特許第5881479号(P5881479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5881479-編糸の解れ止め方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881479
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】編糸の解れ止め方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   D04B1/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-49733(P2012-49733)
(22)【出願日】2012年3月6日
(65)【公開番号】特開2013-185270(P2013-185270A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 通久
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/073491(WO,A1)
【文献】 特開平09−217254(JP,A)
【文献】 特開平08−188942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有し、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて、編地の編成途中で編糸が切り替わる糸入れ部および糸出し部の少なくとも一方を有する編地を編成する際、前記糸入れ部または糸出し部における編糸の解れ止めを行なう編糸の解れ止め方法において、
編幅方向に連続する第一編目、第二編目、および第三編目を含む第一編目列を、次の要件[A]または[B]を満たして編成する工程αと、
[A]第一編目、第二編目、および第三編目のうち、第一編目および第三編目を一方の針床、第二編目を他方の針床に配置する
[B]第一編目、第二編目、および第三編目のうち、第二編目および第三編目を一方の針床、第一編目を他方の針床に配置する
針床をラッキングして、第一編目と第二編目の編幅方向の位置を入れ換えてから、第一編目、第二編目、および第三編目のそれぞれのウエール方向に続く第四編目、第五編目、および第六編目を含む第二編目列を編成する工程βと、
前記工程βとは反対方向に針床をラッキングして、前記第一編目と前記第二編目の左右の位置関係を前記工程αと同じ状態に戻す工程γと、
前記第二編目列のウエール方向に続く第三編目列を編成し、前記第一編目と前記第二編目との間、前記第二編目と前記第三編目との間、前記第四編目と前記第五編目との間、および前記第五編目と前記第六編目との間に形成される渡り糸の位置関係を確定させることで、前記糸入れ部または糸出し部における編糸の解れ止めを行なう工程δと、
を備えることを特徴とする編糸の解れ止め方法。
【請求項2】
前記糸入れ部では前記工程αの前に、前記糸出し部では前記工程γの後に、針床に係止される編目にタックを行なうことを特徴とする請求項1に記載の編糸の解れ止め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機を用いて編地を編成する際、編地の編成途中で編糸が切り替わる糸入れ部または糸出し部における編糸の解れ止めを行なう編糸の解れ止め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボーダー柄やインターシャ柄などを有する編地では、編地の編成途中で編糸の切り替えが行われる。この編糸が切り替わる部分には、切り替え前の編糸で編成された編地部からその編糸が引き出される糸出し部と、切り替え前の編糸で編成された編地部に切り替え後の編糸を導入する糸入れ部とがあり、これら糸入れ部および糸出し部で編糸が解れ出さないようにする必要がある。本出願人は、この解れ止めを横編機に行わせる編糸の解れ止め方法を提案している(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1には、糸入れまたは糸出しする際、掛け目からなる二つの係止点を形成し、一方の係止点を既存編目の表側に、他方の係止点を別の既存編目の裏側に重ね合わせることで、編糸の解れ止めを行なっている。ここで、既存編目とは、係止点の形成前に既に針床に係止されている編目のことで、各係止点が重ね合わされる既存編目は互いに近接する位置にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/073491公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の編糸の解れ止め方法では、カムシステムが少ない横編機を用いた場合、編成コース数の増加に繋がる恐れがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、目移しを用いることなく、簡素な工程で編糸の解れ止めを行なうことができる編糸の解れ止め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、針床のラッキング機能を利用して編糸の解れ止めを行なうことで、上記課題を解決する。
【0008】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有し、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な横編機を用いて、編地の編成途中で編糸が切り替わる糸入れ部および糸出し部の少なくとも一方を有する編地を編成する際、糸入れ部または糸出し部における編糸の解れ止めを行なう編糸の解れ止め方法に係る。この本発明編糸の解れ止め方法は、以下の工程α〜δを備えることを特徴とする。
[工程α]…編幅方向に連続する第一編目、第二編目、および第三編目を含む第一編目列を編成する。ここで、本発明における工程αでは、第一編目〜第三編目を、次の[A]または[B]のいずれかを満たすように配置する。
[A]第一編目および第三編目を一方の針床、第二編目を他方の針床に配置する。
[B]第二編目および第三編目を一方の針床、第一編目を他方の針床に配置する。
[工程β]…針床をラッキングして、第一編目と第二編目の編幅方向の位置を入れ換えてから、第一編目、第二編目、および第三編目のそれぞれのウエール方向に続く第四編目、第五編目、および第六編目を含む第二編目列を編成する。例えば、工程αで第一編目が係止されている編針Xに対して、第二編目が係止されている編針Yが右にあれば、工程βでは編針Yが編針Xよりも左になるように何れかの針床をラッキングする。なお、ラッキングピッチは、糸切れが生じないように、1〜4ピッチの範囲内とすることが好ましい。
[工程γ]…工程βとは反対方向に針床をラッキングして、第一編目と第二編目の左右の位置関係を工程αと同じ状態に戻す。例えば、上記編針X,Yの関係で言えば、工程γでは編針Yが編針Xよりも右になるように何れかの針床をラッキングする。その際、編針Yが編針Xよりも右にあれば良く、工程γのラッキングピッチは、工程βのラッキングピッチと異なっていても良い。
[工程δ]…第二編目列のウエール方向に続く第三編目列を編成し、第一編目と第二編目との間、および第二編目と第三編目との間に形成される渡り糸、並びに第四編目と第五編目との間、および第五編目と第六編目との間に形成される渡り糸の関係を確定させることで、糸入れ部または糸出し部における編糸の解れ止めを行なう。
【0009】
本発明編糸の解れ止め方法の一形態として、糸入れ部では工程αの前に、糸出し部では工程γの後に、針床に係止される編目にタックを行なう形態を挙げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明編糸の解れ止め方法によれば、第一編目列の第一編目〜第三編目と、そのウエール方向に連続する第二編目列の第四編目〜第六編目とが形成される箇所の近傍で渡り糸が複雑に交差した状態となる。そのため、当該箇所で編糸の解れ止めを行なうことができる。また、本発明編糸の解れ止め方法は、針床のラッキングを利用することで、編目の目移しを行なうことなく、編糸の解れ止めを行なうので、カムシステムが少ない横編機を用いた場合でも、編成コース数の増加を抑制できる。例えば、多数の編糸を用いて編成されるインターシャ柄を備える編地では、糸入れ・糸出しを頻繁に行なうため、本発明編糸の解れ止め方法によって編成コース数の増加を抑制することで編地の生産性を向上させることができる。
【0011】
本発明編糸の解れ止め方法で糸入れ・糸出し時にタックを行なうことで、糸入れ部・糸出し部における編糸の解れ止めをより強固にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に示す編糸の解れ止め方法に係る編成工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1に基づいて、ボーダー柄における編糸が切り替わる部分を例にして本発明編糸の解れ止め方法を説明する。実施形態に記載の編成には、左右方向に延び、かつ、前後方向に互いに対向する前後一対の針床を有し、前後いずれかの針床が左右にラッキング可能な2枚ベッド横編機を用いた。もちろん、使用する横編機は4枚ベッド横編機でも良い。
【0014】
<実施形態1>
図1は、解れ止め方法の編成手順を示す編成工程図である。図1の左側にある第一欄の『S+数字』は工程番号を、第二欄の『矢印+1P』は針床のラッキング方向とラッキングピッチを、第三欄の『矢印(Kが付されたものは編成を伴う)』は給糸口の移動方向を、第四欄は実際の編成動作の様子を示す。第四欄の●印は新規の編目(掛け目を含む)、○印は針床に係止される編目、V印はタック目、▽印・▼印は給糸口を示す。なお、第四欄に示すように、本実施形態に用いる横編機は、前針床(以下、FB)と後針床(以下、BB)とが0.5ピッチずれた状態で対向している。また、各工程において、ラッキングが先、編成は後に行なう。
【0015】
S0には、給糸口8を紙面左方向に移動させ、ボーダー柄の縞の一つを編成している状態が示されている。このS0の状態から以下に示すS1〜S3・S5で糸出しを行ない、S4・S5〜S7で糸入れを行なう。
【0016】
S1では、給糸口8を紙面右方向に移動させ、第一編目列10を編成する(糸出しにおける工程α)。第一編目列10は、その始端側から順に、第一編目列10の編成方向に向かって並ぶ第一編目1、第二編目2、および第三編目3を有する。第二編目2は、BBに編成される掛け目、第一編目1と第三編目3は、S0においてFBに係止される編目のウエール方向に連続して編成される編目である。なお、第二編目2は、割増やしで形成したものであっても良い。
【0017】
S2では、BBを紙面左方向に1ピッチラッキングした後、給糸口8を紙面左方向に移動させ、第一編目列10のウエール方向に続く第二編目列20を編成する(糸出しにおける工程β)。第二編目列20は、その終端側から順に、第二編目列20の編成方向と反対の方向に向かって並ぶ第五編目5、第四編目4、および第六編目6を有する。
【0018】
S3では、BBを紙面右方向に1ピッチラッキングし、第一編目1と第二編目2の左右の位置関係をS1の終了時点と同じにする(糸出しにおける工程γ)。そうすることで、第一編目列10の第一編目1・第二編目2・第三編目3と、そのウエール方向に連続する第二編目列20の第四編目4・第五編目5・第六編目6とが形成される箇所の近傍で、これらの編目1〜6を繋ぐ渡り糸が複雑に交差した状態となる。
【0019】
さらにS3では、給糸口8を紙面右方向に移動させ、第二編目列20の編目のうち、BBに係止される編目よりも紙面右側(編糸を引き出す側とは反対側)の編目にタックを行なう。そして、S3でさらに給糸口8を紙面左方向に移動させ、給糸口8からの編糸を編地の編幅方向の外に出して、給糸口8による縞の編成を終了する。なお、給糸口8による縞の編成は終了したものの、まだ糸出し部における編糸の解れ止めは完了していない。
【0020】
ここで、上記S3で行なうタックは、糸出しにおける工程γの後に行なうタックであり、必須の工程ではないが、このタックを行なうことで糸出し部の編糸の解れ止めをより強固にすることができる。タックの対象となる編目は、S3に例示される位置よりも紙面右側であっても良く、特に限定されない。
【0021】
次のS4以降では、給糸口8からの編糸で編成した縞に続く新たな縞を、新たな給糸口9を用いて編成する。まず、S4では、新たな給糸口9を紙面右方向に移動させ、糸出し部の第二編目列20の端部編目にタックを行なった後、給糸口9を紙面左方向に移動させる。このS4のタックは、糸入れにおける工程αの前に行なうタックであり、必須の工程ではないが、糸入れ部の編糸の解れ止めをより強固にする効果を奏する。従って、S4を行なうことが好ましい。なお、タックの対象となる編目は特に限定されないが、S3で糸出しのタックを行なった編目は避けることが好ましい。それは、S3,S4で同じ編目にタックをすると、三重の編目になってしまうからである。
【0022】
S5では、給糸口9を紙面右方向に移動させ、糸出しにおいて編成した第二編目列20のウエール方向に続く第三編目列30を編成する(糸出しにおける工程δ)。その結果、第一編目1と第二編目2との間、および第二編目2と第三編目3との間に形成される渡り糸、並びに第四編目4と第五編目5との間、および第五編目5と第六編目6との間に形成される渡り糸の位置関係が確定し、糸出し部の編糸が解れないように止められる。
【0023】
ここで、S5で編成した第三編目列30は、糸入れにおける第一編目列10でもあり(糸入れにおける工程α)、第一編目列10は、その始端側から順に、第一編目列10の編成方向に向かって並ぶ第一編目1、第二編目2、および第三編目3を有する。そして、第二編目2はBBに、第一編目1と第三編目3はFBに編成されている。
【0024】
S6では、BBを紙面左方向に1ピッチラッキングした後、給糸口9を紙面左方向に移動させ、第一編目列10のウエール方向に続く第二編目列20を編成する(糸入れにおける工程β)。第二編目列20に備わる第四編目4、第五編目5、および第六編目6はそれぞれ、第一編目1、第二編目2、および第三編目3のウエール方向に連続して形成されている。
【0025】
S7では、BBを紙面右方向に1ピッチラッキングし、第一編目1と第二編目2の左右の位置関係をS5終了時点と同じにする(糸入れにおける工程γ)。そうすることで、第一編目列10の第一編目1・第二編目2・第三編目3と、そのウエール方向に連続する第二編目列20の第四編目4・第五編目5・第六編目6とが形成される箇所の近傍で、これらの編目1〜6を繋ぐ渡り糸が複雑に交差した状態となる。
【0026】
さらにS7では、給糸口9を紙面右方向に移動させ、S6において編成した第二編目列20のウエール方向に連続する第三編目列30を編成する(糸入れにおける工程δ)。その結果、糸出し部と同様に糸入れ部の編糸が解れないように止められる。
【0027】
<実施形態2>
実施形態1では、編糸の解れ止めを行なうために編成した編目1〜3のうち、第二編目2をBBに編成した(図1のS1,S5参照)。これに対して、図1のS1,S5において、第一編目1をBBに、第二編目2と第三編目3をFBに編成しても良い(この場合、第一編目1は掛け目となる)。その場合、S2,S6では、BBを紙面右方向に1ピッチラッキングさせて、第一編目1と第二編目2の編幅方向の位置を入れ換える。そして、更にS5,S7では、BBを紙面左方向に1ピッチラッキングした状態で、第一編目1と第二編目2の左右の位置関係をS1,S5と同じに戻す。以上のような編成工程でも、糸入れ部・糸出し部における編糸の解れ止めを行なうことができる。
【0028】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。実施形態では、編地の編幅方向端部で糸入れ・糸出しを行なっているが、当該端部以外の部分で糸入れ・糸出しを行なっても構わない。例えば、インターシャ柄を備える編地では、編地の編幅方向の中間部(端部以外の部分)で編糸が入れ代わることが多いので、その場合は、当該中間部で図1に示した糸入れ・糸出しを行なえば良い。
【符号の説明】
【0029】
1 第一編目
2 第二編目
3 第三編目
4 第四編目
5 第五編目
6 第六編目
10 第一編目列
20 第二編目列
30 第三編目列
図1