(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施の形態1)
図1から
図28を参照して、実施の形態1における工具経路生成方法、工作機械の制御装置および工具経路生成装置について説明する。本実施の形態の工作機械としては、主軸が水平方向に延びている横形マシニングセンタを例示して説明する。本実施の形態においては、ワークに溝部を形成する溝加工を例に取り上げて説明する。ワークの加工を行う場合には、所望の形状に加工するために最適の種類や最適の大きさの工具を用いることが好ましい。使用者は、最適な工具を指定工具として指定することができる。本実施の形態においては、使用者が指定する指定工具に代えて、指定工具よりも小型の代用工具を用いて溝加工を行う。
【0020】
図1は、本実施の形態における数値制御式の工作機械の概略図である。
図1に示される工作機械10は、工具として代用工具22が取り付けられている。本実施の形態における工作機械10は、代用工具22とワーク1とを相対移動させる移動装置を備える。工作機械10は、工場等の床面に設置されるベッド12を備える。ベッド12の上面には、Z軸ガイドレール28が固定されている。本実施の形態におけるZ軸は、水平方向である。Z軸ガイドレール28は、Z軸方向(
図1において左右方向)に延びるように配置されている。
【0021】
Z軸ガイドレール28の上面には、テーブル14が配置されている。テーブル14は、Z軸ガイドレール28に対して摺動可能に配置されている。テーブル14は、Z軸に沿って移動する。テーブル14の上面には、B軸方向にワーク1を回転させるための数値制御式のロータリテーブル42が配置されている。ロータリテーブル42の上面には、ワーク用の保持部材40を介してワーク1が固定される。
【0022】
ベッド12の上面には、X軸ガイドレール36が固定されている。本実施の形態におけるX軸は、Z軸に直交し、更に水平方向(
図1の紙面に垂直方向)に延びる。X軸ガイドレール36は、X軸に沿って延びるように形成されている。X軸ガイドレール36には、コラム16が摺動可能に配置されている。コラム16は、X軸に沿って移動する。
【0023】
コラム16において、ワーク1に対向する前面には、Y軸ガイドレール34が固定されている。本実施の形態におけるY軸は、X軸およびZ軸に直交する方向に延びる。Y軸ガイドレール34は、Y軸に沿って延びている。Y軸ガイドレール34上には、主軸ヘッド18が配置されている。主軸ヘッド18は、Y軸ガイドレール34に摺動可能に形成されている。主軸ヘッド18は、Y軸に沿って移動する。主軸ヘッド18は、主軸20を回転自在に支持するように形成されている。
【0024】
本実施の形態の移動装置は、ワーク1に対して代用工具22をZ軸方向に相対移動させるZ軸移動装置を含む。本実施の形態においては、ベッド12の内部において、テーブル14の下側にはZ軸送りねじ24が配置されている。Z軸送りねじ24は、Z軸方向に延びている。テーブル14の下面には、ナット26が固定されている。ナット26は、Z軸送りねじ24に螺合する。Z軸送りねじ24の一方の端部にはZ軸サーボモータ25が連結されている。Z軸サーボモータ25を駆動して、Z軸送りねじ24を回転させることにより、ナット26がZ軸方向に移動する。テーブル14は、ナット26の移動と共に、Z軸ガイドレール28に沿って移動する。この結果、ワーク1がZ軸方向に移動する。
【0025】
本実施の形態の工作機械10は、ワーク1に対して代用工具22をX軸方向に相対移動させるX軸移動装置を備える。X軸移動装置は、Z軸移動装置と同様に、ベッド12の内部において、コラム16の下側に配置されているX軸送りねじを含む。X軸送りねじは、X軸方向に延びるように形成されている。コラム16の下面にはX軸送りねじに螺合するナット37が固定されている。X軸送りねじの一端にはX軸サーボモータ38が連結されている。X軸サーボモータ38を駆動し、X軸送りねじを回転させることにより、ナット37がX軸方向に移動する。コラム16は、ナット37の移動とともに、X軸ガイドレール36に沿って移動する。この結果、代用工具22がX軸方向に移動する。
【0026】
本実施の形態の工作機械10は、ワーク1に対して代用工具22をY軸方向に相対移動させるY軸移動装置を備える。コラム16の内部にはY軸送りねじ32が配置されている。Y軸送りねじ32は、Y軸方向に延びるように形成されている。主軸ヘッド18の背面には、Y軸送りねじ32に螺合するナット30が固定されている。Y軸送りねじ32の上端にはY軸サーボモータ31が連結されている。Y軸サーボモータ31を駆動し、Y軸送りねじ32を回転させることにより、ナット30がY軸方向に移動する。主軸ヘッド18は、ナット30の移動と共に、Y軸ガイドレール34に沿って移動する。この結果、代用工具22がY軸方向に移動する。
【0027】
本実施の形態の工作機械10は、ワーク1に対して代用工具22をB軸方向に相対移動させるB軸移動装置を備える。ロータリテーブル42は、ワーク1を回転させるためのB軸サーボモータ43を含む。B軸サーボモータ43が駆動することにより、ワーク1がB軸方向に回転する。
【0028】
主軸20の先端には代用工具22が配置されている。本実施の形態においては、代用工具22としてエンドミルが装着されている。主軸20には、代用工具22を回転させるためのモータ23が接続されている。モータ23が駆動することにより、代用工具22は、主軸20の中心軸を回転軸として自転する。
【0029】
本実施の形態における工作機械10は、直線送り軸(X軸、Y軸、Z軸)と回転送り軸(B軸)を有し、代用工具22を回転させながら、コラム16、主軸ヘッド18、テーブル14を各々X軸、Y軸、Z軸方向に動作させることにより、テーブル14に固定されたワーク1を所望形状に切削加工することができる。更に、ロータリテーブル42を駆動することにより、ワーク1をB軸周りに回転させることができる。本実施の形態における工作機械10は、B軸を有する4軸の工作機械として機能する。
【0030】
図2に、本実施の形態におけるワーク1の概略平面図を示す。本実施の形態においては円柱状のワーク1の周方向の表面に溝部66を形成する。溝部66は、ワーク1の表面に螺旋状に延びる。このような溝部66を形成する溝加工を行うことにより、例えば円筒カム等を製造することができる。
【0031】
図1および
図2を参照して、ワーク1に溝部66を形成する場合には、ワーク1の中心軸1aがY軸と平行になる様に、ワーク1をロータリテーブル42に固定する。また、中心軸1aがロータリテーブル42の回転軸と一致するようにワーク1を固定する。ワーク1の加工においては、X軸方向およびY軸方向の直線移動に加えてB軸方向にワーク1を回転させる。
【0032】
本実施の形態における溝加工方法では、溝部66の溝幅よりも小さな直径を有する代用工具22を用いて切削加工を行う。本実施の形態における溝部66は、断面形状がほぼ四角形であり、一方の側面66aおよび他方の側面66bを有する。
【0033】
本実施の形態における溝部66は、深さおよび溝幅が一定になるように形成される。このような溝部66を形成する場合には、切削の時の代用工具22の深さ方向の相対位置(Z軸の位置)を変化させずに、ワーク1の表面に沿って、X軸の位置、Y軸の位置およびB軸の位置を変化させる制御を行う。
【0034】
本実施の形態の溝加工方法は、代用工具22を溝部66の形状に沿って往復移動させる往復移動工程を含む。往復移動工程の往路では、溝部66の一方の側面66aを加工する。矢印95に示すように、代用工具22を溝部66の延びる方向に相対移動させることにより溝部66の一方の側面66aを加工する。本実施の形態の工作機械10においては、主軸20をY軸方向に移動する。ワーク1は、矢印92に示すように代用工具22に対してY軸方向に相対的に移動する。更に、矢印91に示すように中心軸1aの周りにワーク1を回転させることにより、ワーク1と代用工具22との相対移動を行う。代用工具22が、予め定められた溝部66の端部まで到達したときには、代用工具22をX軸方向とY軸方向に移動して復路の位置に配置する。この後に、相対移動する向きを変えて復路の加工を行う。
【0035】
往復移動工程の復路では、溝部66の他方の側面66bを加工する。代用工具22を溝部66の延びる方向に相対移動させることにより溝部66を形成する。本実施の形態においては、矢印94に示すように、代用工具22に対してワーク1を相対的に移動させながら、矢印93に示すようにワーク1を回転させることにより、ワーク1と代用工具22との相対移動を行う。
【0036】
ところで、溝部66の溝幅よりも小さな直径を有する代用工具22にて溝部66の側面66a,66bの加工を1回行った状態では、所望の形状の溝部66を形成することができずに、溝部66の側面66a,66bにおいて深さ方向のいずれかの部分に削り残しが生じる。ここで、溝部66の溝幅よりも小さな直径を有する代用工具22にて溝部66の側面を加工した場合の削り残しについて説明する。
【0037】
図3に、指定工具を用いて加工を行う時のワーク1の概略平面図を示す。指定工具81は、溝部66の溝幅と同一の直径を有する。本実施の形態における指定工具81は、溝部66を形成するために最適な回転工具である。指定工具81を用いる場合には、矢印95に示すように、溝部66の延びる方向に沿って1回の相対移動を行うことにより、溝部66を形成することができる。本実施の形態の工作機械10においては、主軸20をY軸方向に移動させ、ワーク1をB軸周りに回転移動させる。指定工具81に対してワーク1を矢印92に示すようにY軸方向に相対的に移動させながら、矢印91に示すようにワーク1を中心軸1aの周りに回転させることにより、溝部66を形成することができる。指定工具81を用いる場合には、1回の加工にて一方の側面66aおよび他方の側面66bを形成することができる。
【0038】
図4に、指定工具81を用いたときの指定工具81の中心軸81aの軌跡を説明する概略図を示す。
図4に示す例では、指定工具81の中心軸81aが、ワーク1の半径方向と平行になるように指定工具81を配置する。すなわち、中心軸81aの延長上にワーク1の中心軸1aが配置される。
【0039】
指定工具81は、矢印98に示すように中心軸81aの周りに自転している。指定工具81は、一方の端部がワーク1の内部に挿入される。展開
図71は、ワーク1の周方向の表面を、矢印96に示すように展開した図である。ワーク1の周方向の表面において、中心軸81aが通る軌跡71aが示されている。また、指定工具81は、先端における中心軸81a上の点、すなわち工具先端点を有する。展開
図72は、工具先端点を通るワーク1の円周方向の面を矢印97に示すように展開した図である。展開
図72には、工具先端点の軌跡72aが示されている。
【0040】
ワーク1の表面における工具中心軸81a上の点の軌跡71aと、工具先端点の軌跡72aとを比較すると、軌跡の形状が互いに異なることが分かる。指定工具81に対してワーク1が回転する時の回転半径が互いに異なるために、それぞれの点の軌跡が異なる。このために、ワーク1に対する指定工具81の相対的な進行方向が溝部66の深さ方向で異なる。
【0041】
図5に、ワーク1に対して指定工具81を移動させたときに、中心軸81aが移動する向きを説明する概略図を示す。矢印101は、指定工具81の深さ方向において所定の点における仮想進行方向を示している。仮想進行方向は、ワーク1を停止させて工具が移動すると仮定したときの工具の仮想的な進行方向である。中心軸81aの延びる方向において、仮想進行方向が変化することが分かる。すなわち、溝部66の深さ方向において、仮想進行方向が変化することが分かる。
【0042】
矢印102は、仮想進行方向を示す矢印101の方向に垂直な方向を示している。矢印102と指定工具81の表面との交点が接触箇所81bになる。接触箇所81bは、溝部66の側面66a,66bを形成する部分である。更に、後述するように、接触箇所81bは、ワークを加工するときに最終的なワークの加工面を生成する部分に相等する。本実施の形態において、接触箇所81bの線は、指定工具81の中心軸81aとは互いに平行にならないという特性を有する。なお、
図5に示す例においては、接触箇所81bの線が曲線状であるが、接触箇所が直線状になる場合もある。
【0043】
指定工具81よりも小さな工具径を有する代用工具22を使用する場合には、代用工具22の中心軸22aが指定工具81の中心軸81aと平行になるような傾きで配置することができる。即ち、代用工具22は、中心軸22aが指定工具81の中心軸81aとほぼ平行になるように配置することができる。また代用工具22の表面が、指定工具81を用いた場合の指定工具81の表面の位置に接触するように配置することができる。この時に、代用工具22の中心軸22aは、指定工具81の中心軸81aからずれた位置になる。ここで、中心軸22aの位置をどのように選んでも、1回の加工では代用工具22の表面が接触箇所81bの全てを通過することができない。このために、代用工具22を配置して切削加工を行うと、溝部66の深さ方向において一部の領域では削り残しが生じる。代用工具22を用いて、1回の加工で溝部66の側面66aまたは側面66bを形成しようとしても、所望の側面の形状を得ることができない特性を有する。
【0044】
そこで、本実施の形態における溝加工方法では、溝部66の一つの側面を形成するために、ワーク1に対する代用工具22の相対位置を変更して複数回の加工を行う。
【0045】
図6に、本実施の形態における溝加工方法を説明する概略断面図を示す。本実施の形態における溝加工方法は、矢印99に示す溝部66の溝幅よりも小さな直径を有する代用工具22を用いる。すなわち、指定工具81の代わりに代用工具22を用いる。
図6は、溝部66の一方の側面66aの加工を例示している。
【0046】
本実施の形態の溝加工方法では、代用工具22の中心軸22aが、溝部66の深さ方向と平行になるように代用工具22の傾きを設定する。すなわち、代用工具22を配置するための円84の中心軸が、代用工具22の回転軸と平行になる様に代用工具22の傾きを設定している。
【0047】
本実施の形態の溝加工方法では、溝部66の一方の側面66aに対して、少しずつ代用工具22の位置を変更しながら、複数回の加工を行っている。すなわち、代用工具22の経路を少しずつ変更して一方の側面66aを形成している。
図6に示す例においては、1回目の側面66aの加工において、位置85aに代用工具22を配置する。そして、矢印103に示すように、溝部66の延びる方向に沿って代用工具22を相対的に移動させている。2回目の側面66aの加工においては、位置85bに代用工具22を配置して、溝部66の延びる方向に沿って代用工具22を相対的に移動させる。さらに、3回目の側面66aの加工においては、位置85cに代用工具22を配置して、溝部66の延びる方向に沿って代用工具22を相対的に移動させている。それぞれの位置85a,85b,85cは、溝部66の溝幅を直径とする円84に内接するように設定されている。すなわち、指定工具81を使用するときの指定工具81の表面の位置に、代用工具22の表面が接するように配置される。
【0048】
復路の加工においても、往路の加工と同様に、溝部66の他方の側面66bを形成するために、代用工具22の位置を変えて複数回の加工を行っている。本実施の形態では往路および復路において、代用工具22の位置を変えて3回の加工を行っている。一つの側面を形成するための加工の回数は、任意の回数を選択することができる。加工の回数を多くすることにより、後述するようにスキャロップ高さを小さくすることができる。すなわち、溝部の加工精度を向上させることができる。
【0049】
図7に、1回目の加工における代用工具22の往路の位置と復路の位置とを説明する概略断面図を示す。矢印100は、代用工具22の自転する方向を示しており、往路および復路で同一の回転方向が採用されている。1回目の往路の加工においては、位置85aに代用工具22を配置する。代用工具22を、矢印103に示すように溝部66の延びる形状に沿って移動させることにより、一方の側面66aの加工を行う。1回目の復路の加工においては、位置86aに代用工具22を配置する。代用工具22を、矢印104に示すように、溝部66の延びる形状に沿って移動させることにより、他方の側面66bの加工を行う。
【0050】
図8に、2回目の加工における代用工具22の往路の位置と復路の位置とを説明する概略断面図を示す。2回目の加工では、往路において位置85bに代用工具22を配置して、矢印103に示す方向に移動させることにより、一方の側面66aを加工する。復路においては、位置86bに代用工具22を配置して、矢印104に示す方向に移動させることにより、他方の側面66bを加工する。
【0051】
図9に、3回目の加工における代用工具22の往路の位置と復路の位置とを説明する概略断面図を示す。3回目の加工においても、1回目の加工および2回目の加工と同様に、往路において位置85cに代用工具22を配置して、一方の側面66aの加工を行なっている。復路において位置86cに代用工具22を配置して、他方の側面66bの加工を行なっている。
【0052】
本実施の形態における溝加工方法では、往路における代用工具22の位置85a,85b,85cと、復路における代用工具22の位置86a,86b,86cとが互いに対称な位置になる。たとえば、1回目の加工において、往路の位置85aと、復路の位置86aとは、円84の中心点84aに対して対称な位置になる。すなわち、位置85aの工具先端点と、位置86aの工具先端点とは、円84の中心点84aに対して互いに対称な位置に設定している。
【0053】
図10に、1回目の加工の往路において一方の側面66aの加工を行なっているときの概略断面図を示す。
図11に、1回目の加工の復路において、他方の側面66bの加工を行なっているときの概略断面図を示す。それぞれの図においては、使用者の所望の形状の加工面67が示されている。複数回の加工を行なうことにより、溝部66の側面66a,66bが加工面67に一致するように加工を行う。
【0054】
1回目の加工の往路においては、一方の側面66aの上部を、加工面67とほぼ同一になるように切削することができる。ところが、一方の側面66aの中央部および下部においては、加工面67までの加工を行なうことができずに削り残りが生じる。1回目の加工の復路においては、他方の側面66bの下部を加工面67まで切削することができる。ところが、他方の側面66bの中央部および上部においては、加工面67まで切削することができずに削り残りが生じる。
【0055】
図12に、2回目の往路の加工を行っているときの概略断面図を示す。
図13に、2回目の復路の加工を行っているときの概略断面図を示す。2回目の加工の往路においては、一方の側面66aの中央部を加工面67に近づけるように加工することができる。また、2回目の復路においては、他方の側面66bの中央部を加工面67に近づけるように加工することができる。
【0056】
図14に、3回目の往路の加工を行っているときの概略断面図を示す。
図15に、3回目の復路の加工を行っているときの概略断面図を示す。3回目の往路および復路においては、一方の側面66aおよび他方の側面66bの削り残りを切削することができる。この結果、溝部66を所望の形状の加工面67に一致させることができる。
【0057】
このように、本実施の形態における溝加工方法は、溝部66の延びる方向に沿った工具経路にて、代用工具22を相対的に移動させてワーク1を加工する加工工程を含む。加工工程は、ワーク1に形成する溝部66の溝幅を直径にした円84に内接するように代用工具22を配置する。そして、ワーク1に対する代用工具22の相対位置を変更して複数回の加工を行っている。この方法を採用することにより、回転工具の直径よりも溝幅の大きな溝部を短時間で形成することができる。また、溝幅と同一の直径を有する回転工具を用いなくても、高い精度で溝部の加工を行うことができる。また、生成する溝部の溝幅が変化しても工具の交換等は必要なく、溝幅よりも小さな直径を有する回転工具にて溝部を形成することができる。
【0058】
比較例として、溝幅の大きな溝部を形成する場合には、回転工具を遊星回転運動させる専用の工具ヘッド(偏心ホルダ)を使用することができる。しかしながら、遊星回転運動を行う専用の工具ヘッドは、剛性が小さいために切り込み量を大きくすることができない。このために工具ヘッドの送り速度を小さく設定する必要がある。このため、遊星回転運動を行う工具ヘッドを用いる場合には、加工時間が長くなるという問題がある。これに対して、本実施の形態の溝加工方法では、ワークの切削量を大きくすることができて短時間で溝加工を行うことができる。
【0059】
また、回転工具を遊星回転運動させる場合には、回転工具がワークに接触していない領域が多く存在するために時間がかかる。これに対して、本実施の形態における溝加工方法では、溝部66を形成するために必要な領域に回転工具の経路を設定することができて、短時間で溝加工を行うことができる。
【0060】
たとえば、
図6に示すように、溝部66の溝幅を直径にした円84に内接する範囲は、溝部66の側面の加工を行う範囲と溝部66の側面の加工を行わない範囲とを有する。溝部の側面に接近する範囲では、溝部66の側面の加工を行うが、これ以外の矢印105に示す範囲では、溝部66の側面の加工に寄与しない。このために、矢印105に示す範囲を避けて代用工具22を配置することにより、加工時間を短くすることができる。本実施の形態においては、後述するように、溝部66を形成するために必要な代用工具22を配置する範囲を演算している。このために、短時間で溝加工を行うことができる。
【0061】
次に、本実施の形態における溝加工方法を行う工作機械の制御装置および工具経路生成装置について説明する。
【0062】
図16に、本実施の形態における工作機械10と、工作機械10に入力する入力数値データ54を生成する装置とを備える加工システムの概略図を示す。本実施の形態においては、CAD(Computer Aided Design)装置51にてワーク1の形状を設計する。CAD装置51は、ワーク1の形状データ52をCAM(Computer Aided Manufacturing)装置53に供給する。形状データ52にはワーク1に形成する溝部66の形状のデータが含まれている。ここで、使用者は、CAM装置53に対して指定工具81を入力することができる。本実施の形態においては、溝部66の溝幅と同一の直径を有する指定工具81を入力している。または、指定工具81は、CAM装置53により自動的に指定されても構わない。
【0063】
CAM装置53においては、形状データ52に基づいて、工作機械10の制御装置55に入力するための入力情報としての入力数値データ54が生成される。本実施の形態における入力数値データ54は、溝部66の溝幅と同一の直径を有する指定工具81を用いて溝部を形成するときの数値データである。
【0064】
本実施の形態における数値制御式の工作機械10は、制御装置55を備える。本実施の形態における制御装置55は、演算処理装置を含む。演算処理装置は、演算処理等を行うマイクロプロセッサ(CPU)、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、およびその他の周辺回路を有する。
【0065】
制御装置55は、入力数値データ54を用いて、出力数値データ62を生成する。出力数値データ62は、指定工具81よりも小さな工具径を有する代用工具22を用いたときの機械に対する指令が含まれている。出力数値データ62には、溝部66を形成するために複数回の加工を行う工具経路の情報が含まれている。本実施の形態においては、出力数値データ62には、ワーク1に対して代用工具22を相対移動させる数値データが含まれている。
【0066】
本実施の形態における制御装置55は、入力情報読取部として機能する数値データ読取部56と、経路設定部57とを含む。数値データ読取部56は、入力数値データ54を読込む機能を有する。経路設定部57は、読み込んだ入力数値データ54に基づいて出力数値データ62を生成する。本実施の形態における経路設定部57は、仮想進行方向設定部58と、範囲設定部59と、位置設定部60とを含む。出力数値データ62は、数値制御部63に入力される。数値制御部63は、出力数値データ62に基づいて各軸サーボモータ64を駆動する。各軸サーボモータ64には、X軸サーボモータ38、Y軸サーボモータ31、Z軸サーボモータ25およびB軸サーボモータ43が含まれる。
【0067】
図17に、本実施の形態の工作機械の制御装置における制御のフローチャートを示す。
図16および
図17を参照して、制御装置55の数値データ読取部56には、CAM装置53により生成された入力数値データ54が入力される。本実施の形態における入力数値データ54は、指定工具81を用いたときの工具先端点の経路を示すデータを含む。入力数値データ54は、例えば、XYZ軸の座標値とABC軸の回転角度とによって構成されている。制御装置55に入力する入力情報としては、上記の数値データに限られず、指定工具の任意の部分の経路を示す入力情報を採用することができる。
【0068】
制御装置55においては、はじめにステップ121において、数値データ読取部56により、入力数値データ54を読み込む。ステップ122においては座標値列を出力する。ここでの座標値列は、XYZ軸の座標値およびABC軸の回転角度によって構成されている。
【0069】
次に、経路設定部57において、指定工具81よりも小さな直径を有する代用工具22を用いて加工を行なうための工具経路を設定する。ステップ123において、経路設定部57の仮想進行方向設定部58は、工作機械10のデータを読み込む。工作機械10のデータには、工作機械10の軸構成および座標系などが含まれる。次に、ステップ124において、仮想進行方向設定部58は仮想進行方向を算出する。
【0070】
図18に、仮想進行方向を説明する概略断面図を示す。仮想進行方向は、ワーク1が停止していたと仮定したときのワーク1に対する指定工具81の進行方向である。仮想進行方向としては、指定工具81のそれぞれの高さにおける複数の点が進行する方向を採用することができる。
図18に示す例では、指定工具81の位置を変更せずに、ワーク1を矢印91に示す向きに回転している。すなわち、指定工具81の中心軸81aは停止した状態であり、ワーク1を回転させている。このときに、ワーク1が停止していると仮定すると、指定工具81の工具先端点81cの仮想進行方向は、矢印101に示す方向になる。仮想進行方向は、例えば、XYZ軸における単位長さのベクトルにて設定することができる。
【0071】
図19に、本実施の形態における溝加工を行っているときの概略平面図を示す。指定工具81の所定の高さの点における仮想進行方向を矢印101にて示している。このように、仮想進行方向は、円84の直径と同一の直径を有する指定工具81が、溝部66の延びる方向に沿って進行する時の方向を示している。
【0072】
図16および
図17を参照して、ステップ124までは、指定工具81を用いた場合を想定して仮想進行方向を求めている。次に、指定工具81の仮想進行方向に基づいて、代用工具22の工具経路を設定する。制御装置55の範囲設定部59において、代用工具22を配置する範囲を設定する。
【0073】
範囲設定部59は、ステップ125において加工設定データを読み込む。ここでの加工設定データには、溝部66の溝幅、溝部66の深さおよび代用工具22の工具径等が含まれる。ステップ126においては、加工設定データと仮想進行方向とを用いて、代用工具22を配置する範囲を設定する。
【0074】
本実施の形態においては、仮想進行方向に基づいて最終的に加工面を生成する部分を演算する。最終的に加工面を生成する部分に基づいて、代用工具を配置する範囲を設定する。ここで、本実施の形態における最終的に加工面を生成する部分について説明する。
【0075】
図20に、本実施の形態における指定工具の概略斜視図を示す。
図20は、指定工具81の実際に加工を行う一部分を示している。たとえば、
図20に示す指定工具81の上端は、溝部の上端に相等する。前述の通り、本実施の形態においては、指定工具81の中心軸81aの高さ方向の位置に依存して、仮想進行方向が徐々に変化する。
【0076】
中心軸81a上における点の仮想進行方向に対して垂直な方向と指定工具81の表面の交点とが、ワーク1の加工を行ったときに最終的にワークに接触している点になる。この点を接続すると、指定工具81の最終的に加工面を生成する部分が得られる。本実施の形態における最終的に加工面を生成する部分は線132にて示されている。
【0077】
ところで、
図5にて示したように、指定工具81の軸方向において、仮想進行方向が変化するために、本実施の形態における最終的に加工面を生成する線132は、指定工具81の中心軸81aとはほぼ平行にならずに中心軸81aに対して捩れている。更に、線132は、曲線状になっている。
【0078】
指定工具81が矢印101に示す仮想進行方向に移動する時には、指定工具81の表面の一部の領域にてワークの切削を行うことができる。実際にワークを加工する加工領域131は、線132よりも仮想進行方向の向かう側に設定される。指定工具81は、ワークの加工面を形成するための加工領域131を有する。加工領域131においてワーク1を切削して溝部66を形成することができる。または、加工領域131の端部が最終的に加工面を生成する部分になる。本実施の形態においては、最終的に加工面を生成する部分は線状になっているが、この形態に限られず、最終的に加工面を生成する部分は、面状や点状であっても構わない。
【0079】
最終的に加工面を生成する線132は、演算により設定することができる。矢印110,111に示すように、算出した仮想進行方向に対して垂直な線を設定する。この線と指定工具81の表面との交点である点183,184を演算する。同様に、中心軸81a上の複数の点について、それぞれの指定工具81の表面上の点を演算することにより、最終的に加工面を生成する線132を演算することができる。
【0080】
次に、演算した最終的に加工面を生成する線132に基づいて、代用工具22を配置する範囲を設定する。
【0081】
図21に、代用工具を配置する範囲を説明する概略斜視図を示す。
図19および
図21を参照して、代用工具22は、代用工具22の表面が指定工具81を用いた場合の指定工具81の表面に接触するように配置される。指定工具81における最終的に加工面を生成する線132に対応するように、代用工具22を配置する。最終的に加工面を生成する線132の上端の点183と、下端の点184との間の領域を代用工具22を配置する範囲に設定することができる。
図19には、代用工具22を配置する範囲が矢印176にて示されている。
【0082】
図16および
図17を参照して、次に、位置設定部60で代用工具22を配置する範囲内に、代用工具22を配置する位置の設定を行う。位置設定部60は、ステップ127において、加工設定データを読み込む。ここで読み込む加工設定データとしては、スキャロップ高さおよび代用工具の工具径などが含まれる。
【0083】
図22に、本実施の形態におけるスキャロップ高さを説明する概略図を示す。本実施の形態においては、円84に内接するように、代用工具22の位置85a,85b,85cを設定している。このために、代用工具22を配置する位置の数に応じて矢印106に示すスキャロップ高さが定まる。また、スキャロップ高さは、代用工具22の直径にも依存する。例えば、代用工具22を配置する範囲の内部において、代用工具22を配置する位置の数を多くする。そして、代用工具22を配置する位置同士の間隔を小さくすることにより、スキャロップ高さを小さくすることができる。すなわち、溝部の側面を加工する回数を増加することにより、スキャロップ高さを小さくすることができる。
【0084】
図16および
図17を参照して、ステップ128においては、入力されたスキャロップ高さ等の加工設定データに基づいて、代用工具22の位置を設定することができる。本実施の形態においては、スキャロップ高さに基づいて、代用工具を配置する位置の数を計算により算出することができる。このために、スキャロップ高さの許容値を指定すると、代用工具22を配置する範囲の内部において、代用工具22の複数個の位置を設定することができる。本実施の形態においては、3回の加工を行っている。代用工具22の位置は、例えば、XYZ軸の座標値で表すことができる。または、例えば、ステップ122において出力した座標値列からの差を出力することができる。
【0085】
図23は、代用工具による1回目の加工を行うときの代用工具の概略斜視図である。
図24は、代用工具による2回目の加工を行うときの代用工具の概略斜視図である。
図25は、代用工具による3回目の加工を行うときの代用工具の概略斜視図である。
図23から
図25は、本実施の溝部の一方の側面を形成するための往路の移動を行っているときの状態を示す。
図23を参照して、代用工具22においても最終的に加工面を生成する部分が生成される。代用工具22による1回目の加工では、代用工具22の最終的に加工面を生成する線132aは、溝部の上部の領域に形成される。
図24を参照して、代用工具22による2回目の加工では、代用工具22の最終的に加工面を生成する線132bは、溝部の中央部の領域に形成される。
図25を参照して、代用工具22による3回目の加工では、代用工具22の最終的に加工面を生成する線132cは、溝部の下部の領域に形成される。
【0086】
図23から
図25に示すそれぞれの最終的に加工面を生成する線132a,132b,132cを組み合わせることにより、指定工具81にて加工を行うときの最終的に加工面を生成する線132に対応する線を形成することができる。溝部66の深さ方向全体において、所望の形状と精度よく一致した溝部を形成することができる。すなわち、指定工具81を用いて形成した溝部66とほぼ同一の溝部を形成することができる。
【0087】
図16および
図17を参照して、次に、位置設定部60は、ステップ129において、出力数値データ62を出力する。出力数値データ62は、例えば、XYZ軸の座標と、ABC軸における代用工具22とワーク1との相対的な角度により設定することができる。
【0088】
このように本実施の形態における制御装置55は、出力数値データ62を生成する。数値制御部63は、出力数値データ62に基づいて各軸サーボモータ64を駆動する。これにより、ワーク1と代用工具22との相対位置を調整することができる。
【0089】
本実施の形態における工作機械10の制御装置は、経路設定部を備え、経路設定部は、指定工具81にてワーク1を加工する時の指定工具81の加工領域131のうち最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具22の工具経路を設定している。この構成により、指定工具の代わりに代用工具を用いて加工を行うことができる。また、精度良く加工を行うことができる。
【0090】
また、経路設定部57は、入力数値データ54に基づいて指定工具81にてワーク1を加工する時の仮想進行方向を設定する仮想進行方向設定部58と、仮想進行方向を用いて最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて、代用工具を配置する範囲を設定する範囲設定部59と、代用工具22を配置する範囲の内部に代用工具22を配置する複数の位置を設定する位置設定部60とを含む。この構成を採用することにより、簡易な構成にて代用工具22の複数回の工具経路を設定することができる。
【0091】
上記のように、本実施の形態における工具経路生成方法は、代用工具22の工具経路を演算する工具経路の生成方法であって、指定工具81を用いて加工する時の指定工具81の工具経路が予め設定されている。指定工具81の工具経路に基づいて、指定工具81と異なる代用工具22にて加工する時の代用工具22の工具経路を演算する経路演算工程を含む。経路演算工程は、指定工具81にてワークを加工する時の指定工具81の加工領域のうち最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具の工具経路を設定する。この方法を採用することにより、指定工具の代わりに代用工具を用いて加工を行うことができる。また、精度良く加工を行う工具経路を生成することができる。
【0092】
更に、工具経路生成方法において、上記の経路演算工程は、指定工具81にてワーク1を加工する時の仮想進行方向を設定する工程と、仮想進行方向を用いて最終的に加工面を生成する部分を演算する工程とを含む。この後に、最終的に加工面を生成する部分に基づいて、代用工具22を配置する範囲を設定する工程と、代用工具22を配置する範囲の内部に代用工具22を配置する複数の位置を設定する工程とを含むことができる。
【0093】
本実施の形態の上記の説明においては、CAD装置が出力した形状データに基づいて、CAM装置にて指定工具を用いる場合の入力数値データを生成している。この入力数値データを用いて、工作機械の制御装置で代用工具の工具経路となる出力数値データを作成しているが、この形態に限られず、CAD装置から出力される形状データを用いて、CAM装置の内部で出力数値データを作成しても構わない。
【0094】
図26に、本実施の形態におけるCAD装置と工具経路生成装置とを備える加工システムの概略図を示す。CAD装置51にて形状データ52が生成されることは、
図16に示す加工システムと同様である。本実施の形態における工具経路生成装置75は、CAM装置の機能を有する。また、工具経路生成装置75は、形状データ52に基づいて、代用工具を用いて加工を行なう工具経路の出力数値データ62を生成する機能を有する。
【0095】
本実施の形態における工具経路生成装置75は、形状データ読取部76と、経路設定部77とを備える。本実施の形態における形状データ読取部76は、ワーク1の加工を行なった後の形状データ52を読み取る。経路設定部77は、ワーク1の形状データ52に基づいて、指定工具81よりも径の小さな代用工具22を用いて、溝部66の延びる方向に相対移動させる工具経路を設定する。
【0096】
経路設定部77は、例えば、
図16に記載の加工システムのCAM装置53、数値データ読取部56および経路設定部57の機能を有する。経路設定部77は、たとえば、形状データ52に基づいて、指定工具81の経路を示す入力数値データ54を生成する。入力数値データ54を用いて代用工具22の経路を示す出力数値データ62を生成する。このときに、指定工具81の加工領域131のうち最終的に加工面を生成する線132を演算し、最終的に加工面を生成する線132に基づいて代用工具22の工具経路を設定することができる。
【0097】
出力数値データ62は、工作機械10に入力される。工作機械10の制御装置55は、出力数値データ62を用いて各軸サーボモータ64を駆動する。制御装置55は、ワーク1に対して代用工具22を相対的に移動させることができる。
【0098】
本実施の形態の工具経路生成装置においても、指定工具の代わりに代用工具を用いた工具
経路を生成することができる。
【0099】
本実施の形態の代用工具22とワーク1とを相対移動させる移動装置は、X軸およびYにおいては、ワーク1に対して代用工具22を移動させており、Z軸およびB軸においては、代用工具22に対してワーク1を移動するように形成されているが、この形態に限られず、移動装置は、ワークおよび回転工具のうち少なくとも一方がそれぞれの軸に関して移動可能に形成されていれば構わない。
【0100】
本実施の形態においては、指定工具における仮想進行方向を算出し、仮想進行方向に基づいて代用工具を配置する範囲および代用工具を配置する位置を設定しているが、この形態に限られず、仮想進行方向を用いずに代用工具を配置する位置を設定しても構わない。たとえば、溝部の延びる方向に基づいて指定工具の最終的に加工面を生成する部分を推定し、代用工具の位置を設定しても構わない。
【0101】
本実施の形態においては、溝部の深さおよび溝部の溝幅が一定になる円筒カムの溝加工を例示して説明したが、この形態に限られず、任意の加工に本発明を適用することができる。
【0102】
図27に、端面カムの概略斜視図を示す。端面カム136は端面136aを有する。端面136aには、カムフォロア135が接触する。カムフォロア135は円柱状に形成されており、回転可能に支持されている。カムフォロア135は、周方向の表面が端面136aに接触する。端面カム136と、カムフォロア135とが中心軸137を中心に回転移動することにより、カムフォロア135の上下位置を変化させることができる。
【0103】
端面カム136の端面136aの加工においては、カムフォロア135の直径と同じ工具径を有する回転工具を用いることが好ましい。カムフォロア135が回転する時の回転軸と、回転工具の回転軸とが一致するようにして加工を行うことが好ましい。
【0104】
例えば、カムフォロア135の直径と同じ径を有するエンドミルを用いて、中心軸137の周りにワークを回転させながら切削加工を行うことにより、端面136aを形成することができる。この方法により、所望の形状の端面136aを形成することができる。
【0105】
一方で、端面136aの加工に用いる回転工具として、カムフォロア135の直径と異なる工具径を有する回転工具を用いた場合には、端面136aが滑らかな表面にならない場合がある。この結果、端面カム136を駆動したときに、カムフォロア135の動きが滑らかにならない場合がある。
【0106】
ところが、カムフォロア135の直径と同じ工具径を有する回転工具を用意することが難しい場合がある。このために、例えば、所望の工具径よりも小さな工具径を有するエンドミルを用いる場合には、エンドミルを自転させながら公転させる偏心ホルダを用いていた。しかしながら、偏心ホルダを準備する必要があったり、加工時間が長くなったりしていた。
【0107】
このような端面カム136の端面136aを製造する場合においても、本実施の溝加工と同様の方法および装置を適用することができる。すなわち、溝部の側面と同様に端面カム136の端面136aを形成することができる。例えば、中心軸137の周りに端面カム136を回転させながら、カムフォロア135の直径よりもよりも小さな直径の回転工具を用いて加工を行うことができる。
【0108】
この場合には、カムフォロア135の直径と同じ工具径を有する回転工具を指定工具に指定することができる。また、代用工具は、カムフォロア135の直径よりも小さな工具径を有する回転工具を指定することができる。指定工具の最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具の工具経路を演算する。この工具経路を用いて、代用工具にて加工を行うことにより、滑らかな端面136aを形成することができる。本実施の形態における方法および装置を採用することにより、端面136aを所望の形状に加工することができる。この結果、カムフォロア135の動きを滑らかにすることができる。
【0109】
図28に、様々なワークの加工を行うときの工具の最終的に加工面を生成する部分の概念図を示す。
図28は、断面形状が円形の工具181の概略断面図を例示している。工具181は、工具中心点181aを中心にして回転している。また、工具181の表面がワークを加工する。工具181の表面のうち、最終的に加工面を生成する部分は、次のような方法で求めることができる。
【0110】
工具181の表面上の任意の点pを定める。点pでの工具181の表面の法線方向をN(p)とする。所定の時刻t1での点pにおける仮想進行方向をV(p,t1)とする。時刻t1よりも遅い時刻t2での点pにおける仮想進行方向をV(p,t2)とする。この場合に、時刻t1から時刻t2までの期間中に行う加工において、工具181の最終的に加工面を生成する部分は次の式により定められる。次の式では、N(p)とV(p,t1)との内積およびN(p)とV(p,t2)との内積を用いている。
【0111】
N(p)・V(p,t1)≧0 …(1)
N(p)・V(p,t2)≦0 …(2)
【0112】
ここで、記号「・」は内積を示す。上記の式(1)および式(2)の両方を満たす領域が、時刻t1から時刻t2までの期間における最終的に加工面を生成する部分に該当する。
図28においては、上記の式(1)を満たす領域が矢印173で示されている。上記の式(2)を満たす領域が矢印174で示されている。矢印173に示す領域と矢印174に示す領域とが重複する矢印175にて示す領域が、最終的に加工面を生成する部分に該当する。たとえば、工具181の全ての表面上に複数の点pを発生させて、上記の式(1)および式(2)を満たす点pの存在する部分が最終的に加工面を生成する部分になる。
【0113】
式(1)および式(2)に基づく最終的に加工面を生成する部分の推定においては、工具の断面形状が円形に限られず、任意の形状の工具に適用することができる。また、ワークの加工形状についても溝に限られず、任意の形状を採用することができる。
【0114】
本実施の形態における数値制御式の工作機械は、1つの回転送り軸と複数の直線送り軸とを有するが、この形態に限られず、任意の加工を行う数値制御式の工作機械等に本発明を適用することができる。また、本実施の形態における指定工具および代用工具は、フラットエンドミルである。すなわち、本実施の形態における代用工具は、指定工具と同種類の工具であるが、この形態に限られず、代用工具は、指定工具と異なる種類の工具であっても構わない。また、回転工具以外の工具を用いる場合には、工具の位置の設定において、主軸の回転位相に対する指令を追加しても構わない。
【0115】
本実施の形態における加工では、回転工具を回転させながらワークに対して相対的に進行させる送り速度をほぼ一定にしているが、この形態に限られず、ワークの切削量に応じて送り速度を変化させても構わない。この制御により、加工時間を短縮したり工具の寿命を延ばしたりすることができる。
【0116】
(実施の形態2)
図29から
図37を参照して、実施の形態2における工具経路生成方法、工作機械の制御装置および工具経路生成装置について説明する。本実施の形態の加工では、ワークの表面に窪み部を生成する。本実施の形態においても、予め指定工具が指定されており、実際の加工では指定工具の代わりに代用工具を用いる。
【0117】
図29に、本実施の形態における代用工具151にて加工を行うときのワークの概略断面図を示す。
図30に、本実施の形態における代用工具151にて加工を行うときのワーク1の概略平面図を示す。
図29には、代用工具151に加えて指定工具140も記載されている。
図29および
図30を参照して、本実施の形態については、ワーク1の表面に、断面形状が円弧状の窪み部141を形成する。本実施の形態におけるワーク1の表面は、平面状である。また、ワーク1を切削する工具として、先端が半球状のボールエンドミルを用いる。代用工具151により、複数回の加工を行って窪み部141を形成する。
【0118】
図31に、指定工具140を用いてワークに窪み部を形成する時の概略断面図を示す。
図32に、指定工具140を用いてワークに窪み部を形成する時の概略平面図を示す。本実施の形態においても指定工具140は、所望の窪み部141を形成するために最適な工具である。指定工具140は、ボールエンドミルである。指定工具140は、先端部分が所望の窪み部141の形状に一致している。このために、矢印171に示すように、指定工具140を回転させながらワーク1に近接させる向きに移動させ、指定工具140をワーク1に押し付けることにより、所望の形状の窪み部141を形成することができる。すなわち、指定工具140の先端の半球状の部分の一部分にてワーク1を切削することにより、窪み部141を形成することができる。
【0119】
図29および
図30を参照して、本実施の形態においては、指定工具140の代わりに代用工具151を用いる。代用工具151は、指定工具140よりも工具径の小さなボールエンドミルである。すなわち、代用工具151は、指定工具140と同種類の工具であり、指定工具140よりも小型の工具である。
【0120】
本実施の形態においても、ワーク1の加工面が所望の形状になるように、代用工具151の工具経路を設定する。実施の形態1と同様に、指定工具140の最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具151の工具経路を設定する。本実施の形態においても、指定工具140の最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて、代用工具151を配置する範囲を設定する。更に、この範囲内に代用工具151を配置する位置を設定する。
【0121】
本実施の形態においても、実施の形態1に示す工作機械を用いて加工することができる。
図1を参照して、本実施の形態においては、代用工具22の代わりに代用工具151を装着する。ワーク1をロータリテーブル42に固定する。ワーク1に対する代用工具151のX軸方向、Y軸方向およびB軸周りの位置を設定した後には、X軸方向、Y軸方向およびB軸周りに移動を行わずに固定する。この状態にて、Z軸方向についてワーク1に対する代用工具151の相対移動を行う。本実施の形態においては、Z軸方向にワーク1を移動させることにより、ワーク1に対して代用工具151を近づける向きに移動させることができる。
【0122】
本実施の形態においても、実施の形態1の
図16に示す加工システムおよび
図17に示す制御を用いて加工することができる。
図16および
図17を参照して、CAD装置51およびCAM装置53により、指定工具140を用いたときの入力数値データ54を生成する。
【0123】
次に、数値データ読取部56は、入力数値データ54を読み込む。また、数値データ読取部56は、座標値列を出力する。次に、仮想進行方向設定部58は、工作機械データを読み込む。また、仮想進行方向設定部58は、仮想進行方向の算出を行う。本実施の形態においては、加工期間中にはX軸方向、Y軸方向およびB軸周りの移動がないために、仮想進行方向は、Z軸方向において、ワーク1に対して代用工具151が相対的に移動する方向になる。
図31を参照して、指定工具140の仮想進行方向は、矢印171に示す方向になる。
【0124】
次に、範囲設定部59において、加工設定データの読み込みを行う。本実施の形態における加工設定データは、窪み部141を平面視したときの直径や窪み部141の深さ、代用工具151の工具径等を含む。次に、代用工具151を配置する範囲を演算する。本実施の形態においては、指定工具140の先端の窪み部141を形成する領域が、代用工具151を配置する範囲になる。
図31を参照して、ボールエンドミルは、先端の半球状の部分と円柱状の部分との境界143を有する。本実施の形態においては、工具先端の半球を形成する球の中心を工具中心140aと称する。仮想進行方向は、矢印177に示すように、指定工具140の中心軸の延びる方向と平行になる。
【0125】
工具中心140aにおいて、窪み部141の形状に基づいて仮想進行方向に対する角度θmを算出する。算出した角度θmの範囲内の指定工具140の表面は、矢印172に示されている。この矢印172に示す領域は、指定工具140の最終的に加工面を生成する部分になる。本実施の形態においては、指定工具140の最終的に加工面を生成する部分は面状である。また、本実施の形態においては、指定工具140の最終的に加工面を生成する部分が、代用工具151を配置する範囲になる。
【0126】
なお、本実施の形態においては、仮想進行方向を算出し、仮想進行方向に基づいて最終的に加工面を生成する部分を演算しているが、この形態に限られず、仮想進行方向を用いずに、最終的に加工面を生成する部分を演算しても構わない。
【0127】
図16および
図17を参照して、次に、位置設定部60は、スキャロップ高さ等の加工設定データの読み込みを行う。更に、位置設定部60は、代用工具151を配置する位置を設定する。
【0128】
図33に、本実施の形態における代用工具151を配置する位置を設定する制御のフローチャートを示す。ステップ161においては、代用工具151を配置する範囲を読み込む。
図34に、指定工具140の概略斜視図を示す。指定工具140の先端の一部分が、最終的に加工面を生成する部分であり、代用工具151を配置する範囲142に相等する。
【0129】
図33を参照して、次に、ステップ162においては、最終的に加工面を生成する部分に、複数の点pを設定する。この点pは、後に代用工具151を接触させる点になる。
【0130】
図35に、指定工具140を先端から見たときの概略図を示す。すなわち、
図35は、指定工具140の下面図を示している。指定工具140の中央部分に代用工具151を配置する範囲142が設定されている。この範囲142の内部に、複数の点pを設定する。点pは、予め定められた複数の個数を設定することができる。点pの設定においては、例えば、不規則な位置に点pを発生させる。この後に、シミュレーション装置を用いて、点p同士の間隔ができるだけ均一になる様に移動させることができる。例えば、任意の一つの点pに対して、他の点又は範囲142の境界の間に斥力を働かせる。距離が近いほど大きな力が働くように設定し、点pを移動させることができる。このようなシミュレーションを所定の時間継続することにより、ほぼ平衡状態になる。全ての点pを、ほぼ均等に配置することができる。
【0131】
次に、設定された点pに代用工具151を接触させたときにスキャロップ高さが許容値以下になるか否かを判別する。本実施の形態においては、窪み部141のスキャロップ高さが、予め定められた許容値以下になるように、代用工具151を配置する位置の数を設定する。
【0132】
図36に、本実施の形態におけるスキャロップ高さを説明する概略断面図を示す。本実施の形態においても、代用工具151を配置する位置の数に依存して、窪み部141の表面に凹凸が生じる。矢印106に示す高さがスキャロップ高さである。本実施の形態においても、代用工具151を配置する位置の個数を多くすることにより、スキャロップ高さを小さくすることができる。本実施の形態においては、加工後のスキャロップ高さを判別するために、指定工具140の工具中心140a周りの角度を用いて判別する。
【0133】
図37に、本実施の形態における指定工具140と代用工具151と説明する概略図を示す。点pは、ステップ162においてランダムに設定された代用工具151が接触する点である。代用工具151を配置する範囲142において、点pとは異なる任意の点xを設定する。点xは、複数個を設定する。ここで、複数の点pのうち、一つの点xに最も近い点pを選定することができる。この場合に、工具中心140aと点pを結ぶ線と、工具中心140aと点xとを結ぶ線とのなす角度θxを算出することができる。複数の点xについて、点xと点pとの距離の最大値が小さいほどスキャロップ高さは小さくなる。このために、点xを多数発生させて、全ての点xに関する角度θxが予め定められた許容角度以下であれば、スキャロップ高さを許容値以下にすることができる。
【0134】
図33を参照して、ステップ163において、角度判定値を算出する。角度判定値は、判定の基準となるスキャロップ高さの許容値H、指定工具の工具径R、および代用工具の工具径rに基づいて計算により算出することができる。
【0135】
次に、ステップ164においては、代用工具を配置する範囲142の内部に点xを発生させる。本実施の形態においては、予め定められた個数の点xを発生させる。点xの位置の設定については、点pの位置の設定と同様の方法を採用することができる。
【0136】
次に、ステップ165においては、点xと点xに最も近い点pとに関する角度θxを算出する。この計算は、全ての点xについて行なう。算出した複数の角度θxのうち、最大の角度θxmaxを選定する。
【0137】
次に、ステップ166においては、算出した最大の角度θxmaxが、角度判定値以下であるか否かを判別する。ステップ166において、算出した最大の角度θxmaxが、角度判定値よりも大きい場合には、生成されるスキャロップ高さが許容値よりも大きくなると判別することができる。この場合には、ステップ167に移行する。ステップ167においては、点pの個数を増加させる。たとえば、現在の点pの個数に対して予め定められた個数を加算する。この後に、ステップ162に戻り、新たに点pの位置を設定する。このように、窪み部におけるスキャロップ高さが許容値以下になるまで代用工具を配置する個数を増加させる制御を行う。
【0138】
ステップ166において、算出した最大の角度が、角度判定値以下であれば、スキャロップ高さが、許容値以下であると判別することができる。すなわち、所望のスキャロップ高さを達成すると判別することができる。この場合には、ステップ168に移行する。
【0139】
ステップ168においては、代用工具151の位置を設定する。代用工具151は、点pに接触するように配置される。点pは、最終的に加工面を生成する部分の表面上に設定されている。本実施の形態においては、X軸方向の位置およびY軸方向の位置と、Z軸方向の位置が設定される。このように、代用工具151を配置する位置を設定することができる。また、本実施の形態の工作機械は、代用工具151を配置する範囲内にて、スキャロップ高さが所望の高さ以下になるように、代用工具151を配置する個数を設定することができる。
【0140】
図16および
図17を参照して、次に、位置設定部60は、算出された代用工具151の位置に基づいて出力数値データ62を作成することができる。出力数値データ62には、代用工具151の工具経路が含まれている。次に、実施の形態1と同様に、数値制御部63は、出力数値データ62に基づいて各軸サーボモータ64を駆動することができる。
【0141】
本実施の形態における工具経路生成方法においても、実施の形態1における工具経路生成方法と同様に、代用工具151の工具経路を演算する経路演算工程を含み、経路演算工程は、指定工具140にてワーク1を加工する時の指定工具140の加工領域のうち最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具151の工具経路を設定することができる。
【0142】
また、本実施の形態の工具経路生成装置においても、実施の形態1の工具経路生成装置と同様に代用工具151の工具経路を形成することができる。
図26を参照して、工具経路生成装置75は、形状データ読取部76において、ワーク1の形状データを読み取る。次に、経路設定部77にて、予め指定された指定工具140と異なる代用工具151にて加工する時の代用工具151の工具経路を設定することができる。この場合に、経路設定部77は、指定工具140にてワーク1の加工する時の指定工具140の工具経路を設定し、指定工具140にて加工する時の指定工具140の加工領域のうち最終的に加工面を生成する部分を演算し、最終的に加工面を生成する部分に基づいて代用工具151の工具経路を設定することができる。
【0143】
その他の構成、作用および効果については、実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
【0144】
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、
特許請求の範囲に示される変更が含まれている。