特許第5882181号(P5882181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5882181打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882181
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   G01N29/04
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-238804(P2012-238804)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-89106(P2014-89106A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】石原 朋和
(72)【発明者】
【氏名】太田 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 章裕
(72)【発明者】
【氏名】横山 秀史
【審査官】 森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−287923(JP,A)
【文献】 特開2003−329656(JP,A)
【文献】 特開2006−038598(JP,A)
【文献】 特許第4162967(JP,B2)
【文献】 特開2000−171565(JP,A)
【文献】 特開2003−149044(JP,A)
【文献】 特開2006−215049(JP,A)
【文献】 特開平09−080033(JP,A)
【文献】 特開2009−145154(JP,A)
【文献】 特開平07−209262(JP,A)
【文献】 特開昭60−200165(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0011265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)打音検査装置を用いた基盤岩上の評価対象となる岩塊の打音測定により、0〜2000Hzの範囲で最大振幅を示すピークを抽出し、
(b)0〜500Hzの範囲において、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがあるか否かを判定し、
(c)前記(b)で、0〜500Hzの範囲に前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがある場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがない場合、前記岩塊は安定性が不明であると判定し、
(d)前記(c)で安定性不明と判定された場合、0〜2000Hzの範囲における最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上か否かを判定し、
(e)0〜2000Hzの範囲における前記最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上である場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、2倍未満である場合、前記岩塊は安定乃至不安定岩塊であると判定することを特徴とする打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
落石は、その発生の誘因が明瞭ではないことから、発生箇所や発生時期を予測することが困難な災害である。落石災害を防止するために、鉄道事業者等では定期的な検査が実施されているが、その内容は専門家による定性的な評価を主体としているのが現状である(下記非特許文献1参照)。このことから、現場技術者が簡易かつ定量的に落石の安定性を評価できる手法の確立が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−287923号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】財団法人鉄道総合技術研究所:落石対策技術マニュアル,154p,1999.
【非特許文献2】石原朋和・川越健・長谷川淳・浦越拓野,太田岳洋:岩盤斜面における浮き石の安定性評価手法に関する検討,研究発表会講演論文集,pp. 239−240, 2010.
【非特許文献3】川越健・石原朋和・浦越拓野・太田岳洋:岩盤斜面における岩塊の安定性に関する評価手法,鉄道総研報告,Vol. 25, No. 7, pp. 31−36, 2011.
【非特許文献4】太田岳洋:打音測定による落石危険岩塊の安定性評価手法,技術交流会講演要旨,2011.
【非特許文献5】石原朋和:打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価手法の開発,鉄道総研月例発表会講演要旨,2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既往の研究では、打音測定により岩塊の安定性を定量的に評価する手法について検討し、打音測定から得られる音圧スペクトルの卓越周波数やその最大振幅から岩塊の安定性が推定できる可能性を報告している(上記特許文献1、非特許文献2〜5参照)。そこでは、岩塊の測定結果を基盤岩の測定結果で除すことで正規化することで、岩種によらず基盤岩に比べて岩塊(安定岩塊、不安定岩塊)の方が音圧スペクトルの最大振幅が小さいことがわかっている(上記非特許文献3〜5参照)。
【0006】
図4は従来の岩塊の安定性評価方法による結果を示す図である。
【0007】
この図において、横軸は基盤岩の値で正規化した卓越周波数、縦軸は基盤岩の値で正規化した振幅であり、□は基盤岩、○は安定岩塊、×は不安定岩塊を示している。また、Aは専門家の判断を要する領域、Bは安定と判断される領域、Cは不安定と判断される領域である。
【0008】
しかし、この方法では、不安定岩塊を安定岩塊と判定する場合があるなど閾値付近の岩塊の安定性を簡便に、かつ客観的に判定するのが困難である。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、2段階評価により簡便にかつ客観的に岩塊の安定性を評価することができる、打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法において、(a)打音検査装置を用いた基盤岩上の評価対象となる岩塊の打音測定により、0〜2000Hzの範囲で最大振幅を示すピークを抽出し、(b)0〜500Hzの範囲において、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがあるか否かを判定し、(c)前記(b)で、0〜500Hzの範囲に前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがある場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがない場合、前記岩塊は安定性が不明であると判定し、(d)前記(c)で安定性不明と判定された場合、0〜2000Hzの範囲における最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上か否かを判定し、(e)0〜2000Hzの範囲における前記最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上である場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、2倍未満である場合、前記岩塊は安定乃至不安定岩塊であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、岩盤斜面中の不安定岩塊を簡便に、かつ、客観的に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による岩塊の安定性評価フローを示す図である。
図2】本発明の具体的適用例において0〜500Hzの範囲のピークに注目した判定結果を示す図である。
図3】本発明の具体的適用例において0〜2000Hzの範囲のピークに注目した判定結果を示す図である。
図4】従来の岩塊の安定性評価方法による結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
岩塊の安定性評価方法において、(a)打音検査装置を用いた基盤岩上の評価対象となる岩塊の打音測定により、0〜2000Hzの範囲で最大振幅を示すピークを抽出し、(b)0〜500Hzの範囲において、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがあるか否かを判定し、(c)前記(b)で、0〜500Hzの範囲に前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがある場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、前記(a)で抽出した前記最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがない場合、前記岩塊は安定性が不明であると判定し、(d)前記(c)で安定性不明と判定された場合、0〜2000Hzの範囲における最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上か否かを判定し、(e)0〜2000Hzの範囲における前記最大振幅が前記基盤岩の最大振幅の2倍以上である場合、前記岩塊は不安定岩塊であると判定し、2倍未満である場合、前記岩塊は安定乃至不安定岩塊であると判定する。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
本発明による安定性評価方法は、次のように2段階に分割することができる。
【0016】
判定の第1段階では、岩塊の振動に関わる情報を含むと考えられる0〜500Hzのピークに注目し、0〜2000Hzの範囲の最大振幅に対する0〜500Hzの範囲の最大振幅の比を、岩塊の安定性評価の指標として判定を行う。後述する適用例では、0〜500Hzの範囲に振動測定の速度スペクトルの卓越周波数と一致する音圧スペクトルのピークが認められる。この値が、安定岩塊の場合は10〜50%、不安定岩塊の場合は10〜100%を示すことから、「不安定」、「安定性不明」の閾値を暫定的に50%と設定した。
【0017】
次に、判定の第2段階では、基盤岩の最大振幅に対する岩塊の最大振幅の比を、岩塊の安定性評価の指標として更なる判定を行う。上述したように、岩塊の測定結果を基盤岩の測定結果で除することで正規化することにより、岩種によらず基盤岩に比べて岩塊(安定岩塊、不安定岩塊)の方が音圧スペクトルの最大振幅が大きいことがわかっている。そこで、本発明では、「不安定」、「安定〜不安定」の閾値を暫定的に基盤岩の振幅の2倍に設定した。
【0018】
次に、本発明による安定性評価方法のフローについて具体的に説明する。
【0019】
図1は本発明による岩塊の安定性評価フローを示す図である。
(a)打音検査装置を用いた岩塊の打音測定により、0〜2000Hzの範囲で最大振幅を示すピークを抽出する(ステップS1)。
(b)0〜500Hzの範囲において、ステップS1で抽出した最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがあるか否かを判定する(ステップS2)。
(c)0〜500Hzの範囲に最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがある場合(ステップS2のYES)、不安定岩塊と判定する(ステップS3)。あるいは、最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークがない場合(ステップS2のNO)、岩塊の安定性が不明であると判定する(ステップS4)。
(d)安定性不明と判定された場合、0〜2000Hzの範囲における最大振幅が基盤岩の最大振幅の2倍以上か否かを判定する(ステップS5)。
(e)0〜2000Hzの範囲における最大振幅が基盤岩の2倍以上である場合(ステップS5のYES)、不安定岩塊と判定する(ステップS6)。あるいは、最大振幅が基盤岩の2倍未満である場合(ステップS5のNO)、安定〜不安定岩塊と判定する(ステップS7)。
【0020】
なお、この安定性評価フローにおいて、ステップS1〜S4が上述した第1段階に相当し、ステップS5〜S7が第2段階に相当する。
【0021】
以下、本発明の具体的な適用例について説明する。
【0022】
表1は具体的な適用例による判定結果を示しており、図2は本発明の具体的な適用例において0〜500Hzの範囲のピークに注目した判定結果を示す図、図3は本発明の具体的な適用例において0〜2000Hzの範囲のピークに注目した判定結果を示す図である。
【0023】
【表1】
【0024】
ここでは、安山岩からなる斜面で適用した結果を示す。
【0025】
適用の結果、ハンマー打診および目視観察による定性的評価により不安定と判断された岩塊は、本発明の評価方法によっても全て不安定と判定された。
【0026】
まず、不安定と判定された岩塊(岩塊9〜33)のうち10岩塊(岩塊10,14,15,17,18,22,24,25,29,33)で、0〜500Hzの範囲に最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークが認められた。これは、本発明の安定性評価方法の第1段階で不安定岩塊と判定されたことを意味し、表1および図2においてB/A(ここで、Aは0〜2000Hzの最大振幅、Bは0〜500Hzの最大振幅)比は0.50以上の値を示している。また、そのうち2岩塊(岩塊18,24)は、0〜500Hzの範囲のピークが0〜2000Hzの範囲の最大振幅と等しく、即ちB/Aの値が1.00となっている。
【0027】
不安定と判定された岩塊のうち残りの15岩塊(岩塊9,11〜13,16,19〜21,23,26〜28,30〜32)は、基盤岩の振幅との比較によって不安定と判定された。これは、本発明の安定性評価方法の第1段階では安定性不明と判定され、第2段階で不安定岩塊と判定されたことを意味し、表1および図3においてA/〔基盤岩の最大振幅〕の比は2.0以上の値を示している。また、そのうち11岩塊(岩塊9,12,13,16,19,20,26〜28,30,31)は、基盤岩の5倍以上の振幅を示し、即ちA/〔基盤岩の最大振幅〕の値が5.0以上となっている。
【0028】
一方、定性的評価により安定と判断された岩塊(岩塊1〜8)は、本発明の評価方法では、3岩塊(岩塊5,6,8)が安定と判定され、5岩塊(岩塊1〜4,7)は不安定と判定された。
【0029】
不安定と判定された5岩塊のうち1岩塊(岩塊1)は、0〜500Hzの範囲に最大振幅の1/2以上の振幅を示すピークが認められた(表1、図2参照)。残りの4岩塊(岩塊2〜4,7)は、A/〔基盤岩の最大振幅〕の比が3.7〜5.2の値を示したが、これらの値は、定性的評価によっても不安定と判断された岩塊(岩塊9〜33)に比べて低い傾向がある(図3参照)。
【0030】
以上のことから、本発明による打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法によれば、目視観察等の定性的評価により不安定と判断される岩塊を全て不安定岩塊と判定することができ、さらに、定性的評価では安定と判断される岩塊についても不安定岩塊か否かを評価することができる。
【0031】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法は、2段階評価により簡便に、かつ、客観的に岩盤斜面中の岩塊の安定性を評価することができる、打音測定による岩盤斜面中の岩塊の安定性評価方法として利用可能である。
図1
図2
図3
図4