【文献】
Placement of biomaterials and cells on University of Michigan neuroprobes. ,Society for Neuroscience Abstracts,2000年,Vol. 26, No. 1-2,pp. Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
細胞接着性最小アミノ酸配列(X)が、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列(1)、LDV配列(2)、REDV配列(3)、YIGSR配列(4)、PDSGR配列(5)、RYVVLPR配列(6)、LGTIPG配列(7)、RNIAEIIKDI配列(8)、IKVAV配列(9)、LRE配列(10)、DGEA配列(11)及びHAV配列(12)からなる群より選ばれる少なくとも1種の配列である請求項1又は2に記載の生体組織用細胞接着性材料。
血管内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、神経細胞、肝実質細胞、膵ラ島細胞、腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞、メサンギウム細胞、上皮細胞、視細胞、角膜上皮細胞、角膜内皮細胞、間質細胞、骨芽細胞、骨細胞、破骨細胞、軟骨芽細胞、軟骨細胞、歯根膜細胞及びこれらの幹細胞からなる群より選ばれる少なくとも1種の細胞を接着させるために用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の生体組織用細胞接着性材料。
【発明を実施するための形態】
【0010】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、人工的に製造されるものであり、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって容易に製造できる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」又は「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報(対応するPCT出願;WO90/05177号パンフレット;これに開示された開示内容を参照により本出願に取り込む。)に記載されている方法等が適用できる。有機合成法及び遺伝子組み換え法とも、細胞接着性人工ペプチド(P)を作製できるが、細胞接着性人工ペプチド(P)のアミノ酸配列を容易に設計・変更でき、細胞接着性人工ペプチド(P)を安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0011】
「細胞接着性」とは、特定の最小アミノ酸配列が細胞のインテグリンレセプターに認識され細胞が基材に接着しやすくなる性質を意味する(大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年)。
【0012】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、動物由来成分の排除という観点から、遺伝子組換微生物によって合成され、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有するポリペプチドであることが好ましい。細胞接着性最小アミノ酸配列(X)としては、例えば、「病態生理、第9巻 第7号、527〜535頁、1990年」や「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58〜66頁、1992年」に記載されているもの等が用いられる。
【0013】
これらの最小アミノ酸配列(X)の中で、アミノ酸一文字表記で現わすと、RGD配列(1)、LDV配列(2)、LRE配列(10)、HAV配列(12)、REDV配列(3)、YIGSR配列(4)、PDSGR配列(5)、RYVVLPR配列(6)、LGTIPG配列(7)、RNIAEIIKDI配列(8)、IKVAV配列(9)、DGEA配列(11)、GVKGDKGNPGWPGAP配列(13)、GEFYFDLRLKGDK配列(14)、及びYKLNVNDS配列(15)、AKPSYPPTYK配列(16)、NRWHSIYITRFG配列(17)、TWYKIAFQRNRK配列(18)、RKRLQVQLSTRT配列(19)及びPHSRN配列(20)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、細胞接着性の観点等から、さらに好ましくはRGD配列(1)、LDV配列(2)、LRE配列(10)、HAV配列(12)、REDV配列(3)、YIGSR配列(4)、PDSGR配列(5)、RYVVLPR配列(6)、LGTIPG配列(7)、RNIAEIIKDI配列(8)、IKVAV配列(9)、DGEA配列(11)からなる群より選ばれる少なくとも1種、特に好ましくはRGD配列(1)、YIGSR配列(4)及びIKVAV配列(9)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0014】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、細胞接着性の観点から、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)を1分子中に少なくとも1個有することが好ましく、さらに好ましくは1分子中に3〜50個、つぎにさらに好ましくは1分子中に4〜30個、特に好ましくは1分子中に5〜20個、最も好ましくは1分子中に13個である。
【0015】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、熱に対する安定性の観点から、細胞接着性最小アミノ酸配列以外に、補助アミノ酸配列(Y)を含んでいることが好ましい。補助アミノ酸配列(Y)としては、GAGA
GS配列(21)等が挙げられる。補助アミノ酸配列(Y)を含んでなる場合、補助アミノ酸配列(Y)の含有量は、熱に対する安定性の観点から、細胞接着性人工ペプチド(P)の1分子中に、少なくとも2個が好ましく、さらに好ましくは3〜10,000個、特に好ましくは10〜3,000個、最も好ましくは30〜1,000個である。また、熱的安定性の観点から、補助アミノ酸配列(Y)は、(Y)
a(aは任意の整数)のように連続して繰返した形で含まれることが好ましく、例えば、(GAGA
GS)
a(aは任意の整数)が挙げられる。生産性の観点から、繰返し回数aの好ましい範囲は2〜33であり、さらに好ましくは3〜23、特に好ましくは4〜13である。
【0016】
細胞接着性人工ペプチド(P)が細胞接着性最小アミノ酸配列(X)及び補助アミノ酸配列(Y)を含有する場合、細胞接着性ペプチド(P)中の細胞接着性最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)との個数比率[(X)/(Y)]は、細胞接着性と熱に対する安定性の観点から、0.002〜10が好ましく、さらに好ましくは0.01〜2、特に好ましくは0.05〜0.5である。また、細胞接着性人工ペプチド(P)がβシート構造を取りやすいという観点から、細胞接着性最小アミノ酸配列(X)と補助アミノ酸配列(Y)とが交互に位置することが好ましい。
【0017】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、生体組織用材料の表面を多量かつ強固に修飾する観点から、側鎖にアミノ基及び/又はカルボキシル基を含有するアミノ酸の残基を持つことが好ましい。側鎖にアミノ基を含有するアミノ酸としては、例えば、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、ヒスチジン(His)及びグルタミン(Gln)が挙げられる。また、側鎖にカルボキシル基を含有するアミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸(Asp)及びグルタミン酸(Glu)が挙げられる。
【0018】
細胞接着性人工ペプチド(P)は、化合物(AM)でさらに修飾されていてもよい。化合物(AM)としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び/又は第4級アンモニオ基を含有する化合物(塩)(AM−1)、カルボキシル基を含有する化合物(AM−2)、スルホ基を含有する化合物(AM−3)及びヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)が含まれる。化合物(AM)で修飾されていると、本発明の生体組織用細胞接着性材料の細胞接着性がさらに良好となると共に、生体組織用材料を細胞接着性人工ペプチド(P)でさらに多量かつ強固に修飾できる。
【0019】
第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基及び/又は第4級アンモニオ基を含有する化合物(塩)(AM−1)としては、ポリアミン、アミノアルコール、アミノ基を有するハロゲン化物、アミノ基含有モノマー及びアミノ基含有モノマーを構成単量体とする重合体、並びにこれらの塩又は4級化物等が使用できる。
【0020】
ポリアミンとしては、少なくとも1個の第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有するポリアミン(炭素数2〜56)等が用いられ、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、複素環式ポリアミン及び芳香族ポリアミン等が用いられる。
【0021】
脂肪族ポリアミンとしては、アルキレンジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等)、アルキレン基の炭素数が2〜6であるポリアルキレンポリアミン(ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等)、及びこれらのアルキル(炭素数1〜18)置換体(ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、メチルエチルアミノプロピルアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N−ジオクタデシルエチレンジアミン、トリオクタデシルエチレンジアミン及びメチルイミノビスプロピルアミン等)等が挙げられる。
【0022】
脂環式ポリアミンとしては、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ビス(メチルアミノ)シクロヘキサン、1,3−ビス(ジヒドロキシアミノ)シクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン及び4,4’−メチレンジシクロヘキサンジアミン等が挙げられる。
【0023】
複素環式ポリアミンとしては、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−アミノエチルピペラジン及び1,4−ジアミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0024】
芳香族ポリアミンとしては、フェニレンジアミン、N,N’−ジメチルフェニレンジアミン、N,N,N’−トリメチルフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン及び2,6−ジアミノピリジン、トリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4’−ビス(メチルアミノ)ジフェニルメタン及び1−メチル−2−メチルアミノ−4−アミノベンゼン等が挙げられる。
【0025】
アミノアルコールとしては、炭素数2〜58のアミノアルコール等が用いられ、炭素数2〜10のアルカノールアミン[モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN,N、N’、N’−テトラキス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等]、これらのアルキル(炭素数1〜18)置換体[N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−オクタデシルジエタノールアミン、N,N−ジエチル−N’,N’−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N−ジオクタデシル−N’,N’−ビス(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン及びN,N,N’−トリオクタデシル−N’−ヒドロキシエチルエチレンジアミン等]等が挙げられる。
【0026】
アミノ基を有するハロゲン化物としては、炭素数2〜17のアルキルアミンのハロゲン(塩素及び臭素等)化物等が用いられ、アミノエチルクロリド、N−メチルアミノプロピルクロリド、ジメチルアミノエチルクロリド、ジエチルアミノエチルクロリド、ジベンジルアミノエチルブロミド、ジメチルアミノプロピルブロミド、ジエチルアミノプロピルクロリド及びジベンジルアミノプロピルクロリド等が挙げられる。
【0027】
アミノ基含有モノマーとしては、炭素数5〜21のアミノ基含有ビニル化合物、エチレンイミン及び炭素数2〜20のアミノ酸等が用いられる。
【0028】
アミノ基含有ビニル化合物としては、アミノ基含有(メタ)アクリレート、アミノ基含有(メタ)アクリルアミド、アミノ基含有芳香族ビニル炭化水素及びアミノ基含有アリルエーテル等が用いられる。
【0029】
アミノ基含有(メタ)アクリレートとしては、アミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−ベンジル−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジベンジルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート及びN−メチルピペリジノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0030】
アミノ基含有(メタ)アクリルアミドとしては、アミノエチルアクリルアミド、N−メチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル−N−メチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノエチル(メタ)アクリルアミド及びN−メチルピペリジノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0031】
アミノ基含有芳香族ビニル炭化水素としては、アミノエチルスチレン、N−メチルアミノエチルスチレン、N,N−ジメチルアミノスチレン、N,N−ジプロピルアミノスチレン及びN−ベンジル−N−メチルアミノスチレン等が挙げられる。
【0032】
アミノ基含有アリルエーテルとしては、アミノエチルアリルエーテル、N−メチルアミノエチルアリルエーテル、N,N−ジメチルアミノエチルアリルエーテル及びN,N−ジエチルアミノエチルアリルエーテル等が挙げられる。
【0033】
アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、システイン、リシン、セリン、グリシン、3−アミノプロピオン酸、8−アミノアクタン酸及び20−アミノエイコサン酸等が挙げられる。
【0034】
アミノ基含有モノマーの重合体としては、アミノ基含有ビニル化合物を必須構成単量体とするビニルポリマー、ポリエチレンイミン及びポリペプチド(細胞接着性人工ポリペプチド(P)は含まない。)等が挙げられる。
アミノ基含有モノマーの重合体の重量平均分子量は、500〜100万が好ましく、さらに好ましくは1,000〜80万、特に好ましくは2,000〜50万である。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる{基準物質:分子量420〜20,600,000のポリスチレンスタンダード(東ソー製)等}。
【0035】
これらの塩としては、これらのアミン(ポリアミン、アミノアルコール、アミノ基を有するハロゲン化物、アミノ基含有モノマー及びアミノ基含有モノマーを構成単量体とする重合体)の無機塩(塩酸塩、硝酸塩及び過塩素酸塩等)等が挙げられる。
【0036】
これらの4級化物としては、これらのアミンを4級化剤(メチルクロリド、エチルクロリド、ベンジルクロリド、ジメチル炭酸、ジメチル硫酸及びエチレンオキシド等)によって4級化したもの等が挙げられる。
【0037】
これらのアミノ基(第1〜3級)及び/又は第4級アンモニオ基を含有する化合物(塩)(AM−1)のうち、細胞接着性の観点から、アミノ基を有するハロゲン化物及びこの塩が好ましく、さらに好ましくは塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド、ジメチルアミノエチルクロリド及びジエチルアミノエチルクロリド、特に好ましくはジメチルアミノエチルクロリドである。
【0038】
カルボキシル基を含有する化合物(AM−2)としては、炭素数1〜30のカルボン酸及び炭素数2〜30のハロゲン置換カルボン酸が含まれる。
【0039】
炭素数1〜30のカルボン酸としては、ぎ酸、酢酸、プロピオン酸、こはく酸、グリコール酸、グルコン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、くえん酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、マレイン酸、フマル酸、ピルビン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、安息香酸、アントラニル酸、メシル酸、サリチル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、フェニル酢酸及びトリコサン酸等が挙げられる。
【0040】
炭素数1〜30のハロゲン置換カルボン酸としては、3-クロロプロピオン酸、p−クロロ安息香酸、ω−ブロモトリコサン酸及びクロロぎ酸が挙げられる。
【0041】
これらのカルボキシル基を含有する化合物(AM−2)のうち、細胞接着性の観点から、ハロゲン置換カルボン酸が好ましく、さらに好ましくはクロロ酢酸である。
【0042】
スルホ基を含有する化合物(AM−3)としては、炭素数2〜30のスルホン酸及び炭素数2〜30のハロゲン置換スルホン酸が含まれる。
【0043】
炭素数2〜30のスルホン酸としては、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パントテン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、スルファニル酸、シクロヘキシルアミノスルホン酸及びトリコサンスルホン酸等が挙げられる。
【0044】
炭素数2〜30のハロゲン置換スルホン酸としては、クロロスルホン酸、クロロエタンスルホン酸、3−ブロモプロパンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸及びω−ブロモトリコサンスルホン酸等が挙げられる。
【0045】
これらのスルホ基を含有する化合物(AM−3)のうち、細胞接着の観点から、ハロゲン置換スルホン酸が好ましく、さらに好ましくはクロロエタンスルホン酸である。
【0046】
ヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)としては、炭素数1〜4のアルコール及び炭素数1〜4の水酸基含有ハロゲン化物が含まれる。
【0047】
炭素数1〜4のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール及びt−ブタノール等が挙げられる。
【0048】
水酸基含有ハロゲン化物としては、クロロエタノール、クロロプロパノール、ブロモエタノール及び4−クロロブタノール等が挙げられる。
【0049】
これらのヒドロキシル基を含有する化合物(AM−4)のうち、細胞接着性の観点から、水酸基含有ハロゲン化物が好ましく、さらに好ましくはクロロエタノールである。
【0050】
化合物(AM)で修飾する方法としては、(1)化合物(AM)と、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)とを化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる方法、並びに、(2)化合物(AM)を修飾前の細胞接着性人工ポリペプチド(P’)に物理吸着(ファンデルワールス力による吸着)させる方法等が適用できる。
これらのうち、結合強度の観点等から、(1)の化学結合させる方法が好ましく、さらに好ましくは共有結合させる方法である。
【0051】
(1)化合物(AM)と、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)とを化学結合{共有結合、イオン結合及び/又は水素結合等}させる場合、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)は、反応性基{水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、及び1級又は2級アミノ基等}をもつアミノ酸残基を含むことが好ましい。反応性基のうち、化学結合形成の容易さの観点から、水酸基、カルボキシル基及び1級アミノ基が好ましく、さらに好ましくは水酸基及びカルボキシル基、特に好ましくは水酸基である。反応性基をもつアミノ酸残基としては、上記の側鎖にアミノ基及び/又はカルボキシル基を含有するアミノ酸の残基が含まれる。
【0052】
修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)が反応性基をもつアミノ酸残基を含む場合、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)の1分子中に反応性基を少なくとも1個有すればよいが、生体組織用材料に対する結合性の観点から(生体組織用材料を細胞接着性人工ペプチド(P)でさらに多量かつ強固に修飾するため)、1分子中に2〜50個有するものが好ましく、さらに好ましくは1分子中に3〜30個、特に好ましくは1分子中に5〜20個有するものである。
【0053】
化学結合させる方法としては、公知の方法が適用でき、たとえば、特許文献1(特開2007−51127号公報)等に記載の方法が挙げられる。化学結合形成反応には反応溶媒を使用してもよく、反応溶媒としては公知のものが使用でき、例えば、水、臭化リチウム水溶液、過塩素酸リチウム水溶液、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルアセトアミド及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0054】
化合物(AM)と修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)とを共有結合させる具体例としては、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)が側鎖に水酸基を含有するアミノ酸(例えば、Ser及びTyr)残基をもつ場合、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)と、化合物(AM)のうち、アミノ基を有するハロゲン化物、ハロゲン置換カルボン酸、ハロゲン置換スルホン酸又は水酸基含有ハロゲン化物とを反応(ウリアムソン合成法)させて、エーテル結合を形成させる方法、及び側鎖にカルボキシル基を含有するアミノ酸(例えば、Asp及びGlu)残基をもつ場合、修飾前の細胞接着性人工ペプチド(P’)と、化合物(AM)のうち、アミノアルコールとを反応させて、エステル結合を形成させる方法等が挙げられる。
【0055】
細胞接着性人工ペプチド(P)の好適な例を以下に示す。
RGD配列(1)の13個と(GAGAGS)
9配列(22)の12個とを有し、これらが交互に位置する構造を有する数平均分子量(Mn)約11万のペプチド(23){「プロネクチンF」、プロネクチンは三洋化成工業(株)の登録商標(日本及び米国)である。三洋化成工業(株)製<以下同じ>};
【0056】
RGD配列(1)の5個と(GAGAGS)
3配列(24)の5個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約2万のペプチド(25)(「プロネクチンF2」);
【0057】
RGD配列(1)の3個と(GAGAGS)
3配列(24)の3個とを有しこれらが交互に位置する構造を有するMn約1万のペプチド(26)(「プロネクチンF3」);
【0058】
RGD配列(1)の6個とRKLPDA配列(27)の6個と(GAGAGS)
9配列(22)の12個とを有し、これらがRGD配列(1)、(GAGAGS)
9配列(22)、RKLPDA配列(27)、(GAGAGS)
9配列(22)の順に交互に位置する構造を有するMn約11万のペプチド(28)(「プロネクチンFT」);
【0059】
「プロネクチンF」のSer残基に対してアミノ酸配列RKLPDA配列(27)を化学結合したMn約12万のペプチド(「プロネクチンFT2」)等。
【0060】
細胞接着性人工ペプチド(P)の数平均分子量(Mn)は、細胞接着性、生体組織用材料に対する結合性及び熱に対する安定性の観点から、300〜3,000,000が好ましく、さらに好ましくは1,000〜1,000,000、特に好ましくは3,000〜300,000である。なお、細胞接着性人工ペプチド(P)の数平均分子量(Mn)は、SDS−PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法で、細胞接着性人工ペプチド(P)を分離し、泳動距離を標準物質と比較することによって求めるものである。
【0061】
細胞接着性人工ペプチド(P)を生体組織用材料の表面に固定する電気化学反応とは、電気化学系において電気化学ポテンシャルが他動的要因によって変化する反応であり、物質の電極面へ向かっての移動、電極面への吸着、電極面での解離及び電子の授受等の過程を経過する反応であると考えられる。すなわち、細胞接着性人工ペプチド(P)のアミノ基にプロトンが付加してアンモニウム陽イオンとなり、陰極に向かって移動し、アンモニウム陽イオンは、陰極面に吸着され、陰極面において、アミノ基とプロトンに解離し、プロトンに陰極から電子が与えられ、水素ガスが発生するものと考えられる。一方、アミノ基の孤立電子対の電子は、陰極である金属の自由電子と共有され、細胞接着性人工ペプチド(P)のアミノ基と陰極である生体組織用材料との間には強い結合が形成され、通電を停止した後もこの強い結合が保持されるものと考えられる。
【0062】
本発明の生体組織用細胞接着性材料の製造方法としては、例えば、細胞接着性人工ペプチド(P)を溶解した溶液に生体組織用材料と電極とを浸漬し、生体組織用材料を陰極とし、電極を陽極とし、両極間に電圧(電荷)を加えることにより、細胞接着性人工ペプチド(P)を生体組織用材料の表面に電気化学反応により固定する方法が適用できる。
【0063】
細胞接着性人工ペプチド(P)を溶解する溶媒としては、細胞接着性人工ペプチド(P)を1ng/ml以上溶解できるものであれば限定されない。例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホオキシド及び過塩素酸塩水溶液(過塩素酸リチウム水溶液等)等が挙げられ、細胞親和性の観点から、水及び過塩素酸塩水溶液が好ましい。
【0064】
細胞接着性人工ペプチド(P)を溶解する溶媒には、無機電解質を溶解しておくことが好ましい。溶解する無機電解質としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の塩化物を用いることができ、塩化ナトリウム、塩化カリウム及び塩化カルシウム等が挙げられる。無機電解質を溶解しておくことにより、細胞接着性人工ペプチド(P)の溶液が電気伝導性を有し、電荷を印可することにより電気化学反応が進行しやすくなると共に、生体組織用材料に向かって細胞接着性人工ペプチド(P)が移動しやすくなる。無機電解質を用いる場合、無機電解質の濃度は、溶媒の重量に対し、1〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは2〜4重量%である。この範囲であると、水溶液の電気伝導性がさらに向上し、また、無機電解質に由来するイオンが金属表面に吸着することを抑制できる。
【0065】
細胞接着性人工ペプチド(P)の濃度は、細胞接着性人工ペプチド(P)の溶液の体積を基準として、電気化学反応の進行しやすさの観点から、0.1〜1000μg/mlが好ましく、さらに好ましくは1〜100μg/mlである。この範囲であると、結合量がさらに十分となり、さらに十分な細胞接着性や細胞増殖性を発現する。
【0066】
陰極(生体組織用材料)と陽極との間に与える電圧は、0.1〜10Vが好ましく、さらに好ましくは1〜7Vである。この範囲であると、さらに均一な皮膜{細胞接着性人工ペプチド(P)からなる皮膜}が形成され、皮膜の形成時間がさらに短縮できる。
【0067】
印可する電流密度は、陰極の表面積に対して、1×10
−7〜5×10
−5A/dm
2が好ましく、さらに好ましくは5×10
−8〜1×10
−5A/dm
2である。この範囲であると、さらに均一な皮膜{細胞接着性人工ペプチド(P)からなる皮膜}が形成され、皮膜の形成時間がさらに短縮できる。
【0068】
本発明の生体組織用細胞接着性材料に接着できる細胞としては、昆虫細胞、植物細胞及び動物細胞が含まれる。これらの細胞のうち、細胞接着性の観点から、動物細胞が好適であり、哺乳動物細胞が特に適している。哺乳動物としては、有袋目(カンガルー等)、霊長目(サル、チンパンジー及びヒト等)、齧歯目(リス、ネズミ及びヤマアラシ等)、鯨目(イルカ、シャチ及びクジラ等)、食肉目(イヌ、キツネ、クマ、ネコ、ライオン及びトラ等)、奇蹄目(ウマ、ロバ及びサイ等)及び偶蹄目(イノシシ、ブタ、ラクダ、シカ、ウシ、ヤギ及びヒツジ等)等の生物学辞典[岩波書店発行、1969年]に記載されている哺乳動物が挙げられる。哺乳動物のうち、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ及びブタが好ましく、さらに好ましくはヒトである。哺乳動物細胞としては、例えば、血管に関与する細胞(血管内皮細胞、平滑筋細胞及び線維芽細胞等)、筋肉に関与する細胞(筋肉細胞等)、脂肪に関与する細胞(脂肪細胞等)、神経に関与する細胞(神経細胞等)、肝臓に関与する細胞(肝実質細胞等)、膵臓に関与する細胞(膵ラ島細胞等)、腎臓に関与する細胞(腎上皮細胞、近位尿細管上皮細胞及びメサンギウム細胞等)、肺・気管支に関与する細胞(上皮細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞及び平滑筋細胞)、目に関与する細胞(視細胞、角膜上皮細胞及び角膜内皮細胞等)、前立腺に関与する細胞(上皮細胞、間質細胞及び平滑筋細胞)、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯に関与する細胞(歯根膜細胞、歯髄細胞、エナメル芽細胞、象牙芽細胞、エナメル細胞及び象牙細胞)、及びこれらの幹細胞が挙げられる。これらの細胞のうち、骨に関与する細胞(骨芽細胞、骨細胞及び破骨細胞等)、軟骨に関与する細胞(軟骨芽細胞及び軟骨細胞等)、歯、歯肉に関与する細胞(歯根膜細胞、歯肉上皮細胞及び骨芽細胞)、及びこれらの幹細胞(間葉系幹細胞及び胚性幹細胞等)が好ましい。
【0069】
生体組織用材料としては、金属や電気伝導性セラミックス等が挙げられる。金属としては、チタン、鉄、ステンレス鋼、ジルコニウム、タンタル、白金、金及びこれらを二種以上有する複合材料等が挙げられる(移植と人工臓器、岩波講座 現代医学の基礎14、株式会社岩波書店発行及び特開平7−88174号公報等)。複合材料としては、チタン合金(Ti−6Al−4V及びTi−6Al−2Nb−1Ta等)及びコバルトクロム合金等が挙げられる。また、電気伝導性セラミックスとしては、ホウ化チタン(TiB
2)、炭化ケイ素(SiC)及び導電性ジルコニア等が挙げられる。生体適合性の観点から、チタン及びチタン合金が好ましい。
【0070】
生体組織用材料の形状は、特に制限が無く、例えば、人工股関節の形状、人工膝関節の形状、人工歯根の形状、及び骨補・材料の形状など「移植と人工臓器(岩波講座 現代医学の基礎14)、株式会社岩波書店発行」に記載の形状等が挙げられる。
【0071】
生体組織用材料の表面積{細胞と接着し得る表面積}(M)に対する細胞接着性人工ペプチド(P)が固定される面積(N)の比率{(細胞接着性人工ペプチド(P)の被覆面積率)=(N)×100/(M)}は、細胞接着性の観点から、50〜100%が好ましく、さらに好ましくは80〜100%である。
【0072】
細胞接着性人工ポリペプチド(P)の被覆面積率は、細胞接着性人工ペプチド(P)と抗体反応性を示す抗体を用いた免疫化学染色により、細胞接着性人工ペプチド(P)が固定される面積(N)を求め{写真撮影(株式会社ニコン製一眼レフカメラD70、倍率10倍)した画像を解析することにより求められる。}、この面積(N)と生体組織用材料の表面積{細胞と接着し得る表面積}(M)とから算出される。
【0073】
細胞接着性人工ペプチド(P)の結合量としては、生体組織用材料の表面積に基づいて、細胞接着性の観点から、0.1〜1000ng/mm
2が好ましく、さらに好ましくは1〜100ng/mm
2である。
【0074】
細胞接着性人工ペプチド(P)の結合量は、生体組織用細胞接着性材料を酸溶液に浸漬し、細胞接着性人工ペプチド(P)をアミノ酸に加水分解した後、酸溶液中のアミノ酸の濃度(α)(mol/L)をTNBS法(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸吸光光度法)により求めて、この濃度(α)と、細胞接着性人工ペプチド(P)1モルを構成するアミノ酸のモル数(β)と、細胞接着性人工ペプチド(P)の分子量(γ)と、生体組織用材料の表面積{細胞と接着し得る表面積}(M)とから、式:(結合量)={(α/β)×γ}/Mにより算出される。
【0075】
本発明の生体組織用細胞接着性材料は、各種細胞との良好な接着性を有するので、様々な生体内で機能する医療用器具の材料として用いることができ、細胞接着性の観点から好ましくは人工臓器用基材、歯科用基材、整形外科用基材及び眼科用基材に用いることができる。
【0076】
本発明の生体組織用細胞接着性材料は、各種細胞との良好な接着性を有する生体組織用細胞接着性材料であるので、生体埋め込み用の医療用器具であるインプラント、骨固定剤、骨ケージ、歯科用インプラント、カテーテル、ガイドワイヤ、ステント、及び人工関節として好適である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
<実施例1>
特表平3−502935号公報(対応するPCT出願;WO90/05177号パンフレット;これに開示された開示内容を参照により本出願に取り込む。)中の実施例記載の方法に準じて、RGD配列(1)の13個と(GAGAGS)
9配列(22)の12個とを有し、これらが交互に位置する構造を有する数平均分子量(Mn)約11万のペプチド(23){細胞接着性人工ペプチド(P1−0)}を遺伝子組換え大腸菌により製造した。
【0079】
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)50mgと塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド(特級試薬)150mgとを4.5M過塩素酸リチウム水溶液1.5mLに20〜40℃で溶解した後、その溶液を20〜40℃で攪拌しながら、水酸化ナトリウム(特級試薬)100mgを溶解した4.5M過塩素酸リチウム水溶液1.325mLを45〜50秒間かけて一定速度で滴下し仕込んだ。室温(25℃)で1時間攪拌したのち、反応液を分画分子量12,000〜14,000の透析膜を用いて、脱イオン水10Lに対して48時間透析した。なお、最初の12時間は、4時間経過毎に脱イオン水を交換した。得られた水溶液を、−20℃、0.1kPa以下の条件で、24時間凍結乾燥して、水溶性の細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を得た。
【0080】
導入された塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリドの数は、特表平10−500701公報(対応するPCT出願;WO96/16168号パンフレット;これに開示された開示内容を参照により本出願に取り込む。)中の実施例記載の方法に準じて、測定した結果、水溶性の細胞接着性人工ペプチド(P1−1)1分子中に12個であった。
【0081】
このようにして得た細胞接着性人工ペプチド(P1−1)が5μg/mlとなるように0.9重量%塩化ナトリウム水溶液に溶解して得た水溶液300mlを、高さ200mm、底面の内径135mmのガラス製電解槽に入れた。そして、白金電極(棒状)を陽極とし、生体組織用材料(チタンプレート、100mm×100mm×0.1mmの直方体)(ニラコ社製)を陰極としマグネチックスターラーで撹拌子を回転して水溶液を撹拌しながら、両極間に3.0Vの電圧を加えて10分間通電し、電気化学反応を行った(電流密度3×10
−5A/dm
2、電極間距離5cm、水溶液の温度4℃)。
【0082】
通電を停止したのち、チタンプレートを脱イオン水500mLに浸漬し直ぐに取り出す洗浄操作を3回行い、次いで、60℃の循風乾燥機の中で2時間乾燥し、チタン表面に細胞接着性人工ペプチド(P1−1)が固定された本発明の生体組織用細胞接着性材料(A1)を得た。
【0083】
この生体組織用細胞接着性材料(A1)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−1)の結合量を、公知のトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法{生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)等}により定量した結果、製造直後の結合量(J)は70ng/mm
2であった。
【0084】
<実施例2>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を細胞接着性人工ペプチド(P1−0)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、本発明の生体組織用細胞接着性材料(A2)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A2)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−0)の製造直後の結合量(J)は、70ng/mm
2であった。
【0085】
<実施例3>
塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリド(特級試薬)をクロロ酢酸(特級試薬)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、細胞接着性人工ペプチド(P1−2)を得た。細胞接着性人工ペプチド(P1−2)に導入されたクロロ酢酸の数は、1分子中に12個であった。
【0086】
さらに細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を細胞接着性人工ペプチド(P1−2)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、本発明の生体組織用細胞接着性材料(A3)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A3)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−2)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0087】
<
参考例4>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)をRGD配列の5個と(GAGAGS)
3配列(24)の5個とを有しこれらが交互に位置する構造を有する数平均分子量(Mn)約2万のペプチド(P2−0)(特表平3−502935号公報中の実施例記載の方法に準じて調製した)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、
参考用の生体組織用細胞接着性材料(A4)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A4)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P2−0)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0088】
<
参考例5>
細胞接着性人工ペプチド(P1−0)を細胞接着性人工ペプチド(P2−0)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、細胞接着性人工ペプチド(P2−1)を得た。細胞接着性人工ペプチド(P2−1)に導入された塩酸N,N−ジメチルアミノエチルクロリドの数は、1分子中に6個であった。
【0089】
さらに細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を細胞接着性人工ペプチド(P2−1)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、
参考用の生体組織用細胞接着性材料(A5)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A5)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P2−1)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0090】
<
参考例6>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)をYIGSR配列(4)の5個と(GAGAGS)
3配列(24)の5個とを有しこれらが交互に位置する構造を有する数平均分子量(Mn)約2万のペプチド(P3−0)(特表平3−502935号公報中の実施例記載の方法に準じて調製した)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、
参考用の生体組織用細胞接着性材料(A6)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A6)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P3−0)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0091】
<
参考例7>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)をIKVAV配列(9)の5個と(GAGAGS)
3配列(24)の5個とを有しこれらが交互に位置する構造を有する数平均分子量(Mn)約2万のペプチド(P4−0)(特表平3−502935号公報中の実施例記載の方法に準じて調製した)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、
参考用の生体組織用細胞接着性材料(A7)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(A7)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P4−0)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0092】
<比較例1>
「両極間に3.0Vの電圧を加えて10分間通電し、電気化学反応を行った」を実施しなかったこと以外、実施例1と同様にして、比較用の生体組織用細胞接着性材料(B1)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(B1)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−1)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0093】
<比較例2>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)と3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン各々200μg/gの濃度で脱イオン水に溶解した溶液を作製し、これらを等量混合した溶液200mL中に生体組織用材料(チタンプレート、100mm×100mm×0.1mmの直方体)を浸漬し、20〜30℃で2時間放置した。その後、チタンプレートを取り出し、脱イオン水200mLに浸漬し直ぐに取り出す洗浄操作を3回行い、次いで、60℃の循風乾燥機の中で2時間乾燥して、比較用の生体組織用細胞接着性材料(B2)を得た。この生体組織用細胞接着性材料(B2)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−1)の製造直後の結合量(J)は、90ng/mm
2であった。
【0094】
<比較例3>
「両極間に3.0Vの電圧を加えて10分間通電し、電気化学反応を行った」を実施しなかったこと、及び細胞接着性人工ペプチド(P1−1)を細胞接着性人工ペプチド(P1−0)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、比較用の生体組織用細胞接着性材料(B3)得た。この生体組織用細胞接着性材料(B3)に結合された細胞接着性人工ペプチド(P1−1)の製造直後の結合量(J)は、60ng/mm
2であった。
【0095】
<比較例4>
細胞接着性人工ペプチド(P1−1)をウシ血清アルブミン(BSA)に変更したこと以外、実施例1と同様にして、比較用の生体組織用細胞接着性材料(B4)得た。この生体組織用細胞接着性材料(B4)に結合されたウシ血清アルブミン(BSA)の製造直後の結合量(J)は、50ng/mm
2であった。
【0096】
<評価1>
(チタンプレートと細胞接着性人工ペプチドの結合強度評価:超音波洗浄後の結合量)
試験片{生体組織用細胞接着性材料(A1)〜(A7)及び(B1)〜(B4)}を0.5重量%ドデシル硫酸ナトリウム(特級試薬)水溶液500mLに浸漬し、超音波洗浄器(テックジャム社製WS−600−28S、28kHz)内で10分間超音波を加えた後、試験片を取り出し、脱イオン水500mLに浸漬し直ぐに取り出す洗浄操作を3回行い、次いで、60℃の循風乾燥機の中で2時間乾燥した。試験片に結合している細胞接着性人工ペプチド又はウシ血清アルブミン(BSA)の結合量を実施例1と同様にしてトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)法により定量した。これらの結果を表1に示す。
【0097】
<評価2>
(歯肉上皮増殖試験評価)
試験片{生体組織用細胞接着性材料(A1)〜(A7)及び(B1)〜(B4)を6×6mm×0.1mmに切断した直方体}を用いて、以下のようにして歯肉上皮増殖率(%)を求めた。
【0098】
ウサギ上顎頬側歯肉を生検トレパン(直径6mm)にて歯肉を取り除き、前歯側面を剥き出しにした後、剥き出しとなった前歯側面に試験片(6×6mm×0.1mm)を装着し、試験片の四隅に歯肉を被せて、試験片を固定した。
【0099】
試験片の固定直後に、試験片の6×6mmの面に対して垂直方向から写真撮影(株式会社ニコン製一眼レフカメラD70、倍率10倍)して、得られた写真画像において露出している試験片の面積を測定した(面積G)。
【0100】
3日後、試験片を上記と同様に写真撮影して、得られた写真画像において露出している試験片の面積を測定した(面積H)。
【0101】
上記の測定した面積から、歯肉上皮増殖率(%)を下記式から算出し、結果を表1に示した。
歯肉上皮増殖率(%)=〔1−(面積H/面積G)〕×100
【0102】
<評価3>
(チタンプレートとウサギ上顎頬側歯肉との接着強度評価)
試験片{生体組織用細胞接着性材料(A1)〜(A7)及び(B1)〜(B4)を4×8mm×0.1mmに切断した直方体}を用いて、以下のようにして接着強度を求めた。
【0103】
ウサギ上顎頬側歯肉にメスにて口側から喉側の方向に4mm程度の切れ込みを入れた後、この切れ込みに試験片(4×8mm×0.1mm)を前歯に平行になるようにして挿入した。
【0104】
8日後、試験片を挿入した上顎を摘出して、オートグラフ(島津製作所社製AG−500)を使って、歯肉と試験片とを引っ張り試験し、最大引張強度(MPa)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0105】
<評価4>
(チタンプレートとラット上顎頬側歯肉との接着強度評価)
試験片{生体組織用細胞接着性材料(A1)〜(A7)及び(B1)〜(B4)を4×0.1×0.1mmに切断した立方体}を用いて以下のようにして接着強度を求めた。
【0106】
ラット上顎頬側歯肉をメスにて剥ぎ取り、歯を露出させた後、露出させた歯にドリルで深さ4mm、1φmmの穴を空けた。この穴に試験片(4×0.1×0.1mm)を挿入した。
【0107】
8日後、試験片を挿入した上顎を摘出して、オートグラフ(島津製作所社製AG−500)を使って、上顎と試験片とを引っ張り試験し、最大引張強度(MPa)を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
細胞接着性人工ペプチド又はウシ血清アルブミン(BSA)の製造直後の結合量の測定結果<評価1>から、実施例1〜
3、参考例4〜7及び比較例1〜3のすべてについて60ng/mm
2以上であり、細胞接着性人工ペプチドを用いた場合がBSAを用いた場合(比較例4)よりもチタンプレートへの結合力が強いことが分かる。また、製造直後と超音波洗浄後の比較から、本発明の生体組織用細胞接着性材料(実施例1〜
3)、
参考用の生体組織用細胞接着性材料(参考例4〜7)及び比較用の生体組織用細胞接着性材料(比較例2及び4)は、浸漬接着させた生体組織用細胞接着性材料(比較例1及び3)よりも、細胞接着性人工ペプチド(またはBSA)が生体組織用材料に強固に結合していることが分かる。
【0110】
歯肉表皮増殖率の結果<評価2>から、本発明の生体組織用細胞接着性材料(実施例1〜
3)
及び参考用の生体組織用細胞接着性材料(参考例4〜7)は、比較用の生体組織用細胞接着性材料(比較例1〜4)よりも有意に歯肉上皮増殖率が高く、細胞増殖性に優れていることが分かる。さらに、最大引張強度の結果<評価3、4>から、ウサギ上顎頬側歯肉を使用した場合及びラット上顎頬側歯肉を使用した場合共に、本発明の生体組織用細胞接着性材料(実施例1〜
3)
及び参考用の生体組織用細胞接着性材料(参考例4〜7)は、比較用の生体組織用細胞接着性材料(比較例1〜4)よりも有意に最大引張強度が高く、生体組織用材料と細胞の接着性にも優れていることが分かる。
【0111】
以上の結果から、本発明の生体組織用細胞接着性材料は、生物活性を保持した細胞接着性人工ペプチド(P)が生物活性を維持した状態で多量に固定化され、細胞接着性、細胞増殖性及び組織接着性に優れた医用機器に適用できることが分かる。