(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883025
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】基板上へのシリコンの析出法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/027 20060101AFI20160225BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
C01B33/027
C23C16/24
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-545114(P2013-545114)
(86)(22)【出願日】2011年12月23日
(65)【公表番号】特表2014-501216(P2014-501216A)
(43)【公表日】2014年1月20日
(86)【国際出願番号】EP2011006543
(87)【国際公開番号】WO2012084261
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月12日
(31)【優先権主張番号】102010055564.9
(32)【優先日】2010年12月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513156744
【氏名又は名称】ヨハン ヴォルフガング ゲーテ−ウニヴェルジテート フランクフルト
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】フート、ミヒァエル
(72)【発明者】
【氏名】テルフォルト、アンドレアス
【審査官】
田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−308910(JP,A)
【文献】
特表2010−512669(JP,A)
【文献】
特開平06−191821(JP,A)
【文献】
特開2000−232047(JP,A)
【文献】
特開平11−349321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子の集束ビームを利用して基板上にシリコンを析出させる方法であって、
シリコンを含有する前駆体を供給すると共に、この前駆体に作用する前記ビームを発生し、
前記基板のすぐ近くで前記ビームにより前記前駆体の分解を引き起こすことによって、前記基板上にシリコンを析出させることを含み、
前記前駆体として、ネオペンタシラン、直鎖状ペンタシラン及び直鎖状ヘキサシランからなる群から選択されるポリシランを使用する、方法。
【請求項2】
前記前駆体としてネオペンタシランを使用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記荷電粒子が電子である請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記荷電粒子がイオンである請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記基板上で前記ビームの走査を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ビームを走査型電子顕微鏡により発生して走査を行う請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記前駆体をガス注入システムによって供給する請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
室温で実施する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子の集束粒子線を利用した、基板上でシリコンを析出させる方法に関する。本方法ではシリコンを含有した前駆体が用意され、この前駆体が基板のごく近傍で粒子線により分解される。本発明はこれに対応した装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
例えば或る基板(二酸化ケイ素、金など)上にシリコンを析出させるコーティング法が多くのマイクロエレクトロニクス分野およびその関連分野で利用されており、また、その応用研究や基礎研究でも利用されている。基板上に(ダイアモンド層、シリコン含有層、酸化錫層)などの物質を析出させるための様々な方法が知られている。例えば、化学的な気相蒸着法(CVD:化学気相蒸着法)あるいは電子ビームを使用した気相蒸着法(EB−CVD:電子ビーム化学気相蒸着法)である。後者は文献ではEBID法(電子ビーム誘起蒸着法)、あるいは、イオンビームを使用する場合にはIBID法(イオンビーム誘起蒸着法、あるいはIB−CVD)とも呼ばれている。さらに、集束粒子線を利用した方法は一般にFPBID(集束粒子線誘起蒸着法)と呼ばれている。
【0003】
化学気相蒸着では基板は、通常は数百℃に加熱される。次いで、気相の化学反応により1つあるいは複数の反応物質から複数の固体成分が析出され、これらが基板上に堆積する。
【0004】
電子ビームによる気相蒸着では、前駆体が基板のすぐ近くに、すなわち、実質的には基板の表面に置かれ、集束電子ビームによりこの前駆体から固体成分、例えばシリコンが析出される。このような方法はイオンビームでも実施することができ、このイオンビームは例えば微細イオンビーム発生装置で発生することができる。
【0005】
上述した両方法により、基板の表面を2次元構造にも3次元構造にもコーティングすることができる。
【0006】
非特許文献1により、基板上にシリコンを析出するための電子ビーム気相蒸着法が知られており、ここではシリコンを含有した前駆体としてジクロールシラン(SiH
2Cl
2)が使用されている。著者の発表によれば、析出物には1.9原子%の塩素が含まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】"Si deposition by electron beam induced surface reaction",著者:S. MatsuiおよびM.Mito,Appl.Phys.誌,レター,53(16),17 October 1988
【0008】
塩素を含有した前駆体、特にSiH
2Cl
2を使用すると、意図しないが通常避けることができない堆積物中の塩素原子の含有により、この堆積物の電気特性が悪くなるという欠点を生じる。さらに、塩素原子が真空チャンバー内の残余ガス中の水分と結合して例えばHClを生成し、基板に好ましくない腐食作用を及ぼすことがあり、このことにより基板が損傷する。また、遊離塩素の反応性によって、蒸着装置自体が損傷することになる(腐食)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、特に効率的で、材料を傷めずに、且つ、精密な方法で基板上にシリコンを直接析出させる方法を提供することにある。また、これに適した装置を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
方法に関する課題は、本発明により、前駆体としてポリシランを使用することで解決される。
【0011】
本発明の好ましい態様が下位の請求項に記載されている。
【0012】
本発明は、基板上のシリコン含有堆積物の特性が、最近の利用においてより高い諸要求を満たさねばならないという考察に基づいている。これらの要求事項とは、堆積物の特に電気伝導度、パターン寸法、および、純度である。また、この基板は析出過程中に損傷を受けたり、汚染されてはならない。
【0013】
これらの要求事項を満足するためには、シリコンを、特にリソグラフィーによるマスク技術を使用せずに、基板上に直接析出させることが必要である。このためにシリコンは、前駆体の粒子線誘起分解により、できるだけ直接析出によって基板上に堆積されるべきである。さらに、シリコン堆積物のできるだけ高い品質を保証するためには、適切な前駆体を使用すべきである。この前駆体は可能な限り塩素を含まないものにすべきである。塩素の強い腐食性により堆積物と基板を損傷するからである。
【0014】
シリコンを含有するポリシラン類の前駆体、またはポリシランを含む前駆体を使用することにより、精密で、高純度で、且つ、材料を損傷しないシリコン析出が達成できることを見出した。ポリシラン類は塩素を含まないので、塩素による基板および堆積物への損傷作用を避けることができる。さらに、ポリシランは、集束荷電粒子線により精密に分解する化学的な構造を有しているので、シリコンの精密な堆積が可能となる。基板表面に吸着された前駆体の分子は様々な非弾性プロセスにより(例えば、解離電子付着)、複数の残留成分と複数の揮発成分とに分解される。これらの残留成分がシリコン堆積物を形成する。
【0015】
本方法の好ましい一態様では、前駆体としてネオペンタシラン(Si
5H
12)が使用される。ネオペンタシランは塩素を含まないので、塩素を含有する前駆体を使用する場合に生じる塩素の強い腐食作用を完全に除外することができ、室温において、集束粒子線による蒸着法に有利な蒸気圧、好ましくは0.1〜100mbar、を有する。
【0016】
前駆体として有利に使用可能な別のポリシランは、n=7までの環状シラン、分岐状シランおよび直鎖状シラン(Si
nH
m)、例えば直鎖状ペンタシラン(Si
5H
12)および直鎖状ヘキサシラン(Si
6H
14)である。これらのポリシランも塩素を含まず、室温で液体であり、EBID/BID法に有利な室温での蒸気圧を有している。
【0017】
特に精密な堆積、あるいは、特に基板に対して横方向の高い空間的解像度を備えた堆積を電子ビームを使用することにより得ることができる。この方法の代案として、イオン、例えばGa
+イオンのイオンビームがある。この種のイオンビームの使用は通常は堆積物のドーピングをもたらす。
【0018】
パターン設計に基づき基板上に局部的な堆積物を被着するために、粒子線を堆積物に亘って走査すると有利である。基板表面を、あるいは既に被着された堆積物を、粒子線で走査する、あるいは好ましくは繰り返し走査する、ことにより、堆積物に予め決められた2次元あるいは3次元のパターンを付けることができる。
【0019】
電子ビームを使用する場合には、上記の走査を走査型電子顕微鏡(SEM)を利用して行うのが有利である。走査型電子顕微鏡も電子ビームを発生する。この場合には、本方法による横方向の解像度は使用される走査型電子顕微鏡の解像度により決まる。しかし、この場合、ビーム焦点の周辺の基板表面からの2次電子の放出領域を考慮しなければならない。高解像度を有する電子顕微鏡を使用し、5〜15keVで電流が約100pAという典型的なビームエネルギーで、10〜20nmあるいはそれより小さい最小パターン幅が得られる。集束イオンビームを使用する場合には、この走査を走査型イオン顕微鏡で行うのが好ましい。この場合には約30nmのパターン寸法が得られる。
【0020】
基板表面の前駆体の準備あるいは供給は、ガス注入システムで行うのが好ましく、このシステムによれば、基板表面で堆積物が配置されるべき場所に、すなわち通常は電子ビームまたはイオンビームの焦点位置に、前駆体を目標に合わせて供給することができる。
【0021】
本方法は室温で実施するのが好ましい。ネオペンタシランおよび上述した他のポリシランの室温での蒸気圧は、FPBIDプロセスに有利な範囲内にある。したがって、シリコンの析出は室温において問題なく成功する。さらに、基板や前駆体の加熱は不要である。
【0022】
ここに示した方法をリソグラフィー工程で使用されるマスクの補修に使用すると有利である。EUVマスク(EUV=極端紫外線)は電磁ビームにより、遠紫外線、極端紫外線、さらには波長が13.5nmのX線で作成される。市販のマスク基板の透過性が非常に低いので、反射を利用した高コストのビーム加工が必要である。個々の材料層のこの波長における低い反射率を補償するために、ブラッグ干渉ミラーとして機能する多重層あるいは多層の系が使用される。この場合、従来技術では、Mo層とSi層のペアが40〜50回繰返し使用されている。
【0023】
これに関する大きな問題は、無欠陥で大面積のマスクパターンの製造である。これらの欠陥は、例えば空気中の粒子、操作器具の磨耗粉塵、あるいはマスク表面での結晶生成による汚染によって、生じる。限界的な欠陥サイズは30nm未満であり、したがって、高解像度を備えた補正手段でしか対処できない。そこで、高解像度を有するSi/Mo・SI・EBIDプロセスを、使用済マスクの補修だけでなく、製作されたマスクの品質管理と修整に使用すると有利である。波長領域が193nmで光源にArFエキシマレーザーを使用した従来のリソグラフィーにおけるクローム基マスクの補修が、クローム基パターンのEBIDと電子ビーム誘起の反応性エッチングとを利用して商業的に行われており、これは例えば、Carl Zeiss SMT AG社が取得したNaWoTec GmbH社により行われている。
【0024】
上述した方法をさらに、電気回路の編成に使用すると有利である。本方法はさらに、応用研究および基礎研究の多くの分野にも適用可能である。
【0025】
装置に関する前述の課題は、本発明により、前駆体としてポリシランを使用することにより解決される。本装置の好ましい代案では、前駆体としてネオペンタシランが使用される。粒子線照射装置として走査型電子顕微鏡を用いると有利である。
【0026】
本発明により得られる利点は特に、EBID/IBID法においてポリシラン類から選んだシリコン含有前駆体を利用することにより、高精度、高解像度で汚染の少ないシリコンの直接析出が可能となることにある。特に、室温で液体であり、且つ、EBID/IBID法に有利な蒸気圧を有するネオペンタシランを前駆体として使用すると、塩素を含まない高純度のシリコンを堆積することができる。基板上にわたって粒子線を案内し(走査または連続的に)、これを繰返し行うことにより、2次元および3次元の堆積物を精密に生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】基板上にシリコンを析出する装置であり、ポリシラン類から選んだ前駆体を使用し、有利な一実施形態の粒子線照射装置とガス注入システムとを備えている。
【
図2】金属の接触部パターン間に堆積させたSi堆積物の3つの例。
【
図3】
図1の装置で作られた典型的な堆積物の電気伝導度の温度依存性。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施する形態につき、図面に基づき詳しく説明する。当該図面はかなりの程度模式化して示したものである。全ての図面において同一部分には同一符号が付けられている。
【0029】
図1に示された装置2は、シリコンを直接析出するためのものであり、電子のビーム14を発生する粒子線照射装置8を有する。この実施形態において粒子線照射装置8は、走査型電子顕微鏡として構成されている。ガス注入システム16により前駆体20が基板32の表面26の領域18に供給または用意され、この領域にシリコンを堆積させる。シリコンを含有する前駆体20は、ビーム14とこのビームに起因する2次プロセスとによって基板32の表面26で分解される。ここで一般的に、この前駆体から揮発性成分と固体成分とが発生する。この固体成分が堆積物38である。できるだけ良好な電気伝導度を有するためには、この堆積物は、できるだけ多いシリコン成分を含有するべきである。表面26にわたり、あるいは既に存在している堆積物38上にわたって、ビーム14を案内し、これを繰返し移動することによって、所望のパターンが析出し、3次元パターンも可能である。
【0030】
この実施形態では、前駆体としてネオペンタシラン(Si
5H
12)が使用される。ネオペンタシランは炭素を含まないシリコン前駆体20であり、大気条件下では液体である。この前駆体の分解に際して、固相のシリコンと揮発性の水素含有相とが発生し、固相シリコンが基板32上に堆積する。ネオペンタシランの室温での蒸気圧はFPBIDプロセスに有利な範囲内にある。これにより少なくとも0.01μm
3/minの成長率が得られる。この数値と比べると、気体である前駆体SiH
2Cl
2は非常に大きな蒸気圧を有しているので、その粘着係数は非常に小さく、かつ、これに相応して成長率はネオペンタシラン使用時よりも著しく小さいことが推測される。
【0031】
装置2で作られる典型的な堆積物は、少なくとも87原子%(at%)のシリコンと、5〜7原子%の炭素(C)および酸素(O)成分とからなる。これは、例えばエネルギー分散X線解析(EDX)を使用して検証できる。前述した汚染は、上述したシリコン析出工程中での電子顕微鏡の真空中の残余ガスの組成の結果である。これらの汚染は真空の改良により大幅に、完全なまでに除去することができる。
【0032】
さらに、本発明による装置とこれに対応する方法とにより、シリコンを(適度に)加熱した(<100℃)基板上で析出させることも可能である。
【0033】
図2には、光学顕微鏡的な表示で様々な接触部パターン50,52,54,56,58,60が示されており、接触部パターン50,52の間および接触部パターン56,58の間に、それぞれシリコン堆積物38が代表例として作られている。接触部パターン50,52の間隔および接触部パターン56,58の間隔は、それぞれ20μmである。
【0034】
図1の装置で作られた典型的な堆積物38の電気伝導度の温度依存性が
図3に示されている。X座標80には1000倍した逆温度T
‐1が単位K
‐1で、Y座標86には電気抵抗Rが単位オーム(Ω)で、示されている。曲線92はアモルファスシリコン特有の挙動を示している。電荷の移送には特にシリコンの導電帯下部の局部状態が寄与しており、この現象はトラップ制御キャリア分布(trap-controlled carrier contribution)とも呼ばれる。これは現象学的には活性化エネルギー分布によりモデル化することができる。ネオペンタシラン前駆体20には水素成分が多いので、結合されていないSi結合手は広範囲に水素で飽和している(a‐Si:H)。a‐Si:Hの長時間安定性については、炭素の添加が有効に作用することが知られている。しかし、これは荷電体の移動度に対しては不利に作用する。
【符号の説明】
【0035】
2 装置
8 粒子線照射装置
14 ビーム
16 ガス注入システム
20 前駆体
26 表面
32 基板
38 堆積物
50 接触部パターン
52 接触部パターン
54 接触部パターン
56 接触部パターン
58 接触部パターン
60 接触部パターン
80 X座標
86 Y座標
92 曲線