特許第5881698号(P5881698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881698エーテルヒドロキシエチルセルロースを含む抗微生物医療用ジェル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881698
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】エーテルヒドロキシエチルセルロースを含む抗微生物医療用ジェル
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/58 20060101AFI20160225BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160225BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20160225BHJP
   A61K 31/14 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   A61L15/06
   A61K9/06
   A61K47/04
   A61K47/38
   A61K47/10
   A61P31/00
   A61K31/14
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-519923(P2013-519923)
(86)(22)【出願日】2011年7月18日
(65)【公表番号】特表2013-535251(P2013-535251A)
(43)【公表日】2013年9月12日
(86)【国際出願番号】CA2011000829
(87)【国際公開番号】WO2012009794
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】61/365,444
(32)【優先日】2010年7月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513014569
【氏名又は名称】ブラセルズ ベンチャーズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BRUSELLS VENTURES CORP.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ハイナー,トーマス
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−087935(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/085275(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/037242(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0260864(US,A1)
【文献】 特表2001−501609(JP,A)
【文献】 特表2001−507018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A61L 15/00−33/00
A61K 31/14
A61P 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)エーテル化したヒドロキシエチルセルロース、
b)塩化ベンザルコニウム
c)1,3−プロパンジオール、および
d)水
を含エーテル化したヒドロキシエチルセルロースが、下記式で表される、医療用ジェル。
【化1】
【請求項2】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースが、医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%の間で存在する、請求項1に記載の医療用ジェル。
【請求項3】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースが医療用ジェルにおいて2.2重量%〜2.7重量%の間で存在する、請求項1または2に記載の医療用ジェル。
【請求項4】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの粘性が、2%水溶液の場合、100,000cpsである、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項5】
塩化ベンザルコニウムが、医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%の間で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項6】
塩化ベンザルコニウムが、医療用ジェルにおいて0.095重量%〜0.105重量%の間で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項7】
1,3−プロパンジオールが、医療用ジェルにおいて3.0重量%〜3.5重量%の間で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項8】
1,3−プロパンジオールが、医療用ジェルにおいて3.1重量%〜3.3重量%の間で存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項9】
水が、医療用ジェルにおいて80重量%〜99重量%の間で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項10】
水が、医療用ジェルにおいて93重量%〜96重量%の間で存在する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項11】
a)医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%で存在するエーテル化したヒドロキシエチルセルロース、
b)医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%で存在する塩化ベンザルコニウム、
c)医療用ジェルにおいて3.0重量%〜3.5重量%で存在する1,3−プロパンジオール、および、
d)医療用ジェルにおいて80重量%〜99重量%で存在する水
を含エーテル化したヒドロキシエチルセルロースが、下記式で表される、超音波医療用ジェル。
【化2】
【請求項12】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースが、医療用ジェルにおいて2.2重量%〜2.7重量%の間で存在する、請求項11に記載の医療用ジェル。
【請求項13】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの粘性が、2%水溶液の場合、100,000cpsである、請求項11または12に記載の医療用ジェル。
【請求項14】
塩化ベンザルコニウムが、医療用ジェルにおいて0.095重量%〜0.105重量%の間で存在する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項15】
1,3−プロパンジオールが、医療用ジェルにおいて3.1重量%〜3.3重量%の間で存在する、請求項11〜14のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【請求項16】
水が、医療用ジェルにおいて93重量%〜96重量%の間で存在する、請求項11〜15のいずれか一項に記載の医療用ジェル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波処置における使用のためのような医療用ジェルに関する。具体的には、本開示は、抗微生物医療用ジェル、および、かかる抗微生物医療用ジェルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記のものは、以下で議論する如何なるものも先行技術または当業者の共通する一般的な知識の一部であるということを承認するものではない。
【0003】
医療用ジェルは普通、表皮超音波、物理療法、医療的な美容処置、および他の関係する処置のために使用され、トランスデューサー(またはプローブ)と皮膚との間の潤滑剤およびカプラント(couplant)の両方に使用される。
【0004】
典型的な医療用ジェルは、保管の間の細菌の増殖を妨げる防腐剤を含むため、「静菌性(bacteriostatic)」と考えられている。しかしながら、防腐剤は、細菌の増殖を制限するのみで、処置の間、ジェルがさらされている細菌を減らすまたは殺すことはない。さらに、防腐剤は、処置の間、感染した患者からトランスデューサーまたはプローブへの細菌の移動を抑制しない。したがって、医療用ジェルはクロスコンタミネーションの媒体として、感染の深刻なリスクを提示し得る。菌血症、敗血症、セパシア菌群(B. cepacia complex)、メチシリン感受性の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などの院内病原の多数のケースは、感染患者によって汚染された医療用ジェルに遡る(1、2、3)。院内感染は、1年あたり100,000人を超える死者をもたらし、米国およびカナダの医療保険制度で年間300億ドルを超える費用がかかる(4、5、6、7)。同様に、病院は、生命を救い、感染患者を処置するための経済的負担を低くするために院内の率を低減する努力を増大させている(7、8、9)。また、院内感染が、医療保険機関(healthcare institution)に対する訴訟の大きくなる脅威を示すという懸念の高まりが存在する(10)。
【0005】
表面の病原菌を除去するために、いくつかの医療用品が、患者の処置の間にオートクレーブ(蒸気)、ガス(化学薬品)または超音波浴によって殺菌されている。しかしながら、トランスデューサーまたはプローブのデバイスの内部回路や材料が熱、化学物質および機械的振動に極めて敏感なので、これらの方法はトランスデューサーおよびプローブを殺菌するために使用されることができない。そのため、製造業者は、そのような方法が製品の性能へダメージを与えるかもしれない、および/または変えるかもしれないので、そのような殺菌の方法を使用しないよう使用説明書において、はっきりと述べている。
【0006】
代わりに、医療スタッフは 、処置の間、トランスデューサーまたはプローブを殺菌するために、低刺激性の溶剤(mild solvent)、多様な洗浄スプレー、および拭き取りを使用するよう指導されている。そのような洗浄手順は、処置の間に患者、医療用ジェル、トランスデューサーおよび他の媒介物の間で起こりうるクロスコンタミネーションのリスクに対処していない(11,12,13)。さらに、それらは、環境調査がコンタミネーションの源として示しているもの−医療用ジェル、に対処していない。 そのため、医療用ジェルを経由して患者から患者への病原の伝染は、まだ起こる可能性がある。
【0007】
超音波および他の局所的処置の間のクロスコンタミネーションのリスクを軽くするために、使用の間ジェルがさらされている細菌を殺す抗微生物医療用ジェルを製造するための試みがされている。例えば、国際特許出願公報No. WO 2007/038855 (O’Reilly et al.) は、光ベース(light-based)または超音波の皮膚の処置のためののためのカップリング媒体(coupling media)および潤滑剤として役に立ち、溶媒、増粘剤および抗微生物剤、並びに、好ましくは生物粘着剤(bioadhesive)および湿潤剤(humectant)からなる医療用ジェルを開示している。
【発明の概要】
【0008】
要約
次の要約は、読み手が理解するためのより詳細な議論を紹介するために提供される。要約は、請求項を限定または範囲を決定することを意図しない。
【0009】
一側面によると、 医療用ジェルは、a)エーテル化したヒドロキシエチルセルロースを含むゲル化剤、b)抗微生物剤、c)溶媒、およびd)水、を含む。
【0010】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースは、医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%の間で存在してもよい。より具体的には、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースは、医療用ジェルにおいて2.2重量%〜2.7重量%の間で存在してもよい。
【0011】
少なくとも、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの繰り返し単位のいくつかは、下記化学式のものでもよい。
【化1】
【0012】
1つの特定の例において、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースは、式:
【化2】
でもよい。
【0013】
エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの粘度は、2%の水溶液の場合、約100,000cpsでもよい。
【0014】
抗微生物剤は、第四級アンモニウム化合物でもよい。例えば、抗微生物剤は塩化ベンザルコニウムでもよい。抗微生物剤は、医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%の間で存在してもよい。より具体的には、抗微生物剤は、医療用ジェルにおいて0.095〜0.105重量%の間で存在してもよい。
【0015】
ゲル化剤は、ヒドロキシエチルセルロースまたはエーテル化したヒドロキシエチルセルロースでもよい。ゲル化剤は、医療用ジェルにおいて1重量%の間で存在してもよい。
【0016】
溶媒は非石油系溶媒でもよい。例えば、溶媒はプロパンジオールでもよい。溶媒は、医療用ジェルにおいて3.0重量%〜3.5重量%の間で存在してもよい。より具体的には、溶媒は、医療用ジェルにおいて3.1重量%〜3.3重量%の間で存在してもよい。
【0017】
水は、医療用ジェルにおいて80重量%〜99重量%の間で存在してもよい。より具体的には、水は医療用ジェルにおいて93重量%〜96重量%の間で存在してもよい。
【0018】
他の一側面によると、医療用ジェルは、a)プロパンジオールを含む溶媒、b)ゲル化剤、c)抗微生物剤、およびd)水を含む。
【0019】
プロパンジオールは、医療用ジェルにおいて3.0重量%〜3.5重量%の間で存在してもよい。より具体的には、プロパンジオールは、医療用ジェルにおいて3.1重量%〜3.3重量%の間で存在してもよい。
【0020】
ゲル化剤は、医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%の間で存在してもよい。より具体的には、ゲル化剤は、医療用ジェルにおいて2.2重量%〜2.7重量%の間で存在してもよい。
【0021】
少なくとも、ゲル化剤のいくつかのユニットは、式:
【化3】
でもよい。
【0022】
いくつかの特定の例において、ゲル化剤は、式:
【化4】
でもよい。
【0023】
ゲル化剤の粘度は、2%の水溶液の場合、約100,000cpsでもよい。
【0024】
抗微生物剤は第四級アンモニウム化合物でもよい。例えば、抗微生物剤は塩化ベンザルコニウムでもよい。抗微生物剤は、医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%の間で存在してもよい。より具体的には、抗微生物剤は、医療用ジェルにおいて0.095重量%〜0.105重量%の間で存在してもよい。
【0025】
水は、医療用ジェルにおいて80重量%〜99重量%で存在してもよい。より具体的には、水は、医療用ジェルにおいて93重量%〜96重量%で存在してもよい。
【0026】
他の一側面によると、医療用ジェルは、a)医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%で存在するエーテル化したヒドロキシエチルセルロース、b)医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%で存在する塩化ベンザルコニウム、c)医療用ジェルにおいて3.0重量%〜3.5重量%で存在するプロパンジオール、および、d)医療用ジェルにおいて80重量%〜99重量%で存在する水、を含む。
【0027】
詳細な説明
多様な器具または工程が、それぞれの請求項に係る発明の態様の例を提供するために以下に記述される。下記に記述する態様は、いずれの請求項に係る発明を限定するものでなく、請求項に係る発明はいずれも、以下に記述されていない工程または器具を含んでもよい。請求項に係る発明は、以下に記述されているいずれか1つの器具もしくは工程の特徴の全てを有する器具または工程、または、以下に記述されている器具の多くのもしくは全てに共通する特徴に限定されない。以下に記述された器具または工程が、この特許出願の発行によって与えられるいかなる独占権の態様でもないことは可能である。以下に記述される器具または工程において開示されるいかなる発明であって、この特許出願の発行によって独占権が、与えられないものは、他の保護手段、例えば、連続する特許出願の対象になってもよく、出願人、発明者または所有者は、この書類における公表によって、発明のいずれも放棄する、棄権する、または公共の用に供することを意図しない。
【0028】
皮膚超音波、物理療法、医療美容処置および他の関係する処置における使用に適している医療用ジェルは、好ましくはいくつかの基準を満たす。特に、医療用ジェルは好ましくは(1)透明であり、その結果、肌がジェルを通して見られることができ、(2)乾燥耐性であり、その結果、ジェルが乾ききることなく、および(3)十分な拡散能力を有し、その結果、肌全体に広がることができる。さらなる好ましい性質は(1)潤滑性能を有し、その結果、ジェルが肌を滑りやすくなり、(2)粘性および付着性を有し、その結果、ジェルが肌から流れ落ちず、(3)耐酸性を有し、その結果、医療用ジェルが肌を刺激せず、(4)仮の可塑性(pseudoplasticity)を有し、その結果、医療用ジェルを調合することができ、および(5)最小の通気性(aeration)を有し、その結果、小さな泡としてのいかなる過度の空気連行(air entrainment)はジェルを通して潜在的に透過手段(instrument transmissions)を損なわない。さらに、超音波において使用される医療用ジェルは、超音波処置の間、それが画像のゆがみを引き起こさないために、好ましくは超音波波に対して無反射(non-reflective)および非屈折性(non-refractive)である。
【0029】
現在使用されている医療用ジェルは、一般に上記の基準を満たす。しかしながら、これは抗微生物医療用ジェルのケースではない。具体的には、抗微生物剤である医療用ジェルを製造するために試みがされているが、出願人は上記に概説した基準を満たすことができるいかなるものも知らない。例えば、下記の例の段落において述べるように、出願人は、O’Reilly ら (上記に述べた)によって開示されている抗微生物ジェルの多様な成分におけるきわめて多数の試験を行った。これらの試験によると、O’Reillyらによって記述されている抗微生物ジェルは、比較的に不透明であり、医療用ジェルとしての使用のために十分に透明ではないだろうと考えられている。さらに、O’Reilly らによって記述されている抗微生物ジェルは、医療用ジェルとしての使用のために十分に耐乾燥性がないと考えれている。最後に、O’Reilly らによって記述されている抗微生物ジェルは、医療用ジェルとしての使用のために十分に拡散できないと考えられている。したがって、O’Reilly らによって開示されている抗微生物ジェルは、皮膚超音波、物理療法、医療美容処置、 および他の関係する処置における使用のために理想的または好ましくはないだろうと考えられている。
【0030】
本開示は、上述の基準(下記の例の段落で述べるように)を満たすと考えられ、それゆえ皮膚超音波、物理療法、医療美容処置、 および他の関係する処置における使用のために適すると考えられている抗微生物医療用ジェルを提供する。
【0031】
本開示の抗微生物医療用ジェルは、一般に(a)ゲル化剤、(b)抗微生物剤、(c)溶媒、および(d)水を含む。
【0032】
いくつかの例において、ゲル化剤は、医療用ジェルにおいて1重量%〜4重量%の間、およびより詳しくは2.20重量%〜2.70重量%の間で存在する。抗微生物剤は、医療用ジェルにおいて0.090重量%〜0.110重量%の間、およびより詳しくは0.095重量%〜0.105重量%の間で存在してもよい。溶媒は、医療用ジェルにおいて3.0 重量%〜3.5 重量%、およびより詳しくは3.1重量%〜3.3重量%の間で存在してもよい。水は約80重量%〜99重量%の間、およびより詳しくは93 重量% 〜 99重量%の間で存在してもよい。
【0033】
いくつかの例において、ゲル化剤はヒドロキシエチルセルロースでもよい。いくつかの特定の例において、ゲル化剤はエーテル化したヒドロキシエチルセルロースでもよい。
ここで使用されるように、「エーテル化したヒドロキシエチルセルロース」なる用語は、繰り返し単位の少なくともいくつかの置換基の少なくとも1つが、1以上のエーテル基を含むヒドロキシエチルセルロースを指す。例えば、ヒドロキシエチルセルロース は、一般に次の化学式によって表されてもよい(他の化学式も可能であるが)。
【化5】
例示のエーテル化したヒドロキシエチルセルロースにおいて、化学式(1)において示されている分子の繰り返し単位の少なくともいくつかは、次のものにとって代わる。
【化6】
上記で見ることができるように、化学式(2)において、化学式(1)と比較されるように、置換基は第2のエーテル基を含む。
【0034】
1つの特定の例において、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースは次の化学式のものでもよい。
【化7】
【0035】
化学式(3)と一致する、1つの適するエーテル化したヒドロキシエチルセルロースは、Tylose(登録商標) HS 100000 YP2という名前の下で、信越化学工業 (東京、日本)により販売されている。この特定のエーテル化したヒドロキシエチルセルロースは、2%水溶液の場合、約100,000cpsの粘度を有し、180ミクロンよりも小さなサイズの粒子をもつ。
【0036】
下記の例の段落において概説されるように、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの使用は、抗微生物医療用ジェルとしての使用に適する製品を生むと考えられている。
【0037】
具体的には、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースの使用は、他の抗微生物医療用ジェルと比較された場合、十分に清澄である抗微生物医療用ジェルを生むと考えられている。
【0038】
代わりの例において、代わりの適するゲル化剤を使用してもよい。
【0039】
いくつかの例において、抗微生物医療用ジェルの抗微生物剤は、塩化ベンザルコニウムのような第四級アンモニウム化合物でもよい。1つの適する塩化ベンザルコニウムは、Stepanquat(登録商標)50NFという商標名のもとで、Stepan Company (ノースフィールド, イリノイ)により販売されている。代わりに、抗微生物剤は、クロルヘキシジンまたは塩化セチルピリジニウムのような他の第四級アンモニウム化合物でもよい。
【0040】
さらに代わりの例において、抗微生物剤は、クロロブタノール、クロロキシリノール( Chloroxylinol)、トリクロサン、またはセトリミド(アルキルメチル臭化アンモニウム) (Alkylmethyl ammonium Bromide)であってもよい。
【0041】
いくつかの例において、抗微生物医療用ジェルの溶媒は、非石油系溶媒(すなわち、プピレングリコールまたはブチレングリコールでない)である。例えば、溶媒はプロパンジオールでもよい。1つの適するプロパンジオールは、Zemea(商標)という商標名のもとでDupontによって販売されている。以下の例の段落において概説されているように、溶媒としてプロパンジオールの使用は、抗微生物医療用ジェルとして使用に適する製品を生むと考えられている。具体的には、溶媒としてのプロパンジオールの使用は、他の抗微生物医療用ジェルよりも、より透明で、より乾燥耐性がある、およびより拡散する性質の抗微生物医療用ジェルを生むと考えられている。
【0042】
代わりの適する非石油系溶媒は水溶性分散剤、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、またはジグリセロールのような界面活性剤を含む。
【0043】
代わりの例において、溶媒は石油溶媒でもよい。
【0044】
本開示の抗微生物医療用ジェルは、麻酔剤、臭気マスキング剤(odor masking agent)、生物粘着剤または保湿剤(moisturizer)のような、多様な追加的な任意の成分を随意に含んでもよい。
【0045】
抗微生物医療用ジェルの調製のために、ゲル化剤は水中に、振動および熱で分散してもよい。例えば、ゲル化剤および水は、おおよそ10〜20分混ぜてもよい。代わりの例において、混ぜるために必要とされる時間は、バッチサイズによって10分よりも短くまたは、20分よりも多くてもよい。混ぜている間、混合はおおよそセ氏65〜75℃の間、およびより具体的には、おおよそセ氏70℃で熱せられてもよい。混合は、それからおおよそセ氏50℃より下まで冷してもよい。
【0046】
代わりの例において、水中でのゲル化剤の分散の後で、結果として生じる混合は、かわるがわるまたは追加的にアルカリで処理され、およびそれから酸性にされてもよい。
【0047】
溶媒は、抗微生物剤が溶けるまで、抗微生物剤と混合してもよい。溶液はそれから水およびゲル化剤の混合を加えてもよく、および結果として生じる組み合わせは、それが一般に均一および粘着性のある1つのかたまりが達成されるまで混ぜられてもよい。
混合は、空気の混入を避けるためにゆっくりと随意に遂行されてもよい。
【0048】

例1
抗微生物医療用ジェルは、上記で述べたように、次の構成物で調製した。
ゲル化剤 : 2.6 重量% エーテル化したヒドロキシエチルセルロース (ShinEtsu Tylose(登録商標) HS 100000 YP2)
抗微生物剤: 0.2 重量% 塩化ベンザルコニウム (Stepanquat(登録商標)50 NF);
溶媒: 3.2重量%プロパンジオール (Dupont Zemea(商標))
および、
水:94重量%
【0049】
抗微生物医療用ジェルの抗微生物の有効性(USP51)を、GAP Enviro Microbial services (London, Ontario, Canada)による、区分1の製品として試験した。この試験は、28日で、酵母およびカビにおいて、最初の算出されたカウントから増殖しないこと(すなわち0.5log10ユニットより多くない)および、細菌において、算出されたカウントから28日で、3.0logより小さい減少ではないことを必要とする。試験は、抗微生物医療用ジェルが、USP51によって必要とされているような抗微生物有効性の要件を満たすことを示す。
【0050】
例2
異なるゲル化剤の種々の水溶液の濁度を測定した。試験は、溶液において0.1重量%の塩化ベンザルコニウムあり、およびなしの両方で行われた。アクアソニック・クリアー・ウルトラサウンド・ジェル(Aquasonic Clear Ultrasound gel)のコントロールサンプルがコントロールとして使用された。結果は、下記に表1において表されている。濁度は、Hack Model 2100 Laboratory Turbidimeterを用いて測定される。
【表1】
表1:種々のゲル化剤の濁度
【0051】
前述の部分において言及したように、ShinEtsu Tylose(登録商標)HS 100000YP2 HECは、上記化学式(3)に相当するエーテル化したヒドロキシエチルセルロースである。Natrosol 250 HHR ヒドロキシエチルセルロースは、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースではない。
【0052】
驚いたことに、表1において表される結果は、エーテル化したヒドロキシエチルセルロース、および特に上記化学式(3)によるエーテル化したヒドロキシエチルセルロースで調製された水溶液は、ヒドロキシエチルセルロースの他のタイプで調製された溶液より不透明でない(すなわち、より透明)ことを示す。表1における結果に基づいて、エーテル化したヒドロキシエチルセルロース、および特に上記化学式(3)によるエーテル化したヒドロキシエチルセルロースで調製された抗微生物医療用ジェルは、他の抗微生物医療用ジェルよりも濁度が小さい(すなわち、より清澄)と考えられている。
【0053】
例3
種々の溶媒を有する種々のジェルの濁度を測定した。すべてのジェルは、前述のように調製した。すべてのジェルは、ゲル化剤としてShinEtsu Tylose(登録商標) HS 100000YP2 HECのエーテル化したヒドロキシエチルセルロースで作成した。すべてのジェルは抗微生物剤として塩化ベンザルコニウムで作成した。濁度は、Hack Model 2100 Laboratory Turbidimeterを使用して測定された。結果は下記表2において表されている。
【表2】
表2:種々の溶媒の濁度
【0054】
驚いたことに、表2において表されている結果は、プロパンジオールで調製した抗微生物医療用ジェルが、石油触媒を含む他の溶媒で準備された抗微生物医療ジェルより濁度が小さい(すなわち、より透明)ことを示す。
【0055】
例4
種々の溶媒を有する種々のジェルの耐乾燥性を測定した。すべてのジェルは前述のように調製した。すべてのジェルは、ゲル化剤としてShinEtsu Tylose(登録商標) HS 100000YP2 HEC のエーテル化したヒドロキシエチルセルロースで作成した。すべてのジェルは抗微生物剤として塩化ベンザルコニウムを用いて作成した。耐乾燥性は、ガラスのスライドの上のサンプルの既知の量を量り、そして、量られたスライドをセ氏38度でインキュベーター・オーブン・セット(incubator oven set)へ置くことによって測定した。スライドは2時間間隔で取り出されそして量を量られた。結果は、下記表3において表されている。
【表3】
表3:種々の溶媒の耐乾燥性
【0056】
驚いたことに、表3において表されている結果は、プロパンジオールで調製された抗微生物医療用ジェルが、非石油系溶媒を含む他の溶媒を用いて調製された抗微生物医療用ジェルよりもより良い耐乾燥性を見せることを示す。
【0057】
例5
種々の溶媒の拡散する能力を測定した。抗微生物剤を含む溶媒は、抗微生物剤のない溶媒と同様に、試験した。塩化ベンザルコニウムを、抗微生物剤として使用した。拡散能力は、スタンダードNo. 1 フィルターペーパー(Standard No. 1 filter paper)へ液体の一滴を落とすことおよび、それぞれの滴の直径を種々の時間期間で測定することによって測定された。結果は、下記表3において示され、およびそれぞれのサンプルにつき3つの試験後に得られた平均結果を示す。
【表4】
【0058】
実際には、医療用ジェルに必要とされる最適な物理的性能の時間は、拡散能力試験のために観察されたものよりもかなり小さい持続性であろう。しかしながら、結果は溶媒密度、湿潤性、拡散能力の間のバランスを示す。グリセリンは、著しく他の溶媒よりも濃密であるから、とても小さな初期小滴直径を見せた。グリセリン小滴のサイズにおける相対的な割合変化は、グリセリンの大きな湿潤能力のため引き起こされたと考えられる。しかしながら、早い湿潤性は、短い期間の潤滑性能の助けとならず、媒体周辺の長い期間の乾燥と同様に、ジェルの過度粘着を生じ得る。
【0059】
例6
抗微生物医療用ジェルの3サンプルは上記で述べるように、次の構成物で調製した。
ゲル化剤: 2.6重量% エーテル化したヒドロキシエチルセルロース (ShinEtsu Tylose (登録商標)HS 100000 YP2)
抗微生物剤: 0.2重量% 塩化ベンザルコニウム (Stepanquat(登録商標) 50 NF)
溶媒: 3.2重量% プロパンジオール (Dupont Zemea(商標))
および
水: 94重量%
【0060】
ジェルの酸性は、ペーハーメーター(PH meter)(Hanna Instruments)によって測定した。抗微生物医療用ジェルの酸性は6.5〜8.5の間で測定した。このペーハーは医療用ジェルとしての使用に適する。
【0061】
追加的な観察
次の観察は、上記例1〜6に述べるように調製されたジェルに関して行った。
・ ジェルは、仮の可塑性(シェアーシニング)(shear thinning)を示し、搾り出し容器からただちに調剤可能であることが観察された。
・ ジェルは、医療用ジェルとしての使用に適する粘性をもつように見えた。
・ ジェルは、医療用ジェルとしての使用のために適する滑らかさであるように見えた。
・ ジェルは、最小の空気の閉じ込め(air entrapment)を示すように見えた。これは、エーテル化したヒドロキシエチルセルロースのゆっくりした可溶性のためだと考えられ、それはゲルから空気を放出するための時間を与える。
【0062】
参考文献
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11. “An Epidemic, Toxin Gene-Variant Strain of Clostridium difficile”, L. Clifford McDonald, M.D. et al.
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