15は、例えば、シリンダ5等を冷却して高温となった冷却水や燃焼室2から排出された高温の排ガス等を熱源として、吸気路12を流通する混合気Mを加熱可能に構成されている。
【0025】
更に、この加熱部15は、吸気路12を流通する混合気Mに対する加熱部15による加熱量を調整可能に構成されている。そして、ECU30は、吸気路12の吸気弁7近傍に設けられた温度センサ24の検出結果に基づいて、加熱部15による加熱量を制御して、吸気路12から燃焼室2に吸気される混合気Mの温度(以下「吸気温度」と呼ぶ。)が所定の目標温度となるように制御することができる。
【0026】
また、ミキサ18に供給される燃料Gは、燃料調整弁19により流量調整可能に構成されている。そして、ECU30は、例えば排気路13に設けられ排ガスの酸素濃度を検出可能な酸素センサの検出結果に基づいて、吸気路12の抵抗を制御して、ミキサ18の特性と合わせて燃焼室2に吸気される混合気Mの空燃比を所定の目標空燃比となるように制御することができる。
また、クランク軸6には、クランク軸6の回転位相を検知するための回転角度センサ79が設けられ、その回転角度センサ79の検知結果がECU30に入力され、そのECU30は、その入力された検知結果から上記クランク軸6のクランク角度や回転速度を検出することができる。
更に、ECU30は、このように検出されるクランク軸6の回転速度を目標回転速度に維持するように、スロットルバルブ16の開度を制御する。
【0027】
エンジン50には、燃焼室2に火花を発生可能な点火プラグ26が設けられている。そして、ECU30は、上記HCCI燃焼モードにおいて、当該圧縮着火前に点火プラグ26を作動させる圧縮着火アシストを実行するように構成されている。
この圧縮着火アシストが実行されると、燃焼室2では、点火プラグ26の放電ギャップ26aにある少量の混合気Mが点火され燃焼するのであるが、その混合気Mの空燃比がリーンな状態であるため、その点火に続いて火炎伝播が発生することはなく、その点火に誘発される形態で、燃焼室2全体における他の混合気Mの自己着火が発生することになる。
【0028】
更に、エンジン50は、上記HCCI燃焼モードに代えて、燃焼室2において理論空燃比(例えば空気過剰率1.2程度)の混合気Mを点火プラグ26により火花点火して燃焼させるSI燃焼モードで運転可能に構成されている。
上記SI燃焼モードでは、ミキサ18において理論空燃比(例えば空気過剰率が1.0程度)の混合気Mが形成され、その理論空燃比の混合気Mが燃焼室2に吸気される。そして、燃焼室2において、その理論空燃比の混合気Mが、ピストン3の上昇により圧縮された後に点火プラグ26により火花点火され、火炎伝播により燃焼室2全体において燃焼することになる。
【0029】
ECU30は、運転状態に基づいて上記HCCI燃焼モードと上記SI燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替える燃焼モード切替制御を実行する。
エンジン50の燃焼モードを上記SI燃焼モードとするにあたり、吸気路12の吸気弁7近傍に設けられたスロットルバルブ16の開度は上記HCCI燃焼モードとするときよりも小さく設定されて、燃焼室2の圧縮前の圧力が低下する。更に、燃料調整弁19の開度が上記HCCI燃焼モードとするときよりも大きく設定されて、ミキサ18において生成される混合気Mの空燃比が火炎伝播可能な理論空燃比に設定される。そして、その混合気Mが、燃焼室2に吸気しピストン3により圧縮され点火プラグ26により火花点火されて燃焼する形態で、上記SI燃焼が継続される。
【0030】
一方、エンジン50の燃焼モードを上記HCCI燃焼モードとするにあたり、吸気路12の吸気弁7近傍に設けられたスロットルバルブ16の開度が上記SI燃焼モードとするときよりも大きく設定されて、燃焼室2の圧縮前の圧力が上昇する。更に、燃料調整弁19の開度が上記SI燃焼モードとするときよりも小さく設定されて、ミキサ18において生成される混合気Mの空燃比が火炎伝播が起こらないリーンな状態に低下される。そして、その混合気Mが、燃焼室2に吸気されピストン3により圧縮されて自己着火し燃焼する形態で、上記HCCI燃焼が継続される。
そして、このようなHCCI燃焼を行って燃料Gを自己着火させて燃焼させるために、圧縮比が21程度と非常に高く設定されることで高効率化が実現されており、更に、予混合気の空燃比が火炎伝播が起こらないリーンな状態に設定されていることで、低NOxが実現されている。
【0031】
燃焼状態判定手段27が設けられており、この燃焼状態判定手段27は、燃焼室2の圧力を検出する圧力センサ27aの検出結果から燃焼室2における図示平均有効圧を求め、その変動率である燃焼変動率(COV)から燃焼状態を判定するように構成されている。
具体的に、燃焼状態判定手段27は、燃焼変動率(COV)が許容閾値を超えた場合には燃焼が不安定であると判定し、燃焼変動率(COV)が許容閾値以下であるときには安定燃焼が維持されていると判定する。
【0032】
更に、点火プラグ26の放電ギャップ26aに放電を行わせるための点火回路25が設けられており、この点火回路25は、点火プラグ26の放電エネルギを調整可能な放電エネルギ調整手段として機能する。
尚、点火回路25は、イグニッションコイルで発生した高圧電流をトランジスターで断続させて放電ギャップ26aに断続的な放電を発生させる公知のフルトランジスタ式の点火回路が採用されており、そのトランジスターの断続を制御して放電ギャップ26aでの放電時間を調整する形態で、上記点火プラグ26の放電エネルギを調整するように構成されている。
【0033】
更に、ECU30は、上述した圧縮着火アシストを実行するにあたり、燃焼状態判定手段27の判定結果に基づき点火回路25を制御して、燃焼室2における安定燃焼を維持可能な範囲内で点火プラグ26の放電時間を短縮する形態で放電エネルギを低下させる放電エネルギ低下制御を実行するように構成されている。
HCCI燃焼モードでの圧縮着火アシスト実行時において、上記のような放電エネルギ低下制御が実行されると、点火プラグ26の放電時間が、SI燃焼時に設定される通常の放電時間よりも短くなり、詳しくは、混合気Mの圧縮着火を誘発するために必要な点火プラグ26の容量エネルギが最低限確保されて燃焼室2における安定燃焼が維持される程度まで、短縮されることになって、点火プラグ26の耐久性が向上される。
一方、SI燃焼モードにおいて、上記のような放電エネルギ低下制御が実行されると、点火プラグ26の放電エネルギが最適化されるのであるが、このSI燃焼モードでは、点火プラグ26の放電エネルギとして、放電ギャップ26aに火炎核を形成するための適度な容量エネルギと当該火炎核を成長させ火炎伝播を発生させるための適度な誘導エネルギとの両方が必要となるため、点火プラグ26の放電時間は、上記HCCI燃焼モードよりも若干長くなる。
【0034】
具体的に、ECU30は、放電エネルギ低下制御において、燃焼状態判定手段27により燃焼変動率を所定間隔で求め、その燃焼変動率が所定の許容上限値(例えば3%)以下である場合には、安定燃焼が維持されているとして、点火プラグ26の点火エネルギを所定幅(例えば1mJ)ずつ低下させ形態で放電時間を段階的に短縮する。即ち、この放電時間の短縮が、燃焼室2における安定燃焼を維持可能な範囲内での点火プラグ26の放電エネルギの低下に相当することになる。
一方、所定間隔で求められた燃焼変動率が、所定の異常値(例えば5%)以上である場合には、燃焼状態が不安定となり早い段階での改善が必要であるとして、点火プラグ26の点火エネルギを比較的大きめの所定幅(例えば5mJ)ずつ上昇させる形態で放電時間を段階的に拡大する。更に、所定間隔で求められた燃焼変動率が、上記異常値よりも小さいが上記許容上限値よりも大きい場合には、燃焼状態が未だ不安定な状態であるとして、点火プラグ26の点火エネルギを比較的小さめの所定幅(例えば1mJ)ずつ上昇させる形態で放電時間を段階的に拡大することで、結果、燃焼変動率の上記許容上限値以下への低下を図る。
【0035】
エンジン50は、起動時おいてSI燃焼モードからHCCI燃焼モードへの移行を行うのであるが、その詳細について
図2に基づいて以下に説明する。
ECU30は、エンジン50の暖機が十分でない始動運転時等においては燃焼モードをSI燃焼モードに設定し、エンジン50の暖機が十分に進行してから燃焼モードをHCCI燃焼モードに移行する形態で、起動を行う。
詳しくは、ECU30は、電動発電機60の駆動電力を供給することで電動発電機60を誘導電動機として機能させて、エンジン50のクランク軸6を回転させる所謂モータリングを行った状態で、燃焼モードをSI燃焼モードとしてエンジン50を始動させる始動運転を行う。
尚、この始動運転時においては、混合気Mの火花点火及びそれに続く火炎伝播を確実なものとするために、ECU30は、放電エネルギ低下制御を停止しているので、放電時間は比較的長い時間aに設定されている。
【0036】
次に、エンジン50が始動した後には、燃焼モードをSI燃焼モードに維持して、エンジン50の暖機を進行させる暖機運転を行う。この暖機運転の開始にあわせて、ECU30は、点火エネルギ低下制御を開始する。すると、暖気の進行に従って燃焼状態が安定することから、点火プラグ26の放電時間が徐々に短縮されて、放電エネルギが低下することになる。
【0037】
上記暖機運転を行って、例えばエンジン冷却水温度が上昇して所定の温度に到達したとき、又は、シリンダ5の温度が上昇して所定の温度に到達したときに、暖機が完了したと判断し、次の負荷投入運転を行う。
かかる負荷投入運転では、遮断器78を投入状態(接続状態)として、商用電力系統80に対して解列状態であった電動発電機60の同期投入が行われて、エンジン負荷が上昇する。
同時に、次のHCCI燃焼モードへの移行のために、例えば混合気Mの空気過剰率を1.2から2.0に増加させる形態で混合気Mの空燃比をリーン側に調整しながら、加熱部15を作動させて吸気温度を上昇させる。
すると、燃焼室2において混合気Mの圧縮着火が徐々に開始される形態で、燃焼モードがSI燃焼モードからHCCI燃焼モードに移行されることになる。
この際、点火プラグ26の作動は継続されていることから、上述した圧縮着火アシストが行われていることになる。
【0038】
負荷投入運転が完了してエンジン負荷が定格負荷に設定された状態においては、燃焼モードはHCCI燃焼モードに設定されており、燃焼状態は比較的安定したものとなる。この際に、放電エネルギ低下制御が実行されると、点火プラグ26の放電エネルギとしては、混合気Mの圧縮着火をアシストするための火炎核を形成する適度な容量エネルギは必要となるが、当該火炎核を成長させ火炎伝播を発生させるための誘導エネルギは不要となる。よって、この定格運転時におけるHCCI燃焼モードでは、点火プラグ26の放電時間は、SI燃焼モードよりも短縮され、点火プラグ26の放電エネルギが一層低下されることになるので、点火プラグ26の耐久性が一層向上されることになる。
【0039】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記実施の形態では、放電エネルギ低下制御において、点火プラグ26の放電時間を短縮する形態で放電エネルギを低下させたが、放電電流を低下させるなど別の方法で放電エネルギを低下させることもできる。
【0040】
(2)上記実施の形態では、本発明に係るエンジン50を、ECU30により運転状態に基づいてHCCI燃焼モードとSI燃焼モードとの間で燃焼モードを切り替える燃焼モード切替制御を実行するものとして構成したが、別に、SI燃焼モードで運転可能に構成せずに、HCCI燃焼モードのみで運転し、圧縮着火アシストを行うように構成したエンジンにおいても、放電エネルギ低下制御を実行して燃焼安定性と点火プラグ26の耐久性との向上を図るように構成することもできる。
【0041】
(3)上記実施の形態では、負荷投入運転時に燃焼モードをSI燃焼モードからHCCI燃焼モードに移行するように構成したが、例えば、負荷投入運転時において運転状態を安定化させるため当該負荷投入運転時には混合気Mの空燃比を理論空燃比に維持して燃焼モードをSI燃焼モードとし、負荷投入運転が完了して定格運転に移行してから、燃焼モードをHCCI燃焼モードに移行するように構成しても構わない。
【0042】
(4)上記実施の形態では、燃焼状態判定手段27を、燃焼変動率(COV)が許容閾値を超えた場合に燃焼が不安定であると判定するように構成したが、燃焼質量割合50%位置(50%の燃料Gの燃焼が完了した時期)、熱発生時期の最大値、熱発生率の重心値などの別の指標が許容範囲から乖離した場合に燃焼が不安定であると判定するように構成しても構わない。