(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記天然型無細胞異種血管組織の内面および外面のいずれか一方または両方を、抗凝固剤、合成五糖阻害剤、直接トロンビン阻害剤、ビタミンK拮抗薬、第Xa因子阻害薬、銀、コラーゲンIV、エラスチン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、および合成または天然のペプチドからなる群、またはこれらの混合物からから選択される材料で覆う工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
前記天然型無細胞異種血管組織に、上皮細胞、平滑筋細胞、多能性・多分化能の幹細胞、および線維芽細胞からなる群から選択された単一細胞集団または混合細胞集団を播種する工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られる血管組織マトリックスの未処理対照と比較し、DNA含有量が少なくとも80%低減された天然型無細胞異種血管組織マトリックスを含み、前もって形成されたヒト抗体と反応しうるエピトープを内腔表面上に含まず、補体を活性化する能力をもたない製品。
生細胞の、または未処理の組織と比較して、コラーゲン含有量、グリコサミノグリカン含有量、エラスチン含有量、破裂圧力、縫合保持強度、最大抗張力、および低ひずみ速度破壊靭性値からなる群から選択される生化学的または生物力学的特性が同等または有意に異ならない、請求項7〜10のいずれかに記載の製品。
被膜をさらに含み、該被膜が適切な材料で内面(内腔)および外面のいずれか一方または両方を覆って設けられ、前記被膜の材料が抗凝固剤、合成五糖阻害剤、直接トロンビン阻害剤、ビタミンK拮抗薬、第Xa因子阻害薬、銀、コラーゲンIV、エラスチン、糖タンパク質、グリコサミノグリカン、および合成または天然のペプチドからなる群から選択されるか、またはこれらの混合物である、請求項7〜11のいずれか一に記載の製品。
上または中に単一細胞集団または混合細胞集団が播種され、前記細胞集団が移植箇所に応じて選択され、上皮細胞、平滑筋細胞、多能性・多分化能の幹細胞、および線維芽細胞からなる群から選択された、請求項7〜12のいずれかに記載の製品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、補体を活性化しない無細胞異種血管マトリックスが望まれる。また、抗体による炎症反応を緩和するために、無細胞異種血管マトリックスは、抗原成分、特にα−galエピトープを含まないことが望ましい。さらに、血管バイパス手術用の小・中径血管製品を作成する、費用効率がより高い別の方法を提供することが望ましい。α−ガラクトシダーゼ酵素の残基が残存しない、移植用の無細胞異種血管マトリックスを提供することも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によると、血管組織マトリックスの未処理対照と比較し、DNA含有量が少なくとも80%低減された天然型無細胞異種血管組織マトリックスを含み、前もって形成されたヒト抗体と反応しうるエピトープを実質的に含まず、補体を実質的に活性化する能力をもたない製品が提供される。
【0007】
本明細書において、「実質的に補体を活性化する能力をもたない」とは、本発明の製品が補体活性化試験においてヒトの生細胞の大腿動脈と同程度の補体活性能をもつことを示す。
【0008】
無細胞異種血管組織はα−galを実質的に含まないことが好ましい。
【0009】
本明細書において、「前もって形成されたヒト抗体と反応しうるエピトープを実質的に含まない」とは、本発明の製品が生細胞のまたは無細胞のヒトの大腿動脈と同程度のα−galエピトープをもつことを示す。
【0010】
好ましくは、無細胞異種血管組織マトリックスは、血管組織マトリックスの未処理対照または自然対照と比較し、DNA含有量の減少率が少なくとも80%以上であってもよく、すなわち80%を超える最大100%の任意の整数の減少率であってもよい。
【0011】
血管組織は、ブタ由来またはウシ由来であることが好ましい。好ましくはブタ由来の血管組織は小・中径血管であり、より好ましくはブタの外腸骨動脈(EIA:external iliac artery)およびブタの内頸動脈(ICA:internal carotid artery)のいずれかである。
【0012】
血管組織は特に限定されるものではないが、羊やラマなどの他の哺乳動物種、大型鳥類(例えばダチョウ)、および大型有袋類(例えばカンガルー)に由来するものであってもよいことを理解されたい。
【0013】
血管組織が大径の血管、例えばブタまたはウシの大動脈であってもよいことを理解されたい。
【0014】
本明細書において、「小径の」血管は内法が6mm未満の血管を指す語として当該技術分野で受け入れられており、「中径」は内法が6〜15mmの血管を指し、「大径」は内法が25mm程度の血管を指す。
【0015】
無細胞異種血管組織マトリックスがウシ由来である、本発明の実施形態において、血管組織は頸動脈、内乳動脈、内胸動脈、腸間膜静脈、および頸静脈からなる群から選択される。
【0016】
無細胞異種血管組織は、生細胞の、または未処理の組織と比較し、コラーゲン、グリコサミノグリカン、およびエラスチンの含有量が同等または実質的に異ならないことが好ましい。
【0017】
生細胞または未処理のICA組織のコラーゲン含有量は一般的に400〜1000μg/mgの範囲内であり、より好ましくは600〜800μg/mgの範囲内である。一方、EIAのコラーゲン含有量は200〜1000μg/mgの範囲内であり、より好ましくは450〜650μg/mgの範囲内である。一般的に、生細胞または未処理のICAおよびEIA組織のグリコサミノグリカン含有量は25〜200μg/mgの範囲内であり、より好ましくは50〜100μg/mgの範囲内である。
【0018】
無細胞異種血管組織は、生細胞のまたは未処理の組織と比較し、破裂圧力、縫合保持強度、最大抗張力、膨張、および低ひずみ速度破壊靭性の値が同等または著しく異ならないことが好ましい。
【0019】
生細胞の、または未処理のICAおよびEIA組織の破裂圧力平均値は一般的に3000mmHgより高く、生細胞の、または未処理のICAおよびEIA組織の標準的な縫合保持強度は1〜5Nの範囲内である。生細胞の、または未処理のICAおよびEIAの軸方向における低ひずみ速度破壊靭性値は一般的に2.5〜6.5MPaの範囲内であり、より好ましくは3.5〜5.5MPaの範囲内である。一方、生細胞の、または未処理のICAおよびEIAの組織の周方向における低ひずみ速度破壊靭性値は1〜6MPaの範囲内であり、より好ましくは2〜5MPaの範囲内である。典型的に、生細胞の、または未処理のICAおよびEIA組織の最大抗張力の平均値は3〜5MPaの範囲内である。
【0020】
典型的に、ブタ由来の無細胞異種血管組織の長さは最長30cm程度であって、ウシ由来の組織の長さは最長80cm程度であることが好ましい。
【0021】
本発明の無細胞異種血管組織は天然のスキャフォールドであり、すなわち、遺伝子変異を受けず、α−ガラクトシダーゼ酵素の残基を実質的に含まない。さらに、この組織は生細胞の、または未処理の組織とほぼ同等の生物化学的・機械的特性をもつ点において有利であり、このため、抗原的に不活性である効果をもつとともに生細胞の、または未処理の組織として機能する。したがって、この組織は、移植およびバイパス交換手術用の理想的な製品候補となる。
【0022】
無細胞異種血管組織は被膜をさらに含み、被膜は適切な材料で内面(内腔)および外面の一方または両方を覆って設けることが好ましい。本発明の本実施形態は、血管移植片に特有の有用性についての実施形態である。
【0023】
血管の開通性を改善し、あるいは血管内腔または血管内腔の内面の内膜のいずれかを補助/修復する被膜材料を選択することが好ましい。
【0024】
皮膜は管腔皮膜であり、被膜の材料はヘパリンなどの抗凝固剤、合成五糖阻害剤、直接トロンビン阻害剤、ビタミンK拮抗薬、第Xa因子阻害薬、銀、コラーゲンIV、エラスチン、ラミニンやフィブロネクチンなどの糖タンパク質、ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、および合成または天然のペプチドからなる群から選択されるか、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0025】
無細胞異種血管組織の上または中に単一または混合細胞集団を播種してもよく、細胞集団は移植箇所に応じて選択し、内皮・中皮・平滑筋細胞などの上皮細胞、線維芽細胞、自家および同種成体幹細胞などの多能性・多分化能の幹細胞、造血・間葉・ニューロン・内皮・胚・幹細胞からなる群から選択することが好ましい。
【0026】
本発明の別の態様によれば、適切な交換用血管を得て、
(i)EDTAでのインキュベーション、
(ii)第1の殺菌洗浄、
(iii)少なくとも2サイクルの、低張緩衝液および陰イオン洗浄剤を用いたインキュベーション、
(iv)ヌクレアーゼ処理、
(v)高張液洗浄、および
(vi)最終殺菌処理
の方法工程を交換用血管に施すことにより天然型無細胞異種血管組織を調製する方法が提供される。
【0027】
好ましくは、工程(i)および(ii)は逆順で行ってもよく、本発明の工程は、この順序に制限されず、またこの順序は本発明の範囲を限定するものでもない。
【0028】
EDTAを用いたインキュベーションは例えば50mM TRIS・1.5M NaClなどの高張緩衝溶液内で行うことが好ましく、典型的なプロトコルでは、このような200mM EDTAを含む高張緩衝液内で最低24時間、4℃程度でインキュベーションを行う。高張溶液は微弱アルカリ性の生理的pH付近でおよそ7.2〜7.4の間のpHをもつ。
【0029】
工程(ii)における前記第1の殺菌洗浄はバンコマイシン、ゲンタマイシン、およびポリミキシンを含む低張緩衝溶液内での洗浄を含み、30分前後の適切な洗浄時間、37℃前後の温度で行うことが好ましい。
【0030】
工程(iii)の低張インキュベーション工程は、典型的に10mM TRISを含む低張緩衝液に続いて2.7mM EDTA・10KIU/mLアプロチニンをさらに含む低張緩衝液を用いた最初のインキュベーションを含むことが好ましい。インキュベーション条件は、典型的には46〜56時間、4℃前後で行う。次のインキュベーションでは、低張緩衝液が濃度0.1%(w/v)前後のSDSなどの陰イオン洗浄剤をさらに含み、このインキュベーション中の温度は37℃程度である。インキュベーション工程のこのサイクルは1回以上繰り返してもよい。
【0031】
その後、この組織は、工程(iv)のヌクレアーゼ処理を行う前にダルベッコリン酸緩衝生理食塩水でくり返し洗浄することが好ましい。ヌクレアーゼ処理では典型的に、50mM TRIS, 50U/mLDNAase, 1U/mL RNAaseを含むヌクレアーゼ溶液内において37℃でおよそ3時間のインキュベーションを行う。続いて、工程(v)の前に組織をくり返し洗浄する。
【0032】
工程(v)の高張インキュベーションでは、50mM TRIS・1.5M NaCl内において37℃でおよそ24時間のインキュベーションを行うことが好ましい。その後、工程(vi)の前に組織をくり返し洗浄する。
【0033】
好ましくは、無細胞異種血管組織を保管またはレシピエントへ移植する前に、最終殺菌処理によってウイルスを排除し、生物汚染度を低減する。
【0034】
最終殺菌工程は抗生物質・ディフェンシン・Ag
2+のような金属などの抗菌剤の導入または抗菌剤による皮膜形成、グルタルアルデヒドなどの架橋剤による処理、過酢酸・エチレンオキシド・酸化プロピレン・水酸化ナトリウムなどの殺菌剤による処理、例えばγ線や電子線の照射、および超臨界二酸化炭素による処理のうち1つ以上の処理によって行うのが理想的である。
【0035】
この殺菌工程は、例えば濃度約0.1%(v/v)の過酢酸を用いた37℃で約4時間のインキュベーションを含む第2の殺菌洗浄であってもよい。続いて、さらに組織をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水などの適切な最終洗浄液で洗浄する。
【0036】
濃度およびインキュベーションの条件は、本出願の範囲を限定することを意図したものではなく、単に典型的な方法的条件を提示するものである。
【0037】
この方法は、天然型無細胞異種血管組織の内面および/または外面を、前述のとおり定義したコーティング剤で覆う工程をさらに含むことが好ましい。
【0038】
この方法は、天然型無細胞異種血管組織に前述のとおり定義した単一または混合細胞集団を播種する工程をさらに含むことが好ましい。
【0039】
動脈などの血管組織は管状であるため、動脈内腔の内壁面に対し、前もって形成されたヒト抗体と反応しうるエピトープおよび補体を活性化しうるエピトープを除去する処理を確実に十分に行うことが非常に難しい。本発明の一実施形態において、血管組織には、継続的に流れる流体媒体を灌流してもよい。さらに、またはこれに代えて、血管組織の形成およびインキュベーション工程の間、血管組織の壁を薄くして種々の流体が流れやすくなるよう、膨張させてもよい。発明者らは、本発明の方法により内壁面への処理であっても成功させることができることを実証した。
【0040】
本発明のさらに別の態様によると、本発明の方法により得られる天然型無細胞異種血管組織マトリックス組織製品を移植組織として用いる製品が提供される。
【0041】
好ましくは、移植組織製品はバイパス手術、特に心臓および四肢のバイパス手術に用いられ、血管アクセス、例えば動静脈アクセスにも用いられる。
【0042】
ウシ由来の血管組織を用いる本発明の実施形態は、血管材料の長さの範囲が最長80cmであるため、四肢のバイパス手術において、また血管アクセス手段として特に有用である。
【0043】
また、本発明の別の態様によると、損傷した、または閉塞した血管を本発明の第1の態様の製品または本発明の方法により作成された天然型無細胞異種血管組織マトリックス組織製品に交換する血管バイパス手術の方法が提供される。
【0044】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】無細胞組織を産生するための無細胞化プロトコルのフローチャートを示す。
【
図2】2サイクルの低張緩衝液およびSDS溶液(1mg・mL
−1)の処理を行い、その後ヘマトキシリンおよびエオシンにより染色した、ブタの内頸動脈(ICA)を(A)〜(H)に、外腸骨動脈(EIA)を(I)〜(L)に示す。
【
図3】2サイクルの低張緩衝液およびSDS溶液(1mg・mL
−1)を用いて処理し、DAPIにより染色したブタICA(C〜D)およびEIA(E〜F)を示す。生細胞のブタICA(A)およびEIA(B)を陽性対照として用いた。
【
図4】2サイクルの低張緩衝液およびSDS溶液(1mg・mL
−1)を用いて処理した無細胞のブタEIAを示し、(C)は生細胞のおよび無細胞のブタEIAを示し、(D)および(E)はα−galエピトープに対するモノクローナル抗体を用いて標識され、(F)はアイソタイプ対照を示す。生細胞のブタの皮膚を陽性対照として用いた(A、B)。
【
図5】4℃の200mM EDTA(E〜)および37℃の高張緩衝液の処理を1サイクル実施し、α−galエピトープに対するモノクローナル抗体を用いて標識した無細胞ICAを示す。(A)、(B)、(E)、および(F)は未精製抗体により、(C)および(G)は0.39・mL
−1の精製抗体により、また(D)および(H)は0.16mg・mL
−1の純粋な抗体により標識した。
【
図6】
図1のプロトコルにしたがって無細胞EIAを調製し、(A)精製済みのα−galエピトープに対するモノクローナル抗体、(B)BSAに吸着した同抗体、(C)α−gal−BSAに吸着した同抗体、(D)IgMアイソタイプ対照を用いて標識したものを示す。
【
図7】(A)精製済みのα−galエピトープに対するモノクローナル抗体、(B)BSAに吸着した同抗体、(C)α−gal−BSAに吸着した同抗体、(D)IgMアイソタイプを用いて標識した無細胞ICAを示す。
【
図8】生細胞のおよび無細胞のブタまたはヒト同種血管が吸着後の、α−galエピトープに対する抗体を検出するELISA(enzyme−linked immunosorbent assay:酵素免疫吸着測定法)を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。「*」は一元配置分散分析(one−way ANOVA)および事後比較T検定(post hoc T test)により求められた有意差を示す。同様に、ICA:生細胞のブタICA、AICA:無細胞ブタICA、CFA:生細胞のヒト総大腿動脈、ACFA:無細胞のヒト総大腿動脈、EIA:生細胞のブタ外腸骨動脈、AEIA:無細胞のブタ外腸骨動脈、NTC:非組織対照を示す。
【
図9】生細胞のおよび無細胞のブタEIA(A)およびICA(B)のコラーゲン、変性コラーゲン、および硫酸化プロテオグリカンの含有量を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【
図10】シアノアクリレートコンタクト型接着剤(A)、コラーゲンゲル(B、E)、または無細胞のブタのEIA(C、F)およびICA(D、G)とともに48時間培養し、ギムザ染色により染色して位相差顕微鏡法で観察した仔ハムスターの腎臓細胞を示す。
【
図11】シアノアクリレートコンタクト型接着剤(A)、コラーゲンゲル(B、E)、または無細胞のブタEIA(C、F)およびブタICA(D、G)とともに48時間培養し、ギムザ染色により染色して位相差顕微鏡法で観察したマウスの3T3細胞を示す。
【
図12】生細胞のおよび無細胞のブタのEIA(B)およびICA(A)の抽出試料でインキュベーションされたマウスの3T3細胞または生細胞のおよび無細胞のブタのEIA(D)およびICA(C)の抽出試料でインキュベーションされた仔ハムスターの腎臓細胞のATPの相対含有量を示す。40%(v/v)のDMSOでインキュベーションした試料を細胞毒性に関する陽性対照として、DMEMでインキュベーションした試料を細胞毒性に関する陰性対照として用いた。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。記号「*」は一元配置分散分析および事後比較T検定により求められた、DMEM対照に対する有意差を示す。
【
図13】生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICA、生細胞のおよび無細胞のヒト総大腿動脈(CFA)、Surgisis、Permacol、およびCollaMendから抽出したDNAを260nmの吸光度を用いて定量化したものを示す。データは平均値(n=3)、信頼限界±95%で表した。
【
図14】生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの縫合保持強度試験を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【
図15】生細胞のおよび無細胞のブタICA(A、B)およびEIA(C、D)の拡張反応試験を示し、データは谷径の変化率を内圧の増加に対する関数として表す。X軸(A、C)またはY軸(C、D)。データは平均値(n=3)、信頼限界±95%で表し、データは統計的分析を行うために逆正弦変換した。
【
図16】生細胞のおよび無細胞のブタEIA(A)およびICA(B)の周方向および軸方向の最大抗張力を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【
図17】生細胞のおよび無細胞のブタEIA(A)およびICA(B)の周方向および軸方向のコラーゲン相配向(phase slope)を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【
図18】生細胞のおよび無細胞のブタEIA(A)およびICA(B)の周方向および軸方向のエラスチン相配向を示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【
図19】正常ヒト血清と組織培養用プラスチック、PBS、BSA、α−gal BSAまたはザイモサン(Zymosan)との反応後の(a)C3aまたは(b)C5aを検出するためのELISAを示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。「*」は一元配置分散分析および事後比較T検定により求められた有意差(ポリスチレンとの比較における)を示す。
【
図20】正常ヒト血清と、組織培養用プラスチック、PBS、BSA、α−gal BSA、ザイモサン、または様々な市販の無細胞の生物学的スキャフォールド(Surgis、Collamend、Permacol)との反応後の(a)C3aまたは(b)C5aを検出するためのELISAを示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。「*」は一元配置分散分析および事後比較T検定により求められた有意差(ポリスチレンとの比較における)を示す。心膜:生細胞のブタ心膜、尿管:生細胞のブタ尿管、ICA:生細胞のブタICA、EIA:生細胞のブタ外腸骨動脈、AICA:無細胞のブタICA、CFA:生細胞のヒト総大腿動脈、AP:無細胞のブタ心膜、AU:無細胞のブタ尿管、AICA:無細胞ブタ内頸動脈、AEIA:無細胞のブタ外腸骨動脈、およびACFA:無細胞のヒト総大腿動脈を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本明細書の記載および特許請求の範囲にわたり、用語「含む」および「含有する」およびこれらの用語の変形は、「含むがそれらに限定されない」ことを意味し、他の部分、付加物、成分、数値または工程を排除することを意図しない(排除しない)。本明細書の記載および特許請求の範囲にわたり、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、単数形は複数形を含む。文脈上異なる解釈を要する場合を除き、特に不定冠詞を用いた場合、本明細書は単数のみならず複数をも意図していることを理解されたい。
【0047】
本発明の特定の態様、実施形態、または実施例に関連して記載された特徴、数値、性質、化合物、化学的部分または化学基は、矛盾しない限りにおいて、本明細書に記載の他のいかなる態様や、実施形態または実施例に対しても適用可能であることを理解されたい。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示されたすべての特徴および/または同様に開示されたあらゆる方法または処理のすべての工程は、このような特徴および/または工程の少なくともいくつかが相互に排他的であるような組み合わせを除き、いかなる組み合わせにて組み合わせてもよい。本発明は、前述のいずれの実施形態の詳細にも制限されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書、および図面を含む)に開示された新規な特徴、もしくはそのような特徴の新規な組み合わせ、または同様に開示された方法または処理の新規な工程や、それらの工程の新規な組み合わせにまで適用範囲が及ぶ。
【0048】
本願に関連して本明細書と同時または事前に提出され、本明細書とともに公衆の縦覧に供されるすべての書類および文献が一読されるものとし、このようなすべての書類および文献の内容は、参照により本明細書に組み組み込まれるものとする。
【0049】
本発明は無細胞製品およびその産生方法を提供する。ブタの外腸骨動脈および内頸動脈を2本の特に適切な血管として特定し、全細胞および80%を超えるDNAをこれらの血管から除去することが可能なプロトコルが初期の研究により確立された。これは4℃の低張緩衝液および37℃、1mg・mL
−1のSDS溶液をそれぞれ用いた2サイクルを基本とする。単一サイクルの低張緩衝液およびSDS溶液を用いて脱細胞化された血管は、ヘマトキシリンおよびエオシンおよびDAPIで染色したところ、残留細胞および遺残細胞の存在が示された。したがって、確実に無細胞血管を産生するために、2サイクルの低張緩衝液およびSDSによる処理を最適な脱細胞化処理として選択した。
【0050】
α−galエピトープに対するモノクローナル抗体を用いた抗体標識により、無細胞の外腸骨動脈および内頸動脈内にα−galエピトープが存在することが実証された。抗体標識は、低温包埋組織試料、亜鉛固定パラフィンワックス包埋試料およびホルマリン固定パラフィンワックス包埋試料を用いて行った。市販品では、単一源からの単一の抗体クローンしかなく、未精製品として提供されている。未精製品は、IgM陰性対照抗体と比較して一貫して高いバックグラウンド染色を示した。抗体は、IgM結合カラムを用いて精製した。続いて、遠心式ろ過機を用いて抗体を透析し、濃縮した。精製抗体を用いた標識は、粗精製物と比較して大幅に低いレベルのバックグラウンドを示した。低温包埋試料は最も高感度の標識を示し、ホルマリン固定試料が最も弱い標識を示した。このため、亜鉛固定パラフィン包埋試料は、低温包埋試料と比較し優れた組織構造を示し、ホルマリン固定試料よりも感度が高いため、標準的な技術として利用された。マトリックス全体のα−galレベルは生細胞の対照組織と比較し、大幅に低かったが、エピトープは検出可能であった。α−galエピトープを低張緩衝液およびSDS溶液のサイクルを増加することによって除去しようと試みた。モノクローナル抗体標識により、単一サイクルに比べ、2サイクルを用いた場合でもα−galレベルに大幅な低下はないことが示された。
【0051】
この2サイクルの低張緩衝液およびSDS溶液では、無細胞マトリックスからα−galを除去することができなかった。血管内腔の表面から内皮細胞を取り除く最初の過程によって、無細胞マトリックス内のα−galの量が低下しうると仮定した。このため、脱細胞化処理の前にバーセン液および様々な濃度のEDTAを用い、血管の内腔からの内皮細胞の放出を促進するよう、金属イオンをキレート化した。200mMのEDTAを用いた25時間4℃での前処理により無細胞血管のα−galのレベルを低下させることに成功したことが確認された。これは本発明の脱細胞化処理に組み込まれる。
【0052】
脱細胞化に続く高張緩衝液(10mM Tris、1.5M塩化ナトリウム、pH7.4)処理は、無細胞心血管組織内に存在するα−galのレベルをさらに下げるために脱細胞化処理中に行われた。さらに、抗体標識により、200mMのEDTAを用いた4℃24時間の前処理と組み合わせて撹拌した37℃24時間の高張緩衝液の単一サイクルで無細胞血管のα−galのレベルを低減することに成功したことが示された。さらに、サイクルを増やしても(最大3サイクル)、37℃の高張緩衝液処理におけるα−galの低減には顕著な改善が見られないことが示された。
【0053】
無細胞マトリックス内におけるα−gal残基の有無を判定するためには、抗体の特異性を特定することが基本であった。これは、α−gal BSAを用いた精製抗体の吸着により行うことができる。BSAも、対照として使用した。吸着の後、α−gal抗体はα−gal BSAに結合する可能性があり、それにより標識した組織内のα−galエピトープに結合する作用が減弱する。したがって、これを用いた染色はバックグラウンドとみなされる可能性がある。BSAのみを用いた吸着では、タンパク複合体は抗体のα−galエピトープを検出する作用に悪影響を及ぼさない可能性があることが明らかになった。BSAに吸着した抗体およびα−gal BSAに吸着した抗体を用いて、無細胞組織およびα−ガラクトシダーゼで処理した無細胞組織から得たデータの比較により、無細胞のEIAが、酵素の使用によりさらに減少されうるα−gal残基をもつとみられることが示唆された。この染色はマトリックスにおけるものであって、内膜表面におけるものではない。無細胞ICAには非常に弱い染色を示す部分があり、該当部分はα−ガラクトシダーゼの使用によっては除去することができない。総合すると、これらのデータは、無細胞血管中に最小限のα−galが存在するということを示した。
【0054】
抗体吸着測定法においても、同じモノクローナル抗体を使用した。この測定法の利点は、非常に薄い切片に限定される免疫細胞化学法と比較し、より大量の材料を測定することができることにある。さらに、抗体吸着測定法により、異なる組織試料内に存在するα−galのレベルを半定量的に評価することが可能となった。生細胞の血管試料は最高レベルのα−gal発現を示した。生細胞のブタのEIAおよびα−ガラクトシダーゼで処理したICAにはα−galがなく(非組織対照との差異がない)、測定が成功したことを示した。無細胞のEIAおよびICA試料は、非組織対照と同様、生細胞のおよび無細胞のヒト総大腿動脈とさほど変わりないα−galレベルを示した。
【0055】
組織学的測定により、無細胞試料のマトリックス構造および構成が生細胞の対照と類似することが確認された。無細胞マトリックスは、生細胞のブタ血管と比較すると、より余裕のある開放構造を示した。生細胞の血管と比較し、無細胞のEIAまたはICAのGAG、コラーゲン、またはエラスチンの含有量に定性的差異はないようであった。ヒドロキシプロリン、変性コラーゲン、およびグリコサミノグリカンの測定結果から、脱細胞化処理によって組織からコラーゲンまたはグリコサミノグリカンが失われなかったことが分かった。定量的な生化学的分析は、無細胞マトリックスのコラーゲンおよびグリコサミノグリカン含有率に関する情報を提供する一方、成分の構造的完全性を評価することができないという点において制限されている。したがって、α−キモトリプシン処理の後に変性コラーゲンのレベルを測定した。α−キモトリプシン処理は、天然コラーゲンに影響を与えることなく分解コラーゲンを消化することが可能である(Bank et al., 1997)。消化後、組織の上澄み液(分解コラーゲンを含む)について、ヒドロキシプロリンの有無を調べた。その結果、生細胞の血管と比較し、無細胞のEIAまたはICA内に存在する変性コラーゲンの総量に顕著な増加は見られないことがわかった。
【0056】
残留SDSの存在に関する問題については、無細胞のEIAまたはICAの産生に用いる脱細胞化溶液のそれぞれのSDS濃度を定量することにより対処した。放射性標識したSDS(
14C)の使用により、脱細胞化処理で用いられる最終洗浄溶液内に、極度に低いレベルのSDSが存在することが明らかになった。
【0057】
無細胞マトリックスの生体適合性は、抽出法および接触法による接触細胞毒性試験を用いて確かめられた。試験はいずれも仔ハムスターの腎臓細胞、およびマウスの3T3細胞の2つの異なる細胞株を用いた。先のデータはSDSで処理したマトリックスの生体内における生体適合性を示し、無細胞のEIAまたはICAを用いてこれを繰り返す必要はない。
【0058】
多数の様々な試験を用いたDNA定量により、脱細胞化後、DNA量に90%を超える減少が見られ、この値はSurgisisから単離したDNAの量よりも非常に低いものである。無細胞のブタEIAおよびICAから単離したDNAの量はPermacolおよびCollaMendの場合と同程度であった。無細胞のEIAおよびICAはそれぞれ0.014μg・mg
−1、0.019μg・mg
−1のDNAを含んでいた。Surgisisは0.119μg・mg
−1、Permacolは0.028μg・mg
−1、CollaMendは0.017μg・mg
−1のDNAを含んでいた。PCR法により、残留DNAは、増幅できないDNAの小断片または非コードの、いわゆるジャンクDNAであることが確認された。ブタ内在性レトロウイルスの存在は、ブタ由来の異種移植片にとって問題となる。ところが、こうしたウイルスのヒトに対する影響、感染の可能性や最低安全基準に関する情報はほとんど存在しない。PERVのコピー数をTaqManプローブを用いた定量PCRによって測定した。データは、無細胞のブタEIAおよびICAだけでなくヒト真皮線維芽細胞も含めたすべての試料にPERV DNAが存在することを示した。生細胞の組織と比較し、無細胞CFAではコピー数が6log減少し、無細胞ICAでは7log減少した。ブタ内在性レトロウイルスの最低安全基準は確立されていないため、無細胞のICAおよびEIA内に存在するコピー数は市販されているいずれの製品よりも大幅に少なくなった。この試験は、完全なPERVゲノムが存在するか、または転写活性をもつかを判別するものではない。無細胞のブタEIAおよびICAの生体力学特性およびコンプライアンスを破裂圧力試験、縫合保持強度試験、拡張反応試験、および低ひずみ速度破壊試験によって評価した。移植片材料は、交換対象となる動脈と同様の生体力学的特徴をもつことが不可欠である。生細胞のブタ組織と比較して無細胞ブタ血管には大きな性質の変化はない。無細胞EIAまたはICAの破裂圧力には、生細胞の血管と比較し、留意すべき顕著な相違はなかった。破裂圧力値は、動脈内における120mmHg程度の通常の生理的圧力よりも大幅に高かった。無細胞動脈に関して得られた結果は、ヒト動脈(2031mmHg〜4225mmHg)の最大破裂圧力およびヒト伏在静脈(1680mmHg〜2273mmHg、L’Heureux,N. et al.,2006)と同程度であった。
【0059】
補体活性化およびC3aまたはC5aの検出(
図20)については、本発明の方法により産生した無細胞血管は、市販の製品と比較し、ごくわずかな活性化を示し、また興味深いことに、同方法で調製したブタ尿管と比較してもごくわずかな活性化を示した。これは2つの無細胞血管組織から抗原性のエピトープを除去することに成功したことを示唆している。
【0060】
これまでに収集されたデータによれば、新規の脱細胞化プロトコルを用いて2つの無菌無細胞血管を確実に産生することが可能であり、これらは90%(w/w)を超えるDNA減少、最低α−galレベルを示し、生化学的または生体力学的に生細胞の血管と差異のない生体適合性血管である。また、データによると、無細胞のEIAおよびICAのPERV含有量は、患者への使用により実証済みの臨床記録が存在する市販製品よりも大幅に低かった。
【0061】
(ブタの外腸骨動脈(EIA)および内頸動脈(ICA)の脱細胞化)
長さ最大200mmの凍結保存したEIAおよびICA血管を、200mLの各溶液を用いて
図1に示すとおり調製した。各溶液は、使用前に適切な温度に予め温めておく。血管は個別に無菌の250mL容器に入れ、80rpmで行うヌクレアーゼ工程を除き、すべてのインキュベーションを240rpmの攪拌とともに行う。最初の工程として、EIAおよびICAが凍結されている場合、組織を37℃で20分間解凍し、その後バンコマイシン、硫酸ゲンタマイシン、およびポリミキシンBを含む殺菌溶液を用いて37℃で30分間洗浄する。インキュベーションの第1の工程は、200mMのEDTAを用いた24時間4℃の洗浄であり、続いて低張緩衝液(10mM TRIS, 2.7mMEDTA, 10KIU/m アプロチニン)を用いた24時間4℃の洗浄と、低張緩衝液内の0.1%(w/v)のSDSを用いた24時間37℃の洗浄を行う。低張緩衝液を用いた24時間4℃での洗浄をさらに行った後、アプロチニンを含むDPBSa EDTAを用いた4℃48〜56時間の洗浄、および0.1%(w/v)SDSの低張緩衝液を用いた24時間37℃での洗浄を行う。その後、組織に対しそれぞれDPBSaを用いた30分間37℃の洗浄を3回行い、ヌクレアーゼ溶液(5mM TRIS, 50μg/mL BSA, 50U/mL DNAse, 1U/mL RNAse)を用いた3時間37℃での洗浄を行う。次に、組織に対し、それぞれアプロチニンを含むDPBSa EDTAを用いた30分間37℃での洗浄を3回行い、さらに高張溶液を用いた24時間37℃でのインキュベーション洗浄およびそれぞれアプロチニンを含むDPBSa EDTAを用いた30分間37℃での洗浄をさらに3回行う。続いて、組織を0.1%(v/v)の過酢酸溶液を用いて4時間27℃で殺菌する。続いて、(i)それぞれアプロチニンを含むDPBSa EDTAを用いた30分間37℃の洗浄を3回および(ii)DPBSaを用いた24時間4℃での洗浄の2工程をクラスIIの安全キャビネット内で無菌状態にて行う。その後組織は必要となるまでDPBS内に4℃で保存しておく。
【0062】
(組織/組織構造の調製)
組織試験片を10%(v/v)の中性緩衝ホルマリン内に固定した後、乾燥してパラフィンワックスに包埋した。連続切片を採取し、標準的なヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(Bios Europe Ltd., Skelmersdale, UK)染色を用いて組織の組織構造を評価し、ミラー(Miller)のエラスチン染色によりエラスチン含有量を評価した。核酸をDAPI染色(シグマ−アルドリッチ)およびヘキスト33258(シグマ−アルドリッチ)を用いて染色した。α−galエピトープに対するIgMモノクローナル抗体をAlexis Biochemicals(米国サンディエゴ)から入手し、使用前に精製した。
【0063】
(α−galの抗体吸着試験)
ELISAを用いて組織試料のインキュベーション後の非結合α−gal抗体レベルを定量した。試料は、5%(w/v)BSAを含む500μLのDPBSで一晩4℃でインキュベーションし、その後BSAを処分してそれぞれの管に対し500μLのDPBSを用いて2分間の洗浄を3回行った。厳密に100mgの組織を計量し、よく膨潤させ、抗α−galモノクローナル抗体希釈液(0.37mg・mL
−1)1mLを、ブロッキングされたマイクロチューブに入れ、スピナーにセットして4℃で一晩放置した。組織を入れたマイクロチューブを600×g、15分間遠心分離(または13000rpmでマイクロ遠心分離)し、750μLの上澄みを取り除いてブロッキングされたマイクロチューブをリフレッシュし、そこにさらに750μLのTBSアジドBSAを加えた。その後撹拌し、600×g、15分間遠心分離した。さらに750μLの上澄み液を取り出し、この上澄み液のα−galに対する抗体を、Maxisorbマイクロタイタープレートのウェルに10μg/mL
−1のα−gal BSAを含む50μLのDPBSを添加し、4℃で一晩反応させるELISA法で分析した。これらに対し、300μLのDPBS Tweenを用いて振とうしながら10分間の洗浄を3回行い、コーティングされたMaxisorbマイクロタイタープレートの各ウェルを、250μLの5%(w/v)BSAのDPBSにより4℃で一晩ブロッキングした。次に、各ウェルに対し300μLのDPBS Tweenを用いて、振とうしながら30分間の洗浄を3回行い、100μLの試料を、コーティング及びブロックされた、マイクロタイタープレートの対応するウェルに継代した。その後、これを常温で3時間インキュベーションし、洗浄した後、50μLのホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートウサギ抗マウス二次抗体(1:1000希釈)を添加した。これを常温で1時間インキュベーションした後、洗浄し、100μLのOPD溶液を添加し、暗所で10分間常温でインキュベーションした。50μLの3M硫酸を各ウェルに添加し、マイクロプレート分光光度計を用いて630nmのリファレンスフィルタで492nmにおける光学密度を測定した。各試料の値を平均値、信頼限界±95%でプロットしたが、有意差は見られなかった。
【0064】
(ヒドロキシプロリン測定)
ヒドロキシプロリン測定の実行に先立ち、試料を前もって恒量となるまで凍結乾燥し、6M塩酸(HCl)を用いた4時間120℃のインキュベーションにより加水分解し、水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて中和した。採用した一連の手順は、EdwardsおよびO’Brien [29]により説明された方法に基づいている。trans−4−ヒドロキシ−L−プロリン(シグマ)を用いて標準的な標準物質溶液を調製した。100μLの酸化性溶液(クロラミンT・水和物、シグマ)を添加した平底の96ウェルプレートのウェルに試験溶液(50μL)を加え、緩やかに振とうしながら5分間放置した。その後、エールリッヒ試薬(100μL)を各ウェルに添加した。続いて、このプレートに覆いをかけ、570nmにおける吸光度を測定する前に、水槽内で45分間60℃でインキュベーションした。ヒドロキシプロリンの標準曲線から補間することによりヒドロキシプロリンの濃度を求めた。
【0065】
(グリコサミノグリカン測定)
硫酸化糖(GAGs)の量をジメチルメチレンブルー結合により測定した(Enobakhare et al, Anal.Biochem. 243, 189, 1996、Farndale et al, Biochim. Biophys. Acta., 883, 173, 1986)。簡潔に述べると、試液をジメチルメチレンブルー溶液でインキュベーションし、525nmにおける吸光度を測定した。GAGsの量は、ある濃度範囲にわたるコンドロイチン硫酸およびリン酸塩分析緩衝液(オルトリン酸二水素ナトリウム 0.1M, オルトリン酸水素二ナトリウム 0.1M, pH6.8)を用いて得られた標準曲線から補間することにより求めた。
【実施例1】
【0066】
ホルマリン固定処理したブタのICAおよびEIAから5μmの薄片を得て、ヘマトキシリンおよびエオシンを用いて染色した(
図2)。2サイクルの低張緩衝液およびSDSを用いた場合、残留細胞または遺残細胞が存在するという証拠は得られなかった(
図2)。また、処理後もマトリックス組織構造は損なわれないままであった。ホルマリン固定処理したブタICAおよびEIAの切片は、二本鎖DNAの存在を確認するためにDAPIを用いて染色され、生細胞のブタICAおよびEIAを陽性対照として用いた(
図3)。この染色により、生細胞の対照組織と比較して、マトリックス内の二本鎖DNAおよび細胞が不足していることが明らかになった(
図3)。露光時間を10倍としたところ、二本鎖DNAすなわち細胞が存在することによる蛍光は見られなかった。
【実施例2】
【0067】
抗体による炎症反応を軽減するため、臨床的に用いる場合、無細胞異種マトリックスにはα−galエピトープがないことが望ましい。したがって、無細胞血管内のα−galエピトープの存在を確実に検出する方法を開発することが必要である。生細胞のおよび無細胞のブタEIA(2サイクルSDS)の試料をパラフィンワックス内にホルマリン固定包埋し、5μmの薄片を得た。生細胞のおよび無細胞のブタEIAの薄片は、IgMモノクローナル抗体(Alexis ALX−801−090、クローンM86、希釈率1:10)を用いてα−galエピトープの存在を標識した。ダコEnvisionキットを用いて一次抗体を可視化した(
図4)。その結果、脱細胞化後のα−galエピトープの存在が明らかになった。高レベルのバックグラウンド染色も見られたが、これはIgMアイソタイプ対照抗体を試料の標識に用いた場合には見られなかった。さらなる実験によると、生細胞の組織はIgMモノクローナル抗体に対し高い陽性標識を示し(データは示さず)、粗精製抗体と比較し、精製抗体に、より特異的な標識が生ずる(データは示さず)ことが分かった。この標識により、200mMのEDTAを用いて24時間4℃で行われた洗浄に高張緩衝液を用いた場合においてα−gal量が減少を示した(
図5)。高張緩衝液のサイクルを増して用いてもα−gal量のレベルに差は見られなかった。したがって、200mMのEDTAによる24時間4℃で行われた最初の洗浄とともに、α−galエピトープを無細胞マトリックスから除去するために24時間37℃での高張緩衝液における一回のインキュベーションを採用した。これに続く組織脱細胞化には
図1のプロトコルを採用した。
【実施例3】
【0068】
無細胞血管内のα−gal残基の有無を判定するためには、抗体標識の特異性を判断することが重要であった。生細胞のおよび無細胞のEIAおよびICAと、生細胞のおよび無細胞のα−ガラクトシダーゼで処理したEIAおよびICAの試料について、α−galエピトープの存在をIgMモノクローナル抗体(Alexis ALX−801−090)クローンM86を用いて標識し、ダコEnvisionキットを用いて可視化した。(i)精製抗体(1:4希釈、0.39mg・mL
−1)、(ii)BSAを用いて吸着させた精製抗体、および(iii)α−gal BSAを用いて吸着させた精製抗体の3つの異なる調製の抗体を用いた。
図6(A)では、精製済みのα−galエピトープに対するモノクローナル抗体、(B)ではBSAに吸着した同抗体、(C)ではα−gal BSAに吸着した同抗体、(D)ではIgMアイソタイプ対照を用いて標識した無細胞EIAを、原寸の100倍で示す。
図7は無細胞ICAについて同様に示す。
【0069】
生細胞の組織の抗体標識では、マトリックス全体にわたり非常に明確な陽性標識が見られたが、これはα−ガラクトシダーゼ処理後に大幅に減少しうる。この結果から、精製抗体がBSA吸着により「浄化」されることが分かった。このBSAにより吸着処理された「精製」抗体は、α−gal BSAによる吸着処理によって生細胞の組織に対する結合が完全に切断されるため、α−galに対し特異的である。またさらに、無細胞のICAおよびEIA内には最小限のα−galしか存在しないため、内腔表面は清浄な状態となった。顕微鏡による薄片の詳細な観察から、BSAにより吸着処理された抗体を用いた場合のバックグラウンド標識はごくわずかであることが明らかになった。この試験はさらに、バックグラウンド標識がα−ガラクトシダーゼを用いた処理によっては取り除くことができないことを示した。
【実施例4】
【0070】
半定量的抗体吸着分析を用いてブタ組織にするα−galの量を推定した。膨潤した組織試料をインキュベーションした後に、存在する非結合の抗α−gal抗体をELISAを用いて定量した。用いた陰性対照は非組織対照であり、データは非組織対照、無細胞血管、およびヒトの皮膚では有意差があることを示した。生細胞のおよび無細胞の同種総大腿動脈を、この分析の対照として用いた(
図8)。この分析により、生細胞のおよび無細胞の総大腿動脈にはα−galエピトープが含まれないことが分かった。非組織対照または生細胞のおよび無細胞の同種総大腿動脈と比較し、無細胞のブタEIAまたはICAに結合するα−gal抗体に有意差はみられなかった(
図8)。しかし、無細胞のEIAおよびICAと生細胞のEIAおよびICAとでは結合する抗体に有意差があった(
図8、一元配置分散分析および事後比較T検定)。
【実施例5】
【0071】
マトリックスに対する脱細胞化プロトコルの影響を完全に評価するために、生細胞のおよび無細胞のEIAおよびICAの試料(n=6)の主成分を特定するための分析を行った。コラーゲンを定量すべく、酸加水分解組織試料について、EdwarsとO’Biran(1980)による方法にしたがって、ヒドロキシプロリン含有率を分析した。この分析によりtrans−4−ヒドロキシ−L−プロリンを用いて得られた標準曲線と570nmでの吸光度の間に線形関係が生じた。分析値はμg・mg
−1に変換し、ヒドロキシプロリン値に7.46をかけてコラーゲン量に換算した。生細胞のおよび無細胞のICAのコラーゲン含有量はそれぞれ795.2μg・mg
−1および700.6μg・mg
−1であった。生細胞のおよび無細胞のEIAのコラーゲン含有量はそれぞれ572.3μg・mg
−1および547.3μg・mg
−1であった。これらの値に大きな相違はなかった(一元配置分散分析および事後比較T検定)。
【0072】
GAG含有量を定量すべく、酸加水分解組織試料について、ジメチレンブルー色素を用いて硫酸化カルボキシル化糖含有量を分析した(Farndale et al., 1986)。この分析により、コンドロイチン硫酸Bを用いて得られた標準曲線と525nmでの吸光度の間に直線関係が生じた。この分析値を試料質量に対して正規化し、μg・mg
−1で表した。生細胞のICAの硫酸化GAG含有量は、63.8μg・mg
−1であったのに対し、無細胞ICAでは57.0μg・mg
−1であった。生細胞のおよび無細胞のEIAのGAG含有量はそれぞれ64.5μg・mg
−1および54.7μg・mg
−1であった。これらの値に大きな相違はなかった(一元配置分散分析および事後比較T検定、
図9Aおよび
図9B)。
【0073】
変性または損傷したコラーゲンの量は、α−キモトリプシンを用いた組織の酵素消化と、その後の加水分解により分析した。ヒドロキシプロリン量を測定し、コラーゲン量に換算した。分析により、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリンを用いて得られた標準曲線と、570nmでの吸光度との間に線形関係が生じた。生細胞のおよび無細胞のICAの変性コラーゲン含有量はそれぞれ30.8μg・mg
−1および26.6μg・mg
−1であった。生細胞のおよび無細胞のEIAの変性コラーゲン含有量はそれぞれ30.8μg・mg
−1および21.5μg・mg
−1であった。これらの値に大きな相違はなかった(一元配置分散分析および事後比較T検定、
図9Aおよび
図9B)。
【実施例6】
【0074】
接触細胞毒性試験を用いて無細胞マトリックスの細胞増殖に対する影響を調べ、これを生体適合性の初期評価として用いた。無細胞のブタEIAおよびICAの小標本(n=3)の切片を無菌で得て、コラーゲンゲルを用いて組織培養プレートのウェルの中央に付着させ、マイコプラズマ陰性のマウス3T3細胞または仔ハムスターの腎臓細胞のいずれかの懸濁液を各ウェルに添加して48時間培養した。ホルマリン固定およびギムザ染色の後に、各ウェルを位相差顕微鏡法を用いて観察した。接触細胞毒性試験のプレートの顕微鏡観察において、マウスの3T3線維芽細胞(
図11)および仔ハムスター腎臓細胞(
図10)が成長し、無細胞材料に接触したことが示された。細胞形態または細胞溶解に顕著な変化は見られなかった。シアノアクリレート接着剤(陽性対照)は細胞溶解を引き起こすことが確認された。コラーゲンのみ(陰性対照)では細胞毒性の兆候は見られなかった。
【実施例7】
【0075】
生細胞のおよび無細胞化されたブタEIAおよびICAの試料を膨潤し、可溶性成分を抽出するために、濃度100mg・mL
−1のDMEM内で72時間37℃で撹拌しながらインキュベーションした。この抽出物をマイコプラズマ陰性のマウス3T3細胞および仔ハムスター腎臓細胞の単分子層とともに48時間インキュベーションし、その後、市販のATPLite−Mアッセイシステム(パーキンエルマー)を用いてATP量を測定した。マウス3T3細胞の線維芽細胞株および仔ハムスター腎臓細胞の上皮細胞株の2つの異なる細胞株を用いた。その結果によると、DMEMでインキュベーションしたマウス3T3細胞および抽出された無細胞のブタICAの試料の、相対ATP量とそれによる生存率との間には有意差は見られなかった(
図12Aおよび12B)。マウス3T3細胞を無細胞のブタEIAの抽出物でインキュベーションした場合、細胞生存率に大幅な増加が見られた(
図12B)。生細胞の組織抽出物と比較し、DMEMまたは無細胞の抽出物で培養した各3T3細胞のATP量には有意差が見られた(
図12A)。40%(v/v)のDMSOの存在下で培養された3T3細胞内に存在するATPの量は他の試験サンプルよりも大幅に低かった(
図12Aおよび12B)。DMEMと比較し、無細胞のブタEIAまたはICAの抽出物で培養された仔ハムスター腎臓細胞のATP量には大幅な増加が見られた(
図12Cおよび12D)。生細胞の組織抽出物と比較し、DMEMまたは無細胞の抽出物で培養された各仔ハムスター腎臓細胞のATP量には有意差が見られなかった(
図12Cおよび12D)。40%(v/v)のDMSOの存在下で培養された仔ハムスター腎臓細胞内に存在するATPの量は他の試験サンプルよりも大幅に低かった(
図12Cおよび12D)。
【実施例8】
【0076】
市販のキット(キアゲン)を用いて生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの試料(n=3)からDNAを単離し、260nmでの吸光度を用いて定量した。分析には、Surgisis、Permacol、およびCollaMendと、多くの市販製品を使用した。データによると、脱細胞化後にDNA量に90%を超える減少が見られた。無細胞のEIAおよびICAはDNAをそれぞれ0.014μg・mg
−1および0.019μg・mg
−1含んでいた(
図13)。SUrgisisは0.119μg・mg
−1のDNAを含み、Permacolは0.028μg・mg
−1のDNAを含み、CollaMendは0.017μg・mg
−1のDNAを含んでいた(
図13)。無細胞のEIAおよびICAのDNA含有量はSurgisisよりも大幅に少なかった(
図13)。
【実施例9】
【0077】
抽出したDNAおよびtotalRNAを用いてPCRおよびRT^PCRを行った。GAPDHおよびTNFαに対するプライマーを用いて生細胞のおよび無細胞のEIAおよびICAから抽出されたDNAを増幅した。PCR生成物を検出するために蛍光色素のサイバーグリーンを用いた。PCR反応では、無細胞のEIAまたはICAから抽出したDNAの試料においてGAPDHまたはTNFαの生成物を検出することはできなかった(表1)。したがって、存在するDNAはすべて断片かつ非コードであると見え、すなわち「ハウスキーピング」活動のみのための非機能性DNAであった。
【0078】
表1は、GAPDHおよびTNFαに対するプライマーを、サイバーグリーンPCR中で単離DNAに対して用いた場合 にPCR生成物が検出されるサイクル数を示している。
【0079】
【表1】
【0080】
GAPDH(表2)およびTNFα(表3)の検出を、生細胞のおよび無細胞のEIAおよびICAから抽出したtotalRNAの2ステップRT−PCR反応を用いて行った。PCR生成物を検出するために蛍光色素のサイバーグリーンを用いた。RT−PCR反応では、生細胞の試料と比較し、無細胞のEIAおよびICAから抽出したtotalRNAの試料においてGAPDHまたはTNFα生成物を検出することはできなかった。
【0081】
表2は、GAPDHに対するプライマーを2ステップRT−PCRで単離RNAに対して用いた場合にPCR生成物が検出されるサイクル数を示している。
【0082】
【表2】
【0083】
表3は、TNFαに対するプライマーを2ステップRT−PCRで単離RNAに対して用いた場合にPCR生成物が検出されるサイクル数を示している。
【0084】
【表3】
【実施例10】
【0085】
ブタ内在性レトロウイルスの検出および定量を、TaqManプローブを用いた定量リアルタイムPCRにより行った。市販のキット(キアゲン)を用いて生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの試料(n=3)からDNAを単離し、260nmでの吸光度を用いて定量した。分析には、Surgisis、Permacol、およびCollamendと、多くの市販製品が使われた。市販の供給源から入手した初代ヒト真皮線維芽細胞からもDNAを単離した。
【0086】
表4はブタのEIA、ICA、Permacol、CollaMend、Surgisis、および初代ヒト線維芽細胞に存在するPERVゲノムのコピー数を示す。データは平均値(n=3)を示す。
【0087】
【表4】
【0088】
データは、検査したすべての試料内にPERV DNAが存在することを示した(表4)。生細胞の組織と比較し、無細胞CFAではコピー数が6log減少し、無細胞ICAでは7log減少した。無細胞のICAおよびEIA内に存在するコピー数は市販されているいずれの製品よりも大幅に少なかった(一元配置分散分析および事後比較T検定)。この検査は、完全なPERVゲノムが存在するか、または転写活性をもつかを判定するものではない。
【実施例11】
【0089】
生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの試料(長さ15cm)に対し、特別に設計された破裂圧力リグを用いた圧力上昇に耐えうるかを試験した。内圧は各管において最高3750mmHgまで上昇させた。0.1%(v/v)の過酢酸で3〜4時間処理した無細胞のブタEIAに対して試験を行い、この工程がマトリックスの生体力学的に悪影響を及ぼすか否かを判定した。その結果によると、生細胞のおよび無細胞のブタEIAまたはICAが耐えうる最大圧力に有意差は見られなかった(データは示さず)。生細胞の試料のうち2つでは縫合による結紮部分で破裂が起こったが、無細胞の試料ではセットアップによる、または結紮すなわち連結部分で破裂は起こらなかった。無細胞ICAの破裂圧力平均値は3624mmHgであるのに対し、無細胞EIAでは3750mmHgであった。0.1%(v/v)の過酢酸で3〜4時間処理した無細胞EIAに有意差は見られなかった。
【実施例12】
【0090】
無細胞のブタEIAおよびICAに対し縫合保持強度試験を行い、データを生細胞の試料と比較した。4−0 Proleneを用いて一本の縫合糸を組織試料内に通し、三重結びで固定した。この試験はInstronの5860シリーズテーブルモデル試験機を用いて10mm・min
−1の速度で行った。データは、縫合糸が取り除かれるまでに各組織が耐えうる最大の力をニュートンで表した。無細胞の試料と比較し、生細胞のEIAまたはICAでは最大縫合保持強度に有意差は見られなかった(
図14)。
【実施例13】
【0091】
この研究の目的は、生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICA(n=3)の周方向および軸方向への膨張を定量することである。拡張反応試験で得られたデータは漸次加圧の間隔(n=3)における生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの静画を含んでいた。すべての画像をImage−Pro Plus V5.41のソフトウェアによって分析した。XおよびYの両軸方向への膨張が確認された。その結果は、谷径の変化率を内圧の増加に対する関数として表した(
図15A〜15D)。データは統計的に有意な2つの結果を示した。X軸方向における無細胞のICAの膨張(
図15A)は生細胞のICAの膨張よりも大幅に大きかった。また、Y軸方向における無細胞のブタICAの膨張は生細胞のICAよりも大幅に大きかった(
図15B)。他の膨張グラフはいずれも類似しており、生細胞の組織と無細胞組織に有意差は見られなかった(
図15A−D)。
【実施例14】
【0092】
生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの試料を、Instronの5860シリーズテーブルモデル試験システムを用いて10mm・min
−1の速度で試験した。低ひずみ速度破壊試験中、各試験の間、mmの単位でクロスヘッドのストローク、荷重変換器の応答時間およびmsの単位で時間を記録した。各組織サンプルの寸法は統一し、厚みは、試験リグに載置する前に厚さゲージで記録した。各試験は、軸方向および周方向の両方について行った(n=6)。データはMicrosoft ExcelおよびGraphPad Prismを用いて分析し、各試料に対する応力ひずみ線を生成した。そのデータおよび応力ひずみ線を用いて、最大抗張力(N)ならびにコラーゲン弾性率および弾性率(MPa)のパラメータを定めた(
図16、17、および18)。
【0093】
データによると、生細胞の組織を比較した場合、無細胞のEIAまたはICAの機械的特性に有意差はなかった。生細胞のICAの平均最大抗張力は軸方向および周方向に、それぞれ3.90±0.64MPa、4.13±1.00MPaであった。無細胞ICAの対応する値は3.92±0.87MPaおよび4.82±0.87MPaであった。残る生体力学的なパラメータの平均値は表5に示した。生体力学的データにより、脱細胞化処理は組織に大きな変化をもたらさなかったことが示された。
【0094】
表5は、生細胞のおよび無細胞のブタEIAおよびICAの低ひずみ速度破壊試験による生体力学的なパラメータを示す。データは平均値(n=6)、信頼限界±95%で表した。
【0095】
【表5】
【実施例15】
【0096】
広範な調査により、免疫細胞化学法および半定量ELISAによって示されたように、本発明において開発されたプロセスが、α−galを除去することが分かったため、無細胞のブタ動脈移植片がヒト血清において補体を活性化するか否かを判定すべく、組織に対しさらなる機能試験を実施することにした。脱細胞化処理により生成された動脈移植片を、市販の競合製品と比較した。各生体材料の試料を、正常ヒト血清の存在下において37℃で1時間インキュベーションした。血清を採取し、ELISAを実施してC3aまたはC5aの有無を判定した。初期成果は、PBS陰性対照と比較し、ザイモサン(陽性対照)が正常ヒト血清の補体活性化を起こしたことを示した(
図20)。この結果により、BSAコンジュゲートα−galが正常ヒト血清の補体活性化を引き起こす能力をもつことが明らかになった(
図19)。
【0097】
ELISAの結果は、生細胞のブタ組織に反応して正常ヒト血清内にC3aおよびC5aが生成されることを示した(
図20)。これは、無細胞ブタ組織、無細胞ヒト組織、または生細胞のヒト組織と反応した血清では観察されなかった。ヒト血清をSurgisisと反応させると、C3aおよびC5aが生成された。ヒト血清をPermacolまたはCollaMendと反応させた場合、C3aまたはC5aに増加は見られなかった(
図21)。これらの研究は、無細胞のブタ由来スキャフォールドが、前もって形成されたヒト抗体と反応可能かつ補体を活性化可能なエピトープを含まないことの強力な証拠を提示する。