【実施例】
【0053】
実施例1
本実施例は、未処置ラットとの比較における、頚部脊髄損傷ラットのグリッドウォーク/水平はしごを渡る能力に関する、本発明のデコリン処置効果を実証するものである。
【0054】
ヒトデコリンコア蛋白質のGALACORIN
TMが、頚部脊髄損傷を伴った成体ラットへの遅延(亜急性)治療プロトコルにおいて試験された。実験的脊髄損傷の生成は、スプラーグドーリーラット(3ヶ月メス)の脊髄の頚部(脊椎レベルC4−C5;右片側挫傷;先端径1.7mm;75kdyne force;変位1.1mm)レベルにやや重度の片側打撲性損傷を発生させるべく、コンピュータ制御の無限水平(IH)衝突体装置(Precision Systems and Instrumentation,LLC)を使用した。脊髄損傷後12日間の時点で開始し、脊髄損傷ラット(n=9)は、脊髄または脳の中枢神経系組織に直接ではなく、脳脊髄液(CSF)に対してGALACORIN
TMを注入するという新規の処置パラダイムを使用してGALACORIN
TMで処置を施した(
図2)。GALACORIN
TMのCSF供給を達成するため、小径カニューレが、頭蓋骨の後頭骨にドリルで開けられた小さな穿頭孔を介してラットの大槽に外科的に埋め込まれた(
図1および2)。CSFの総質量の約20%(0.1ml)が除去され、5mg/mlの濃度でGALACORIN
TMを含有する(つまり、1mgのGALACORIN
TM)リン酸緩衝液(PBS)媒体に置換された。その後、カニューレは、歯科用セメントを使用して頭蓋骨に固定され、一日0.1mgのGALACORIN
TMを継続的に8日間髄腔内へ供給すべく、5mg/mlの濃度でGALACORIN
TMを含有する生理食塩水とともに予め組み込んだアルゼット浸透圧ポンプに取り付けられた。したがって総量1.43mgのGALACORIN
TMが8日間の注入期間に亘って投与された。未処置脊髄損傷ラットのコントロールグループは、大槽にカニューレのみを施されたもの(コントロールグループ1:n=9匹のラット)またはカニューレを大槽に施され、さらにPBSを注入されたもの(コントロールグループ2:n=7匹のラット)から成る。
【0055】
外科手術に引き続き、GALACORIN
TM処置済ラットおよび未処置ラットの双方は6週間に亘る神経学的挙動試験を受けた。グリッドウォークまたは水平はしご試験は、脊髄損傷齧歯動物における随意足配置自発運動回復の厳しい試験として幅広く認識されており、ラットが1mの長さのはしごを3度通過し、失敗(落下)の平均数を記録する。グリッドウォークの神経学的機能回復についての結果(
図3および表1)は、未処置脊髄損傷動物のいずれのコントロールグループと比較しても、GALACORIN
TM処置済動物によってなされた誤り(失敗)回数のロバストな減少を明らかに実証している。損傷後12日でGALACORIN
TM処置開始後、6週後の終了時点において、GALACORIN
TM処置済ラットは、カニューレのみを大槽に受けた未処置コントロール脊髄損傷ラット(コントロールグループ1)または同一の方法でPBS媒体のみを注入された未処置コントロール脊髄損傷ラット(コントロールグループ2)によって達成されたスコアと比較すると、失敗回数に61%ものロバストな減少を示している。
【0056】
【表1】
【0057】
Alexa−488で標識されたGALACORIN
TMを大槽へ直ちに注入する前の、同一の挫傷性脊髄損傷を受けた4匹のラットの試験セットの組織学的分析により、このように投与した GALACORIN
TMが、周辺の髄膜(硬膜およびくも膜)に加え損傷脊髄組織と、末梢神経根(後根および前根)との双方に偏在することが示された。本分析において右片側C4挫傷は、大槽にAlexa−488で標識されたGALACORIN
TMを直ちに注入した成体の3ヶ月メスラット(n=4)に対して、無限水平衝突体で施された。組織学的分析は、注入後18時間で実施された。分析された組織学的画像は、C5脊髄レベル(損傷部位のすぐ尾方)における断面図である。
【0058】
実施例2
本実施例は、デコリン未処置(コントロール)脊髄損傷ラットと比較した、デコリン処置済脊髄損傷ラットの自発運動回復のキャットウォーク分析である。ビオチン化デキストランアミン(BDA)標識の脊髄組織を備えた処置済動物および未処置動物の比較も実施された。自動定量的歩行分析は、キャットウォークXTシステム(バージョン8.1、Noldus Information Technology、米国バージニア州リーズバーグ)を使用してすべての実験グループに対して実施された。キャットウォークシステムは、以前にかなりの詳細に亘って開示されている(F.P.Hamers他、脊髄損傷査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。(J.Neurotrauma23、537〜548(2006))。システムハードウェアは、半透明の照明ガラスウォークウェイからなり、その下方ではビデオカメラ(Fujinon Corporation、日本)が、ラットがウォークウェイを渡る際の足跡を記録する。キャットウォークデータの取得および分析は、処置グループとの区別がつかない個体により実施された。適合であると思われる3回のランが、各時点における各動物に対して、決定された各パラメータに対する平均値を求めるために収集された。適合性は、ウォークウェイを渡る総所要時間および歩行速度の偏差に基づいて決定された。最短ラン長は2秒であり、最長ラン長は12秒であり、歩行速度の最大偏差は60%であった。カメラは、ウォークウェイの長さが70cmと測定されるように位置づけられた。すべてのグループに属する動物は、損傷直前、損傷後12日における治療直前、および損傷後5週間の時点で試験された。以下のパラメータが分析された。足跡面積、最大接触における足跡面積、足跡強度、スタンスに対する最大接触、および最大接触における最高強度。すべてのグループからの適合的ランのビデオファイルは、個々の足跡およびおよび歩行パターンを識別するため、キャットウォークXT8.1を使用して処理された。指使用を除外したすべてのパラメータは、キャットウォークソフトウェアによって決定された。指使用は、同ソフトウェアによって定義された最大接触の地点における足跡画像を取得することにより、決定された。各体肢に対する最大接触での足跡画像は連続的かつランダムに選択され、全四肢について合計6つの足跡がランダムに選択されるように適合的ランごとに2つの足跡が選択された。このランダムな選択は、3回の査定時点において、すべての動物から収集された足跡画像において実施された。最大接触における足跡画像は、キャットウォークXT8.1の3D足跡可視化特性を使用して生成された。そして各足跡画像に対する指跡は、区別がつかない状態で計数された。そして足跡および歩行に係る静的および動的なパラメータの測定は、Microsoft ExcelおよびSigmaStatソフトウェアを使用して実施する統計的分析に移された。
【0059】
キャットウォークの自発運動動作スコアの回復率計算
グリッドウォークおよびキャットウォークの結果に対して回復率を推定するために、損傷前、処置前、損傷後5週間の時点で測定した各実験グループの平均スコアを使用した。これらの平均値より、回復率(回復%)は以下のように計算した。
【0060】
回復%=(X
Post Inj−X
Pre Tx)/(X
Pre Inj−X
Pre Tx)×100%
ここにおいてX
Pre Injは、損傷前における挙動パラメータの平均スコアを表し、X
Pre Txは、処置直前におけるパラメータの平均スコアを表し、X
Post Injは、損傷後特定時間経過後におけるパラメータの平均スコアを表す。
【0061】
前肢皮質脊髄路(CST)の順行性ビオチン化デキストランアミン(BDA)追跡
安楽死前2週間の時点において、すべての動物グループは麻酔され、前肢CST追跡のための定位固定装置(Kopf)に載置された。頭蓋骨の露出に続き、外科手術用ドリルを使用して4つの穿頭孔が設けられ、PBS中のビオチン化デキストランアミン(BDA10,000MW、Invitrogen、米国カリフォルニア州カールスバッド)の10%溶液を0.5μlずつ4回、左前肢感覚運動皮質(定位座標:ブレグマ前方の1.0mmおよび2.0mm、ブレグマ側方の2.5mmおよび3.5mm、および皮質表面からの深さ1.6mm)へ圧力注入した。
【0062】
注入は、緻密に引き抜かれるガラス毛管によりなされ、ガラス毛管は供給後2分間、同位置に保持された。BDA注入に引き続き、動物には縫合が施され、回復を促された。脊髄組織の組織学的断面図におけるBDA標識軸索の可視化は、標準的な免疫組織化学手法によって実施された(Davies J.E.他、グリア調整前駆体由来の星状膠細胞は、脊髄回復を促進する。Journal of Biology5:7(2006)参照のこと)。脊髄セクションは、Axio Visionソフトウェアを使用して、Zeiss Observer Zl顕微鏡により観察され、撮像された。
【0063】
脊髄灰白質におけるCST/BDAおよびシナプシン−1の密度分析
ImageJソフトウェアを使用し、BDA標識CST軸索およびシナプシン−1の密度の閾値を求め、測定した。CST密度は、C5脊髄レベルの後角灰白質において測定された。連続した6つのセクションごとに、約400μmの組織によって測定された。シナプシン−1の密度は、同様に、薄層IXのニューロンプール周辺の前角における損傷空間(C6)下方で測定された。
【0064】
キャットウォーク分析はデコリンの髄腔内注入により外傷性脊髄損傷後の自発運動機能および指使用のロバストな回復を促進することを示す
グリッドウォーク分析に加え、実験グループの自発運動機能の回復も、損傷後5週間/処置後3週間の時点でキャットウォーク歩行分析を使用して査定された。Gensel他(ラットにおける片側頚部脊髄挫傷の挙動および組織学的特性評価、J.Neurotrauma23、36〜54(2006))において既に報告されているとおり、片側頚部挫傷後、足跡位置、支持基底、ストライド長、または足取りパターンの変化等、損傷後の同側における体肢に関する動的パラメータに著しい変化はなかった。しかしながら、損傷前の値と比較して統計的に著しい変化が、処置前/損傷後12日の時点において、足跡面積、足跡強度、最大接触おける足跡面積、スタンスに対する最大接触、および最大接触における最高強度等の種々の足特定パラメータについて見出された(
図4A−4H)。
【0065】
平均足跡面積
足跡面積は、足がガラスプレートに接触している時間すべてに亘る完全な足跡の表面積として定義され、足跡面積を決定するインクパッド法と比較が可能である(F.P.Hamers他、脊髄損傷査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。J.Neurotrauma23、537〜548(2006))。すべての実験動物に対する足跡面積分析により、損傷前および処置前のすべての個別ラットの右(同側)前肢および後肢の平均足跡面積と比較可能な損傷前基準値が明らかになった。C4/C5脊髄レベルの片側挫傷は、すべての実験ラットの損傷部位と同側の前肢および後肢に対する平均足跡面積を著しく減じる結果となった。損傷後12日時点の脊髄損傷ラットへのデコリン処置は、生理食塩水およびカテーテルのみの未処置脊髄損傷ラットと比較して、損傷後5週間時点の前肢および同側後肢の双方に対する平均足跡面積において、統計的に著しく回復する結果となった。
【0066】
平均足跡面積の回復上昇率は、損傷前基準値から処置前平均足跡面積値を引き、増加をその差の百分率として表すことで決定された。処置前の値と比較すると、デコリン処置済SCIラットは、右側前肢の平均足跡面積において37.36%の回復を示し(
図4B)、右側後肢の平均足跡面積において79.23%の回復を示した(
図4E)。これはすなわち、損傷前の基準値にほぼ回復したということである。生理食塩水で処置された動物は、前肢の平均足跡領域では比較的穏やかな26.08%の回復を示したものの、処置前の値と比較すると、損傷後5週間の時点で後肢の平均足跡面積はさらに13.3%の減少を示した(
図4Bおよび4E)。カテーテルのみ施されて注入の行われなかった脊髄損傷ラットは、前肢の平均足跡面積において損傷後5週間の時点で9.45%の回復程度を示したものの、後肢の足跡面積において38.67%の急落を示している。これはすなわち、損傷後12日の処置前の時点と比較して、足の機能をさらに消失したことになる(
図4Bおよび4E)。
【0067】
最大接触における足跡面積
移動運動の間、各足は、足のガラスランウェイに対する接触が立脚相から遊脚相へと進行する際に発生する最大接触の足跡面積を生成する(Noldus Catwalk XT 8.1ユーザマニュアル:(F.P.Hamers他、脊髄損傷の査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。J.Neurotrauma23、537〜548(2006)))。各処置グループは、統計的に異ならない同側前肢および後肢双方の最大接触における足跡面積の損傷前基準値を有する。損傷後12日/処置前の時点で、すべての処置グループは、基準値と比較して、同側右前肢および後肢の最大接触における足跡面積において著しい減少を示した。損傷後5週間の時点で、デコリン処置済SCIラットは、同側右前肢および後肢の平均最大接触面積において著しい回復を示し、同側前肢および後肢の最大接触足跡領域は各々、35.92%および88.82%の回復に及んだ。しかしながら、損傷後5週間の時点で、生理食塩水で処置された動物は、右側前肢の平均最大接触面積において比較的低い29.15%の回復を示し、右側後肢の平均最大接触面積において16.49%の減少を示した。未処置のコントロールSCI動物は、食塩水処置済ラットと比較すると、右側前肢の平均最大接触面積においてより低い14.34%の回復を示し、損傷後5週間/処置後3週間の時点で処置前の値と比較すると、平均最大接触面積においてより大きな43.35%の減少を示した(
図4Cおよび4F)。
【0068】
平均足跡強度
足跡強度値は、足がガラスプレートに接触する際に加えられる圧力と正比例する(F.P.Hamers他、脊髄損傷査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。J.Neurotrauma23、537〜548(2006))。SCIは、処置グループを超えて、右前肢および後肢の平均足跡強度において著しく一貫して不足する結果となった。損傷後5週間の時点で、デコリン処置済動物は、右側前肢の平均足跡強度において統計的に顕著な10.84%の回復を示し、右側後肢の平均足跡強度において89.28%の回復を示した。しかしながら生理食塩水処置済動物は、右側前肢の平均足跡強度において41.16%の消失を示し、右側後肢の平均足跡強度において6.53%の消失を示した。未処置SCIコントロールは、右側前肢の平均足跡強度において58.87%の消失を示し、右側後肢の平均足跡強度において12.48%の消失を示した(
図4Aおよび4D)。
【0069】
スタンス率における最大接触
本明細書において規定されるこのパラメータは、足が立脚相を遊客相と区別する最大接触ポイント(百分率による最大接触として知られている:Noldus manual)においてガラスランウェイと接触している期間である(「スタンス」と称する)。各足が立脚および遊脚双方のために使用される際、前足および後足は、各スタンスごとに異なって利用される。前肢は主に立脚のために使用され、後肢は主として遊脚のために使用される(Webb,A.A.,他、頚部または胸部脊髄を片側切断したラットの代償自発運動調整。J.Neurotrauma19,239〜256(2002);Webb,A.A.,他、片側後柱および赤核脊髄路の負傷は、無拘束ラットの地上自発運動へ影響する。Eur.J.Neurosci.18、412〜422(2003))。そこで後肢は、遊脚するためのスタンス(ガラスとの接触継続)率がより高いため、足跡面積はスタンスの早い段階で最大接触に達する。キャットウォークでは、後肢が最大接触に達した際のスタンス率である、このパラメータを測定する。したがって後肢は、自発運動に際して遊脚の役割を担うため、損傷に先立ち、前肢と比較してより低いスタンス率で最大接触に達する。
【0070】
我々の頚部挫傷モデルは、機能的欠損という結果となり、右側後肢は、全動物の損傷前基礎値と比較すると、著しく高いスタンス率(百分率による最大接触)で最大接触に到達した。損傷後5週間の時点で、デコリン処置済動物は、右側後足の百分率による最大接触の著しい減少を示し、これは同体肢による遊脚の56.38%の回復に対応する(
図4H)。生理食塩水処置済動物は、百分率による最大接触について最も少ない減少を示し(17.46%の改善)、未処置SCIコントロールは、損傷後5週間の時点で機能消失を継続的に示した(5.52%の機能消失)。したがって、デコリン処置は、動物の損傷側後肢使用における立脚および遊脚の正常区別への回復を促進し、最終的に自発運動の際の後肢による遊脚を改善することができる(
図4H)。[
図4Hのタイトルは「平均値における右側後肢の最大接触]でなく「百分率による右側後肢の最大接触」と読むべきであることに留意する。お持ちのExcelファイルで訂正されたい。]
最大接触最大強度
最大接触地点における最大強度は、立脚相と遊脚相との境界においてガラスプレートに加えられた圧力および重力支持の測定値である(Noldus Catwalk manual:(F.P.Hamers他、脊髄損傷査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。J.Neurotrauma23、537〜548(2006)))。我々の頚部挫傷モデルは、基準値と比較すると、このパラメータにおいて統計的に著しい減少を起こし、立脚相および遊脚相の変遷中、機能不全を示した。デコリン処置済SCIラットは、損傷後5週間で右側後肢におけるこのパラメータで63.51%の回復を示し、生理食塩水処置済動物は、17.81%の回復というさらに低い値を示し、未処置コントロールは損傷後5週間で37.02%というより大きな消失を示した(
図4G)。
【0071】
最大接触における指
Hamers他(脊髄損傷査定におけるキャットウォーク補助歩行分析。J.Neurotrauma23、537〜548(2006))は以前に、最大接触地点において、正常な非損傷ラットの後足では、ほぼすべての足指がガラスプレートに接触していることを示した。我々の研究はこれを確認し、また非損傷ラットの前足がガラスプレートとの最大接触に達する際、すべての指(可能性のある4本の指のうち3.89±0.04)も同様にこの地点でガラスに接触することを示した。我々の研究において、後足に関しては、非損傷動物は最大接触において5本の指のうち平均3.75±0.11を示した(表2)。我々の頚部挫傷モデルは、損傷後12日/処置前の時点で、損傷と同側の前足(1.95±0.12本の指)および後足(1.26±0.14本の指)の双方にて、最大接触における平均指跡数が著しく減少する結果となった。デコリン処置済SCIラットは、損傷後5週間の時点で前足については3.76±0.58本の平均指跡、後足については3.88±0.69本の指跡という顕著な回復を示した。生理食塩水処置済ラットは、前足については2.58±0.47本の指跡、後足については1.37±0.78本の指跡となり、最大接触における指跡数の回復はより少ないものとなった。未処置コントロールは、前足については平均2.19±0.60本、後足については0.96±0.68本となり、最大接触における指跡数はさらに少ないものとなった。
【0072】
表2に示す通り、キャットウォーク分析は、デコリンの髄腔内注入により脊髄損傷ラットにおける足指使用の回復を促進することを示した。デコリン処置済脊髄損傷ラットは、最大接触において、損傷前の足跡と非常に類似した指接触数の足跡を示しており、反対に未処置脊髄損傷コントロールラットは、処置前スコアと比較すると、脊髄損傷後5週間時点で指使用の回復を示さなかった。
【0073】
【表2】
【0074】
実施例3
本実施例は、グリッドウォーク分析における脊髄損傷ラットの動作に対する、損傷後異なる時点(時間=0日、12日、1ヶ月)における本発明に係るデコリン投与の効果を説明するものである。
【0075】
C4/C5頚部脊髄レベルに片側挫傷を負った成体ラットの大槽へデコリンを髄腔内注入することによる効果を分析した。本分析は、実験グループ毎に相当数の動物を使用し、脊髄損傷後12日の時点におけるデコリン注入によって得られた結果を前述したものと同一の注入、外科的、およびグリッドウォーク/水平はしご挙動試験プロトコルを使用し、損傷直後または損傷後1ヶ月のいずれかで開始された。
図5に示す通り、大槽にカニューレのみを施されてデコリン注入が行われなかった未処置コントロール脊髄損傷ラットと比較すると、デコリン処置済ラットのすべてにおいて、水平はしごを渡る際の踏み誤り回数にロバストな減少が見られた。
図5に示す動作スコアは、損傷後急性的(損傷直後)に、12日後(12d)に、および1ヶ月(1mo)の慢性的時点において開始された髄腔内デコリン注入の処置を受けた頚部挫傷脊髄損傷ラットに関する、損傷後8週間の時点における動作スコア(踏み誤り)を表す。
【0076】
実施例4
本実施例は、損傷部位の近傍および下方における灰白質内のCST側枝密度の増加に対する、デコリン処置の効果を説明するものである。
【0077】
以前の研究は、後柱CST白質を温存するにも関わらず、C4〜C5レベルの片側頚部挫傷後に前肢機能が著しく消失することを示し、頚部レベルにおけるCSTの側枝発芽は、脊髄損傷後の自発運動回復と相互関連することが示されてきた(Schucht,P.他、ラット脊髄の背面および全面病変に引き続く自発運動回復の解剖学的相関。Exp.Neurol.176、143〜153(2002))。本実施例では、損傷部位の尾方にある生存灰白質内のCST軸索側枝可塑性を促進するデコリン髄腔内注入の能力を評価する。デコリン処置済および未処置SCIラットにおいて、ビオチン化デキストランアミン(BDA)が左半球感覚運動皮質の前肢領域に注入され、頚部脊髄の右側CSTにおける薄層Vの上部運動ニューロンの軸索および側枝が追跡された。損傷箇所の上方、近傍、および下方の未処置脊髄に対するデコリンについての灰白質の連続断面組織学的分析により、薄層1〜5の背内側灰白質(
図6)、すなわち感覚運動機能を支持するものとして知られるCST末端部においてBDA+CST側枝密度の最も顕著な変化が見られることが分かった。前肢CST軸索の側枝は、未処置コントロールと比較すると、損傷部位尾方にある薄層1〜5の背内側灰白質において広域な分岐および樹枝状分岐が示された。定量的連続断面分析は、デコリン処置により、薄層1〜5の背内側灰白質におけるBDA標識CST軸索の密度が未処置脊髄において観察された密度に対して2.8倍増加促進されたことを実証した(
図6)。
【0078】
実施例5
本実施例は、前面灰白質運動ニューロンプールにおけるシナプス可塑性を促進するデコリン髄腔内注入の能力を説明するものである。
【0079】
デコリン処置済および未処置コントロールの負傷脊髄の灰白質におけるシナプス可塑性を分析し、シナプシン−1と、活性シナプス内に見出され、シナプス成熟、長期に亘るシナプス維持および伝達における役割を果たすものとして知られる前シナプス蛋白質に着目した(Lu,B.、シナプシンIの発現は神経筋シナプスの成熟と相関する。Neuroscience74、1087〜1097(1996);Thiel,G.、シナプシンI、シナプシンII、およびシナプトフィジン:シナプス小胞のマーカー蛋白質。Brain Pathol.3、87〜95(1993);Gulino,R.他、シナプス可塑性は、脊髄片側切断後の自発運動自然回復を調節する。Neurosci.Res.57、148〜156(2007);Koelsch,A.他、導入遺伝子媒介GDNF発現は、脊髄挫傷後の機能転帰を改善すべく、シナプス接続およびGABA伝達を向上する。J Neurochem.113、143〜152(2010);Mundy,W.R他、神経発達の細胞培養モデルのける成長およびシナプス形成と関連付けられた蛋白質バイオマーカー。Toxicology249、220〜229(2008);De,CP.他、シナプシンI(蛋白質I)、神経末端特定リン蛋白質II。アガロースに埋め込まれたシナプトソームにおける免疫細胞化学によって実証されたシナプス小胞との特定の関連。J Cell Biol.96、1355〜1373(1983))。シナプシン−1免疫密度は、前肢の動きを制御する薄層IX運動ニューロンプールについて、C6脊髄レベルの損傷レベル下方の前面灰白質において評価した。
図7に示す通り、デコリン処置脊髄は、未処置コントロールと比較すると、前面灰白質においてシナプシン−1免疫密度の目覚しい上昇を示した。デコリン処置済脊髄において、シナプシン−1斑点の増加レベルは、ニューロン細胞体および樹枝状突起の双方で観察されるものの、シナプシン−1がGFAP+星状膠細胞体またはプロセスと直接的に関連するという証拠はほとんど、または、全く見出されなかった。連続断面定量分析により、未処置コントロール脊髄と比較すると、デコリン処置済脊髄のC6薄層IX運動ニューロンプールにおけるシナプシン−1免疫密度が3.2倍上昇することが分かった(
図7)。
【0080】
本発明に係る種々の実施形態が詳細に記されたが、当業者により、これらの実施形態の修正および応用が発生するであろうことは明らかである。しかしながら、そのような修正および応用も以下の例証的請求項に記載の本発明の範囲内であることが明確に理解されなければならない。