特許第5882786号(P5882786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882786
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】電磁波応答測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3586 20140101AFI20160225BHJP
【FI】
   G01N21/3586
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-41346(P2012-41346)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-178123(P2013-178123A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】中西 英俊
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−037293(JP,A)
【文献】 特開平03−214040(JP,A)
【文献】 特開2011−117957(JP,A)
【文献】 特開2012−002798(JP,A)
【文献】 特表2004−500582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00,21/01
G01N 21/17−21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電磁波を照射することによって、試料の電磁波応答を測定する電磁波応答測定装置において、
フェムト秒レーザから出射されたパルス光の照射に応じて、電磁波を放射する光伝導スイッチと、
前記光伝導スイッチから放射された前記電磁波を検出する電磁波検出部と、
前記パルス光が照射された際に、前記光伝導スイッチで発生する電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部の検出結果に基づいて、前記電磁波検出部によって検出された前記電磁波の強度を補正する補正部と、
を備え
前記光伝導スイッチは、
光伝導膜と、
前記光伝導膜に形成された一対の平行伝送線路部、および、前記一対の平行伝送線路部から内側に向かって近接するように延びる微小ダイポールアンテナを有する電極と、
を有し、
前記電流検出部は、前記微小ダイポールアンテナが形成するギャップに前記パルス光が照射された際に発生する瞬時電流を検出する電磁波応答測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の電磁波応答測定装置において、
前記補正部は、前記電流検出部および前記電磁波検出部の検出結果に基づいて、前記光伝導スイッチに流れる電流と、前記光伝導スイッチから放射される電磁波の強度との相関関係を決定する電磁波応答測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁波応答測定装置において、
前記補正部は、カーブフィッティングを行うことにより、前記相関関係を決定する電磁波応答測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光伝導スイッチから放射される電磁波を試料に照射して、試料の電磁波応答を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ領域(例えば、0.1〜100THz)の電磁波(テラヘルツ波)を用いた試料の解析技術が注目されている。この領域の電磁波は、紙、プラスチックなどに対して比較的透過性が高く、かつ、安全性の面で優れており、産業応用が期待されている。
【0003】
テラヘルツ領域の電磁波の発生方式としては、フェムト秒レーザから出射されるフェムト秒オーダーのパルス光を光伝導スイッチに照射させて、電磁波パルスを放射させるものが知られている。この発生方式は、効率性、安定性の観点で優れており、実用化が進んでいる。また、試料の電磁波応答の測定方法の1つとして、いわゆるテラヘルツ時間分光法(THz−TDS)によって、電磁波のパルス波形が復元される方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
THz−TDSでは、フェムト秒レーザから出射されたパルス光が、ポンプ光およびプローブ光に分割される。ポンプ光は光伝導スイッチに導かれることで、テラヘルツ領域の電磁波が発生する。発生した電磁波は、試料に照射された後、電磁波応答として検出用の光伝導スイッチにて検出される。一方のプローブ光は、検出用の光伝導スイッチへと導かれる。検出用の光伝導スイッチにおいては、電磁波の照射により電界が発生するが、このときにプローブ光が照射されることで、電磁波の強度に応じた光電流が発生する。
【0005】
さらに、THz−TDSでは、機械式ディレー装置を用いることで、プローブ光の光路長が変更されることにより、プローブ光が検出用の光伝導スイッチに到達するタイミングが変更される。このようにして、実時間測定が困難である電磁波のパルス波形の復元が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−20268号公報
【特許文献2】国際公開第WO2006/092874号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、THz−TDSといったパルス復元方式による測定の場合、最短でも数十秒といったように、測定時間が長くなりやすい。また、試料の広範囲にわたって電磁波を照射することにより、試料の持つ物性情報を画像化する、いわゆるイメージングが行われる場合、検査時間がより長時間におよぶ場合がある。
【0008】
このように測定時間が長時間化した場合、測定中における光軸のブレまたは室温の変化などにより、フェムト秒レーザの出力するパルス光の強度に揺らぎが生じてしまう虞がある。このため、光伝導スイッチから放射される電磁波の強度が安定化されず、試料の電磁波応答の測定精度が悪化するという問題があった。
【0009】
例えば、特許文献2においては、測定を高速に行う技術が提案されている。具体的には、2つのフェムト秒レーザを用いることによって、測定時間を短縮させている。この測定方法によって、測定時間を短縮することにより、上記フェムト秒レーザの揺らぎの影響を抑制することも考えられる。しかしながら、この場合、非常に高額なフェムト秒レーザを2つも用意する必要があり、コスト面で容易に実現することができないという問題がある。また、たとえ測定が短時間で行われたとしても、フェムト秒レーザを用いる限り、強度の揺らぎの問題を解消することは困難である。
【0010】
また、フェムト秒レーザ11として、ファイバレーザなどの比較的出力強度のバラツキの少ないレーザを用いることも考えられる。しかしながら、例えばファイバレーザの場合、出力強度が弱く、十分な電磁波応答を測定することが困難な場合がある。また、フェムト秒レーザの構成を変えたとしても、その強度の揺らぎを無くすことは困難である。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、試料の電磁波応答の測定時において、電磁波強度の揺らぎによる測定精度の低下を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、第1の態様は、試料に電磁波を照射することによって、試料の電磁波応答を測定する電磁波応答測定装置において、フェムト秒レーザから出射されたパルス光の照射に応じて、電磁波を放射する光伝導スイッチと、前記光伝導スイッチから放射された前記電磁波を検出する電磁波検出部と、前記パルス光が照射された際に、前記光伝導スイッチで発生する電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部の検出結果に基づいて、前記電磁波検出部によって検出された前記電磁波の強度を補正する補正部とを備え、前記光伝導スイッチは、光伝導膜と、前記光伝導膜に形成された一対の平行伝送線路部、および、前記一対の平行伝送線路部から内側に向かって近接するように延びる微小ダイポールアンテナを有する電極と、を有し、前記電流検出部は、前記微小ダイポールアンテナが形成するギャップに前記パルス光が照射された際に発生する瞬時電流を検出する。
【0013】
また、第2の態様は、第1の態様に係る電磁波応答測定装置において、前記補正部は、前記電流検出部および前記電磁波検出部の検出結果に基づいて、前記光伝導スイッチに流れる電流と、前記光伝導スイッチから放射される電磁波の強度との相関関係を決定する。
【0014】
また、第3の態様は、第2の態様に係る電磁波応答測定装置において、前記補正部は、カーブフィッティングを行うことにより、前記相関関係を決定する。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様によると、光伝導スイッチにパルス光が照射されることにより、光伝導スイッチに電流が流れる。この電流の時間微分に比例する強度の電磁波が、光伝導スイッチから放射される。つまり、光伝導スイッチにおいて発生する電流と電磁波の強度は、互いに相関する。したがって、電流検出部によって電流を検出することにより、放射された電磁波の揺らぎを間接的に検出することができる。また、試料の電磁波応答は、放射される電磁波の強度に依存するので、電流の検出結果に応じて電磁波応答の検出結果を補正することにより、電磁波応答の測定精度を向上することができる。
【0016】
また、第2の態様によると、光伝導スイッチに流れる電流と、放射電磁波の強度との相関関係が決定されることによって、電流の大きさから電磁波強度を取得することができる。また、相関関係から取得される放射電磁波強度に応じて、電磁波応答の検出結果を補正することにより、電磁波応答の測定精度を向上することができる。
【0017】
また、第3の態様によると、放射電磁波の強度が電流に比例しない場合であっても、電流と電磁波強度との相関関係を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る電磁波応答測定装置の概略構成図である。
図2】電磁波発生部を示す概略構成図である。
図3】制御部に接続されている構成を示すブロック図である。
図4】光伝導スイッチから放射された電磁波パルスの電界強度の時間変動を示す図である。
図5】試料に関する電磁波応答測定の流れ図である。
図6】エミッタ電流と放射電磁波強度の相関を示す相関図である。
図7図6に示される測定結果に基づいて作成された補正テーブルを示す図である。
図8】観測電磁波強度の補正例を示す図である。
図9】相互に比例しないエミッタ電流と放射電磁波強度の相関を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0020】
<1. 実施形態>
<1.1.構成および機能>
図1は、実施形態に係る電磁波応答測定装置1の概略構成図である。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張または簡略化されて図示されている場合がある。
【0021】
電磁波応答測定装置1は、テラヘルツ時間領域分光法(THz−TDS)を行うことによって、試料90の物性情報を取得する装置である。具体的には、電磁波応答測定装置1は、主にテラヘルツ波(周波数が0.01THz〜100THzであって、より好ましくは0.1THz〜30THz)を含む電磁波を試料90に照射し、試料90を透過した電磁波の強度を観測することによって、試料90の電磁波応答を測定する装置である。
【0022】
図1に示されるように、電磁波応答測定装置1は、フェムト秒レーザ11、ビームスプリッタ12、電磁波発生部13、放物面ミラー14a,14b,14c,14d、電磁波検出部15、光チョッパー16、遅延部17および制御部18を備えている。
【0023】
フェムト秒レーザ11は、電磁波発生部13において電磁波を発生させるためのパルス光L1を出射する。フェムト秒レーザ11は、例えば、ファイバレーザなどで構成されており、中心波長が1〜1.5μm(マイクロメートル)付近、周期が数kHz(キロヘルツ)〜数百MHz(メガヘルツ)、パルス幅が10〜150fs(フェムト秒)程度の直線偏光のパルス光L1を出射する。なお、フェムト秒レーザ11として、波長が400nm(ナノメートル)以上1.5μm(マイクロメートル)以下の可視光領域または近赤外領域のパルス光を出射するものを利用することもできる。また、フェムト秒レーザ11から波長が800nmのパルスレーザを出射させる場合には、チタンサファイヤレーザが好適である。
【0024】
ビームスプリッタ12は、フェムト秒レーザ11から出射されたパルス光L1をパルス光L2とパルス光L3に分割する。分割後の一方のパルス光L2はポンプ光として電磁波発生部13へと導かれ、他方のパルス光L3はプローブ光として電磁波検出部15へと導かれる。
【0025】
図2は、電磁波発生部13を示す概略構成図である。電磁波発生部13は、パルス光L2を受けて、主にテラヘルツ波を含む電磁波を発生させるテラヘルツ波発生源である。図2に示されるように、電磁波発生部13は、光伝導スイッチ131、電源133および電流検出部135を備えている。
【0026】
光伝導スイッチ131は、例えば低温成長ガリウム砒素(LT−GaAs)で形成されている光伝導膜21と、該光伝導膜21上に形成されている金属製の電極22,23とを備えている。電極22,23は、図2に示されるように、平行に延びる一対の平行伝送線路部24,24と、一対の平行伝送線路部24,24から内側に向かって近接するように延びる微小ダイポールアンテナ25とを形成している。微小ダイポールアンテナ25は、例えば、μmオーダーのギャップ251を形成している。電源133は、電極22,23の形成する一対の平行伝送線路部24,24に接続されており、電極22,23に所要のバイアス電圧を印加する。なお、微小ダイポールアンテナ25は、図2に示される形状に限定されるものではなく、その他の形状(例えば、ボウタイ型、スパイラル型)であってもよい。
【0027】
微小ダイポールアンテナ25に形成されたギャップ251にパルス光L2が照射されると、光伝導膜21において光励起キャリア(電子および正孔)が発生する。この光励起キャリアは、DCバイアス電圧によってギャップ251を移動することで、瞬時電流が発生する。その結果、瞬時電流の時間微分に比例した電磁波パルスT1(主にテラヘルツ波パルス)が光伝導スイッチ131から放射される。また、このときに発生する瞬時電流は電流検出部135により検出され、さらに該検出信号は、電流検出部135に接続されている不図示のロックインアンプにより信号処理されて、制御部18に出力される。なお、以下の説明においては、この光伝導スイッチ131に流れる瞬時電流を、エミッタ電流とも称する。
【0028】
放物面ミラー14a,14bは、電磁波発生部13から放射された電磁波パルスT1を反射することで平行光とし、試料90へと導く。また、放射面ミラー14c,14dは、試料90を透過した電磁波パルスT1を反射して、電磁波検出部15へと導く。
【0029】
電磁波検出部15は不図示の光伝導スイッチを備えている。光伝導スイッチには、試料90を透過した電磁波パルスT1と、プローブ光であるパルス光L3とが照射される。光伝導スイッチは、このパルス光L3の照射に応答して、電磁波パルスT1の強度に応じた電流を発生させる。電磁波検出部15は、発生した電流の検出信号を不図示のロックインアンプにより信号処理して、制御部18に出力する。
【0030】
光チョッパー16は、その周方向に沿って等間隔にスリットが形成された円板と、当該円板を所要の回転数で駆動するモータとで構成されている。モータによって円板が所要の回転数で回転することにより、パルス光L2が所定周期で断続的に遮光される。具体的には、例えば周波数80MHzで出射されているパルス光L2が、例えば2〜4kHzの間の任意の周波数で強度変調される。これにより、電磁波検出部15に設けられたロックインアンプにおいて、電磁波パルスT1の位相検波が可能となる。
【0031】
遅延部17は、移動ステージ171、および、移動ステージ171に取り付けられた折り返しミラー173を備えている。また、遅延部17は、制御部18からの制御信号に基づいて制御される、不図示の直動機構(リニアモータなど)を備えている。折り返しミラー173は、入射するパルス光L3を反射させることで、その進行方向を180度転換させる。また、移動ステージ171は、直動機構の駆動に応じて、折り返しミラー173をパルス光L3の光学経路に沿って直線移動させる。遅延部17は、このように折り返しミラー173を移動させることによって、パルス光L3の光学的距離(光路長)を変更する。
【0032】
パルス光L3の光路長が変更されることにより、パルス光L3の電磁波検出部15へ到達するタイミングが変更される。電磁波検出部15へ到達するタイミングが変更されることにより、電磁波検出部15における電磁波パルスT1の電界強度を測定するタイミングが変更されることとなる。
【0033】
パルス光L1は、そのパルス幅がフェムト秒オーダーであるため、光伝導スイッチ131にて発生する電磁波(テラヘルツ波)を実時間で測定することは困難である。そこで、電磁波検出部15(具体的には、検出器である光伝導スイッチ)検による電磁波パルスT1の検出タイミングが連続的に変更されながら、電磁波パルスT1の電界強度が測定される。これにより、電磁波パルスT1についての電界強度の時間変化(時間波形)を、容易に復元することができる。
【0034】
図3は、制御部18に接続されている構成を示すブロック図である。制御部18は、図示を省略するCPUおよびRAMなどの一般的なコンピュータとしての構成を備えている。図3に示されるように、制御部18には、補正部31、表示部33、操作入力部35、記憶部37が接続されている。
【0035】
補正部31は、電磁波検出部15によって取得された電磁波パルスT1の強度を補正する。具体的には、補正部31は、電流検出部135によって検出されたエミッタ電流(電磁波発生時に光伝導スイッチ131に流れる電流)の大きさに基づいて、電磁波検出部15によって測定される電磁波パルスT1の電界強度を補正する。この詳細については後述する。
【0036】
表示部33は、液晶モニターなどで構成されており、オペレータに各種情報を提示する。本実施形態においては、表示部33は、補正部31によって補正された電磁波パルスT1の測定結果(または、補正前の電磁波パルスT1の測定結果)などを表示する。もちろん、また、操作入力部35は、オペレータによって操作され、制御部18に対して各種情報を入力する入力デバイス(キーボードやマウスなど)で構成されている。なお、表示部33が、タッチパネルで構成されることにより、操作入力部35の機能の一部または全部を備えることも考えられる。
【0037】
記憶部37は、例えばハードディスクなどの固定された補助記憶装置、または、可搬のメディア(CD、DVDなどの光学メディア、MOなどの磁気メディアまたはメモリーカードなど)とこれらメディアに対して情報を書き込む書込装置などで構成されている。ただし、記憶部37は、RAMなどの一時的に情報を記憶するものであってもよい。記憶部37および制御部18は、1つのコンピュータとして構成されていてもよいが、不図示のネットワークを介して接続されていてもよい。
【0038】
<1.2. 電磁波応答の測定>
次に電磁波応答測定装置1を用いて行われる試料90の電磁波応答の測定について説明する。なお、以下において、電磁波応答測定装置1の動作は、特に断らない限り制御部18の制御に基づいて行われるものとする。
【0039】
図4は、光伝導スイッチ131から放射された電磁波パルスT1の電界強度の時間変動を示す図である。図4において、横軸は時間を示しており、縦軸は電磁波パルスT1の電界強度を示している。図5に示されるように、光伝導スイッチ131から放射される電磁波パルスT1の電界強度(以下、放射電磁波強度という。)は、数分間の間に、その強度が2〜3%程度変動している。この放射電磁波強度の変動は、主に、フェムト秒レーザ11から出射されるパルス光L1の強度が変動していることに起因する。このような電磁波パルスT1を用いて試料90の電磁波応答が測定された場合、測定結果にバラツキが発生し、測定精度が低下してしまう。
【0040】
ここで、光伝導スイッチ131にパルス光L2が照射された場合、Maxellの方程式にしたがって、エミッタ電流の時間微分に比例する電界強度の電磁波パルスT1が光伝導スイッチ131から放射される。つまり、放射される電磁波パルスT1の電界強度(以下、放射電磁波強度とも称する。)は、エミッタ電流に相関することとなる。そこで、エミッタ電流を測定することで、放射電磁波強度の揺らぎ検出し、検出された揺らぎに応じて、観測電磁波強度を補正することで、放射電磁波強度のバラツキを吸収することができる。これにより、試料90の電磁波応答の測定の精度を向上することができる。
【0041】
以上の測定原理に基づいて、本実施形態では、まず、エミッタ電流と放射電磁波強度の相関が決定される。そして、この相関関係に基づいて、試料90の電磁波応答の測定結果が補正される。以下、図5を参照しつつ、具体的に説明する。
【0042】
図5は、試料90に関する電磁波応答測定の流れ図である。まず、エミッタ電流と放射電磁波強度の相関を決定するため、試料90が電磁波応答測定装置1に設置されていない状態で、エミッタ電流の測定および放射電磁波強度の測定が、それぞれ並行して行われる(ステップS1)。このステップS1では、試料90が設置されていないことにより、電磁波発生部13から放射される電磁波パルスT1の電界強度(すなわち、放射電磁波強度)がそのまま電磁波検出部15において検出されることとなる。このステップS1の測定は、エミッタ電流および放射電磁波強度の相関関係を決定するために必要かつ十分なデータがサンプリングされるまで行われる。
【0043】
次に、ステップS1において取得されるエミッタ電流および放射電磁波強度に基づいて、観測される電磁波強度を補正するための補正テーブルが作成される(ステップS2)。具体的には、補正部31が、ステップS1においてサンプリングされた、エミッタ電流およびこれに対応する放射電磁波強度の測定値に基づいて、エミッタ電流と出力電界強度の相関関係が決定される。そして、決定された相関関係に基づいて、補正テーブルが作成される。
【0044】
図6は、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iの相関を示す相関図である。図6において、横軸はエミッタ電流Aを示し、縦軸は放射電磁波強度Iを示している。この場合、エミッタ電流Aおよび放射電磁波強度Iの測定結果が、直線C1上にプロットされている。つまり、この光伝導スイッチ131の場合、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iとがほぼ正比例の関係にある。
【0045】
図7は、図6に示される測定結果に基づいて作成された補正テーブルR1を示す図である。図6に示される測定結果から、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iとが比例する関係にあるため、例えばエミッタ電流Aが1倍、1.01倍、1.02倍・・・となると、放射電磁波強度Iも1倍、1.01倍、1.02倍・・・と変化することとなる。
【0046】
ここで、放射電磁波強度Iと、この放射電磁波強度Iの電磁波パルスT1が試料90に照射されたときに電磁波検出部15にて検出される電磁波強度(以下、観測電磁波強度という。)は、ほぼ比例する関係にある。つまり、放射電磁波強度Iがエミッタ電流Aに比例する場合には、観測電磁波強度もエミッタ電流Aに比例することとなる。したがって、フェムト秒レーザ11に発生する揺らぎに応じてエミッタ電流Aが変動した場合には、その変動に比例して、観測電磁波強度も変動することとなる。
【0047】
そこで、観測電磁波強度から、フェムト秒レーザ11の揺らぎの影響を除去するためには、エミッタ電流Aの変動に応じて、観測電磁波強度を補正すればよい。このため、図7に示される補正テーブルR1は、エミッタ電流の大きさに応じて観測電磁波強度を補正するための補正係数Rを保持している。
【0048】
具体的に、補正係数Rは、分子が、基準となるエミッタ電流Aの値(図7に示される例では、1.0)とされ、分母が、各エミッタ電流Aの値とされる。したがって、図7に示される例では、例えば、エミッタ電流Aが1、1.01、1.02・・・と変動した場合、補正係数Rは1.0/1.0、1.0/1.01、1.0/1.02・・・といったように変動する。補正部31は、後述するように、このようにして作成された補正テーブルR1に基づき、観測電磁波強度を補正する(図5:ステップS5)。
【0049】
図5に戻って、補正部31により補正テーブルが作成されると、試料90が電磁波応答測定装置1に設置される(ステップS3)。試料90が設置されると、電磁波パルスT1が試料90に照射されることによって、試料90を透過した電磁波パルスT1の電界強度が電磁波検出部15にて検出される。このようにして試料90の電磁波応答が測定される(ステップS4)。
【0050】
このステップS4では、電磁波パルスT1の時間波形を復元するために、遅延部17の移動ステージ171が直線移動することによって、電磁波検出部15による、電磁波パルスT1の検出タイミングが適宜変更される。また、ステップS4では、エミッタ電流の測定も並行して行われることで、各観測電磁波強度に対応するエミッタ電流が取得される。
【0051】
試料90に関する電磁波応答の測定が完了すると、観測電磁波強度の補正が行われ、補正された観測電磁波強度(以下、補正電磁波強度とも称する。)が記憶部37に保存される(ステップS5)。このとき、補正前の観測電磁波強度についても記憶部37に保存される。
【0052】
より詳細には、ステップS5では、補正部31が、補正テーブルを参照することにより、ステップS4において測定されたエミッタ電流に対応する補正係数Rを取得する。そして、補正部31は、測定された観測電磁波強度と取得された補正係数Rとを掛け合わせることにより、補正電磁波強度を算出する。
【0053】
図8は、観測電磁波強度の補正例を示す図である。図8に示されるように、ステップS4において、時間軸に沿って電磁波応答の測定が行われることにより、複数組のエミッタ電流A(t)、および、これに対応する観測電磁波強度J(t)が取得される。ここで、図7に示される補正テーブルR1が参照されることで、各エミッタ電流A(t)に対応する補正係数Rがそれぞれ取得される。そして、補正係数Rと電磁波応答である観測電磁波強度J(t)とが掛け合わされることによって、補正電磁波強度G(t)がそれぞれ算出される。
【0054】
例えば、時間t=3の場合、エミッタ電流A(3)が1.04である。この場合、図6に示される補正テーブルR1から、補正係数は1.0/1.04となる。また、時間t=3のときの観測電磁波強度J(3)は1550であるので、補正電磁波強度G(3)は、観測電磁波強度J(t)に補正係数Rを掛けることによって、約1490(≒1550×1.0/1.04)と算出される。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る電磁波応答測定装置1によると、光伝導スイッチ131に流れるエミッタ電流Aが測定されることにより、放射電磁波強度Iのバラツキを間接的に検出することができる。したがって、エミッタ電流Aの変動に応じて、観測電磁波強度が補正されることにより、試料90に関する電磁波応答の測定精度を向上することができる。
【0056】
特に、光伝導スイッチ131にて発生するエミッタ電流の測定する際、光伝導スイッチ131をテラヘルツ波検出器として用いた場合に行われるときに用いられる構成を採用することができる。したがって、エミッタ電流を測定することは比較的容易であるため、電磁波応答の測定の高精度化を容易に実現することができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、図5に示されるステップS2にて、補正テーブルが作成されているが、補正テーブルの作成は省略することも可能である。例えば、補正係数を算出するための数式を、RAMまたは記憶部37に格納しておき、ステップS5にて補正電磁波強度を算出する際に、該数式が呼び出されるようにしてもよい。
【0058】
また、図6に示される例では、光伝導スイッチ131における、エミッタ電流Aおよび放射電磁波強度Iが、比例する関係にあるが、光伝導スイッチ131の特性によっては、放射電磁波強度Iがエミッタ電流Aに比例しないこともあり得る。この比例しない場合について、図9を参照しつつ説明する。
【0059】
図9は、相互に比例しないエミッタ電流Aと放射電磁波強度Iの相関を示す相関図である。図9に示される例では、測定されたエミッタ電流Aおよび放射電磁波強度Iを示す複数の点が、一直線上にプロットされておらず、分散している。このような測定結果が得られた場合には、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iの相関関係を決定するために、カーブフィッティングが行われる。
【0060】
カーブフィッティングの方法は、特に限定されるものではないが、例えば、図9に示されるように、グラフ上にプロットされた各点を通るベジェ曲線C2が決定されることが考えられる。このようなカーブフィッティングが行われることにより、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iの相関関係(具体的には、放射電磁波強度を算出するための関数)が決定される。もちろん、最小二乗法によって、エミッタ電流Aと放射電磁波強度Iの相関を示す回帰曲線が決定されることにより、相関関係が決定されてもよい。
【0061】
このカーブフィッティングにより決定された相関関係に基づき、観測電磁波強度J(t)の測定時におけるエミッタ電流A(t)から、放射電磁波強度を算出できる。そして、観測電磁波強度J(t)が算出された放射電磁波強度に比例することに基づき、放射電磁波強度の大きさに応じて観測電磁波強度J(t)を補正した補正電磁波強度G(t)を取得することができる。
【0062】
<2. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0063】
例えば、電磁波応答測定装置1における、試料90の保持手段に、試料90を平面内で任意に移動させる移動機構が設けられていてもよい。試料90上の広い範囲にわたって、電磁波パルスT1を容易に照射することができる。これにより、試料90の一部領域または全領域における、物性情報を画像化したイメージングを行うことが可能である。
【0064】
また、上記実施形態では、パルス復元が行われているが、移動ステージ171が固定されることにより、検出タイミングが固定された状態で電磁波応答が測定されることも考えられる。
【0065】
さらに、上記実施形態および変形例にて説明した各構成は、互いに矛盾の生じない限り、適宜組み合わせたり、または省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 電磁波応答測定装置
11 フェムト秒レーザ
12 ビームスプリッタ
13 電磁波発生部
131 光伝導スイッチ
133 電源
135 電流検出部
14a,14b,14c,14d 放物面ミラー
15 電磁波検出部
16 光チョッパー
17 遅延部
171 移動ステージ
173 折り返しミラー
18 制御部
21 光伝導膜
22,23 電極
24,24 平行伝送線路部
25 微小ダイポールアンテナ
251 ギャップ
31 補正部
33 表示部
35 操作入力部
37 記憶部
90 試料
C1 直線
C2 ベジェ曲線
I 放射電磁波強度
J 観測電磁波強度
L1,L2,L3 パルス光
R1 補正テーブル
T1 電磁波パルス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9