(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、
この軸受に加わる荷重を検出する1つ以上のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備えたセンサ付車輪用軸受装置において、
前記荷重演算処理手段が、路面に作用する荷重を演算して出力する路面作用力演算モードと、前記車輪用軸受に作用する荷重を演算して出力する軸受作用力演算モードとを有し、
前記荷重演算処理手段は、作用する荷重(F)を、前記信号ベクトル(S)、係数(M)、およびオフセット(M0)を用いて、次の演算式、
F=M・S+M0
によって行い、
前記荷重演算処理手段における前記路面作用力演算モードでの演算は、前記軸受作用力演算モードの演算結果のブレーキ力の影響による変化分を補正する処理に基づいて行なわれ、
前記補正する処理に用いられる係数(M)およびオフセット(M0)が、ブレーキOFF状態について演算された前記係数(M)およびオフセット(M0)から、既に保存されているタイヤ半径/ブレーキキャリパ取付位置の半径比(α)と、ブレーキキャリパ軸(x)からのブレーキキャリパ取付位置の角度(θ)を用いて演算したものであるセンサ付車輪用軸受装置。
請求項1において、前記荷重演算処理手段に対して、前記路面作用力演算モードおよび前記軸受作用力演算モードの演算結果のうち、いずれの演算結果を出力するかを選択させる機能を有する演算結果選択指令手段を設けたセンサ付車輪用軸受装置。
請求項1において、前記荷重演算処理手段に対して、前記路面作用力演算モードおよび前記軸受作用力演算モードの演算結果のうち、いずれの演算結果を出力するかを選択させる機能を、センサ付車輪用軸受装置の外部である車両側の上位ECUに持たせたセンサ付車輪用軸受装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の上り時の坂道発進において、ブレーキがOFF状態では車両が進行方向とは逆方向に動いてしまう。この逆進状態で駆動トルクがない、あるいは不足した状態であると車両が逆方向に進み、後続車などの物体に衝突する可能性がある。このため、上記逆進状態では、発進時に安定したスムーズな加速ができない。そこで、車両の坂道発進時には、ブレーキをOFFにしても車両が動かないように制御する必要がある。
【0006】
ところが、特許文献3に開示された技術では、車両を停止させておくために必要なクリープトルクの推定を、車両の動き出しを検出することで行なっているため、動作遅れが生じ、多少のずり落ちが発生してしまうことになる。
【0007】
特許文献4に開示されている技術でも、必要最低限の駆動トルクの推定は、車両の動き出しを検出することで実施されており、ずり落ちが発生する前に必要なトルク値は推定できていない。したがって、特許文献3に開示の技術と同様にずり落ちが発生してしまうことになる。
【0008】
特許文献5に開示された技術のように、傾斜計と加速度計の測定値から必要な駆動トルク値を推定し、出力トルク値が必要な値を上回るまでブレーキ解除を遅らせれば、ずり落ちを回避できる。しかし、推定した駆動トルクは車両全体の傾斜から算出されたもので、誤差が大きくなる可能性がある。また、クラッチの制御部材の位置を検出して出力トルクを推定する構成としているため、出力トルク値の誤差も大きくなる可能性があり、推定精度によってはずり落ちが発生することになる。このように、車両状態を傾斜計により取得する構成とする場合、各車輪の路面との接地状態が異なるとき、正しく車両状態を推定することができず、ずり落ちや過剰な駆動トルクの印加が発生してしまう。各車輪の状況に応じた駆動力を最適に制御するため、各車輪の接地状態を反映する荷重状態を検出した信号が必要である。
【0009】
この発明の目的は、ずり落ちなく安定した車両の坂道発進を行なうためのセンサ出力を得ることができるセンサ付車輪用軸受装置、およびそのセンサ出力を用いて車両の坂道発進を安定して行なわせる車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のセンサ付車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、この軸受に加わる荷重を検出する1つ以上のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備えたセンサ付車輪用軸受装置において、前記荷重演算処理手段が、路面に作用する荷重を演算して出力する路面作用力演算モードと、前記車輪用軸受に作用する荷重を演算して出力する軸受作用力演算モードとを
有し、
前記荷重演算処理手段は、作用する荷重(F)を、前記信号ベクトル(S)、係数(M)、およびオフセット(M0)を用いて、次の演算式、
F=M・S+M0
によって行い、
前記荷重演算処理手段における前記路面作用力演算モードでの演算は、前記軸受作用力演算モードの演算結果のブレーキ力の影響による変化分を補正する処理に基づいて行なわれ、
前記補正する処理に用いられる係数(M)およびオフセット(M0)が、ブレーキOFF状態について演算された前記係数(M)およびオフセット(M0)から、既に保存されているタイヤ半径/ブレーキキャリパ取付位置の半径比(α)と、ブレーキキャリパ軸(x)からのブレーキキャリパ取付位置の角度(θ)を用いて演算したものである。
【0011】
この構成のセンサ付車輪用軸受装置によると、前記荷重演算処理手段が、路面に作用する荷重を演算して出力する路面作用力演算モードと、前記車輪用軸受に作用する荷重を演算して出力する軸受作用力演算モードとを有する。そのため、次のように、ずり落ちなく安定した車両の坂道発進を行なうためのセンサ出力を得ることができる。
これにつき説明する。坂道でブレーキをONとした状態で停車している車両において、車両側から駆動トルクを入力すると、ブレーキディスクを介して荷重が車輪用軸受に印加され、車輪用軸受のx方向作用力Fxbに変化が生じる。このとき、前記荷重演算処理手段の軸受作用力演算モードで演算された車輪用軸受での荷重値Fxbが、駆動トクル印加前に路面作用力演算モードで演算された路面作用力Wxgと等しくなるように、駆動トルクを入力すると、ブレーキパッドからブレーキディスクに印加されているトルクがゼロの状態になる。すなわち、ブレーキを解除しても車両が動き出さない状態となる。この場合に、前記荷重演算処理手段は、路面作用力演算モードでブレーキONの状態での路面反力Wxgと車輪用軸受の荷重Fxbを演算出力できる。そこで、例えば、車両の統括制御を行なう上位ECUにおいて、ブレーキをONにした状態のまま、先ず前記荷重演算処理手段からその演算結果である路面作用力Wxgを取得し、その後、前記荷重演算処理手段からその演算結果である車輪用軸受での荷重値Fxbをモニタしながら駆動トルクを印加して行き、軸受荷重値Fxbが路面作用力Wxgと等しくなったところでブレーキを解除して走行を開始するという発進操作の制御を行なうことができる。このような操作手順は、例えば特許文献6に提示されているように、運転者がブレーキからアクセルに踏み替える操作時に、実際にブレーキを解除するまでの時間に実施することができる。
なお、上記したような上位ECUによる自動制御により坂道発進時のブレーキ解除を行なう場合に限らず、運転者自らが、前記荷重演算処理手段の演算結果である路面作用力Wxgと車輪用軸受での荷重値Fxbとを用いて同様のブレーキ解除を手動で行なうことも可能である。
このように、この構成によると、荷重演算処理手段が、路面に作用する荷重を演算して出力する路面作用力演算モードと、前記車輪用軸受に作用する荷重を演算して出力する軸受作用力演算モードとを有するので、ずり落ちなく安定した車両の坂道発進を行なうためのセンサ出力を得ることができる。そして、このセンサ出力を用いることによって、運転者の手動により、あるいは車両制御装置による自動制御で、ずり落ちなく安定した車両の坂道発進を行なうことができる。
【0012】
この発明において、前記荷重演算処理手段が、前記路面作用力演算モードおよび前記軸受作用力演算モードの両方の演算結果を出力するものとしても良い。また、前記荷重演算処理手段に対して、前記路面作用力演算モードおよび前記軸受作用力演算モードの演算結果のうち、いずれの演算結果を出力するかを選択させる機能を有する演算結果選択指令手段を設けても良い。
【0013】
また、前記荷重演算処理手段に対して、前記路面作用力演算モードおよび前記軸受作用力演算モードの演算結果のうち、いずれの演算結果を出力するかを選択させる機能を、センサ付車輪用軸受装置の外部である車両側の上位ECUに持たせても良い。
【0016】
この発明において、軸受に加わる荷重を検出する前記センサ
が3つ以上
設けられており、前記荷重演算処理手段は、前記3つ以上のセンサの出力信号から、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、および軸方向荷重Fy を演算するものとしても良い。
【0017】
この発明において、前記センサを、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる前記固定側部材の外径面の上面部、下面部、右面部および左面部に円周方向90度の位相差で4つ等配しても良い。
このように4つのセンサを配置することで、車輪用軸受に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、軸方向荷重Fy を推定することができる。
【0018】
この発明において、前記各センサ上に温度センサ
が設けられており、前記信号処理手段は、前記温度センサの検出した温度に応じて各センサの出力信号を補正するものとしても良い。
このように構成した場合、各センサの出力信号の温度ドリフトを補正することができる。
【0019】
この発明において、前記信号処理手段は、各センサの一定時間内の出力信号を用いてそれらの平均値を算出し、この平均値から前記信号ベクトルを生成し、荷重演算処理手段はその信号ベクトルから車輪に加わる荷重を演算するものとしても良い。
【0020】
この発明において、前記信号処理手段は、各センサの一定時間内の出力信号を用いてそれらの平均値と振幅値を算出し、それらの値から前記信号ベクトルを生成し、荷重演算処理手段はその信号ベクトルから車輪に加わる荷重を演算するものとしても良い。
【0021】
また、前記荷重演算処理手段は、前記信号ベクトルと所定の荷重推定パラメータとを用いた演算式で荷重を演算するものとしても良い。
【0022】
この発明において、前記センサは、前記外方部材および内方部材のうちの固定側部材の外径面に設けたセンサユニットであり、このセンサユニットは、前記固定側部材の外径面に接触して固定される3つ以上の接触固定部を有する歪み発生部材と、この歪み発生部材に取付けられてこの歪み発生部材の歪みを検出する2つ以上の歪検出素子を有するものとしても良い。
【0023】
この場合に、前記歪検出素子22A,22B
が、前記歪み発生部材21の隣り合う第1および第2の接触固定部21aの間、および隣り合う第2および第3の接触固定部21aの間にそれぞれ
設けられており、隣り合う前記接触固定部21aの間隔、もしくは隣り合う前記歪検出素子22A,22Bの間隔は、前記歪検出素子22A,22Bの出力信号の位相差が転動体の配列ピッチの{n+1/2(n:整数)}倍となる
間隔であり、前記信号処理手段31は、前記2つの歪検出素子22A,22Bの出力信号の和から平均値を求め、それらの値から前記信号ベクトルを生成し、荷重演算処理手段32はその信号ベクトルから車輪に加わる荷重を演算するものとしても良い。
この構成の場合、2つの歪検出素子22A,22Bの信号は略180度の位相差を有することになり、それら信号の和から求めた平均値は転動体通過による変動成分をキャンセルした値となる。また、前記2つの歪検出素子の信号の差分から求めた振幅値は温度の影響やナックル・フランジ面などの滑りの影響をより確実に排除した正確なものとなる。
【0024】
この発明の車両制御装置は、この発明の上記したいずれかの構成のセンサ付車輪用軸受装置からのセンサ出力を用いて車両制御を行なう車両制御装置であって、車両がブレーキON状態で停止しているときに、駆動力を印加しない状態においてセンサ付車輪用軸受装置の前記荷重演算処理手段が前記路面作用力演算モードで演算出力する路面荷重Wgxを取得し、その後、ブレーキON状態において前記荷重演算処理手段が前記軸受作用力演算モードで演算出力する軸受荷重Fxbをモニタしながら駆動力を制御して、適切な条件でブレーキを解除するブレーキ解除制御手段を備えることを特徴とする。
【0025】
この構成によると、車両制御装置がセンサ付車輪用軸受装置のセンサ出力を用いることによって、車両の坂道発進を自動制御で安定して行なわせることができる。
【0026】
この場合に、前記ブレーキ解除制御手段は、ブレーキON状態のまま車両が静止している状態において、前記センサ付車輪用軸受装置から取得した路面荷重Fx と前記軸受荷重Fxbの値を評価し、両荷重の差が予め設定されたしきい値を超えている場合に、車輪が斜面に静止している状態にあると判断する機能を有するものとしても良い。
【0027】
また、前記ブレーキ解除制御手段は、ブレーキON状態のまま車両が静止している状態において、前記センサ付車輪用軸受装置から取得した前記軸受荷重Fxbの値が、駆動力を印加しない状態においてセンサ付車輪用軸受装置から取得した路面荷重Wgxと概ね等しくなったときを、前記ブレーキを解除する適切な条件と判断するものとして良い。
【0028】
この発明において、前記ブレーキ解除制御手段は、その制御を、運転者がブレーキを解除して走行状態に移ろうとしたときときから、実際にブレーキを解除するまでの時間に実行するものとしても良い。
【発明の効果】
【0029】
この発明のセンサ付車輪用軸受装置は、複列の転走面が内周に形成された外方部材、前記転走面と対向する転走面が外周に形成された内方部材、および両部材の対向する転走面間に介在した複列の転動体を有し、車体に対して車輪を回転自在に支持する車輪用軸受と、この軸受に加わる荷重を検出する1つ以上のセンサと、前記各センサの出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段と、前記信号ベクトルから前記車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段とを備えたセンサ付車輪用軸受装置において、前記荷重演算処理手段が、路面に作用する荷重を演算して出力する路面作用力演算モードと、前記車輪用軸受に作用する荷重を演算して出力する軸受作用力演算モードとを有するものとし、
前記荷重演算処理手段は、作用する荷重(F)を、前記信号ベクトル(S)、係数(M)、およびオフセット(M0)を用いて、次の演算式、
F=M・S+M0
によって行い、
前記荷重演算処理手段における前記路面作用力演算モードでの演算は、前記軸受作用力演算モードの演算結果のブレーキ力の影響による変化分を補正する処理に基づいて行なわれ、
前記補正する処理に用いられる係数(M)およびオフセット(M0)が、ブレーキOFF状態について演算された前記係数(M)およびオフセット(M0)から、既に保存されているタイヤ半径/ブレーキキャリパ取付位置の半径比(α)と、ブレーキキャリパ軸(x)からのブレーキキャリパ取付位置の角度(θ)を用いて演算したものであるため、ずり落ちなく安定した車両の坂道発進を行なうためのセンサ出力を得ることができる。
この発明の車両制御装置は、上記発明のセンサ付車輪用軸受装置からのセンサ出力を用いて車両制御を行なう車両制御装置であって、車両がブレーキON状態で停止しているときに、駆動力を印加しない状態においてセンサ付車輪用軸受装置の前記荷重演算処理手段が前記路面作用力演算モードで演算出力する路面荷重Wgxを取得し、その後、ブレーキON状態において前記荷重演算処理手段が前記軸受作用力演算モード前記路面作用力演算モードで演算出力する軸受荷重Fxbをモニタしながら駆動力を制御して、適切な条件でブレーキを解除するブレーキ解除制御手段を備えるものとしたため、センサ付車輪用軸受装置のセンサ出力を用いて車両の坂道発進を安定して行なわせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の実施形態を
図1ないし
図10と共に説明する。この実施形態は、第3世代型の内輪回転タイプで、駆動輪支持用の車輪用軸受100に適用したものである。なお、この明細書において、車両に取付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0032】
このセンサ付車輪用軸受装置における車輪用軸受100は、
図1に断面図で示すように、内周に複列の転走面3を形成した外方部材1と、これら各転走面3に対向する転走面4を外周に形成した内方部材2と、これら外方部材1および内方部材2の転走面3,4間に介在した複列の転動体5とで構成される。この車輪用軸受100は、複列のアンギュラ玉軸受型とされていて、転動体5はボールからなり、各列毎に保持器6で保持されている。上記転走面3,4は断面円弧状であり、ボール接触角が背面合わせとなるように形成されている。外方部材1と内方部材2との間の軸受空間の両端は、一対のシール7,8によってそれぞれ密封されている。
【0033】
外方部材1は固定側部材となるものであって、車体の懸架装置(図示せず)におけるナックル16に取付ける車体取付用フランジ1aを外周に有し、全体が一体の部品とされている。フランジ1aには周方向複数箇所にナックル取付用のねじ孔14が設けられ、インボード側よりナックル16のボルト挿通孔17に挿通したナックルボルト(図示せず)を前記ねじ孔14に螺合することにより、車体取付用フランジ1aがナックル16に取付けられる。
内方部材2は回転側部材となるものであって、車輪取付用のハブフランジ9aを有するハブ輪9と、このハブ輪9の軸部9bのインボード側端の外周に嵌合した内輪10とでなる。これらハブ輪9および内輪10に、前記各列の転走面4が形成されている。ハブ輪9のインボード側端の外周には段差を持って小径となる内輪嵌合面12が設けられ、この内輪嵌合面12に内輪10が嵌合している。ハブ輪9の中心には貫通孔11が設けられている。ハブフランジ9aには、周方向複数箇所にハブボルト(図示せず)の圧入孔15が設けられている。ハブ輪9のハブフランジ9aの根元部付近には、車輪および制動部品(図示せず)を案内する円筒状のパイロット部13がアウトボード側に突出している。
【0034】
図3は、この車輪用軸受100の外方部材1をアウトボード側から見た正面図を示す。なお、
図1は、
図3におけるI−I矢視断面図を示す。前記車体取付用フランジ1aは、
図3のように、各ねじ孔14が設けられた円周方向部分が他の部分よりも外径側へ突出した突片1aaとされている。
【0035】
固定側部材である外方部材1の外径面には、荷重検出用センサである4つのセンサユニット20が設けられている。ここでは、これらのセンサユニット20が、タイヤ接地面に対して上下位置および前後位置となる外方部材1の外径面における上面部、下面部、右面部、および左面部に設けられている。
【0036】
各センサユニット20の歪検出素子22は、
図1のセンサECU(電気制御ユニット)30に接続される。センサECU30は、前記各センサユニット20の出力信号を処理して信号ベクトルを生成する信号処理手段31、前記信号ベクトルから車輪に加わる荷重を演算する荷重演算処理手段32などで構成されている。
【0037】
荷重演算処理手段32は、ブレーキONの時にブレーキディスクからの作用力の影響を補正して路面に作用する荷重Wgxを演算して出力する路面作用力演算モードと、補正を適用しないで車輪用軸受100に作用する荷重Fxbをそのまま演算して出力する軸受作用力演算モードとを有する。上位ECU98は、車両の統括制御を行う車両制御装置であって、その制御の一部として、車両の坂道発進でのブレーキ解除制御を行なうブレーキ解除制御手段95を有する。すなわち、ブレーキ解除制御手段95は、車両がブレーキON状態で停止しているときに、駆動力を印加しない状態において前記荷重演算処理手段32が前記路面作用力演算モードで演算出力する路面荷重Wgxを取得し、その後、ブレーキON状態において前記荷重演算処理手段32が前記軸受作用力演算モードで演算出力する軸受荷重Fxbをモニタしながら駆動力を制御して、定められた適切な条件でブレーキを解除する機能を備える。このブレーキ解除制御は、運転者がブレーキからアクセルに踏み替え発進しようとしたときに行なわれる。
【0038】
車両が坂道で停車したとき、前記センサECU30の荷重演算処理手段32は、上位ECU98に対して、上記2つのモードの少なくとも一方の荷重情報を出力する。モードの切り替えは、センサECU30に設けた演算結果選択指令手段33でいずれのモードの演算結果を出力するかを選択させても良いし、上位ECU98から荷重演算処理手段32へ選択指令を出すようにしても良い。また、荷重演算処理手段32が両方のモードの演算結果を出力するようにしても良い。
【0039】
ここで、ブレーキON状態で車両が静止しているときの路面荷重演算について考える。 ブレーキON状態における荷重演算方法は、ブレーキOFF状態で求めた演算処理方法を基にして演算することができる。
図8に示すように、ブレーキパッド97の位置を進行方向から角度θ上方、半径RB の位置とし、ブレーキパッド97からブレーキ力FB が作用している状態とする。また、車輪半径をRW とし、駆動力からは入力トルクTdrive が作用している状態とする。
このとき、Tdrive =0で車両が静止しているときのブレーキ状態の荷重は、以下の演算で求めることができる。
【0040】
ブレーキ力FB がブレーキディスクに作用しているとき、路面反力Fx ,Fz と軸受作用力Fxb,Fzbとの関係は次式(1−1),(1−2)のように表現される。
Fxb=Fx −FB ・sin θ ……(1−1)
Fzb=Fz +FB ・cos θ ……(1−2)
ここで、駆動軸から入力される駆動トルクをTdrive 、ブレーキ動作によるブレーキトルクをFB ・RB とすると、車輪に作用するトルク関係式は次式(2)のように表現される。
Fx ・Rw =Tdrive −FB ・RB ……(2)
この関係式から、ブレーキ力FB は、次式(3)のように表現される。
FB =(Tdrive −Fx ・Rw )/RB ……(3)
【0041】
式(1−1),(1−2)と式(3)から、ブレーキONのとき軸受に作用する荷重Fxb,Fzbは次式(4−1),(4−2)のように表現される。
Fxb=(1+α・sin θ)・Fx −(Tdrive /RB )・sin θ ……(4−1) Fzb=Fz +(Tdrive /RB −α・Fx )・cos θ ……(4−2)
ただし、α=RW /RB :半径比
ここで、Tdrive =0のとき、
Fxb=(1+α・sin θ)・Fx ……(5−1)
Fzb=Fz −α・Fx ・cos θ ……(5−2)
となるので、路面荷重は次式(6−1),(6−2)で求めることができる。
Fx =A・Fxb ……(6−1)
Fz =Fzb+A・Fxb・α・cos θ ……(6−2)
ただし、A=1/(1+α・sin θ)
【0042】
上記した演算により、ブレーキON状態では、求めたい路面荷重にブレーキ力FB に比例する荷重成分が加算されて検出されることになる。したがって、駆動軸からみたブレーキキャリパ位置(半径RB およびx軸からの角度θ)が既知であれば、ブレーキ時の路面荷重を正確に検出することができる。
【0043】
ここで、車両がブレーキON状態で坂道に停止しているときの、前記荷重演算処理手段32での路面荷重演算処理について考える。
図9に示すように、車輪に対して鉛直下向きに荷重Wが働いている状態を考える。いま、路面に作用する荷重Wgxの影響により、ブレーキを解除すると車両は進行方向と逆方向に進んでしまう。そこで、車両が坂道でも停止できるような駆動トルクTdrive を求めるための演算方法を以下に示す。
【0044】
図9のような斜面に車両が静止している状態で、x方向に路面荷重Wgxが作用しているとき、ブレーキがOFFであっても車両が動きださないためには、次式(7)
Tdrive /RW =Wgx ……(7)
となるトルクを用意する必要がある。式(7)より、
Tdrive /RB =RW /RB ・Wgx =α・Wgx ……(8)
とすることで、ブレーキ解除時にも車両が動かない。
式(8)を満たすトルクを印加すると、上記式(1−1),(1−2)より軸受荷重は、
Fxb=Wgx+(α・Wgx−Tdrive /RB )・sin θ=Wgx ……(9−1)
Fzb=Wgz+(Tdrive /RB −α・Wgx)・cos θ=Wgz ……(9−2)
となり、ブレーキキャリパ上の力が釣り合う状態ならば、ブレーキがOFF状態でも斜面で車両は動かないことがわかる。
【0045】
次に、車両がブレーキON状態で坂道に停止しているとき、前記上位ECU98のブレーキ解除制御手段95でのブレーキ解除制御の具体的手順を説明する。
(1) 各車輪が停止している路面の状態(平地または坂道)を判別する。
車輪が平地でブレーキONの状態で停止しているとき、路面荷重Fx と軸受荷重Fxbは等しくゼロとなる。一方、車輪が坂道でブレーキONの状態で停止しているときには2つの出力は異なった値をとる。
したがって、ブレーキONの状態で検出された路面荷重Fx の値が、予め設定したゼロ付近の領域にないときには、車輪が傾斜路面にあると判別することができる。このとき、両を制御する上位ECU98では、荷重検出用センサである前記センサユニット20の検出信号から求められた路面荷重値Wgxを取得する。この値は、軸受荷重から換算された路面荷重の値である。
ここで、前記センサ付車輪用軸受装置とそのセンサ出力を用いる車両制御装置(上位ECU98)とでなる車両制御系では、各車輪の路面との接地荷重が異なる場合でも、正しく車輪に作用している荷重の状態を判別することができるため、傾斜計を必要としない。また、特許文献6に開示された技術のように、車両の停止している路面の状態を傾斜計により取得する場合、車両と路面の関係が
図10に示すようなとき、正しく車両状態を推理することがきず、ずり落ちなどが発生してしまう恐れがあるが、この車両制御系ではこれを防止することができる。
【0046】
(2) 車輪が傾斜路面上でブレーキON状態で停止していると判断したときには、軸受荷重Fxbをモニタしながら駆動力を制御して、その後、適切な条件でブレーキを解除する。
上位ECU98のブレーキ解除制御手段95では、センサECU30から取得した軸受荷重Fxbをモニタしながら、軸受荷重Fxbの値が路面荷重Wgxと等しくなるまで駆動トルクTdrive を印加する。このとき、ブレーキパッドからディスクに作用するトルクはゼロとなるので、ブレーキを解除しても車輪が動き出さない状態となる。この状態でブレーキを解除し、さらに適切なトルクTdrive を印加して行けば、ずり落ちが発生せずにスムーズに移動を開始することができる。
これを、式を交えて説明すると、以下のようになる。
ブレーキがONのとき、Tdrive =0の状態で軸受荷重Fxbを検出し、路面荷重Fxbを Fx =Wgx=A・Fxb ……(10)
として求める。
軸受荷重Fxbをモニタしながら、駆動トルクTdrive を印加し、次式(11)
Fxb=Wgx ……(11)
となったとき、ブレーキディスク上の力が釣り合うため、ブレーキをOFFにしても車両が動かない状態となる。
なお、上記したような上位ECU98による自動制御により坂道発進時のブレーキ解除を行なう場合に限らず、運転者自らが、前記荷重演算処理手段32の演算結果である路面作用力Wxgと車輪用軸受での荷重値Fxbとを用いて同様のブレーキ解除を手動で行なうことも可能である。
【0047】
この実施形態では、車輪に各方向の荷重を検出するセンサとして、
図3〜
図7に示した前記センサユニット20が用いられる。各センサユニット20は、後に詳述するように、3つの接触固定部21a(
図6)で外方部材1に固定された歪み発生部材21(
図6)と、この歪み発生部材2に取付けられたこの歪み発生部材2の歪みを検出する2つの歪検出素子22(22A,22B)とでなる。
図1の信号処理手段31は、これら2つの歪検出素子22の信号の加算値、振幅値等を用いて、入力荷重の推定演算処理を行う。
【0048】
荷重検出用のセンサは、上記
図3〜
図7の形態のものに限定されるものではなく、例えば、変位センサ(渦電流センサ、磁気センサ、リラクタンスセンサ、など)を、外方部材1および内方部材2のうちの固定側部材に設置し、検出ターゲットを回転輪に配置して外方部材1と内方部材2間の相対変位量を求め、あらかじめ求めておいた荷重と変位との関係から、印加されている荷重を求めるものとしても良い。また、変位を直接測定するセンサでなくてもよく、間接的な変位測定方式であってもよい。すなわち、この実施形態の荷重検出構成は、軸受の内方部材2と外方部材1間に作用している力を、固定側部材に設けたセンサによって直接的・間接的に検出し、演算によって入力荷重を演算で推定する方式の荷重センサに適用されるものである。
【0049】
なお、X,Y,Z方向の3方向の各荷重Fx 、Fy 、Fz 、あるいはそれぞれの方向のモーメント荷重を算出するためには、少なくとも3つ以上のセンサ情報(センサの出力信号)を用いた演算処理構成が必要となる。すなわち、複数のセンサ信号を必要に応じて加工・信号処理して抽出したセンサ信号ベクトルS(={S0, S1, …, Sn})を生成し、これを用いて荷重推定演算処理を実行して入力荷重F(={Fx, Fy, Fz, …} )を求める信号処理手段31および荷重演算処理手段32を備えた構成となる。
【0050】
このような荷重検出構成においては、線形近似が成立する範囲において、F=M・S+Moの関係式を満たすように、数値解析や実験によって係数MとオフセットMoを決定することにより、荷重推定演算処理が可能になる。
【0051】
荷重演算処理手段32は、前後方向の荷重Fx 、軸方向の荷重Fy 、および垂直方向の荷重Fz 、あるいはそれぞれの方向のモーメント荷重を演算するが、これらの演算のためには、少なくとも3つ以上のセンサ情報を用いた演算処理が必要になる。すなわち、前記信号処理段31において、入力されるセンサ出力信号を必要に応じて加工・信号処理して抽出したセンサ信号ベクトルS(={S0 ,S1 ,…,Sn })を生成する。これを用いて、荷重演算処理手段32では荷重演算処理を実行して作用荷重F(={Fx ,Fy ,Fz ,…})を求める。ここで言うセンサ信号ベクトルSは、前記した各センサユニット20に対応して信号処理手段31で生成される平均値や振幅値などである。
【0052】
このような演算構成において、荷重演算処理手段32での演算処理を可能にするために、荷重演算処理手段32では演算式としてF=M・S+Mo の関係式が用いられ、線形近似が成立する範囲において、この関係式を満たすように数値解析や実験によって係数MとオフセットMo が決定される。
【0053】
なお、
図8を参照して行った計算式におけるパラメータα,θについては、ブレーキキャリパの位置から概略の値を求めることができるが、実際には誤差が生じるため、ブレーキON状態とOFF状態での演算出力を実験によって検証して、誤差が小さくなるように調整するのが望ましい。
【0054】
この発明の実施形態により得られる効果を整理して次に示す。
・ 車両が坂道で停止したとき、ブレーキをOFF状態にしても、車両が進行方向と逆方向に動くことがない。
・ 坂道でも車両が逆方向に進まないので、安定してスムーズな走り出しが可能となる。
・ 実際に車両に作用している荷重を検出し、検出した値に基づいて駆動トルクを制御するため、必要なトルクを推定で求める場合と比較して、正確なトルク入力が可能になる。したがって、ずり落ちを効果的に防止することができる。また、ブレーキ動作中には駆動力をOFFしておき、ブレーキ解除直前に最適なトルクを与えることができるため、余分な駆動トルクを与えてエネルギーを無駄に使うことがなく、駆動部品の発熱や消耗も最低限度に抑えることができる。
・ センサECU30の荷重演算処理手段32から入力される軸受荷重Fxbのみによって車両制御を行なうことができる。したがって、エンジンの出力トルクを検出するトルクセンサを必要としない。
・ センサECU30の荷重演算処理手段32が演算する路面荷重Wgxと軸受荷重Fxbの値を利用して、車両制御装置である上位ECU98のブレーキ解除制御手段95が車輪ごとに平地/坂道を判断するため、車両の傾斜計は必要ない。
・ また、一部の車輪が傾斜路面上で静止しているような場合でも、車輪ごとにブレーキを最適に解除することが可能となるため、車両が動き出すのを防止することができる。
【0055】
次に、
図1のセンサユニット20および信号処理手段31の具体例を説明する。
図3の4箇所に設けられた各センサユニット20は、
図3および
図4に拡大平面図および拡大断面図で示すように、歪み発生部材21と、この歪み発生部材21に取付けられて歪み発生部材21の歪みを検出する2つの歪検出素子22とでなる。歪み発生部材21は、鋼材等の弾性変形可能な金属製で2mm以下の薄板材からなり、平面概形が全長にわたり均一幅の帯状である。また、歪み発生部材21は、外方部材1の外径面にスペーサ23を介して接触固定される3つの接触固定部21aを有する。3つの接触固定部21aは、歪み発生部材21の長手方向に向けて1列に並べて配置される。2つの歪検出素子22のうち1つの歪検出素子22Aは、
図4において、左端の接触固定部21aと中央の接触固定部21aとの間に配置され、中央の接触固定部21aと右端の接触固定部21aとの間に他の1つの歪検出素子22Bが配置される。
図3のように、歪み発生部材21の両側辺部における前記各歪検出素子22A,22Bの配置部に対応する2箇所の位置にそれぞれ切欠き部21bが形成されている。切欠き部21bの隅部は断面円弧状とされている。歪検出素子22は切欠き部21b周辺の周方向の歪みを検出する。なお、歪み発生部材21は、固定側部材である外方部材1に作用する外力、またはタイヤと路面間に作用する作用力として、想定される最大の力が印加された状態においても、塑性変形しないものとするのが望ましい。塑性変形が生じると、外方部材1の変形がセンサユニット20に伝わらず、歪みの測定に影響を及ぼすからである。想定される最大の力は、例えば、その力が作用しても車輪用軸受100は損傷せず、その力が除去されると車輪用軸受100の正常な機能が復元される範囲で最大の力である。
【0056】
前記センサユニット20は、その歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1の軸方向の同寸法の位置で、かつ各接触固定部21aが互いに円周方向に離れた位置に来るように配置され、これら接触固定部21aがそれぞれスペーサ23を介してボルト24により外方部材1の外径面に固定される。前記各ボルト24は、それぞれ接触固定部21aに設けられた径方向に貫通するボルト挿通孔25からスペーサ23のボルト挿通孔26に挿通し、外方部材1の外周部に設けられたねじ孔27に螺合させる。このように、スペーサ23を介して外方部材1の外径面に接触固定部21aを固定することにより、薄板状である歪み発生部材21における切欠き部21aを有する各部位が外方部材1の外径面から離れた状態となり、切欠き部21bの周辺の歪み変形が容易となる。
【0057】
接触固定部21aが配置される軸方向位置として、ここでは外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置が選ばれる。ここでいうアウトボード側列の転走面3の周辺とは、インボード側列およびアウトボード側列の転走面3の中間位置からアウトボード側列の転走面3の形成部までの範囲である。外方部材1の外径面へセンサユニット20を安定良く固定する上で、外方部材1の外径面における前記スペーサ23が接触固定される箇所には平坦部1bが形成される。
【0058】
このほか、
図5に断面図で示すように、外方部材1の外径面における前記歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが固定される3箇所の各中間部に溝1cを設けることで、前記スペーサ23を省略し、歪み発生部材21における切欠き部21bが位置する各部位を外方部材1の外径面から離すようにしても良い。
【0059】
歪検出素子22としては、種々のものを使用することができる。例えば、歪検出素子22を金属箔ステレインゲージで構成することができる。その場合、通常、歪み発生部材21に対しては接着による固定が行なわれる。また、歪検出素子22を歪み発生部材21上に厚膜抵抗体にて形成することもできる。
【0060】
このセンサ付車輪用軸受装置では、センサECU30の信号処理手段31において、各センサユニット20の出力信号として、これらセンサユニット20における2つの歪検出素子22A,22Bの信号の平均値や振幅値等を抽出する。この場合の平均値とは、2つの歪検出素子22A,22Bの信号を加算したものである。また、この場合の振幅値とは、2つの歪検出素子22A,22Bの信号の差分値を用いて算出した振幅値である。この場合、信号処理手段31は、各センサユニット20の出力信号として、一定時間内の出力信号を用いてそれらの平均値と振幅値を算出しても良いし、平均値のみを算出しても良い。
【0061】
センサユニット20は、外方部材1のアウトボード側列の転走面3の周辺となる軸方向位置に設けられるので、歪検出素子22A,22Bの信号a,bは、
図7のようにセンサユニット20の設置部の近傍を通過する転動体5の影響を受ける。また、軸受の停止時においても、歪検出素子22A,22Bの信号a,bは、転動体5の位置の影響を受ける。すなわち、転動体5がセンサユニット20における歪検出素子22A,22Bに最も近い位置を通過するとき(または、その位置に転動体5があるとき)、歪検出素子22A,22Bの信号a,bは最大値となり、
図7(A),(B)のように転動体5がその位置から遠ざかるにつれて(または、その位置から離れた位置に転動体5があるとき)低下する。軸受回転時には、転動体5は所定の配列ピッチPでセンサユニット20の設置部の近傍を順次通過するので、歪検出素子22A,22Bの信号a,bは、転送体5の配列ピッチPを周期として
図7(C)に実線で示すように周期的に変化する正弦波に近い波形となる。また、歪検出素子22A,22Bの信号a,bは、温度の影響やナックル16と車体取付用フランジ1a(
図1)の面間などの滑りによるヒステリシスの影響を受ける。ここでは、信号処理手段31において、上記したように2つの歪検出素子22A,22Bの信号a,bを加算したものを平均値とし、2つの歪検出素子22A,22Bの信号a,bの差分を用いて振幅値を抽出し、これをセンサユニット20の出力信号とする。これにより、平均値は転動体5の通過による変動成分をキャンセルした値となる。また,振幅値は、2つの歪検出素子22A,22Bの各信号a,bに現れる温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。したがって、この平均値や振幅値をセンサユニット20の出力信号とし、これを次段の荷重演算処理手段32の演算での変数として用いることにより、車輪用軸受100やタイヤ接地面に作用する荷重をより正確に演算・推定することができる。
【0062】
図7では、固定側部材である外方部材1の外径面の円周方向に並ぶ3つの接触固定部21aのうち、その配列の両端に位置する2つの接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定している。この場合、隣り合う接触固定部21aの中間位置にそれぞれ配置される2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔は、転動体5の配列ピッチPの略1/2となる。その結果、2つの歪検出素子22A,22Bの信号a,bは略180度の位相差を有することになり、その加算値として求められる平均値は転動体5の通過による変動成分をキャンセルしたものとなる。また、その差分値を用いて求められる振幅値は温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。
【0063】
センサユニット20の歪み発生部材21には、例えば
図4に仮想線で示すように温度センサ40を設け、信号処理手段31は、温度センサ40の検出した温度に応じて各センサユニット20の出力信号を補正するようにしても良い。このように構成した場合、センサユニット20の出力信号の温度ドリフトを補正することができる。
【0064】
なお、
図7では、接触固定部21aの間隔を、転動体5の配列ピッチPと同一に設定し、隣り合う接触固定部21aの中間位置に各1つの歪検出素子22A,22Bをそれぞれ配置することで、2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの略1/2となるようにした。これとは別に、直接、2つの歪検出素子22A,22Bの間での前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの1/2に設定しても良い。
この場合に、2つの歪検出素子22A,22Bの前記円周方向の間隔を、転動体5の配列ピッチPの{1/2+n(n:整数)}倍、またはこれらの値に近似した値としても良い。この場合にも、両歪検出素子22A,22Bの信号a,bの加算値として求められる平均値は転動体5の通過による変動成分をキャンセルした値となり、差分値を用いて求められる振幅値は温度の影響やナックル・フランジ面間などの滑りの影響を相殺した値となる。
【0065】
軸方向荷重Fy の演算においては、前記複数のセンサユニット20のうち、外方部材1の円周方向における180度の位相差をなして対向配置された2つのセンサユニット20の出力信号の振幅値の差分値を演算することにより、この差分値から軸方向荷重Fy の方向を判別することができる。例えば、その2つのセンサユニット20として、上下に対向配置されたセンサユニット20を選ぶことができる。
図9(A)は外方部材1の外径面の上面部に配置されたセンサユニット20の出力信号を示し、
図9(B)は外方部材1の外径面の下面部に配置されたセンサユニット20の出力信号を示している。これらの図において、横軸は軸方向荷重Fy を表し、縦軸は外方部材1の歪み量つまりセンサユニット20の出力信号を表し、最大値および最小値は前記出力信号の最大値および最小値を表す。これらの図から、軸方向荷重Fy が+方向の場合、個々の転動体5の荷重は外方部材1の外径面上面部で小さくなり、外方部材1の外径面下面部で大きくなることが分かる。これに対して、軸方向荷重Fy が−方向の場合には逆に、個々の転動体5の荷重は外方部材1の外径面上面部で大きくなり、外方部材1の外径面下面部で小さくなることが分かる。このことから、前記差分値は、軸方向荷重Fy の方向を示していることになる。
【0066】
このように、このセンサ付車輪用軸受によると、車輪用軸受100に加わる荷重を検出するセンサとして1つ以上(ここでは4つ)のセンサユニット20を設け、各センサユニット20の出力信号を信号処理手段31で処理して信号ベクトルSを生成し、その信号ベクトルSを用いて車輪に加わる荷重を荷重演算処理手段32で演算するものとし、前記荷重演算処理手段32による演算結果を校正モード実行手段33でチェックするようにしているので、車両の点検時などに簡易に荷重センサの出力校正を行うことができる。
【0067】
車輪のタイヤと路面間に荷重が作用すると、車輪用軸受100の固定側部材である外方部材1にも荷重が印加されて変形が生じる。この実施形態では、センサユニット20における歪み発生部材21の3つの接触固定部21aが、外方部材1に接触固定されているので、外方部材1の歪みが歪み発生部材21に拡大して伝達され易く、その歪みが歪検出素子22A,22Bで感度良く検出される。
【0068】
また、この実施形態では前記センサユニット20を4つ設け、各センサユニット20を、タイヤ接地面に対して上下位置および左右位置となる外方部材1の外径面の上面部、下面部、右面部、および左面部に円周方向90度の位相差で等配しているので、車輪用軸受100に作用する垂直方向荷重Fz 、前後方向の荷重Fx 、軸方向荷重Fy を推定することができる。
【0069】
なお、この実施形態では、外方部材1が固定側部材である場合につき説明したが、この発明は、内方部材が固定側部材である車輪用軸受にも適用することができ、その場合、センサユニット20は内方部材の内周となる周面に設ける。
また、この実施形態では第3世代型の車輪用軸受100に適用した場合につき説明したが、この発明は、軸受部分とハブとが互いに独立した部品となる第1または第2世代型の車輪用軸受や、内方部材の一部が等速ジョイントの外輪で構成される第4世代型の車輪用軸受にも適用することができる。また、このセンサ付車輪用軸受装置は、従動輪用の車輪用軸受にも適用でき、さらに各世代形式のテーパころタイプの車輪用軸受にも適用することができる。