特許第5881622号(P5881622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許58816221つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための方法及び反応器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881622
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための方法及び反応器
(51)【国際特許分類】
   B01F 5/02 20060101AFI20160225BHJP
   D21D 5/00 20060101ALI20160225BHJP
   B01F 3/08 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   B01F5/02 Z
   D21D5/00
   B01F3/08 Z
【請求項の数】13
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-556559(P2012-556559)
(86)(22)【出願日】2011年3月9日
(65)【公表番号】特表2013-522480(P2013-522480A)
(43)【公表日】2013年6月13日
(86)【国際出願番号】FI2011050205
(87)【国際公開番号】WO2011110745
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】20105231
(32)【優先日】2010年3月10日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】506118559
【氏名又は名称】ウエテンド テクノロジーズ オサケユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レセネン、ヤリ
(72)【発明者】
【氏名】マトゥラ、ヨウニ
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−512463(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/103854(WO,A1)
【文献】 特開2002−098414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F7/00−7/32
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための方法であって、
該方法において該処理液は、長さ及び流れ体積を有する反応ゾーンを伴うインライン反応器(10)として機能するフローパイプ(12)内を流され、
該インライン反応器(10)には、該インライン反応器(10)の内側の流れ体積内に設けられた少なくとも一つの電極棒(16)の形、及び前記電極棒(16)から分離され、かつ、前記フローパイプ(12)の内側表面上に設けられた1つ又は複数の電極(20)の形、の電気的手段(16、20)が設けられている、方法において、
a)該インライン反応器(10)に、少なくとも1つの噴射混合機/混合機ステーション(24、24’、24’’)を備えること、
b)該少なくとも1つの化学物質を、該少なくとも1つの噴射混合機/混合機ステーション(24、24’、24’’)を用いて、噴射し、該インライン反応器(10)内に存在する該処理液と混合すること、
c)該化学物質を、別の化学物質又は実際の前記処理液中に存在する材料のいずれかと反応させて反応生成物を形成すること、並びに
d)i)該電極(16及び20)を電圧源/制御システム(18)に接続して該電極間に電界を形成し、かつ該電極近傍の液体流のpHが望ましい形で変化するように該電極(16及び20)に電流を指向させること、及び
ii)該電極を清浄に保つために該電極(16、20)のペアの極性を変化させるように該制御システムを(18)を設定すること、
により、該化学物質(単数若しくは複数)又は該反応生成物のいずれかが該インライン反応器(10)の表面又はそれに接続された装置の表面に沈殿するのを防止すること
を特徴とする、上記方法。
【請求項2】
前記噴射が前記処理液の流れ方向に対して本質的に垂直に行われる、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記噴射が前記処理液の流れ速度より本質的に高い速度で行われる、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記d)i)において、特定の間隔、又は特定の電位の差で極性を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電極(16、20)が、導電性材料からなり、又は導電性材料により被覆されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化学反応の進行が1つ若しくは複数のpHセンサ、伝導度センサ、トモグラフィ若しくはマシンビジョンによって監視され、又は、サーモメータ若しくはヒートカメラ(heat camera)のいずれかにより前記インライン反応器の温度が監視される、ことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器に2つの一連の噴射混合機/混合機ステーション(24’、24’’)を設け、第1の噴射混合機/混合機ステーション(24’)から二酸化炭素を導入及び混合し、かつ、第2の噴射混合機/混合機ステーション(24’’)から石灰乳を導入及び混合することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記反応器に2つの一連の噴射混合機/混合機ステーション(24’、24’’)を設け、第1の噴射混合機/混合機ステーション(24’)から石灰乳を導入及び混合し、かつ、第2の噴射混合機/混合機ステーション(24’’)から二酸化炭素を導入及び混合することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するのに適したインライン反応器であって、該化学物質又はその反応生成物のいずれかが該インライン反応器(10)又はそれに接続された装置の表面に沈殿するのを防止するために、該インライン反応器(10)の内側で該インライン反応器の壁から離れて配置された少なくとも1つの電極棒(16)の形、及び、前記電極棒(16)から分離され、かつ、該インライン反応器の壁の表面上に位置する少なくとも1つの他の電極(20)の形、の電気的手段(16、20)を有し、該電気的手段は、該インライン反応器(10)の長さにわたって伸びているインライン反応器において、
前記インライン反応器(10)が、少なくとも1つの化学物質を前記インライン反応器(10)内に導入し処理液と混合するための少なくとも1つの噴射混合機/混合機ステーション(24;24’、24’’;42)を装備していること、該電極(16、20)が導電性材料からなり、又は導電性材料により被覆されていること、並びに該電気的手段を制御する手段(18)を装備していることを特徴とする、上記インライン反応器。
【請求項10】
1つ又は複数の化学物質のための前記導入混合装置がフローパイプ(12)の2つの連続する円周部(30、31)上に配置された噴射混合機/混合機ステーションペア(24’、24’’)であり、後者の前記混合機/混合機ステーション(24’’)が、第1の混合機/混合機ステーション(24’)が位置している処理パイプの軸を通る面から最大で20度、より好適には10度(パイプの円周部の方向で測定)逸脱するような処理パイプ(12)の円周(31)上の位置に配置され、前記円周(30、31)間の距離が0.05メートルから8メートルである、ことを特徴とする、請求項9に記載のインライン反応器。
【請求項11】
前記制御手段(18)が電圧源及び制御システムを含む、ことを特徴とする、請求項9に記載のインライン反応器。
【請求項12】
前記制御手段(18)が1つ又は複数のpHセンサ、伝導度センサ、サーモメータ、又はヒートカメラ(heat camera)を含むことを特徴とする、請求項11に記載のインライン反応器。
【請求項13】
前記制御手段(18)がプログラム可能であることを特徴とする、請求項11又は12に記載のインライン反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための方法及び反応器に関する。好適には、本発明による方法及び反応器は、1つ又は複数のプロセスフローに取り込まれる材料と共に又は単独でフローチューブの壁上に有機又は無機の層、蓄積物又は沈殿物のいずれかを形成する傾向がある1つ又は複数の化学物質を、処理液流れの中に導入して混合するのに適している。本発明は、特に好適には、例えば木材加工産業で、紙製造及びパルプ製造の1つ又は複数の化学物質を製造工程に導入するときに使用されるのに適する。
【背景技術】
【0002】
多くの他の産業分野と同様に、例えば製紙では、以下ではその単語の最も広い意味において化学物質と呼ばれる上記のような少なくとも1つの物質をパイプフローの中に導入してインライン混合する必要があり、これらの物質は、単独で、或いは、それら自体の中で、又は、パイプフロー内の材料と共に、フローパイプ若しくはチャネルの壁に対して化学的、電気化学的若しくは機械的に固体の蓄積物、沈殿物などを形成する可能性がある。したがって、本発明の文脈では、化学物質という単語が気体物質、液体物質さらには固体材料を包含することを理解されたい。言い換えると、上記の化学物質は、例えば、前に又は同時にプロセスフローに導入される化学物質或いは最初からそこに存在する化学物質と化学的に反応する物質であってよく、ここでの、前に若しくは同時に処理液に導入される化学物質又は最初からそこに存在する化学物質とは、例えば、流れ内に存在する別の固体材料若しくは粒子又は上記の化学物質と共に又は上記の化学物質の近くで流れに導入される別の固体材料若しくは粒子に付着するような、保持材料(retention material)又は接着材料である。したがって、また「反応」という単語は、化学的反応と、電気化学的反応と、さらには、保持材料及び接着材料によって粒子を互いに付着させることと、を包含するものと考えることとする。言い換えると、プロセスフローに取り込まれる及び/又はプロセスフローに導入される材料が処理パイプの表面又はその中に位置する構造物に固着する傾向がある材料を形成するような、すべての状況を、分かりやすいように反応と呼ぶ。本出願では、インライン混合という単語は、処理パイプ内を抄紙機のヘッドボックスに向かって流れるパルプ内に直接に化学物質が加えられるときに、例えば製紙を行う処理パイプ内で直接に行われる混合を意味する。インライン混合はまた、部分的処理で生成される生成物を単独であっても又は他の生成物と共にであっても直接的な保管場所で保管することなく、主処理又は部分的処理の液体流れ又は懸濁液流れに対して混合が行われるような用途も包含する。
【0003】
考察する従来技術の一部の事例では、実際のチューブフロー内の乱流により、流れている材料、液体又は気体に混合されるように、所望の量の化学物質をチューブフローに流入させることで十分である。場合によっては、化学物質を加える箇所のわずかに後ろの、静的流れ障害構造(static flow hindrance)、回転混合機、又は、例えば遠心ポンプのいずれかの、乱流発生機械装置が存在するパイプフローの箇所へと、所望の量の化学物質を排出させる。一部の事例では、化学物質は、プロセス内に配置される比較的大型のタンク内に導入され、これは、直接に行われるか、又は、例えば、物質をタンクに誘導することによって行われ、したがって、必要となる混合機がタンク内に配置される。
【0004】
これらのすべての文脈において、無機沈殿物又は有機沈殿物のいずれも、フローパイプ又は特別な反応器のいずれかの壁上の処理蓄積物(process accumulate)、或いは、例えば化学物質導入手段又は混合機の種々の構造物などの、他のなんらかの固定された構造部の上の処理蓄積物に影響を与える可能性がある。例えば、有機物が腐食し始めて流れの中に微生物を分散させてそれにより最悪な場合には最終生成物全体がスポイルされるという不都合が見られ、又は、大きい粒子として放出されるときは、その層が、作られる紙の中に例えば孔を生じさせることにより最終生成物をスポイルするという不都合が見られ(例えば、製紙業で使用される場合)、これはすなわち、これらの不都合によりヘッドボックスの流れが変化し、それにより最終生成物の品質が低下するということである。沈殿物はまた、一部の処理装置又はそれらのパイプラインを完全に又は部分的に妨害したり、ポンプのコストを増大させたり、化学物質の効果を低下させたり、熱回収を縮小させたりする可能性がある。さらに、特定の種類の層は別の沈殿物のためのベースを形成する可能性があり、炭酸カルシウム層は黒液蒸発器内に炭酸ナトリウムが沈殿するのを大きく促進する。
【0005】
種々の沈殿物に関連する上記の問題は産業処理が使用され始めたころから知られていることから、多くの手法でこの問題を解決する試みも行われてきた。
【0006】
1つの方法は、もちろん、沈殿物を形成するような材料を使用することを回避し、それらを非沈殿材料(non−precipitating material)に取り替えることであるが、これは、問題となる事例をわずかに減らすことしかできない。一部の事例では沈殿材料(precipitating material)の使用を回避することが不可能であり、また、一部の事例では、経済的に使用することが不可能であるくらいに置換材料が高価である。
【0007】
別の代替方法は、パルプミルのデバーキングミル(debarking mill)から、高品質の原材料を使用することである。言い換えると、沈殿物の問題は、木材の樹皮層が別のプロセスに入るのを最小にすることにより軽減され得る。また、化学物質が化学的循環において沈殿物の問題を生じさせることを考慮して、沈殿物を発生させるような使用される化学物質が還流するのを軽減させることも可能である。言い換えると、例えばセルロース業界、パルプ業界及び製紙業で使用される場合において、化学物質の回収に加えて、蒸解処理、洗浄、及び、ブラウンパルプの漂白を含むミルの各部分の処理で沈殿物の問題が発生することを考慮して、沈殿のリスクを大幅に低下させることが可能である。
【0008】
第3の代替方法は、例えばフローパイプシステム内で沈殿物が蓄積することが不可能であるような流れ状態を構成することである。言い換えると、この目的は、流れに取り込まれた固体がパイプシステムの表面に対して沈降し得るような、流れが極端に静かになる場所が可能な限り少なくなるように、フローパイプシステムを計画することである。実際には、沈殿物が形成され得ないようなフローパイプシステムを計画することは不可能であることから、この方法も大幅に制限されてしまう。しかし、良好な計画により、フローパイプシステムによって必要となる洗浄の間隔及びプラントダウンタイムを延ばすことは可能である。
【0009】
第4の代替方法は、計画段階において既にパイプシステムが必要とする洗浄を考慮して、それにより、処理装置の例えば酸洗浄などで必要となるさらには層/沈殿物を手動で除去するときにも必要となる所要ダウンタイムを短縮することである。
【0010】
第5の手法は、沈殿傾向を有する材料が何らかの理由で付着しないような材料で、例えばフローパイプシステム又は反応器を製造する又はフローパイプシステム又は反応器を被覆することである。しかし、従来の鋼のフローパイプ又は反応器のほぼすべてを他の材料で置き換えるというこのような不都合により、コストが増大する。
【0011】
第6の代替方法は、何らかの形で沈殿物の形成を防止する一部の保持化学物質、キレート、界面活性剤又は防止剤などの、追加の化学物質を使用することである。しかし、このような化学物質は、処理液に継続的に一定量を含めなければならないことから、当然、少なくても追加のコストを発生させる。また、このような化学物質は、工程廃水を処理する際の問題、水の再生使用可能性の問題、或いは、実際の最終生成物、その処理又はそのリサイクルの問題、を生じさせる可能性がある。
【0012】
しかし、上で言及した方法のいずれも製紙業で完全には機能しておらず、フローパイプ及び処理装置の両方さらには反応器及びタンクはそれらの壁上に沈殿物が蓄積することにより汚損される。
【0013】
とりわけ特許公開EP−B1−1064427、EP−B1−1219344、FI−B−111868、FI−B−115148及びFI−B−116473に記載される噴射混合機がより広範囲に使用されていることにより、上で言及した沈殿物の問題は深刻となっている。これらの問題が深刻化している理由は、上のような噴射混合機が化学物質をプロセスフロー内へと非常に迅速に一様に混合することができる一方で、化学物質の相互反応又は流れ内の固体若しくは化学物質との反応が非常に速いことである。したがって、さらに、大量の化学物質が同時にフローパイプの壁の近傍に存在することで、化学物質が固体結晶又は固体粒子を形成することから、繊維又は充填剤粒子などの別の固定材料の代わりにそれらの固体結晶又は固体粒子がフローパイプの壁に付着する。該当するような化学物質はこれまで弱い混合機で導入されており、したがって、これらの化学物質が相互に反応したり又は流れ内に前に導入された流れ内の固体材料又は化学物質と反応したりするには数十秒又は場合によっては数分かかってしまい、さらにそれにより、フローパイプの内側表面上で起こる沈殿がフローパイプの実質的により長い範囲に分布されてしまう。これまで、沈殿物は導入位置の後方において処理パイプのほぼ全長にわたって分布していたが、現在、沈殿物は多くの事例では化学物質の導入位置から数メートルの距離の間のフローパイプの表面にわたって存在する。従来の混合及び噴射混合機を使用する混合のいずれでも、実質的に同じ量の化学物質の反応生成物がフローパイプの表面上に蓄積すると考えられてよいことから、噴射混合機を使用する場合に形成される沈殿層は同じ時間では従来の混合方法より大幅に厚くなる可能性がある。同時に、沈殿物が崩壊してフラグメントとして流れ内に放出されるリスクが増大し、フラグメントによって生じる問題の発生率も増大する可能性がある。この種の沈殿物の問題は、当然、木材処理産業さらには別の多くの分野の処理産業のいずれでも見られる。実際、パイプフロー内に導入又は混合される化学物質が、相互的に、或いは、パイプの媒体流れに取り込まれた材料又は前に導入された化学物質と共に、反応することが可能であるような、ほぼすべての産業分野では、何らかの形で処理の伝播並びに中間生成物及び最終生成物の品質又は生成に影響するような、上で説明したような種類の沈殿物の問題の被害を受ける。
【0014】
記載する種類の沈殿物の問題は、例えば、保持化学物質、接着剤及び安定剤(stabilizing agent)などを含めた、大量の種々の化学物質が処理液体に導入されて混合されるような産業環境において発生する。
【0015】
製紙に加えて、木材処理産業でも、上のような処理には、機械パルプ、化学機械処理パルプ、マイクロファイバーパルプ(microfiber pulp)及びナノファイバーパルプ(nanofiber pulp)の製造、洗浄、漂白及び化学物質回収処理が含まれ、ここでは、沈殿物を形成するような大量の化学化合物が形成される。これらは概して無機化合物と有機化合物に分けられ得る。
【0016】
沈殿物を発生させる無機化合物については、既に説明した炭酸カルシウムに加えて以下のものが挙げられる。そのイオンが化学パルプの酸素漂白で形成されるシュウ酸カルシウム。特に化学パルプを漂白する前の酸状態でパルプを生成するときに、木材から二価のバリウム陽イオンが除去されると、硫酸バリウムが生成される。みょうばん、すなわち、硫酸アルミニウムが存在すると、沈殿傾向が増大する。沈殿する酸化アルミニウム三水和物は、場合によっては、みょうばんが導入される直後に形成される。みょうばん自体は、通常、一部の保持プログラムなどの製紙で樹脂接着剤及び凝集剤などとして使用される。これらの化合物又は上記の化合物、とりわけ、繊維性の懸濁液内に既に存在する又はそれに後から導入される化合物及び化学物質が反応する場合、形成される新しい化学物質が沈殿することは、通常、種々の化学物質を使用することによって防止される。沈殿傾向のある別の無機化合物には、とりわけ、硫酸カルシウム、けい酸カルシウム、けい酸アルミニウム、アルミニウムりん酸塩、及び、けい酸マグネシウムが含まれる。
【0017】
有機沈殿物は、種々の粒子が、結合剤により、処理パイプ、又は、プロセスフローに関連する別の装置及び構造体に付着することに最も頻繁に関連する。このような結合剤については以下のものが挙げられる:木材ベース材料であるピッチ。最も一般的なピッチは脂肪酸又は樹脂酸であるが、別の一部の化合物も伝統的にピッチと呼ばれる。粘着材料は再生紙で発生する膠剤又は接着物質である。スライムは微生物活動によって形成される材料であり、これは、製紙業での比較的安定した高い温度及び比較的一定のpHに良好に適合する。最後の結合材料として眞菌類が挙げられる。沈殿物を発生させるような上で言及したすべての結合剤は、手法によっては、製造される紙の最初の材料時点で処理に導入されている材料であり、すなわち、これらの結合剤は処理に意図的には加えられない。上記に加えて、別の理由で処理に加えられる化学物質もあり、これは、発泡剤、ポリシロキサン、鉱油、保持重合体(retention polymer)及び保持化学物質、ナノ粒子、マイクロ粒子、pH調整剤、光沢剤(OBA、FWA)、分散剤、澱粉、着色剤、顔料、ワックス、充填剤(例えば、TiO、CaCO、滑石、カオリン)、ミネラル、並びに、膠剤(伝統的な疎水性の膠剤:AKD、ASA、樹脂、及び、合成膠剤)、などであり、これらは、それら自体により、或いは、特に処理内に存在する固体又は化学物質と共に、有利な条件で沈殿物を形成する傾向がある。
スケーリング、すなわち処理流れ流路の表面への沈殿の形成は、国際公開公報WO−A1−200859006号、及び国際公開公報WO−A1−03050356号において論じられている。
前者の文献は、パルプ及び製紙産業において、パルプ処理装置の表面への炭酸カルシウムのスケーリングを低減する方法に関するものである。この方法は、紙及びボードの製造において、特に有利なものである。この方法は、アルカリ性の水性処理流体に関するものであり、この流体は炭酸カルシウムのスケーリングをもたらしやすいカルシウムイオン及び炭酸イオンを含んでいる。この流体は装置を通過し、その際にこの流体はエネルギーが変化する。装置を通過する前にこの流体に二酸化炭素を導入することで、炭酸カルシウムの堆積、及び装置上へのスケーリングを防止することができる。この発明はまた、パルプ及び製紙産業において用いられる装置への炭酸カルシウムの沈殿を、二酸化炭素の使用による抑制することに関するものでもある。
後者の文献、国際公開公報WO−A1−03050356号は、工業的プロセスの塩基性及びpHを制御するための装置及び方法に関するものである。この装置は、工業的プロセスにおける、主プロセスの流れの外に配置されることに適している。この装置は、塩基性物質、酸性物質、及び水のための導入手段、該導入手段のための制御手段、該塩基性物質、酸性物質及びを反応させて得られる緩衝混合物中に所定のアルカリ度及びpHを実現するための反応器、及び工業的プロセスのアルカリ度及びpHを制御するために前記緩衝混合物を主プロセスの流れに供給するための排出手段を含んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、従来技術の問題を軽減し又はさらには完全に排除することができるような、新規の導入混合方法及び反応器を提供することにより、導入混合技術における現況技術を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、最終生成物の品質を低下させたり、処理の問題を発生させたり、製造を中断させたり、又は、追加のダウンタイムを発生させたりする、複数の層、沈殿物又は蓄積物を形成するリスクなしに、多様な産業分野の種々の用途で動作する反応器を開発することである。
【0020】
本発明の追加の目的は処理パイプシステム接続され得る反応器を開発することであり、この反応器は、管状のインライン反応器を使用することが良好な投資とみなされるような又はそのような反応器の長さが従来技術の反応器の長さの部分的な長さにまで縮小されるような、効果的な化学物質混合システム及び反応器洗浄システムを含む。
【0021】
本発明の追加の目的は、有利な一実施形態において、粒子がフローパイプ又は反応器の壁に固着することがないように、磁場或いは電界又は電荷に対して異なる感度を有する粒子を使用することである。
【0022】
反応器として機能するフローパイプ内で処理液が流れることができような、1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための本発明の有利な一実施形態による方法は、少なくとも1つの化学物質が反応器内に存在する処理液に加えられ、上記少なくとも1つの化学物質が処理液内に混合され、上記化学物質が、別の化学物質又は実際の処理液中に存在する材料のいずれかと反応して反応生成物を生成することができ、一方で同時に、化学物質(単数又は複数)又は反応生成物が反応器の表面又はそれに接続された装置の表面に固着するのを防止する、ことを特徴とする。
【0023】
処理液を移送するためのフローパイプの一部として配置される、1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための本発明の有利な一実施形態による反応器は、この反応器が、少なくとも1つの化学物質をフローパイプ内に導入する手段と、少なくとも1つの化学物質を処理液内に混合する手段と、反応器の内側表面をクリーンに維持するための手段と、を装備することを特徴とする。
【0024】
本発明による方法及び反応器の典型的な別の特徴は、添付の特許請求の範囲、及び、本発明の最も好適な実施形態を開示する以下の説明から明らかとなる。
【0025】
本発明の反応器が、パイプフロー内で起こる混合に本質的に一致するように、又は、従来の一部の手法でフローパイプの表面を汚損させていた潜在的な沈殿領域に本質的に一致するように、長手方向において寸法決定される場合に、本発明を使用することにより、とりわけ、以下の利点が得られる。
・最終生成物を劣化させる又は最終生成物の生成に影響するような沈殿物がフローパイプの表面に形成又は固着しないこと、
・沈殿物を除去するための、パイプの洗浄が回避され得ること、
・種々の追加の化学物質を使用することが完全に回避され得るか又は大幅に軽減され得ること、
・反応の進行を測定することにより変化が完全に制御されること、
・反応ゾーンが短くなり、反応器が、種々の処理ステップの間のフローパイプの短い部分の中でも配置され得ること、
・反応器、及び、処理の運転性が制御されること、
・制御システムにより、報告を行うことが容易になること、
・トモグラフィを使用することにより多数の種々の警告を発することが可能となり、それにより品質制御が大幅に促進されること、
・迅速で効率的な混合により混合結果が一様になることが保証されさらには反応器洗浄システムにより反応器の壁がクリーンに維持されることが保証されることから、より迅速でより攻撃的な化学物質の反応が使用され得ること、
・迅速に反応する化学物質を用いることでより短い反応器を使用することが可能になりそれにより処理パイプシステムの一部分として反応器を設置することが容易になることから、本発明による反応器がより迅速な反応で化学物質を使用できるようにすること、並びに
・迅速な反応により反応器を短くすることが可能となることから、反応器が、反応生成物が固着しないような材料で被覆されたり又はそのような材料から完全に製造されたりされ得ること。反応器が短くなることにより、完全に異なる可能性として鋼より大幅に高価な材料で被覆したり又はそのような材料から製造したりすることが経済的に妥当性のあるものとなり得る。
【0026】
以下では、添付の概略図面を参照しながら本発明の方法並びに反応器及びその動作をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1a】本発明の好適な一実施形態による反応器を示す概略図である。
図1b】本発明の好適な一実施形態による反応器を示す概略図である。
図2】本発明の別の好適な実施形態による反応器を示す図である。
図3】本発明の第3の好適な実施形態による反応器を示す図である。
図4図3に示される反応器を用いて二酸化炭素及び石灰乳から炭酸カルシウムを生成するときの、時間の関数としてpH値の変化を示すグラフである。
図5】本発明の第4の好適な実施形態による反応器を示す図である。
図6】本発明の第5の好適な実施形態による反応器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1a及び1bは、本発明の好適な一実施形態による反応器10を比較的概略的に示している。図1の反応器10は直線状の円筒形フローパイプ12を含み、その中には、アーム14により、反応器の壁の内側表面から一定の距離の好適にはフローパイプの実質的に中央に少なくとも1つの電気伝導性電極棒16が固定されており、この電極棒16は、この実施形態では、1つのアーム14’を介して、好適には電圧源を含む制御システム18に電気的に接続されている。電極棒16は、多くの場合でそうであるようにフローパイプ12が金属で作られている場合にはフローパイプ12から電気的に分離されていなければならない。このように分離させることは、例えば、非電気伝導性材料から、電極棒16の固定アーム14及び14’を構成することにより、又は、電極棒16を主として非電気伝導性材料から製造しさらに電極棒16の適切な部分を電気伝導性材料で被覆することにより、実施され得る。別の電極20がフローパイプ12の内側表面上に配置される。上記の第2の電極20は第1の電極と同様に電圧源/制御システム18に電気的に接続されており、したがって、フローパイプ12の内側表面とパイプの中央に位置にする電極棒16との間に所望の電圧差を作ることが可能となる。当然、最も単純な解決策は、フローパイプ12を金属で作ってその全体を電極20として機能し得るようにすることであり、この場合は別の電極は必要ない。フローパイプ12が非電気伝導性材料で作られる場合、上記の第2の電極20が複数存在しなければならず、これらは、最も好適には、パイプ12の円周方向及び反応器10の長手方向の両方において等しい間隔で分布される。別の代替手法は、フローパイプの内側を電気伝導性材料で被覆してその被覆物を電極20として機能させることである。
【0029】
電圧源/制御システム18は、必須ではないが好適には、とりわけ、反応器10内での混合の効果及び/又は反応の伝播を監視するための何らかの種類の測定センサ22を含む。このセンサは例えばトモグラフィをベースにしていてよいが(ここでは、好適には、繊維懸濁液の電気伝導率に基づくトモグラフィ測定)、単にパルプのpH値又はその電気伝導率を測定するものであってもよい。この測定センサの目的は、必要に応じて例えば導入圧力又は体積流量を調整することができるように、混合の効果、反応の進行、及び/又は、反応器の表面の清潔度を監視することである。必要である場合、上記の測定センサと、上記の測定センサに追加される第2の測定センサとが、電極棒16に接続されて配置されてよく、それにより、例えば、反応器の表面付近に加えて流れの中央の反応の伝播を監視することが可能となる。必要である場合、測定センサは、例えば絶縁材料で作られるアームにより、実際の電極棒から一定の距離のところに位置するように配置されてよく、これはすなわち、反応器の軸方向又は反応器の半径方向のいずれか、或いは、その両方の方向において、一定の距離だけ離れる。また、反応の伝播又は反応器の清潔度は、マシンビジョンをベースにする方法によっても、或いは、何らかの手法でプロセスフロー又は反応器の壁の温度を記録する、従来のサーモメータ、温度センサ又はヒートカメラなどの装置を用いることによっても、監視され得ることに留意されたい。
【0030】
本発明による反応器は化学物質を供給するための装置をさらに含む。この供給装置の目的は多数の化学物質をプロセスフロー内に供給して混合させることの両方であるから、この装置の役割は当然重要である。これは、1つ又は複数の化学物質を、処理液の流れ方向に対して実質的に垂直(処理液の流れ方向に対する直角方向の+/−30度)に、処理液の流れ速度と比較して高い噴射速度(3倍から12倍)で、噴射することによってなされる。化学物質が迅速に反応する化学物質である場合、混合の一様性は完全に導入手段の動作に依存する。また、導入される化学物質の量は大きく変動することから、導入装置の負担が大きくなる。例えば、木材処理産業では、充填剤として使用される炭酸カルシウムを生成するために抄紙機のヘッドボックス内へと流れるパルプにカルシウムを含む石灰乳を導入する場合、しばしば、繊維パルプ内のカルシウムの濃度を1g/lを超える程度にするために大量の石灰乳を導入する必要がある。炭酸カルシウムの結晶化反応がパーシャルパルプ(partial pulp)などの少量の液体で行われる場合、パーシャルパルプ内のカルシウムの濃度が当然高くなり、場合によっては上で言及した値の数倍にもなる。本記述での「処理液」という用語は、バージンパルプ懸濁液(ロングファイバーパルプ(long−fiber pulp)、ショートファイバーパルプ(short−fiber pulp)、機械パルプ、化学機械処理パルプ、化学パルプ)、リサイクルパルプ懸濁液(繊維回収フィルタからのリサイクルパルプ、不良品、繊維フラクション)、追加の懸濁液、固体を含む濾過液、繊維回収フィルタからの濾過液、又は、それらの組み合わせを意味する。本発明のこの実施形態では、フローパイプの壁には、本記述の前置き部分において既に言及した少なくとも1つの噴射混合機24が設けられ、これは、好適には、Wetend Technologies Oyが開発したTrumpJet(いずれかの国における登録商標)噴射混合機であり、この噴射混合機24により、炭酸カルシウム生成の成分のうちの1つ、二酸化炭素及び/又は石灰乳が、フローパイプ12内を流れるパルプに迅速に導入されて一様に混合され得るようになる。噴射混合機24の1つのバージョンの典型的な特徴は、二酸化炭素及び石灰乳の導入及び混合が導入液によってなされ、ここでは、化学物質の混合物がパルプ内に噴射されるときにそれらの化学物質が実質的に同時に導入液に接触することである。噴射混合機を使用する場合、二酸化炭素及び石灰乳の量は導入液の量に対して非常に大幅に変動する可能性があることから、場合によっては非常に少量の場合もある化学物質がパルプ内深くに確実に浸透してパルプに確実に一様に混合されるようにするために、比較的大量の導入液を使用することが可能である。導入される二酸化炭素及び石灰乳の量は好適には化学量論的に維持され、これらの化学物質の実質的に全量が反応器内で反応し、いずれの化学物質もパルプ内に残留することはない。噴射混合機の別のバージョンの典型的な特徴は、混合される少なくとも1つの化学物質及び導入液が互いの中に導入されることであり、これらは、必要である場合には、実際の導入装置よりも前で既に一体に混合される。
【0031】
噴射混合機24では、実際の処理から得られる液体、処理の近傍から得られる固体を含む液体、充填剤フラクション(filler fraction)、又は、繊維懸濁液が、導入液として使用され得る。言い換えると、使用される液体は、例えば、上水に加えて、原水、或いは、処理からのクラウディフィルトレイト(cloudy filtrate)、クリアーフィルトレイト(clear filtrate)又はスーパークリアーフィルトレイト(super clear filtrate)、さらには、非常に多量の固体を含む懸濁液であってよい。考慮すべき1つの代替手法は、導入液としてパルプ自体或いはその繊維成分又は充填剤成分のうちの1つを使用することである。パルプを使用する場合、この手法は、例えば、この実施形態での流れはパルプであるフローパイプ12からの側方流れを取り込んで、その流れをポンプにより噴射混合機24へと導入することにより、実現され得る。
【0032】
噴射混合機24の別の本質的な特徴は、導入液及び二酸化炭素又は石灰乳の噴射の速度がフローパイプ内を流れるパルプの速度より実質的に高いことである。したがって、化学物質及び導入液の噴射は処理液流れの深くまで浸透してそれらに効果的に混合される。流れ速度の比は2から20の範囲内で変化してよく、好適には3から12の範囲内で変化する。必須ではないが好適には、すべての導管、パイプライン、ポンプ及び洗浄手段が、パイプラインの内側においてフランジ26及び28によって画定される長さ範囲内に位置するように、本発明による反応器10を構築することが可能であり、当然それにより、パイプラインへの反応器10の設置が可能な限り容易に実現され得るようになる。反応器を動作させるための本質的な構造的解決策は、電極棒とフローパイプの円周部上の少なくとも1つの電極との影響が反応ゾーンの上流側の一定の距離範囲と反応ゾーンの長さ範囲との両方に及ぶように、電極棒及びフローパイプの円周部上の少なくとも1つの電極の良能を位置決めすることである。このような寸法決定ルールは、化学物質自体が処理パイプの壁又は処理パイプ内の構造物に固着する傾向がある場合にも適用される。この場合も、電極棒は、化学物質が既に使い切られているような、化学物質の導入箇所からの一定の距離範囲まで少なくとも延在しなければならない。
【0033】
この反応器では、1つの化学物質又は化学化合物を導入するのに使用される噴射混合機の数は、主として、反応器又はフローパイプの直径によって決定される。Wetend Technologies Oyの標準サイズのTrumpJet(いずれかの国における登録商標)噴射混合機を使用する場合、フローパイプの直径に応じて1つから6つの噴射混合機が必要となる。
【0034】
図1aは、二酸化炭素又は石灰乳が、噴射混合機24から、反応器10内で右側に向かって流れるパルプ内へと導入され、それによって、導入噴射がほぼ瞬間的に反応器/フローパイプの実質的に全断面に浸透する。この導入はこの目的のために設計されたノズルから噴射させることによって行われることから、二酸化炭素又は石灰乳の混合が非常に高速で行われるように、実際には瞬時に行われるくらいに、吐出される化学物質の流れの大部分が小さいドロップ又はバブル(気体の二酸化炭素が導入される場合)となる状況を示している。また、共に反応する化学物質、及び、それらの化学物質と反応する又はそれ以外ではそれらの化学物質と協働するようなパルプ成分の両方が、噴射混合される実質的に直後に互いに接触され得る。言い換えると、噴射混合を効果的に行うことにより、反応前に物質移動に要する時間が従来の混合方法と比較して極力短縮される。
【0035】
図1a及び1bに示される本発明の好適な一実施形態による、反応器10の壁12の洗浄システムは、反応器の壁12に接続された電極棒16及び電極20に電圧源/制御システム18を通してDC電圧を誘導することにより、存在する炭酸カルシウムの沈殿物を溶解し且つ新たな炭酸カルシウムの沈殿物が形成されるのを防止しており、ここでは、電極棒16がカソードとして機能し、反応器の壁12がアノードとして機能する。壁12がアノードである場合、壁12付近の液体のpH値は明確に酸性範囲まで低下しており、6未満であり、好適には5未満、最も好適には2から3の値であり、したがってカーボネートが壁12に固着することが防止される。実際には、カーボネート結晶は、低いpHでは溶解されて液相になることから、壁に接触することすらできない。pHが電極棒の表面付近で高い場合には、当然、カーボネートはカソードとして機能する電極棒の表面上で沈殿する傾向がある。このような沈殿傾向に起因する不都合は、カソードとして機能する電極棒の表面上に既に沈殿しているカーボネートを、極性の変更後ではアノードとして機能する電極付近に形成される酸性液体内で迅速に溶解されるようにするために、システムの極性を変更できるように電圧源/制御システム18をプログラムすることにより、容易に排除される。最も単純な制御方法は、両方の電極をクリーンに維持するために、特定の時間間隔(数分の一秒から数分又は数時間)で極性を変更するように制御システムをプログラムすることである。別の手法は、極性の変更を制御するのに、処理からの制御誘発要因(control impulse)を使用することである。例えば、カソードとアノードとの間の電圧の変化を監視することが可能であり、それにより、実際の電圧が一定量増加することで沈殿物層(この層は絶縁体として作用する)の特定の深さが示される。この場合、制御システムは特定の電位差でシステムの極性を変更するように較正され得る。それに対して、上記の電位差が元のレベルにまで低下した場合、又は、電位差が変化しなくなった場合、制御システムは極性を元の状態に戻す。
【0036】
言い換えると、本発明による洗浄システムは、上で例として使用した製紙業における炭酸カルシウムの生成に関連する用途に加えて、液体のpH値に応じて沈殿物が形成されるような処理産業のあらゆる用途で使用されるのに当然適する。上記の例では、本発明による洗浄システムは、処理パイプの壁又は処理パイプ内に設置される構造物の近くにありしたがって沈殿してそれらに固着する可能性がある液体のpH値を調整するのに使用され得る。
【0037】
図2は、本発明の別の好適な実施形態による反応器をフローパイプ内で配置構成するための解決策を示している。この図の解決策では、反応器は2つのパイプエルボー32及び34の間に配置され、電極棒16がパイプエルボーにまで達するように端部によって支持され得、必要となる場合のみ、反応器の中間部分にまで達する1つのアーム構成又は電極棒16に沿った複数のアーム構成のいずれかにより、アーム14により支持されるように構成される。この実施形態では、反応器の反応ゾーン内に位置する電極棒の支持アーム14は、好適には、カーボネート粒子が固着しないような材料で全体が作られるか、又は、そのような材料で少なくとも被覆される。この図の実施形態では電極棒16が反応器のパイプエルボー34の外側まで延在していることから、電極棒は、支持アームを介して導体を反応器内部の電極棒まで誘導する必要がなく制御ユニットに直接に接続され得る。この場合、電極棒16はフローパイプから分離され、すなわち反応器10から分離され、それにより反応器自体の壁が第2の電極として機能することができるようになる。反応器の別の部分、器具及び動作は図1に一致する。電極棒上の電極及びパイプの表面上の電極が可能な限り適切に動作することが所望される場合、パイプエルボーの領域に位置する電極棒の部分(単数又は複数)は絶縁材料で被覆されてよい。この場合、パイプの表面から電極棒の電気表面(electrical surface)までの距離が電極棒の全長にわたって一定となり、pH値も両方の電極表面に付近で一様となる。
【0038】
図3は、本発明の第3の好適な実施形態による反応器を示している。図3の反応器は主として図1の反応器と同じタイプであるが、ここでのこの反応器は、フローパイプの2つの連続する円周部上に2つの噴射混合機又は混合機ステーション24’及び24’’を備える(実質的に反応器の同じ円周部上にある複数の混合機は同じ化学物質を混合する)。上記の混合機24’及び24’’により、既に上で説明した流れているパルプへの二酸化炭素及び石灰乳の導入及び混合が以前よりも大幅に効率的になり、より迅速になり、より一様になることを確かにすることが可能となる。実際には、噴射混合機24’及び24’’は、少なくとも1つの混合機24’が反応器の第1の円周部30上に位置しさらに少なくとも1つの混合機24’’が反応器の第2の円周部31の上に位置するように、位置決めされ、それに応じて、混合機24’の円周部の後方の距離が決められる。混合機の円周部30及び31の間の距離は、いくつかのパラメータを挙げるとすると、とりわけ、反応器内のパルプの流れ速度と、二酸化炭素及び/又は石灰乳並びに導入液体の導入速度と、上記気体/液体の体積流量と、反応器の直径と、噴射ノズルの構成と、によって決定される。しかし、好適には、円周部30及び31の間の距離は0.05メートルから8メートル程度であり、より好適には0.05メートルから3メートル、最も好適には0.1メートルから2メートルである。好適には、上述した互いの近くに配置される混合機は、第1の混合機24が位置している処理パイプの軸を通るから最大で20度、より好適には10度(パイプの円周部の方向で測定)逸脱するような処理パイプ12の円周上の位置に、第2の流れを導入する各混合機ペアの噴射混合機24が配置されるように、混合機ペアを形成する。したがって、第2の噴射混合機24’’は、一手法では、処理パイプ12の長手方向の、第1の混合機24’が位置するセクタの直径上において、40度のセクタ、好適には20度のセクタ内に位置する。
【0039】
図3による反応器、すなわち、2つの連続する噴射混合機/噴射混合機ステーションを有する反応器は、例えばPCCをインライン生成するのに使用され、その場合、二酸化炭素が第1の円周部30上の第1の噴射混合機24’又は一連の混合機24’から導入されて混合され、石灰乳が第2の円周部31上の第2の噴射混合機24’’又は一連の混合機24’’から導入される。当然、上記の化学物質の導入は逆の順番で構成されてもよく、すなわち、最初に石灰乳(Ca(OH))が導入されて次に二酸化炭素(CO)が導入されてもよい。また、上記の混合機ステーションをフローパイプの同じ円周部上に入れ違いに配置することも可能であり、それにより、化学物質の導入及び混合が同時に実現される。試験により、いかなる種類の洗浄システム又は固着防止システム(anti−fastening system)も使用しない場合、PCCの厚い層がヘッドボックスに繋がるフローパイプ、すなわち反応器10の壁上に非常に迅速に固着し、それにより上で言及した問題を引き起こすことが分かった。PCCには、それに該当するように、噴射混合機24’’の先端部分のノズルに固着する傾向があり、これは大量のPCC粒子が徐々に分離していくリスクを増大させることに加えて、ノズルからの化学物質の導入と、導入される噴射の浸透度と、混合の一様性とのすべてを劣化させる。
【0040】
PCCを生成する図3による試験反応器がやはり図3による電気洗浄システムを装備する場合、すなわち、電極棒16が中央においてアーム14及び14’により反応器に固定される場合、反応器の内側表面は試験全稼動時間において清潔な状態を維持した。言い換えると、システムはフローパイプの表面上に沈殿物が形成されるのを完全に防止することができた。図3は構造的解決策を示しており、ここでは、電極棒16が第1の化学物質噴射混合機24’と実質的に同じ直径(円周部30)まで延在する。しかし、多くの事例では、電極棒が第2の化学物質噴射ノズル24’’の直径(円周部31)から流れ方向に延在することで十分である。しかし、洗浄システムを計画する場合、当然、沈殿物が、電極棒16を支持するアーム14及び14’にも固着する傾向があることに留意しなければならない。これは少なくとも2つの方法によって防止され得る。すなわち、アームを沈殿物が固着しないような材料から製造する方法、又は、アームを反応ゾーンの外側に構成する方法のいずれかであり、後者の方法では、一方側の第1の上流側のアームの位置では沈殿する材料はほとんど形成されず、もう一方側の第2の下流側のアームの位置では、材料が既に沈殿相ではない段階まで、反応が進行している。
【0041】
したがって、例えば、製紙のための充填剤として使用される炭酸カルシウムの沈殿は、抄紙機のヘッドボックスに繋がる処理パイプ内に直接的にインラインで行われ得る。上記の目的で使用される反応器では、好適には、二酸化炭素及び石灰乳の両方を導入するための噴射混合機が必要である。当然、可能性としてさらに別のタイプの混合機を使用して、これらの化学物質のうちの一方が前の段階において既にパルプ内に導入されることも可能である。しかし、この場合、少なくとも後から導入される化学物質を噴射混合することにより、PCCの結晶化すなわち炭酸カルシウムの沈殿が処理パイプ内の非常に短い距離で起きるようにすることが可能となる。言い換えると、図1aを参照する場合では、化学物質(Ca(OH)及びCOのうちの他方側が反応器10の前で既にパルプ内に導入されて混合されていることになり、また、図3を参照する場合では、二酸化炭素及び石灰乳が最初に混合機24’から導入され、次いで二酸化炭素又は石灰乳が混合機24’’から導入されていることになり、PCCの実際の結晶化反応が後の方の化学物質の導入位置のすぐ後方で開始され得るようになる。
【0042】
図4のプロットは、図3に示される反応器を用いて炭酸カルシウムをパルプ内に沈殿させる場合の、時間(横軸、秒)の関数としてパルプのpH値(縦軸)の変化を示している。この図に概略的に示される結晶化プロセスでは、二酸化炭素が最初にパルプ内に導入され(軸の原点)、それによりパルプのpH値が通常の約7.5のpHからいくらか低下するが、これは、導入される二酸化炭素の量及び二酸化炭素の導入と石灰乳の導入との間の時間によって決定される。石灰乳の導入及び混合の開始直後に、パルプのpH値が増加し始め、実際には、これは、11から12までの範囲のその最大値まで増加し、その後結晶化反応で化学物質が使い切られると、pH値は約7.5の範囲まで急速に戻る。試験では、互いに化学量論的に導入された化学物質は、2秒未満、約1.5秒で使い尽くされた。このような高速の結晶化反応で必要なるのは、正確な噴射混合を使用する(少なくとも後から導入される化学物質に対して、また、好適には両方の化学物質に対して)場合に化学物質(単数又は複数)の混合が実質的に完了し、パルプ内に生じるCa2+イオン及びCO2−イオンが互いを迅速に見つけて反応して炭酸カルシウム結晶を生成することである。反応の全時間が非常に短いことから、生成されるカーボネート結晶の粒度分布は非常に一様になる。一部の推測によると、この種の、既に上で簡単に述べたようなPCCの生成反応では、通常、結晶化反応の直後に、カーボネート結晶は、実際には任意適当な固体粒子又はその近くに位置する表面に固着しやすい相になっており、言い換えると、方解石へと変化する前の不安定な結晶形態になっている。パルプでは、このような粒子には、繊維、種々の微細固体粒子、充填剤粒子、及び、別のカーボネート結晶が含まれる。また、当然、フローパイプの壁、並びに、導入混合手段のノズルなどの、フローパイプ内に位置する別の物体及び構造物は、カーボネート結晶が固着するのに良好な物質であることから、フローパイプの表面には沈殿物が形成される。言い換えると、不安定な結晶形態の段階のときのみ、カーボネートの沈殿物がフローパイプの壁上及び別の構造物上に形成されることから、実際には、本発明の好適な実施形態のうちの1つにおいて上で説明したように、フローパイプの表面に不安定なカーボネートが沈殿するのを防止ることにより、フローパイプが完全にクリーンに維持され得る。
【0043】
二酸化炭素及び石灰乳を導入する場合に、結晶化反応が進行するときに、また特には結晶化反応が終了するときに、上述したようにpH値が大きく変化することにより、上述したpH値を測定するセンサで反応の進行を追うことが可能となる。センサ22が図1aから3に示されるように電極棒の一方の端部の高さに位置する場合、すなわち、反応器の端部の高さに位置する場合、センサ22によって測定されるpH値は、パイプの表面にさらに沈殿物が形成されるのを回避するために、最初の化学物質が導入される前のpH値と同程度にならなければならない。したがって、このように位置するセンサによって測定されるpH値が非常に高い場合、化学物質の混合効率を向上させるために化学物質の導入/混合パラメータを変更しなければならない。当然、反応器の長手方向に沿ってこのようなpHセンサは多数存在してよく(反応器の壁上又は電極棒上、或いはその両方)、その場合、pH値の変化により結晶化反応の進行が明確となる。
【0044】
上で言及した実施例を参照しながら言及すべき1つの解決策は、反応器の反応ゾーンに到達する懸濁液のpH値を測定するセンサが反応器内で上流に位置し、それにより、制御システムが反応器内に到達する懸濁液のpH値についての最新のデータを受け取るような、解決策である。実際には、このようなセンサは、化学物質の影響なしで繊維性の懸濁液のpH値を調べるために、化学物質が最初に導入される箇所の上流に配置されるべきである。このセンサの後方で反応器内に導入される二酸化炭素及び石灰乳の比が、流量計測の制御下で化学物質を導入することにより化学量論的に維持される場合、所望される場合は、設けられるpHセンサによりカーボネートの結晶化反応の進行を追うことが可能となる。それに対応して、反応器の端部で結晶化反応が確実に終了するようにすることが可能となる。これは、反応器の端部のpH値と反応器の手前で測定されたpH値とを比較することにより容易に実証される。これらの値が同程度である場合、化学物質はすべて反応してしまっており、したがってパイプの表面上及びその中に位置する構造部上にカーボネートが沈殿するリスクはない。
【0045】
また、上に該当するような反応器の動作の監視はトモグラフィを使用することによっても実施され得る。さらに、反応の進行を監視するための価値のある方法として温度勾配に基づく測定があり、この場合、例えば、処理パイプ内に位置するサーモメータ又は温度センサが、処理液の温度を測定又は監視するのに使用され、それにより、発熱反応又は吸熱反応により反応の相を調べることができる。別の考えられる手法はヒートカメラを用いて反応を撮影することであり、それにより、反応が発熱反応又は吸熱反応であることから、反応と背景との差異を識別することができるようになる。
【0046】
パルプの流れの中に取り込まれる、アニオン性トラッシュ、抽出物質(ピッチ)、シュウ酸塩、カルシウムなどが反応器内で沈殿する場合、結晶が形成されること、化学物質が沈殿すること、又は、同様の反応結果になること、或いは、上述したような化学反応を介して沈殿物からの実際の化学物質が反応器の壁又はその処理装置の構造物に固着することは、とりわけ、製紙業、パルプ産業及びセルロース産業での界面化学現象の結果としても起こる。
【0047】
さらに、種々のアルミニウム誘導体(アルミン酸塩、みょうばん)などの反応化学物質も、それら自体の作用により同様に面倒な沈殿物を発生させる。また同様に、AKD、ASA、樹脂などの種々の膠剤、及び、SMAなどの合成膠剤も、適切な用途において沈殿物を発生させる。
【0048】
図5に示される本発明の第4の好適な実施形態では、実際には別個に利用可能な2つの解決策が存在する。この図は、1つ目に、本発明による反応器が、上の実施形態で既に示された電極棒16及びアーム14を備える洗浄手段が比較的すぐ後方に存在する機械式混合機40をいかにしてさらに装備し得るかを示している。言い換えると、この場合は、混合機40の付近であるが、混合される化学物質(単数又は複数)を反応器10の壁を介して上の実施形態で既に説明したように例えば噴射することにより導入することが可能であり、それにより、混合機が、既に開始されている混合を噴射により強化することができる。図5は、2つ目に、混合機40のシャフトチューブ42を介してシャフト内の孔44から処理パイプすなわち反応器10へと化学物質がいかにして導入され、それにより、機械式混合機40がいかにして化学物質をさらに流れ内へと混合させるかを示している。当然、追加的に、混合機のシャフトと、分離した軸方向及び/又は径方向導入パイプ(図示せず)との両方を介して、フローパイプの壁に配置される導管から、又は、噴射ノズル(この文脈では図示せず)から、化学物質をパルプ内に入れることが可能となり、言い換えると、上で言及した導入方法ののうちの1つ又は複数によって化学物質をパルプ内に入れることが可能である。
【0049】
上で説明した本発明の好適な実施形態から明らかなように、本発明はインライン混合反応器に関し、ここでは、1つ又は複数の化学物質が処理液内に導入されて混合され、またここでは、反応器内で形成される沈殿材料が混合機の表面を含めた反応器の種々の表面に固着することが回避されるように、これらの化学物質が互いに反応することが可能である。本発明の目的は、すべての反応が反応器の長手方向に沿って進行する時間を実際に有することができるように、反応器の構造及びその機能を寸法決定することである。したがって、主として、電極棒の有効長さが反応器の長さとして計算される。言い換えると、電極棒は、電極棒の下流側の端部において物質がそれ以上互いに反応することがないような長さで処理液の流れ方向に沿って処理パイプ内で延在する。例えば、上で考察した方法及び反応器では、パイプ内の流れ速度が3から5m/sである場合、反応器の長さは1メートルから20メートル程度であるべきであり、好適には1メートルから6メートルである。また、これらの図では反応器が必ずしも正確なアスペクト比で示されていないが、そのほとんどにおいて直径を基準とした反応器の長さが実際よりも短くなっていることに留意されたい。
【0050】
上で言及した実施形態からやはり明らかなように、効率的で一様な混合により物質移動及び反応が速くなることから、混合を調整することにより、反応器の所要長さに影響を与えることができる。
【0051】
上では、電極棒をフローパイプ/反応器の中央に設置して説明してきたが、一部の事例では、電極棒を反応器の軸に対して斜めの位置に設置することも可能である。このような解決策は、特に、反応器/フローパイプがパイプエルボーを有しており、そのパイプエルボー内でも反応が進行するような場合に、可能である。この場合、パイプエルボーの両側においてフローパイプの直線部分まで到達するように中央に延在する電極棒を配置することが可能であり、ここではパイプエルボーの両側の間にはやはり直線の電極棒が存在し、これは当然、好適には、パイプエルボーの領域の洗浄において最大の効果が得られるように設置される。広いフローパイプの場合は特に、複数の平行した電極棒を使用する必要がある可能性がある。その場合、クリーンに維持されるべき表面付近の液体のpH値を所望の範囲にすることが可能である。
【0052】
図6は、本発明の例示の第5の好適な実施形態を非常に概略的に示しており、これは、カーボネートが反応ゾーン上に位置するいかなる表面にも付着しないようにする、製紙業における炭酸カルシウムの結晶化反応を実施するための別の手法である。この別の方法とは、フローパイプ12の周りに永久磁石又は電磁石50を配置することである。このような装置は例えば米国特許第5,725,778号及び第5,738,766号に開示されている。永久磁石は、その向き及び強さが一定である磁場を形成する。例えば、フローパイプ12の周りに導電体52を巻いてそのようにして形成されるコイルに電流を誘導することにより、フローパイプに関連させて電磁石50を構成することが可能である。制御ユニット18を用いて、電流の振幅、方向及び/又は周波数を変更することにより、形成される磁場の向き及び強さを所望される通りに変更することができる。さらに、異なる形状の波として、電磁石50のコイルに電流を誘導することが可能である。しかし、磁場が永久磁石よって形成される場合でも又は磁場が電磁石によって形成される場合でも、動作原理は常に同じである。フローパイプの内部の磁石によって電界が誘発される。この電界を使用するのを可能にするためには、パイプ内を流れる懸濁液がイオンを含まなければならず、この場合は、カルシウムイオン及びその対イオン(炭酸イオン又は炭酸水素イオン)を含まなければならない。この電界は、その範囲内のイオンを、電界に対するそれらの電荷によって必要に応じて誘導する。イオンは電界が変化することに応じて誘導される傾向があることから、フローパイプ内の限定された長さのところに単に電界が存在し、特にこの電界の向きを変化させることにより、イオンが流れに取り込まれるようになって最終的にイオン結合が解放され、これらのイオンが自由に互いに反応するようになって炭酸カルシウム結晶を形成する。言い換えると、イオンの向きを連続的に変化させると懸濁液中でのそれらのさらなる混合が補助されることから、電界が存在し、特にその電界の向きを変化させることで、イオンの相互の化学反応が加速される。さらに、形成される炭酸カルシウム結晶は、フローパイプの表面に付着したりせずまた沈殿を形成したりしないような相に迅速に入る。炭酸カルシウム結晶が沈殿を形成する場合でも、炭酸カルシウム結晶は、適切な流れ速度で流れ内に迅速に取り込まれるくらいに柔らかくなる。
【0053】
反応器内部に沈殿が形成されるのを防止するための、例えば米国特許公開第5,591,317号の段落[0033]で考察されている別の方法は、反応器の内部の好適には中央に配置される分離された反応器を使用することであり、電極が電流源/制御ユニットのみに電気的に接続される。例えば、別の電極は、液体から分離されるか又は液体に電気接続される反応器の表面である。いずれの場合も、直列に接続される多数の容量性層が形成され、これらの容量性層を介して静電位及び電界の強さが伝播される。言い換えると、この場合、液相中に誘発される電界によっても、沈殿する傾向を通常有する粒子が所望される通りに変化する。
【0054】
電極棒の支持アームに関連させて言及してきたように反応領域内に配置されるいかなる表面にも上述したような沈殿物が固着しないようにするために、プロセスフロー中の化学物質の結晶化反応を管理するための別の種類の好適な手法は、これらのいずれの部片も、すなわち反応領域内のフローパイプとその内部に配置される構造物との両方を、上記の沈殿物が付着することがないような材料から作るか、或いは、それらをそのような材料で被覆することである。多くの用途で使用可能である材料の一例としてポリアミドが挙げられる。別の考えられる被覆材料又は製造材料には、PE樹脂、種々のポリウレタン、Teflon(いずれかの国における登録商標)などの種々のフッ化物化合物、ワックス、シリコーン、及び、エポキシ樹脂が含まれる。さらに、種々の弾性ゴムコンパウンドも考慮され得、これには合成ゴム又は天然ゴムが含まれ、その一例としてEPDM(エチレンプロピレンジエンモノマ)が挙げられる。また、表面トポグラフィ(ほとんどの場合、いわゆるナノサーフェスを使用する)を用いても同様の結果が得られる。
【0055】
やはり、上記から明らかなように、効率的で一様な混合により物質移動及び反応が速くなることから、混合を調整することにより、反応器の所要長さに影響を与えることができる。上では、電極棒をフローパイプ/反応器の中央に設置して説明してきたが、一部の事例では、電極棒を反応器の軸に対して斜めの位置に設置することも可能である。このような解決策は、特に、反応器/フローパイプがパイプエルボーを有しており、そのパイプエルボー内でも反応が進行するような場合に、可能である。この場合、パイプエルボーの両側においてフローパイプの直線部分まで到達するように中央に延在する電極棒を配置することが可能であり、ここではパイプエルボーの両側の間にはやはり直線の電極棒が存在し、これは当然、好適には、パイプエルボーの領域の洗浄において最大の効果が得られるように設置される。広いフローパイプの場合は特に、複数の電極棒を使用する必要がある可能性がある。その場合、クリーンに維持されるべき表面付近の液体のpH数値を所望の範囲にすることが可能である。
【0056】
該当する解決策は、例えば、木材抽出物、黒液及び白液の処理に関連するセルロースミル及びパルプミルにおいて、また、セルロースミルの種々の副生成物の生成において(バイオディーゼルなど)、また、ブリーチングプラントの化学物質の供給において、また、リサイクルパルプ工場のDIP処理などにおいて見られる。
【0057】
最後に、最も好適な実施形態のうちの数個のみを上で開示したことに留意されたい。したがって、本発明が上で言及した実施形態のみに限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲内で多くの手法で適用され得ることは明白である。上記の木材処理産業、さらには、種々の実施形態に関連させて考察されたパルプの処理が、当然、単に一例であることを理解されたい。したがって、本発明による方法及び反応器は、種々の沈殿物が処理パイプシステム内で集まる傾向があるようなすべての処理で使用され得る。種々の実施形態に関連させて開示した特徴はまた、本発明の範囲内にある別の実施形態に関連させても使用され得、及び/又は、所望され且つ技術的に実現可能である場合、開示される特徴とは異なる組立体が組み合わされ得る。
なお、下記[1]から[39]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
反応器として機能するフローパイプ(12)内で処理液が流れることができるような、1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための方法であって、少なくとも1つの化学物質が前記反応器(10)内に存在する前記処理液に加えられ、前記少なくとも1つの化学物質が前記処理液内に混合され、前記化学物質が別の化学物質又は実際の前記処理液中に存在する材料のいずれかと反応させられて反応生成物を生成し、一方で同時に、前記化学物質(単数又は複数)又は前記反応生成物が前記反応器(10)の表面又はそれに接続された装置の表面に固着するのを防止する、ことを特徴とする、上記方法。
[2]
前記少なくとも1つの化学物質を前記反応器内に導入することが、少なくとも1つの特別な噴射混合機(24、24’、24’’)を用いて噴射することによって実施される、ことを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]
前記噴射が前記処理液の流れ方向に対して本質的に垂直に行われる、ことを特徴とする、[2]に記載の方法。
[4]
前記噴射が前記処理液の流れ速度より本質的に高い速度で行われる、ことを特徴とする、[2]又は[3]に記載の方法。
[5]
少なくとも1つの化学物質の前記処理液への前記混合が少なくとも1つの機械式混合機(40)を使用して実施される、ことを特徴とする、[1]から[4]までのいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記少なくとも1つの化学物質が、軸方向において、好適には前記混合機(40)のシャフト(42)を介して前記機械式混合機(40)の混合ゾーンに入れられる、ことを特徴とする、[5]に記載の方法。
[7]
前記固体粒子の固着の防止が電気的に実施される、ことを特徴とする、[1]から[6]までのいずれか一項に記載の方法。
[8]
pH数値が前記表面付近での固着とって不利となるように設定される、ことを特徴とする、[1]から[7]までのいずれか一項に記載の方法。
[9]
少なくとも1つの電極棒(16)が流量内の前記反応器(10)の内側に配置され、1つ又は複数の電極(20)が、前記反応器(10)を形成する前記フローパイプ(12)の内側表面上で前記電極棒(16)から分離されている、ことを特徴とする、[1]から[8]までのいずれか一項に記載の方法。
[10]
前記電極(16及び20)が、前記電極の間に電界が形成されるように電圧源/制御システム(18)に接続される、ことを特徴とする、[9]に記載の方法。
[11]
電流が前記電極(16及び20)に指向され、それにより、前記電極付近で前記液体流れの前記pH値が所望される通りに変化し、それにより、前記フローパイプ(12)の前記内側表面上への沈殿物の形成が防止される、ことを特徴とする、[9]又は[10]に記載の方法。
[12]
制御システム(18)が、前記電極棒(16)をクリーンに維持するために前記電極(16、20)のペアの極性を変更するように構成される、ことを特徴とする、[9]、[10]又は[11]に記載の方法。
[13]
前記制御システム(18)が、予め設定されるタイマーに基づいて、又は、前記電極棒(16)と前記少なくとも1つの電極(20)との間の電圧が基準値を超えるときに、極性を変更する、ことを特徴とする、[12]に記載の方法。
[14]
前記制御システム(18)が、前記電極棒(16)と前記少なくとも1つの電極(20)との間の電圧が前記基準値に戻るときに、極性を元の状態に戻すように変更する、ことを特徴とする、[13]に記載の方法。
[15]
永久磁石又は電磁石(50)が前記フローパイプ(12)の外側に配置される、ことを特徴とする、[1]から[7]までのいずれか一項に記載の方法。
[16]
前記制御システム(18)に接続された導電体(52)を前記フローパイプ(12)の周りに巻くことにより、前記フローパイプ(12)の外側にコイル(50)が構成される、ことを特徴とする、[1]から[7]まで又は[15]のいずれか一項に記載の方法。
[17]
前記コイル(50)によって形成される磁場/電界の向き又は強さが前記制御システム(18)によって変化される、ことを特徴とする、[15]又は[16]に記載の方法。
[18]
流量から分離される少なくとも1つの電極棒が流量内にある前記反応器(10)の内側に配置され、1つ又は複数の電極(20)が、前記反応器(10)を形成する前記フローパイプ(12)の前記内側表面上で前記電極棒(16)から分離されており、これらの電極により1つ又は複数の容量性層が形成される、ことを特徴とする、[1]から[7]までのいずれか一項に記載の方法。
[19]
化学反応の進行が1つ又は複数のpHセンサ、伝導度センサ、トモグラフィ又はマシンビジョンによって監視される、ことを特徴とする、[1]から[18]までのいずれか一項に記載の方法。
[20]
前記化学反応の伝播が、サーモメータ又はヒートカメラ(heat camera)のいずれかにより前記反応器の温度を監視することによって監視される、ことを特徴とする、[1]から[19]までのいずれか一項に記載の方法。
[21]
前記反応器(10)が、その全長に沿って、前記沈殿物、層及び蓄積物が固着し得ない材料で作られる又はそのような材料で被覆される、ことを特徴とする、[1]から[6]まで又は[19]又は[20]のいずれか一項に記載の方法。
[22]
処理液を移送するフローパイプ(12)の一部分として配置される、1つ又は複数の化学物質を処理液流れに混合するための反応器(10)であって、前記反応器(10)が、少なくとも1つの化学物質を前記フローパイプ(12)内に導入する手段(24;24’、24’’;42)と、前記少なくとも1つの化学物質を前記処理液内に混合する手段(24;24’、24’’;40)と、前記反応器(10)の内部表面をクリーンに維持するための手段14、14’、16、18、20)と、を装備することを特徴とする、上記反応器。
[23]
1つ又は複数の化学物質を導入するための前記手段(24;24’、24’’)が同時に前記1つ又は複数の化学物質のための混合装置として機能する、ことを特徴とする、[22]に記載の反応器。
[24]
1つ又は複数の化学物質の前記導入混合手段(24、24’、24’’)が噴射混合機である、ことを特徴とする、[22]又は[23]に記載の反応器。
[25]
1つ又は複数の化学物質のための前記導入混合装置が噴射混合機ペア(24’、24’’)であり、後者の前記混合機(24’’)が、前記処理パイプ(12)の軸上の、最大40度の角度を有する仮想領域のところに配置され、その直径面には第1の前記混合機(24’)が位置する、ことを特徴とする、[22]、[23]、[24]に記載の装置。
[26]
前記混合機ペア(24’、24’’)の前記混合機の間の距離が0.05メートルから8メートルであり、好適には0.05メートルから3メートル、最も好適には0.1メートルから2メートルである、ことを特徴とする、[25]に記載の反応器。
[27]
前記1つ又は複数の化学物質のための混合手段が前記反応器(10)内に配置される機械式回転混合機(40)である、ことを特徴とする、[22]又は[23]に記載の反応器。
[28]
前記1つ又は複数の化学物質のための導入手段が前記反応器(10)内の中央に配置されるチューブであり、その端部が1つ又は複数の化学物質のための少なくとも1つの開口部(44)を装備する、ことを特徴とする、[22]又は[27]のいずれか一項に記載の反応器。
[29]
前記チューブが同時に前記機械式混合機(40)のためのシャフト(42)として機能する、ことを特徴とする、[28]に記載の反応器。
[30]
前記表面をクリーンに維持するための前記手段が、前記反応器(10)の内部において前記反応器(10)の壁から一定の距離のところに配置される少なくとも1つの電極棒(16)と、前記第1の電極(16)から分離されて前記反応器(10)の前記壁の表面上に位置する少なくとも1つの別の電極(20)と、前記表面を洗浄するための前記手段を制御するための手段(18)とを含む、ことを特徴とする、[22]から[29]までのいずれか一項に記載の反応器。
[31]
前記表面を洗浄するための前記制御手段(18)が電圧源及び実際の制御システムを含む、ことを特徴とする、[30]に記載の反応器。
[32]
前記電極棒(16)が前記反応器(10)として機能する前記フローパイプ(12)から分離される、ことを特徴とする、[30]又は[31]に記載の反応器。
[33]
前記電極棒が前記処理液から分離される、ことを特徴とする、[30]から[32]までのいずれか一項に記載の反応器。
[34]
前記電極棒(16)が前記反応器(10)内の実質的に中央に配置される、ことを特徴とする、[22]から[33]までのいずれか一項に記載の反応器。
[35]
前記表面を洗浄するための前記手段が前記反応器(10)の周りに配置される永久磁石又は電磁石(50)である、ことを特徴とする、[22]に記載の反応器。
[36]
前記電磁石(50)が、前記反応器(10)の周りに巻かれ且つ電圧源/制御システム(18)に接続される導電体(52)によって形成される、ことを特徴とする、[35]に記載の反応器。
[37]
前記反応器が、好適には、トモグラフィセンサ、pH数値を計測するセンサ、又は、電気伝導率を計測するセンサである、測定装置(22)を装備する、ことを特徴とする、[22]から[36]までのいずれか一項に記載の反応器。
[38]
前記反応器(10)が、サーモメータ、温度センサ又はヒートカメラなどである、前記反応器からの温度データを収集又は測定する装置である測定装置を装備する、ことを特徴とする、[22]から[36]までのいずれか一項に記載の反応器。
[39]
充填剤材料、AKD、ASA、保持化学物質又は漂白化学物質を生成及び/又は導入するための、[1]に記載の方法及び[22]に記載の反応器の、使用法。
図1a
図1b
図2
図3
図4
図5
図6