特許第5882350号(P5882350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サーントゥル スィヤンティフィック エ テクニック デュ バティマン (セエステベ)の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882350
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】真菌汚染を検出するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20160225BHJP
   G01N 30/60 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 30/64 20060101ALI20160225BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20160225BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20160225BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C12M1/34 B
   G01N30/60 D
   G01N30/88 C
   G01N30/00 B
   G01N30/64 C
   G01N1/22 L
   C12Q1/04
   C12M1/26
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-539324(P2013-539324)
(86)(22)【出願日】2011年11月22日
(65)【公表番号】特表2013-544095(P2013-544095A)
(43)【公表日】2013年12月12日
(86)【国際出願番号】FR2011052720
(87)【国際公開番号】WO2012069752
(87)【国際公開日】20120531
【審査請求日】2014年11月20日
(31)【優先権主張番号】1059636
(32)【優先日】2010年11月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513118443
【氏名又は名称】サーントゥル スィヤンティフィック エ テクニック デュ バティマン (セエステベ)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モウララ、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ジョブリン、ヤエル
(72)【発明者】
【氏名】ロビン、アンリック
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/048739(WO,A1)
【文献】 特表2007−524647(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0107740(US,A1)
【文献】 Acoustical Society of America,2000年,Paper Number 2aEA4,p.1-8
【文献】 (BW)(CA-ELECTRONIC-SENSOR)zNOSE, an 'eye in the kingdom of the blind' for the chemical world,Business Wire [online],2001年11月 7日,URL,http://www.estcal.com/press_releases/articles/zNose%20Eye%20for%20Blind_files/f_headline.htm
【文献】 Report from the R&D-programme <<Climate 2000>> [ONLINE],2006年,URL,http://www.sintef-group.com/upload/Byggforsk/Publikasjoner/Prrapp%20406.pdf
【文献】 International Biodeterioration and Biodegradation,2010年 2月,Vol.64,p.210-217
【文献】 Sensors and Actuators B,2006年,Vol.113,P989-997
【文献】 Letters in Applied Microbiology,2006年,Vol.42,p.24-29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−1/70
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 予備濃縮モジュール、
− クロマトグラフィ・マイクロカラムを含む分離モジュール、及び
− センサーのマトリックスを含む検出モジュール
を含分離モジュールは標的VOC(揮発性有機化合物)を選択するためのシステムをさらに含む、屋内環境における真菌汚染を検出するためのデバイス。
【請求項2】
予備濃縮モジュールが吸着材料を含むことを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
マイクロカラムが1から50mの間の長さを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
センサーのマトリックスが、真菌由来のVOCに対して親和性を有する少なくとも1種のポリマーを含むことを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
請求項1からまでに記載のデバイスによって実施される、屋内環境における真菌汚染を検出するための方法であって、
屋内環境からVOCのサンプルを採取するステップ、
− サンプル採取されたVOCを分離するステップ
標的VOCを選択するステップ、及び
− 存在する標的VOCを検出するステップ
を含む方法。
【請求項6】
標的VOCが、1−オクテン−3−オール、1,3−オクタジエン、メチル 2−エチルヘキサノエート、2−メチルフラン、3−メチルフラン、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、α−ピネン、2−ヘプテン、硫化ジメチル、4−ヘプタノン、2(5H)−フラノン、3−ヘプタノール、メトキシベンゼン、及び2−エチルヘキサノール、並びにこれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
真菌汚染の測定が連続的に行われることを特徴とする、請求項及びのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
屋内環境における真菌汚染を検出するための、請求項1からまでに記載のデバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内環境における真菌汚染を検出するためのデバイス、及びその使用、並びにそのようなデバイスを使用して屋内環境における真菌汚染を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「屋内環境」という用語は、不連続に通気される建物内の限定空間を意味するものとする。屋内環境の例は、住宅、博物館、教会、地下貯蔵室、歴史的建造物、庁舎、学校、及び病院に見出すことができる。
【0003】
屋内環境中のカビの存在は、健康面の影響を必ず及ぼす。事実、多くの研究は、カビのある家屋の居住者に症状が出現すること、及びカビがコロニー形成している材料及び構造物の両方の分解におけるカビの役割についても実証してきた。事実、真菌が産生する酵素及び/又は酸は、支持体の劣化も引き起こす。
【0004】
真菌発生の視認と、空気又は表面から採取された分生子の培養とに基づいた、屋内環境中のカビの存在を検出するための技術は、「隠れた」汚染を効果的に検出することも、それらの支持体の劣化を効果的に防止するように十分早期に汚染を検出することもできない。事実、この劣化は、汚染が視認によって検出可能であるときには、一般に既に進行している。さらに、これらの測定技術で答えを得るのに要する時間は、分析を実行できるようになるまで、サンプル採取された微生物の実験室での成長を待つ必要があるので、長い。その結果、特に芸術的な又は歴史的な作品の保存のように、特定の取扱いの難しい分野では、真菌汚染の初期検出及び連続モニタリングを可能にする解決策が求められている。
【0005】
真菌は、発生し始めるや否や、代謝、又は真菌が増殖している材料の、真菌が産生する酵素若しくは酸による分解のいずれかから生じた揮発性分子(揮発性有機化合物、VOC)を放出する。VOCは、壁を通して拡散し、隠れた汚染の場合であっても空気中で検出することができる。しかし屋内環境中に存在するVOCは、建築材料、家庭用品、或いは人間活動など、その他の供給源に起因する可能性もある。真菌由来のVOCの濃度は、特に汚染の初期段階で、屋内環境中に存在するVOCの合計に比べて比較的低いことがわかっている。
【0006】
特許出願FR2913501は、周囲空気中に存在するVOCの分析に基づく真菌汚染指数を測定することによる、屋内環境における真菌汚染を検出するための方法を提案する。この方法は、隠れた汚染の場合であってもその発生の初期段階での真菌発生の検出を可能にするが、質量分析に連動させたガスクロマトグラフィなどの古典的な分析方法を使用する。これらの方法では、サンプルを収集し、実験室に持ち帰り、そこで長い濃縮、分離、及び分析ステップを経なければならない。屋内環境における真菌汚染を検出するためのこれらのステップは、資格のある技術者の関与を必要とし、比較的長く、費用がかかることがわかる。したがってこれらの分析技術は、迅速で連続的な測定ができない。
【0007】
化学センサーは、有機汚染物質を連続的に測定するのに広く使用される。しかし、そのようなセンサーは、真菌発生時に放出されるVOCの濃度レベルを検出するのに十分な感度があるわけでもなく、真菌由来のこれらVOCを、その他の生物源又は建築材料に起因するその他のVOCと区別するのに十分に選択的であるわけでもない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、今日まで利用可能な解決策は、真菌汚染の早期検出及び連続モニタリングの要求に応えることができない。
【0009】
出願人は、短い測定時間での周囲空気の迅速な現場(in situ)分析を可能とし、したがって汚染の連続検出を可能とする、屋内環境における真菌汚染を検出するためのデバイスの開発に成功した。本発明のデバイスには更に、専門技術者の関与なしに使用できるという利点もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、本発明は:
− 予備濃縮モジュール;
− クロマトグラフィ・マイクロカラムを含む分離モジュール;及び
− センサーのマトリックスを含む検出モジュール
を含む、屋内環境における真菌汚染を検出するためのデバイスに関する。
【0011】
屋内環境中のカビの有無は、真菌由来の単一のVOCの検出からは推測できない。したがって本発明者らは、特定の標的VOCの検出に基づく、真菌汚染の検出原理を利用するデバイスを設計した。したがって本発明のデバイスは、特に、真菌汚染の発生から生じ得るある範囲の標的VOCから選ばれる標的VOCの有無の検出を可能とするものである。標的VOCは特に:
(1)真菌の種類及びそれらの支持体とは無関係に放出されるが、真菌種によってのみ放出される、1−オクテン−3−オール、1,3−オクタジエン、及びメチル 2−エチルヘキサノエートなどのVOC;
(2)真菌の種類及びその支持体とは無関係に放出されるが、その他の生物源を有することもあり得る、2−メチルフラン、3−メチルフラン、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、及びα−ピネンなどのVOC;
(3)真菌の種類及び/又はその支持体に応じて放出される、2−ヘプテン、硫化ジメチル、4−ヘプタノン、2(5H)−フラノン、3−ヘプタノール、及びメトキシベンゼンなどのVOC
を含む。
【0012】
標的VOCは、上記カテゴリー(1)、(2)、(3)には属さないが、真菌汚染の存在の評価に関与する、2−エチルヘキサノールなどのVOCを含むこともできる。
【0013】
本発明によるデバイスの予備濃縮モジュールは、検出モジュールによって検出可能な濃度にまで、周囲空気中に存在する標的VOCを濃縮することを可能にする。VOCの濃縮は、当業者に公知の任意の方法、特に吸着材料への蓄積によって実施することができる。したがって予備濃縮モジュールは、有利には、標的VOCの蓄積を可能にする吸着材料を含む。吸着材料の構造は、典型的には、その比表面積の最適化を可能にする形を有する。好ましくは吸着材料は、典型的には50から200μmの粒径、20から50m/gの比表面積、1から5cm/gの多孔率、及び50から500nmの平均孔径を有する粒子の形をとる。吸着材料は、Tenax(登録商標)、Carbograph(登録商標)、又はChromosorb(登録商標)といったブランドで販売されているものなどの、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、及び多孔質合成樹脂から優先的に選ばれる。予備濃縮モジュールは、有利には、吸着材料に吸着されたVOCの脱着を可能にする加熱システムを更に含む。
【0014】
本発明のデバイスの特定の一実施形態によれば、予備濃縮モジュールは、ミクロ予備濃縮器を含む。そのようなミクロ予備濃縮器は、典型的には0.1から1cm、好ましくは0.1から0.5cm、より優先的には0.1から0.3cmの有効容積を有する。ミクロ予備濃縮器は、シリコンウエハーのような基板プレートから構成され、その表面には、吸着材料を含む溝がエッチングされている。基板と同一の又は異なる材料で作製された第2プレート(ガラス板など)は、溝を含むエッチングされた基板プレートの表面に接着結合しており、ミクロ予備濃縮器を含む。基板プレートは、典型的には5から20cmの表面積を有する。溝は、有利には、3から10cmの長さ、200から1000μmの幅、200から1000μmの深さ、及び0.04から1mmの断面を有する。溝の断面は、長方形、半円形、又は円形などの様々な形状を有することができる。
【0015】
有利には、予備濃縮モジュールは、周囲空気を予備濃縮モジュールに強制的に通すことを可能にする強制循環システムも含む。
【0016】
分離モジュールは、有利には0.01から0.25mmの断面を有するクロマトグラフィ・マイクロカラムを含む。マイクロカラムの長さも、VOCの分離が最適化されるように選ばれなければならない。有利には、長さは1m超であり、好ましくは1から50mの間である。一定の長さを選べば、カラムの効率の改善が可能となり、したがって、より良好なVOC分離を達成できる。マイクロカラムは、VOC分離が最適化されるように当業者が選ぶことができる固定相を含む。前記固定相は、有利には、ポリシロキサン類に属する(例えば、ジメチルポリシロキサン(PDMS))。異なる固定相を使用することもできる。これらの相は、分枝状炭化水素、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール、ポリエステル、ポリアリールエーテルスルホン、或いはまた選択特異性のある固定相とすることができる。
【0017】
マイクロカラムは、例えば、シリコンウエハーなどの基板プレートを含み、その表面には、固定相を含む溝がエッチングされている。基板と同一の又は異なる材料で作製された第2プレート(ガラス板など)は、溝を含むエッチングされた基板プレートの表面に接着結合しており、マイクロカラムを含む。基板プレートは、典型的には5から20cmの表面積を有する。溝は、有利には、1m超の長さ、好ましくは1から50mの長さ、100から500μmの幅、100から500μmの深さ、及び0.01から0.25mmの断面を有する。溝の断面は、長方形、半円形、又は円形などの様々な形状を有することができる。溝は、かさ高さ、したがって構造の大きさを最小限に抑えるように、様々な様式で、例えば平行ねじれ(蛇状)で配置構成することができる。
【0018】
本発明のデバイスの別の実施形態によれば、分離モジュールは、標的VOCを選択するためのシステムも含み、当該システムは、好ましくは電磁弁と、当該電磁弁を制御するためのプログラム可能なユニットとを含む。この選択システムは、マイクロカラムの出口に直接接続している。所与の固定相及び所与のマイクロカラム長に対する保持時間は、各VOCに対して特異的である。したがって、各標的VOCの保持時間に関する情報が得られた場合、プログラム可能なユニットは、選択システムが、各標的VOCの保持時間に対応した溶離液の部分を検出モジュールに選択的に導き、溶離液の残りは分析回路から排出されるように、事前にプログラムすることができる。溶離液の前記部分は、溶離が実行されるに従って検出モジュールに順番に搬送するか、又はいったん貯蔵した後、まとめて検出モジュールに搬送することができる。
【0019】
主に真菌由来のVOCを含む標的VOCは、周囲空気中に存在するVOC全ての全濃度に比べて、非常に低い濃度を有する。したがって、標的VOCのこの選択的分離は、標的VOCの検出に不利となり得る、検出モジュールのセンサーのバックグラウンドノイズの形成、並びに/又はヒステリシス及び/若しくは飽和の現象を、防止することを可能にする。
【0020】
本発明によるデバイスの検出モジュールは、ポリマータイプ又は金属酸化物タイプの電気化学センサーから有利に選ばれるセンサーのマトリックスを含む。センサーは、好ましくは、真菌由来のVOCに対して親和性を有するポリマー又はポリマー混合物の層を含む。ポリマーは、ポリピロール、ポリチオフェン、及びポリアニリン、及びこれらの誘導体から選ぶことができる。特に、真菌環境に対するポリジフルオレン、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ナトリウムポリ(スチレンスルホネート)(PEDOT−PSS)、ポリピロール/ナトリウムオクタンスルホネート、及びポリピロール/過塩素酸リチウムの感受性が実証されている。
【0021】
VOCは、それらの化学的性質に応じて様々な種類:脂肪族VOC、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、アルデヒド、芳香族VOC、塩素化VOC、窒素含有VOC、又は硫黄含有VOCに分類することができる。所定の官能基を有する化合物を検出するための化学センサーが存在する。そのようなセンサーは、所定の種類に属するVOCの存在の検出及び同定を可能にするが、同一の種類に属するVOCを区別することはできない。
【0022】
特定の一実施形態では、センサーのマトリックスは、各VOCの種類に特異的なセンサーを含む。この場合、センサーのマトリックスの応答は、溶離液の所与の部分中のVOCの有無について結論を導くことを可能にするが、検出されたVOCの性質をそれ自体で決定するのに十分ではない。一方、センサーのマトリックスの応答は、検出されたVOCが属する種類(単数又は複数)を決定することを可能にし、検討中の溶離液の部分の保持時間に関する知識は、どの標的VOCが溶離液の前記部分中に存在し得るかを知ることを可能にする。このように、保持時間及びセンサーのマトリックスから得られた情報を組み合わせることによって、各標的VOCの有無を推測することが可能である。
【0023】
別の実施形態では、マトリックスは、各標的VOCに特異的な、総合的フィンガープリントを得ることを可能にする一組のセンサーを含む。「総合的フィンガープリント」という用語は、マトリックスの一組のセンサーの応答の組合せを意味するものとする。この場合、マトリックスの各センサーは単一の標的VOCにしか特異的ではないが、いくつかのセンサーの応答を組み合わせたものは、各標的VOCを特異的に同定することを可能にする。このように、センサーのマトリックスにより提供された情報から、各標的VOCが存在するか否かを推測することが可能である。
【0024】
別の実施形態では、センサーのマトリックスは、各標的VOCに特異的なセンサーを含む。この場合、センサーのマトリックスは、標的VOCと同じように多くのセンサーを含み、特異的なセンサーのそれぞれの応答は、センサーが特異的である標的VOCの有無について個別に結論付けることを可能にする。
【0025】
有利には、検出モジュールは、センサーのマトリックスを閉じ込める、封じ込めチャンバーも含む。このチャンバーは、センサーの感受性層を封じ込めて、分析がなされるサンプルにのみそれらを曝すことができる。有利には、封じ込めチャンバーは、分析がなされるサンプルの汚染を回避するために、ステンレス鋼又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの、分析条件下でVOCを放出しない又はほとんど放出しない材料で作製されている。
【0026】
特定の一実施形態では、本発明のデバイスは、情報処理モジュールを更に含む。当該モジュールは、各センサーにより発せられた信号を解釈し、各標的VOCの有無を推測することが可能である。好ましくは、情報処理モジュールは、真菌汚染の有無を決定する。この決定は、例えば、特許出願FR2913501に定義されているような真菌汚染指数を計算することによって、実行することができる。
【0027】
古典的な検出及び/又は同定方法は、小型化することが難しい質量分析計、赤外分光計、水素炎イオン化検出器、又は熱伝導度検出器などの、複雑な設備を使用する。本発明のデバイスの独創性は、クロマトグラフィ・マイクロカラムと化学センサーとをカップリングさせる点にある。このデバイスには、小型化することができ、且つ専門技術者の関与なく使用することができるという利点がある。
【0028】
したがって本発明のデバイスには、その大きさ及び自立性において利点があり、これによって、逐次測定間の時間間隔及び/又は測定に対する応答時間を著しく短縮することが可能になる。本発明のデバイスによる測定の所要時間は、典型的には10から180分、好ましくは30から120分である。したがってそのようなデバイスにより、測定間の短い時間間隔で真菌汚染を監視するための効果的な戦略を立てる可能性を提供する。したがって、汚染発生の最初の段階で汚染を捉え処理するために、緊急手順を検討することができる。さらに、CMVなどの周囲空気を制御するためのシステムを本発明のデバイスによってサーボ制御し、真菌発生を防止又は抑制することができる。
【0029】
本発明は、本発明のデバイスにより実施される、屋内環境における真菌汚染を検出するための方法であって:
− 屋内環境からVOCのサンプルを採取するステップ;
− サンプル採取されたVOCを分離するステップ;及び
− 存在するVOCを検出するステップ
を含む方法にも関する。
【0030】
本発明の方法は、屋内環境からVOCのサンプルを採取するステップを含む。これを行うために、本発明のデバイスは屋内環境に配置され、サンプルは、予備濃縮モジュールと周囲空気との間の接触によって採取される。第1の選択肢では、サンプルの採取は周囲空気の自然対流により行われる。その際、サンプルの採取は、60から300分の間継続する。好ましい選択肢では、サンプルの採取は、周囲空気に予備濃縮モジュールを通過させる強制対流によって行われる。サンプル採取モジュールを通過する周囲空気の流量は、例えば10から1000ml/分である。その際、サンプルの採取は、5から60分の間継続する。サンプルの採取は、好ましくは、吸着材料へのVOCの吸着によって行われる。この場合、本発明の方法は、吸着されたVOCを脱着するステップをも含む。当該ステップは、当業者に周知の条件下での熱脱着によって行われる。
【0031】
本発明の方法は、サンプル採取されたVOCを分離するステップをも含む。サンプル採取されたVOCの分離は、分離モジュールを用いて行われる。特に、サンプル採取されたVOCは、クロマトグラフィ・マイクロカラムでの溶離によって分離される。カラム温度又は移動相の流量など、分離に最適なパラメーターは、カラムの立体形状、固定相の性質、及び展開ガスに応じて、当業者に周知の技術によって決定される。
【0032】
本発明の方法は、存在するVOCを検出するステップをも含む。溶離の進行に従い、溶離液は検出モジュールに導かれ、そこでは、センサーのマトリックスによる溶離液の分析によって、存在するVOCの検出が行われる。
【0033】
好ましい一実施形態では、本発明の方法は:
− 屋内環境からVOCのサンプルを採取するステップ;
− サンプル採取されたVOCを分離するステップ;
− 標的VOCを選択するステップ;及び
− 存在する標的VOCを検出するステップ
を含む。
【0034】
本発明による方法のこの実施形態では、標的VOCは、分離モジュールによってサンプル採取されたVOCの中から選択される。このステップは、クロマトグラフィ・マイクロカラムでのサンプルの溶離中に、選択システムによって行われる。これを行うために、以下の手順を実行する。各標的VOCを、所与のクロマトグラフィシステムに対する既知の異なる速度で溶離する。したがって一の所与の保持時間は、一の標的VOCに起因する。選択システムは、これらの値を用いてプログラムされる。すると選択システムは、標的VOCに対応する保持時間を有する溶離液の部分を選択することが可能である。次いで溶離液のこれらの部分は、検出モジュールに選択的に搬送される。事前にプログラムされた値に対応しない溶離液の部分は除外される。その結果、標的VOCの有無のみが、検出モジュールによって検出される。
【0035】
溶離液の残りは分析回路から排出されるので、これによって、真菌由来のVOCの濃度よりもはるかに高い濃度を一般に有する非標的VOCが存在することによって引き起こされ得る、検出モジュールのセンサーのヒステリシス及び/又は飽和の現象を回避することが可能になる。
【0036】
標的VOCは、好ましくは、1−オクテン−3−オール、1,3−オクタジエン、メチル 2−エチルヘキサノエート、2−メチルフラン、3−メチルフラン、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、α−ピネン、2−ヘプテン、硫化ジメチル、4−ヘプタノン、2(5H)−フラノン、3−ヘプタノール、メトキシベンゼン、及び2−エチルヘキサノール、並びにこれらの混合物からなる群より選択される。
【0037】
有利には、本発明の方法は、例えば特許出願FR2913501に定義されているような方法を使用して、真菌汚染指数を決定するステップをも含む。
【0038】
本発明による方法は、好ましくは連続的に使用される。有利には、測定サイクルの継続時間は10から180分であり、好ましくは30から120分である。
【0039】
本発明は、屋内環境における真菌汚染を検出するための、本発明によるデバイスの使用にも関する。
【0040】
本発明のデバイスは、CMVなどの周囲空気制御システムで使用することもできる。
【0041】
以下の例示的な実施形態は、本発明を、その範囲を決して限定することなく例示する。
【0042】
(例1)
デバイスの実現
予備濃縮モジュールは、DRIEプロセスを用いてシリコンウエハーにエッチングされたミクロ予備濃縮器を含む。ミクロ予備濃縮器は、幅500μm及び長さ400μmの長方形の断面を有する長さ6cmの20本の溝から構成されており、0.25mの有効容積を有する。溝には、平均直径120μm、比表面積35m/g、多孔率2.4cm/g、及び平均孔径200nmを有する、Tenax(登録商標)TAという名称で販売されている2,6−ジフェニルオキシドをベースにした樹脂の粒子が充填されている。ミクロ予備濃縮器は、第1ウエハーの溝を含む表面に接着結合したシリコンウエハーによって閉鎖されている。
【0043】
クロマトラグラフィ・マイクロカラムは、DRIEプロセスを用いてシリコンウエハーにエッチングしてあった。マイクロカラムは、幅150μm及び長さ200μmの長方形の断面を有する長さ5mの溝から構成されている。溝は、死角の形成を回避するために、円弧の形をした湾曲部を有する平行ねじれ(又は蛇状)の形で配置構成されている。PDMS、ポリジメチルシロキサン(Sylgard(登録商標)184、Dow Corning)の固定相は、マイクロカラムの内部に存在する。マイクロカラムは、第1ウエハーの溝を含む表面に接着結合した第2シリコンウエハーで閉鎖されている。
【0044】
検出モジュールは、4つのポリマーセンサーから構成されたセンサーのマトリックスを含む。真菌由来のVOCに対して親和性を有するポリマーセンサー(それぞれ、PEDOT−PSS、ポリピロール/ナトリウムオクタンスルホネート、ポリピロール/過塩素酸リチウム、及びポリジフルオレン)は、互いにかみ合った電極対上に付着している。センサーのマトリックスは、PTFE封じ込めチャンバー内に配置されている。
【0045】
様々な構成要素は、NanoPort(商標)コネクターを介して循環システム及び相互に接続している。
【0046】
(例2)
マイクロカラムの較正
較正のために、例1のデバイスのセンサーのマトリックスを、質量分析計に置換した。
【0047】
一連の分析の実験パラメーターを、表1にまとめる。
【表1】
【0048】
標的VOCのサンプルをマイクロカラムに通し、各標的VOCの保持時間を求めた。
【0049】
各標的VOCの保持時間を、表2に列挙する。
【表2】
【0050】
(例3)
真菌汚染の検出
センサーのマトリックスを含む例1のデバイスを、様々な健康な屋内環境、又は様々な発生段階にある真菌汚染を代表する屋内環境に配置した。
【0051】
100ml/分の流量で15分間、周囲空気を予備濃縮モジュールに通過させる強制対流により、屋内環境におけるVOCサンプルの採取を実施した。
【0052】
マイクロカラムに関する実験パラメーターは例2のものと同一である。
【0053】
合計測定時間は20分である。
【0054】
センサーのマトリックスの応答は、標的VOCの有無を検出することを可能にし、特許出願FR2913501に定義されているような真菌汚染指数を計算することもできた。