【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、その中に組み込まれたグルコース結合性タンパク質および該グルコース結合性タンパク質のリガンドを有するヒドロゲルを含むデバイスに関し、ここで、該ヒドロゲルは、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックス、および第1のヒドロゲルマトリックス内で相互貫入ネットワークを形成する第2のヒドロゲルマトリックスを含む。
【0012】
本発明のデバイスはまた、上述の構成要素からなる組成物にも関連する。
【0013】
「ヒドロゲル」との用語は、含水ポリマーを指し、このポリマーの分子は化学的または物理的に連結されて三次元ネットワークとなる。ポリマー分子同士は、共有結合もしくはイオン結合により、またはエンタングルメントもしくはウィービング(weaving)により、一緒に連結されて三次元ネットワークとなる。ヒドロゲルを形成するポリマーは、好ましくは、水溶液の取り込みを可能にする親水性ポリマー構成要素およびグルコース結合性タンパク質と相互作用することができる基を含む。
【0014】
本発明のヒドロゲルは、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックスと、該アルギネートにより築かれたヒドロゲルマトリックス内で相互貫入ネットワークを形成することが可能な第2のヒドロゲルマトリックスとからなる。この第2のヒドロゲルマトリックスは、好ましくは、1分子当たり少なくとも1個の架橋性基、および最大500,000の分子量を有する水溶性ポリマーからなる。最大250,000、200,000、150,000、100,000または50,000の分子量が特に好ましい。第2のヒドロゲルマトリックスは、好ましくは、以下のものからなる群より選択される:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド(例えば、ジメチルアクリルアミド)、ポリヒドロキシアクリレート(例えば、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリヒドロキシアクリルアミド、ポリビニルピロリノン)、(2-メチル-3-エチル[2-ヒドロキシエチル])ポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(2-メチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-(1-(ヒドロキシメチル)-エチル)-2 オキサゾリン)、ポリ-(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ-(ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、ポリ-ビニルピロリドン、ポリ-(ジメチル)アクリルアミド、ポリ-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルおよび/またはエチレンとのコポリマーを含む)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)。
【0015】
本発明の相互貫入ネットワークは、好ましくは、既に存在する第1のポリマーの存在下での第2のポリマーのモノマーの重合により取得される。特に好ましくは、これは実施例により詳細に記載されているプロセスにより起こることができる。つまり、第2のポリマーの相互貫入ネットワークは、第1のポリマーの、既に存在するネットワーク中に形成することができる状況が実現される。したがって、ポリマーネットワークは、互いに織り合わされ(interwoven)、かつ/またはからまる(entangled)。これとは対照的に、種々のポリマーは、互いに織り合わされずかつ/またはからまらずに、別個のネットワークとして、混合物中に隣り合わせで存在する。
【0016】
特に好ましくは、第1のポリマーと第2のポリマーの架橋メカニズムが異なり、それにより混合架橋は生じない。第1のヒドロゲルマトリックスをつくり出すための上述のアルギネートは、イオン性相互作用により架橋される。相互貫入ネットワークをつくり出すための上述の第2のポリマーは、すべて、ラジカル重合またはイオン重合により架橋される。
【0017】
特に好ましくは、第2のヒドロゲルマトリックスは、ポリビニルアルコールから形成される。10,000〜100,000の分子量を有するポリビニルアルコールが特に好ましく、より好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは10,000〜20,000、非常に特に好ましくは15,000の分子量を有するポリビニルアルコールである。特に好ましくは、ポリビニルアルコールは、最大で0.5mmol/g、0.4mmol/g、0.35mmol/g、または0.3mmol/g、非常に特に好ましくは0.35mmol/gの架橋剤含有量を有する。さらに、ポリビニルアルコールは、特に好ましくは、40重量%未満のプレポリマー固体含有量を有する。
【0018】
第1のヒドロゲルマトリックスおよび第2のヒドロゲルマトリックスに加えて、本発明のヒドロゲルは、添加剤(例えば、安定化剤、乳化剤、抗酸化剤、UV安定化剤、界面活性剤および/またはUV重合開始剤(UV initiators))を含有することができる。
【0019】
本発明で用いられるヒドロゲルは、さらなる(好ましくは半透過性)被覆材料でさらに封入することができる。この封入によって、ヒドロゲルからのセンサー構成要素の「浸出」(leaching)が防止される。考えられる被覆材料は、半透膜または他のヒドロゲルマトリックスである。半透膜は、好ましくは、再生セルロース、ポリエチレングリコール、ポリウレタン多重(layer-by-layer)(LBL)層、ポリエーテルスルホン、パリレン層または穿孔シリカからなることができる。好ましくは、さらなるヒドロゲルマトリックスは、以下のものからなる群より選択されるポリマーから形成することができる:アルギネート、セファロース、ヒアルロン酸、キトサン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、カラギーナンおよびポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxalkonoates 、PHA)、ポリ(2-メチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-(1-(ヒドロキシメチル)-エチル)-2 オキサゾリン)、ポリ-(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ-(ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、ポリ-ビニルピロリドン、ポリ-(ジメチル)アクリルアミド、ポリ-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルおよび/またはエチレンとのコポリマーを含む)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)。
【0020】
本発明の文脈での「グルコース結合性タンパク質」との用語は、グルコースと特異的に相互作用することが可能なタンパク質に関する。あるタンパク質がグルコースと特異的に相互作用することが可能か否かは、当技術分野で公知の結合試験により、当業者が容易に決定することができる。特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質は、レクチン、基質としてのグルコースに結合する酵素、およびグルコースを特異的に認識する抗体からなる群より選択される。「グルコース結合性タンパク質」との用語はまた、グルコースを特異的に認識し得るサロゲート(surrogate)分子、好ましくはグルコースを特異的に認識するアプタマーも含む。非常に特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質はコンカナバリンAである。
【0021】
上述のグルコース結合性タンパク質をコードする核酸配列およびアミノ酸配列は、当技術分野で公知である(Yamauchi 1990, FEBS Letters 260(1): 127-130)。したがって、上述のタンパク質は、当業者が容易に調製することができる。前記タンパク質は、例えば、組み換え的に調製するか、または生物学的供給源から精製することができる。さらに、該タンパク質はまた、化学的に合成することもできる。その上、上述のタンパク質のうち大多数は市販されている。グルコースを特異的に認識する抗体またはアプタマーは、当技術分野で公知の抗体またはアプタマー取得法により、当業者が容易に調製することができる。
【0022】
上述のグルコース結合性タンパク質および特にコンカナバリンAはまた、好ましくは、該グルコース結合性タンパク質の非修飾型と比較して増大した水溶性に関わる化学的修飾を有することもできる。そのような修飾は、好ましくは、水溶性ポリマーを用いた官能化を含み、特に好ましい実施形態では、PEG化、アセチル化、ポリオキサゾリニル化(polyoxazolinylation)およびスクシニル化からなる群より選択することができる。
【0023】
分析用サンプル中のグルコース検出は、該サンプル中に含有されるグルコースによる、グルコース結合性タンパク質に結合したリガンドの置換によって、本発明のデバイスで行なわれる(リガンドとグルコースとの競合)。したがって、好ましくは、リガンドは、グルコース結合性タンパク質に対してグルコースよりも低い親和性を有する。好ましくは、置換は、色素または別の検出可能なマーカー分子を用いたリガンドの標識化により検出することができる。それらに結合する分子が近づいた際に少なくとも1種の測定可能な物理的もしくは化学的特性の変化が生じる色素または他のマーカー分子が、置換の検出のために特に好適であることが実証されている。好適なシステムとしては、色素分子間のエネルギー移動によって、測定可能なシグナルが抑制されるかまたは発生するものが挙げられる。そのようなエネルギー移動に基づくシステムは、例えば、WO2001/13783に、より詳細に記載されている。これらは好ましくは、色素またはマーカー分子が(したがってグルコース結合性タンパク質およびそのリガンドが)空間的に近接しているときに、クエンチ効果によって蛍光シグナルが抑制されるシステムであり得る。アナライトによるリガンドの置換後、クエンチ効果が取り消される。この効果は、蛍光の変化によって検出可能である。検出のために、例えば、WO2002/087429に記載されている蛍光光度計を用いることができる。他の好適なシステムは、いわゆる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく検出システムである。これらのシステムでは、2種類の相互作用する構成要素(グルコース結合性タンパク質およびそのリガンドなど)を蛍光色素で標識する。一方の構成要素はアクセプター色素とカップリングさせ、他方をドナー色素とカップリングさせる。該構成要素同士の相互作用を通して、色素同士が空間的に近接し、それによりFRET効果が生じる。FRET効果では、励起エネルギーがドナーからアクセプター色素に移動し、したがってドナー色素の強度は測定しにくくなる。構成要素同士の相互作用が中断されるとすぐに、ドナーの蛍光強度が再び増大する。つまり、本発明のデバイスの場合には、アナライトによるグルコース結合性タンパク質とリガンドとの複合体の分離後に、色素またはマーカー分子により生成されるシグナル強度の上昇を介して、グルコースを検出することができる。色素もしくはマーカー分子は、グルコース結合性タンパク質またはリガンドのいずれかにカップリングさせる。例えば、ドナー色素はグルコース結合性タンパク質またはリガンドにカップリングさせることができ、ドナー色素にカップリングしない構成要素は好適なアクセプター色素にカップリングさせる。そのようにして構成された本発明のデバイスでは、グルコース結合性タンパク質に対するリガンドの結合の結果としてのFRET効果は、グルコース含有サンプルへの曝露前に観察することができる。曝露後は、グルコースがリガンドを置換し、それにより、実際にはグルコースの量に比例して、ドナー色素の蛍光の測定可能な強度が増大する。
【0024】
Birchら(Birch 2001, Spectrochimica Acta Part A 57: 2245-2254)は、(グルコース結合性タンパク質としての)コンカナバリンAおよび(リガンドとしての)デキストランの場合についての化学的平衡の数理解を計算している。種々のコンカナバリンA濃度およびデキストラン濃度を用いたシミュレーションから、(デキストラン)/(Con A-デキストラン複合体)比が、出発濃度にわずかにしか依存しないこと、ならびに結合定数K
DexおよびK
Glucが、センサー性能に対する主な要因であることが示されている。
【0025】
しかしながら、驚くべきことには、色素の構造もまた、グルコース活性に影響を与える。つまり、本発明によれば、ローダミンとオキサジン色素との組み合わせは、キサンテンとローダミン色素との慣用の組み合わせ(FITC-TMR)よりも著しく優れている。
【0026】
好ましくは、本発明の文脈で用いられるグルコース結合性タンパク質は、オキサジン色素に連結させる。そのような連結を実現できる方法は、当業者には周知であり、当技術分野で十分に報告されている。特に好ましくは、オキサジン色素は、ATTO655、ATTO680、EVOblue10、EVOblue30、EVOblue90およびEVOblue100からなる群より選択されるオキサジンアクセプターである。非常に特に好ましくは、ATTO680を用いる。前記オキサジン色素は市販されている。
【0027】
グルコース結合性タンパク質(例えば、コンカナバリンA)についての好ましい標識度(degree of labeling;DOL)は、0.1〜4、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3である。コンカナバリンAの場合、ここでの1のDOLは、コンカナバリンA四量体(MW=104,000)1モル当たり1モルの色素に対応する。高いDOLおよび比較的非極性の色素(典型的には長波長蛍光色素)を用いる場合、グルコース結合性タンパク質は、好ましくはPEGを用いて官能化される。好ましいPEG化度は、0.1〜5であり、好ましい分子量は200〜10,000、特に好ましくは800〜8,000、さらにより好ましくは800〜5,000である。
【0028】
本発明の基礎となる実験の文脈では、グルコース結合性タンパク質に対するさらに良好な標識度を達成するために、非修飾型と比較して増大した水溶性を仲介するグルコース結合性タンパク質の化学的修飾を有利に用いることができることが実証された。本発明の修飾型グルコース結合性タンパク質の場合、その非修飾型と比較して、色素によるより高い標識度も達成することができる。そのような修飾型コンカナバリンAタンパク質の場合、好ましくは0.5mg/(gマトリックス)超の濃度、非常に特に好ましくは2〜60mg/(gマトリックス)の濃度を達成することができる。驚くべきことに、修飾型コンカナバリンAタンパク質の測定されたグルコース活性も、ヒドロゲル中の天然型コンカナバリンAのグルコース活性に匹敵するものであった。
【0029】
改善された溶解度は、グルコース結合性タンパク質を色素で標識する場合に特に重要である。なぜなら、色素で標識されたグルコース結合性タンパク質(例えば、上述のオキサジン色素のうち1種類で修飾されたコンカナバリンA)は、水溶液中でさらに低下した溶解度を有するからである。標識度が高くなる程、水溶液中での溶解度が低くなる。しかしながら、これは正確には、本発明のデバイス中のセンサー構成要素としてのグルコース結合性タンパク質に対して必要とされる、より高い標識度である。
【0030】
「グルコース結合性タンパク質のリガンド」との用語は、グルコース結合性タンパク質との特異的結合に関与することが可能な分子を意味する。該分子は基本的にグルコースと同じ結合部位と相互作用し、それにより、結合した分子は、グルコースによってグルコース結合性タンパク質上の結合部位から置換され得る。したがって、好適な分子は、構造的にグルコースと関連している。グルコース結合性タンパク質のリガンドは、好ましくは、オリゴ糖、グリコシル化高分子(例えば、グリコシル化タンパク質もしくはペプチド)、またはグリコシル化ナノ粒子である。グルコース結合性タンパク質のリガンドとして用いることができる上述の分子は当技術分野で公知であり、当業者が容易に調製することができる。特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質のリガンドとして、デキストランを用いる。
【0031】
本発明のデバイスでのグルコース結合性タンパク質のリガンドは、好ましくは、ローダミン色素とカップリングさせる。特に好ましくは、ATTO590、ATTO610、ROX、TMR、ローダミンG6、Alexa Fluorローダミン色素またはDy590、非常に特に好ましくはATTO590を用いることができる。
【0032】
グルコース結合性タンパク質のリガンド(例えば、デキストラン)についての好ましい標識度(DOL)は、0.00003〜0.016(mol色素)/(molサブユニット)、特に好ましくは0.00032〜0.0065(mol色素)/(molサブユニット)、非常に特に好ましくは0.0008〜0.0035(mol色素)/(molサブユニット)である。リガンドの標識度はまた、グルコース活性に対して影響する。過剰に低い標識度は低いグルコース活性をもたらし、過剰に高い標識度もまた同様である。
【0033】
上記から、結果として、本発明のデバイスの好ましい実施形態では、グルコース結合性タンパク質はコンカナバリンAであることになる。ここで、コンカナバリンA濃度は、特に好ましくは0.5mg/(gマトリックス)超、非常に特に好ましくは2〜60mg/(gマトリックス)である。同様に、化学的修飾(好ましくはPEG化、アセチル化、ポリオキサゾリニル化またはスクシニル化)を通して、コンカナバリンAは、非修飾型コンカナバリンAと比較して、上昇した水溶性を示す。好ましい実施形態では、グルコース結合性タンパク質をオキサジン色素に連結させ、グルコース結合性タンパク質のリガンドをローダミン色素に連結させる。非常に特に好ましくは、コンカナバリンA/デキストラン系をデバイスで用い、この場合、デキストランをローダミンドナー色素に連結させ、コンカナバリンAをオキサジンアクセプター色素に連結させる。好ましいコンカナバリンA/デキストラン系では、構成要素は、好ましくは、1:1〜1:40の質量比(デキストラン/Con A)で存在し、特に好ましくは1:10に近い質量比で存在する。
【0034】
本発明の文脈では、オキサジン色素とローダミン色素との組み合わせが、色素残基同士のヘテロ二量体的相互作用を引き起こし、これが、グルコース活性を高めることが確認された。つまり、オキサジンアクセプター色素およびローダミンドナー色素の使用を通じて、水溶液中で好ましくは既に、2.1倍のグルコース活性を達成することができる。本発明の文脈で用いられるヒドロゲル中では、グルコース活性の2.6倍の増大さえももたらすことができた。
【0035】
本発明の文脈では、有利なことに、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックスおよび第1のマトリックス内に相互貫入ネットワークを形成する第2のヒドロゲルマトリックスからなるヒドロゲルの使用により、グルコース活性の効率的な測定を可能にするセンサー構成要素(すなわち、グルコース結合性タンパク質およびグルコース結合性タンパク質の競合的リガンド)のための環境をつくり出すことが可能であることが実証された。蛍光を用いるグルコース測定のための多数のアプローチは、溶液中では有効であるが、センサー構成要素がヒドロゲルマトリックス中に包埋されている場合には、センサー構成要素の可動性が制限されるので、それらの活性は失われる(Rounds 2007, J. Fluoresc. 17: 57-63;US 2007/0105176 A1)。しかしながら、驚くべきことに、特にBirchら(Birch 2001、上掲)の計算も考慮すると、本発明の場合、水溶液に対して最大で2.6倍増大した活性を検出することができた。好適なヒドロゲルマトリックスを選択することにより、水溶液中のその溶解度の限界をはるかに超えるグルコース結合性タンパク質の富化を達成することができた。本発明に従って用いられるヒドロゲルマトリックス中での本発明の文脈において見出された改善された溶解度は、センサー構成要素、特に、グルコース結合性タンパク質(コンカナバリンAなど)との相互作用でのヒドロゲルマトリックスの特定の特性に起因する。コンカナバリンAの場合、例えば、自由溶液中で達成できる濃度と比較して、10倍を超えて増大した濃度を達成することができた。通常は、自由溶液中でのレセプター構成要素の溶解度は、リガンドの添加によってさらに悪い影響を受ける。なぜなら、レセプター/競合因子複合体は、そのサイズおよび多くの場合は多価性によっても、より低い溶解度を示すからである。例えば、質量比1:10での溶液中でのコンカナバリンA/デキストラン複合体は、0.5mg/(g溶液)のコンカナバリンA濃度を超えるとすぐに沈殿し始めるが、同じ質量比を用いた好適なヒドロゲル中では、50mg/(gマトリックス)を超えるコンカナバリンA濃度を調製できる。したがって、使用可能な濃度範囲は、100倍大きくすることができる。これは、アナライト濃度が固定され、希釈または濃縮によって調整することができない用途に対して、特に重要である。正確には、そのような困難性は、体液中のグルコースレベルの測定などのin vivo用途で生じる。in vivoの状況では、アナライトであるグルコースの濃度を特定のアッセイ条件に調整することができず、むしろそのままの状態で取得しなければならない。
【0036】
別の溶解度についての問題は、特に、生物学的センサーのin vivo用途に関して生じる。より長い波長のおかげで、組織の内在性蛍光は低減するため、in vivo用途では、長波長の蛍光色素が用いられる。しかしながら、これらの蛍光色素は、その分子構造およびサイズ(コンジュゲート化システム)を原因として、典型的には無極性である。グルコース結合性タンパク質をそのような色素で標識した場合、溶解度はさらに低下し、それにより高い標識度はここでもまた不可能である。したがって、上述した通り、それに伴う増大した溶解度およびより高い標識度を可能にするために、例えば、ポリエチレングリコールを用いてグルコース結合性タンパク質を官能化することが必要であり得る。しかしながら、通常、ポリエチレングリコールを用いた官能化(PEG化)は、例えば、天然型コンカナバリンAのグルコース活性を著明に減少させる(0.4以下の相対的グルコース活性)。本発明の文脈では、驚くべきことに、本発明のデバイスのヒドロゲル中では、この悪化は生じないことが確認された。むしろ、ポリエチレングリコールを用いて官能化されたコンカナバリンAで、天然型コンカナバリンAのものに匹敵するグルコース活性を達成できる(相対的グルコース活性=2.2または2.6)。さらに、本発明のデバイスで用いられるものなどのヒドロゲル中のコンカナバリンAに対する標識度を増大させることにより、グルコース活性をさらに高めることができる。つまり、驚くべきことに、富化されたヒドロゲルでは、ポリエチレングリコールを用いて官能化されたコンカナバリンAに対する標識度を増大させることにより、グルコース活性の倍加さえも達成することができた。溶液中での測定と比較して、本発明のデバイスのヒドロゲル中でのグルコース活性は、4.3倍にも増大する。したがって、本発明のデバイスでのヒドロゲルの使用によって、水溶液中で調製可能な濃度と比較して4倍増加したグルコース活性を、同等の標識度を用いて可能にする、グルコース結合性タンパク質とそのリガンドとの濃度比を用意することが可能となる。これにより、有利なことに、(例えば、in vivo用途に伴う)アナライト濃度をアッセイ条件に適合させることができない条件下での本発明のデバイスの使用も可能となる。
【0037】
in vivo条件での(例えば、糖尿病患者での)グルコース濃度の測定のために、50〜500mg/dLのアナライト濃度を分析(resolve)しなければならない。そのような分析は、本発明のデバイスを用いて容易に実現することができる。デバイスは、ex vivoおよびまたin vivoの両方でのセンサーとして用いることができる。in vivo用途では、センサーデバイスは、例えば、皮下、眼内(例えば、結膜下)、または測定されるグルコース活性の評価を可能にする身体内の他の部位に配置することができる。
【0038】
従って、本発明はまた、サンプル中のグルコース含有量を測定するための、上記の通りの本発明のデバイスの使用に関する。
【0039】
本発明の文脈では、「サンプル」との用語は、おそらく、または実際にグルコースを含有する組成物、好ましくは水性組成物を意味するものと理解されるべきである。サンプルは、好ましくは生物学的サンプルである。非常に特に好ましくは、サンプルは体液、特に組織液(例えば、間質液)、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液、涙液、汗または尿である。特に好ましくは、サンプルは組織液、血液、血清または血漿である。
【0040】
サンプルが生物学的材料(例えば、体液)であるならば、それは好ましくは、おそらくまたは実際にグルコース代謝障害を有する被験体から取得することができる。つまり、本発明のデバイスは、グルコース代謝の疾患または障害のex vivo診断のために、特に糖尿病またはメタボリック症候群の診断のために用いることができる。さらに、本発明のデバイスは、診断のためのみならず、グルコースレベルのモニタリングのためにも用いることができる。デバイスはまた、治療(例えば、変化したグルコースレベルに応じて投与しなければならないインスリン用量)の決定の支援も可能にする。
【0041】
ex vivo用途のためには、本発明のデバイスを、例えば、マイクロタイタープレートに導入して、そこに繋ぎ止めることができる。次に、アッセイのためのサンプルを該マイクロタイタープレートのウェルにアプライし、続いて読み取りデバイスを用いてアッセイすることができる。そのようなアプローチは、多数のサンプルの同時アッセイを可能にし、したがってまた、特に臨床診断実務では、経済的である。
【0042】
in vitro用途の文脈では、本発明はまた、実際にまたはおそらくグルコースを含有するサンプル中のグルコースの量を測定するための方法に関し、該方法は、以下のステップを含み得る:
(a)サンプル中に含有されるグルコースとデバイス由来のグルコース結合性タンパク質との結合を可能にする条件下で、本発明のデバイスをサンプルと一定時間接触させるステップ;および
(b)デバイス中でグルコースから置換された(displaced)リガンドの量を測定し、それによりグルコースの量を測定するステップ。
【0043】
上記の本発明の方法は、またさらなるステップを含み得る。例えば、さらなるステップは、サンプルの処理(例えば、全血からの血清の取得)に関するものであり得る。さらなるステップは、測定されたグルコース含有量を、グルコース代謝の病理学的変化と関連付けるために行なうことができるであろう。この目的で、測定された含有量を、特定の病理学的状態(例えば、糖尿病またはメタボリック症候群)を示す参照量と比較することができるであろう。そうすると、そのような方法はまた、糖尿病またはメタボリック症候群のin vitro診断のために用いることができる。本発明の方法またはその個々のステップは、自動化して、例えば、コンピュータ実施システムおよび/またはロボットシステムにより行なうことができる。
【0044】
上記の方法を用いて分析することができる好適なサンプルは、本明細書中の別の箇所でさらに詳細に記載されている。
【0045】
「量」(quantity)との用語は、絶対量の測定および相対量の測定の両方に関する。絶対量の測定は、好ましくは、較正曲線を用いて行なうことができ、較正曲線は、本発明の方法を用いた、既知のグルコース含有量についての測定値から作成することができる。本発明の意味での相対量とは、標準化パラメータとの関連で設定される量である。言うまでもないが、本発明の方法の文脈では、パラメータもまた、測定された量の値から数学的操作によって導いて決定することができる。
【0046】
本発明の方法の文脈では、接触ステップは、サンプルの、したがってその中に含有されるグルコースの、デバイスへの貫入(penetration)を可能にすべきである。さらに、接触ステップは、デバイス中に埋め込まれたグルコース結合性タンパク質に対するグルコースとリガンドとの競合を可能にすべきである。
【0047】
本発明の方法では、リガンドの置換の検出は、好ましくは、本明細書中で別の箇所に記載した通り、ドナー色素により励起される蛍光強度の増大を測定することにより行なうことができる。グルコース結合性タンパク質を含む複合体ではドナー色素の蛍光強度が低下するので、この増大は、グルコース結合性タンパク質からのリガンドの置換の結果として生じる。しかしながら、言うまでもないが、リガンドの解放を検出するための他の技術もまた用いることができる。
【0048】
しかしながら、既に記載した本発明のデバイスのex vivo用途およびex vivo法に加えて、本発明はまた、被験体でのグルコース代謝障害を診断する目的での使用のための、上記の本発明のデバイスにも関する。ここで好ましくは、グルコース代謝障害は、糖尿病またはメタボリック症候群により引き起こされる。
【0049】
本発明のデバイスのin vivo用途では、デバイスは身体内に導入される。ここで、グルコースレベルの測定(これは当然、診断の基礎でもある)は、デバイスが、グルコースを含有する体液と接触することを必要とすることに留意すべきであり、この場合、該体液中のグルコース濃度は、測定対象のグルコースレベルの代表である。好適な体液は、本明細書中の別の箇所に列挙されている。特に好ましくは、体液は組織液である。身体内に導入されたデバイスは、次に、診断を行なうために評価することができるシグナルを生成する。
【0050】
本発明のデバイスは、好ましくは、デバイスにより生成されるシグナルの光学的測定を可能にする身体内の箇所に導入される。生成されたシグナルが効率よく透過できる、デバイスと体表面との間の組織厚が小さい箇所、または透明な組織を有する箇所のいずれかが好適である。特に好ましくは、デバイスは、皮膚の下に(皮下)、または眼内に(例えば、結膜下に)配置される。デバイスの移植のための適切な方法は、当技術分野で公知である。
【0051】
あるいは、本発明のデバイスにより生成されるシグナルはまた、好適な伝達媒体を用いて、身体外に伝達することもできる。この目的で、好ましくは、可撓性ケーブル(例えば、ガラスファイバーケーブル)などのシグナル伝達材料を用いることができる。しかしながら、シグナルの伝達はまた、無線で(例えば、赤外線シグナル、電波シグナルまたは無線シグナルとして)行なうこともできる。言うまでもないが、この場合、本発明のデバイスにより生成されるシグナルは、まず、検出器(同様にデバイス中に取り付けられているかまたは少なくとも空間的に近接していなければならない)により読み取られ、電磁的シグナル(例えば、無線シグナル)に変換されなければならない。この電磁的シグナルは、次に、身体外に配置された受信器により受け取られ、評価されることができる。
【0052】
さらに、本発明は、グルコース代謝障害を有する被験体での治療的処置に対する必要性の決定での使用のための、上記の通りの本発明のデバイスに関する。
【0053】
適切な治療的処置は、糖尿病またはメタボリック症候群の治療のために用いられるものを含む。薬物(例えば、インスリン)の投与に加えて、これはまた、決定されたグルコース代謝障害に基づいて、それに関する決定を行なうことができる他の治療的処置の実施(治療的介入(例えば、胃バイパス手術)、または生活習慣の変化(例えば、特殊な食餌の実施)など)も含む。
【0054】
既に記載されたデバイスの使用の文脈では、デバイスはまた、さらなるデバイス(例えば、薬物の送達を制御するデバイス)と組み合わせることもできる。ここで、本発明のデバイスは、好ましくは、インスリンの送達のためのデバイスと組み合わせることができる。次に、インスリンの送達を、本発明のデバイスによって決定された必要性に基づいて制御することができる。ここで、本発明のデバイスを用いて測定されたサンプル中のグルコースレベルの変化を、例えば、送達デバイス中のデータ処理ユニットにより、インスリン送達についての要求を特定するコマンドに変換する。次に、該コマンドが、必要な間、または必要な量での血中へのインスリンの送達を仲介する。
【0055】
つまり、上記の本発明のデバイスの本発明に従った用途は、血糖レベルの効率的なex vivoおよびin vivo診断を可能にし、したがって、グルコース代謝障害に関連する疾患の早期の認識、ならびにまた臨床的モニタリングの文脈でのその使用を通じたそのような疾患の管理を可能にする。この関連で、デバイスはまた、決定された診断結果に基づく治療の決定に到達するためにも好適である。
【0056】
本発明を以下の実施例により説明する。しかしながら、実施例は、保護範囲を限定するものではない。