(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882265
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 39/04 20060101AFI20160225BHJP
F02B 67/04 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
F02B39/04
F02B67/04 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-166231(P2013-166231)
(22)【出願日】2013年8月9日
(62)【分割の表示】特願2011-536129(P2011-536129)の分割
【原出願日】2010年10月12日
(65)【公開番号】特開2013-224676(P2013-224676A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2013年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-236995(P2009-236995)
(32)【優先日】2009年10月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】有馬 久豊
(72)【発明者】
【氏名】田中 義信
【審査官】
安井 寿儀
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第2197179(US,A)
【文献】
特開2001−187913(JP,A)
【文献】
特開2002−005236(JP,A)
【文献】
特許第2632903(JP,B2)
【文献】
特開平02−070920(JP,A)
【文献】
特表平03−500319(JP,A)
【文献】
特開平02−016330(JP,A)
【文献】
特開平02−024284(JP,A)
【文献】
特開2002−242687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00 − 41/10
F02B 67/04
F16C 3/04 − 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランク軸の動力によって駆動される過給機を備えたエンジンであって、
前記クランク軸に連動して回転するギヤ軸と、前記ギヤ軸に直接的または間接的に連結されて回転する過給機の駆動軸とを備え、
前記クランク軸のウェブの外周に形成されたクランク軸ギヤから、前記過給機を駆動する動力が取り出され、
前記過給機は、前記駆動軸に連結されたインペラ軸と、前記インペラ軸に固定されたインペラとを有し、前記インペラが回転することで空気を圧縮して前記エンジンに供給し、
前記駆動軸が、前記クランク軸のウェブの径方向外方に配置され、
前記駆動軸が、エンジン本体の一部であるエンジンケースに回転自在に支持され、
前記過給機が、前記エンジンケースの外側に配置されて、前記エンジンケースに取り付けられているエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンにおいて、前記過給機のインペラ軸と前記ギヤ軸との間に遊星歯車装置が介在され、
前記過給機と前記遊星歯車装置とがユニット化され、このユニットが前記エンジンケースの外側に配置されて、前記エンジンケースに取り付けられているエンジン。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンにおいて、前記過給機は、前記インペラ軸を支持するハウジングと、前記ハウジングに取り付けられて前記インペラを覆うケーシングとを有し、
前記ハウジングに前記遊星歯車装置が支持され、
前記ハウジングが、締結部材によりエンジンケースに固定され、
前記ギヤ軸の駆動ギヤに、エンジンのトルク変動が前記遊星歯車装置に伝達するのを低減させるダンパが設けられているエンジン。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のエンジンにおいて、前記クランク軸ギヤによりバランサ軸が駆動され、
前記クランク軸を挟んで前記バランサ軸の反対側に、前記ギヤ軸が配置されているエンジン。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジンにおいて、前記ギヤ軸にワンウェイクラッチを介してスタータが連結されているエンジン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本出願は、2009年10月14日出願の特願2009−236995の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、エンジンのクランク軸の動力によって駆動される過給機を備え
たエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0003】
エンジンにおいて、エンジンのクランク軸の動力によって駆動される過給機を備えたものがある(例えば特許文献1)。このようなエンジンで、過給機に伝達する動力を取り出すためのギヤをクランク軸に設けると、部品点数が増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−24282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、部品点数の増加を抑えつつエンジンの動力を過給機に伝達することができ
るエンジンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係
るエンジンは、エンジンのクランク軸の動力によって駆動される過給機を備え
たエンジンであって、前記クランク軸のウェブの外周に形成されたクランク軸ギヤから、前記過給機を駆動する動力が取り出されている。
【0007】
この構成によれば、クランク軸ギヤを過給機の駆動に兼用しているので、部品点数の増加を抑えることができる。
【0008】
本発明において、前記クランク軸ギヤはバランサ軸を駆動するものであり、さらに、前記クランク軸に対して、前記バランサ軸と反対側に配置されて前記クランク軸に連動して回転するギヤ軸を備え、前記過給機は、前記ギヤ軸に設けられたギヤを介して駆動されることが好ましい。その場合、前記ギヤ軸に電動スタータを連結してもよい。この構成によれば、バランサ軸の反対側の空いたスペースを利用して、例えばギヤ軸、シフタ等を配置することができる。
【0009】
本発明において、前記過給機のインペラ軸と前記ギヤ軸との間に遊星歯車装置が介在されていることが好ましい。その場合、好ましくは、前記過給機は、前記インペラ軸に固定されたインペラと、前記インペラ軸を支持するハウジングと、前記ハウジングに取り付けられて前記インペラを覆うケーシングとを有し、前記ハウジングに前記遊星歯車装置が支持されている。この構成によれば、過給機と遊星歯車装置とが1つのユニットとして構成されるので、部品点数の増加を抑えて組み立て工数を削減できる。また、遊星歯車装置により大きな増速が得られるので、増速機をコンパクトにできる。
【0010】
本発明において、さらに、前記ギヤ軸に、エンジントルクの変動が前記過給機に伝達されるのを抑制するダンパが設けられていることが好ましい。この構成によれば、エンジントルクの変動が遊星歯車装置に伝達するのを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の部品番号は、同一部分を示す。
【
図1】本発明の第1実施形態に係る過給機駆動装置を備えたエンジンを示す縦断面図である。
【
図4】同上過給機駆動装置の特性を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る過給機駆動装置のギヤ軸を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る過給機駆動装置1を備えたエンジンEを示す縦断面図である。同図に示すエンジンEは、回転軸であるクランク軸2と、クランク軸2に平行に配置されたバランサ軸4と、クランク軸2のウェブ3の外周に形成されてバランサ軸4を駆動するクランク軸ギヤ5とを有している。クランク軸2に対して、バランサ軸4と反対側にアイドル軸の1種であるギヤ軸6が配置され、このギヤ軸6は、これに一体形成された駆動ギヤ7がクランク軸ギヤ5に噛合することにより、クランク軸2に連動して回転している。
【0013】
ギヤ軸6には、変速ギヤの1種である、高速ギヤ8と低速ギヤ10とが設けられている。高速ギヤ8と低速ギヤ10は増速ギヤであり、ギヤ軸6に相対回転自在で、かつ軸方向への相対移動不能に嵌合されている。本実施形態では、変速ギヤは2つであるが、3つ以上であっても良い。
【0014】
エンジンEには、エンジンEへ空気を圧縮して強制的に送り込む過給機12が装備されており、過給機12の駆動軸14が高速ギヤ8または低速ギヤ10にギヤ連結されている。具体的には、駆動軸14に、大径の高速ギヤ8および小径の低速ギヤ10にそれぞれ噛み合う小径の低速駆動ギヤ14aおよび大径の高速駆動ギヤ14bが相対回転不能に設けられている。これら高速ギヤ8、低速ギヤ10、高速駆動ギヤ14aおよび低速駆動ギヤ14bにより、増速ギヤ列が形成されている。本実施形態では、駆動軸14とギヤ軸6とは直接連結されているが、アイドルギヤなどを介して間接的に連結されていてもよい。過給機12の詳細については後述する。駆動軸14は3つの軸受15を介して、エンジン本体の一部であるエンジンケースECに回転自在に支持されている。
【0015】
ギヤ軸6における高速ギヤ8と低速ギヤ10との間に、シフタ16が配置されている。シフタ16は、シフトドラム17と、これを操作するシフトフォーク19とを有し、シフトドラム17が、ギヤ軸6にスプライン嵌合され、ギヤ軸6に相対回転不能で軸方向に移動自在となっている。シフトフォーク19は、シフタ駆動手段18により軸方向へ駆動されてシフトドラム17を軸方向に移動させ、シフトドラム17の両側に設けたドグ17a,17aが高速ギヤ8および低速ギヤ10に設けた係合孔8a,10aの一方に選択的に係合することにより、シフトドラム17が高速ギヤ8および低速ギヤ10一方に選択的に相対回転不能に係合される。
【0016】
選択された変速ギヤ8,10を介して、ギヤ軸6から駆動軸14へ動力が伝達される。すなわち、シフトドラム17と高速ギヤ8とがドグ連結されたとき、ギヤ軸6の回転、つまりクランク軸2の回転が大きな増速比で駆動軸14に伝達され、シフトドラム17と低速ギヤ10とがドグ連結されたとき、ギヤ軸6の回転が小さな増速比で駆動軸14に伝達される。シフタ駆動手段18は、例えばサーボモータを有するものであるが、これに限定されない。これにより、クランク軸2の回転動力が、選択された変速ギヤ8,10を介してギヤ軸6から過給機12の駆動軸14に伝達される。これらギヤ軸6、高速ギヤ8、低速ギヤ10、過給機12の駆動軸14、シフタ16およびシフタ駆動手段18が過給機駆動装置1を構成する。
【0017】
過給機12はエンジン本体を形成するエンジンケースECの外側に配置されており、断面図である
図2に示すように、前記過給機12の駆動軸14の一端部14cに遊星歯車装置20を介してインペラ軸22の一端部22aが連結され、このインペラ軸22の他端部22bにインペラ24が固定されている。以下、過給機12における一端はエンジンE側をいい、他端は反エンジン側をいうものとする。
【0018】
インペラ軸22は筒状のハウジング26に回転自在に支持されている。ハウジング26は一端側をボルトのようなハウジング締結部材60により固定用ケース28を介して、エンジンの一部であるエンジンケースECに固定され、他端側にボルトのようなケーシング締結部材62を用いて、インペラ24を覆うケーシング30が取り付けられている。こうして、インペラ軸22におけるインペラ24が嵌合されていない部分はハウジング26により覆われ、インペラ24が嵌合された部分およびインペラ24がケーシング30により覆われている。固定用ケース28は、その軸支部28aが遊星歯車装置20の入力軸29を2つの軸受31によって支持しており、入力軸29に駆動軸14が相対回転不能に連結されている。
【0019】
上述のように、遊星歯車装置20は駆動軸14とインペラ軸22との間に介在され、ハウジング26の一端部に支持されている。この実施形態では、過給機12と遊星歯車装置20とがハウジング26に支持されることによりユニット化されており、このユニットが上記ハウジング締結部材60によりエンジン本体を形成するエンジンケースECに取り付けられている。
【0020】
遊星歯車装置20の入力軸29に大径の内歯車32が噛み合い、この内歯車32に複数の遊星歯車38が噛み合い、遊星歯車38に、インペラ軸22の一端部22aに設けたギヤ34が太陽歯車として噛み合っている。これにより、駆動軸14の回転動力が、遊星歯車装置20の入力軸29から内歯車32および遊星歯車38を介して、出力軸となるインペラ軸22に伝達される。
【0021】
図1のシフタ16は次のように作動する。
図3に示すように、エンジンEの回転数を測定する回転センサ40およびエンジンEの運転モードを手動で設定する手元スイッチSWが、エンジン・コントロール・ユニットECUに接続されている。シフタ駆動手段18は、エンジンの回転数に応じてシフタ16をギヤ軸6の軸方向に移動させる。具体的には、エンジン・コントロール・ユニットECUが、回転センサ40から得られるクランク軸2の回転数の増大に応じて通常(低速)モード42であるか高速モード44であるかを判断し、シフタ16を駆動して、モード42,44に適した変速ギヤ8,10をそれぞれ選択させる。
【0022】
低速モード42とは、エンジンEの所定の低回転域で過給機12の増速比を上げて過給圧、つまり過給風量を増大させ、低速でのエンジントルクを稼ぐように設定されるモードであり、エンジン・コントロール・ユニットECUが低速モード42と判断すると、シフタ16は高速ギヤ8にドグ連結される。一方、高速モード44とは、エンジンEの所定の高回転域で過給機12の増速比を下げて過給風量が過大になるのを防止し、適切なエンジントルクと安定した回転が得られるように設定されるモードであり、エンジン・コントロール・ユニットECUが高速モード44と判断すると、シフタ16は低速ギヤ10にドグ連結される。
【0023】
エンジン・コントロール・ユニットECUは、回転センサ40からの回転数信号に基づいて、燃料噴射量、点火時期等を調整して、エンジンの回転数を制御する。エンジン・コントロール・ユニットECUはさらに、低速モード42では、上述のとおり過給機12の回転速度を増大させ、高速モード44では逆に、回転センサ40からの回転数信号に基づいて、過給機12の回転速度が過大となるのを抑制する。
【0024】
上述のようにエンジンEの回転数に応じて運転モードを判断するのに加えて、手元スイッチSWでも運転モードを切り替えることができるようになっている。これにより、オペレータが任意のモードを選択できる。さらに、過給機12の駆動を止めるエコモード46を設けてもよい。エコモード46では、シフタ16が高速ギヤ8にも低速ギヤ10にも接続されない中間位置に移動される。
【0025】
上記構成において、
図1のシフタ駆動手段18が、エンジンEの回転数に応じてシフタ16を作動させて変速ギヤ8,10を選択するので、エンジンEの回転数に応じて最適に過給機12の回転数を調整することができる。つまり、低速モード42では、シフタ16が高速ギヤ8にドグ連結され、過給機12の増速比を上げて、
図4に示すように中低速域でのエンジントルクを稼ぐように制御される。これにより、中低速域でのエンジンの軸出力も増大する。一方、高速モード44では、
図3のシフタ駆動手段18によりシフタ16が低速ギヤ10にドグ連結され、過給機12の増速比を小さくして、高速域での過給風量が過大になるのを防止し、
図4に示すように適切なエンジントルクと安定した回転が得られるように制御される。これにより、高速域での大きなエンジンの軸出力が維持される。
【0026】
さらに、クランク軸ギヤ5を過給機12の駆動に兼用しているので、部品点数の増加を抑えることができる。また、バランサ軸4の反対側の空いたスペースを利用してギヤ軸6、シフタ16等を配置することができる。
【0027】
さらに、過給機12と遊星歯車装置20とが1つのユニットとして構成されるので、部品点数の増加を抑えて組み立て工数を削減できるうえに、遊星歯車装置20により大きな増速が得られるので、過給機駆動装置1を小さくできる。
【0028】
図5は、第2実施形態に係る過給機駆動装置1Aのギヤ軸6Aを示す縦断面図である。この実施形態では、高速ギヤ8および低速ギヤ10が取り付けられたギヤ軸6Aにワンウェイクラッチ48およびスタータドラム49を介して電動スタータ50が連結されている。このスタータドラム49は、ギヤ軸6Aの外周に相対回転可能に嵌合されており、スタータドラム49の一端部に電動スタータ50と噛み合うスタータギヤ49aが設けられ、他端の円筒部49bと駆動ギヤ7Aとの間にワンウェイクラッチ48が介装されている。
【0029】
この実施形態によれば、電動スタータ50によって駆動されるスタータドラム49の方が駆動ギヤ7Aよりも高速になったときのみワンウェイクラッチ48がオンして、回転力がスタータドラム49から駆動ギヤ7Aに伝達される。逆に、エンジンが起動して駆動ギヤ7Aがスタータドラム49よりも高速になるとワンウェイクラッチ48がオフし、駆動ギヤ7Aからスタータドラム49に回転力が伝達されない。
【0030】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、ギヤ軸6の駆動ギヤ7,7Aにゴムダンパを設けて、エンジントルクの変動が遊星歯車装置20に伝達するのを低減させることもできる。また、遊星歯車装置20に代えて無段変速機を介して過給機12を駆動し、低回転では増速比大、高回転では増速比小と、増速比を可変させることもできる。これにより、低回転から大きなエンジントルクが得られ、高回転での過大なエンジントルクの発生が抑制される。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
2 クランク軸
3 ウェブ
4 バランサ軸
5 クランク軸ギヤ
6,6A ギヤ軸
12 過給機
20 遊星歯車装置
22 インペラ軸
24 インペラ
26 ハウジング
30 ケーシング
50 電動スタータ
E エンジン