特許第5881598号(P5881598)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881598ABCC2遺伝子の配列又はその産物に基づいてQT延長に対する素因を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881598
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】ABCC2遺伝子の配列又はその産物に基づいてQT延長に対する素因を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160225BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20160225BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20160225BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C12N15/00 A
   G01N33/50 P
   G01N33/68
   C12Q1/68 A
   A61K31/454
   A61K45/00
   A61P9/00
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-504747(P2012-504747)
(86)(22)【出願日】2010年4月5日
(65)【公表番号】特表2012-522534(P2012-522534A)
(43)【公表日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】US2010029943
(87)【国際公開番号】WO2010117941
(87)【国際公開日】20101014
【審査請求日】2013年4月3日
(31)【優先権主張番号】61/167,139
(32)【優先日】2009年4月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507021702
【氏名又は名称】ヴァンダ ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ラヴェダン, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルピ, シモナ
(72)【発明者】
【氏名】ライカメル, ルイス
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−514731(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/124646(WO,A2)
【文献】 Biol. Pharm. Bull.,2008年,Vol.31, No.11,P.2137-2142
【文献】 Phrmacology and Therapeutics,2006年,Vol.112,P.457-473
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
A61K 31/−33/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体に投与する活性医薬成分の投薬量を決定する方法であって、
rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型を決定するステップと、
rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型がQT延長の危険性の上昇に関連するかどうかを決定するステップと、
rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型がQT延長の危険性の上昇に関連する場合に、前記活性医薬成分の投薬量を、QT延長の危険性の上昇に関連しないrs7067971遺伝子座におけるABCC2遺伝子型を有する個体に投与する前記活性医薬成分の量よりも少ない量に決定するステップと
を含み、
前記活性医薬成分がイロペリドン又は1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]エタノールである、方法。
【請求項2】
個体がQT間隔の延長の危険性の上昇を有するかどうか決定する方法であって、
rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型を決定するステップと、
rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型に基づいて、個体がQT延長の危険性の上昇を有するかどうかを決定するステップと
を含む、方法。
【請求項3】
QT延長の危険性の上昇に関連するrs7067971遺伝子座における遺伝子型がGGである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
患者が、活性医薬成分を投与されることによるQT間隔の延長の危険性を有するかどうかを決定する方法であって、
rs7067971遺伝子座における患者のABCC2遺伝子型を決定するステップを含み、
rs7067971遺伝子座における患者のABCC2遺伝子型がGGである場合、患者がQT間隔の延長の危険性を有する、方法。
【請求項5】
個体のCYP2D6遺伝子型を決定するステップをさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記活性医薬成分がイロペリドン又は1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]エタノールである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記rs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型を決定するステップが、
少なくともrs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型を決定するステップ、又は、
個体のABCC2遺伝子の発現産物を特徴づけ、特徴づけられた前記発現産物を用いてrs7067971遺伝子座における個体のABCC2遺伝子型を決定するステップ、
をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
発現産物が、mRNA、ペプチド及びタンパク質からなる群から選択される少なくとも1つの発現産物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1日当たり24mgの量が、QT延長の危険性の上昇に関連しないrs7067971遺伝子座におけるABCC2遺伝子型を有する個体に投与する前記活性医薬成分の量である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、これによって本明細書に組み込まれる2009年4月6日出願の同時係属の米国特許仮出願第61/167,139号の利益を主張する。
【0002】
[発明の背景]
[技術分野]
本発明は、概して、QT延長に対する個体の素因を予測する方法、より具体的には、個体のABCC2(ATP−binding cassette,sub−family C, member 2)遺伝子の配列に基づいてQT延長に対する素因を予測する方法に関する。
【0003】
[背景]
心電図のQT間隔の延長(Q波の始めからT波の終わりまでの間の時間)は、QT延長症候群(LQTS)と称される。LQTSは遺伝要素を含む可能性がある。一部のLQTS患者では、QT延長は慢性的な状態になり得る。一部の人では、LQTSはQT間隔を延長する活性医薬成分の投与によって誘発され得る。いくつもの化合物が、QT間隔を延長する能力があると考えられている。これらの化合物としては、アミオダロン、三酸化ヒ素、ベプリジル、クロロキン、クロルプロマジン、シサプリド、クラリスロマイシン、ジソピラミド、ドフェチリド、ドンペリドン、ドロペリドール、エリスロマイシン、ハロファントリン、ハロペリドール、イブチリド、イロペリドン、レボメタジル、メソリダジン、メサドン、ペンタミジン、ピモジド、プロカインアミド、キニジン、ソタロール、スパルフロキサシン及びチオリダジンが挙げられる。
【0004】
他の化合物は、QT間隔を延長する能力がある疑いがあるが、そのような延長は決定的に確立されていない。これらの化合物としては、アルフゾシン、アマンタジン、アジスロマイシン、抱水クロラール、クロザピン、ドラセトロン、フェルバメート、フレカイニド、ホスカルネット、ホスフェニトイン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、グラニセトロン、インダパミド、イスラジピン、レボフロキサシン、リチウム、モエキシプリル、モキシフロキサシン、ニカルジピン、オクトレオチド、オフロキサシン、オンダンセトロン、クエチアピン、ラノラジン、リスペリドン、ロキシスロマイシン、タクロリムス、タモキシフェン、テリスロマイシン、チザニジン、バルデナフィル、ベンラファキシン、ボリコナゾール及びジプラシドンが挙げられる。
【0005】
LQTSを罹患する危険性がある個体は、さらに他の化合物について、QT間隔を延長する可能性があり得るので、これを使用しないよう忠告される。これらの化合物としては、アルブテロール、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、アトモキセチン、クロロキン、シプロフロキサシン、シタロプラム、クロミプラミン、コカイン、デシプラミン、デクスメチルフェニデート、ドブタミン、ド−パミン、ドキセピン、エフェドリン、エピネフリン、フェンフルラミン、フルコナゾール、フルオキセチン、ガランタミン、イミプラミン、イソプロテレノール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、レバルブテロール、メタプロテレノール、メチルフェニデート、メキシレチン、ミドドリン、ノルエピネフリン、ノルトリプチリン、パロキセチン、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、リトドリン、サルメテロール、セルトラリン、シブトラミン、ソリフェナシン、テルブタリン、トルテロジン、トリメトプリム−サルファ及びトリミプラミンが挙げられる。
【0006】
Taniguchiら及びvan Kuijckらは、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)により、ヒトMRP2/CMOAT遺伝子を10q24に位置づけた。Taniguchiら、A human canalicular multispecific organic anion transporter(cMOAT) gene is overexpressed in cisplatin−resistant human cancer cell lines with decreased drug accumulation、Cancer Res.56:4124〜4129頁、1996.PubMed ID:8797578;van Kuijckら、Assignment of the canalicular multispecific organic anion transporter gene(CMOAT)to human chromosome 10q24 and mouse chromosome 19D2 by fluorescent in situ hybridization、Cytogenet.Cell Genet.77:285〜287頁、1997.PubMed ID:9284939。Tohらは、ヒトMRP2/CMOAT遺伝子のエクソン/イントロン構造を決定した。彼らは、ヒト遺伝子が、32のエクソンを含有し、200kb以上のゲノムDNAにわたることを発見した。Tohら、Genomic structure of the canalicular multispecific organic anion transporter gene(MRP2/cMOAT) and mutations in the ATP−binding−cassette region in Dubin−Johnson syndrome、Am.J.Hum.Genet.64:739〜746頁、1999.PubMed ID:10053008。
【0007】
Eversらは、cMOATを多剤耐性関連タンパク質2(MRP2)と称し、MDCK細胞において、極性化した腎臓におけるその薬物排出活性を試験した。MRP1と対照的に、cMOATの大部分は極性化していない細胞において細胞内部に見られ、このことはcMOATが細胞膜ルーティングのために細胞の極性化を必要とすることを示唆している。Eversらは、腎臓の上皮MDCK細胞を単層で培養した場合、cMOATは頂端細胞膜に局在化することを見出した。彼らの試験により、これまで有機アニオントランスポーターによって輸送されることが示されていない基質を含めた有機アニオンの輸送がcMOATによって引き起こされることが実証された。MRP1を遮断することが公知である化合物によって、輸送は非効率的にしか阻害されなかった。彼らは、cMOATによって抗癌薬ビンブラスチンの細胞単層の頂端側への輸送が引き起こされたことも示した。彼らは、cMOATは哺乳動物細胞における薬物耐性に関与する可能性がある5−プライム−アデノシン三リン酸結合カセットトランスポーターであると結論付けた。Eversら、Drug export activity of the human canalicular multispecofic organic anion transporter in polarized kidney MDCK cells expressing cMOAT(MRP2)cDNA、J.Clin.Invest.101:1310〜1319頁、1998.PubMed ID:9525973。
【0008】
[発明の概要]
本発明は、ABCC2遺伝子における遺伝子多型とQT間隔の延長に対する素因との間の関連性について記載し、そのような素因を診断するため、及びQT間隔を延長する化合物を、そのような素因を有する個体に投与するための関連する方法を提供する。
【0009】
第1の本発明の態様は、個体に、個体のQT間隔を延長する能力がある化合物を投与する方法であって、個体のABCC2遺伝子配列の少なくとも一部を決定するステップと、個体のABCC2配列の一部分がQT延長の危険性の上昇に関連する場合に、個体に、QT延長の危険性の上昇に関連しないABCC2遺伝子配列を有する個体に投与するよりも少ない量の該化合物を投与するステップ、又は個体を、代わりにQT延長に関連することが分かっていない違う化合物を用いて治療することを選ぶステップとを含む方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、個体がQT間隔の延長の素因を持つか否かを決定する方法であって、個体のABCC2遺伝子配列の少なくとも一部を決定するステップを含む方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、QT間隔を延長する能力がある化合物を、QT延長症候群(LQTS)に罹患している個体に投与する方法であって、個体のABCC2遺伝子配列の少なくとも一部を決定するステップと、個体に、個体のABCC2遺伝子配列に基づく量の化合物を投与するステップとを含む方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、個体に、個体のQT間隔を延長する能力がある化合物を投与する方法であって、個体のABCC2遺伝子の発現産物を特徴づけるステップと、特徴づけられた発現産物がQT延長の危険性の上昇に関連する場合に、個体に、QT延長の危険性の上昇に関連しない発現産物を有する個体に投与するよりも少ない量の該化合物を投与するステップとを含む方法を提供する。ABCC2遺伝子の発現産物として、例えば、mRNA及びタンパク質の任意のアイソフォームを含めたmRNA及びタンパク質を挙げることができる。
【0013】
本発明の第5の態様は、個体がQT間隔の延長の素因を持つかどうかを決定する方法であって、個体のABCC2遺伝子の発現産物を特徴づけるステップを含む方法を提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、QT間隔を延長する能力がある化合物を、QT延長症候群(LQTS)に罹患している個体に投与する方法であって、個体のABCC2遺伝子の発現産物を特徴づけるステップと、特徴づけられた発現産物に基づく化合物の量を個体に投与するステップとを含む方法を提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、化合物に、個体におけるQT間隔を延長する能力があるかどうかを決定する方法であって、個体のABCC2遺伝子の発現産物を測定するステップと、個体に、ある量の該化合物を投与するステップと、個体のABCC2遺伝子の発現産物を再測定するステップと、個体のABCC2遺伝子の発現産物の測定値における差異に基づいて、該化合物に個体のQT間隔を延長する能力があるかどうかを決定するステップとを含む方法を提供する。
【0016】
本発明の第8の態様は、化合物に、個体におけるQT間隔を延長する能力があるかどうかを決定する方法であって、QT間隔の延長の素因に関連するABCC2遺伝子型を有する第1の試験生物体及びQT間隔の延長の素因に関連しないABCC2遺伝子型を有する第2の生物体を含む複数の試験生物体のそれぞれのQT間隔を測定するステップと、ある量の化合物を、複数の試験生物体のそれぞれに投与するステップと、少なくとも第1の試験生物体のQT間隔を再測定するステップと、再測定されたQT間隔が、測定されたQT間隔よりも長い場合に、該化合物に個体におけるQT間隔を延長する能力があると決定するステップとを含む方法を提供する。試験生物体としては、例えば、ヒト、動物モデル、及び/又は細胞株を挙げることができる。
【0017】
[発明の詳細な説明]
上に示したように、本発明は、個体のABCC2(ATP−binding cassette,sub−family C, member 2)遺伝子の配列に基づいて個体のQT延長に対する素因を予測する方法を提供する。
【0018】
ABCC2遺伝子内の少なくとも1つの一塩基多型(SNP)が、薬物誘発QT延長に対する素因と有意な相関を有することが見出されている。以下の表1に、イロペリドンを投与した後のQT延長に関連するSNP及び遺伝子型を示す。
【0019】
【表1】
【0020】
rs7067971遺伝子座においてGGである遺伝子型により、QT延長に対する素因が最も正確に予測されることが見出された。この遺伝子型は、QT延長に対する素因に関連する全ての遺伝子型の中に含まれる。したがって、rs7067971遺伝子座においてGGである遺伝子型を有する個体を、QT間隔を延長する能力がある化合物を投与した後にQT延長する素因を持つと考えることができる。
【0021】
QT間隔は、心拍数の変化とともに変化するので、QT間隔は多くの場合補正QT(QTc)間隔として測定される。QTcを算出するために、例えば、とりわけ、Fridericia式(QTcF)、Bazett式(QTcB)及びRautaharju式(QTp)を含めた式をいくつでも使用することができる。本明細書に記載の試験では、Fridericia式を使用してQTを算出した。しかし、本発明は、QTc又は補正されていないQTを算出するために任意のそのような式又は方法を使用することを含む。
【0022】
上記のように、多くの化合物が、LQTSを罹患していない個体を含めた一部の個体においてQT延長を誘発する能力があることが分かっている、又はQT延長を誘発する能力がある疑いがある。そのような化合物の1つはイロペリドンである。イロペリドンは、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,364,866号、同第5,658,911号及び同第6,140,345号に開示されている。イロペリドンの代謝産物も同様にQT間隔を延長する能力がある可能性がある。イロペリドンの代謝産物、例えば、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]エタノールが、これも同様に参照により本明細書に組み込まれる、国際出願公開第WO03020707号に記載されている。
【0023】
他のイロペリドン代謝産物としては、1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシフェニル]エタノン;1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−メトキシフェニル]−2−ヒドロキシエタノン;4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−3−ヒドロキシ−α−メチルベンゼンメタノール;4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシ−α−メチルベンゼンメタノール;1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2−ヒドロキシ−5−メトキシフェニル]エタノン;及び1−[4−[3−[4−(6−フルオロ−1,2−ベンゾイソオキサゾール−3−イル)−1−ピペリジニル]プロポキシ]−2,5−ジヒドロキシフェニル]エタノンが挙げられる。参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,364,866号並びに国際特許出願公開第WO9309276号及び同第WO9511680号を参照されたい。
【0024】
上記のSNP遺伝子座における遺伝子型を使用して、高程度の確実性で個体のQT延長に対する素因を予測することが可能である。以下の表2に、174個体のそれぞれを、rs7067971遺伝子座で遺伝子型決定し、2週間、1日2回、1日当たり24mgのイロペリドンを経口投与した後にQT間隔を測定した試験の結果を示す。
【0025】
【表2】
【0026】
表2に見られるように、SNP_A−2068049、rs7067971遺伝子座における個体のABCC2配列により、イロペリドンを投与した後に個体がQT延長を生じるかどうかが高度に予測可能である。例えば、QTc間隔における変化(ベースラインから第2週の終わりまでの間)について5ミリ秒超の最低の閾値を使用して(正常なQTc間隔は、男性では0.30秒〜0.44秒の間であり、女性では0.30秒〜0.45秒の間である)、GG遺伝子型を有する13個体でQT延長を生じ(SNP_A−2068049、rs7067971に対する遺伝子型がGGである場合に検定陽性とみなす)、そのような個体でQT延長が生じなかった個体はなかった。得られた感度(個体でQT延長が生じた場合に、個体がQT延長に対する素因に関連するSNP遺伝子型を有する確率)0.11、特異度(個体でQT延長が生じなかった場合に、個体がQT延長に対する素因に関連するSNP遺伝子型を有さない確率)1.0、陰性適中率(個体がQT延長に対する素因に関連するSNP遺伝子型を有さない場合に、個体がQT延長を生じない確率)0.39、及び陽性適中率(個体がQT延長に対する素因に関連するSNP遺伝子型有する場合に、個体でQT延長が生じる確率)1.0は、GG遺伝子型を有する個体がQT延長を生じる可能性が高いことを卓越した正確度で予測するのを可能にする。
【0027】
高い閾値(すなわち、QTが15ミリ秒超及び30ミリ秒超)を使用することにより、陰性適中率が著しく上昇した(それぞれ0.63及び0.87)。陽性適中率が、QT5ミリ秒超に対して1.0からQT30ミリ秒に対して0.46までに関連して減少したことにより、追加の因子がより重篤なQT延長に影響を与えていることが示唆されている。
【0028】
表2のデータに示されるように、上記のSNP遺伝子座における個体のABCC2配列を使用して、個体が、QT間隔を延長する能力がある化合物を投与されることによるQT延長の素因を持つかどうかを予測することができる。すなわち、rs7067971遺伝子座においてGGの遺伝子型を有する個体について、QT間隔を延長する能力がある化合物を投与した後にQT間隔の延長が生じる(すなわち、少なくとも5ミリ秒のQT間隔の変化)ことを確実に予測することができる。同様に、rs7067971遺伝子座においてGG以外の遺伝子型を有する個体について、QT間隔を延長する能力がある化合物を投与した後に重篤なQT延長(すなわち、15ミリ秒超のQT間隔の変化)が生じないことを確実に予測することができる。
【0029】
そのような予測を行うことができることを、個体を特定の化合物を用いて治療するかどうかの判断において、及び/又は個体に適した投薬量の決定において使用することができる。例えば、QT延長を生じると予測された個体を、QT延長を引き起こすことが分かってもいない、又は疑われてもいない代替化合物を用いて治療することができる、或いは、QT延長を引き起こす能力がある化合物を、QT延長を生じると予測されなかった個体に投与するよりも低用量で投与することができる。
【0030】
本発明は、上記の1つ又は複数の化合物に加えて、LQTSの治療において有用な別の化合物を投与することも含む。LQTSを治療すること、及び/又はLQTSから生じる心臓の事象を予防することにおいて有用な化合物としては、例えば、プロプラノロール、ナドロール、アテノロール、メトプロロールなどのベータ遮断薬が挙げられる。
【0031】
本発明は、上記の1つ又は複数のSNP遺伝子座と、1つ又は複数の追加の遺伝子又は遺伝子座における個体の遺伝子型又は遺伝子配列との組合せに基づいて、個体のQT延長に対する素因を予測することも含む。例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願公開第WO2006039663号パンフレットに、個体を、個体のCYP2D6遺伝子型に基づいて、QT延長を誘発する能力がある化合物を用いて治療する方法が記載されている。LQTSに関連するものを含めた他の遺伝子型及び/又は遺伝子配列も同様に、上記のSNP遺伝子座と組み合わせて使用することができる。本発明は、ABCC2遺伝子内の1つ又は複数のSNP遺伝子型を決定することの代わりに、又はそれに加えて、ABCC2遺伝子の発現産物を特徴づけることを含むことも理解されるべきである。例えば、ABCC2遺伝子から転写されたmRNA鎖の配列を決定することにより、ABCC2遺伝子自体の配列を決定すること、及び、上記の通り、ABCC2遺伝子配列がQT延長に対する素因に関連するかどうかを決定することが可能になる。
【0032】
同様に、上記のmRNA鎖から翻訳された、ABCC2酵素を含めた機能性ペプチド又はタンパク質を正確に特徴づけることにより、ABCC2遺伝子自体の配列を決定すること、及び、上記の通り、ABCC2遺伝子配列がQT延長に対する素因に関連するかどうかを決定することが可能になる。さらに、本発明は、化合物に、個体におけるQT間隔を延長する能力があるかどうかを決定することを含む。これは、例えば、QT延長に対する素因に関連するABCC2遺伝子型を有することが分かっている試験生物体(例えば、ヒト、動物モデル、細胞株)において、ある量の研究中の化合物を投与した後にQT間隔における変化を測定することによって行うことができる。
【0033】
QT延長に対する素因に関連しないABCC2遺伝子型を有することが分かっている試験生物体にも化合物を投与することが好ましい。
【0034】
前述した本発明の種々の態様の説明は、例示及び説明のために提示し、網羅的又は本発明を開示したものと全く同じ形態に制限するものではなく、明らかに、改変及び変形が可能である。当業者に明らかであろう改変及び変形は、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内に含まれるものとする。