特許第5881730号(P5881730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5881730高感度を有するバイオセンサーのためのヒドロゲルの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5881730
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】高感度を有するバイオセンサーのためのヒドロゲルの使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20160225BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 33/548 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   G01N33/53 S
   G01N33/566
   G01N33/548 A
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-543718(P2013-543718)
(86)(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公表番号】特表2014-500505(P2014-500505A)
(43)【公表日】2014年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2011072622
(87)【国際公開番号】WO2012080258
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2014年10月7日
(31)【優先権主張番号】10195668.8
(32)【優先日】2010年12月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512107765
【氏名又は名称】アイセンス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100171505
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 由美
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】ヘルブレヒトシュマイヤー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クヌート,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラウス,カタリーナ
【審査官】 三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−510161(JP,A)
【文献】 特表2010−526599(JP,A)
【文献】 米国特許第06485703(US,B1)
【文献】 特表2004−536279(JP,A)
【文献】 特表2010−517693(JP,A)
【文献】 特表2008−523357(JP,A)
【文献】 Kwan Yee Cheung et al.,Reusable optical bioassay platform with permeability-controlled hydrogel pads for selective saccharide detection,Analytica Chimica Acta,2008年,607,204-210
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
G01N 33/548
G01N 33/566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロゲル中に溶解したグルコース結合性タンパク質を富化するための方法であって、
(a)少なくとも1種の水溶性ポリマーを含むポリマーベースのヒドロゲルであって、第1のヒドロゲルマトリックス、および該第1のヒドロゲルマトリックス内で相互貫入(interpenetrating)ネットワークを形成する第2のヒドロゲルマトリックスを含む、該ヒドロゲルを提供し、そして
(b)グルコース結合性タンパク質、および該グルコース結合性タンパク質に結合するリガンドを、ステップ(a)で提供されるポリマーベースのヒドロゲルに組み込む
ことを含み、(i)該少なくとも1種の水溶性ポリマーがグルコース結合性タンパク質と相互作用可能なものであり、かつ(ii)該グルコース結合性タンパク質がリガンドとの複合体で存在し、それによってヒドロゲル中に溶解したグルコース結合性タンパク質を富化する、上記方法
【請求項2】
グルコース結合性タンパク質のリガンドが、オリゴ糖、グリコシル化高分子またはグリコシル化ナノ粒子である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
溶解したグルコース結合性タンパク質が、ヒドロゲルを含まない対照水溶液と比較して少なくとも5倍上昇した濃度で存在する、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
溶解したグルコース結合性タンパク質が、対照水溶液中と比較して少なくとも10倍上昇した濃度で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶解したグルコース結合性タンパク質が、対照水溶液中と比較して少なくとも15倍上昇した濃度で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
溶解したグルコース結合性タンパク質が、対照水溶液中と比較して少なくとも20倍上昇した濃度で存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
グルコース結合性タンパク質が、レクチン、基質としてのグルコースに結合する酵素、グルコースを特異的に認識する抗体、およびグルコースを特異的に認識するアプタマーからなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法
【請求項8】
グルコース結合性タンパク質がコンカナバリンAである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法
【請求項9】
コンカナバリンA濃度が0.5mg/(gポリマー)超である、請求項8に記載の方法
【請求項10】
コンカナバリンA濃度が2〜60mg/(gポリマー)である、請求項9に記載の方法
【請求項11】
コンカナバリンAが、化学的修飾により、非修飾型コンカナバリンAと比較して上昇した水溶性を示す、請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法
【請求項12】
修飾が、PEG化、アセチル化、スクシニル化およびポリオキサゾリニル化からなる群より選択される、請求項11に記載の方法
【請求項13】
グルコース結合性タンパク質がオキサジン色素に連結され、グルコース結合性タンパク質のリガンドがローダミン色素に連結されている、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法
【請求項14】
サンプル中のグルコース含有量を測定するためにセンサーを使用する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法
【請求項15】
グルコース代謝障害の診断のためにセンサーを使用する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法
【請求項16】
グルコース代謝障害を有する患者での治療的処置に対する必要性の決定のためにセンサーを使用する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解したグルコース結合性タンパク質を富化するための、少なくとも1種の水溶性ポリマーを含むポリマーベースのヒドロゲルのセンサーにおける使用であって、少なくとも1種の水溶性ポリマーがグルコース結合性タンパク質と相互作用可能なものであり、グルコース結合性タンパク質がリガンドとの複合体で存在する、上記使用に関する。
【背景技術】
【0002】
効率よくかつ信頼性のある測定技術によるグルコース濃度の測定は、多くの技術分野で非常に重要である。純粋な検査室分析のみならず、食品産業(例えば、ワイン醸造の分野)および医療分野(例えば、グルコース代謝障害により引き起こされる疾患(例えば、糖尿病またはメタボリック症候群)の診断)においても、与えられた溶液中のグルコース濃度の迅速かつ信頼性のある測定が、主に重要である。グルコース代謝障害に基づく疾患の診断の分野では、身体内に移植可能であり、かつ身体内で採取されるサンプル中のグルコース含有量を測定することができるデバイス、および被験体のサンプルからex vivoでグルコース含有量を測定するセンサーの両者で、グルコースセンサーが用いられる。
【0003】
溶液中のグルコース含有量を測定することに関して、センサー分子およびリガンドからつくられたシステムが報告されており、ここで、該センサーはグルコース結合性タンパク質であり、リガンドはグルコースに対する競合因子であり、このリガンドは、グルコースセンサー分子に結合した形でセンサー中に最初から存在する。測定手順でのグルコースとの競合により、該競合因子は、グルコース結合性タンパク質から置換される(displaced)。このグルコースによるグルコース結合性タンパク質からの競合因子の置換は、分子の物理的または化学的特性の変化により(例えば、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により)検出することができる。上述のシステムは、当然、センサーの空間的に区別された領域に存在しなければならない。
【0004】
水性媒体中でのシステム構成要素(すなわち、グルコース結合性分子およびリガンド)の封入のために、半透膜が使用されている。そのような膜は、例えば、再生セルロース、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、レイヤーバイレイヤー(layer-by-layer)(LBL)多重層、ポリエーテルスルホン、パリレン層または穿孔シリカ(perforated silica)からなることができる(例えば、特許文献1)。あるいはまた、通常更なる膜で包まれるヒドロゲルも使用することができる(例えば特許文献2および3を参照されたい)。
【0005】
しかしながら、従来記載されているグルコースセンサーは、比較的低いグルコース活性を示す。グルコース活性およびしたがってセンサー性能は、主にグルコース結合性タンパク質と競合因子との複合体およびグルコース結合性タンパク質とグルコースとの複合体についての結合定数により決定される。さらに、センサー構成要素の可動性も重要である。ヒドロゲルマトリックスにおいて、これはむしろ制限されている(非特許文献1)。
【0006】
グルコースを測定するためのin vivoセンサーでは、アナライト濃度の変化に対してセンサーが常に可逆的に反応しなければならない。つまり、結合定数は高すぎてはならない。そうでなければセンサーは低いアナライト濃度ですぐに飽和してしまい、もはや濃度変化を示すことができなくなるからである。それに加えて、in vivoセンサーのさらなる問題点は、アナライト濃度範囲が固定され、希釈または濃縮によって最適化することができないことにある。本質的には、当技術分野では、中程度の結合定数が実現されている、リガンドおよびグルコース結合性タンパク質からなるシステムが記載されている。グルコース結合性タンパク質もしくはリガンドのいずれかまたはそれらの両方の濃度を(例えば富化によって)変化させることによる測定感度の適合化は、一般的に、それぞれの分子の低い溶解性により制限される。それゆえ、上述の当技術分野で記載されているセンサーでは、センサーの測定感度およびさらに測定精度の両方が制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0122829号
【特許文献2】米国特許第6,485,703号
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0105176号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Rounds 2007, J. Fluorec. 17: 57-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、グルコースレベルの測定のためのバイオセンサーの測定感度および精度を改良することを可能にする手段を提供することである。本発明は、特許請求の範囲に記載される実施形態および下記に開示される実施形態により解決される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って本発明は、溶解したグルコース結合性タンパク質を富化するための、少なくとも1種の水溶性ポリマーを含むポリマーベースのヒドロゲルのセンサーにおける使用であって、この少なくとも1種の水溶性ポリマーがグルコース結合性タンパク質と相互作用可能なものであり、グルコース結合性タンパク質がリガンドとの複合体で存在する、上記使用に関する。
【0011】
「ヒドロゲル」との用語は、含水ポリマーを指し、このポリマーの分子は化学的または物理的に連結されて三次元ネットワークとなる。ポリマー分子同士は、共有結合もしくはイオン結合により、またはエンタングルメントもしくはインターウィービング(interweaving)により、一緒に連結されて三次元ネットワークとなり得る。ヒドロゲルを形成するポリマーは、好ましくは、水溶液の取り込みを可能にする親水性ポリマー構成要素およびグルコース結合性タンパク質と相互作用可能な基を含む。特にコンカナバリンA等のレクチン、並びに単糖、例えばグルコースのための結合部位では、末端の糖分子のための更なる結合部位も記載されている(Moothoo 1999, Glycobiology 9(6): 539-545; Bryce 2001, Biophysical Journal 81: 1373-1388: Moothoo 1998, Glycobiology 8(2): 173-181; Delatorre 2007, BMC Structural Biology 7:52)。ヒドロゲルのポリマー分子中の糖または構造的に類似の分子もしくは残基は、好ましくはこの更なる結合部位と相互作用可能なものである。グルコース結合性タンパク質の性質に応じて、本発明に従い、グルコース結合性タンパク質と相互作用可能であり、それによってグルコースのための結合部位をブロックすることのない残基を有するポリマーを選択する。このために好適な残基はまた、ポリマーに連結し、グルコース結合性タンパク質を特異的に認識する抗体または抗体断片、例えばFab、F(ab)2、scFv等であり得る。抗体の代わりに、グルコース結合性タンパク質を特異的に認識するアプタマーも同様に使用することができる。
【0012】
好ましくは、少なくとも1種のポリマーは、以下からなる群より選択される:アルギネート、セファロース、ヒアルロン酸、キトサン、カラギーナン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド(例えばジメチルアクリルアミド)、ポリヒドロキシアクリレート(例えばポリヒドロキシメタクリレート、ポリヒドロキシアクリルアミド、ポリビニルピロリノン)、(2-メチル-3-エチル[2-ヒドロキシエチル])ポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(2-メチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-(1-(ヒドロキシメチル)-エチル)-2 オキサゾリン)、ポリ-(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ-(ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、ポリ-ビニルピロリドン、ポリ-(ジメチル)アクリルアミド、ポリ-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルおよび/またはエチレンとのコポリマーを含む)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)。
【0013】
特に好ましくは、少なくとも1種のポリマーは、アルギネート、セファロース、ヒアルロン酸、キトサン、およびカラギーナンからなる群より選択される。更に特に好ましくは、少なくとも1種のポリマーはアルギネートである。
【0014】
言うまでもないが、センサー中のヒドロゲルは、さらなるポリマーを含み得る。特に、ポリマーベースのヒドロゲルは、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックスと、該第1のヒドロゲルマトリックス内で相互貫入(interpenetrating)ネットワークを形成することが可能な第2のヒドロゲルマトリックスを含み得る。この第2のヒドロゲルマトリックスは、好ましくは、1分子当たり少なくとも1個の架橋性基、および最大500,000の分子量を有する水溶性ポリマーからなる。最大250,000、200,000、150,000、100,000または50,000の分子量が特に好ましい。第2のヒドロゲルマトリックスのポリマーは、好ましくは、以下のものからなる群より選択される:ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド(例えば、ジメチルアクリルアミド)、ポリヒドロキシアクリレート(例えば、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリヒドロキシアクリルアミド、ポリビニルピロリノン)、(2-メチル-3-エチル[2-ヒドロキシエチル])ポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(2-メチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-(1-(ヒドロキシメチル)-エチル)-2 オキサゾリン)、ポリ-(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ-(ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、ポリ-ビニルピロリドン、ポリ-(ジメチル)アクリルアミド、ポリ-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルおよび/またはエチレンとのコポリマーを含む)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)。
【0015】
特に好ましくは、第2のヒドロゲルマトリックスは、ポリビニルアルコールから形成される。10,000〜100,000の分子量を有するポリビニルアルコールが特に好ましく、より好ましくは10,000〜50,000、より好ましくは10,000〜20,000、非常に特に好ましくは15,000の分子量を有するポリビニルアルコールである。特に好ましくは、ポリビニルアルコールは、最大で0.5mmol/g、0.4mmol/g、0.35mmol/g、または0.3mmol/g、非常に特に好ましくは0.35mmol/gの架橋剤含有量を有する。さらに、ポリビニルアルコールは、特に好ましくは、40重量%未満のプレポリマー固体含有量を有する。
【0016】
第1のヒドロゲルマトリックスおよび第2のヒドロゲルマトリックスに加えて、本発明のヒドロゲルは、添加剤(例えば、安定化剤、乳化剤、抗酸化剤、UV安定化剤、界面活性剤および/またはUV重合開始剤(UV initiators))を含有することができる。
【0017】
本発明で用いられるヒドロゲルは、さらなる(好ましくは半透過性)被覆材料でさらに封入することができる。この封入によって、ヒドロゲルからのセンサー構成要素の「浸出」(leaching)が防止される。考えられる被覆材料は、半透膜または他のヒドロゲルマトリックスである。半透膜は、好ましくは、再生セルロース、ポリエチレングリコール、ポリウレタン多重(layer-by-layer)(LBL)層、ポリエーテルスルホン、パリレン層または穿孔シリカからなることができる。しかしながら、被覆材料としてさらなるヒドロゲルマトリックスも可能である。好ましくは、これは以下のものからなる群より選択されるポリマーから形成することができる:アルギネート、セファロース、ヒアルロン酸、キトサン、カラギーナン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリアクリルアミド(例えばジメチルアクリルアミド)、ポリヒドロキシアクリレート(例えばポリヒドロキシメタクリレート、ポリヒドロキシアクリルアミド、ポリビニルピロリノン)、(2-メチル-3-エチル[2-ヒドロキシエチル])ポリマー、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリ(2-メチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-2 オキサゾリン)、ポリ(2-(1-(ヒドロキシメチル)-エチル)-2 オキサゾリン)、ポリ-(ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリ-(ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、ポリ-ビニルピロリドン、ポリ-(ジメチル)アクリルアミド、ポリ-(ヒドロキシエチル)アクリルアミド、ポリビニルアルコール(酢酸ビニルおよび/またはエチレンとのコポリマーを含む)、ポリ(エチレン-コ-ビニルアルコール)、ポリ(酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-コ-酢酸ビニル-コ-ビニルアルコール)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレングリコール-コ-プロピレングリコール)。
【0018】
本発明の文脈での「グルコース結合性タンパク質」との用語は、グルコースと特異的に相互作用可能なタンパク質に関する。あるタンパク質がグルコースと特異的に相互作用可能か否かは、当技術分野で公知の結合試験により、当業者が容易に決定することができる。好ましくは、グルコース結合性タンパク質はまた、ヒドロゲルのポリマーと相互作用可能なものである。好ましくは、この相互作用は、グルコース結合性タンパク質のグルコース結合部位によっては仲介されない。特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質は、レクチン、基質としてのグルコースに結合する酵素、およびグルコースを特異的に認識する抗体からなる群より選択される。この用語はまた、グルコースを特異的に認識し得るサロゲート(surrogate)分子、好ましくはグルコースを特異的に認識するアプタマーも含む。非常に特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質はコンカナバリンAである。
【0019】
上述のグルコース結合性タンパク質をコードする核酸配列およびアミノ酸配列は、当技術分野で公知である(Yamauchi 1990, FEBS Letters 260(1): 127-130)。したがって、上述のタンパク質は、当業者が容易に調製することができる。前記タンパク質は、例えば、組み換え的に調製するか、または生物学的供給源から精製することができる。さらに、該タンパク質はまた、化学的に合成することもできる。その上、上述のタンパク質のうち大多数は市販されている。グルコースを特異的に認識する抗体またはアプタマーは、当技術分野で公知の抗体またはアプタマー取得法により、当業者が容易に調製することができる。
【0020】
上述のグルコース結合性タンパク質および特にコンカナバリンAはまた、好ましくは、該グルコース結合性タンパク質の非修飾型と比較して増大した水溶性に関わる化学的修飾を有することもできる。そのような修飾は、好ましくは、水溶性ポリマーを用いた官能化を含み、特に好ましい実施形態では、PEG化、アセチル化、ポリオキサゾリニル化(polyoxazolinylation)およびスクシニル化からなる群より選択することができる。
【0021】
分析用サンプル中のグルコース検出は、該サンプル中に含有されるグルコースによる、グルコース結合性タンパク質に結合したリガンドの置換によって、本発明のデバイスで行なわれる(リガンドとグルコースとの競合)。したがって、好ましくは、リガンドは、グルコース結合性タンパク質に対してグルコースよりも低い親和性を有する。好ましくは、置換は、色素または別の検出可能なマーカー分子を用いたリガンドの標識化により検出することができる。それらに結合する分子が近づいた際に少なくとも1種の測定可能な物理的もしくは化学的特性の変化が生じる色素または他のマーカー分子が、置換の検出のために特に好適であることが実証されている。好適なシステムとしては、色素分子間のエネルギー移動によって、測定可能なシグナルが抑制されるかまたは発生するものが挙げられる。そのようなエネルギー移動に基づくシステムは、例えば、WO2001/13783に、より詳細に記載されている。これらは好ましくは、色素またはマーカー分子が(したがってグルコース結合性タンパク質およびそのリガンドが)空間的に近接しているときに、クエンチ効果によって蛍光シグナルが抑制されるシステムであり得る。アナライトによるリガンドの置換後、クエンチ効果が取り消される。この効果は、蛍光の変化によって検出可能である。検出のために、例えば、WO2002/087429に記載されている蛍光光度計を用いることができる。他の好適なシステムは、いわゆる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく検出システムである。これらのシステムでは、2種類の相互作用する構成要素(グルコース結合性タンパク質およびそのリガンドなど)を蛍光色素で標識する。一方の構成要素はアクセプター色素とカップリングさせ、他方をドナー色素とカップリングさせる。該構成要素同士の相互作用を通して、色素同士が空間的に近接し、それによりFRET効果が生じる。FRET効果では、励起エネルギーがドナーからアクセプター色素に移動し、したがってドナー色素の強度の低下が測定される。構成要素同士の相互作用が中断されるとすぐに、ドナーの蛍光強度が再び増大する。つまり、本発明のデバイスの場合には、アナライトによるグルコース結合性タンパク質とリガンドとの複合体の分離後に、色素またはマーカー分子により生成されるシグナル強度の上昇を介して、グルコースを検出することができる。色素もしくはマーカー分子は、グルコース結合性タンパク質またはリガンドのいずれかにカップリングさせる。例えば、ドナー色素はグルコース結合性タンパク質またはリガンドにカップリングさせることができ、ドナー色素にカップリングしない構成要素は好適なアクセプター色素にカップリングさせる。そのようにして構成された本発明のデバイスでは、グルコース結合性タンパク質に対するリガンドの結合の結果としてのFRET効果は、グルコース含有サンプルへの曝露前に観察することができる。曝露後は、グルコースがリガンドを置換し、それにより、実際にはグルコースの量に比例して、ドナー色素の蛍光の測定可能な強度が増大する。
【0022】
Birchら(Birch 2001, Spectrochimica Acta Part A 57: 2245-2254)は、(グルコース結合性タンパク質としての)コンカナバリンAおよび(リガンドとしての)デキストランの場合についての化学的平衡の数理解を計算している。種々のコンカナバリンA濃度およびデキストラン濃度を用いたシミュレーションから、(デキストラン)/(Con A-デキストラン複合体)比が、出発濃度にわずかにしか依存しないこと、ならびに結合定数KDexおよびKGlucが、センサー性能に対する主な要因であることが示されている。
【0023】
しかしながら、驚くべきことには、色素の構造もまた、グルコース活性に影響を与える。つまり、本発明によれば、ローダミンとオキサジン色素との組み合わせは、キサンテンとローダミン色素との慣用の組み合わせ(FITC-TMR)よりも著しく優れている。
【0024】
好ましくは、本発明に従う使用の文脈で用いられるグルコース結合性タンパク質は、オキサジン色素に連結させる。そのような連結を実現できる方法は、当業者には周知であり、当技術分野で十分に報告されている。特に好ましくは、オキサジン色素は、ATTO655、ATTO680、EVOblue10、EVOblue30、EVOblue90およびEVOblue100からなる群より選択されるオキサジンアクセプターである。非常に特に好ましくは、ATTO680を用いる。前記オキサジン色素は市販されている。
【0025】
グルコース結合性タンパク質(例えば、コンカナバリンA)についての好ましい標識度(degree of labeling;DOL)は、0.1〜4、より好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜3である。コンカナバリンAの場合、ここでの1のDOLは、コンカナバリンA四量体(MW=104,000)1モル当たり1モルの色素に対応する。高いDOLおよび比較的非極性の色素(典型的には長波長蛍光色素)を用いる場合、グルコース結合性タンパク質は、好ましくはPEGを用いて官能化される。好ましいPEG化度は、0.1〜5であり、好ましい分子量は200〜10,000、特に好ましくは800〜8,000、さらにより好ましくは800〜5,000である。
【0026】
本発明の基礎となる実験の文脈では、グルコース結合性タンパク質に対するさらに良好な標識度を達成するために、非修飾型と比較して増大した水溶性を仲介するグルコース結合性タンパク質の化学的修飾を有利に用いることができることが実証された。本発明の修飾型グルコース結合性タンパク質の場合、その非修飾型と比較して、色素によるより高い標識度も達成することができる。そのような修飾型コンカナバリンAタンパク質の場合、好ましくは0.5mg/(gマトリックス)超の濃度、非常に特に好ましくは2〜60mg/(gマトリックス)の濃度を達成することができる。驚くべきことに、修飾型コンカナバリンAタンパク質の測定されたグルコース活性も、ヒドロゲル中の天然型コンカナバリンAのグルコース活性に匹敵するものであった。
【0027】
ここで、溶解したグルコース結合性タンパク質は、水溶液の場合と比較して少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、または少なくとも20倍上昇した濃度でヒドロゲル中に存在し得る。
【0028】
改善された溶解度は、グルコース結合性タンパク質を色素で標識する場合に特に重要である。なぜなら、色素で標識されたグルコース結合性タンパク質(例えば、上述のオキサジン色素のうち1種類で修飾されたコンカナバリンA)は、水溶液中でさらに低下した溶解度を有するからである。標識度が高くなる程、水溶液中での溶解度が低くなる。しかしながら、これは正確には、本発明のデバイス中のセンサー構成要素としてのグルコース結合性タンパク質に対して必要とされる、より高い標識度である。
【0029】
「グルコース結合性タンパク質のリガンド」との用語は、グルコース結合性タンパク質との特異的結合に関与することが可能な分子を意味する。該分子は基本的にグルコースと同じ結合部位と相互作用し、それにより、結合した分子は、グルコースによってグルコース結合性タンパク質上の結合部位から置換され得る。したがって、リガンドとして好適な分子は、構造的にグルコースと関連している。グルコース結合性タンパク質のリガンドは、好ましくは、オリゴ糖、グリコシル化高分子(例えば、グリコシル化タンパク質もしくはペプチド)、またはグリコシル化ナノ粒子である。グルコース結合性タンパク質のリガンドとして用いることができる上述の分子は当技術分野で公知であり、当業者が容易に調製することができる。特に好ましくは、グルコース結合性タンパク質のリガンドとして、デキストランを用いる。
【0030】
センサーでのグルコース結合性タンパク質のリガンドは、好ましくは、ローダミン色素とカップリングさせる。特に好ましくは、ATTO590、ATTO610、ROX、TMR、ローダミンG6、Alexa Fluorローダミン色素またはDy590、非常に特に好ましくはATTO590を用いることができる。
【0031】
グルコース結合性タンパク質のリガンド(例えば、デキストラン)についての好ましい標識度(DOL)は、0.00003〜0.017(mol色素)/(molサブユニット)、特に好ましくは0.0005〜0.007(mol色素)/(molサブユニット)、非常に特に好ましくは0.001〜0.0016(mol色素)/(molサブユニット)である。リガンドの標識度はまた、グルコース活性に対して影響する。過剰に低い標識度は、過剰に高い標識度と同様に、低いグルコース活性をもたらす。
【0032】
本発明の使用の好ましい実施形態では、グルコース結合性タンパク質はコンカナバリンAである。同様に、化学的修飾(好ましくはPEG化、アセチル化、ポリオキサゾリニル化またはスクシニル化)を通して、コンカナバリンAは、非修飾型コンカナバリンAと比較して、上昇した水溶性を示す。好ましい実施形態では、グルコース結合性タンパク質をオキサジン色素に連結させ、グルコース結合性タンパク質のリガンドをローダミン色素に連結させる。非常に特に好ましくは、コンカナバリンA/デキストラン系をセンサーデバイスで用い、この場合、デキストランをローダミンドナー色素に連結させ、コンカナバリンAをオキサジンアクセプター色素に連結させる。好ましいコンカナバリンA/デキストラン系では、構成要素は、好ましくは、1:1〜1:40の質量比(デキストラン/Con A)で存在し、特に好ましくは1:10に近い質量比で存在する。
【0033】
本発明の文脈では、オキサジン色素とローダミン色素との組み合わせが、色素残基同士のヘテロ二量体的相互作用を引き起こし、これが、グルコース活性を高めることが確認された。つまり、オキサジンアクセプター色素およびローダミンドナー色素の使用を通じて、水溶液中で好ましくは既に、2.1倍のグルコース活性を達成することができる。本発明の文脈で用いられるヒドロゲル中では、グルコース活性の2.6倍の増大さえももたらすことができた。
【0034】
グルコース結合性タンパク質と相互作用可能なポリマーの使用を通じて、ヒドロゲル中のより高濃度のグルコース結合性タンパク質およびリガンドが達成できる。これによって、特に所定のグルコース濃度でのin vivo用途においてセンサーの測定感度が増大するが、測定精度も増大する。
【0035】
本発明の文脈では、有利なことに、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックスおよび第1のマトリックス内に相互貫入ネットワークを形成する第2のヒドロゲルマトリックスからなるヒドロゲルの使用により、グルコース活性の効率的な測定を可能にするセンサー構成要素(すなわち、グルコース結合性タンパク質およびグルコース結合性タンパク質の競合的リガンド)のための環境をつくり出すことが可能であることが実証された。蛍光を用いるグルコース測定のための多数のアプローチは、溶液中では有効であるが、センサー構成要素がヒドロゲルマトリックス中に包埋されている場合には、センサー構成要素の可動性が制限されるので、それらの活性は失われる(Rounds 2007, J. Fluoresc. 17: 57-63;US 2007/0105176 A1)。しかしながら、驚くべきことに、特にBirchら(Birch 2001、上掲)の計算も考慮すると、本発明の場合、水溶液に対して最大で2.6倍増大した活性を検出することができた。好適なヒドロゲルマトリックスの選択により、水溶液中のその溶解度の限界をはるかに超えるグルコース結合性タンパク質の富化を達成することができた。コンカナバリンAの場合、例えば、自由溶液中で達成できる濃度と比較して、10倍を超えて増大した濃度を達成することができた。通常は、自由溶液中でのレセプター構成要素の溶解度は、リガンドの添加によってさらに悪い影響を受ける。なぜなら、レセプター/競合因子複合体は、そのサイズおよび多くの場合は多価性によっても、より低い溶解度を示すからである。例えば、質量比1:10での溶液中でのコンカナバリンA/デキストラン複合体は、0.5mg/(g溶液)のコンカナバリンA濃度を超えるとすぐに沈殿し始めるが、同じ質量比を用いた好適なヒドロゲル中では、50mg/(gマトリックス)を超えるコンカナバリンA濃度を調製できる。したがって、使用可能な濃度範囲は、100倍大きくすることができる。これは、アナライト濃度が固定され、希釈または濃縮によって調整することができない用途に対して、特に重要である。正確には、そのような困難性は、体液中のグルコースレベルの測定などのin vivo用途で生じる。in vivoの状況では、アナライトであるグルコースの濃度を特定のアッセイ条件に調整することができず、むしろそのままの状態で取得しなければならない。
【0036】
別の溶解度についての問題は、特に、生物学的センサーのin vivo用途に関して生じる。より長い波長のおかげで、組織の内在性蛍光は低減するため、in vivo用途では、長波長の蛍光色素が用いられる。しかしながら、これらの蛍光色素は、その分子構造およびサイズ(コンジュゲート化システム)を原因として、典型的には無極性である。グルコース結合性タンパク質をそのような色素で単に標識した場合、溶解度はさらに低下し、それにより高い標識度はここでもまた不可能である。したがって、上述した通り、それに伴う増大した溶解度およびより高い標識度を可能にするために、例えば、ポリエチレングリコールを用いてグルコース結合性タンパク質を官能化することが必要であり得る。しかしながら、通常、ポリエチレングリコールを用いた官能化(PEG化)は、例えば、天然型コンカナバリンAのグルコース活性を著明に減少させる(0.4以下の相対的グルコース活性)。本発明の文脈では、驚くべきことに、センサーデバイスのヒドロゲル中では、この悪化は生じないことが確認された。むしろ、ポリエチレングリコールを用いて官能化されたコンカナバリンAで、天然型コンカナバリンAのものに匹敵するグルコース活性を達成できる(相対的グルコース活性=2.2または2.6)。さらに、本発明のデバイスで用いられるものなどのヒドロゲル中のコンカナバリンAに対する標識度を増大させることにより、グルコース活性をさらに高めることができる。つまり、驚くべきことに、富化されたヒドロゲルでは、ポリエチレングリコールを用いて官能化されたコンカナバリンAに対する標識度を増大させることにより、グルコース活性の倍加さえも達成することができた。溶液中での測定と比較して、本発明に従ってセンサーデバイスで使用するヒドロゲル中でのグルコース活性は、4.3倍にも増大する。したがって、本発明のデバイスでのヒドロゲルの使用によって、水溶液中で調製可能な濃度と比較して4倍増加したグルコース活性を、同等の標識度を用いて可能にする、グルコース結合性タンパク質とそのリガンドとの濃度比を用意することが可能となる。これにより、有利なことに、(例えば、in vivo用途に伴う)アナライト濃度をアッセイ条件に適合させることができない条件下での本発明のデバイスの使用も可能となる。
【0037】
本発明に従う使用の文脈では、センサーは好ましくはグルコース含有量を測定するために使用することができる。
【0038】
それによって、サンプルを試験することができる。本発明の文脈では、「サンプル」との用語は、おそらく、または実際にグルコースを含有する組成物、好ましくは水性組成物を意味するものと理解されるべきである。サンプルは、好ましくは生物学的サンプルである。非常に特に好ましくは、サンプルは体液、特に組織液(間質液)、血液、血漿、血清、リンパ液、唾液、涙液、汗または尿である。特に好ましくは、サンプルは組織液、血液、血清または血漿である。
【0039】
サンプルが生物学的材料(例えば、体液)であるならば、それは好ましくは、おそらくまたは実際にグルコース代謝障害を有する被験体から取得することができる。ここで好ましくは、グルコース代謝障害は糖尿病またはメタボリック症候群によって引き起こされるものである。
【0040】
つまり、センサーは、グルコース代謝の疾患または障害のex vivo診断のための本発明の使用の文脈で用いることもできる。特に、センサーは、グルコース代謝障害、それと関連して糖尿病またはメタボリック症候群のような疾患の診断のために、あるいはグルコース代謝障害を有する患者における治療的処置の必要性を決定するために用いることができる。
【0041】
上記の治療的処置は、糖尿病またはメタボリック症候群の治療のために用いられるものを含む。薬物(例えば、インスリン)の投与に加えて、これはまた、決定されたグルコース代謝障害に基づいて、それに関する決定を行なうことができる他の治療的処置の実施を含む。これらは治療的介入(例えば、胃バイパス手術)、または生活習慣の変化(例えば、特殊な食餌の実施)などを含む。センサーはさらなるデバイス(例えば、薬物の送達を制御するデバイス)と組み合わせることができる。ここで、インスリンの送達を制御するデバイスが好ましい。次に、インスリンの送達を、センサーによって決定された必要性に基づいて制御することができる。
【0042】
ex vivo用途のためには、本発明の使用のためのセンサーを、例えば、マイクロタイタープレートに導入して、そこに繋ぎ止めることができる。次に、アッセイのためのサンプルを該マイクロタイタープレートのウェルにアプライし、続いて読み取りデバイスを用いてアッセイすることができる。そのようなアプローチは、多数のサンプルの同時アッセイを可能にし、したがってまた、特に臨床診断実務では、経済的である。
【0043】
あるいは、in vivo用途のためのセンサーは、身体内に導入することができる。ここで、グルコースレベルの測定(これは当然、診断の基礎でもある)は、デバイスが、グルコースを含有する体液と接触することを必要とすることに留意すべきであり、この場合、該体液中のグルコース濃度は、測定対象のグルコースレベルの代表である。好適な体液は、本明細書中の別の箇所に列挙されている。特に好ましくは、体液は組織液である。
【0044】
センサーは、好ましくは、デバイスにより生成されるシグナルの光学的測定を可能にする身体内の箇所に導入される。生成されたシグナルが効率よく透過できる、デバイスと体表面との間の組織厚が小さい箇所、または透明な組織を有する箇所のいずれかが好適である。特に好ましくは、デバイスは、皮膚の下に(皮下)、または眼内に(例えば、結膜下に)配置される。デバイスの移植のための適切な方法は、当技術分野で公知である。
【0045】
あるいは、本発明のデバイスにより生成されるシグナルはまた、好適な伝達媒体を用いて、身体外に伝達することもできる。この目的で、好ましくは、可撓性ケーブル(例えば、ガラスファイバーケーブル)などのシグナル伝達材料を用いることができる。しかしながら、シグナルの伝達はまた、無線で(例えば、赤外線シグナル、電波シグナルまたは無線シグナルとして)行なうこともできる。言うまでもないが、この場合、本発明のデバイスにより生成されるシグナルは、まず、検出器(同様にデバイス中に取り付けられているかまたは少なくとも空間的に近接していなければならない)により読み取られ、電磁的シグナル(例えば、無線シグナル)に変換されなければならない。この電磁的シグナルは、次に、身体外に配置された受信器により受け取られ、評価されることができる。
【0046】
センサー中のヒドロゲルの本発明に従った使用を通して、血糖レベルの効率的なex vivoおよびin vivo診断が可能となり、したがって、グルコース代謝障害に関連する疾患の早期の認識、またその管理、ならびに治療的処置の選択が可能となる。
【0047】
本発明を以下の実施例により説明する。しかしながら、実施例は、保護範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0048】
グルコースを測定するためのセンサーの作製
ヒドロゲル粒子(富化マトリックス)の作製
1gのアルギン酸ナトリウムを、撹拌しながら100gの水に溶解させる。66.2gのCaCl2・2H2Oを、5Lビーカー中の4931.3gの水に溶解させる。
【0049】
アルギン酸塩溶液を、ポンプを介して二重ノズル(dual nozzle)に通す。同時に、圧縮空気をノズルの第2注入口に連結し、それによりアルギン酸塩溶液を微小液滴へと噴霧化する。液滴は気流によって塩化カルシウム溶液が入ったバッチに運ばれ、バッチ中でゲル化し、底に沈む。次に、ゲル化したビーズを回収する。
【0050】
富化マトリックス中のセンサーの作製:
ロード(loading)のために、アルギン酸塩ビーズを、色素標識コンカナバリンA溶液および色素標識デキストラン溶液中で順々にインキュベートする。ロードされたビーズを、続いて遠心沈殿し、上清溶液をデカントにより除去する。ロードされたビーズを、任意により、次に、第2のポリマー(例えば、PVAまたはPEGベース)の溶液中で一晩インキュベートし、任意により遠心分離により単離する。続いてビーズを、光化学的に架橋可能なポリマーの水溶液中で混合する。アルギン酸塩ビーズからセンサー構成要素が浸出するのを防ぐために、この混合物を次にUV光を用いて架橋させる。
【0051】
これに関する量は、測定対象のアナライトの濃度に依存し、標識度は蛍光シグナルの所望の強度に応じて選択される。光化学的に架橋可能なポリマーとしては、例えば、アクリルアミド基で修飾されたポリビニルアルコールであるNelfilconポリマーを用いることができる。光化学的架橋のために、0.1%のIrgacure 2959も添加することができる。出来上がった溶液を好適な型の中に分注し、UV光を用いて硬化させる。
【0052】
非富化マトリックス中のセンサーの作製:
色素標識コンカナバリンA溶液および色素標識デキストラン溶液を、水性プレポリマー混合物に順々に加え、3時間撹拌する。これに関する量は、測定対象のアナライトの濃度に依存し、標識度は蛍光シグナルの所望の強度に応じて選択される。光化学的に架橋可能なポリマーとしては、例えば、アクリルアミド基で修飾されたポリビニルアルコールであるNelfilconポリマーを用いることができる。光化学的架橋のために、0.1%のIrgacure 2959も添加することができる。出来上がった溶液を好適な型の中に分注し、UV光を用いて硬化させる。
【実施例2】
【0053】
センサーのためのグルコース活性の測定
センサー中のグルコース活性の測定:
センサーの蛍光スペクトルを、様々なグルコース濃度で測定する。グルコース含有量の増加に伴うドナーの蛍光強度の変化が、グルコースセンサーの品質の尺度として機能する。in vivoグルコースセンサーの場合、50〜500mg/dLのグルコース濃度を測定しなければならないため、グルコース活性は、以下のように算出される:
GA=(強度500mg/dL−強度50mg/dL)/強度50mg/dL
よりよい比較のために、すべての応答値を、溶液中の同じシステムの応答に対して標準化する。相対的グルコース活性の測定のために、センサー(マトリックス中)のグルコース活性を、溶液中のグルコース活性によって除算する。
【0054】
Rel GA=GA(マトリックス)/GA(溶液)
溶液中のグルコース活性の測定:
Con A溶液およびデキストラン溶液をバッファー溶液で希釈し、数時間撹拌する。溶液の蛍光スペクトルを、様々なグルコース濃度で測定する。グルコース含有量の増加に伴うドナーの蛍光強度の変化が、システムの品質の尺度として機能する。in vivoグルコースセンサーの場合、50〜500mg/dLのグルコース濃度を測定しなければならないため、グルコース活性は、以下のように算出される:
GA=(強度500mg/dL−強度50mg/dL)/強度50mg/dL
【実施例3】
【0055】
マトリックスの影響の測定
本発明によれば、グルコース結合性タンパク質およびリガンドが、グルコース結合性タンパク質との特定の相互作用を示すヒドロゲルマトリックス中に組み込まれる。この目的で、第一に、グルコース結合性タンパク質とヒドロゲルマトリックスとの相互作用が、グルコース結合性タンパク質と水溶液との相互作用よりも大きくなるように、ヒドロゲルマトリックスを選択する(センサー構成要素の富化)。しかしながら、一方で、グルコース結合性タンパク質とアナライト(グルコース)との相互作用は、グルコース結合性タンパク質とヒドロゲルマトリックスとの相互作用によって影響されないか、または有意には影響されてはならない。
【0056】
ヒドロゲルマトリックスの好適な選択により、グルコース結合性タンパク質とヒドロゲルマトリックスとの相互作用を介して、水溶液中でのグルコース結合性タンパク質の溶解度限界をはるかに超えたマトリックス中でのグルコース結合性タンパク質の富化が達成される。Con Aの場合、例えば、自由溶液での濃度と比較して、最大で10倍高い濃度を達成することができる。溶解度の問題は、リガンド(例えば、デキストラン)の添加後にさらに極度になる。なぜなら、グルコース結合性タンパク質-リガンド複合体は、そのサイズおよび多くの場合にはまた多価性を理由として、より低い溶解度を示すからである。質量比1:10で、溶液中のCon A-デキストラン複合体は、Con A濃度が0.5mg/gを超えると既に沈殿し始める一方、同じ質量比で、好適なヒドロゲルマトリックス中では50mg/gを超えるCon A濃度を調製することができる。ヒドロゲルマトリックスを通して、グルコース結合性タンパク質(例えば、Con A)の使用可能な濃度範囲は、100倍に増大させることができる。
【0057】
in vivo用途ではアナライト濃度範囲は固定され、例えば、希釈または濃縮によって調整することができないので、グルコース結合性タンパク質およびリガンドの濃度は、アナライトのin vivoでの濃度範囲に適合させなければならない。しかしながら、多くの場合、溶解度限界を超えたグルコース結合性タンパク質濃度および/またはリガンド濃度が、したがって必要であるという困難性がある。
【0058】
例えば、Con A-デキストラン系では、溶液中では質量比(dex:Con A)1:10で0.5mg/gのCon A濃度しか実現できない。そうでなければCon A-デキストラン複合体が沈殿し始めるからである。ここで、相対的グルコース活性(rel GA)の測定のために、この濃度で達成されるグルコース活性(GA)を1に設定する。予想される通り、非富化マトリックスでは、センサー構成要素の低い可動性のために、グルコース活性は半分まで低下する(rel GA=0.52)。富化マトリックスでは、同じ濃度を用いて、溶液中とほとんど同じ応答が得られる(rel GA=0.83)。しかしながら、顕著に高いCon A濃度もまた、富化マトリックス中で調製することができる。10mg/gのCon A濃度で、2.6倍増大したグルコース活性が、富化ヒドロゲルマトリックス中で得られる(表1を参照されたい)。
【表1】
【実施例4】
【0059】
レセプター濃度の影響の測定
富化マトリックスでは、グルコース結合性タンパク質の出発濃度およびリガンドの出発濃度に対するグルコース活性の依存性が明らかに示される。濃度上昇に伴い、グルコース活性の上昇も得られる。非常に高いレセプター濃度では、グルコース活性は再び低下する。in vivoアッセイのための最適なCon A濃度は、8〜20mg Con A/gマトリックスに位置する(表2を参照されたい)。
【表2】
【実施例5】
【0060】
レセプター標識度の影響の測定
より長い波長での組織の内在性蛍光の低下のために、in vivo用途では、長波長蛍光色素を用いなければならない。これらの蛍光色素は、大きなコンジュゲート系を理由として、典型的にはまったく無極性である。グルコース結合性タンパク質をそのような色素で標識する場合、その溶解度は減少し、それにより、沈殿のために多くの場合高い標識度は不可能である。グルコース結合性タンパク質の溶解度を増大させるために、例えば、ポリエチレングリコールを用いて、これを官能化することが有利である。それにより、グルコース結合性タンパク質の溶解度が増大し、その結果として、より高い標識度の合成が可能である。
【0061】
しかしながら、溶液中のPEG化Con Aは、天然型Con Aのグルコース活性の半分未満しかもたらさない(rel GA=0.4)。驚くべきことに、ヒドロゲルマトリックス中では、この悪化は生じない。PEG-Con Aを用いて、天然型Con Aのものに匹敵するグルコース活性が得られる(rel GA=2.2対2.6)(表3を参照されたい)。
【表3】
【0062】
PEG化を通じて、まず、長波長蛍光色素を用いて高標識度のCon Aを用意することが可能になり、これは溶液中で長期間安定であり、沈殿しない。驚くべきことに、PEG化によるグルコース活性の悪化は、溶液中と比較して富化マトリックス中では観察されない。したがって、マトリックスの正の効果を通してのみ、アッセイにおいて、高濃度で高い標識度を有するPEG-Con Aを用いることが可能である。
【0063】
驚くべきことに、Con Aに対する標識度を増大させることにより、グルコース活性をさらに増大させることができる。富化ヒドロゲルマトリックス中では、DOL=2.5のCon Aを用いて、グルコース活性の倍加が達成される(rel GA=4.3対2.6)。溶液中での測定に対する直接的比較では、つまり、マトリックス中のグルコース活性は、濃度およびDOLの複合効果を通して、4.3倍までも増大する(表4を参照されたい)。
【表4】
【実施例6】
【0064】
蛍光色素の影響の測定
グルコース結合性タンパク質およびリガンドにそれぞれ結合している蛍光色素の構造もまた、グルコース活性に対する影響を有する。ローダミンとオキサジン色素との組み合わせが特に好適であることが実証されている。Con A-デキストラン系の場合、ローダミンドナー(例えば、ATTO590-もしくはATTO610-デキストランまたはROX-デキストラン)およびオキサジンアクセプター(例えば、ATTO655-もしくはATTO680-Con A、またはEvoblue30-Con A)が、特に好ましい。それにより、慣用されているTMR-Con A/FITC-デキストラン系(キサンテン-ローダミンの組み合わせ)とは対照的に、溶液中で2.1倍のグルコース活性および富化マトリックス中では2.6倍さえも得られる。ローダミン-オキサジン色素ペアを用いると、色素間のヘテロ二量体相互作用が生じ、これがグルコース活性を増強する(表5および6を参照されたい)。
【表5】
【表6】
【実施例7】
【0065】
ヒドロゲルマトリックスの性質の影響の測定
グルコース活性はまた、ヒドロゲルマトリックスの性質にも依存する。ヒドロゲルマトリックスは、1種類のポリマーからなるか、または数種類のポリマーの混合物からなることができる。アルギネートからつくられたヒドロゲルマトリックスまたはアルギネートとポリビニルアルコールヒドロゲルとの混合物は、有利であることが実証されている。Con Aおよびデキストランとのその相互作用を通して、アルギネートヒドロゲルは、高濃度でのセンサー構成要素の富化を可能にする。
【0066】
第2のヒドロゲルのプレポリマー(例えば、PVA)は、アルギネートビーズに浸透し、その架橋後、アルギネートとの相互貫入ネットワークを形成する。該相互貫入ネットワークのメッシュ幅は、グルコース結合性タンパク質分子およびリガンド分子の可動性に影響し、したがってまたグルコース活性にも影響する。メッシュ幅は、ポリマーの性質、分子量および固体含有量ならびに連結数を決定する架橋基の含有量によって影響を受ける。
【0067】
より低い架橋基の含有量は、より高いグルコース活性をもたらす。架橋基を半減させると、活性は1.5倍にさえも増大し得る。したがって、溶液中の系と比較して、Con Aに対する標識度の増加を伴わずに、グルコース活性の4.2倍の増大を達成することもできる(表7を参照されたい)。
【表7】
【0068】
ネットワークの固体含有量もまた、グルコース活性に対する影響を有する。固体含有量が高い程、グルコース活性は低くなる(表8を参照されたい)。
【表8】

本発明は、以下を提供する。
溶解したグルコース結合性タンパク質を富化するための、少なくとも1種の水溶性ポリマーからなるポリマーベースのヒドロゲルのセンサーにおける使用であって、該少なくとも1種のポリマーがグルコース結合性タンパク質と相互作用可能なものであり、該グルコース結合性タンパク質がリガンドとの複合体で存在する、上記使用。
グルコース結合性タンパク質のリガンドが、オリゴ糖、グリコシル化高分子またはグリコシル化ナノ粒子である、上記1に記載の使用。
溶解したグルコース結合性タンパク質が、水溶液と比較して少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍または少なくとも20倍上昇した濃度で存在する、上記1または2に記載の使用。
少なくとも1種のポリマーが、アルギネート、セファロース、ヒアルロン酸、キトサンおよびカラギーナンからなる群より選択される、上記1〜3のいずれかに記載の使用。
ポリマーベースのヒドロゲルが、アルギネートからつくられた第1のヒドロゲルマトリックス、および該第1のヒドロゲルマトリックス内で相互貫入(interpenetrating)ネットワークを形成する第2のヒドロゲルマトリックスを含む、上記1〜4のいずれかに記載の使用。
グルコース結合性タンパク質が、レクチン、基質としてのグルコースに結合する酵素、グルコースを特異的に認識する抗体、およびグルコースを特異的に認識するアプタマーからなる群より選択される、上記1〜5のいずれかに記載の使用。
グルコース結合性タンパク質がコンカナバリンAである、上記1〜6のいずれかに記載の使用。
コンカナバリンA濃度が0.5mg/(gポリマー)超である、上記7に記載の使用。
コンカナバリンA濃度が2〜60mg/(gポリマー)である、上記8に記載の使用。
10 コンカナバリンAが、化学的修飾により、非修飾型コンカナバリンAと比較して上昇した水溶性を示す、上記7〜9のいずれかに記載の使用。
11 修飾が、PEG化、アセチル化、スクシニル化およびポリオキサゾリニル化からなる群より選択される、上記10に記載の使用。
12 グルコース結合性タンパク質がオキサジン色素に連結され、グルコース結合性タンパク質のリガンドがローダミン色素に連結されている、上記2〜11のいずれかに記載の使用。
13 サンプル中のグルコース含有量を測定するためにセンサーを使用する、上記1〜12のいずれかに記載の使用。
14 グルコース代謝障害の診断のためにセンサーを使用する、上記1〜12のいずれかに記載の使用。
15 グルコース代謝障害を有する患者での治療的処置に対する必要性の決定のためにセンサーを使用する、上記1〜12のいずれかに記載の使用。