(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、実際に船舶を運用する場面では、運用者が不正の意図を有している場合に限らず、そのような意図を有していない場合であっても、例えばセンサ類の不具合や運用者の情報入力の誤り等により、誤った内容を含んだAIS情報が送信される場合があった。このような意図しない誤りについては特許文献1の方法でも解決は不可能であり、船舶航行の円滑のために、他船等に送信する情報を自船側で簡便に確認できる手段が求められていた。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、事実と異なる自船のAIS情報が船舶運用者の意図に反して周囲に送信されることを防止できる自船周囲情報表示装置を提供することにある。
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の自船周囲情報表示装置が提供される。即ち、この自船周囲情報表示装置は、センサ情報入力部と、AIS情報入力部と、表示部と、制御部と、を備える。前記センサ情報入力部は、自船に搭載されたセンサと接続され、当該センサの検知結果が入力される。前記AIS情報入力部は、自船から他船に送信するAIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDO情報を入力可能である。前記表示部は、自船周囲の状況の映像である状況映像を表示する。前記制御部は、前記センサの検知結果から得られる第1自船状態情報と、前記VDO情報から得られる第2自船状態情報と、を比較した比較情報を前記表示部に表示可能である。
【0010】
これにより、オペレータは、表示部に表示された比較情報を確認することで、AIS情報として周囲に送信される自船の状態が正しいか否かを簡便に確認することができる。これにより、AISに関する設定ミス等にオペレータが気付いて対処できる場合が多くなるため、他船の誤解を招くことを防止して円滑な航海に寄与することができる。
【0011】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記制御部は、前記比較情報として、前記VDO情報から得られる自船の位置及び方位のうち少なくとも何れかを前記表示部にグラフィカルに表示することが好ましい。
【0012】
これにより、オペレータは、AIS情報として周囲に送信される自船の位置/方位が正しいか否かを、表示部でのグラフィカルな表示によって直感的に判断することができる。
【0013】
前記の自船周囲情報表示装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、AIS情報入力部は、他船から自船に送信されるAIS情報に含まれる他船のVHFデータリンクメッセージであるVDM情報を入力可能に構成されている。前記制御部は、前記比較情報に加えて、他船の前記VDM情報から得られる当該他船の状態情報を前記表示部に表示可能に構成されている。
【0014】
これにより、オペレータは、前記比較情報とともに、他船から受信したAIS情報に基づく他船の状態を表示部で確認することができる。また、VDO情報とVDM情報のフォーマットは共通点が多いので、VDM情報の解析処理の大部分をVDO情報に対してそのまま利用でき、構成の簡素化に貢献することができる。
【0015】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記制御部は、前記第1自船状態情報と前記第2自船状態情報との差異が所定以上である場合に、前記比較情報を前記表示部に表示することが好ましい。
【0016】
これにより、自船状態情報同士が良好に一致している場合には比較情報が表示されないので、表示部の表示が過度に煩わしくなることを防止できる。
【0017】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記比較情報には警告表示が含まれることが好ましい。
【0018】
これにより、AIS情報として周囲に送信される自船の状態が正常でない点について、オペレータの注意を確実に喚起することができる。
【0019】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記制御部は、前記第1自船状態情報と前記第2自船状態情報との差異が所定以上である場合に、前記VDO情報の出力源であるAIS送受信装置の設定を自動的に修正するための信号を出力することが好ましい。
【0020】
これにより、AIS送受信装置の設定を修正することで、周囲に送信されるAIS情報の異常を自動的に解消することができる。この結果、良好な作業性を実現できる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の自船周囲情報表示装置が提供される。即ち、この自船周囲情報表示装置は、AIS情報入力部と、表示部と、を備える。前記AIS情報入力部は、自船から他船に送信するAIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDO情報を入力可能である。前記表示部は、自船周囲の状況の映像である状況映像を表示するとともに、前記VDO情報から得られる自船状態情報を前記状況映像に重ねてグラフィカルに表示可能である。
【0022】
これにより、AIS情報として周囲に送信されるVDO情報に対応した自船の状態が、表示部においてグラフィカルに表示される。従って、オペレータは、自船の状態の表示を見ることで、周囲に送信されるAIS情報が正常か否かを直感的に判断することができる。
【0023】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記表示部は、前記自船状態情報として、前記VDO情報から得られる自船の位置及び方位のうち少なくとも何れかを前記表示部にグラフィカルに表示することが好ましい。
【0024】
これにより、オペレータは、AIS情報として周囲に送信される自船の位置/方位が正しいか否かを、表示部でのグラフィカルな表示によって直感的に判断することができる。
【0025】
前記の自船周囲情報表示装置においては、前記表示部は、前記VDO情報から得られる自船の長さ及び幅を前記状況映像の縮尺で表した図形を、前記自船状態情報として前記表示部にグラフィカルに表示することが好ましい。
【0026】
これにより、オペレータは、AIS情報として周囲に送信される自船の長さ及び幅の値が正しいか否かを、表示部で状況映像が表示される中でのグラフィカルな図形表示によって直感的に判断することができる。
【0027】
本発明の第3の観点によれば、以下のような自船周囲情報表示方法が提供される。即ち、この自船周囲情報表示方法は、センサ情報入力工程と、AIS情報入力工程と、表示工程と、を含む。前記センサ情報入力工程では、自船に搭載されたセンサから、当該センサの検知結果を入力する。前記AIS情報入力工程では、自船から他船に送信するAIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDO情報を入力する。前記表示工程では、前記センサの検知結果から得られる第1自船状態情報と、前記VDO情報から得られる第2自船状態情報と、を比較した比較情報を、自船周囲の状況の映像を表示可能な表示部に表示する。
【0028】
これにより、オペレータは、表示部に表示された比較情報を確認することで、AIS情報として周囲に送信される自船の状態が正しいか否かを簡便に確認することができる。これにより、AISに関する設定ミス等にオペレータが気付いて対処できる場合が多くなるため、他船の誤解を招くことを防止して円滑な航海に寄与することができる。
【0029】
本発明の第4の観点によれば、以下のような自船周囲情報表示方法が提供される。即ち、この自船周囲情報表示方法は、AIS情報入力工程と、表示工程と、を含む。前記AIS情報入力工程では、自船から他船に送信するAIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDO情報を入力する。前記表示工程では、自船周囲の状況の映像である状況映像を表示するとともに、前記VDO情報から得られる自船状態情報を前記状況映像に重ねてグラフィカルに表示する。
【0030】
これにより、AIS情報として周囲に送信されるVDO情報に対応した自船の状態が、グラフィカルに表示される。従って、オペレータは、自船の状態の表示を見ることで、周囲に送信されるAIS情報が正常か否かを直感的に判断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーダ指示機3を備えるレーダ装置1の全体的な構成を示す機能ブロック図である。
図2は、表示部15による表示画面の例を示す図である。
図3は、レーダアンテナ11及びGPSアンテナ7,32の位置関係を示す模式平面図である。
【0033】
図1に示すように、本実施形態のレーダ装置1は、レーダアンテナユニット2と、レーダ指示機(航海情報表示装置、自船周囲情報表示装置)3と、を備えている。レーダ指示機3には、AIS送受信機(AIS送受信装置)4と、GPS受信機(センサ)31と、方位センサ(センサ)33と、が接続されている。GPS受信機31には、GPSアンテナ32が電気的に接続されている。
【0034】
レーダアンテナユニット2は、レーダアンテナ11と、送受信部12と、を備えている。レーダアンテナ11は送受信部12の指示に基づき、回転しながらマイクロ波の送信を行うとともに、物標からの反射波を受信することができる。送受信部12は、レーダアンテナ11が受信した信号(レーダエコー)をサンプリングし、デジタル化したレーダエコーをレーダ指示機3に出力する。
【0035】
レーダ指示機3は、制御部14と、表示部15と、AISインタフェース部(AIS情報入力部)16と、センサ情報取得部(センサ情報入力部)17と、を備えている。
【0036】
制御部14は、レーダアンテナユニット2、AIS送受信機4、GPS受信機31及び方位センサ33から得られた各種データに基づいて、自船周囲の状況の映像であるレーダ映像(状況映像)を含んだ所定の画像を生成し、表示部15に出力する。方位センサ33の具体例としては、ジャイロコンパスを挙げることができる。また、制御部14は、必要に応じてレーダアンテナユニット2及びAIS送受信機4を制御できるように構成されている。なお、制御部14の詳細な構成は後述する。
【0037】
AIS送受信機4にはAISアンテナ5が接続されており、他船から送信されてくるAIS信号を受信するように構成されている。受信できるAIS信号には様々な種類があるが、その中には、いわゆるVDMセンテンスと呼ばれるものがある。なお、VDMとは、VHFデータリンクメッセージ(VHF Data−link Message)の略称である。VDMセンテンスには、当該他船の現在位置、対地針路、対地船速、船首方位、回頭角速度、及び航行状態等の情報が含まれている。
【0038】
また、AIS送受信機4には、周囲にAIS情報として送信する自船の位置及び船首方位のデータを取得するためのGPS受信機6及び方位センサ8が接続される。GPS受信機6には、GPSアンテナ7が電気的に接続される。この構成で、AIS送受信機4は、GPS受信機6から得られた情報、あるいは方位センサ8から得られた情報等を、所定の周期で他船にAIS信号として送信するように構成されている。このAIS信号はVDOセンテンスと呼ばれるものであり、自船の現在位置、対地針路、対地船速、船首方位、回頭角速度、及び航行状態等の情報を含んでいる。なお、VDOとは、VHFデータリンク自船メッセージ(VHF Data−link Own−vessel message)の略称である。
【0039】
AIS送受信機4が取得したAIS情報は、レーダ指示機3が備えるAISインタフェース部16を介して、制御部14に出力される。AISインタフェース部16は、AIS送受信機4からのAIS情報をレーダ指示機3に取り込むとともに、レーダ指示機3からの指示をAIS送受信機4に送るための外部インタフェース(例えば、接続コネクタ)として構成される。
【0040】
GPS受信機6は、GPS衛星からのGPS信号を受信して、自船の位置(地球基準の絶対的な位置)に関する情報を取得するように構成されている。GPS受信機6が取得したGPS情報は、AIS送受信機4に出力される。
【0041】
方位センサ8は、自船の船首方位(地球基準の絶対的な方角)を取得するように構成されている。この方位センサ8の具体例としては、方位センサ33と同様に、ジャイロコンパスを挙げることができる。方位センサ8が取得した自船の船首方位の情報は、AIS送受信機4に出力される。
【0042】
なお、AIS送受信機4が備える図示しない記憶部には、船舶(放送局)を識別する番号であるMMSI番号及びIMO船舶識別番号、船体の長さ、幅、船種等のデータを予め記憶させることができる。これらのデータは、AIS送受信機4の初期稼動時に設定された後は原則的に変更されないことから、AISにおいて静的情報と呼ばれている。
【0043】
一方で、AIS送受信機4は、GPS受信機6が取得したGPS情報から、世界標準時、自船の位置、対地針路、対地速力等を計算して取得することができる。また、AIS送受信機4は、方位センサ8が取得した方位情報から、船首方位、回頭角速度を計算して取得することができる。なお、これらのデータは状況に応じて刻々変化することから、AISにおいて動的情報と呼ばれている。
【0044】
AIS送受信機4は、上記のようにして得られた静的情報及び動的情報を必要に応じて含めた形で上記のVDOセンテンスを作成し、このVDOセンテンスを含んだAIS情報を、AISアンテナ5からAIS信号として周囲に向けて送信する。また、これと同時に、AIS送受信機4は、AISインタフェース部16を介して、AISアンテナ5から送信したVDOセンテンスを制御部14に対しても出力する。
【0045】
一方で、AIS送受信機4は、AISアンテナ5から受信した他船等からのAIS信号(上記のVDMセンテンス等)を、AISインタフェース部16を介して制御部14へ出力する。
【0046】
レーダ指示機3はセンサ情報取得部17を備え、このセンサ情報取得部17にはGPS受信機31及び方位センサ33が接続されている。GPS受信機31には、GPSアンテナ32が接続される。このGPS受信機31及び方位センサ33が取得した情報(地球基準での自船の位置及び船首方位)は、表示部15に表示する画像を制御部14が作成するための位置及び方位の基準として用いられる。
【0047】
制御部14は、AIS解析部21と、比較部22と、画像生成部23と、AIS他船描画部24と、AIS自船描画部25と、警告描画部26と、修正指示部27と、を備えている。
【0048】
AIS解析部21は、AISインタフェース部16を通じて取得した自船のVDOセンテンスあるいは他船からのVDMセンテンスを解析し、自船及び他船の位置、対地針路等を取得する。なお、AISの仕様においてVDOセンテンスとVDMセンテンスはフォーマットが殆ど共通しているので、VDMセンテンスを解析する構成の大部分を、VDOセンテンスの解析のために利用することができる。
【0049】
比較部22は、GPS受信機31及び方位センサ33から得られた自船の位置及び船首方位等の情報(第1自船状態情報)と、自船のVDOセンテンスをAIS解析部21によって解析して得られた自船の位置及び船首方位等の情報(第2自船状態情報)と、を比較し、この情報間の差異が予め定めた閾値以上であるか否か(自船のAIS送受信機4が周囲に出力しているVDOセンテンスの内容に異常があるか否か)を判定する。なお、以後の説明では、VDOセンテンスの内容に異常があると比較部22において判定された状態を、簡単に「VDO異常状態」と呼ぶことがある。
【0050】
画像生成部23は、レーダアンテナユニット2の送受信部12から得られたレーダエコーに基づき、自船周囲のレーダ映像を生成する。なお、本実施形態においてレーダ映像は、自船が中心に位置し、かつ自船の船首方位が上となるように生成される(いわゆるヘディングアップ)。このレーダ映像の作成のために、方位センサ33が検出した自船の船首方位の情報が用いられる。
【0051】
AIS他船描画部24は、他船からAIS送受信機4が受信したVDMセンテンスをAIS解析部21が解析して得られた情報に基づき、上記のレーダ映像に対し、当該他船のAISシンボル(他船の状態情報)を重ねて描画する。
【0052】
ここで、VDMセンテンスから得られる他船の位置は地球基準であるのに対し、画像生成部23が生成するレーダ映像は、自船の位置及び船首方位を基準とした相対的なものである。従って、AIS他船描画部24がレーダ映像上に他船シンボルを描画するにあたっては、GPS受信機31及び方位センサ33が出力する情報を自船の地球基準の位置及び船首方位として取得した上で、他船の自船に対する相対的な位置及び方位を計算して描画するようになっている。
【0053】
AIS自船描画部25は、AIS送受信機4が出力した自船のVDOセンテンスをAIS解析部21が解析して得られた情報に基づき、上記のレーダ映像に対し、当該自船のAISシンボルを重ねて描画する。
【0054】
即ち、ヘディングアップのレーダ映像に仮に自船を描画する場合、普通は、自船は映像の中心に上向きで位置することになる。しかしながら、例えばGPS受信機6に設定される測地系が誤っていたり、方位センサ8が誤動作していたりすると、自船が異常な位置及び向きで描画されることになる。これを利用して、本実施形態では、VDOセンテンスを解析して得た自船の状態をAISシンボルとしてグラフィカルに描画することにより、ユーザが自船のVDOの内容を視覚的かつ直感的に理解し、異常がある場合には迅速に気付いて対処することができるようになっている。従って、このAISシンボルは、VDOセンテンスから得られる自船の状態の情報(自船状態情報)であるということができる。
【0055】
なお、ここで表示される自船のAISシンボル(以下、自船シンボルと呼ぶことがある)は、GPS受信機31で取得される自船の位置と、VDOセンテンスから得られる自船の位置と、の差が大きければ大きいほど、本来の位置(レーダ映像の中心)から遠く離れて表示される。また、この自船シンボルの向きは、方位センサ33で取得される自船の船首方位と、VDOセンテンスから得られる自船の船首方位と、の差が大きければ大きいほど、本来の向き(真上)から傾いて表示される。この意味で、自船シンボルは、VDOセンテンスの内容と、GPS受信機31及び方位センサ33から得られる自船の位置及び船首方位と、を比較した情報(比較情報)であるということもできる。
【0056】
ただし、上記のような異常がない限りは、自船シンボルはレーダ映像の中心位置に上向きで静止した状態を継続することになり、このように自船シンボルを常時レーダ映像に表示したのでは、オペレータが煩わしく感じる場合も考えられる。そこで、本実施形態では、比較部22での比較の結果、自船側が出力するVDOセンテンスの内容に誤りがあると判定されたときにのみ(VDO異常状態である場合にのみ)、AIS自船描画部25が自船シンボルを描画するように構成されている。これにより、表示部15での表示が過度に混み合うことを防止でき、快適な操作性を提供することができる。
【0057】
警告描画部26は、比較部22においてVDO異常状態と判定された場合に、その旨の警告をレーダ映像上に重ねて表示する。これにより、オペレータに一層の注意を喚起することで、設定の修正等をはじめとしたオペレータの対応を確実に促すことができる。なお、この警告表示も上記の比較情報の一種と捉えることができる。
【0058】
修正指示部27は、比較部22においてVDO異常状態と判定された場合において、可能なときには、AIS送受信機4側の設定を変更して当該異常を解消できるようにAIS送受信機4側に指示を送信する。
【0059】
表示部15は、例えばカラー表示が可能な液晶ディスプレイとして構成されている。この表示部15は、画像生成部23が生成したレーダ映像に対し、AIS他船描画部24及びAIS自船描画部25が描画したAISシンボル、及び警告描画部26が描画した警告を、重ねた状態で表示することができる。
【0060】
図2には、表示部15に表示されるヘディングアップのレーダ映像において、AIS他船描画部24が描画する他船シンボル(他船の状態情報)S1と、AIS自船描画部25が描画する自船シンボル(比較情報)S2と、の例が示されている。他船シンボルS1はレーダ映像上に、先端から実線の直線が延びる三角形と、点線の直線と、を組み合わせた図形として描画される。三角形の先端の向き(実線の直線の向き)は当該他船の船首方位を示し、点線の直線は当該他船の針路及び速度(対地船速ベクトル)を示す。
【0061】
自船シンボルS2についても他船シンボルS1と全く同様に、三角形及び実線の直線と、点線の直線と、により描画される。なお、自船シンボルS2は他船シンボルS1と区別がつくように描画されることが望ましい。例えば自船シンボルS2については、表示される色を変えたり、線の太さを変えたり、点滅させたりすることが考えられる。
【0062】
オペレータは、自船シンボルS2の位置及び向きと、本来表示されるべき自船の位置及び向きと、を比較することにより、VDOセンテンスとして周囲に送信される自船の状態と、実際の自船の状態との差異を的確に把握することができる。
図2の例に照らしていえば、自船シンボルS2が本来あるべき位置及び向き(即ち、映像の中心位置で上向き)に描かれていないので、オペレータはVDOセンテンスの内容が正常でないことを即座に把握することができる。また、画面には警告表示W1が描かれるので、ユーザは異常に一層気付き易くなる。
【0063】
修正指示部27は、上記のようにVDO異常が比較部22で検出された場合、AIS送受信機4の設定内容を問い合わせる。この問合せの結果、例えば、GPS受信機6が出力する測地系の誤りが見つかった場合は、修正指示部27は、AISインタフェース部16を介して、測地系の設定を正しく修正するための指示をAIS送受信機4に送信する。この信号を受け取ったAIS送受信機4は、GPS受信機6の設定を正しく変更するので、それ以降は、正しいVDOセンテンスが出力されることになる。このように、本実施形態のレーダ指示機3では、修正指示部27が設定の修正を自動的に行うことができるので、利便性の大幅な向上を実現できている。
【0064】
なお、上記の測地系の誤りの修正に限らず、例えばGPSアンテナ7の船舶上での設置位置について、修正指示部27の指示により自動的に内容を修正することも可能である。即ち、船舶上でレーダアンテナ11と2つのGPSアンテナ7,32とは、物理的な制約から一箇所にまとめて設置することは極めて困難であって、
図3の例に示すように、ある程度分散したレイアウトが採用されることが多い。この点、本実施形態のレーダ装置1は、レーダアンテナ11及びGPSアンテナ32の位置をレーダ指示機3にそれぞれオフセット値として設定し、GPSアンテナ7の位置をAIS送受信機4にオフセット値として設定することができるように構成されており、この設定内容に基づいて適宜計算することで、アンテナ間の位置ズレを考慮しながらレーダ映像に他船シンボルS1及び自船シンボルS2を適切な位置で重ね合わせることができるようになっている。しかしながら、AIS送受信機4に設定されるGPSアンテナ7の位置(オフセット値)に誤差が生じていると、そのズレの分だけ自船シンボルS2がレーダ映像の中心からズレて描画され、VDO異常状態を引き起こすことになる。このとき、修正指示部27がAIS送受信機4に指示を送信し、AIS送受信機4が上記のズレを相殺するようにオフセット値の設定を修正することにより、VDO異常状態を是正することができる。更には、方位センサ8が検知する船首方位を適宜補正して、方位センサ33の検知する船首方位と一致することとなるように、修正指示部27がAIS送受信機4に指示を送ることもできる。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態のレーダ装置1におけるレーダ指示機3は、センサ情報取得部17と、AISインタフェース部16と、表示部15と、制御部14と、を備える。センサ情報取得部17は、自船に搭載されたGPS受信機31及び方位センサ33と接続され、当該GPS受信機31及び方位センサ33の検知結果が入力される。AISインタフェース部16には、AIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDOセンテンスを入力することができる。表示部15は、自船の周囲の状況を示すレーダ映像を表示する。制御部14は、GPS受信機31及び方位センサ33の検知結果から得られる第1自船状態情報と、VDOセンテンスから得られる第2自船状態情報と、を比較した結果である自船シンボルS2を、表示部15に表示可能である。
【0066】
これにより、表示部15に表示される自船シンボルS2をオペレータが検討することにより、周囲に送信されるAIS情報の異常に容易に気付くことができる。この結果、事実と異なる自船のAIS情報が周囲に送信されて他船等の誤解を招くことを防止できるので、円滑な航海を実現することができる。
【0067】
次に、上記実施形態の変形例を説明する。
図4は、変形例のレーダ装置1xを示す機能ブロック図である。
図5は、リアルスケールモードにおける自船シンボルS2の表示例を示す図である。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0068】
図4の変形例に係るレーダ装置1xでは、
図1の構成と比較して、比較部22、警告描画部26、及び修正指示部27が、レーダ指示機3の制御部14から省略されている。この変形例では、レーダ指示機3は、VDOセンテンスから取得した情報に基づき、自船シンボルS2を常時レーダ映像に重ねて表示部15に表示する構成になっている。
【0069】
本変形例では、VDOセンテンスに対応する自船シンボルS2を表示部15に無条件で表示する。即ち、VDOセンテンスの内容に異常があるか否かを装置側で判定することはなく、異常の有無は、オペレータが表示部15を実際に見た上での判断に委ねられる。従って、上記の実施形態で行われていた警告表示W1の描画は省略され、修正指示部27による自動的な設定変更指示も行われない。
【0070】
なお、本変形例のレーダ指示機3は、自船シンボルS2を特別な形態で表示するモードを有している。このモード(リアルスケールモード)では、レーダエコーの詳細が容易に把握できるようにレーダ映像が適宜の縮尺で表示されるとともに、
図5に示すように、自船シンボルS2は、VDOセンテンスに含まれる自船の長さ及び幅を有する船舶の形を、当該レーダ映像の縮尺に応じて縮小した図形シンボルとして描かれる。これにより、オペレータは、描かれた自船シンボルS2の形状と、周囲にある島等のレーダエコーの大きさとの相対関係などを手掛かりにして、AIS送受信機4に設定した自船の長さ及び幅の値に誤りがないか否かを直感的に確認することができる。
【0071】
以上に説明したように、本変形例のレーダ装置1xにおけるレーダ指示機3は、AISインタフェース部16と、表示部15と、を備える。AISインタフェース部16は、AIS情報に含まれるVHFデータリンク自船メッセージであるVDO情報を入力可能である。表示部15は、自船の周囲の状況を示すレーダ映像を表示するとともに、VDO情報から得られる自船の状態を表す自船シンボルS2を、レーダ映像に重ねてグラフィカルに表示可能である。
【0072】
これにより、表示部15に表示される自船シンボルS2をオペレータが検討することにより、周囲に送信されるAIS情報の異常に容易に気付くことができる。この結果、事実と異なる自船のAIS情報が周囲に送信されて他船等の誤解を招くことを防止できるので、安全な航海を実現することができる。
【0073】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0074】
表示部15には、自船の位置、対地針路、速力、船首方位、回頭角速度等に限らず、他の情報を(必要に応じてグラフィカルに)表示する構成とすることもできる。例えば、AIS情報に自船の目的地の情報を含ませることができることは知られているが、この目的地をレーダ映像上に文字列で表示するように構成することができる。あるいは、AIS情報に含まれる自船の航海状態、積載物等を、レーダ映像上に文字列やアイコン等で表示させるようにすることもできる。この構成によれば、自船の目的地や航海状態等、手入力で頻繁に更新しなければならないAIS情報について、古い情報が更新されないままであってもオペレータが気付き易くなる。更には、VDOセンテンスから取得した自船の位置を蓄積しておいた上で、過去の一定時間における自船の航跡を表示するように構成することもできる。この航跡は、VDO異常状態が発生したときに、その原因の特定に役立てることができる。
【0075】
レーダ指示機3にモード切替手段(ボタンやメニュー画面等)を設け、
図4の変形例で説明したように自船シンボルS2を常時表示させるモードと、VDO異常状態のときにだけ表示させるモードと、全く表示させないモードと、を切替可能に構成しても良い。
【0076】
レーダ装置1,1xにおいて、別々に備えられているGPS受信機6とGPS受信機31とを共通化したり、方位センサ8と方位センサ33とを共通化したり、GPSアンテナ7とGPSアンテナ32とを共通化したりすることができる。
【0077】
他船シンボルS1及び自船シンボルS2については、
図2で示すような表示形態に代えて、他の表示形態を採用することができる。例えば、対地船速ベクトルについては、単なる点線で表示することに代えて、矢印で表示するように変更することができる。
【0078】
更には、自船シンボルS2については、例えば単純な円形等に構成することで自船の位置のみを表示したり、レーダ映像の中心から伸びる単なる矢印として構成することで自船の船首方位のみを表示したりするように変更することができる。
【0079】
比較部22でVDO異常と判定された場合に、自船シンボルS2を表示せず、単に警告表示W1のみを比較情報として表示するように変更することができる。また、警告表示W1は、
図2のように文字列で表示することに代えて、例えばアイコン等で表示することもできる。
【0080】
表示部15に表示されるレーダ映像は、ヘディングアップではなく例えばノースアップの形式とすることもできる。この場合、他船シンボルS1及び自船シンボルS2が描かれる位置及び向きも、それに応じて変更されることになる。
【0081】
図5に示す変形例のリアルスケールモードは、
図1で説明した実施形態の構成にも適用することができる。
【0082】
レーダ画面上に自船の情報を表示することに限らず、送信する自船の状態が正しいか否かをオペレータに確認させる専用画面を設けても良い。
【0083】
本発明は、レーダ装置1にターゲットトラッキング機能を搭載した場合にも問題なく適用することができる。また、本発明の構成はレーダ装置に限定されるものではなく、例えば、海図を状況情報として表示する電子海図表示装置(ECDIS)等に適用することができる。