特許第5882597号(P5882597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882597
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】フィルター及びフィルターの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20160225BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20160225BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20160225BHJP
   B01J 20/18 20060101ALI20160225BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20160225BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20160225BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20160225BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20160225BHJP
   D06M 10/02 20060101ALI20160225BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20160225BHJP
   D04H 1/407 20120101ALI20160225BHJP
【FI】
   G21F9/02 551E
   G21F9/02 511C
   B01D39/16 E
   B01D46/00 Z
   B01J20/18 C
   B01J20/02 A
   B01J20/28 A
   D06M11/83
   D06M10/00 Z
   D06M10/02 C
   D06M10/02 Z
   D04H1/728
   D04H1/407
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-91314(P2011-91314)
(22)【出願日】2011年4月15日
(65)【公開番号】特開2012-223674(P2012-223674A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513023170
【氏名又は名称】株式会社ナノア
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】金 翼水
(72)【発明者】
【氏名】平井 利博
(72)【発明者】
【氏名】森川 英明
(72)【発明者】
【氏名】小山 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】金 ビョンソク
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 圭
(72)【発明者】
【氏名】李 在煥
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−508665(JP,A)
【文献】 特開2010−284649(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/011620(WO,A1)
【文献】 特表2009−526635(JP,A)
【文献】 特開2002−267795(JP,A)
【文献】 特開昭58−172548(JP,A)
【文献】 特開昭61−161139(JP,A)
【文献】 特開昭55−132634(JP,A)
【文献】 特開昭63−12345(JP,A)
【文献】 特開2002−350588(JP,A)
【文献】 特開2008−95266(JP,A)
【文献】 特開昭58−8530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/02
B01D 39/16
B01D 46/00
B01J 20/02
B01J 20/18
B01J 20/28
D04H 1/407
D04H 1/728
D06M 10/00
D06M 10/02
D06M 11/83
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性のある基材層と、ナノ繊維層とを備え、
前記ナノ繊維層は、吸着物質を含む複合ナノ繊維層からなり、
前記吸着物質は、放射性物質を吸着する物質であり、
前記吸着物質として、薄層状の銀を含むことを特徴とするフィルター。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルターにおいて、
前記吸着物質として、粒子状のゼオライト及び前記薄層状の銀を含むことを特徴とするフィルター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルターにおいて、
前記基材層は、HEPAフィルターからなることを特徴とするフィルター。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフィルターにおいて、
前記基材層は、不織布からなることを特徴とするフィルター。
【請求項5】
請求項1に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、
基材層を準備する基材層準備工程と、
ポリマー材料を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上にナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記ナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程と、
前記ナノ繊維複合体の前記ナノ繊維層に銀を蒸着して複合ナノ繊維層とし、前記フィルターとする蒸着工程とをこの順番で含むことを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、
基材層を準備する基材層準備工程と、
ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記複合ナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程と、
前記ナノ繊維複合体の前記複合ナノ繊維層に銀を蒸着して前記フィルターとする蒸着工程とをこの順番で含むことを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のフィルターの製造方法において、
前記基材層は、HEPAフィルターからなることを特徴とするフィルターの製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載のフィルターの製造方法において、
前記基材層は、不織布からなることを特徴とするフィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、フィルター及びフィルターの製造方法に関する。
【0002】
従来、通気性のある基材層とナノ繊維層とを備えるフィルターが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
従来のフィルターによれば、ナノ繊維層の性質(広い表面積、微細な空隙等)により、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0003】
なお、「基材層」とは、ナノ繊維層を形成するための基材となる層のことをいう。
また、「ナノ繊維層」とは、ナノ繊維(ポリマー材料からなり、平均径が数nm〜数千nmの繊維)からなる層のことをいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−270965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィルターの技術分野においては、通常の微小粒子(粉塵等)のみならず特殊な物質(特にセシウム、ヨウ素等の放射性同位体そのものや、放射性同位体が付着した物質であり、微小粒子やイオン等種々の形態のものを含む。)を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターを提供することを目的とする。また、そのようなフィルターの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明のフィルターは、通気性のある基材層と、ナノ繊維層とを備え、前記ナノ繊維層は、吸着物質を含む複合ナノ繊維層からなることを特徴とする。
【0008】
このため、本発明のフィルターによれば、通気性のある基材層とナノ繊維層とを備えるため、従来のフィルターと同様に、ナノ繊維層の性質(広い表面積、微細な空隙等)により、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0009】
また、本発明のフィルターによれば、ナノ繊維層が吸着物質を含む複合ナノ繊維層からなるため、分離・捕集しようとする物質に適した吸着物質を用いることで、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0010】
したがって、本発明のフィルターは、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0011】
また、本発明のフィルターによれば、吸着物質を含む複合ナノ繊維層を備えるため、ナノ繊維の微細さから、ナノ繊維と吸着物質がよくなじんでナノ繊維層からの吸着物質の離脱を抑制することが可能となり、また、吸着物質に分離・捕集しようとする物質を大量に吸着させることが可能となる。
【0012】
基材層としては、ある程度の強度があり、かつ、それ自体でフィルターとしての役割を果たすもの(つまり、ナノ繊維層を有しない一般のフィルター)を用いることが好ましい。
「吸着物質」とは、例えば多孔質の粒子や金属のように、分離・捕集しようとする物質を吸着するのに適した物質のことをいう。吸着物質は単体の物質のみを含むものでもよいし、複数の物質を含むものでもよい。
【0013】
なお、本発明のフィルターは、特殊な物質を分離・捕集することに優れているため、特殊な物質が含まれる気体が通過する換気設備のフィルター、液体が通過する濾過設備のフィルター、建造物や保護対象(人間や土壌等)にかけておくカバーの部材、その他幅広い用途に使用可能である。
【0014】
本発明のフィルターにおいては、基材層と複合ナノ繊維層との間の接合力が小さい場合には、基材層と複合ナノ繊維層との間に接着材料(熱可塑性樹脂等)からなる接着層をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明のフィルターにおいては、複合ナノ繊維層におけるナノ繊維の平均径は、10nm〜1000nmの範囲内にあることが好ましい。
【0016】
このような構成とすることにより、製造が比較的容易であり、かつ、微細粒子を分離・捕集することが可能な複合ナノ繊維層を備えるフィルターとすることが可能となる。
【0017】
なお、本発明において、ナノ繊維の平均径を10nm〜1000nmの範囲内にしたのは、当該平均径が10nmより小さい場合には製造が困難となる場合があるためであり、当該平均径が1000nmより大きい場合には表面積や細孔の観点から微細粒子を分離・捕集することが困難となる場合があるためである。
上記観点からは、ナノ繊維の平均径は50nm〜500nmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0018】
[2]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質は、放射性物質を吸着する物質であることが好ましい。
【0019】
このような構成とすることにより、放射性物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとすることが可能となる。
【0020】
[3]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質として、粒子状のゼオライトを含むことが好ましい。
【0021】
ところで、セシウムの放射性同位体(特にセシウム137)は原子力事故や核実験等により環境に放出される。セシウムには水に溶けやすい性質があるため、セシウムの放射性同位体が生体に摂取された場合には生体内で放射線源となり非常に危険である。一方、ゼオライトは水に溶けたものも含めセシウムをよく吸着するため、上記のような構成とすることにより、セシウムを特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0022】
本発明のフィルターにおいては、粒子状のゼオライトの平均径は、10nm〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
粒子状のゼオライトの平均径が10nmより小さい場合には製造が困難となる場合があるためであり、当該平均径が10μmより大きい場合にはナノ繊維に対して吸着物質が大きすぎるために吸着物質の離脱が多くなってしまう場合があるためである。
上記観点からは、粒子状のゼオライトの平均径は50nm〜2μmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0023】
[4]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質として、粒子状の銀を含むことが好ましい。
【0024】
ところで、ヨウ素の放射性同位体(特にヨウ素131)も原子力事故や核実験等により環境に放出される。ヨウ素には甲状腺に蓄積されやすい性質があるため、ヨウ素の放射性同位体が生体に摂取された場合には生体内で放射線源となり非常に危険である。一方、銀はヨウ素をよく吸着するため、上記のような構成とすることにより、ヨウ素を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0025】
また、このような構成とすることにより、フィルターの導電性を向上させ、放射線(例えばβ線)の遮断に寄与することが可能となる。
【0026】
さらにまた、このような構成とすることにより、吸着物質の表面積を比較的大きくすることが可能となる。
【0027】
本発明のフィルターにおいては、粒子状の銀の平均径は、10nm〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
粒子状の銀の平均径が10nmより小さい場合には製造が困難となる場合があるためであり、当該平均径が10μmより大きい場合にはナノ繊維に対して吸着物質が大きすぎるために吸着物質の離脱が多くなってしまう場合があるためである。
上記観点からは、粒子状の銀の平均径は50nm〜2μmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0028】
[5]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質として、前記粒子状のゼオライト及び前記粒子状の銀を含むことが好ましい。
【0029】
このような構成とすることにより、セシウムとヨウ素との両方を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0030】
[6]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質として、薄層状の銀を含むことが好ましい。
【0031】
このような構成とすることによっても、ヨウ素を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0032】
また、このような構成とすることにより、フィルターの導電性を向上させ、放射線(例えばβ線)の遮断に寄与することが可能となる。
【0033】
さらにまた、このような構成とすることにより、フィルター全面に渡って薄く分布する吸着物質とすることが可能となる。
【0034】
上記のような吸着物質は、例えば蒸着により形成することができる。
本発明のフィルターにおいては、薄層状の銀の平均厚さは、10nm〜500nmの範囲内にあることが好ましい。
薄層状の銀の平均厚さが10nmより小さい場合には製造が困難となる場合があるためであり、当該平均厚さが500nmより大きい場合にはナノ繊維に対して吸着物質が厚すぎるためにナノ繊維の特徴を損なってしまう場合があるためである。
上記観点からは、薄層状の銀の平均厚さは20nm〜200nmの範囲内にあることが一層好ましい。
【0035】
[7]本発明のフィルターにおいては、前記吸着物質として、前記粒子状のゼオライト及び前記薄層状の銀を含むことが好ましい。
【0036】
このような構成とすることによっても、セシウムとヨウ素との両方を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0037】
[8]本発明のフィルターにおいては、前記基材層は、HEPAフィルターからなることが好ましい。
【0038】
HEPAフィルターは微小粒子をよく分離・捕集することが可能であるため、上記のような構成とすることにより、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0039】
[9]本発明のフィルターにおいては、前記基材層は、不織布からなることが好ましい。
【0040】
不織布はある程度の強度があり、かつ、それ自体でフィルターとしての役割を果たすものであり、しかも比較的安価であるため、上記のような構成とすることにより、製造コストを低減することが可能となる。
【0041】
[10]上記[3]に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記複合ナノ繊維層とが積層した構造を有する前記フィルターを製造する電界紡糸工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0042】
本発明のフィルターの製造方法によれば、上記[3]に記載のフィルター(吸着物質として粒子状のゼオライトを含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0043】
[11]上記[4]に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記複合ナノ繊維層とが積層した構造を有する前記フィルターを製造する電界紡糸工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0044】
本発明のフィルターの製造方法によれば、上記[4]に記載のフィルター(吸着物質として粒子状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0045】
[12]上記[5]に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料、粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記複合ナノ繊維層とが積層した構造を有する前記フィルターを製造する電界紡糸工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0046】
本発明のフィルターの製造方法によれば、上記[5]に記載のフィルター(吸着物質として粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0047】
[13]上記[6]に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上にナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記ナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程と、前記ナノ繊維複合体の前記ナノ繊維層に銀を蒸着して複合ナノ繊維層とし、前記フィルターとする蒸着工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0048】
本発明のフィルターの製造方法によれば、上記[6]に記載のフィルター(吸着物質として薄膜状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0049】
[14]上記[7]に記載のフィルターを製造するためのフィルターの製造方法であって、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、前記基材層と前記複合ナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程と、前記ナノ繊維複合体の前記複合ナノ繊維層に銀を蒸着して前記フィルターとする蒸着工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0050】
本発明のフィルターの製造方法によれば、上記[7]に記載のフィルター(吸着物質として粒子状のゼオライト及び薄膜状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0051】
[15]本発明のフィルターの製造方法においては、前記基材層は、HEPAフィルターからなることが好ましい。
【0052】
HEPAフィルターは微小粒子をよく分離・捕集することが可能であるため、上記のような方法とすることにより、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターを製造することが可能となる。
【0053】
[16]本発明のフィルターの製造方法においては、前記基材層は、不織布からなることが好ましい。
【0054】
不織布はある程度の強度があり、かつ、それ自体でフィルターとしての役割を果たすものであり、しかも比較的安価であるため、上記のような方法とすることにより、製造コストを低減することが可能なフィルターを製造することが可能となる。
また、構造が比較的単純であるため、電界紡糸工程の実施を容易なものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】実施形態1に係るフィルター1を説明するための図である。
図2】実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100の正面図である。
図3】実施形態1に係るフィルターの製造方法のフローチャートである。
図4】実施形態2に係るフィルター2を説明するための図である。
図5】実施形態3に係るフィルター3を説明するための図である。
図6】実施形態3に係るフィルターの製造方法のフローチャートである。
図7】実施形態4に係るフィルター4を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明のフィルター及びフィルターの製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
【0057】
[実施形態1]
1.実施形態1に係るフィルター1の構成
まず、実施形態1に係るフィルター1の構成を説明する。
図1は、実施形態1に係るフィルター1を説明するための図である。図1(a)は芯材(符号を図示せず。)に巻いた状態のフィルター1の斜視図であり、図1(b)はフィルター1の拡大断面図であり、図1(c)は図1(b)のAで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
なお、構成等を示す図は全て模式図であり、実際の大きさ、厚さ等の関係と必ずしも一致するものではない。
【0058】
実施形態1に係るフィルター1は、図1に示すように、通気性のある基材層10とナノ繊維層とを備え、当該ナノ繊維層はナノ繊維22及び吸着物質24を有する複合ナノ繊維層20からなる(特に図1(c)参照。)。フィルターの厚さは目的によって任意に設定することができる。
【0059】
基材層10は長尺シートの形態を取っており、基材層10としては、各種材料からなる不織布、織物、編物、紙等、通気性のあるものを用いることができる。実施形態1においては基材層10として、平均径1000nmのガラス繊維からなるHEPAフィルターを用いており、図1(c)中、符号12で示すのは基材層10中のガラス繊維である。基材層10の長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。なお、基材層として長尺シートではないもの(例えば、細切れ状のものや短冊状のもの)を用いることもできる。
【0060】
ナノ繊維22の平均径は、10nm〜1000nmの範囲内にあり、一層好ましくは50nm〜500nmの範囲内にあり、例えば、200nmである。ナノ繊維を構成する材料としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサン等、各種のポリマーを目的に応じて用いることができる。
【0061】
実施形態1においては、吸着物質24として、放射性物質を吸着する物質である粒子状のゼオライトを含む。吸着物質24の平均径は、10nm〜10μmの範囲内にあり、一層好ましくは50nm〜2μmの範囲内にあり、例えば250nmである。
【0062】
実施形態1に係るフィルター1は、後述するナノ繊維複合体製造装置100を用いて、実施形態1に係るフィルターの製造方法により得られるものである。
【0063】
2.実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100の構成
次に、実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100の構成を説明する。
図2は、実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100の正面図である。図2においては、一部の部材は断面図として示している。
【0064】
ナノ繊維複合体製造装置100は、実施形態1に係るフィルター1を製造するための装置である。つまり、実施形態1においてはフィルター製造装置であるともいえる。
ナノ繊維複合体製造装置100は、図2に示すように、搬送装置110と、1台の電界紡糸装置120とを備える。なお、2台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維複合体製造装置としてもよい。
【0065】
搬送装置110は、基材層10を所定の搬送速度で搬送する。搬送装置110は、基材層10を繰り出す繰り出しローラー111、基材層10を巻き取る巻き取りローラー112、基材層10の張りを調整するテンションローラー113,118と、繰り出しローラー111と巻き取りローラー112との間に位置する補助ローラー114を備える。繰り出しローラー111及び巻き取りローラー112は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
電界紡糸装置120は、搬送装置110により搬送されている基材層10上にナノ繊維22と吸着物質24とを有する複合ナノ繊維層20を形成する。
【0066】
電界紡糸装置120は、図2に示すように、筐体200と、ノズルユニット210と、ポリマー溶液供給部230と、コレクター250と、電源装置260と、補助ベルト装置270とを備える。電界紡糸装置120は、後述する複数の上向きノズル220の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら吐出して、複合ナノ繊維層20を形成する。
【0067】
筐体200は、導電体からなり、接地されている。
ノズルユニット210は、複数の上向きノズル220を有する。
本発明のフィルターを製造するためのナノ繊維複合体製造装置には、様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルユニットを用いることができるが、実施形態1におけるノズルユニット210は、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさで、ブロック状の形状を有する。
【0068】
上向きノズル220は、ポリマー溶液供給部230から供給されるポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出するノズルである。上向きノズル220を構成する材料としては導電体を用いることができ、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム等を用いることができる。
【0069】
上向きノズル220は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。上向きノズル220の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)とすることができる。
【0070】
なお、実施形態1においては、ノズルとして上向きノズル220を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。ノズルとして横向きノズルを用いてもよいし、下向きノズルを用いてもよい。
【0071】
ポリマー溶液供給部230は、原料タンク232及びポリマー溶液供給装置234を備える。
原料タンク232は、複合ナノ繊維層20の原料となるポリマー溶液を貯蔵する。原料タンク232は、ポリマー溶液の分離や凝固を防ぐための撹拌装置233を内部に有する。原料タンク232には、ポリマー溶液供給装置234のパイプ236が接続されている。
【0072】
ポリマー溶液供給装置234は、ポリマー溶液を通過させるパイプ236及び供給動作を制御するバルブ238からなり、原料タンク232に貯蔵されたポリマー溶液をノズルユニット210に供給する。なお、ポリマー溶液供給装置は1つのノズルユニットにつき最低1つあればよく、複数あってもよい。
【0073】
コレクター250は、ノズルユニット210の上方に配置されている。コレクター250は導電体からなり、図2に示すように、絶縁部材252を介して筐体200に取り付けられている。
電源装置260は、上向きノズル220と、コレクター250との間に高電圧を印加する。電源装置260の正極はコレクター250に接続され、電源装置260の負極は筐体200を介してノズルユニット210に接続されている。
【0074】
補助ベルト装置270は、長尺シート10の搬送速度に同期して回転する補助ベルト272と、補助ベルト272の回転を助ける5つの補助ベルト用ローラー274とを有する。5つの補助ベルト用ローラー274のうち1つ又は2つ以上の補助ベルト用ローラーが駆動ローラーであり、残りの補助ベルト用ローラーが従動ローラーである。コレクター250と基材層10との間に補助ベルト272が配設されているため、基材層10は、正の高電圧が印加されているコレクター250に引き寄せられることなくスムーズに搬送されるようになる。
【0075】
3.実施形態1に係るフィルターの製造方法の説明
次に、実施形態1に係るフィルターの製造方法を説明する。
図3は、実施形態1に係るフィルターの製造方法のフローチャートである。
【0076】
実施形態1に係るフィルターの製造方法は、図3に示すように、基材層準備工程S1と、ポリマー溶液作製工程S2と、電界紡糸工程S3とを含む。実施形態1に係るフィルターの製造方法は、上記したナノ繊維複合体製造装置100を用いて、実施形態1に係るフィルター1を製造する方法である。
【0077】
S1.基材層準備工程
基材層準備工程S1は、基材層10を準備する工程である。実施形態1においては、実施形態1に係るフィルターを製造するため、平均径1000nmのガラス繊維からなるHEPAフィルターを準備する。
【0078】
S2.ポリマー溶液作製工程
ポリマー溶液作製工程S2は、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を作製する工程である。また、実施形態1においては、粒子状のゼオライトからなる吸着物質24をさらに含有するポリマー溶液を作製する工程である。
ポリマー溶液の構成は、ポリマー材料の種類や分子量、吸着物質の種類や孔径、溶媒の種類や比率、温度、電圧、製造するフィルターの用途等に応じて適宜決定することができる。
【0079】
S3.電界紡糸工程
電界紡糸工程S3は、ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上に複合ナノ繊維層20を形成し、基材層10と複合ナノ繊維層20とが積層した構造を有するフィルターを製造する工程である。
【0080】
まず、作製したポリマー溶液を、ポリマー溶液供給部230を通じてノズルユニット210へ供給する。
次に、長尺シートである基材層10を搬送装置110にセットし、その後、基材層10を繰り出しローラー111から巻き取りローラー112に向けて所定の搬送速度で搬送させながら、電界紡糸装置120において基材層10に複合ナノ繊維層20を形成し、実施形態1に係るフィルター1を製造する。当該フィルター1は、巻き取りローラー112に巻き取られる。
【0081】
以下に、実施形態1における紡糸条件を例示的に示す。
【0082】
ポリマー溶液を製造するためのポリマー材料は、「1.実施形態1に係るフィルター1の構成」で例示したポリマー材料と同じであるため、説明を省略する。
【0083】
ポリマー溶液を製造するための溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THFなどを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、導電性向上剤などの添加剤を含有させてもよい。
【0084】
搬送速度は、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。コレクター250とノズルユニット210とに印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができ、50kV付近に設定することが好ましい。
【0085】
紡糸区域の温度は、例えば25℃に設定することができる。紡糸区域の湿度は、例えば30%に設定することができる。
【0086】
以下、実施形態1に係るフィルター1及びフィルターの製造方法の効果を記載する。
【0087】
実施形態1に係るフィルター1によれば、通気性のある基材層10とナノ繊維層とを備えるため、従来のフィルターと同様に、ナノ繊維層の性質(広い表面積、微細な空隙等)により、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0088】
また、実施形態1に係るフィルター1によれば、ナノ繊維層が吸着物質24を含む複合ナノ繊維層20からなるため、分離・捕集しようとする物質に適した吸着物質を用いることで、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0089】
したがって、実施形態1に係るフィルター1は、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0090】
また、実施形態1に係るフィルター1によれば、吸着物質24を含む複合ナノ繊維層20を備えるため、ナノ繊維22の微細さから、ナノ繊維と吸着物質がよくなじんでナノ繊維層からの吸着物質の離脱を抑制することが可能となり、また、吸着物質に分離・捕集しようとする物質を大量に吸着させることが可能となる。
【0091】
また、実施形態1に係るフィルター1によれば、吸着物質24が放射性物質を吸着する物質であるため、放射性物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとすることが可能となる。
【0092】
また、実施形態1に係るフィルター1によれば、吸着物質24として粒子状のゼオライトを含むため、セシウムを特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0093】
また、実施形態1に係るフィルター1によれば、基材層10がHEPAフィルターからなるため、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能となる。
【0094】
実施形態1に係るフィルターの製造方法によれば、基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いる電界紡糸工程とをこの順番で含むため、実施形態1に係るフィルター1(吸着物質24として粒子状のゼオライトを含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0095】
また、実施形態1に係るフィルターの製造方法によれば、基材層10がHEPAフィルターからなるため、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能な実施形態1に係るフィルター1を製造することが可能となる。
【0096】
[実施形態2]
図4は、実施形態2に係るフィルター2を説明するための図である。図4(a)はフィルター2の拡大断面図であり、図4(b)は図4(a)のBで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0097】
実施形態2に係るフィルター2は、基本的には実施形態1に係るフィルター1と同様の構成を有するが、吸着物質が実施形態1に係るフィルター1の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係るフィルター2は、図4に示すように、複合ナノ繊維層30における吸着物質26として粒子状の銀を含む(特に図4(b)参照。)。
【0098】
実施形態2に係るフィルター2は、実施形態2に係るフィルターの製造方法により製造される。
実施形態2に係るフィルターの製造方法は、基材層10を準備する基材層準備工程S1と、ポリマー溶液を作製するポリマー溶液作製工程S2と、ポリマー材料及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上に複合ナノ繊維層30を形成し、基材層10と複合ナノ繊維層30とが積層した構造を有するフィルター2を製造する電界紡糸工程S3とをこの順番で含むフィルターの製造方法である。つまり、実施形態2に係るフィルターの製造方法は、粒子状のゼオライトの代わりに粒子状の銀を用いるフィルターの製造方法である。
【0099】
基材層準備工程S1は、実施形態1における基材層準備工程S1と同様の工程である。
ポリマー溶液作製工程S2は、粒子状のゼオライトの代わりに粒子状の銀を用いること以外は実施形態1におけるポリマー溶液作製工程S2と同様である。
電界紡糸工程S3は、ポリマー材料及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上に複合ナノ繊維層30を形成し、基材層10と複合ナノ繊維層30とが積層した構造を有するフィルター2を製造する工程である。なお、当該フィルターの製造方法には、実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100と基本的に同様の構成を有する装置を用いることができる。
【0100】
上記のように、実施形態2に係るフィルター2は、吸着物質が実施形態1に係るフィルター1とは異なるが、通気性のある基材層10とナノ繊維層とを備え、ナノ繊維層が吸着物質26を含む複合ナノ繊維層30からなるため、実施形態1に係るフィルター1と同様に、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0101】
また、実施形態2に係るフィルター2によれば、吸着物質26として粒子状の銀を含むため、ヨウ素を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0102】
また、実施形態2に係るフィルター2によれば、フィルターの導電性を向上させ、放射線(例えばβ線)の遮断に寄与することが可能となる。
【0103】
また、実施形態2に係るフィルター2によれば、吸着物質の表面積を比較的大きくすることが可能となる。
【0104】
なお、実施形態2に係るフィルター2は、吸着物質以外の点においては実施形態1に係るフィルター1と基本的に同様の構成を有するため、実施形態1に係るフィルター1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0105】
実施形態2に係るフィルターの製造方法によれば、基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いる電界紡糸工程とをこの順番で含むため、実施形態2に係るフィルター2(吸着物質26として粒子状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0106】
また、実施形態2に係るフィルターの製造方法によれば、基材層10がHEPAフィルターからなるため、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能な実施形態2に係るフィルター2を製造することが可能となる。
【0107】
[実施形態3]
図5は、実施形態3に係るフィルター3を説明するための図である。図5(a)はフィルター3の拡大断面図であり、図5(b)は図5(a)のCで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
図6は、実施形態3に係るフィルターの製造方法のフローチャートである。
【0108】
実施形態3に係るフィルター3は、基本的には実施形態2に係るフィルター2と同様の構成を有するが、吸着物質が実施形態2に係るフィルター2の場合とは異なる。すなわち、実施形態3に係るフィルター3は、図5に示すように、複合ナノ繊維層40における吸着物質28として、薄層状の銀を含む(特に図5(b)参照。)。なお図5(b)においては、ナノ繊維22は吸着物質28に被覆されているので見えていない。薄層状の銀の平均厚さは、10nm〜500nmの範囲内にあり、一層好ましくは20nm〜200nmの範囲内にあり、例えば50nmである。
【0109】
実施形態3に係るフィルター3は、実施形態3に係るフィルターの製造方法により製造される。
実施形態3に係るフィルターの製造方法は、図6に示すように、基材層10を準備する基材層準備工程S1と、ポリマー溶液を作製するポリマー溶液作製工程S2と、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上にナノ繊維層を形成し、基材層10とナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程S3と、ナノ繊維複合体のナノ繊維層に銀を蒸着して複合ナノ繊維層40とし、フィルター3を製造する蒸着工程S4とをこの順番で含む。つまり、実施形態3に係るフィルターの製造方法は、粒子状の銀を用いるのではなく、蒸着によって薄膜状の銀を形成するフィルターの製造方法である。
【0110】
基材層準備工程S1は、実施形態2における基材層準備工程S1と同様の工程である。
ポリマー溶液作製工程S2は、吸着物質を用いないこと以外は実施形態2におけるポリマー溶液作製工程S2と同様である。
電界紡糸工程S3は、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上にナノ繊維層を形成し、基材層10とナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する工程である。なお、使用する装置としては、実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100と基本的に同様の構成を有する装置を用いることができる。
【0111】
蒸着工程S4は、電界紡糸工程S3で製造したナノ繊維複合体のナノ繊維層に銀を蒸着して複合ナノ繊維層40とし、フィルター3を製造する工程である。銀の蒸着は既知の方法・装置で行うことができる。
【0112】
上記のように、実施形態3に係るフィルター3は、吸着物質が実施形態2に係るフィルター2とは異なるが、通気性のある基材層10とナノ繊維層とを備え、ナノ繊維層が吸着物質28を含む複合ナノ繊維層40からなるため、実施形態2に係るフィルター2と同様に、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0113】
また、実施形態3に係るフィルター3によれば、吸着物質28として薄層状の銀を含むため、ヨウ素を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0114】
また、実施形態3に係るフィルター3によれば、フィルターの導電性を向上させ、放射線(例えばβ線)の遮断に寄与することが可能となる。
【0115】
また、実施形態3に係るフィルター3によれば、フィルター全面に渡って薄く分布する吸着物質とすることが可能となる。
【0116】
なお、実施形態3に係るフィルター3は、吸着物質以外の点においては実施形態2に係るフィルター2と基本的に同様の構成を有するため、実施形態2に係るフィルター2が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0117】
実施形態3に係るフィルターの製造方法は、基材層準備工程と、ポリマー材料を含有するポリマー溶液を用いる電界紡糸工程と、ナノ繊維層に銀を蒸着して複合ナノ繊維層40とし、フィルター3とする蒸着工程とをこの順番で含むため、実施形態3に係るフィルター3(吸着物質28として薄膜状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0118】
また、実施形態3に係るフィルターの製造方法によれば、基材層10がHEPAフィルターからなるため、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能な実施形態3に係るフィルター3を製造することが可能となる。
【0119】
[実施形態4]
図7は、実施形態4に係るフィルター4を説明するための図である。図7(a)はフィルター4の拡大断面図であり、図7(b)は図7(a)のDで示す範囲をさらに拡大して示す図である。
【0120】
実施形態4に係るフィルター4は、基本的には実施形態1に係るフィルター1と同様の構成を有するが、吸着物質が実施形態1に係るフィルター1の場合とは異なる。すなわち、実施形態4に係るフィルター4は、図7に示すように、複合ナノ繊維層50における吸着物質24として粒子状のゼオライトを含み、吸着物質26として粒子状の銀を含む(特に図7(b)参照。)。
【0121】
実施形態4に係るフィルター4は、実施形態4に係るフィルターの製造方法により製造される。
実施形態4に係るフィルターの製造方法は、基材層10を準備する基材層準備工程S1と、ポリマー溶液を作製するポリマー溶液作製工程S2と、ポリマー材料、粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上に複合ナノ繊維層50を形成し、基材層10と複合ナノ繊維層50とが積層した構造を有するフィルター4を製造する電界紡糸工程とをこの順番で含む。つまり、実施形態4に係るフィルターの製造方法は、粒子状のゼオライトに加えて粒子状の銀を用いるフィルターの製造方法である。
【0122】
基材層準備工程S1は、実施形態1における基材層準備工程S1と同様の工程である。
ポリマー溶液作製工程S2は、粒子状のゼオライトに加えて粒子状の銀を用いること以外は実施形態1におけるポリマー溶液作製工程S2と同様である。
電界紡糸工程S3は、ポリマー材料、粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層10上に複合ナノ繊維層50を形成し、基材層10と複合ナノ繊維層50とが積層した構造を有するフィルター4を製造する工程である。なお、使用する装置としては、実施形態1におけるナノ繊維複合体製造装置100と基本的に同様の構成を有する装置を用いることができる。
【0123】
上記のように、実施形態4に係るフィルター4は、吸着物質が実施形態1に係るフィルター1とは異なるが、通気性のある基材層10とナノ繊維層とを備え、ナノ繊維層が吸着物質24,26を含む複合ナノ繊維層50からなるため、実施形態1に係るフィルター1と同様に、ナノ繊維層を有しないフィルターと比較して、微小粒子を高い効率で分離・捕集することが可能であり、かつ、特殊な物質を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0124】
また、実施形態4に係るフィルター4によれば、吸着物質24及び吸着物質26として粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含むため、セシウムとヨウ素との両方を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。
【0125】
なお、実施形態4に係るフィルター4は、吸着物質以外の点においては、実施形態1に係るフィルター1と基本的に同様の構成を有するため、実施形態1に係るフィルター1が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。また、吸着物質26として粒子状の銀を含むため、実施形態4に係るフィルター4は、実施形態2に係るフィルター2が有する効果のうち該当する効果をそのまま有する。
【0126】
実施形態4に係るフィルターの製造方法によれば、基材層準備工程と、ポリマー材料、粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含有するポリマー溶液を用いる電界紡糸工程とをこの順番で含むため、実施形態4に係るフィルター4(吸着物質24及び吸着物質26として粒子状のゼオライト及び粒子状の銀を含むフィルター)を製造することが可能となる。
【0127】
また、実施形態4に係るフィルターの製造方法によれば、基材層10がHEPAフィルターからなるため、微小粒子を一層高い効率で分離・捕集することが可能な実施形態4に係るフィルター4を製造することが可能となる。
【0128】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0129】
(1)上記各実施形態における各構成要素の数、位置関係、大きさは例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0130】
(2)本発明においては、吸着物質として粒子状のゼオライト及び薄層状の銀を含むフィルターとすることもできる。このような構成とすることによっても、上記実施形態4に係るフィルターと同様に、セシウムとヨウ素との両方を特に高い効率で分離・捕集することが可能なフィルターとなる。このようなフィルターは、例えば、基材層を準備する基材層準備工程と、ポリマー材料及び粒子状のゼオライトを含有するポリマー溶液を用いて電界紡糸法により基材層上に複合ナノ繊維層を形成し、基材層と複合ナノ繊維層とが積層した構造を有するナノ繊維複合体を製造する電界紡糸工程と、ナノ繊維複合体の複合ナノ繊維層に銀を蒸着してフィルターとする蒸着工程とをこの順番で含むフィルターの製造方法により製造することができる。
【0131】
(3)上記各実施形態においては、HEPAフィルターからなる基材層10を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。他の種類の基材層を用いてもよい。例えば、不織布からなる基材層を好適に用いることができる。不織布はある程度の強度があり、かつ、それ自体でフィルターとしての役割を果たすものであり、しかも比較的安価であるため、上記のような構成とすることにより、フィルターの観点からは製造コストを低減することが可能となる。また、フィルターの製造方法の観点からは製造コストを低減することが可能なフィルターを製造することが可能となり、また、不織布の構造が比較的単純であるため、電界紡糸工程の実施を容易なものとすることが可能となる。
【0132】
(4)上記各実施形態においては、電界紡糸工程又は蒸着工程により吸着物質を有する複合ナノ繊維層を形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、吸着物質を含有しないポリマー溶液を用いて電界紡糸工程を行った後に、吸着物質をナノ繊維層に付着させて吸着物質を有する複合ナノ繊維層を形成する工程をさらに実施してもよい。当該工程としては、例えば、吸着物質を溶媒中に分散させた後に当該溶媒中にナノ繊維複合体を浸漬する工程、溶媒に分散させた吸着物質をナノ繊維複合体に噴射する工程、電界紡糸と同時にナノ繊維層に吸着物質を噴射する工程等を挙げることができる。
【0133】
(5)本発明のフィルターにおいては、基材層も吸着物質を有してよい。また、本発明のフィルターの製造方法は、基材層に吸着物質を付加する工程を含んでいてもよい。
【0134】
(6)上記各実施形態においては、粒子状のゼオライト、粒子状の銀又は薄膜状の銀からなる吸着物質を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。フィルターの用途や使用目的によって他の吸着物質を用いてもよい。
【0135】
(7)上記各実施形態においては、基材層及び複合ナノ繊維層からなるフィルターを例にとって本発明のフィルターを説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、基材層及び複合ナノ繊維層以外の層や部材等(接着層、補強部材等)をさらに備えるフィルターとしてもよい。
【0136】
(8)上記実施形態1においては、上記のナノ繊維複合体製造装置100を用いるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のフィルターは種々の製造装置を用いて製造することができ、また、本発明のフィルターの製造方法は種々の製造装置を用いて行うことができる。
【0137】
(9)上記各実施形態に係るフィルターは、各実施形態に係るフィルターの製造方法により製造するものとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明のフィルターは、種々の方法を用いて製造することができる。
【0138】
(10)上記各実施形態においては、1層の基材層と1層の複合ナノ繊維層とを有するフィルターを例にとって本発明のフィルターを説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。2層以上の基材層や2層以上の複合ナノ繊維層を有するフィルターに本発明を適用することもできる。
【符号の説明】
【0139】
1,2,3,4…フィルター、10…基材層、12…ガラス繊維、20,30,40,50…複合ナノ繊維層、22…ナノ繊維、24,26,28…吸着物質、100…ナノ繊維複合体製造装置、110…搬送装置、111…繰り出しローラー、112…巻き取りローラー、113,118…テンションローラー、114…補助ローラー、120…電界紡糸装置、200…筐体、210…ノズルユニット、220…上向きノズル、230…ポリマー溶液供給部、232…原料タンク、233…撹拌装置、234…ポリマー溶液供給装置、236…パイプ、238…バルブ、250…コレクター、252…絶縁部材、260…電源装置、270…補助ベルト装置、272…補助ベルト、274…補助ベルト用ローラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7