(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882092
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】バイオチップ用カバー、当該バイオチップ用カバーを備えるチップ装置、当該バイオチップ用カバーを用いた液体保持方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/02 20060101AFI20160225BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
G01N35/02 B
G01N37/00 102
G01N35/02 A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-59266(P2012-59266)
(22)【出願日】2012年3月15日
(65)【公開番号】特開2013-195075(P2013-195075A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】亀井 修一
(72)【発明者】
【氏名】山野 博文
【審査官】
渡邉 勇
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−085797(JP,A)
【文献】
特開2005−249796(JP,A)
【文献】
特開2008−224431(JP,A)
【文献】
特許第3969651(JP,B2)
【文献】
特開2011−013000(JP,A)
【文献】
特開2006−337221(JP,A)
【文献】
特開2010−190823(JP,A)
【文献】
特開2009−250698(JP,A)
【文献】
特開2008−082772(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/075016(WO,A1)
【文献】
特開2010−197226(JP,A)
【文献】
特許第4962574(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00 − 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップを搭載する領域を有するプレートと、
上記プレートの上記領域に取り付けられるバイオチップと、
上記バイオチップを搭載した上記プレートに取り付けられた姿勢において当該バイオチップを覆うことができるバイオチップ用カバーであって、上記プレートに取り付けられた姿勢において当該プレートと共に上記バイオチップを収容する空間部を形成する凹部領域と、上記凹部領域内であって、上記プレートに取り付けられた姿勢で上記バイオチップに対向する位置に形成され、上記バイオチップの一主面と略同形の平面を有する凸部とを有するバイオチップ用カバーとを備え、
上記バイオチップ用カバーは上記プレートに対して着脱可能であることを特徴とするチップ装置。
【請求項2】
上記バイオチップ用カバーにおける上記凸部は、上記凹部領域の底面から略垂直に切り立つ形状であることを特徴とする請求項1記載のチップ装置。
【請求項3】
上記バイオチップ用カバーは、上記プレートに対して所定の位置に取り付けられるための位置決め手段を更に有することを特徴とする請求項1記載のチップ装置。
【請求項4】
上記位置決め手段は、上記プレートに形成された切欠き部に嵌合する嵌合凸部であることを特徴とする請求項3記載のチップ装置。
【請求項5】
上記位置決め手段は、上記プレートに形成された嵌合凸部に嵌合する切欠き部であることを特徴とする請求項3記載のチップ装置。
【請求項6】
上記バイオチップ用カバーにおける上記凹部領域は、上記プレートの長手方向に対して直行する方向と略同寸法の板部材に形成されたことを特徴とする請求項1記載のチップ装置。
【請求項7】
上記板部材は、上記プレートの長手方向に対して直行する方向の両末端に凸状の縁部を有していることを特徴とする請求項6記載のチップ装置。
【請求項8】
上記バイオチップは、上記プレートの上記領域に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1記載のチップ装置。
【請求項9】
上記プレートの上記領域は、上記プレートの一主面に形成された凹部であることを特徴とする請求項1記載のチップ装置。
【請求項10】
請求項1乃至9いずれか一項記載のチップ装置を使用し、溶液を上記プレートに搭載されたバイオチップの一主面に滴下し、
上記バイオチップ用カバーを上記プレートに取り付けることにより、上記バイオチップ用カバーにおける凸部と上記バイオチップの一主面との間に上記溶液を保持することで、上記バイオチップの一主面に溶液を接触させることを特徴とする液体保持方法。
【請求項11】
上記溶液は生体分子を含むことを特徴とする請求項10記載の液体保持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート上に載置されたバイオチップを覆うことができ、当該バイオチップ上に液体を保持することができるバイオチップ用カバー、当該バイオチップ用カバーを備えるチップ装置、当該バイオチップ用カバーを用いた得北保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオチップとは、核酸、タンパク質及び糖鎖等の生体分子を支持体上に固定し、固定化した生体分子と相互作用する物質(標的分子や化合物、生体分子)を検出できる装置である。特に、生体分子を支持体上に高密度に多数固定化することで、多数の生体分子について同時並行的に解析できるといった特徴がある。
【0003】
例えば、
図10に示すように、略平板状のプレート100における凹部領域101にバイオチップ102載置し、この状態で溶液103を滴下し、バイオチップ用カバー104により溶液を保持するタイプのものがある。なお、詳細を図示しないが、バイオチップ102は、平板状の支持体と、当該支持体における一主面上に固定した多数の生体分子とから構成され、生体分子を固定した一主面が外方に臨むように凹部領域101に載置される。
【0004】
ここで、バイオチップ用カバー104は、バイオチップ102上に滴下された溶液が蒸散することを防止するように機能する。バイオチップ用カバー104としては、例えば平板状のガラス(すなわちカバーガラス)や、バイオチップ102と対応する領域に凹部が形成された略平板状のガラスを使用する。ところがカバーガラス等の平板状のバイオチップ用カバー104を使用した場合、
図11に示すように、滴下した溶液103をバイオチップ102上に均一に保持できないといった問題がある。この場合、バイオチップ102の領域によって反応条件が異なることとなり、再現性を確保することが非常に困難となる。一方、バイオチップ102と対応する領域に凹部が形成された略平板状のガラスをバイオチップ用カバー104として使用した場合、
図12に示すように、滴下した溶液103が凹部の側壁部分に偏ってしまうといった問題がある。この場合、所期の反応が進行せず検出不良となってしまう。
【0005】
例えば、特許文献1及び2には、滴下した溶液の厚みを均一化するために、バイオチップ用カバーにおけるバイオチップと対向する面の外周部に突起部を形成するといった手法が開示されている。また、特許文献3及び4には、凹部に載置されたバイオチップを覆うようにバイオチップ用カバーをかぶせた状態で、バイオチップ用カバーとバイオチップ主面との間に所定の間隔を形成するように設計する技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された技術では、特に
図12に示したような状態を回避することができず、滴下する液体の性質や量によっては検出不良を生じてしまう虞があった。すなわち、従来のバイオチップ用カバーには、バイオチップに滴下した溶液を均一に保持するとともに検出不良を防止するような手段を併せ持つようなものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3969651号
【特許文献2】特開2009-250698号公報
【特許文献3】特開2010-197226号公報
【特許文献4】特開2010-190823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した実情に鑑み、バイオチップ上に滴下した溶液を均一に保持することができ検出不良を確実に防止することができるバイオチップ用カバー、当該バイオチップ用カバーを備えるチップ装置、当該バイオチップ用カバーを用いた液体保持方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、バイオチップ用カバーのバイオチップに対向する面を凸部とすることで、バイオチップ上に滴下した溶液をバイオチップ用カバーの側面に偏らせることなくバイオチップ上に均一に保持できることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)バイオチップを搭載したプレートに取り付けられた姿勢において当該バイオチップを覆うことができるバイオチップ用カバーであって、
上記プレートに取り付けられた姿勢において当該プレートと共に上記バイオチップを収容する空間部を形成する凹部領域と、
上記凹部領域内であって、上記プレートに取り付けられた姿勢で上記バイオチップに対向する位置に形成され、上記バイオチップの一主面と略同形の平面を有する凸部と
を有するバイオチップ用カバー。
(2)上記凸部は、上記凹部領域の底面から略垂直に切り立つ形状であることを特徴とする(1)記載のバイオチップ用カバー。
(3)上記プレートに対して所定の位置に取り付けられるための位置決め手段を更に有することを特徴とする(1)記載のバイオチップ用カバー。
(4)上記位置決め手段は、上記プレートに形成された切欠き部に嵌合する嵌合凸部であることを特徴とする(3)記載のバイオチップ用カバー。
(5)上記位置決め手段は、上記プレートに形成された嵌合凸部に嵌合する切欠き部であることを特徴とする(3)記載のバイオチップ用カバー。
(6)上記凹部領域は、上記プレートの長手方向に対して直行する方向と略同寸法の板部材に形成されたことを特徴とする(1)記載のバイオチップ用カバー。
(7)上記板部材は、上記プレートの長手方向に対して直行する方向の両末端に凸状の縁部を有していることを特徴とする(6)記載のバイオチップ用カバー。
(8)上記(1)乃至(7)いずれかに記載のバイオチップ用カバーと、
上記バイオチップ用カバーを取り付けることができ、バイオチップを搭載する領域を有するプレートと、
上記プレートの上記領域に取り付けられるバイオチップと
を有するチップ装置。
(9)上記バイオチップは、上記プレートの上記領域に対して着脱可能であることを特徴とする(8)記載のチップ装置。
(10)上記プレートの上記領域は、上記プレートの一主面に形成された凹部であることを特徴とする(8)記載のチップ装置。
(11)上記(8)乃至(10)いずれかに記載のチップ装置を使用し、溶液を上記プレートに搭載されたバイオチップの一主面に滴下し、
上記バイオチップ用カバーを上記プレートに取り付けることにより、上記バイオチップ用カバーにおける凸部と上記バイオチップの一主面との間に上記溶液を保持することで、上記バイオチップの一主面に溶液を接触させることを特徴とする液体保持方法。
(12)上記溶液は生体分子を含むことを特徴とする(11)記載の液体保持方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るバイオチップ用カバーによれば、プレートに搭載されたバイオチップ上に滴下された溶液を、当該バイオチップ上に均一に保持することができる。したがって、本発明に係るバイオチップ用カバーを使用することによって、バイオチップを用いた解析を高精度に実施することができる。
【0012】
また、本発明に係るチップ装置は、バイオチップ用カバーとバイオチップとの間に溶液を均一に保持することができる。したがって、本発明に係るチップ装置を使用することによって、バイオチップを用いた解析を高精度に実施することができる。さらに、本発明によれば、本発明に係るチップ装置を使用することで、バイオチップ用カバーにおける凸部とバイオチップの一主面との間に溶液を均一に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したバイオチップ用カバー、バイオチップ及びプレートからなるチップ装置の分解斜視図である。
【
図3】本発明を適用したプレートの要部断面図である。
【
図4】本発明を適用したバイオチップ用カバーの斜視図である。
【
図5】本発明を適用したバイオチップ用カバーの平面図である。
【
図6】本発明を適用したバイオチップ用カバーの側面図である。
【
図7】本発明を適用したバイオチップ用カバーの要部断面図である。
【
図8】バイオチップを載置したプレートにバイオチップ用カバーを取り付けた状態のチップ装置の要部断面図である。
【
図9】バイオチップを載置したプレートにバイオチップ用カバーを取り付けた状態のチップ装置の要部平面図である。
【
図10】従来のチップ装置を用いた場合における、バイオチップに溶液を滴下し、カバーをかぶせる工程を説明するためのフロー図である。
【
図11】従来のチップ装置を使用した場合における、溶液を不均一に保持する状態を模式的に説明するチップ装置の要部断面図である。
【
図12】従来のチップ装置を使用した場合における、溶液が偏って存在する状態を模式的に説明するチップ装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るバイオチップ用カバー、当該バイオチップ用カバーを備えるチップ装置、当該バイオチップ用カバーを用いた液体保持方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るチップ装置は、
図1に示すように、バイオチップ1を載置可能なプレート2と、プレート2に載置されたバイオチップ1と、バイオチップ1を載置した状態でプレート2に取り付けられるバイオチップ用カバー3とから構成されている。ここで、バイオチップ1とは、デオキシリボ核酸及びリボ核酸等の核酸分子、抗体や受容体等のタンパク質分子、並びに糖タンパク質や糖脂質等の形態で存在する糖鎖分子といった生体分子を支持体上に固定化したものである。バイオチップ1のなかでも、核酸分子を固定化したものを特に、DNAチップや核酸チップ、DNAマイクロアレイ、核酸マイクロアレイ等と称している。また、バイオチップ1のなかでも、タンパク質を固定化したものを特に、プロテインチップやプロテインアレイ、タンパク質チップ、タンパク質アレイ、タンパク質、抗体チップ等と称している。さらに、バイオチップ1のなかでも、糖タンパク質や糖脂質を固定化したものを特に、糖鎖アレイや糖鎖チップ等と称している。本発明において、バイオチップ1には、これら各種アレイ、チップと称されるもの全てを包含する。いずれにしてもバイオチップ1は、基本的には、支持体の一主面に多数の生体分子が並列して固定化された構造を共通して有している。
【0016】
また、バイオチップ1は、通常、プレート2に対して固定されているが、プレート2に対して着脱自在に載置されても良い。
【0017】
プレート2は、
図1乃至3に示すように、略矩形の平板であって、一主面Sの略中心部にバイオチップ1を載置するための領域4を有している。バイオチップ1を載置する領域4は、本例において略円形の凹部としている。しかし、バイオチップ1を載置する領域4は、このような形状に限定されるものではない。例えば、バイオチップ1を載置する領域4は、略矩形の凹部など他の如何なる形状でもよい。また、バイオチップ1を載置する領域4は、凹部の底面にバイオチップ1の外形と同形状の凹溝が形成されたものであってもよい。この凹溝を有するプレート2を使用することによって、領域4の所望の位置にバイオチップ1を正確に且つ容易に位置決めすることができる。さらに、バイオチップ1を載置する領域4は、凹部の底面にバイオチップ1の外形に対応したガイドが形成されたものであってもよい。このガイドを有するプレート2を使用することによって、領域4の所望の位置にバイオチップ1を正確に且つ容易に位置決めすることができる。
【0018】
また、バイオチップ1を載置する領域4は、
図1乃至3に示したように、プレート2の一主面Sに形成された凹部とするような構成に限定されない。すなわち、バイオチップ1を載置する領域4は、図示しないが、プレート2の一主面Sにおける所定の位置を区画したものでも良い。すなわち、この場合、バイオチップ1を載置する領域4は、プレート2の一主面Sと同じ高さ又は当該一主面Sよりも高い位置とすることもできる。
【0019】
また、プレート2には、詳細を後述するバイオチップ用カバー3を位置決めして取り付けるための位置決め手段を有していることが好ましい。位置決め手段としては、
図1乃至3に例示的に示すように、長手方向の両側面に形成された一対の切欠き部5を挙げることができる。一対の切り欠き部5は、バイオチップ用カバー3における対応する位置に形成された嵌合凸部を嵌合することでバイオチップ用カバー3を位置決めして固定することができる。なお、プレート2側の位置決め手段としては、
図1乃至3に示したように一対の切欠き部5を示したが、このような構成に限定されるものではない。例えば、プレート2側の位置決め手段を、長手方向の両側面に形成した一対の嵌合凸部とし(図示せず)、この一対の嵌合凸部に対応するようにバイオチップ用カバー3における対応する位置に切欠き部を形成しても良い。
【0020】
なお、
図1乃至3に示したプレート2では、位置決め手段として一対の切欠き部5を形成している。しかし、位置決め手段としては、プレート2の長手方向の一方の側面のみに形成された切欠き部や嵌合凸部であってもよい。また、
図1乃至3に示したプレート2では、一対の切欠き部5を、プレート2の長手方向に対して領域4とほぼ同位置の位置に形成している。しかし、一対の切欠き部5を形成する位置は、特にこのような構成に限定されるものではない。例えば、一対の切欠き部5は、プレート2の長手方向に対してそれぞれ異なる位置に形成されていても良い。
【0021】
なお、プレート2は、特に、長手方向の一方端部が先端に向かって幅狭になる形状となっている。これにより、プレート2に載置したバイオチップ1の方向を特定することができ、これにより、バイオチップ1表面の特定の位置にスポットしてある位置決めスポットの場所を特定することが可能となる。
【0022】
次に、本発明に係るバイオチップ用カバー3について説明する。バイオチップ用カバー3は、
図1、
図4乃至7に示すように、上述したプレート2に取り付けられた姿勢においてプレート2と空間部を形成する凹部領域6と、凹部領域6内であって、プレート2に取り付けられた姿勢でバイオチップ1に対向する位置に形成され、バイオチップ1の一主面と略同形の平面を有する凸部7とを備えている。バイオチップ用カバー3は、プレート2に取り付けられた姿勢において形成される空間部(凹部領域6と領域4で構成される空間部)にバイオチップ1を収容することとなる。
【0023】
本例において、凹部領域6の形状、特に、プレート2の一主面に対向する側から見たときの形状は矩形となっている。しかし、当該形状は、特に限定されず、プレート2にバイオチップ用カバー3を取り付けたときに、プレート2の一主面Sとの間に空間を形成できれば如何なる形状でもよい。例えば、プレート2の一主面に対向する側から凹部領域6を見たときの形状は、バイオチップ1を載置する領域4をプレート2の一主面側から見たときの形状と同形状となるようにしても良いし、異なる形状となるようにしても良い。
【0024】
凹部領域6内に形成されている凸部7は、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けた姿勢において、プレート2に取り付けられたバイオチップ1の一主面と対向する平面を有している。この凸部7の平面形状は、少なくとも、バイオチップ1の一主面において生体分子が固定された領域を覆うことができればよい。すなわち、この凸部7の平面形状は、バイオチップ1の一主面の全体を覆うに足る形状でも良いし、生体分子が固定された領域を多くことができればバイオチップ1の一主面よりも小さい形状でもよい。
【0025】
また、凸部7の平面形状は、例えば、バイオチップ1の一主面が矩形であれば、凸部7の平面形状もこれに応じて矩形とすることが好ましい。ただし、凸部7の平面形状は、バイオチップ1の一主面が矩形であっても、生体分子を固定した領域を覆うことができれば円形等の矩形以外の形状であっても構わない。
【0026】
さらに、凸部7の高さは、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けた姿勢において、プレート2に取り付けられたバイオチップ1の一主面との間隔を考慮して設計することができる。特に、本例では、凸部7は、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けたとき、プレート2との接触面8よりも低い位置となるように設計している。これにより、バイオチップ1の一主面がプレート2の一主面Sと同じ高さ位置であったとしても、凸部7とバイオチップ1との間に所定の間隔を形成することができる。換言すれば、バイオチップ1の一主面がプレート2の一主面Sよりも低い位置にあれば、凸部7の高さはプレート2との接触面8と同じ又はより高い位置となるように設計しても構わない。
【0027】
さらにまた、凸部7は、凹部領域6の底面から略垂直に立ち上がる側面を有するように形成されていることが好ましい。言い換えれば、凸部7の側面は、凹部領域6の底面から傾斜して立ち上がるテーパー状でもよいが、凹部領域6の底面に対して垂直面とすることが好ましい。
【0028】
本例で示すバイオチップ用カバー3は、プレート2の長手方向に対して直行する方向と略同寸法の長さを有する板部材における略中心部分に上記凹部領6及び凸部7が形成された構成である。
【0029】
また、バイオチップ用カバー3には、上述したプレート2に位置決めして取り付けるための位置決め手段を有していることが好ましい。位置決め手段としては、
図4及び5に例示的に示すように、上記板部材の両端部に形成された凸状の縁部9に形成された一対の嵌合凸部10とすることができる。これら一対の嵌合凸部10は、上述したプレート2に形成された一対の切欠き部5に対応する位置及び形状とされる。バイオチップ用カバー3に形成される位置決め手段としては、このような一対の嵌合凸部10に限定されず、上述したプレート2に形成された位置決め手段に応じて、例えば一対の切欠き部であってもよい。また、バイオチップ用カバー3は、縁部9の一方のみに形成した嵌合凸部や切欠き部を位置決め手段としても良い。
【0030】
以上のように構成されたチップ装置では、以下のようにして、バイオチップ1の一主面に滴下された溶液を保持することができる。なお、ここで溶液とは、特に限定されず、バイオチップ1に固定された生体分子と相互作用する生体分子を含有する溶液や、バイオチップ1の一主面を洗浄するための洗浄液、バイオチップ1に固定された生体分子と相互作用している他の生体分子を溶離するための溶離液及びバイオチップ1上で各種反応を行うための反応液等を挙げることができる。また、溶液を滴下する手段は、特に限定されず、自動化されたピペット装置や手動で使用するピペット装置などを適宜使用することができる。
【0031】
溶液をバイオチップ1の一主面に滴下した後、溶液が蒸散を防ぐために直ちに、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付ける。バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けた状態を
図8及び9に示す。
図8及び9に示すように、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けた状態で、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1の一主面との間に所定の間隔Dが形成される。バイオチップ1に滴下された液体は、この間隔Dの空間に保持されることとなる。この状態で液体は、凸部7の外方、すなわち凹部領域6と領域4で構成される空間部へ流動することが防止される。これは、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1の一主面との間に保持された溶液が、凸部7の側面を超えて流れ出ることができないからである。
【0032】
このように、溶液をバイオチップ1の一主面に滴下した後、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付けることによって、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1との間(間隔D)に溶液を均一に且つ確実に保持することができる。溶液として、バイオチップ1に固定された生体分子と相互作用する生体分子を含有する溶液を使用する場合、バイオチップ1に固定された生体分子と溶液に含まれる生体分子との相互作用の有無を確実に検出することができる。また、溶液としてバイオチップ1の一主面を洗浄するための洗浄液を使用する場合、バイオチップ1の全領域に亘って確実に洗浄することができる。さらに、溶液として溶離液を使用する場合、バイオチップ1に固定された生体分子と相互作用している他の生体分子を確実に溶離することができる。さらにまた、溶液として各種反応を行うための反応液を使用する場合、バイオチップ1上の各種反応を全領域に亘って確実に行うことができる。
【0033】
ここで、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1との距離、すなわち間隔Dとしては、例えば0.05〜1.0mmとすることができ、0.1〜0.5mmとすることが好ましく、0.2〜0.4mmとすることがより好ましい。この間隔Dが上記範囲より小の場合には、保持できる溶液量が少なすぎ、上述したような相互作用や洗浄、溶離、その他各種反応が十分に実施できない虞がある。一方、この間隔Dが上記範囲より大の場合には、上述したような溶液を保持できない虞がある。
【0034】
特に、凸部7の側面が凹部領域6の底面から略垂直に立ち上がる形状である場合、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1の一主面との間に保持された溶液が流出することをより確実に防止することができる。よって、凸部7の側面を凹部領域6の底面から略垂直に立ち上がる形状とすることで、上述したような効果をより確実に達成することができる。
【0035】
なお、チップ装置において、上述のように、プレート2及びバイオチップ用カバー3がそれぞれ対応する位置決め手段を有する場合には、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1の一主面とを正確に対向させることが容易となる。すなわち、バイオチップ用カバー3をプレート2に取り付ける際に生じうる位置決めミスを防止することができ、バイオチップ用カバー3の凸部7とバイオチップ1との間に溶液を均一に且つ確実に保持する状態をより簡易に形成することができる。
【0036】
なお、以上で説明したバイオチップ用カバー、当該バイオチップ用カバーを備えるチップ装置及び溶液保持方法では、プレート2の一主面に単独のバイオチップ1を搭載する形態とした。しかし、本発明はこのような形態に限定されるものではなく、プレート2の一主面に複数のバイオチップ1を搭載するような形態であってもよい。この形態において、バイオチップ用カバー3は、複数のバイオチップ1をまとめて覆うような構成でも良いし、各バイオチップ1をそれぞれ独立して覆うような構成であってもよい。後者の構成とは、言い換えると、チップ装置は、バイオチップ1の数に応じてバイオチップ用カバー3を備えることとなる。或いは、チップ装置は、複数のバイオチップ1を覆うバイオチップ用カバー3を複数備えるような構成であっても良い。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕
本実施例では、生体分子としてDNAを固定したDNAチップを使用し、DNAチップに固定化されたDNA分子とハイブリダイズするサンプルDNAを検出する実験を行った。具体的には、サンプルDNAを含む溶液をDNAチップに滴下し、その後バイオチップ用カバーによりDNAチップを覆った状態でハイブリダイゼーション工程を行った。ハイブリダイゼーション工程では、先ず、2μLのPCR増幅産物に1μLのハイブリバッファー(3xSSC/0.3%SDS)を加え、ハイブリ用サンプル溶液を調製した。次に、3μLのハイブリ用サンプル溶液をDNAチップ上に滴下し、バイオチップ用カバーを被せ、55℃で1時間反応させた。
【0039】
本実施例で使用したバイオチップ用カバーは、
図4乃至7に示したタイプのもので、接触面を構成する板状部材の厚みが1.0mmであり、凹部領域の深さが0.7mmであり、凸部の高さが0.8mmである。また、本例で使用したDNAチップは、一辺が4mmの平面形状を有している。DNAチップの一主面は、DNAチップをプレートに取り付けられた状態でプレートの一主面と同じ高さとなる。したがって、バイオチップ用カバーをプレートに取り付けた姿勢で、バイオチップの一主面とバイオチップ用カバーの凸部との間隔(
図8における間隔D)は0.2mmとなる。
【0040】
ハイブリダイゼーション工程の後、1x SSC/0.1% SDS溶液をもちいて55℃で5分間、その後、1x SSC/0.1% SDS溶液を用いて室温で5分間の、その後、1x SSC溶液を用いて室温で3分間の条件で洗浄を行った。最後に、チップ上に3μLの1x SSC溶液を滴下し、再びバイオチップ用カバーを取り付け、露光時間20秒でハイブリダイズを検出した。
【0041】
また、比較のためバイオチップ用カバーの代わりに市販のカバーガラス(18mm×18mmの正方形の平面ガラス)を用いて同様に実験を行った。バイオチップ用カバーの代わりに市販のカバーガラスを使用した場合には、ハイブリダイゼーション工程において、ハイブリ用サンプル溶液がカバーガラス側に拡散し、チップ上のハイブリ用サンプル溶液が極少量となり乾燥してしまった。その結果、バイオチップ用カバーの代わりに市販のカバーガラスを使用した場合には、DNAのハイブリダイズを検出することができなかった。
【0042】
これに対して、本願発明のバイオチップ用カバーを使用した場合には、ハイブリダイゼーション工程においてDNAチップ上に滴下した溶液が拡散すること無く、DNAのハイブリダイズを高感度に検出することができた。これは、本発明のバイオチップ用カバーを使用することによって、バイオチップ用カバーとバイオチップとの間に溶液を均一に保持できたためであることが示唆された。
【符号の説明】
【0043】
1…バイオチップ、2…プレート、3…バイオチップ用カバー、4…領域、5…切欠き部、6…凹部領域、7…凸部、8…接触面、9…縁部、10…嵌合凸部