【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業チーム型研究「エネルギー高効率利用のための相界面科学」における「固気液相界面メタフルイディクス」に関する「複雑構造体内の相変化現象の素過程の解明」、産業競争力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の多孔質体は、孔半径を前記第1の多孔質体の孔半径より大きくすることで、及び/又は、空隙率を前記第1の多孔質体の空隙率より大きくすることで、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率を大きくした請求項1〜4のいずれかに記載の冷却器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接触部に大きな熱流束が加えられると、従来のプール沸騰方式による冷却器では問題がある。
図3にその様子を示す。熱流束が大きくなるにつれて、作動流体の蒸発量が増加し、接触部が蒸気に覆われ始める。接触部が完全に蒸気に覆われて乾燥状態となり、接触部へ作動流体が供給されなくなると、冷却器の冷却能力は著しく劣化する。この状態の熱流束を「限界熱流束」という。
【0007】
従来のプール沸騰方式による冷却器の限界熱流束は、飽和状態において大気圧・水の条件下の場合1000kW/m
2程度であるのに対し(非特許文献1参照)、上記のような軽水炉の原子炉圧力容器底部のメルトスルーを防止するためには、冷却器に少なくとも2000kW/m
2程度以上の限界熱流束が求められる。
【0008】
これに対し、本発明者は、特開2009−139005号公報(特許文献1)において多孔質体を発熱体と冷却容器内の水との間に設けて、多孔質体の毛細管現象により水を発熱体へ供給しつつ、それにより発生した蒸気を容器内の水中へ排出する構造とすることで、簡易な構造で従来の限界熱流束を飛躍的に向上させている。しかしながら、より安全に原子炉圧力容器底部のメルトスルーを防止するためには、冷却効果をさらに高めた冷却器の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、簡易な構造で且つ良好な冷却効果を安定して有する冷却器及びそれを用いた冷却装置、並びに、発熱体の冷却方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は研究を重ねたところ、詳細は後述するが、特許文献1に開示された多孔質体を発熱体側に設けて第1の多孔質体とし、さらに、それに重ねるようにして、作動流体側に、第1の多孔質体よりも透過率が大きい第2の多孔質体とを備えることで、冷却効果をさらに向上させた冷却器を提供することが可能となることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の一態様は発熱体を冷却するための沸騰方式による冷却器であって、作動流体を収容する容器と、前記容器内において、前記作動流体と接するように且つ前記発熱体に対向するように設けられた冷却部材とを備え、前記冷却部材は、前記発熱体側に設けられた第1の多孔質体と、前記作動流体側に設けられた第2の多孔質体とを備えた積層構造に構成され、前記第1の多孔質体は、毛細管現象により前記作動流体を前記発熱体との接触部に供給する第1の作動流体供給部と、前記接触部で発生した蒸気を前記第2の多孔質体側へ排出する第1の蒸気排出部とを備え、前記第2の多孔質体は、前記作動流体を前記第1の多孔質体に供給する第2の作動流体供給部と、前記第1の多孔質体から排出された蒸気を前記作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部とを備え、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率が大きい多孔質体で形成されて
おり、前記第1の多孔質体及び前記第2の多孔質体が、いずれも多孔質層で構成され、前記第1の多孔質体の前記第1の蒸気排出部が、前記多孔質層を貫通する孔である冷却器である。
また、本発明の別の一態様は発熱体を冷却するための沸騰方式による冷却器であって、作動流体を収容する容器と、前記容器内において、前記作動流体と接するように且つ前記発熱体に対向するように設けられた冷却部材とを備え、前記冷却部材は、前記発熱体側に設けられた第1の多孔質体と、前記作動流体側に設けられた第2の多孔質体とを備えた積層構造に構成され、前記第1の多孔質体は、毛細管現象により前記作動流体を前記発熱体との接触部に供給する第1の作動流体供給部と、前記接触部で発生した蒸気を前記第2の多孔質体側へ排出する第1の蒸気排出部とを備え、前記第2の多孔質体は、前記作動流体を前記第1の多孔質体に供給する第2の作動流体供給部と、前記第1の多孔質体から排出された蒸気を前記作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部とを備え、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率が大きい多孔質体で形成されており、前記第1の多孔質体及び前記第2の多孔質体のいずれか一方が多孔質粒子の集合体で構成されており、他方が多孔質層で構成され、前記第1の多孔質体が多孔質層で構成されており、前記第1の蒸気排出部が、前記多孔質層を貫通する孔である冷却器である。
また、本発明の別の一態様は発熱体を冷却するための沸騰方式による冷却器であって、作動流体を収容する容器と、前記容器内において、前記作動流体と接するように且つ前記発熱体に対向するように設けられた冷却部材とを備え、前記冷却部材は、前記発熱体側に設けられた第1の多孔質体と、前記作動流体側に設けられた第2の多孔質体とを備えた積層構造に構成され、前記第1の多孔質体は、毛細管現象により前記作動流体を前記発熱体との接触部に供給する第1の作動流体供給部と、前記接触部で発生した蒸気を前記第2の多孔質体側へ排出する第1の蒸気排出部とを備え、前記第2の多孔質体は、前記作動流体を前記第1の多孔質体に供給する第2の作動流体供給部と、前記第1の多孔質体から排出された蒸気を前記作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部とを備え、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率が大きい多孔質体で形成されており、前記第1の多孔質体が多孔質ナノ粒子の集合体で構成されており、前記第2の多孔質体がメッシュ構造を有する多孔質層で構成されている冷却器である。
本発明の一実施形態に係る冷却器では、前記発熱体が原子炉圧力容器である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る冷却器では、前記第2の多孔質体は、孔半径を前記第1の多孔質体の孔半径より大きくすることで、及び/又は、空隙率を前記第1の多孔質体の空隙率より大きくすることで、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率を大きくしている。
【0018】
本発明の更に別の一実施形態に係る冷却器では、前記第1の多孔質体と、前記発熱体との接触部に隙間領域が形成されている。
【0019】
本発明の更に別の一実施形態に係る冷却器では、前記第2の多孔質体が金属で形成されている。
【0020】
本発明の更に別の一実施形態に係る冷却器では、前記金属で形成された第2の多孔質体の端部が前記発熱体に溶接により固定されている。
【0021】
本発明の更に別の一実施形態に係る冷却器では、前記発熱体に放熱フィンが溶接されており、前記放熱フィンに前記第2の多孔質体が溶接により固定されている。
【0022】
本発明は別の一態様は、本発明の冷却器と、前記冷却器の容器に接続され、蒸発した作動流体を液化するコンデンサとを備えた冷却装置である。
【0023】
本発明は更に別の一態様は、作動流体を収容した容器の作動流体中に、発熱体を少なくとも部分的に浸漬して発熱体を冷却する沸騰方式による冷却方法において、前記発熱体の作動液体に浸漬された部分の表面に、前記発熱体側に設けられた第1の多孔質体と、前記作動流体側に設けられた第2の多孔質体とを備えた積層構造に構成された冷却部材であり、前記第1の多孔質体は、毛細管現象により前記作動流体を前記発熱体との接触部に供給する第1の作動流体供給部と、前記接触部で発生した蒸気を前記第2の多孔質体側へ排出する第1の蒸気排出部とを備え、前記第2の多孔質体は、前記作動流体を前記第1の多孔質体に供給する第2の作動流体供給部と、前記第1の多孔質体から排出された蒸気を前記作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部とを備え、前記第1の多孔質体よりも前記作動流体の透過率が大きい多孔質体で形成されている冷却部材を装着する発熱体の冷却方法である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る発熱体の冷却方法では、前記作動流体中にナノ粒子を分散させておき、且つ、前記発熱体の作動液体に浸漬された部分の表面に、メッシュ構造を有する多孔質層で構成された前記第2の多孔質体を設けておき、発熱体からの熱によって、前記作動流体中のナノ粒子が沸騰する発熱体の伝熱面上で析出して多孔質ナノ粒子の集合体を構成することで前記第1の多孔質体を前記発熱体と前記第2の多孔質体との間に形成することで、前記発熱体の作動液体に浸漬された部分の表面に前記冷却部材を装着する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の冷却器及びそれを用いた冷却装置、並びに、発熱体の冷却方法は、少なくとも以下の効果を有する:
(1)原子炉圧力容器底部のメルトスルーを防止するために必要な2000kW/m
2程度、さらにはそれを超えて2500kW/m
2程度以上の限界熱流束を実現できる。
(2)第1の多孔質体の作動流体供給部と接触部で蒸気が発生すると毛細管現象により強制的に液体が接触部に供給されるので、プール沸騰冷却方式とする場合には水等の作動流体を収容する容器(水槽)は、水の流路やポンプ等を設ける必要が無く、単なる水溜を用いることができ、簡易な構造とすることができ、設置コストやランニングコストが安価となる。
(3)発熱体との接触部に設ける多孔質体の厚さは、毛管限界メカニズムの観点からは薄いほうがよいが、薄すぎると合体泡が多孔質体上部で滞留している間に多孔質体内部で液枯れが生じやすく、限界熱流束が小さくなる。そこで、本発明では発熱体との接触部に設ける多孔質体を第1の多孔質体とし、その上に(作動流体側に)、第1の多孔質体よりも作動流体の透過率が大きい第2の多孔質体を設けている。このような構成によれば、第1の多孔質体とその上方の蒸気塊との間に、作動流体を第1の多孔質体に向かって潤沢に液体を供給する第2の多孔質体が存在するため、第1の多孔質体の厚さを薄くしても、液枯れの発生が抑制され、限界熱流束が小さくなることを防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(実施形態1)
図4は、実施形態1に係るプール沸騰方式による冷却器を示している。冷却器は、作動流体を収容する容器と、容器内において、作動流体と接するように且つ発熱体に対向して接するように設けられた冷却部材とを備える。冷却部材は、発熱体側に設けられた第1の多孔質体と、作動流体側に設けられた第2の多孔質体との積層構造に構成されている。
【0028】
図5は、本実施形態に係る冷却部材を示している。
図5(A)は第1の多孔質体の平面図であり、
図5(B)は第2の多孔質体の平面図であり、
図5(C)は、冷却部材を接触部に設けた状態における5−5断面図である。第1の多孔質体は、
図5(A)に示したように、第1の作動流体供給部と第1の蒸気排出部とを備える。第1の作動流体供給部は、毛細管現象により発熱体との接触部に作動流体を供給する。第1の蒸気排出部は、発熱体からの熱により発生した蒸気を、接触部から第2の多孔質体側へ排出する。本実施形態では、第1の多孔質体は多孔質層で構成されており、例えば、多数の矩形状の孔を有するメッシュ構造を有し、矩形状の孔の周囲の格子状の多孔質層部分が毛細管現象により接触部に作動流体を供給する第1の作動流体供給部として機能し、矩形状の孔が接触部で発生した蒸気を第2の多孔質体側へ排出する第1の蒸気排出部として機能する。このように作動流体の供給と蒸気の排出を別個の経路を用いて行うことにより、
図3を参照して説明したように、蒸気が接触部を覆ってしまい限界熱流束が制限されるという問題の発生を抑制することができる。また第2の多孔質体は、
図5(B)に示すように、第1の多孔質体と同様に、多孔質層で構成されており、例えば、多数の矩形状の孔を有するメッシュ構造を有し、矩形状の孔の周囲の格子状の多孔質層部分が第1の多孔質体に作動流体を供給する第2の作動流体供給部として機能し、矩形状の孔が第1の多孔質体から排出された蒸気を作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部として機能する。そして、第2の多孔質体は、第1の多孔質体に比べて作動流体の透過率が大きく、作動流体を保持する機能を有し、第2の多孔質体上部で合体気泡が滞留する間にも、速やかに第1の多孔質体への作動流体の供給が行われるように機能する。
【0029】
第2の多孔質体は、多孔質体が有する孔半径を第1の多孔質体の孔半径より大きくして作動流体を通しやすくすることで、第1の多孔質体の透過率よりも作動流体の透過率を大きくすることができる。ここで、多孔質体が有する孔半径は、各多孔質体が元々備えている孔の半径であってもよいし、各多孔質体に形成した孔の半径であってもよい。ここで、多孔質体の孔の形状は、多角形状、円形状、楕円形状等、種々の形状とすることが可能であるが、本発明の「孔半径」は、そのような種々の孔形状における外接円の半径を示す。さらに、第2の多孔質体は、多孔質体の空隙率を第1の多孔質体の空隙率より大きくして作動流体を通しやすくすることで、第1の多孔質体の透過率よりも作動流体の透過率を大きくすることができる。多孔質体の空隙率は、例えば、多孔質体の製造工程において金属粉末と混合させるバインダーの粒径・量などを調整することによって大きくすることができる。
【0030】
作動流体は、たとえば水、低温流体、冷媒、有機溶媒等の表面張力を有する液体とすることができる。
【0031】
第1の多孔質体の形状としては、多孔質体の接触部への接触面積が大きくなるため接触部で発生した蒸気を水中へ逃がすための孔の大きさは小さいほうがよく、例えば、100〜2000μmとすることができる。また、多孔質底部を通過する場合の圧力損失を小さくできるため、接触部で発生した蒸気を水中へ逃がすための孔と孔の間隔は小さい方がよく、例えば、100〜1000μmとすることができる。
【0032】
第1の多孔質体における第1の作動流体供給部を構成する多孔質は、たとえばコーディライト等のセラミックスまたは焼結金属とすることができる。特に酸化物等の濡れ性の良い多孔質体、または、プラズマ照射等の濡れ性が向上する加工が施された多孔質体で構成されるのが望ましい。
【0033】
第1の多孔質体は、第1の作動流体供給部において、液体の蒸発が起これば毛細管現象により接触部に作動流体を供給するが、毛管力による液体供給の限界メカニズムを考慮すれば、毛細管の長さ(すなわち、第1の多孔質体の厚さ)は薄いほうがよりその限界、すなわち「限界熱流束」を高くすることができる。一方、
図3において、高熱流束条件下の接触部上で蒸気塊が形成される様子を示したが、その蒸気塊の体積は時間と共に増大し、やがて接触部から切断離脱する。この蒸気塊と接触部近傍をより詳細に説明すれば、蒸気塊と接触部の間(すなわち蒸気塊の底部)には、有限厚さの液膜(一般に、マクロ液膜と呼ばれる)が存在する。このような高熱流束条件下においては、蒸気塊がマクロ液膜上に滞留している間に蒸気塊底部のマクロ液膜が蒸発消耗し尽くすときにバーンアウトが発生する。このときの熱流束が「限界熱流束」と呼ばれる。第1の多孔質体の厚さは、上述の通り毛管力による液体供給の限界メカニズム(毛管限界メカニズム)から薄いほうがよいが、薄過ぎてマクロ液膜の厚さと同程度であると、第1多孔質体の接触部近傍で液枯れが生じやすく、限界熱流束が小さくなる。
【0034】
このように、発熱体との接触部に設ける多孔質体の厚さは、毛管限界メカニズムの観点からは薄いほうがよいが、マクロ液膜の厚さより薄いと多孔質体内部で液枯れが生じやすく、限界熱流束が小さくなるという問題がある。そこで、本発明では、発熱体との接触部に設ける多孔質体を第1の多孔質体とし、その上に(作動流体側に)、第1の多孔質体よりも作動流体の透過率が大きい第2の多孔質体を設けている。このような構成によれば、第1の多孔質体とその上方の蒸気塊との間に、作動流体を第1の多孔質体に向かって潤沢に液体を供給する第2の多孔質体が存在するため、第1の多孔質体の厚さを薄くしても、液枯れの発生が抑制され、限界熱流束が小さくなることを防ぐことができる。また、第2の多孔質体の液供給量は多いほど好ましいため、第2の多孔質体の厚みも大きくするのが好ましい。具体的には、例えば、第1の多孔質体の厚さを100μm程度と薄くする場合、第2の多孔質体の厚さは1〜2mm以上程度とするのが好ましい。
【0035】
第2の多孔質体は、コーディライト等のセラミックスで形成してもよいが、特に加工性や強度の点から金属で形成するのが好ましい。特に酸化物等の濡れ性の良い多孔質体、または、プラズマ照射等の濡れ性が向上する加工が施された多孔質体で構成されるのが望ましい。
【0036】
なお、
図5には第1の多孔質体及び第2の多孔質体がいずれもが円形であり、第1及び第2の蒸気排出部がいずれも格子状である形態を示したが、このような形態に限定する意図はない。第1及び第2の蒸気排出部は、例えばハニカム状としてもよい。また
図5には第1及び第2の作動流体供給部及び蒸気排出部が下方の接触部及び上方の作動流体側に直交するように図示してあるが、第1及び第2の作動流体供給部及び蒸気排出部は、接触部に接する面と作動流体に接する面との間の経路をそれぞれ与えるものであれば、直交せずに、例えば、湾曲した経路や折れ曲がった経路となるように構成されていてもよい。また、本実施形態では、上述のように、各多孔質体が有する矩形状の孔が蒸気排出部として機能するが、当該孔の形状は特に限定されず、その他の多角形状、円形状、楕円形状等であってもよい。また、当該孔は各多孔質体が元々備えている孔であってもよいし、各多孔質体に形成した孔であってもよい。
【0037】
また、第1の多孔質体と第2の多孔質体との形態は特に限定されず、例えば、第1の多孔質体及び第2の多孔質体が、いずれも多孔質粒子の集合体で構成されていてもよい。また、第1の多孔質体及び第2の多孔質体が、いずれも多孔質層で構成されていてもよい。さらに、第1の多孔質体及び第2の多孔質体のいずれか一方が多孔質粒子の集合体で構成されており、他方が多孔質層で構成されていてもよい。第1の多孔質体、第2の多孔質体が、多孔質粒子の集合体で構成されている場合、例えば複数の多孔質粒子間の隙間が蒸気排出部としての機能を有し、当該隙間の周囲の部材が作動流体供給部として機能する構成とすることができる。
【0038】
また、冷却部材の積層構造は、第1の多孔質体と、第2の多孔質体とで構成されたものに限定されず、第2の多孔質体の作動流体側にさらに第3の多孔質体を設けて、全体で3層の積層構造としてもよい。この場合、第3の多孔質体は、作動流体を第2の多孔質体に供給する作動流体供給部と、第2の多孔質体から排出された蒸気を作動流体中へ排出する蒸気排出部とを備えている。同様に、冷却部材の積層構造は、第2の多孔質体の作動流体側に複数の多孔質体を積層させて全体で4層以上の構成としてもよい。
【0039】
冷却部材の第1の多孔質体と、発熱体との接触部に隙間領域が形成されているのが好ましい。第1の多孔質体の第1の作動流体供給部の底面で生じた蒸気は、第1の作動流体供給部の底面に沿って進むことで第1の蒸気排出部へ出て、第1の蒸気排出部から上方へ向かって排出される。ここで、冷却部材の第1の多孔質体と、発熱体との接触部に隙間領域が形成されていると、当該隙間領域が第1の多孔質体の底面で生じた蒸気の通路となり、蒸気の排出が促進され、限界熱流束が向上する。当該隙間領域は、接触部表面をあえて粗面に加工してもよいが、蒸気の排出に必要な隙間領域はごく僅かであるため、単に第1の多孔質体を接触部に接触させるだけで、はじめから有する接触部の表面の粗さで十分な隙間領域が形成される。なお、隙間領域が無くなるため蒸気の排出性は下がるが、第1の多孔質体は接着剤で接触部に固定してあってもよい。
【0040】
また、本発明の別の態様としては、発熱体全体を作動流体中に浸漬する、または発熱体の一部を作動流体の液面から一部浸漬して冷却を行うこともできる。この場合には、発熱体は浮遊した状態、容器底面に載置された状態など場合により種々の形態をとるが、要は作動流体に浸漬されている部分に第1の多孔質体と第2の多孔質体とを備えた積層構造を有する冷却部材を取り付けることにより、前記例と同様にして冷却を行うことができる。
【0041】
本発明によれば、第1の多孔質体の作動流体供給部と接触部で蒸気が発生すると毛細管現象により強制的に液体が接触部に供給されるので、水等の作動流体を収容する容器(水槽)は、プール沸騰冷却方式とする場合には水の流路等を設ける必要が無く、単なる水溜を用いることができ、さらにはポンプが不要となり、簡易な構造とすることができ、設置コストやランニングコストが安価となる。また、本発明では発熱体との接触部に設ける多孔質体を第1の多孔質体とし、その上に(作動流体側に)、第1の多孔質体よりも作動流体の透過率が大きい第2の多孔質体を設けている。このような構成により、第1の多孔質体とその上方の蒸気塊との間に、作動流体を第1の多孔質体に向かって潤沢に液体を供給する第2の多孔質体が存在するため、第1の多孔質体の厚さを薄くしても、液枯れの発生が抑制され、限界熱流束が小さくなることを防ぐことができる。なお、設置コスト、ランニングコストはプール沸騰冷却方式に比してかかるが、流路を設け、ポンプで作動流体を循環させる強制流動沸騰冷却の場合にも、同様な方法で限界熱流束の低下を防ぐことができる。
【0042】
(実施形態2)
図6に、実施形態2に係る軽水炉の原子炉圧力容器底部の冷却器の模式図を示す。原子炉の側方から周方向に原子炉を囲むように支持リングが取り付けられ、支持リングに支持されたハニカム装着ネット(金属メッシュ)が取り付けられている。ハニカム装着ネットは、金属製でなくてもよく、耐熱樹脂で形成してもよい。原子炉圧力容器底部の冷却器の取り付け方法としては、まず、ハニカム状の第1多孔質体及び第2多孔質体との積層構造を有する冷却部材を、原子炉圧力容器底部を覆うように設け、仮止めする。次に、支持リングからハニカム装着ネットを下ろして原子炉圧力容器底部を覆った後に、支持リング近傍でハニカム装着ネットを引き寄せてハニカム装着ネットを原子炉圧力容器底部に接触させる。こうすることで、簡便に原子炉圧力容器底部に冷却器を取り付けることができる。冷却部材は、上記ハニカム装着ネットによって下から保持される構造となっている。ハニカム装着ネットはメッシュでなくてもよく、施工がより簡便であるため複数のテープを用いて形成してもよい。また、原子炉圧力容器底部の最深部を含む一部が水を収容した容器内に浸漬されている。冷却部材の第1多孔質体及び第2多孔質体は、実施形態1と同様の構造を有しており、良好な限界熱流束を実現し、原子炉圧力容器底部のメルトスルーを防止するために必要な2000kW/m
2程度、さらにはそれを超えて2500kW/m
2程度以上の限界熱流束を実現できる。このように、本発明に係る冷却器は、特に原子炉事故時の原子炉圧力容器の底部の冷却に好適である。また、
図6では、冷却部材を原子炉圧力容器底部の一部を覆っているが、原子炉圧力容器底部の、水を収容した容器内に浸漬された部分の全てを覆うように設けてもよい。
【0043】
実施形態2の原子炉圧力容器底部を覆うようにハニカム状の第1多孔質体及び第2多孔質体を備えた冷却部材は、ハニカム装着ネットを用いないで支持されてもよい。例えば、
図7に示すように、第2の多孔質体を金属で形成し、その端部を発熱体である原子炉圧力容器底部に溶接により固定することで、第1及び2の多孔質体が支持されてもよい。溶接は、作業が容易であって十分な支持力が得られるため、スポット溶接であるのが好ましい。また、発熱体に放熱フィンが溶接されており、放熱フィンに第2の多孔質体が溶接により固定されていてもよい。このような構成によれば、発熱体からの熱が放熱フィンから放出されることで、より良好に発熱体の冷却を行うことができる。
【0044】
また、実施形態2において、
図8(A)に示すように第1の多孔質体及び第2の多孔質体が、いずれも多孔質粒子の集合体で構成されていてもよい。また、
図8(B)に示すように第1の多孔質体及び第2の多孔質体が、いずれも多孔質層で構成されていてもよい。さらに、
図8(C)に示すように第1の多孔質体及び第2の多孔質体のいずれか一方が多孔質粒子の集合体で構成されており、他方が多孔質層で構成されていてもよい。
図8において、多孔質体が多孔質粒子の集合体で構成されている場合、多孔質粒子の集合体は、当該粒子が通り抜けられない程度の目の細かいメッシュ材で包まれている。当該メッシュ材としては、特に限定しないが、例えば、金属製、或いは耐熱樹脂製のハニカム装着ネット等で形成することができる。
【0045】
(実施形態3)
図9は、実施形態3に係る冷却装置を示している。冷却装置は、実施形態1に係る冷却器と、容器に接続されたコンデンサとを備える。コンデンサにおいて、蒸発した作動流体が液化されて、容器に戻る。冷却装置は、ポンプなどの外部動力源を必要とせず、装置全体としてのコンパクト性および省エネルギー性が優れている。
図10は、実施形態3に係る冷却装置の変形形態を示している。なお、
図9および10の構成を実施形態2の冷却器とともに用いることもできる。
【0046】
(実施形態4)
本発明の冷却装置は、実施形態4として、冷却部材を構成する第1の多孔質体から第2の多孔質体までを、孔径が小さい多孔質体から、徐々に孔径が大きい多孔質体が段階的に積層されるように構成してもよい。また、このときバルクの液体に直接接する側の多孔質体の細孔径を水等の作動流体中に多く存在するゴミ等の微粒子の直径と異なるように、好ましくは大きく異なるように形成するのが好ましい。例えば、バルクの液体に直接接する側の多孔質体の細孔径を当該微粒子の直径より十分大きく、又は、十分小さく形成するのが好ましい。このような構成によれば、作動流体中に存在する微粒子が多孔質体内の深部にまで入り込んで発生する目詰まり現象を抑制する効果が期待でき、多孔質体による伝熱面への液体供給効果を長時間維持する効果が得られる。原理的には、例えば、孔径が小さい多孔質体から、徐々に孔径が大きい多孔質体が段階的に積層されるように構成され、且つ、多孔質体の最も外側の細孔径が、作動流体中のゴミの粒子径がより十分大きい又は十分小さいと、流入してきたゴミの粒子は、すぐに多孔質体内部の深部まで侵入せずに、多孔質体内に入ってすぐの部位に形成される澱み等の影響で、多孔質体の入口付近から溜まっていく。従って、多孔質体の最も外側の300μmの細孔から目詰まりすることとなり、微粒子が多孔質体内部の深部まで侵入して多孔質体内部にまで目詰まりを形成することが良好に抑制される。
【0047】
(実施形態5)
図14は、実施形態5に係る冷却装置を示している。
図14に示すように、第1の多孔質体が多孔質ナノ粒子の集合体で構成されており、第2の多孔質体がメッシュ構造を有する多孔質層で構成されていてもよい。
図14(A)は多数の矩形状の孔を有するメッシュ構造の多孔質層で構成された第2の多孔質体の平面図であり、
図14(B)は、冷却部材を接触部に設けた状態における5−5断面図である。第1の多孔質体は、平均粒径10〜50nmのナノ粒子の集合体で構成されている。ナノ粒子としては、例えば金属、合金、酸化物、窒化物、炭化物、炭素等を用いることができる。
【0048】
実施形態5に係る冷却部材の設置方法としては、例えば、ナノ粒子を拡散させた水溶液を、第1の多孔質体を形成させたい位置である伝熱面上に所定の手段で設け、その状態を保ちながら伝熱面上で加熱により沸騰させる。このようにして多孔質ナノ粒子が沸騰する伝熱面上で析出して集合体を構成し、これが第1の多孔質体となる。次に、当該多孔質ナノ粒子の集合体上にメッシュ構造を有する多孔質層で構成した第2の多孔質体を設ける。これにより、多孔質ナノ粒子の集合体で構成された第1の多孔質体と、メッシュ構造を有する多孔質層で構成された第2の多孔質体とで構成された冷却部材を設けることができる。また、当該冷却部材を設ける方法としては、発熱体の表面に第2の多孔質体を設けておき、続いて、発熱体の表面と第2の多孔質体との間に第1の多孔質体を設けてもよい。このような構成としては、例えば、作動流体中にナノ粒子を分散させておき、且つ、発熱体の作動液体に浸漬された部分の表面に、メッシュ構造を有する多孔質層で構成された第2の多孔質体を設けておき、発熱体からの熱によって、作動流体中のナノ粒子が沸騰する発熱体の伝熱面上で析出して多孔質ナノ粒子の集合体を構成することで第1の多孔質体を発熱体と第2の多孔質体との間に形成することで、発熱体の作動液体に浸漬された部分の表面に冷却部材を装着する。具体的には、例えば、原子炉の圧力容器にハニカム多孔質体(第2の多孔質体)を予め設けておき、事故発生時に作動流体にナノ粒子を供給して分散させる。続いて、圧力容器の作動流体側表面(伝熱面)でナノ粒子を含んだ作動流体が沸騰することで、伝熱面表面と第2の多孔質体との間に多孔質ナノ粒子の集合体で構成された第1の多孔質体が形成される。
【0049】
実施形態5において、第1の多孔質体を構成するナノ粒子の集合体が、粒子間或いは粒子内の多数の細孔が、第1の作動流体供給部又は第1の蒸気排出部を構成している。本実施形態でも、第1の多孔質体が、作動流体の供給と蒸気の排出を別個の経路を用いて行うことにより、
図3を参照して説明したように、蒸気が接触部を覆ってしまい限界熱流束が制限されるという問題の発生を抑制することができる。また第2の多孔質体は、矩形状の孔の周囲の格子状の多孔質層部分が第1の多孔質体に作動流体を供給する第2の作動流体供給部として機能し、矩形状の孔が第1の多孔質体から排出された蒸気を作動流体中へ排出する第2の蒸気排出部として機能する。そして、第2の多孔質体は、第1の多孔質体に比べて作動流体の透過率が大きく、作動流体を保持する機能を有し、第2の多孔質体上部で合体気泡が滞留する間にも、速やかに第1の多孔質体への作動流体の供給が行われるように機能する。また、実施形態5では、第1の多孔質体が多孔質ナノ粒子の集合体で構成されているため、伝熱面の濡れ性が良好となり、メッシュ構造を有する多孔質層で構成した第2の多孔質体を用いて、より伝熱面への作動流体の供給性が良好となる。これにより、伝熱面の乾燥領域が生じ難くなり、限界熱流束が小さくなることを防ぐことができる。
【0050】
本発明は、原子炉圧力容器の冷却の他、種々の電子機器、その他の高発熱密度を有する熱機器全般に適用可能である。たとえば、核融合炉のダイバータ冷却、キャピラリーポンプループの高性能化、半導体レーザ、データセンターのサーバの冷却、フロン冷却式チョッパ制御装置、パワー電子機器等が考えられる。または、ガラスやアルミの溶融炉の側部や底部から周囲環境へ放散する熱を節減して、高温作業環境を改善する水冷ジャケットに適用可能である。さらに、大型ごみ焼却炉等の耐火壁を外部から冷却して損傷を軽減するための、耐火壁側部や耐火壁底部に設置する水冷ジャケットに適用可能である。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(試験例1)
図11に実験装置の概略図を示す。作動流体と接する接触部の直径を30mmとした。発熱体として、カートリッジヒータが埋め込まれた銅円柱を用いた。カートリッジヒータに印可する電圧を可変単巻変圧器でコントロールすることで加熱量を制御した。接触部からそれぞれ5.4mm、11.4mmの銅円柱中心軸上に設置した2つのφ0.5K型シース熱電対からの出力を用いて外挿して接触部の過熱度を、指示温度差と設定距離及び熱伝導率からフーリエの式で熱流束を求めた。容器は、内径87mm、外形100mmのパイレックス(登録商標)チューブとし、内部沸騰の様相を観察できるようにした。作動液体は、蒸留水を深さが60mmとなるようにし、ヒータで加熱して飽和温度に維持した。発生した蒸気は、パイレックス(登録商標)チューブの上端に設けたコンデンサで凝縮させて容器内に戻した。
【0053】
冷却部材の第1の多孔質体として、組成が酢酸セルロースと硝酸セルロースの混合物の円板(商品名:MF−ミリポア)を使用した。第1の多孔質体の円板の直径は30mm、孔半径は0.8μm、空隙率は80%、板厚は0.15mmであった。冷却部材の第2の多孔質体として、SUS板の多孔質体の円板(SUS316L)を使用した。第2の多孔質体の円板の直径は30mm、孔半径は10μm、空隙率は70%、板厚は1mmであり、第2の多孔質体の透過率は第1の多孔質体の10倍程度であった。
このような構成の第1の多孔質体上に第2の多孔質体を載せ、冷却部材とした。
【0054】
実験は、大気圧(0.1MPa)のもとで、カードリッジヒータの電圧を5Vずつ上げながら加熱を行い、十分定常状態になったのを確認して、熱電対の出力電圧を記録した。ここで定常状態か否かは、20分間の温度変化が1K以下であるか否かにより判断した。この操作を定常状態が保てなくなるまで繰り返した。上述の冷却部材を設置した場合に加えて、冷却部材を設置しない場合(裸面)、第1の多孔質体のみ、及び、第2の多孔質体のみ設置した場合についても比較のため実験を行った。
【0055】
図12に実験で得られた沸騰曲線を示す。沸騰曲線とは、沸騰伝熱の特性を表し、縦軸に熱流束、横軸に発熱体温度と液体の飽和温度との差、すなわち接触部の過熱度ΔTsat[K]をとるものである。図中の矢印は、冷却能力が著しく劣化し接触部の温度が急上昇する点であるバーンアウト発生点を示し、その時の限界熱流束の値[MW/m
2]を図中に示してある。接触部に何も設置しない場合、すなわち裸面の場合には、限界熱流束は0.8MW/m
2であったが、第1の多孔質体のみを接触部に設置した場合には、限界熱流束は1.46MW/m
2となり、裸面の場合より向上した。一方、第1及び第2の多孔質体を設置した場合には、限界熱流束は2.41MW/m
2でも安定して除熱することができた。なお、このとき限界熱流束の状態となる前にヒータが破損したため、
図12で示した2.41MW/m
2は、まだ限界熱流束の値ではない。
図12から、冷却部材を設けた場合は、他の場合に比べて限界熱流束が非常に高く、目標となる2.5MW/m
2に近い結果が得られた。さらに第2の多孔質体の影響を検討するために、第2の多孔質体のみを設置した場合についても実験を行った。その結果、限界熱流束は、1.60MW/m
2となり、第1及び第2の多孔質体を設置した場合の限界熱流束より、小さい値となった.したがって、第1及び第2の多孔質体を設置した場合が最も限界熱流束が高くなることがわかった。
【0056】
(試験例2)
続いて、接触部表面(伝熱面)の表面粗さと限界熱流束との関係を検討するため、試験例1の実験装置、第1の多孔質体、第2の多孔質体を用いて以下の試験を行った。
まず、試験例1の実験装置の作動流体と接する接触部の表面をサンドペーパー(♯40)で研磨し、その上に第1の多孔質体、第2の多孔質体をこの順で設けて冷却部材とした。また、試験例1の実験装置の作動流体と接する接触部の表面をサンドペーパー(♯80)で研磨し、その上に第1の多孔質体、第2の多孔質体をこの順で設けて冷却部材とした。さらに、試験例1の実験装置の作動流体と接する接触部の表面を研磨しないで、接着剤を介して第1の多孔質体を設け、さらにその上に第2の多孔質体を設けて冷却部材とした。
【0057】
これらの冷却部材について、試験例1と同様の手順にて沸騰曲線を得た。
図13にこのとき得られた沸騰曲線を示す。
図13より、最も接触部表面(伝熱面)の表面粗さが粗い、接触部材の表面をサンドペーパー(♯40)で研磨して試験した冷却部材の限界熱流束が最も良好であった。
【0058】
(試験例3)
図11に示した実験装置と同タイプの装置を用いて、実施形態5で示した冷却部材に係る限界熱流束を評価するため、以下の試験を行った。試験例3では、作動流体と接する接触部の直径を30mm、及び、10mmとした。発熱体として、カートリッジヒータが埋め込まれた銅円柱を用いた。カートリッジヒータに印加する電圧を可変単巻変圧器でコントロールすることで加熱量を制御した。接触部からそれぞれ9.94mm、15.16mmの銅円柱中心軸上に設置した2つのφ0.5K型シース熱電対からの出力を用いて外挿して接触部の過熱度を、指示温度差と設定距離及び熱伝導率からフーリエの式で熱流束を求めた。容器は、内径87mm、外形100mmのパイレックス(登録商標)チューブとし、内部沸騰の様相を観察できるようにした。作動液体は、蒸留水を深さが60mmとなるようにし、ヒータで加熱して飽和温度に維持した。発生した蒸気は、パイレックス(登録商標)チューブの上端に設けたコンデンサで凝縮させて容器内に戻した。
【0059】
冷却部材の第1の多孔質体として、以下のようにして、多孔質ナノ粒子の集合体を作製した。すなわち、まず、あらかじめ準備した蒸留水の入ったビーカー中に、ナノ粒子として、電子天秤で秤量した二酸化チタン(平均粒径21nm)を入れて分散させた。このとき、ナノ粒子(二酸化チタン)濃度は0.04g/Lであった。次に、
図11で示す伝熱面を容器内に設けて蒸留水を供給し、当該容器内の水を沸騰させた。なお、伝熱面はあらかじめ研磨しておいた。
図15(a)に、伝熱面研磨後の伝熱面観察写真を示す。続いて、沸騰水の入った容器内に前述のナノ粒子が分散した水を注入した。このまま20分間の沸騰を続けた後、ナノ粒子の分散した水を容器から取り出し、伝熱面を蒸留水で洗浄した。このようにして、伝熱面がナノ粒子でコーティングされる。当該ナノ粒子のコーティング層が、伝熱面上に形成された第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)を構成している。
図15(b)に、伝熱面のナノ粒子コーティング後の伝熱面観察写真を示す。
次に、冷却部材の第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)として、SUS板の多孔質体の円板(SUS316L)を使用した。第2の多孔質体の円板の直径は30mmのものと10mmのものとを用意した。いずれも、孔半径は10μm、空隙率は70%、板厚は1mmであった。
このような構成の第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)を第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)上に載せ、冷却部材とした。
【0060】
実験は、大気圧(0.1MPa)のもとで、カードリッジヒータの電圧を5Vずつ上げながら加熱を行い、十分定常状態になったのを確認して、熱電対の出力電圧を記録した。ここで定常状態か否かは、20分間の温度変化が1K以下であるか否かにより判断した。この操作を定常状態が保てなくなるまで繰り返した。上述の冷却部材を設置した場合に加えて、冷却部材を設置しない場合(裸面)、第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)のみ、及び、第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)のみ設置した場合についても比較のため実験を行った。
【0061】
図16に実験で得られた沸騰曲線を示す。接触部に何も設置しない場合、すなわち裸面の場合には、限界熱流束は1.4MW/m
2(伝熱面φ10mm)、0.9MW/m
2(伝熱面φ30mm)であったが、第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)のみを接触部に設置した場合には、限界熱流束は2.0MW/m
2(伝熱面φ10mm)、1.2MW/m
2(伝熱面φ30mm)となり、裸面の場合より向上した。一方、第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)及び第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)を設置した場合には、限界熱流束は3.1MW/m
2(伝熱面φ10mm)、2.2MW/m
2(伝熱面φ30mm)でも安定して除熱することができた。なお、このとき限界熱流束の状態となる前にヒータが破損したため、
図16で示した3.1MW/m
2(伝熱面φ10mm)、2.2MW/m
2(伝熱面φ30mm)は、まだ限界熱流束の値ではない。さらに第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)のみを設置した場合についても実験を行った。その結果、限界熱流束は、2.8MW/m
2(伝熱面φ10mm)、1.7MW/m
2(伝熱面φ30mm)となり、第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)及び第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)を設置した場合の限界熱流束より、小さい値となった。したがって、第1の多孔質体(多孔質ナノ粒子の集合体)及び第2の多孔質体(メッシュ構造を有する多孔質層)を設置した場合が最も限界熱流束が高くなることがわかった。