【実施例】
【0030】
以下、実施例及び実験例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)抗腫瘍作用補助剤(鉄分欠乏食)
本発明の抗腫瘍作用補助剤の一例として、マウス餌(日本クレア製)の組成物から、鉄分を除去したものを作製した(表1参照)。なお、以下の実験例では、マウスに対する抗腫瘍作用を確認したので、本実施例ではマウスの餌から鉄分を除去したもの(鉄分欠乏食)を抗腫瘍作用補助剤としたが、例えばヒトに対する抗腫瘍作用補助剤として適用する場合は、表1に示される組成物に限定されるものではない。
【0032】
【表1】
【0033】
(実験例1−1)抗腫瘍作用補助剤投与後の血液組成
ヌードマウスを8匹用意し、実施例1の鉄分含有食(対照)投与群と鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群の2群に分け、4匹あたり100g×2/週で3週間投与した。各群について、全血組成及び血清鉄の値を測定した結果、ヘモグロビン(Hb)及び血清鉄について有意な低下が認められた(表2)。一方、赤血球、白血球及びヘマトクリットについては、若干の減少を認めたものの、有意な減少とはいえなかった。
【0034】
【表2】
【0035】
(実験例1−2)抗腫瘍作用補助剤投与後の腫瘍増殖抑制効果の確認
ヌードマウスを16匹用意し、鉄分含有食(対照)投与群(8匹)と鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群(8匹)の2群に分け、4匹あたり100g×2/週で3週間投与した。その後、ヒト肺腺癌A549細胞(300万個/マウス)を移植し、皮下腫瘍を作製した。その後、鉄分含有食(対照)と鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)をさらに、42日間投与した。その結果、鉄分欠乏食を投与した場合に、癌細胞増殖の抑制が有意に認められた(
図1)。
【0036】
(実験例1−3)抗腫瘍作用補助剤投与後の癌細胞における免疫組織染色
上記実験例の実験終了時に皮下腫瘍を回収し、間質の違いを解明するために、鉄分及び血管新生のマーカーとなるCD31について確認した。鉄成分検出のために、ベルリンブルー染色を行なった。またCD31検出のために、標識した抗CD31抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いて免疫組織染色を行った。その結果、鉄分含有食(対照)投与群では癌細胞の間質に鉄の成分が認められたが(
図2A)、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群では鉄成分は全く認められなかった(
図2B)。CD31免疫染色では、鉄分含有食(対照)投与群(
図2C)に比較して鉄分欠乏食投与群の癌細胞間質の血管周囲が強く染色され、血管新生の増強が示唆された(
図2D)。
【0037】
(実験例1−4)抗腫瘍作用補助剤投与後の腫瘍内血管新生の確認
上記実験例の実験終了時に皮下腫瘍を回収し、微小血管密度(Micro vessel density)を調べた。その結果、有意に鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群で血管新生の増強が確認された(
図3)。
【0038】
更に回収した皮下腫瘍から核蛋白を抽出し(n=3)、鉄の取り込み機構に係るトランスフェリン受容体1(TFR-1)及び低酸素で誘導されるマーカーであるHIF-1αをウエスタンブロッティング(Western blotting)法にて調べた。抗体は抗HIF-1α抗体(Cell Signaling社)及び抗TFR-1α抗体(Invitrogen社)を用いた。その結果、HIF-1α及びTFR-1は、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群で強く検出され、組織低酸素が起こる事により、血管新生が増強されている事が示唆された(
図4)。
【0039】
(実験例1−5)既存の癌治療剤と抗腫瘍作用補助剤の併用効果の確認
ヌードマウス20匹を用意し、実験例2と同様に、鉄分含有食(対照)投与群と鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群の2群に分け、各々投与した後、ヒト肺腺癌A549細胞(300万個/マウス)を移植し、皮下腫瘍を作製した。その後、それらの2群についてさらに血管新生阻害剤(Bevacizumab:ベバシズマブ)投与群と生理食塩液投与群の2群に分けた。腫瘍体積が約50mm
3となった時点(移植後2日目)から、血管新生阻害剤投与群にはベバシズマブを5mg/kg、週2回、腹腔内投与を行った。その結果、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群では、鉄分含有食(対照)投与群と比較して、有意に癌細胞増殖が抑制され、かつ血管新生阻害剤を併用する事で相加的に高い増殖抑制効果が認められた(
図5)。移植後39日目の各群における腫瘍の大きさを
図2に示した。上記において、ベバシズマブは、血管内皮細胞増殖因子 (VEGF) に対するモノクローナル抗体である。VEGFの働きを阻害することにより、血管新生を抑えたり癌細胞の増殖や転移を抑制する作用を有することが確認された。
【0040】
(実験例1−6)抗腫瘍作用補助剤投与後の腫瘍における組織染色
実験例1−3と同手法により皮下腫瘍を回収し、癌細胞について、各種マーカーについて組織染色又は免疫組織染色を行った。
1)鉄分検出
フェロシアン化カリウムと塩酸で3価の鉄イオンをフェロシアン化鉄(ベルリン青)として検出した。
その結果、鉄分含有食(対照)投与群では癌細胞の間質に鉄の成分が認められたが、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群では鉄成分は全く認められなかった(
図7)。
【0041】
2)細胞増殖マーカーKi-67の検出
Ki-67は細胞の核で発現している蛋白で、細胞周期制御因子のサイクリン(cyclin)やCDK (Cyclin-dependent kinase)とは別に、いわゆる細胞増殖マーカーと称される細胞増殖関連蛋白である。Ki-67検出のために、標識した抗Ki-67抗体(Dako社)を用いて免疫組織化学染色を行った。
その結果、鉄分含有食(対照)投与群では鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群に比較してKi-67陽性細胞が多く認められ、Ki-67陽性率(labeling index)でも有意差が認められた(
図7)。
(鉄分含有食 vs 鉄分欠乏食 = 0.211±0.035 vs 0.133±0.032; p=0.0459).
この事は鉄を欠乏させることで、細胞増殖が抑制されている事を示している。
【0042】
3)低酸素状態の検出
癌細胞内の低酸素状況を、ニトロイミダゾール化合物ピモニダゾール(pimonidazole )を用いて染色を行い、確認した。ピモニダゾールは、低酸素状態の細胞に結合する低酸素マーカーである。
その結果、鉄分含有食(対照)投与群ではピモニダゾールでほとんど染色されないのに対して、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群では多くの部位で強く染色されており、鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群では組織が低酸素状態になっていると考えられた(
図8)。
【0043】
4)血管新生状況の検出
血管新生のマーカーとなるCD31について確認した。CD31検出のために、標識した抗CD31抗体(Santa Cruz Biotechnology社)を用いて免疫組織染色を行った。
その結果、CD31免疫組織染色では、鉄分含有食(対照)投与群(
図2C)に比較して鉄分欠乏食(抗腫瘍作用補助剤)投与群の癌細胞間質の血管周囲が強く染色され、血管新生の増強が示唆された(
図8)。
【0044】
(実施例2)抗腫瘍作用補助剤(鉄キレート剤)
本発明の抗腫瘍作用補助剤の一例として、鉄キレート剤の効果について確認した。鉄キレート剤としてデフェラシロクス(Deferasirox)を用いた。
【0045】
(実験例2−1)鉄キレート剤の効果(in vitro)
ヒト肺腺癌由来細胞(A549)及びヒト非小細胞性肺癌由来細胞(H1299)を培養し、鉄キレート剤の抗腫瘍効果をin vitroにて確認した。各細胞を、24時間10%FCSを含む培養液で培養し、各濃度のデフェラシロクス(NOVARTIS社)を添加し、さらに24時間培養した。その後、細胞生存率、細胞周期における各細胞比率を確認し、さらに核蛋白及び培養上清について、HIF-1α及びVEGFの発現を確認した。
【0046】
上記の結果を
図9〜12に示した。鉄キレート剤投与により細胞増殖抑制効果が確認された(
図9)。鉄キレート剤投与により各細胞においてG1停止(G1 arrest)を起こして細胞周期を止め、細胞増殖が抑制されていることが確認された(
図10)。これにより、鉄キレート剤による細胞増殖抑制のメカニズムが確認された。次に、低酸素で誘導される細胞マーカーとして、HIF-1αの発現をウエスタンブロッティング法により確認した。抗体は、抗HIF-1α抗体(Cell signaling社)を用いた。HIF-1αは実験例1−4と同様に鉄キレート剤の濃度依存的に増加していることが確認された(
図11)。また、VEGFをELISA kit(R&D Systems社)を用いて検出し、HIF-1αによりVEGFが誘導されていることが確認された(
図12)。
【0047】
(実験例2−2)鉄キレート剤の効果(in vivo)
ヌードマウス20匹を用意し、ヒト肺腺癌由来細胞(A549)300万個/マウスを移植し、皮下腫瘍を作製した。移植後7日目より、対照群(生理食塩水投与群)とデフェラシロクス投与群(50mg/kg)の2群に分け、それぞれを週5回連続で投与した。それらの2群についてさらに血管新生阻害剤(Bevacizumab:ベバシズマブ)投与群と生理食塩液投与群の2群に分けた。腫瘍体積が約50mm
3となった時点(移植後7日目)から、血管新生阻害剤投与群にはベバシズマブを5mg/kg、週2回、腹腔内投与を行った。その結果、鉄キレート剤は、癌細胞の増殖抑制作用を有し、更にベバシズマブと併用することで高い増殖抑制効果が認められた。この事は、鉄制限食のみならず鉄キレート剤を用いて体内鉄を減らしても同様にベバシズマブの効果を増強出来ることを示している(
図13)。