特許第5882815号(P5882815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5882815樹脂成形体、及びそれを用いてなる積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5882815
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】樹脂成形体、及びそれを用いてなる積層体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20160225BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20160225BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20160225BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20160225BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   C08J5/00CEY
   C08F290/06
   B32B27/30 A
   G06F3/041
   G06F3/044
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-86050(P2012-86050)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2012-229405(P2012-229405A)
(43)【公開日】2012年11月22日
【審査請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2011-89024(P2011-89024)
(32)【優先日】2011年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004101
【氏名又は名称】日本合成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】山本 由美子
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−193596(JP,A)
【文献】 特開2004−352781(JP,A)
【文献】 特開平11−223702(JP,A)
【文献】 特開2010−238322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/06
C08F 290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)及び脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)を含有してなる重合性組成物[I]を硬化して得られる樹脂成形体であり、かつ、
脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)として、アクリレート成分(a1)(R3:水素)とメタクリレート成分(a2)(R3:メチル基)との配合割合(a1:a2)が、10:90〜90:10(重量比)であり、
脂環構造を有する2官能メタクリレート成分(A)と脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)との配合割合(A:B)が、60:40〜95:5(重量比)であることを特徴とする樹脂成形体。
【化1】
【請求項2】
樹脂成形体の厚さが0.1〜3mmであることを特徴とする請求項1記載の樹脂成形体。
【請求項3】
重合性組成物[I]が、光重合開始剤(C)を含有してなるものであることを特徴とする請求項1または2記載の樹脂成形体。
【請求項4】
1MHzでの比誘電率が4以下であることを特徴とする請求項1〜いずれか一項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
請求項1〜いずれか一項に記載の樹脂成形体の少なくとも一方の面にガスバリア膜が形成されてなることを特徴とする積層体。
【請求項6】
請求項1〜いずれか一項に記載の樹脂成形体の少なくとも一方の面に透明導電膜が形成されてなることを特徴とする積層体。
【請求項7】
静電容量方式のタッチパネル基板として用いることを特徴とする請求項または記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物を硬化してなる樹脂成形体に関し、特に、シート状もしくはフィルム状の樹脂成形体であって、光学特性、熱特性、機械特性、電気特性に優れた樹脂成形体であり、とりわけ、静電容量方式のタッチパネル用のプラスチック基板として有用である樹脂成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスプレイ用の基板としてはガラスを基板とするものが多く使われている。例えば、カバーウィンドウ、タッチパネル、液晶ディスプレイ、及び有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイでは、厚さ0.5〜1mm程度のガラス基板が汎用されている。近年、軽量薄型化や安全性向上の観点から、また、フレキシブルディスプレイの製造を目的に、プラスチック製の基板も使用され始めている。実際、カバーウィンドウにポリメチルメタクリレート(以下PMMA)やポリカーボネートの基板が使われたり、タッチパネルにITOなどの透明電極が形成されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが汎用されている。この様なプラスチック基板には、光線透過率や複屈折などの光学性能はもとより、耐熱性や線膨張係数などの熱特性、耐衝撃性、表面硬度、曲げ弾性率などの機械特性、吸水率や比重、耐薬品性、耐溶剤性、及び無機膜の密着性などの高度な加工適性が要求される。
【0003】
これらの諸特性を満足するために、熱可塑性あるいは熱硬化性を問わず数多くの樹脂が提案されているが、例えば、樹脂の耐熱性を向上させると耐衝撃性が低下したり、ナノフィラーを配合して表面硬度を向上させると光学特性が低下したりしているのが現状である。更に、フィルムの貼り合わせやハードコートなどの多層化技術は、コストアップにつながっている。
【0004】
また、近年の提案の中には、特定の光重合性組成物を光硬化して得られる成形体も見受けられる。例えば、2官能の(メタ)アクリレートと分子内に2個以上のチオール基を有するメルカプト化合物とを含有する重合性組成物が、複屈折が小さい樹脂成形体を与えることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。そして、3官能以上の脂肪族(メタ)アクリレート化合物を75wt%以上含有する重合性組成物は、耐熱性が高く、複屈折が小さい樹脂成形体を与えることが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。さらに、2官能の脂肪族(メタ)アクリレート化合物と3官能以上の(メタ)アクリレート化合物とを含有する重合性組成物が、耐熱性が高く、線膨張係数が小さい樹脂成形体を与えることが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートと脂環構造を有する多官能(メタ)アクリレートよりなる光重合性組成物が、鉛筆硬度の高い樹脂成形体を与えることが開示されており(例えば、特許文献4参照。)、脂環構造を有する単官能(メタ)アクリレート、脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート、及び脂環構造を有する多官能(メタ)アクリレートよりなる光重合性組成物が、光学特性や熱機械特性に優れる樹脂成形体を与えることが開示されており(例えば、特許文献5参照。)、特定の脂環骨格2官能(メタ)アクリレート系化合物、特定の脂肪族4官能(メタ)アクリレート系化合物、及び、脂環骨格を有する分子量200〜2000の多官能ウレタン(メタ)アクリレート系化合物よりなる光重合性組成物が、光学特性や熱機械特性に優れる樹脂成形体を与えることが開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−152510号公報
【特許文献2】特開2002−302517号公報
【特許文献3】特開2003−292545号公報
【特許文献4】特開2006−193596号公報
【特許文献5】特開2007−204736号公報
【特許文献6】特開2007−56180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの開示技術をもってしても諸特性のバランスが取れているとは言いがたい。例えば、特許文献1〜3に開示される技術では、高度な架橋構造により耐熱性は向上されるが、分子鎖に衝撃を吸収する化学構造を有しないために割れやすく、ガラスと同等の耐衝撃性しか得られない。一般的に、耐熱性と耐衝撃性は相反する性能であり、かかる課題が、ガラスに代えてプラスチック基板が使用される機会を大きく減ずる理由である。
【0008】
また、特許文献4〜6の開示技術では、ウレタン(メタ)アクリレートの配合により耐衝撃性が改良されているものの、アクリレートもしくはメタクリレートのどちらか一方しか使用していないためその効果はまだまだ満足のいくものではなく、例えば、特許文献4の実施例では、16gの軽い落球衝撃試験の結果が記載されているものであり、更なる改良が求められるところである。
【0009】
そこで、本発明ではこのような背景下において、耐熱性と耐衝撃性を併せ持ち、ガラス代替基板に好適な樹脂成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
しかるに本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、樹脂成形体を形成する重合性組成物において、特定の脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分と、脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分を含有し、更に、かかる脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分として、アクリレート成分とメタクリレート成分を併用することにより、耐熱性と耐衝撃性の両方に優れた樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、下記一般式(1)で表される脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)及び脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)を含有してなる重合性組成物[I]を硬化して得られる樹脂成形体であり、かつ、脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)として、アクリレート成分(a1)(R3:水素)とメタクリレート成分(a2)(R3:メチル基)との配合割合(a1:a2)が、10:90〜90:10(重量比)であり、脂環構造を有する2官能メタクリレート成分(A)と脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)との配合割合(A:B)が、60:40〜95:5(重量比)であることを特徴とする樹脂成形体に関するものである。
【0012】
【化1】
【0013】
なお、ここでいう多官能とは、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有することを意味する。
【0014】
また、本発明においては、前記樹脂成形体の少なくとも一方の面にガスバリア膜が形成されてなる積層体も提供するものであり、更に、前記樹脂成形体の少なくとも一方の面に透明導電膜が形成されてなる積層体、とりわけ静電容量方式のタッチパネル基板として用いる積層体をも提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い透明性、高い耐熱性、高い耐衝撃性、高い表面硬度、高い表面平滑性、及び適度な曲げ弾性率を有する樹脂成形体が得られ、かかる樹脂成形体は、ガスバリア性に優れたガスバリア膜や導電性に優れた導電膜との積層が容易であり、得られる積層体は、とりわけタッチパネルなどのディスプレイ用基板として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき詳細に説明する。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0017】
本発明の樹脂成形体は、重合性組成物[I]を硬化してなるものであり、かかる重合性組成物[I]は、上記一般式(1)で表される脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)及び脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)を含有してなるものである。
【0018】
本発明で用いられる成分(A)と成分(B)は共に脂環構造を有するものであるため、得られる樹脂成形体の高耐熱性化や低吸水率化などが達成されやすく、また、硬化収縮が低減されることにより、製造時のリタデーションを低減できるという利点がある。
【0019】
上記成分(A)は、上記一般式(1)で表される脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレートであればよい。
【0020】
一般式(1)において、R2は炭素数1〜6のエーテルを含んでいてもよいアルキレン基であり、好ましい炭素数は1〜3である。R3は水素又はメチル基であり、nは0又は1、好ましくは1であり、aは1又は2、bは0又は1である。
【0021】
このような成分(A)の具体例としては、例えば、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシエチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、ビス(ヒドロキシプロピル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート、ビス(ヒドロキシプロピル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート、などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点でビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレートとビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレートが好ましく、本発明においては、上記ジ(メタ)アクリレートにおいて、ジアクリレート(a1)とジメタクリレート(a2)とを併用することが重要である。
【0022】
上記成分(A)の数平均分子量としては、300〜550が好ましく、特に好ましくは310〜500、更に好ましくは320〜450である。数平均分子量が小さすぎると、硬化収縮が増大し、樹脂成形体にリタデーションが発生しやすい傾向にあり、逆に、大きすぎると、架橋性が低下し、耐熱性が低下する傾向にある。
【0023】
成分(A)は、架橋性の(メタ)アクリレートであるため、硬化により樹脂成形体に高耐熱性を付加する。しかし、アクリレート(a1)のみでは耐熱性が不充分であり、逆に、メタクリレート(a2)のみでは耐衝撃性が不充分である。一般的に、(メタ)アクリロイル基部分以外の化学構造が同じであれば、メタクリレートの硬化物は、アクリレートの硬化物よりも耐熱性が高いことが知られている。本発明は、両者の配合割合を適正化することにより、この効果を発現させると共に、耐衝撃性の向上をも達成したものである。
【0024】
メタクリレートの配合により耐衝撃性が向上する理由は明らかでないが、樹脂中の自由体積が増大することに起因すると推測される。すなわち、架橋構造とはいえ、アクリル/メタクリル混在樹脂においてはなんらかの衝撃吸収構造が発現したものと考えられる。
【0025】
なお、片末端にアクリロイル基を有し、もう一方の末端にメタクリロイル基を有するビス(ヒドロキシ)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレートやビス(ヒドロキシ)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=アクリレートメタクリレートやビス(ヒドロキシメチル)ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカン=アクリレートメタクリレートを用いても同様の効果が期待できるが、両基の存在割合を正確に制御してかかる化合物を量産製造することは困難となるものである。
【0026】
成分(A)におけるアクリレート成分(a1)(R3:水素)とメタクリレート成分(a2)(R3:メチル基)の配合割合(a1:a2)は、10:90〜90:10(重量比)である。配合割合の好ましい範囲は、用途やディスプレイの製造法によって異なるものであるが、例えば、タッチパネルや有機ELディスプレイなどの高温プロセスが存在する用途においては、好ましい範囲は10:90〜50:50(重量比)、より好ましくは10:90〜40:60(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70(重量比)であり、メタクリレート成分(a2)の配合割合が少なすぎると樹脂成形体の耐熱性が低下、多すぎると樹脂成形体の耐衝撃性が低下する。逆に、カバーウィンドウなどの強度が重要視される用途においては、好ましい範囲は50:50〜90:10(重量比)、より好ましくは60:40〜90:10(重量比)、特に好ましくは70:30〜90:10(重量比)であり、アクリレート成分(a1)の配合割合が少なすぎると樹脂成形体の耐衝撃性が低下する傾向があり、多すぎると樹脂成形体の耐熱性が低下する傾向がある。
【0027】
上記成分(B)は、脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートであればよく、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上含有するウレタン(メタ)アクリレートである。
【0028】
成分(B)は、多官能であるため、硬化速度が向上し、生産性良く樹脂成形体を得ることができる。また、硬化により架橋樹脂を形成し、耐熱性の高い樹脂成形体を得ることができる。通常、架橋構造は耐衝撃性の低下を招くが、ウレタン(メタ)アクリレートは分子内にウレタン基を有し、得られる樹脂成形体は水素結合により適度な靱性を有するため、耐衝撃性の低下を回避することができる。更に、特筆すべきは、表面硬度の向上であり、一般的に多官能のウレタン(メタ)アクリレートはハードコート剤として使用されており、その皮膜は高い鉛筆硬度と耐擦傷性を有するものである。
【0029】
多官能ウレタン(メタ)アクリレートの官能基は、硬化速度の点からアクリレートが好ましい。また、官能基数は、用途やディスプレイの製造法によって異なるものであるが、例えば、タッチパネルや有機ELディスプレイなどの高温プロセスが存在する用途においては、3官能以上が好ましく、より好ましくは4〜10官能、特に好ましくは5〜8官能である。単官能(官能基数1)の場合は、樹脂成形体の耐熱性が低下する傾向があり、官能基数が多すぎる場合は、樹脂成形体の耐衝撃性が低下する傾向にある。逆に、カバーウィンドウなどの強度が重要視される用途においては、6官能以下が好ましく、より好ましくは2〜5官能、特に好ましくは2〜4官能である。単官能(官能基数1)の場合は、樹脂成形体の耐熱性が低下する傾向があり、官能基数が多すぎる場合は、樹脂成形体の耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0030】
成分(B)の数平均分子量は、200〜5000であることが好ましい。より好ましくは400〜3000、更に好ましくは500〜1000である。数平均分子量が小さすぎると硬化収縮が増大し、樹脂成形体にリタデーションが発生しやすい傾向にあり、逆に、大きすぎると、架橋性が低下し、耐熱性が低下する傾向にある。
【0031】
成分(B)の脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、脂環構造を有するポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートを、必要に応じてジブチルチンジラウレートなどの触媒を用いて反応させることにより得ることができる。
【0032】
脂環構造を有するポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、水添化キシリレンジイソシアネート、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネート、或いはこれらジイソシアネートの3量体化合物などが挙げられる。これらの中でも、樹脂成形体の耐衝撃性に優れる点で、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートが好ましく用いられる。
また、必要に応じて、上記ポリイソシアネートとポリオールとを反応させてなる両末端イソシアネート基含有化合物を用いることもできる。
【0033】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0034】
脂環構造を有するポリイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリレートとの反応により得られる多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、2種以上混合して用いてもよい。
【0035】
成分(A)と成分(B)の配合割合(A:B)は、60:40〜95:5(重量比)である。成分(B)が少なすぎると耐衝撃性や表面硬度などの機械特性が低下、逆に、成分(B)が多すぎると重合性組成物[I]が高粘度になり、樹脂成形体の製造が困難となる。配合割合(A:B)の好ましい範囲は、70:30〜90:10(重量比)、より好ましくは、75:25〜90:10(重量比)、特に好ましくは80:20〜90:10(重量比)である。
【0036】
かくして脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)及び脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレート成分(B)を含有してなる重合性組成物[I]が得られるが、かかる重合性組成物[I]は、光及び熱重合の少なくとも一方により硬化され樹脂成形体とするために、重合開始剤(C)を配合することが好ましく、光重合により硬化する場合は光重合開始剤(C1)を、熱重合により硬化する場合は熱重合開始剤(C2)を配合することが好ましい。光重合と熱重合の両方を行う場合は、光重合開始剤(C1)と熱重合開始剤(C2)を併用してもよい。本発明においては、リタデーションの低減と生産性の点から、光重合が好ましい。
【0037】
光重合開始剤(C1)としては、公知の化合物を用いることができ、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,6−ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これらの中でも、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどのラジカル開裂型の光重合開始剤が好ましい。これらの光重合開始剤(C1)は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
光重合開始剤(C1)の配合量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、0.1〜5重量部、更には0.2〜4重量部、特には0.3〜3重量部であることが好ましい。配合量が多すぎると樹脂成形体のリタデーションが増大し、また黄変が生じやすい傾向にあり、少なすぎると重合速度が低下し、重合が充分に進行しないおそれがある。
【0039】
熱重合開始剤(C2)としては、公知の化合物を用いることができ、例えば、ハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)等のパーオキシエステル、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等のパーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ケトンパーオキサイド等の過酸化物が挙げられる。これらの熱重合開始剤(C2)は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
熱重合開始剤(C2)の配合量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、0.1〜10重量部、更には0.5〜5重量部、特には0.3〜3重量部であることが好ましい。配合量が多すぎると樹脂成形体のリタデーションが増大し、また黄変が生じやすい傾向にあり、少なすぎると重合速度が低下し、重合が充分に進行しないおそれがある。
【0041】
本発明においては、本発明の樹脂成形体の物性を損ねない範囲で、更に少量の補助成分を含んでいてもよく、このような補助成分としては、例えば、成分(A)及び(B)以外のエチレン性不飽和結合を有する単量体、連鎖移動剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、ブルーイング剤、染顔料、フィラーなどが挙げられる。
【0042】
成分(A)及び(B)以外のエチレン性不飽和結合を有する単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール以上のポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ1,3−ジ(メタ)アクリロキシプロパン、2,2−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル]プロパン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレンなどのスチレン系化合物等が挙げられる。
【0043】
成分(A)及び(B)以外のエチレン性不飽和結合を有する単量体の配合量は、成分(A)と成分(B)の合計100重量部に対して、30重量部以下、更には20重量部以下、特には10重量部以下であることが好ましい。配合量が多すぎると樹脂成形体の耐熱性や耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0044】
連鎖移動剤としては、多官能メルカプタン化合物が好ましい。多官能メルカプタン化合物としては、例えば、ペンタエリスルトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスルトールテトラキスチオプロピオネートなどが挙げられる。これらの多官能メルカプタン系化合物は、重合性組成物[I]100重量部に対して、通常10重量部以下の割合で使用されることが好ましく、更には5重量部以下、特には3重量部以下が好ましい。かかる使用量が多すぎると、得られる成形体の耐熱性や剛性が低下する傾向がある。
【0045】
酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−s−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、n−オクタデシル−β−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、4,4−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、4,4′−ジ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4′ −トリ−チオビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N′ −ヘキサメチレンビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミド、N,N′−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、カルシウム(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)モノエチルフォスフォネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス−2[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチルイソシアネート、テトラキス[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスファイト−ジエチルエステル等の化合物が挙げられ、これらの化合物は、単独または2種以上併用してもよい。これらの中でも、テトラキス[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが、色相を抑制する効果が大きくなる点から特に好ましい。
【0046】
酸化防止剤の配合割合は、重合性組成物[I]100重量部に対して、通常0.001〜1重量部であることが好ましく、特に好ましくは0.01〜0.5重量部である。かかる酸化防止剤が少なすぎると樹脂成形体の耐光性が低下する傾向があり、多すぎると光線透過率が低下する傾向にある。
【0047】
かくして本発明で用いられる重合性組成物[I]が得られるが、かかる重合性組成物[I]の23℃における粘度が100〜10000mPa・sであることが好ましい。より好ましくは200〜5000mPa・s、更に好ましくは300〜3000mPa・sである。粘度が低すぎると成形工程において未重合の単量体が残存しやすくなる傾向があり、逆に、粘度が高すぎると取り扱いが困難になる傾向がある。かかる粘度に調整する方法としては、主として、成分(A)及び成分(B)の種類や配合量を適宜コントロールすることなどが挙げられる。
【0048】
次に、本発明の樹脂成形体の製造方法について、重合性組成物[I]に対して光重合を行う場合を例にとって説明する。
【0049】
本発明における樹脂成形体の製造方法としては、例えば、上記重合性組成物[I]を、活性エネルギー線、とりわけ波長200〜400nmの紫外線を用いて、照射光量1〜100J/cm2の範囲で光硬化し成形することが好ましい。照射光量のより好ましい範囲は5〜70J/cm2、更に好ましくは10〜50J/cm2である。照射光量が少なすぎると重合が不充分となる傾向があり、多すぎると生産性が低下する傾向がある。紫外線の照度は、通常10〜5000mW/cm2、好ましくは100〜1000mW/cm2である。照度が小さすぎると成形体内部まで充分に硬化しにくい傾向があり、照度が大きすぎると重合が暴走しリタデーションが増大する傾向がある。
【0050】
紫外線の照射に際しては、複数回に分割して照射すると、リタデーションがより小さい樹脂成形体が得られるので好ましい。例えば、1回目に全照射量の1/100〜1/10程度を照射し、2回目以降に必要残量を照射する方法が挙げられる。
【0051】
紫外線源としては、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀灯ランプ、無電極水銀ランプ等が挙げられる。光源から発生する赤外線により重合が暴走するのを防ぐため、ランプに赤外線を遮断するフィルターや赤外線を反射しない鏡等を用いることも可能である。
【0052】
本発明で得られた樹脂成形体は、より重合度の向上のため、あるいは応力ひずみ開放のために熱処理してもよく、100℃以上で熱処理することが好ましい。
【0053】
一般的に、光成形は、注入型を用いたバッチ式重合法か、ベルトやドラムなどの連続したキャスト基材を用いる連続式重合法で行われる。前者の場合、厚さ制御のためのスペーサーを介して、2枚の透明ガラスを対向させた型を作製し、そのキャビティに重合性組成物[I]を注入し、活性エネルギー線をこの重合性組成物[I]に照射して重合させ、硬化物を脱型することにより行われる。後者の場合、重合性組成物[I]、もしくは重合性組成物[I]を含む溶液を、ベルトやドラムなどの連続したキャスト基材に流延し、必要に応じて乾燥後、連続して活性エネルギー線を照射することによる重合を行い、キャスト基材から硬化物を剥離することにより行われる。本発明においては、光成形法として、バッチ式でもよいが、特には長尺幅広なフィルムロールが得られる点で、連続成形法がより好ましい。
【0054】
かくして、本発明の樹脂成形体が得られる。
かかる樹脂成形体の厚さは、プラスチック基板の剛性やフレキシブル性に直接影響し、用途ごとに最適化されるものであるが、本発明においては、0.1〜3mm、特には0.2〜2mm、更には0.3〜1.5mmであることが好ましい。中でも、例えば、有機ELディスプレイなどの軽量薄型化やフレキシブル性を重視する用途においては、好ましい範囲は0.1〜1mm、より好ましくは0.2〜0.7mm、特に好ましくは0.3〜0.5mmであり、厚さが薄すぎるとディスプレイの支持体としての機能が低下する傾向があり、逆に、厚すぎると軽量薄型化が困難になる傾向がある。また、例えば、カバーウィンドウやタッチパネルなどの剛性や強度も必要とされる用途においては、好ましい範囲は0.2〜3mm、より好ましくは0.5〜2mm、特に好ましくは0.7〜1.5mmであり、厚さが薄すぎるとディスプレイの保護機能が低下する傾向があり、逆に、厚すぎると軽量薄型化が困難になる傾向がある。
【0055】
次に本発明の樹脂成形体の性能に関して説明する。
本発明の樹脂成形体は、1MHzでの比誘電率が4以下であることが、ディスプレイの正常動作の点で好ましい。比誘電率が4を超えると、タッチパネルで発生したノイズが、液晶ディスプレイの駆動に悪影響を及ぼす傾向にある。比誘電率のより好ましい範囲は1〜3.7、特に好ましくは2〜3.5である。比誘電率は、樹脂の組成や添加剤により制御することができる。
【0056】
本発明の樹脂成形体は、光線透過率が90%以上であることが、ディスプレイの高輝度化の点から好ましい。光線透過率のより好ましい範囲は91%以上、特に好ましくは92%以上である。なお一般的に光線透過率の上限は99%である。
【0057】
本発明の樹脂成形体は、リタデーションが10nm以下であることが、ディスプレイの精細性の点から好ましい。リタデーションのより好ましい範囲は5nm以下、特に好ましくは2nm以下である。なお一般的にリタデーションの下限は0.01nmである。
【0058】
本発明の樹脂成形体は、表面の鉛筆硬度が2H以上であることが、ディスプレイを保護する点から好ましい。鉛筆硬度のより好ましい範囲は3H以上、特に好ましくは4H以上である。鉛筆硬度が低すぎると、樹脂成形体が傷つきやすく、ディスプレイの品質が低下する傾向にある。
【0059】
本発明の樹脂成形体は、ガラス転移温度が200℃以上であることが、ディスプレイを製造する際の耐熱性の点から好ましい。ガラス転移温度のより好ましい範囲は210℃以上、特に好ましくは220℃以上である。ガラス転移温度が低すぎると耐熱性が低いため、ガスバリア膜や透明導電膜などを成膜する時に変形する傾向にある。
【0060】
本発明の樹脂成形体は、曲げ弾性率が2〜4GPa(25℃)であることが好ましい。曲げ弾性率が小さすぎると樹脂成形体の靱性不足のため、成膜工程やディスプレイ製造工程でたわみやうねりが生じ、均一なガスバリア性や導電性を確保し難い傾向にある。曲げ弾性率が大きすぎると樹脂成形体やディスプレイのフレキシブル性を損なう傾向にある。
【0061】
本発明の樹脂成形体は、表面粗さRaが20nm以下であることがより好ましい。表面粗さが大きすぎるとガスバリア性や導電性が低下したり、ディスプレイにおいて表示欠陥が発生しやすい傾向がある。
【0062】
また本発明においては、前記樹脂成形体の少なくとも一方の面に、ガスバリア膜や透明導電膜を成膜し、積層体とすることが好ましく、ガスバリア性を有するフィルムまたはシートや透明電極付きフィルムまたはシートとすることができる。
【0063】
ガスバリア膜としては、例えば、酸化珪素膜やアルミナなどの無機膜、ポリビニルアルコール系樹脂やエチレン−ビニルアルコール系樹脂などのビニルアルコール系樹脂からなる有機膜が挙げられる。無機膜としては、厚さ0.01〜0.1μmの酸化珪素膜が好ましく、有機膜としては、厚さ0.5〜5μmのエチレン−ビニルアルコール系樹脂膜が好ましい。
なお、ここでいうガスバリア膜は、酸素や水分を遮断する機能以外に、熱による樹脂成形体の反りやうねりを低減することを目的とした膜をも含むものである。
【0064】
透明導電膜としては、例えば、インジウムとスズの酸化物(ITO)などの無機膜や、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などの有機膜が挙げられる。これらの中では、ITO膜が好ましい。膜厚は、1000〜30000nmが好ましく、より好ましくは2000〜20000nm、更に好ましくは3000〜10000nmである。かかる膜厚が厚すぎると基板に反りが発生する傾向にあり、薄すぎると導電性が不充分となる傾向がある。さらに、表面抵抗値としては、1〜1000Ω/□が好ましく、より好ましくは10〜700Ω/□、更に好ましくは20〜500Ω/□である。かかる表面抵抗値が高すぎると導電性が不足する傾向となり、小さすぎるとタッチパネルの位置検出精度が低下する傾向がある。
【0065】
かくして透明導電膜が形成された積層体が得られるが、かかる積層体はタッチパネル基板、特に静電容量式のタッチパネル基板として好適である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
各物性の測定方法は以下の通りである。
【0067】
(1)ガラス転移温度
長さ20mm×幅5mmの試験片を用いて、レオロジー社製動的粘弾性装置「DVE−V4型 FTレオスペクトラー」の引っ張りモードを用いて、周波数10Hz、昇温速度3℃/分、歪0.025%で測定を行った。得られた複素弾性率の実数部(貯蔵弾性率)に対する虚数部(損失弾性率)の比(tanδ)を求め、このtanδの最大ピーク温度をガラス転移温度(℃)とした。
【0068】
(2)耐落球衝撃性
幅及び長さ各5cmの試験片を内径4cmの支持リング上に置き、シート中央部に130gの鋼球を自然落下させ、試験片が破損する最低の高さを5cm刻みで測定し、耐落下衝撃性(cm)を評価した。
【0069】
(3)光線透過率
分光光度計(日本分光工業社製、商品名:「Ubest−35」)を用いて550nmの光線透過率(%)を測定した。
【0070】
(4)リタデーション
オーク社製複屈折測定装置にて25℃でリタデーション(nm)を測定した。
【0071】
(5)鉛筆硬度
JIS K−5600に準じて、鉛筆硬度を測定した。
【0072】
(6)比誘電率
アジレント・テクノロジー社製プレシジョンLCRメーターE4980Aを用いて、23℃で比誘電率を測定した。測定周波数は1MHzである。
【0073】
(7)酸素透過率
オキシトラン社製の酸素モコン測定器にて、23℃、80%RHの条件下で酸素透過率(cc/day・atm・m2)を測定した。
【0074】
(8)表面抵抗値
三菱化学社製の4端子法抵抗測定器(ロレスターMP)を用いて表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0075】
<脂環構造を有する多官能ウレタン(メタ)アクリレートの調製>
[ウレタンアクリレート(B−1):イソホロン構造を有する2官能ウレタンアクリレートの調製]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート53.34g(0.24モル)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート62.47g(0.48モル)、ハイドロキノンメチルエーテル0.02g、ジブチルスズジラウレート0.02g、メチルエチルケトン500gを仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、溶剤を留去してウレタンアクリレート(B−1)を得た。得られたウレタンアクリレート(B−1)の数平均分子量は480であった。
【0076】
[ウレタンアクリレート(B−2):イソホロン構造を有する6官能ウレタンアクリレートの調製]
温度計、撹拌機、水冷コンデンサー、窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート53.34g(0.24モル)、ペンタエリスリトールトリアクリレート143.19g(0.48モル)、ハイドロキノンメチルエーテル0.02g、ジブチルスズジラウレート0.02g、メチルエチルケトン500gを仕込み、60℃で3時間反応させ、残存イソシアネート基が0.3%となった時点で反応を終了し、溶剤を留去してウレタンアクリレート(B−2)を得た。得られたウレタンアクリレート(B−2)の数平均分子量は820であった。
【0077】
<実施例1>
[重合性組成物[I]の調製]
表1に示す通り、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジアクリレート(a1−1)75部(新中村化学社製A−DCP)、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン=ジメタクリレート5部(a2−1)(新中村化学社製DCP)、イソホロン構造を有する2官能のウレタンアクリレート(B−1)20部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製「Irgacure184」)1部を、60℃にて均一になるまで撹拌し、重合性組成物[I]を得た。
【0078】
[樹脂成形体の作製]
ガラス板2枚を対向させ、厚さ0.7mmのシリコン板をスペーサーとした成形型に、上記重合性組成物[I−1](23℃)を注液し、メタルハライドランプを用いて、照度200mW/cm2、光量20J/cm2で紫外線を照射した。その後、脱型し得られた硬化物を、180℃の真空オーブン中で2時間加熱して、幅300mm×長さ400mm×厚さ0.7mmの樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体は、表2に示される通り、高い耐熱性と高い耐衝撃性を有し、光学特性など他の性能も良好であった。
【0079】
[積層体(ガスバリア性シート)の作製]
上記で得られた樹脂成形体の片面に、スパッタ法にて厚さ0.02μmの酸化ケイ素よりなるガスバリア膜を成膜し、ガスバリア性シートを得た。かかるガスバリア性シートの酸素透過率を表3に示す。
【0080】
[積層体(透明導電性シート)の作製]
得られたガスバリア性シートの酸化ケイ素成膜面とは逆の面に、スパッタ法にて厚さ0.03μmのITOよりなる透明導電膜を成膜し、3層構造の透明導電性シートを得た。かかる透明導電性シートの表面抵抗値を表3に示す。
【0081】
<実施例2〜7>
表1に示す通りの配合組成にて重合性組成物[I]を調製し、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の物性は表2に示される通りであった。
更に、実施例1と同様にして、積層体(ガスバリア性シート)と積層体(透明導電性シート)を得た。得られた積層体の酸素透過率と透明導電膜の表面抵抗値は表3に示されるとおりであった。
【0082】
<比較例1>
表1に示す通りの配合組成にて重合性組成物を調製し、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の物性は表2に示される通りであり、耐熱性も耐衝撃性も低かった。
更に、実施例1と同様にして、積層体(ガスバリア性シート)と積層体(透明導電性シート)を得た。得られた積層体の酸素透過率と透明導電膜の表面抵抗値は表3に示される通りであった。
【0083】
<比較例2>
表1に示す通りの配合組成にて重合性組成物を調製し、実施例1と同様にして樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体の物性は表2に示される通りであり、耐熱性には優れるものの耐衝撃性は低かった。
更に、実施例1と同様にして、積層体(ガスバリア性シート)と積層体(透明導電性シート)を得た。得られた積層体の酸素透過率と透明導電膜の表面抵抗値は表3に示される通りであった。

【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
上記の通り、脂環構造を有する2官能(メタ)アクリレート成分(A)として、アクリレート成分のみ或いはメタクリレート成分のみを用いた比較例1及び2では、耐熱性と耐衝撃性の両方をバランスよく満足する樹脂成形体が得られないものであった。さらに比較例1の樹脂成形体は、鉛筆硬度だけでなく表面抵抗値も劣っているものであった。したがって、これら比較例1及び2の樹脂成形体は、様々な光学材料、電子材料として不適切なものであることが分かる。
【0088】
これに対して、アクリレート成分とメタクリレート成分とを併用してなる実施例1〜7では、耐熱性、耐衝撃性にバランスよく優れた樹脂成形体を得ることができた。したがって、これら実施例1〜7は、光学材料、電子材料として適切なものであることが分かる。実際に、これら実施例1〜7の樹脂成形体に、ガスバリア膜や透明導電膜を形成した積層体は、静電容量方式のタッチパネル基盤として優れるものである。
【0089】
また、アクリレート成分とメタクリレート成分との比(a1−1/a2−1)が、90/10以下である実施例2〜7においては、酸素透過率および表面抵抗値により一層優れる樹脂成形体を得ることができ、一方、10/90以上である実施例1〜6においては耐熱性及び耐衝撃性の両方のバランスにより一層優れる樹脂成形体を得ることができた。更に、メタクリレート成分よりアクリレート成分をより多く用いた実施例1〜4においては、耐衝撃性の点で更に良好なものであり、非常に有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の樹脂成形体は、様々な光学材料、電子材料に有利に利用できる。例えば、液晶基板、有機/無機EL用基板、電子ペーパー用基板、導光板、位相差板、タッチパネル等、各種ディスプレイ用部材、光ディスク基板や光ディスク用フィルム・コーティングを初めとする記憶・記録用途、薄膜電池基板、太陽電池基板などのエネルギー用途、光導波路などの光通信用途、更には機能性フィルム・シート、反射防止膜、光学多層膜等各種光学フィルム・シート・コーティング用途に利用できる。中でも、特に静電容量方式のタッチパネル基板として非常に期待される。