(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881681
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】酸化物型半導体材料及びスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20160225BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20160225BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20160225BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L21/363
C23C14/08 K
C23C14/34 A
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-509864(P2013-509864)
(86)(22)【出願日】2012年4月5日
(86)【国際出願番号】JP2012059329
(87)【国際公開番号】WO2012141066
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-88015(P2011-88015)
(32)【優先日】2011年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-118805(P2011-118805)
(32)【優先日】2011年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】徳地 成紀
(72)【発明者】
【氏名】石井 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】附田 龍馬
(72)【発明者】
【氏名】久保田 高史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広己
【審査官】
竹口 泰裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−070410(JP,A)
【文献】
特開2010−050165(JP,A)
【文献】
特開2012−033854(JP,A)
【文献】
特開2012−066968(JP,A)
【文献】
特開2009−123957(JP,A)
【文献】
特開2010−070409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/336、29/786
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mgを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Mgの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)<0.01であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項2】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Caを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Caの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項3】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種以上を含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、ドーパントの金属元素の各原子数合計をzとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項4】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mgを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Mgの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.021であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項5】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Caを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Caの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項6】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Laを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Laの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.0129であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項7】
Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Yを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有しドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Yの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)<0.038あり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とする酸化物型半導体材料。
【請求項8】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mgを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Mgの原子数zとした場合、z/(x+y+z)<0.01であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項9】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、
Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Caを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Caの原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項10】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種以上を含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、ドーパントの金属元素の各原子数合計をzとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項11】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Mgを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Mgの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.021であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項12】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Caを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Caの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.09であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項13】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Laを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有し、ドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Laの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)≦0.0129であり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項14】
Zn酸化物とSn酸化物とを含み、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有し、さらにドーパントとして、Yを含有し、さらにドーパントとしてZrを含有しドーパント含有量は、Znの金属元素の原子数をx、Snの金属元素の原子数をy、Yの金属元素の原子数zとした場合、z/(x+y+z)<0.038あり、またZrのドーパント量は、金属元素としてのZn、Sn、含有するすべてのドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどの表示装置を構成する半導体素子を形成するための半導体材料に関し、特に、Zn酸化物とSn酸化物を含む酸化物型半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代表される薄型テレビなどの表示デバイスは、生産量の増加、大画面化の傾向が著しい。そして、その表示デバイスとしては、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと略称する)をスイッチング素子として用いるアクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイが広く普及している。
【0003】
このようなTFTをスイッチング素子とした表示デバイスでは、その構成材料として酸化物型半導体材料が用いられようになっている。この酸化物型半導体材料としては、透明酸化物半導体材料の一種であるIGZO(In−Ga−Zn−O系酸化物)が注目されている(特許文献1参照)。このIGZOは、従来から用いられている多結晶Si(シリコン)に次いでキャリア移動度が高く、a−Si(アモルファスシリコン)のようにTFT特性の特性バラツキが小さいため、今後の半導体材料として有望なものとして広く利用されはじめている。
【0004】
ところで、薄型テレビなどの液晶ディスプレイでは、表示方式の変化が生じている。具体的には、平面表示(2D)に加え、立体表示(3D)が可能な液晶ディスプレイが提供されている。この立体表示(3D)型の液晶ディスプレイでは、スイッチ液晶を利用した制御により表示画面の左右が異なる画像を見えるようにすることで実現されている。そのため、このような立体表示型の液晶ディスプレイのためには、より高速な応答速度を実現できるスイッチング素子が求められている。
【0005】
このような液晶ディスプレイの表示方式の変化に対応するべく、IGZOのような酸化物型半導体材料の開発が種々行われている。高速な応答速度となるTFTは、キャリア移動度が高いことが重要になる。例えば、IGZOでは、a−Siに比べて1〜2桁も大きく、そのキャリア移動度は5〜10cm
2/Vs程度である。そのため、このIGZOであれば、立体表示型液晶ディスプレイのスイッチング素子であるTFTの構成材料として使用可能であるが、よりハイスペックの液晶ディスプレイを実現するために、さらに高速な応答速度が実現できるTFTの構成材料が要望されている。
【0006】
また、このIGZOは、TFTを形成する際に350℃以上のアニール処理を必要とするため、フレキシブル基板などを利用する有機ELパネルや電子ペーパーのような高温熱処理ができない表示デバイスには利用することが困難である点が指摘されている。
【0007】
さらに、資源的な問題や、人体や環境への影響から、InやGaを用いない酸化物型半導体材料が要望されており、この点からのIGZOの代替材料の開発も必要とされている。
【0008】
このIGZOの代替材料としては、例えば、Zn酸化物とSn酸化物とからなる酸化物型半導体材料(ZTO:Zn−Sn−O系酸化物)が提案されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。これら先行技術のZTOは、高キャリア移動度を実現すべく開発されているが、TFT形成時の熱処理温度の検討がされてなく、有機ELパネルや電子ペーパーなどへの適用可能性が判明していない。そのため、IGZOの代替材料としてのZTOに関しても、更なる改善が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4164562号明細書
【特許文献2】特開2009−123957号公報
【特許文献3】特開2010−37161号公報
【特許文献4】特開2010−248547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、IGZOの代替材料として、キャリア移動度がIGZOと同等以上のものとなり、10cm
2/Vs程度の高キャリア移動度で且つ、300℃以上の高温熱処理を要しない、Zn酸化物とSn酸化物とからなる酸化物型半導体材料(ZTO:Zn−Sn−O系酸化物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者等は、Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料に含有させるドーパントについて種々検討したところ、ある特定の元素をドーパントにすると、高キャリア移動度を有したまま、高温熱処理を要しなくても駆動するTFTの作製が可能になるZTO膜になることを見出した。
【0012】
本発明は、Zn酸化物とSn酸化物とを含む酸化物型半導体材料であって、ドーパントとして、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)、La(ランタン)、Y(イットリウム)のいずれか一種以上を含有し、ドーパント含有量は、金属元素としてのZn(亜鉛)、Sn(スズ)、ドーパントの各原子数合計に対するドーパントの原子比が0.09以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る酸化物型半導体材料であれば、キャリア移動度がIGZOと同等以上のものとなり、10cm
2/Vs程度のキャリア移動度が実現でき、250℃以下の熱処理により、TFTなどのスイッチング素子を形成することが可能となる。また、In、Gaを含まないため、資源的な問題もなく、人体や環境への影響も少なくなる。
【0014】
本発明の酸化物型半導体材料のドーパントは、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種、或いは、これらを組み合わせて用いることができる。そして、このドーパントの含有量は、金属元素としてのZn、Sn、ドーパントの各原子数合計に対するドーパントの原子比が0.09以下とする。具体的には、金属元素としてのZnの原子数をx、Snの原子数をy、ドーパントの原子数をzとした場合、z/(x+y+z)≦0.09となるようにドーパントを含有させる。この原子比が、0.09を超えると酸化物型半導体材料の抵抗値が大きくなり、半導体特性が得られなくなる。原子比が0.09以下であると、キャリア密度が1×10
18cm
−3未満となるため、350℃熱処理後のIGZO膜と同等以下のキャリア密度を実現できる。ドーパント含有量の下限値は、IGZOと同等以下のキャリア密度を実現でき、250℃以下の熱処理によりTFTなどのスイッチング素子を形成することができれば、その数値に制限はない。本発明者らの検討では、例えばMgの場合、ドーパント含有量が原子比で0.0015であっても、本発明の酸化物型半導体材料として採用できることを確認している。そして、Mgの場合、ドーパント含有量が原子比で0.01未満であることが好ましい。0.01未満であると、良好なTFT特性を実現しやすくなる。さらに、ドーパントがCaの場合、そのドーパント含有量が原子比で0.074未満、ドーパントがLaの場合、そのドーパント含有量が原子比で0.027未満、ドーパントがYの場合、そのドーパント含有量が原子比で0.038未満であることが望ましい。尚、素子を形成する際のパターンニング特性については、ノンドープのZTO膜よりも、Mgをドーパントとして用いたものの方が優れていることが確認された。
【0015】
本発明の酸化物型半導体材料は、ZnとSnとが、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有していることが好ましく、0.6〜0.7の割合がより好ましい。このA/(A+B)が0.4未満になるとSnの比率が高くなるため、素子形成の際に成膜した薄膜をエッチングによりパターニングするときに、シュウ酸系エッチング液でのエッチングレートが極端に遅くなり、生産工程に適さなくなる。また、0.8を超えると、Znの比率が高くなるため、酸化物型半導体材料の水に対する耐性が低くなり、TFT素子の形成の際に一般的に用いられる配線や半導体層のパターニング工程において、レジストの剥離液や純水洗浄の影響によりZTO膜そのものがダメージを受け、本来のTFT素子特性を実現できなくなり、場合によっては、ZTO膜が基板から溶解・脱落し、TFT素子が形成できなくなる。
【0016】
本発明において、ドーパントとしてZrをさらに含有させることもできる。Zr(ジルコニウム)も、本発明の酸化物型半導体材料のキャリア移動度を制御することに寄与できるからである。本発明において、ドーパントとして、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種、或いは、これらを組み合わせて用い、さらにZrを含有する場合、Zrの含有量は、材料中のすべてのドーパント総合計含有量が原子比で0.09以下となるようにすることが好ましい。また、Zrの含有量は、酸化物型半導体材料を構成する、金属元素としてのZn(亜鉛)、Sn(スズ)、含有するすべてドーパントの各原子数合計に対するZrの原子比が0.005以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明の酸化物型半導体材料は、ボトムゲート型あるいはトップゲート型の薄膜トランジスタに非常に有効である。上記したように、本発明の酸化物型半導体材料であれば、IGZOと同等以上のキャリア移動度が実現でき、250℃以下の低温熱処理で使用できるので、高い応答速度が要求される立体表示型の液晶ディスプレイに好適であり、フレキシブル基板などを利用する有機ELパネルや電子ペーパーなどのスイッチング素子を形成する際にも適用することができる。
【0018】
本発明の酸化物半導体材料によりスイッチング素子を形成する場合は、当該酸化物型半導体材料により形成された薄膜を利用することが有効であり、その薄膜を成膜するためにはスパッタ法を用いることが好ましい。
【0019】
そして、このスパッタ法により本発明の酸化物型半導体材料の薄膜を成膜する際には、ドーパント含有量は、金属元素としてのZn、Sn、ドーパントの各原子数合計に対するドーパントの原子比が0.09以下であるスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。そして、ZnとSnとは、Znの金属元素の原子数をA、Snの金属元素の原子数をBとした場合、A/(A+B)=0.4〜0.8となる割合で含有した合金ターゲットであることが好ましい。この場合、スパッタリングの成膜の際に、直流電源や高周波電源、パルスDC電源を用いることができる。特に合金ターゲットを使用する場合には、パルスDC電源を用いることで、ターゲット表面に発生するノジュールや表面高抵抗層の形成を抑制し、安定した成膜をすることが可能になるので、量産工程に適したものとなる。
【0020】
本発明の酸化物型半導体材料において、ドーパントとして、Zrをさらに含有させる場合、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種以上と、さらに、Zrを所定量含有させたスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。このようなスパッタリングターゲットを準備する場合には、目的組成の酸化物型半導体材料が成膜できるように、Zn酸化物とSn酸化物と、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種以上の酸化物と、Zr酸化物とを、混合して、焼結することによって製造できる。また、Zn酸化物とSn酸化物と、Mg、Ca、La、Yのいずれか一種以上の酸化物とを、メディアとしてZrO
2製ボールを用いた乾式ボールミルで混合処理することで、Zrをさらに含有させることができる。このような乾式ボールミルによって、Zrをドーパントとして混入することができるが、酸化物型半導体材料の均一性などを考慮すると、望ましくは、Zr酸化物を混合した方がよい。
【0021】
本発明の酸化物型半導体材料を使って素子形成を行う場合には、上記スパッタ法により成膜することができるが、その他にもパルスレーザー蒸着法などスパッタ以外の成膜法を適応することもできる。また、半導体材料のナノ粒子が溶媒に分散した分散液を塗布する方法や、インクジェット法で回路形成することでも、本発明の酸化物型半導体材料を使った素子形成が可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の酸化物型半導体材料によれば、IGZOと同等以上のキャリア移動度を実現でき、250℃以下の低温熱処理で、TFTなどのスイッチング素子を形成することが可能となる。また、In、Gaを含まないため、資源的な問題もなく、人体や環境への影響も低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】TFT特性の測定グラフ(
参考例6、200℃)
【
図3】TFT特性の測定グラフ(比較例4、200℃)
【
図4】TFT特性の測定グラフ(実施例5、200℃)
【
図5】TFT特性の測定グラフ(実施例12、200℃)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
第一実施形態:この第一実施形態においては、ドーパントとしてMgを用いた場合について説明する。
【0026】
まず、この第一実施形態の酸化物型半導体材料についてのスパッタリングターゲットの作製について説明する。
ターゲット作製:大気雰囲気中、500℃で仮焼成を施したZnO粉と、大気雰囲気中、1050℃で仮焼成を施したSnO
2粉と、仮焼していないMgO粉を各々所定量秤量し、樹脂製ポット(容量4L)に投入してボールミルにて混合した。このボールミルでは、回転数130rpm、混合時間12時間の混合を行った。そして、混合粉を目開き500μm、線径315μmの篩にて、ふるい分けを行った。粗粒分が取り除かれた篩下の混合粉を、φ100mmカーボン製プレス型に充填して、ホットプレスにより焼結体を作製した。ホットプレス条件は、Arガス流量を3L/minとし、9.4MPa加圧下で1050℃まで昇温した後、25MPa加圧下で90分間保持し、自然冷却させ焼結体を取り出した。以上のような手順により、表1に示す各原子比となる薄膜を形成するための焼結体ターゲット形成をした。
【0027】
次に、作製した焼結体ターゲットを用いたスパッタリングによる成膜方法、及びその膜評価について説明する。市販の枚様式スパッタリング装置(トッキ(株)製:SML−464)を用いて成膜した。スパッタリング条件は、到達真空度1×10
−5Paとし、スパッタガスとしてAr/O
2混合ガスを用い、スパッタガス圧0.4Paに設定し、酸素分圧0.01Paとして、室温(25℃)のガラス基板(日本電気硝子(株)製:OA−10)上に、150WのDCスパッタリングにより、約100nm厚みの成膜を行った。
【0028】
この成膜した膜組成は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置(エスアイアイナノテクノロジー(株)製:Vista Pro)を使用して行った。表1には、Zn、Sn、Mgの測定値から、Zn/(Zn+Sn)及び、Mg/(Zn+Sn+Mg)の原子比の値を算出して記載している。なお、薄膜トランジスタ(TFT)などの素子に使用した場合、その酸化物型半導体材料の組成は、素子を切断し、その素子断面を透過型電子顕微鏡(TEM)などで観察しながら、酸化物型半導体材料層を特定し、その部分をEDX分析することで特定することができる。
【0029】
そして、成膜した各試料を、大気雰囲気中、200℃、300℃で1時間アニール処理をして、それぞれホール効果測定を行い、各試料の比抵抗値、キャリア移動度、キャリア密度を求めた。このホール効果測定は、市販のホール効果測定装置(ナノメトリクス・ジャパン(株)製:HL5500PC)により、10mm×10mm角に切り出した各試料を用いて行った。各試料の比抵抗値、キャリア移動度、キャリア密度の結果を表1に示す。
【0030】
TFT評価:上記の膜をチャネル層とし、メタルマスクを用いて薄膜トランジスタ(TFT)を作製した。
図1には、形成したTFT素子の断面概略図(A)及び平面寸法概略図(B)を示している。
図1(A)に示すように、TFTの形成は、まずはガラス基板10上にゲート電極20としてAl合金(厚み2000Å)を成膜した。ここでのスパッタガス圧は0.4Paで、投入電力1000WのDCスパッタを行った。次にゲート絶縁膜30としてSiNx(厚み3000Å)を成膜した。ここではプラズマCVD装置(samco社製:PD−2202L)により成膜を行い、基板温度350℃で投入電力250WのプラズマCVDを行った。原料ガスの流量は、SiH
4:NH
3:N
2=100cc:10cc:200ccとした。続いてチャネル層40として上記ZTO−MgO膜(厚み300Å)を成膜した。ここでのスパッタガス圧は0.4Pa、投入電力150WのDCスパッタを行った。チャネルのW/L=22とした。最後にソース電極50(厚み2000Å)とドレイン電極51(厚み2000Å)とを、ITOにより成膜した。ここでのスパッタガス圧は0.4Paで、投入電力600WのDCスパッタを行った。このようにして作製したTFTの素子寸法について、
図1(B)に示している。この
図1(B)の各幅の数値単位はmmである。
【0031】
作製したTFTについては、その伝達特性を半導体分析装置(Agilent Technologies社製Semiconductor Device Analyzer B1500A)により測定した。測定時に印加したドレイン電圧(Vds)は1〜5Vで、ゲート電圧(Vgs)の測定幅は−10〜20Vとした。
図2及び
図3にTFTの伝達特性を測定した結果を示す。
図2がZn/(Zn+Sn)=0.66、Mg/(Zn+Sn+Mg)=0.015の場合(実施例5、熱処理温度200℃)であり、
図3がZn/(Zn+Sn)=0.62、Mgドーパント添加なしの場合(比較例4、熱処理温度200℃)のTFT特性を示している。尚、
図2及び3では、縦軸左側はドレイン電流:Ids(A)値の対数軸であり、縦軸右側は√Ids値の小数点表示軸である。
【0033】
表1に示すように、Mg含有量は、原子比0.0015〜0.079であれば、200℃熱処理後におけるスパッタ膜のキャリア密度は、1×10
15cm
−3以上1×10
18cm
−3未満の範囲に入ることが判明した。そして、
図2に示すように、Zn/(Zn+Sn)=0.66、Mg含有量が原子比で0.015(Mg/(Zn+Sn+Mg):
参考例6)の場合(キャリア密度4.75×10
16cm
−3、そのTFT特性はon/off比が5桁となり良好なTFT特性を示していることが判明した。このTFT特性を7個の素子で測定した結果、しきい値電圧Vth(V)が5.88±1.94V、電解効果移動度μ(cm
2/Vs)が5.84±0.5cm
2/Vs、S値(V/dec)が1.07±0.5V/decであった。一方、
図3に示すように、Zn/(Zn+Sn)=0.62、Mgドーパント添加なしの場合(キャリア密度3.62×10
18cm
−3)、そのTFT特性はon/off比が2桁となり、この組成のZTO膜ではチャネル層としての機能が果たせないことが確認された。また、Mgドーパント添加なしの素子についても、TFT特性を7個の素子で測定した結果、そのうち5個の素子についてはon/offせずにoffしない素子となってしまい、残りの2個の素子では、しきい値電圧Vth(V)が−12.9±2.33V、電解効果移動度μ(cm
2/Vs)が13.7±3.54cm
2/Vs、S値(V/dec)が9.07±2.45V/decであった。尚、電解効果移動度μは、TFT素子を形成してTFT特性を測定した結果より得られる値であり、表1のキャリア移動度は、成膜した膜のホール効果測定より得られた値である。また、S値とは、トランジスタの特性を示すサブスレッショルドスイング値(subthreshold swing value)である。
【0034】
さらに、
図4に示すように、Zn/(Zn+Sn)=0.66、Mg含有量が原子比で0.009(Mg/(Zn+Sn+Mg):実施例5)の場合(キャリア密度5.90×10
16cm
−3、そのTFT特性はon/off比が5桁となり良好なTFT特性を示していることが確認された。このTFT特性を7個の素子で測定した結果、しきい値電圧Vth(V)が0.43±0.42V、電解効果移動度μ(cm
2/Vs)が6.02±0.63cm
2/Vs、S値(V/dec)が0.73±0.3V/decであった。また、
参考例8も同様にTFT特性を調べたところ、作製した7個のうち特性を示した1個の素子で測定した結果では、しきい値電圧Vth(V)が5.75V、電解効果移動度μ(cm2/Vs)が0.70cm2/Vs、S値(V/dec)が0.85V/decであった。このTFT特性の結果について、実施例5、
参考例6、
参考例8を比較すると、実施例5(Mg含有量が原子比で0.009(Mg/(Zn+Sn+Mg))のTFTが非常に良好なTFT特性であることが判明した。
【0035】
第二実施形態:この第二実施形態においては、ドーパントして、Ca、La、Yを用いた場合について説明する。
【0036】
これらのドーパントを用いたターゲットについては、第一実施形態の場合と同様な方法により作製し、表2に示した組成の成膜を行った。表2には、Zn、Sn、ドーパント(Ca、La、Y)の測定値から、Zn/(Zn+Sn)及び、ドーパント/(Zn+Sn+ドーパント)の原子比の値を算出して記載している。また、成膜条件、比抵抗値、キャリア移動度、キャリア密度の測定については、第一実施形態と同様である。その結果を表2に示す。
【0038】
表2に示すように、ドーパントとしてCa、La、Yを用いたZTO膜は、200℃の熱処理であっても、比抵抗値は実用上問題なく、キャリア密度も10
15cm
−3以上10
18cm
−3未満の範囲に入るものであることが判明した。また、これの組成によるTFT特性も、on/off比が5桁となる良好な結果が得られた。
【0039】
また、
図5に示すように、Zn/(Zn+Sn)=0.66、Ca含有量が原子比で0.003(Ca/(Zn+Sn+Ca):実施例12)の場合(キャリア密度5.10×10
16cm
−3、そのTFT特性はon/off比が5桁となり良好なTFT特性を示していることが判明した。このTFT特性を7個の素子のうちの4個で測定した結果、しきい値電圧Vth(V)が1.99±0.83V、電解効果移動度μ(cm
2/Vs)が5.20±0.72cm
2/Vs、S値(V/dec)が0.55±0.08V/decであった。
【0040】
第三実施形態:この第三実施形態においては、ドーパントして、MgとZrを用いた場合について説明する。
【0041】
このMgとZrをドーパントとして用いたターゲットについては、第一実施形態の場合と同様に、大気雰囲気中500℃で仮焼成を施したZnO粉と、大気雰囲気中1050℃で仮焼成を施したSnO
2粉と、仮焼していないMgO粉及びZrO
2粉を各々所定量秤量し、ボールミルにて混合した(混合条件は第一実施形態と同様)。そして、ふるい分け処理、ホットプレスにより焼結体を作製した(ふるい分け処理、ホットプレス条件は第一実施形態と同様)。そして、この焼結体をスパッタリングターゲットを用い、表3に示した組成の成膜を行った。表3には、Zn、Sn、ドーパント(Mg、Zr)の測定値から、Zn/(Zn+Sn)及び、(Mg+Zr)/(Zn+Sn+Zr+Mg)の原子比の値を算出して記載している。また、成膜条件、比抵抗値、キャリア移動度、キャリア密度の測定については、第一実施形態と同様である。その結果を表3に示す。
【0043】
表3に示すように、ドーパントとしてMg及びZr(Mgドーパントは原子比(Mg/(Zn+Sn+Zr+Mg))で0.0000849、Zrドーパントは原子比(Zr/(Zn+Sn+Zr+Mg))で0.0012、よってトータル含有量の原子比が0.0012849)を用いたZTO膜は、200℃の熱処理であっても、比抵抗値は実用上問題なく、キャリア密度も10
15cm
−3以上10
18cm
−3未満の範囲に入るものであることが判明した。また、これの組成によるTFT特性も、on/off比が5桁以上となる良好な結果が得られた。
【0044】
また、ターゲットの製造において、ZrO
2製ボールによる乾式ボールミルによって混合処理をすることで、酸化物型半導体材料のZr含有量の変化を調べた。具体的には、上記実施例17の場合と同様に、所定量のZnO粉、SnO
2粉、MgO粉を、ZrO
2製ボールによる乾式ボールミルにより混合処理を行い、焼結体を形成した(混合条件、ふるい分け処理、ホットプレス条件は同じ)。その結果、混合処理を12時間行ったところ、成膜した酸化物型半導体材料のZr含有量は、原子比で0.000046であり、20時間の場合0.000063であることが判明した。そして、このZrO
2製ボールによりZrを含有させた酸化物型半導体材料においても、その電子特性は実施例17と同様であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の酸化物型半導体材料は、立体表示型液晶ディスプレイのスイッチング素子のような、より高速な応答速度が要求されるTFTの構成材料として極めて有効である。また、本発明の酸化物型半導体材料は、低温熱処理で使用可能なため、フレキシブル基板などを利用する有機ELパネルや電子ペーパーに好適であり、資源的な問題や人体や環境への影響の観点からも産業上の利用価値が高い。