特許第5881549号(P5881549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5881549-塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881549
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/08 20060101AFI20160225BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20160225BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20160225BHJP
   C08K 5/06 20060101ALI20160225BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C08L27/08
   C08K5/10
   C08L63/00 A
   C08K5/06
   C08J5/18CEU
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-155900(P2012-155900)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15590(P2014-15590A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046314
【氏名又は名称】旭化成ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】浅野 真文
(72)【発明者】
【氏名】八塚 道浩
【審査官】 新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−162641(JP,A)
【文献】 特開平10−330625(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111618(WO,A1)
【文献】 特開2014−014999(JP,A)
【文献】 特開平10−087876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08
C08L1/00−101/14
C08J5/00−5/02;5/12−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂と、セバシン酸ジブチル(A)と、エポキシ化大豆油(B)と、二量体以上のグリコール(C)とを含有し、
前記(A)の含有量が1〜10質量%であり、前記(B)の含有量が1〜10質量%であり、かつ前記(C)の含有量が0.05〜0.6質量%である、
塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【請求項2】
前記塩化ビニリデン系樹脂の含有量が90質量%以上である、請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【請求項3】
記二量体以上のグリコール(C)が、トリプロピレングリコールである、請求項1又は2に記載の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムは、密着性、ガスバリア性等の特性に優れているため、食品等の簡易包装材料として多くの一般家庭で使用されてきた。
【0003】
塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを製造する方法として、インフレーション製膜方法が広く知られている(図1参照)。インフレーション製膜方法においては、塩化ビニリデン系樹脂に添加剤全般を含有させた塩化ビニリデン系樹脂組成物をダイから管状に押し出し、押し出された樹脂組成物の外側を冷水で、ダイ口とピンチロールとに挟まれた内側をミネラルオイル等公知の冷媒で冷却し、固化させることにより、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを成形する。このときの内側のダイ口とピンチロールとに挟まれた筒状の部分はソックと称され、この内部に封入する冷媒はソック液と称される。また、ピンチロールで折り畳まれた環状ダブルプライフィルムはパリソンと称される。そして、このパリソンは、再加熱し内部にエアを吹き込むこと(インフレーション)にて延伸される。得られたダブルプライフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的には、紙管に巻き取られ、紙管巻きラップフィルムが得られる。
【0004】
塩化ビニリデン系樹脂組成物中の添加剤としては、安定剤や可塑剤などが用いられている。良好な加工性と良好な物性を得るために、安定剤として、例えばエポキシ化大豆油(以下、ESO、と称す)等に代表されるエポキシ化植物油を添加し、可塑剤として、例えばアセチルクエン酸トリブチル(以下、ATBC、と称す)やセバシン酸ジブチル(以下、DBS、と称す)等を添加することが広く知られている。
【0005】
特許文献1には、塩化ビニリデン系樹脂組成物に対して脂肪族二塩基酸エステル、エポキシ化植物油、及びプロピレングリコールを付与することで、製造直後より良好なラップフィルムの密着性を有し、密着性と引出性という背反する特性を両立させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、熱可塑性樹脂に対して、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、二塩基性脂肪酸エステル、及びエポキシ化大豆油等の液状助剤と共に、ラップフィルムの密着性向上のためにプロピレングリコールを添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特願2007−529591号公報
【特許文献2】特開平10−330625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在流通している塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの安全性は、既に確立されている。しかし、近年の消費者の食品安全への関心の高まりにより、今後さらにラップフィルムの安全性を高めることが求められている。例えば、ラップフィルムが食品と接触した際に或いは加熱調理時に、ラップフィルム中の添加剤が食品に移行することが知られており、そのため、ラップフィルム中の添加剤の総含有量を低減することが検討されている。しかし、添加剤の総含有量を単純に低減した場合には、ラップフィルム成形時の加工性、ラップフィルムに必要とされる密着性、引出性、及び好適な手触り感が損なわれてしまう。
【0009】
一方、特許文献1と特許文献2のようにプロピレングリコールを併用することで、脂肪族二塩基酸エステルやエポキシ化植物油の含有量を低減させ得るとともに、成形加工性や密着性をある程度維持することが可能である。しかし、プロピレングリコールは、二量体以上のグリコールよりも極性が高いため、塩化ビニリデン系樹脂組成物に添加した場合にフィルム表面外側にブリードアウトしやすく、その結果、フィルムのゴワゴワした不快な手触り感を改善することができなかった。また、ブリードアウトしたプロピレングリコールにより、フィルム表面がヌルヌルするという課題もある。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、添加剤の総含有量が比較的に低く、これにより食品安全性が高められており、しかも、密着性、引出性、成形加工性に優れるとともに、添加剤の総含有量の低減時に生じる不快なゴワゴワした手触り感が改善された、塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムを提供することを目的とする。
なお、本明細書において「添加剤」とは塩化ビニリデン系樹脂以外のものを意味し、具体的には後述する(A)、(B)、(C)、及びその他の配合物を包含する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、食品安全性の向上に伴う添加剤の総含有量の低減と、添加剤の総含有量の低減に伴う不快なゴワゴワしたフィルムの手触り感の改善という背反する課題を両立させるという観点から鋭意検討を加えた結果、塩化ビニリデン系樹脂組成物に添加する手触り改質効果の高い可塑剤として特定のものを選択し、さらにはその使用量を限定することで、消費者の要求を満たすレベルにまで手触り感が改善され、かつ、食品接触時或いは加熱調理時の添加剤移行量が有意に低減され、その上さらにフィルムの密着性、引出性、成形加工性にも優れる塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、下記の通りである。
【0012】
〔1〕
塩化ビニリデン系樹脂と、セバシン酸ジブチル(A)と、エポキシ化大豆油(B)と、二量体以上のグリコール(C)とを含有し、
前記(A)の含有量が1〜10質量%であり、前記(B)の含有量が1〜10質量%であり、かつ前記(C)の含有量が0.05〜0.6質量%である、
塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
〔2〕
前記塩化ビニリデン系樹脂の含有量が80質量%以上である、前記〔1〕に記載の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
〔3〕
前記二量体以上のグリコール(C)が、トリプロピレングリコールである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、添加剤の総含有量が比較的に低く、これにより食品安全性が高められており、しかも、密着性、引出性、成形加工性に優れるとともに、添加剤低減に伴う不快なフィルムの手触り感が改善された塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の製膜プロセスで使用された装置の概略図である。
図2】引出性試験を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
〔塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルム〕
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムは、塩化ビニリデン系樹脂と、セバシン酸ジブチル(A)と、エポキシ化大豆油(B)と、二量体以上のグリコール(C)とを含有し、
前記(A)の含有量が1〜10質量%であり、前記(B)の含有量が1〜10質量%であり、かつ前記(C)の含有量が0.05〜0.6質量%である。以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
〔塩化ビニリデン系樹脂〕
本実施形態に用いる塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン単位を含むものであれば特に制限されず、塩化ビニリデン単位以外に、例えば塩化ビニル、メチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;メチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等のメタアクリル酸エステル;アクリロニトリル、酢酸ビニル等、塩化ビニリデンと共重合可能な単量体が1種又は2種以上共重合されていてもよい。これらのなかでも、塩化ビニリデン単位を85〜97質量%含むものが好ましく、86〜95質量%含むものがより好ましく、87〜93質量%含むものがさらに好ましい。このような範囲であれば、塩化ビニリデン単位が多いことによる成形加工性悪化や、塩化ビニリデン単位が少ないことによる手触り感の悪化をさらに抑制できる。
【0018】
本実施形態の塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムに含まれる塩化ビニリデン系樹脂の含有量は90質量%以上が好ましく、より好ましくは93質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。このような範囲であれば、添加剤の総含有量がより低く、これにより食品安全性がより高められたものとなる。
【0019】
なお、ラップフィルムから各成分の含有量を測定する方法は分析対象物によって異なり、塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、ラップフィルムの再沈濾過物を真空乾燥し、重量測定して得ることができる。一方、DBS及び二量体以上のグリコールの含有量は、アセトン等の有機溶媒を用いてラップフィルムから添加剤を抽出し、ガスクロマトグラフィー分析して得ることができる。また、ESOの含有量は、ラップフィルムの再沈濾液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析して得ることができる。
【0020】
〔セバシン酸ジブチル(A)〕
本実施形態のラップフィルムに用いられるDBS(A)は、脂肪族二塩基酸エステルの一種である。脂肪族二塩基酸エステルには、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジn−ヘキシル、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル系;アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル、アゼライン酸オクチル等のアゼライン酸エステル系;セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等のセバシン酸エステル系がある。これらのなかでも、DBSは、塩化ビニリデン系樹脂に対する可塑化効果が高く、少量でも十分に樹脂を可塑化し、成形加工性を向上させる点で好ましい。
【0021】
より優れた成形加工性の付与、及び添加剤高含有時のラップフィルムの過剰な密着性防止等の点から、DBS(A)の含有量は1〜10質量%であり、好ましくは2〜7質量%であり、より好ましくは2.5〜5質量%である。
【0022】
〔エポキシ化大豆油(B)〕
本実施形態のラップフィルムに用いられるESO(B)は、食用油脂をエポキシ化して得られるエポキシ化植物油の一種である。エポキシ化植物油は、塩化ビニリデン系樹脂押出加工用安定剤として広く知られ、フィルムの色調変化の抑制の点からフィルム中に添加することが必須である。エポキシ化植物油として、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油が挙げられるが、これらのなかでも、エポキシ化大豆油は、高温下にラップフィルムを保管した際の引出性悪化を抑制する点で好ましい。
【0023】
ラップフィルムの色調変化の抑制、ブリードによるべたつき防止等の点から、ESO(B)の含有量は1〜10質量%であり、好ましくは1〜6質量%であり、より好ましくは1〜3質量%である。
【0024】
〔二量体以上のグリコール(C)〕
本実施形態のラップフィルムに用いられる二量体以上のグリコール(C)は、アルコールの一種であり、より具体的には、鎖式脂肪族炭化水素、又は環式脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつヒドロキシ基が置換している構造を持つ化合物が2分子以上ヒドロキシル基を介して結合した化合物である。二量体以上のグリコール(C)は、(一量体の)グリコールに比して、塩化ビニリデン系樹脂に対する可塑化効果が高いという特徴を有する。このような二量体以上のグリコール(C)としては、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらのなかでも、溶融粘度が低いため、塩化ビニリデン系樹脂の成形加工性を大幅に改善し、かつ、添加剤が表面内側近傍に選択的に分布しやすいため、高い手触り改質効果が得られる点で、トリプロピレングリコール(以下、TPGと称す)が好ましい。
【0025】
二量体以上のグリコール(C)の含有量が0.05質量%を下回ると、二量体以上のグリコール(C)による手触り改質効果が小さすぎて、ゴワゴワした不快な手触り感が問題になる。一方、二量体以上のグリコールの含有量が0.6質量%を上回ると、二量体以上のグリコール(C)が過剰にブリードアウトし、フィルム表面がヌルヌルするだけでなく、ラップフィルムに必要とされる密着性を損なう。そのため、二量体以上のグリコールの含有量は、0.05〜0.6質量%であり、好ましくは0.1〜0.4質量%であり、より好ましくは0.2〜0.4質量%である。
【0026】
〔その他の配合物〕
塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムは、公知の食品包装材料に用いられる(A)〜(C)以外の配合物(以下、「その他の配合物」という。)、例えば可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS(メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体)等のポリマー等を含有してもよい。
【0027】
可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、グリセリン、グリセリンエステル、ワックス、流動パラフィン、及びリン酸エステル等が挙げられる。
【0028】
安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、2,5−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)ブロピオネート、及び4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等の酸化防止剤;ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、イソステアリン酸塩、オレイン酸塩、リシノール酸塩、2−エチル−ヘキシル酸塩、イソデカン酸塩、ネオデカン酸塩、及び安息香酸カルシウム等の熱安定剤が挙げられる。
【0029】
耐候性向上剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、及び2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0030】
染料又は顔料等の着色剤としては、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。
【0031】
防曇剤としては、特に限定されないが、具体的には、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコールエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0032】
抗菌剤としては、特に限定されないが、具体的には、銀系無機抗菌剤等が挙げられる。
【0033】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、カルナバワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。
【0034】
核剤としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸エステル金属塩等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のラップフィルムの厚さは、特に制限はないが、一般には5〜20μmである。
【0036】
その他の配合物の含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.1質量%である。
【0037】
本実施形態のラップフィルムは、添加剤の総含有量がより少ない態様において、その優位性が顕著となる。そのため、本実施形態のラップフィルムは、添加剤の総含有量が、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0038】
〔塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムの製造方法〕
以下、本実施形態のラップフィルムの好ましい製造方法について説明する。
ここでは、まず、塩化ビニリデン系樹脂と、セバシン酸ジブチル(A)と、エポキシ化大豆油(B)と、二量体以上のグリコール(C)と、必要に応じて種々の添加剤とを、リボンブレンダー、又はヘンシェルミキサー等で均一に混合させ、24時間熟成させて塩化ビニリデン系樹脂組成物を製造する。その後、該樹脂組成物を溶融押出し、インフレーション延伸することでラップフィルムが得られる。また、必要に応じて、該樹脂組成物に、公知の食品包装材料に用いられる可塑剤、安定剤、耐候性向上剤、染料又は顔料等の着色剤、防曇剤、抗菌剤、滑剤、核剤、ポリエステル等のオリゴマー、MBS等のポリマー等を添加することもできる。これらは製膜までのいずれの段階で添加してもよい。上述の方法により得られるラップフィルムは、食品安全性が高く、かつ、密着性、引出性、成形加工性に優れ、添加剤低減に伴う不快なフィルムの手触り感が改善された塩化ビニリデン系樹脂ラップフィルムが再現性よく且つ比較的に低コストで得ることができる。
【0039】
以下、インフレーション製膜方法の例について述べる。
図1は、ラップフィルムの製造工程の一例の概略図である。まず、溶融した上記樹脂組成物が押出機(1)により、ダイ(2)から管状に押出され、ソック(4)が形成される。ソック(4)の外側を冷水槽(6)にて冷水に接触させ、ソック(4)の内部にはソック液(5)を注入することにより、内外から冷却して固化させる。固化されたソック(4)は、第1ピンチロール(7)にて折り畳まれ、パリソン(8)が成形される。
【0040】
続いて、パリソン(8)の内側にエアを注入することにより、再度パリソン(8)は開口されて管状となる。このとき、ソック(4)内面に表面塗布したソック液(5)はパリソン(8)の開口剤としての効果を発現する。パリソン(8)は、温水により延伸に適した温度まで再加熱される。パリソン(8)の外側に付着した温水は、第2ピンチロール(9)にて搾り取られる。適温まで加熱された管状のパリソン(8)にエアを注入してバブル(10)を成形し、延伸フィルムが得られる。その後延伸フィルムは、第3ピンチロール(11)で折り畳まれ、ダブルプライフィルム(12)となる。ダブルプライフィルム(12)は、巻き取りロール(13)にて巻き取られる。さらに、このフィルムはスリットされて、1枚のフィルムになるように剥がされる。最終的にこのフィルムは紙管に巻き取られ、紙管巻きのラップフィルムが得られる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた評価方法は、以下の通りである。
【0042】
(評価方法)
(1.密着性)
ラップフィルムの出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、製膜直後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、ラップフィルム同士の密着性を評価した。
【0043】
測定は23℃、相対湿度50%RHの雰囲気中で行なった。まず底面積25cm、高さ55mm、重さ400gのアルミ製の治具を2個用意し、双方の治具の底面に底面積と同面積の濾紙を貼り付けた。双方の治具の濾紙を貼り付けた底面に皺が入らないようにラップフィルムを被せて輪ゴムで抑えて固定した。このラップフィルムを被せた2個の治具のラップフィルムを被せた側の底面を重ね合わせて、加重500gで1分間圧着した。次いで、引張圧縮試験機(島津製作所社製;オートグラフ(AG−IS))にて5mm/minの速度で双方のラップフィルム面を相互の面に垂直に引き剥がすときに必要な仕事量(単位 mJ/25cm)を測定した。
【0044】
ラップフィルムの密着性は、測定した数値をもとに、以下の4段階で評価した。
評価記号 密着仕事量(mJ/25cm) 判定
× 3.2以上 密着性が非常に高すぎ、取扱性が著しく劣る
△ 2.5以上3.2未満 密着性が高すぎ、取扱性に劣る
◎ 2.0以上2.5未満 バランスの取れた満足する密着性を有し、優
れたレベルにある
○ 1.2以上2.0未満 密着性を有し、実用レベルにある
△ 0.8以上1.2未満 僅かに密着性を有すが、実用上問題がある
× 0.8未満 密着性が非常に小さすぎ、実用不可
【0045】
(2.引出性)
密着性と同様に、出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、製膜直後の巻回ラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、巻回ラップフィルムの引出性を評価した。
【0046】
測定は23℃、相対湿度50%RHの雰囲気中で行なった。長さ約310mmで直径を巻回ラップフィルム20の紙管16内径に合わせた駆動部14と、長さ330mmの支点軸15とからなるプラスチック製フリーロールを、巻回ラップフィルム20の幅方向中央とフリーロール駆動部14の長さ方向中央とが合うように、巻回ラップフィルム20の紙管16中に装着した。引張圧縮試験機(島津製作所社製;オートグラフ(AG−IS))上部のロードセル側につり下げたハンガー17と支点軸15が平行で、ハンガー17中央の鉛直方向に巻回ラップフィルム20の幅方向中央が位置するように、巻回ラップフィルム20と一体となったフリーロールの支点軸15を、上記試験機下部18に設置した軸受け19に入れて固定した。さらに、フリーロールと一体になった巻回ラップフィルム20を、引き剥がして上記試験機上部のロードセル側につり下げたハンガー17に皺のないよう両面テープで固定した。
【0047】
次いで、引張圧縮試験機にて1000mm/分の速度で巻回ラップフィルム20を紙管16から垂直に引き剥がした。このとき、巻回ラップフィルムを紙管から引き剥がすのに必要な力の平均値をもって、引出性の測定値(単位:cN/30cm幅)とした。
【0048】
巻回ラップフィルムの引出性は、測定した数値をもとに、以下の4段階で評価した。
評価記号 引出力(cN/30cm) 判定
× 10未満 引出性が軽すぎ、実用不可
◎ 10以上70未満 非常に引出性が良く、優れたレベルにある
○ 70以上80未満 引出性が良く、実用レベルにある
△ 80以上100未満 引出性に劣り、実用上問題あり
× 100以上 引出性が非常に劣り、実用不可(途中切れ等の問題が生じる場合がある)
【0049】
(3.手触り感)
密着性と同様に、出荷後の流通、及び家庭での保管を想定し、製膜直後のラップフィルムを28℃に設定した恒温槽にて1ヶ月間保管した後、ラップフィルムの手触り感を評価した。
【0050】
評価方法は、パネリスト25人がラップのしなやかさ(手触り)に関する官能評価をし、以下の評点の合計(100点満点)を利用して行った。
評価記号 評点(点) 判定
◎ 71以上 適度なしなやかさがあり、非常に優れたレベルにある
○ 57以上71未満 しなやかさがあり、優れたレベルにある
△ 43以上57未満 しなやかさがなく、やや不快な手触りである
× 43未満 しなやかさが全くなく、非常に不快な手触りである
【0051】
(4.成形加工性)
成形加工性は、原料樹脂の溶融押出工程での押出性のことを指す。溶融押出工程での樹脂の押出圧力により、成形加工性を以下の2段階で評価した。
評価記号 樹脂押出圧力(MPa) 判定
◎ 60以上65未満 非常に安定した溶融押出ができ、品質の良いフィル
ムが得られる
○ 65以上67未満 安定した溶融押出が可能であり、問題なくフィルム
が製膜できる
【0052】
[実施例1]
重量平均分子量90,000の塩化ビニリデン系樹脂(塩化ビニリデン成分が90質量%、塩化ビニル成分が10質量%)、DBS(セバシン酸ジブチル、田岡化学工業(株))、ESO(ニューサイザー510R、日本油脂(株))、TPG(トリプロピレングリコール、旭硝子(株))をそれぞれ95.2質量%、3.2質量%、1.3質量%、及び0.3質量%の割合で混ぜたもの合計5kgを、ヘンシェルミキサーにて5分間混合させ、24時間以上熟成して塩化ビニリデン系樹脂組成物を得た。
【0053】
上記の塩化ビニリデン系樹脂組成物を溶融押出機に供給して溶融し、押出機の先端に取り付けられた環状ダイでのスリット出口での溶融樹脂温度が170℃になるように押出機の加熱条件を調節しながら、環状に10kg/hrの押出速度で押出した。これを過冷却した後、インフレーション延伸して筒状フィルムとした。この筒状フィルムをニップして扁平に折り畳んで折幅280mmの肉厚み10μmの2枚重ねのフィルムを巻取速度18m/minにて巻き取った。このフィルムを、220mmの幅にスリットし、1枚のフィルムになるように剥がしながら外径36mm、長さ230mmの紙管に20m巻き取り、厚み10μmの巻回ラップフィルムを得た。ラップフィルムの密着性、引出性、手触り感について評価した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
TPGの含有量を0.06質量%に変更し、塩化ビニリデン系樹脂を95.44質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例2の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
TPGの含有量を0.5質量%に変更し、塩化ビニリデン系樹脂を95.0質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例3の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
TPGに代えてポリプロピレングリコール(P425、ダウケミカル社)0.3質量%を用いたこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例4の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
TPGの含有量を0.8質量%に変更し、塩化ビニリデン系樹脂を94.7質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様に処理して、比較例1の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
TPGの添加を省略し、塩化ビニリデン系樹脂を95.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の処理を行い、比較例2の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
TPGの含有量を0.04質量%に変更し、塩化ビニリデン系樹脂を95.46質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様に処理して、比較例3の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
TPGの添加を省略し、DBSの含有量を4.0質量%に変更し、塩化ビニリデン系樹脂を94.7質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様に処理し、比較例4の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
TPGに代えてトリアセチン(TA、トリアセチンDRA−150、(株)ダイセル化学工業)0.3質量%を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理し、比較例5の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0062】
[比較例6]
TPGに代えて大豆油(大豆白絞油、日清オイリオグループ(株))0.3質量%を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理して、比較例6の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0063】
[比較例7]
TPGに代えてプロピレングリコール(PG、旭硝子(株))0.3質量%を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理して、比較例7の巻回ラップフィルムを得た。評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のラップフィルムは、添加剤の総含有量が比較的に低く、これにより食品安全性がより高められており、しかも、密着性、引出性、成形加工性に優れるとともに、添加剤の低減時に生じる不快なフィルムの手触り感も改善されたものなので、食品包装用、及び調理用等の用途として広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 押出機
2 ダイ
3 ダイ口
4 管状の塩化ビニリデン系共重合体組成物(ソック)
5 ソック液
6 冷水槽
7 第1ピンチロール
8 パリソン
9 第2ピンチロール
10 バブル
11 第3ピンチロール
12 ダブルプライフィルム
13 巻き取りロール
14 駆動部
15 支点軸
16 紙管
17 ハンガー
18 試験機下部
19 軸受け
20 巻回ラップフィルム
図1
図2