【実施例】
【0047】
<実施例1>β−フルクトフラノシダーゼ発現系の構築
(1)β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードする核酸の取得
Beijerinckia indica subsp.indica NBRC3744(以下「B.Indica」と略記する。)のβ−フルクトフラノシダーゼのクローニングを行った。具体的には、まず、B.IndicaのゲノムDNAを常法に従って抽出した。続いて、下記の配列番号3および配列番号4のプライマーを用いて、下記の条件でポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction;PCR)を行うことによりB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、常法に従ってシークエンスを行って、全長の塩基配列を決定した。B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAの全長の塩基配列を配列番号1に、また、それにコードされるB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列を配列番号2に、それぞれ示す。
【0048】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;B.IndicaのゲノムDNA
フォワードプライマー;5’−ATGGCAAGTCGATCGTTTAATGTTTGTATAC−3’(配列番号3)
リバースプライマー;5’−ACGTGGCGATCATCGAAAACATAACCGGCA−3’(配列番号4)
PCR用酵素;KOD−Plus−(東洋紡社)
反応条件;95℃で10秒、60℃で20秒および68℃で2分を1サイクルとして30サイクル。
【0049】
続いて、SignalP4.1サーバー(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を用いてβ−フルクトフラノシダーゼのシグナル配列を予測した。なお、配列番号2において、シグナル配列は1〜28番目に相当する。
【0050】
(2)細胞表面発現系の組換えベクターの作成
下記の条件でPCRを行うことにより、Bacillus subtilisのPgsAタンパク質(GenBank:AB016245.1)をコードするDNAを増幅した。得られたPCR産物を常法に従って制限酵素NdeIおよびBglIIで消化し、これをDNA断片1とした。また、PCR産物について、常法に従ってシークエンスを行い、PgsAタンパク質をコードするDNAの塩基配列を確認した。PgsAタンパク質をコードするDNAの塩基配列を配列番号5に、それにコードされるPgsAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6にそれぞれ示す。
【0051】
《PgsAタンパク質をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;Bacillus subtilis(IAM1026、ATCC9466)のゲノムDNA
フォワードプライマー(下線はNdeIサイトを示す);5’−AAACATATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATG−3’(配列番号7)
リバースプライマー(下線はBglIIサイトを示す);5’−AAAAGATCTTTTAGATTTTAGTTTGTCACTATG−3’(配列番号8)
PCR用酵素;KOD−Plus−(東洋紡社)
反応条件;95℃で10秒、60℃で20秒および68℃で2分を1サイクルとして30サイクル。
【0052】
次に、下記の条件でPCRを行い、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、常法に従って制限酵素BamHIおよびXhoIで消化して、これをDNA断片2とした。
【0053】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例1(1)のB.IndicaのゲノムDNA
フォワードプライマー(下線はBamHIサイトを示す);5’−AAAGGATCCTCGGGTTTACCCGATACCGACTCCGCATTCGGGACA−3’(配列番号9)
リバースプライマー(下線はXhoIサイトを示す);5’−CCCCTCGAGTTACTGGCCGTTCGTGACACCATGGCCATTACC−3’(配列番号10)
PCR用酵素;KOD−Plus−(東洋紡社)
反応条件;95℃で10秒、60℃で20秒および68℃で2分を1サイクルとして20サイクル。
【0054】
続いて、DNA Ligation Kit Ver.2.1(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従いpCDFDuet−1プラスミド(Merck社)のNdeIサイトおよびXhoIサイトにDNA断片1およびDNA断片2を挿入し、これをpCDF−pgsA−indica組換えベクターとした。
【0055】
また、pCDF−pgsA−indica組換えベクターについて、常法に従って制限酵素NdeIおよびXhoIで消化した後、電気泳動を行って精製し、PgsAタンパク質およびB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列を1のポリペプチドとして発現し得るようにコードするDNAを得て、これをDNA断片3とした。続いて、同様にNdeIおよびXhoIで消化したpET42a(+)プラスミド(Merck社)に、Ligation High ver.2(東洋紡社)を用いてDNA断片3を挿入し、これをpET−pgsA−indica組換えベクターとした。
【0056】
(3)菌体内発現系の組換えベクターの作成
下記の条件で本実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、pgsAタンパク質をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片4とした。続いて、Ligation High ver.2(東洋紡社)を用いて、DNA断片4のセルフライゲーションを行い、これをpCDF−indica組換えベクターとした。
【0057】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’− CATATGTCGGGTTACCCGATACCGAC−3’(配列番号11)
リバースプライマー;5’−TATATCTCCTTCTTATACTTAACTAATA−3’(配列番号12)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、59℃で30秒、68℃で2分40秒を1サイクルとして25サイクル。
【0058】
また、pCDF−indica組換えベクターを、常法に従って制限酵素NdeIおよびXhoIで消化することにより、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを得て、これをDNA断片5とした。続いて、同様にNdeIおよびXhoIで消化したpET42a(+)プラスミド(Merck社)に、Ligation High ver.2(東洋紡社)を用いてDNA断片5を挿入し、これをpET−indica組換えベクターとした。
【0059】
(4)菌体内発現系(可溶性)の組換えベクターの作成
下記の条件でPCRを行い、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片6とした。
【0060】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例1(3)のpCDF−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−GATGGTTCAACTAGTTCGGGTTACCCGATACCG−3’(配列番号13)
リバースプライマー;5’−GTGGTGGTGCTCGAGTTACTGGCCGTTCGTGA−3’(配列番号14)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で50を1サイクルとして25サイクル。
【0061】
また、下記の条件でPCRを行い、pET42a(+)プラスミド由来のDNAを増幅し、これをDNA断片7とした。
【0062】
《pET42a(+)プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;pET42a(+)プラスミド(Merck社)
フォワードプライマー;5’−CTCGAGCACCACCACCACCACCACCACCACTAATT−3’(配列番号15)
リバースプライマー;5’−ACTAGTTGAACCATCCGATTT−3’(配列番号16)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で2分50秒を1サイクルとして25サイクル。
【0063】
続いて、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼとpET42a(+)プラスミドに含まれるグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)とが1のポリペプチドとして発現するように、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いてDNA断片6およびDNA断片7を連結し、これをpET−GST−indica組換えベクターとした。なお、GSTは可溶性タンパク質であり、GSTと目的タンパク質とを融合タンパク質として発現させることにより、目的タンパク質の可溶性が向上することが報告されている。
【0064】
(5)形質転換および形質転換体の培養
本実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターおよびpET−pgsA−indica組み換えベクター、本実施例1(3)のpCDF−indica組換えベクターおよびpET−indica組み換えベクター、ならびに本実施例1(4)のpET−GST−indica組換えベクターを、大腸菌 BL21(DE3)株のコンピテントセル(コスモバイオ社)に導入して、形質転換体として組換え大腸菌を得た。
【0065】
これを37℃で一晩プレート培養した後、組換え大腸菌のクローンをピックアップしてM9 SEED培地1mLに植菌し、30℃、220rpmで20時間振盪培養した。続いて、培養液のうち10μLをM9 Main培地2mLに植え継ぎ、25℃、220rpmで24時間振盪培養した。M9 SEED培地およびM9 Main培地の組成を以下に示す。なお、M9 SEED培地およびM9 Main培地中の抗生物質は、pCDF−pgsA−indica組換えベクターおよびpCDF−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌についてはストレプトマイシン(終濃度50μg/mL)を、pET−pgsA−indica組換えベクター、pET−indica組換えベクターおよびpET−GST−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌についてはカナマイシン(終濃度30μg/mL)を、それぞれ用いた。
【0066】
M9 SEED培地(計100mL);水 72mL、5×M9塩 20mL、20% カザミノ酸 5mL、20% D−グルコース 2mL、2mg/mL チミン 1mL、50mM CaCl
2 0.2mL、2.5M MgCl
2 40μL、100mg/mL FeSO
4 28μL、抗生物質
【0067】
M9 Main培地(計100mL);水 67mL、5×M9塩 20mL、20% カザミノ酸 5mL、2mg/mL チミン 1mL、50mM CaCl
2 0.2mL、100mg/mL FeSO
4 28μL、Overnight Express Autoinduction System 1(O.N.E.;Merck社)Sol.1 2mL、O.N.E.Sol.2 5mL、O.N.E.Sol.3 100μL、抗生物質
【0068】
<実施例2>細胞表面発現系の効果の検討
(1)酵素反応
実施例1(5)の組換え大腸菌の培養液2mLを用意し、その後、培養液を12000rpm、4℃で5分間遠心分離することにより組換え大腸菌を回収して、菌体の湿重量を測定した。また、30(w/w)%のスクロースを含む0.04Mのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)を調製し、これを30%スクロース溶液とした。組換え大腸菌の培養液2mLに30%スクロース溶液350μLを添加して懸濁し、これを30℃、200rpmで3時間振盪することによりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行い、これを反応液とした。なお、大腸菌は溶質濃度30(w/w)%程度の溶液に接すると、浸透圧により菌体から水分が流出して溶菌する。
【0069】
(2)糖組成の確認
本実施例2(1)の反応液50μLに水950μLを加えることにより希釈した後、100℃で10分間加熱した。続いて、4℃、15000×gで10分間遠心分離を行って上清を回収し、孔径0.45μmのフィルターで濾過して、得られた濾液をHPLCサンプルとした。次に、HPLCサンプルを下記の条件でHPLCに供して、反応液に含まれる各糖(単糖;フルクトースおよびグルコース、二糖;スクロース、三糖以上のオリゴ糖;ケストースやニストースなど)の割合を確認した。各糖の割合は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として、面積百分率で算出した。
【0070】
《HPLCの条件》
カラム;SHODEX KS 802(8.0φ×300mm) 2本
移動相;水
流速;1.0mL/分
注入量;20μL
温度;50℃
検出;示差屈折率検出器(RID;昭和電工社)
【0071】
次に、酵素反応に使用したスクロースの質量(118.65mg;スクロース溶液350μLに含まれていたスクロースの質量)に三糖以上のオリゴ糖の面積百分率を乗じて、三糖以上のオリゴ糖の量を算出し、これをオリゴ糖生成量とした。また、オリゴ糖生成量を菌体重量で除して、菌体重量あたりのオリゴ糖生成量を百分率で算出し、これをオリゴ糖生成率とした。また、酵素反応に使用したスクロースの質量(118.65mg)に、100%からスクロースの面積百分率を減じた値を乗じることにより、スクロース消費量を算出した。また、スクロース消費量を菌体重量で除して、菌体重量あたりのスクロース消費量を百分率で算出し、これをスクロース消費率とした。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、pCDF−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液ではオリゴ糖生成率は11.9%であったのに対して、pCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では78.6%であり、オリゴ糖生成率が6.6倍以上大きかった。また、pET−indica組換えベクターおよびpET−GST−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では、オリゴ糖生成率はそれぞれ27.1%および11.3%であったのに対して、pET−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では116.4%であり、オリゴ糖生成率がそれぞれ4.2倍以上、および10.3倍以上大きかった。
【0074】
すなわち、pCDF−Duet1プラスミドに由来する組換えベクターおよびpET42a(+)プラスミドに由来する組換えベクターのいずれを用いた場合も、β−フルクトフラノシダーゼを大腸菌の細胞表面に発現させると、β−フルクトフラノシダーゼを菌体内に発現させた場合あるいは菌体内に可溶性タンパク質として発現させた場合と比較して、オリゴ糖の生成効率が顕著に大きくなることが明らかになった。これらの結果から、形質転換に用いるベクターの種類にはかかわらず、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させると、極めて効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができることが示された。
【0075】
<実施例3>β−フルクトフラノシダーゼの由来の検討
細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させることにより効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができるという効果が、β−フルクトフラノシダーゼの由来にかかわらず発揮されるか否かを検討した。具体的には、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼと同じファミリー68に属するBurkholderia phymatum STM815(以下「Burk」と略記する。)のβ−フルクトフラノシダーゼ、およびファミリー32に属するAspergillus kawachii IFO4303(以下「Kawachii」と略記する。)のβ−フルクトフラノシダーゼについて検討した。
【0076】
(1)β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードする核酸の取得
[1−1]Burk由来β−フルクトフラノシダーゼ
実施例1(1)に記載の方法により、Burkのβ−フルクトフラノシダーゼのクローニングおよびシークエンスを行った。ただし、PCRの条件は下記のとおりとした。Burk由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAの全長の塩基配列を配列番号17に、それにコードされるBurk由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列を配列番号18に、それぞれ示す。なお、配列番号18において、シグナル配列は1〜35番目に相当する。
【0077】
《Burk由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;BurkのゲノムDNA
フォワードプライマー;5’−AAACTAAAATCTAAAAGATCTCAGACTGCAACGCCAGGCTTCCCCG−3’(配列番号19)
リバースプライマー;5’−GGTTTCTTTACCAGACTCGAGTTACTGGCTGTTGCCGCCCTGCCCGTTTCC−3’(配列番号20)
PCR用酵素;KOD−Plus−(東洋紡社)
反応条件;94℃で15秒、58℃で20秒および68℃で2分を1サイクルとして21サイクル。
【0078】
[1−2]Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼ
次に、Kawachiiのβ−フルクトフラノシダーゼ(GenBank:GAA88101.1)をコードするDNAをジェンスクリプト社に依頼して人工合成して取得した。Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAの全長の塩基配列を配列番号21に、それにコードされるkawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列を配列番号22にそれぞれ示す。なお、配列番号22において、シグナル配列は1〜24番目に相当する。
【0079】
(2)細胞表面発現系の組換えベクターの作成
[2−1]Burk由来β−フルクトフラノシダーゼ
本実施例3(1)[1−1]で行ったPCRにより増幅したBurk由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを、DNA断片8とした。また、下記の条件でPCRを行うことにより、PgsAタンパク質をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNAであって、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片9とした。
【0080】
《PgsAタンパク質をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−TCTGGTAAAGAAACCGCTGCTGCGAAATTT−3’(配列番号23)
リバースプライマー;5’−TTTAGATTTTAGTTTGTCACTATGATCAAT−3’(配列番号24)
反応条件;98℃で10秒、68℃で2分25秒を1サイクルとして25サイクル。
【0081】
続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従いDNA断片8およびDNA断片9を連結し、これをpCDF−pgsA−burk組換えベクターとした。
【0082】
[2−2]Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼ
下記の条件でPCRを行うことにより、Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片10とした。
【0083】
《Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例3(1)[1−2]のKawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA
フォワードプライマー;5’−AAATCTAAAAGATCCTCCGTGGTCATCGACTAC−3’(配列番号25)
リバースプライマー;5’−TTTACCAGACTCGAGTCAATACTGACGATCCGGC−3’(配列番号26)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で50秒を1サイクルとして25サイクル。
【0084】
また、下記の条件で実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片11とした。
【0085】
《PgsAタンパク質をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−CTCGAGTCTGGTAAAGAAACCGCTGCTGCGAAA−3’(配列番号27)
リバースプライマー;5’−GGATCTTTTAGATTTTAGTTTGTCACTATGATCAA−3’(配列番号28)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で2分25秒を1サイクルとして25サイクル。
【0086】
続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従いDNA断片10およびDNA断片11を連結し、これをpCDF−pgsA−kawachii組換えベクターとした。
【0087】
(3)菌体内発現系の組換えベクターの作成
[3−1]Burk由来β−フルクトフラノシダーゼ
下記の条件で本実施例3(2)[2−1]のpCDF−pgsA−burk組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、pgsAタンパク質をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片12とした。続いて、Ligation High ver.2(東洋紡社)を用いて、添付の使用書に従いDNA断片12のセルフライゲーションを行い、これをpCDF−burk組換えベクターとした。
【0088】
《Burk由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例3(2)[2−1]のpCDF−pgsA−burk組換えベクター
フォワードプライマー;5’−CATATGCAGACTGCAACGCCAGGCT−3’(配列番号29)
リバースプライマー;5’−TATATCTCCTTCTTATACTTAACTAATA−3’(配列番号30)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、59℃で30秒、68℃で2分40秒を1サイクルとして25サイクル。
【0089】
[3−2]Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼ
下記の条件で本実施例3(2)[2−2]のpCDF−pgsA−kawachii組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、pgsAタンパク質をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片13とした。続いて、Ligation High ver.2(東洋紡社)を用いて、添付の使用書に従いDNA断片13のセルフライゲーションを行い、これをpCDF−kawachii組換えベクターとした。
【0090】
《Kawachii由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;本実施例3(2)[2−2]のpCDF−pgsA−kawachii組換えベクター
フォワードプライマー;5’−CATATGTCCGTGGTCATCGACTAC−3’(配列番号31)
リバースプライマー;5’−TATATCTCCTTCTTATACTTAACTAATA−3’(配列番号32)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、59℃で30秒、68℃で2分40秒を1サイクルとして25サイクル。
【0091】
(4)形質転換および形質転換体の培養
本実施例3(2)[2−1]のpCDF−pgsA−burk組換えベクター、本実施例3(2)[2−2]のpCDF−pgsA−kawachii組換えベクター、本実施例3(3)[3−1]のpCDF−burk組換えベクターおよび本実施例3(3)[3−2]のpCDF−kawachii組換えベクターを、実施例1(5)に記載の方法により大腸菌に導入し、得られた組換え大腸菌を培養した。
【0092】
(5)酵素反応およびオリゴ糖量の測定
本実施例3(4)の組換え大腸菌の培養液を用いて、実施例2(1)に記載の方法によりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行った。その後、実施例2(2)に記載の方法により反応液に含まれる各糖の割合を測定し、オリゴ糖生成量、オリゴ糖生成率、スクロース消費量およびスクロース消費率を算出した。その結果を表2に示す。表2には、比較のため、表1に記載のpCDF−indica組換えベクターおよびpCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液の結果も併せて示す。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示すように、pCDF−burk組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液ではオリゴ糖生成率は37.0%であったのに対して、pCDF−pgsA−burk組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では156.7%であり、オリゴ糖生成率が4.2倍以上大きかった。また、pCDF−kawachii組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液ではオリゴ糖生成率は34.5%であったのに対して、pCDF−pgsA−kawachii組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では245.2%であり、オリゴ糖生成率が7.1倍以上大きかった。
【0095】
すなわち、Burk由来β−フルクトフラノシダーゼおよびKawachii由来β−フルクトフラノシダーゼを大腸菌の細胞表面に発現させると、B.indica由来β−フルクトフラノシダーゼと同様に、菌体内に発現させた場合と比較して、オリゴ糖の生成効率が顕著に大きくなることが明らかになった。これらの結果から、β−フルクトフラノシダーゼの由来ないしファミリーの差異に関わらず、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質と融合して1のポリペプチドとして発現させると、極めて効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができることが示された。
【0096】
<実施例4>アンカータンパク質の検討
細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させることにより効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができるという効果が、アンカータンパク質の種類にかかわらず発揮されるか否かを検討した。具体的には、PgsAタンパク質のアミノ酸配列を基にBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)を用いて検索し、下記(ア)および(イ)のアンカータンパク質をを抽出し、これらについて検討した;
(ア)PgsAタンパク質のアミノ酸配列と同一性が45%であるBacillus megaterium DSM319株のCapAタンパク質、
(イ)PgsAタンパク質のアミノ酸配列との同一性が32%で、CapAタンパク質のアミノ酸配列との同一性が36%であるBrevibacillus brevis NBRC100599株のタンパク質(geninfo identifierr(GI)番号226313341;以下「brevタンパク質」という。)。
【0097】
(1)細胞表面発現系の組換えベクターの作成
[1−1]CapAタンパク質をコードするDNAの増幅
CapAタンパク質をコードするDNA配列を大腸菌において最適化したコドンでコードし、かつ、3’末端側にBglIIの制限酵素サイトを付加した塩基配列を設計し、これをcapA_opti遺伝子とした。capA_opti遺伝子の塩基配列を配列番号33に、それにコードされるアミノ酸配列を配列番号34に、それぞれ示す。次に、capA_opti遺伝子のDNAを人工合成し、これを鋳型として下記の条件でPCRを行うことにより、CapAタンパク質をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片14とした。
【0098】
《CapAタンパク質をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;人工合成したcapA_opti遺伝子のDNA
フォワードプライマー;5’−TAAGAAGGAGATATACATATGAAAGAAAAGAAACTGAACTTCCAAG−3’(配列番号35)
リバースプライマー;5’−CGGGTAACCCGATTGAGATCTATTTGCCTGGGCTTCGTTCTTTTTG−3’(配列番号36)
PCR用酵素;KOD−Plus−(東洋紡社)
反応条件;94℃で15秒、58℃で20秒および68℃で2分を1サイクルとして21サイクル。
【0099】
[1−2]brevタンパク質をコードするDNAの増幅
Brevibacillus brevis NBRC100599株のゲノムDNAを常法に従って抽出した。続いて、下記の条件でPCRを行うことにより、brevタンパク質をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片15とした。また、PCR産物について常法に従ってシークエンスを行い、brevタンパク質をコードするDNAの全長の塩基配列を決定した。brevタンパク質をコードするDNAの全長の塩基配列を配列番号37に、また、それにコードされるbrevタンパク質のアミノ酸配列を配列番号38に、それぞれ示す。
【0100】
《brevタンパク質をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;Brevibacillus brevis NBRC100599株のゲノムDNA
フォワードプライマー;5’−GAAGGAGATATACATATGAACGAGAACAGATCAAG−3’(配列番号39)
リバースプライマー;5’−GTAACCCGAGGATCTGGGGGCAGTCTCCACCGC−3’(配列番号40)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で1分10秒を1サイクルとして45サイクル。
【0101】
[1−3]組換えベクターの作成
〈1−3−1〉CapAタンパク質
下記の条件で実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、pgsAタンパク質をコードするDNAを含まないがB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片16とした。続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従い本実施例4(1)[1−1]のDNA断片14とDNA断片16とを連結し、これをpCDF−capA_opti−indica組換えベクターとした。
【0102】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−AGATCTCAATCGGGTTACCCGATACCGAC−3’(配列番号41)
リバースプライマー;5’−CATATGTATATCTCCTTCTTATACTTAAC−3’(配列番号42)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で3分20秒を1サイクルとして25サイクル。
【0103】
〈1−3−2〉brevタンパク質
下記の条件で実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターを鋳型としてPCRを行うことにより、PgsAタンパク質をコードするDNAを含まないDNAを増幅し、これをDNA断片17とした。続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従い本実施例4(1)[1−2]のDNA断片15とDNA断片17とを連結し、これをpCDF−brev−indica組換えベクターとした。
【0104】
《B.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAが挿入されたpCDFDuet−1プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−AGATCCTCGGGTTACCCGATACCGA−3’(配列番号43)
リバースプライマー;5’−ATGTATATCTCCTTCTTATACTTAACT−3’(配列番号44)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;98℃で10秒、68℃で3分20秒を1サイクルとして25サイクル。
【0105】
(2)酵素反応および糖組成の確認
本実施例4(1)のpCDF−capA_opti−indica組換えベクターおよびpCDF−brev−indica組換えベクターを、実施例1(5)に記載の方法により大腸菌に導入し、得られた組換え大腸菌を培養した。続いて、これらの組換え大腸菌の培養液を用いて、実施例2(1)に記載の方法によりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行った。その後、実施例2(2)に記載の方法により反応液に含まれる各糖の割合を測定し、オリゴ糖生成量、オリゴ糖生成率、スクロース消費量およびスクロース消費率を算出した。その結果を表3に示す。表3には、比較のため、表1に記載のpCDF−indica組換えベクターおよびpCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液の結果も併せて示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示すように、pCDF−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液ではオリゴ糖生成率は11.9%であったのに対して、pCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では78.6%、pCDF−capA_opti−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では312.2%、pCDF−brev−indica組換えベクターにより形質転換した大腸菌の反応液では1.0%であった。すなわち、pCDF−indica組換えベクターを用いた場合と比較して、オリゴ糖生成率は、pCDF−pgsA−indica組換えベクターを用いた場合は6.6倍以上、pCDF−capA_opti−indica組換えベクターを用いた場合は26.2倍以上大きかったのに対して、pCDF−brev−indica組換えベクターを用いた場合はおよそ0.08倍と小さかった。
【0108】
すなわち、brevタンパク質によりβ−フルクトフラノシダーゼを大腸菌の細胞表面に発現させると、菌体内に発現させた場合と比較して、オリゴ糖の生成効率が小さくなる一方で、PgsAタンパク質やCapAタンパク質によりβ−フルクトフラノシダーゼを大腸菌の細胞表面に発現させると、菌体内に発現させた場合と比較して、オリゴ糖の生成効率が顕著に大きくなることが明らかになった。これらの結果から、PgsAタンパク質のアミノ酸配列またはCapAタンパク質のアミノ酸配列のいずれかと45%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させることにより、効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができることが明らかになった。
【0109】
<実施例5>宿主の検討
細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させることにより効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができるという効果が、宿主の種類にかかわらず発揮されるか否かを検討した。具体的には、PgsAタンパク質が由来するBacillus subtilisおよびCapAタンパク質が由来するBacillus megateriumを宿主とした場合について検討した。
【0110】
(1)Bacillus subtilisを宿主とした場合
[1−1]組換えベクターの作成
下記の条件でPCRを行うことにより、PgsAタンパク質およびB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片18とした。
【0111】
《PgsAタンパク質およびB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−AAGGAGGAAGGATCAATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATG−3’(配列番号45)
リバースプライマー;5’−CCCGGGGACGTCGACTTACTGGCCGTTCGTGACACCATGG−3’(配列番号46)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;95℃で20秒、50℃で30秒、68℃で2分を1サイクルとして25サイクル。
【0112】
また、Bacillus subtilis用分泌発現ベクターであるpHT43プラスミド(MoBiTec社)の塩基配列をもとに下記配列番号47および配列番号48のプライマーを設計し、下記の条件でPCRを行うことにより、pHT43プラスミド由来のDNAを増幅し、これをDNA断片19とした。
【0113】
《pHT43プラスミド由来のDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;pHT43プラスミド(MoBiTec社)
フォワードプライマー;5’−GTCGACGTCCCCGGGGCAGCCCGCCTAATG−3’(配列番号47)
リバースプライマー;5’−TGATCCTTCCTCCTTTAATTGGGAATTGTT−3’(配列番号48)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;95℃で20秒、68℃で5分、68℃で5分を1サイクルとして25サイクル。
【0114】
続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて添付の使用書に従いDNA断片18とDNA断片19とを連結し、これをpHT43−pgsA−indica組換えベクターとした。
【0115】
[1−2]形質転換体の作成
本実施例5(1)[1−1]のpHT43−pgsA−indica組換えベクターを、実施例1(5)に記載の方法により大腸菌に導入して組換え大腸菌を培養した後、組換え大腸菌からpHT43−pgsA−indica組換えベクターを回収した。回収したpHT43−pgsA−indica組換えベクターおよびpHT43プラスミド(MoBiTec社)を、エレクトロポレーションによりBacillus subtilis RIK1285株(B.subtilis Secretory Protein Expression System;TAKARA社)に導入して形質転換体を得て、これを組換えサブティリス菌とした。エレクトロポレーションはGENE PULSER II(バイオラッド社)を用いて、以下〈1〉〜〈8〉の手順で行った。
【0116】
〈1〉Bacillus subtilis RIK1285(B.subtilis Secretory Protein Expression System;TAKARA社)のグリセロールストックから適量をLBプレートに広げ、37℃で一晩(約16時間)培養を行った後、シングルコロニーを突いて、25mLのLB培地を入れた250mL容量のフラスコに植菌し、28℃で一晩(約16時間)前培養を行い、これを前培養液とした。
〈2〉終濃度0.5Mとなるようにソルビトールを添加したLB培地を調製し、これを本培養培地とした。50mLの本培養培地を入れた250mL容量の三角フラスコに前培養液5mLを加え、37℃、220rpmで本培養を行い、これを本培養液とした。本培養は、濁度の値が定常期(OD600=0.85〜0.95)になるまで行った。
〈3〉本培養液の三角フラスコを氷中に10分間以上放置した後、5000×g、4℃で10分間遠心分離を行った。上清を除去した後、氷冷したSolution A(0.5M ソルビトール、0.5M マンニトール、0.5M トレハロース、10% グリセロール)を用いて菌体の洗浄を4回行った。
〈4〉続いて、菌体を適当量のSolution Aに懸濁した後、60μLずつ分注して−80℃で保存し、これをエレクトロポレーション用菌体とした。
〈5〉エレクトロポレーション用菌体を氷中で溶解し、サンプルとしてpHT43−pgsA−indica組換えベクターを、コントロールとしてpHT43プラスミド(MoBiTec社)を、それぞれ適当量加えた後、氷冷しておいた0.1cmギャップのキュベットに移し、1〜1.5分間放置した。
〈6〉22KV/cm(25μF、200Ω)でパルスをかけた後、Solution B(0.5Mのソルビトールおよび0.38Mのマンニトールを含むLB培地)を1mL加え、37℃で3時間穏やかに振とう培養を行った。
〈7〉その培養液を3500rpmで5分間遠心分離を行い、上清を除去した。100μLのSolution Bを加えて懸濁し、終濃度5μg/mLのchloramphenicolを含むLBプレートに塗布して、37℃で一晩培養した。
〈8〉LBプレート上に出現したコロニーを、終濃度5μg/mLのchloramphenicolおよび終濃度1mMのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を含むL培地1mLに加え、30℃、220rpmで24時間旋回培養し、これを組換えサブティリス菌培養液とした。
【0117】
[1−4]酵素反応および糖組成の確認
45(w/w)%のスクロースを含む0.04Mのリン酸カリウムバッファーを調製し、これを45%スクロース溶液とした。本実施例5(1)[1−2]〈8〉の組換えサブティリス菌培養液を4℃、3500rpmで10分間遠心分離して菌体を回収し、500μLの45%スクロース溶液に懸濁し、これを30℃、220rpmで24時間振盪することによりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行った。続いて、50%アセトニトリル水溶液を用いて反応液を25倍に希釈し、HPLCサンプルとした。次に、HPLCサンプルを下記の条件でHPLCに供して、糖組成を確認した。その結果を
図2に示す。
【0118】
《HPLC分析条件》
カラム:Cosmosil Sugar−D 4.6×150mm
溶離液:アセトニトリル水溶液(0〜9分;72.5〜57.5%、9〜11分;72.5)%)
カラム温度:25℃
流速:1.5mL/分
注入量:1.5μL
検出:コロナ荷電粒子検出器(CAD;サーモフィッシャーサイエンティフィック社)
【0119】
図2に示すように、pHT43−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した組換えサブティリス菌の反応液と、pHT43プラスミドにより形質転換した組換えサブティリス菌(コントロール)の反応液とは、ほぼ同じ形状のHPLCチャートであり、いずれにおいても、三糖以上のオリゴ糖ないしグルコースやフルクトースの生成はほとんど確認されなかった。この結果から、Bacillus subtilisにおいて、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させると、効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができないことが明らかになった。
【0120】
(2)Bacillus megateriumを宿主とした場合
[2−1]組換えベクターの作成
下記の条件でPCRを行うことにより、CapAタンパク質およびB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNAを増幅し、これをDNA断片20とした。
【0121】
《CapAタンパク質およびB.Indica由来β−フルクトフラノシダーゼのアミノ酸配列をコードするDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;実施例4(1)のpCDF−capA_opti−indica組換えベクター
フォワードプライマー;5’−AGGGGGAAATGACAAATGAAAGAAAAGAAACTGAACTTCC−3’(配列番号49)
リバースプライマー;5’−ACTAGTTTGGACCATTTACTGGCCGTTCGTGACACCATGG−3’(配列番号50)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;94℃で15秒、58℃で20秒、68℃で3分を1サイクルとして21サイクル。
【0122】
また、Bacillus megaterium用発現ベクターであるpWH1520プラスミド(MoBiTec社)の塩基配列をもとに下記配列番号51および配列番号52のプライマーを設計し、下記の条件でPCRを行うことにより、pWH1520プラスミド由来のDNAを増幅し、これをDNA断片21とした。
【0123】
《pWH1520プラスミドのDNA増幅用PCRの条件》
鋳型;pWH1520プラスミド(MoBiTec社)
フォワードプライマー;5’−ATGGTCCAAACTAGTACTAATAAAATTAAT−3’(配列番号51)
リバースプライマー;5’−TTGTCATTTCCCCCTTTGATTTAAGTGAAC−3’(配列番号52)
PCR用酵素;KOD−Plus−Neo(東洋紡社)
反応条件;94℃で15秒、68℃で9分を1サイクルとして35サイクル。
【0124】
続いて、In−Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社)を用いて、添付の使用書に従いDNA断片20とDNA断片21とを連結し、これをpWH1520−capA_opti−indica組換えベクターとした。
【0125】
[2−2]形質転換体の作成
本実施例5(2)[2−1]のpWH1520−capA_opti−indica組換えベクターを、実施例1(5)に記載の方法により大腸菌に導入して組換え大腸菌を培養した後、組換え大腸菌からpWH1520−capA_opti−indica組換えベクターを回収した。回収したpWH1520−capA_opti−indica組換えベクターと、コントロールとしてpWH1520プラスミド(MoBiTec社)とを、プロトプラスト法によりそれぞれBacillus megateriumに導入して形質転換体を得て、これを組換えメガテリウム菌とした。プロトプラスト法は、Bacillus megaterium Protoplast(Mobitec社)を用いて、添付の使用書に従って行った。得られた組換えメガテリウム菌は、終濃度10μg/mLのテトラサイクリンを含むL培地1mLに加え、30℃、220rpmで6時間旋回培養した後、キシロースを終濃度0.5(w/w)%となるよう培地に添加し、同条件でさらに18時間旋回培養して、これを組換えメガテリウム菌培養液とした。
【0126】
[2−3]酵素反応および糖組成の確認
本実施例5(2)[2−2]の組換えメガテリウム菌培養液について、本実施例5(1)[1−4]に記載の方法により酵素反応を行った後、反応液の糖組成の確認を行った。その結果を
図3に示す。
【0127】
図3に示すように、pWH1520−capA_opti−indica組換えベクターにより形質転換した組換えメガテリウム菌の反応液と、pWH1520プラスミドにより形質転換した組換えメガテリウム菌の反応液とは、ほぼ同じ形状のHPLCチャートであり、いずれにおいても、三糖以上のオリゴ糖ないしグルコースやフルクトースの生成はほとんど確認されなかった。この結果から、Bacillus megateriumにおいて、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させると、効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができないことが明らかになった。
【0128】
以上の本実施例5(1)[1−4]および(2)[2−3]の結果から、PgsAタンパク質はBacillus subtilisに由来し、CapAタンパク質はBacillus megateriumに由来するにも関わらず、これらを宿主として、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させた場合は、効率的にフルクトースが付加された糖質を製造することができないことが明らかになった。
【0129】
また、従来よりタンパク質の発現に多用される酵母は内在性のβ−フルクトフラノシダーゼを有し(http://www.mfc.co.JP/product/kouso/invertase/)、このため、外来のβ−フルクトフラノシダーゼを導入してフルクトースが付加された糖質を製造する際は、当該内在性β−フルクトフラノシダーゼの活性(スクロースの資化性)を欠損させた変異株を用いる必要があり(例えば、特許第3628336号、第24頁(3))、β−フルクトフラノシダーゼによるフルクトースが付加された糖質の製造方法における宿主としては、汎用性や取り扱いの容易さに欠ける。
【0130】
以上のことから、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質とβ−フルクトフラノシダーゼとを1のポリペプチドとして発現させた微生物によるフルクトースが付加された糖質の製造方法における宿主としては、大腸菌が至適であることが明らかになった。
【0131】
<実施例6>受容体基質の検討
細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質と融合して1のポリペプチドとして大腸菌に発現させたβ−フルクトフラノシダーゼにより、フルクトースの転移を受けることができる物質(受容体基質)について検討した。具体的には、単糖、二糖および配糖体、ならびに糖質以外の物質としてヒドロキノンが受容体基質となり得るか否かについて検討した。
【0132】
(1)単糖、二糖および配糖体
[1−1]酵素反応
実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した実施例1(5)の組換え大腸菌の培養液を12000rpm、4℃で5分間遠心分離に供して集菌した後、菌体湿重量にして約7mg分用意した。また、フルクトース残基の供与体基質としてスクロース(グラニュー糖;三井製糖社)を、受容体基質として単糖(D(+)−キシロース(和光純薬社)およびL(+)−アラビノース(和光純薬社))、二糖(メリビオース(和光純薬社)およびラクトース一水和物(和光純薬社))ならびに配糖体(α−メチル−D(+)−グルコシド(和光純薬社))を用意し、表4に示す組成の基質溶液No.1〜5を調製した。基質溶液の溶媒は、0.04Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)を用いた。7mgの湿菌体に対して基質溶液No.1〜5をそれぞれ200μLずつ添加して懸濁し、これを、40℃、200rpmで1時間振盪することによりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行い、反応液を得た。基質溶液No.1〜5を添加して得られた反応液を、それぞれ、反応液No.1〜5とした。
【0133】
【表4】
【0134】
[1−2]糖組成の確認
本実施例6(1)[1−1]の反応液No.1〜5各50μLに水450μLおよびアセトニトリル500μLを加えることにより希釈した後、70℃で10分間加熱した。続いて、25℃、15000×gで10分間遠心分離を行って上清を回収し、孔径0.45μmのフィルターで濾過して、得られた濾液をHPLCサンプルとした。これを下記の条件でHPLCに供して、反応液に含まれる各糖の割合を測定した。各糖の割合は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として、面積百分率で算出した。その結果を表5に示す。
【0135】
《HPLCの条件》
カラム:TOSOH TSKgel Amide80 粒子径5μm(4.6φ×250mm)
溶離液:アセトニトリル水溶液(反応液No.1〜2および5のHPLCサンプル;78%、反応液No.3〜4のHPLCサンプル;70%)
カラム温度:70℃
流速:1.0mL/分
注入量:20μL
検出;示差屈折率検出器(RID;昭和電工社)
【0136】
【表5】
【0137】
表5に示すように、反応液No.1〜5のいずれにも、受容体基質に由来するオリゴ糖が含まれることが確認された。すなわち、反応液No.1〜5において、D(+)−キシロース、L(+)−アラビノース、メリビオース、ラクトース一水和物およびα−メチル−D(+)−グルコシドにフルクトース残基が転移されて、オリゴ糖が生成したことが明らかになった。これらの結果から、糖質は、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質と融合して1のポリペプチドとして大腸菌に発現させたβ−フルクトフラノシダーゼの受容体基質となりうることが示された。
【0138】
(2)ヒドロキノン
[2−1]酵素反応
実施例1(2)のpCDF−pgsA−indica組換えベクターにより形質転換した実施例1(5)の組換え大腸菌の培養液を、菌体の湿重量にして10mg分用意した。また、フルクトース残基の供与体基質としてスクロース(グラニュー糖;三井製糖社)を、受容体基質としてヒドロキノン(和光純薬社)をそれぞれ用意した。50mMの酢酸バッファー(pH6.0)1mLにスクロース342mg(終濃度1M)およびヒドロキノン28mg(終濃度0.25M)を溶解し、これを基質溶液とした。10mgの湿菌体に対して50倍量の体積の基質溶液を添加して懸濁した後、40℃、200rpmで1時間振盪することによりβ−フルクトフラノシダーゼの酵素反応を行い、これをサンプル反応液とした。また、下記の組成のコントロール溶液No.1〜3を用意し、同様に40℃、200rpmで1時間振盪し、コントロール反応液No.1〜3を得た。
【0139】
コントロール溶液No.1;10mgの湿菌体に対して、50mM酢酸バッファー(pH6.0)を50倍量(体積比)添加。
コントロール溶液No.2;基質溶液のみ(湿菌体を含まない)。
コントロール溶液No.3;10mgの湿菌体に対して、終濃度1Mのスクロースを含む50mM酢酸バッファー(pH6.0)を500μL添加。
【0140】
[2−2]反応液に含まれる物質の確認
本実施例6(2)[2−1]のサンプル反応液およびコントロール反応液No.1〜3について、本実施例6(1)[1−2]に記載の方法によりHPLCを行い、反応液に含まれる物質の確認を行った。ただし、HPLCの条件は下記のとおりとした。その結果を
図4に示す。なお、280nmのUV検出では主としてヒドロキノンおよびそれに由来する生成物が検出され、ELSDでは主として糖およびそれに由来する生成物が検出される。
【0141】
《HPLCの条件》
カラム:Unison UK−Amino
溶離液:アセトニトリル水溶液(0〜30分;98〜70%グラジエント)
カラム温度:60℃
流速:0.4mL/分
注入量:1μL
検出;UV検出器(280nm)および蒸発光散乱検出器(ELSD)
【0142】
図4の最上段のHPLCチャートにおいて矢印で示すように、サンプル反応液においてのみ、保持時間約12分、約19分および約24分にピークが確認された。同様の保持時間におけるピークは、コントロール反応液No.1で検出されなかったことから菌体由来のものではなく、コントロール反応液No.2で検出されなかったことからヒドロキノンあるいはスクロースではなく、コントロール反応液No.3で検出されなかったことからスクロースにβ−フルクトフラノシダーゼが作用して生成する生成物(グルコース、フルクトース、ケストースなどのオリゴ糖など)ではないことが分かる。すなわち、サンプル反応液において、ヒドロキノンにフルクトースが転移されて、配糖体が生成したことが明らかになった。これらの結果から、糖質以外の物質もまた、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質と融合して1のポリペプチドとして大腸菌に発現させたβ−フルクトフラノシダーゼの受容体基質となりうることが示された。
【0143】
以上の本実施例(1)[1−2]および(2)[2−2]の結果から、細胞表面に発現させるためのアンカータンパク質と融合して1のポリペプチドとして大腸菌に発現させたβ−フルクトフラノシダーゼにより、糖質や糖質以外の物質を受容体基質として、フルクトースが付加された糖質を製造することができることが示された。