(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1回の核磁気励起に対して位相エンコード用の傾斜磁場である複数のBLIPパルスを連続的に印加すると共に、前記BLIPパルスの印加に同期してリードアウト用の傾斜磁場を連続的に反転させて印加するエコープラナーイメージングであって、空間分布を有すると共に時間的に変化する渦電流の影響をキャンセルするように前記1回の核磁気励起に対する複数のBLIPパルスの夫々の強度が前記1回の核磁気励起に対する撮像断面ごとに補正された前記エコープラナーイメージングによってエコー信号を収集するデータ収集手段と、
前記エコー信号に基づいて画像データを生成する画像生成手段と、
を有することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、補正対象となる傾斜磁場パルスの印加時刻から過去に向かう経過時間内に印加された傾斜磁場パルスに起因する渦電流の影響がキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、渦電流の影響をキャンセルするための強度補正後の少なくとも1つの傾斜磁場パルスに起因する渦電流の影響がキャンセルされるように再帰計算を行って前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、渦電流の影響をキャンセルするための強度補正後における傾斜磁場パルスに起因する渦電流の影響を強度補正前における傾斜磁場パルスに起因する渦電流の影響と同等とみなして再帰計算を行わずに前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、少なくとも1つの傾斜磁場パルスの印加軸と同一の軸方向および異なる軸方向に前記少なくとも1つの傾斜磁場パルスに起因して空間的に発生する渦電流の影響がキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々を設定するように構成されることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、傾斜磁場のモーメントの調整を行うためのTUNEの強度を前記渦電流の影響が補正されるように設定するように構成されることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、前記渦電流による傾斜磁場モーメントの変化量がキャンセルされるように、予め計測された情報に基づいて前記複数の位相エンコード用の傾斜磁場の補正量を算出し、算出した前記補正量を用いた補正によって前記複数のBLIPパルスの夫々の傾斜磁場の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、UnipolarタイプのMPGパルスの印加を伴って前記エコー信号を収集するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、BipolarタイプのMPGパルスの印加を伴って前記エコー信号を収集するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、Double spin echoタイプのMPGパルスの印加を伴って前記エコー信号を収集するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、過去のショットにおいて印加されたMPGパルスに起因する渦電流の影響がキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、b値が互に異なる複数のMPGパルスに起因する各渦電流の影響がそれぞれキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の傾斜磁場の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、印加軸が互に異なる複数のMPGパルスに起因する各渦電流の影響がそれぞれキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、MPGパルスのみに起因する渦電流の影響がキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、MPGパルスおよびスポイラパルスのみに起因する各渦電流の影響がそれぞれキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記データ収集手段は、MPGパルスおよび補正対象となる傾斜磁場パルスの印加時刻から過去に向かう経過時間内に印加された傾斜磁場パルスに起因する各渦電流の影響がそれぞれキャンセルされるように前記複数のBLIPパルスの夫々の強度を設定するように構成されることを特徴とする請求項9記載の磁気共鳴イメージング装置。
前記磁気共鳴イメージング装置を、前記リードアウト用の傾斜磁場および前記複数のBLIPパルスの印加に先立ってMPGパルスを印加するMPGパルス印加手段としてさらに機能させることを特徴とする請求項19記載の磁気共鳴イメージング装置の制御プログラム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に係る磁気共鳴イメージング装置および磁気共鳴イメージング装置の制御プログラムの実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0023】
図4は本発明に係る磁気共鳴イメージング装置の実施の形態を示す構成図である。
【0024】
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21と、この静磁場用磁石21の内部に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23およびRFコイル24とを図示しないガントリに内蔵した構成である。
【0025】
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31およびコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35および記憶装置36が備えられる。
【0026】
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
【0027】
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
【0028】
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内部において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24はガントリに内蔵されず、寝台37や被検体P近傍に設けられる場合もある。
【0029】
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
【0030】
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27yおよびZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23yおよびZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
【0031】
RFコイル24は、送信器29および受信器30と接続される。RFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能と、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したNMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
【0032】
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場GzおよびRF信号を発生させる機能を有する。
【0033】
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるNMR信号の検波およびA/D変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
【0034】
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたNMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
【0035】
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムによらず、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
【0036】
図5は、
図4に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
【0037】
コンピュータ32は、プログラムにより撮影条件設定部40、シーケンスコントローラ制御部41、k空間データベース42、画像再構成部43、画像データベース44および画像処理部45として機能する。撮影条件設定部40は、傾斜磁場補正部40Aおよび渦電流パラメータ記憶部40Bを備えている。
【0038】
撮影条件設定部40は、入力装置33からの指示情報に基づいてSS EPIシーケンスを用いた撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ制御部42に与える機能を有する。SS EPIシーケンスには、SS SE EPIシーケンスやSS FE EPIシーケンスがある。
【0039】
また、撮影条件設定部40の傾斜磁場補正部40Aは、傾斜磁場の印加に伴って生じる渦電流の影響による傾斜磁場の変化がキャンセルされるようにSS EPIシーケンスにおけるTUNEおよびBLIPパルスの双方またはBLIPパルスの強度を設定する機能を有する。つまり、傾斜磁場補正部40Aは、渦電流の影響がキャンセルされるようにTUNEやBLIPパルスの強度を調整することによって傾斜磁場モーメントの補正を行う機能を備えている。このように渦電流の影響がキャンセルされるような傾斜磁場モーメントの補正が行われた状態で収集されたエコー信号を用いて画像を再構成すれば、渦電流に起因する画像の変形を抑制し、画質低下を防止することができる。
【0040】
図6は、
図5に示す撮影条件設定部40において撮影条件として設定されるSS SE EPIシーケンスの一例を示す図である。
【0041】
図6において、RFは、RF励起パルスを、ECHOは、エコー信号を、Gssは、SS方向の傾斜磁場を、Groは、RO方向の傾斜磁場を、Gpeは、PE方向の傾斜磁場を、それぞれ示す。
【0042】
図6に示すように、SS SE EPIシーケンスでは、励起パルスに続いてリフォーカスパルスがスライス選択用傾斜磁場パルスとともに印加される。また、励起パルスとリフォーカスパルスとの間には、傾斜磁場のモーメントの調整を行うためのTUNEがRO方向およびPE方向にそれぞれ印加される。さらに、リフォーカスパルスの印加後には、SS方向にリフォーカスパルスのSPOILER傾斜磁場パルスが印加される。尚、
図6では、TUNEが励起パルスとリフォーカスパルスとの間に印加される例を示しているが、他のタイミングで印加される場合もある。
【0043】
次に、PE方向にエンコード加算用のBLIPパルスが繰り返し印加され、BLIPパルスの強度に応じた位相エンコード量が順次加算される。一方で、極性が交互に反転するRO方向の傾斜磁場が繰り返し印加される。これにより、1枚分の画像データの生成に必要なエコー信号が連続的に発生し、発生したエコー信号が収集される。すなわち1回の核磁気の励起により1枚分の画像データを生成するためのエコー信号を収集することができる。
【0044】
ここで、RO方向のTUNEの強度Itro、PE方向のTUNEの強度Itpeおよび各BLIPパルスの強度Ib1, Ib2, Ib3, …は、傾斜磁場補正部40Aによって、それぞれ各パルスの印加前に印加された傾斜磁場に起因して生じる渦電流の影響による傾斜磁場のモーメントの変化が打ち消されるように設定される。ただし、RO方向のTUNEの強度Itroおよび/またはPE方向のTUNEの強度Itpeについては、渦電流を考慮しない本来の値に設定してもよい。
【0045】
また、撮影条件設定部40では、MPGパルスの印加を伴うDWI用のSS EPIシーケンスを撮影条件として設定することもできる。
【0046】
図7は、
図5に示す撮影条件設定部40において撮影条件として設定されるDWI用のSS SE EPIシーケンスの一例を示す図である。
【0047】
図7において、RFは、RF励起パルスを、ECHOは、エコー信号を、Gssは、SS方向の傾斜磁場を、Groは、RO方向の傾斜磁場を、Gpeは、PE方向の傾斜磁場を、それぞれ示す。
【0048】
DWIを収集する場合には、例えば
図7に示すように、励起パルスの印加後およびSPOILER傾斜磁場パルスの印加後にそれぞれMPGパルスが印加される。このようなMPGパルスの印加を伴うSS SE EPIシーケンスを実行することによりDWIを収集することができる。
【0049】
尚、
図7には、UnipolarタイプのMPGパルスが印加される例を示したが、BipolarタイプやDouble spin echoタイプのMPGパルスを印加してもよい。
【0050】
MPGパルスは渦電流の減衰時間に対して無視できない程、印加時間が長いため、MPGパルスの立ち上がり部分の傾斜磁場変化に起因して生じる渦電流が減衰した後に、MPGパルスが立ち下がる場合が多い。このため、MPGパルスの立ち下がり部分の傾斜磁場変化に起因してMPGパルスの印加後に支配的な渦電流が生じることとなる。これに対して、他の傾斜磁場パルスは、渦電流の減衰時間に対して比較的印加時間が短い場合が多い。このため、他の傾斜磁場パルスの立ち上がり部分の傾斜磁場変化に起因して生じる渦電流は、立下り部分の傾斜磁場変化に起因して生じる渦電流と相殺され、MPGパルス以外の傾斜磁場パルスの印加に起因して生じる渦電流は支配的とならない場合が多い。
【0051】
そこで、DWI用のSS SE EPIシーケンスにおいても
図6に示す非DWI用のSS SE EPIシーケンスと同様に、RO方向のTUNEの強度Itro、PE方向のTUNEの強度Itpeおよび各BLIPパルスの強度Ib1, Ib2, Ib3, …は、傾斜磁場補正部40Aによって、それぞれ各パルスの印加前に印加されたMPGパルスを含む傾斜磁場に起因して生じる渦電流の影響による傾斜磁場のモーメントの変化が打ち消されるように設定される。ただし、RO方向のTUNEの強度Itroおよび/またはPE方向のTUNEの強度Itpeについては、渦電流を考慮しない本来の値に設定してもよい。
【0052】
次に、TUNEや各BLIPパルスの強度Iの求め方について説明する。TUNEや各BLIPパルスの強度Iは、X軸方向成分Ix、Y軸方向成分IyおよびZ軸方向成分Izを有するため、TUNEや各BLIPパルスの強度I(Ix, Iy, Iz)を求めるためには、撮像断面の位置を含む空間に分布する渦電流のX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の成分を求めておく必要がある。
【0053】
単位強度の傾斜磁場が印加された場合に発生する渦電流の各軸方向の成分は、それぞれ高次式を用いて近似することができる。実用的には、2次式または3次式で渦電流の各軸方向の成分を近似することができる。例えば、単位強度の傾斜磁場が印加された場合に発生する渦電流r(rx, ry, rz)のZ軸方向の成分rzは、式(1)のようにZ軸方向の空間位置Zに関する2次式を用いて近似することができる。
[数1]
rz=Sc(aZ
2+bZ+c) (1)
式(1)において、a, b, cは各項の係数であり、Scはスケーリング値である。これらの係数a, b, cおよびスケーリング値Scは、装置の特性によって定まる。スケーリング値Scは、装置の特性により複数の値を有する場合もある。これはX軸方向、Y軸方向についても同様である。
【0054】
すなわち式(1)に示すように、渦電流rを撮像位置ごとに求めることができる。ただし、渦電流rを3次式や4次式を用いて近似する場合には、ある撮像部位の範囲内では渦電流rが撮像部位によらず一定とみなることができる場合がある。
【0055】
図8は、渦電流rのZ軸方向の成分rzを3次式を用いて近似し、Z軸方向のある範囲において渦電流rのZ軸方向の成分rzを一定とみなせる場合の例を示す図であり、
図9は、渦電流rのZ軸方向の成分rzを4次式を用いて近似し、Z軸方向のある範囲において渦電流rのZ軸方向の成分rzを一定とみなせる場合の例を示す図である。
【0056】
図8および
図9において横軸は、Z軸方向を示し、縦軸は、渦電流rのZ軸方向の成分rzを示す。
図8や
図9に示すように、Z軸方向の中央部分における一定の範囲ZR3, ZR4では、渦電流rのZ軸方向の成分rzを一定とみなすことができる。このような場合には、計算簡易化および処理簡易化の観点からは、一定の範囲ZR3, ZR4では、渦電流rのZ軸方向の成分rzを一定値とする一方、Z軸方向の一定の範囲ZR3, ZR4外である端部分において局所的に3次式または4次式を用いてZ軸方向の成分rzを表すことが有効である。これはX軸方向、Y軸方向についても同様である。
【0057】
一方、強度H (Hx, Hy, Hz)の傾斜磁場パルスが印加されてから時間tだけ経過した時点における渦電流の強度R(t)は式(2)のように表される。
[数2]
R(t)=rHexp(-t/T) (2)
ただし、式(2)においてT(Tx, Ty, Tz)は渦磁場の減衰の時定数である。時定数Tも装置の特性によってスケーリング値Scと一対のパラメータとして定まる。
【0058】
これらの渦電流の強度R(t)を求めるための係数a, b, c、スケーリング値Scおよび時定数Tは、装置の据付時などに予め測定してパラメータ化し、記憶しておくことができる。また、試験撮影によって係数a, b, c、スケーリング値Scおよび時定数Tを測定することもできる。時定数が複数(n個)存在する場合には、予め計測される情報は、Tn, an, bn, cn, Scnのそれぞれのセットとなる。
【0059】
尚、ある軸に傾斜磁場が印加されると他の軸方向にも渦電流が発生することとなる。従って、ある1つの軸方向に傾斜磁場が印加された場合に影響を受ける3軸方向についての高次式の各係数が渦電流の成分を求めるために必要となる。傾斜磁場の印加軸にはX, Y, Zの3軸方向があり、それぞれ影響を受ける傾斜磁場の軸がX, Y, Zの3軸方向であるため、合計9通りの高次式の係数の組み合わせが予め求めておくべきパラメータとなる。
【0060】
このように、ある強度Hの傾斜磁場が印加された場合に発生する渦電流の各軸方向の成分R(Rx, Ry, Rz, t)を求めるためには、係数a, b, c、スケーリング値Scおよび渦磁場の減衰の時定数T等のパラメータを記憶しておけば良いことになる。つまり、渦電流の各軸方向の成分は、交差項(cross term)を含む高次式の各項の係数値、スケーリング値および渦磁場の減衰の時定数をパラメータとして表すことができる。
【0061】
これらの撮影位置ごとの各軸方向における渦電流の値を求めるためのパラメータは渦電流パラメータ記憶部40Bに記憶され、傾斜磁場補正部40Aにより参照できるように構成される。
【0062】
図10は、
図5に示す渦電流パラメータ記憶部40Bに保存されるパラメータの一例を示す図である。
【0063】
図10は、渦電流の各軸方向の成分を2次式で近似した場合に渦電流パラメータ記憶部40Bに保存されるパラメータのセットを示している。すなわち、傾斜磁場の印加軸と影響を受ける軸の合計9通りのパラメータのセットが1対の時定数およびスケーリング値とともにパラメータセットとして記憶される。時定数およびスケーリング値は、部材等の装置の特性によっては複数の値を有する場合があり、
図10では、2つの値を有する例を示している。このため、9通りのパラメータのセットが時定数およびスケーリング値ごとに予め求められて渦電流パラメータ記憶部40Bに保存される。
【0064】
図10に示すようなパラメータが準備されると、傾斜磁場補正部40AにおいてTUNEまたはあるBLIPパルスが印加されるときの渦電流に起因する磁気モーメントの変化量を打ち消すために印加すべき傾斜磁場の強度を求めることができる。すなわち、n番目に印加すべきTUNEまたはBLIPパルス等の傾斜磁場パルスの強度I(Ix, Iy, Iz, n)は、式(3)に示すように渦電流を考慮しない場合における本来の強度I0(I0x, I0y, I0z, n)および渦電流に起因する磁気モーメントの変化量を打ち消すために印加すべき傾斜磁場パルスの補正強度(傾斜磁場パルスの強度の補正量)Ic(Icx, Icy, Icz, n)の和となる。
[数3]
I(n)=I0+Ic(n) (3)
【0065】
また、渦電流に起因する磁気モーメントの変化量を打ち消すためのn番目に印加される傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)は、式(4)のように計算することができる。
[数4]
Ic(n)=rH
n-1exp(-t
n-1/T)+rH
n-2exp(-t
n-2/T)+rH
n-3exp(-t
n-3/T)+…+rH
n-neexp(-t
n-ne/T)
(4)
ただし、式(4)において、H
iは、i番目の傾斜磁場パルスの強度を、t
iはn番目の傾斜磁場パルスとi番目の傾斜磁場パルスの印加時刻間の差(経過時間)を、それぞれ示す。尚、i番目の傾斜磁場パルスの強度H
iは、正確には式(3)により渦電流に起因する磁気モーメントの変化量を打ち消すように補正された強度I(i)であるから式(4)は再帰計算となる。しかし、傾斜磁場パルスの補正強度Icは、補正前の本来の強度I0に比べて無視できる程小さいため、i番目の傾斜磁場パルスの強度H
iは、i番目の傾斜磁場パルスの補正前の本来の強度I0(i)とみなすことができる。
【0066】
すなわち、n番目に印加される傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)は、それ以前に印加された強度H
n-1, H
n-2, H
n-3, …, H
n-neの傾斜磁場パルスによる渦電流の時定数Tおよび経過時間t
n-1, t
n-2, t
n-3, …, t
n-neに応じた減衰後の各軸方向の成分値を積算することにより求めることができる。換言すれば、補正対象となる傾斜磁場パルスが印加される前に印加された各傾斜磁場パルスによって生じた空間位置ごとの残存する渦電流の対象軸方向の成分を積算することによって補正に必要な傾斜磁場のモーメントを算出することができる。
【0067】
尚、積算対象となる傾斜磁場パルスに起因する渦電流の成分値の数neは、経過時間t
n-neが十分に長くなるように決定される。全ての傾斜磁場パルスに起因する渦電流の成分値を積算対象とすることも可能であるが、経過時間t
n-neが十分に長くなるように決定された一部の傾斜磁場パルスに起因する渦電流の成分値を積算対象とすれば処理量の低減化に繋げることができる。装置の特性に依存して積算対象となる渦電流の成分値の数neは変化するが、具体的には、経過時間t
n-neが10秒程度確保されるように積算対象となる渦電流の成分値の数neを決定すれば、十分な精度が得られると考えられる。
【0068】
また、ここでいう傾斜磁場パルスには、SPOILER傾斜磁場パルスやMPGパルス等の全ての傾斜磁場パルスが含まれるため、減衰後の強度が無視できない程度に大きいMPGパルス等の傾斜磁場パルスによって生じた渦電流は積算対象とすることが望ましい。さらに、励起パルスおよびMPGパルスが複数shot分印加されるマルチショット撮像の場合には、過去のshotにおける単一または複数のMPGパルスも無視できない渦電流を発生させる恐れがあることから積算対象とすることが望ましい場合もある。過去のshotにおけるMPGパルスとしては、b値が異なるMPGパルスや印加軸が異なるMPGパルスが挙げられる。
【0069】
逆に、無視できる程度の渦電流しか発生させない傾斜磁場パルスを積算対象から除外すれば、データ処理量の低減に繋がる。従って、例えば、MPGパルスのみを積算対象とする方法、MPGパルスおよびSPOILER傾斜磁場パルスのみを積算対象とする方法、一定の経過時間t
n-ne内にある傾斜磁場パルスのみを積算対象とする方法およびMPGパルスおよび一定の経過時間t
n-ne内にある傾斜磁場パルスのみを積算対象とする方法から所望の方法を選択することができる。
【0070】
図11は、
図5に示す傾斜磁場補正部40Aにおける渦電流の対象軸方向の成分の積算処理の方法を説明する図である。
【0071】
図11において横軸は時間を示す。
図11に示すようにn番目に印加される傾斜磁場パルスの強度I(n)は、式(3)に示すように、渦電流を考慮しない場合における本来の強度I0および渦電流に起因する磁気モーメントの変化量を打ち消すために印加すべき傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)の和となる。また、傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)は、n-1番目、n-2番目、n-3番目、…、n-ne番目に印加された強度H
n-1, H
n-2, H
n-3, …, H
n-neの傾斜磁場パルスの印加によって生じた渦電流の経過時間t
n-1, t
n-2, t
n-3, …, t
n-neに応じた減衰後の対象軸方向の成分値を積算することによって求めることができる。
【0072】
そして、傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)をTUNEやBLIPパルスの強度がゼロでないState部分、すなわち本来の強度I0に付加した状態でTUNEやBLIPパルスを印加することによって渦電流の影響を抑制した画像データを収集することが可能となる。
【0073】
すなわち、空間的な渦電流の強度r(rx, ry, rz)に基づいて撮像位置(X, Y, Z)ごとに傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)が求められるため、空間分布を有する渦電流の影響を抑制することができる。尚、上述したように、渦電流の強度r(rx, ry, rz)を、ある範囲で一定とみなす場合には、その範囲内では撮像位置(X, Y, Z)によらず傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)が一定となる一方、その範囲外において傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)が局所的に撮像位置(X, Y, Z)ごとに変わることとなる。このため、局所的に不均一に分布する渦電流が存在する場合に、より少ないデータ処理量で局所的に渦電流の影響を補正することができる。このように、撮像位置に対応して傾斜磁場パルスの補正強度Ic(n)を決定し、渦電流の影響を補正することができる。
【0074】
そのために、このように決定されたSS EPIシーケンスを含む撮像条件は、撮影条件設定部40からシーケンスコントローラ制御部42に与えられる。
【0075】
シーケンスコントローラ制御部42は、入力装置33からのスキャン開始指示に従ってシーケンスコントローラ31にSS EPIシーケンスを含む撮像条件を与えることにより駆動制御させる機能を有する。また、シーケンスコントローラ制御部42は、シーケンスコントローラ31から生データを受けてk空間データベース42に形成されたk空間に配置する機能を有する。このため、k空間データベース42には、受信器30において生成された各生データがk空間データとして保存され、k空間データベース42に形成されたk空間にk空間データが配置される。
【0076】
画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んで2次元または3次元のFTを含む画像再構成処理を施すことにより実空間データである被検体Pの画像データを再構成する機能と、再構成して得られた画像データを画像データベース44に書き込む機能を有する。このため、画像データベース44には、画像再構成部43において再構成された画像データが保存される。
【0077】
画像処理部45は、画像データベース44から画像データを取り込んで必要な画像処理を行って表示用の画像データを生成する機能と、生成した表示用の画像データを表示装置34に表示させる機能を有する。
【0078】
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作および作用について説明する。
【0079】
図12は、
図1に示す磁気共鳴イメージング装置20により被検体Pの画像を撮像する際の手順を示すフローチャートであり、図中Sに数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
【0080】
まずステップS1において、撮影条件設定部40において、
図6に示すように渦電流による傾斜磁場モーメントの変化がキャンセルされるようにTUNEおよびBLIPパルスの双方またはBLIPパルスの強度が設定されたSS EPIシーケンスが撮影条件として設定される。そのために、傾斜磁場補正部40Aは、渦電流パラメータ記憶部40Bに保存された渦電流に関するパラメータを参照し、渦電流の各軸方向の成分値を計算することによって渦電流による傾斜磁場モーメントの変化をキャンセルするためのTUNEやBLIPパルスの強度の補正量を求める。そして、求められた補正量を用いてTUNEやBLIPパルスの強度が補正される。
【0081】
次にステップS2において、設定された撮影条件に従ってデータ収集が行われる。
【0082】
そのために、予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
【0083】
そして、入力装置33からシーケンスコントローラ制御部41にデータ収集開始の指示が与えられると、シーケンスコントローラ制御部41は撮影条件設定部40からSS EPIシーケンスを用いた撮影条件を取得してシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、シーケンスコントローラ制御部41から受けたSS EPIシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29および受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。
【0084】
このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたNMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からNMR信号を受けて、所要の信号処理を実行した後、A/D変換することにより、デジタルデータのNMR信号である生データを生成する。受信器30は、生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、生データをシーケンスコントローラ制御部41に与え、シーケンスコントローラ制御部41はk空間データベース42に形成されたk空間に生データをk空間データとして配置する。
【0085】
次にステップS3において、画像再構成部43による画像再構成処理が行われる。すなわち、画像再構成部43は、k空間データベース42からk空間データを取り込んでFTを含む画像再構成処理を施すことにより被検体Pの画像データを再構成する。再構成して得られた画像データは、画像データベース44に書き込まれる。
【0086】
次にステップS4において、画像処理部45は画像データベース44から読み込んだ画像データに対して必要な画像処理を施し、画像処理後の画像データが表示装置34に表示される。
【0087】
図13は、
図5に示す表示装置34に表示される画像の一例を示す図である。
【0088】
図13(a)は、DWIの強度を表すb値をゼロとし、かつ撮像断面を渦電流の影響が小さい基準位置にオフセットさせて得られた基準画像を、
図13(b)は、PE方向のb値を1000とした場合のある空間位置におけるDWI、
図13(c)は、RO方向のb値を1000とした場合の同一空間位置におけるDWI、
図13(d)は、SS方向のb値を1000とした場合の同一空間位置におけるDWIである。
【0089】
図13(b)、
図13(c)、
図13(d)にそれぞれ示すDWIは、強度が相対的に大きいMPGパルスの印加によって大きな渦電流が発生しているにも関わらず、
図13(a)に示すMPGパルスの印加を伴わない基準画像と比較して変形が殆ど変わらないことが確認できる。特に従来のSS SE EPIシーケンスの実行によって撮像された
図3(b)および
図3(c)に示すDWIと比較すると、
図13(c)および
図13(d)にそれぞれ示すRO方向およびSS方向のMPGパルスの強度を大きくして収集した各DWIの変形が大幅に改善されていることが確認できる。このように、渦電流による画像変形の補正を行わない場合には、Isotropic画像にボケ等の画質劣化が発生するが、TUNEやBLIPパルスの強度補正による画像変形の補正を行えば、画質劣化が大きく改善することが分かる。
【0090】
すなわち、TUNEやBLIPパルスの強度を渦電流による傾斜磁場モーメントがキャンセルされるように設定することによって、MPGパルスのように強度が大きい傾斜磁場パルスの印加によって渦電流が生じたとしても、渦電流の影響とともに画像の変形等の劣化を低減させることができる。
【0091】
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、SS EPIにおいて、撮像断面の空間的位置に応じて変化する渦電流の影響による画像の変形が補正されるようにTUNEやBLIPパルスの強度を調整することにより、画質劣化を低減させるようにしたものである。より具体的には、撮像位置に対応する渦電流の影響がキャンセルされるように決定した補正量をSS EPIシーケンスの傾斜磁場に重畳することによって、画像の変形を引き起こす渦電流の影響を補正するようにしたものである。
【0092】
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、空間分布を有する渦電流が発生しても、渦電流による影響を回避させて画像の変形を防止することができる。特に強度が大きいMPGパルスの印加を伴うDWIにおいて顕著な効果を得ることができる。