特許第5882042号(P5882042)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882042
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】魚肉ソーセージの着色方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20160225BHJP
【FI】
   A23L1/325 E
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-272002(P2011-272002)
(22)【出願日】2011年12月13日
(65)【公開番号】特開2013-123378(P2013-123378A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石元 優子
(72)【発明者】
【氏名】横山 貴正
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 孝治
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−000009(JP,A)
【文献】 特開2011−217728(JP,A)
【文献】 特開2010−178655(JP,A)
【文献】 特開2008−072998(JP,A)
【文献】 特開昭57−198071(JP,A)
【文献】 米国特許第05232722(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/00−17/60
A23L 5/43−5/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1及び2を満たす、レトルト殺菌処理される魚肉ソーセージの着色方法。
(式1)0.02≦A≦0.2
(式2)0.0003≦B/A≦0.1
A:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の添加量(質量%)、
B:リコピンの添加量(質量%)。
【請求項2】
更に下記式3を満たす、請求項1に記載の魚肉ソーセージの着色方法;
(式3)A+10B≧0.03
【請求項3】
魚肉ソーセージがアミノ酸類及び/又は糖質を含有する、請求項1又は2に記載の魚肉ソーセージの着色方法。
【請求項4】
魚肉すり身に、下記式1及び2を満たす、クチナシ赤色素及びリコピンを添加した後にレトルト殺菌処理を行う魚肉ソーセージの製造方法。
(式1)0.02≦A≦0.2
(式2)0.0003≦B/A≦0.1
A:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の添加量(質量%)、
B:リコピンの添加量(質量%)。
【請求項5】
クチナシ赤色素及びリコピンを含有し、下記式4を満たす、魚肉ソーセージ用着色料製剤。
(式4)0.0003≦b/a≦0.1
a:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の含量(質量%)、
b:リコピンの含量(質量%)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クチナシ赤色素及びリコピンを用いた魚肉ソーセージの着色方法に関する。具体的には、例えば121℃で10〜60分間といった、レトルト殺菌処理を施しても、鮮やかな明るい赤色に魚肉ソーセージを着色可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在市販されている魚肉ソーセージに用いられている着色料の大半は、コチニール色素又は合成着色料である。これは、魚肉すり身の原料自体が灰色に近い色であること、並びに調味料や糖質を副原料として含有した魚肉すり身が、レトルト殺菌時に色調が悪化すること等に由来する。
しかし近年の天然嗜好に伴い、合成着色料は消費者に敬遠される傾向がある。コチニール色素は、食品への使用経歴が長い天然色素であり、熱や光に対して非常に安定性が高いため、魚肉ソーセージを着色する色素として最も多く使用されているが、エンジムシから抽出された動物由来の色素である点で、消費者より敬遠される場合がある。また、コチニール色素は、アントラキノン系色素の構造に由来する特徴から、微細な小骨に色素が吸着し、ピンク色の斑点が発生する場合もある。
【0003】
天然色素を用いた魚肉ソーセージの着色技術としては、ハイビスカス色素、赤キャベツ色素等のアントシアニン系の赤色天然色素と、ビートレッド、ベタニン色素等のベタシアニン系赤色天然色素を併用した技術(特許文献1)、クチナシ赤色素と還元剤を併用した技術(特許文献2)等が知られている。特許文献3には、結晶性カロテノイド色素と親油性成分を含有する飲食品において、セルロースを配合することを特徴とする結晶性カロテノイド色素の変色抑制方法が開示されており、結晶性カロテノイド色素としてリコピンを用いた魚肉ソーセージの着色例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平07−28673号公報
【特許文献2】特開2011−9号公報
【特許文献3】特開2010−178655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特に魚肉ソーセージに多用されているコチニール色素と代替可能な赤色系の天然色素を検討したが、例えば121℃で10〜60分間といった過酷な殺菌条件であるレトルト殺菌(加圧過熱殺菌)工程下では、魚肉ソーセージ中で赤味を発色させることが非常に困難であり、実用性に欠けるものであった。
例えば、特許文献1にかかる技術は、生畜肉の如く加熱処理により鮮赤色が退色して褐色化する模様(色調変化)を再現する技術であるため、本技術を魚肉ソーセージに応用するとレトルト殺菌時に茶褐色となってしまう。
また、クチナシ赤色素も、本来の色調自体がやや暗い赤紫色〜赤色を呈している上、レトルト殺菌処理を行うことにより、褐色を帯びた紫赤〜赤色となり、特許文献2に開示された技術をもってしても、十分に鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色することができなかった。
【0006】
特許文献3に開示された技術はセルロースを必須成分とするが、セルロースを使用せずにリコピンを用いた場合は、リコピン自体が油溶性であるため、魚肉ソーセージ中の油脂に溶解し、本来の赤い色調から黄〜橙の色調となってしまうといった課題を抱えていた。
更に、調味料や糖質を含有する魚肉ソーセージは、副原料として添加した調味料由来のアミノ酸類や糖質がレトルト殺菌により褐変し、着色対象となるベースの色自体が暗い色調となりやすく、単に白色のベースを赤色に着色する以上に、鮮やかな明るい色調に着色すること、及び赤色色素由来の赤味を発色させることが困難であった。
【0007】
本発明はかかる従来技術に鑑み、コチニール色素以外の天然色素を用いて、魚肉ソーセージを鮮やかな明るい赤色に着色する方法を提供することを目的とする。具体的には、レトルト殺菌処理等の過酷な殺菌条件を施した場合であっても、魚肉ソーセージを鮮やかで明るい赤色に着色可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねていたところ、クチナシ赤色素及びリコピンを特定の配合割合で併用することにより、レトルト殺菌処理工程を経た場合であっても、鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色できることを見出した。特に、副原料として調味料や糖質を含有した魚肉ソーセージであっても、鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色できることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の態様を有する魚肉ソーセージの着色方法、魚肉ソーセージの製造方法、並びに魚肉ソーセージ用着色料製剤に関する;
項1.下記式1及び2を満たす、レトルト殺菌処理される魚肉ソーセージの着色方法。
(式1)0.02≦A≦0.2
(式2)0.0003≦B/A≦0.1
A:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の添加量(質量%)、
B:リコピンの添加量(質量%)。
項2.更に下記式3を満たす、項1に記載の魚肉ソーセージの着色方法;
(式3)A+10B≧0.03
項3.アミノ酸類及び/又は糖質を含有する、項1又は2に記載の魚肉ソーセージの着色方法。
項4.魚肉すり身に、下記式1及び2を満たす、クチナシ赤色素及びリコピンを添加した後にレトルト殺菌処理を行う魚肉ソーセージの製造方法。
(式1)0.02≦A≦0.2
(式2)0.0003≦B/A≦0.1
A:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の添加量(質量%)、
B:リコピンの添加量(質量%)。
項5.クチナシ赤色素及びリコピンを含有し、下記式4を満たす、魚肉ソーセージ用着色料製剤。
(式4)0.0003≦b/a≦0.1
a:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の含量(質量%)、
b:リコピンの含量(質量%)。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る着色方法によれば、天然色素を用いた場合であっても、過酷な殺菌条件であるレトルト殺菌工程を施す魚肉ソーセージを、鮮やかで明るい赤色に着色することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で用いるクチナシ赤色素は、クチナシ(Gardenia augusta merrillまたはGardenia jasminoides Ellis)の果実を、微温時水で抽出して得られたイリドイド配糖質体のエステル加水分解物とタンパク質分解物の混合物に、β−グルコシダーゼを添加したものを分離して得られる天然の赤色色素である。簡便には、市販されているクチナシ赤色素を利用すればよく、商業上入手可能なクチナシ赤色素の製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンレッド(登録商標)」シリーズ等を利用することができる。
【0012】
コチニール色素といったアントラキノン系色素の代替を検討する場合、クチナシ赤色素は、例えばアントシアニン系色素やベタシアニジン系色素といった他の天然赤色色素よりも一般的に暗い色調を有するため、魚肉ソーセージの着色に用いられることは少なかった。しかし、本発明では、下記(式1)及び(式2)を満たすことで、アントラキノン系色素を除いた、従来の天然色素では成しえなかった鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色可能となった。
(式1):0.02≦A≦0.2
(式2):0.0003≦B/A≦0.1
A:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の添加量(質量%)
B:リコピンの添加量(質量%)
A、Bはいずれも魚肉ソーセージに対する添加量である。
なお、本発明において、「赤色」とは、マンセル表色系においてR(赤味)を帯びた色(YR(黄赤)〜R(赤)〜RP(紫赤))を指す。
【0013】
魚肉ソーセージへのクチナシ赤色素の添加量A(色価50換算)は、0.02≦A≦0.2、好ましくは0.06≦A≦0.15、更に好ましくは0.06≦A≦0.1である。
クチナシ赤色素の添加量が上記範囲よりも少ない場合、魚肉ソーセージの発色が不十分となり、添加量が多くなると色調が暗くなりすぎて好ましくない。
【0014】
本発明において色価とは、クチナシ赤色素を含有する溶液(クエン酸緩衝液pH5.0の可視部における極大吸収波長(530nm付近)における吸光度を測定し、該吸光度を10w/v%溶液の吸光度に換算した数値である。
【0015】
本発明で用いるリコピンは、カロテノイドの一種でありトマト色素に由来する成分である。リコピンは結晶分散の状態では赤い色調を呈するが、油溶性であるため、魚肉ソーセージのような油脂を含む食品に用いると、本来の赤い色調から黄〜橙色の色調となってしまう。本発明では、かかるリコピンをクチナシ赤色素と併用することにより、意外にもレトルト殺菌処理を行っても鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色できることを見出して至った発明である。
【0016】
本発明は、クチナシ赤色素及びリコピンの割合が、0.0003≦B/A≦0.1、好ましくは0.001≦B/A≦0.085、更に好ましくは0.001≦B/A≦0.07となるように両者を併用することを特徴とする。
B/Aは、リコピン添加量B(質量%)をクチナシ赤色素添加量A(色価50換算、質量%)で除した値である。B/Aが0.0003を下回るとリコピンの発色効果が得られず暗い色調となり、0.1を上回るとクチナシ赤色素の発色効果が得られなくなる。
【0017】
用いるリコピンは、市販されているリコピン含有製剤やトマト色素製剤を利用することができる。商業上入手可能なリコピン製剤として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「リコピンベース」シリーズが挙げられる。例えば、リコピン含量1%の製剤を用いる場合は、クチナシ赤色素(色価50換算)1質量部に対して、0.03〜10質量部のリコピン含有製剤やトマト色素製剤を併用すればよい。
【0018】
本発明にかかる構成をとることで、特許文献3では著しく黄味色が強く、明らかな色調変化を認めるとされていたリコピン製剤(セルロース不使用)を用いた場合であっても、後述の実施例のように、明るい赤色に着色することができる。
なお、本発明では好ましくはリコピンとして、結晶化したリコピンを含有するリコピン製剤や、セルロースを併用したリコピン製剤を使用することで、より赤い色調に魚肉ソーセージを着色することが可能である。
【0019】
本発明では、更に、魚肉ソーセージに対するクチナシ赤色素及びリコピンの添加量が以下に掲げる(式3)を満たすことが望ましい。
(式3)A+10B>0.03、好ましくは0.035≦A+10B≦0.2、更に好ましくは0.045≦A+10B≦0.15。
上記式3を満たすことにより、より鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色することができる。
【0020】
本発明の着色対象である魚肉ソーセージは、レトルト殺菌処理される魚肉ソーセージであることを特徴とする。例えば90℃前後で40分間程度の加熱処理を行うボイル殺菌では、クチナシ赤色素以外の赤色天然色素を用いても赤味を有する色調に魚肉ソーセージを着色することが可能である。レトルト殺菌(加圧加熱殺菌)処理は、常温流通可能な魚肉ソーセージを提供する上で重要な殺菌工程である一方、例えば110〜130℃で10〜60分程度といった過酷な加熱条件であるため、鮮やかな明るい色調に魚肉ソーセージを着色すること、及び赤味を発色させることが非常に困難であった。本発明では、レトルト殺菌処理を施しても、赤味を発色させ、鮮やかな明るい色調に魚肉ソーセージを着色可能である利点を有する。
【0021】
また、畜肉中に存在するヘモグロビンの発色効果を主とした畜肉ソーセージと異なり、魚肉ソーセージは魚肉すり身を主原料とするため、ベース自体が暗い色調となりやすい。かかる中、本発明の方法を用いることにより、鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色することが可能である。
【0022】
また、本発明では、糖質及び/又はアミノ酸類を0.1質量%以上、若しくは5質量%以上、更には9質量%含有する魚肉ソーセージであっても、鮮やかな明るい赤色に魚肉ソーセージを着色可能である利点も有する。
一般的に魚肉ソーセージは魚肉のすり身を基本材料として用いるが、例えば調味料や糖質を含有する魚肉ソーセージは、調味料由来のアミノ酸類や糖質がレトルト殺菌により褐変し、着色対象となる魚肉ソーセージのベースの色自体が暗い色調となりやすい。着色対象となるベースの色が褐色を帯びると赤味を発現させることが一層困難となるが、本発明では、糖質及び/又はアミノ酸類を含有する魚肉ソーセージであっても、鮮やかで明るい赤味を発現させることが可能である。
【0023】
アミノ酸類としては、アミノ酸、動植物性タンパク質又は酵母を酵素、酸分解して得られたタンパク質分解物、及び調味料に由来するアミノ酸やタンパク質分解物が挙げられる。
アミノ酸としては、アミノ基及びカルボキシル基を有する有機化合物並びにその塩が挙げられ、例えばグルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン酸ナトリウム等を例示できる。アミノ酸を含有する調味料としては、上記アミノ酸を単独ないし複数混合したもの、動植物および酵母からの抽出物またはその濃縮物(であるエキス調味料)、動植物性タンパク質および酵母を酵素や酸で加水分解したもの(であるタンパク質加水分解物)、酒、みりん、醤油、ソースなど(醸造系調味料)、およびこれらの混合物またはアミノ酸との混合物を例示できる。
本発明において糖質とは、アルデヒド基またはケトン基を持つ多価アルコールである糖、およびその誘導体をいい、例えば砂糖、水あめ、ぶどう糖や、酒類、みりんに由来する糖などが例示できる。
【0024】
魚肉ソーセージの着色は、従来公知の魚肉ソーセージの製造原料に、クチナシ赤色素及びリコピンを添加し、レトルト殺菌処理を施す以外は、既存の製造設備によって常法により製造すればよい。例えば、魚肉すり身、クチナシ赤色素、リコピン、必要に応じて糖質、アミノ酸類、食塩、有機酸及びその塩類をはじめ、魚肉ソーセージに用いられる他の成分(着色料、甘味料、酸味料、保存料、酸化防止剤、タンパク質、香料、増粘剤、安定剤等)を添加し、らい潰する。次いで、ケーシングに充填後、例えば121℃で10〜60分間レトルト殺菌処理することにより、製造可能である。なお、本発明では上記着色方法に限定されない。本発明の着色方法は、特に製造条件の管理等は必要なく、産業的にも有意な着色方法である。
【0025】
本発明でいう「鮮やかな明るい赤色に着色された」とは、色調が明るく鮮やかなピンク〜赤色に着色された状態や、明るい赤味がかった色調に着色された状態などを指す。
【0026】
次いで、本発明に係る魚肉ソーセージの製造方法は、上記(式1)及び(式2)を満たすクチナシ赤色素及びリコピンを使用し、レトルト殺菌処理を施す以外は、魚肉ソーセージを常法に従って製造することにより達成できる。
【0027】
上述のように本発明では、上記(式1)及び(式2)を満たすクチナシ赤色素及びリコピンを併用して魚肉ソーセージを着色することにより、レトルト殺菌処理を施した場合であっても、従来にない明るい色調を有し、また赤味が有意に発色された魚肉ソーセージを提供できる。更に本発明では、糖質及び/又はアミノ酸類を0.1質量%以上、また5質量%以上、更には9質量%含有しても、鮮やかな明るい赤色に着色された魚肉ソーセージを提供可能である。
【0028】
本発明はまた、下記(式4)を満たすことを特徴とする、クチナシ赤色素及びリコピンを含有する魚肉ソーセージ用着色料製剤に関する発明である。本発明の着色料製剤を用いることにより、上述のとおり、レトルト殺菌処理を施した場合であっても、鮮やかで明るい赤色の色調に魚肉ソーセージを着色することができる。
(式4)0.0003≦b/a≦0.1
a:色価を50に換算した場合のクチナシ赤色素の含量(質量%)、
b:リコピンの含量(質量%)。
a、bはいずれも着色料製剤中の含量である。
【0029】
以下、本発明の内容を実験例を用いて具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記に記載する処方の単位は特に言及しない限り、部は重量部を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品を表し、文中の「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0030】
実験例1:魚肉ソーセージの着色(1)
表2に示す天然色素を用いて魚肉ソーセージを着色した。具体的には、表1に示す原材料をカッターにて最終温度8℃まで擂り上げ、これを無通気性ケーシングに充填した。次いで、60gあたり121℃15分レトルト処理を行い、着色された魚肉ソーセージを調製した。得られた魚肉ソーセージに関し、目視による色調評価、並びにLab値測定を行った。結果を表3に示す。なお、参考例1及び2の魚肉ソーセージはレトルト処理の代わりに、ボイル殺菌を行った。具体的には、60gずつケーシングに充填したソーセージを90℃で40分加熱殺菌(ボイル殺菌)し、魚肉ソーセージを調製した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
注1)リコピンの結晶製剤「リコピンベースNO.35153*」を、リコピン含量が表1に示す量となるように使用した。本リコピン結晶製剤は、セルロース不使用である。
【0034】
【表3】
【0035】
Lab値(Hanter Lab表色系)とは、色度を示すa、b軸よりなる直交座標と、これに垂直なL軸とから構成される色立体を成す表色系であり、aが正側で増加すると赤味、負側で増加すると緑味が増し、またbが正側で増加すると黄味、負側で増大すると青味が増していることを意味する。L値は明度に対応し、L=100のときは白、L=0のときは黒となり、L値が大きくなるほど明るくなる傾向にある。
【0036】
(式1)0.02≦A≦0.2及び(式2)0.0003≦B/A≦0.1を満たす実施例1〜5の魚肉ソーセージは、いずれも鮮やかな赤色や明るい赤色に着色されていた。
一方、クチナシ赤色素に対するリコピンの添加量(B/A)が0.00025である比較例1の魚肉ソーセージはL値が51と低く、暗く濃い紫味の赤色となり、(B/A)が12である比較例2の魚肉ソーセージは、黄味が強く、鮮やかな赤色や明るい赤色に着色することができなかった。
【0037】
比較例3は、クチナシ赤色素を単独で用いた例である。本魚肉ソーセージは、赤系の色素を用いているにも関わらず、レトルト殺菌により色調が変化して黄味が強く、鮮やかな赤色に着色することができなかった。
比較例4は、クチナシ赤色素にアスコルビン酸(ビタミンC)を併用した例である(特許文献2)。比較例3及び比較例4のLab値を比較しても、色調に大きな差異はなく、ビタミンCを併用しても鮮やかで明るい赤色に魚肉ソーセージを着色することができなかった。比較例5はリコピンを単独使用した例であるが、魚肉ソーセージが橙色に着色され、鮮やかで明るい赤色に着色することができなかった。
【0038】
参考例1及び2は、レトルト処理ではなく、ボイル殺菌した魚肉ソーセージの例である。具体的には、クチナシ赤色素を単独使用(参考例1)及びクチナシ赤色素にリコピンを併用(参考例2)した魚肉ソーセージを蒸煮処理した。表2からも明らかなように、両者の色調はほぼ同一であり、ボイル殺菌ではいずれも明るく鮮やかな赤色に着色できた。
以上より、本発明の課題及び効果は、レトルト殺菌といった過酷な殺菌条件下で製造される魚肉ソーセージ特有の課題、効果であることが示された。
【0039】
実施例6〜8は、クチナシ赤色素に対するリコピンの添加量(B/A)を同一(0.00333)とし、A+10Bの値を変動させた場合である。
得られた魚肉ソーセージは、いずれも明るい赤色、鮮やかな赤色に着色されていたが、実施例6の魚肉ソーセージは実施例7及び8と比較して発色がやや薄く、(式3:A+10B)は0.035以上であることが望ましいことが判明した。
なかでも、A+10Bが0.065の実施例7の魚肉ソーセージが最も明るさと鮮やかさのバランスのとれた色調であった。
【0040】
実験例2:魚肉ソーセージの着色(2)
実験例1と同様にして魚肉ソーセージを調製した。具体的には、表1に示す原材料をカッターにて最終温度8℃まで擂り上げ、これを無通気性ケーシングに充填した。次いで、60gあたり121℃15分レトルト処理を行い、着色された魚肉ソーセージを調製した。使用した天然色素及び結果を表4に示した。
【0041】
【表4】
【0042】
注2)結晶性リコピンとセルロースを重量比1:7で配合したリコピン製剤を、リコピン含量が表1に示す量となるように使用した。
【0043】
実施例9〜11の魚肉ソーセージは、いずれも明るく鮮やかな赤色を呈していた。