(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
空気極層と,電解質層と,燃料極層と,を積層してなり,前記空気極層および前記燃料極層の一方の層の表面を第1の主面とし,他方の層の表面を第2の主面とする平板状の燃料電池セル本体と,
前記第1の主面に接触する第1の集電体と,
前記第2の主面に接触する第2の集電体と,を具備する燃料電池であって,
前記第2の集電体は,前記第1の集電体より圧縮変形しやすく設定されており,
前記第1の集電体が,緻密体のステンレス鋼を有し,
前記第2の集電体が,集電部材とスペーサーとを有し,前記集電部材は,燃料電池のインターコネクタに当接するコネクタ当接部と,前記第2の主面に当接するセル本体当接部と,前記コネクタ当接部と前記セル本体当接部とを接続する連接部とを有し,前記セル本体当接部が前記コネクタ当接部の上方に被さるとともに,前記スペーサーは前記コネクタ当接部と前記セル本体当接部との間に配置されており,
前記燃料電池セル本体の厚み方向に沿って見た際,
前記第2の集電体の前記第2の主面に対応する第2の領域の境界の少なくとも一部が,前記第1の集電体の前記第1の主面に対応する第1の領域の境界の内側に位置し,
前記一部の境界を除く前記第2の領域の他の境界は,前記第1の領域の境界の内側または前記第1領域の境界上に位置するように設定されている
燃料電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,燃料電池スタックの組み立て時や運転中に,燃料電池セル本体(燃料極または空気極)と集電体間に局所的(例えば,角部が形成された箇所)に応力が集中し,燃料電池セル本体が割れる可能性がある。
本発明は,燃料電池セル本体と集電体間での局所的な応力集中を低減した燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る燃料電池は,空気極層と,電解質層と,燃料極層と,を積層してなり,前記空気極層および前記燃料極層の一方の層の表面を第1の主面とし,他方の層の表面を第2の主面とする平板状の燃料電池セル本体と,前記第1の主面に接触する第1の集電体と,前記第2の主面に接触する第2の集電体と,を具備する燃料電池であって,前記第2の集電体は,前記第1の集電体より圧縮変形しやすく設定されており,前記燃料電池セル本体の厚み方向に沿って見た際,前記第2の集電体の前記第2の主面に対応する第2の領域の境界の少なくとも一部が,前記第1の集電体の前記第1の主面に対応する第1の領域の境界の内側に位置し,前記一部の境界を除く前記第2の領域の他の境界は,前記第1の領域の境界の内側または前記第1領域の境界上に位置するように設定されている。
【0006】
第1の集電体の,第1の主面に対応する第1の領域とは,第1の集電体が第1の主面と接触しているエリア,及び,第1の集電体が複数である場合に集電体どうし間のエリアを含んで構成され,一つの連続する領域をいう。第2の集電体の第2の領域についても同様である。第1の集電体より圧縮変形しやすく設定される第2の集電体の第2の領域の境界の少なくとも一部が,第1の集電体の第1の領域の境界の内側に位置する。また,この一部の境界を除く第2の領域の他の境界は,第1の領域の境界の内側または前記第1領域の境界上に位置する。このように,第1,第2の集電体の圧縮変形のし易さに対応して,第1,第2の領域の境界を設定することで,第1,第2の集電体と燃料電池セル本体間での局所的な応力の集中が緩和され,燃料電池セル本体の割れを低減できる。特に,燃料電池セル本体の周縁部や,角部などの応力が集中しやすい箇所での応力が緩和され,結果的に燃料電池セル本体の割れが軽減される。
【0007】
(1)前記第1の領域が,角部が面取りされた第1の矩形形状の境界を有し,前記第2の領域が,角部が面取りされた第2の矩形形状の境界を有しても良い。
【0008】
第1,第2の領域の角が面取りされることで,第1,第2の集電体の燃料電池セル本体に対応する領域のうち,最も応力が集中しやすい角部での応力を効果的に緩和できる。
【0009】
(2)(1)において,前記燃料電池セル本体の厚み方向に沿って見た際,前記第2の領域の前記第2の矩形形状の面取りが,前記第1の領域の前記第1矩形形状の面取りの内側に配置されていても良い。
【0010】
第2の領域の面取りが,第1の領域の面取りの内側に配置されることで,第1,第2の集電体の燃料電池セル本体に対応する領域の角部での応力の集中をさらに緩和できる。
【0011】
(3)(1)または(2)において,前記第1,第2の矩形形状の面取りの少なくともいずれかが,略直線形状または略円弧形状であっても良い。面取りの形状を略直線形状または略円弧形状のいずれとしても,第1,第2の集電体の燃料電池セル本体に対応する領域の角部での応力の集中を有効に緩和できる。
【0012】
(4)前記燃料電池が,複数の前記第1の集電体および複数の前記第2の集電体を具備し,前記第1の領域の境界が,前記複数の第1の集電体によって規定され,前記第2の領域の境界が,前記複数の第2の集電体によって規定されても良い。
【0013】
燃料電池が,第1,第2の集電体を複数有しても良い。この場合,第1,第2の領域は,それぞれ複数の集電体(第1の単体,第2の単体)によって規定されることになる。即ち,第1の領域は,複数の第1の単体によって規定される。また,第2の領域は,複数の第2の単体によって規定される。この場合でも,第2の領域の境界の少なくとも一部が,第1の領域の境界の内側に位置することで,局所的な応力の集中が緩和される。
【0014】
(5)前記第1の主面が前記空気極層の表面から構成され,前記第2の主面が前記燃料極層の表面から構成されており,前記第1の主面に接触する前記第1の集電体が,緻密体のステンレス鋼を有し,前記第2の主面に接触する前記第2の集電体が,多孔質のニッケルを有しても良い。
【0015】
第1の集電体が,緻密体のステンレス鋼を有し,第2の集電体が,多孔質のニッケルを有することで,第1,第2の集電体の圧縮変形のし易さを設定できる。即ち,第1,第2の集電体の圧縮変形のしやすさは,集電体の材質によって設定される。
【0016】
(6)前記第1の主面が前記空気極層の表面から構成され,前記第2の主面が前記燃料極層の表面から構成されており,前記第1の主面に接触する前記第1の集電体が,緻密体のステンレス鋼を有し,前記第2の主面に接触する前記第2の集電体が,ニッケルとマイカの複合体を有しても良い。
【0017】
第1の集電体が,緻密体のステンレス鋼を有し,第2の集電体が,ニッケルとマイカの複合体を有することで,第1,第2の集電体の圧縮変形のし易さを設定できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,燃料電池セル本体と集電体間での局所的な応力集中を低減した燃料電池を提供できる。即ち,燃料電池セル本体の空気極または燃料極に接触する集電体が配置された場合に,セルの周縁部や角部などの局所に応力集中しやすい問題が改善され,燃料電池セル本体の割れが軽減される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお,本発明の実施の形態は,下記の実施形態に何ら限定されることはなく,本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は,本発明の第1実施形態に係る固体酸化物形燃料電池10を表す斜視図である。固体酸化物形燃料電池10は,燃料ガス(例えば,水素)と酸化剤ガス(例えば,空気(詳しくは空気中の酸素))との供給を受けて発電を行う装置である。
【0022】
固体酸化物形燃料電池(燃料電池スタック)10は,エンドプレート11,12,燃料電池セル40(1)〜40(4)が積層され,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)およびナット35で固定される。ここでは,判り易さのために,4つの燃料電池セル40(1)〜40(4)を積層しているが,一般には,20個程度の燃料電池セル40を積層することが多い。
【0023】
エンドプレート11,12,燃料電池セル40(1)〜40(4)は,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)に対応する貫通孔31,32(32a,32b),33(33a,33b)を有する。エンドプレート11,12は,積層される燃料電池セル40(1)〜40(4)を押圧,保持する保持板であり,かつ燃料電池セル40(1)〜40(4)からの電流の出力端子でもある。
【0024】
図2は,固体酸化物形燃料電池10の模式断面図である。
図3は,燃料電池セル40の断面図である。
【0025】
図3に示すように,燃料電池セル40は,いわゆる燃料極支持膜形タイプの燃料電池セルであり,インターコネクタ41,43,枠部42,セル本体(燃料電池セル本体)44,集電体45,(第2の)集電体46を有する。
【0026】
なお,燃料極支持膜形タイプの燃料電池セルでは,空気極56,および固体電解質体57の厚みよりも燃料極58の厚みが大きい。
【0027】
インターコネクタ41,43は,燃料電池セル40間の導通を確保し,かつガス流路を遮断する,上下一対の導電性(例えば,金属)のプレートである。
【0028】
なお,燃料電池セル40間には,1個のインターコネクタ(41または43)のみが配置される(直列に接続される2つの燃料電池セル40間で1つのインターコネクタを共有しているため)。また,最上層および最下層の燃料電池セル40(1),40(4)それぞれでは,インターコネクタ41,43に替えて,エンドプレート11,12が配置される。
【0029】
枠部42は,開口47を有する。この開口47内は,気密に保持され,かつ酸化剤ガス流路48,燃料ガス流路49に区分される。枠部42は,絶縁フレーム51,55,空気極フレーム52,セパレータ(その外周縁部)53,燃料極フレーム54を有する。
【0030】
絶縁フレーム51,55は,インターコネクタ41,43間を電気的に絶縁する,セラミックス製のフレームであり,空気極56側および燃料極58側に配置される。なお,絶縁フレーム51,55の一方を用いないことも可能である。
空気極フレーム52は,酸化剤ガス流路48側に配置される金属製のフレームである。
セパレータ53は,セル本体44を接合し,かつ酸化剤ガス流路48,燃料ガス流路49を遮断する金属製のフレームである。
燃料極フレーム54は,燃料ガス流路49側に配置される金属製のフレームである。
【0031】
枠部42は,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)に対応する貫通孔31,32(32a,32b),33(33a,33b)を有する。
【0032】
セル本体(燃料電池セル本体)44は,空気極(カソード,空気極層ともいう)56,固体電解質体(電解質層)57,燃料極(アノード,燃料極層ともいう)58,を積層して構成される。固体電解質体57の酸化剤ガス流路48側,燃料ガス流路49側,それぞれに,空気極56,燃料極58,が配置される。空気極56としてはペロブスカイト系酸化物,各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットが使用できる。固体電解質体57としては,YSZ,ScSZ,SDC,GDC,ペロブスカイト系酸化物等の材料が使用できる。また,燃料極58としてはNi及びNiとセラミックとのサーメットが使用できる。
【0033】
図2,
図3に示すように,インターコネクタ41,43の上部において,貫通孔32aと開口47間が切欠61で空間的に接続され,これらの間での燃料ガスの流通を可能としている。インターコネクタ41,43の下部において,貫通孔33aと開口47間が切欠62で空間的に接続され,これらの間での酸化剤ガスの流通を可能としている。
【0034】
空気極56側の集電体45は,セル本体44(空気極56)とインターコネクタ41との間の導通を確保するためのものであり,緻密な金属材料からなる。
【0035】
燃料極58側の集電体46は,セル本体44(燃料極58)とインターコネクタ43との間の導通を確保するためのものであり,集電体45より圧縮変形し易い,例えば,多孔質の金属材料から構成できる。
【0036】
集電体45の材料としては,導電性および耐熱性を有する金属材料,例えば,ステンレス鋼,ニッケル基合金,クロム基合金等が挙げられる。具体的には,ステンレス鋼としては,フェライト系ステンレス鋼,マルテンサイト系ステンレス鋼,オーステナイト系ステンレス鋼が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては,SUS430,SUS434,SUS405,SUS444等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては,SUS403,SUS410,SUS431等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼としては,SUS201,SUS301,SUS305等が挙げられる。
【0037】
集電体46の材料としては,導電性,耐熱性,および耐酸化性を有する金属材料,例えば,ニッケル,ニッケル基合金,ステンレス鋼等が挙げられる。これらの金属材料(例えば,ニッケル)を多孔質構造とすることで,比較的圧縮変形容易な集電体46とすることができる。但し,集電体46を金属材料の線(ワイヤー),網(金網)から構成してもよい。また,後の第2の実施形態で示すように,金属の板材を折り曲げて,集電体46としても良い。
【0038】
なお,集電体45,46の圧縮変形のし易さは,「荷重‐歪み」曲線によって評価できる。即ち,常温において,同一形状の集電体を圧縮試験機で圧縮し,「荷重‐歪み」曲線を得る。同一荷重において,歪み量の大きい集電体が「圧縮変形し易い集電体」と言える。
【0039】
ここで,空気極56と集電体45との間に,例えば,銀パラジウム合金(パラジウム含有量1〜10mol%)等からなる密着層を形成しても良い。密着層によって,空気極56と集電体45との導通を確保するとともに,空気極56と集電体45とを接合できる。
【0040】
この密着層は例えば次のようにして形成できる。具体的には,Ag−Pd粉末(Pd:1mol%)とエチルセルロースと有機溶剤とを含む,Ag−Pd導電性ペーストを集電体45の表面(空気極56側となる表面)に塗布(または印刷)する。この導電性ペーストは,固体酸化物形燃料電池10の運転温度(例えば,700℃)において,エチルセルロースなどが除去されるとともに,Ag−Pd合金が軟化して空気極56や集電体45に密着する状態となる。なお,運転停止時には,この密着層は空気極56と集電体45と強固に接合して一体化する。このようにして,空気極56と集電体45間に密着層を形成し,その間での導通の確実性を向上できる。
【0041】
ボルト21は,積層されたエンドプレート11,12,燃料電池セル40(1)〜40(4)を押圧,固定するための部材である。
ボルト22(22a,22b)は燃料ガスを流通させるための部材であり,燃料ガスが流通する空孔(燃料ガス流路)を有する。ボルト23(23a,23b)は酸化剤ガスを流通させるための部材であり,酸化剤ガスが流通する空孔(酸化剤ガス流路)を有する。
【0042】
燃料ガス,酸化剤ガスは,次のように,燃料電池セル40に流入,流出する。
即ち,ボルト22(22a,22b)内の空孔から燃料ガス流路49内に燃料ガスが流入,流出する。ボルト23(23a,23b)内の空孔から酸化剤ガス流路48内に酸化剤ガスが流入,流出する。
【0043】
図4,
図5は,インターコネクタ41,43それぞれに配置される集電体45,第2の集電体46を表す平面図である。インターコネクタ41,43上に複数の集電体45,複数の第2の集電体46が配置される。
【0044】
なお,個別の集電体45,第2の集電体46それぞれと,複数の集電体45,第2の集電体46とをより明確に区別するため,次のような呼称も利用可能とする。即ち,個別の集電体45,第2の集電体46を第1の単体45,第2の単体46とも呼ぶ。また,複数の集電体45全体,第2の集電体46全体を集電体45G,第2の集電体46Gと呼ぶものとする。
【0045】
このとき,複数の集電体45全体(集電体45G),第2の集電体46全体(第2の集電体46G)としての外周(輪郭線)が領域A1,A2を規定する。即ち,領域A1は第1の単体45が占めるエリアと,第1の単体45どうし間のエリアとを含んで構成され,領域A2は,第2の単体46が占めるエリアと第2の単体46どうし間のエリアとを含んで構成される。
【0046】
具体的には,領域A1,A2はそれぞれ,略矩形形状であるが,その4隅の角部に領域A11,A21を有しない。即ち,領域A1,A2は,角部が面取りされた矩形形状の「境界」を有する。集電体45,46が領域A11,A21に入らないように,「境界」の内側に配置されている。
【0047】
このように,集電体45G,第2の集電体46Gのセル本体44上の主面に対応する領域A1,A2の角部が面取りされている。この結果,集電体45G,第2の集電体46Gが燃料電池セル本体44(空気極,燃料極)に対応する領域A1,A2の角部での応力の集中が緩和され,燃料電池セル本体44の割れを低減できる。
【0048】
本実施形態では,領域A1,A2双方の角部を面取りしているが,領域A1,A2一方のみの角部を面取りしても,応力の集中が緩和され,燃料電池セル本体44の割れを低減できる。
【0049】
図6〜
図9は,判り易さのために,集電体45を除外して,領域A1を表した図である。
図6〜
図9は,領域A1,A2を燃料電池セル本体44の厚み方向(Z方向)に沿って見たものに該当する。
図6では,領域A1の角部は直線状に面取りされている(C面取り)。
図7では,領域A1の角部は円弧形状に面取りされている(R面取り)。
図8では,領域A1の角部は2つの直線を組み合わせた形状に面取りされている(その他の面取り)。
図9では,領域A2の境界の全部が,領域
A1の境界の内側に配置されている。また,
図9では,領域A1,A2双方の角部は円弧形状に面取りされている(R面取り)。
【0050】
図6,
図7に示すように,面取りの形状がC面取り,R面取りの何れでも,応力の集中が緩和される。この点,領域A2でも,面取りの形状がC面取り,R面取りの何れでも,応力の集中が緩和される。
【0051】
さらに,
図8に示されるように,面取りが直線,円弧等の中間的な形状,例えば,複数の直線を接続した形状(
図8では2つの直線を接続した形状),直線と円弧とを接続した形状でも,応力の集中が緩和される。
【0052】
領域A2の境界の少なくとも一部が,領域A1の境界の内側に位置する。即ち,領域A2の矩形形状の面取りが,領域A1の矩形形状の面取りの内側に配置されている。これは,次に示す面取り量M1,M2の大小に対応する。後述のように,集電体45,46の圧縮変形のし易さに対応して領域A1,A2の範囲(大きさ)を設定することで,応力の集中を低減できる。
【0053】
この一部の境界を除く領域A2の他の境界は,領域A1の境界の内側または境界上に位置するように設定されている。ここでは,角部を除き,領域A1,A2の境界が一致している。例えば,角部以外で,Z方向から見て,領域A1,A2の境界を一致させても良い。この場合,最も応力の集中しやすい角部での応力が効果的に緩和される。
【0054】
なお,図に示されていないが,角部以外において,領域A2の境界を領域A1の内側に配置しても良い。この場合,セル本体44の周縁部での局部的な応力集中も緩和される。
図9に示されるように,角部および角部以外の双方において,領域A2の境界を領域A1の内側に配置してもよい,この場合,最も応力が集中しやすい角部に加え,周縁部での局所的な応力集中も緩和できる。
【0055】
ここで,領域A1,A2それぞれでの面取り量M1,M2(%)を次の式(1)で定義できる。
M1=(ΔL1/L)*100
M2=(ΔL2/L)*100 ……式(1)
L: 領域A1,A2での辺の長さ
ΔL1: 面取りされた領域A11の幅
ΔL2: 面取りされた領域A21の幅
【0056】
図6〜
図9に示されるように,面取り量M2は,面取り量M1より大きい(M2>M1)。
なお,この定義は,C面取り,R面取りの何れでも適用可能である。ここでは,領域A1を略正方形(隣り合う辺の長さが等しい)としている。領域A1,A2が略長方形(互いに異なる長さの長辺,短辺を有する)の場合,長さLとして,短辺の長さを用いるものとする。
【0057】
本実施形態では,領域A2の面取り量M2を領域A1の面取り量M1より大きくしている。後述のように,領域A1,A2の角部での応力の集中をより低減し,セル本体44の割れをより確実に低減できる。
【0058】
燃料極側,空気極側に対応する集電体45,46の領域A1,A2の大きさを変えることにより,更に応力集中を緩和できる。即ち,角部および角部以外の双方において,領域A2の境界を領域A1の内側に配置した場合,最も応力が集中しやすい角部に加え,周縁部での局所的な応力集中も緩和される。
【0059】
図10,
図11は,本実施形態および比較例それぞれでの燃料電池セル40,40xの断面での領域A1,A2の関係を表す図である。
図10に示すように,燃料電池セル40では,領域A2が領域A1の内側に位置するように(領域A1,A2の間の領域ΔAに),比較的圧縮変形し難い集電体45が集電体46
よりも面方向に沿って延び出て配置される。
一方,
図11に示すように,比較例である燃料電池セル40xでは,領域A1が領域A2の内側に位置するように(領域A1,A2の間の領域ΔAxに),比較的圧縮変形し易い集電体46が集電体45
よりも面方向に沿って延び出て配置される。
【0060】
つまり,
図11に示す燃料電池セル40xでは,領域ΔAxに,比較的圧縮変形し易い集電体46が配置される一方,比較的圧縮変形しにくい集電体45が配置されていないことから,領域ΔAxでセル本体44が変形する可能性が大きい。一方,領域A1には,比較的圧縮変形し難い集電体45が(比較的圧縮変形し易い集電体46とともに)配置されることから,領域A1でセル本体44が変形する可能性が小さい。即ち,セル本体44上に,比較的変形し易い領域ΔAxと,比較的変形し難い領域A1とが混在することになる。このため,領域A1,ΔAxの境界において,セル本体44にせん断応力が集中し,割れる可能性がある。
【0061】
これに対して,
図10に示す燃料電池セル40では,比較的圧縮変形し易い集電体46のみが配置される領域は存在しない。このため,領域A2,ΔAの境界における,セル本体44への応力の集中が低減され,セル本体44が割れる可能性も低減される。
【0062】
図12は,面取り量M(%)と応力F(%)との関係の一例を表すグラフである。応力F(%)は,次の式(2)で定義される。
F=(F1/F0)*100 ……式(2)
F1:面取りしたときの領域A1,A2内での応力の最大値
F0:面取りしないときの領域A1,A2内での応力の最大値
【0063】
ここでは,次の条件でシミュレーションした結果を表している。
グラフG1では領域A1,A2それぞれでの面取り量M1,M2を同一としている。グラフG2では,面取り量M1,M2をそれぞれ,M1=5%,M2=10%としている。セパレータ53の外周部を固定した状態で,
図1でのZ負方向に集電体45,46を押し込む。
【0064】
グラフG1より領域A1,A2を面取りすることで,応力の集中が緩和されることが判る。グラフG2より領域A2での面取り量M2を領域
A1での面取り量M1より大きくすることで,応力の集中がさらに緩和されることが判る。
【0065】
図13は,飛び出し量Ro(%)と応力F(%)のシミュレーション結果を表すグラフである。
ここで,飛び出し量Ro(%)は,剛性の高い(比較的圧縮変形しにくい)集電体45に対する剛性の低い(比較的圧縮変形し易い)集電体46の割合であり,次の式で表される。即ち,領域A1,A2は面取りせず,矩形とし,それぞれの辺の長さL1,L2が異なっている。
【0066】
Ro(%)=[(L2−L1)/L1]×100
L1: 領域A1での辺(短辺)の長さ
L2: 領域A2での辺(短辺)の長さ
【0067】
飛び出し量Ro(%)が正であることは,比較的圧縮変形し易い集電体46が飛び出ていることを表す(
図11に対応)。飛び出し量Ro(%)が負であることは,比較的圧縮変形し難い集電体45が飛び出ていることを表す(
図10に対応)。
このシミュレーション結果からも,
図10に示す燃料電池セル40において,応力Fが小さく,従って,セル本体44の割れの可能性が低減されることが判る。
【0068】
図14A〜
図14C,
図15A〜
図15Cは,集電体45,第2の集電体46の個数を変化させた場合での,集電体45G,第2の集電体46Gの外形と領域の関係を表す図である。ここでは,便宜的に領域A1,A2を同一とし,外形と領域の関係を表している。即ち,
図14A〜
図14C,
図15A〜
図15Cは,集電体の外形と領域の関係を表すものであり,領域A1,A2の関係を表すものではない。
【0069】
図14Aでは,集電体45G,第2の集電体46Gを構成する集電体(第1の単体)45,(第2の単体)46の個数は1(1つの単体)であり,集電体45,第2の集電体46の外形と領域A1,A2は一致している。
図14B,
図14Cそれぞれでは,2つ,3つの集電体(第1の単体)45,(第2の単体)46を図の縦方向に並べて,集電体45G,第2の集電体46Gを構成している。
【0070】
図15A〜
図15Cそれぞれでは,次のように複数の集電体45,第2の集電体46を並べて,集電体45G,46Gを構成している。
(a)縦横に2つずつ(合計4つ)
(b)縦に3つ,横に2つ(合計6つ)
(c)縦横に3つ(合計9つ)
【0071】
以上のように,領域A1,A2それぞれに任意の個数の集電体45,第2の集電体46を対応させることが可能である。即ち,集電体45G,第2の集電体46Gを構成する第1の単体45,第2の単体46の数が幾つでもよい。また,集電体45G,第2の集電体46Gが何れであっても,領域A1,A2が,角部が面取りされた矩形形状の境界を有することで,角部での応力の集中が緩和される。
【0072】
(第2の実施の形態)
図16は,第2の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池10aの燃料電池セル40aの断面図である。
燃料電池セル40aは,集電体46に替えて,集電体46aを有する。集電体46aは,スペーサー65,集電部材66の複合体から構成される。折り曲げた集電部材66にスペーサー65が挟み込まれる。このように,集電体45,46での圧縮変形の容易性を異ならせるのに,種々の構成を採用できる。
【0073】
集電部材66は,例えば,真空中1000℃で,1時間,加熱して,焼き鈍した(HV硬度で200以下)Ni板で形成される。集電部材66は,コネクタ当接部66a,セル本体当接部66b,および連接部66cが一体に形成される。コネクタ当接部66aは,インターコネクタ43に当接する。セル本体当接部66bは,セル本体44の燃料極58に当接する。連接部66cは,U字状をなし,コネクタ当接部66aとセル本体当接部66bとを接続する。
【0074】
集電部材66は,例えば,厚さ30μm程度の箔材で形成できる。このため,連接部66cは,面と交差する方向に曲げ伸ばし自在であり,且つ曲げ伸ばしに対する反発力が殆ど生じない。
【0075】
なお,集電部材66は,箔材の他,例えば,Ni製の多孔質金属,金網,ワイヤー,又はパンチングメタルで形成してもよい。また,集電部材66は,Niの他,Ni合金やステンレス鋼など酸化に強い金属で形成してもよい。
【0076】
この集電部材66は,燃料ガス流路49に数十〜百個程度(燃料ガス流路49の大きさにより異なる。)設けられる。
【0077】
スペーサー65は,コネクタ当接部66aとセル本体当接部66bの間に配置され,厚さ方向に弾性力を有する。スペーサー65の材質としては,マイカ,アルミナフェルト,バーミキュライト,カーボン繊維,炭化珪素繊維,シリカの何れか1種か,或は複数種を組み合わせたものを利用できる。また,これらを例えばマイカのような薄い板状体の積層構造とすることで,積層方向への荷重に対し,適度な弾性を確保できる。
【0078】
以上のように,折り曲げた集電部材66とスペーサー65を組み合わせることで,比較的圧縮変形し易い,集電体46aを構成できる。
【0079】
集電体46aは,次のようにして作成できる。
個々の集電部材66をインターコネクタ43上に並べて溶接(例えばレーザー溶接や抵抗溶接)してもよい。より好ましくは,
図17,
図18に示すように,複数の集電部材66を一体として形成する。
【0080】
具体的には,
図19に示すように,箔材を四角い平板66pに加工し,この平板66pにセル本体当接部66bと連接部66cに対応する切込線66dを形成する。そして,
図18に示すように,連接部66cをU字状に曲げて,セル本体当接部66bがコネクタ当接部66aの上方に被さるようにする。セル本体当接部66bを折り曲げることで,平板66pが穴あき状態となる。穴あき状態の平板66pが,コネクタ当接部66aの集合体である。
【0081】
図20に示すように,スペーサー65は,横格子状とした,材料シートから構成できる。この材料シートは,平板66pとほぼ同幅で,平板66pより若干短い,四角形状を有する。この材料シートから,セル本体当接部66bと連接部66cに対応する部分を横1列分ずつ纏めて切り抜き,横格子状とする。
【0082】
このスペーサー65を平板66p(集電部材66への加工前,
図19参照)に重ね,連接部66cで曲げることで,スペーサー65を組み込んだ集電部材66を作成できる。
【0083】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0084】
上記実施形態では,領域A2の角部の境界が,領域A2の境界の内側に配置され,領域A2の角部以外の境界が,領域A2の境界とほぼ一致している。これに対して,領域A2の角部以外の境界の全部または一部が,領域A2の境界の内側に配置されても良い。
【0085】
また,領域A1,A2それぞれでの4つの角部での面取り形状および面取り量Mを同一としているが,領域A1,A2それぞれでの一部または全部の面取り形状または面取り量Mを異ならせても良い。
さらに,領域A1を面取りせず,領域A2を面取りしても良い。
【0086】
以上の実施形態では,ボルトの内部を中空とし,燃料ガス,酸化剤ガスの流路としていた(中空ボルト)。これに対して,ボルトの内部を中空とせず(中実ボルト),ボルトの外部を燃料ガス,酸化剤ガスの流路としてもよい。