特許第5883188号(P5883188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5883188
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】水解性シート
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/17 20060101AFI20160225BHJP
【FI】
   A47L13/17 A
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-150168(P2015-150168)
(22)【出願日】2015年7月29日
(62)【分割の表示】特願2015-110827(P2015-110827)の分割
【原出願日】2015年5月29日
【審査請求日】2015年7月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】向山 真平
(72)【発明者】
【氏名】和泉 慎也
(72)【発明者】
【氏名】田中 朝子
(72)【発明者】
【氏名】長谷澤 敦子
【審査官】 芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−030793(JP,A)
【文献】 特開2007−154359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
A47L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ及び水溶性バインダーを含有する実質的に水分散可能な複数プライの原紙シートに水性薬剤が含浸されており、
複数プライの目付が30〜150gsmであり、
表面及び/又は裏面に向かうにつれて前記水溶性バインダーの含有量が徐々に増加した状態であり、
第1の凸部と、前記第1の凸部の周囲に配置され前記第1の凸部と膨出部の形状が異なる第2の凸部と、が全面に形成されている水解性シート。
【請求項2】
前記第1の凸部が菱形格子に配列されている請求項1に記載の水解性シート。
【請求項3】
前記第2の凸部が2つの前記第1の凸部の間に配列されている請求項1又は2に記載の水解性シート。
【請求項4】
前記第1の凸部と前記第2の凸部が接して連なった凸部となっている請求項1〜3のいずれか一項に記載の水解性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水解性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレの清掃には、繰り返し使用される織布製の雑巾等が使われてきたが、これに替わって、近年、紙製の使い捨てのウェットシートが使用されるようになってきている。そして、この種のウェットシートは、洗浄剤が含浸された状態で提供され、また使用後にトイレに流して処理可能とされるものが好まれる。
かかるウェットシートにおいては、拭取り作業時の洗浄剤が含浸された湿潤状態において破れない紙力と、トイレ等に流した際に配管等に詰まらない程度の水解性を確保することが求められるところであるが、これらを効果的に達成する一つの技術として、その基材紙としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む水溶性バインダー等を添加した水解紙を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3865506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、トイレの清掃にウェットシートを使用した場合、従来のウェットシートでは、便器の縁等を強く擦ると破れることがあった。そのため、水解性を確保しつつ、更に、強く擦ったときの破れにくさを向上させることが課題となっていた。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、水解性を確保しつつ、強く擦ったときの破れにくさを向上させた水解性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の水解性シートは、
パルプ及び水溶性バインダーを含有する実質的に水分散可能な複数プライの原紙シートに水性薬剤が含浸されており、
複数プライの目付が30〜150gsmであり、
表面及び/又は裏面に向かうにつれて前記水溶性バインダーの含有量が徐々に増加した状態であり、
第1の凸部と、前記第1の凸部の周囲に配置され前記第1の凸部と膨出部の形状が異なる第2の凸部と、が全面に形成されている。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記第1の凸部が菱形格子に配列されている。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記第2の凸部が2つの前記第1の凸部の間に配列されている。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、
前記第1の凸部と前記第2の凸部が接して連なった凸部となっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水解性を確保しつつ、強く擦ったときの破れにくさを向上させた水解性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るトイレクリーナーの一例を示す平面図である。
図2】(a)は、従来の紙の繊維配向を示す図、(b)は、本発明の繊維配向を示す図である。
図3】トイレクリーナーのエンボス部分の拡大図及び断面図である。
図4】エンボスの接触面積の一例を示す説明図である。
図5】本実施形態に係るトイレクリーナーの製造方法を示すフローチャートである。
図6】本実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(溶液付与設備)の一例を示す模式図である。
図7】本実施形態に係るトイレクリーナーの製造設備(加工設備)の一例を示す模式図である。
図8】本実施形態に係るトイレクリーナーの他の一例を示す平面図である。
図9】本実施形態に係るトイレクリーナーの他の一例を示す平面図である。
図10図9のA−A部分拡大図である。
図11】(a)は、図10のB−B切断部端面図、(b)は、図10のC−C切断部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である水解性シートを詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0013】
なお、本発明である水解性シートにおいて、水解性シートはトイレクリーナー100を一例にして説明するが、本発明の水解性シートにはトイレクリーナー以外の清拭用途の薬液を含浸させたウェットティシューなども含まれる。また、トイレクリーナー100の製造時の紙の搬送方向をY方向(縦方向)、搬送方向に直交する方向をX方向(横方向)として説明する。
【0014】
[トイレクリーナー100の構成]
まず、トイレクリーナー100の構成について説明する。
トイレクリーナー100は、複数枚(例えば、2枚)の原紙シートがプライ加工(積層)されたものであって、所定の薬液が含浸されている。また、トイレクリーナー100のシート全面には、図1に示す通り、2種類のエンボスEM11及びEM12がエンボス加工により施されている。なお、2種類のエンボスEM11及びEM12により生じる清掃対象物等との接触面積は、100mm当り、15mm〜30mm程度であることが好ましい。
【0015】
例えば、エンボスEM11は菱形格子となるように配置されることにより、エンボスEM11が正方格子や矩形格子に配置される場合と比較して拭きムラを軽減することができる。また、エンボスEM12は、エンボスEM11の間に配置されている。
【0016】
また、トイレクリーナー100は、折り加工されることにより、Y方向の中央部で2つ折りに折り畳まれる。そして、折り畳まれた状態で保管用のプラスチックケースや包装フィルム内等に保管され、使用時には必要に応じて広げて使用される。なお、トイレクリーナー100の折り畳み方は、2つ折りに限ることはなく、例えば、4つ折りにしても良く8つ折りにしても良い。
【0017】
また、本実施形態のトイレクリーナー100の原紙シートは、トイレを掃除した後、そのまま便器の水溜りに廃棄できるように、水解性の繊維集合体から構成されている。
【0018】
繊維集合体としては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)と、を混合した繊維を使用する。好適な原料繊維としては、当該原料繊維の成分のうち広葉樹晒クラフトパルプの配合割合が50重量%を超えるもの、すなわち広葉樹晒クラフトパルプに対する針葉樹晒クラフトパルプの配合比が1/1未満となるものがあげられる。針葉樹晒クラフトパルプに対する広葉樹晒クラフトパルプの配合比を多くすることで、繊維間隙間が減少し、水分蒸散が抑制されるため、乾きにくさを向上させることができる。また、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの表面強度を向上させるために、当該原紙シートには紙力増強のためのバインダー溶液としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む溶液が表面及び裏面から塗布されており、トイレクリーナー100は、厚み方向の中央から表面及び裏面に向かうにつれてCMCの含有量が増加した状態となっている。これにより、トイレクリーナー100は、水溶性バインダーを均一に含浸させた従来品に比べて便器の縁等を強く擦っても破れにくくなっている。
【0019】
また、トイレクリーナー100は、縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0であることが好ましく、1.0であることがより好ましい。
紙の製造工程である抄紙工程においては抄紙機のワイヤーの上に繊維を敷き詰めて搬送方向に流すため、一般的には、紙は、抄紙機の搬送方向である縦方向に多くの繊維が並んでいる(例えば、縦:横=2.3:1等。図2(a)参照)という特性がある。そのため、横方向の繊維密度が薄く繊維が断裂しやすい。即ち、拭くときの方向によって破れやすい。そこで、本実施形態においては、図2(b)に示すように、トイレクリーナー100の縦横の繊維配向比率を0.8〜2.0、好ましくは、1.0とすることで、どの方向から拭いても破れにくいトイレクリーナー100を提供することができる。なお、縦横の繊維配向の比率は、MD及びCD方向の湿潤強度の比により求めることができる。
【0020】
また、本実施形態のトイレクリーナー100には、所定の薬液(水性薬剤)が含浸されており、具体的には、水性洗浄剤の他、香料、防腐剤、除菌剤、紙力増強剤、有機溶剤等の補助剤を含む所定の薬液が含浸されている。当該薬液は、トイレクリーナー100の基材である原紙シートの重量に対して150〜300重量%含浸させることが望ましい。
【0021】
薬液としては、適宜のものを使用することができ、例えば、水性洗浄剤としては、界面活性剤の他、低級又は高級(脂肪族)アルコールを使用することができる。香料としては、水性香料の他、オレンジオイル等の油性香料の中から、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン等のパラベン類を使用することができる。除菌剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ポピドンヨード、エタノール、セチル酸化ベンザニウム、トリクロサン、クロルキシレノール、イソプロピルメチルフェノール等を使用することができる。紙力増強剤(架橋剤)としては、ホウ酸、種々の金属イオン等を使用することができる。有機溶剤としては、グリコール(2価)、グリセリン(3価)、ソルビトール(4価)等の多価アルコールを使用することができる。
【0022】
また、上述した薬液の成分の補助剤については適宜選択可能であり、必要に応じて他の機能を果たす成分を薬液に含ませてもよい。
【0023】
エンボスEM11は、図3(a)に示すように、膨出部PR21が曲面の形状を有している。
【0024】
また、エンボスEM12は、図3(b)に示すように、膨出部PR22が平面の形状を有している。
【0025】
そして、エンボスEM12は、エンボスEM11の間に配置されているので、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接して密着することにより、図3(c)に示すように連なったエンボスEM21として形成されることになる。
また、エンボスEM11の膨出部PR21とエンボスEM12の膨出部PR22が近接するだけであって、連なっていない場合であってもよい。
【0026】
このように形成された2種類のエンボスEM11及びEM12により、清掃対象物等との接触面積を増やすことができるので、トイレクリーナー100の硬さが緩和されて、拭き取り性能が高くなる。
【0027】
すなわち、トイレクリーナー100のシート全面に、膨出部PR21が曲面であるエンボスEM11と、膨出部PR22が平面であるエンボスEM12を組み合わせて形成することにより、拭取り作業時にトイレクリーナー100に力が加わった時点で各エンボスが変形して、初めて接触面積が増加することになるので、接触面積を増加させると共に、各エンボスの変形に起因して、しなやかさも向上することになる。
【0028】
例えば、図4(a)に示すように、単一のエンボスEM11の場合には、拭取り作業時にトイレクリーナー100に加わる力によりエンボスEM11が変形して生じる接触面積CN31は、エンボスEM11近傍に離散的に生じる。これに対して、2種類のエンボスEM11及びEM12を組み合わせた場合には、図4(b)に示すように、拭取り作業時にトイレクリーナー100に加わる力によりエンボスEM11及びEM12が変形して生じる接触面積CN32は、図4(a)の接触面積CN31と比較して、増加することが分かる。
【0029】
また、2種類のエンボスEM11及びEM12は、通常のエンボスの効果を同様に得ることができ、トイレクリーナーの風合い、吸収性及び嵩高性等を向上させることができる。さらに、連なったエンボスEM21は、通常のエンボスと同様に、エンボスを施すことによる見栄えの良さの効果も得ることができる。
【0030】
[トイレクリーナー100の製造方法]
次に、トイレクリーナー100の製造方法について説明する。
図5は、トイレクリーナー100の製造方法を示すフローチャートである。図6は、トイレクリーナー100の原紙シートに対してバインダー溶液を付与する溶液付与設備の模式図である。図7は、図6に示す溶液付与設備でバインダー溶液が付与された原紙シートを加工する加工設備の模式図である。
【0031】
トイレクリーナー100の製造方法では、図5に示すように、先ず、抄紙機(図示省略)で原紙となる紙を抄造する抄紙工程(S1)を行う。
【0032】
次いで、図5及び図6に示すように、溶液付与設備において、抄造された原紙を巻取った複数(例えば、2本)の1次原反ロール1,1からそれぞれ繰り出される連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工しプライ連続シート1Bとするプライ加工工程(S2)と、プライ連続シート1Bに対してバインダー溶液を付与し連続シート1Cとする溶液付与工程(S3)と、連続シート1Cを乾燥させる乾燥工程(S4)と、乾燥させた連続水解性シート1Dをスリットし巻取るスリット・巻き取り工程(S5)とを行う。なお、1次原反ロールは2本以上であれば適宜本数を変更可能であるが、以下の説明においては、2本使用する場合の例について説明する。
【0033】
次いで、図5及び図7に示すように、加工設備において、上記スリット・巻き取り工程(S5)で巻取った2次原反ロール11から繰り出される連続水解性シート1Dに対してエンボス加工を施すエンボス加工工程(S6)と、エンボス加工が施されたエンボス済シート1Eに対して仕上げ加工を施す仕上げ加工工程(S7)とを行う。なお、各工程の詳細については、後述する。
【0034】
〔抄紙工程〕
まず、本実施形態にかかる抄紙工程(S1)について説明する。本発明の抄紙工程(S1)では、例えば、公知の湿式抄紙技術により抄紙原料を抄紙して原紙シートを形成する。すなわち、抄紙原料を湿紙の状態とした後に、ドライヤーなどによりこれを乾燥して、薄葉紙、クレープ紙などの原紙シートを形成する。
原紙シートの原料としては、例えば、既知のバージンパルプ、古紙パルプなどを利用でき、少なくともパルプ繊維を含むものである。この原料となるパルプは、特にLBKPとNBKPを適宜の割合で配合したものが適する。なお、パルプ繊維以外の繊維として、レーヨン繊維や合成繊維などが含有されていてもよい。
また、本発明の原紙シートには、凝集剤として、アニオン性アクリルアミド系重合体(以下、「アニオン性PAM」する。)が含有される。アニオン性PAMとは、アクリルアミド系単量体とアニオン性単量体とを共重合して得られる重合体である。
アクリルアミド系単量体としては、アクリルアミド単独や、アクリルアミドと以下のようなアクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体等と、の混合物である。アクリルアミドと共重合可能なノニオン性単量体としては、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミドが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
アニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの中和塩が例示される。
なお、アニオン性PAMの水溶性を損ねない程度であれば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステル等の単量体を配合してもよい。
アニオン性PAMの添加量としては、好適には、10〜1000ppm程度である。このような、パルプと同電荷のアニオン系の凝集剤を用いて抄紙することで、原紙シートの凝集を低下させることができ、毛細管現象により水解性を向上させることができる。
なお、原紙シートには、上述したパルプ及び凝集剤の他、湿潤紙力剤、接着剤、剥離剤等の抄紙用薬品を適宜用いてもよい。
【0035】
本実施形態では、抄紙工程において、原紙シートの縦横の繊維配向の比率(縦/横)が0.8〜2.0、好ましくは1.0となるように調整が行われる。繊維配向の調整は、例えば、抄紙機において、抄紙原料をワイヤーパートに供給する角度を調整することで行うことができる。抄紙原料を供給する角度は、例えば、ヘッドボックスのスライス開度を調整することにより行うことができる。または、抄紙機の搬送方向(走行方向)と直交する方向に振動を与える等により繊維配向を調整することとしてもよい。
【0036】
〔連続乾燥原紙〕
連続乾燥原紙1Aの物性としては、好適には、目付けが15〜75gsm程度である。また、プライ加工された水溶性バインダーを含むシート(連続水解性シート1D)の目付けは、30〜150gsm程度である。なお、目付けは、JIS P 8124に基づくものである。
連続乾燥原紙1Aは、後述するプライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)、スリット・巻き取り工程(S5)を経て、プライ加工された水解紙となり、更に、後述するエンボス加工工程(S6)、仕上げ加工工程(S7)を経て、トイレクリーナー100に加工される。
【0037】
〔プライ加工工程〕
次いで、本実施形態のプライ加工工程(S2)について説明する。プライ加工工程(S2)では、図6に示すように、原反ロール1から連続的に繰り出される各連続乾燥原紙1A,1Aを、その連続方向に沿ってプライ加工しプライ連続シート1Bとする重ね合わせ部2に供給される。重ね合わせ部2は、一対のロールで構成され、各連続原紙1A,1Aをプライ加工し、プライ加工されたプライ連続シート1Bを形成する。なお、連続乾燥原紙1A,1A同士を重ね合わせる際に、連続乾燥原紙1A,1A同士がずれにくくなるように、ピンエンボス(コンタクトエンボス)で軽く留めておいてもよい。
【0038】
〔バインダー溶液〕
次いで、バインダー溶液について説明する。バインダー溶液は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を水溶性バインダーとして含むものである。バインダー溶液中におけるカルボキシルメチルセルロースの濃度としては、1〜30重量%、好ましくは、1重量%以上、4重量%未満とする。
【0039】
他方、CMCについては、そのエーテル化度が0.6〜2.0、特に0.9〜1.8、更に好ましくは1.0〜1.5であるのが望ましい。水解性と湿潤紙力の発現が極めて良好となる。
【0040】
また、CMCは、水膨潤性のものを用いることができる。これは、薬液中の特定金属イオンの架橋により、未膨潤化のままシートを構成する繊維をつなぎとめる機能を発揮し、清掃・清拭作業に耐えうる拭き取りシートとしての強度を発現することができる。
【0041】
バインダー溶液中のカルボキシルメチルセルロース以外の成分としては、ポリビニルアルコール、デンプンまたはその誘導体、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、トラントガム、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ガラクトマンナン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、プルプラン、ポリエチレンオキシド、ビスコース、ポリビニルエチルエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ポリメタアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸のヒドロキシル化誘導体、ポリビニルピロリドン/ビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体等のバインダー成分が挙げられる。
【0042】
水解性が良好となる点や架橋反応により湿潤強度を発現しうる点からカルボキシル基を有する水溶性バインダーを用いることが好ましい。
カルボキシル基を有する水溶性バインダーは、水中で容易にカルボキシラートを生成するアニオン性の水溶性バインダーである。その例としては多糖誘導体、合成高分子、天然物が挙げられる。多糖誘導体としてはカルボキシメチルセルロースの塩、カルボキシエチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化デンブン又はその塩などが挙げられ、特にカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩が好ましい。
【0043】
合成高分子としては、不飽和カルボン酸の重合体又は共重合体の塩、不飽和カルボン酸と該不飽和カルボン酸と共重合可能な単量体との共重合体の塩などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。これらと共重合可能な単量体としては、これら不飽和カルボン酸のエステル、酢酸ビニル、エチレン、アクリルアミド、ビニルエーテルなどが挙げられる。特に好ましい合成高分子は、不飽和カルボン酸としてアクリル酸やメタクリル酸を用いたものであり、具体的にはポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸メタクリル酸共重合体の塩、アクリル酸又はメタクリル酸とアクリル酸アルキル又はメタクリル酸アルキルとの共重合体の塩が挙げられる。天然物としては、アルギン酸ナトリウム、ザンサンガム、ジェランガム、タラガントガム、ペクチンなどが挙げられる。
【0044】
〔溶液付与工程〕
次いで、本実施形態の溶液付与工程(S3)ついて説明する。溶液付与工程(S3)では、図6に示すように、プライ連続シート1Bの両方の外面(連続乾燥原紙1A,1Aをプライ加工した時に連続乾燥原紙1A,1A同士が対向しない面)に2流体方式の各スプレーノズル3,3により上述のバインダー溶液を噴霧して連続シート1Cを生成する。 なお、バインダー溶液の噴霧方法として、プライ連続シート1Bの片方の外面に上述のバインダー溶液を噴霧するようにしても良い。
【0045】
2流体方式のスプレーノズル3は、2系統に分けられた圧縮空気と液体を混合し、噴射させる方式のスプレーノズルであり、圧縮した液体を単独で噴射させる1流体方式のスプレーノズルに比べて、液体をきめ細かく均一に噴霧することができる。
本実施形態で2流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に高い圧力(噴射圧1.5MPa以上)でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布するので、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすい。
一方、本実施形態で1流体方式のスプレーノズルを使用する場合、プライ加工されたプライ連続シート1Bの各々の外面に噴射圧1.5MPa以下でバインダー溶液(粘度400〜1200MPa.s)を塗布することで、シートの厚さ方向にバインダー溶液を含浸させやすく、シート表面にバインダー溶液を均一に塗布させやすくしている。
このようにして、プライ連続シート1Bの外面にバインダー溶液を噴霧することで、トイレクリーナー100は、厚み方向において中央(両面に塗布した場合)又はバインダー溶液の非塗布面(片面に塗布した場合)からバインダー溶液の塗布面に向かうにつれて水溶性バインダーの含有量が増加した状態となるので、水解性を確保しつつ、表面強度を向上させることができ、強く擦ってもダメージが生じにくいトイレクリーナー100を製造することが可能となる。
【0046】
〔乾燥工程〕
次いで、本実施形態の乾燥工程(S4)について説明する。乾燥工程(S4)では、図6に示すように、乾燥設備4において、上述の連続シート1Cのバインダー溶液中の不溶な液分を蒸発させて、有効成分、特にCMCを繊維に対して定着させる。
ここで、連続シート1Cの外面から厚み方向内側に向かうにつれて、バインダー溶液の浸み込む量が減少していくことから、当該厚み方向内側に向かうにつれて、CMCの定着量が減少することとなる。そのため、後述する仕上げ加工工程(S7)で薬液が含浸された際、当該厚み方向内側に向かうにつれて、架橋反応が起こり難く、空隙を多く有することから、シート内部に当該薬液を閉じ込めた状態とすることができる。これにより、得られるトイレクリーナー100を乾き難くすることができる。
乾燥設備4としては、連続シート1Cに対して熱風を吹き付けて乾燥させるフード付きドライヤー設備が利用できる。なお、シート同士をより密着させるために、プレスロールやターンロールを設置し、乾燥工程(S4)の前に当該プレスロールや当該ターンロールに連続シート1Cを通しても良い。
【0047】
また、上記乾燥設備として赤外線照射による設備を用いても良い。この場合、上記連続シート1Cの搬送方向に複数の赤外線照射部を並列し、搬送される当該連続シート1Cに対して赤外線を照射して乾燥を行なう。赤外線により水分が発熱し乾燥されるものであるため、熱風によるドライヤーと比較して、均一な乾燥が可能であり、後段のスリット・巻き取り工程においての皺の発生が防止できる。
【0048】
〔スリット・巻き取り工程〕
次いで、本実施形態のスリット・巻き取り工程(S5)について説明する。スリット・巻き取り工程(S5)では、プライ加工された連続水解性シート1Dをオフラインの加工機で加工する際の原反とするために、上述の乾燥工程(S4)で乾燥されCMCの定着が図られた連続水解性シート1Dをテンションを調整しながら、スリッター5で所定の幅にスリットし、ワインダー設備6において、巻き取ることとなる。巻き取り速度は、プライ加工工程(S2)、溶液付与工程(S3)、乾燥工程(S4)を考慮して適宜定める。過度に早いとシートの破断が生じ、過度に遅いと皺が発生するのでこれに留意する。
スリット・巻き取り工程(S5)で、プライ加工された連続水解性シート1Dが圧着されることにより、連続水解性シート1Dがより一体化され、1枚相当のシートとなる。
【0049】
〔エンボス加工工程〕
次いで、本実施形態のエンボス加工工程(S6)について説明する。エンボス加工工程(S6)では、図7に示すように、2次原反ロール11から繰り出される、連続水解性シート1Dに対して、エンボスロール12によって、シート全面に所定の形状をなすエンボス加工が施される。このエンボス加工は、シートの強度、嵩高性、拭き取り性等を高めるとともに、デザイン性を高めることを目的としてなされている。
【0050】
〔仕上げ加工工程〕
次いで、本実施形態の仕上げ加工工程(S7)について説明する。仕上げ加工工程(S7)では、図7に示すように、仕上げ加工設備13において、エンボス済シート1Eの裁断加工、裁断された各シートの折り加工、折り加工がなされた各シートへの上記薬液の含浸、当該薬液を含浸させた各シートの包装を一連の流れで行う。ここで、薬液に含有される架橋剤は、CMCを水溶性バインダーとして用いた場合、多価金属イオンを用いることが好ましい。特に、アルカリ土類金属、マンガン、亜鉛、コバルト及びニッケルからなる群から選択される1種又は2種以上の多価金属イオンを用いることが、繊維間が十分に結合されて使用に耐え得る湿潤強度が発現する点、及び水解性が十分になる点から好ましい。これらの金属イオンのうち、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、コバルト、ニッケルのイオンを用いることが特に好ましい。
以上の、各工程を経ることにより、トイレクリーナー100が製造される。
【実施例】
【0051】
次に、本実施形態のCMCを外面から塗布したトイレクリーナー(実施例)と、従来のCMCを均一に含浸したトイレクリーナー(比較例)について、強く擦った場合のダメージを評価した結果を表1を用いて説明する。
【0052】
<実施条件>
実施例 原紙の素材: パルプ100%
秤量:45g/m
プライ数:2プライ
水溶性バインダー及びその含有量:CMC 1.2g/m(スプレー塗布)
薬液成分:界面活性剤、グリコールエーテル、除菌剤、香料等
エンボス加工:無
比較例 原紙の素材: パルプ100%
秤量:45g/m
プライ数:2プライ
水溶性バインダー及びその含有量:CMC 1.2g/m(均一に含浸)
薬液成分:界面活性剤、グリコールエーテル、除菌剤、香料等
エンボス加工:有
【0053】
<試験方法>
トイレクリーナーを3つ折りにし、測定部分を学振型摩擦堅牢度試験機で擦り、目視で紙面に毛羽立ちや破れ等のダメージが確認された時点の回数を計測した。なお、学振型摩擦堅牢度試験機による試験条件は下記のとおりである。
・学振子:PPバンド(積水樹脂株式会社 品番15.5K)
・過重 200gf
・速度は30cpm(1分間に30往復)でストロークが120mm
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示す結果のとおり、実施例におけるCMCを塗布した面は、比較例に比べて強い表面強度を有し、強く擦った際の毛羽立ちや破れ等のダメージが格段に生じにくいことがわかった。即ち、本実施形態のように、原紙シートの外面(両面又は片面)に水溶性バインダーを含む溶液を塗布することにより、表面及び/又は裏面に向かうにつれて水溶性バインダーの含有量が増加した状態となっている水解性シートでは、水解性を確保しつつ、強く擦っても破れにくいことがわかった。
【0056】
以上、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
本発明の実施形態等の説明に際しては、膨出部PR21が曲面の形状を有しているエンボスEM11と、膨出部PR22が平面の形状を有しているエンボスEM12を例示しているが、必ずしもこの形状に限定されるものではなく、例えば、エンボスEM11及びエンボスEM12の膨出部が高さの異なる平面の形状であってもよい。また、例えば、エンボスEM11の膨出部が平面の形状であり、エンボスEM12の膨出部が曲面の形状であってもよい。
【0057】
言い換えれば、膨出部の形状が同一形状ではない2種類のエンボス(第1のエンボス及び第2のエンボス)であって、第1のエンボスの周囲に、第2のエンボスが配置されるものであれば、各エンボスの膨出部の形状はどのようなものであってもよい。
【0058】
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、膨出部が平面のエンボスEM12は、膨出部が曲面のエンボスEM11の間に配置されているが、エンボスEM11が互いに交差するものであってもよい。
【0059】
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、すべてのエンボスEM11及びEM12が、図1の図面手前方向に凸になっているが、図面手前方向に凸なエンボスEM11及びEM12と、図面手前方向に凹なエンボスEM11及びEM12を交互に配置するものであってもよい。
【0060】
例えば、図8に示すように、図8の図面手前方向に凸なエンボスEM11及びEM12(実線部分)と、図8の図面手前方向に凹なエンボスEM11及びEM12(破線部分)を交互に配置することにより、エンボス加工により水解性シートの表面強度を高めると共に、トイレクリーナー100両面のどちらでも拭き取り性能の高い水解性シートを提供することができる。
【0061】
また、本発明の実施形態等の説明に際しては、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接して密着することにより、連なったエンボスEM21として形成されているが、エンボスEM11の膨出部PR21及びEM12の膨出部PR22は近接するだけで密着しないものであってもよい。
【0062】
また、本発明の実施形態の説明に際しては、エンボスEM11の形状として、円形若しくは楕円形の形状を例示しているが、エンボスの形状は方形、多角形等の任意の形状でよい。
【0063】
また、図3におけるエンボスEM11及びEM12の膨出部の高さHT21及びHT22は、例えば、0.40mm〜0.75mmであることが好ましい。エンボスの膨出部の高さは、キーエンス製デジタルマイクロスコープで表面を3D測定することで測定することができる。
【0064】
例えば、高さが0.40mm未満であると、拭き取り時の摩擦が強くなって、拭き取りがしにくく、また、高さが0.75mmを超えると、包装時にエンボスEM11及びEM12の形状がくずれやすくなって、見栄えが悪くなる。
【0065】
また、トイレクリーナーのエンボスパターンは、上述のパターンに限らない。図9は、トイレクリーナー100のエンボスパターンのみを変更したトイレクリーナー101の平面図、図10は、図9のA−A部分拡大図、図11(a)は、図10のB−B切断部端面図、図11(b)は、図10のC−C切断部端面図である。
【0066】
図9図11において、凹部e2は、凸部e1を反転した形状である。凸部e1と凹部e2は、交互に一例に配置され、この列が多列に、かつ隣り合う列における凸部e1と凹部e2が互いに半ピッチずれるように配列されたエンボスパターンを形成している。このように、凸部e1及び凹部e2が縦方向においても横方向においても交互に形成されていることで、凸部同士や凹部同士が一列に並んでいるエンボスパターンよりも汚れの拭き取り性を向上させることができる。なお、凸部e1と凹部e2の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、多角形等が用いられる。各形状を組み合わせたものとしてもよい。
【0067】
その他、トイレクリーナー1の細部構成に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
100、101 トイレクリーナー
1 1次原反ロール
1A 連続乾燥原紙
1B プライ連続シート
1C 連続シート
1D 連続水解性シート
1E エンボス済シート
2 重ね合わせ部
3 スプレーノズル
4 第1乾燥設備
5 スリッター
6 ワインダー設備
11 2次原反ロール
12 エンボスロール
13 仕上げ加工設備
EM11 エンボス
EM12 エンボス
EM13 エンボス
PR21 膨出部
PR22 膨出部
【要約】      (修正有)
【課題】水解性を確保しつつ、強く擦ったときの破れにくさを向上させた水解性シートを提供する。
【解決手段】トイレクリーナー100は、パルプ及び水溶性バインダーを含有する実質的に水分散可能な複数プライの原紙シートに水性薬剤が含浸されており、複数プライの目付が30〜150gsmであり、表面及び/又は裏面に向かうにつれて水溶性バインダーの含有量が増加した状態であり、第1のエンボスEM11と、第1のエンボスEM11の周囲に配置され第1のエンボスEM11と膨出部の形状が異なる第2のエンボスEM12と、が全面に形成されている。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11