特許第5881606号(P5881606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881606
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】脊髄損傷治療用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20160225BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/42 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160225BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160225BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160225BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61K47/38
   A61K47/36
   A61K47/32
   A61K47/22
   A61K47/28
   A61K9/70
   A61K9/00
   A61K47/34
   A61K47/02
   A61K47/10
   A61K47/42
   A61K47/12
   A61P43/00 111
   A61P25/00
   A61P43/00 105
   A61P7/00
【請求項の数】18
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-527762(P2012-527762)
(86)(22)【出願日】2011年8月4日
(86)【国際出願番号】JP2011067838
(87)【国際公開番号】WO2012018069
(87)【国際公開日】20120209
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2010-177255(P2010-177255)
(32)【優先日】2010年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】大日本住友製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176485
【弁理士】
【氏名又は名称】菊地 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】前田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】岸野 晶祥
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅也
(72)【発明者】
【氏名】張 亮
【審査官】 牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/009756(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/053678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/105088(WO,A1)
【文献】 特開2009−114085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00− 31/80
A61K 47/00− 47/48
A61K 9/00− 9/72
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、および難水溶性物質を含有する生体適合性の疎水性高分子を担体としたシート状またはロッド状の固形の徐放性製剤であって、難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、サッカリンおよび/またはコレステロールである徐放性製剤。
【化1】
(式中、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表し、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表す。)
【請求項2】
難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはコレステロールである請求項1に記載の徐放性製剤。
【請求項3】
固形の徐放性製剤の形状が脊髄の損傷部位近傍または脊髄腔内に留置可能な形状である請求項1または2に記載の徐放性製剤。
【請求項4】
生体適合性の疎水性高分子がシリコーンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項5】
固形の徐放性製剤の形状がシート状であって、シートの厚さが0.1〜1.5mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項6】
難水溶性物質の重量が製剤重量の3〜35%である請求項1〜5のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項7】
製剤重量の55%以上がシリコーンである請求項1〜6のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項8】
さらに水溶性添加剤を含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項9】
水溶性添加剤が塩化ナトリウム、グルコース、マンニトール、ラクトース、グリシン、コール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウムおよび/またはデスオキシコール酸ナトリウムである請求項8に記載の徐放性製剤。
【請求項10】
水溶性添加剤が塩化ナトリウムおよび/またはデスオキシコール酸ナトリウムである請求項8に記載の徐放性製剤。
【請求項11】
難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであり、水溶性添加剤が塩化ナトリウムである請求項10に記載の徐放性製剤。
【請求項12】
難水溶性物質がコレステロールであり、水溶性添加剤がデスオキシコール酸ナトリウムである請求項10に記載の徐放性製剤。
【請求項13】
難水溶性物質がコレステロールであり、水溶性添加剤が塩化ナトリウムおよびデスオキシコール酸ナトリウムである請求項10に記載の徐放性製剤。
【請求項14】
式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩と低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、サッカリンまたはコレステロールの重量の総和、さらに水溶性添加剤を含有する場合は水溶性添加剤を加えた重量の総和が製剤重量の10〜40%であり、かつ式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩と水溶性添加剤の重量の総和が製剤重量の35%を超えない請求項1〜13のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項15】
実質的に、式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、難水溶性物質、適宜添加される水溶性添加剤、および担体としての生体適合性の疎水性高分子からなる請求項1〜14のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項16】
式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩を製剤重量1mgあたり3〜350μg含有する請求項1〜15のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項17】
固形の徐放性製剤がマトリックス型製剤である請求項1〜16のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【請求項18】
式(1)で表される化合物のRおよびRがカルボキシル基であり、RおよびRが水酸基である請求項1〜17のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セマフォリン3A阻害活性を有する後記式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩を有効成分とする脊髄損傷の局所治療剤を提供する。すなわち、本発明は、脊髄損傷部位近傍への投与に適した生体適合性高分子を担体とする固形の放出制御製剤であって、有効成分であるセマフォリン3A阻害剤を脊髄損傷治療に必要とされる長時間にわたって損傷部位へ効率的に送達する。具体的には、損傷部位近傍の硬膜下へ投与することにより神経再生に必要な約1ヶ月にわたって損傷部位へ効率的に有効成分を送達し、効果を発揮する。
【背景技術】
【0002】
神経細胞は生体において分裂能を持っていない特殊な組織である。そのため一旦傷害を受けると長期にわたって神経機能不全が続く。特に脳や脊髄といった中枢神経系では、傷害を受けた神経線維は、ほとんど再生しないとされている。その原因として、中枢神経系には神経の伸長を阻止する物質が存在していると考えられ、実際に神経再生阻害因子としてNogo、MAGなどが発見された。またコンドロイチン硫酸プロテオグリカンも同様の作用を持つことが見出された。また、セマフォリンもこのような神経伸長阻害因子の一つである。
セマフォリンは、神経成長円錐を退縮させ軸索の伸長を抑制する因子として同定された内因性のタンパク質であり、これまでに約20種の分子種が知られている。この中で最も良く研究されているのがセマフォリン3A(非特許文献1および2を参照)であり、インビトロで強い神経突起伸長抑制活性、成長円錐退縮活性を有していることが知られている。この蛋白は10pMという低濃度で短時間のうちに培養神経細胞の成長円錐退縮を誘発する。このセマフォリン3Aの働きを阻害する化合物(セマフォリン阻害剤)として、一連のキサントン化合物が、セマフォリン阻害活性を有し、神経再生促進作用を有することが知られている(特許文献1及び2を参照)。
【0003】
特許文献1および2には、後記式(1)の化合物に代表されるキサントン化合物類と、その製造方法やセマフォリン阻害作用等について開示されている。しかしながら、その化合物を用いた製剤に関しては、特許文献1では一般的な製剤に関する記載にとどまり、また特許文献2でも実施例4〜7にて点眼剤および眼軟膏剤についての記載があるのみで、後述の式(1)の化合物による脊髄損傷の治療に適した具体的製剤の検討は開示も示唆もなかった。
【0004】
中枢神経変性疾患である脊髄損傷の場合でも、脊髄内に含まれる中枢神経線維が傷害され、多くの場合神経機能不全が大きく回復することはない。上記の神経伸長阻害因子の発見後、これら因子の働きを阻害することによって、脊髄損傷を治療しようとする研究が多くなされた。金子らは、セマフォリン3Aが脊髄損傷後の神経組織に多く発現していることを見出し、セマフォリン3Aが脊髄神経の再生を阻害していると考えた。そこで脊髄損傷ラットを作製し、髄腔内に上記セマフォリン阻害剤を持続的に投与し、運動機能の変化を調べた。その結果、セマフォリン阻害剤投与ラットでは、脊髄内の神経線維の再伸長が見られ、これに起因した運動機能回復も確かめられた。この実験結果により、セマフォリン阻害剤が脊髄損傷の有効な治療薬となることが示唆された(例えば、非特許文献3を参照)。
【0005】
脊髄損傷における神経伸長阻害因子の発現は長期間にわたると考えられる。従って、薬剤によりこれら因子の働きを抑制し、神経線維の伸長を促すためには、長期間にわたる薬剤投与が必要とされる。また、脊髄は脳と同様に、血液からの物質移行に関しては、脳血液関門により高度に選択的であるため、効率よく脊髄に化合物を作用させるためには、髄腔内投与を行うのが一般的である。
従来、脊髄腔内にセマフォリン阻害剤を持続的に投与するには、頻回の脊髄腔内への注射的投与か、あるいはカテーテルの先端を脊髄腔内に留置しセマフォリン阻害剤の水溶液を持続注入することによって行っているが、これらの投与法は感染や神経線維を損傷する恐れがあり、患者にとって心身ともに負担の大きいものである。
これらを解決する手段として、セマフォリン阻害剤を徐放製剤化し局所投与することにより、投与回数の削減、薬効発現に必要な局所濃度の持続、副作用の軽減が期待される。
【0006】
体内埋め込み型の徐放性製剤としては、高分子物質を薬物の担体として利用する技術が中心となっており、親水性高分子のコラーゲンを担体に用いたタンパク性薬物の徐放について報告されている(たとえば、非特許文献4を参照)。コラーゲンは生体適合性に優れタンパクのような水溶性高分子の徐放化に適した担体であるが、放出期間はタンパクの場合で1週間程度にとどまる。分子量が小さい水溶性低分子薬物ではさらに放出速度が速くなることから長期間の徐放化には適さない。
【0007】
長期間の徐放化を可能にするには、コラーゲンや多糖類のような親水性高分子ではなく、疎水性高分子を担体にするのが有効であり、生体適合性に優れた疎水性高分子の代表的なものとしてシリコーンがあげられる。
ノルプラント(登録商標)は、円柱状のシリコーン製容器の中に有効成分としてレボノルゲストレルの粉末が封入されたカプセル型の製剤であり、5年間にわたって生体内でレボノルゲストレルを放出するという特徴を有している。また、マトリックス型製剤の例としては、有効成分のエストラジオールがシリコーン中に分散した形態であるコンプドーズ(登録商標)が挙げられる(例えば、特許文献3を参照)。
これらノルプラントおよびコンプドーズの有効成分はいずれも脂溶性薬物であり、疎水性高分子のシリコーン中に溶解し拡散することが可能である。これより、製剤表面の薬物が周囲の組織への拡散によって放出されると、製剤表面の脂溶性薬物濃度が減少することから、製剤内部の高濃度領域から低濃度領域である製剤表面への拡散による薬物の移動が起こり、持続的放出が可能となる。
【0008】
一方、本発明の有効成分である式(1)で表される化合物のような水溶性の化合物では疎水性高分子担体にほとんど溶解せず、自律的に拡散放出され得ないことから、脂溶性薬物とは全く異なる放出機構が必要となってくる。
一般に水溶性薬物を疎水性高分子担体から放出させる方法としては、リザーバー型製剤で細孔から放出させるものが挙げられる。他にも、担体中に薬物が分散したタイプもあり、ここではまず初めに表面に存在する薬物粒子が周囲の組織中の水分により溶け出し、次いでこれに接する薬物粒子が溶け出す、といった現象の繰り返しにより連続した水のチャンネルを形成し、チャンネル内を拡散させることにより薬物を放出させている。このとき、製剤内部で生じる浸透圧の差によりクラッキングが生じることによってもチャンネル形成が促進され、さらに膨潤による押出し効果によって放出が促進される。このため、放出を持続させるには担体中の粒子が近接していることや製剤内部で浸透圧の差を発生させることが必要であり、一定量以上の水溶性薬物または水溶性の添加剤を含有させる必要があることを特徴とする。このような例として、アルブミンの添加によりシリコーンからの薬物放出を制御する方法が報告されている(特許文献4を参照)。
【0009】
しかし、このような水溶性薬物の放出機構による放出制御は極めて難しく、一般的に初期放出速度が著しく大きいバースト的放出を生じ、その後は経時的に放出量が低下する一次放出のプロファイルとなることから、長期間の安定した持続放出は困難である。
初期放出速度が大きいことは疾患と薬物との関係によっては有効な場合もあるが、初期の薬物濃度の急上昇による副作用の発現や、薬物放出量がその後経時的に低下するため使いにくい、といった問題点がある。特に製剤の表面積が大きいほど初期放出速度が高まることから、重量あたりの表面積が大きくなる小型の製剤や厚みの薄いシート状の製剤では初期バーストを起こして放出制御することができなくなる。これより、長期持続型製剤として目的に応じた小型化や厚みを薄くすることが困難である。
疎水性高分子担体から水溶性薬物を一定速度で持続的に放出する技術として、水溶性薬物を含有する層の周囲のみを、水を通さず内層の膨潤を制御し得る外層で被覆した柱状製剤が開示されているが、この技術は外層被覆によりサイズが大きくなり、製剤の小型化や薄いフィルム状に製剤化することができないことがデメリットであり(特許文献5を参照)、また、外層に被覆されていない製剤両端の断面のみから薬物が放出されることから、断面近傍に高濃度の薬物が分布することになり、患部に均一に薬物を送達させようとする場合には適さない。
薬剤持続的放出性包帯材も報告されており(特許文献6を参照)、シリコーンからの薬物放出の調整成分として親水性成分が用いられている。これは親水性成分によって製剤内部が高浸透圧状態になり、製剤の膨張と、それに続くシリコーンポリマーの収縮によって薬物を放出させるというメカニズムである。このため、周囲に水が存在する環境下では製剤が膨張し大幅な体積変化を生じることから、生体内への適用においては周囲組織を圧迫する等の障害が予想され、実用上不適である。しかも放出速度は速く、放出期間は数時間から数日程度に限られ長期間の徐放化には適さない。また同報告においては、親水性成分が液体であるのが好適とされ、最も好適な親水性成分としてグリセロールの記載があり、この他にも液状ポリエチレングリコール等液体成分の例示があるが、これらはシリコーンの成形および硬化を阻害し、後述する本発明の固形シリコーン製剤に含有させることは不適である。
さらには脂溶性薬物用の徐放性製剤も報告されており(特許文献7を参照)、同報告においては、シリコーンなどの水不透過性の生体適合性素材に水溶性物質が分散した製剤が開示されている。
【0010】
以上のように、セマフォリン3A阻害による脊髄損傷治療剤として臨床応用を実用化するには適したデリバリー技術が必須であるが、これまで式(1)で表される化合物の局所投与に適した実用的な徐放性製剤は見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第02/09756号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/053678号パンフレット
【特許文献3】特開昭55−45694号公報
【特許文献4】特開昭62-174007号公報
【特許文献5】特開平7-187994号公報
【特許文献6】特開平3−151322号
【特許文献7】国際公開第00/15199号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cell,Volume75,p217,1993年
【非特許文献2】Cell,Volume75,p1389,1993年
【非特許文献3】Nature Medicine,Volume12,p1380,2006年
【非特許文献4】Advanced Drug Delivery Reviews,Volume31,p24、1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、セマフォリンの阻害剤を有効成分として含有する脊髄損傷の局所治療に適した有効で実用的な徐放性製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、セマフォリン阻害剤である式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩が脊髄損傷治療に十分に効果を発揮するには、神経再生に要する長期間にわたって組織中のセマフォリン3Aを阻害すべく有効濃度を維持することが必要であると考え、鋭意検討した結果、疎水性高分子を担体とし、添加剤として難水溶性物質である低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、コレステロールなどを用いた製剤とすることにより、式(1)の化合物が2週間以上の長期間の放出制御を達成することができ、神経再生において有効性を示すことが可能であることを見出した。また、局所製剤として物理的圧迫による神経への障害を及ぼさずに投与可能な形状を工夫することで脊髄損傷治療への臨床応用を可能とする実用的な治療剤を得ることに成功し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下のものに関する。
項1.下記式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、および難水溶性物質を含有する生体適合性の疎水性高分子を担体としたシート状またはロッド状の固形の徐放性製剤であって、難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、サッカリンおよび/またはコレステロールである徐放性製剤。
【化1】
(式中、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表し、Rは水素原子またはカルボキシル基を表し、Rは水素原子または水酸基を表す。)
【0016】
項2.難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ミリスチン酸、サッカリンおよび/またはコレステロールである項1に記載の徐放性製剤。
項3.難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはコレステロールである項1に記載の徐放性製剤。
【0017】
項4.固形の徐放性製剤の形状が脊髄の損傷部位近傍または脊髄腔内に留置可能な形状である項1〜3のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
項5.生体適合性の疎水性高分子がシリコーンである項1〜4のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0018】
項6.固形の徐放性製剤の形状がシート状であって、シートの厚さが0.1〜1.5mmである項1〜5のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0019】
項7.難水溶性物質の重量が製剤重量の3〜35%である項1〜6のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0020】
項8.製剤重量の55%以上がシリコーンである項1〜7のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0021】
項9.さらに水溶性添加剤を含有する項1〜8のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0022】
項10.水溶性添加剤が塩化ナトリウム、グルコース、マンニトール、ラクトース、グリシン、コール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウムおよび/またはデスオキシコール酸ナトリウムである項9に記載の徐放性製剤。
項11.水溶性添加剤が塩化ナトリウムおよび/またはデスオキシコール酸ナトリウムである項9に記載の徐放性製剤。
【0023】
項12.難水溶性物質が低置換度ヒドロキシプロピルセルロースであり、水溶性添加剤が塩化ナトリウムである項11に記載の徐放性製剤。
【0024】
項13.難水溶性物質がコレステロールであり、水溶性添加剤がデスオキシコール酸ナトリウムである項11に記載の徐放性製剤。
【0025】
項14.難水溶性物質がコレステロールであり、水溶性添加剤が塩化ナトリウムおよびデスオキシコール酸ナトリウムである項11に記載の徐放性製剤。
【0026】
項15.式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩と低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、サッカリンまたはコレステロールの重量の総和、さらに水溶性添加剤を含有する場合は水溶性添加剤を加えた重量の総和が製剤重量の10〜40%であり、かつ式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩と水溶性添加剤の重量の総和が製剤重量の35%を超えない項1〜14のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0027】
項16.実質的に、式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、難水溶性物質、適宜添加される水溶性添加剤、および担体としての生体適合性の疎水性高分子からなる項1〜15のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0028】
項17.式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩を製剤重量1mgあたり3〜350μg含有する項1〜16のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0029】
項18.固形の徐放性製剤がマトリックス型製剤である項1〜17のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0030】
項19.式(1)で表される化合物のRおよびRがカルボキシル基であり、RおよびRが水酸基である項1〜18のいずれか一項に記載の徐放性製剤。
【0031】
項20.項1〜19のいずれか一項に記載の徐放性製剤を用いた、脊髄損傷の治療方法。
【0032】
項21.他の脊髄損傷の治療方法を併用した、項20の治療方法。
【0033】
項22.更にリハビリテーションを併用した、項20または21の治療方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】試験例1の結果を示す。
図2】試験例2の結果を示す。
図3】試験例3の結果を示す。
図4】試験例4の結果を示す。
図5】試験例5の結果を示す。
図6】試験例6の結果を示す。
図7】試験例7の結果を示す。
図8】試験例8の結果を示す。
図9】試験例9の結果を示す。
図10】試験例10の結果を示す。
図11】試験例11の結果を示す。
図12】試験例12の結果を示す。
図13】試験例13の結果を示す。
図14】試験例14の結果を示す。
図15】試験例15の結果を示す。
図16】試験例16の結果を示す。
図17】試験例17における切開したラット脊髄のT8部の硬膜を示す。
図18】試験例17におけるシートを挿入した脊髄を示す。
図19】試験例17における試験終了時の脊髄組織(プラセボ)を示す。
図20】試験例17における試験終了時の脊髄組織(製剤5投与)を示す。
図21】試験例17における試験終了時の脊髄断面の顕微鏡写真(製剤5投与)を示す。
図22】試験例18の結果を示す。
図23】試験例19における脊髄の免疫染色を写真で示す。
図24】試験例19の結果を示す。
図25】試験例19における免疫染色を定量化した結果を示す。
図26】試験例19における脊髄の電子顕微鏡写真を示す。
図27】試験例20における脊髄の免疫染色を写真で示す。
図28】試験例20における免疫染色を定量化した結果を示す。
図29】試験例21の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明で用いる式(1)で表される化合物は水溶性薬物であり、セマフォリン3A阻害活性を有していることが知られている。後記実施例で用いるビナキサントン(別名:SPF−3059−5、下式参照)を含む式(1)で表される化合物は、特許文献1(第42頁〜第47頁、実施例1)および特開2008−13530号公報(第26頁〜第27頁、実施例3)を参考にして製造することができる。
【化2】
【0036】
本発明で用いる難水溶性物質とは、常温で固体であり、生体内環境であるpHが中性、37℃において、水に溶けにくいもので、医学的・薬学的に許容される物質である。難水溶性物質として具体的には、経口剤において崩壊剤として使用される膨潤性ポリマーである低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウムもしくはヒドロキシプロピルスターチ、常温において固体の脂肪酸であるミリスチン酸、ラウリン酸もしくはパルミチン酸、サッカリンまたはコレステロールを意味し、これらの成分のいずれかまたはそれらの混合物も含まれる意図である。ここで低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、ヒドロキシプロポキシル基を5〜16%含有する。難水溶性物質として、好ましくは、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分α化デンプン、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、ミリスチン酸、サッカリンおよび/またはコレステロールが挙げられ、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースおよび/またはコレステロールが最も好ましい。コレステロールはその溶解を補助する物質(例えば胆汁酸塩)と併用することで、さらに好ましい効果が得られる。
【0037】
本発明においては、さらに放出速度を最適化するため、あるいは薬物安定化等の目的で、水溶性添加剤を加えてもよい。水溶性添加剤は常温で固体であり医学的・薬学的に許容されるものであれば特に制限はないが、1級アミンを持たない糖類、塩類、胆汁酸塩が好ましい。具体的には、糖類として、グルコース、マンニトール、ラクトース、トレハロース、スクロース、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられ、好ましくはグルコース、マンニトール、ラクトースが挙げられる。塩類として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が挙げられ、好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。胆汁酸塩として、一次胆汁酸塩であるコール酸ナトリウムおよびケノデオキシコール酸ナトリウム、二次胆汁酸塩であるデスオキシコール酸ナトリウムおよびリトコール酸ナトリウム、複合胆汁酸塩であるグリココール酸ナトリウムおよびタウロコール酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくはコール酸ナトリウム、デスオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウムが挙げられる。更に好ましくは、塩化ナトリウムおよび/またはデスオキシコール酸ナトリウムである。これらの水溶性添加剤は、本発明の固形製剤において、単独でまたは異なるものが複数種類含まれてもよい。
更にはデスオキシコール酸ナトリウムを併用することが最も好ましい。
難水溶性物質として低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを用いる場合は、水溶性添加剤として塩化ナトリウムとの組み合わせが放出制御に優れている。難水溶性物質としてコレステロールを用いる場合は、前述のようにその溶解を補助する物質を併用することが好ましく、具体的には前述の胆汁酸塩を併用することが好ましく、中でもコール酸ナトリウム、デスオキシコール酸ナトリウムまたはグリココール酸ナトリウムを併用することがより好ましく、更にはデスオキシコール酸ナトリウムあるいは、デスオキシコール酸ナトリウムと塩化ナトリウムとの組み合わせが放出制御に優れている。ここで、デスオキシコール酸ナトリウムと塩化ナトリウムを組み合わせた場合のデスオキシコール酸ナトリウムと塩化ナトリウムを合わせた含量は35%未満、好ましくは20%以下であって、両者の割合には特に制限なく、任意の割合で組み合わせることができる。
ただし、水溶性添加剤としての塩化ナトリウムは放出促進効果に優れているが、添加量が多すぎると製剤内部での浸透圧の差の発生が過剰になり製剤の著しい膨潤を生じる可能性があることから、添加量は10%以下にすることが好ましい。
【0038】
担体に用いる疎水性高分子としては、生体適合性であれば特に限定されないが、1級アミンを含有しない担体を用いることが好ましい。これは式(1)で表される化合物、殊にビナキサントン(別名:SPF−3059−5)が1級アミンと反応しやすく、1ヶ月以上の長期の持続放出を達成するには製剤内で十分な安定性を保つことが重要であることによる。フィルム状製剤にする場合は、適度な強度と柔軟性を有するものが好ましい。
【0039】
疎水性高分子は生体内非分解性のものと生体内分解性のものに大別されるがいずれを用いてもよく、以下に例を示すが、これに限定されるものではない。生体内非分解性高分子の例としては、シリコーン、ポリウレタンが挙げられ、生体内分解性高分子の例としてはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンおよびこれらの共重合体が挙げられる。
【0040】
このうち疎水性高分子として、より好ましい担体はシリコーンである。シリコーンは、生体適合性の優れた材料として古くから人工臓器や医療器具の材料として用いられてきた実績がある。シリコーンはシロキサン結合の重合度や置換基の違いにより、オイル状、ゲル状、ゴム状等、さまざまな形状のものがある。本発明のシリコーンは、固体のシリコーンであれば特に制限はなく、オイル状、ゲル状のシリコーンを硬化させ固体としたものであってもよい。例えばDow Corning社製のポリジメチルシロキサンのSILASTIC Q7-4750や、Nusil社製のMED-4750を用いることができる。
【0041】
本発明におけるマトリックス型製剤とは、疎水性担体中に粉末医薬品や粉末添加剤を均一に分散させた固形の放出制御製剤である。
本発明における固形製剤の形状は、脊髄損傷部位近傍または脊髄腔内への留置に適したものであれば特に限定されない。
【0042】
本発明で用いる「損傷部位近傍または脊髄腔内に留置可能な形状」とは、留置後に脊髄神経を圧迫しない形状のものであり、好ましい形状としてシート状のものや、円柱状(ロッド状)の形状が挙げられる。
【0043】
脊髄損傷の局所治療における本発明製剤の投与法としては、手術時に損傷部位近傍の硬膜下にシート状の製剤を挿入する、あるいはシート状製剤を人工硬膜に接着または人工硬膜の代用として設置することで損傷部位局所の有効濃度を維持する方法、または、馬尾のような脊髄腔内の空間にロッド状の製剤を留置し髄液中の有効濃度を維持する方法がある。
このうち、シート状製剤がより直接的に損傷部位に作用させるのに適しているが、神経への圧迫を生じないこと、あるいは人工硬膜的な使用を可能とするため、シート製剤の厚みは0.1〜1.5mmが好ましく、より好ましくは0.1〜1mmであり、さらに好ましくは0.23〜0.5mmであり、ヒトへの適用においては0.3〜0.35mmが最も好ましい。縦は3〜90mmであり、横は3〜140mmであり、損傷部位の大きさに応じて用時に切断してもよい。
また、本発明で用いるロッド状の固形製剤は、脊髄腔内への留置に適した剤形であって、より具体的には留置針のような投与器具による馬尾への留置にも適した直径0.3〜5mm、より好ましくは0.35〜3mmの円柱状の製剤である。
【0044】
本発明で用いるシート状製剤の厚さあるいはロッド状製剤の直径の測定方法は、実験的な小規模製造においては、シリコーン硬化後にノギス等により測定することが可能であるが、シリコーンには弾力性があることから過度の加圧による収縮、変形が起こらないように注意して測定する必要がある。加圧の影響が少ない測定法としては顕微鏡による測定や超音波厚さ計が挙げられる。製造工程において、シリコーン硬化前の成形直後、または硬化後のいずれにおいても測定することも可能であるが、硬化前には加圧よる変形が起こりやすいので一層の注意を要する。また、成形に用いるノズル、スリット、ローラー等の金型のサイズと常圧下での膨張率を予め計算しておいて、完成品のサイズを予測して製造することもできる。
【0045】
本発明で用いる「実質的に、式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、難水溶性物質、適宜添加される水溶性添加剤、および担体としての生体適合性の疎水性高分子からなる」とは、ここで挙げられた各成分が主たる成分であり、それ以外の成分については、本発明の製剤の効果に影響を与えない成分であれば僅かに含んでいてもよいことを意味している。ここで式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩、難水溶性物質、適宜添加される水溶性添加剤、および担体としての生体適合性の疎水性高分子の総量としては、製剤重量の95%以上であり、例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%である。基本的に上記成分以外に本発明製剤の構成成分として必須なものないが、必要に応じて、例えば、製造時におけるシリコーンの硬化速度を調節するものや、製剤の強度や柔軟性を調節する物質、製剤の体内埋め込み位置がX線下で確認できるX線不透過性マーカー等を含んでもよい。X線不透過マーカーとしては、例えば、プラチナ、プラチナ/イリジウム、プラチナ/ニッケル等のプラチナ系合金またはパラジウム系の合金が挙げられる。
【0046】
疎水性高分子からの水溶性薬物の放出制御に難水溶性物質が有効な理由としては、特定の理論にとらわれるものではないが以下のとおり考えられる。
前述のように、水溶性薬物は疎水性高分子に溶解せず自律的に拡散放出され得ないことから、製剤表面からの溶解連鎖によるチャンネル形成により放出される。このチャンネル形成は、従来の水溶性添加剤を用いた場合では、添加剤の速やかな溶解により製剤内部に添加剤粒子の容積分の空隙が生じ、大きなチャンネル形成が急激に進行する。これにより放出が著しく促進され初期バースト的な短期間の放出となる。これに対し、難水溶性の添加剤の場合は、溶解速度が遅いことから大きな空隙を急速に生じることなく、添加剤の存在領域が適度な水分と水溶性薬物の通路として働き、長期間の放出制御が可能となる。
【0047】
式(1)で表される化合物またはその薬学上許容される塩の含量は、製剤重量の0.3〜35%、好ましくは2〜20%、より好ましくは8〜15%である。
疎水性高分子の含量は、製剤重量の55%以上、好ましくは60〜90%、より好ましくは65〜85%、最も好ましくは70%である。
固体の難水溶性物質の含量は、製剤重量の3〜35%、好ましくは7〜30%、より好ましくは7〜25%である。また、より好ましい低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの添加量は製剤重量の7〜30%であり、最も好ましい添加量は製剤重量の12〜25%である。コレステロールのより好ましい添加量は製剤重量の7〜20%であり、最も好ましい添加量は製剤重量の7.5〜15%である。これより、初期バーストの少ない長期の良好な放出性が得られる。
適宜添加される水溶性添加剤の含量は、製剤重量の35%未満、好ましくは20%以下である。
【0048】
式(1)の薬物、難水溶性物質および適宜添加される水溶性添加剤は担体中で粉末として分散しているが、これらの粒子径が放出性に影響を与える可能性があることから、品質を一定させるために必要に応じて、粒子径を一定範囲にコントロールすることが望ましく、通常、上限として300μm以下、より好ましくは200μm以下になるようにコントロールされる。
【0049】
本発明の製剤は、セマフォリン3A阻害による脊髄損傷の局所治療剤として有用であるとともに、脊髄損傷治療における他の療法との併用にも優れている。たとえば、神経保護剤、神経成長促進剤としてFGF−2(Fibroblast growth factor-2)、NGF(Nerve growth factor)、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)、HGF(Hepatocyte growth factor)等の神経栄養因子やNBQX(2,3-Dioxo-6-nitro-1,2,3,4-tetrahydrobenzo[f]quinoxaline-7-sulfonamide)等との併用療法や、細胞移植との組み合わせが可能である。セマフォリンの阻害剤と他の有効成分を併用する場合は、それぞれ治療に適したタイミングと持続期間で放出するように設計することができる。たとえば、FGF−2やNBQXなどの神経保護に働く成分は初期の数日間、神経の再生に働く成分ではより長期の約1ヶ月の持続が望ましい。また、本発明の製剤による治療ではカテーテル挿入による感染の恐れがなくリハビリとの併用にも優れる。
【0050】
本発明における徐放性製剤を用いた脊髄損傷治療には、脊髄損傷患者に通常行われるリハビリテーションを併用することで、神経機能回復がより向上する。
【実施例】
【0051】
次に実施例および比較例とこれらの試験例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(入手先)
ビナキサントン粉末(上記[0035]に記載の文献の通り培養と精製することにより製造する。また文献(K.Tatsutaら、Chemistry Letters Vol.36, No.1 (2007))に従い化学合成も可能である)
L−HPC(信越化学工業株式会社)
ラクトース(島貿易株式会社)
PBS(タカラバイオ株式会社)
塩化ナトリウム結晶(ナカライテスク株式会社)
コレステロール(関東化学株式会社)
デスオキシコール酸ナトリウム一水和物(ナカライテスク株式会社)
グルコース(ナカライテスク株式会社)
D−マンニトール(東和化成工業株式会社)
PEG4000(ナカライテスク株式会社)
CMC−Na(ナカライテスク株式会社)
HPC(日本曹達株式会社)
【0053】
実施例1
L−HPC(低置換度ヒドロキシプロピルセルロース)90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤1を得た。
【0054】
試験例1
実施例1にて製造した製剤1を5mm×7mmの大きさに切断し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS) 1mL中に投入し、37℃にて静置し、製剤から放出されるビナキサントンを高速液体クロマトグラフィー(UFLC、株式会社 島津製作所)により定量し累積放出率を求めた。結果を図1に示す。
本製剤は、難水溶性物質としてL−HPCを30%含有する製剤であるが、初期バーストが5%未満と小さく抑えられ、放出期間の4週間に亘ってほぼ一定量の持続放出が達成された。
【表1】
【0055】
実施例2
ラクトース45mgとL−HPC 45mgを混合した。さらにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤2を得た。
【0056】
実施例3
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下(光学顕微鏡(位相差顕微鏡 BX-51-33-PHU-D, OLYMPAS)により粒子径を確認した)に粉砕した塩化ナトリウム15mgとL−HPC 75mgを混合した。さらにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤3を得た。
【0057】
試験例2
実施例2および実施例3にて製造した各々の製剤(表2に示す)を5mm×7mmの大きさに切断し、PBS 1mL中37℃にて静置し、製剤から放出されるビナキサントンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し累積放出率を求めた。結果を図2に示す。
製剤2および製剤3は難水溶性物質としてL−HPCを含有し、それぞれさらに水溶性添加剤のラクトースまたはNaClを含有する製剤であるが、いずれも初期バーストが少なく放出期間の1ヶ月にわたって良好な持続放出が達成された。
【表2】
【0058】
実施例4
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム20mgとL−HPC 100mgを混合した。さらにビナキサントン粉末40mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分170mgと同シリコーンB成分170mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤4を得た。
【0059】
実施例5
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム30mgとL−HPC 170mgを混合した。さらにビナキサントン粉末100mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分350mgと同シリコーンB成分350mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤5を得た。
【0060】
試験例3
実施例4および実施例5にて製造した各々の製剤(表3に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図3に結果を示す。
製剤4および製剤5は、上記の製剤1から製剤3に比べてビナキサントン含量が高い製剤であるが、いずれの製剤も56日間の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表3】
【0061】
実施例6
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム12mgとL−HPC 48mgを混合した。さらにビナキサントン粉末60mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分140mgと同シリコーンB成分140mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤6を得た。
【0062】
実施例7
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム12mgとL−HPC 28mgを混合した。さらにビナキサントン粉末80mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分140mgと同シリコーンB成分140mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤7を得た。
【0063】
試験例4
実施例6および実施例7にて製造した各々の製剤(表4に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図4に結果を示す。
製剤6および製剤7は、製剤5よりもさらにビナキサントン含量の異なる製剤であるが、いずれの製剤も40日間以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表4】
【0064】
実施例8
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム18mgとL−HPC 102mgを混合した。さらにビナキサントン粉末60mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分210mgと同シリコーンB成分210mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.23mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤8を得た。
【0065】
試験例5
実施例8で製造した製剤8を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図5に結果を示す。
製剤1から製剤7は製剤の厚みが0.3mmであったが、製剤8は0.23mmとさらに厚みが薄いシート製剤であるが、40日間以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表5】
【0066】
実施例9
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム6mgにデスオキシコール酸ナトリウム二水和物17mgとコレステロール17mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分70mgと同シリコーンB成分70mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤9を得た。
【0067】
試験例6
実施例9で製造した製剤9を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図6に結果を示す。
本製剤は難水溶性物質としてコレステロールを含有し、さらに水溶性添加剤のデスオキシコール酸Na(DC)とNaClを含有する製剤であるが、40日間以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表6】
【0068】
実施例10
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム10mgにデスオキシコール酸ナトリウム二水和物15mgとコレステロール15mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分70mgと同シリコーンB成分70mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤10を得た。
【0069】
試験例7
実施例10で製造した製剤10を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図7に結果を示す。
本製剤は難水溶性物質としてコレステロールを含有し、さらに水溶性添加剤のデスオキシコール酸Na(DC)とNaClを含有する製剤であるが、1ヶ月以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表7】
【0070】
実施例11
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム16mgにコレステロール24mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分70mgと同シリコーンB成分70mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤11を得た。
【0071】
実施例12
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム10mgにコレステロール30mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分70mgと同シリコーンB成分70mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤12を得た。
【0072】
試験例8
実施例11および実施例12にて製造した各々の製剤(表8に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図8に結果を示す。
製剤11および製剤12は、難水溶性物質としてコレステロールを含有し、さらに水溶性添加剤のNaClを含有する製剤であるが、いずれの製剤も2ヶ月の長期に亘る良好な持続放出を達成した。
【表8】
【0073】
実施例13
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム10mgにL−HPC 50mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分85mgと同シリコーンB成分85mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.5mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤13を得た。
【0074】
実施例14
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム15mgにL−HPC 45mgを混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分85mgと同シリコーンB成分85mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.5mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の製剤14を得た。
【0075】
試験例9
実施例13および実施例14にて製造した各々の製剤(表9に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図9に結果を示す。
製剤13および製剤14は、製剤の厚みが0.5mmで、難水溶性添加剤としてL−HPCを含有し、さらに水溶性添加剤のNaClを含有する製剤であるが、いずれの製剤も1ヶ月以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表9】
【0076】
実施例15
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム15mgにL−HPC 85mgを混合した。さらにビナキサントン粉末50mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分175mgと同シリコーンB成分175mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。これを小型ラム式押し出し機にセットし、直径0.3mmのダイスを通して押し出し40℃で1日硬化させ、直径0.35mmのロッド製剤を得た。このロッド製剤を切断して本発明の製剤15を得た。
【0077】
試験例10
実施例15にて製造した製剤15を7mmの長さに切断し、PBS 1mL中37℃にて静置し、製剤から放出されるビナキサントンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し累積放出率を求めた。結果を図10に示す。
本製剤は、直径が0.35mmのロッド状の製剤であり、難水溶性添加剤としてL−HPCを含有し、さらに水溶性添加剤のNaClを含有する製剤であるが、1ヶ月以上の長期にわたる良好な持続放出を達成した。
【表10】
【0078】
比較例1
Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分147mgと同B成分147mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかにビナキサントン粉末6mgを加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤1を得た。
【0079】
試験例11
比較例1にて製造した比較製剤1を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図11に結果を示す。
本比較製剤はビナキサントンを2%含有し、添加剤を含有しない製剤であるが、4週間に亘ってほとんど放出されずに製剤内に大部分のビナキサントンが残存した。
【表11】
【0080】
比較例2
ヒドロキシプロポキシル基を53%以上含有する水溶性のHPC 75mgにビナキサントン粉末5mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分85mgと同シリコーンB成分85mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤2を得た。
【0081】
試験例12
比較例2にて製造した比較製剤2を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図12に結果を示す。
本比較製剤はビナキサントンを2%含有し、添加剤としてヒドロキシプロポキシル基含量が53%以上の水溶性のHPCを含有する製剤であるが、1日目の初期バーストで60%以上が放出され、その後の持続的放出は認められなかった。
一方、本発明の添加剤である低置換度HPCは、ヒドロキシプロポキシル基含量が5〜16%の難水溶性の添加剤であり、これを用いた本発明の製剤1では、初期バーストが少なく1ヶ月にわたる持続的放出が達成された(試験例1、図1)。
【表12】
【0082】
比較例3
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム 90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤3を得た。
【0083】
比較例4
グルコース90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤4を得た。
【0084】
比較例5
D−マンニトール90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤5を得た。
【0085】
比較例6
PEG4000 90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤6を得た。
【0086】
試験例13
比較例3から比較例6にて製造した各々の比較製剤(表13に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図13に結果を示す。
これらの比較製剤は難水溶性添加剤を含有せず、それぞれ異なる水溶性物質を添加剤として含有するものであるが、PEG4000を含有する比較製剤6では初期バーストが大きく、他の比較製剤では比較的初期バーストは小さかったものの、いずれも短期間の放出のみで、脊髄損傷治療に必要とされる長期間の持続的放出を達成することはできなかった。
【表13】
【0087】
比較例7
CMC−Na(カルボキシメチルセルロース-ナトリウム)90mgにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤7を得た。
【0088】
比較例8
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム15mgにCMC−Na 75mgを加えて混合した。さらにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤8を得た。
【0089】
比較例9
ラクトース45mgにCMC−Na 45mgを加えて混合した。さらにビナキサントン粉末6mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分102mgと同シリコーンB成分102mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤9を得た。
【0090】
試験例14
比較例7から比較例9にて製造した各々の比較製剤(表14に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図14に結果を示す。
これらの比較製剤はいずれも難水溶性物質を含有せず、水溶性添加剤であるCMC−Naを含有する製剤であるが、図14から明らかなように、初期バーストのみで持続的放出は認めらなかった。
【表14】
【0091】
比較例10
あらかじめ乳鉢で結晶を直径100μm以下に粉砕した塩化ナトリウム6mgにデスオキシコール酸Na 34mgを加えて混合した。さらにビナキサントン粉末20mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得た。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分70mgと同シリコーンB成分70mgを二本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得た。このシート製剤を切断して本発明の比較製剤10を得た。
【0092】
試験例15
比較例10にて製造した各々の比較製剤10を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求めた。図15に結果を示す。
本比較製剤は難水溶性物質を含有せず、水溶性添加剤であるデスオキシコール酸Na(DC)とNaClを含有する製剤であるが、1週間程度の短期間の放出のみで、脊髄損傷治療に必要とされる長期間の持続的放出を達成することはできなかった。
【表15】
【0093】
以上、実施例ならびに比較例により本発明の効果を示した。脊髄損傷治療には少なくとも2週間以上、望ましくは1ヶ月以上のセマフォリン阻害剤の持続が必要とされることから、本発明の製剤がこれを可能とすることが示された。
次に、本発明製剤の動物を用いた脊髄損傷の治療効果および局所治療剤として重要な神経組織への近接における毒性評価について評価を行った。
【0094】
試験例16.ラット脊髄完全切断モデルにおける運動機能回復効果
体重200g〜250gの雌性SD系ラットの脊髄を第12胸髄部分で眼科バサミにて完全に切断し、切断部のくも膜下に製剤5(厚さ0.3mmのシート状製剤)を3mm×3mmにカットしたものを留置した。対照としてビナキサントンを含有しないプラセボのシート(ビナキサントンを含有せず、製剤5と同含量の添加物を含有する製剤:L−HPC 17%、塩化ナトリウム3%、シリコーン80%)を同サイズにカットしたもの留置した。手術後1、2、3ヶ月に下肢の運動学的検討(kinematic analysis)を行った。結果を図16に示す。プラセボ投与群に比較して製剤5の投与群は、平均歩幅(average step length)、最大歩幅(max length)、歩行面積(step cycle area)で顕著な回復が見られた。この結果より本発明製剤によるビナキサントン投与は脊髄損傷の有効な治療法となることが強く示唆された。なお用いた動物数は、薬剤投与群4匹、プラセボ群5匹である。
【0095】
試験例17.神経組織に対する毒性評価
セマフォリン阻害剤の脊髄損傷適用にあたっては、薬剤含有シリコーンシートを損傷部に留置投与した場合、表面付近の薬剤が長時間高濃度に保たれること、および製剤の接着による留置部分の組織表面への直接的影響が懸念される。これを検証するため、脊髄損傷ラットで硬膜下留置後の脊髄表面の変化を調べた。
被験薬剤は製剤5および対照としてプラセボのシート(ビナキサントンを含有せず、製剤5と同含量の添加物を含有する製剤:L−HPC 17%、塩化ナトリウム3%、シリコーン80%)を直径2mmにパンチしたものを用いた。ラット脊髄のT8部の硬膜を切開し(図17)、放出を安定化させるために予めPBS中に2日間浸漬しておいたシートを硬膜内に挿入し(図18)、T7付近まで硬膜内で移動させた。4日間飼育後に、灌流固定し脊髄を摘出、シート直下にある脊髄組織を顕微鏡観察した。その結果、プラセボ(図19)、製剤5(図20)とも脊髄表面には変化は認められなかった。また、製剤5投与例の病理検査を行ったが、脊髄背側部に変性所見は認められなかった(図21)。以上の結果より、本発明製剤によるビナキサントン投与の直接的傷害反応は小さいものと示唆された。
【0096】
試験例18.ラット脊髄損傷モデルにおけるリハビリテーションに対するセマフォリン阻害剤シリコーンシート製剤の作用
製剤5(厚さ0.3mmのシート状製剤)を3mm×3mmにカットしたものを用い、セマフォリン阻害剤ビナキサントンの脊髄損傷モデルにおけるリハビリテーションへの影響を検討した。試験例16と同様なラット脊髄完全モデルを作製し、同様に製剤5を、対照群にはプラセボシートを留置した。処置ラットに対し、手術後1週より3ヶ月にわたりトレッドミルによるリハビリテーションを行った。このトレッドミルによるリハビリテーションは、実際に脊髄損傷患者に対して行われるものと同様である。手術後1、2、3ヶ月に下肢の運動学的検討(kinematic analysis)を行った。結果を図22に示す。平均歩高(Average step height)、最大歩高(Max step height)、歩行面積(Step cycle area)において、リハビリテーションのみを行った群では、手術後2〜3ヶ月で回復が見られたのに対し、製剤5を併用した群では、既に1ヶ月目で顕著な回復を示した。この結果より本発明製剤によるビナキサントン投与は、脊髄損傷治療におけるリハビリテーションの効果を時間的に促進する作用を持つことが示された。なお用いた動物数は、薬剤投与4匹、対照2匹である。
【0097】
試験例19.セマフォリン阻害剤シリコーン製剤の脊髄神経に対する再伸長作用
セマフォリン阻害剤シリコーン製剤が、傷害を受けた脊髄内の神経線維に対し、再伸長作用を示すかどうかを調べた。試験例16および18と同様にラット脊髄完全切断モデルを作製し、製剤5を留置、対照群にはプラセボシートを留置した。製剤5を投与したラットの一部は試験例18と同様な3ヶ月間のリハビリテーションを行った。手術3ヶ月後にラットを灌流固定し脊髄を摘出した。脊髄の凍結切片を作製し、再生神経線維のマーカーであるGAP43に対する抗体を用いて免疫染色を行なった。切断部位を顕微鏡観察したところ、図23に示すように、薬剤のみを投与したラット(製剤5)および薬剤投与に加えてリハビリテーションを行なったラット(製剤5+リハビリテーション)では、対照群に比較して、GAP43陽性線維が増加していた。これをコンピューターによる画像解析にて定量化したところ、傷害部位(図24)、傷害部位から1mm頭側、1mm尾側のいずれにおいても(図25)、薬剤投与群は有意な増加を示した。この結果により、セマフォリン阻害剤シリコーンシート製剤は切断された脊髄内の神経線維を再伸長させる作用があることがわかった。また、電子顕微鏡にて再伸長した神経線維を対照群と製剤5投与群で観察したところ、図26に示すように、対照群では髄鞘をもつ神経線維が少なかったのに対し、製剤5を投与した群では髄鞘(矢印)を持つ神経線維が顕著に多かった。これによりセマフォリン阻害剤シリコーンシートにより再伸長した神経線維は成熟も促進されることがわかった。なお、用いた動物数は、対照群、薬剤投与群、リハビリテーション併用群とも11匹である。
【0098】
試験例20.セマフォリン阻害剤シリコーン製剤の血管新生促進作用
脊髄損傷後の血管の再形成は組織の損傷の回復に重要である。セマフォリン阻害剤シリコーン製剤が、傷害後の脊髄内の血管新生を促進するかを調べた。試験例19で作製した凍結切片に対し、血管内皮細胞のマーカーであるRECA−1に対する抗体を用いて免疫染色を行なった。切断部位から1mm尾側を顕微鏡観察したところ、図27に示すように薬剤のみ投与したラット(製剤5)および薬剤投与に加えてリハビリテーションを行なったラット(製剤5+リハビリテーション)では、対照群に比較してRECA−1陽性細胞が増加していた。新生血管は成熟血管に比べ大径であるのでコンピューターにより面積が20μm以上の血管の数を計測したところ、傷害部位から1mm頭側、3mm頭側、1mm尾側、3mm尾側のいずれにおいても薬剤投与群は有意な増加を示した(図28)。この結果により、セマフォリン阻害剤シリコーンシート製剤は脊髄損傷後の血管新生を促進する作用があることがわかった。
【0099】
試験例21.ラット脊髄損傷モデルにおけるセマフォリン阻害剤シリコーンシート製剤の作用とリハビリテーションによる増強
製剤5(厚さ0.3mmのシート状製剤)を3mm×3mmにカットしたものを用い、試験例18とは逆にリハビリテーションがセマフォリン阻害剤ビナキサントンの作用におよぼす影響を検討した。試験例16と同様なラット脊髄完全モデルを作製し、同様に製剤5を、対照群にはプラセボシートを留置した。製剤5を投与した動物群をさらに2群に分け、1群に対しては手術後1週より3ヶ月にわたりトレッドミルによるリハビリテーションを行った。手術後1、2、3ヶ月に下肢の運動学的検討(kinematic analysis)を行った。結果を図29に示す。平均歩幅(Average step length)、最大歩幅(Max step length)、歩行面積(Step cycle area)において製剤5による回復促進作用が示された。その中で歩行面積(Step cycle area)においては、リハビリと製剤5の併用群は、対照群だけでなく製剤5のみの群に比べても顕著な回復促進が示された。また、平均歩幅(Average step height)、最大歩高(Max step height)においては、製剤5のみによる回復促進は示されなかったが、リハビリの併用により顕著な回復作用を示した。以上の結果より、本発明製剤によるビナキサントン投与はリハビリテーションを併用することにより、その効果が促進されることが示された。なお、用いた動物数は、対照群11匹、薬剤投与群13匹、リハビリテーション併用群11匹である。
【0100】
実施例16
あらかじめ乳鉢で塩化ナトリウム結晶を直径100μm以下に粉砕する。上記塩化ナトリウム 50mgに部分α化デンプン 170mgを混合する。さらにビナキサントン粉末 100mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得る。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分340mgと同シリコーンB成分340mgを二本ロールで練合する。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合する。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得る。このシート製剤を5mm×7mmの大きさに切断して本発明の製剤16を得る。
【0101】
実施例17
あらかじめ乳鉢で塩化ナトリウム結晶を直径100μm以下に粉砕する。上記塩化ナトリウム 30mgにクロスカルメロースナトリウム 70mgを混合する。さらにビナキサントン粉末 100mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得る。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分400mgと同シリコーンB成分400mgを二本ロールで練合する。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合する。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得る。このシート製剤を5mm×7mmの大きさに切断して本発明の製剤17を得る。
【0102】
実施例18
あらかじめ乳鉢で塩化ナトリウム結晶を直径100μm以下に粉砕する。上記塩化ナトリウム 30mgにクロスポビドン 120mgを混合する。さらにビナキサントン粉末 100mgを加えて乳鉢で混合し、混合粉末を得る。一方Dow Corning製 SILASTIC Q7-4750 シリコーンA成分375mgと同シリコーンB成分375mgを二本ロールで練合する。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合する。その後二本ロールで伸展し40℃で1日硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤を得る。このシート製剤を5mm×7mmの大きさに切断して本発明の製剤18を得る。
【0103】
試験例22
実施例16から実施例18にて製造した各々の製剤(表16に示す)を試験例1と同様の方法で試験し、累積放出率を求める。
【表16】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29