(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の吸収ヒートポンプでは、溶液の結晶防止措置のために検出器や開閉弁を設けることとなり、装置構成が複雑になる。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑み、簡易迅速に溶液の濃縮による結晶を回避することができる吸収ヒートポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る吸収ヒートポンプは、例えば
図1に示すように、冷媒が吸収された溶液Swを加熱して溶液Swから冷媒を離脱させる再生器30であって、溶液Saを貯留する再生器缶胴37を有する再生器30と;再生器30で溶液Swから離脱した冷媒の蒸気である冷媒蒸気Vgを導入し凝縮させて冷媒の液体である冷媒液Vfを生成する凝縮器40であって、冷媒液Vfを含む凝縮器内液体Vf、Aを貯留する凝縮器缶胴47を有する凝縮器40と;凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf,Aが所定の液位を超えたときに凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aを再生器缶胴37内に溢流させるオーバーフロー堰50とを備える。
【0007】
このように構成すると、溶液の濃度の上昇に伴って溶液から離脱した冷媒液を含む凝縮器内液体の凝縮器缶胴内の液位が所定の液位を超えたときに凝縮器缶胴内の凝縮器内液体が再生器缶胴内に流入するため、単純な構造で、濃度が最も高くなる再生器缶胴内の溶液が速やかに希釈されることとなり、溶液の濃縮による結晶を回避することができる。
【0008】
また、本発明の第2の態様に係る吸収ヒートポンプは、例えば
図1を参照して示すと、上記本発明の第1の態様に係る吸収ヒートポンプにおいて、所定の液位が、再生器缶胴37内の溶液Saの濃度が許容できる上限に達したときの、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液位である。再生器缶胴内の溶液の濃度の許容できる上限は、典型的には、溶液が結晶する濃度よりも余裕分低い濃度である。
【0009】
このように構成すると、溶液が濃縮して
結晶する前に凝縮器内液体が溶液に混合することとなり、溶液の濃縮による結晶を回避することができる。
【0010】
また、本発明の第3の態様に係る吸収ヒートポンプは、例えば
図1及び
図2に示すように、上記本発明の第1の態様又は第2の態様に係る吸収ヒートポンプにおいて、冷媒及び溶液を含む作動媒体が、溶液による冷媒の吸収を促進させる伝熱促進剤Aをさらに含んで構成され;凝縮器内液体が、冷媒液Vfと伝熱促進剤Aとを含んで構成され;オーバーフロー堰は、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液位が所定の液位に到達する前に伝熱促進剤Aを先行して再生器缶胴37に流入させる先行流出孔51、52、53が形成されて構成されている。
【0011】
このように構成すると、凝縮器缶胴内の冷媒液の上面に浮かびがちな伝熱促進剤を優先して再生器缶胴内の溶液に混合させることができる。また、伝熱促進剤を少しずつ再生器缶胴へ導くことができ、再生器缶胴内の溶液に伝熱促進剤を混合させやすくなる。
【0012】
また、本発明の第4の態様に係る吸収ヒートポンプは、例えば
図1及び
図2(B)を参照して示すと、上記本発明の第3の態様に係る吸収ヒートポンプにおいて、先行流出孔52が、下方から上方に行くに連れて連続的又は断続的に幅が広くなるように構成されている。
【0013】
このように構成すると、再生器缶胴内の溶液の濃度が高くなる程、換言すれば凝縮器缶胴内の凝縮器内液体の液位が高くなるほど凝縮器缶胴から再生器缶胴へ溢流する伝熱促進剤の流量が多くなり、負荷の大きさに応じた流量の伝熱促進剤を凝縮器缶胴から再生器缶胴へ溢流させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶液の濃度の上昇に伴って溶液から離脱した冷媒液を含む凝縮器内液体の凝縮器缶胴内の液位が所定の液位を超えたときに凝縮器缶胴内の凝縮器内液体が再生器缶胴内に流入するため、単純な構造で、濃度が最も高くなる再生器缶胴内の溶液が速やかに希釈されることとなり、溶液の濃縮による結晶を回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0017】
まず
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る吸収ヒートポンプ1を説明する。
図1は、吸収ヒートポンプ1の模式的系統図である。吸収ヒートポンプ1は、吸収ヒートポンプサイクルを行う主要構成機器である吸収器10、蒸発器20、再生器30、及び凝縮器40と、吸収器10で加熱された被加熱媒体を気液分離する気液分離器80と、制御装置99とを備えている。吸収ヒートポンプ1は、比較的利用価値の低い低温(例えば80℃〜90℃程度)の排温水を熱源媒体として再生器30及び蒸発器20に供給して、利用価値の高い被加熱媒体蒸気Wv(例えば、圧力が約0.1MPa(ゲージ圧)を超え、望ましくは0.8MPa(ゲージ圧)程度)を気液分離器80から取り出すことができるものである。
【0018】
なお、以下の説明においては、溶液に関し、ヒートポンプサイクル上における区別を容易にするために、性状やヒートポンプサイクル上の位置に応じて「希溶液Sw」や「濃溶液Sa」等と呼称するが、性状等を不問にするときは総称して「溶液S」ということとする。また、冷媒に関し、ヒートポンプサイクル上における区別を容易にするために、性状やヒートポンプサイクル上の位置に応じて「蒸発器冷媒蒸気Ve」、「再生器冷媒蒸気Vg」、「冷媒液Vf」等と呼称するが、性状等を不問にするときは総称して「冷媒V」ということとする。本実施の形態では、溶液S(吸収剤と冷媒Vとの混合物)としてLiBr水溶液が用いられており、冷媒Vとして水(H
2O)が用いられている。また、被加熱媒体に関し、液体の被加熱媒体である「被加熱媒体液Wq」、気体の被加熱媒体である「被加熱媒体蒸気Wv」、被加熱媒体液Wqと被加熱媒体蒸気Wvとが混合した「混合被加熱媒体Wm」を総称して「被加熱媒体W」ということとする。本実施の形態では、被加熱媒体Wとして水(H
2O)が用いられている。また、溶液S及び冷媒Vの系統には、伝熱促進剤として、
図1中に符号Aで示すオクタノール(2−エチル−1−ヘキサノール)が投入されている。以下に説明するヒートポンプサイクルにおいて、オクタノールAは、流動する溶液S及び冷媒Vに適宜含まれるものであるが、溶液S及び冷媒Vに対する含有量が少ないため、特に強調したい場合を除き、言及を省略する。換言すると、単に溶液S及び冷媒Vの流れを説明しているものに、オクタノールAが含まれ得ることとする。
【0019】
吸収器10は、被加熱媒体Wの流路を構成する加熱管11と、濃溶液Saを散布する濃溶液散布ノズル12とを、吸収器缶胴17の内部に有している。濃溶液散布ノズル12は、散布した濃溶液Saが加熱管11に降りかかるように、加熱管11の上方に配設されている。吸収器10は、濃溶液散布ノズル12から濃溶液Saが散布され、濃溶液Saが蒸発器冷媒蒸気Veを吸収する際に吸収熱を発生させる。この吸収熱を、加熱管11を流れる被加熱媒体Wが受熱して、被加熱媒体Wが加熱されるように構成されている。吸収器10の下部には、散布された濃溶液Saが蒸発器冷媒蒸気Veを吸収して濃度が低下した希溶液Swが貯留される貯留部13が形成されている。加熱管11は、希溶液Swに没入しないように、貯留部13よりも上方に配設されている。貯留部13には、貯留された希溶液Swの液位を検出する吸収器液位検出器14が配設されている。
【0020】
蒸発器20は、加熱媒体としての熱源温水hの流路を構成する伝熱管21を、蒸発器缶胴27の内部に有している。蒸発器20は、蒸発器缶胴27の内部に冷媒液Vfを散布するノズルを有していない。このため、伝熱管21は、蒸発器缶胴27内に貯留された冷媒液Vfに浸かるように配設されている(満液式蒸発器)。蒸発器20は、伝熱管21周辺の冷媒液Vfが伝熱管21内を流れる熱源温水hの熱で蒸発して蒸発器冷媒蒸気Veが発生するように構成されている。蒸発器缶胴27内には、内部に貯留された冷媒液Vfの液面の高位VHを検出する高位検出器24H及び低位VLを検出する低位検出器24Lを有する蒸発器液位検出器24が配設されている。蒸発器缶胴27の底面には、蒸発器缶胴27内に冷媒液Vfを供給する冷媒液管45が接続されている。
【0021】
吸収器缶胴17と蒸発器缶胴27とは、上部で接続されており、これにより、吸収器10と蒸発器20とが気相部で相互に連通している。吸収器10と蒸発器20とが気相部で連通することにより、吸収器10及び蒸発器20の内部の圧力が概ね等しくなっている。また、吸収器10と蒸発器20とが連通することにより、蒸発器20で発生した蒸発器冷媒蒸気Veを吸収器10に供給することができるように構成されている。吸収器10と蒸発器20とは、典型的には、濃溶液散布ノズル12より上方で連通している。
【0022】
再生器30は、希溶液Swを加熱する熱源媒体としての熱源温水hを内部に流す熱源管31と、希溶液Swを散布する希溶液散布ノズル32とを、再生器缶胴37の内部に有している。再生器30は、散布された希溶液Swから冷媒Vが蒸発して濃度が上昇した濃溶液Saが下部に貯留されるように構成されている。再生器30では、希溶液Swが熱源温水hに加熱されることにより、希溶液Sw中の冷媒Vが離脱し、濃溶液Saと再生器冷媒蒸気Vgとが生成されるように構成されている。再生器30の濃溶液Saが貯留される部分と吸収器10の濃溶液散布ノズル12とは、濃溶液Saを流す濃溶液管35で接続されている。濃溶液管35には、再生器30の濃溶液Saを吸収器10に圧送する溶液ポンプ35pが配設されている。溶液ポンプ35pは、吸収器液位検出器14と信号ケーブルで接続されたインバータ35vを有しており、吸収器液位検出器14が検出する液位に応じて回転速度が調節されて吸収器10に圧送する濃溶液Saの流量を調節することができるように構成されている。希溶液散布ノズル32と吸収器10の貯留部13とは希溶液Swを流す希溶液管16で接続されている。濃溶液管35及び希溶液管16には、濃溶液Saと希溶液Swとの間で熱交換を行わせる溶液熱交換器38が配設されている。
【0023】
凝縮器40は、冷却媒体流路を形成する冷却水管41を、凝縮器缶胴47の内部に有している。冷却水管41には、冷却媒体としての冷却水cが流れる。凝縮器40は、再生器30で発生した再生器冷媒蒸気Vgを導入し、これを冷却水cで冷却して凝縮させるように構成されている。冷却水管41は、再生器冷媒蒸気Vgを直接冷却することができるように、再生器冷媒蒸気Vgが凝縮した冷媒液Vfに浸らないように配設されている。凝縮器40には凝縮した冷媒液Vfを蒸発器20に送る冷媒液管45が接続されている。冷媒液管45には、冷媒液Vfを蒸発器20に圧送するための冷媒ポンプ46が配設されている。冷媒ポンプ46は、蒸発器液位検出器24と信号ケーブルで接続されており、蒸発器液位検出器24が検出する液位に応じて発停が制御されるように構成されている。
【0024】
再生器缶胴37と凝縮器缶胴47とは、上部で接続されており、これにより、再生器30と凝縮器40とが気相部で相互に連通している。再生器30と凝縮器40とが気相部で連通することにより、再生器30及び凝縮器40の内部の圧力が概ね等しくなっている。また、再生器30と凝縮器40とが連通することにより、再生器30で発生した再生器冷媒蒸気Vgを凝縮器40に供給することができるように構成されている。再生器30と凝縮器40とは、典型的には、希溶液散布ノズル32より上方で連通している。また、再生器缶胴37と凝縮器缶胴47との間には、両者の内部を連絡するオーバーフロー管50が配設されている。オーバーフロー管50は、再生器30側では再生器缶胴37の下部側面に接続されており、凝縮器40側では凝縮器缶胴47の底面を貫通して所定の高さまで延びている。所定の高さは、再生器缶胴37内の濃溶液Saの濃度が許容できる上限(溶液Sが結晶する濃度よりも余裕分低い濃度)に達したときの、凝縮器缶胴47内の冷媒液Vf及びオクタノールAの液体の液面の高さ(所定の液位)である。本実施の形態では、冷媒液VfとオクタノールAとで凝縮器内液体を構成している。溶液Sの濃度は、冷媒Vの含有率によって決まるが、濃溶液Saの濃度が上昇する際に離脱した冷媒Vは凝縮器40に集まる一方、蒸発器缶胴27内の冷媒液Vfの液位が低位VLと高位VHとの間に収まるように制御されるため、濃溶液Saの濃度の高低は、凝縮器缶胴47内の冷媒液Vf及びオクタノールA(凝縮器内液体)の液面高さに現れることとなる。また、再生器30及び凝縮器40は、再生器缶胴37の底面が凝縮器缶胴47の底面よりも低くなるように配設されている。再生器缶胴37の底面と凝縮器缶胴47の底面との高さの差は、再生器缶胴37内の濃溶液Saが最高液位になったときでも、凝縮器缶胴47内のオーバーフロー管50の先端から濃溶液Saが流出しない高さ以上とするとよい。
【0025】
気液分離器80は、吸収器10の加熱管11を流れて加熱された被加熱媒体Wを導入し、被加熱媒体蒸気Wvと被加熱媒体液Wqとを分離する機器である。気液分離器80には、内部に貯留する被加熱媒体液Wqの液位を検出する気液分離器液位検出器81が設けられている。気液分離器80の下部と吸収器10の加熱管11の一端とは、被加熱媒体液Wqを加熱管11に導く被加熱媒体液管82で接続されている。被加熱媒体液管82には、被加熱媒体液Wqを加熱管11に向けて圧送する被加熱媒体ポンプ83が配設されている。内部が気相部となる気液分離器80の側面と加熱管11の他端とは、混合被加熱媒体Wmを気液分離器80に導く加熱後被加熱媒体管84で接続されている。
【0026】
また、気液分離器80には、蒸気として系外に供給された分の被加熱媒体Wを補うための補給水Wsを系外から導入する補給水管85が接続されている。補給水管85には、気液分離器80に向けて補給水Wsを圧送する補給水ポンプ86と、逆止弁85cと、補給水Wsを温水で予熱する補給水熱交換器87Bと、希溶液Swと熱交換させて補給水Wsをさらに加熱する補給水熱交換器87Aとが、補給水Wsの流れ方向に向かってこの順に配設されている。補給水ポンプ86は、気液分離器液位検出器81と信号ケーブルで接続されており、気液分離器80内の被加熱媒体液Wqの液位に応じて発停が制御されるように構成されている。補給水熱交換器87Aは、補給水Wsと希溶液Swとを熱交換させるように、補給水管85と、溶液熱交換器38よりも上流側の希溶液管16とに配設されている。また、気液分離器80には、被加熱媒体蒸気Wvを系外に供給する被加熱媒体蒸気供給管89が上部(典型的には頂部)に接続されている。
【0027】
気液分離器80は、典型的には、加熱管11内で被加熱媒体液Wqの一部が蒸発して被加熱媒体液Wqと被加熱媒体蒸気Wvとが混合した混合被加熱媒体Wmを導入するが、被加熱媒体液Wqのまま気液分離器80に導いて減圧し一部を気化させて混合被加熱媒体Wmとしたものを気液分離させるようにしてもよい。被加熱媒体液Wqを減圧気化するには、オリフィス等の絞り手段を用いることができる。加熱管11内で被加熱媒体液Wqの一部を蒸発させるか否かは、典型的には、被加熱媒体ポンプ83及び/又は補給水ポンプ86の吐出圧力を調節することにより、加熱管11内の圧力を被加熱媒体液Wqの温度に相当する飽和圧力よりも高くするか否かによって調節することができる。
【0028】
制御装置99は、吸収ヒートポンプ1の運転を制御する機器である。制御装置99は、被加熱媒体ポンプ83と信号ケーブルで接続されており、この発停や回転速度の調節を行うことができるように構成されている。これまでの説明では吸収器液位検出器14の出力を直接入力して制御されることとした溶液ポンプ35p、蒸発器液位検出器24の出力を直接入力して制御されることとした冷媒ポンプ46、及び気液分離器液位検出器81の出力を直接入力して制御されることとした補給水ポンプ86も、制御装置99を介して(検出器の出力信号を一旦制御装置99に入力して)制御されることとしてもよい。
【0029】
引き続き
図1を参照して、吸収ヒートポンプ1の作用を説明する。まず、冷媒側のサイクルを説明する。凝縮器40では、再生器30で蒸発した再生器冷媒蒸気Vgを受け入れて、冷却水管41を流れる冷却水cで冷却して凝縮し、冷媒液Vfとする。凝縮した冷媒液Vfは、冷媒ポンプ46で蒸発器20に送られ、蒸発器缶胴27の底部から蒸発器缶胴27内に導入される。このとき、蒸発器缶胴27内に貯留される冷媒液Vfの液面が低位VLと高位VHとの間に収まるように、蒸発器液位検出器24の検出液位に応じて冷媒ポンプ46の発停が制御される。典型的には、冷媒液Vfの液面が低位VLまで下降したことを低位検出器24Lが検出したら冷媒ポンプ46が起動し、液面が高位VHまで上昇したことを高位検出器24Hが検出したら冷媒ポンプ46が停止する。蒸発器缶胴27内に貯留された冷媒液Vfは、伝熱管21内を流れる熱源温水hによって加熱され、蒸発して蒸発器冷媒蒸気Veとなる。蒸発器20で発生した蒸発器冷媒蒸気Veは、蒸発器20と連通する吸収器10へと移動する。
【0030】
次に吸収ヒートポンプ1の溶液側のサイクルを説明する。吸収器10では、濃溶液Saが濃溶液散布ノズル12から散布され、この散布された濃溶液Saが蒸発器20から移動してきた蒸発器冷媒蒸気Veを吸収する。蒸発器冷媒蒸気Veを吸収した濃溶液Saは、濃度が低下して希溶液Swとなる。吸収器10では、濃溶液Saが蒸発器冷媒蒸気Veを吸収する際に吸収熱が発生する。この吸収熱により、加熱管11を流れる被加熱媒体液Wqが加熱される。ここで、被加熱媒体蒸気Wvを取り出すための気液分離器80まわりの作用について説明する。
【0031】
気液分離器80には、系外から補給水Wsが補給水管85を介して導入される。補給水Wsは、補給水ポンプ86により補給水管85を圧送され、まず補給水熱交換器87Bで温度が上昇した後に、補給水熱交換器87Aで希溶液Swと熱交換してさらに温度が上昇して、気液分離器80に導入される。気液分離器80に導入された補給水Wsは、被加熱媒体液Wqとして気液分離器80の下部に貯留される。気液分離器80の下部に貯留される被加熱媒体液Wqが適切な液位になるように、補給水ポンプ86が制御される。気液分離器80の下部に貯留されている被加熱媒体液Wqは、被加熱媒体ポンプ83で吸収器10の加熱管11に送られる。加熱管11に送られた被加熱媒体液Wqは、吸収器10における上述の吸収熱により加熱される。加熱管11で加熱された被加熱媒体液Wqは、一部が蒸発して被加熱媒体蒸気Wvとなった混合被加熱媒体Wmとして、気液分離器80に向けて加熱後被加熱媒体管84を流れる。あるいは、加熱後被加熱媒体管84を、温度が上昇した被加熱媒体液Wqが流れることとしてもよく、この場合、被加熱媒体液Wqは、気液分離器80に導入される際に減圧され、一部が蒸発して被加熱媒体蒸気Wvとなった混合被加熱媒体Wmとして気液分離器80に導入される。気液分離器80に導入された混合被加熱媒体Wmは、被加熱媒体液Wqと被加熱媒体蒸気Wvとが分離される。分離された被加熱媒体液Wqは、気液分離器80の下部に貯留され、再び吸収器10の加熱管11に送られる。他方、分離された被加熱媒体蒸気Wvは、被加熱媒体蒸気供給管89に導出され、蒸気利用場所に供給される。
【0032】
再び吸収ヒートポンプ1の溶液側のサイクルの説明に戻る。吸収器10で蒸発器冷媒蒸気Veを吸収した濃溶液Saは、濃度が低下して希溶液Swとなり、貯留部13に貯留される。貯留部13内の希溶液Swは、重力及び吸収器10と再生器30との内圧の差により再生器30に向かって希溶液管16を流れ、補給水熱交換器87Aで補給水Wsと熱交換して温度が低下した後に、溶液熱交換器38で濃溶液Saと熱交換してさらに温度が低下して、再生器30に至る。再生器30に送られた希溶液Swは、希溶液散布ノズル32から散布される。希溶液散布ノズル32から散布された希溶液Swは、熱源管31を流れる熱源温水h(本実施の形態では約85℃前後)によって加熱され、散布された希溶液Sw中の冷媒が蒸発して(離脱して)濃溶液Saとなり、再生器30の下部に貯留される。他方、希溶液Swから蒸発した冷媒Vは再生器冷媒蒸気Vgとして凝縮器40へと移動する。再生器30の下部に貯留された濃溶液Saは、溶液ポンプ35pにより、濃溶液管35を介して吸収器10の濃溶液散布ノズル12に圧送される。このとき、吸収器10の貯留部13に貯留された希溶液Swが所定の液位になるように、吸収器液位検出器14の検出液位に応じてインバータ35vにより溶液ポンプ35pの回転速度(ひいては吐出流量)が調節される。濃溶液管35を流れる濃溶液Saは、溶液熱交換器38で希溶液Swと熱交換して温度が上昇してから吸収器10に流入し、濃溶液散布ノズル12から散布される。以降、同様のサイクルを繰り返す。
【0033】
上記のような溶液S及び冷媒Vのサイクルを行う吸収ヒートポンプ1は、運転中、溶液Sに対して、吸収器10における冷媒Vの吸収及び再生器30における冷媒Vの離脱が繰り返されて溶液S及び冷媒Vが循環するが、溶液S及び冷媒Vは、閉じられた空間内で循環されるために原則として総量の変化はない。その上で、溶液Sの濃度は、蒸発器20及び/又は再生器30に供給される熱源温水hの温度、凝縮器40に供給される冷却水cの温度、被加熱媒体蒸気Wvの需要等の変化により、吸収器10における冷媒Vの吸収速度よりも再生器30における冷媒Vの離脱速度の方が大きくなると、再生器30内の濃溶液Saの濃度が上昇傾向となる。仮に、溶液Sの濃度が上昇し続けて結晶してしまうと溶液Sの流動が阻害されて正常な運転ができなくなる。本実施の形態に係る吸収ヒートポンプ1では、濃溶液Saの濃度が上昇して行くと、結晶濃度に達する前に凝縮器缶胴47内の冷媒液Vf及びオクタノールAの液体(以下、単に「凝縮器内液体Vf、A」ということもある)の液面がオーバーフロー管50の端部まで上昇し、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aがオーバーフロー管50を介して再生器缶胴37内に流入する。再生器缶胴37内に流入した冷媒液Vfは、濃溶液Saと混合され、濃溶液Saを希釈する。このように、吸収ヒートポンプ1では、再生器30内の濃溶液Saが、結晶濃度に到達する前に適切に希釈されるため、簡便な構成で確実に溶液Sが結晶することを回避することができる。また、溶液Sの濃度が最も高くなる再生器30内に冷媒液Vfを流入させるため、濃溶液Saを迅速に希釈することができる。
【0034】
また、溶液S中には、伝熱促進剤としてオクタノールAが投入されているが、時間経過にしたがって凝縮器缶胴47内の冷媒液Vfの液面に浮かぶように集まる傾向にある。オクタノールAは、溶液Sに溶解することによって吸収器10における溶液Sによる冷媒Vの吸収を促進させることができるが、凝縮器缶胴47内の冷媒液Vfの液面に浮かんでいる状態であると、少しずつ冷媒Vに溶けてサイクルを循環するだけで、溶液Sによる冷媒Vの吸収の促進に関して所望の効果を得ることができない。吸収ヒートポンプ1では、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液面が上昇すると、冷媒液Vfの液面に浮かんでいるオクタノールAがオーバーフロー管50を介して再生器缶胴37内の濃溶液Saに混合されることとなり、オクタノールAを積極的に濃溶液Saに混合させることができ、吸収器10における吸収能力を増進させることができる。吸収器10における吸収能力が増加すると、再生器30内の濃溶液Saの濃度が低下し、凝縮器40内の凝縮器内液体Vf、Aの液面が低下することとなる。なお、凝縮器缶胴47内の冷媒液Vfの液面に浮かぶオクタノールAは、凝縮器内液体Vf、Aの液面がオーバーフロー管50の端部まで上昇しないと積極的に濃溶液Saに混入されないこととなるが、凝縮器内液体Vf、Aの液面がオーバーフロー管50の端部まで上昇してない状況では、濃溶液Saの濃度が過度に上昇しておらず吸収器10における溶液Sによる冷媒Vの吸収が適切に行われていると推定することができる。仮に、吸収器10における溶液S(希溶液Sw)による冷媒V(蒸発器冷媒蒸気Ve)の吸収が適切に行われていない場合、再生器缶胴37内の濃溶液Saの濃度が上昇して行き、それが凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液面上昇を招くこととなるが、凝縮器内液体Vf、Aの液面がオーバーフロー管50の端部まで上昇すれば、上述のようにオクタノールAが濃溶液Saに混入するので、吸収器10における溶液Sによる冷媒Vの吸収が促進され、再生器缶胴37内の濃溶液Saの濃度低下及び凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液面低下が生じ、吸収ヒートポンプ1は溶液Sの結晶が防止された安定した運転が行われることとなる。
【0035】
以上で説明したように、吸収ヒートポンプ1では、簡便な構成で、濃溶液Saの濃度が所定の濃度に上昇したときにはオーバーフロー管50を流れた冷媒液Vfによって速やかに希釈されると共に、オクタノールAが溶液Sに混合されて吸収能力が増進されて、濃溶液Saの結晶を回避することができる。
【0036】
なお、
図2(A)に示すように、凝縮器缶胴47内のオーバーフロー管50(
図1参照)が、先行流出孔としてのスリット51が形成されたオーバーフロー管50Aで構成されていてもよい。スリット51は、オーバーフロー管50Aの管端から、所定の幅(例えば、オーバーフロー管50Aの軸直角断面における円周長の1/20〜1/15程度)で、所定の深さ51hに形成されている。所定の深さ51hは、吸収ヒートポンプ1内に投入されたオクタノールAの総量の容積を、凝縮器缶胴47の水平投影面積で除した値とするとよい。この深さは、換言すると、投入されたオクタノールAのすべてが凝縮器40に集まったときのオクタノールAの深さに相当する。このようなスリット51の深さにすると、冷媒液Vfがオーバーフロー管50の上端から流入する前に、オクタノールAを少しずつ再生器缶胴37内の濃溶液Saへ混合させて、吸収ヒートポンプ1の能力を円滑に改善させることができ、凝縮器内液体Vf、Aの液位の上昇がさらに続く場合は冷媒液Vfを少しずつ再生器缶胴37内の濃溶液Saに混合させることができる。ここで、溶液Sの結晶を回避するためには濃溶液Saに冷媒液Vfを流入させるのが効果的であるが、濃溶液Saに冷媒液Vfを過度に流入させると濃溶液Saの濃度が低下しすぎてしまい、吸収ヒートポンプ1の効率の低下を招くこととなってしまう。この点、オーバーフロー管50Aのようにスリット51が形成されていることにより、オクタノールAが冷媒液Vfに先行して濃溶液Saに混合されるようにすることで、吸収ヒートポンプ1の効率の低下を抑制しつつ、吸収器10における溶液Sによる冷媒Vの吸収(被加熱媒体Wへの吸収熱の伝達)を促進させることができる。なお、スリット51の深さを決定するに際し、凝縮器缶胴47の水平投影面積が高さによって異なる場合(段違いや錐体状等の場合)は、オーバーフロー管50Aの端部の高さ(所定の液位)における面積とするとよい。
【0037】
また、
図2(B)に示すように、先行流出孔が切り欠き52で形成されたオーバーフロー管50Bで構成されていてもよい。切り欠き52は、オーバーフロー管50Bの端部における幅が最も広く、下方に行くに連れて幅が連続的又は断続的に狭くなる形状となっている。換言すれば、切り欠き52は、下方から上方に行くに連れて幅が広くなるように形成されている。このように構成されていると、再生器缶胴37内の濃溶液Saの濃度が高くなるほど、すなわち凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液位が高くなるほど、切り欠き52を介してオーバーフロー管50Bに流入する凝縮器内液体Vf、Aが多くなる。このため、負荷の大きさに応じた流量の凝縮器内液体Vf、Aを凝縮器缶胴47から再生器缶胴37へ溢流させることができる。なお、切り欠き52の深さは、スリット51(
図2(B)参照)の深さ51hと同じ寸法で形成されていてもよい。
【0038】
また、
図2(C)に示すように、先行流出孔が複数の円形の小孔53が上下方向に配列されて形成されたオーバーフロー管50Cで構成されていてもよい。小孔は、円形に限らず、楕円形、三角形や四角形等を含む多角形であってもよい。また、
図2(C)には同じ開口面積の小孔53が複数配列された形態が示されているが、切り欠き52(
図2(B)参照)と同様の効果を奏するように、下方よりも上方に形成される小孔53ほどの開口面積を大きく形成してもよい。
【0039】
以上の説明では、オーバーフロー堰が、一端が再生器缶胴37の下部側面に接続されて他端が凝縮器缶胴47の底面を貫通して所定の高さまで延びたオーバーフロー管50で構成されているとしたが、再生器缶胴37と凝縮器缶胴47とを区画して所定の高さ(再生器缶胴37内の濃溶液Saの濃度が許容できる上限に達したときの、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体Vf、Aの液面の高さ)を有する区画壁(不図示)で構成されていてもよい。しかしながら、再生器缶胴37内の希溶液散布ノズル32から散布された希溶液Swが凝縮器缶胴47内に侵入するのを防ぐ観点から、区画を高く設置して、オーバーフロー管50を設置することが好ましい。
【0040】
以上の説明では、再生器缶胴37の底面が凝縮器缶胴47の底面よりも低くなるように配設されているとしたが、循環する溶液S及び冷媒Vの流量を調節することにより、再生器缶胴37内の濃溶液Saがオーバーフロー管50を介して凝縮器缶胴47内に逆流することがなければ、再生器缶胴37の底面と凝縮器缶胴47の底面とが同じ高さになるように配設される等、再生器缶胴37の底面を凝縮器缶胴47の底面よりも低くしなくてもよい。
【0041】
以上の説明では、溶液S及び冷媒Vを主とする作動媒体に伝熱促進剤としてのオクタノールAが含まれているとしたが、伝熱促進剤が含まれていなくてもよい。この場合、凝縮器缶胴47内の凝縮器内液体はもっぱら冷媒液Vfとなる。伝熱促進剤が含まれていない場合でも、凝縮器缶胴47内の冷媒液Vfの液面がオーバーフロー管50に流入する液位になると、冷媒液Vfが濃溶液Saに混合されて濃溶液Saが希釈されるため、溶液Sの結晶を回避することができる。
【0042】
以上の説明では、吸収ヒートポンプ1が、吸収器10及び蒸発器20を1つずつ備える単段の吸収ヒートポンプであるとしたが、吸収器10及び蒸発器20を作動温度の異なる2組あるいは3組以上に構成して、2段あるいは3段以上の多段の吸収ヒートポンプとしてもよい。