(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882406
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】2つの部分からなる関節型スペーサ、及び、関節型スペーサの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/30 20060101AFI20160225BHJP
A61K 31/7056 20060101ALI20160225BHJP
A61K 31/7036 20060101ALI20160225BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20160225BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20160225BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
A61F2/30
A61K31/7056
A61K31/7036
A61K37/02
A61L27/00 H
A61L27/00 F
A61P31/00
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-140361(P2014-140361)
(22)【出願日】2014年7月8日
(65)【公開番号】特開2015-16330(P2015-16330A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2014年7月8日
(31)【優先権主張番号】10 2013 011 296.6
(32)【優先日】2013年7月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508316210
【氏名又は名称】ヘレーウス メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Medical GmbH
(74)【復代理人】
【識別番号】100182556
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 暁
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヒェン キム
【審査官】
石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第06155812(US,A)
【文献】
特開2008−264556(JP,A)
【文献】
特開2008−183404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節の一時的な置換のための関節型スペーサであって、
前記関節型スペーサは、2つのスペーサ部分(1,2)から構成され、
前記2つのスペーサ部分(1,2)は、それぞれ1つの摺動面(16,18)を有し、
前記2つのスペーサ部分(1,2)は、患者に挿入された状態において、前記摺動面(16,18)の上で互いに可動に接触し、かつ互いに回動する、
スペーサにおいて、
前記摺動面(16,18)は、低摩擦の第1骨セメント(6,12)から形成されており、
前記2つのスペーサ部分(1,2)のそれぞれの前記摺動面(16,18)以外の部分は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの水溶性抗生物質を含有する第2骨セメント(7,13)から形成されている、
ことを特徴とするスペーサ。
【請求項2】
前記第1骨セメント(6,12)は、前記摺動面(16,18)の領域において前記第2骨セメント(7,13)の上に配置されており、
前記第1骨セメント(6,12)は、少なくとも1mmの厚さを有するように配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載のスペーサ。
【請求項3】
前記第1骨セメント(6,12)は、少なくとも1つの固定部(8,14)を含み、
前記固定部(8,14)は、前記摺動面(16,18)の方向から前記第2骨セメント(7,13)の中に、円錐形に延在している、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のスペーサ。
【請求項4】
前記スペーサ部分(1,2)の前記摺動面(16,18)以外の部分は、前記第2骨セメント(7,13)からなり、
少なくとも患者の骨(4,10)と前記関節型スペーサとの接続は、前記第2骨セメント(7,13)からなる、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のスペーサ。
【請求項5】
前記摺動面(16,18)から離れたところに位置する、前記関節型スペーサの関節頭(6,12)の領域も、前記第2骨セメント(7,13)からなる、請求項4記載のスペーサ。
【請求項6】
前記摺動面(16,18)から少なくとも1mm離れたところに位置する、前記関節型スペーサの関節頭(6,12)の領域は、前記第2骨セメント(7,13)からなる、請求項4記載のスペーサ。
【請求項7】
低摩擦の前記第1骨セメント(6,12)は、8未満のモース硬度を有する放射線不透過性粉末を含む、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載のスペーサ。
【請求項8】
前記第2骨セメント(7,13)は、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシンから選択される少なくとも2種類の抗生物質の混合物を含む、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載のスペーサ。
【請求項9】
前記第1骨セメントの露出表面は、少なくとも1つの抗生物質によって被覆されている、
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載のスペーサ。
【請求項10】
前記第1骨セメント(6,12)は、炭酸カルシウム粉末及び/又は炭酸バリウム粉末を含む、
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載のスペーサ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項記載の関節型スペーサを製造するためのセットにおいて、
ペースト状の低摩擦の前記第1骨セメント(6,12)を含むカートリッジシステム及び/又は塗布システムを含むか、又は、低摩擦の前記第1骨セメント(6,12)のための出発成分を含む第2カートリッジシステム及び/又は第2混合システムを含み、
かつ、
抗生物質を含有する前記第2骨セメント(7,13)を含む第2カートリッジシステム及び/又は第2塗布システムを含むか、又は、抗生物質を含有する前記第2骨セメント(7,13)のための出発成分を含むカートリッジシステム及び/又は混合システムを含み、
さらに、低摩擦の前記第1骨セメント(6,12)から被モールド部材を製造するための、少なくとも2つのスペーサ鋳型を含み、
前記スペーサ鋳型の内部表面は、製造すべき前記摺動面(16,18)のネガ像を含む、
ことを特徴とするセット。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項記載の関節型スペーサを製造するためのセットにおいて、
前記スペーサの1つの摺動面(16,18)を各々有する、前記第1骨セメント(6,12)からなる少なくとも2つのスペーサコンポーネントを含み、
さらに、抗生物質を含有する前記第2骨セメント(7,13)を含むカートリッジシステム及び/又は塗布システムを含むか、又は、抗生物質を含有する前記第2骨セメント(7,13)のための出発物質を含むカートリッジシステム及び/又は混合システムを含む、
ことを特徴とするセット。
【請求項13】
2つの部分からなる関節型スペーサの製造方法において、
2つのスペーサ部分(1,2)において低摩擦の第1骨セメント(6,12)から各摺動面(16,18)を形成し、
前記スペーサ部分(1,2)の前記摺動面(16,18)以外の部分の少なくとも50%を、少なくとも1つの水溶性抗生物質を含有する第2骨セメント(7,13)によって形成する、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項14】
前記第2骨セメント(7,13)を、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシンから選択される1つの抗生物質か、又は、複数の異なる抗生物質の混合物かを含むように製造する、
ことを特徴とする請求項13記載の製造方法。
【請求項15】
低摩擦の前記第1骨セメント(6,12)に、8未満のモース硬度を有する放射線不透過性粉末を混合する、
ことを特徴とする請求項13又は14記載の製造方法。
【請求項16】
まず始めに前記第2骨セメント(7,13)を形成し、次いで、前記第2骨セメント(7,13)の上に第1骨セメント(6,12)を塗布し、そして前記摺動面(16,18)を形成する、
ことを特徴とする請求項13から15のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項17】
まず始めに前記第1骨セメント(6,12)をスペーサ鋳型の中に充填し、これによって前記スペーサ鋳型の内部のネガ像により前記摺動面(16,18)が形成され、次いで、前記第2骨セメントを前記第1骨セメントの上に塗布し、そして前記スペーサ部分(1,2)の前記摺動面(16,18)以外の部分の表面を形成する、又は、前記スペーサ部分(1,2)の前記摺動面(16,18)以外の部分の表面を、前記スペーサ鋳型の雌型によって形成する、
ことを特徴とする請求項13から15のいずれか一項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節の一時的な置換のための関節型スペーサであって、前記関節型スペーサは、2つのスペーサ部分から構成され、前記2つのスペーサ部分は、それぞれ1つの摺動面を含み、前記2つのスペーサ部分は、患者に挿入された状態において、前記摺動面の上で互いに可動に接触し、かつ互いに回動する、形式の関節型スペーサに関する。本発明はさらに、2つの部分からなる関節型スペーサの製造方法に関する。
【0002】
人工関節の耐用年数は、現在のところ数年である。しかしながら通常の耐用年数が終了する前に、人工関節の望ましくない弛みが生じることがある。この弛みは、感染による弛み(septic loosening)又は無菌性の弛み(aseptic loosening)に関係している可能性がある。無菌性の弛みは、微生物の細菌がまだ検出されていないということを意味する。無菌性の弛みには多くの原因がある。無菌性の弛みは、人工関節の摺動面での摩耗に関係していることが多い。感染による弛みにおける弛みの進行は、微生物の細菌によって引き起こされる。これは発現時間に応じて初期感染又は後期感染の可能性がある。感染による弛みは患者にとって非常に深刻な病気であり、高い付加コストと結びついている。無菌性の弛み及び感染による弛みのような場合には、再置換術を行うのが通例である。この再置換術は、一期的再置換術又は二期的再置換術として進めることができる。感染による弛みの場合には、二期的再置換術が非常に一般的である。
【0003】
二期的再置換術では、最初の手術(OP)において感染した人工関節が除去された後、感染組織のデブリードマンが行われ、続いて、一時的なプレースホルダ、いわゆるスペーサが挿入される。上述したスペーサは、感染兆候が沈静化するまでの数週間の間、再置換された人工関節が占めていたスペースを塞ぐものである。上述したプレースホルダ機能は、上記期間中の筋萎縮を効果的に防止するため、及び、既存の切除シナリオを安定化させるために非常に重要である。非関節型スペーサと、関節型スペーサとが利用可能である。関節型スペーサは、関節の機能を複製し、負傷した手足にある程度の可動性を与えるためのものである。これによって患者は早期に動くことが可能となる。現在の技術水準は、関節型スペーサである。スペーサは第2の手術で除去され、セメントを用いた又はセメントを用いない再置換術にて人工関節を移植する前に、さらなるデブリードマンが行われる。
【0004】
膝、腰、肩の人工関節を一時的に置換するための抗生物質が備えられたスペーサは、市販されている。上記のスペーサは、例えばUS2010/042214A1及びUS2011/015754A1から公知である。上記文献に記載されているスペーサは中空空間を含んでおり、この中空空間から抗生物質が放出される。欠点は、薬剤の放出が不均一であることである。これに代えて、例えばDE102007004968B4及びWO2011086788A1は骨セメントを提案しており、この骨セメントから溶解によって抗生物質が溶出することができる。スペーサを製造するために上記の骨セメントを使用すると、抗生物質が長期間に亘って正しく感染部位において放出され、その結果、抗生物質をスペーサ材料から溶解によって溶出することができる。骨セメントによって製造されるこの種のスペーサは、例えば米国特許出願US2012/0261546A1で提案されている。
【0005】
スペーサは外科医によって、通常のポリメチルメタクリレート製の骨セメント(PMMA骨セメント)と、適当な鋳型とから製造されることが多い。このプロセスでは、スペーサが製造される前に、1つ以上の抗生物質がPMMA骨セメントの粉末に混合される。さらには、例えばDE10340800A1又はFR2821751A1によって提案されるように、X線調査用の造影剤として機能するX線不透過剤として、酸化ジルコニウム粉末を導入又は適用することができる。
【0006】
この種のスペーサの欠点は、酸化ジルコニウム粉末を備えた、抗生物質を含有するスペーサが、摺動面上で摩耗及び断裂しやすいことである。このことは、摺動面が機械的負荷によって有害な影響を受ける可能性があるという点で不利である。したがって摩耗は、特に各摺動面が互いに回動する関節型スペーサにおいて発生しうる。この摩耗は、治癒過程に有害な影響を与える炎症を引き起こす可能性がある。
【0007】
したがって本発明の課題は、従来技術の欠点を克服することである。特に、本発明によるスペーサ及び本発明によるスペーサの製造方法によって、摩耗を簡単に阻止し、かつ、できるだけむらがなく安定的かつロバストな関節表面を簡単に製造できるようにすべきであり、ひいては、このようにして形成されたスペーサが、関節型スペーサの摺動面の摩耗によって治癒を阻害しうる、又は患者に痛みをもたらしうる関節の動きの悪化を生じさせることなく容易に可動するようにすべきである。この装置及び方法は、できるだけ普遍的に適用可能にすべきである。
【0008】
本発明の課題は、関節の一時的な置換のための関節型スペーサであって、前記関節型スペーサは、2つのスペーサ部分から構成され、前記2つのスペーサ部分は、それぞれ1つの摺動面を有し、前記2つのスペーサ部分は、患者に挿入された状態において、前記摺動面の上で互いに可動に接触し、かつ互いに回動し、残りの前記スペーサ部分は、少なくとも部分的に、少なくとも1つの水溶性抗生物質を含有する第2骨セメントから形成されている、ことを特徴とする関節型スペーサによって解決される。
【0009】
前記2つの骨セメントは、好ましくは、ポリメチルメタクリレート製の骨セメントである。
【0010】
この文脈において本発明によれば、前記第1骨セメントは、前記摺動面の領域において前記第2骨セメントの上に配置することができ、前記第1骨セメントは、少なくとも1mmの厚さを有しており、好ましくは、2mm〜15mmの厚さを有するように配置されており、特に好ましくは、6mm〜11mmの厚さを有するように配置されている。これらの厚さの値は、第1骨セメントによって形成される摺動面の良好な安定性を提供するのに十分な値である。
【0011】
さらに本発明によれば、前記第1骨セメントは、少なくとも1つの固定部を含むことができ、前記固定部は、前記摺動面の方向から残りの前記スペーサ部分の中に、特に前記第2骨セメントの中に、円錐形に延在することができる。これにより、2つの骨セメントの接続がより安定的になる。これによってさらに、高価な抗生物質を含有するセメントの量を低減することが可能となる。
【0012】
本発明の改善によれば、残りの前記スペーサ部分は、完全に第2骨セメントからなり、少なくとも患者の骨と関節型スペーサとの接続は、前記第2骨セメントからなり、好ましくは、前記摺動面から離れたところに位置する、前記関節型スペーサの関節頭の領域も、前記第2骨セメントからなり、特に好ましくは、前記摺動面から少なくとも1mm離れたところに位置する、前記関節型スペーサの関節頭の領域は、前記第2骨セメントからなるようにすることが提案される。これにより、関節型スペーサの構造が特に簡単となるよう保証される。さらに、スペーサ部分のうち摺動面に属していない表面のできるだけ最大の部分を、抗生物質の放出のために利用することが可能となる。
【0013】
前記第2骨セメント中の抗生物質は、好ましくは、アミノグリコシド系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質、リンコサミド系抗生物質、キノロン系抗生物質、オキサゾリドン系抗生物質、ジャイレース阻害剤、カルバペネム、環状リポペプチド、グリシルサイクリン、及び、ペプチド系抗生物質の群から選択される。
【0014】
特に好ましい実施形態によれば、前記抗生物質は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダルババンシン、リンコサミン、クリンダマイシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、オフロキサシン、シプロフロキサシン、ドリペネム、メロペネム、チゲサイクリン、リネゾリド、エペラゾリド、ラモプラニン、メトロニダゾール、チニダゾール、オミダゾール、及び、コリスチン、並びに、これらの塩及びエステルからなる群から選択される要素である。
【0015】
従って、少なくとも1つの前記抗生物質は、硫酸ゲンタマイシン、塩酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシン、塩酸アミカシン、硫酸トブラマイシン、塩酸トブラマイシン、塩酸クリンダマイシン、塩酸リンコサミン、及び、モキシフロキサシンからなる群から選択することができる。
【0016】
本発明によれば、低摩擦の前記第1骨セメントが、8未満のモース硬度、好ましくは6未満のモース硬度、特に好ましくは4未満のモース硬度を有する放射線不透過性粉末を含むことが特に好ましい。第1骨セメントの放射線不透過性粉末の硬度が低くなればなるほど、摺動面の摩耗に対する寄与はより少なくなる。
【0017】
特に好ましくは、本発明によれば、第1骨セメント中の放射線不透過性粉末の硬度は、残りの第1骨セメントの硬度に適合させることができ、好ましくは、第1骨セメント中の放射線不透過性粉末と、残りの第1骨セメントとのモース硬度の差は、2未満であり、特に好ましくは1未満である。放射線不透過性粉末の硬度を他の1つ又は複数の固体のコンポーネントの硬度に適合させることによって、摺動面の摩耗は著しく低下する。
【0018】
本発明によれば、前記第2骨セメントは、好ましくはゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシンから選択される少なくとも2種類の抗生物質の混合物を含むことができる。この種の混合物は、関節の感染を治療するために特に適している。
【0019】
さらに本発明によれば、スペーサ部分の内部は、第1骨セメントから形成することができる。その結果、使用される第2骨セメントの量を削減することができ、これによってコストを節約することができるのみならず、抗生物質の不必要な使用を省略することも可能となる。
【0020】
本発明の特に好ましい改善によれば、前記第1骨セメントの露出表面を、少なくとも1つの抗生物質によって被覆することが提案される。これによって第1骨セメントの露出表面は、挿入直後の感染の制御に寄与することができる。
【0021】
本発明の好ましい改善によれば、低摩擦の前記第1骨セメントは、炭酸カルシウム粉末及び/又は炭酸バリウム粉末を含むことができる。まず第1に、炭酸カルシウム粉末及び炭酸バリウム粉末は望ましい放射線不透過特性を有しているので、スペーサによってX線撮像における所期のコントラストが生成される。第2に、炭酸カルシウム粉末及び炭酸バリウム粉末の硬度は酸化ジルコニウム粉末の硬度よりも小さいので、摺動面における摩耗が低減される。
【0022】
本発明によれば、第1骨セメントの露出表面を、少なくとも1つの抗生物質によって被覆することができる。
【0023】
特に好ましくは、本発明によれば、2つの部分からなる関節型スペーサは、膝関節型スペーサである。
【0024】
本発明の課題は、この種の関節型スペーサを製造するためのセットにおいて、前記セットは、ペースト状の低摩擦の前記第1骨セメントを含むカートリッジシステム及び/又は塗布システムを含むか、又は、低摩擦の前記第1骨セメントのための出発成分を含む第2カートリッジシステム及び/又は第2混合システムを含み、かつ、抗生物質を含有する前記第2骨セメントを含む第2カートリッジシステム及び/又は第2塗布システムを含むか、又は、抗生物質を含有する前記第2骨セメントのための出発成分を含むカートリッジシステム及び/又は混合システムを含み、さらに、低摩擦の前記第1骨セメントから被モールド部材を製造するための、少なくとも2つのスペーサ鋳型を含み、前記スペーサ鋳型の内部表面は、製造すべき摺動面のネガ像を含む、ことを特徴とするセットによって解決される。
【0025】
本発明の課題は、この種の関節型スペーサを製造するためのセットにおいて、前記スペーサの1つの摺動面を各々有する、前記第1骨セメントからなる少なくとも2つのスペーサコンポーネントを含み、さらに、抗生物質を含有する前記第2骨セメントを含むカートリッジシステム及び/又は塗布システムを含むか、又は、抗生物質を含有する前記第2骨セメントのための出発物質を含むカートリッジシステム及び/又は混合システムを含む、ことを特徴とするセットによって解決される。
【0026】
上述したこれらのセットは、簡単に使用することができると同時に、患者を個別的に治療する機会をユーザに提供する。例えば第2骨セメントに関して、個々人に応じて特に適合した抗生物質混合物を使用することができる。特に個々人に応じて感染治療を適合させるために(外科手術中にのみ顕性なデブリードマンの程度)、患者の解剖学的構造又は治療シナリオに特に適合した種々異なる複数のスペーサ鋳型及びスペーササイズから、特に適合したスペーサ鋳型を選択することも考えられる。
【0027】
さらに本発明の課題は、2つの部分からなる関節型スペーサの製造方法において、2つのスペーサ部分において低摩擦の第1骨セメントから各摺動面を形成し、少なくとも残りの前記スペーサ部分の表面の少なくとも50%を、少なくとも1つの水溶性抗生物質を含有する第2骨セメントによって形成する、ことを特徴とする製造方法によって解決される。
【0028】
本発明によれば好ましくは、前記第2骨セメントは、好ましくはゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシンから選択される1つの抗生物質か、又は、複数の異なる抗生物質の混合物かを含むように製造することができる。この種の混合物は、関節の感染を治療するために特に適している。
【0029】
本発明による方法の改善によれば、低摩擦の前記第1骨セメントに、8未満のモース硬度、好ましくは6未満のモース硬度、特に好ましくは4未満のモース硬度を有する放射線不透過性粉末、特に炭酸カルシウム粉末及び/又は炭酸バリウム粉末を混合することが提案される。第1骨セメントの放射線不透過性粉末の硬度が低くなればなるほど、摺動面の摩耗に対する寄与はより少なくなる。
【0030】
本発明の方法の好ましい改善によれば、まず始めに前記第2骨セメントを形成し、次いで、前記第2骨セメントの上に前記第1骨セメントを塗布し、そして前記摺動面を形成することが提案される。
【0031】
択一的に、本発明によれば、まず始めに前記第1骨セメントをスペーサ鋳型の中に充填し、これによって前記スペーサ鋳型の内部のネガ像により前記摺動面が形成され、次いで、前記第2骨セメントを前記第1骨セメントの上に塗布し、そして前記スペーサ部分の残りの表面を形成することが提案される。この文脈において本発明によれば、好ましくは、前記スペーサ部分の残りの表面を、前記スペーサ鋳型の雌型によって形成することができる。択一的又は付加的に、本発明によれば、硬化した前記スペーサ部分を前記第2骨セメントによって骨に取り付けることができる。
【0032】
上述したこれらの方法は、多忙なことが多い手術室での調整時において簡単に実施するために適している。
【0033】
本発明は、2つの骨セメントを使用することによって、抗生物質を放出するスペーサの利点を断念することなく、関節型スペーサのスペーサ部分の走行面及び/又は摺動面をより安定させることができるという驚くべき発見に基づいている。このように製造されたスペーサによれば、使用中に生じる問題は減少する。
【0034】
以下、本発明の例示的な実施形態を1つの概略図に基づいて説明する。しかしながらこの例示的な実施形態は、本発明の範囲を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、2つの骨セメント(6,7,12,13)から製造される、本発明によるスペーサの概略断面図を示す。
【0036】
図示したスペーサは、膝関節の一時的な置換のために意図された2つの部分からなる膝関節型スペーサである。図面で選択された横断面は、矢状面に平行な、人工膝関節の平面である。
【0037】
膝関節型スペーサの2つの部分は、脛骨部分1(
図1の下部)と、大腿骨部分2(
図1の上部)である。脛骨部分1は、患者の脛骨4に取り付けられている。脛骨部分1は、関節窩を備えた関節頭を含む。関節頭は、第1骨セメント6から製造されている。第1骨セメント6は、放射線不透過剤(radiopaquer)として炭酸バリウム粉末及び/又は炭酸カルシウム粉末を使用することによって摩耗を阻止するために十分な硬度を有している。関節頭は、さらに、オプションとして、抗生物質を含有することができる、又は、抗生物質含有物とすることができる。これによって第1骨セメント6は、低摩擦の骨セメントとなる。残りの脛骨部分1は、第2骨セメント7から製造されており、第2骨セメント7は、患者の顕在的な治療設定に適合した2つの水溶性抗生物質の混合物を含む。
【0038】
関節頭は、円錐形ペグ8を用いて脛骨4に固定されている。円錐形ペグ8により、脛骨部分1と脛骨4との安定的な接続が達成され、処理中に使用される、抗生物質を含有する骨セメント7の量が低減され、ひいては抗生物質が節約される。それに加えて、スペーサの脛骨部分1を脛骨4により安定的に接続させるために、第2骨セメント7で作られた別の固定部(アンカリング部)8が、脛骨4内にある適合する円錐形の凹部の中に固定されている。
【0039】
スペーサの大腿骨部分2も同じように構成されている。患者の大腿骨10の上に低摩擦の骨セメント12から関節頭が形成され、この関節頭は、抗生物質を含有する骨セメント13によって取り付けられている。スペーサの大腿骨部分2の第1骨セメント12は、好ましくは、脛骨部分1の第1骨セメント6と同じであり、また、スペーサの大腿骨部分2の第2骨セメント13は、スペーサの脛骨部分1の第2骨セメント7と同じである。関節頭と大腿骨10との安定的な接続は、円錐形の固定部(アンカリング部)14によって達成される。
【0040】
2つのスペーサ部分1,2の表面は、関節頭以外は第2骨セメント7、13によって実現され、それゆえ患者に挿入された状態において、特に患者の骨4,10の方向に抗生物質を放出することができる。
【0041】
意図した状態、すなわち
図1に図示したように患者に挿入された状態では、2つのスペーサ部分1,2は、各々の関節頭によって互いに接触している。この目的のために、関節頭の表面には生体の膝関節と同じように摺動面16,18が設けられており、2つのスペーサ部分1,2は、この摺動面16,18によって互いに回動及び/又は摺動することができる。その結果、スペーサ部分1,2の関節運動、ひいては膝の機能メカニズムの再現を実現できる。
【0042】
摺動面16,18は、低摩擦の第1骨セメント6,12から製造されているので、摺動面16,18は、一時的な膝関節型スペーサの滞留時間の間ずっと無傷のままであり、摺動面16,18から粒子が分離しないように(又は、非常に僅かしか分離しないように)なっている。その結果、膝関節型スペーサの可動性は無傷のまま維持され、治癒過程に対する有害な摩耗影響は存在しない。
【0043】
それと同時に、治癒を促進するために、抗生物質の混合物が2つのスペーサ部分1,2の各第2骨セメント7,13からの溶解によって継続的に溶出されるので、この抗生物質の混合物を、感染を制御するために利用することができる。
【0044】
図示した実施例は、本発明による好ましい膝関節型スペーサに関連している。しかしながら本発明は、膝関節型スペーサに限定されているわけではなく、例えば肘関節型スペーサ、股関節型スペーサ、足首関節型スペーサ、又は、肩関節型スペーサのような、2つの部材からなるあらゆる形態の関節型スペーサにも関連している。
図1を用いて説明した実施例を他の関節用のスペーサに適用できることは、当業者には自明である。
【0045】
上述した詳細な説明及び特許請求の範囲、図面、及び例示的な実施形態に開示された本発明の特徴は、単独及び任意の組合せの両方で、本発明の種々の実施形態を実施するための本質的な要素とすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 スペーサ部分/脛骨部分
2 スペーサ部分/大腿骨部分
4 骨(脛骨)
6 低摩擦の骨セメント(脛骨部分)
7 抗生物質を含有するセメント(脛骨部分)
8 固定部
9 骨(大腿骨)
12 低摩擦の骨セメント(大腿骨部分)
13 抗生物質を含有するセメント(大腿骨部分)
14 固定部
16 摺動面(脛骨部分)
18 摺動面(大腿骨部分)