(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさと、前記ポリイミドフィルムの面内位相差との関係から、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する工程(A)と、
検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを、白色光にて分光学的に測定する工程(B)と、
前記閾値と、前記工程(B)で測定された面内位相差Reとを比較し、検査対象のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、規格の範囲内であるかを判定する工程(C)と
を有し、
前記工程(A)が、ポリイミドフィルム試験片の面内位相差を白色光にて分光学的に測定する工程(a)と、
前記ポリイミドフィルム試験片の線膨張係数の異方性の大きさS1を測定する工程(b)と、
前記試験片の面内位相差と前記異方性の大きさS1との相関関係を把握する工程(c)と、
検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な線膨張係数の異方性の大きさS2、及び前記工程(c)で把握した相関関係に基づき、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する工程(d)と
を含む、ポリイミドフィルムの検査方法。
前記制御機構で制御する製造条件が、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体に負荷される張力、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の延伸倍率、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の加熱温度、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の加熱速度、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体に吹き付ける乾燥風の風量、及び前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の搬送速度からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項10に記載のポリイミドフィルム製造装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2〜4等で提案された方法によれば、測定対象となるポリイミドフィルムを所定のサイズに切断する等の操作が必要である。このため、ポリイミドフィルムの製造工程の途中において、インラインでポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性を検査することは極めて困難であった。
【0012】
また、特許文献5で提案された方法では、吸光度を測定しているため、感度が非常に低く、実用的ではなかった。さらに、特許文献6で提案された方法では、単色光で位相差を測定しているため、広い範囲に位相差を有し得る熱可塑性樹脂フィルムには適用できなかった。
【0013】
また、ポリイミドフィルムの線膨張係数は、一般的には熱機械分析(TMA)試験により、100〜200℃の温度範囲で、10℃/min以下(望ましくは5℃/min以下)の昇温速度で測定される。線膨張係数の異方性を測定するためには、少なくとも二点以上の測定点においてTMA試験を行う必要がある。従って、フィルムの幅方向と流れ方向にわたって線膨張係数の異方性分布を調べる場合には、線膨張係数の測定を多数回行う必要があるので、時間と労力がかかるという問題がある。このような問題を解消するために、ポリイミドフィルムの配向異方性を迅速かつ高精度に評価する方法を開発することが要求されている。更には、ポリイミドフィルムの製造工程中においてインラインで配向異方性を評価し、分子配向の分布を制御したポリイミドフィルムを製造することが要求されている。
【0014】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを迅速かつ簡便に非破壊で測定することが可能な検査方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、線膨張係数の異方性が生ずるのを制御しつつ、ポリイミドフィルムを製造可能な方法、さらには、その製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの面内位相差と、線膨張係数の異方性の大きさとの間には高い相関性が存在することを見出した。そして、ポリイミドフィルムの面内位相差を白色光にて光学的に測定することで、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを迅速かつ簡便に非破壊で予測することができ、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明によれば、以下に示すポリイミドフィルムの検査方法、ポリイミドフィルムの製造方法、及びポリイミドフィルムの製造装置が提供される。
【0017】
[1]ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさと、前記ポリイミドフィルムの面内位相差との関係から、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する工程(A)と、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを、白色光にて分光学的に測定する工程(B)と、前記閾値と、前記工程(B)で測定された面内位相差Reとを比較し、検査対象のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、規格の範囲内であるかを判定する工程(C)とを有する、ポリイミドフィルムの検査方法。
【0018】
[2]前記工程(A)が、ポリイミドフィルム試験片の面内位相差を白色光にて分光学的に測定する工程(a)と、前記ポリイミドフィルム試験片の線膨張係数の異方性の大きさS
1を測定する工程(b)と、前記試験片の面内位相差と前記異方性の大きさS
1との相関関係を把握する工程(c)と、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な線膨張係数の異方性の大きさS
2、及び前記工程(c)で把握した相関関係に基づき、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する工程(d)とを含む、[1]に記載のポリイミドフィルムの検査方法。
【0019】
[3]前述の[1]または[2]に記載のポリイミドフィルムの検査方法が、ポリイミドフィルムの製膜過程で行われ、前記検査対象のポリイミドフィルムが、製膜過程におけるポリイミドフィルムである、ポリイミドフィルムの製造方法。
[4]前記工程(B)で、検査対象のポリイミドフィルムの配向角も算出する、[3]に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[5]前記工程(B)で、ロールフィルム状のポリイミドフィルムの、流れ方向及び幅方向に、前記面内位相差Reを複数箇所測定する、[3]または[4]に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0020】
[6]検査対象のポリイミドフィルムが、ロールフィルム又はカットフィルムである[3]または[4]に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[7]前記工程(B)の分光学的測定を、500〜800nmの波長範囲の白色光で行う、[3]〜[6]のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[8]前記工程(B)の分光学的測定が、白色光の透過率スペクトル測定を含み、予め、検査対象のポリイミドフィルムの透過率スペクトルを測定し、前記工程(B)で測定される透過率スペクトルを補正する、[3]〜[7]のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
[9]前記工程(C)で判定された結果を、ポリイミドフィルムの製造過程にフィードバックし、ポリイミドフィルムの製造条件を調整する工程(D)を含む、[3]〜[8]のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【0021】
[10]検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を記憶する記憶機構と、ポリイミドフィルムを一定方向に搬送する搬送機構と、前記ポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定する測定機構とを有するポリイミドフィルム製造装置。
[11]前記測定機構により測定された前記面内位相差Reと、前記記憶機構に記憶された閾値とを比較し、検査対象のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、規格の範囲内であるかを判定する判定機構を有する、[10]に記載のポリイミドフィルム製造装置。
[12]前記判定機構により判定された結果に基づき、ポリイミドフィルムの製造条件を制御する制御機構を有する、[11]に記載のポリイミドフィルム製造装置。
[13]前記制御機構で制御する製造条件が、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体に負荷される張力、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の延伸倍率、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の加熱温度、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の加熱速度、前記ポリイミドフィルム又はその前駆体に吹き付ける乾燥風の風量、及び前記ポリイミドフィルム又はその前駆体の搬送速度からなる群より選択される少なくとも一種である、[2]に記載のポリイミドフィルム製造装置。
【0022】
[14]前記測定機構が、前記搬送機構によるポリイミドフィルムの搬送方向に対して、垂直方向に配置された複数の光学系位相差測定装置を有する、[10]〜[13]のいずれかに記載のポリイミドフィルム製造装置。
[15]前記測定機構が、前記搬送機構によるポリイミドフィルムの搬送方向に対して、垂直方向に走査可能な光学系位相差測定装置を有する、[10]〜[13]のいずれかに記載のポリイミドフィルム製造装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明のポリイミドフィルムの検査方法によれば、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを迅速かつ簡便に非破壊で測定することができる。ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを非破壊で検査可能であることから、本発明の検査方法は、ポリイミドフィルムの製造工程中に組み込むことができる。これにより、検査結果を製造工程に直ちにフィードバックすることができるので、線膨張係数の異方性の発生が抑制されたポリイミドフィルムを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
A.ポリイミドフィルムの検査方法及びポリイミドフィルムの製造方法
本発明のポリイミドフィルムの検査方法は、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差Reの閾値を設定する工程(A)と、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを、白色光にて分光学的に測定する工程(B)と、前記閾値と、前記工程(B)にて測定された面内位相差Reとを比較し、検査対象のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、規格の範囲内であるかを判定する工程(C)とを有する方法である。
【0026】
上記検査方法は、ポリイミドフィルムの製造過程に組み込むことができ、この場合、検査対象は、製膜過程におけるポリイミドフィルムとし得る。上記検査方法を、例えばポリイミドフィルムの製造条件設定時に行い、この結果に基づき製造条件の調整を行うことで、線膨張係数の異方性が低いポリイミドフィルムの各種製造条件を決定し得る。またポリイミドフィルムの製造ラインにて、製造中のポリイミドフィルムの品質管理を行う目的で、上記検査を行うことも可能である。
【0027】
本発明の検査方法で検査可能なポリイミドフィルムは、白色光にて分光学的に面内位相差を測定可能なフィルムであれば特に制限はなく、例えばポリイミドのみからなるフィルム、またはポリイミドと充填剤や添加剤等とを含有するフィルム等とし得る。
【0028】
ポリイミドフィルムに含まれるポリイミドの種類は特に限定されず、例えば、全芳香族ポリイミド、脂肪族ポリイミド、脂環式ポリイミド、及びこれらを組み合わせたブレンド系、共重合系、及びブロック系のポリイミド等が挙げられる。これらの中でも、面内位相差Reの測定精度の観点から、非晶性のポリイミドが好ましく、具体的には、デュポン社のカプトンとして知られるピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリイミドや、宇部興産社のユーピレックスとして知られる3,3,4,4−ビフェニルテトラカルボン酸無水物とp−フェニレンジアミンからなるポリイミド等が好ましい。
【0029】
また、ポリイミドフィルムに含み得る充填剤または添加剤としては、グラファイト、カーボランダム、ケイ石粉、二硫化モリブデン、フッ素系樹脂などの耐摩耗性向上剤;三酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の難燃性向上剤;クレー、マイカ等の電気的特性向上剤;アスベスト、シリカ、グラファイト等の耐トラッキング向上剤;硫酸バリウム、シリカ、メタケイ酸カルシウム等の耐酸性向上剤;鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、銅粉等の熱伝導度向上剤;その他ガラスビーズ、ガラス球、タルク、ケイ藻土、アルミナ、シラスバルン、水和アルミナ、金属酸化物、着色料及び顔料等が挙げられる。これらの充填剤または添加剤は、単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ポリイミド100重量部に対する充填剤または添加剤の含有量は、10重量部以下が好ましく、より好ましくは5重量部以下である。充填剤または添加剤の含有量が過剰である場合には、フィルムの透明性低下して光の散乱が生じ、面内位相差Reを分光学的に測定することが困難となるおそれがある。
【0031】
検査対象のポリイミドフィルムの全体形状についても特に限定されない。本願の検査方法によれば、ポリイミドフィルムを非破壊的に測定可能であることから、ロールフィルムやカットフィルム等の製品形状を有するポリイミドフィルムを用いることができる。
検査対象のポリイミドフィルムの厚みは、例えば、一般的なFPCのベースフィルムとして用いられるポリイミドフィルムの厚みであればよく、好ましくは12.5〜150μm程度である。
【0032】
(工程(A))
工程(A)では、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさと、ポリイミドフィルムの面内位相差との関係から、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する。前述のように、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性と、ポリイミドフィルムの面内位相差との間には高い相関性が存在する。
そこで、例えば検査対象であるポリイミドフィルムと同一の組成を有するポリイミドフィルム試験片から、線膨張係数の異方性の大きさと面内位相差との相関関係を把握し、この相関関係と、目標とする線膨張係数の異方性の大きさに基づいて、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差の閾値を設定する。なお、面内位相差は、波長依存性を有するため、特定の波長における面内位相差についての、閾値を設定する。
【0033】
図1に、面内位相差の閾値を設定するまでのフロー図を示す。ただし、これは一実施形態であり、この方法に限定されるものではない。
図1に示すように、予め、ポリイミドフィルム試験片の面内位相差を測定する工程(工程(a))と、当該フィルム試験片の線膨張係数の異方性の大きさを測定する工程(工程(b))とを行う。これらの測定結果から検量線等を作成し、面内位相差と、線膨張係数の異方性の大きさとの相関関係を把握する(工程(c))。この検量線、及び検査対象に許容可能な線膨張係数の大きさS
2に基づき、検査対象のポリイミドフィルムに許容される面内位相差の閾値を算出する(工程(d))。なお、工程(a)と工程(b)は、いずれの工程を先に実施してもよい。即ち、工程(a)→工程(b)の順でもよく、工程(b)→工程(a)の順でもよい。
【0034】
工程(a)及び工程(b)にて、面内位相差及び線膨張係数の異方性の大きさを測定する試験片の数は、特に制限はないが、工程(c)において相関関係を把握可能な数、すなわち検量線等の作成が可能な数であることが好ましい。具体的には、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0035】
なお、過去の測定データ等に基づき、検査対象のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを許容可能な範囲とし得る面内位相差の閾値が判明している場合には、上記工程(a)〜(d)を必ずしも行う必要はなく、既知の値を上記閾値として設定してもよい。
【0036】
・工程(a)
検査対象のポリイミドフィルムと同一の組成を有するポリイミドフィルム試験片を準備し、この試験片の面内位相差を測定する。同一の組成とは、その構成成分、及び成分比率のいずれもが同一であることをいう。試験片は、面内位相差及び線膨張係数の異方性の大きさを測定可能な大きさ、及び形状であれば特に制限はなく、例えばカットフィルム等とし得る。また、当該試験片の厚みは、検査対象のポリイミドフィルムと同一であってもよく、また異なっていてもよい。面内位相差は、フィルムの厚みに比例する。このため、検査対象のポリイミドフィルムと厚みの異なる試験片を用いた場合であっても、工程(d)にて厚みを補正し、検査対象のポリイミドフィルムに許容される面内位相差の閾値を算出することが可能である。
【0037】
試験片の面内位相差測定は、任意の方法で行うことができる。例えば検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reと同様、すなわち白色光にて分光学的手法により面内位相差を測定してもよい。またベレック型コンペンセータ等を用いて干渉色を読む手法やセナルモン法等で面内位相差を測定してもよい。白色光にて分光学的に面内位相差を測定する方法は、後述の工程(B)にて、詳しく説明する。
【0038】
試験片の面内位相差を測定する際の温度及び湿度は、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定する際の温度及び湿度と異なっていてもよいが、面内位相差は、測定時の温度及び湿度により変化する場合があるため、これらを同等とすることがより好ましい。
【0039】
・工程(b)
上記面内位相差を測定するポリイミドフィルム試験片と同一の試験片について、線膨張係数を測定するとともに、その線膨張係数の異方性の大きさS
1を測定する。
試験片の線膨張係数を測定するには、前述の試験片から複数の測定用サンプルを切り出す。
図2は、フィルム試験片からサンプルを切り出す方法の一例を示す模式図である。
図2は、正方形の試験片14から、6枚の短冊状の測定用サンプル12を切り出す状態を示している。
図2に示す方法では、試験片14のMD方向軸を0°と仮定し、0°のサンプル12を短冊状に切り出す。次いで、このMD方向軸から15〜45°傾斜した角度毎に、サンプル12を切り出す。この際、90°〜180°の範囲にわたって、サンプル12を切り出すことが好ましい。
【0040】
そして、これらの測定用サンプルについて熱機械分析(TMA)装置等を使用してTMA試験を行い、線膨張係数(CTE)を測定する。TMA試験は、例えば、窒素気流下、昇温速度:5〜10℃/min、温度範囲:25〜300℃の条件で実施することができる。
【0041】
各測定用サンプルについて測定された線膨張係数(CTE)の値(測定点25,35)を定法に従ってプロットして、
図3及び4に示すような線膨張係数楕円体20,30を作成(作図)する。そして、
図4に示すように、線膨張係数楕円体30の長軸半径bと短軸半径aの差(b−a)で表されるΔCTEの値を「フィルム試験片の線膨張係数の異方性の大きさS
1(ppm/K)」として算出することができる。なお、MD方向軸に対する、線膨張係数楕円体30の短軸の傾きθ(即ち、楕円の傾き)を「フィルム試験片の配向角(°)」として算出することができる。
【0042】
・工程(c)及び(d)
工程(c)では、工程(a)で算出した面内位相差と、工程(b)で算出した線膨張係数の異方性の大きさS
1との相関関係を把握する。工程(a)で算出する面内位相差と、工程(b)で算出する線膨張係数の異方性の大きさS
1(ΔCTE)との間には高い相関性が存在し、上記面内位相差と線膨張係数の異方性の大きさS
1との関係を示す検量線を作成し得る。
図5は、工程(a)で分光学的に測定した面内位相差に対して、工程(b)の線膨張係数測定により算出されたΔCTEをプロットしたグラフである。
【0043】
工程(d)では、工程(c)にて把握した相関関係と、検査対象となるポリイミドフィルムに許容される線膨張係数の異方性の大きさS
2とから、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差の閾値を設定する。すなわち、工程(c)で作成した検量線と、検査対象のポリイミドフィルムに許容される線膨張係数の異方性の大きさS
2とに基づいて、検査対象のポリイミドフィルムに許容される面内位相差の値が算出でき、その閾値を設定し得る。
【0044】
なお、
図6は、工程(a)で分光学的手法によって算出した試験片の配向角と、工程(b)で線膨張係数測定により算出した配向角とをプロットしたグラフである。
図6に示すように、分光学的な手法により測定及び算出したフィルムの配向角と、線膨張係数測定によって算出したフィルムの配向角は、ほぼ一致することが分かる。これは、後述の工程(B)にて、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定するのと同時に、分光学的手法で配向角も求め得ることを示している。
【0045】
(工程(B))
工程(B)では、検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを、白色光にて分光学的に測定する。
検査対象のポリイミドフィルムの面内位相差Reを白色光にて分光学的に測定する方法としては、例えば、平行ニコル回転法、直交ニコル回転法等を挙げることができる。これらの測定方法が採用された面内位相差Reの測定装置の市販品としては、例えば、王子計測機器社製の商品名「KOBRA」シリーズ、大塚電子社製の商品名「RETS」シリーズ、商品名「MCPD」シリーズ等を挙げることができる。なかでも、王子計測機器社製の商品名「KOBRA」シリーズ、及び大塚電子社製の商品名「RETS」シリーズは、インラインでロールフィルムの流れ方向(長さ方向)及び幅方向(流れ方向と直交する方向)に、面内位相差Reを複数箇所測定可能な装置であるために好ましい。
【0046】
以下、直交ニコル回転法により、白色光の透過率スペクトルを測定し、ポリイミドフィルムの面内位相差Reを算出する方法を例に説明する。
図7は、直交ニコル回転法により、透過率スペクトルを測定する手法を示す模式図である。
図7に示すように、偏光子2と検光子8とをクロスニコルに配置し、これらの間に、検査対象のポリイミドフィルム4と、任意で位相差板6を配置する。この状態で、偏光子2側から検光子8側に白色光10を照射し、検光子8側に設置された分光器(図示せず)等にて、透過率スペクトルを測定する。この透過率スペクトルの波形を解析することで、ポリイミドフィルムの面内位相差Reが特定できる。
【0047】
一般に、面内位相差Reは、単色光の透過光強度を測定して特定されることが多い。しかし、本発明では、前述のように、白色光を照射し、分光学的に面内位相差Reを特定する。これは、ポリイミドフィルムの面内位相差Reが比較的広い範囲を取り得るためである。単色光(測定波長λ)で面内位相差Reを特定する場合、測定波長(λ)と面内位相差Reと、透過光強度Iとの関係は、下記式で示される。I
0は入射光強度を示す。
I=I
0sin
2(πRe/λ)
そのため、面内位相差Reが取り得る範囲が大きいと、異なる次数で同一の透過光強度Iが観察されることとなり、正確な面内位相差Reの特定が困難である。また面内位相差Reの値が、測定波長λのn/2(nは整数)倍前後である場合にも、面内位相差Reの特定が難しい。
【0048】
本発明者は、厚みが約20μmのポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きい部分においては、面内位相差Reが概ね300nm以上となることを見出した。そこで、本発明では、単色光ではない白色光を用い、分光学的に面内位相差Reを特定する。白色光を用いれば、上記次数等に左右されることなく、固有の面内位相差Reを特定することができる。また特に、全芳香族ポリイミドからなるフィルム等、500nm以下の波長光を吸収するポリイミドフィルム(着色したポリイミドフィルム)については、500〜800nmの波長範囲の光を照射して面内位相差Reを測定することが好ましい。
【0049】
上記白色光の光源の種類は特に限定されず、例えばハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、レーザー光等やそれらを組み合わせたものを挙げることができる。
【0050】
また、本発明では、上記位相差板6を、偏光子2と検光子8との間に、その光学主軸が偏光子2及び検光子8の透過軸に対して45°傾くように配置することが好ましい。
図8に、波長600nmでの面内位相差Reが100nmであるポリイミドフィルムの透過率スペクトル、及び波長600nmでの面内位相差Reが700nmであるポリイミドフィルムの透過率スペクトルを示す。
図8に示すように、面内位相差Reが小さい場合には、波長変化に伴う透過率の変化が少なく、スペクトルの波形から、面内位相差Reを解析することが難しい。そこで位相差板6を配置することで、観察される面内位相差Reが、位相差板の位相差分、高波長側にシフトし、波長の解析が容易となる。
なお、位相差板を配置して、透過率スペクトルの測定を行う場合には、透過率スペクトルの波形を解析して、仮の面内位相差Reを求めた後、さらに位相差板の位相差を減算し、真の面内位相差Reを特定する。
【0051】
位相差板の位相差は400nm以上が適当であるが、より望ましくは鋭敏色板として用いられている500nmから750nmの位相差板である。また、透過率の極小値と極大値の両方が現れる750nm以上の位相差板を用いて測定を行ってもよい。
【0052】
透過率スペクトルの測定は、(i)検査対象のポリイミドフィルム4を、偏光子2、検光子8、及び位相差板6に対して相対的に回転させながら、或いは(ii)偏光子2、検光子8、及び位相差板6を、検査対象のポリイミドフィルム4に対して相対的に回転させながら、複数回行う。すなわちポリイミドフィルム4の遅相軸と、偏光子2の透過軸とがなす角度を変化させながら、透過率スペクトルの測定を複数回行う。
【0053】
検査対象がロールフィルムである場合には、偏光子2、検光子8、及び位相差板6のセットを回転させながら、ポリイミドフィルムの製膜過程(インライン)で透過率スペクトルの測定を行うことが好ましい。一方、検査対象がカットフィルムである場合には、検査対象のポリイミドフィルム4を回転させながら透過率スペクトル測定してもよく、偏光子2、検光子8、及び位相差板6のセットを回転させながら透過率スペクトルを測定してもよい。
【0054】
ロールフィルムに対して、インラインで面内位相差Reを測定する場合の手法を、
図9を例に説明する。
図9の(a)に示すように、ポリイミドフィルム4の搬送方向(以下、「MD方向」ともいう)に対して、偏光子2の透過軸が平行に、検光子8の透過軸が垂直となるように、偏光子2及び検光子8を配置する。また位相差板6の光学主軸と、偏光子2の透過軸とがなす角度が45°となるように、位相差板6を配置する。この状態で、偏光子側に設置された光源9から白色光を照射し、検光子8側に設置された分光器11等にて、透過率スペクトルを測定する。
【0055】
次に、ポリイミドフィルム4のMD方向と、偏光子2の透過軸とがなす角度が30°となるように、偏光子2、位相差板6、及び検光子8について、上記の関係を保ったまま回転させ、透過率スペクトルを測定する(
図9(b))。同様に、ポリイミドフィルム4のMD方向と、偏光子2の透過軸とがなす角度が60°、90°、120°、150°となるように偏光子2、位相差板6、及び検光子8について、上記の関係を保ったまま回転させて透過率スペクトルを測定する(
図9(c))。得られた透過率スペクトルの波形解析をそれぞれ行い、最も大きな値となった位相差の値をポリイミドフィルムの面内位相差Reとする。
【0056】
また、位相差が最も高く観察された場合;すなわちポリイミドフィルム4の遅相軸と位相差板6の光学主軸とが平行になった場合のポリイミドフィルム4のMD方向と、位相差板6の光学主軸とがなす角度が、ポリイミドフィルムの配向角となる。
【0057】
上記説明では、偏光子2等を30°ずつ回転させて、透過率スペクトルの測定を行っているが、当該回転角度は、上記角度に制限されない。ただし、正確な面内位相差Reの測定、及び配向角の特定のためには、10〜30°毎に測定を行うことが好ましい。
【0058】
また
図9に示す実施形態では、ポリイミドフィルムのロールフィルム4に対して、偏光子2、位相差板6、及び検光子8のセットを回転させたが、例えば
図10及び
図11に示すように、MD方向に対する角度を変更した複数の偏光子2、位相差板6、及び検光子8のセットを、流れ方向に沿って配置してもよい。
【0059】
また、本願では、ポリイミドフィルムの、TD方向(幅方向に)に、それぞれ面内位相差Re(透過率)を複数箇所ずつ測定することが好ましい。すなわち、例えば
図10に示すように、面内位相差Re(透過率スペクトル)をTD方向に複数箇所測定することが好ましい。
【0060】
TD方向に、面内位相差Re(透過率スペクトル)を複数箇所測定する方法としては、例えば
図10に示すように、複数の光源9と、これに対応する分光器11を幅方向に複数配置してもよく、また、例えば
図11に示すように、一組の光源9と分光器11とを、幅方向に走査させてもよい。
【0061】
また、本発明では、例えばポリイミドフィルムの端部等、ポリイミドフィルム作製時に線膨張係数の異方性が高くなりやすい箇所のみに、光源9と分光器11とを配置し、面内位相差Reを測定してもよい。
【0062】
さらに本検査方法では、ライン上を流れるポリイミドのロールフィルムについて、例えば数メートル毎に、面内位相差Re(透過率スペクトル)を測定することが好ましい。
【0063】
面内位相差Reは、温度及び湿度で変化する場合がある。そこで、面内位相差Reの測定は、温度15〜40℃で行うことが好ましく、20〜30℃が好ましい。また測定時の湿度10〜85%Rhとすることが好ましく、より好ましくは30〜65%Rhである。
【0064】
また、例えばポリイミドフィルムが着色している場合等には、本工程を行う前、もしくは本工程後に、検査対象のポリイミドフィルムの透過率スペクトル測定を行い、この結果に基づき、上記手法で測定される透過率スペクトルの値の補正を行ってもよい。透過率スペクトルの測定は、上述の分光器等にて行うことができる。
【0065】
面内位相差Reは、前述のようにして測定した透過率スペクトルの波形を下記の方法で解析することで求められる。白色光源を用いたポリイミドフィルムを直交ニコルで観察するときの各波長における透過率T(λ)は、下記式(1)で表され、透過光強度I
⊥(λ)は、下記式(2)で表される。
【数1】
【0066】
上記式(1)及び(2)中、λは光の波長を示し、I
0(λ)は入射光強度を示し、χは偏光子透過軸と試料(ポリイミドフィルム)の遅相軸とがなす角を示す。
上記式(2)〜(4)に基づき、位相差を算出すると、位相差が最大となるのは、偏光子透過軸とポリイミドフィルムの遅相軸とがなす角度χが45°のときである。前述のように、この位相差が最大となったときの値を面内位相差Reとする。
【0068】
なお、面内位相差Reは、低波長側ほど高くなることが知られている。そこで、Cauchyの分散公式に従って面内位相差Reの波長分散を考慮すると、前記式(1)式を下記式(5)のように書き換えることができる。そして、下記式(5)における、A’及びB’をフィッティングパラメータとして解析することで、下記式(6)で示すポリイミドフィルムの各波長における面内位相差Reが算出できる。
【0070】
上記では、直交ニコルでの観察により、面内位相差Reを算出する方法を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、直交ニコル及び平行ニコルで、透過光強度I
⊥(λ)及びI
‖(λ)を測定し、面内位相差Reを算出することも可能である。白色光源を用いたポリイミドフィルムの光透過率を直交ニコル及び平行ニコルで観察するときの透過光強度I
⊥(λ)及びI
‖(λ)は、下記式(7)で表される。
【数4】
そこで、χ=π/4等の適当な角でI
⊥(λ)とI
‖(λ)を測定することによって、I
0及びδを求め、上記式(7)と上述の式(2)〜(4)に基づき、面内位相差Reを算出してもよい。
【0071】
また、直交ニコル配置された偏光子2と検光子8との間に、位相差板6及び検査対象のポリイミドフィルム4を配置し、極小値あるいは極大値を示す波長のシフト量を調べることで、面内位相差Reを算出することもできる。この方法では、まず、直交ニコル配置された偏光子2と検光子8との間に、位相差板6のみを配置し、透過率を測定する。例えば550nmの位相差板6のみを上記位置に配置した場合、550nmの波長で透過率が極小値を示す。次に偏光子2と検光子8との間に、ポリイミドフィルム4と位相差板6とを配置し、透過率スペクトルを測定する。このとき、ポリイミドフィルム4の配向角と位相差板6の遅相軸とが平行となると、極小値を示す波長がポリイミドフィルム4の面内位相差Re分だけ高波長側へシフトする。また、ポリイミドフィルム4の配向角が位相差板6の遅相軸と垂直となると、極小値を示す波長がポリイミドフィルム4の面内位相差Re分だけ低波長側へシフトする。これに基づき、極小値を示す波長のシフト量を調べ、最もシフト量が大きくなったときのシフト量を、面内位相差Reとして算出すること等ができる。
【0072】
(工程(C)及び工程(D))
工程(C)では、工程(A)で設定された面内位相差の閾値と、工程(B)で測定された面内位相差Reとを比較する。工程(B)で測定された面内位相差Reが閾値を超えていれば、検査対象であるポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、許容範囲内ではないことを示す。そこで、この結果をポリイミドフィルムの製造過程に、この結果をフィードバックし、ポリイミドフィルムの製造条件;ポリイミドフィルムに線膨張係数の異方性が生ずる要因となる製造条件を調整する工程(D)を行うことが好ましい。
【0073】
ポリイミドフィルムには、その製造過程において、種々の要因により線膨張係数の異方性が生ずることがある。そこで工程(C)にて検出した結果を考慮し、工程(D)で線膨張係数の異方性が生じなくなるような製造条件へと直ちに調整することで、線膨張係数の異方性の発生が抑制された高品質なポリイミドフィルムを高い歩留まりで製造することができる。
【0074】
上記工程(C)にて算出された結果に基づき、調整する製造条件としては、例えば、(i)乾燥時又はイミド化時にポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)に負荷する張力、(ii)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の延伸倍率、(iii)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の加熱温度、(iv)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の加熱速度、(v)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)に吹き付ける乾燥風の風量、(vi)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の搬送速度等を挙げることができる。なお、二以上の製造条件を同時に調整してもよい。
【0075】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、その製膜過程に前述の検査方法が組み込まれていること以外は、従来のポリイミドフィルム(ドライフィルム)の製造方法に準ずる。以下、ポリイミドフィルムの製造方法の流れについて、一例を挙げながら説明する。
【0076】
ポリイミドフィルムは、例えば基板上に、ポリイミドの前駆体となるポリアミド酸の溶液(ポリアミド酸ワニス)を塗布し、脱溶媒及びイミド化した後、得られたフィルムを基板から剥離することにより得ることができる。ポリアミド酸ワニスの脱溶媒及びイミド化は、特に制限はないが、減圧下、又は窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。ポリアミド酸ワニスの脱溶媒及びイミド化は、ポリイミド酸ワニスの塗膜を、一定の速度で乾燥炉内を通過させること等で行われる。
【0077】
ポリアミド酸ワニスの脱溶媒及びイミド化を行う際の加熱温度は、溶媒の沸点以上であるとともに、イミド化反応が進行する温度であればよい。例えば、非プロトン系アミド溶媒中で合成されたポリアミド酸である場合、脱溶媒及びイミド化させる際の加熱温度は、100〜300℃程度であればよく、加熱時間は、特に制限はないが、通常3分〜12時間程度であればよい。ポリアミド酸ワニスを塗布する基板の例には、金属箔、ガラス等の無機基板、各種樹脂フィルム等が含まれる。ポリアミド酸ワニスの塗膜の厚みは、ポリアミド酸ワニスの固形分濃度にもよるが、脱溶媒、イミド化後のフィルム厚みが1mm以下となるように調整されることが好ましい。
【0078】
ポリアミド酸ワニスの塗布手段の例には、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーター、コンマコーター、カーテンコーター、バーコーター等の一般的な塗布手段が含まれる。これらの塗布手段は、ポリアミド酸ワニスの粘度や塗膜厚さに応じて適宜選択される。
【0079】
ポリアミド酸ワニスの乾燥手段の例には、電気加熱又はオイル加熱した熱風、赤外線等を熱源としたロールサポート、エアーフロート方式の乾燥炉等が含まれる。ポリイミド樹脂の変質や、金属箔の酸化による変色等を防止するため、乾燥雰囲気を空気以外の窒素、アルゴン、水素等のガスで置換してもよい。上記乾燥炉内でのポリアミド酸ワニスの搬送は、フィルムの両端をクリップテンターやピンテンター等で挟み張力をかけた状態で行われる。また、得られたイミドフィルムに対して、延伸を行ってもよい。製造されたフィルムは、通常、ロール等に巻き取られる。
【0080】
なお、面内位相差Reの測定(上述の工程(B))は、乾燥炉から搬出され、所定の温度まで冷却された、巻き取り前のポリイミドフィルムに対して行うことが好ましい。特に、巻き取り直前に面内位相差Reを行うことが、測定される面内位相差Reの信頼性の観点から好ましい。
【0081】
また本発明では、ポリイミドフィルムを加熱・延伸している過程、すなわち乾燥炉内部で面内位相差測定を行ってもよい。この場合、乾燥炉内でのポリイミドフィルムの配向状態をリアルタイムで評価することが可能となる。
【0082】
B.ポリイミドフィルム製造装置
本発明のポリイミドフィルム製造装置は、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な面内位相差Reの閾値を記憶する記憶機構と、検査対象のポリイミドフィルムを一定方向に搬送する搬送機構と、前記ポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定する測定機構とを少なくとも有し、必要に応じて、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさが、規格の範囲内であるかを判定する判定機構や、判定機構により判定された結果に基づき、ポリイミドフィルムの製造条件を制御する制御機構等を有する。
【0083】
本発明のポリイミドフィルム製造装置では、ポリイミドフィルムを、搬送機構により一定方向に搬送しながら、測定機構にてこのポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定する。測定機構により測定された面内位相差Reと、記憶機構に記憶された面内位相差の閾値とを比較することで、製造中のポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを迅速に判断し得、この結果を製造条件にフィードバックすることが可能である。したがって、線膨張係数の異方性の発生が抑制されたポリイミドフィルムを効率的に製造することができる。
【0084】
(記憶機構)
本発明のポリイミドフィルム製造装置に配置される記憶機構は、検査対象であるポリイミドフィルムの面内位相差Reの閾値を記憶する機構である。記憶機構としては、例えば閾値を入力するための入力部と、閾値を記憶するための記憶部とを備えるもの等とし得る。記憶部は、磁気ディスク、ハードディスク、CD−ROM等のあらゆるデータ可読媒体とし得る。
【0085】
記憶機構に記憶させる閾値は、前述のポリイミドフィルムの検査方法で説明した方法、すなわちポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさと、ポリイミドフィルムの面内位相差Reとの相関関係を把握し、この相関関係と、検査対象のポリイミドフィルムに許容可能な線膨張係数の異方性の大きさとから、算出された値であることが好ましい。
【0086】
(搬送機構)
ポリイミドフィルム製造装置に配置される搬送機構は、ポリイミドフィルムを一定速度で、一定方向に移動させることが可能な機構であれば特に制限はなく、例えば一般的なロールフィルムの搬送機構等とし得る。
上記搬送機構には、例えば搬送中にポリアミド酸ワニスの溶媒を乾燥及びポリアミド酸をイミド化するための加熱部や、乾燥風を吐出するための吐出部等が併設されていてもよい。また、ポリイミドフィルムを特定方向に延伸しながら、搬送する機構等であってもよい。
【0087】
(測定機構)
測定機構は、ポリイミドフィルムの面内位相差Reを測定する機構である。測定機構の機器の種類は、検査手法により適宜選択される。例えば平行ニコル回転法、直交ニコル回転法等が採用された面内位相差Reの測定装置の一般的な光学系位相差測定装置等とすることができる。
【0088】
測定機構は、前記搬送機構によるポリイミドフィルムの搬送時に、インラインで面内位相差Reを測定するよう、配置されることが好ましい。また測定機構は、例えば
図10に示すように、搬送機構によるポリイミドフィルムの搬送方向に対して、垂直方向(フィルムの幅方向)に、複数の光学系位相差測定装置を有する、もしくは
図11に示すように、搬送機構によるポリイミドフィルムの搬送方向に対して、垂直方向に走査可能な光学系位相差測定装置を有することが好ましい。
【0089】
(判定機構)
判定機構は、記憶機構に記憶された面内位相差の閾値を読み出し、上述の測定機構により測定された面内位相差Reと比較演算する機構であり、例えば比較演算の結果を、外部に出力する手段を備えることが好ましい。外部への出力方法としては、例えば比較演算結果をモニター等に出力する方法や、面内位相差Reが閾値を超えた場合には、エラー音を発生する等の出力方法が挙げられる。
【0090】
(製造条件制御機構)
製造条件制御機構は、上記判定機構で比較演算された結果に基づき、ポリイミドフィルムの各種製造条件を制御する機構とし得る。各種製造条件としては、(i)乾燥時又はイミド化時にポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)に負荷される張力、(ii)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の延伸倍率、(iii)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の加熱温度、(iv)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の加熱速度、(v)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)に吹き付ける乾燥風の風量、(vi)ポリイミドフィルム又はその前駆体(ポリアミド酸)の搬送速度等が挙げられる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
(実施例1)(1)試験片の面内位相差及び配向角の分光学的測定
図7に示すように、直交ニコル状態に配置した偏光子2と検光子8との間に、ポリイミドフィルム試験片4と位相差板6(530nm)とを配置し、透過率スペクトルを測定した。なお、ポリイミドフィルム試験片4としては、ロット番号がそれぞれ異なる東レデュポン社製のカプトンENフィルム(全芳香族ポリイミドフィルム)を6枚用いた。また、ハロゲンランプを光源とし、光ファイバーとマルチチャンネル分光器を検出器とした。
【0093】
測定波長範囲を450〜750nmとして白色光を照射し、試験片4を光の透過軸10を回転中心として回転させながら透過率スペクトルを測定した。測定した透過率スペクトルの波形を前記式(5)でフィッティングし、各試験片4の面内位相差を算出した。また、ポリイミドフィルムのMD方向を0°として、位相差が最大値となるときの回転角度からポリイミドフィルムの配向角を算出した。
【0094】
なお、上記測定前には、フィルム試験片4を偏光子2の前に設置、すなわち、光源、フィルム試験片4、偏光子2、検光子8、検出器の順に配置した状態でキャリブレーションを行い、ポリイミドフィルム試験片4の着色の寄与を考慮した。
【0095】
(2)フィルム試験片のΔCTE及び配向角の測定
上記(1)で用いたポリイミドフィルムと同一のフィルム試験片(10cm×10cm)14について、
図2に示すように、それぞれのフィルム試験片14から短冊状の測定用サンプル12を6枚ずつ(合計36枚)切り出した。なお、測定用サンプル12は、フィルム試験片14のMD方向軸を0°とし、そこから30°ずつ傾斜させ、合計で−30〜120°の範囲で切り出した。熱機械分析装置(商品名「TMA」シリーズ、島津製作所社製)を使用し、窒素気流下、昇温速度5℃/min、室温〜300℃の温度範囲の条件でそれぞれの測定用サンプルについてTMA試験を行い、100〜200℃の範囲内における線膨張係数(CTE)を測定した。
【0096】
それぞれの測定用サンプルについて測定された線膨張係数(CTE)の値(測定点25,35)を試験片ごとにプロットして、
図3及び4に示す線膨張係数楕円体20,30を作図した。その後、
図4に示す線膨張係数楕円体30の長軸半径bと短軸半径aの差(b−a)で表されるΔCTEを算出した。なお、算出したΔCTEは「フィルム試験片の線膨張係数の異方性の大きさS
1」に対応する。また、MD方向軸に対する、線膨張係数楕円体30の短軸の傾きθを算出してフィルム試験片の配向角とした。
【0097】
上記試験片について、分光学的手法により算出した波長600nmにおける面内位相差及び配向角、並びに線膨張係数測定により算出したΔCTE及び配向角の測定結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
(3)検量線の作成
各試験片について、分光学的手法により算出した面内位相差に対して、線膨張係数測定により算出したΔCTEをプロットしたグラフ(検量線)を作成した。作成した検量線を
図5に示す。また、下記式(7)を用いて相関係数Rを求めたところ、R
2=0.9188であった。
R
2=σ
tR2/σ
tσ
R ・・・(7)
(σ
tは線膨張係数楕円体における長軸半径と短軸半径の差(ΔCTE)の分散を示し、σ
Rは面内位相差の分散を示し、σ
tRはΔCTEと配向角との共分散を示す)
【0100】
また、各試験片について、分光学的手法により算出した配向角に対して、線膨張係数測定により算出した配向角をプロットしたグラフ(検量線)を作成した。作成した検量線を
図6に示す。また、下記式(8)を用いて相関係数Rを求めたところ、R
2=0.9197であった。
R
2=σ
Ao2/σ
Aσ
o ・・・(8)
(σ
Aはフィルム試験片の配向角の分散を示し、σ
oはポリイミドフィルムの配向角の分散を示し、σ
Aoはフィルム試験片の配向角とポリイミドフィルムの配向角との共分散を示す)
【0101】
図5に示すように、各試験片について、分光学的手法により算出した面内位相差と、線膨張係数の異方性の大きさS
1(ΔCTE)との間には、高い相関性が存在することが明らかである。これにより、ポリイミドフィルムの面内位相差を光学的に測定することで、ポリイミドフィルムの線膨張係数の異方性の大きさを予測可能であることが明らかである。
【0102】
また、
図6に示すように、光学的な手法により測定及び算出したフィルムの配向角と、TMA試験により測定及び算出したフィルムの配向角は、よく一致することが明らかである。