特許第5883216号(P5883216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5883216ビブラート付加装置、ビブラート付加方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5883216
(24)【登録日】2016年2月12日
(45)【発行日】2016年3月9日
(54)【発明の名称】ビブラート付加装置、ビブラート付加方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/043 20060101AFI20160225BHJP
   G10K 15/04 20060101ALI20160225BHJP
【FI】
   G10H1/043 A
   G10K15/04 302D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-209817(P2010-209817)
(22)【出願日】2010年9月17日
(65)【公開番号】特開2012-63709(P2012-63709A)
(43)【公開日】2012年3月29日
【審査請求日】2013年7月24日
【審判番号】不服2015-2602(P2015-2602/J1)
【審判請求日】2015年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大内 亮
【合議体】
【審判長】 森川 幸俊
【審判官】 井上 信一
【審判官】 関谷 隆一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−44158(JP,A)
【文献】 特開2007−72231(JP,A)
【文献】 実開平5−47997(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を入力する入力手段により入力された音声信号にビブラートを付加するビブラート付加手段であって、ビブラートが付加されたピッチの中心値が、前記音声信号により表される音声のピッチの値とずれるようにビブラートを付加するビブラート付加手段と、
前記ビブラート付加手段によりビブラートを付加された前記音声信号を出力する出力手段と、
前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出手段と、
前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と
を備え、
前記ビブラート付加手段は、前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定手段により判定された場合に、当該判定後に前記入力手段により入力された音声信号にビブラートを付加することを特徴とするビブラート付加装置。
【請求項2】
ビブラートの深さを示すデプス値と、ビブラートの周波数を示す周波数値と、前記デプス値とビブラート付加によるピッチの中心のずれ量との比を示すオフセット値とを、それぞれ複数、時間の値と対応づけて記憶する記憶手段と、
前記判定手段により、前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると判定された後の経過時間を計時する計時手段と
をさらに備え、
前記ビブラート付加手段は、
前記計時手段により示される時間の値と対応づけられているデプス値、周波数値及びオフセット値を前記記憶手段から読み出し、当該デプス値、周波数値及びオフセット値に基づいてピッチ変換量の瞬時値を算出する算出手段と、
前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを、当該ピッチの値と、前記算出手段により算出された前記ピッチ変換量の瞬時値との和となるように変換するピッチ変換手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載のビブラート付加装置。
【請求項3】
前記入力手段により入力された音声信号からビブラートを除去するビブラート除去手段をさらに備え、
前記ビブラート付加手段は、前記ビブラート除去手段によりビブラートが除去された音声信号に前記ビブラートを付加することを特徴とする請求項1又は2に記載のビブラート付加装置。
【請求項4】
コンピュータを、
音声信号を入力する入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出手段と、
前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、
前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定手段により判定された場合に、当該判定後に前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチの変換量であるピッチ変換量の瞬時値を算出する算出手段
として機能させるためのプログラムであって、
前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチは、当該ピッチの値と、前記算出手段により算出された前記ピッチ変換量の瞬時値との和となるように変換されることを特徴とするプログラム。
【請求項5】
前記コンピュータは、
ビブラートの深さを示すデプス値と、ビブラートの周波数を示す周波数値と、前記デプス値とビブラート付加によるピッチの中心のずれ量との比を示すオフセット値とを、それぞれ複数、時間の値と対応づけて記憶する記憶手段と、
前記判定手段により、前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると判定された後の経過時間を計時する計時手段と
を備え、
前記算出手段は、前記計時手段により示される時間の値と対応づけられているデプス値、周波数値及びオフセット値を前記記憶手段から読み出し、当該デプス値、周波数値及びオフセット値に基づいて前記ピッチ変換量の瞬時値を算出することを特徴とする請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
音声信号を入力する入力ステップと、
前記入力ステップにより入力された音声信号にビブラートを付加するビブラート付加ステップであって、ビブラートが付加されたピッチの中心値が、前記音声信号により表される音声のピッチの値とずれるようにビブラートを付加するビブラート付加ステップと、
前記ビブラート付加ステップによりビブラートを付加された前記音声信号を出力する出力ステップと、
前記入力ステップにより入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにより一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定ステップと
を備え、
前記ビブラート付加ステップは、前記検出ステップにより前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定ステップにより判定された場合に、当該判定後に前記入力ステップにより入力された音声信号にビブラートを付加することを特徴とするビブラート付加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歌唱音声にビブラートを付加する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
歌唱技術の一つに、ビブラートという技術がある。このビブラートによれば、歌唱音声のピッチを周期的に揺らすことにより、特に長い伸ばし音に対して豊かな表情を与えることができる。しかし、このビブラートは高度な歌唱技術であるため、一般の歌唱者にとってはかけることが難しい。そこで、一般の歌唱者であってもビブラートをかけられるように、歌唱音声に自動的にビブラートを付加する技術が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−47997号公報
【特許文献2】特開平10−124080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の技術を利用した場合、ビブラートが付加される歌唱音声のピッチの揺れは、当該歌唱音声のピッチを中心に上下均等に展開されるため、演歌のように楽譜で示されるピッチよりも低いピッチを中心にピッチの揺れが展開されることが好まれる楽曲を歌唱する場合には、最適な歌唱を実現することができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歌唱音声にビブラートを付加する際に、歌唱音声のピッチの揺れの中心を、当該歌唱音声のピッチからずらすことを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、本発明は、音声信号を入力する入力手段により入力された音声信号にビブラートを付加するビブラート付加手段であって、ビブラートが付加されたピッチの中心値が、前記音声信号により表される音声のピッチの値とずれるようにビブラートを付加するビブラート付加手段と、前記ビブラート付加手段によりビブラートを付加された前記音声信号を出力する出力手段と、前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出手段と、前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段とを備え、前記ビブラート付加手段は、前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定手段により判定された場合に、当該判定後に前記入力手段により入力された音声信号にビブラートを付加することを特徴とするビブラート付加装置を提供する。
【0007】
上記のビブラート付加装置は、ビブラートの深さを示すデプス値と、ビブラートの周波数を示す周波数値と、前記デプス値とビブラート付加によるピッチの中心のずれ量との比を示すオフセット値とを、それぞれ複数、時間の値と対応づけて記憶する記憶手段と、前記判定手段により、前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると判定された後の経過時間を計時する計時手段とをさらに備えてもよい。また、前記ビブラート付加手段は、前記計時手段により示される時間の値と対応づけられているデプス値、周波数値及びオフセット値を前記記憶手段から読み出し、当該デプス値、周波数値及びオフセット値に基づいてピッチ変換量の瞬時値を算出する算出手段と、前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを、当該ピッチの値と、前記算出手段により算出された前記ピッチ変換量の瞬時値との和となるように変換するピッチ変換手段とを備えてもよい。
【0008】
また、上記のビブラート付加装置は、前記入力手段により入力された音声信号からビブラートを除去するビブラート除去手段をさらに備え、前記ビブラート付加手段は、前記ビブラート除去手段によりビブラートが除去された音声信号に前記ビブラートを付加してもよい。
【0009】
また、本発明は、コンピュータを、音声信号を入力する入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出手段と、前記検出手段により一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定手段と、前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定手段により判定された場合に、当該判定後に前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチの変換量であるピッチ変換量の瞬時値を算出する算出手段として機能させるためのプログラムであって、前記入力手段により入力された音声信号により表される音声のピッチは、当該ピッチの値と、前記算出手段により算出された前記ピッチ変換量の瞬時値との和となるように変換されることを特徴とするプログラムを提供する。
上記のコンピュータは、ビブラートの深さを示すデプス値と、ビブラートの周波数を示す周波数値と、前記デプス値とビブラート付加によるピッチの中心のずれ量との比を示すオフセット値とを、それぞれ複数、時間の値と対応づけて記憶する記憶手段と、前記判定手段により、前記検出手段により前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると判定された後の経過時間を計時する計時手段とを備えてもよい。また、前記算出手段は、前記計時手段により示される時間の値と対応づけられているデプス値、周波数値及びオフセット値を前記記憶手段から読み出し、当該デプス値、周波数値及びオフセット値に基づいて前記ピッチ変換量の瞬時値を算出してもよい。
また、本発明は、音声信号を入力する入力ステップと、前記入力ステップにより入力された音声信号にビブラートを付加するビブラート付加ステップであって、ビブラートが付加されたピッチの中心値が、前記音声信号により表される音声のピッチの値とずれるようにビブラートを付加するビブラート付加ステップと、前記ビブラート付加ステップによりビブラートを付加された前記音声信号を出力する出力ステップと、前記入力ステップにより入力された音声信号により表される音声のピッチを検出する検出ステップと、前記検出ステップにより一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が所定の範囲内であるか否かを判定する判定ステップとを備え、前記ビブラート付加ステップは、前記検出ステップにより前記一定期間内に検出されたピッチの最大値と最小値の差が前記所定の範囲内であると前記判定ステップにより判定された場合に、当該判定後に前記入力ステップにより入力された音声信号にビブラートを付加することを特徴とするビブラート付加方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、歌唱音声にビブラートを付加する際に、歌唱音声のピッチの揺れの中心を、当該歌唱音声のピッチからずらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るカラオケシステムのハードウェア構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る変換テーブルに記録されるデータの例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る機能構成図である。
図4】本発明の一実施形態に係る一定判定部の処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係るピッチ変換量決定部の処理を示すフローチャートである。
図6】本発明の一実施形態に係るピッチ変換量の軌跡を示す図である。
図7】本発明の一変形例に係るエフェクタのハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係るカラオケシステムのハードウェア構成を示す図である。同図においてカラオケ装置1は、マイク2と、スピーカ3と、ディスプレイ4に接続されている。マイク2は、歌唱者の歌唱音声を収音し、アナログ信号として後述するA/Dコンバータ11に出力する。スピーカ3は、後述するミキサ14からステレオ信号を取得し、当該信号に基づいて音声を出力する。ディスプレイ4は、液晶ディスプレイ等の表示デバイスであって、後述するVDP(Video Display Processor)17の制御の下、イメージ画像や歌詞テロップを表示する。
【0013】
カラオケ装置1は、図1に示されるように、A/Dコンバータ11、DSP(Digital Signal Processor)12、D/Aコンバータ13、ミキサ14、制御部15、記憶部16、VDP17、操作部18及び音源19を有している。A/Dコンバータ11は、上述のマイク2から歌唱音声のアナログ信号を取得し、当該信号をデジタル信号に変換してDSP12に出力する。A/Dコンバータ11は、当該デジタル信号を制御部15にも出力する。DSP12は、A/Dコンバータ11から取得したデジタル信号に、後述するピッチ変換処理を施し、D/Aコンバータ13に出力する。D/Aコンバータ13は、DSP12からデジタル信号を取得し、当該信号をアナログ信号に変換してミキサ14に出力する。ミキサ14は、D/Aコンバータ13から取得したアナログ信号と、音源19から取得する楽音信号とを混合、増幅し、ステレオ信号として上述のスピーカ3に出力する。
【0014】
制御部15は、CPU、ROM、RAM等からなり、CPUがROMに記憶されているプログラムをRAMにロードして実行することにより、カラオケ装置1の各部を制御する。CPUは、カウンタ15aを内蔵しており、カウンタ15aは、所定の周波数のクロック信号が入力されて時間を計時する。記憶部16は、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であって、カラオケ曲の楽曲データを複数記憶する。各楽曲データは、例えばMIDI形式のデータであり、ヘッダ、楽音トラック、ガイドメロディトラック、伴奏トラック、歌詞トラック、イメージ画像トラック等を有する。ヘッダには、楽曲の曲名、ジャンル、テンポ情報、演奏時間等の楽曲の属性データが書き込まれる。各トラックには、それぞれ楽音データ、ガイドメロディデータ、伴奏データ、歌詞データ、イメージ画像データ等が書き込まれる。各データは、実行すべきイベントを示すイベントデータと、当該イベントを実行するタイミングを示すデルタタイムデータとからなり、楽曲の演奏開始後、デルタタイムデータによって示されるタイミングにおいて各イベントが実行される。
【0015】
記憶部16は、また、デプス変換テーブル16a、周波数変換テーブル16b及びオフセット変換テーブル16cを記憶する。これらのテーブルは、上述のカウンタ15aによって計時される時間の値に基づいて各種のパラメータを特定するために利用される。以下、各テーブルについて説明する。
デプス変換テーブル16aは、デプスの値と、カウンタ15aによって計時される時間の値とを対応づけて記憶するテーブルである。ここでデプスとは、ビブラートの深さを示す。図2(a)は、デプス変換テーブル16aに記録されるデータの特性の一例を示す図である。同図において縦軸はデプスを表し、横軸は時間を表す。図示した例では、時間の経過とともにデプスの値が大きくなり、時間の値が所定値に達するとデプスの値が一定になるように設定されている。
【0016】
次に、周波数変換テーブル16bは、周波数の値と、カウンタ15aによって計時される時間の値とを対応づけて記憶するテーブルである。ここで周波数とは、ビブラートの周波数を示す。図2(b)は、周波数変換テーブル16bに記録されるデータの特性の一例を示す図である。同図において縦軸は周波数を表し、横軸は時間を表す。図示した例では、時間の経過とともに周波数の値が大きくなり、時間の値が所定値に達すると周波数の値が一定になるように設定されている。
次に、オフセット変換テーブル16cは、オフセットの値と、カウンタ15aによって計時される時間の値とを対応づけて記憶するテーブルである。ここでオフセットとは、入力音声に対する出力音声のピッチの中心のずれ量を規定する値であり、デプスに対する比で表現される。図2(c)は、オフセット変換テーブル16cに記録されるデータの特性の一例を示す図である。同図において縦軸はオフセットを表し、横軸は時間を表す。図示した例では、時間の経過とともにオフセットの値が小さくなり、時間の値が所定値に達するとオフセットの値が一定になるように設定されている。
以上が、記憶部16に記憶されるデータについての説明である。
【0017】
VDP17は、制御部15により記憶部16から読み出された歌詞データ及びイメージ画像データを取得し、ディスプレイ4に歌詞テロップ及びイメージ画像を表示させる。操作部18は、複数のボタンを有し、押下されたボタンに対応する操作信号を制御部15に出力する。音源19は、例えばMIDI音源であり、制御部15により記憶部16から読み出された楽音データ等を取得し、当該データを楽音信号に変換してミキサ14に出力する。
【0018】
図3は、制御部15のCPUがROMに記憶されているプログラムを実行することによって実現される機能の構成図である。当該図面の機能群は、特に歌唱音声のピッチ変換量の決定に関する機能である。
ピッチ検出部151は、A/Dコンバータ11から出力される歌唱音声信号から所定時間長のフレーム単位でピッチを検出する。ピッチを検出する際は、例えば、歌唱音声信号を高速フーリエ変換により周波数スペクトルに変換し、当該スペクトルからピッチを検出する。ピッチ検出部151は、検出したピッチを示すデータ(ピッチデータ)を一定判定部152に出力する。
【0019】
一定判定部152は、歌唱音声のピッチが一定であるか否かを判定する。具体的には、図4に示される処理を実行する。以下、この処理の内容について説明する。
一定判定部152は、まず、ピッチ検出部151により出力されるピッチデータを取得し、所定の時間内のピッチの最大値Pmaxと最小値Pminを特定する(ステップSa1)。ここで所定の時間とは、例えば、四分音符一個分の長さに相当し、その絶対値は、楽曲データのヘッダに書き込まれているテンポ情報により決定される。例えば、テンポが120bpmのときは、0.5秒となる。
【0020】
次に、一定判定部152は、最大値Pmaxと最小値Pminの差を算出し(ステップSa2)、その差が所定の閾値Pcよりも大きいか否かを判定する(ステップSa3)。この判定の結果、最大値Pmaxと最小値Pminの差が閾値Pcよりも大きいと判定された場合には(ステップSa3:YES)、一定判定部152は、カウンタ15aにリセット信号を出力する(ステップSa4)。そして、ステップSa1に戻る。一方、最大値Pmaxと最小値Pminの差が閾値Pcよりも小さいか又は両者が等しいと判定された場合には(ステップSa3:NO)、一定判定部152は、ステップSa1に戻る。
以上の処理の結果、歌唱音声のピッチが一定でない場合には、カウンタ15aに間断なくリセット信号が出力されるため、カウンタ値の累積が生じない。一方、歌唱音声が一定である場合には、カウンタ15aにリセット信号が出力されないため、カウンタ値の累積が生じる。
【0021】
ピッチ変換量決定部153は、歌唱音声のピッチの変換量を決定する。具体的には、図5に示される処理を実行する。以下、この処理の内容について説明する。
ピッチ変換量決定部153は、まず、カウンタ15aより、現在の時間の値を読み出す(ステップSb1)。次に、ピッチ変換量決定部153は、記憶部16に記憶されるデプス変換テーブル16aを参照して、カウンタ15aより読み出された現在の時間の値に対応するデプスの値を特定する(ステップSb2)。また、ピッチ変換量決定部153は、記憶部16に記憶される周波数変換テーブル16bを参照して、カウンタ15aより読み出された現在の時間の値に対応する周波数の値を特定する(ステップSb3)。さらに、ピッチ変換量決定部153は、記憶部16に記憶されるオフセット変換テーブル16cを参照して、カウンタ15aより読み出された現在の時間の値に対応するオフセットの値を特定する(ステップSb4)。
【0022】
このようにデプスの瞬時値、周波数の瞬時値及びオフセットの瞬時値を特定すると、ピッチ変換量決定部153は、これらの値に基づいてピッチ変換量の瞬時値Pvibを算出する(ステップSb5)。ピッチ変換量の瞬時値Pvibは、以下の式で表される。
Pvib=D*[sin{2πFt}+O/100]
本式において、Dはデプスの瞬時値を表し、Fは周波数の瞬時値を表し、Oはオフセットの瞬時値を表し、tはカウンタ15aより読み出された時間の値を表す。本式によって算出されるピッチ変換量の瞬時値Pvibは、例えば、図6に示されるような軌跡を描く。同図において縦軸はピッチ変換量を表し、横軸は時間を表す。同図に示されるように、ピッチ変換量の瞬時値Pvibの軌跡は、ゆれの中心が初期値と比較して(D*O/100)の値分ずれ、深さがDの形状となる。
ピッチ変換量決定部153は、ピッチ変換量の瞬時値Pvibを算出すると、当該量を示すデータ(ピッチ変換量データ)をDSP12に出力する(ステップSb6)。
以上が、図3に示された機能群の説明である。
【0023】
DSP12は、ピッチ変換量決定部153から出力されたピッチ変換量データを取得すると、当該データに基づいて、A/Dコンバータ11から出力される歌唱音声信号にピッチ変換処理を行う。この際、DSP12は、歌唱音声信号により表されるピッチの値が、当該値と、ピッチ変換量データにより表されるピッチ変換量Pvibの値の和となるようにピッチ変換処理を行う。具体的なピッチ変換処理の方法については、PSOLA法など周知の方法を用いてよい。
【0024】
以上説明した実施形態によれば、歌唱音声のピッチが一定であると判定されている間、カウンタ15aにおいてカウント値の累積が行われる。そして、ピッチ変換量決定部153では、カウンタ15aのカウント値に基づいてデプス、周波数、オフセット等のパラメータが特定され、当該パラメータに基づいてピッチ変換量が算出される。そして、DSP12では、当該ピッチ変換量に基づいて歌唱音声に対するピッチ変換が行われる。この結果、当該ピッチ変換を経て出力される歌唱音声は、そのピッチの揺れの中心(ピッチ変化の中心値)が、オフセットの値に応じて、入力時の歌唱音声と比較してずれたものとなる。よって、演歌のように楽譜で示されるピッチよりも低いピッチを中心にピッチの揺れが展開されることが好まれる楽曲を歌唱する場合にも、最適な歌唱を実現することができる。
【0025】
<変形例>
(1)上述した実施形態において、ビブラートの波形は、矩形波、三角波、鋸波等であってもよい。
(2)上記の実施形態において、デプス、周波数及びオフセット以外のパラメータを記憶部16に記憶しておき、歌唱音声にビブラートを付加する際に利用してもよい。例えば、ビブラートがかかり始めるまでの時間を規定するディレイの値を記憶部16に記憶しておき、DSP12は、当該値に規定される時間の分、ビブラートを付加するタイミングを遅らせてもよい。
(3)上記の実施形態において、ピッチ変換処理のオン・オフを制御可能な構成としてもよい。例えば、上記の実施形態に係る図1に示される構成において、マイク2とA/Dコンバータ11の間に切替部を設け、歌唱音声信号の出力先を、A/Dコンバータ11とミキサ14の間で切り替え可能な構成としてもよい。この場合、切替部は、操作部18を介して歌唱者によって入力されるピッチ変換処理のオン又はオフ信号に基づき、歌唱音声の出力先を切り替える。なお、ピッチ変換処理のオン又はオフを制御する信号は、マイク2に設けられたスイッチ(図示略)を介して入力されてもよい。
【0026】
(4)上記の実施形態では、記憶部16に1セットの変換テーブルのみが記憶されているが、この変換テーブルを楽曲のジャンルごとに設け、楽曲にジャンルに応じて、使用する変換テーブルを切り替えられる構成としてもよい。例えば、ポップス、ロック、演歌等のジャンルごとに、図2に示されるようなデータを記録した変換テーブルを記憶部16に記憶しておき、演奏される楽曲の楽曲データのヘッダに書き込まれるジャンル情報に基づいて、使用する変換テーブルを切り替えてもよい。この場合、ピッチ変換量決定部153は、ピッチ変換量を決定する際、まず、記憶部16に記憶される楽曲データのヘッダを参照して、演奏される楽曲のジャンルを特定し、当該ジャンルと対応づけられた変換テーブルを参照することになる。
【0027】
(5)上記の実施形態において、A/Dコンバータ11とDSP12の間に、歌唱者本人のビブラートを除去するためのDSPを別途設け、このDSPにより一旦本人のビブラートを除去した後で、あらためてDSP12によりビブラートを付加する構成としてもよい。例えば、この新たに設けられるDSPは、A/Dコンバータ11から出力される歌唱音声信号に対し、当該信号により表される歌唱音声のピッチがガイドメロディのピッチと一致するようにピッチ変換を行い、このピッチ変換のされた歌唱音声信号をDSP12に出力するようにしてもよい。この場合、ガイドメロディデータは、制御部15を介して記憶部16から読み出され、ピッチ変換の方法は周知の方法が用いられてよい。
【0028】
(6)上記の実施形態では、カラオケ装置1において音声信号に対するピッチ変換処理が実行されているが、当該ピッチ変換処理は、エレキギター等が接続されるエフェクタにおいて実行されてもよい。図7は、エレキギター等が接続されるエフェクタにおいてピッチ変換処理が実行される場合のハードウェア構成を示す図である。同図においてエフェクタ5は、マイク2に代えてエレキギター6と接続されている点においてカラオケ装置1と異なっている。また、エフェクタ5は、ディスプレイ4に接続されていない点においてカラオケ装置1と異なっている。また、本変形例に係るエフェクタ5は、ミキサ14、VDP17及び音源19を備える必要がなく、記憶部16は、楽曲データを記憶しておく必要がない。本変形例によれば、エレキギター6から出力される音声信号は、DSP12により上記の実施形態と同様のピッチ変換処理が施され、スピーカ3等の装置に出力される。
【符号の説明】
【0029】
1…カラオケ装置、2…マイク、3…スピーカ、4…ディスプレイ、5…エフェクタ、6…エレキギター、11…A/Dコンバータ、12…DSP、13…D/Aコンバータ、14…ミキサ、15…制御部、15a…カウンタ、16…記憶部、16a…デプス変換テーブル、16b…周波数変換テーブル、16c…オフセット変換テーブル、17…VDP、18…操作部、19…音源、151…ピッチ検出部、152…一定判定部、153…ピッチ変換量決定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7