(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882295
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】担持ガス分離膜を形成する方法および装置
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20160225BHJP
B01D 67/00 20060101ALI20160225BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
B01D71/02 500
B01D67/00
B01D69/12
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-501445(P2013-501445)
(86)(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公表番号】特表2013-523423(P2013-523423A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】US2011029744
(87)【国際公開番号】WO2011119800
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】61/317,894
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002105
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソウカイテイス,ジヨン・チヤールズ
【審査官】
目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−513339(JP,A)
【文献】
特開2007−190455(JP,A)
【文献】
特開2008−086910(JP,A)
【文献】
特開2002−153737(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/118560(WO,A1)
【文献】
特表2010−519026(JP,A)
【文献】
特開2008−212812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00−71/82
B01D53/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合ガス分離モジュールを作る方法であって、前記方法は、
表面を備えてその上に金属膜層を有する多孔質支持体を提供するステップと、
前記表面および前記金属膜層の上に、その上への後続金属膜層の配置のために強化された活性化特性を有する活性化表面を提供する、0.5μmから10μmの範囲内の最大ピーク高さを有する表面形態を付与するステップと、
化学活性化溶液を適用することなく、前記活性化表面上に前記後続金属膜層を配置するステップと、
焼き鈍し金属層を提供するために前記後続金属膜層を焼き鈍すステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記表面形態が粗さを含み、前記活性化表面上のいずれか選択された表面領域で、前記いずれか選択された表面領域が0.05μmから0.8μmの範囲内の平均表面粗さ(Sa)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記いずれか選択された表面領域内の前記平均表面粗さが、0.1μmから0.6μmの範囲内である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記いずれか選択された表面領域内の前記粗さが、0.1μmから1μmの範囲内の二乗平均平方根粗さ(Sq)を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記いずれか選択された表面領域内の前記粗さが、−0.6から0の範囲内の歪みを有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記いずれか選択された表面領域内の前記粗さが、0から10の範囲内の尖度を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記表面形態が交線を含み、前記交線は10から90度の範囲内の角度で交差して、前記交線は0.1から1.5ミクロンの範囲内の深さを有し、前記表面形態は粗さを含み、前記活性化表面上のいずれか選択された表面領域で、前記いずれか選択された表面領域は0.05μmから0.8μmの範囲内の平均表面粗さ(Sa)を有し、前記選択された表面領域内の前記粗さは、0.1μmから1μmの範囲内の二乗平均平方根粗さ(Sq)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
複合ガス分離モジュールを作るシステムであって、前記システムは、
表面を備えてその上に金属膜層を有する多孔質支持体と、
前記表面および前記金属膜層上に、その上への後続金属膜層の配置のために強化された活性化特性を有する活性化表面を提供する、0.5μmから10μmの範囲内の最大ピーク高さを有する表面形態を付与する手段と、
化学活性化溶液を適用することなく、前記活性化表面上に前記後続金属膜層を配置する手段と、
焼き鈍し金属層を提供するために前記後続金属膜層を焼き鈍す手段と、を含むシステム。
【請求項9】
前記付与手段が、1から10ミクロンの範囲内の平均粒子径を持つ研削粒子を有する研磨紙を含み、前記研磨紙の前記研削粒子は、炭化ケイ素、アルファアルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、カルシウム、マグネシウム、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される複合材料を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記付与手段が、前記多孔質支持体と同じ方向に回転可能な研削装置を含み、前記研削装置は、前記多孔質支持体の回転軸に沿って移動することができる、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記表面形態が粗さを含み、前記活性化表面上のいずれか選択された表面領域で、前記いずれか選択された表面領域は0.2から0.5ミクロンの範囲内の平均表面粗さを有する、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記いずれか選択された表面領域内の前記粗さが、0.2から0.4ミクロンの範囲内の二乗平均平方根粗さを有する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記選択された表面領域内の前記粗さが、−0.6から0の範囲内の歪みを有する、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記いずれか選択された表面領域内の前記粗さが、0から10の範囲内の尖度を有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記表面形態が交線を含み、前記交線は10から90度の範囲内の角度で交差して、前記交線は0.1から1.5ミクロンの範囲内の深さを有する、請求項14に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に様々なガスの混合物から特定のガスを分離するために使用される複合ガス分離モジュールに関し、具体的には、このようなモジュールを製造および再調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合ガス分離モジュールは、ガス混合物から特定のガスを選択的に分離するために、一般的に用いられる。これらの複合ガス分離モジュールは、様々な材料で作られることが可能であるが、最も一般的に使用される2つの材料は、ポリマおよび金属複合材である。ポリマ膜は低温でのガスの分離に対して効果的で費用効果の高い選択肢を提供することができる一方で、これらは高温および高圧を必要とするガス分離プロセスに適していない場合が多い;これは、熱分解する傾向があるからである。より厳しい環境規制と相まって、高温処理に対する需要は、高流量、高選択性、および高温で動作する能力を提供する複合ガス分離モジュールを必要としている。
【0003】
先行技術は、多孔質基板上に支持されて高温ガス分離用途に用いられてもよい、様々な種類のガス分離膜、およびガス分離膜を製造する方法を、開示している。多孔質基板上に薄く高密度のガス選択膜層を蒸着させる周知の技術の多くは、厚みが均一ではない表面を残すことが多い技術を用いる。これらの技術の1つは、米国特許第7,175,694号明細書に記載されている。この特許は、多孔質金属基板、中間多孔質金属層、および高密度水素選択性膜を含む、ガス分離モジュールを開示している。この特許は、その表面から好ましくない形態を除去するために、中間多孔質金属層が研削または研磨されてもよく、その後高密度ガス選択金属膜層が蒸着されることを、教示している。この特許は、中間多孔質金属層の研削または研磨の目的がその表面から望ましくない形態を除去することであると示唆しているものの、付加的な活性化が必要とされないような表面形態を備える膜層を形成する目的でこのような研削または研磨が用いられてもよいという提案はない。また、その後のガス選択金属膜層の蒸着を改善するために中間金属層に特定の表面粗さを付与するように研削または研磨がなされるべきであるという提案も、ない。
【0004】
パラジウム複合ガス分離モジュールを製造する1つの方法は、金属複合材ガス分離膜システムを作る方法を示す、米国特許出願公開第2009/0120287号明細書に開示されている。膜システムは、多孔質支持体と、膜厚を減少させるために超微細研磨剤の使用によって膜層の大部分が除去された多孔質支持体を覆うガス選択材料の第一膜層と、薄化された膜層を覆うガス選択材料の第二層と、を含むことができる。第一膜層は、複数回のめっきによって蒸着されるパラジウムを含んでもよい。このパラジウム膜層はその後、その厚みを減少させるために膜の大部分を除去するため研削され、より滑らかに仕上がるよう研磨される。第二パラジウム層は、新たに薄化された層上に引き続き蒸着される。研削ステップは、膜厚の減少を提供するが、しかしこれが、追加金属膜層の、その上への配置または蒸着のための強化された活性化特性を有する特殊な表面形態を提供するという言及は、ない。
【0005】
多孔質基板上に支持される、ガス分離に用いられる金属膜を作る先行技術の方法の多くにおいて、多孔質基板の表面、ならびに各々の付着の間の金属層および膜の表面は、活性化溶液と接触することによって表面活性化される必要がある。このような活性化溶液の一例は、塩化第一スズ(SnCl
2)、塩化パラジウム(PdCl
2)、塩酸(HCl)、および水の混合物を含む。この活性化方法は、乾燥および、さらに焼き鈍しを挟みながら、活性化溶液の複数回の適用を要する場合が多い。これらの洗浄および乾燥ステップは面倒であり、有害な水性廃棄物を生成し、そして完了するまでに相当な時間を要する。活性化ステップはまた、引き続き金属めっきまたは蒸着の速度低下、および金属の不均一なめっきを生じる傾向もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,175,694号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0120287号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開2009/0120293号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガスの分離に使用されてもよい、薄く高密度で厚みが比較的均一な、支持金属膜を作る方法を有することが、望ましい。
【0008】
方法は、支持体および中間金属膜層の表面の中間的な化学活性化を必要とせずに、支持金属膜の製造において複数の金属めっきステップを許容することが、さらに望ましい。
【0009】
方法は、支持金属膜の製造においてより少ない量の廃棄物および揮発性有機溶剤を生成することも、望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複合ガス分離モジュールを作る方法を対象とする。方法は:金属膜層を有する多孔質支持体を提供するステップと;金属膜層の表面上に、その上への後続金属膜層の配置のために強化された活性化特性を有する活性化表面を提供する表面形態を付与するステップと;活性化表面上に後続金属膜層を配置するステップと;焼き鈍し金属層を提供するために後続金属膜層を焼き鈍すステップと、を含む。
【0011】
本発明の別の態様には、複合ガス分離モジュールを作るためのシステムがある。システムは:表面を備えて金属膜層を有する多孔質支持体と;表面および金属膜層上に、その上への後続金属膜層の配置のために強化された活性化特性を有する活性化表面を提供する表面形態を付与する手段と;活性化表面上に後続金属膜層を配置する手段と;焼き鈍し金属層を提供するために後続金属膜層を焼き鈍す手段と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の、研磨システムおよび研磨されているチューブの模式図である。
【
図2】
図1の断面A−Aに沿った、研磨システムおよびチューブの図である。
【
図3】本発明の活性化表面の一例の、走査型電子顕微鏡によって得られた画像である。
【
図4】本発明の研磨システムによって形成された第一研磨構造の模式図である。
【
図5】本発明の研磨システムによって形成された第二研磨構造の模式図である。
【
図6】本発明の研磨システムによって形成された第三研磨構造の模式図である。
【
図7】本発明の方法にしたがって研磨されたチューブの表面の1カ所で計測され、活性化表面の表面形態のいくらかの特徴を示す、代表的な粗面計軌跡である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、複数の金属めっきステップを用いて、しかしめっきステップの間にめっき金属表面の活性化溶液を用いる中間的な処理を伴わない、薄く高密度のガス選択膜の製造を、提供する。活性化溶液の使用によってこの表面活性化を排除することで、先行技術による表面活性化技術に関わる問題の多くを克服する。たとえばこれは、ガス分離モジュールの製造において支持体および金属層表面を活性化するための活性化溶液の使用によって生じる、より遅く不均一な金属めっきの問題のいくつかを、軽減する。
【0014】
本発明の方法は、ガス分離モジュールの支持体およびめっき金属層の表面を活性化させるために化学活性化溶液を使用しない活性化技術の使用によって、ガス分離膜モジュールの全体的な製造時間の削減を、さらに提供する。活性化溶液が使用されないので、活性化ステップの間に活性化溶液を洗い流す必要がない。この活性化溶液の使用の排除は、一般的に化学活性化法によって生成される水性廃棄物および揮発性有機溶剤の低減によって、より環境に優しいプロセスの付加的な恩恵を提供することができる。
【0015】
このように、本発明の方法は、ガス分離膜システムまたは複合ガス/分離モジュールの準備、または再調整、またはその両方を、提供する。本発明の方法は、後続金属膜層がその上により容易に配置されるように、本明細書に詳細に記載されるように活性化されてもよい表面を有する多孔質支持体および金属膜層を提供するように、多孔質支持体上にガス選択金属または材料の金属膜層を配置するステップを含んでもよい。
【0016】
ガス選択金属膜層がその上に蒸着される多孔質支持体は、ガス選択材料の支持体としての使用に適しており、水素を透過させる、いずれの多孔質金属材料を含んでもよい。多孔質支持体は、いずれの形状または幾何形状であってもよい;ただし、その上にガス選択材料の層が付着または蒸着され得るようにする表面を有することを前提とする。このような形状は、ともにシートの厚みを定義する下面および上面を有する多孔質金属材料の平面または曲線状のシートを含むことが可能であり、あるいは多孔質基板の形状は、たとえば、ともに壁厚を定義する内面および外面を有し、管形状の内面が管状導管を定義する、矩形、方形、および円形管形状など、管状であってもよい。好適な実施形態において、多孔質支持体は円筒形である。
【0017】
多孔質金属材料は、(1)ステンレス鋼、たとえば301、304、305、316、317、および321シリーズのステンレス鋼など、(2)HASTELLOY(R)合金、たとえばHASTELLOY(R)B−2、C−4、C−22、C−276、G−30、Xなど、および(3)INCONEL(R)合金、たとえばINCONEL(R)合金600、625、690、および718などを含むがこれらに限定されない、当業者にとって周知の材料のいずれから選択されることも可能である。多孔質金属材料はこのように、水素透過性であって、鉄およびクロムを含む合金を、含むことができる。多孔質金属材料は、ニッケル、マンガン、モリブデン、およびこれらのいずれかの組み合わせなど、付加的な合金金属をさらに含んでもよい。
【0018】
多孔質金属材料としての使用に適した特に望ましい合金の1つは、合金の総重量の最大で約70重量パーセント以上の範囲の量のニッケル、および合金の総重量の10から30重量パーセントの範囲の量のクロムを含むことができる。多孔質金属材料としての使用に適した別の合金は、30から70重量パーセントの範囲のニッケル、12から35重量パーセントの範囲のクロム、および5から30重量パーセントの範囲のモリブデンを含み、これらの重量パーセントは合金の総重量を基準とする。INCONEL合金は、ほかの合金よりも好ましい。
【0019】
多孔質金属基板の厚み(たとえば上述のような壁厚またはシートの厚み)、有孔率、および孔の孔径分布は、望ましい特性を有する本発明のガス分離膜システムを提供するために、ならびに本発明のガス分離膜システムの製造に必要とされるように、選択される多孔質支持体の特性である。
【0020】
多孔質支持体の厚みが増加するにつれて、水素分離用途で多孔質支持体が使用されるときに、水素流量が減少しがちになることは、理解される。圧力、温度、および流体ストリーム組成などの動作条件もまた、水素流量に影響を及ぼす可能性がある。いずれにせよ、高いガス流量を流すように、適度に小さい厚みを有する多孔質支持体を使用することが、望ましい。以下に検討される典型的な用途向けの多孔質基板の厚みは、約0.1mmから約25mmの範囲とすることができる。好ましくは、厚みは1mmから15mmの範囲内である。より好ましくは、範囲は2mmから12.5mm、最も好ましくは3mmから10mmである。
【0021】
多孔質金属基板の有孔率は、0.01から約1の範囲とすることができる。有孔率という用語は、多孔質金属基板材料の全容積(すなわち非固体および固体)に対する非固体容積の割合として定義される。より典型的な有孔率は、0.05から0.8、さらには0.1から0.6の範囲内である。
【0022】
多孔質金属基板の孔の孔径分布は、平均孔径を一般的に約0.1ミクロンから約50ミクロンの範囲として、変化することができる。より典型的には、多孔質金属基板材料の孔の平均孔径は、0.1ミクロンから25ミクロン、最も典型的には0.1ミクロンから15ミクロンの範囲内である。
【0023】
本発明の方法において、当業者にとって周知のいずれか適切な手段または方法によってその上にガス選択金属または材料の金属膜層を配置することで準備された多孔質支持体が、最初に提供される。支持体の上に金属層を準備および形成する適切な手段および方法のいくつかは、いずれも参照によって本願に組み込まれる、米国特許第7,175,694号明細書および米国特許出願公開第2009/0120287号明細書に記載される通りである。支持体上に金属膜層を配置する、可能性のある適切な手段または方法は、たとえば、無電解めっきによる表面上への金属の蒸着、熱蒸着、化学蒸着、電気めっき、噴霧蒸着、スパッタ被覆、電子ビーム蒸着、イオンビーム蒸着、および噴霧熱分解を含む。好適な蒸着法は、無電解めっきである。
【0024】
本明細書で使用される用語として、ガス選択金属または材料は、高密度の(すなわち障害のないガスの通過を可能にする、最小量のピンホール、割れ、空間などを有する)薄膜の形態を取っているときに選択的にガスを透過させる材料である。このため、ガス選択材料の高密度の薄層は、その他のガスの通過を防止しながら所望のガスを選択的に通過させるように、機能する。可能なガス選択金属は、パラジウム、白金、金、銀、ロジウム、レニウム、ルテニウム、イリジウム、ニオブ、およびそのうちの2つ以上の合金を含む。本発明の好適な実施形態において、ガス選択材料は、白金、パラジウム、金、銀、およびこれらの組み合わせなど、合金を含む、水素選択性金属である。より好適なガス選択材料は、パラジウム、銀、およびパラジウムと銀の合金である。最も好適なガス選択材料は、パラジウムである。
【0025】
ガス選択金属膜層の一般的な膜厚は、1ミクロンから50ミクロンの範囲とすることができる。しかしながら多くのガス分離用途にとって、この範囲の上限の膜厚は、所望のガスの選択を可能にする妥当なガス流量を提供するには厚すぎるかも知れない。また、様々な先行技術による製造方法は、許容不可能なガス分離能力を提供するように、許容できないほど厚いガス選択膜層を有するガス分離膜システムを提供することが多い。通常、20ミクロンを越える膜厚は、ガスストリームからの水素の許容可能な分離を提供するには大きすぎる。15ミクロン、もしくは10ミクロンを越える膜厚でさえ、望ましくない。
【0026】
本発明の方法は、化学活性化溶液の添加によるその表面の化学的処理を伴わずに、金属膜層を有する多孔質支持体の表面を活性化させる方法を、提供する。表面の活性化の目的は、ガス選択金属の蒸着またはめっきによる、1つ以上の金属膜層のその後の配置を提供することである。支持金属膜システムを準備する先行技術による方法のいくつかにおいて、複数の金属膜層が多孔質支持体の表面上に配置されているとき、通常は、各金属膜層の表面は、各めっきまたは蒸着ステップの間で活性化される必要がある。しかしながら、瞬時的な方法では、表面活性化を提供するために化学的手段は用いられず、むしろ活性化表面は、金属膜層を有する多孔質支持体の表面上に、特定の表面形態を付与することによって提供される。この表面形態は、後続金属膜層の活性化表面上への配置を可能にする強化された活性化特性を有する活性化表面を提供するようになっている。
【0027】
支持金属膜の表面上に付与される特定の表面形態は、本発明の方法の重要な局面である。先行技術は、膜層の欠陥を排除して、さらなる金属層がその上に蒸着されてもよい金属膜材料の薄く均一な金属層を提供するために、金属蒸着またはめっきステップの間の膜の金属表面の研磨が重要であることを、示している。めっきの間に金属層のよく研磨された滑らかな表面を有することが最善であると、考えられてきた。しかし、多孔質支持体上にある金属膜層の表面の、本明細書では表面形態とも称される、特定の物理特性が、金属膜材料の追加層の配置を強化する表面活性化に貢献できることが、見いだされた。
【0028】
支持金属膜の表面上に付与されるべき特定の表面形態は、表面の粗さまたはテクスチャに関する。かつて信じられていたこととは反対に、金属膜層が付着すべき表面がきれいに研磨されることは望ましくない;しかし、むしろこれは、表面の粗さ特性を定義するために当業者によってしばしば使用される様々なプロファイル粗さパラメータによって定義されてもよい、特定のトポロジを有するべきである。表面プロファイルは、当業者にとって周知の方法または手段のいずれかを用いて、測定または判定されてもよい。その粗さを定量化するために表面プロファイルを測定する機器手段の一例は、粗面計である。Nanovea(R)より市販されている、ST400光学粗面計として特定されている、光学粗面計など、いずれの市販の粗面計が使用されてもよい。このユニットは、特定のユーザ定義表面の表面形態およびトポグラフィを測定、分析、および定量化するために使用されてもよい。
【0029】
本発明の表面形態を定義するために使用されてもよい粗さパラメータは、平均表面粗さまたは算術平均高さ(Sa)、二乗平均平方根高さまたはRMS表面粗さ(Sq)、高さ分布の歪み(Ssk)、高さ分布の尖度(Sku)、最大ピーク高さ(Sp)、最大谷深さとも称される、最大穴高さ(Sv)、および最大高さ(Sv)などのパラメータを含む。これらの粗さパラメータは、表面の粗さおよびその他の特徴を測定および特徴付ける分野の当業者にとって周知である。これら特定のパラメータは、中心線からのその粗さプロファイルの垂直偏差に基づいて、表面を特徴付ける。
【0030】
表面粗さはまた、配置パターンの形態であってもよく、これは支持金属膜層の表面上の連続的な模様である。表面仕上げ配置パターンの例は、垂直、水平、放射、クロスハッチ、円形、正弦波、楕円、長円、コイル、ピーナツ型およびその他のパターンを含む。適切で好適な配置パターン、ならびに支持金属膜の表面上にこのような配置パターンを付加または付与する方法および手段のいくつかは、本明細書の別の箇所でより詳細に説明される。
【0031】
表面形態は、活性化表面を提供するのに望ましい表面形態を与える、当業者にとって周知のいずれか適切な方法または手段によって、支持金属膜の表面上に付与されてもよい。本明細書の別の箇所でより詳細に説明されるように、支持金属膜の表面を研磨する方法は、その結果的な表面粗さ特性、およびその上に付加される特定の配置パターンに対して、著しい影響を与える可能性がある。
【0032】
支持金属膜層の所望の表面活性化を提供するために、その表面形態は、活性化表面上のいずれの選択された表面領域でも0.05ミクロン(μm)から0.8ミクロン(μm)の範囲の平均表面粗さ(Sa)を有するという粗さ特性を有するようになっているべきである。平均表面粗さは0.1ミクロン(μm)から0.6ミクロン(μm)、およびより好ましくは0.2ミクロン(μm)から0.5ミクロン(μm)の範囲内であることが、好ましい。
【0033】
支持金属膜層の表面形態の別の表面粗さ特性はその二乗平均平方根粗さであり、これは活性化表面上のいずれか選択された表面領域で、二乗平均平方根粗さ(Sq)が0.1ミクロン(μm)から1ミクロン(μm)の範囲内とすることができる。二乗平均平方根粗さは、0.15ミクロン(μm)から0.8ミクロン(μm)、より好ましくは0.2ミクロン(μm)から0.6ミクロン(μm)、および最も好ましくは0.2μmから0.4μmの範囲内であることが、好ましい。
【0034】
支持金属膜の表面の高さ分布の歪みおよび尖度もまた、支持金属膜層の表面の活性化特性に影響を及ぼす表面形態を特徴付けるために使用されてよい。表面歪み(Ssk)は−0.6から0の範囲内の値を有することができるが、しかし表面歪みは−0.5から−0.1の範囲内であることが好ましい。表面歪みは−0.4から−0.2の範囲内であることが、より好ましい。高さ分布の尖度(Sku)については、これは0から10の範囲内の値を有することができるが、しかし高さ分布の尖度は1から8の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、これは1から6の範囲内である。
【0035】
表面粗さは、平均平面からの粗さプロファイルの垂直偏差によってさらに特徴付けられてもよい。この垂直偏差は、最高ピークと平均平面との間の高さである粗さプロファイルの最大ピーク高さ(Sp)によって、および平均平面と最深谷との間の深さである最大穴(谷)深さ(Sv)によって、定義されてもよい。
【0036】
プロファイルの最大高さ(Sz)は、最大ピーク高さ(Sp)と最大穴深さ(Sv)との差であり、すなわちSz=Sp−Svである。活性化表面の最大ピーク高さ(Sp)は、0.5μmから10μmの範囲内であってもよいが、しかし0.75μmから7μm、より好ましくは1μmから4μmの範囲内であることが、好ましい。活性化表面の最大穴または谷深さ(Sv)は、0.5μmから10μmの範囲内であってもよいが、しかし1μmから8μm、より好ましくは1.5μmから6μmの範囲内であることが、好ましい。
【0037】
以下の表は、その上への後続金属膜層の配置のために活性化特性を強化する活性化表面を提供するために支持金属膜層の表面上に付加または付与された表面形態を特徴付けるために使用されてもよい、様々な表面粗さパラメータを、まとめたものである。
【0038】
支持金属膜の活性化表面の粗さパラメータ
【表1】
【0039】
支持金属膜の表面上に付与するのに好ましい配置パターンは、クロスハッチングの交線が互いに特定の角度で、および表面内の特定の擦過痕深さで配置される、「X」型のクロス・ハッチ・パターンである。クロスハッチングの交線は、互いに対して10°(170°)から90°、25°(155°)から90°、または30度(150°)から90°の範囲内の角度であることが、好ましい。これらの交線の擦過痕深さは、金属膜層の外面から測定して、0.2μmから1.5μmの範囲内でなければならない。好ましくは、交線の擦過痕深さは、0.1μmから1μmの範囲内であり、最も好ましくは、擦過痕深さは0.2μmから0.5μmの範囲内である。
【0040】
表面の中に、または上に、特定の特性の所望の粗さまたはテクスチャまたは配置パターンを付与または付加するための、当業者にとって周知のいずれの適切な手段または方法も、本発明の方法において使用されてよい。たとえば様々な機械的平坦化装置およびコンピュータ数値制御機械を含む、特定の表面形態を支持金属膜層の表面上に付与する手段として使用されてもよい、広範な研磨および工作機械がある。研削表面は、様々な研磨パッド、研削ベルト、およびその他の研削表面から選択されてもよい。適切に使用されてもよい研磨剤の例は、米国特許出願公開第2009/0120287号明細書に開示されている。
【0041】
米国特許第7,175,694号明細書および米国特許出願公開第2009/0120287号明細書に開示されるものを含む、活性化表面上にガス選択金属の後続金属膜層を配置するいずれの適切な手段または方法も、使用されてよい。
【0042】
活性化表面上への各後続金属膜層の配置の後、後続金属膜層は焼き鈍される。この焼き鈍しまたは熱処理は、単純に空気、または水素、または酸素、あるいは窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、二酸化炭素、またはこれらのいずれかの組み合わせなどの不活性ガスのいずれかを含むことができる気体雰囲気の存在する中で、またはその下で、行われてもよい。熱処理は、参照によって本願に組み込まれる米国特許出願公開2009/0120293号明細書に開示されるような温度および圧力条件の下で、および時間にわたって行われてもよく、もしくは米国特許出願公開2009/0120293号明細書に開示される熱処理方法が、本明細書に記載される方法で使用されてもよい。
【0043】
表面活性化、後続金属膜層の配置、および焼き鈍しステップは、本発明の所望の特性の最終的な複合ガス分離モジュールを提供するために、1回以上繰り返されてもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、表面形態は、活性化表面を提供するように、ガス選択金属または材料の層をその外面上に有する管状多孔質支持体(チューブ)の表面上に、付与される。チューブは、旋盤など、水平軸を中心にチューブを回転させるためのいずれか適切な回転機械手段内に配置されてもよい。直線研磨ベルトもしくは研磨パッドなどの研削手段またはその他の適切な研削装置は、回転しているチューブに対して押しつけられる。チューブに対する研削装置の向き、および相対的回転チューブ速度および回転または移動している研削装置速度は、所望の表面配置パターンおよび粗さパラメータを提供するように、すべて調整されてもよい。チューブの回転速度は通常、使用される特定の機器に依存する。たとえば、バフ研磨機は、3000rpmから6000rpmの回転速度で動作することができ、または旋盤は30から500rpmの回転速度で動作することができる。旋盤が回転手段として使用されるとき、好ましい回転速度は毎分40から250回転(rpm)である。
【0045】
ここで
図1を参照すると、その上に金属膜層14が蒸着されている管型多孔質支持体12を含むシステム10の側面図が示されている。その金属膜層14を備える管型多孔質支持体12は、表面16および壁厚を有する管状壁18を有する。管型多孔質支持体12は、保持手段20によって、旋盤(図示せず)などの回転装置または手段に固定されている。保持手段20は、たとえばチャックまたはコレットを使用するクランプ手段などのいずれか適切な手段、あるいはクランプを使用したフェースプレース、またはスピンドルなどの回転装置に管型多孔質支持体12を固定するためのその他のいずれか適切な手段であってもよい。管型多孔質支持体12は、回転装置または手段によって、矢印22で示される方向に、その軸を中心に回転する。
【0046】
研削装置または手段24がさらに示されており、これは、矢印30で示される方向に平坦研削ベルト26を移動させるために使用されるローラ28によって直線的に移動させられる、平坦研削ベルト26を含んでもよい。研削装置または手段24はその他いずれの適切な種類の研削装置であってもよく、平坦研削ベルトに限定されないことは、理解される。研削装置または手段24は、研磨パッド、ブラシ、バフホイールなど、その他の適切な装置または手段から選択されてもよい。
【0047】
その上への追加金属膜層の配置のための強化された活性化特性を有する活性化表面を提供する所望の表面形態を表面16上に付与するために、平坦研削ベルト26は、管型多孔質支持体12に対して押しつけられ、矢印32で示される方向に移動させられる。平坦研削ベルト26が管型多孔質支持体12に対して押しつけられる力、管型多孔質支持体12が矢印22で示されるようにその軸を中心に回転させられる回転速度、平坦研削ベルト26が矢印30で示される方向に沿って移動させられる速度、および平坦研削ベルト26の研削表面の特性は、表面16を活性化させるために所望の表面形態を提供するように、すべて適切に調整および制御される。
【0048】
図2は、側面から見たシステム10を示す、
図1の断面A−Aの立面図を示す。保持手段20の反対側に配置された管型多孔質支持体12とともに、保持手段20が示されている。管状壁18は、破線で示されている。管型多孔質支持体12は、矢印22で示される方向に、その軸を中心に回転させられる。研削装置または手段24は、矢印32で示される方向にその軸を中心に回転させられるローラ28によって、矢印30で示される方向に移動させられる、平坦研削ベルト26を含む。平坦研削ベルト26は、表面16に対して押しつけられ、管型支持体12の長さに沿って移動させられる。先に示されたように、平坦研削ベルト26が管型多孔質支持体12に対して押しつけられる力、管型支持体12、平坦研削ベルト26の相対移動速度、および平坦研削ベルト26の特性は、表面16上に所望の表面形態を付与するように、調整および制御される。
【0049】
図3は、金属膜層をその上に配置する準備が整った活性化表面を提供する特定の特徴および特性を備える表面粗さを有する活性化表面の、写真画像である。
【0050】
図4、
図5、および
図6を参照すると、これらは本発明のシステムおよび方法によって形成されることが可能な幾何学パターンの上面図を示している。たとえば、
図5は管型支持体12の表面16上の8の字型研磨パターン40を形成している様子のシステム10の上面図である。このパターンは、管型多孔質支持体12が矢印22で示されるようにその軸を中心に回転させられて、研削パッドまたはディスク42が表面16に接触する際に、生成される。研削パッドまたはディスク42は、矢印44で示されるようにその軸を中心に回転させられ、表面16に対して押しつけられるとき、これは8の字型研磨パターン40において移動させられ、それによって表面16を活性化させるための所望の表面形態を、表面16上に付与する。
【0051】
図5は、管型多孔質支持体12上に長円形研磨パターン50を形成する、
図4に示されるようなシステム10の上面図である。研削パッドまたはディスク42は、矢印44で示されるようにその軸を中心に回転させられ、表面16に対して押しつけられるとき、これは長円形研磨パターン50において移動させられ、それによって表面16を活性化させるための所望の表面形態を、表面16上に付与する。
【0052】
図6は、管型多孔質支持体12上に円形パターン60で交差する擦過痕を形成する、
図4に示されるようなシステム10の上面図である。研削パッドまたはディスク42は、矢印44で示されるようにその軸を中心に回転させられ、表面16に対して押しつけられるとき、これは円形パターン60で交差する擦過痕において移動させられ、それによって表面16を活性化させるための所望の表面形態を、表面16上に付与する。
【0053】
支持金属膜の活性化表面の特徴のいくつかを説明するために、金属膜層の活性化表面上の経路に沿った代表的な粗面計軌跡70が、
図7に示される。表面擦過痕の垂直深さは粗面計軌跡70のy軸上に示されており、粗面計軌跡70の経路に沿った点は、粗面計軌跡70のx軸上に示されている。